HS 2028改正の骨格が確定。WCOが示した世界共通6桁の全貌と企業が直面するシステム移行のマラソン

2026年1月31日、世界税関機構(WCO)から、全世界の貿易実務者にとって極めて重要なマイルストーンとなる情報が発信されました。それは、2028年1月1日に発効する第8次HS条約改正(HS 2028)における、世界共通の6桁コードの変更内容が最終確定し、現行のHS 2022との相関表(Correlation Tables)のドラフト配布が開始されたというニュースです。

これは単なる事務連絡ではありません。2年後に迫った新ルールへの移行に向け、企業のシステム改修やマスタデータ更新のカウントダウンが正式に始まったことを意味します。

本記事では、今回確定した変更内容のポイントと、このニュースを受けてビジネスマンが今すぐ着手すべき準備について解説します。

HSコードの6桁が確定したことの重大な意味

貿易実務においてHSコードは世界共通言語ですが、厳密に世界で統一されているのは上6桁までです。それ以降の桁数は国ごとに自由に設定されます。今回、WCOが確定させたのは、この世界共通部分である6桁の構造です。

これが確定したということは、もはや議論のフェーズは終わり、実装のフェーズに入ったことを示唆します。これから2028年にかけて、日本、米国、EUなどの各加盟国は、この6桁をベースに自国の関税率表(9桁や10桁)を作成する作業に入ります。

企業にとって重要なのは、相関表(Correlation Tables)が提示された点です。これは、今のコードが将来どのコードに変換されるかを示す対照表であり、システム移行のための設計図そのものです。これが入手可能になったことで、IT部門や通関部門は具体的な影響範囲の特定が可能になりました。

今回の改正を貫く2つの主要テーマ

HS 2028の改正内容は多岐にわたりますが、ビジネスに直結する大きな潮流は環境とテクノロジーの2点に集約されます。

環境物品の可視化と循環経済への対応

もっとも大きな変更点は、環境関連物品の細分化です。これまでのHSコードでは、廃棄物やリサイクル原料は大雑把な分類しかされていませんでした。しかし、HS 2028では、使用済みプラスチック、電子廃棄物(e-waste)、そしてバイオ燃料などの分類が劇的に細かくなります。

これは、国境を越えるリサイクル資源の移動を管理しやすくするためであり、同時に環境物品への関税撤廃や、逆に環境負荷の高い物品への課税強化を行うための布石でもあります。サステナビリティを掲げる企業にとって、自社のリサイクル材がどの新コードに落ちるかは、コンプライアンス上の最重要確認事項となります。

新技術製品の独立分類

もう一つの柱は、急速に普及した新技術への対応です。例えば、ドローン、3Dプリンター、特定のAIハードウェア、次世代半導体素材などが、従来のその他分類から独立し、固有の場所を与えられます。

これにより、ハイテク製品の貿易統計が正確になると同時に、特定の技術製品を狙い撃ちにした関税設定や輸出管理が容易になります。該当製品を扱うメーカーは、関税率が変動するリスクを織り込む必要があります。

最大のリスクはFTA原産地規則との乖離

コードが変わることで最も警戒すべき実務上の落とし穴は、自由貿易協定(FTA/EPA)の原産地証明です。

多くのFTAでは、原産地規則(関税分類変更基準など)が、協定発効時の古いHSコードに基づいて定義されています。HS 2028が導入されると、通関申告は2028年版で行う一方、原産地判定は2017年版や2022年版のコードに変換して行わなければならないという、二重管理の状態が発生します。

WCOによる相関表の公開は、この変換作業を正確に行うための公式な定規が配られたことを意味します。この定規を使わずに感覚で変換を行えば、原産地規則の適用ミスによる脱税や事後調査での否認につながります。

企業が今すぐ開始すべき3つのアクション

2028年はまだ先だと思われるかもしれませんが、基幹システムの改修には年単位の時間を要します。以下の3つのステップで準備を開始することを推奨します。

影響分析の予算化とチーム組成

まず、自社が取り扱っている製品のうち、どの程度がHS 2028の影響を受けるかを洗い出す必要があります。今回配布された相関表を用いれば、コードが変わる品目のリストアップが可能です。IT部門と通関部門によるタスクフォースを立ち上げ、システム改修に必要な予算を来期の計画に盛り込む必要があります。

マスタデータのクレンジング

移行作業をスムーズにするためには、現状のデータが綺麗であることが大前提です。現在使用しているHSコードに誤りがないか、製品情報(成分、材質、用途)が最新の状態に更新されているかを確認してください。ゴミデータのまま新コードへ移行しようとすると、自動変換の精度が落ち、手作業の修正コストが膨れ上がります。

サプライチェーン全体への周知

自社だけでなく、海外のサプライヤーや現地法人に対しても、2028年改正に向けた準備を促す必要があります。特に、部品表(BOM)のHSコード更新は、サプライヤーからの情報提供がなければ完了しません。早期にアナウンスを行うことで、直前の混乱を避けることができます。

まとめ

WCOによるHS 2028の最終確定は、グローバルビジネスにおけるルール変更の合図です。

新しいコード体系は、環境配慮や新技術といった時代の要請を反映したものであり、これに適応できない企業は、通関の遅延や関税コストの増加というペナルティを支払うことになります。

相関表という地図は手渡されました。あとは、2028年1月1日というゴールに向けて、着実にシステムと業務を適合させていく実行力が問われています。

日本の通関実務におけるパラダイムシフト:HSコード分類根拠書の電子提出推奨がもたらす未来


2026.01.29 | 貿易実務・通関

2026年1月26日、日本の貿易実務において、静かですが極めて重要な変革が始まりました。財務省関税局が、輸入申告時におけるHSコード分類根拠書(通称:ドシエ)の電子的な添付を、強く推奨する運用方針を打ち出したのです。

これまで、輸入申告におけるHSコードの決定プロセスは、企業のブラックボックスの中にありました。税関への申告は結果としての数字(コード)を伝えるだけで、なぜその数字を選んだのかという理由まで求められることは稀でした。しかし、今回の新しい運用は、その慣習を過去のものにしようとしています。

本記事では、このニュースが示唆する税関の意図と、ビジネスマンが今すぐ取るべき対応策について深掘りします。

デジタル時代の通関はプロセス重視へ

今回、税関が推奨を開始したドシエの電子提出とは、単にHSコードを入力するだけでなく、そのコードを選定した論理的な根拠を示した文書を、API連携やシステムを通じてデジタルデータとして添付することを指します。

従来のアナログな書類提出とは異なり、データとして提出することで、税関の審査システムが自動的に内容を解析できる点が画期的です。

なぜ税関はこのようなデータを求めているのでしょうか。最大の理由は、サプライチェーンの複雑化と製品の高度化です。一見しただけでは分類が困難な物品が増える中で、税関職員がゼロから審査を行うコストは限界に達しています。そこで、輸入者側からあらかじめ正解への道筋を提示してもらい、審査を効率化したいという狙いがあります。

分類根拠書(ドシエ)に記載すべき3つの要素

では、具体的にどのようなデータを準備すればよいのでしょうか。税関が期待するドシエには、主に以下の3つの要素が含まれている必要があります。

第一に、製品の客観的な仕様です。

カタログのコピーだけでは不十分です。材質の構成比率、主要な機能、使用用途など、分類の決め手となるスペックを明確に整理する必要があります。

第二に、法的根拠の引用です。

これが最も重要です。単にパソコンだからという理由ではなく、関税率表の解釈に関する通則1に基づき、第84類の注5(E)を適用した結果といったように、関税法上のルール(通則、部注、類注)を引用して論理を構成します。

第三に、参考とした先例です。

過去の事前教示回答事例や、世界税関機構(WCO)の解説書、あるいは類似品に関する他国の分類事例などを記載することで、自社の判断が客観的なものであることを証明します。

企業にとってのメリット:防御から攻撃への転換

一見すると事務負担が増えるだけの施策に見えますが、戦略的な実務担当者にとっては、これは自社を守る強力な武器になります。メリットは大きく分けて二つあります。

一つ目は、通関スピードの劇的な向上です。

ドシエによって分類の根拠が明確に示されていれば、税関のAI審査や検査官が疑義を抱く余地が少なくなります。今回の新運用では、ドシエが添付された申告は審査の優先順位が上がるとされており、結果として貨物が止められることなくスムーズに許可される確率が高まります。

