■専門的■ HS改正の要点は「第16条勧告」を押さえること

ビジネスマン向けに、一次情報ベースで仕組みと実務対応を整理します

ご依頼文に「下記のブログ文章」とありますが、このメッセージ内に原稿本文が見当たりませんでした。そこで、まず一次情報(HS条約本文とWCO公式情報)に基づき、同テーマの内容を正確に再構成したブログ記事案を提示します。原稿本文を貼っていただければ、次にその文章を突合チェックして全体を書き直します。


1. そもそも「第16条勧告」とは何か

結論から言うと、第16条勧告は「次のHS改正を、条約上の手続に乗せて確定させるための公式トリガー」です。

HS(Harmonized System)は、WCO(世界税関機構)の場で検討されますが、条約上の改正手続は次の骨格で動きます。

  • HS委員会(HSC)が改正案をまとめる
  • WCO理事会(Council)が、HS条約第16条の手続で締約国に改正を勧告する
  • 勧告された改正は、事務総長による通告後6か月以内に「異議(objection)」が残っていなければ受諾されたものとみなされる
  • 受諾された改正は、通告日が4月1日より前か後かで、発効日(1月1日)が条約上決まる

この「勧告→通告→6か月→受諾みなし→発効日確定」という条約ロジックを押さえるのが、HS改正を読み違えない最短ルートです。


2. なぜビジネス実務で「第16条勧告」が最重要なのか

日々の情報では「HS委員会で暫定採択」「改正案がまとまった」など、いろいろな言い方が出てきます。ですが、企業が実務計画を立てる上での分岐点は第16条勧告です。理由は3つあります。

2-1. 「法的に効くパッケージ」だから

HS改正は、個別の改正点の寄せ集めではなく、次版に組み込まれる改正一式として勧告されます。HS委員会で合意した内容が、理事会で第16条手続に乗ることで「改正としての姿」になります。

2-2. 企業の準備期間(実質2年半)を決めるから

WCOも、HS改正に時間がかかる理由として、各国法令・統計・システム対応、相関表(Correlation Tables)整備、解説書の改訂など膨大な実装作業がある点を明示しています。第16条勧告は、この実装期間を前提に動く仕組みです。(世界税関機構)

2-3. 「HS6桁」と「各国の細分」を切り分けて考える起点になるから

企業実務で混乱が起きやすいのがここです。HSの世界共通部分は原則6桁まで。一方で各国は、関税・統計目的でその下を独自に細分します。たとえば日本の統計品目表は、6桁まではHSに基づくが、それ以降は日本独自の番号、と明確に説明されています。

つまり「第16条勧告で動くのは、まずHS(原則6桁)」。その後に各国が自国のタリフや統計コードへ落とし込みます。ここを混ぜると、社内マスタ改修や顧客説明が破綻します。


3. HS改正の全体像を、ビジネスの言葉で1枚にする

HS改正は、次の順序で理解するとブレません。

  1. 民間や各国当局から改正ニーズが上がる
  2. WCOの下部組織で技術検討(レビュー)
  3. HS委員会(HSC)が投票も含めて改正案を確定方向へ
  4. 改正案をまとめて理事会へ提出
  5. 理事会が第16条の手続で締約国に改正を勧告
  6. 事務総長の通告後、6か月の異議期間
  7. 異議が残っていなければ受諾みなし
  8. 条約に従い、1月1日発効(通告日が4月1日前後でルールが分かれる)

ここでのポイントは、WCOの説明でも「HS委員会は投票機関で、一定多数が必要」「理事会承認後に一定期間が置かれる」ことが明示されている点です。(世界税関機構)


4. HS2028を例に「いつ確度が上がるか」を整理する

第16条勧告の考え方は抽象論ではなく、具体のスケジュール管理に直結します。HS2028では、WCOが次のように公表しています。

  • 2025年3月10〜21日開催のHS委員会(第75会期)で、HS2028に向けた第16条勧告パッケージを暫定採択
  • その後、手続を経て、2025年末頃に正式段階へ進み、2026年1月に公表、2028年1月1日に発効予定 (世界税関機構)
  • またHS2022とHS2028の相関表の整備も議論・準備が進められている (世界税関機構)

