HS2028改正後のEU動向と原産地証明の実務指針:2028年に備える「二重管理」のススメ


2026年1月現在、HS条約の第8次改正となる「HS2028」はすでにWCO(世界税関機構)理事会で採択・受諾され、2028年1月1日の発効に向けてカウントダウンが始まっています。

EU向けにビジネスを行う企業にとって、今回の改正は単なるコードの書き換えでは済みません。特に注意が必要なのが、「通関用コード」と「EPA/FTA用コード」のズレから生じる原産地証明の事故リスクです。

本記事では、HS2028導入に向けたEUの動向と、企業がいま準備すべき実務指針について、信頼できる一次情報をもとに解説します。


1. 確定したタイムライン:HS2028は2028年1月1日発効

WCOの公式発表によれば、HS2028改正は2028年1月1日に発効することが確定しています。今回の改正は299セットの変更を含み、環境物品や新技術製品の分類を明確化するための大規模な見直しとなります。

WCOは現在、新旧コードの対応関係を示す**相関表(Correlation Tables)**の作成など、円滑な移行に向けた準備を進めています。企業の実務担当者にとって、この相関表は自社製品が新旧どのコードに該当するかを確認する上で最も重要な羅針盤となります。


2. EUの動き:CNコードとTARICの自動更新

EUでは、HSコードをベースに独自の細分を加えた**CN(Combined Nomenclature)を統計および関税分類の基礎としています。EU委員会(Taxation and Customs Union)によると、CNは毎年更新され、通常は前年の10月末までに翌年版が官報(Official Journal)**に掲載されます。

実装のメカニズム

  • CNの更新: HS2028の発効に合わせ、EUは2027年秋ごろに公布される「CN 2028」にて、HS2028の内容を全面的に取り込むことになります。
  • TARICとの連携: 加盟国の税関システムと日次で連携する統合データベースTARICも、このCN更新に基づいて自動的に整備されます。

つまり、EUへの輸出においては、2028年1月1日時点で現地の輸入通関システムがHS2028ベースに切り替わっているため、輸出者側も最新コードでのインボイス作成が必須となります。


3. 最大のリスク:原産地規則における「版のズレ」

HSコードが変わる際、最も事故が起きやすいのが原産地証明のプロセスです。

なぜ事故が起きるのか

多くのEPA(経済連携協定)やFTAでは、原産地規則(PSR)が特定のHSバージョンの分類に基づいています。

例えば、日EU・EPAの品目別規則は、HS2017版の分類体系を参照しています。

  • 通関現場: 2028年1月1日以降、最新のHS2028で申告する必要がある。
  • 原産地判定: 協定が改正されない限り、引き続きHS2017の基準で判定しなければならない。

この「通関用コード」と「判定用コード」の乖離を見落とすと、本来満たしているはずの関税分類変更基準(CTHなど)が満たせないと誤認したり、逆に満たしていないのに証明書を発行してしまうコンプライアンス違反につながります。


4. 日EU・EPA実務の再確認:自己申告制度の鉄則

日EU・EPAでは、輸出者自身が原産性を証明する「自己申告制度」が採用されています。実務上の要件を改めて整理しておきましょう。

  • 原産地申告文(Statement on Origin): 商業書類(インボイス等)に所定の文言を記載して作成します。
  • 有効期間: 作成日から12か月間有効です。
  • 長期申告: 同一産品の複数回出荷に対し、最大12か月間有効な包括的な申告を行うことも可能です。
  • 保存義務: 輸出者は、申告の写しおよび原産性の根拠資料を少なくとも4年間保存する義務があります。
  • 言語: 商業書類と同じ言語(英語など)で記載することが推奨されています。

特に重要なのは、輸出者参照番号として**法人番号(13桁)**を使用することです。記載がない場合でも直ちに無効とはなりませんが、EU税関からの照会リスクを避けるため、必ず記載する運用を徹底すべきです。


5. 企業が今やるべき3つのアクションプラン

2028年に向けた混乱を防ぐため、今のうちから以下の「HSの版の違いに耐える設計」を導入することを推奨します。

① 品目番号の「二重管理」体制を作る

社内の製品マスタに、以下の2つのフィールドを設け、それぞれ独立して管理できるように改修します。

  1. 通関申告用コード: 最新版(将来のHS2028/CN2028)
  2. 原産地判定用コード: 協定参照版(日EU・EPAならHS2017)

② 根拠資料(ドシエ)の固定化

原産地検認(事後調査)に備え、以下のセットを案件ごとに、あるいは製品ごとに保管(ドシエ化)します。

  • HS2017ベースでの分類根拠
  • 適用したPSR(関税分類変更基準や付加価値基準の計算根拠)
  • 部品表(BOM)とサプライヤーからの証明書

③ 影響品目の早期抽出

HS2028では、環境物品や新技術製品を中心にコードが細分化されます。自社の取扱品目が改正対象に含まれているか、WCOの相関表が出次第すぐに確認し、影響度を洗い出しましょう。


まとめ

HS2028は2028年1月1日に確実にやってきます。

EU側はCNとTARICを通じてシステム的に対応を進めますが、企業側で最も警戒すべきは**「通関は最新コード、原産地判定は旧コード」**という二重基準の運用です。

今のうちからマスタデータの二重管理体制を整え、協定ごとの参照バージョンを意識した業務フローを確立しておくことが、2028年以降もスムーズなEUビジネスを継続する鍵となります。

産業用ロボットの定義が激変。WCOによるスマート製造ロボット定義確定がもたらす未来


2026年1月28日、世界税関機構(WCO)の技術委員会から、世界の製造業と貿易実務に大きな影響を与える重要な合意事項が発表されました。それは、2028年のHSコード改正に向けた、スマート製造ロボットの定義の確定です。

これまで、単調な繰り返し作業を行うアームロボットも、AIを搭載して自律的に判断する高度なロボットも、貿易上は同じ産業用ロボットとして一括りにされてきました。しかし、今回の決定により、その歴史が終わろうとしています。

本記事では、この新しい定義が何を意味するのか、そしてメーカーや商社が2028年に向けてどのような準備をすべきかについて解説します。


産業用ロボットの分類における長年の課題

現在、多くの産業用ロボットはHSコード第8479.50項に分類されています。このコードは他掲のものを除く産業用ロボットという非常に広い定義であり、自動車工場で溶接を行う従来型のアームも、物流倉庫で障害物を避けながら荷物を運ぶ自律走行搬送ロボット(AMR)も、すべて同じ番号で申告されてきました。

しかし、技術の進化により、この大雑把な分類は限界を迎えていました。AIによる学習機能や判断能力を持つロボットと、単なるプログラム通りに動く機械を区別できないことは、適切な関税政策や安全保障貿易管理を行う上で大きな障害となっていたのです。


今回確定したスマート製造ロボットの定義

WCOが今回合意した技術指針によると、従来のロボットとスマートロボットを分ける決定的な要素は、自律的適応能力の有無です。

具体的には、以下の要件を満たすものが、2028年改正で新設される独立項(コード)の対象となります。

  • 外部環境の認識能力センサーやカメラを通じて周囲の状況をリアルタイムで把握できること。
  • 作業プロセスの自己修正能力あらかじめプログラムされた動作を繰り返すのではなく、認識した状況に基づいて、ロボット自身が動作の軌道や力加減、手順を最適化できること。
  • AIとの統合機械学習やディープラーニングのアルゴリズムを内蔵、またはクラウド経由で利用し、経験に基づいてパフォーマンスを向上させる機能を有していること。

つまり、人間が細かく指示しなくても、自分で考えて動くロボットだけが、新しい分類の対象となります。


ビジネス実務への具体的な影響

この定義変更は、単なる名称の変更ではありません。実務には以下のような影響が出ると予想されます。

1. 関税率と協定税率の変化

新しいコードが設定されることで、従来適用されていた関税率が変わる可能性があります。特に注目すべきは、情報技術協定(ITA)の適用範囲です。スマートロボットがIT製品としての性格を強く認められれば、より多くの国で無税扱いとなる可能性があります。一方で、保護主義的な政策をとる国では、ハイテク製品として新たな関税が設定されるリスクもあります。