二つ目は、事後調査におけるリスク低減です。

これが最も重要な点です。もし万が一、申告したHSコードが誤りだったとしても、事前にしっかりとした根拠書を提出していれば、企業側には正当な注意義務を果たしたという証拠が残ります。これにより、悪質な虚偽申告や重加算税の対象となるリスクを回避し、単なる修正申告で済む可能性が高まります。つまり、ドシエは企業にとっての保険として機能するのです。

テクノロジーによる自動化が鍵

とはいえ、すべての輸入案件で詳細なドシエを人間が手書きで作成するのは現実的ではありません。今回のニュースの肝は、これを電子提出(API連携)で推奨している点にあります。

製品データを入力すれば、該当する法的根拠を引用し、論理構成まで含めたドシエを自動生成し、そのまま通関システムへ連携できるAIツールの活用が、これからのスタンダードになるでしょう。人間はAIが作った論理を最終確認するだけで済むようになれば、負担を増やさずにコンプライアンスレベルを最高水準に引き上げることが可能です。

まとめ

2026年1月26日は、日本の通関が結果主義からプロセス重視へと舵を切った日として記憶されるかもしれません。

税関からのメッセージは明確です。「あなたの会社の論理をデジタルで見せてください」。この問いかけに対し、テクノロジーを活用してしっかりとしたドシエで応えられる企業だけが、通関トラブルとは無縁のホワイトな物流を実現できるのです。変化を恐れず、根拠ある申告を武器にビジネスを加速させていきましょう。

HS2028改正後のEU動向と原産地証明の実務指針:2028年に備える「二重管理」のススメ


2026年1月現在、HS条約の第8次改正となる「HS2028」はすでにWCO(世界税関機構)理事会で採択・受諾され、2028年1月1日の発効に向けてカウントダウンが始まっています。

EU向けにビジネスを行う企業にとって、今回の改正は単なるコードの書き換えでは済みません。特に注意が必要なのが、「通関用コード」と「EPA/FTA用コード」のズレから生じる原産地証明の事故リスクです。

本記事では、HS2028導入に向けたEUの動向と、企業がいま準備すべき実務指針について、信頼できる一次情報をもとに解説します。


1. 確定したタイムライン:HS2028は2028年1月1日発効

WCOの公式発表によれば、HS2028改正は2028年1月1日に発効することが確定しています。今回の改正は299セットの変更を含み、環境物品や新技術製品の分類を明確化するための大規模な見直しとなります。

WCOは現在、新旧コードの対応関係を示す**相関表(Correlation Tables)**の作成など、円滑な移行に向けた準備を進めています。企業の実務担当者にとって、この相関表は自社製品が新旧どのコードに該当するかを確認する上で最も重要な羅針盤となります。


2. EUの動き:CNコードとTARICの自動更新

EUでは、HSコードをベースに独自の細分を加えた**CN(Combined Nomenclature)を統計および関税分類の基礎としています。EU委員会(Taxation and Customs Union)によると、CNは毎年更新され、通常は前年の10月末までに翌年版が官報(Official Journal)**に掲載されます。

実装のメカニズム

  • CNの更新: HS2028の発効に合わせ、EUは2027年秋ごろに公布される「CN 2028」にて、HS2028の内容を全面的に取り込むことになります。
  • TARICとの連携: 加盟国の税関システムと日次で連携する統合データベースTARICも、このCN更新に基づいて自動的に整備されます。

つまり、EUへの輸出においては、2028年1月1日時点で現地の輸入通関システムがHS2028ベースに切り替わっているため、輸出者側も最新コードでのインボイス作成が必須となります。


3. 最大のリスク:原産地規則における「版のズレ」

HSコードが変わる際、最も事故が起きやすいのが原産地証明のプロセスです。

なぜ事故が起きるのか

多くのEPA(経済連携協定)やFTAでは、原産地規則(PSR)が特定のHSバージョンの分類に基づいています。

例えば、日EU・EPAの品目別規則は、HS2017版の分類体系を参照しています。

  • 通関現場: 2028年1月1日以降、最新のHS2028で申告する必要がある。
  • 原産地判定: 協定が改正されない限り、引き続きHS2017の基準で判定しなければならない。

この「通関用コード」と「判定用コード」の乖離を見落とすと、本来満たしているはずの関税分類変更基準(CTHなど)が満たせないと誤認したり、逆に満たしていないのに証明書を発行してしまうコンプライアンス違反につながります。


4. 日EU・EPA実務の再確認:自己申告制度の鉄則

日EU・EPAでは、輸出者自身が原産性を証明する「自己申告制度」が採用されています。実務上の要件を改めて整理しておきましょう。

  • 原産地申告文(Statement on Origin): 商業書類(インボイス等)に所定の文言を記載して作成します。
  • 有効期間: 作成日から12か月間有効です。
  • 長期申告: 同一産品の複数回出荷に対し、最大12か月間有効な包括的な申告を行うことも可能です。
  • 保存義務: 輸出者は、申告の写しおよび原産性の根拠資料を少なくとも4年間保存する義務があります。
  • 言語: 商業書類と同じ言語(英語など)で記載することが推奨されています。

特に重要なのは、輸出者参照番号として**法人番号(13桁)**を使用することです。記載がない場合でも直ちに無効とはなりませんが、EU税関からの照会リスクを避けるため、必ず記載する運用を徹底すべきです。


5. 企業が今やるべき3つのアクションプラン

2028年に向けた混乱を防ぐため、今のうちから以下の「HSの版の違いに耐える設計」を導入することを推奨します。

① 品目番号の「二重管理」体制を作る

社内の製品マスタに、以下の2つのフィールドを設け、それぞれ独立して管理できるように改修します。

  1. 通関申告用コード: 最新版(将来のHS2028/CN2028)
  2. 原産地判定用コード: 協定参照版(日EU・EPAならHS2017)

② 根拠資料(ドシエ)の固定化

原産地検認(事後調査)に備え、以下のセットを案件ごとに、あるいは製品ごとに保管(ドシエ化)します。

  • HS2017ベースでの分類根拠
  • 適用したPSR(関税分類変更基準や付加価値基準の計算根拠)
  • 部品表(BOM)とサプライヤーからの証明書

③ 影響品目の早期抽出

HS2028では、環境物品や新技術製品を中心にコードが細分化されます。自社の取扱品目が改正対象に含まれているか、WCOの相関表が出次第すぐに確認し、影響度を洗い出しましょう。


まとめ

HS2028は2028年1月1日に確実にやってきます。

EU側はCNとTARICを通じてシステム的に対応を進めますが、企業側で最も警戒すべきは**「通関は最新コード、原産地判定は旧コード」**という二重基準の運用です。

今のうちからマスタデータの二重管理体制を整え、協定ごとの参照バージョンを意識した業務フローを確立しておくことが、2028年以降もスムーズなEUビジネスを継続する鍵となります。

米国で揺れる「スマートウォッチ」と「医療用モニター」の境界線

最終更新:2026年1月24日(日本時間)

2025年8月、Appleは米国で一時停止されていたApple Watchの血中酸素(Blood Oxygen)機能について、ソフトウェア更新で再提供する「再設計版」を発表しました。ポイントは、Apple Watch側で取得したセンサーデータを、ペアリングしたiPhone側で計測と計算を行い、iPhoneのヘルスケアアプリ内で結果を表示する設計に変えた点です。Appleは「最近の米国税関の判断が、この更新を可能にした」と明言しています。(Apple)

この出来事は「ある健康機能が、いつから医療用モニター級の扱いになるのか」という、境界線をビジネス面から突きつけました。しかも論点は、FDAの医療機器規制だけではありません。米国では、特許紛争を背景にした輸入差止(貿易救済)と税関当局の運用が、製品設計と市場投入を左右しうることが、改めて可視化されました。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

