樹脂・接着剤・有機化学品:初期8桁ウォッチリストを深掘りする

樹脂や接着剤、有機化学品を扱うビジネスでは、HSコードは通関のための番号にとどまりません。関税・原産地ルール・貿易統計・品目別の需要動向・規制対応まで、意思決定の土台になります。特に化学系は、同じ「樹脂」でも一次形状か溶液か、単体か混合品か、コポリマーかブレンドかで、分類や税務・規制が変わりやすい領域です。(Tulli Tilastot)

そこで効くのが、8桁でのウォッチリスト運用です。粒度が粗すぎると異変検知が遅れ、細かすぎると運用が回りません。8桁は、調達・営業・経理・貿易管理が同じ表を見て会話しやすい「実務の最小単位」になりやすいのが利点です。(Tulli Tilastot)

まず押さえる前提:6桁が共通、8桁は国や地域で変わる

HSは国際的な品目分類で、基本の共通部分は6桁です。国や地域は、その後ろに桁を追加して、より細かい管理(関税率・統計・規制)を行います。

日本でも、輸出入の申告・統計で用いる品目番号はより細かい桁数になり、先頭6桁がHSに対応するという整理が案内されています。

欧州では、8桁のCombined Nomenclature(CN)が、輸出入申告や統計の基盤として使われ、毎年改正されます。(Tulli Tilastot)

この記事では、8桁の具体例としてCN 2026のコードをベースに「初期8桁ウォッチリスト」を提示します。自社の国別コードに合わせる場合は、同じ6桁を核にして、自社が使う8桁または9桁・10桁へマッピングする、という考え方で読んでください。(Tulli Tilastot)

初期8桁ウォッチリストを「おすすめ」する条件

初期版の目的は、完璧な網羅ではありません。最小の手間で、経営に効く変化を早く拾うことです。おすすめの作り方は次の順です。

  1. 支出額または売上額が大きい原料・商品を優先する
  2. 価格変動が大きいもの、供給制約が出やすいものを優先する
  3. 規制や用途制限が絡みやすいものを優先する
  4. 上流の有機化学品と下流の樹脂・接着剤を「連鎖」で持つ
    例:スチレンとPS、塩化ビニルとPVC、イソシアネートとPUなど

こうして作った初期リストを、四半期ごとに見直すだけでも、誤分類リスクと機会損失を同時に減らしやすくなります。HSの位置づけ自体が貿易実務の中核であることは、税関・行政・国際機関の説明でも一貫しています。

おすすめ:樹脂・接着剤・有機化学品の初期8桁ウォッチリスト(CN 2026例)

以下のコードと英語の元表記は、CN 2026の該当章(化学品:Chapter 29・35、樹脂:Chapter 39)を参照し、品目名は日本語に要約しています。(Tulli Tilastot)

1) 樹脂(一次形状中心、Chapter 39)

8桁コード品目(要約)ビジネス上のウォッチ観点
39011010線状ポリエチレン(比重0.94未満)フィルム・包材、LD/LLDの境界
39011090ポリエチレン(比重0.94未満、その他)汎用LDPE、グレード混在
39012090ポリエチレン(比重0.94以上、その他)HDPE、容器・パイプ向け
39013000エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)粘着・靴材、配合で用途差
39014000エチレンαオレフィン共重合体(比重0.94未満)LLD系、供給先切替の影響
39021000ポリプロピレン(PP)自動車・家電、指数連動が強い
39023000プロピレン共重合体衝撃強度系、用途で価格差
39031100発泡用ポリスチレン(EPS)建材・緩衝材、季節変動
39031900ポリスチレン(その他)GPPS/HIPS、原料スチレン連動
39032000SAN透明・耐薬品、代替材との競合
39033000ABS家電・車載、上流原料の影響大
39041000PVC(他物質と混合なし)VCM連動、規制と代替の影響
39042100PVC(非可塑化)建材中心、需要の地域差
39042200PVC(可塑化)可塑剤とセットで監視
39043000塩化ビニル酢酸ビニル共重合体接着・塗料向け、配合で揺れる
39061000PMMA光学・透明材、グレード差
39069090アクリル系ポリマー(その他)粘着・塗料、用途で誤分類注意
39073000エポキシ樹脂2液系、硬化剤とのセット輸入
39074000ポリカーボネート(PC)BPA連鎖、規制・代替材
39076100PET(粘度数78 ml/g以上)ボトル材寄り、規格管理
39076900PET(その他)繊維・フィルム等、用途で需給分岐
39077000ポリ乳酸(PLA)バイオ系、用途拡大で区分注意
39081000ポリアミド(PA)ナイロン、上流の連鎖が強い
39091000尿素樹脂・チオ尿素樹脂木材用接着など用途限定が多い
39092000メラミン樹脂住宅・家具、原料メラミン連動
39093100ポリメリックMDI(粗MDI)PU系、化学品側との境界
39094000フェノール樹脂耐熱、用途が明確で管理しやすい
39095090ポリウレタン(その他)反応性、溶剤含有で分岐しやすい
39100000シリコーン(一次形状)電子・自動車、規格多様
39111000石油樹脂など(粘着付与材)粘着剤配合の要、原料連動

主な根拠例として、ポリエチレンの比重による区分、PPやPS、PVC、アクリル、エポキシ、PC、PET、PA、PU、シリコーン等の該当8桁は、CN 2026のChapter 39に明記されています。(Tulli Tilastot)

2) 接着剤(Heading 3506)

8桁コード品目(要約)ビジネス上のウォッチ観点
35061000小分け販売の接着剤(正味1kg以下)包装形態で分岐、販促品混入に注意
35069110光学用途の透明接着(FPD等向け)用途限定、証憑と用途説明が重要
35069190ポリマー系またはゴム系の接着剤(その他)汎用接着の母集団、処方変更が頻発
35069900その他の接着剤どこにも当てはまらない残りを管理

ここは包装形態と用途が決定打になります。小分け販売かどうか、またポリマー系か、用途限定かでサブヘディングが分かれます。(Tulli Tilastot)

3) 上流の有機化学品(Chapter 29中心)

樹脂と接着剤の8桁を見ても、上流の変化が拾えないと「なぜ価格が動いたか」が説明できません。初期ウォッチリストでは、次のようなモノマー・中間体を樹脂とセットで持つのが実務的です。

8桁コード品目(要約)ひもづく下流の例
29012100エチレンPE、EVA等
29012200プロペン(プロピレン)PP等
29025000スチレンPS、ABS、SAN等
29032100塩化ビニル(クロロエチレン)PVC等
29053100エチレングリコールPET等
29053200プロピレングリコールPU、樹脂用途の原料群
29101000エチレンオキシド(オキシラン)界面活性・ポリエーテル連鎖
29102000プロピレンオキシドポリオール連鎖
29103000エピクロロヒドリンエポキシ樹脂連鎖
29161100アクリル酸・塩アクリル系樹脂・粘着の原料群
29161200アクリル酸エステルアクリル系樹脂・粘着の原料群
29291000イソシアネートPU、接着剤の反応系
29336100メラミンメラミン樹脂
29337100カプロラクタムPA(ナイロン)

これらの8桁コードは、CN 2026のChapter 29に掲載されています。(Tulli Tilastot)

深掘りで差が出るポイント:8桁を「経営に効く情報」に変える

ここからが本題です。8桁を並べるだけでは、コスト削減もリスク低減も起きません。深掘りの焦点を、分類の分岐点と、意思決定に直結する変数に寄せるのがコツです。

1. 樹脂は「コポリマー・ブレンド」の判定基準が命

同じ用途でも、ホモポリマーなのかコポリマーなのか、ブレンドなのかで、見かけ上の商材名は似ていても分類上の扱いが変わり得ます。Chapter 39の注記では、コポリマーの考え方や、どのモノマーが重量で優勢かで分類する原則が示されています。(Tulli Tilastot)

運用の要点は、MSDSと技術データシートにある「組成の重量比」と「ポリマー種」を、品目マスタに必ず持たせることです。営業資料だけで判断すると、後から配合が変わった時に気づけません。

2. PEは比重0.94が一つの分水嶺

ポリエチレンは比重の閾値(0.94)で区分されるため、同じ「PE」でも型番変更や添加剤で比重が跨ぐと、8桁が変わる可能性があります。CN 2026の該当箇所でも、比重0.94未満と0.94以上でサブヘディングが分かれています。(Tulli Tilastot)

