はじめに
自動車向けセンサーは、製品自体は小さくても、関税分類の論点が多層に重なります。
半導体デバイスとしての性格、測定機器としての性格、車両用部品としての性格、電気機器としての性格が同居しやすく、条文構造上も「どこに落とすか」で迷いやすい領域です。
HS2028改正は、こうした曖昧さが残りやすい品目ほど、再分類や各国運用の揺れが顕在化しやすい局面になります。
本稿では、HS2028の確定スケジュールと、法的に見落とされがちな優先ルールを踏まえたうえで、自動車センサー周りの再分類リスクと、2028年1月1日までに実務として準備しておくべき対応を整理します。

HS2028はいつ何が起きるのか
HSは国際的な品目分類の基盤であり、多くの国の関税率、原産地規則、輸出入統計、各種規制の適用判断がHS6桁レベルに直結しています。
各国・地域の関税分類体系はHSをベースに構築されているため、HS改正はサプライチェーン全体に共通の「イベント」として波及します。
World Customs Organization(WCO)の公表によれば、Harmonized System Committee(HSC)は2025年3月10日から21日の第75回会合において、HS2028改正パッケージとなるArticle 16勧告案を暫定採択しました。
この勧告は2025年末のWCO理事会で正式採択された後、2026年1月に公表され、2028年1月1日に発効するスケジュールとされています。
同改正パッケージでは、個別提案ベースで299件の改正パッケージが取りまとめられていると報じられており、改正範囲の広さがうかがえます。
また、2025年10月に開催された第76回HSC会合では、HS2022とHS2028の相関表の整備作業が進んでいることが公表されており、企業実務ではこの相関表がコード移行検討の出発点となります。
実務上のポイントは、2028年1月1日が切替日である一方、2026年のHS2028公表後には各国が自国の関税率表や統計品目、システムの更新・周知を進めるため、企業側の準備も2026年から本格化せざるを得ないという点です。
輸出入申告、原産地証明、顧客見積りが滞らないようにするには、その少し前の段階で品目マスタと分類根拠の整備を概ね完了しておく必要があります。
自動車センサーが再分類リスクを抱えやすい理由
自動車センサー周りの再分類リスクが高まりやすい理由は、大きく三つに整理できます。
1つ目は、「車両部品として見たくなるが、法的に車両部品にできない」ケースが頻発することです。
Section XVII(車両等)の注2は、「部品及び附属品」の適用除外を列挙しており、その中でChapter 85(電気機器)とChapter 90(測定・検査機器)が明示的に除外されています。つまり、電気機器や測定機器として該当する場合、それらはそもそもSection XVIIの「部品及び附属品」としては扱えない構造です。
自動車用であっても、用途情報だけを根拠に8708(自動車の部分品)に寄せてしまう発想は、注2との整合性を欠く場合があり、ここがセンサー品目の落とし穴になります。
2つ目は、半導体デバイスに関する優先ルールが強力であることです。
Chapter 85の注記は、半導体ベースのセンサーやアクチュエータ等を含む「semiconductor-based transducers」を定義したうえで、これに該当する品目について見出し8541または8542が他のいかなる見出しにも優先するとする「優先規定(precedence provision)」を設けています。
自動車用途であっても、物として半導体デバイスに該当すれば、他章や車両部品ではなく、半導体側の見出しが優先されることになります。
センサーの小型化・チップ化・モジュール化が進むほど、この優先規定が実務に与えるインパクトは大きくなります。
3つ目は、製品形態が「チップ → モジュール → ユニット → ECU一体」と連続的で、設計次第で境界が変わることです。
同じ用途のセンサーでも、出荷形態が半導体チップ、センサーモジュール、制御基板付きユニット、車両搭載サブアセンブリなどに分かれると、それぞれで関税分類上の論点が変わり得ます。
まず押さえるべき法的ポイント
ここからが、誤分類と再分類リスクを分ける実務上の要所です。
A. 車両部品8708は「最後に」検討する
Section XVII注2により、Chapter 85やChapter 90に該当するものは、Section XVIIの「部品及び附属品」には含まれません。
したがって、自動車センサーを見る際は、「自動車用かどうか」より先に、「電気機器か」「測定機器か」「半導体デバイスか」といった定義該当性を確認する必要があります。
B. 半導体デバイスに該当すれば8541・8542が優先し得る
Chapter 85の注記では、半導体ベースのセンサーについて、半導体基板や半導体材料を用い、半導体特性に基づいて物理量や化学量を検知・変換する構造が明確に定義されています。
さらに、この注記は、該当品目については見出し8541または8542が他のどの見出しよりも優先する旨の規定を置いており、いわゆる「半導体優先」のルールが明文化されています。
この優先規定を踏まえずに「自動車用だから8708だろう」という発想で分類すると、根拠の弱いコードが量産され、HS2028移行期の見直しで再分類指摘を受けるリスクが高まります。
C. MCO(多部品集積回路)という論点が増える
Chapter 85の注記には、多部品集積回路(MCO)の定義も含まれており、センサー、アクチュエータ、受動部品などを単一パッケージに統合した構造を想定しています。
自動車分野では、信号処理や補正機能を同一パッケージに実装したセンサーが増加しており、MCO該当性をめぐる論点は今後さらに増えることが見込まれます。
HS2028における条文変更そのものだけでなく、このMCO定義を踏まえた運用面での解釈も、センサー分類の重要論点として意識されやすくなります。