以下は、ビジネスパーソン向けに「今回の最新裁定の意味」を深掘りした整理です。この記事は一般情報であり、個別案件の法的助言ではありません。


忙しい人向けの要点

  • 最新の焦点は、Apple Watch単体ではなく「WatchとiPhoneの組み合わせで成立する血中酸素機能」を、輸入差止の対象とみなすかどうかに移りました。(Apple)
  • 税関判断を契機に機能が復活した一方、医療モニタリング企業Masimoはその判断を不服として提訴し、輸入差止の復活を求めています。(Reuters)
  • 2025年11月、米国国際貿易委員会(ITC)は、再設計版が輸入差止の対象になるかを改めて審査する新たな手続を開始しました(目標は約6か月)。(Reuters)
  • 2026年1月にはFDAが「低リスクのウェルネス機器」をめぐる考え方を改めて明確化しました。ただし、規制上の位置付けがウェルネス寄りでも、特許と輸入差止のリスクが消えるわけではありません。(U.S. Food and Drug Administration)

そもそも何が「裁定」なのか

今回は「裁定」という言葉が複数の層を指します。

  1. ITCの輸入差止命令(セクション337)
    ITCは2023年10月、Masimo側の主張を一部認め、特定の特許を侵害する「光学式パルスオキシメトリ(血中酸素)機能を持つウェアラブル電子機器」等について、限定的輸入差止命令(Limited Exclusion Order)などを出したと公表しています。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)
    その後の大統領審査期間(60日)において、米国通商代表部(USTR)はITC判断を覆さない(不承認にしない)と表明しました。これにより、輸入差止の効力が維持される流れが固まりました。(United States Trade Representative)
  2. 税関当局(CBP)による「輸入差止の執行判断」
    ITCの命令は、実際の水際での運用は米国税関・国境警備局(CBP)が担います。そこで、当該命令の対象に該当するか否かが「税関判断」として争点化します。(Reuters)

今回ビジネス上のインパクトが大きいのは、まさに2番目です。製品の作り方(どこで何を計算し、どこで結果を表示するか)により、水際での扱いが変わり得ることが示唆されたからです。(Apple)


時系列で理解する:境界線が動いたポイント

時期出来事ビジネス上の意味
2023年10月ITCが限定的輸入差止命令などを発出(血中酸素機能のあるウェアラブル等)特許紛争が「輸入そのもの」を止め得る領域へ(アメリカ合衆国国際貿易委員会)
2023年12月USTRが不承認(覆す)を行わないと表明輸入差止が実運用へ(United States Trade Representative)
2024年〜米国向けモデルでは血中酸素機能が停止される動き機能のオンオフが市場対応手段に(ただし顧客体験に影響)(AP News)
2025年8月14日Appleが「再設計版Blood Oxygen」を公表。Watchで測定し、iPhoneで計算し、ヘルスケアアプリで表示。税関判断で可能に機能の分散設計が水際リスクを左右し得る(Apple)
2025年8月MasimoがCBPを提訴し、税関判断の無効化などを求める水際判断自体が訴訟対象に(Reuters)
2025年11月ITCが再設計版の扱いを改めて検討する新手続を開始境界線が確定せず、再び輸入差止が拡大する可能性(Reuters)
2025年12月連邦地裁がMasimo側の差止(TRO・仮差止)申立てを退けたと報じられる短期的には輸入継続。ただし本案とITCは別軸で残る(news.bloomberglaw.com)

今回の「境界線」の核心:医療用モニターはハードで決まらない

今回の示唆は、単純に「スマートウォッチは民生品、医療用モニターは医療機器」という二分法が崩れている点にあります。

  • Appleは再設計版について、計算と表示をiPhone側に移し、結果はiPhoneのヘルスケアアプリ(呼吸器関連の表示セクション)で見られると説明しています。(Apple)
  • つまり「測定センサーを腕に付ける」ことと「医療的意味を持つ数値として算出し、ユーザーに提示する」ことが別デバイスに分割されました。(Apple)

これがなぜ境界線の話になるか。
輸入差止の実務では「輸入される物が、命令の対象かどうか」が問われます。再設計により、輸入時点でのWatch単体が命令対象から外れる余地が生まれた、と理解されているのが今回の騒動です。(Reuters)

しかし、2025年11月にITCが新手続を開始したこと自体が「結論がまだ揺れている」ことを示します。ITCは、再設計版が従来命令の射程に入るかを改めて検討する方向へ動きました。(Reuters)


MasimoがCBPを提訴した理由:争点は「手続」と「実質」

Reutersによると、MasimoはCBPの判断が輸入差止命令を弱めると主張し、CBPに対して訴訟を提起しました。Masimo側は、CBPが従前の判断を適切な通知なく変更したなどと訴え、当該判断の差し止めを求めています。(Reuters)

ここで重要なのは、相手がAppleだけでなく「税関当局」である点です。
ビジネス的には、次の現象を意味します。

  • 製品の設計変更を巡り、民間同士の特許訴訟だけでなく、行政手続の適法性(行政訴訟)に争点が広がる
  • 「水際で通るかどうか」が、単なる解釈問題ではなく、訴訟リスクとして長期化しうる

この構図は、医療領域に隣接する機能を持つ民生デバイス全般に波及し得ます。(Reuters)


裁判所の動きと、短期的な落ち着き

2025年12月には、Masimoが求めた一時的な差止(TRO・仮差止)について、連邦地裁が認めなかったと報じられています。これにより、短期的には輸入継続の公算が高い状態が続いています。(news.bloomberglaw.com)

ただし、これは「最終的にどちらが勝つか」とは別問題です。
ITC側の新手続が動いている以上、企業としては「一度通った設計が、半年後も通る」とは言い切れません。(Reuters)


規制(FDA)面の境界線も動いている

ここで混同しがちなのが「FDAの医療機器規制」と「特許と輸入差止」の軸です。別軸として理解した方が安全です。

  • Apple自身、Blood Oxygenの測定について「医療用途を意図したものではなく、一般的なフィットネスとウェルネス目的」と説明しています。(Apple サポート)
  • そして2026年1月、FDAは「General Wellness: Policy for Low Risk Devices」というガイダンスを更新し、健康的生活の維持・促進に関する一定のソフトウェア機能が、疾病の診断・治療等と無関係であれば、法令上の医療機器の定義から外れることがある、という枠組みを改めて明確化しています。(U.S. Food and Drug Administration)
  • Reutersも、FDAが健康・フィットネス系ウェアラブルの規制を限定し、医療的な主張(例:医療グレードの血圧測定など)を行わない限り、情報提供型のツールを許容する方向を報じています。(Reuters)

ここから得られる実務的な結論はシンプルです。
規制上はウェルネス寄りに位置付けられても、特許と輸入差止の世界では「医療モニタリング技術」として争われ得ます。境界線は1本ではなく、複数の当局と制度の重なりで決まります。(Apple サポート)


ビジネスへの示唆:この事案が他業界にも刺さる理由

スマートウォッチ業界だけの話ではありません。特に、ヘルスケア寄り機能を持つIoTや家電、アプリ、B2Bデバイスにも共通する論点が含まれます。

  1. 機能分散アーキテクチャは、法務と貿易の論点になる
    今回の再設計は「どこで計算し、どこで結果を表示するか」を変えています。これは製品設計の話ですが、水際リスクを左右する可能性があることが示されました。(Apple)
  2. 民生機器でも、輸入差止で一気にサプライチェーンが止まる
    ITCの命令は、訴訟の勝ち負けだけでなく、特定モデルの輸入停止という形で事業インパクトを直撃します。これは関税率の問題よりも急激です。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)
  3. 争点が「機能のオンオフ」になると、顧客体験と説明責任が重くなる
    機能停止や表示先の変更は、同じ型番でも体験が変わることを意味します。アップデートや地域差がある場合、販売現場やカスタマーサポート、契約条項まで連動します。(Apple)
  4. 規制コンプライアンスとIPリスク評価を一体運用する必要がある
    FDAガイダンスの枠内に収める設計や表示をしても、特許紛争や輸入差止とは別で火が付く場合があります。社内の担当分断があるほど対応が遅れます。(U.S. Food and Drug Administration)
  5. 「医療」企業との競争領域に入った瞬間、相手の戦い方が変わる
    Masimoは医療モニタリング企業であり、争点が医療計測技術に絡むと、特許、ITC、税関手続、複数裁判地が同時進行になり得ます。事実として、この紛争は複数の場で動いています。(Reuters)