購買・品質・貿易の連携ポイントは、比重の根拠を試験条件(温度など)まで揃えておくことです。

3. 一次形状か、溶液か:溶剤比率で章を跨ぐことがある

樹脂を溶剤に溶かした「溶液」は、溶剤の重量比など条件によって、別の品目に移ることがあります。Chapter 39の注記では、揮発性有機溶剤中の溶液で、溶剤の重量が一定割合を超える場合などの扱いが示されています。(Tulli Tilastot)

接着剤やコーティング材はここで事故が起きやすいので、インボイス表記だけでなく、溶剤比率と形態(一次形状か、塗料的なものか)をチェック項目に入れるのが安全です。

4. 接着剤は「小分け販売」と「用途限定」が最重要

Heading 3506では、正味重量1kg以下の小分け販売かどうか、またポリマー系接着剤か、光学用途のような用途限定かで8桁が分かれます。(Tulli Tilastot)

現場でよくある落とし穴は、同じ製品でも包装形態だけ変えて輸入するケースです。現物は同じでも、包装が変われば8桁が変わり得るので、調達条件(容器、容量、セット構成)を購買発注書と同じ粒度で管理しておく必要があります。

5. セット品・二液キットは「混ぜた後の製品」で見る発想が必要

硬化剤と樹脂がセットになった二液キットは、個別に見るのか、セットとして見るのかが実務の論点になります。Section VIの注記には、混合してある製品を得るためのセットの扱いが示されています。(Tulli Tilastot)

この手の品目は、サンプル提供や試作段階で梱包が変わりやすいので、試作品を含めて早めに貿易管理がレビューできる体制が重要です。

6. 上流の8桁を持つと、価格と供給の説明力が上がる

樹脂や接着剤の価格は、上流のモノマー・中間体に引っ張られます。たとえば、スチレン(29025000)とPS/ABS/SAN、塩化ビニル(29032100)とPVC、エチレングリコール(29053100)とPET、エピクロロヒドリン(29103000)とエポキシ、イソシアネート(29291000)とPUというように、8桁同士の連鎖で見ると、調達説明が一段ラクになります。(Tulli Tilastot)

初期版では「上流8桁を持つのは全品目のうち上位10から20だけ」と割り切っても十分効果があります。

7. 改正対応は「年次更新」と「定期改正」の二層で設計する

8桁は国や地域で毎年更新されることがあります。CNも年次で改正されるという整理が明確です。(Tulli Tilastot)
一方で、HSの枠組み自体も定期的に改正されます。

運用としては、次の二層が現実的です。

  1. 年次でのコード改正チェック(8桁レベル)
  2. HS改正タイミングの構造変化チェック(6桁レベル)

すぐ回る運用テンプレ:月次30分で回すやり方

最後に、ビジネス側が回せる運用形に落とします。

  1. オーナーを決める
    調達か貿易管理が主担当、品証と経理を巻き込み役にする
  2. ウォッチ対象を3層に分ける
    重点(毎月):支出上位と規制高リスク
    標準(四半期):主要樹脂と主要接着剤
    監視(半期):周辺原料・代替材
  3. 変更トリガーを決める
    新グレード採用、配合変更、溶剤比率変更、包装形態変更、用途変更
  4. 証憑の最小セットを固定する
    仕様書、MSDS、用途説明、写真(包装含む)
  5. 例外処理をルール化する
    分類が割れる品目は「判断の根拠」を必ず残す
    外部照会(通関業者・専門家)を使う場合も、社内の決裁条件を決めておく

まとめ

樹脂・接着剤・有機化学品は、8桁でウォッチする価値が高い領域です。理由は単純で、分類の分岐点が多く、上流の市況変化や規制変化が下流の事業に直撃するからです。HSは6桁が世界共通で、8桁は国や地域で細分化されるという前提に立ち、初期版は「少数精鋭で回す」ことをおすすめします。(Tulli Tilastot)

注:本記事は一般的な実務の整理であり、最終的な品目番号の確定は、製品仕様と当局の運用、個別の通関判断に依存します。社内の貿易管理規程や通関実務の専門家と合わせて運用してください。

EUによる医療AIの「モノ」対「データ」論争への回答。媒体別HSコード分類指針が示す課税の境界線

2026年2月2日、欧州連合(EU)は、急速に普及する医療用AIソフトウェアの貿易実務において、長年の懸案事項であったHSコード分類に関する新たな解釈指針を提示しました。

焦点となったのは、USBメモリやハードディスクなどの「物理媒体」に格納されて国境を越えるAIソフトウェアを、関税法上どう扱うかという問題です。これらは「単なる記録媒体」なのか、それとも「医療機器そのもの」なのか。

この分類の違いは、単なるコード番号の違いにとどまらず、ライセンス料に対する関税評価や、輸入時の付加価値税(Import VAT)の算出根拠を大きく左右します。本記事では、今回示された指針がヘルスケア・テック企業の欧州戦略にどのような影響を与えるのかを深掘り解説します。

ソフトウェアは「記録媒体」か「医療機器」か。長年のグレーゾーン

まず、この問題の背景にある通関実務のジレンマを整理します。

税関は原則として「有体物(モノ)」を管理・課税する機関です。そのため、インターネット経由でダウンロードされるソフトウェア(無体物)は、通関手続きの対象外となります。しかし、インストール用としてUSBメモリやDVD、SSDなどの物理媒体に入れて送られる場合、それは「モノ」として通関の対象になります。

ここで問題となるのが、その物理媒体の中身が、高度な診断を行う「医療用AI」だった場合です。

輸入者側としては、ソフトウェアの価値(ライセンス料など数千万円規模)を含まず、単なるUSBメモリ(数百円)として、HSコード第85類の「記録媒体」で申告したいと考えます。しかし、税関側は、そのソフトウェアが診断機能を持つならば、それは実質的に第90類の「医療機器」であり、ソフトウェアの価値を含めた金額で申告すべきではないか、という解釈をする余地がありました。

特にEUでは、医療機器規則(MDR)の適用を受けるソフトウェアについて、関税分類上も医療機器として扱うべきかどうかが曖昧なままでした。

示された指針の核心。USBメモリに入ったAIは「メディア」として扱われる

今回提示された指針において、EUは実務的な割り切りを行いました。結論として、物理媒体に記録された医療用AIソフトウェアは、原則としてハードウェア(MRI装置など)に組み込まれていない限り、HSコード第8523項の「記録媒体(ソフトウェア)」として分類されるという解釈を明確化しました。

これは、医療用であっても、ゲームソフトやビジネスソフトと同様に、関税分類上は「メディア」として扱われることを意味します。

一見すると、現状追認のように見えますが、ビジネス上の含意は重大です。なぜなら、第90類の「医療機器」として分類された場合にかかる可能性のある規制や関税率の変動リスク(例えば、将来的に医療機器への関税が復活した場合など)を回避できる一方で、第8523項に分類されることによる「評価額」のルールが厳格に適用されるからです。

恐ろしいのは関税率ではなく「輸入付加価値税」の課税標準

HSコードが「記録媒体」に決まったことで、企業が最も注意すべきは「関税評価(Customs Valuation)」です。

WTOの評価協定およびEUの規定では、輸入される記録媒体の課税価格を決定する際、媒体そのもののコスト(キャリアメディア)と、そこに記録されているデータ・ソフトウェアのコストを区別して扱うことが認められています。

しかし、今回の指針により、分類が明確化されたことで、インボイス上の記載方法がより厳しく問われることになります。もしインボイス上で、媒体代とソフトウェアライセンス料が明確に区分されていなければ、税関はライセンス料を含めた総額に対して輸入付加価値税(VAT)を課す可能性があります。

EU各国のVATは20パーセント前後と高率です。数億円のライセンス契約を含むAIソフトをUSB 1本で送った場合、その記載ミス一つで、通関時に数千万円のVAT支払いを現金で求められるリスクがあります。VATは後で還付されるとはいえ、多額のキャッシュフローが一時的に拘束されることは経営上の大きな痛手です。

