樹脂や接着剤、有機化学品を扱うビジネスでは、HSコードは通関のための番号にとどまりません。関税・原産地ルール・貿易統計・品目別の需要動向・規制対応まで、意思決定の土台になります。特に化学系は、同じ「樹脂」でも一次形状か溶液か、単体か混合品か、コポリマーかブレンドかで、分類や税務・規制が変わりやすい領域です。(Tulli Tilastot)
そこで効くのが、8桁でのウォッチリスト運用です。粒度が粗すぎると異変検知が遅れ、細かすぎると運用が回りません。8桁は、調達・営業・経理・貿易管理が同じ表を見て会話しやすい「実務の最小単位」になりやすいのが利点です。(Tulli Tilastot)

まず押さえる前提:6桁が共通、8桁は国や地域で変わる
HSは国際的な品目分類で、基本の共通部分は6桁です。国や地域は、その後ろに桁を追加して、より細かい管理(関税率・統計・規制)を行います。
日本でも、輸出入の申告・統計で用いる品目番号はより細かい桁数になり、先頭6桁がHSに対応するという整理が案内されています。
欧州では、8桁のCombined Nomenclature(CN)が、輸出入申告や統計の基盤として使われ、毎年改正されます。(Tulli Tilastot)
この記事では、8桁の具体例としてCN 2026のコードをベースに「初期8桁ウォッチリスト」を提示します。自社の国別コードに合わせる場合は、同じ6桁を核にして、自社が使う8桁または9桁・10桁へマッピングする、という考え方で読んでください。(Tulli Tilastot)
初期8桁ウォッチリストを「おすすめ」する条件
初期版の目的は、完璧な網羅ではありません。最小の手間で、経営に効く変化を早く拾うことです。おすすめの作り方は次の順です。
- 支出額または売上額が大きい原料・商品を優先する
- 価格変動が大きいもの、供給制約が出やすいものを優先する
- 規制や用途制限が絡みやすいものを優先する
- 上流の有機化学品と下流の樹脂・接着剤を「連鎖」で持つ
例:スチレンとPS、塩化ビニルとPVC、イソシアネートとPUなど
こうして作った初期リストを、四半期ごとに見直すだけでも、誤分類リスクと機会損失を同時に減らしやすくなります。HSの位置づけ自体が貿易実務の中核であることは、税関・行政・国際機関の説明でも一貫しています。
おすすめ:樹脂・接着剤・有機化学品の初期8桁ウォッチリスト(CN 2026例)
以下のコードと英語の元表記は、CN 2026の該当章(化学品:Chapter 29・35、樹脂:Chapter 39)を参照し、品目名は日本語に要約しています。(Tulli Tilastot)
1) 樹脂(一次形状中心、Chapter 39)
| 8桁コード | 品目(要約) | ビジネス上のウォッチ観点 |
|---|---|---|
| 39011010 | 線状ポリエチレン(比重0.94未満) | フィルム・包材、LD/LLDの境界 |
| 39011090 | ポリエチレン(比重0.94未満、その他) | 汎用LDPE、グレード混在 |
| 39012090 | ポリエチレン(比重0.94以上、その他) | HDPE、容器・パイプ向け |
| 39013000 | エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA) | 粘着・靴材、配合で用途差 |
| 39014000 | エチレンαオレフィン共重合体(比重0.94未満) | LLD系、供給先切替の影響 |
| 39021000 | ポリプロピレン(PP) | 自動車・家電、指数連動が強い |
| 39023000 | プロピレン共重合体 | 衝撃強度系、用途で価格差 |
| 39031100 | 発泡用ポリスチレン(EPS) | 建材・緩衝材、季節変動 |
| 39031900 | ポリスチレン(その他) | GPPS/HIPS、原料スチレン連動 |
| 39032000 | SAN | 透明・耐薬品、代替材との競合 |
| 39033000 | ABS | 家電・車載、上流原料の影響大 |
| 39041000 | PVC(他物質と混合なし) | VCM連動、規制と代替の影響 |
| 39042100 | PVC(非可塑化) | 建材中心、需要の地域差 |
| 39042200 | PVC(可塑化) | 可塑剤とセットで監視 |
| 39043000 | 塩化ビニル酢酸ビニル共重合体 | 接着・塗料向け、配合で揺れる |
| 39061000 | PMMA | 光学・透明材、グレード差 |
| 39069090 | アクリル系ポリマー(その他) | 粘着・塗料、用途で誤分類注意 |