実務チェックリスト:製品企画と事業責任者が押さえるべきこと

社内で今すぐ点検できる観点を、実務寄りにまとめます。

  • 製品機能の分解表を作る
    センサー、アルゴリズム、表示、保存、共有、外部連携(医師との共有など)が、どのデバイスで動くかを明文化する。今回のように分散設計が争点化し得るため。(Apple)
  • 市場別の機能差とアップデート方針を契約・表示に落とし込む
    地域差や購入時期で機能が変わる可能性がある場合、販売条件とアフターサービスの説明責任を整理する。(Apple)
  • IPと貿易救済(ITC)を初期段階で横串評価する
    特許調査が訴訟回避だけでなく、輸入可否の事業継続性に直結する。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)
  • 規制上の主張(ウェルネスか、医療か)をマーケと法務で統一する
    FDAの枠組みを意識しつつ、医療的な主張の一線を越えない表現設計にする。(U.S. Food and Drug Administration)
  • 水際で止まった場合の代替案を事前に用意する
    モデル切替、ソフトウェア機能の限定、在庫・販路の切替などのシナリオを準備する。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

今後の見通し:2026年前半の注目点

2026年1月時点で、注視すべきは次の3点です。

  • ITCの新手続の行方
    再設計版が輸入差止の射程に入るかどうかは、ビジネス上の不確実性の源泉です。目標は約6か月とされています。(Reuters)
  • CBP判断を巡る訴訟の進展
    短期の差止が退けられたとしても、本案で判断枠組みが変われば、再び水際運用が動く可能性があります。(news.bloomberglaw.com)
  • 規制面では、ウェルネス枠の拡大と「医療的主張」への監視の両立
    FDAは低リスク領域を明確化する一方、医療グレードをうたう主張には警戒を示しています。製品の言い方が市場アクセスを左右します。(U.S. Food and Drug Administration)

まとめ

今回の一連の動きが教えるのは、ウェアラブルの健康機能が進化すると「医療」と「民生」の線引きが、規制だけでなく、特許と貿易救済、そして税関の水際運用で決まっていくという現実です。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

ビジネス側に必要なのは、機能の設計、法務、規制、貿易実務を分けて考えないことです。分散コンピューティングやソフトウェア更新が当たり前になった今、境界線は仕様書の中にあります。


EUのHS2028対応で実務が詰まるのはどこか

2028年1月1日、世界共通の品目分類であるHSはHS2028へ切り替わります。WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効し、発効までの準備期間に相関表の作成や解説書類の更新などを進める方針を明記しています。つまり、コード変更は確定事項であり、企業側は準備の先送りができません。 (World Customs Organization)

EU向けビジネスでは、この変更がEU独自の品目表であるCNと、関税措置や規制措置まで含むTARICに波及します。分類コードの変更は、単なる表の更新ではなく、関税額、輸入規制、統計申告、社内マスタやERP連携まで直撃します。

この記事では、EUの官報とCN改正をどう監視すべきかを、ビジネスマン向けに実務目線で深掘りします。

まず押さえるべき構造

HSとCNとTARICの関係

CNは、EUの共通関税率と貿易統計の要件を満たすための品目分類で、WCOのHSを土台にEU独自の細分を加えたものです。EU委員会の説明でも、CNはHSの発展形であり、EU向けの品目分類として使われることが示されています。 (Taxation and Customs Union)

実務上は、次のように理解すると整理が早いです。

  1. HSは世界共通の6桁
  2. CNはEUの8桁
  3. TARICはEUの統合関税データベースで、関税措置や規制措置まで含めて運用される

CN改正は毎年起きる

EUでは、CNの最新版本が毎年更新され、EU官報のLシリーズで委員会実施規則として公表されます。EU委員会は、CNが毎年更新され官報で公表されること、そしてそれが事業者と税関にとって重要な作業ツールであることを明記しています。 (Taxation and Customs Union)

さらに、EUR-Lexの要約情報では、毎年のCNと共通関税率の完全版を再現する規則が採択され、官報で遅くとも10月31日までに公表され、翌年1月1日から適用されると整理されています。 (EUR-Lex)

この毎年10月末という節目を知っているかどうかで、監視体制の設計が大きく変わります。

TARICは日次で動く

TARICはEUの統合関税データベースで、EUの関税、商業、農業関連の措置を統合して提供する仕組みです。EU委員会は、TARICデータが電子ネットワークで日次送信され、加盟国の税関システムに反映されることで、即時かつ正確な情報提供が担保されると説明しています。 (Taxation and Customs Union)

また、TARICのデータ抽出に関するEU側の説明資料では、TARICのデイリー更新と照会サイトが、原則として欧州委員会の稼働日の月曜から金曜に、夜7時以降に日次更新される旨が示されています。

結論として、年1回のCN改正だけを追うと、途中で変わる規制措置や追加コードの変更を見落としやすいという構造があります。

HS2028がEUにどう入ってくるか

EUはHS条約の枠組みで改正を受け入れた場合、締約当事者として自らの関税統計品目表を改正HSに整合させる必要があります。EU委員会が2025年に公表した文書でも、受諾されたHS改正は国際法上拘束力を持ち、EU法では規則2658/87の付属書Iに取り込まれる、と明確に述べられています。

このため、HS2028は2028年1月1日の発効に合わせて、EUでもCNとTARICに反映される方向で動くと読むのが自然です。

官報とCN改正の監視点

ここからが本題です。監視点は、いつ、どこを、何の観点で見るかに分解すると実務に落ちます。

監視点1 官報で何を拾うべきか

EU官報は、改正の確定情報が出る場所です。特に見るべきはLシリーズの規則です。

見る対象の優先順位は次の通りです。

  1. 翌年版CNを確定する委員会実施規則
  2. 年途中に品目表や関連付属書に影響を与える実施規則
  3. TARIC上の措置変更につながる規制や実施規則

例えば、2026年版CNは2025年10月31日に官報で公表され、2026年1月1日から適用されています。こうした年次改正の型を知っておくと、HS2028対応年の動きも読みやすくなります。 (Taxation and Customs Union)

加えて、EUR-Lexの各規則ページには、メール通知やRSS通知の作成機能が用意されています。官報を目視で追うだけでなく、通知を前提にした監視設計にするのが現実的です。 (EUR-Lex)

実務で効く検索軸は、規則のタイトルや本文に頻出する定型句です。
例としては、規則2658/87付属書Iの改正、CN、Common Customs Tariff、amending Annex I といった要素が核になります。

監視点2 CN改正で確認すべき論点

CN改正を見たときに、単にコードが変わったかだけを見ると危険です。見るべきは、ビジネス影響に直結する変更パターンです。

  1. 分割と統合
    1つのコードが複数に分割されたり、逆に統合されると、社内の商品マスタや取引条件、原産地管理の前提が崩れます。
  2. 品目文言の変化
    文言の追加や削除は、分類判断の境界が変わったサインです。
  3. 追加注記や脚注、補助単位
    統計単位や補助単位の変更は、申告システムや帳票の仕様に響きます。EU委員会もCNには脚注や補助単位などが含まれると説明しています。 (Taxation and Customs Union)
  4. 関税率の変化
    WTO約束税率の変更や自律関税の調整が絡むと、損益に直結します。

ここで重要なのは、CNの8桁だけを見て終わらせないことです。輸入の現場ではTARICのコード体系や措置条件のほうが実際の通関可否を左右します。

監視点3 TARICの監視は日次前提で設計する

規制対応やコストに直撃するのは、年次改正よりも、日々変わる措置です。TARICは日次送信され加盟国側で運用される仕組みであるため、監視間隔は商品カテゴリにより最適化すべきです。 (Taxation and Customs Union)

特に次に該当する場合、日次に近い監視が現実的です。

  1. 貿易救済、制裁、輸入許可、証明書などの措置に触れる品目
  2. 自社の主力売上や原価に関係する関税額が大きい品目
  3. 短納期で止められない物流を抱える品目

TARIC照会サイトの更新タイミングが夜7時以降とされている点も踏まえ、社内のデータ更新ジョブやチェックの時間帯を設計すると、無駄な差分や当日反映漏れを減らせます。