企業が取るべき戦略。物理媒体からの脱却とクラウド化の加速

この指針を受けて、医療AIベンダーや医療機器メーカーは以下の対応を検討すべきです。

物理媒体輸送の廃止とクラウドデリバリーへの完全移行

最も確実な対策は、物理媒体での納品をやめることです。今回の指針はあくまで「物理媒体」に対するものです。クラウド経由でのダウンロード販売や、SaaS形式での提供であれば、そもそも通関手続きが発生せず、輸入VATの即時払いも不要(リバースチャージ方式などで処理)になります。

これまで保守的な病院側の要望で物理メディアを送っていたケースもあるかもしれませんが、通関リスクとコストを説明し、デジタル配信へ切り替える交渉材料としてこの指針を使うべきです。

インボイス記載の厳格化

やむを得ず物理媒体を送る場合は、インボイスの明細行を分け、媒体の価格(ハードウェアコスト)と、ソフトウェアのライセンス料(知的財産権使用料)を明確に区別して記載する必要があります。そして、EU側の輸入通関業者に対し、ソフトウェア価格分を課税価格に算入するかどうかの指示(評価加算・減算のルール適用)を的確に出す体制を整えなければなりません。

まとめ

EUの新たな解釈指針は、医療AIを「魔法の医療機器」ではなく「単なるデータが入ったメディア」としてドライに扱うことを宣言したものです。

これにより、法的な予見可能性は高まりましたが、同時にインボイス作成や契約形態における実務的なミスが許されなくなりました。物理的なモノの移動を伴うソフトウェア貿易は、もはやリスクでしかありません。デジタルヘルスケアの時代にふさわしい、デジタルの国境の越え方(クラウド化)へ、ビジネスモデルを完全にシフトさせる時期が来ています。

テクノロジーの進化に追いつく貿易ルール。HS 2028改正で6Gや量子技術が「その他」から脱却する日

2026年2月2日、世界税関機構(WCO)において、今後のハイテク製品の貿易実務を左右する重要な定義案が承認されました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)に向けて、次世代通信規格(6G)関連機器や量子コンピュータ部材を、独立した固有の品目として定義するという決定です。

これまで、最先端のテクノロジー製品の多くは、既存の分類表に該当する項目がないため、その他という大雑把なカテゴリに分類されてきました。しかし、今回の決定により、これらの戦略物資に世界共通の背番号(HSコード6桁)が与えられることになります。

本記事では、なぜ今WCOがこの定義を急いだのか、そして製品コードが特定されることが、企業のコンプライアンスや関税コストにどのような影響を与えるのかを解説します。

その他に隠れていた最先端技術の可視化

貿易実務において、技術の進化スピードとHSコードの改正サイクル(5年ごと)のズレは長年の課題でした。

統計の空白地帯を埋める

現在、開発が進んでいる6G通信機器や量子コンピュータの部品は、多くの場合、第85類(電気機器)や第84類(自動データ処理機械)の中にあるその他の機器というバスケットカテゴリーに分類されています。

この状態では、世界でどれだけの量子関連部材が流通しているのか、正確な貿易統計を取ることが不可能です。WCOが新コードの定義を承認した最大の目的は、これらの次世代技術を独立した項目として切り出し、グローバルなサプライチェーンの実態を可視化することにあります。

6Gと量子技術の定義が確定

今回承認された定義案により、例えば量子プロセッサや極低温制御装置といった量子コンピュータ特有のハードウェア、そして6Gネットワークを構成するテラヘルツ波対応の基地局設備などが、明確な品目定義を持つことになります。

これにより、2028年以降は、その他として申告する曖昧さが排除され、製品のスペックとHSコードの定義を厳密に照らし合わせる作業が必須となります。

経済安全保障と輸出管理の強化

ビジネスマンが最も警戒すべきは、このコード変更が単なる統計目的だけではないという点です。HSコードが特定されることは、各国の輸出管理(安全保障貿易管理)の精度が格段に上がることを意味します。

ピンポイントでの規制が可能に

これまでは、量子コンピュータ部品を輸出規制の対象にしようとしても、HSコードが汎用的なその他の電子部品と同じであったため、税関のシステム上で当該貨物だけを自動的に止めることが困難でした。

しかし、2028年改正で固有のコードが割り当てられれば、当局はそのHSコードに対して輸出ライセンスの必須要件を紐付けることができます。つまり、通関システム上で自動的にフラグが立ち、審査対象として抽出される精度が飛躍的に向上します。

企業にとっては、該非判定(リスト規制に該当するかどうかの判定)とHSコードの紐付け管理が、これまで以上にシビアになることを示唆しています。

関税率への影響とITA(情報技術協定)

もう一つの重要な視点は関税コストです。ハイテク製品だからといって、自動的に関税がゼロになるわけではありません。

新コードは無税になるのか

多くのIT製品は、WTOの情報技術協定(ITA)によって関税撤廃の恩恵を受けています。しかし、新しく新設されたHSコードが、自動的にITAの対象リストに含まれるかどうかは、各国の解釈や新たな交渉に委ねられる場合があります。

もし、6G機器や量子部材が新しいコードに移行した結果、従来のITA対象コードから外れ、一時的に有税扱いになるような事態になれば、サプライチェーンのコスト構造は大きく変わります。2028年に向けて、業界団体を通じた各国政府への働きかけや、関税譲許表の確認が重要になります。

企業が今から準備すべきこと

2028年はまだ先の話ではありません。特に製品開発サイクルが長いハイテク産業においては、今の設計段階から将来のHSコードを意識する必要があります。

R&D部門と通関部門の連携

開発中の次世代製品が、2028年の新定義のどこに該当する可能性があるのか、R&D部門と通関部門が情報を共有する必要があります。特に、製品の機能説明書(スペックシート)において、WCOの新定義に合致する用語を使用しているかどうかが、将来のスムーズな通関を左右します。

システム改修のロードマップ

基幹システム(ERP)の商品マスタにおいて、2028年版のHSコードを登録するフィールドの準備や、輸出管理システムとの連携ロジックの更新計画を立てる必要があります。

まとめ

WCOによるIT・デジタル技術品目の定義案承認は、次世代技術が実験室からグローバル貿易の表舞台へと正式に移動したことを象徴しています。

透明性が高まることは、ビジネスの予見可能性を高める一方で、規制当局による監視の目も厳しくなることを意味します。その他で逃げることができなくなる2028年に備え、自社のハイテク製品の戸籍(HSコード)を正しく管理する体制づくりが求められています。

HS2022からHS2028へ 品目別原産地規則PSRをクロスウォークする実務手順

経営と実務を止めないための更新設計

1. PSRクロスウォークが急に難しくなる理由

PSRは品目別原産地規則のことで、協定ごとに、品目分類にひもづけて原産地判定の条件が定められています。多くは関税分類変更基準CTCや付加価値基準RVC、または特定工程基準などです。

一方、HSは定期改正され、HS2028は2028年1月1日に発効予定です。改正時には新設、削除、範囲変更が大量に起きるため、PSRが参照している品目番号の体系も影響を受けます。結果として、関税分類は最新HSで行うのに、原産地判定は協定が採用する旧HSで行う、という二重運用が現場に発生しやすくなります。WCOも、分類と原産地で異なるHS版を使うと、判定が複雑化し時間がかかり、誤適用リスクが上がると整理しています。

この状況を止めるために必要なのが、HS2022とHS2028の間でPSRを技術的に読み替えるクロスウォークです。

2. まず押さえる前提

2-1. HSは1つではない

協定ごとに採用しているHS版が異なることがあります。日本税関のPSR検索でも、協定が採用するHS版と入力したHSコードの版が違うと検索結果が誤りになり得る、と明示されています。さらに、輸入申告では最新のHSコードを使う必要がある、とも書かれています。(税関ポータル)

つまり、企業側は次の二系統を同時に管理する必要が出ます。

  1. 申告と統計のための最新HS
  2. 協定の法文に紐づくPSR用HS

2-2. HS2028の確定と相関表の位置づけ

WCOによれば、HS2028は2028年1月1日に発効し、その準備期間にHS2022とHS2028の相関表の整備などが進む、とされています。(世界関税機関)
また、2026年1月時点でHS2028改正が受諾され、相関表整備などの実施期間に入ったこともWCOニュースで整理されています。(世界関税機関)