2. 安全保障貿易管理の厳格化

AIを搭載したロボットは、軍事転用可能なデュアルユース技術とみなされやすくなります。HSコードが独立することで、輸出管理の対象として特定されやすくなり、該非判定や輸出許可の審査がこれまで以上に厳格化されることが予想されます。

3. 設備投資計画への影響

減価償却期間や補助金の対象認定において、政府がこの新しいHSコードを参照する可能性があります。スマートロボットと認定されることで、税制優遇を受けやすくなる国も出てくるでしょう。


企業が今から準備すべきこと

2028年の発効まではまだ時間があるように思えますが、製品開発のサイクルを考えれば、対応は今すぐ始めるべきです。

まず、自社の製品ラインナップや導入予定の設備が、今回のWCO定義に当てはまるかどうかを技術的な観点から検証してください。特に、適応能力の有無は、カタログスペックだけでは判断が難しいグレーゾーンになりがちです。

次に、輸出入管理システムのマスタデータ更新計画です。2028年には大規模なコードの書き換えが発生します。どの製品が新コードに移行し、どの製品が旧コードに残るのか、分類ロジックの再構築が必要です。


まとめ

WCOによるスマート製造ロボットの定義確定は、貿易ルールがようやくテクノロジーの進化に追いつこうとしている証拠です。

この変化をリスクと捉えるか、それともサプライチェーンを最適化するチャンスと捉えるか。その分かれ目は、この新しい定義を正しく理解し、自社の戦略に組み込めるかどうかにかかっています。2028年を見据えた準備は、今日から始まっています。

日本の通関実務が激変。税関が求めるHSコード分類根拠書、その真意と対策

2026年1月26日、日本の貿易実務の現場において、極めて重要な運用変更が静かに、しかし確実に動き出しました。財務省関税局が、輸入申告時におけるHSコード分類根拠書(通称:ドシエ)の任意提出を、これまで以上に強く推奨する方針を打ち出したのです。

これは単なる事務手続きの追加ではありません。これまでの結果としての数字(コード)さえ合っていればよいという時代から、なぜその数字を選んだのかというプロセス(論理)が問われる時代へと、パラダイムシフトが起きたことを意味します。

本記事では、このニュースの背景にある税関の意図と、ビジネスマンが今すぐ着手すべき具体的な対策について深掘りします。

税関が求めているのは正解へのプロセス

今回、税関が推奨を強化したドシエの提出とは、輸入申告書にHSコードを記載する際、その分類に至った論理的な根拠を記した文書を添付することを指します。

これまで、多くの企業はHSコードという結果のみを申告してきました。しかし、製品がハイテク化し、一見しただけでは機能や材質が判別できない物品が急増しています。税関職員がゼロから製品を調査し、コードの正誤を判断するには膨大な時間が必要です。そこで税関は、輸入者側にあらかじめ正解への道筋(ガイドマップ)を提示してもらうことで、審査を効率化しようとしているのです。

根拠書(ドシエ)に記載すべき3つの要素

では、具体的にどのような資料を作成すればよいのでしょうか。税関が期待するドシエには、主に以下の3つの要素が含まれている必要があります。

第一に、客観的な製品仕様です。

カタログのコピーだけでは不十分です。材質の構成比率、主要な機能、使用用途など、分類の決め手となるスペックを明確に整理する必要があります。

第二に、法的根拠の引用です。

これが最も重要です。単に「パソコンだから」という理由ではなく、「関税率表の解釈に関する通則1に基づき、第84類の注5(E)を適用した結果」といったように、関税法上のルール(通則、部注、類注)を引用して論理を構成します。

第三に、参考とした先例です。

過去の事前教示回答事例や、世界税関機構(WCO)の解説書、あるいは類似品に関する他国の分類事例などを記載することで、自社の判断が独りよがりなものではないことを証明します。

企業にとってのメリット:防御から攻撃への転換

一見すると、ドシエの作成は企業にとって負担増に思えるかもしれません。しかし、戦略的な実務担当者にとっては、これは自社を守り、物流を加速させる強力な武器となります。

最大のメリットは、通関リードタイムの短縮です。

ドシエによって分類の根拠が明確に示されていれば、税関検査官が疑義を抱く余地が少なくなります。不必要な質問や検査が減り、結果として貨物がスムーズに許可される確率が飛躍的に高まります。

もう一つのメリットは、事後調査におけるリスク管理です。

数年後に税関の事後調査が入り、万が一、申告していたHSコードが誤りだったと判定された場合でも、事前にしっかりとした根拠書を提出していれば、企業側には「正当な注意義務」を果たした証拠が残ります。これにより、悪質な虚偽申告として重加算税を課されるリスクを回避し、単なる修正申告で済む可能性が高まります。つまり、ドシエは企業のコンプライアンスを守る保険として機能するのです。

なんとなくの分類からの脱却

これまで多くの中小規模の貿易現場では、前回と同じだから、あるいは輸出者がそう言っているから、といった曖昧な理由でHSコードが決められてきました。しかし、今回の税関の動きは、そうした根拠のない分類はもはやリスクでしかないというメッセージでもあります。

今後、優秀な貿易担当者の条件は、単にコード表を検索できることではなく、そのコードである理由を文書化できる能力へとシフトしていくでしょう。

テクノロジーの活用が鍵を握る

とはいえ、すべての輸入案件で詳細なドシエを人間が手書きで作成するのは現実的ではありません。ここで重要になるのが、AIやデジタルの活用です。

製品データを入力すれば、該当する法的根拠を自動的に引用し、論理構成まで含めたドシエの下書きを生成してくれるツールの導入が、企業の競争力を分けることになります。人間はAIが作った論理を最終確認するだけで済むようになれば、業務負荷を増やさずに、コンプライアンスレベルを最高水準に引き上げることが可能です。

まとめ

2026年1月26日を境に、日本の通関実務はプロセス重視へと舵を切りました。税関からの「あなたの会社の論理を見せてください」という問いかけに対し、しっかりとしたドシエで応えられる企業だけが、通関トラブルとは無縁の強固なサプライチェーンを構築できるのです。変化を恐れず、根拠ある申告を武器にビジネスを進化させていきましょう。

センサーのHSコードで迷う「9026」と「9031」

国別分岐を間違えないための実務ガイド

センサーは見た目が似ていても、「何を測るのか」「どこまでの機能を持つのか」でHSコードが変わります。特に迷いやすいのが9026と9031です。
6桁までは国際的に共通性がありますが、8桁以降は国・地域で異なる枝分かれになります。輸出入の現場では、この国別分岐の違いが関税、原産地判定、通関リードタイム、監査対応に直結します。
(参考:Data.gov

この記事では、センサー分類で頻出する9026と9031の境界を実務的な判断軸で整理し、日本・米国・英国・EUにおける国別分岐までを明確に解説します。


前提:HSコードは輸入国税関の判断が基準

HSコードは、社内で決めた番号を一方的に通すことはできません。実際に基準となるのは輸入国税関の判断です。輸出者側の想定と輸入国側の認定が異なるケースも珍しくありません。
またEPA・FTAの適用にはHSコードが前提となるため、分類を誤ると適用税率や品目別規則の解釈がズレるリスクがあります。
(出典:JETRO

このため、社内で「おすすめ分類」を設計する際は、輸入国側でも通用する論拠と証拠を整えることが前提となります。


9026と9031の違い

判断の焦点は「測定対象」と「他の見出しに当てはまるか」

9026の範囲

液体または気体の流量・液位・圧力などの変量を測定・検査する機器。流量計、液位計、マノメーター、熱流量計などが該当します。
(出典:関税庁

測定対象が液体または気体であり、その変量を明確に測る場合は9026が第一候補です。

9031の範囲

この章で他の見出しに特定されない測定または検査用の機器・装置・機械が対象です。つまり、9031は章内で分類できない機器の「受け皿」となります。
(出典:関税庁

ただし受け皿である分、**「なぜ他の見出しではないか」**という説明が求められます。


実務で起きやすい誤分類

  1. 液体も固体も測定できるレベル計
     液位の測定は通常9026に分類されますが、米国では液体と固体の両方を測定可能なレーダー式レベル計が9031に分類された例があります。
     (例:CustomsMobile)
     → カタログに「粉体にも対応」と記載があるだけで9026主張が難しくなる場合があります。
  2. 圧力を使用しているが、測っているのは圧力そのものではない
     測定原理として圧力を用いていても、測定対象が「圧力」でなければ9026は適用困難です。測定対象が寸法や特性の場合、9031が優勢になります。
  3. 単体機能か部分品か
     製品が単独で測定を完結できるか否かで分類が変わります。米国では、コリオリ式質量流量計のコンバーターが「部分品」として9026.90.2000に分類されています。
     (出典:CustomsMobile

