ビジネスマン向け深掘り版(2026年1月時点)
グローバルにモノを売買する企業にとって、HSコードは単なる分類番号ではありません 。関税コスト、原産地判定、輸出入規制、制裁対応、統計、社内マスタの整合性まで、実務の土台になっています。wcoomd
その土台が、2028年1月1日に大きく更新されます 。WCO(世界税関機構)の次期改正はHS2028として実施され、勧告は2025年末に正式採択、2026年1月に公開、2028年1月1日に発効という整理が示されています 。wcoomd
本稿では、日本・EU・中国を主要対象に、HS2028の移行(切替)と監視(継続運用)を、実務の観点から深掘りします。ポイントは、単にコード表を置き換えるのではなく、社内外のデータと判断の連鎖を、期限つきで安全に繋ぎ直すことです。

1. HS2028はいつ確定し、いつ効くのか
まず日程と前提を固める
今回の改正は通常の5年サイクルではなく、例外的に1年延長され、次版は2028年1月1日に実施されます 。延長理由はパンデミックによる交渉サイクルへの影響で、次のサイクル(2033)は通常の5年に戻るという整理です 。wcoomd+1
2025年3月のHS委員会(HSC)第75回会合でHS2028改正の勧告案が暫定採択され、2025年末の正式採択後、2026年1月に公表、2028年1月1日に発効というタイムラインがWCOから明示されています 。改正内容は299セットの修正案を含み、HS2022の351件と比べて数は少ないものの、電子機器、医薬品、グリーン技術、デュアルユース製品など多岐にわたる分野で重要な変更が予想されています 。tarifftel+1
HS条約の手続として、WCO理事会が勧告した改正は通知後6か月以内に異議がなければ受諾されたものとみなされます 。wcoomd
ここから実務的に導ける結論は2つです。
結論1 2026年は「影響分析と設計の年」
勧告が公表され、比較や移行設計を進められる状態に入ります 。wcoomd
結論2 2027年は「実装と並行稼働の年」
制度対応、取引先連携、IT改修、運用訓練を終え、年末の切替を安全に越えるのが主戦場です。
2. 日本・EU・中国で「同じHS」と言っても桁と制度が違う
移行設計の前に押さえる土台
HSの国際基準は6桁ですが 、実務では各国・地域が独自の下位桁を付けます。ここを曖昧にしたまま移行を進めると、マスタは揃っているのに通関で止まる、という事故が起きます。globalior
日本
日本の輸出入手続で用いる統計品目番号は9桁で、最初の6桁がHSの番号、下3桁が国内細分です。つまり、HS2028の改正は、まず6桁部分が動き、続いて9桁全体の再編として現場に降りてきます。
EU
EUでは、HSを基礎にしたCN(Combined Nomenclature、統合品目分類表)が8桁で、さらにTARIC(Integrated Tariff、統合関税率表)はEU措置などを反映する10桁以上のコード体系です 。同じ製品でも、対EUの申告ではCNやTARICの桁まで正しく持つ必要があります。さらに、CNは原則として毎年更新される枠組みのため、HS2028対応は単発プロジェクトではなく、年次更新に接続した運用にするのが現実的です 。siccode+1
中国
中国の関税分類体系はHS6桁を基礎に、8桁の細分(中国独自の7桁目と8桁目)を持つことが中国税関の公式説明から確認できます 。第7桁と第8桁は、関税率、貿易統計、貿易政策措置のために設定された国内小分類です 。さらに申告実務では、監管(監督管理)や検査検疫などの管理要素に関連して9桁目以降の追加番号体系を扱う場面があるため 、社内マスタ上も「HS6桁」「中国8桁」「申告用の追加桁」という層構造で整理しておくと事故が減ります。china-briefing+2
実務の要点は、次の分離です。
- 国際共通のHS6桁を基幹マスタとして持つ
- 国・地域別の拡張桁(日本9桁、EU8桁と10桁、中国8桁など)を派生マスタとして持つ
- 有効開始日と終了日を必ず持たせ、2028年1月1日で切り替わるようにする
3. HS2028移行で本当に難しいのは「番号の差し替え」ではない
連鎖の断線を防ぐ8つの作業パッケージ
移行プロジェクトを失敗させる典型は、分類表の差し替えだけをゴールにしてしまうことです。実務では、HSコードに紐づく判断とデータが、社内外に連鎖しています。どこかが切れると、通関停止、追徴、納期遅延、在庫滞留になります。
以下は、日・EU・中をまたぐ企業が、現実に組むべき作業パッケージです。