重要なのは、相関表は実務のための道具であり、法的効力そのものではない点です。WCOのガイドでも、相関表は実装を助ける目的で作成され、法的地位を持たない、と説明されています。

3. PSRクロスウォークとは何を作る作業か

目的は単純です。
HS2022で書かれているPSRを、HS2028の品目体系に読み替えても、同じ商品範囲に同じ原産地条件を適用できる状態にすることです。

ここで言うクロスウォークは、次の2つを分けて考えると整理しやすいです。

  1. 社内用クロスウォーク:自社の品目とサプライチェーンに照らして、影響と対応を判断するための表
  2. 協定改正としての技術更新:相手国との手続を経て協定附属書のPSR表を更新する行為

EUのPEM関係では、HS更新に伴うPSRの理解を助けるため、HS2022への技術的読み替え資料が提供されています。発想としては、品目分類の変更でルールの趣旨が変わるわけではないが、PSR表は新HSに合わせて書き直す必要がある、という整理です。(Taxation and Customs Union)

4. 手順全体像

ここからが実務手順です。現場が迷いやすい順に並べます。

手順1 対象協定と対象品目を棚卸しする

最初にやるべきは、協定と品目の棚卸しです。

  1. 自社が実際に使っている協定を列挙する
  2. 各協定のPSRが採用しているHS版を確認する
  3. 自社の輸出入品目をHS2022で確定させ、品目別に該当PSR条項を紐づける

この時点で、協定によってはPSRが古いHS版で書かれていることが普通にあります。英国の対日CEPAのガイダンスでも、PSRはHS2017で規定されており、HS改正でコードが変わる場合は相関表を参照する、という趣旨の案内があります。(GOV.UK)

手順2 HS2022→HS2028のマッピングを準備する

基本はWCO相関表を使います。HS2028の相関表は、WCOが準備期間に整備すると明記しています。(世界関税機関)
ただし、相関表は法文ではなく、更新途中の版や注釈の読み違いが起きやすい領域です。社内のクロスウォークでは、必ず次の情報を同時に持ちます。

  1. 相関表上の対応関係
  2. 変更タイプ 新設、削除、範囲変更、分割、統合
  3. 自社製品の実際の仕様と用途

手順3 PSRを構造分解してから移し替える

PSRを文章のまま移すのではなく、構造に分解します。最低限、次のタグを付けます。

  1. ルール型 CTC、RVC、工程、複合型、例外
  2. レベル CC、CTH、CTSHなど
  3. 例外条件 例 外部材の除外や許容条件
  4. 追加要件 最小工程否認、累積、許容誤差など

この分解ができると、HSの分割や統合が起きても、ルールの意図を保ったまま再組立てできます。

手順4 変更タイプ別に読み替え規則を適用する

WCOガイドでは、HS改正は大きく、新設、削除、範囲変更の3類型に整理でき、単純ケースの更新方法も例示されています。
HS2022→HS2028でも、この考え方で十分に回せます。

ケースA 1対1で対応する

最も簡単です。PSR文章は基本的にそのまま移せます。
注意点は、号の説明や範囲注記が変わる場合があることです。品目名だけで判断しないでください。

ケースB 1つの号が複数に分割される

現場で事故が起きる典型です。
対応は、分割後の各号が、元のどの範囲を受け継いだのかを仕様と照合し、PSRの例外条件を再設計します。WCOガイドでも、分割後の各号に対して、元ルールを維持しつつ、相互に例外を置く形で記述できることが示されています。

実務上のコツは、分割後の号ごとに、主要な非原産材料のHS分類がどこへ落ちるかを同時に確認することです。CTC型のPSRは材料側の分類にも依存するため、ここを飛ばすと誤判定が起きます。

ケースC 複数の号が統合される

統合されると、PSRの適用範囲が広がって見えるため、ルールを強めてしまう誤りが起きます。
基本は、統合前に別々だったルールを、統合後の号の中で品目群ごとに分岐する形で管理することです。協定文の改正が完了するまでは、社内クロスウォークでは分岐注記で運用します。

ケースD 範囲が変わる

最も危険です。番号は同じでも、含まれる製品範囲が変わると、見かけ上の読み替えは成立しません。
この場合は、協定の法的更新を前提に、社内では暫定措置として次を行います。

  1. 旧HSでのPSR対象範囲を文章で定義する
  2. 新HSでその範囲に該当する品目集合をリスト化する
  3. その集合に同一PSRを当てる

EUがHS更新に合わせてPSR表の書き直しを支援する資料を出しているのは、まさにこのケースでの混乱を抑える狙いです。(Taxation and Customs Union)

手順5 検証は机上ではなく取引データで行う

クロスウォークが正しいかは、実際のBOMと工程で検証しないとわかりません。
おすすめの検証は二段階です。

  1. 過去の代表案件を抽出し、HS2022版PSRで原産判定結果を再現する
  2. 同じ案件をHS2028クロスウォーク版で判定し、結果の差分を説明できる状態にする

差分が出た場合、原因はだいたい次のどれかです。

  1. 材料側のHS分類が分割で変わった
  2. 例外条件の読み替えが不十分
  3. 範囲変更を見落とした

手順6 成果物は1枚の表に落とす

経営レビューと監査対応を両立させるには、成果物の形が重要です。最低限、次の列を持つクロスウォーク表があると回ります。

内容
協定名利用協定、相手国
PSR採用HS版協定附属書が採用するHS版
自社品目 HS2022現行管理コード
対応 HS2028相関表に基づく候補コード群
変更タイプ1対1、分割、統合、範囲変更
元PSR要件CTC、RVC、工程、例外条件
読み替え方針そのまま、分岐、集合適用など
検証結果代表案件での判定差分
リスク判定高 中 低 と理由
根拠リンク相関表、協定条文、社内仕様書

日本税関の案内が示すとおり、HS版の取り違えは検索結果や判定結果の誤りに直結し得ます。表で版管理を明示し、誰が見ても間違えない状態にするのが最短です。(税関ポータル)

手順7 運用設計としての版管理を入れる

HS2028発効後も、すべての協定が同時にHS2028へ更新されるとは限りません。WCOガイドが述べるように、協定にはPSR更新の手続があり、簡易改正条項を持つものもありますが、タイミングは協定ごとに異なります。

したがって経営としては、次の二重管理を前提にします。

  1. 申告HSはHS2028へ移行
  2. 原産判定は協定ごとのHS版に合わせて継続

この二重管理を前提に、社内システム、マスタ、教育、監査資料の更新計画を組むべきです。

5. 2026年から2028年までの進め方の目安

WCOはHS2028発効までの準備期間で相関表整備などを進める、としています。(世界関税機関)
企業側はそれに合わせて、次の順で進めると失速しにくいです。

  1. 2026年 棚卸しとクロスウォーク表の骨格を作る
  2. 2027年 代表案件で検証し、例外ケースを潰す
  3. 2027年末 協定別の更新状況を確認し、運用を確定する
  4. 2028年初頭 申告HSの移行と、原産判定の版管理を同時に稼働させる

6. まとめ

HS2022からHS2028へのPSRクロスウォークは、関税分類の変更に追従する作業ではなく、原産判定の誤適用を防ぎ、協定利用を止めないための版管理プロジェクトです。
相関表を使いつつ、変更タイプ別の読み替え規則、取引データでの検証、協定別のHS版管理をセットで回すことで、2028年の移行は管理可能になります。

免責
本稿は一般的な実務整理であり、個別案件の原産地認定や協定解釈は、当該協定の正文と当局運用、必要に応じて専門家助言に基づいて判断してください。

EVバッテリー分類:監査で問われる3つのリスク

はじめに:分類は「関税」だけでは終わらない

EVバッテリーは高額で、国際物流では危険物輸送や環境規制とも接続しやすい商材です。そのため、品目分類(HSコード)が一度ずれると、関税・特恵・規制対応が連鎖し、税関の事後調査(ポストクリアランス監査)で説明責任が一気に重くなります。

制度面でも、世界貿易機関の貿易円滑化協定は、各国が事後調査を採用し、結果をリスク管理に活用することを求めています。(WTO)
つまり、監査は例外イベントではなく、前提として組み込むべきリスクです。