再現性を高める判断フロー

  • 測定対象を一文で言い切る(例:液体の流量、タンク内液位、圧力、振動など)。
  • 対象が液体または気体なら9026を優先検討。
  • 固体にも対応する場合は9031側を検討。
  • 単体機能がなければ部分品コード(9026.90、9031.90など)も確認。
  • 国別8桁以降では電子式・非電子式・航空機用などの枝を精査。

国別分岐の考え方

まず6桁で分類を固め、その後、各国の枝分かれを確認するのが安全です。

日本

  • 9026.10:液体の流量・液位測定機器
  • 9026.20:圧力測定機器
  • 9026.80:その他液体・気体変量測定機器
  • 9031.80:他の見出しに属さない測定機器
    (出典:関税庁

事前教示制度を活用し、グレーなケースは税関回答を取得しておくと監査耐性を高められます。
(参照:税関総合ポータル

米国

  • ノックセンサー:9031.80.8070
  • レーダー式レベル計:9031.80.8085
  • 流量計コンバーター(部分品):9026.90.2000
    (参照:CBP Rulings

米国ではカタログや技術文書の一語一句が分類根拠になります。確証を得たい場合はPart 177のルーリングレターを申請するのが有効です。

英国・EU

英国では電子式か非電子式か、用途限定かで9026内に枝分かれがあります。
(例:UK Trade Info

EUでは結合品目分類(CN)を基に年度ごとに改訂されます。2026年版CNは2026年1月1日から適用。BTI(Binding Tariff Information)制度を使えば法的確実性を担保できます。
(出典:EU Taxation and Customs Union)


失敗しない社内実装:分類カルテの導入

9026/9031の判定は経験に依存しやすいため、「分類カルテ」を標準化して運用すると再現性が上がります。推奨項目は以下の通り。

  • 測定対象と変量(流量、圧力、液位など)
  • 測定媒体(液体のみ・固体含む)
  • 測定原理と出力仕様
  • 単体機能の有無(部分品か否か)
  • カタログと技術資料の整合性
  • 輸入国での根拠(BTI・裁決・教示等)

「分類番号は輸入国側の判断を基準とする。したがって、輸入国側で説明できる根拠と文言に揃える」
(出典:JETRO


まとめ

  • 9026:液体または気体の流量・液位・圧力を測定する機器
  • 9031:章内他見出しで定義できない測定・検査用機器
  • 境界製品に注意:固体も測定できる・部分品・単体不可など
  • 手順:6桁で分類確定 → 各国8桁分岐を精査
  • 制度活用:日本の事前教示/米国のPart 177/EUのBTIで根拠を確保
    (参照:税関総合ポータル

このガイドは、9026と9031の議論を社内で共通言語化することを目的にしています。センサーごとの仕様や用途を当てはめることで、どこが争点になり得るかを可視化できます。

主要国のHS2028条文と即応タスクまとめ

2026年1月時点の一次情報をもとに、経営判断に直結する論点を整理する

はじめに

HSコード改正は通関部門だけのテーマではありません。
関税コスト、輸出入規制、製品マスター、原産地判定、顧客向け書類、統計、BIの集計軸に至るまで、企業の意思決定を支える共通キーが一斉に更新されるイベントです。

2026年1月21日、世界税関機構(WCO)は、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効することを公表しました。
HS2028改正は299セットの改正から構成され、全体として1,229見出し・5,852サブヘディングで構成される新たな品目表となります(HS2022比で新設6見出し・428サブヘディング、削除5見出し・172サブヘディング)。

ここからの約2年間は、単に「待つ期間」ではなく、各国が自国の関税率表や統計品目表に落とし込む準備期間です。
WCOは、この期間に相関表(HS2022とHS2028の対応関係)や関連ツールを整備し、各国による実装作業が進むと位置づけています。

本稿では、主要国ごとにどの文書が法令上の根拠となるのか(便宜上「条文」と呼びます)を整理し、企業が今すぐ着手すべき即応タスクを、経営目線で具体化します。


1. HS2028の「条文」とは何か

WCO改正と各国の国内実装

HS品目表は、HS条約(Harmonized System Convention)に基づく国際的な分類表であり、改正はWCOの手続きを経て各国に波及します。
WCO理事会が改正勧告(Article 16 Recommendation)を採択した後、締約国は6か月間、勧告された改正に対して留保(異議)を表明することができます。

この仕組みにより、企業側は「WCOの改正文書を起点に、各国の国内法令・関税率表への実装を追いかける」という発想が必要になります。

HS2028で何が変わるか

WCOと関連情報が示しているHS2028の主な特徴は、次の通りです。

  • 改正規模は299セットの改正。
  • ワクチンや医療関連品目の可視性向上(新しい見出し・サブヘディングの創設、疾病別・用途別の整理強化など)。
  • 医療・緊急対応機器(救急車、保護具、モニタリング機器など)の新サブヘディング追加。
  • 環境・廃棄物関連品目(特にプラスチック廃棄物など)の国際的な環境枠組みに沿った再編。

ここで重要なのは、分類表の更新が「見出しや小区分の新設・削除」だけでなく、「法的注・部注の改訂」や「構造再編」を含む点です。
単なるコード置換ではなく、分類根拠そのものの組み替えが起こり得るため、企業の分類ロジックやエビデンスの見直しが不可欠になります。


2. 主要国の「条文」はどこで確定するか

以下では、企業が一次情報として追いかけるべき公表物を、国・地域別に整理します。

国際(共通):WCO

  • HS2028改正文書(Article 16 Recommendation、HS2028 Nomenclature)。
  • HS2028改正概要やニュースリリース(発効日、改正件数、背景説明)。
  • HS改正手続きの説明(6か月の留保期間など)。

企業がまず押さえるべき一次情報は、WCOが公表するHS2028改正文書とその解説ページです。

EU:CN(Combined Nomenclature)への取り込み

EUは、WCOのHS改正を受け、Council Regulation (EEC) No 2658/87 に基づき、関税・統計の共通分類であるCN(Combined Nomenclature)に反映します。

  • CNは8桁で構成され、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEU固有のCNサブヘディングです。
  • 第9・10桁はTARICコードとして、EU域内の追加的な貿易措置や細分に用いられます。
  • CNは、輸入・輸出申告、関税率の決定、統計、各種規制措置の適用の基礎となります。

WCO理事会での改正勧告を受けて、EUは理事会決定・委員会実施規則などを通じてHS改正をCNに取り込みます(2026年版CNの公表など)。

米国:HTSUS(Harmonized Tariff Schedule of the United States)

米国では、USITC(U.S. International Trade Commission)がHS改正に対応するHTSUS改正案を作成し、大統領への勧告プロセスを担います。

  • 2025年8月12日付のUSITCニュースリリースにおいて、2028年版HTSへの改正作業を開始する調査「Recommended Modifications in the Harmonized Tariff Schedule, 2028」の実施が公表されています。
  • USITCは、2026年2月にHTS改正の予備的ドラフトを公表しパブリックコメントを募集し、その後、2026年9月に大統領へ報告書を提出する予定としています。

また、USITCのFAQでは、HTSコードの構造について次のように説明しています。

  • 4桁が「heading」、6桁・8桁が「subheading」であり、法的テキストとしてのHTSは8桁レベルまでで完結する。
  • さらに、10桁目は統計用細分が付されることがあり、これらを合わせてHTSUSとして運用する。