HS2028対応で企業が実際に詰まりやすいポイント

ここは現場でよく起きます。

  1. 商品マスタと申告コードの不一致
    営業や調達は旧コードで動き、通関は新コードを要求される。結果として荷物が止まる。
  2. 原産地管理や協定適用の判定ロジックが崩れる
    品目コードをキーにしている場合、マッピングが遅れると適用可否の判断が止まります。
  3. 調達契約の通関費用条項が古い前提のまま
    関税負担の帰属や価格改定条項が想定どおりに働かなくなります。
  4. 外部委託先任せで、社内の意思決定が遅れる
    通関業者やフォワーダーは手続きはしてくれますが、分類やリスク判断の最終責任は原則として事業者側に残ります。

監視を仕組みに落とす 失敗しない運用モデル

おすすめは、官報とTARICを分けて考え、二層で監視する方法です。

層A 官報ベースの確定情報監視

目的は、年次CN改正とHS2028反映の確定情報を最速で拾うことです。
運用例

  1. EUR-Lexで規則2658/87付属書I改正に関する規則ページの通知を設定する
  2. 10月は監視頻度を上げ、翌年版CN公表のタイミングに備える
  3. 公表後は社内影響評価の締切日を決め、更新を滞留させない

CNが毎年更新され官報で公表される点、そして翌年版が10月末までに公表される点は、監視カレンダーを固定する根拠になります。 (Taxation and Customs Union)

層B TARICベースの実務影響監視

目的は、当日の措置を見落として通関を止めないことです。
運用例

  1. 自社の重点コードをリスト化し、TARIC上で措置条件の差分を確認する
  2. 規制品や高リスク品は日次、その他は週次などで監視間隔を変える
  3. データ更新時間帯を考慮し、夜間更新後にチェックする

TARICが日次送信されること、照会サイトが日次更新されることは、運用設計の根拠になります。 (Taxation and Customs Union)

2026年から2028年1月までの実務ロードマップ

2026年1月時点で残り2年です。今からやるべきことを、優先度順に並べます。

  1. 影響範囲の棚卸し
    輸出入、三国間取引、EU域内統計、関税コスト、規制対象を、コード単位で見える化する。
  2. マッピングの準備
    現行HSやCNからHS2028や将来CNへの対応表を作る前提を置く。WCOが相関表作成を進める方針であるため、公開後にすぐ取り込める体制にしておく。 (World Customs Organization)
  3. 監視の自動化
    官報は通知、TARICは差分監視を基本にする。
  4. システム改修の段取り
    ERP、通関連携、品目マスタ、帳票、BIの集計キーをコード変更に耐えられる形にする。
  5. 2027年10月の山場に備える
    翌年版CNが10月末までに公表される型があるため、2027年10月に社内切替準備が集中する可能性を前提に、リソースと締切を先に確保する。 (EUR-Lex)

まとめ

HS2028は2028年1月1日に発効し、企業側には準備期間が残されています。 (World Customs Organization)
EU向け実務では、年1回のCN改正を官報で確実に拾うことと、日次で動くTARICの措置変更を取りこぼさないことが両輪です。 (Taxation and Customs Union)

この二層監視を、通知と差分監視を前提に仕組み化できれば、HS2028対応は焦りやすい年末プロジェクトではなく、通常業務として吸収できます。

免責
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別案件の分類判断や通関可否、契約条件の見直しは、社内の責任者や専門家とあわせて確認してください。

韓国と中国:HS2028国内適用の現状と発表動向(2026年1月時点)

はじめに

2028年1月1日、世界共通の商品分類体系であるHS(Harmonized System)は、第8版となる「HS2028」に切り替わります。
WCO(世界税関機構)は、HS2028改正案が正式に採択されたことを公表し、今後2年間で相関表の整備、解説書の更新、各国での国内実装が進むことを明示しています。

韓国と中国は、日本企業の取引量やサプライチェーン依存度が高い相手国です。両国それぞれの国内コード体系と、公表の「癖」を理解しておくことが、HS2028対応プロジェクトの成否を左右します。


1. HS2028で何が変わるのか:ビジネスが先に見るべき改正テーマ

HS2028は、299件の改正セットから構成され、見出し(heading)および号(subheading)レベルで多数の新設・削除が行われます。
WCOは、次のようなテーマを主要ポイントとして挙げています。

  • 公衆衛生・保健危機対応
    救急関連機器、PPE(個人防護具)、人工呼吸器、診断機器、ワクチンなどについて、より細分化されたコードを設定。
  • ワクチン分類の再編
    さまざまな感染症別に分類を整理し、統計・政策立案での可視性を向上。
  • サプリメント(栄養補助食品)の新設・再構成。
  • プラスチック廃棄物・使い捨てプラスチック関連の分類見直し
    バーゼル条約等との整合を図り、廃棄物・環境関連規制とのリンクを明確化。

この種の改正は、「関税率そのもの」よりも、次のような領域に波及しやすい点が実務上の要注意ポイントです。

  • 許認可・検疫・化学物質・廃棄物関連の規制要件
  • 統計コードの再編
  • 原産地規則(品目別規則やCTC判定の前提となるHSコード)

2. 韓国:国内適用のルートと、現時点で見える動き

2.1 国内実装の基本ライン

韓国のHS改正対応では、概ね次の三つがセットで動きます。

  • 関税率表(関税法別表等)
  • HSK(韓国の関税・統計統合品目番号、一般に10桁)
  • HS解説書や運用基準(韓国関税庁が公表する解釈ツール)

前回HS2022では、韓国はHS協約改正に合わせて、関税率表、HSK(企画財政部の告示)、HS解説書(関税庁の告示)を改正し、2022年1月1日から適用しました。
この前例から、HS2028でも同様の立て付け(関税率表+HSK+解説書の三点セット)で国内実装が進む可能性が高いと考えられます。

2.2 現時点(2026年1月)の公表状況

2026年1月時点で、韓国関税庁は、WCOの会合でHS2028に伴う解説書改正が議論されたこと、とりわけワクチン関連の新設を踏まえた分類明確化について各国が意見交換したことを公表しています。
これは、韓国側が少なくとも「解説書・運用解釈の整備フェーズ」に入りつつあることを示す一次情報といえます。

一方で、HS2028版HSK(国内10桁コード体系)や改正関税率表の具体的な案・最終版は、2026年1月時点ではまだ「山場前」と見るのが自然です。前回HS2022でも、実際の告示や対照表は施行前年に集中して公表されました。

2.3 韓国の発表を追うときの実務的な「当たり先」

韓国でHS2028関連情報を追う際の主な入口は次の通りです。

  • 韓国関税庁(Korea Customs Service)の公式発表
    報道資料、行政予告、告示などが掲載される。
  • CLIP(関税法令情報ポータル)
    • HS比較:国別・年次の関税率表を並べて参照するための機能。
    • HS解説書検索:WCO版解説書へのアクセス窓口。
    • HS協約改正資料:HS改正関連の公式資料。

2026年の段階では、「どのタイプの情報がどのサイトから出るか」を整理しておき、2027年以降の告示ラッシュに備えてウォッチ体制を整えるのが現実的です。


3. 中国:国内適用のルートと、コード体系の注意点

3.1 関税税則と申告コードの構造

中国では、HS改正は主に次の二本立てで国内反映されます。

  • 関税税則(進出口税則):税率・基本統計コード(8桁)を規定。
  • 申告コード(海关商品编号):通関実務で使用される拡張桁を含むコード。

通関現場では、申告コードが最大13桁で運用されることがあり、一般的な構造は次のように説明されています。

  • 1〜8桁:税則・統計上の基本コード(HSベース)
  • 9〜10桁:監管附加(規制・税制上の追加番号)
  • 11〜13桁:検験検疫関連の附加番号(CIQコードなど)

この構造は、HS2028で6桁・8桁レベルの改正が行われた場合、後段の監管・検疫関連桁も連動して変更され得ることを意味します。
ERPや品目マスタが「8桁/10桁のみ」で固定されている場合、移行期に申告用コードとの間で齟齬やデータ欠損が発生しやすいため注意が必要です。

3.2 前回HS2022の対応と、HS2028への含意

前回HS2022では、中国はHS改正の国内反映に向けて、海关总署公告(2021年第78号)によりHS2022対応の修正目録(中文版)を公表したと報告されています。
これに合わせて、進出口税則および関連通達が改正され、2022年1月1日から適用されました。

この前例から、HS2028でも以下のような流れになる可能性が高いと考えられます。

  • 海关总署(GACC)公告で、HS2028対応の修正目録・申告コードルールを公表。
  • 税則委員会(関税税則委員会)関連の公表で、年次の関税調整・税目修正を告知。