3-1 影響分析
目的は「どの商品が変わるか」を早く確定することです。
WCOはHS2022とHS2028の相関表(Correlation Tables)整備を進めており、相関表の改善が議論されています 。相関表は必須のツールですが、法的拘束力を持つ文書ではない点に留意が必要です 。unstats.un+1
実務では次の順で進めると速いです。
- 売上上位、輸入額上位、利益率上位、規制品目を優先して影響の当たりを付ける
- 相関表で、変更が入る6桁を抽出する
- 変更が入る6桁の配下にぶら下がる社内品目を全て棚卸しする
- 変更の種類(分割、統合、品目注の移動、文言変更)ごとに再分類の負荷を見積もる
3-2 マスターデータ設計
HSを「属性」ではなく「重要な基幹コード」として扱う必要があります。
推奨する設計思想は、二階建てです。
一階 製品実体の識別(品名、仕様、材質、用途、機能、成分、写真、図面、SDSなど)
二階 各国分類(HS6桁、JP9桁、EU CN8桁とTARIC10桁、中国8桁など)と、その根拠
二階に有効期間を持たせないと、2027年末から2028年初の出荷が破綻します。出荷日、積載日、通関日、到着日が跨ぐためです。
3-3 再分類の意思決定プロセス
重要なのは、誰が最終判断し、どう根拠を残すかです。
おすすめの運用は、社内でリスク階層を作ることです。
- 低リスク 既存分類の微修正で済む、税率差が小さい、規制が軽い
- 中リスク 税率差が大きい、原産地ルールや許認可が絡む
- 高リスク アンチダンピング、制裁・規制、危険品、医薬・化学品、デュアルユース等に波及
高リスク領域は、各地域の事前教示や拘束力ある判断を活用して、係争リスクを下げます。
日本は、輸入前に税番や税率について税関へ照会し回答を得られる事前教示(品目分類)が制度化されています。EUはBTI(Binding Tariff Information、拘束的関税情報)が一般に3年間有効で、EU域内全体で拘束力を持つ枠組みです 。中国も、貨物の実際の輸出入前に商品帰類の予裁定申請ができる案内が税関サイトに示されています。welcometodojo+1
3-4 関税と原産地と規制の連鎖チェック
HS変更は、関税率表だけでなく、原産地規則や規制品目リストにも波及します。特にFTAの品目別規則(CTCルールなど)はHS改正で読み替えが必要になります。
したがって、移行時のチェック項目は次のように「連鎖」で設計します。
- 税率 通常税率、特恵、暫定措置
- 原産地 品目別原産地規則(PSR)の読み替え、サプライヤー証明の更新
- 規制 許可承認、輸入規制、輸出管理、制裁、二重用途、環境規制など
- 統計 社内KPI、需要予測、原価分析の分類軸
3-5 IT改修とデータ連携
影響が出やすいのは、次の周辺です。
- ERPや品目マスタの桁数制約
- 通関ソフトやフォワーダー連携の項目定義
- 電子インボイス、物流ラベル、原産地システム、輸出管理システム
特にEUはCNとTARIC、中国は申告で追加番号体系を扱う場面があるため、桁数固定の実装は危険です 。rotra+1
3-6 取引先と契約の調整
HS変更は、価格や責任分界にも影響します。実務で効くのは次の2点です。
- どちらがHSコードを確定し、誤りのコストを負担するのか
- 2028年以降、分類変更により関税や規制が変わった場合の価格調整条項
サプライヤーには、製品仕様の提出フォーマットを統一し、分類根拠の再取得を促すのが有効です。
3-7 年末年始の通関シナリオ設計
2027年末から2028年初にかけては、通関日基準で新旧が割れる可能性があります。輸送モードによってリードタイムが異なるため、次を事前に決めます。
- どの日付をもってHS2028を適用するか(通関受理日、申告日、蔵置許可日など、各地域の実務に合わせる)
- 出荷を前倒しする品目、逆に遅らせる品目
- 旧コードで出した書類と新コードでの申告がズレる場合の対応
3-8 ガバナンスと監査可能性
HSは担当者の経験に依存しやすい領域です。移行期ほど、属人化がリスクになります。
最低限、次の体制を置くのが現実的です。
- オーナー 通関コンプライアンス責任者
- 協力 調達、物流、営業、経理、IT、法務
- 意思決定会議 高リスク分類のみ合議、低リスクはルール化
- 監査ログ 誰が、いつ、どの根拠で変更したか
4. 監視の実務要点
HS2028は切替が終わってからが本番