従って、企業にとっての最終的な「条文」は、大統領による改正反映後のHTSUS(8桁)と、それに基づく10桁統計番号です。

日本:9桁統計品目番号とHS版の混在

日本では、HS条約改正に合わせて、関税定率法等および関連告示・解説資料を改正し、関税率表と輸出入統計品目表に反映します(HS2022改正時も同様の整理)。

  • 日本の「統計品目番号」は9桁であり、6桁のHSコードに3桁の国内細分コードを加えた構造です。
  • 9桁コードは、日本の通関申告・貿易統計の基礎となるコードとして運用されています。

一方、EPA(経済連携協定)では、協定ごとに採用しているHSの版(例:HS2012、HS2017、HS2022など)が異なり、原産地規則の品目別規則(PSR)は協定で定めるHS版に紐づきます。
このため、日本の通関実務がHS2022や将来のHS2028に移行していても、原産地証明書等に記載するHSコードは、当該EPAで採用しているHS版に合わせる必要があると説明されています。

英国:UK Integrated Tariff(UK Global Tariff)

英国は、EU離脱後、UK Global Tariff(UKGT)に基づくUK Integrated Tariffを運用しており、HS改正に合わせて国内の統合関税表を改正します。

  • 2022年の分類改正時には、HS改正に対応したUK Integrated Tariffの変更内容や相関情報が、政府サイトの「tariff stop press」等で告知されています。
  • また、輸入関税率の案内としてUK Global Tariffに関するガイダンスが提供されています。

実務上、企業が確認すべき「条文」は、最新のUK Integrated Tariff(UK Tariff)およびその改正告知です。

カナダ:Customs Tariff

カナダでは、Customs TariffがHSに基づく国内関税率表として機能し、必要に応じて改正・公表されます。

  • カナダ国境サービス庁(CBSA)は、Customs Tariffの最新版をウェブサイト上で提供し、改正がある場合は通知・更新を行う方針を示しています。
  • HS2028改正についても、HSが多くの国の関税率表の基礎であり、カナダにも影響する旨が業界向け情報で紹介されています。

中国:HSベースの8桁体系

中国は、HSベースの分類体系(CCCCS)を用いており、8桁を標準とする国内細分を採用しています。

  • 2024年版のCCCCSでは8,966の8桁品目が存在し、最初の6桁がHSコード、7桁・8桁が中国独自の細分と説明されています。
  • 一般的な解説でも、中国のHSコードは通常8〜10桁で、最初の6桁が共通のHS、その後ろが国内サブヘディングであるとされています。

従って、中国における最終的な「条文」は、中国税関が公表する最新のCustoms Commodity Codes(CCCCS)およびその改正告示です。

韓国:10桁コード

韓国は、6桁HSを基礎に、国内で拡張した10桁のHSKコード(tariff number)を用いています。

  • 韓国税関は、HSコードの概要説明の中で、6桁は国際共通であり、各国は自国のニーズに応じて6桁以降を拡張すると説明しています。
  • 公開データセットでも、「韓国税関のHSKコードに基づく2桁・4桁・6桁・10桁の関税番号」として10桁コードを明示しています。

したがって、韓国では10桁HSKコードが実務上の最終的な「条文」として機能します。


3. 主要国別に、実務で起こりやすいこと

米国:ドラフト公開とパブリックコメント

USITCは、HS改正に整合したHTS改正のため、2028年版HTSの改正案作成プロセスを開始したと公表しています。

  • 2026年2月に予備的なドラフト改正案を公表し、パブリックコメントを募集する予定です。
  • コメント期間後、必要な修正を行い、2026年9月に最終報告書を大統領へ提出するとしています。

また、USITC FAQ等によれば、国際共通の6桁HSに対し、8桁までがHTSの法的テキストであり、その後ろの10桁までが統計用途を含む米国固有の細分となります。

企業の即応ポイント(米国)

  • 米国向けでは、6桁HSだけでなく、最終的にHTSUSの8桁・10桁レベルまで確定しないと関税・統計上の影響が判断できない。
  • 2026年2月のドラフト時点から、自社品目の候補コードを当て、論点のある品目は根拠資料(技術仕様、カタログ、判定ロジック)を前倒しで整備しておく。
  • 2027年末〜2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長いリードタイム案件では旧・新HTSの境界で書類不一致が起こりやすいため、切替条件を事前に整理する。

EU:WCO改正→CN→TARIC

EUは、WCOの改正勧告を受けたうえで、CN(8桁)に取り込み、さらにTARIC(9桁・10桁)で各種措置を追加する形で運用します。

  • CNは、EUの共通関税と統計のための分類であり、輸入・輸出申告、関税率決定、統計、各種規制措置の参照コードとして用いられます。
  • CNの構造上、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEUのCNサブヘディングであることが制度文書に明記されています。

企業の即応ポイント(EU)

  • EU向けでは、WCO段階ではなく、CNの改正情報が実務上の確定点となる(関税・統計・規制すべての基礎)。
  • HS2028で6桁が動く品目は、後続でCNサブヘディング(7・8桁)の再編が起こる可能性が高く、規制・統計要件も連動して変更されうる。
  • 関税率だけでなく、輸入規制、アンチダンピング等の措置、統計報告もCNに紐づくため、部門横断で影響評価する必要がある。

日本:9桁運用とEPAのHS版

日本では、通関・統計は9桁統計品目番号で運用され、そのうち先頭6桁がHS、後ろ3桁が国内細分です。

  • 9桁統計コードは、輸出入申告と貿易統計の基礎であり、輸出用・輸入用で3桁の細分が異なる場合があります。
  • HS改正は、関税定率法等の改正を通じて、関税率表・統計品目表に反映されます。

一方、EPAでは協定ごとに採用するHS版が異なるため、原産地規則の品目別規則は協定で定めるHS版に紐づきます。
そのため、原産地証明書などEPA関連書類に記載するHSコードは、国内通関用の最新版ではなく、協定の採用HS版に合わせる運用が必要とされています。

企業の即応ポイント(日本)

  • 社内マスターは、「国内申告用の最新版HS+9桁統計コード」と「EPA別に採用しているHS版」を並行管理できる設計が必要。
  • HS2028対応は、通関だけでなく、原産地判定・証明業務の作業量を増やしやすい(複数HS版の併存)。
  • 営業や顧客向け書類(インボイス等)に記載するコードの「版」と「桁数」を、国と用途(通関・原産地・統計)ごとに定義し直す必要がある。

英国:UK Tariffでの告知

英国は、UK Integrated Tariff(UK Global Tariffを含む)として自国の関税率表を運用し、HS改正に対応した変更や相関情報を政府サイトで告知します。

企業の即応ポイント(英国)

  • 英国向けでは、UK Tariff(UK Integrated Tariff)の最新版を確認し、要求される桁数までコードを揃えて書類の整合を取る。
  • EUと見た目は似ていても、7桁以降の国内細分の設計が異なることがあるため、CNコードの単純流用は危険。

カナダ・中国・韓国:それぞれの国内公表物が最終確定点

  • カナダ:CBSAが公表するCustoms Tariffが、HSに基づく関税率表として運用され、改正時は通知・更新が行われます。
  • 中国:中国税関が公表するCCCCSは、最初の6桁がHS、7桁・8桁が中国独自の細分で構成される8桁体系であり、必要に応じて10桁まで拡張される場合もあります。
  • 韓国:韓国税関は、6桁HSを基礎に10桁HSKコードを運用しており、輸入者は韓国の10桁体系で分類する必要があります。

企業の即応ポイント(カナダ・中国・韓国)

  • 同じ6桁HSでも、7桁以降の国内細分は国ごとに別物と割り切る。
  • 取引先向けの資料は、可能な限り相手国側の桁数(カナダのCustoms Tariff、中国の8桁、韓国の10桁等)で提示できるように準備する。
  • 制度の最終確定点は、それぞれの税関・関税率表等の公表物に置き、二次情報だけで判断しない。