自動車センサーで想定される再分類シナリオ
ここでは、HS2028移行で見直しが生じやすいパターンを、コード断定ではなく論点として整理します。
シナリオ1 車両部品扱いから電気機器扱いへ
従来、国内運用や社内慣行で8708側に寄せていた品目について、Section XVII注2の適用を根拠にChapter 85側へ見直されるパターンです。
HS2028で当該条文が直接改正されない場合でも、相関表や各国の移行指針、監査強化などを通じて、除外規定の再確認が促され、分類の揺り戻しが起きやすくなります。
シナリオ2 センサーモジュールが半導体デバイス側へ寄る
形態がチップに近いモジュールや、半導体ベースのトランスデューサ定義に該当する製品は、8541または8542の優先規定の射程に入りやすい領域です。
機械的筐体や車両専用コネクタの有無よりも、機能と構造が半導体定義に該当するかが主要な論点となります。
シナリオ3 測定機器側へ寄る
距離、角速度、圧力、温度、流量、位置などの測定機能を有し、装置として測定機器の体裁が強い場合、Chapter 90の適用が検討対象となります。
この場合も、Section XVII注2によりChapter 90は車両部品扱いから除外されるため、「自動車用だから部品」という発想だけで8708に寄せると、注2を根拠にした指摘を受けやすくなります。
シナリオ4 レーダー・カメラ等の複合ユニットで分類が揺れる
ADAS用途のレーダー、カメラ、センサーフュージョンユニット等は、単なるセンサーではなく、検知・処理・通信・制御が混在する複合機能品です。
主機能の認定、ユニットとしての完成度、単体での個別機能の有無などが争点となり、HS改正期には過去の分類根拠の再説明が求められる局面が増えるため、根拠が薄いコードほど見直されやすくなります。
ビジネス影響は関税だけではない
- FTA原産地判定
HSコードは品目別規則の適用に直結し、コード変更は原産地計算ロジックや非原産材料の判定に影響します。 - 輸出管理・制裁・規制対応
国や地域によっては特定HSコードに規制措置や追加関税を紐づけており、コード変更が規制適用の誤判定や申告漏れにつながるリスクがあります。 - 見積りと長期契約
仕入先との価格条件や顧客へのデューティ見込みをHSコード前提で固定している場合、HS2028切替前後で差額負担をどう扱うかを曖昧にすると、2028年初回出荷からトラブル化するおそれがあります。
2026年から着手すべき実務チェックリスト
2028年1月1日の切替に向け、2026年以降に段階的に進めたい実務対応を整理します。
ステップ1 対象品の棚卸しを品目マスタ単位で行う
センサー単体だけでなく、センサーモジュール、ユニット、ECU一体品、サービス部品、試作・評価用キットなど、HSコードが付与されている品目を品目マスタ単位で洗い出します。
ステップ2 技術情報の取得テンプレートを作る
分類精度は技術情報の質に依存するため、仕入先等に求める技術情報テンプレートを標準化します。
最低限、次の情報を押さえます。
- 測定対象と測定原理
- 出力形態(電気信号、デジタル通信等)
- 半導体素子の有無と種類(ディスクリート、IC、MCO等)
- 筐体・コネクタの有無、車両搭載状態での出荷か
- 単体で測定装置として機能が完結するか
- 回路ブロック図、データシート、型式仕様書
ステップ3 分類根拠メモを社内標準化する
「なぜその章か」「なぜその見出しか」「どの注記をどう適用したか」を文章で残し、監査や税関照会に耐える形で標準化します。
特に、Section XVII注2の除外規定とChapter 85注記の優先規定に一切触れていない根拠メモは、自動車センサー分野ではリスクが高いと考えるべきです。
ステップ4 HS2022→HS2028の相関表で影響を一次抽出する
WCOはHS2022とHS2028の相関表整備を進めていると公表しており、この相関表はコード変更可能性のある品目を機械的に抽出する一次スクリーニングに有用です。
最終判断は必ず個別の技術情報と法的根拠に立ち戻る前提で、「相関表はあくまで影響候補リストを作るためのツール」と位置づけることが重要です。
ステップ5 論点が重い品目は事前教示や裁定事例を活用する
各国制度に応じて、事前教示や裁定事例検索を活用し、重要品目について早期に当局見解を確認します。
製品仕様が固まっている品目から優先的に着手することで、HS2028切替時の不確実性を抑えられます。
ステップ6 契約条項と価格条件を点検する
HSコード変更や税率変更が発生した場合の価格調整条項の有無・内容を、部品供給契約や長期購買契約、顧客向け価格条件にわたって点検します。
2028年の切替を意識した条項修正を、2026〜2027年のうちに行っておくのが現実的です。
ステップ7 システム改修とマスタ統制
ERP、通関システム、原産地管理システム、品目マスタの連携ポイントを洗い出し、2028年の一斉更新に耐えられる統制を設計します。
HSコードは単なる入力情報ではなく、分類根拠とセットで管理すべきコンプライアンス情報として扱う必要があります。
HS2028に向けた実務の「勝ち筋」
HS2028は2028年1月1日に発効し、WCOは2026年1月に改正内容を公表するスケジュールを示しています。
自動車センサーは、Section XVIIの除外規定とChapter 85の半導体優先規定が同時に作用しやすい領域であり、車両部品扱いの慣行が再点検されるリスクが高い分野です。
実務上の「勝ち筋」は、ゴールとしてのコードを先に決め打ちするのではなく、製品仕様を起点に論点を分解し、根拠メモを整備し、相関表で影響を機械抽出しつつ、重要品目は早期に当局見解へ寄せていくことです。
2028年の切替は突然起こるのではなく、準備を前倒しした企業は静かに移行し、準備不足の企業だけが突然困る構図になると想定されます。