3.3 中国の発表を追うときの実務的な「当たり先」

中国でHS2028関連情報を追う際の主な入口は次の通りです。

  • 海关总署(GACC)公式サイト
    公告、政策法規、通関関連通知。
  • 税則委員会(関税税則委員会)
    年次の関税調整・税目修正に関する公表。
  • 地方税関の公式Q&A・ガイド
    実際の申告要件やコードの桁運用、ローカルな解釈が出ることがある。

申告コードの多桁構造が移行時の落とし穴になりやすいため、「どの桁まで社内マスタに持つか」「どの桁をどの部門がメンテナンスするか」をあらかじめ決めておくことが重要です。


4. 発表動向の読み方:いつ情報が揃い始めるか

WCOは、HS2028改正の採択後、「残り2年の期間で相関表の整備や解説書更新を進め、2028年1月1日の発効に備える」と説明しています。
HS2022のときの各国の動き(施行前年に公告・告示が集中しやすい)も踏まえると、企業側の情報収集は次の三段階で設計するのが現実的です。

  • 2026年:
    WCOの一次情報(改正内容・相関表)と、韓国・中国それぞれの「準備着手サイン」(会合報告、研究報告、制度改正の予告的資料)を押さえるフェーズ。
  • 2027年:
    各国の国内コード案、対照表、運用通知が本格的に出始めるタイミング。告示や公告のウォッチを強化し、社内マスタの「新旧対照」設計に着手するフェーズ。
  • 2028年:
    施行直後の現場運用(申告却下の理由、追加情報要求、検査指示の傾向など)をフィードバックし、社内ルール・マスタを微修正するフェーズ。

5. 企業が今すぐ着手すべき実務チェックリスト(韓国・中国共通)

5.1 品目マスタの棚卸し

  • 現在、韓国ではHSK10桁、中国では8桁・10桁・13桁のどこまでを社内マスタで管理しているのかを確認する。
  • 桁数と採番ルール(例:8桁までをグローバル共通、以降は国別拡張など)を明確化し、将来のHS2028対応時に一括変換できる構造にしておく。

5.2 影響が出やすい領域から先に当てる

WCOがHS2028で大きく見直すと明示している領域(ワクチン、医療機器、サプリメント、プラスチック廃棄物・使い捨てプラスチック関連など)は、取扱量が少なくても規制要件に直撃しやすい分野です。
これらの商材を扱う場合は、優先順位を高く設定し、早期にHS2028のコード候補を検討しておくとリスクを抑えられます。

5.3 二重コード運用の設計

2027年以降、WCOおよび各国から相関表や国内コード案が揃い始めた段階で、社内マスタに「現行版コード」と「HS2028想定コード」を併記できる構造に移行することが望ましいです。
WCOの相関表が正式に出たタイミングで、即座に本番コードを差し替えられるよう、情報項目やテーブル設計を前もって決めておくとスムーズです。

5.4 原産地規則・許認可・検疫の横串チェック

HSコードの変更は、単なる関税分類だけでなく、次のような領域に横串で影響します。

  • 原産地規則(品目別規則・CTC判定の前提HS)
  • 輸入規制(ライセンス・承認制度)
  • 検疫・化学物質・廃棄物規制の対象判定

とくに中国では、申告コードの後段桁(監管附加、CIQ)に規制要件がぶら下がる構造になっているため、HS2028移行時は「基本コード+附加コードのセット」で見直す必要があります。


6. まとめ

  • HS2028は2028年1月1日に発効予定であり、WCOは改正案の採択を行い、2026~2027年を各国の準備フェーズと位置づけています。
  • 韓国は、少なくともHS解説書改正の議論に参加していることが公表されており、今後HSKや関税率表の改正情報が、どの経路(告示・報道資料・CLIP等)で出るかを押さえておく段階にあります。
  • 中国は、申告コードが多桁構造であること自体が移行時のリスク要因になり得るため、海关总署公告と年次税則改定をセットで追いながら、「どの桁まで社内で持つか」を含めて設計することが重要です。

必要であれば、貴社の主要品目(上位20〜50品目)を前提に、韓国HSKと中国申告コードの「移行監視リスト」(どのサイトをいつ見るか、誰が担当するか)まで落とし込んだ運用表のたたき台も作成できます。

WCOが公開したHS2028の新設コード技術解説とは何か

新設コード一覧の読み方と、企業が今すぐやるべき実務

2026年1月、WCOはHS2028改正に関する情報発信を本格化させ、改正の全体像とともに、特定分野の新設コードについて技術的な解説を公開しています。ポイントは、HS2028の新設コード一覧が「番号の追加」ではなく、規制運用と統計精度を変える設計図になっていることです。読み方を誤ると、2028年の切替時点で通関だけでなく、原産地判定、輸出入規制、社内マスタ、価格設計まで連鎖的に影響します。 (世界税関機構)

この記事では、WCOが公開した一次情報を軸に、新設コード一覧の技術解説が何を意味するのか、そして企業がどう使うべきかを、ビジネスマン向けに整理します。


1. まず前提:HS2028は何がどれだけ変わるのか

WCOは、HS2028改正が299セットの改正で構成されること、HS2022比で新設が「見出し6件、号428件」、削除が「見出し5件、号172件」であることを明示しています。発効は2028年1月1日で、残り約2年の実装期間に相関表の整備やツール更新が進む、という整理です。 (世界税関機構)

ここから読み取るべきは次の2点です。

1つ目は、企業が影響を受けるのは8桁や10桁だけではなく、土台である6桁の構造が動くことです。
2つ目は、相関表の完成を待って着手すると遅いということです。WCOが公開する技術解説は、相関表が出る前に、影響を受ける領域と論点を先読みするための材料になります。 (世界税関機構)


2. 新設コード一覧は、なぜ企業リスクに直結するのか

新設コードは、次のどれかの目的で作られます。

・国際的な規制や取締りで識別が必要になった
・統計の粒度が足りず、政策判断や需給分析に使えない
・現場の分類が割れ、法的安定性が低い

HSは「関税番号」ですが、現実には許認可、輸入規制、輸出管理、環境規制、統計、サプライチェーン可視化の共通言語です。WCOの技術解説は、新設コードがどの目的に紐づくのか、どんな条件でそのコードに落ちるのかを説明します。つまり、単なる新番号ではなく、将来の検証ポイントが文章化された資料です。 (世界税関機構)


3. 技術解説の深掘り:WCOが示した新設コードの具体像

ここでは、WCOが公開した技術解説のうち、企業実務への波及が大きい代表例を取り上げます。結論から言うと、HS2028は「環境」と「健康」の領域で、分類判断に必要なデータ項目が増えます。

3-1 プラスチック廃棄物:バーゼル条約に合わせて39.15を再構成

WCOは、プラスチック廃棄物の国際移動を巡る課題として、違法投棄や不適切処理のリスクを挙げ、バーゼル条約のプラスチック廃棄物改正に合わせてHS2028で39.15を再構成したと説明しています。 (世界税関機構)

技術解説で重要なのは、どのコードに落ちるかが「樹脂の種類」だけでなく「混合の有無」「汚染や有害性」「条約上の管理区分」によって左右される、という設計になっている点です。WCOは、危険なプラスチック廃棄物を識別する新設号や、一定条件を満たす再資源化向けの廃棄物を識別する号群などを具体的に示しています。 (世界税関機構)

企業側の実務論点は明確です。

・廃棄物やスクラップを扱う企業は、品名だけでは申告できない
・ポリマー種別、混合の有無、汚染度合い、用途(リサイクル目的)などの属性情報が必要になる
・輸出入や委託処理の契約条件に、分類根拠となるデータ提供義務を入れないと、通関遅延や差止めが起きる

これはリサイクル業だけの話ではありません。製造業でも、戻り材、端材、スクラップ、副産物を国境越えで動かす企業は直撃します。

3-2 プラスチック製品:単回使用という概念を法的に定義し、個別コードへ落とす

WCOは、プラスチック汚染に関する国際的議論を踏まえ、HS2028で「単回使用」の概念を定義し、プラスチック関連の複数品目で新設号を設けたと説明しています。 (世界税関機構)

