【WCO改正解説】センサー・半導体の「境界」が変わる

──「用途」から「構造」判定への実務的転換と、企業が取るべき対応

センサーと半導体は、いまや自動車から産業機械、家電、医療機器に至るまで、あらゆる製品の中核部品です。しかし、貿易実務の現場では、その技術的進化ゆえに分類の境界線が曖昧になっています。

「機能はセンサー(測定)だから第90類ではないか?」「いや、構造は集積回路(IC)そのものだから第85類ではないか?」──こうした解釈の揺れは、国や担当官によって判断が分かれる大きなリスク要因となっていました。

この問題に対し、WCO(世界税関機構)のHS委員会は、分類意見(Classification Opinions)を通じて明確な判断基準を打ち出しています。特に第73回HS委員会(2024年3月)で採択された決定は、センサーと半導体の境界線に新たな「構造重視」のルールを確定させる重要な転換点となりました。

本稿では、この決定が実務に与える影響と、企業がいま講じるべき対策について解説します。


1. 何が決まったのか? センサー内蔵ICは「85.42」へ

今回、実務への影響が特に大きいのは、以下の製品群が第90類(計測機器等)ではなく、明確に**「電子集積回路(HS 85.42)」**として分類整理された点です。

WCO分類意見の要点(代表例)

対象製品のイメージWCO分類 (HS)実務上のポイント
複数のスイッチ機能(複数ダイ)を1パッケージに内蔵するIC
(例:モータドライバ等)
8542.39用途がモータ駆動であっても、構造が「マルチチップIC」の定義に合致すれば85.42を優先。
2つのセンサーダイを同一パッケージに封止したホールセンサーIC
(角度・位置検出用)
8542.39「角度・位置の検出(測定)」という用途があっても、ICとしての一体性・構造要件を重視し、第90類を排除。

これらの決定において、WCOは一般解釈規則(GIR)1および6に加え、**第85類注12(b)(iii)(マルチチップ集積回路の定義)を根拠としています。 特にホールセンサーICの事例は、「測定機能を持つものは第90類」という従来の直感的な判断を覆し、「構造がICであれば第85類」**という原則を強く印象づけるものとなりました。

2. WCOが示した判断軸:機能ではなく「構造と一体性」

今回の分類意見が企業に示唆しているのは、「争点になりやすい『用途』よりも、まず『構造』を見よ」というメッセージです。

分類意見で重視された構造要件

  • 複数ダイ(または機能ブロック)の集積: 複数のダイが1つのパッケージに収められていること。
  • 受動・能動素子の不在: マルチチップICの場合、ダイ以外の追加回路要素(個別のコンデンサや抵抗等)が含まれていないこと。
  • 不可分な一体性: ダイ製造およびパッケージングの時点で、物理的に一体化されていること。

【重要な注意点:相互接続の解釈】

実務上、「ダイ同士が直接ワイヤで繋がっていない(電気的に相互接続されていない)なら、マルチチップICの定義(注12(b)(iii))に当たらないのでは?」と判断し、第90類へ分類してしまうケースが見受けられます。

しかし、WCOの判断はこれとは異なります。ダイ同士が直接接続されていなくても、リードフレームやパッケージ配線を介して機能的に結合(相互接続)していれば、マルチチップICの要件を満たすと解釈されます。

つまり、見た目の配線にとらわれず、「パッケージ全体として一つのICとして機能しているか」という構造的一体性が、分類の決定打となるのです。

3. 法的根拠:第85類注12が持つ「強制力」

この線引きを支えているのが、関税定率法(HS条約)における第85類注12の規定です。

注12は、半導体デバイス(85.41)と電子集積回路(85.42)を定義すると同時に、以下の強力な優先ルールを定めています。

「この注に規定する物品については、第85.41項及び第85.42項は、この表の他のいずれの項(第85.23項を除く。)よりも優先する。」

つまり、ある製品が「センサー」としての機能を持ち(第90類)、同時に「集積回路」の構造定義(第85類注12)も満たす場合、HS条約は「第85類(半導体/IC)に分類せよ」と強制しているのです。

今回のWCOの決定は、この原則をセンサーIC等の「境界領域」の製品に厳格に適用した結果と言えます。

4. 企業への影響:分類ブレ=経営リスク

この解釈更新を単なる「コード変更」と捉えるのは危険です。不正確な分類が引き起こす「不確実性コスト」は、関税率の差以上にビジネスを圧迫します。

  • 通関遅延・追加照会: 構造説明が不十分で「センサー(90類)では?」と疑義を持たれ、貨物が止まる。
  • 事後調査での否認: 過去に遡って過少申告を指摘され、加算税・延滞税が発生する。
  • FTA/EPA適用の崩壊: HSコードが変わることで、原産地規則(CTC要件など)を満たさなくなり、関税ゼロの特典を失う。
  • システム修正の負担: 品目マスタ、ERP、輸出入システムの改修コスト。