本稿では、EVバッテリー分類を監査目線で深掘りし、監査で問われやすい3つのリスクと、ビジネス側で実装できる対策まで落とし込みます。なお、品目分類は最終的に各国税関の判断が前提です。迷う論点は事前教示(アドバンスルーリング)等で当局見解を取りに行くことが、監査コストを最小化します。(税関総合情報ポータル)

前提整理:なぜEVバッテリー分類は監査論点になりやすいのか

監査は「申告の整合性」を再構成してくる

監査の本質は、結論としての税番よりも、当時の申告が取引実態と整合していたかの検証です。世界税関機構のPCAガイドラインでも、事後調査は企業の商取引システムや契約、会計・非会計記録などの記録群を検証してコンプライアンスを測る、と整理されています。(世界関税機関)
EVバッテリーは、仕様変更や梱包形態の違いが起きやすく、この整合性が崩れやすい領域です。

バッテリーは税・物流・環境が連鎖しやすい

バッテリーは、通関分類だけでなく、危険物輸送の試験証跡、返品・回収品の取り扱い、国境を越える場合の環境手続など、社内の複数部門データがつながります。部門ごとに言葉がずれると、監査で矛盾として浮き上がります。

提示形態で分類論点が変わる

セル、モジュール、パック、さらに制御・保護部品とのセットのされ方で、説明が難しくなります。ここで重要なのは、機能として蓄電池なのか、あるいは別の機器・部品として提示されているのかを、当時の提示形態に即して説明できるかです。

まず押さえる分類の土台:85.07(蓄電池)とバッテリーパック

HS上の位置づけ

HS2022では、85.07が電気式蓄電池で、リチウムイオンは8507.60に位置づきます。(世界関税機関)
実務では、まず85.07を起点に、各国の国内細分に落とす流れになります。

バッテリーパックが85.07に属し得る理由

監査で誤りが出やすいのが、いわゆるバッテリーパックです。日本税関の関税率表解説では、セルを連結する回路を有する蓄電池(バッテリーパック)は、接続子、温度制御装置、回路保護装置、保護ハウジングなどの補助機構を含むか否かを問わず85.07項に属し、たとえ特別な装置とともに使用されるよう設計されていても85.07項に属する、と明確に整理されています。
この一文を説明できるかどうかが、監査での勝敗を分けやすいポイントです。

同じ解説では、使用済み蓄電池やそのくずは85.49に区分されることも明示されています。返品・回収品が絡む場合、ここがリスク3に直結します。

監査で問われる3つのリスク

リスク1:課税リスク(追徴、加算、延滞、そして利益率の毀損)

分類のずれが最初に刺さるのは課税です。税差が大きいほど、監査では重要度が上がります。加えて、特恵関税を適用している場合は、原産地ルール判定の前提(HS)が崩れ、影響範囲が広がります。

監査で典型的に起きるパターンは次の通りです。

  1. バッテリーパックを別の枠(例:車両部品としての扱い)で説明していた
    当局側から見ると、なぜ蓄電池として扱わなかったのかが質問になります。85.07に属し得る根拠を、当時の提示形態と機能で説明できないと不利になります。
  2. 仕様変更やサプライヤー変更で、社内マスターと実物がずれていた
    監査は、品名、型番、仕様書、BOM、写真、梱包形態から申告貨物を再構成します。事後調査が記録群を検証するプロセスであることは、WCOのPCAガイドラインの定義とも一致します。(世界関税機関)
  3. 申告の説明が「結論のみ」で、根拠が残っていない
    事後調査は過去が対象です。根拠資料が残っていないと、当時正しかったことを示せません。

実務対策の要点は、税番の正解を当てることに加え、当時の判断材料と判断プロセスを再現できる形で残すことです。

リスク2:貿易政策リスク(対象品目の特定ミスが「回避」疑義につながる)

EVバッテリーは政策対象になりやすい分野で、当局目線では分類が各種措置の入口になります。ここで問題になるのは、単なる誤りとしての分類ミスを超えて、結果として政策措置の適用を回避したように見えるリスクです。

特に次の条件が重なると、説明責任が重くなります。

  1. 高額で税額影響が大きい
  2. グループ内取引など取引形態が複雑
  3. 仕様や品名が曖昧で、仕様書が弱い
  4. 物流書類と通関書類で貨物説明がずれている

実務対策の要点は、分類メモを税番を決める紙ではなく、疑義を潰す紙として作ることです。最低限、次は揃えます。

  1. その製品の機能を一文で言い切る
  2. 付属部品が蓄電池の機能に寄与する補助機構であることを整理する
    日本の関税率表解説が、補助機構を含んでも85.07に属する旨を示しています。
  3. 提示形態を証拠化する
    梱包写真、構成表、同梱物一覧は、後から効く証跡です。

リスク3:安全・環境リスク(危険物輸送と使用済み境界の崩壊)

ここがEVバッテリー特有の深い落とし穴です。分類は税関申告だけではなく、危険物輸送と環境規制のデータとも結びつきます。

論点A:UN38.3試験とテストサマリーの整備不足

リチウム電池は、国連の試験・基準マニュアルの38.3で試験手続が示されています。UN Manual of Tests and Criteria (国連欧州経済委員会)
米国のPHMSAは、リチウム電池のテストサマリー要件が2022年1月1日に有効となり、その後2024年5月10日に改訂が有効になったことを明示しています。(パイプラインおよび有害物質安全管理局)

監査で起きやすいのは、申告は新品の蓄電池なのに、危険物輸送側の証跡(試験、テストサマリー、型番一致)が出せないケースです。この場合、分類以前に貨物の同一性が疑われます。

論点B:新品と使用済み・くずの境界

HS2022では、電気電子機器の廃棄物・くずとして85.49が整理され、使用済み蓄電池の定義も示されています。具体的には、8549.11から8549.19における使用済み蓄電池は、破損や摩耗などで使用できず、再充電もできないもの、とされています。(世界関税機関)
日本の関税率表解説でも、使用済み蓄電池やそれらのくずは85.49と整理されています。

EVでは、返品、解析返送、リファービッシュ、リコール回収などが混在します。社内では返品でも、外形的に回収・処分目的に見えると、分類だけでなく必要手続も変わり得ます。

論点C:国境を越えると環境手続が重くなる

バーゼル条約の電子廃棄物改正は、2025年1月1日に発効したと公式に示されています。(バーゼル条約)
返品・回収品が環境手続の対象に見える状況で、通関上は新品として扱っていると、書類全体の整合性が崩れます。

実務対策の要点は、分類担当だけで完結させず、通関、物流(危険物)、品質保証(試験証跡)、環境(廃棄物手続)を型番単位でつなぐことです。

監査に強い会社がやっている実務設計

1. 分類根拠を再現可能なメモにする

次の要素を必ず入れます。

  1. 製品の機能、構造、用途
  2. セル、モジュール、パックの構成と同梱物
  3. 補助機構の役割(接続子、温度制御、回路保護、ハウジングなど)
    バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属するという整理が根拠になります。
  4. 結論の税番(HS6桁と国内細分)
    HS2022上の8507.60(リチウムイオン)など、HS側の位置づけも紐づけます。(世界関税機関)
  5. 判断に使った証跡の所在(仕様書、BOM、写真、テストサマリー、梱包資料)

2. 事前教示を戦略的に使う

日本税関は、輸入予定貨物の税番や税率等について事前に照会し、回答を受けられる制度を案内しています。(税関総合情報ポータル)
論点が割れる可能性がある型番は、監査で争うよりも、早期に当局判断を取りに行く方が総コストを抑えやすいです。

3. 変更管理を分類の仕組みに入れる

分類ミスそのものより、ミスが放置された状態が監査で致命傷になりがちです。最低限、次をルール化します。

  1. 型番変更、材料変更、BMS設計変更、梱包変更のたびに分類レビュー
  2. サプライヤー変更時に、仕様書と写真を再取得し同一性を確認
  3. 危険物輸送の証跡と税番情報を型番で紐づけ

監査が記録群を検証する以上、記録の整合性が通る仕組み作りが本質です。(世界関税機関)

よくある監査質問と、即答できる答え方

質問1:なぜこの貨物は85.07なのか

答えの骨子は、蓄電池の機能と提示形態です。バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属すること、特定機器用に設計されていても85.07に属することを、当局向けに言語化します。