4. 経営として今すぐやるべき即応タスク

ここからは国別ではなく、企業側の実務タスクに落とし込みます。鍵となるのは、「二層管理」と「切替境界の事故防止」です。

即応タスクA:棚卸しと影響評価

  • 取扱品目の現行コードを、「どの国向け」「どのHS版」「何桁か(6桁・8桁・9桁・10桁など)」の観点で棚卸しする。
  • 売上上位、利益上位、関税額上位、規制該当品目など、影響の大きい品目から優先順位を付ける。
  • HS2028で6桁が動きやすい品目群(医療・ワクチン・環境関連など)を早期に特定し、技術仕様や使用用途など分類根拠情報を集約する。
  • 税率だけでなく、規制、許認可、統計単位、原産地判定(EPA)の影響も同時に洗い出す。

即応タスクB:マスターデータの二層化

  • 国際共通の6桁HSと、国別の実務桁(EUのCN8桁、日本の9桁、中国の8桁、韓国の10桁など)を分離して管理する設計に見直す。
  • マスターデータに「HS版」フィールドを持たせる(HS2022、HS2028、EPA別に採用するHS版など)。
  • 取引先に提示するコード(インボイス・仕様書・見積書など)のルールを、国別・用途別に社内標準化する。
  • 変更履歴と根拠を残し、監査対応や後日の説明に耐えられるようにしておく(特に高関税・規制品目)。

即応タスクC:書類と原産地の事故防止

  • インボイス、パッキングリスト、原産地証明書、輸出管理資料などで、どの桁のコードを載せるかを国別に定義する。
  • EPA関連書類では、協定で採用しているHS版に合わせてHSコードを記載する運用を業務手順に明記する。
  • 2027年末から2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長納期案件について、旧HS2022・新HS2028のどちらで申告・証明するかの境界条件を洗い出し、切替手順を事前に設計する。

即応タスクD:外部との合意形成

  • 通関業者に対し、HS2028改正時の検証プロセスや必要情報(仕様書、図面、用途など)をあらかじめ確認する。
  • サプライヤーには、製品仕様情報の提供範囲・更新頻度・フォーマット(HS版・桁数の指定等)を明確化し、契約やSLAに反映する。
  • 顧客に対しては、コード変更が輸入側の関税や規制に与える影響を説明できる体制(FAQ、ガイド文書、営業への教育)を整える。

5. 2028年までの実務ロードマップ

WCOは、HS2028の受理後から発効までの期間を、相関表整備や各国による実装準備期間と位置付けています。
USITCは、2026年2月ドラフト、2026年9月大統領報告というタイムラインを明示しており、企業側の準備スケジュール策定の基礎情報となります。

この情報を踏まえると、企業としては次のようなロードマップが現実的です。

  • 2026年:
    • 棚卸しと影響評価(即応タスクA)を実施し、優先品目を特定。
    • HS2028案の内容・WCOの相関情報を踏まえ、6桁レベルの候補付けと分類根拠資料の整備を開始。
    • 米国向けについては、2026年2月のUSITCドラフトを確認し、必要に応じてパブリックコメント提出を検討。
  • 2027年:
    • 各国の国内実装状況(HTSUS改正、CN改正、日本の9桁統計コード改正、中国・韓国の細分改正など)を確認し、国別の実務桁を確定。
    • 社内システム改修、マスターデータ二層化、UAT(ユーザー受入テスト)、取引先・通関業者との番号整合を完了させる。
  • 2028年:
    • 切替運用を開始し、誤分類や書類不一致のエラー監視を強化。
    • 税関からの差戻し・照会に即応できるよう、根拠資料と履歴管理のプロセスを稼働させる。

おわりに

HS2028は、分類表の単なるマイナーチェンジではなく、企業にとっては基盤データの大規模アップデートです。
WCOの一次情報を起点に、米国はUSITCとHTSUSプロセス、EUはCNとTARIC、日本は9桁統計コード運用とEPA版混在、そして中国・韓国・カナダなどは各国の関税率表・分類体系という現実に合わせて、二層管理と切替事故防止に投資することが、費用対効果の高い対応となります。

個別品目の最終コードを今すぐ決め切ることよりも、
「結論をブレなく・説明可能な形で出せる仕組み(根拠管理、履歴管理、HS版管理、相手国桁への変換ロジック)」を先に整えることが、2028年前後の現場混乱を最小化する近道です。

WCO注記改正で読み解く EV電池分類の新基準

バッテリーパックは「どこまで」HS 8507なのか

EV電池の国際取引では、セル、モジュール、パック、さらにBMS(電池管理)や温調、保護回路、筐体まで一体化した形で流通するのが当たり前になりました。ところが実務では、構成要素が増えるほど「電池そのもの」なのか「機器の部分品」なのかが揺れ、通関・原産地・規制対応まで連鎖的に事故が起きます。

この揺れに対して、WCO(世界税関機関)のHS注記は、電池を電池として扱うための線引きを、かなり明確にしています。結論から言うと、一定の付属部品や筐体の一部を伴っていても、電池は電池のまま(HS 85.07)に置く、という整理です。 (wcotradetools.org)


1. いまEV電池の分類がビジネス課題になる理由

EV電池のHS分類は、単なる番号付けでは終わりません。誤ると影響は広範囲です。

  1. 関税・追加関税・統計の誤り
  2. FTA/EPAの原産地判定(CTCの段・RVC計算・部材表)に波及
  3. 危険物輸送、環境規制、輸出管理など「対象品目判定」の入り口がズレる

つまり、電池の分類は、調達から輸出入、価格、契約、監査対応までを左右する“経営の基礎データ”になっています。


2. WCO注記が示す「電池として扱う」境界線

2-1. 注記の中核:付属部品があっても電池は電池

WCOのHS(第85類)の注記では、85.07項の「電気蓄電池(electric accumulators)」について、次の考え方が明文化されています。

・電池は、電力を蓄えて供給する機能に寄与する付属部品、または損傷から保護する付属部品を伴っていても、85.07に含まれる
・例として、電気コネクタ、温度制御デバイス(例:サーミスタ)、回路保護デバイスが挙げられている
・用途先の機器に使われる保護筐体の一部を含むこともある (wcotradetools.org)

ここが「新基準」の本体です。EV用のトラクションバッテリーは、まさにこの付属部品を標準装備しています。したがって、付属部品があること自体を理由に、電池を“別物”に寄せる判断は取りにくくなります。

2-2. 「バッテリーパック」概念の補強:特定機器向けでも85.07

さらに、WCOのHS解説注(Explanatory Note)側でも、セル群を接続して構成する「バッテリーパック」を85.07に含める考え方が示され、付属部品や保護筐体があっても、また特定機器向けに設計されていても、原則として85.07で扱う方向性が示されています。 (wcoomd.org)

実務的に重要なのは、「EV向け専用品だから車両部品(第87類)では?」という直感が、そのまま通らない点です。電池は“車両の部品っぽい”見た目でも、HSの体系上は電気機器として別建てで整理されやすい、というのがWCO側の設計思想です。


3. 実務で使える「新基準」チェックリスト

付属品が増えたとき、どこまでが電池か

通関事故を減らすには、「付属品の性格」を先に分類します。ポイントは1つです。

その部品は、電池の蓄電・放電(供給)機能に寄与するのか、保護のためなのか。あるいは別機能なのか。

3-1. 85.07に寄りやすい典型(注記の射程内)

・高電圧コネクタ、バスバー、端子
・温度センサー、温調用の安全部材(電池保護目的の範囲)
・ヒューズ、遮断器、保護回路
・保護筐体の一部(用途先機器の筐体と一体でも、電池保護の文脈なら議論に乗る) (wcotradetools.org)

3-2. ここから先は要注意(“別機能”が立つ可能性)

・インバータ、DC-DCコンバータなど電力変換
・車両制御ECUとしての機能が前面に出る制御ユニット
・充電器など外部電源との変換・充電制御が主体の機能

この領域に入ると、「電池+別機能機器」の複合体になり、HSの別の論点(複合機械、主要な機能、セット品判断など)が立ち上がります。ここは製品仕様次第で結論が割れやすいため、事前教示(Advance Ruling)を取る価値が急に上がります。


