WCOが公開したHS2028の新設コード技術解説とは何か

新設コード一覧の読み方と、企業が今すぐやるべき実務

2026年1月、WCOはHS2028改正に関する情報発信を本格化させ、改正の全体像とともに、特定分野の新設コードについて技術的な解説を公開しています。ポイントは、HS2028の新設コード一覧が「番号の追加」ではなく、規制運用と統計精度を変える設計図になっていることです。読み方を誤ると、2028年の切替時点で通関だけでなく、原産地判定、輸出入規制、社内マスタ、価格設計まで連鎖的に影響します。 (世界税関機構)

この記事では、WCOが公開した一次情報を軸に、新設コード一覧の技術解説が何を意味するのか、そして企業がどう使うべきかを、ビジネスマン向けに整理します。


1. まず前提:HS2028は何がどれだけ変わるのか

WCOは、HS2028改正が299セットの改正で構成されること、HS2022比で新設が「見出し6件、号428件」、削除が「見出し5件、号172件」であることを明示しています。発効は2028年1月1日で、残り約2年の実装期間に相関表の整備やツール更新が進む、という整理です。 (世界税関機構)

ここから読み取るべきは次の2点です。

1つ目は、企業が影響を受けるのは8桁や10桁だけではなく、土台である6桁の構造が動くことです。
2つ目は、相関表の完成を待って着手すると遅いということです。WCOが公開する技術解説は、相関表が出る前に、影響を受ける領域と論点を先読みするための材料になります。 (世界税関機構)


2. 新設コード一覧は、なぜ企業リスクに直結するのか

新設コードは、次のどれかの目的で作られます。

・国際的な規制や取締りで識別が必要になった
・統計の粒度が足りず、政策判断や需給分析に使えない
・現場の分類が割れ、法的安定性が低い

HSは「関税番号」ですが、現実には許認可、輸入規制、輸出管理、環境規制、統計、サプライチェーン可視化の共通言語です。WCOの技術解説は、新設コードがどの目的に紐づくのか、どんな条件でそのコードに落ちるのかを説明します。つまり、単なる新番号ではなく、将来の検証ポイントが文章化された資料です。 (世界税関機構)


3. 技術解説の深掘り:WCOが示した新設コードの具体像

ここでは、WCOが公開した技術解説のうち、企業実務への波及が大きい代表例を取り上げます。結論から言うと、HS2028は「環境」と「健康」の領域で、分類判断に必要なデータ項目が増えます。

3-1 プラスチック廃棄物:バーゼル条約に合わせて39.15を再構成

WCOは、プラスチック廃棄物の国際移動を巡る課題として、違法投棄や不適切処理のリスクを挙げ、バーゼル条約のプラスチック廃棄物改正に合わせてHS2028で39.15を再構成したと説明しています。 (世界税関機構)

技術解説で重要なのは、どのコードに落ちるかが「樹脂の種類」だけでなく「混合の有無」「汚染や有害性」「条約上の管理区分」によって左右される、という設計になっている点です。WCOは、危険なプラスチック廃棄物を識別する新設号や、一定条件を満たす再資源化向けの廃棄物を識別する号群などを具体的に示しています。 (世界税関機構)

企業側の実務論点は明確です。

・廃棄物やスクラップを扱う企業は、品名だけでは申告できない
・ポリマー種別、混合の有無、汚染度合い、用途(リサイクル目的)などの属性情報が必要になる
・輸出入や委託処理の契約条件に、分類根拠となるデータ提供義務を入れないと、通関遅延や差止めが起きる

これはリサイクル業だけの話ではありません。製造業でも、戻り材、端材、スクラップ、副産物を国境越えで動かす企業は直撃します。

3-2 プラスチック製品:単回使用という概念を法的に定義し、個別コードへ落とす

WCOは、プラスチック汚染に関する国際的議論を踏まえ、HS2028で「単回使用」の概念を定義し、プラスチック関連の複数品目で新設号を設けたと説明しています。 (世界税関機構)

ここがビジネス上の地雷です。単回使用かどうかが分類の分岐条件になると、製品設計と販売形態が分類に影響します。WCOは単回使用を「通常1回の使用で廃棄またはリサイクルされ、反復的または長期の使用を目的としない」ものとして定義しています。 (世界税関機構)