質問2:UN38.3試験とテストサマリーはあるか。型番と一致するか

国連マニュアルの38.3で試験手続が示されていること、米国PHMSAがテストサマリー要件の発効日と改訂日を明示していることを踏まえ、証跡の所在と更新管理を即答できるようにします。(国連欧州経済委員会)

質問3:返品・回収品は新品か、使用済みか。分類と手続の整理は

使用済み蓄電池の定義(再充電できない等)と85.49の位置づけを理解し、契約書と物流指示書の言葉まで含めて整合させます。(世界関税機関)
国境を越える場合は、バーゼル条約の改正発効日(2025年1月1日)を前提に、社内フローが動くようにします。(バーゼル条約)

まとめ:監査で強いのは「分類の正解」より「説明の再現性」

EVバッテリー分類は、課税、貿易政策、安全・環境が一本の線でつながる領域です。監査で問われるのは、結論の税番よりも、当時の実物に基づき説明できるか、そして同じ判断を社内で再現できるかです。(世界関税機関)

今日からの優先順位は次の通りです。

  1. 主要型番について、分類根拠メモを整備する
  2. 危険物輸送の証跡(UN38.3、テストサマリー)と税番を型番で紐づける
  3. 返品・回収品の新品と使用済みの判断基準を、契約と物流指示書の言葉まで揃える
  4. 迷う論点は事前教示で当局見解を取り、監査リスクを先に潰す (税関総合情報ポータル)

米国CBPが下したセット分類の否認。多機能タブレットとキーボードの分離課税がもたらすコスト増の衝撃

2026年2月1日、米国税関国境警備局(CBP)から、電子機器メーカーや輸入業者にとって看過できない重要な裁定が下されました。それは、タブレット端末と着脱式キーボードがセットで販売される製品について、今後は一つの製品(セット)として扱わず、それぞれ個別のHSコードに分類して課税するという方針決定です。

これまで、多くの企業はこれらのセット品を自動データ処理機械(ノートパソコン等と同等)として一括で申告し、関税上の恩恵を受けてきました。しかし、今回の決定はその商習慣を根底から覆すものです。

本記事では、この技術的な分類変更がなぜ行われたのか、そして企業実務にどのような金銭的・事務的負担を強いることになるのかを深掘り解説します。

通則3の解釈変更、セット品としての特権喪失

まず、これまでの通関実務の常識をおさらいします。

通常、異なる物品(タブレット本体とキーボード)が小売用にセット販売される場合、HSコードの分類ルールである関税率表の解釈に関する通則3(b)が適用されます。これは、セット全体に本質的な特性を与えている構成要素(この場合はタブレット本体)のHSコードで、セット全体を分類するというルールです。

これにより、附属のキーボードもタブレット本体と同じコード(通常は8471.30項など)に分類され、本体が無税であればキーボードも無税で輸入することが可能でした。

しかし、今回のCBPの裁定は、この解釈を厳格化しました。CBPは、着脱式キーボードはタブレットの機能に必須ではなく、それ単体でも独立した商品価値を持つ周辺機器であると判断しました。その結果、セットとしての分類を否認し、タブレットはタブレット、キーボードは入力装置(8471.60項など)として、別々に申告することを求めたのです。

なぜこれがコストアップに直結するのか

HSコードが分かれるだけであれば、単なる事務手続きの問題に見えるかもしれません。しかし、この分離には致命的なコストリスクが潜んでいます。

最大の懸念は、対中制裁関税(通商法301条)やその他の懲罰的関税の適用です。

IT製品の多くは、WTOの情報技術協定(ITA)により基本税率は無税です。しかし、米国が中国などの特定国に対して課している制裁関税は、HSコードごとに細かく指定されています。

もし、タブレット本体(8471.30)が制裁関税の除外対象であっても、分離されたキーボード(8471.60)が制裁対象リストに入っていれば、キーボードの価格分に対して25パーセント等の追加関税が発生します。これまではセット全体の価格に対して関税ゼロだったものが、今後はキーボード部分だけ高率の課税を受けることになるのです。

さらに、品目分類が変わることで、これまで適用できていたFTA(自由貿易協定)の原産地規則を満たせなくなるリスクもあります。セット品としての原産地判定と、単体部品としての原産地判定では、計算式や必要となる部材の要件が異なるためです。

実務担当者が直面するインボイス作成の苦悩

この決定は、通関書類(インボイス)の作成業務にも多大な負荷をかけます。

これまでは、製品セット1式として1行で記載すれば済みました。しかし今後は、一つの箱に入っている商品であっても、インボイス上では本体とキーボードを別の行に分け、それぞれの単価(FOB価格)を明記しなければなりません。

ここで問題になるのが、セット価格の内訳です。

多くのメーカーはセット品としての販売価格しか設定しておらず、附属品の個別の原価や振替価格をインボイスに記載する準備ができていません。税関に対して妥当な価格内訳を提示できなければ、恣意的な価格操作(ダンピングや評価申告漏れ)を疑われるリスクが生じます。

企業が今すぐ着手すべき対応策

このCBPの方針転換を受けて、米国向けに電子機器を輸出する企業は、以下の3つの対策を講じる必要があります。

第一に、影響品目の洗い出しと関税試算です。

自社の製品ラインナップの中で、キーボードやペン、ドックなどが同梱されている製品をすべてリストアップし、それらが分離課税された場合の関税コストをシミュレーションしてください。特に対中関税の対象となるか否かは最優先の確認事項です。

第二に、インボイスシステムの改修です。

セット品番を入力した際に、自動的に本体と付属品の行に分解し、適切な単価を割り振って出力できる仕組みを構築する必要があります。手書き修正はミスの温床となるため推奨されません。

第三に、製品構成の見直しです。

関税コストが許容できないレベルになる場合、セット販売をやめて別売り(アンバンドル)にするか、あるいは付属品の調達先を関税のかからない国へ変更するサプライチェーンの再編を検討する必要があります。

まとめ

米国CBPによる多機能タブレットの分離分類決定は、単なるコードの変更ではなく、企業の利益率を直撃する実質的な増税措置です。

この決定は、今後タブレット以外の製品(スマートウォッチとバンド、ゲーム機とコントローラーなど)にも波及する可能性があります。セット品という魔法のヴェールが剥がされた今、企業は一つひとつの構成品に対する厳密なコンプライアンスとコスト管理を求められています。

WCO相関表が出た瞬間、HS2028対応は現実になる


企業が今やるべき準備と、相関表の読み方

2026年1月、WCOはHS2028改正(HS2028 Amendments)が受諾されたことを公表しました。発効日は2028年1月1日です。残り約2年は、企業にとって「まだ先」ではなく、分類とデータ、システム、契約をつなぐ移行計画を具体化する猶予期間です。(wcoomd.org)

その中で、実務上のスタートラインになり得るのが「WCO相関表(Correlation Tables)」です。相関表は、HS2022とHS2028の間で、どの品目コードがどう移るのかを体系的に示す地図です。HS2028の条文(改正パッケージ)が公表されても、企業の現場がすぐに全社影響を把握できるとは限りません。相関表が出ることで、初めて「自社の品目マスタをどこからどこへ動かすか」を俯瞰できるようになります。

ここでは、WCO相関表がなぜ「出発点」なのか、そして公開後に慌てないために、公開前から企業がやるべきことを深掘りします。


1. HS2028は何が変わるのか

相関表が必要になる背景

HS2028は、299セットの改正で構成され、結果として1,229の見出し(headings)と5,852の小見出し(subheadings)になります。HS2022と比較すると、新設は見出し6、HS6桁小見出し428。削除は見出し5、HS6桁小見出し172です。(wcoomd.org)

テーマも、単なる貿易統計の更新ではなく、規制・政策目的との連動が前提になっています。WCOが強調している主なポイントは次の通りです。(wcoomd.org)

・公衆衛生
救急車、個人防護具、人工呼吸器、診断・モニタリング機器など、健康危機で必要となる物資の可視性を高める新しい区分が入ります。

・ワクチンの構造変更
従来30.02に含まれていたワクチン関連を、人体用の30.07、その他(獣医用など)の30.08へ再編し、疾病別などの詳細な下位区分を設ける、とされています。