4. 企業が今すぐやるべきこと

HS分類を“設計図”として固定する

EV電池は、量産開始後に構成が変わりやすい製品です。だからこそ、分類の根拠を「最初に固定」しておく必要があります。

  1. 部材表(BOM)を「分類用」に再編集する
    電池セル、接続回路、保護回路、温調、筐体を、機能別に分解して説明できる形にする。
  2. 付属部品を「電池機能・保護」か「別機能」かでタグ付け
    設計変更が入っても、分類に影響する変更かどうかを即判定できるようになります。
  3. インボイス・仕様書・カタログの用語統一
    battery pack、battery module、BMS、thermal management などの用語が資料ごとに揺れると、税関側の解釈も揺れます。文言の統一はコスト削減そのものです。

5. HS2028時代の位置付け

「番号の変更」より前に、基準の理解が効く

WCOは、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効すること、そして移行のために相関表作成などの準備を進める方針を明確にしています。 (wcoomd.org)

ただ、EV電池の現場で先に効くのは「コードが変わるか」よりも、「電池として扱う境界線を誤らないか」です。注記が示す基準は、HS版が切り替わっても、分類ロジックの土台として残り続ける可能性が高い領域です。


まとめ

EV電池の分類は「付属品の性格」で決まる

・WCO注記は、付属部品や筐体の一部を伴っても、蓄電池は85.07に含める考え方を明確化している (wcotradetools.org)
・実務の新基準は、付属品が「蓄電・供給に寄与」または「保護」か、それとも「別機能」かを切り分けること
・別機能が立つ構成は、最初から事前教示と根拠書類(分類ドシエ)を前提に設計した方が、長期コストが下がる

必要なら、想定しているEV電池(セル・モジュール・パックのどこまでか、BMSや温調の構成、筐体の役割)を箇条書きでいただければ、この基準に沿って「どこが論点で、何を証拠にすべきか」を実務用チェックリストに落として整理します。

【WCO改正解説】センサー・半導体の「境界」が変わる

──「用途」から「構造」判定への実務的転換と、企業が取るべき対応

センサーと半導体は、いまや自動車から産業機械、家電、医療機器に至るまで、あらゆる製品の中核部品です。しかし、貿易実務の現場では、その技術的進化ゆえに分類の境界線が曖昧になっています。

「機能はセンサー(測定)だから第90類ではないか?」「いや、構造は集積回路(IC)そのものだから第85類ではないか?」──こうした解釈の揺れは、国や担当官によって判断が分かれる大きなリスク要因となっていました。

この問題に対し、WCO(世界税関機構)のHS委員会は、分類意見(Classification Opinions)を通じて明確な判断基準を打ち出しています。特に第73回HS委員会(2024年3月)で採択された決定は、センサーと半導体の境界線に新たな「構造重視」のルールを確定させる重要な転換点となりました。

本稿では、この決定が実務に与える影響と、企業がいま講じるべき対策について解説します。


1. 何が決まったのか? センサー内蔵ICは「85.42」へ

今回、実務への影響が特に大きいのは、以下の製品群が第90類(計測機器等)ではなく、明確に**「電子集積回路(HS 85.42)」**として分類整理された点です。

WCO分類意見の要点(代表例)

対象製品のイメージWCO分類 (HS)実務上のポイント
複数のスイッチ機能(複数ダイ)を1パッケージに内蔵するIC
(例:モータドライバ等)
8542.39用途がモータ駆動であっても、構造が「マルチチップIC」の定義に合致すれば85.42を優先。
2つのセンサーダイを同一パッケージに封止したホールセンサーIC
(角度・位置検出用)
8542.39「角度・位置の検出(測定)」という用途があっても、ICとしての一体性・構造要件を重視し、第90類を排除。

これらの決定において、WCOは一般解釈規則(GIR)1および6に加え、**第85類注12(b)(iii)(マルチチップ集積回路の定義)を根拠としています。 特にホールセンサーICの事例は、「測定機能を持つものは第90類」という従来の直感的な判断を覆し、「構造がICであれば第85類」**という原則を強く印象づけるものとなりました。

2. WCOが示した判断軸:機能ではなく「構造と一体性」

今回の分類意見が企業に示唆しているのは、「争点になりやすい『用途』よりも、まず『構造』を見よ」というメッセージです。

分類意見で重視された構造要件

  • 複数ダイ(または機能ブロック)の集積: 複数のダイが1つのパッケージに収められていること。
  • 受動・能動素子の不在: マルチチップICの場合、ダイ以外の追加回路要素(個別のコンデンサや抵抗等)が含まれていないこと。
  • 不可分な一体性: ダイ製造およびパッケージングの時点で、物理的に一体化されていること。

【重要な注意点:相互接続の解釈】

実務上、「ダイ同士が直接ワイヤで繋がっていない(電気的に相互接続されていない)なら、マルチチップICの定義(注12(b)(iii))に当たらないのでは?」と判断し、第90類へ分類してしまうケースが見受けられます。

しかし、WCOの判断はこれとは異なります。ダイ同士が直接接続されていなくても、リードフレームやパッケージ配線を介して機能的に結合(相互接続)していれば、マルチチップICの要件を満たすと解釈されます。

つまり、見た目の配線にとらわれず、「パッケージ全体として一つのICとして機能しているか」という構造的一体性が、分類の決定打となるのです。

3. 法的根拠:第85類注12が持つ「強制力」

この線引きを支えているのが、関税定率法(HS条約)における第85類注12の規定です。

注12は、半導体デバイス(85.41)と電子集積回路(85.42)を定義すると同時に、以下の強力な優先ルールを定めています。

「この注に規定する物品については、第85.41項及び第85.42項は、この表の他のいずれの項(第85.23項を除く。)よりも優先する。」

つまり、ある製品が「センサー」としての機能を持ち(第90類)、同時に「集積回路」の構造定義(第85類注12)も満たす場合、HS条約は「第85類(半導体/IC)に分類せよ」と強制しているのです。

今回のWCOの決定は、この原則をセンサーIC等の「境界領域」の製品に厳格に適用した結果と言えます。

4. 企業への影響:分類ブレ=経営リスク

この解釈更新を単なる「コード変更」と捉えるのは危険です。不正確な分類が引き起こす「不確実性コスト」は、関税率の差以上にビジネスを圧迫します。

  • 通関遅延・追加照会: 構造説明が不十分で「センサー(90類)では?」と疑義を持たれ、貨物が止まる。
  • 事後調査での否認: 過去に遡って過少申告を指摘され、加算税・延滞税が発生する。
  • FTA/EPA適用の崩壊: HSコードが変わることで、原産地規則(CTC要件など)を満たさなくなり、関税ゼロの特典を失う。
  • システム修正の負担: 品目マスタ、ERP、輸出入システムの改修コスト。

WCOの判断が出たからといって、世界中の税関が即座に運用を統一するわけではありません。だからこそ、企業側が論理的な説明(Defense File)を用意しておく必要があります。

5. 実務チェックリスト:いま着手すべき5つのアクション

  1. 対象品目の棚卸し(Inventory)センサーIC、MEMS、モータドライバ、パワーモジュールなど、境界領域にあるSKUを抽出。現行のHS採番理由が「用途」寄りになっていないか再点検します。
  2. 「構造」を証明する技術資料の整備単なるスペックシート(機能説明)では不十分です。パッケージ内部構造、ダイの枚数・構成、リードフレームとの接続、追加部品の有無を図解できる資料(Cross-section図など)を準備します。今回のWCO判断において、勝負を決めるのはこの情報です。
  3. 製品記述(Description)の標準化インボイスやマスタ品名において、「Sensor」という単語を強調しすぎると誤解を招きます。「Integrated Circuit (Dual die Hall sensor type)」のように、構造(IC)を主語にした記述へ統一することを推奨します。
  4. 重点国での事前教示(Advance Ruling)主要な輸出入国において、今回のWCO判断が浸透しているかを確認し、リスクが高い場合は事前教示制度を利用して分類を確定させます。
  5. 変更管理(Change Management)の制度化設計変更やサプライヤ変更により、1ダイから2ダイへ、あるいは受動部品の内蔵有無が変わると、HSコードも変わる可能性があります。設計変更通知(PCN)とHS分類部門が連動する仕組み作りが不可欠です。

