HS 2028「最終合意」とデジタル製品・サービス区分が、実務に突きつけるもの


2026年1月21日、世界税関機構(WCO)はHS 2028改正(Harmonized System 2028)の改正パッケージが受け入れられたことを公表しました。発効は2028年1月1日。つまり、各国が国内制度や通関システム、統計、企業のマスタデータを切り替えるための実装期間が、いま明確にスタートした形です。 (世界関税機関)

一方で、企業の現場感として最も悩ましいのが、デジタル製品とデジタルサービスの区分です。モノとして国境を越えるのか、データとして越えるのか。単体販売なのか、ハードとサブスクが束ねられているのか。こうした論点は、HSという制度の外側にまで波及します。

この記事では、HS 2028の「最終合意」が何を意味し、なぜいま「デジタル製品・サービスの区分」が企業課題として深刻化するのかを、ビジネス実務の観点で掘り下げます。


1. まず押さえる:HS 2028で何が「最終合意」したのか

HS 2028は、第7次見直しサイクルの成果です。このサイクルは通常より長く、2019年7月から2025年6月までの6年間に延長されました。コロナ禍の影響で議論を完結させるために例外的に延長された、という位置づけです。 (世界関税機関)

その上で、2025年3月(10日から21日)に開催されたHS委員会(HSC)第75回会合で、HS 2028を構成する改正勧告(Article 16 Recommendation)が暫定採択され、「すべての交渉が完了した」とWCOが明記しています。ここで言う「最終合意」は、技術交渉としての決着、という意味合いが強い。 (世界関税機関)

そして2026年1月、WCOはHS 2028改正が受け入れられたと発表しました。改正は299セット、HS 2022比で見出し(headings)数や小見出し(subheadings)数が増減し、新設や削除も行われています。発効は2028年1月1日で、残り2年の実装期間に入った、という説明も併記されています。 (世界関税機関)

この「2年」は、制度側だけでなく企業側にも重い意味を持ちます。HSは関税率だけの話ではなく、輸入規制、統計、FTA原産地判定の入口、社内の品目マスタのキーになっていることが多いからです。


2. HS 2028の改正思想は「政策目的を帯びた可視化」

HS 2028の特徴は、貿易実務の利便性だけでなく、政策目的に直結する可視化を強めている点です。WCOは、改正が「世界的な優先課題と貿易の変化」に適応するものだと位置づけ、特に公衆衛生と環境を強く打ち出しています。 (世界関税機関)

例として分かりやすいのが、ワクチンとプラスチックです。

ワクチンについては、HS 2028で新たな見出しの枠組みを導入し、人用ワクチンとその他(動物用を含む)を分け、より詳細な分類を可能にする方向が示されています。WCOの説明では、従来30.02に含まれていたものを30.07(人用ワクチン)と30.08(その他のワクチン)に再編する構造が明確に書かれています。 (世界関税機関)
WTO側も、HS 2028の改正がワクチン等の分類の改善に繋がる点をニュースで取り上げています。 (WTO)

プラスチックについては、バーゼル条約との整合を意識して、プラスチック廃棄物の分類を再編し、有害性やPIC(事前通報・同意)対象かどうか等を識別しやすくする、とWCOは説明しています。さらに「単回使用(single-use)」という概念を法的注として明示し、分類の一貫性やデータ精度、政策実装を支えるとしています。 (世界関税機関)

ここまで読むと、HS 2028はデジタル製品やサービスにも同じ発想で踏み込むのでは、と思うかもしれません。ところが実際には、ここにHSの構造的な限界が出てきます。


3. ここが本題:HSは物品分類であり、デジタル取引の核心はしばしばHSの外にある

HSはあくまで「物品」を分類する体系です。つまり、国境を越える対象が「モノ」ならHSが中心に来る。しかし、デジタル経済では、価値の中核が「データの送信」や「利用権」「クラウド上の機能提供」に移りやすい。

このとき問題になるのが、電子送信されるデジタル製品を財(goods)と見るのか、サービス(services)と見るのか、という整理です。WCOの文書でも、電子送信される製品が財かサービスかの性格付けは、例えば電子書籍、ソフトウェア、映画、雑誌、新聞などのケースで市場アクセス上の実務的帰結を持つ、と明示されています。 (世界関税機関)

さらに、WCOのEnvironmental Scan 2024では、WTOが2024年に「電子送信への関税賦課のモラトリアム」をさらに2年更新したことに触れた上で、HSや関税評価(Valuation)との関係で、電子送信をどう扱い、どう区分し、どう課税するかをWCOとしても検討し得る論点だ、と問題提起しています。 (世界関税機関)