| 39073000 | エポキシ樹脂 | 2液系、硬化剤とのセット輸入 |
| 39074000 | ポリカーボネート(PC) | BPA連鎖、規制・代替材 |
| 39076100 | PET(粘度数78 ml/g以上) | ボトル材寄り、規格管理 |
| 39076900 | PET(その他) | 繊維・フィルム等、用途で需給分岐 |
| 39077000 | ポリ乳酸(PLA) | バイオ系、用途拡大で区分注意 |
| 39081000 | ポリアミド(PA) | ナイロン、上流の連鎖が強い |
| 39091000 | 尿素樹脂・チオ尿素樹脂 | 木材用接着など用途限定が多い |
| 39092000 | メラミン樹脂 | 住宅・家具、原料メラミン連動 |
| 39093100 | ポリメリックMDI(粗MDI) | PU系、化学品側との境界 |
| 39094000 | フェノール樹脂 | 耐熱、用途が明確で管理しやすい |
| 39095090 | ポリウレタン(その他) | 反応性、溶剤含有で分岐しやすい |
| 39100000 | シリコーン(一次形状) | 電子・自動車、規格多様 |
| 39111000 | 石油樹脂など(粘着付与材) | 粘着剤配合の要、原料連動 |
主な根拠例として、ポリエチレンの比重による区分、PPやPS、PVC、アクリル、エポキシ、PC、PET、PA、PU、シリコーン等の該当8桁は、CN 2026のChapter 39に明記されています。(Tulli Tilastot)
2) 接着剤(Heading 3506)
| 8桁コード | 品目(要約) | ビジネス上のウォッチ観点 |
|---|---|---|
| 35061000 | 小分け販売の接着剤(正味1kg以下) | 包装形態で分岐、販促品混入に注意 |
| 35069110 | 光学用途の透明接着(FPD等向け) | 用途限定、証憑と用途説明が重要 |
| 35069190 | ポリマー系またはゴム系の接着剤(その他) | 汎用接着の母集団、処方変更が頻発 |
| 35069900 | その他の接着剤 | どこにも当てはまらない残りを管理 |
ここは包装形態と用途が決定打になります。小分け販売かどうか、またポリマー系か、用途限定かでサブヘディングが分かれます。(Tulli Tilastot)
3) 上流の有機化学品(Chapter 29中心)
樹脂と接着剤の8桁を見ても、上流の変化が拾えないと「なぜ価格が動いたか」が説明できません。初期ウォッチリストでは、次のようなモノマー・中間体を樹脂とセットで持つのが実務的です。
| 8桁コード | 品目(要約) | ひもづく下流の例 |
|---|---|---|
| 29012100 | エチレン | PE、EVA等 |
| 29012200 | プロペン(プロピレン) | PP等 |
| 29025000 | スチレン | PS、ABS、SAN等 |
| 29032100 | 塩化ビニル(クロロエチレン) | PVC等 |
| 29053100 | エチレングリコール | PET等 |
| 29053200 | プロピレングリコール | PU、樹脂用途の原料群 |
| 29101000 | エチレンオキシド(オキシラン) | 界面活性・ポリエーテル連鎖 |
| 29102000 | プロピレンオキシド | ポリオール連鎖 |
| 29103000 | エピクロロヒドリン | エポキシ樹脂連鎖 |
| 29161100 | アクリル酸・塩 | アクリル系樹脂・粘着の原料群 |
| 29161200 | アクリル酸エステル | アクリル系樹脂・粘着の原料群 |
| 29291000 | イソシアネート | PU、接着剤の反応系 |
| 29336100 | メラミン | メラミン樹脂 |
| 29337100 | カプロラクタム | PA(ナイロン) |
これらの8桁コードは、CN 2026のChapter 29に掲載されています。(Tulli Tilastot)
深掘りで差が出るポイント:8桁を「経営に効く情報」に変える
ここからが本題です。8桁を並べるだけでは、コスト削減もリスク低減も起きません。深掘りの焦点を、分類の分岐点と、意思決定に直結する変数に寄せるのがコツです。
1. 樹脂は「コポリマー・ブレンド」の判定基準が命
同じ用途でも、ホモポリマーなのかコポリマーなのか、ブレンドなのかで、見かけ上の商材名は似ていても分類上の扱いが変わり得ます。Chapter 39の注記では、コポリマーの考え方や、どのモノマーが重量で優勢かで分類する原則が示されています。(Tulli Tilastot)