まとめと今後の見通し

WCOのHS委員会は、継続的にこの領域の整備を進めています。直近の第76回会合(2025年9月)に続き、次回第77回会合(2026年3月予定)でも新たな分類議論が行われる見込みです。この領域は「一度決めたら終わり」ではなく、「技術進化に合わせて更新され続ける」テーマです。

今回のWCOのメッセージは明確です。「迷ったら構造を見よ」。

特にセンサー機能を内包するデバイスについては、用途ではなく**構造(ICの定義合致性)**で85.42に整理する流れが確定しました。

経営層および実務責任者は、これを機に対象品目の棚卸しを行い、税関に対して「構造」を正しく説明できる体制(技術資料とロジックの整備)への投資を急ぐべきです。それが、無用なサプライチェーンの混乱を防ぐ最善策となります。

HSコードは番号から説明責任へ:ドシエの必要性が税関により強く推奨される

HSコードは、正しい番号を当てるだけの業務ではなくなりつつあります。製品が高度化し、機能や用途が複合化するほど、分類の論点は増え、判断の揺らぎも起きやすくなります。だからこそ近年は、結論としてのHSコードに加えて、その結論に至った根拠をどれだけ明確に示せるかが、通関スピードや事後対応の負担を左右する局面が増えています。

この流れの中で注目されているのが、HSコード分類根拠書、いわゆるドシエです。ドシエは追加の書類ではありません。経営の視点でいえば、通関停滞、追加照会、事後調査、再分類といった不確実性を下げ、サプライチェーンの時間とコストを安定させるための説明責任インフラです。

税関がドシエを推奨する理由

税関がドシエを重視する背景は、実務上の必要性に集約されます。
第一に、審査を速く正確に進めるためです。仕様や用途の情報が不足すると、税関は照会を増やして確認せざるを得ません。最初から仕様と根拠が整理されていれば、審査の起点が共有され、照会の往復が減り、結果として通関が速くなります。

第二に、判断の一貫性を高めるためです。人や部署、時期によって解釈のブレが出やすい領域ほど、事実と根拠を文書化しておくことで、同じ判断を再現しやすくなります。

第三に、事後調査や紛争のコストを抑えるためです。過去にどんな事実認定をし、どの根拠で結論に至ったかが整理されている企業ほど、説明が短期間で済み、修正が必要な場合でも影響範囲の特定が速くなります。

ドシエに入れるべき中身

ドシエの目的は、難しい文章を書くことではなく、事実と論理を一体で提示できる状態を作ることです。基本の骨格は次のとおりです。

  1. 製品の客観仕様
    材質、構造、機能、用途、製造工程、構成部品、型番体系、性能値など
  2. 証拠資料
    仕様書、図面、写真、カタログ、取扱説明書、SDS、分析成績、工程表など
  3. 候補コードと除外理由
    なぜそのコードで、なぜ他の候補ではないのか。境目となる条件は何か
  4. 法的根拠
    解釈に関する通則、部注・類注、関連する参考資料や先例など

この構造を揃えるだけで、社内承認の速度も、対外説明の再現性も大きく変わります。

ドシエで使うべき言語

ここは輸入と輸出で考え方を分けるのが現実的です。

日本に輸入する場合

日本の税関対応を前提にするなら、日本語で要点が整理されていることが最も有利です。理由は単純で、誤解が減り、照会が短くなりやすいからです。外国語の資料が添付されること自体は珍しくありませんが、少なくとも要点と論点は日本語で押さえておくほうが、結果として通関が安定します。

輸出する場合

輸出側のドシエは、英語が事実上必須になる場面が多いです。相手国の通関関係者、輸入者、通関業者、保税倉庫、監査担当など、関与者が国境を越えて増えるため、共通言語として英語が標準になりやすいからです。
加えて、輸出では自社だけで完結しません。相手先が輸入申告を行う国では、分類の説明責任は輸入者側に置かれるのが一般的です。輸入者が説明できなければ、結果として貨物は止まり、追加照会や保留が発生します。このとき、英語で整理されたドシエがあるかどうかが、輸入者の対応力と通関スピードを左右します。

なお、相手国によっては英語だけで十分とは限らず、現地語の補足が有効な場合もあります。現実解としては、次の二段構えが運用しやすいです。
・社内の正本として日本語版を整備し、意思決定と統制を固める
・対外共有用として英語版を整備し、輸入者や海外拠点と同じ論点で会話できる状態を作る

ここでHSCFが有益になるポイント

ドシエ運用のボトルネックは、知識不足よりも、情報収集と論点整理と文書化です。HSCFが効くのはまさにこの部分です。

  1. 証拠の回収を速くする
    写真、PDF、仕様書など、現場に散らばる材料を起点に検討を始められると、ドシエの土台作りが前に進みます。
  2. 不足情報を対話で特定し、抜けを減らす
    分類が割れる多くの原因は、必要な仕様が欠けていることです。追加確認すべきポイントを早い段階で洗い出せれば、照会されやすい穴を先回りして塞げます。
  3. 候補と分岐点を明示し、除外理由を作りやすくする
    ドシエで最も価値が出るのは、なぜ他のコードではないかの説明です。候補の並列提示と論点の切り分けができると、除外理由が短時間で固まります。
  4. 日英の併用運用に向く
    輸入は日本語、輸出は英語という二重運用は、理屈は正しくても現場負担が重くなりがちです。HSCFを活用して、日本語で統制を固めながら、英語の対外共有版も同じ骨格で整える運用にできると、スピードと再現性が両立します。用語や表現のブレを抑えられることも、海外とのコミュニケーションでは効いてきます。

まとめ

ドシエが重視されるのは、分類の正しさだけでなく、説明可能性が通関速度とコストを左右するからです。税関側にとっても、企業側にとっても、審査の起点となる情報と論理を共有できることが、最大の合理化になります。

そして言語は、輸入は日本語での明確化、輸出は英語での対外共有が鍵になります。輸出では英語のドシエがあるかどうかが、相手国側の通関を動かす実務上の決め手になり得ます。
この二重運用を現場で回すための加速装置として、証拠収集、論点整理、候補比較、文書化を一気通貫で支援できるHSCFは、有益な選択肢になります。

日本の通関実務が変わる日。税関が推奨する「HSコード分類根拠書」とは何か

2026年1月26日、日本の貿易実務において静かですが重要な変化がありました。財務省関税局は、輸入申告に際し「HSコード分類根拠書(通称:ドシエ)」の任意提出を一層積極的に推奨する方針を示しました。

これまでHSコードの決定過程は企業内部の判断に委ねられ、税関には「結論としてのコード」だけが申告されるのが一般的でした。ところが今後は、そのコードを選定した論理的根拠の提示が求められる方向に動いています。これは形式的な申告から、説明責任を伴う判断型の通関へと移行する兆しです。


数字だけでなく「ロジック」を問われる時代へ

税関が推奨するのは、単なるHSコード入力ではなく、それを選定した過程と法的根拠をまとめた文書の添付です。典型的なドシエには以下の内容が含まれます。

  • 製品の客観的な仕様(材質、機能、用途)
  • 検討したHSコードの候補と除外理由
  • 適用した法的根拠(関税率表の解釈に関する通則、類注・部注)
  • 参照した過去の事前教示やWCO分類意見など

税関がこのような詳細情報を求める背景には、製品の多様化・AI技術の進展があります。複雑化する貨物を短時間で正確に分類するためには、輸入者自身による「論理の見える化」が不可欠になっています。つまり、税関と企業が同じ視点で審査の起点を共有する仕組みづくりが進んでいるのです。


企業にとってのメリット:防御から戦略へ

一見すると事務負担が増える施策に見えますが、実は企業に大きな利点があります。

  1. 通関の迅速化。
    ドシエによって判断の根拠が明確になれば、審査時に疑義が生じる可能性が下がり、貨物滞留リスクを減らせます。
  2. 事後調査リスクの軽減。
    万一HSコードが誤っていたとしても、合理的な根拠を提出していれば、企業は「正当な注意義務(Reasonable Care)」を果たしたと評価され得ます。これにより、重加算税などの厳罰を回避し、修正申告で済む場合が増えるでしょう。