・サプリメントの新見出し
食品と医薬品の境界で揉めやすい領域に、新見出し21.07(dietary supplements)と新しい法的注記を設け、統一的な枠組みを目指す、とされています。

・環境分野
プラスチック廃棄物39.15を、バーゼル条約の区分との整合を意識して再編し、有害・PIC対象・その他を識別する新小見出しを導入する、とされています。さらに、単回使用の概念を第39類の新しい法的注記で明示し、ストロー等の幅広い品目で透明性を高める、と説明されています。

この手の改正は、品目コードが「番号だけ変わる」話ではありません。品目の定義が揺れるので、関税率、輸入規制、統計、原産地規則、社内マスタの整合性まで連鎖します。だからこそ、移行の地図として相関表が必要になります。


2. WCO相関表とは何か

誤解されやすい法的地位と限界

まず大前提として、WCO相関表は「法令」ではありません。WCOは、相関表について次の位置づけを明確にしています。

・相関表は、HS委員会の分類決定そのものとみなすものではない
・実装を容易にするためのガイドであり、法的地位はない(wcoomd.org)

この注意書きは、ビジネス側が一番見落としやすいポイントです。現場では「相関表が出たら、旧コードを新コードに置換して終わり」と考えがちですが、相関表は置換表ではなく、移行の参考情報です。

またWCOは、HS2022の相関表公表時に、相関表は法的文書ではない一方で、導入準備に不可欠なツールになっているとも述べています。つまり、法的拘束力はないが、実務上の標準的参照資料として扱われる、という現実があります。(wcoomd.org)


3. 相関表はどういう形で出てくるのか

HS2022の前例から読み解く

HS2022の前例では、WCOは相関表を2つの表として公表しました。(wcoomd.org)

・Table I:新しい版から旧版へ(新コード側を起点)
加えて、多くの相関に「備考」が付き、移動する品目の性格や関連条文の参照が示されるケースがある。

・Table II:旧版から新版へ(旧コード側を起点)
基本的にTable Iを機械的に反転した表で、備考は付かない。

さらに、WCOの相関表解説では、exという接頭表示が重要な意味を持ちます。exは「その旧コードの範囲の一部だけが移る」ことを示し、1対1の単純移行ではない、というサインです。(wcoomd.org)


4. なぜWCO相関表の公開がHS2028改訂の出発点なのか

出発点と言い切れる理由は3つあります。

4-1. 全社影響を一気に棚卸しできる

条文だけで影響を追うと、読み落としが発生します。相関表があれば、HS6桁ベースで「動くコード」を一覧化でき、影響範囲を見積もれます。

4-2. 曖昧さが可視化され、判断ポイントが特定できる

exや分岐・統合は、判断を要する場所です。相関表は、曖昧さを表面化させることで、社内ルール化を促します。(wcoomd.org)

4-3. 国別実装の監視が始めやすくなる

WCOの相関表は共通骨格であり、各国が自国のタリフラインに落とす過程で追加の分割や法令反映が入ります。(wcoomd.org)


5. HS2028の相関表はいつ出るのか

今わかっていることだけで整理する

現時点でWCOが公式に言っていることは、次の2点に集約されます。

・2025年9月のHS委員会で、HS2022とHS2028の相関表の開発に関する議論を開始し、形式を改善した(明確さと使いやすさの向上が目的)(wcoomd.org)

・2026年1月時点で改正は受諾されており、残る2年間で相関表の作成、解説書などWCOツールの更新、加盟国支援を進める(wcoomd.org)


6. 公開前から企業がやるべき準備

相関表が出ても詰まらないための実務設計

相関表が出てから着手すると、必ず間に合わない作業を先に片付けます。

6-1. 品目マスタの現状の正しさを固める

HS移行で一番危険なのは、現行コードが曖昧なまま新コードへ移してしまうことです。

6-2. 相関表を置換ではなく分岐ルールに落とす設計にする

分岐と統合、そしてexは、業務ルールと判断ログが必要です。

6-3. 国別実装を前提に、監視ポイントを先に置く

実務は国別枝番と税率、規制コードで動きます。相関表は国別実装の入口です。(wcoomd.org)

6-4. 参照情報の取り方を決めておく

相関表や関連資料は複数チャネルに出る可能性があり、社内で一次情報の定義が必要です。(wcoomd.org)


7. 相関表公開後に、企業がやってはいけない3つのこと

7-1. 相関表の自動変換を、そのまま申告に使う

相関表は法的文書でも分類決定でもありません。(wcoomd.org)

7-2. exや分岐を放置して、とりあえずどれかに割り付ける

判断が必要な場所は、判断に必要な製品属性を揃えるところからです。(wcoomd.org)

7-3. HS6桁だけ更新して満足する

国別枝番と税率、規制コードまで落とし込む必要があります。(wcoomd.org)


まとめ

相関表公開は開始合図。しかし準備は公開前に終わらせる

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効すること、そして残る2年で相関表の整備を含む実装準備を進めることを明確にしています。(wcoomd.org)

相関表が公開された瞬間に走り出せるよう、品目マスタの整備、分類根拠の棚卸し、分岐判断の設計、国別実装の監視体制を、公開前に作っておく。

HS2028対応は、貿易実務だけの問題ではありません。サプライチェーンとデータ、コンプライアンスをつなぐ経営課題です。相関表公開を出発点にするために、今日から準備を始めてください。


HS2028に備える 主要国ポータルの対応状況を確実に押さえる実務ガイド

2028年1月1日、HSコードが更新されます。HS2028は、世界税関機構が定めるHS品目表の第8版で、国際取引で使われる分類コードの基盤そのものです。2026年1月21日にHS2028改正が受理され、発効までの準備期間が公式にカウントダウンに入りました。(世界関税機関)

このタイミングで、最初に手を付けたいのが「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」ことです。理由はシンプルで、通関申告や関税計算、規制対応の現場は、最終的に各国の公式ポータルに載っているコード体系と税率に従うからです。

この記事では、単にポータルを眺めるだけで終わらせず、ビジネスの意思決定に直結する見方と、国別にどこをチェックすべきかまで掘り下げます。

HS2028で何が変わるのか

まず、確実に押さえるべき事実は次の3点です。

1つ目。HS2028は2028年1月1日に発効します。(世界関税機関)
2つ目。改正は299セットに及び、見出しは1,229、子目は5,852という規模です。HS2022比で新設や削除もあり、単なる文言調整ではありません。(世界関税機関)
3つ目。WCOは残り2年間で、HS2022とHS2028の相関表の整備、解説書やツールの更新、加盟国支援を進めると明記しています。加盟国側も、国内法令、IT、手続、研修を更新するとされています。(世界関税機関)

テーマ面では、公衆衛生や環境が中心です。医療機器や防護具の識別強化、ワクチンの再編、栄養補助食品の新見出し、プラスチック廃棄物の再構成など、実務上インパクトの大きい領域が含まれます。(世界関税機関)

ここまでを踏まえると、HS2028は「ある日突然、コードが変わる」イベントではなく、2年間かけて各国が段階的に制度とシステムを移行するプロジェクトだと捉えるのが現実的です。

なぜ主要国ポータル確認が最優先になるのか

HS改正に関して、現場がつまずく典型パターンは、社内のマスタや取引書類の更新タイミングが各国の実装タイミングとズレることです。ズレると何が起きるか。

・輸入申告でコードが通らず、差し戻しや保留が増える
・税率や追加措置の適用判断が揺れ、コスト見積りが不安定になる
・統計品目や国内追加桁の変更に引きずられて、取引先やフォワーダーとの照合に時間が溶ける

このズレを最小化するうえで、各国の公式ポータルは一次情報の集合体です。更新日、適用日、改正履歴、データ形式、関連法令への導線など、移行の手がかりがまとまって出てきます。

つまり「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」とは、単なる閲覧ではなく、次の問いに答えを出すための情報収集です。

・その国では、いつから新コードが申告に使えるのか
・旧コードはいつまで受け付けられるのか
・相関表や変換資料はどこで入手できるのか
・国内追加桁まで含めた変更はどの粒度で提供されるのか
・自社のITや業務が追随できる形式でデータを取れるのか