運用の要点は、MSDSと技術データシートにある「組成の重量比」と「ポリマー種」を、品目マスタに必ず持たせることです。営業資料だけで判断すると、後から配合が変わった時に気づけません。
2. PEは比重0.94が一つの分水嶺
ポリエチレンは比重の閾値(0.94)で区分されるため、同じ「PE」でも型番変更や添加剤で比重が跨ぐと、8桁が変わる可能性があります。CN 2026の該当箇所でも、比重0.94未満と0.94以上でサブヘディングが分かれています。(Tulli Tilastot)
購買・品質・貿易の連携ポイントは、比重の根拠を試験条件(温度など)まで揃えておくことです。
3. 一次形状か、溶液か:溶剤比率で章を跨ぐことがある
樹脂を溶剤に溶かした「溶液」は、溶剤の重量比など条件によって、別の品目に移ることがあります。Chapter 39の注記では、揮発性有機溶剤中の溶液で、溶剤の重量が一定割合を超える場合などの扱いが示されています。(Tulli Tilastot)
接着剤やコーティング材はここで事故が起きやすいので、インボイス表記だけでなく、溶剤比率と形態(一次形状か、塗料的なものか)をチェック項目に入れるのが安全です。
4. 接着剤は「小分け販売」と「用途限定」が最重要
Heading 3506では、正味重量1kg以下の小分け販売かどうか、またポリマー系接着剤か、光学用途のような用途限定かで8桁が分かれます。(Tulli Tilastot)
現場でよくある落とし穴は、同じ製品でも包装形態だけ変えて輸入するケースです。現物は同じでも、包装が変われば8桁が変わり得るので、調達条件(容器、容量、セット構成)を購買発注書と同じ粒度で管理しておく必要があります。
5. セット品・二液キットは「混ぜた後の製品」で見る発想が必要
硬化剤と樹脂がセットになった二液キットは、個別に見るのか、セットとして見るのかが実務の論点になります。Section VIの注記には、混合してある製品を得るためのセットの扱いが示されています。(Tulli Tilastot)
この手の品目は、サンプル提供や試作段階で梱包が変わりやすいので、試作品を含めて早めに貿易管理がレビューできる体制が重要です。
6. 上流の8桁を持つと、価格と供給の説明力が上がる
樹脂や接着剤の価格は、上流のモノマー・中間体に引っ張られます。たとえば、スチレン(29025000)とPS/ABS/SAN、塩化ビニル(29032100)とPVC、エチレングリコール(29053100)とPET、エピクロロヒドリン(29103000)とエポキシ、イソシアネート(29291000)とPUというように、8桁同士の連鎖で見ると、調達説明が一段ラクになります。(Tulli Tilastot)
初期版では「上流8桁を持つのは全品目のうち上位10から20だけ」と割り切っても十分効果があります。
7. 改正対応は「年次更新」と「定期改正」の二層で設計する
8桁は国や地域で毎年更新されることがあります。CNも年次で改正されるという整理が明確です。(Tulli Tilastot)
一方で、HSの枠組み自体も定期的に改正されます。
運用としては、次の二層が現実的です。
- 年次でのコード改正チェック(8桁レベル)
- HS改正タイミングの構造変化チェック(6桁レベル)
すぐ回る運用テンプレ:月次30分で回すやり方
最後に、ビジネス側が回せる運用形に落とします。
- オーナーを決める
調達か貿易管理が主担当、品証と経理を巻き込み役にする - ウォッチ対象を3層に分ける
重点(毎月):支出上位と規制高リスク
標準(四半期):主要樹脂と主要接着剤
監視(半期):周辺原料・代替材 - 変更トリガーを決める
新グレード採用、配合変更、溶剤比率変更、包装形態変更、用途変更 - 証憑の最小セットを固定する
仕様書、MSDS、用途説明、写真(包装含む) - 例外処理をルール化する
分類が割れる品目は「判断の根拠」を必ず残す
外部照会(通関業者・専門家)を使う場合も、社内の決裁条件を決めておく
まとめ
樹脂・接着剤・有機化学品は、8桁でウォッチする価値が高い領域です。理由は単純で、分類の分岐点が多く、上流の市況変化や規制変化が下流の事業に直撃するからです。HSは6桁が世界共通で、8桁は国や地域で細分化されるという前提に立ち、初期版は「少数精鋭で回す」ことをおすすめします。(Tulli Tilastot)
注:本記事は一般的な実務の整理であり、最終的な品目番号の確定は、製品仕様と当局の運用、個別の通関判断に依存します。社内の貿易管理規程や通関実務の専門家と合わせて運用してください。