このようにドシエは、単なる説明書ではなく企業を守る保険であり、同時に通関精度を高める経営戦略ツールでもあります。


「なんとなく分類」からの脱却

これまで多くの現場では、「前回と同じ」「仕入先からそう言われた」といった慣習的判断に頼る傾向がありました。税関の今回の方針転換は、そうした「前例主義」からの脱却を意味します。今後の優秀な貿易担当者には、合理的根拠を文書化できる力が不可欠になります。HSコードの知識だけでなく、「なぜそのコードなのか」を説明できる論理構成力が問われる時代に入りました。


AIとテクノロジーがカギを握る

すべての申告で人手による詳細なドシエ作成を行うのは非現実的です。そこで注目されるのがAIや専門システムの活用です。
商品仕様を入力するだけで、関連通則・類注を自動抽出し、分類根拠を論理的に組み立てるAIツールも登場しています。企業はこうした技術を導入することで、人の判断を強化しつつ業務負担を抑え、コンプライアンスの精度を高めることが可能になります。


まとめ

2026年1月26日は、日本の通関実務が「結果主義」から「プロセス重視」へと舵を切った節目となるかもしれません。
税関のメッセージは明快です。――「あなたの会社の論理を示してください」。

この要求に根拠あるドシエで応えられる企業こそが、通関トラブルの少ない持続的な貿易を実現し、ホワイトな物流体制を築くことができるでしょう。

変化を恐れず、根拠を武器に。新しい通関の時代が、すでに始まっています。

韓国:「品目分類変更告示」(2026年1月22日)の実務ポイント

2026年1月22日、韓国関税庁(Korea Customs Service)は、2025年12月16日に開催された「第8回 品目分類委員会」の審議結果(9件)を反映した「輸出入物品等に対する品目分類変更告示」の改正内容を官報に掲載したと公表しました。
この種の告示は、韓国向け輸出入に関わる企業にとって、関税率だけでなく、FTA適用や申告実務(品目マスタ、通関指示、事後修正の要否)に直接影響します。


1. 今回の改正で何が起きたか

今回のポイントは、韓国での品目分類の取り扱いについて、品目分類委員会の決定を通じて解釈が明確化され、その内容が告示改正という形で公式ルールに組み込まれた、という位置付けです。
同じ製品であっても、分類の変更や整理が行われると、次のような要素が連鎖的に変わり得ます。

  • 適用関税率(基本税率、WTO譲許税率、協定税率など)
  • FTAの原産地規則における判定起点(HSベースのCTC基準など)
  • 輸入側での審査観点(補足資料要求、差し止め、事後調査リスクなど)

公表された9件のうち、実務的に象徴性が高い事例として、冷凍水産品と情報機器関連品の分類が説明されています(以下では代表的な論点として整理)。


2. 注目すべき分類事例

事例A:冷凍「チュクミ(주꾸미)」の扱い

争点は、「国際的な学名(属名)の変更が、HS上の分類変更を当然に意味するのか」という点です。
HS2017・HS2022体系では、タコ類は一般に「0307.52 Octopus (Octopus spp.), frozen」に分類されており、コードの構造自体は属の学名変更に直接連動しない形で設計されています。

韓国税関は、学名の変更は生物分類学上の名称変更にとどまり、HS体系の構造やコードの範囲が自動的に変わるものではない、という考え方に立ち、タコ類としての取扱いを維持する判断を示しています(具体の10桁分類「0307.52-3000」自体は韓国の細分コードであり、国際HSでは6桁までである点に注意が必要です)。
実務的には、韓国・ASEANはじめ各FTAで、同じHSコードに属するか否かにより関税率(0%か、そうでないか)が分かれる場合があり、この判断は輸入者・輸出者双方にとって影響が大きいテーマです。

また、韓国関税庁はこのような学名変更とHS分類の関係について、世界税関機構(WCO)の場で整理を進める姿勢を示しており、将来的な国際的ガイダンス整備につながる可能性があります。

事例B:CPUクーラー(液冷+ファン等の複合品)の扱い

CPU冷却用の装置(ラジエーター、ポンプ、チューブ、冷却ヘッド、ファン等で構成された液冷クーラーなど)について、「単なるファン(HS第84.14項)」や「一般的な冷却機器(HS第84.19項)」としてではなく、「自動データ処理機器用の部品(HS第84.73項)」として整理した点が重要です。

理由としては、次のような事情が総合的に評価されたと説明されています。

  • 複数の構成要素が一体となってCPU冷却という単一の機能を果たしている点(複合品としての一体性)
  • コンピュータ(自動データ処理機器)に専用、または主として使用される点(用途の専用性)

このような判断は、WCO解釈通則の「機能の一体性」や「特定用途向け部品」の考え方とも整合的であり、韓国としてコンピュータ関連部品の分類を整理していく流れの一端と位置付けられます。


2事例をビジネス視点で整理

実務上の示唆を、争点・結論・企業側の着眼点という切り口で整理すると、次のようになります(以下の表のコメント部分は筆者による実務的解釈です)。

対象争点韓国側の結論・方向性(要約)企業への示唆(実務的な解釈)
冷凍チュクミ(タコ類)学名(属名)の変更がHS分類を動かすか学名の変更それ自体ではHSの分類範囲は自動的には変わらない。タコ類としての分類を維持する方向。商品説明を生物分類上の名称だけに頼り過ぎず、実際の形態・用途・通関上の既存取扱いとの整合を確認する。FTA税率差の有無も含め、韓国側の分類と社内マスタを合わせる必要。
CPUクーラー(液冷+ファン等の複合品)ファン(8414)か、冷却機器(8419)か、それともコンピュータ部品(8473)か複数部材が一体となってCPU冷却という単一機能を果たし、かつコンピュータに専用または主として使用されることから、コンピュータ部品側(8473)に整理。構成部材の「寄せ集め説明」ではなく、用途の専用性と機能の統合性を文書で示す。写真・構成図・取付先機器等を整理し、「一般用ファン」や「汎用冷却装置」とは異なることを根拠立てる。

3. 日本企業が取るべき実務アクション

ここからは、日本企業が自社の業務フローにどう落とし込むかという視点で整理します。

アクション1:該当可能性のある品目の棚卸し

  • 韓国向け出荷品のうち、食品(水産物)、PC部材、冷却・電装周辺品など、今回の事例に類似性が高い分野を優先的に抽出する。
  • インボイス記載HS(6桁)と、韓国側申告コード(10桁)の間でズレが生じやすい品目(生物名ベースの品目、複合機能品など)を重点的に確認する。

アクション2:品目マスタと通関指示書の更新

  • 社内の輸出用HSマスタ(6桁・必要に応じて9桁)と、韓国輸入者側で使用される10桁コード体系を、定期的に照合しながら管理する。
  • 過去に韓国向け輸出実績がある品目については、分類根拠を1枚の説明資料(根拠シート)に整理しておくと有効です(例:
    製品概要、構成要素、主要用途、写真・図面、カタログ抜粋、取付先機器、比較候補コード(なぜ他の号ではないか)など)。

アクション3:不確実な品目は事前照会ルートを活用

韓国税関は、品目分類の不確実性を減らすための事前審査制度を運用しており、UNIPASS(韓国の通関電子申告システム)上で申請が可能と案内しています。
また、2026年1月2日施行の制度改正では、一定条件下で不足税額に対する加算税(不誠実申告加算税)の減免が認められるケースにも言及されており、輸入後に修正が生じ得る業種ほど、社内での修正手順と期限管理のルールをあらかじめ設計しておく価値があります。


4. 実務上の意味合いと今後の活用

今回の「品目分類変更告示(2026年1月22日)」は、単なる個別事例の紹介にとどまらず、韓国が品目分類の予測可能性を高めつつ、WCOとの整合も意識して運用をアップデートしているシグナルといえます。
日本企業としては、影響が出やすい品目から優先度を付け、韓国側の分類ロジックに沿った形で根拠書類の整備と品目マスタ更新を進めることが、最も効率的な対応策となります。