この定義が入ることで、企業は次の対応が必要になります。

・同じ見た目でも、単回使用か再使用かでコードが分かれる可能性がある
・営業資料や仕様書に、反復使用を前提とする設計根拠がないと、単回使用扱いで分類されやすい
・海外子会社や委託先で、説明の粒度が落ちると分類がブレる

WCOは例として、単回使用ストロー、包装容器、キャップ類、台所用品、手袋、プラスチック製帽子類などで新設号が導入されたことを挙げています。 (世界税関機構)

さらにWCOは、環境上注目されるポリマー(一次形状)や、特定の発泡ポリスチレン製品などにも新設号を設けたことを示しています。これにより、素材の種類が統計や規制運用に直結しやすくなります。 (世界税関機構)

3-3 ワクチン:30.02から分離し、30.07と30.08を新設して粒度を上げる

WCOは、HS2022ではワクチンが人用と動物用の大枠しかなく、国際貿易フローや政策対応に必要な粒度が不足していたと指摘し、HS2028でワクチン体系を再編したと説明しています。具体的には、人用ワクチンを30.07に、その他(獣医用等)を30.08に分け、疾病ベース等で細分化した構造にしています。 (世界税関機構)

医薬品企業だけでなく、コールドチェーン機材、医療機器、緊急時物資など、ヘルスケア周辺産業にも影響が及びます。理由は単純で、分類粒度が上がるほど、輸入国での規制運用や統計モニタリングが強くなるからです。 (世界税関機構)


4. 企業へのインパクト:通関だけで終わらない連鎖

新設コードは、次の領域で連鎖します。

  1. 関税コスト
    6桁が動けば、各国の8桁や10桁の枝番も再設計され、税率や特恵の適用可否が変わり得ます。 (世界税関機構)
  2. EPA・FTAの原産地判定
    品目別規則はHSベースです。6桁の再編は、PSRや関税譲許表の移行に波及し、移行期に照合ミスが起こりやすくなります。(世界税関機構)
  3. 輸出入規制とコンプライアンス
    プラスチック廃棄物のように、国際条約や環境規制と結びつく新設コードは、検査や許可、手続の厳格化とセットで動きます。 (世界税関機構)
  4. 社内マスタとデータガバナンス
    単回使用かどうか、ポリマー種別、混合や汚染など、従来は任意だった属性が、分類根拠として必須に近づきます。設計部門、調達、品質保証、通関が同じデータを共有できない企業ほど事故ります。 (世界税関機構)

5. 今すぐ実装に落とすための、実務手順

相関表が出るまで待たず、WCOの技術解説を使って前倒しで準備するのが合理的です。

ステップ1 影響品目の棚卸しを「新設コード起点」でやる

自社のHSリストから出発すると漏れます。新設コードのテーマ領域(環境、健康、食品と医薬の境界など)から逆算して、自社の製品・原材料・副産物を当てに行くのが早いです。 (世界税関機構)

ステップ2 分類根拠に必要な属性を、設計と調達に要求仕様として渡す

単回使用の定義が入った以上、製品の仕様書に「反復使用の設計意図」や「材質」を書かないと分類の説明ができません。廃棄物なら、ポリマー組成や汚染の有無をサプライヤー証明に落とす必要が出ます。 (世界税関機構)

ステップ3 2028切替はデュアル運用を前提にする

WCO自身が実装期間中に各国の法改正、IT更新、教育が必要だと述べています。企業側も、HS2022とHS2028を併記できるマスタ、社内照会フロー、申告データの変換ロジックを準備しておくのが安全です。 (世界税関機構)


6. 1枚で分かるチェックリスト

  1. 自社の品目群に、プラスチック廃棄物、単回使用製品、医療・ワクチン関連が含まれるか
  2. それらの品目で、材質や用途の属性が社内で統一されているか
  3. 単回使用と再使用の境界を、設計仕様で説明できるか (世界税関機構)
  4. 廃棄物・スクラップのポリマー種別、混合、汚染の情報を入手できるか (世界税関機構)
  5. 海外拠点や委託先と、分類根拠のテンプレートを共有しているか
  6. HS2022とHS2028を併記できるマスタ構造になっているか (世界税関機構)
  7. 規制や許認可の対象品目が、新設コードで拡大し得る前提で監視しているか
  8. 見積と価格条項に、HS変更リスクを織り込む運用があるか
  9. 原産地判定やPSRの照合で、HS移行期の例外処理を設計しているか
  10. 2027年中にテスト申告や社内リハーサルを回す計画があるか