企業にとって重要なのは「いつから差分精査を開始できるか」です。実務上は、勧告パッケージの公開と相関表の整備が、商品マスタ移行と影響評価のスタートラインになります。


5. 第16条勧告を起点にした、企業の実務チェックリスト

第16条勧告を「ニュース」ではなく「プロジェクトの起点」と捉えると、やるべきことが整理できます。

5-1. 自社影響の棚卸し(最優先)

  • 自社で使っているHSコードの用途を洗い出す
    関税、EPA/FTA原産地判定、輸出入規制、統計、売上集計、社内マスタ、取引契約の品目定義など
  • 特に「契約書」「長期価格契約」「原産地規則(PSR)」の参照にHSが入っている箇所は要注意

5-2. 移行設計(相関表前でも進められる)

  • 現行コードのうち、分割(split)・統合(merge)が起きそうな領域を優先順位付け
  • 社内システムの改修範囲を先に見積もる
    ERP、PDM/PLM、貿易管理、品目マスタ、BI、HS管理台帳

5-3. 外部連携(通関業者と顧客への説明準備)

  • 通関業者と「改正後コードの暫定運用方針」を事前に合意
  • 顧客・販売会社へ、切替時期とコード変更可能性の説明テンプレを用意

6. よくある誤解を、一次情報で正す

誤解1 HS委員会で決まったら、もう確定

確度は上がりますが、条約上は理事会による勧告と、その後の異議期間を経て受諾みなしとなる流れが明記されています。

誤解2 改正はWCOが一方的に決める

条約上、改正案はHS委員会で検討され、理事会が第16条手続で締約国に勧告し、締約国は異議を通知できる仕組みです。

誤解3 留保ができるから、適用しない選択肢がある

条約には「条約自体への留保は認めない」旨が定められています。一方で、改正勧告に対しては第16条で異議の制度が規定されています。用語とレイヤーを混同しないことが重要です。


まとめ

HS改正を読み解く要点は「第16条勧告が、いつ、どの条件で受諾され、いつ発効するか」を条約どおりに追うことです。そこを押さえると、次の判断がブレなくなります。

  • 何が確定情報で、何が観測情報か
  • いつから社内マスタ移行に着手すべきか
  • どの部門を巻き込むべきか(通関だけでは終わらない)

■専門的■ 関税とWCOの最新発表は一次情報で確認する

情報の流れが速いほど、誤読のコストは増大します。関税率や品目番号、原産地、課税価格といった論点は、ニュースや解説記事で把握したつもりでも、実務で真に必要なのは「どの一次情報に、何が、いつから記載されているか」という正確な根拠です。一次情報で裏取りできる体制を持つだけで、追加関税の見落とし、誤分類、優遇適用ミスといった損失を大幅に減らせます。

本稿は、関税とWCOの最新発表を一次情報だけで最短確認するための実務ガイドです。

一次情報とは何か

ポイントは役割分担の理解にあります。WCOは主に国際標準としてのHS分類体系、原産地規則、課税価格評価の枠組みや解釈ツールを整備する機関です。一方で、実際に適用される関税率や国内の統計番号、運用の細目は各国や地域の税関当局が決定します。つまり、WCOの発表を見ても、輸入国の税率が自動的に変わるわけではありません。逆に、各国の関税率表だけを追っても、HS改正や解釈変更の国際的な潮流を見落としがちです。wcoomd+1

一次情報の基本形は次の3つに整理できます。

  • 国際標準と解釈の一次情報: WCOの公表物、委員会成果、公式データベース
  • 各国の関税率と国内番号の一次情報: 関税率表、統合関税、官報や法令
  • 発効日と経過措置の一次情報: 施行日、適用開始日、旧番号との対照表、手続通達

WCOの情報でも、解説書や分類意見など一部のコンテンツは購読や購入が前提となる点も押さえておきましょう。linkedin

WCOの最新発表を追うなら、まずここを見る

WCOはニュースルームで最新の公表を体系的に確認できます。年次の一覧から、どの委員会や分野で何が動いたかを俯瞰でき、理事会決定や技術文書の公表が随時更新されています。wcoomd+1