ここがビジネス上の地雷です。単回使用かどうかが分類の分岐条件になると、製品設計と販売形態が分類に影響します。WCOは単回使用を「通常1回の使用で廃棄またはリサイクルされ、反復的または長期の使用を目的としない」ものとして定義しています。 (世界税関機構)

この定義が入ることで、企業は次の対応が必要になります。

・同じ見た目でも、単回使用か再使用かでコードが分かれる可能性がある
・営業資料や仕様書に、反復使用を前提とする設計根拠がないと、単回使用扱いで分類されやすい
・海外子会社や委託先で、説明の粒度が落ちると分類がブレる

WCOは例として、単回使用ストロー、包装容器、キャップ類、台所用品、手袋、プラスチック製帽子類などで新設号が導入されたことを挙げています。 (世界税関機構)

さらにWCOは、環境上注目されるポリマー(一次形状)や、特定の発泡ポリスチレン製品などにも新設号を設けたことを示しています。これにより、素材の種類が統計や規制運用に直結しやすくなります。 (世界税関機構)

3-3 ワクチン:30.02から分離し、30.07と30.08を新設して粒度を上げる

WCOは、HS2022ではワクチンが人用と動物用の大枠しかなく、国際貿易フローや政策対応に必要な粒度が不足していたと指摘し、HS2028でワクチン体系を再編したと説明しています。具体的には、人用ワクチンを30.07に、その他(獣医用等)を30.08に分け、疾病ベース等で細分化した構造にしています。 (世界税関機構)

医薬品企業だけでなく、コールドチェーン機材、医療機器、緊急時物資など、ヘルスケア周辺産業にも影響が及びます。理由は単純で、分類粒度が上がるほど、輸入国での規制運用や統計モニタリングが強くなるからです。 (世界税関機構)


4. 企業へのインパクト:通関だけで終わらない連鎖

新設コードは、次の領域で連鎖します。

  1. 関税コスト
    6桁が動けば、各国の8桁や10桁の枝番も再設計され、税率や特恵の適用可否が変わり得ます。 (世界税関機構)
  2. EPA・FTAの原産地判定
    品目別規則はHSベースです。6桁の再編は、PSRや関税譲許表の移行に波及し、移行期に照合ミスが起こりやすくなります。(世界税関機構)
  3. 輸出入規制とコンプライアンス
    プラスチック廃棄物のように、国際条約や環境規制と結びつく新設コードは、検査や許可、手続の厳格化とセットで動きます。 (世界税関機構)
  4. 社内マスタとデータガバナンス
    単回使用かどうか、ポリマー種別、混合や汚染など、従来は任意だった属性が、分類根拠として必須に近づきます。設計部門、調達、品質保証、通関が同じデータを共有できない企業ほど事故ります。 (世界税関機構)

5. 今すぐ実装に落とすための、実務手順

相関表が出るまで待たず、WCOの技術解説を使って前倒しで準備するのが合理的です。

ステップ1 影響品目の棚卸しを「新設コード起点」でやる

自社のHSリストから出発すると漏れます。新設コードのテーマ領域(環境、健康、食品と医薬の境界など)から逆算して、自社の製品・原材料・副産物を当てに行くのが早いです。 (世界税関機構)

ステップ2 分類根拠に必要な属性を、設計と調達に要求仕様として渡す

単回使用の定義が入った以上、製品の仕様書に「反復使用の設計意図」や「材質」を書かないと分類の説明ができません。廃棄物なら、ポリマー組成や汚染の有無をサプライヤー証明に落とす必要が出ます。 (世界税関機構)

ステップ3 2028切替はデュアル運用を前提にする

WCO自身が実装期間中に各国の法改正、IT更新、教育が必要だと述べています。企業側も、HS2022とHS2028を併記できるマスタ、社内照会フロー、申告データの変換ロジックを準備しておくのが安全です。 (世界税関機構)


6. 1枚で分かるチェックリスト

  1. 自社の品目群に、プラスチック廃棄物、単回使用製品、医療・ワクチン関連が含まれるか
  2. それらの品目で、材質や用途の属性が社内で統一されているか
  3. 単回使用と再使用の境界を、設計仕様で説明できるか (世界税関機構)
  4. 廃棄物・スクラップのポリマー種別、混合、汚染の情報を入手できるか (世界税関機構)
  5. 海外拠点や委託先と、分類根拠のテンプレートを共有しているか
  6. HS2022とHS2028を併記できるマスタ構造になっているか (世界税関機構)
  7. 規制や許認可の対象品目が、新設コードで拡大し得る前提で監視しているか
  8. 見積と価格条項に、HS変更リスクを織り込む運用があるか
  9. 原産地判定やPSRの照合で、HS移行期の例外処理を設計しているか
  10. 2027年中にテスト申告や社内リハーサルを回す計画があるか

まとめ

WCOの技術解説は、新設コード一覧を「実務で使える形」に翻訳したものです。HS2028は299セットの改正で、新設号だけでも数百規模に及びます。だからこそ、まずはWCOが技術解説で取り上げた分野から、影響と必要データを前倒しで整備するのが、最短で確実な対応になります。 (世界税関機構)

HSコードの「ドシエ」とは何か?通関の答え合わせではなく、経営のリスク管理である

輸出入の現場では、HSコードを決める作業が「通関担当者だけの仕事」と見なされがちです。しかし実際には、HSコードは関税コスト、EPA/FTAの適用可否、輸入規制、統計、さらには社内マスタの整合性まで、あらゆるビジネスプロセスに連鎖します。

そこで今、先進的な企業が取り入れているのが「HSコードのドシエ(Dossier)」という考え方です。本稿では、ドシエの重要性と、ビジネスマンがとるべき対応を実務視点で解説します。


1. HSコードにおける「ドシエ」の定義

ドシエとは、ある品目を特定のHSコードで申告することについて、「なぜその番号なのか」を合理的に説明できる根拠一式をまとめた証拠ファイルです。

英語では Classification DossierClassification Rationale File と呼ばれます。

ポイント:ドシエは単なる「番号のメモ」ではない

判断のプロセスと証拠を残す「仕組み」です。税関の事後調査や監査が入った際、第三者が納得できる形で説明できることを目的とします。


2. なぜ今、ドシエが必要なのか?

属人的な運用(「あの人が決めたから大丈夫」)には限界があります。以下のリスクを回避するために、ドシエによる組織的な管理が不可欠です。

  • 製品の高度化・複合化: センサー付部品やソフトウェア搭載機器など、分類の判断が分かれやすい製品が増えている。
  • サプライチェーンの分断: 設計は日本、製造は海外、通関は業者委託。情報が断片化し、分類の根拠が不明になりがち。
  • 税関のデータ分析力向上: 申告データがデジタル化され、同じ品目なのにコードが揺れていると、即座に照会の対象となる。
  • HS改正への対応: 数年ごとのHS改正や各国独自の細分改訂に対し、個人の記憶だけで整合性を保つのは危険。

3. 「強いドシエ」を構成する5つの要素

監査や照会に耐えうるドシエには、以下の情報が整理されている必要があります。

カテゴリ含まれるべき中身
A. 製品特定情報写真、図面、仕様書、カタログ、材質・組成、用途、機能の有無、変更履歴
B. 分類ロジック解釈通則の適用方針、参照した部類注・類注、候補から外した号とその理由
C. 外部根拠事前教示(Advance Ruling)、当局のガイダンス、他国での決定事例(EUのBTI等)
D. 運用情報適用税率、特恵適用の可否、他法令(許認可)の有無、統計品目番号
E. 統制・版管理作成・承認者、適用開始日、改訂理由(仕様変更やHS改正など)

4. 実務担当者が意識すべき「5つの論点」

ドシエを現場任せにせず、経営として機能させるための戦略的な視点です。

① 優先順位を決める(全品目を目指さない)

「支払関税額が大きい」「分類が難しい部品」「過去に指摘を受けた」など、リスクの高い品目から着手するのが現実解です。

② 情報の「所有権」を明確にする

分類は通関部門だけで完結しません。

  • 設計・品質管理: 製品の事実(Fact)を担保する。
  • 貿易担当: 分類ロジック(Logic)を構築する。最終的な説明責任は、外部業者ではなく自社にあります。