まとめ

WCOの技術解説は、新設コード一覧を「実務で使える形」に翻訳したものです。HS2028は299セットの改正で、新設号だけでも数百規模に及びます。だからこそ、まずはWCOが技術解説で取り上げた分野から、影響と必要データを前倒しで整備するのが、最短で確実な対応になります。 (世界税関機構)

HS2028採択後、公式に何が公表されているのか

2026年1月23日現在、HS2028は「採択を経て、改正内容が公式に公表され、各国が2028年1月1日の切替に向けて国内実装へ移る」フェーズに入りました。いま重要なのは、企業が日々使うコードが多くの場合8桁以上で運用されている点です。国際共通の6桁が動くと、各国の拡張桁、通関システム、統計、FTA運用まで連鎖して動きます。したがって「採択後の公式公表状況」を押さえることは、単なる情報収集ではなく、基幹データ更新の着手判断そのものになります。 (世界関税機関)


1. まず前提:HS2028はどう採択され、いつ効力を持つのか

HS2028は、WCOのHS委員会が改正勧告(HS条約第16条に基づく勧告パッケージ)を取りまとめ、理事会での勧告を経て、異議がなければ受諾される、という国際手続で進みます。EU側の公式文書でも、理事会が勧告した改正は、締約国から6か月以内に異議がなければ受諾と扱われることが明記されています。

今回、WCOは2025年3月(HSC第75回会合)にHS2028改正案を暫定採択した旨を公表しており、その中で改正パッケージが299セットの改正から成ることなどが示されています。 (世界関税機関)
そして2026年1月21日付のWCO公表では、HS2028改正が受諾されたこと、2028年1月1日の発効に向けて相関表作成や各種ツール更新を進めることが示されています。 (世界関税機関)

さらに決定的なのが、WCOが公開している改正条文の公式PDFです。そこには、2025年6月26日の勧告に基づき受諾された改正であり、発効日は2028年1月1日であることが明記されています。 (世界関税機関)


2. 企業がいう「公式公表」は、実は5層ある

現場で混乱が起きやすいのは、「WCOが出した」だけでは通関実務がまだ動かない点です。企業の実務に効く公式公表は、おおむね次の5層で見ます。

  1. WCOの改正条文(HS条約附属書の改正)
  2. WCOの解説類の更新(HS解説書など)
  3. WCO相関表(HS2022とHS2028の対応表)
  4. 各国・地域の拡張桁の確定公表(8桁、10桁等の国内関税率表・統計品目表)
  5. 税関システム、申告様式、統計、FTA運用への実装開始

WCO自身も、受諾後の2年間で相関表作成、解説類更新、加盟国側の立法やIT改修、訓練が必要だと明確に述べています。 (世界関税機関)


3. 2026年1月時点の公式公表状況

下表は「今、一次情報として何が出ているか」を、企業実務の観点で整理したものです。

公表物2026年1月時点の状況企業にとっての意味主な一次情報
1HS条約附属書の改正条文WCOが改正条文PDFを公開、発効日も明記6桁の改正内容を一次情報で確定できるWCO改正条文PDF (世界関税機関)
1から2改正の公式概要受諾と主要改正テーマをWCOが公表影響領域の当たりを付け、社内棚卸しを開始できるWCOニュース (世界関税機関)
2主要改正ポイントの説明ページWCOが主要変更点を整理し、PDFも提示どこが大きく動くかを経営層にも説明しやすいWCO「Amendments effective from 1 January 2028」 (世界関税機関)
3相関表(HS2022↔HS2028)WCOが作成を進める段階と明言品目マスター一括移行の実務は相関表が出てからが本番WCO同ページ記載 (世界関税機関)
4各国の拡張桁国により今後順次。現時点は準備段階が中心8桁以上は国別に最終確定を待つ必要次章参照
5国内IT・申告実装これから各国で本格化通関委託先やERP改修のリードタイムが勝負WCOが必要作業を明示 (世界関税機関)

4. 主要国・地域は今どこまで動いているか

ここでは、公式に確認できる「手続の開始」や「公表サイクル」を中心に、企業が追うべき観測点を示します。国ごとの8桁確定版は、最終的には官報や公定データに落ちるまで確定しません。