HS改正の一次情報は、段階と日付が命

HS改正は、会議での合意、理事会への提出、正式採択、公表、発効という複数の段階を踏みます。例えばHS2028改正では、HSC(調和システム委員会)が改正勧告を2025年3月に暫定採択し、2025年12月末に正式採択後、2026年1月に勧告公表、2028年1月1日に発効というタイムラインが示されています。usitc+1

このように、一次情報は必ず「公表日」と「適用日」をセットで読む必要があります。社内のマスタ更新や顧客見積への反映は、適用日を基準に逆算して計画するのが安全です。wcoomd

HSCの決定は、分類実務に直撃する

HSCは分類の解釈に直結する決定や、HS解説書の更新を積み上げます。直近の例として、2025年10月の第76回HSC会合では、分類決定、解説改訂、分類意見の新設など多数の成果が公表されています。こうした一次情報を追うことで、通関現場で突然判断が変わるリスクを先回りできます。wcoomd

WCO Trade Toolsは、一次情報に最短で届く入口

HS、原産地、課税価格を一つの公式プラットフォームで参照したい場合、WCO Trade Toolsが中核になります。HSの複数版(2022、2017、2012、2007、2002年版)、解説、分類意見、対照表、さらに約200のFTAの原産地規則まで統合している点が実務向きです。wcotradetools+2

HS分類体系自体は無料でアクセス可能ですが、解説書や分類意見などの詳細な解釈資料は購読や購入が前提のものもあります。社内で必要な範囲を決め、購読範囲と利用部門を整理しておくと、確認スピードが上がります。linkedin

関税率は各国の一次情報で確定する

同じHS6桁コードでも、関税率と国内の細分番号は国や地域で異なります。一次情報の入口を、輸入国別に固定しておくのが最も堅実です。customsknowledge+1

日本

日本税関の関税率表ページは、版の切り替えが明確で、最新版の参照導線として使えます。ただし英語ページには「参照用」であり、日本語の法令等で確認するよう明記されています。監査や社内稟議の根拠としては、日本語の法令ベースに当たる運用をセットで持つべきです。wcoomd

米国

HTSはUSITCのHTSサイトが一次情報の入口です。版や改正が頻繁に入るため、検索結果の章注や脚注、改正履歴の確認が重要です。また、HS改正に向けた国内手続の動きはUSITCのプレスリリースや、連邦官報の告示で追えます。2025年8月にはHS2028改正を反映するためのHTS修正手続が開始されており、2026年2月に予備草案、2026年9月に最終勧告という日程が示されています。usitc

EU

EUはCNとTARICの二段構えで押さえると確実です。CNは8桁の統合品目分類で年度版として整理され、2026版の公表も当局から告知されています。一方、実務で最も参照頻度が高いのは10桁の統合関税TARICです。関税率だけでなく、輸入規制などの措置も統合され、データベースとして提供されています。rotra+2

カナダ

CBSAのCustoms Tariffは、年度版のページで法令とスケジュールを整理しています。taxation-customs.europa

英国

英国はTrade Tariffサービスが一次情報の入口です。品目コード、関税、VAT、各種措置を検索でき、更新情報も出ます。taxation-customs.europa

ニュースを見たら、一次情報でこう確認する

社内の確認手順を、次の5ステップに固定すると属人化が減ります。

変化を分解する

品目番号の改正か、関税率の改正か、貿易救済や追加課税か、原産地要件か。ここを混ぜると確認先がぶれます。usitc+1

一次情報の発信主体を特定する

HSや解釈ならWCO。税率や国内運用なら輸入国当局。EUならCNとTARICの役割分担、のように整理します。wcoomd+3

日付を二つ確認する

公表日と適用日、さらに経過措置の有無を確認します。HS改正のように数年先の発効もあるため、適用日を基準にマスタ更新計画を組みます。wcoomd+1

対象範囲を一次情報の文言で切る

対象HS、例外、適用条件を一次情報の文言で範囲確定します。解説記事の要約だけで判断しないのが鉄則です。usitc+1

証跡を残す

URL、タイトル、更新日、該当箇所の保存、社内判断の根拠メモまで残します。後日の説明責任と、次回改正時の再利用が効きます。usitc

実務用に、最低限の記録項目はこの形で足ります。

項目記録内容の例
テーマHS改正、関税率改正、運用通達など
一次情報の発信元WCO、税関、USITC、EU TAXUDなど
公表日当局ページの掲載日
適用日施行日、適用開始日
影響範囲対象HS、対象国、例外条件
社内対応マスタ改定、見積更新、顧客通知
証跡PDF保存、該当箇所、社内判断メモ