ここで言う監視とは、同じ製品でも、時間と地域でコードが変わり得る前提で、社内データと実際の申告を継続的に整合させる運用です。
4-1 WCOレベルの監視
WCOはHS委員会の活動の中で、HS改正に向けた相関表整備を進めていることが公表されています 。相関表はWCOのウェブサイトで公開され、ユーザビリティ課題が継続的に議論されています。ddcustomslaw+1
実務では、WCO側の更新を受けて社内の比較表を更新し、影響品目の再確認を四半期ごとに回す形が堅いです。
4-2 日本の監視
日本は統計品目番号が9桁で、最初の6桁がHS、下3桁が国内細分である点を踏まえ、更新の粒度を二段階で見ます。また、事前教示(品目分類)の公開情報検索も提供されており、類似品の判断や根拠整理に使えます。
監視の実務例
- 四半期 主要品目について、事前教示の類似回答や分類変更の兆候をチェック
- 月次 社内の例外申告(差戻し、補正、税関照会)を集計し、分類起因の案件を重点レビュー
4-3 EUの監視
EUはCNとTARICという二層に加え、BTIが実務上の重要な拠り所になります 。siccode+1
BTIは一般に3年有効ですが、品目分類の変更、新しいEU分類規則、裁判所の判決、説明ノートの改正などの状況では、3年の期間が短縮され、BTI決定が無効化される場合があります 。HS2028切替では既存BTIの棚卸しが必須です。welcometodojo
監視の実務例
- 年次 CNの年次更新に合わせて、EU向けコードの一斉更新
- 四半期 BTIの有効性レビューと、適用コードが変わった場合の影響評価
- 月次 TARIC措置の変更による追加対応の有無を確認
4-4 中国の監視
中国はHSを基礎に8桁までの細分があり 、さらに申告では監管等の追加番号体系を扱う場面があるため 、システムと運用で分けて管理するのが安全です。また、実際の輸出入前に商品帰類の予裁定を申請できる案内があるため、高リスク品目は予裁定を活用して変更期の係争を減らします。english.customs+2
監視の実務例
- 月次 中国向けの申告差戻し理由を分類起因とそれ以外に分解して分析
- 四半期 予裁定の取得状況と、社内ルールへの反映状況を点検
5. 2026年から逆算するロードマップ
今から何をやるべきか
2026年上期
- HS2028の正式資料を前提に、影響分析を完成させるwcoomd
- 高リスク品目を抽出し、日・EU・中の事前教示や予裁定の取得計画を立てる
- HS6桁と地域別拡張桁を分離したマスタ設計に着手する
2026年下期
- 再分類を量産できる体制へ移行(根拠テンプレ、レビュー手順、監査ログ)
- IT改修の要件確定と開発着手(桁数制約、連携インターフェース、帳票)
2027年
- 並行稼働(同一品目に旧コードと新コードを紐づけ、有効日で切替)
- フォワーダーや通関業者とテスト
- 年末年始の通関シナリオ訓練
2028年1月
- 本番切替後の30日間は、例外処理を優先する集中監視期間とし、差戻し理由を即日で分類し再発防止を回す
6. よくある落とし穴
日・EU・中で特に起きやすい
落とし穴1 HS6桁だけ更新して、下位桁の更新が遅れる
日本は9桁、EUは8桁と10桁、中国は8桁など、下位桁が実務の通関可否を左右します 。rotra+2
落とし穴2 原産地ルールの読み替えを後回しにする
HS改正と原産地ルールは連動し、相関表の質がFTA運用に直結します。
落とし穴3 既存の拘束力ある判断を棚卸ししない
EUのBTIは一般に3年有効ですが、改正等で無効化される場合があり得ます 。切替でコードが変わるなら、既存判断の有効性確認を必ず組み込みます。welcometodojo
落とし穴4 監視がニュースチェックで終わる
監視は、更新情報を読むだけでは足りません。社内マスタ、申告データ、差戻し理由の分析まで含めて閉じる仕組みが必要です。
7. まとめ
HS2028対応を「プロジェクト」で終わらせないために
HS2028は2028年1月1日に発効します 。しかも今回は例外的にサイクルが延長され 、次の改正(2033)も見据えた継続的な運用が求められます。unstats.un+2
日・EU・中国をまたぐ企業の勝ち筋は、次の3点に集約されます。
- HS6桁を基幹に、地域別拡張桁を分離してマスタ設計する
- 相関表と追跡ツールで影響分析を固め、再分類を仕組み化する
- 切替後を見据え、年次更新と一体化した監視運用に接続する
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