WCOの判断が出たからといって、世界中の税関が即座に運用を統一するわけではありません。だからこそ、企業側が論理的な説明(Defense File)を用意しておく必要があります。

5. 実務チェックリスト:いま着手すべき5つのアクション

  1. 対象品目の棚卸し(Inventory)センサーIC、MEMS、モータドライバ、パワーモジュールなど、境界領域にあるSKUを抽出。現行のHS採番理由が「用途」寄りになっていないか再点検します。
  2. 「構造」を証明する技術資料の整備単なるスペックシート(機能説明)では不十分です。パッケージ内部構造、ダイの枚数・構成、リードフレームとの接続、追加部品の有無を図解できる資料(Cross-section図など)を準備します。今回のWCO判断において、勝負を決めるのはこの情報です。
  3. 製品記述(Description)の標準化インボイスやマスタ品名において、「Sensor」という単語を強調しすぎると誤解を招きます。「Integrated Circuit (Dual die Hall sensor type)」のように、構造(IC)を主語にした記述へ統一することを推奨します。
  4. 重点国での事前教示(Advance Ruling)主要な輸出入国において、今回のWCO判断が浸透しているかを確認し、リスクが高い場合は事前教示制度を利用して分類を確定させます。
  5. 変更管理(Change Management)の制度化設計変更やサプライヤ変更により、1ダイから2ダイへ、あるいは受動部品の内蔵有無が変わると、HSコードも変わる可能性があります。設計変更通知(PCN)とHS分類部門が連動する仕組み作りが不可欠です。

まとめと今後の見通し

WCOのHS委員会は、継続的にこの領域の整備を進めています。直近の第76回会合(2025年9月)に続き、次回第77回会合(2026年3月予定)でも新たな分類議論が行われる見込みです。この領域は「一度決めたら終わり」ではなく、「技術進化に合わせて更新され続ける」テーマです。

今回のWCOのメッセージは明確です。「迷ったら構造を見よ」。

特にセンサー機能を内包するデバイスについては、用途ではなく**構造(ICの定義合致性)**で85.42に整理する流れが確定しました。

経営層および実務責任者は、これを機に対象品目の棚卸しを行い、税関に対して「構造」を正しく説明できる体制(技術資料とロジックの整備)への投資を急ぐべきです。それが、無用なサプライチェーンの混乱を防ぐ最善策となります。

■HS2028■⑤半導体、トランスデューサ等のエレクトロニクス関連のHSコード

8541と8542の境界が、関税だけでなく原産地と輸出管理まで動かす

2028年1月1日に発効するHS2028は、WCO(世界税関機構)の改正勧告(HS条約第16条)に基づく次期HSです。WCOは、HS委員会(HSC)がHS2028向けの改正勧告を暫定採択し、2025年末の正式採択後に2026年1月に公表、2028年1月1日に発効すると説明しています。(世界税関機関)
EUの公式説明文書でも、HS2028の改正目的として「新技術や新製品を反映し分類を容易にする」例の一つに、半導体とトランスデューサが明示されています。

この記事では、半導体とトランスデューサ(センサー等)で、企業実務にどのような影響が出やすいかを、一次情報で確度高く言える範囲に絞って整理します。
注意点として、どのHS6桁が新設・統合・移動するかの確定は、WCOが公表するHS2028の法文と相関表(HS2022↔HS2028)で最終確認が必要です。ここでは、変化の方向性と、実務上「どこが動くと困るのか」を具体化します。(世界税関機関)


1. なぜ半導体とトランスデューサがHS2028の注目領域なのか

理由はシンプルです。分類が揺れやすいからです。
半導体は、単体デバイス、IC、複合パッケージ、センサー内蔵モジュールなど形態の進化が速く、従来の品名だけでは「どこまでが8541(半導体デバイス)で、どこからが8542(電子集積回路)か」「機器(90類など)に寄るのか」が揺れやすい分野です。

EUはHS2028改正の狙いとして、新技術の反映と分類容易化を掲げ、半導体とトランスデューサを具体例に挙げています。つまり、この周辺で文言や注記、区分の調整が入り得るという前提で企業側は備えるべきです。


2. まず押さえる 現行HSの分岐点

トランスデューサは定義がある。仕様書が弱いと誤分類が起きる

半導体とトランスデューサの分類は、第85類の注記が実務の分岐点になります。米国のSchedule B(輸出統計品目表)や豪州関税表でも、8541・8542のために「半導体デバイス」と「半導体ベーストランスデューサ」を定義し、さらに多成分IC(MCO)まで定義しています。(Census.gov)

ここで重要なのは次の3点です。

2-1. 半導体ベーストランスデューサは、センサーやアクチュエータ等を含む

定義上、半導体ベーストランスデューサは「半導体ベースのセンサー、アクチュエータ、レゾネータ、オシレータ」を含み、物理量や化学現象を電気信号に変換する等の固有機能を持つ離散デバイスと整理されています。(Census.gov)
自動車・産業機器・医療機器で多いセンサー素子やMEMS系の一部が、まさにこの定義に乗ります。