ありがちな落とし穴

落とし穴は、一次情報を見ているつもりで別物を見ているケースです。

WCOの発表を、そのまま関税率の変更だと誤解する

WCOは国際標準と解釈の枠組みが中心で、税率の決定主体は各国です。wcoomd+1

参照用ページを公式根拠として扱う

日本税関の英語版関税率表が参照用であるように、ページの注記まで含めて一次情報です。wcoomd

CNとTARICを混同する

EUでは8桁の年度版CNと、10桁で日々更新される統合関税TARICで役割が違います。両方を使い分けると確認漏れが減ります。customsknowledge+1

まとめ

関税やWCO情報の確認は、スピード勝負に見えて実は「確認先の固定化」が最短です。WCOはHS、原産地、課税価格の解釈と標準を追う。税率は各国当局の関税率表や統合関税で確定する。公表日と適用日を分けて読み、証跡を残す。これだけで、判断の再現性が上がり、誤読コストが下がります。rotra+3

  1. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/tools-to-assist-with-the-classification-in-the-hs/hs-online.aspx
  2. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025.aspx
  3. https://www.linkedin.com/posts/world-customs-organization_wco-customs-nomenclature-activity-6844192177279524864-Ufrg
  4. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom.aspx
  5. https://www.usitc.gov/press_room/news_release/2025/er0812_67410.htm
  6. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/april/hsc-provisionally-adopts-the-recommendation-for-hs-2028-amendments-at-75th-session.aspx
  7. https://www.wcotradetools.org/en/harmonized-system
  8. https://customsknowledge.nl/en/publications/customs-concepts-in-the-eu-and-the-us-a-comparison/
  9. https://rotra.eu/en/knowledge-base/customs/taric-en-gn-codes
  10. https://taxation-customs.ec.europa.eu/news/global-customs-leaders-and-eu-drive-modernisation-wco-policy-commission-and-council-sessions-2025-07-01_en
  11. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2022-edition.aspx
  12. https://hstracker.wto.org
  13. https://www.youtube.com/watch?v=poBXA6j9NXo
  14. https://www.usitc.gov/sites/default/files/publications/tariff_affairs/pub5060.pdf

世界税関機構(WCO)および各国税関当局による最新の発表・更新情報

(2025年12月31日時点で確認可能な公式情報)

以下は、通関手続、HSコード分類、原産地規則に関連する、世界税関機構(WCO)および各国・地域の税関当局による最近の主な公式発表・更新情報です。


世界税関機構(WCO)による公式アップデート

  1. WCO 原産地規則アフリカ・プログラム(2025年12月)
    世界税関機構は、「原産地規則アフリカ・プログラム」の一環として、EU-WCO 原産地規則アフリカ・プログラム運営委員会に関する一連の最新情報を公表しました。
    これらの内容では、2025年における影響評価や、アフリカ地域における原産地自己証明制度の導入に向けた検討が進められていることが示されています。
    これらの情報は、2025年12月までにWCO公式サイトで公開された原産地規則関連ニュースに基づいています。

WCO ハーモナイズド・システム(HS)に関する動向

  1. HS2028 改正案の暫定採択
    世界税関機構の**HS委員会(Harmonized System Committee)**は、2025年3月から4月に開催された第75回会合において、**HS2028年版に関する第16条勧告(Article 16 Recommendation)**を暫定的に採択しました。
    この勧告は、2026年1月に正式公表され、2028年1月1日から発効する予定です。 現在、HS2022からHS2028への移行に向けて、改正内容の詳細検討や実務上の影響評価などの準備作業が進められています。