対応状況を見抜く 6つのチェックポイント

ポータルの見方は国によって違いますが、見るべきサインは共通化できます。

  1. 表示されている版と適用日
    年次版、基本版、改正号などの表示があるか。適用日が明記されているか。
  2. 改正履歴と更新頻度
    いつ、何が、どの根拠で変わったかが追えるか。更新が日次なのか、年次なのか、随時なのか。
  3. 日付指定で検索できるか
    HS改正は発効日で切り替わるため、取引予定日を入れて結果が変わる設計になっているかは重要です。
  4. 相関表や変換資料への導線
    WCO相関表に加え、国内追加桁を含む国別クロスウォークが出るか。その掲載場所が分かりやすいか。
  5. ダウンロードやAPIの有無
    画面で確認するだけでは、社内マスタ更新が回りません。CSVやJSON、Excelなどで取得できるか。
  6. 法令や公的通知へのリンク
    ポータルの表示は便利ですが、最終的な根拠は法令や告示です。リンクが整理されているかで信頼性が変わります。

この6点で見れば、HS2028対応状況は、専用ページの有無だけでなく、更新の兆候と実装の成熟度として評価できます。

主要国ポータル別に見るべき場所

以下は、主要国で実務上よく参照される公式情報源と、その読み解き方です。ここでは、今ある機能を使ってHS2028の到来をどう検知するかに焦点を当てます。

日本 税関の品目分類検索で確実に追う

日本税関の品目分類検索は、検索対象を輸入と輸出で切り替えられ、実行関税率表や輸出統計品目表など複数コンテンツを対象にできます。さらに、税番は上位2桁、4桁、6桁、全9桁の指定が可能で、検索対象日時も指定できます。(税関総合情報)

HS2028対応状況を確認するうえでの実務ポイントは、検索対象日時です。発効日をまたぐ案件では、同一品目でも結果が変わり得ます。ポータル側がHS2028に切り替われば、2028年1月1日以降の日付指定で新しいコード体系の検索結果が出るはずです。社内側では、案件の通関予定日に合わせたコード参照という運用を、今のうちに定着させると移行が楽になります。

アメリカ合衆国 米国国際貿易委員会 の改正履歴で変化点を捕まえる

USITCのHTSアーカイブは、版が体系的に保存されており、年次の基本版に加えて複数の改正を時系列で追えます。改正ごとに日付があり、HTMLに加えてCSVやXLS、JSONでのダウンロードが用意され、改正根拠として公的な文書への参照も付いています。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

HS2028対応の観点では、ここが最大の観測地点になります。大きなコード再編が起きると、年次基本版だけでなく、複数の改正に分割されて反映される可能性があります。社内データ連携を見据えるなら、画面で眺めるよりも、ダウンロード形式で取得し、マスタ差分を機械的に検知できる体制に寄せるのが現実的です。

欧州連合 欧州委員会 TARICで日次更新の中から大改正を見分ける

TARICはEUの統合関税データベースで、関税措置だけでなく商業・農業関連の措置も統合して扱う多言語データベースです。加盟国に対して日次でデータが送信され、加盟国システムの通関処理にも使われることが明記されています。Excel形式のraw dataも提供されています。(Taxation and Customs Union)

HS2028対応状況の確認は、日次更新に埋もれがちです。ポイントは、日々の更新そのものではなく、品目体系の土台が変わるタイミングです。TARICは法令根拠も示しているので、HS2028に絡む大きな改正は、関連する法令の動きとセットで追うのが安全です。

イギリス 英国歳入関税庁 Trade Tariffは日付入力と更新情報が鍵

UKの関税検索サービスは、取引予定日を入力でき、品目、税率、割当などが時間とともに変わることを前提に設計されています。ページ上には最新ニュースと最終更新日、改正の参照導線もあります。(GOV.UK)

さらに、Trade TariffデータをAPIで取得できることも明記されています。(API Catalogue)
HS2028対応状況の確認では、日付入力欄がそのまま検証装置になります。将来日付が受け付けられる仕様であれば、2028年1月1日を入れて結果がどう変わるかを定点で観測できます。APIがある場合は、手作業確認から抜けて、定期ジョブで差分検知する運用に移しやすいのも利点です。

カナダ カナダ国境サービス庁 関税ファイルと告知をセットで見る

CBSAは、カナダの関税分類を知りたい事業者向けに、関税ファイルへのアクセス、ガイド、過去版アーカイブ、分類や原産地などの裁定、カスタムズノーティスの一覧などをまとめています。カナダの税則はWCOのHSに基づくことも明記されています。(カナダ国境サービス局)

章別に見られる関税スケジュールは、適用日と形式が整理されています。(カナダ国境サービス局)
HS2028の対応状況確認では、次の2点を並行で追うのがコツです。関税ファイルの版更新と、告知や通知の情報。版だけ見ていると背景が取りこぼれますし、告知だけ読んでいると現場適用に落ちません。

オーストラリア オーストラリア国境警備隊 Working Tariffの説明文が先行指標になる

ABFのWorking Tariffは、現行の関税分類のオンライン版であること、WCOの改正で始まった変更や、2022年1月1日開始の統計コード変更、その後の法令や統計コード変更を含むことが明記されています。分類はSchedule 3で参照する、といった構造も説明されています。(Australian Border Force Website)

ここは、HS2028対応状況の早期検知ポイントになり得ます。なぜなら、説明文がどの改正サイクルを取り込んでいるかを示しているからです。HS2028に向けて準備が進めば、説明文や対象範囲の表現が更新される可能性があります。画面の検索結果より先に、こうした概要説明が更新されることもあります。

韓国 韓国関税庁 10桁DBと6桁共通ルールを押さえる

KCSはHSコードの基本として、先頭6桁は世界共通で、7桁目以降は国ごとに異なるという構造を説明しています。韓国は10桁コードを使うことも明記されています。(韓国関税庁)
また、関税DB検索では10桁のHSコードまたは品名で検索できることが示されています。(韓国関税庁)

HS2028は6桁部分の変更を含むため、まず影響が出るのは6桁です。ただし実務で使うのは10桁です。ここがミソで、6桁の相関表だけでは社内マスタ更新が終わらない可能性があります。KCS側が国内追加桁をどう組み替えるかまで含めて、DBで早期に確認できる体制が重要になります。

中国 国務院関税税則委員会 中華人民共和国財政部 の公告を一次情報として組み込む

中国では、進出口税則が公告として公表され、例えば2026年版は2026年1月1日から実施される旨とPDFの掲載が確認できます。(関税司)

中国市場を扱う場合、現場ではポータル検索に加えて公告PDFが一次情報になります。HS2028移行でも、制度変更の根拠と施行日、変更点がどこで示されるかを見誤らないことが重要です。社内の観測リストに公告の発表ページを入れておくと、更新を取りこぼしにくくなります。

ポータル確認を社内の成果に変える運用設計

ポータルを確認して終わりではなく、社内の移行プロジェクトに落とすときの型を最後に整理します。

  1. 重要市場から優先順位を付ける
    全世界を同時に追うと疲弊します。売上、仕入れ、制裁や規制、リードタイムなどの観点で上位市場を決め、そこから始めます。
  2. 版と日付の観点でマスタを持つ
    国別に、現行版、切替予定日、確認日、参照元ポータル、担当者を持ちます。日付指定検索ができる国は、取引予定日ベースの照会に統一します。
  3. 相関表が出たら、6桁と国内追加桁を分けて管理する
    WCO相関表は6桁の基盤です。そこから先の国内追加桁は国ごとに別プロジェクトになります。両者を混ぜると、関係者が混乱します。
  4. 社内システムと外部委託先を同じタイムラインに乗せる
    ERP、PIM、貿易管理システム、フォワーダー、通関業者が別々に更新すると事故が起きます。ポータルの更新兆候をトリガーに、関係者に同報する設計にします。

まとめ

HS2028は、2028年1月1日発効の大規模改正です。2年間の準備期間で、WCO側は相関表や解説などを整備し、各国は国内法令とITを更新していきます。(世界関税機関)

だからこそ、主要国ポータルのHS2028対応状況を定点観測し、変化の兆候を早期に拾うことが、最も費用対効果の高い一手になります。画面の見た目より、版、適用日、改正履歴、日付指定検索、データ取得手段、法令根拠。この6点で見れば、HS2028移行は予測可能なプロジェクトに変わります。

情報確認日: 2026年1月31日