2-2. 多成分IC(MCO)は、ICとセンサー等が一体化したものを想定している

MCOは「1個以上の集積回路に、シリコンベースのセンサー等や一定の受動部品機能を組み合わせ、PCB実装用の単一ボディとして不可分にしたもの」と定義されています。(Census.gov)
つまり、同じ“センサー”でも、単体素子なのか、ICと一体のパッケージなのかで、8541と8542の分岐が生まれます。

2-3. 8541と8542は、原則として他の見出しより優先する

注記では、定義に合致する限り、8541・8542が機能ベースで他の見出しに引っ張られることを抑える優先規定が置かれています(例外は8523など)。(Census.gov)
これは「最終用途が自動車部品だから部品の見出しへ」という短絡が通りにくいことを意味します。


3. HS2028で企業に起きやすい具体的な影響

番号が変わるだけではなく、判定に必要な情報が増える

HS2028で半導体・トランスデューサ領域が動くとき、企業が現場で直面しやすい変化は大きく3つです。

3-1. 8541か8542かの判断が、より仕様依存になる

半導体ベーストランスデューサの定義は「半導体基板上に作られ、物理・化学現象を電気信号へ変換する等の固有機能を持つ離散デバイス」という技術要件を含みます。(Census.gov)
HS2028で分類容易化が進むほど、この技術要件を説明できない製品が、税関照会や差戻しの対象になりやすくなります。特に、センサー素子とセンサーモジュールを同一カテゴリで運用している会社ほど、影響が出やすいです。

3-2. センサー内蔵パッケージの扱いが、社内マスターの整合を崩しやすい

MCOの定義は、まさにセンサー内蔵ICなどの実装形態を想定しています。(Census.gov)
HS2028側で文言や区分が調整されると、同一製品群でも「この型番は8542寄り」「この型番は8541寄り」の差が出て、関税率だけでなく、原産地規則のCTC判定や統計集計が分断されがちです。

3-3. 各国の国内コード(8桁・10桁)の再整列が起きやすい

HSは6桁が国際共通で、各国はその下に独自の細分を置きます。HS6桁が動けば、国内の8桁・10桁は連鎖的に動きます。WCOは299セットの改正からなるHS2028勧告を公表し、各国は自国の関税・統計分類を整合させる必要があります。(世界税関機関)
半導体は国別の統計・規制連動が強い分野なので、国内細分の変更は現場影響が大きくなります。


4. ビジネス部門に効く論点

関税だけではない。原産地と輸出管理が同時に動く

半導体はサプライチェーンが複雑で、分類変更が与える影響が大きいことが指摘されています。業界資料でも、8541・8542の注記や定義が技術進化に合わせて改訂されてきた経緯が整理されています。(世界税関機関)
ビジネス側が押さえるべきは、分類変更が次の領域に波及する点です。

  1. 関税と追加関税の適用品目が変わり得る
  2. FTAやEPAの原産地規則で、CTCの起点コードが変わり得る
  3. 統計コードの変更で、取引実績やKPIが連続しなくなる
  4. 輸出管理や制裁対応で、コード参照のルールがある場合に差分が出る

5. いまからできる準備

HS2028の公表テキストが出た瞬間に動ける会社が勝つ

最後に、半導体・トランスデューサ領域で、準備効果が高い順に並べます。

  1. 製品を3階層に分ける
    半導体デバイス単体(8541候補)
    電子集積回路やMCO(8542候補)
    モジュールや完成品(他章の可能性が残る)
  2. 仕様情報の最小セットをマスターに持たせる
    半導体基板上の構造か
    固有機能がトランスデューサか
    ICと不可分に一体化しているか
    これらは注記の定義に直結します。(Census.gov)
  3. HS2022とHS2028の二重管理を前提に設計する
    WCOは2026年1月の公表と2028年1月1日の発効を示しています。切替直前の一括置換は高リスクです。(世界税関機関)
  4. 高額品目と規制連動品目は、分類根拠メモを先に作る
    後から説明できる根拠があるかどうかで、照会対応コストが決まります。

まとめ

HS2028は、半導体とトランスデューサを含む新技術領域で、分類を容易にする方向が公式に示されています。
そして現行制度でも、トランスデューサやMCOは第85類注記で技術的に定義されており、製品形態の違いが8541と8542の分岐を生みます。(Census.gov)

企業にとっての実務インパクトは、番号の付け替え以上に、分類の説明責任が増え、マスター整合と原産地・規制連動が同時に揺れる点です。
いまのうちに、製品群を階層分解し、定義に効く仕様項目を整備しておけば、HS2028の確定テキストと相関表が出た瞬間に、最短で安全な移行ができます。