各国・地域における通関手続関連の主な動き

  1. インドのHSNコード・ガイドブック(2025年)
    インド政府は、2025年10月にHSN(Harmonized System of Nomenclature)コードの包括的ガイドブックを公表しました。
    このガイドブックは、WCOの品目分類体系に整合した内容となっており、GSTおよび通関実務におけるHS分類の一貫性向上を目的としています。
  2. 中国による輸入関税引下げの発表(2026年発効)
    中国の関税税則委員会は、2026年から約935品目を対象に輸入関税を引き下げる方針を発表しました。
    これは国家レベルの関税政策変更であり、WCOによる決定ではありませんが、通関申告や関税コスト管理に直接影響する重要な動きといえます。
  3. 米国 税関・国境警備局(CBP)による原産地表示ガイダンスの更新(2025年)
    米国の税関・国境警備局(CBP)は、2025年初頭に原産地表示(Country of Origin Marking)に関するガイダンスを更新しました。
    この更新は、WCOの原産地に関する考え方との整合性を意識したもので、複数国で生産工程を経る製品の原産地判定実務に影響を与える内容となっています。

HS分類および原産地規則に関する補足的な背景

  1. HS改正サイクルと原産地規則への影響
    WCOのハーモナイズド・システムは、原則として約5年ごとに改正されます。
    HS番号の変更は、関税率表だけでなく、EPA・FTAにおける品目別原産地規則(PSR)や関税削減スケジュールにも直接影響するため、企業実務においては早期の対応準備が不可欠です。

重要ポイントの整理

・WCOによる原産地規則アフリカ・プログラムは、2025年12月時点まで継続的に更新されている
・HS2028改正は暫定採択段階にあり、2026年正式公表、2028年発効予定
・インド、中国、米国において、HS分類や原産地、関税に関わる実務上重要な動きが確認されている

■専門的■ WCO解説書(Explanatory Notes, EN)をどう使うか

WCO解説書(Explanatory Notes, EN)をどう使うかは、いまや「通関担当のテクニカル論」ではなく、「経営としてどこまで許容するか」というライセンス・コンプライアンスのテーマになりつつあります。

以下では、ビジネスマン視点で「どこまでがセーフで、どこからがライセンス対象になり得るのか」を整理します。


1. そもそも WCO解説書とは何か ― 性格と権利関係

1-1. ENは“公式解釈資料”かつ WCOの著作物

  • EN(Explanatory Notes to the Harmonized Commodity Description and Coding System)は、HS 各見出しの範囲や典型例を説明する公式の解説書です。
  • 多くの国の関税法や通達で「HS解釈の参考資料」として位置付けられており、例えばカナダ関税法では、分類の解釈にあたって Explanatory Notes を参照すべき旨が明記されています。

同時に、ENはWorld Customs Organization(WCO)の出版物であり、著作権の対象です。
WCOの公式サイトでは、出版物・データベース等はすべて知的財産権で保護されており、複製・翻案には原則としてWCOの事前承認が必要である旨が示されています。

1-2. 「紙の本」だけでなく「デジタル版」もライセンスの対象

  • ENは紙の書籍版だけでなく、WCO Trade Tools(オンラインサービス)からも利用できます。
  • WCO Trade Tools や WCO Bookshop で提供される出版物は、購入者に対して利用ライセンスが付与されるという形で提供され、その条件は「WCO Publications 一般利用規約」によって定められています。

つまり:

「買ったから自由にコピーしてよい」ではなく、「条件付きで利用が許されるコンテンツ」
として扱う必要があります。


2. ライセンス的に「セーフ寄り」と「要注意」の境界線

経営・実務上、次の3層で考えると整理しやすくなります。

  1. セーフ寄りゾーン:通常の参照・要約レベル
  2. 要注意ゾーン:引用・翻訳を伴う「実質的な転載」
  3. ほぼ確実にライセンス要ゾーン:再配布・再販売・SaaS組み込み

