第85類と第90類の境界をどう見抜くか

直近事例から学ぶ、ビジネス現場の判断軸

はじめに

HSコードの第85類と第90類は、実務で最も迷いやすい境界の一つです。理由は明確です。最近の製品ほど、電気機器であると同時に、測定機器、検査機器、光学機器、医療機器としての性格も持つからです。

日本税関は、品目分類が関税だけでなく、原産品判定や貿易統計の基礎になると説明しています。実務では、関税率表、関税率表解説、分類例規、事前教示事例をあわせて確認することが重要です。特に関税率表解説は、WCOのExplanatory Notesを基礎として整備されています。(customs.go.jp)

第85類は電気機器やその部分品を広く受け止める類です。一方、第90類は、光学機器、写真用機器、測定機器、検査機器、精密機器、医療機器などを扱います。したがって、スマート化された装置ほど両者がぶつかりやすくなります。電子回路が入っているから第85類、センサーがあるから第90類、という見方だけでは足りません。(customs.go.jp)

第85類と第90類の境界を見る三つの軸

1 主たる機能は何か

日本税関の説明では、第90類に属する測定、試験、検査、選別、調整機器は、測定可能な量や値を検出して表示または記録できるもの、試験条件を与えて性能や精度を評価できるもの、検出した値に基づいて調整や選別を行うものとして整理されています。つまり、単に電気で動くかどうかではなく、何を測り、その結果をどう使うのかが核心になります。(customs.go.jp)

2 部分品そのものが独立した項に当たるか

第90類の注では、部分品や附属品であっても、その物品自体が第84類、第85類、第90類、第91類の特定の項で表現されるなら、原則としてその項に分類するとされています。日本税関の解説でも、変圧器、電磁石、コンデンサー、抵抗器、リレー、ランプなどは、たとえ第90類機器に組み込まれる用途であっても、第85類に残る例として示されています。最終用途だけで第90類に移るわけではない、という点は実務上とても重要です。(customs.go.jp)

3 単体ではなくシステムとして一つの機能を果たすか

日本税関は、第90類でも機能ユニットの考え方を採ると説明しています。複数の構成品が一つの明確な機能に直接寄与し、通常は同時に輸入されるような場合には、全体を一体として評価します。複数機能が併存する場合は、主たる機能で決めるという整理です。複雑な装置ほど、この視点を落とすと誤判定が起きやすくなります。(customs.go.jp)

直近事例で見る、境界の動き方

事例1 家庭用の電子血圧計は第90類

日本税関の2025年9月1日適用の改正概要では、腕帯、加圧ポンプ、血圧センサー、表示部などから成り、血圧と脈拍を自動測定する家庭用の電子血圧計が第9018.19号に分類されています。ここで効いているのは、家庭用であるかどうかよりも、生理学的な値を測定する医療系機器としての性格です。消費者向け製品であっても、測定対象と機能の中心が医療的な計測にあるなら、第90類に入ることがあります。(customs.go.jp)

事例2 光療法用の装置は第85類

同じく2025年9月1日適用の改正概要では、家庭用や美容施設、ヘルスケア施設向けに設計され、ハロゲン光源と光学ユニットで偏光を照射する光療法用装置が第8543.70号に分類されています。創傷治癒、疼痛緩和、皮膚疾患への使用などが説明されていても、それだけで自動的に第90類の医療機器になるわけではありません。ここで学ぶべきなのは、ヘルスケアや療法という販売上の言葉と、HS上の所属は一致しないことがある、という点です。(customs.go.jp)

事例3 インバーター関連は第85類と第90類に割れる

日本税関の分類例では、非同期電動機の速度制御に用いる電子速度制御装置が第8504.40号に分類される一方、三相非同期電動機の速度、トルク、位置の制御を確保することを主機能とし、リアルタイム測定カードなどを備えた電子周波数インバーターは第9032.89号に分類されています。両者の違いは、電力変換や駆動が中心なのか、測定値を取り込み、比較し、自動調整する仕組みが中心なのかという点です。見た目や商品名が似ていても、制御ロジックまで追わなければ結論は出ません。(customs.go.jp)

事例4 ゴーグル型製品は、電気製品より光学・眼鏡類として見られることがある

公開されている事前教示事例では、液晶シャッターを備えた3-Dゴーグルについて、第85.43項の固有の機能を有する電気機器よりも、第90.04項の眼鏡類の方が具体的であるとして、第9004.90号に分類しています。また、日本税関の分類例では、CPU、レンズ、各種センサー、接続端子を備え、特定のスマートフォンと組み合わせて使うVRヘッドセットも第9004.90号に分類されています。電子部品が多く入っていても、眼鏡やゴーグルとしての具体的な性格が勝つ場合がある、という好例です。(customs.go.jp)

事例5 制度改正そのものが境界の難しさを示している

HS2022では、第85.24項としてフラットパネルディスプレイモジュールの項目が新設されました。日本税関の資料では、その背景として、こうしたモジュールが従来は第85.28項や第85.29項、さらには第90類の測定機器などに分かれて分類され、統一的ではなかったことが説明されています。つまり、第85類と第90類の境界が難しいのは、担当者が迷うからではなく、制度側も整理を必要としたほど構造的に難しいからです。(customs.go.jp)

ビジネス現場で外さない見方

営業資料より、仕様書と機能説明を見る

税関資料から逆算すると、社内で第85類と第90類を見分けるときは、少なくとも次の順で確認すると精度が上がります。何を測るのか。測定値を表示または記録するのか。目標値との比較があるのか。その比較結果に基づいて自動調整するのか。単体品として輸入するのか、システムとして一体で輸入するのか。さらに、構成部品それ自体がすでに第85類などの独立した項に当たるのか。

結局のところ、営業資料のキャッチコピーより、仕様書、回路構成、制御ロジック、輸入形態のほうが分類には効きます。(customs.go.jp)

重要案件では事前教示を使う

継続輸入品や、税率、原産品判定、通関運用への影響が大きい案件では、文書による事前教示を使う価値があります。日本税関は、文書回答による事前教示について、原則として全国の税関で3年間尊重され、通関の迅速化にもつながると案内しています。一方で、貨物内容が回答時と異なる場合、期間を過ぎた場合、法令改正があった場合などは、その前提が崩れます。大事なのは、一度判断して終わりにしないことです。モデルチェンジ、ソフト更新、センサー追加、セット内容変更があれば、分類も見直す前提で運用したほうが安全です。(customs.go.jp)

まとめ

第85類と第90類の境界で問われるのは、電子化の度合いではありません。主たる機能は何か。測定や検査が本質なのか。測定値に基づく自動調整まで行うのか。部分品自体が独立した項に当たるのか。システム全体で一つの機能を果たしているのか。この順で見れば、迷いはかなり減ります。

最近の公表例が示しているのも、結局は同じことです。名前ではなく機能で見る。販促表現ではなく条文で見る。これが、第85類と第90類の境界で判断をぶらさないための基本姿勢です。(customs.go.jp)

免責事項

本記事は、日本税関その他の公的資料に基づく一般的な解説であり、個別貨物の最終的な所属区分、税率、原産品判定、通関結果を保証するものではありません。実際の品目分類は、輸入申告時の現況、構造、機能、用途、セット構成、同時輸入の有無、法令改正などによって変わり得ます。重要案件については、最新の関税率表と公表資料を確認したうえで、必要に応じて税関の文書による事前教示を利用してください。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

コメントを残す