米国:HTSUS改正に向けた手続が公式に走り始めた

USITCは、HS改正に整合させるための調査を開始したと公表しており、2026年2月にドラフト改正案を公表し意見募集、2026年9月に大統領へ報告する見込みまで具体的に示しています。 (アメリカ合衆国国際貿易委員会)
企業にとっては、米国向け輸出入がある場合、ドラフト段階から自社品目がどう扱われるかを追い、差分が大きい品目は早期に代理店や通関先とすり合わせる価値があります。

EU:CNは毎年更新され、官報公表の締切ルールがある

EUのCNは毎年更新され、EU官報に実施規則として公表されることが欧州委員会の説明ページで明記されています。 (Taxation and Customs Union)
さらに、CNの年次版は遅くとも10月31日までに官報公表し、翌年1月1日から適用する、という運用ルールが法令上も示されています。 (EUR-Lex)
この仕組みから、HS2028を取り込むCNは、発効日の2028年1月1日に合わせた年次規則として整理されるのが通常の筋になります。ここがEUの観測ポイントです。

ASEAN:AHTN 2028の開発が公式に言及されている

ASEANは、AHTN 2022の見直しがAHTN 2028の策定につながり、WCOのHS2028改正に整合させる旨を公式ページで述べています。 (ASEAN)
ASEAN向けは国ごとの国内実装時期の差が出やすいため、AHTNと各国国内税関の切替時期を二重に追う前提で計画を組むのが安全です。

日本:統計品目表は毎年更新され、公開サイクルがある

日本の税関は輸出統計品目表を年次で公開しており、2026年1月版が2026年1月1日に掲載されています。 (税関総合情報)
HS2028そのものの国内拡張桁がいつどの形で公表されるかは、最終的には公定の関税率表・統計品目表の形で確定するため、普段からこの種の公表サイクルの場所を固定して監視するのが現実的です。


5. WCOが示した主要改正テーマを、企業の影響領域に翻訳する

WCOの説明ページでは、299セットの改正、見出し数や号数の増減、主要テーマが整理されています。 (世界関税機関)
この中で、ビジネス影響が読める論点を、経営目線に直すと次の通りです。

  1. 医療・公衆衛生関連の見える化が進む
    救急車、PPE、人工呼吸器、診断・監視機器など、緊急時物資の識別がより細かくなる方向が示されています。 (世界関税機関)
    実務では、関税というより輸出入規制、統計、危機時の簡素化措置などに波及します。
  2. ワクチンやサプリなど、境界領域の整理が進む
    ワクチンを2つの新見出しに再編すること、サプリメント向けの新見出し21.07を設けることなどが明記されています。 (世界関税機関)
    企業にとっては、食品と医薬の境界、景表法・薬機法的な位置づけ、輸入時の規制要件に直結しやすい領域です。
  3. 環境対応としてプラ関連の整理が進む
    プラ廃棄物の区分見直しや、単回使用の概念を法的注記で明確化することが示されています。 (世界関税機関)
    ここは環境規制、輸出入許可、リサイクル物流、原材料調達の説明責任に波及しやすい領域です。

6. 企業がいま着手すべき準備

相関表や各国8桁が揃うまで待つと、2027年後半からの改修ラッシュに巻き込まれます。WCOが示す通り、2年間は各国が立法とIT改修を進める期間です。 (世界関税機関)
いまは次の順で、軽くても着手しておくのが合理的です。

  1. 自社の品目マスター棚卸し
    輸出入で使っているコード、相手国の拡張桁、FTAの品目別規則で参照している桁数を一覧化します。
  2. 影響の優先順位付け
    売上・購買金額、関税率差、規制該当、原産地規則依存度の4軸で、先に見る品目を決めます。
  3. 分類根拠の整備
    改正でコードが動くときに説明できるよう、用途、材質、機能、構成、技術資料を根拠として束ねます。後で8桁が出たときの再判定が速くなります。
  4. 2026年2月以降のドラフト群を追う
    米国のようにドラフト公開予定まで明示している国は、そこが最初の分岐点になります。 (アメリカ合衆国国際貿易委員会)

まとめ

HS2028は、受諾と発効日が公式に確定し、改正条文PDFも公開されました。 (世界関税機関)
これからの勝負は、相関表の公開と、各国の拡張桁確定、公定データ化、システム実装の連鎖にどう先回りするかです。WCOが示した2年間を、企業側の準備期間として使い切れるかが、そのまま2028年1月の安定稼働に直結します。 (世界関税機関)