2-1. セーフ寄り:参照・要約レベル

以下のような行為は、一般にリスクが比較的低いゾーンです(ただし最終判断は各社法務で)。

  • 書誌情報の記載のみ
    • 例:「HS解説書(WCO Explanatory Notes, 7th Edition, 2022, Heading 85.17)参照」
  • 段落番号や見出しを示したうえで、自分の言葉で要約
    • 例:「EN 85.17 の解説では、電話機器とデータ通信機器を同一見出しで扱う考え方が示されている、と理解できる。」
  • 社内検討資料における“内容の要約”
    • ENの原文をコピーするのではなく、「当社としてこう理解した」という形で要約して記載する。

ポイントは:

原文をコピーしない。EN全体の代替物にならない。

という線を守ることです。

2-2. 要注意:引用・翻訳を伴う「実質的な転載」

次の行為は、著作権上「複製・翻案」にあたり得るため、慎重な判断が必要です。

  • ENの英文本を連続して複数行以上、社内マニュアルや研修資料に掲載
    • 特に、解説のコア部分をそのまま抜き出して翻訳・掲載するケース。
  • ENの体系的な和訳(翻訳資料)を作成し、社内やグループ会社に配布
  • ENページのスキャン画像を貼った資料を配布
  • ブログ・セミナー資料・書籍など社外向けコンテンツに、原文を長く引用して掲載すること

ENには「翻訳・複製・改変に関するリクエストはWCOの指定窓口に連絡すること」という趣旨の記載があり、翻訳や転載が自由利用ではないことが分かります。

このゾーンに入る場合は、少なくとも:

  • 自社法務・知財に相談
  • 必要に応じて WCO(あるいは出版元)への問い合わせ・ライセンス取得

というステップを検討すべきです。

2-3. ほぼ確実にライセンスが必要:再配布・SaaS組み込み

ビジネスモデルに直接関わるレベルになると、実質的に「別サービスとして再提供」している扱いになりやすく、ほぼ確実にWCOとの契約・許諾が前提になります。

例:

  • EN全文(あるいは大部分)をデータベース化して、自社システムやSaaSに組み込み、ユーザーに検索・閲覧させる
  • ENのコンテンツをベースにした有償の解説書・eラーニング教材を販売
  • WCO Trade ToolsのコンテンツをAPI等で再配信するような形のサービス

WCO Publicationsの利用規約では、購入者に対する利用許諾は個別の契約条件に従うものであり、第三者への再配布・再販売は許されない旨が読み取れます。


3. 利用シーン別:ビジネスマンのための実務チェックリスト

ケース1:社内研修用スライドを作るとき

やりたいこと:
「HSの考え方を新人に教えたいので、ENの考え方をスライドに整理したい」

推奨アクション

  • ✅ ENに基づき、自社の言葉で要約した図やフローを作成
  • ✅ スライドの末尾に、参照元として EN の版・見出し・段落番号を記載
  • ✅ ENのスクリーンショットや原文コピペは避ける

避けたいこと

  • ❌ ENの1段落をほぼそのまま翻訳して、スライドに掲載
  • ❌ 解説書の紙面をそのまま撮影・スキャンして貼る

ケース2:取引先向けに「HS分類の考え方」を説明する資料

やりたいこと:
「当社の分類方針を説明するために、ENの解釈も軽く紹介したい」

推奨アクション

  • ✅ 「当社はWCO解説書(EN)に基づき、以下のように解釈している」として、自社の解釈を要約して説明
  • ✅ ENの参照箇所をIDレベル(見出し・段落)で明記する
    • 例:「参照:HS Explanatory Notes, 7th edition (2022), Heading 85.17, para. (I)-(A)-3」

避けたいこと

  • ❌ 取引先向け資料に、EN原文をページ単位で貼り付ける
  • ❌ 「参考のため」と称して、ENのコピーを配布する

ケース3:HS自動分類ツール・SaaS(社内/社外)

やりたいこと:
「社内向け・顧客向けに、HSコードの自動推定ツールを提供したい」

ライセンス的な論点

  • ツールの中で、
    • EN本文そのものをユーザーに閲覧させるのか?
    • それとも**“ENを読んだ上で自社が作成したロジック・要約のみ”を使うのか?**

一般的な考え方(イメージ)