③ マスタデータと連動させる

ドシエはERP(基幹システム)や品目マスタの「裏付け」です。書類とシステム上のデータが一致していることが統制の基本です。

④ 変更管理のトリガーを定義する

「設計変更」「材料の変更」「ソフト更新による機能追加」があった際、自動的にドシエが再評価されるワークフローを構築します。

⑤ 事前教示を戦略的に使う

論点が大きい重要品目は、ドシエを土台にして税関の「事前教示」を取得し、公的なお墨付きを得ることでリスクをゼロに近づけます。


5. よくある失敗と回避策

  • 失敗:カタログだけで分類している
    • 対策: 仕様書や図面、用途限定の根拠をドシエに含める。
  • 失敗:結論(番号)しか書かれていない
    • 対策: 「なぜ他の号ではないのか」という消去法のプロセスを1行でも残す。
  • 失敗:サプライヤーの提示したHSを鵜呑みにする
    • 対策: サプライヤーの情報はあくまで参考。自社のロジックで再確認する。

まとめ:ドシエは「事業を守る資産」である

HSコードのドシエは、単なる通関書類ではありません。利益(過払い・追徴防止)、リードタイム(納期遅延防止)、そして企業の信頼を守るための経営資産です。

まずは重要品目から、**「1ページの最小ドシエ」**を作ることから始めてみてください。その運用が回り始めたとき、貴社の通関品質は劇的に安定するはずです。

HSCFで実現する「HSドシエ」の現在地:中身の生成と組織運用のギャップを整理する

これまでの仕様に基づくと、HSCFは**「HSドシエの核となる根拠を生成する機能」において非常に強力なポテンシャルを持っています。一方で、「社内統制(承認フロー・ERP連携等)」**については、今後の設計や外部システムとの連携が鍵となる領域です。

現在のHSCFがドシエの主要機能をどの程度カバーしているのか、一覧表で整理しました。

HSドシエ機能別のカバー範囲一覧

ドシエの機能ブロック具体的な実現内容HSCFの対応状況補足・今後の展望
1. 製品特定情報の収集仕様・用途・材質・構造の集約● カバー自然文、写真、図面等から属性を抽出。不足情報の自動質問機能あり。
2. 分類候補の提示候補コードの提示と確度比較● カバー複数候補のスコアリングと、比較検討の入口を提供。
3. 分類ロジックの説明選定理由・除外理由の文章化● カバー「なぜその号か」「なぜ他ではないか」の判断道筋を言語化。
4. 根拠ソースの提示通則、部類注・類注、WCO解説等の参照● カバーGIR(解釈通則)や各国ノート、WCO解説書等の紐付けを想定。
5. 証拠の添付・記録写真、仕様書、SDS等の保管● カバー分類レコードに各種ファイルを添付・記録可能。
6. 版管理・改正追随HS2022/2028等の版差分管理△ 一部カバー相関表による切替支援は想定。ただし社内承認・通知等の統制は未確定。
7. FTA/EPA観点の接続原産地規則(PSR)への展開△ 一部カバー相関表を用いた原産性チェック支援。ルールエンジンとの連携は要設計。
8. 関税・規制影響の整理税率、許認可、輸入規制のマッピング― 未確定関税率や他法令規制の自動紐付け機能は現時点では明示なし。
9. 承認フローと監査統制作成・承認、変更履歴、責任の明確化― 未確定ワークフロー機能や組織的な統制機能は現時点では明示なし。
10. ERP/PLM連携品目マスタとの同期、社内データ運用― 未確定基幹システムへの自動反映やコネクタ連携は現時点では明示なし。

HSCFの強み:ドシエの「コア(中身)」を作る力

要するに、HSCFはドシエにおける以下の「実務の核心部分」を高いレベルでカバーしています。

  1. 根拠を作る: 膨大なデータから最適なロジックを導き出す。
  2. 再現性のある説明文を作る: 属人性を排除した納得感のある推論を展開する。
  3. 証拠を紐づける: 根拠となる資料を分類結果と一体化させる。

これは、従来「ベテランの頭の中」にしかなかった暗黙知を、形式知化してドシエに落とし込む作業を劇的に効率化することを意味します。

今後の課題:ビジネス実装としての「ガバナンス」

一方で、ビジネスの仕組みとして完結させるために必要な「最後のピース」は、現時点では未確定の領域です。

  • 承認と改訂統制: 誰が承認し、いつから有効とするのかという運用フロー。
  • ERP品目マスタへの反映: 決定したコードをいかにミスなく基幹データへ同期するか。
  • 関税・規制情報の自動整理: 分類の結果、ビジネスにどのような実務的制約が生じるかの自動提示。

結論:HSCFをどう活用すべきか

あなたが想定しているドシエの定義が、「社外提出・監査に耐えうる完成品(要約+証拠+承認印)」であるなら、HSCFは「中身の自動生成と証拠収集のエキスパート」と言えます。

最終的な「社内統制」や「システム連携」までを仕組み化する場合、HSCFを中核に据えつつ、既存のワークフローシステムやERPとのAPI連携を設計していくのが、次なる開発・導入のステップになるでしょう。

HSCFチャレンジ!複雑な部材付番も「CTC対比表」なら一瞬で解決できるか?

こんにちは!HSコード付番ツール「HSCF」チームの嶋ですです。 先日、あるお客様から「実戦形式でのデモ」というエキサイティングな挑戦状をいただきました!

依頼内容は、「実際の商品を使い、部材のHSコード特定からFTA向けの年次変換までを一括で行うこと」

ここで活躍したのが、私たちの自信作である『CTC対比表』機能です。 通常、部材のHSコードを最新版から古い年次のFTA向けに一つひとつ照らし合わせるのは、まさに「苦行」。しかし、HSCFならこれらを自動で紐付け、一括で対比表を作成します。

材料のHSコードはそれぞれその確度を示しますので、情報不足で更なる調査をした方がいいかも分かります。

今回のデモで実証されたこと:

  1. 圧倒的な時短:手作業での調査時間を大幅に削減。
  2. ミスの排除:複雑な年次跨ぎの判定も、システムで正確に実行。
  3. 信頼の可視化:根拠が明確になることで、監査にも強いデータが完成。

「自社の商品でもできるのかな?」と思った皆様。ぜひ、貴社のデータでHSCFの実力を試してみませんか?無料デモンストレーションのお申し込みをお待ちしております!

★HSCF の仕組★ その1 AIモデル・セキュリティ・利用回数について

HSCFは、2026年1月現在、ChatGPTをAI基盤として活用しています。利用可能なモデルはGPT-5.2のThinkingまでです。

AIツールを使うとき、真っ先に頭をよぎるのが「入力したデータ、学習に使われちゃうんじゃないの?」という心配ですよね。

あなたが扱う図面や仕様書には、社外秘の情報がたくさん含まれているはず。それらを入力してHSコードを調べたとき、その機密情報が外部のサーバーに蓄積されて、いつの間にか学習データになっていたら……考えただけでゾッとします。「これ、本当に使って大丈夫なの?」そう思うのは当然です。

この不安を解消するため、HSCFではChatGPT Businessアカウントでの運用を前提にしています。

ChatGPT Businessって何が違うの?

  • 企業やチームが安全に使えるように設計された法人向けプラン
  • あなたの入出力データは学習に使われません(これが一番重要!)
  • 入力内容はサービス提供のために処理されますが、モデルの学習には回されない仕組み
  • 通信中も保存時も暗号化、SSO、MFAなど、「これがないと業務では使えないよね」という基本的なセキュリティ機能を完備

使い方のルール:

  • あなた専用の1人1アカウントを付与します
  • 「ちょっと貸して」のアカウント共用はNG。誰が何を入力したか追跡できる体制にしています
  • あなたは週に最大3,000回メッセージを送れます
  • 普通は「1回質問して→1回答が返ってくる」ので、質問と回答で1セットと考えてください

スムーズに進む場合:
「この商品のHSコードは?」と聞いて一発で答えが出れば、週3,000商品まで調べられる計算です。

ちょっと複雑な場合:
「この材質って何?」「用途をもう少し詳しく教えて」と追加のやり取りが必要になると、1商品あたり2〜3往復することも。その分、処理できる商品数は減ります。

でも、心配しないでください:
よほど大量に使わない限り、「あれ、もう上限?」と困ることはほとんどありません。普段の調査業務なら、上限を気にせず使えると考えて大丈夫です。