  • EN本文を表示しない形で、
    • 通則・部・類注+自社ノウハウ+「ENを参照して構築した分類ルール」
      をロジックとして使うだけであれば、通常は「ENの再配布」とまでは見なされにくい。
  • 一方、ツール内で、
    • EN全文または段落を検索・閲覧できる
    • ENのテキストをほぼそのまま表示
      といった機能を提供するなら、WCOとのライセンス契約を前提に設計すべきゾーンです。

ケース4:社内分類マニュアル・ルールブック

やりたいこと:
「社内HS分類ルールブックを作成し、ENベースの解釈も体系的に整理したい」

推奨アクション

  • ✅ ENに基づく自社解釈を「○○見出しに関する当社判断基準」として整理
  • ✅ 各見出しごとに参照したENの版・見出し・段落IDを脚注に記載
  • ✅ 原文コピーではなく、要約・解釈として書き下ろす

避けたいこと

  • ❌ ENの和訳をほぼ丸ごとマニュアル化し、ENの代替物のような文書を社内配布する
  • ❌ そのマニュアルをグループ会社・取引先へ無償配布し「事実上のEN無料配布」となってしまうこと

4. 「フェアユース/著作権の例外」に期待しすぎない

各国の著作権法には、教育目的や引用に関する例外規定・フェアユース・フェアディーリングなどがあります。

しかし、ビジネスとしては次の点に注意が必要です。

  1. 各国で適用範囲が違う
    • 日本本社・EU拠点・米国子会社など、複数法域を跨ぐと一層複雑になります。
  2. WCO側の契約条件(WCO Publicationsの規約等)が優先される場面もある
    • 「著作権法上グレーだが契約で禁止」というケースもあり得る。
  3. 国際的なSaaSやグローバルな社内システムの場合、
    • “グローバルに安全側で設計する”方がトータルコストが低いことが多い。

結果として、「フェアユースだから大丈夫」と言い切るのは経営としてリスクが高い、というのが現実的な見方です。


5. 今やっておきたい3つのアクション(経営・実務向け)

5-1. ENの利用実態の棚卸し

  • どの部門が、
    • 紙の本/PDF/WCO Trade Tools を使っているか
    • 社内資料・マニュアル・ツールの中に、EN原文・翻訳がどの程度使われているか
  • 特に、
    • 研修資料
    • マニュアル・ガイドライン
    • 自動分類ツール・システム
      の3領域は重点チェック対象です。

5-2. WCO関連コンテンツの「窓口」を明確化

  • 「ENを翻訳して配りたい」「ツールに組み込みたい」などの相談を受ける部署
    • 例:法務+知財+通関部門の合同チーム
  • WCOとのコンタクト(Bookshop経由・メールなど)を一本化し、
    • 誰が
    • どの範囲について
    • どの契約条件で
      相談・交渉しているのかを管理する。

5-3. 社内ルールとテンプレ作成

  • 「EN参照の書き方」テンプレート
    • 例:「EN 85.17 (HS2022, WCO, 7th ed.), para. (I)-(A)-3 を参照した当社の解釈」
  • 「原文引用の上限」や「翻訳・転載を行う場合の社内承認フロー」
    • 何行以上の引用は法務承認必須 など、シンプルなルールに落とす。
  • 新規ツール・SaaS企画時には、
    • 企画段階で「WCOコンテンツ利用有無」をチェック項目に入れる。

6. まとめ:ビジネスマン向け5つのポイント

  1. **ENは“公式参考資料”であると同時に、WCOの著作物(有償コンテンツ)**です。
  2. 自分の言葉で要約して参照するレベルなら、通常はリスクが低い一方、
    原文・翻訳の体系的な転載はライセンスの検討が必要です。
  3. ENをツールやSaaSに組み込んで再提供する場合は、ほぼ確実にWCOとの契約が前提と考えるべきです。
  4. 「フェアユースだから大丈夫」といった国ごとの例外規定に過度に依存しないことが、グローバル企業の実務的な解です。
  5. まずは現状の利用実態の棚卸し → 窓口整理 → 社内ルール策定の3ステップから、静かに着手するのが現実的です。