つまり、ここにあるのは「HS 2028の中でデジタルが整理されて終わった」という話ではなく、むしろ逆です。HS 2028が最終合意して発効準備に入ったことで、物品としての分類整備は進む。しかし、価値が電子送信やサービス提供に移る取引は、HSだけでは完結しない、という現実がより鮮明になっています。


4. ビジネス実務で使える「デジタル製品・サービス区分」3分類

制度論を待っても、企業の現場は止まりません。そこで実務上は、取引を次の3つに切り分けるところから始めるのが現実的です。

4.1 物品としてのデジタル関連商品

例:ハードウェア、端末、記録媒体、デバイスに同梱されたソフト、物理的に輸送される製品

ここはHSのど真ん中です。HS 2028の改正により、該当品目の見出しや小見出しが変わる可能性があるため、輸出入量が多い製品から順にマッピングが必要になります。WCO自身が、発効までの2年で相関表(Correlation Tables)の整備などを進める、としています。 (世界関税機関)

4.2 電子送信されるデジタル製品

例:ソフトウェアのダウンロード、電子書籍、デジタルコンテンツ配信

ここは「国境を越えて価値は移転するが、物品としての通関がない」領域です。財かサービスかの整理自体が、国際的にも一枚岩ではないことをWCO文書は示唆しています。 (世界関税機関)
また、電子送信に対する関税の扱いはWTOのモラトリアム議論と連動し得るため、ビジネス側は制度動向の監視が必要になります。 (世界関税機関)
実際、各種の通商協定でも電子送信に関税を課さない旨を定める例があり、日EU・EPAでも電子送信への関税を課さない条項が置かれています。 (外務省)

4.3 デジタルサービス

例:SaaS、クラウド利用、保守、サポート、運用代行、データ分析サービス

これはHSではなく、サービスとしての税務・契約・規制の世界が中心になります。ただし重要なのは、物品とサービスがセットで売られることが多い点です。ここを曖昧にすると、税関評価や間接税、移転価格などの論点が連鎖します。


5. いちばん危ないのは「束ね売り」:ハードとサブスク、機器と利用権、導入費と保守

デジタル製品・サービス区分の論点が、実際に燃えやすいのは「束ね売り」の場面です。

典型例として、機器の販売に、初期設定費、導入支援、トレーニング、保守、クラウド利用料が混在するケースがあります。このとき請求書や契約が一体化していると、どこまでが物品の対価で、どこからがサービスなのかが不明確になりやすい。

実務的には、物品に含まれない費用要素を切り分け、根拠を揃えることが重要です。例えばKPMGの解説でも、トレーニング、組立、保守、保証などのアフターサービスや導入後サービスは、関税上の非課税要素になり得る点が示されています(ただし具体の扱いは契約と当局実務に依存)。 (KPMG Assets)

ここでのポイントは、関税コストの最適化というよりも、説明可能性の確保です。税関・税務当局のデジタル化が進むほど、取引データの整合性は機械的に突合されやすくなります。契約、請求、製品マスタの整合が崩れると、後から修正するコストが跳ね上がります。


6. HS 2028発効までに企業がやるべきこと

HS 2028は2028年1月1日発効です。これは単なる将来の予定ではなく、すでに国際的には「切替が前提の世界」に入っています。 (世界関税機関)

デジタル製品・サービス区分の観点も含め、企業が今から進めるべき実務を、優先度順にまとめます。

  1. 取引タイプの棚卸しをする
    物品の輸出入なのか、電子送信なのか、サービス提供なのか。さらに、単体か束ね売りか。まずは売上上位とリスク上位の取引から分類します。
  2. 物品側はHS 2022からHS 2028へのマッピング準備を始める
    発効前にWCOが相関表などの実装ツールを整備するとしています。各国の8桁や10桁への落とし込みは国ごとにタイムラグが出るため、主要国別にウォッチします。 (世界関税機関)
  3. 契約と請求書を「区分できる構造」にする
    物品対価、導入支援、保守、サブスク利用料などを分け、説明可能な形にします。後追いでの区分は、監査・税関調査で弱いです。 (KPMG Assets)
  4. 製品マスタとルールを、関税分類だけでなく商品設計と連動させる
    HSは分類番号に見えますが、実際は事業の共通キーです。営業、購買、経理、法務、物流、ITが同じデータを参照できる体制が、後の事故を減らします。
  5. 電子送信の論点は、制度動向を前提に「変化に耐える設計」にする
    WCOも電子送信をどう区分し、どう課税するかは将来的に検討が必要になり得ると示唆しています。WTOのモラトリアム動向も含め、固定的な前提を置き過ぎない設計が安全です。 (世界関税機関)

おわりに:HS 2028は「コード更新」ではなく、取引の設計思想を試すイベント

WCOのHS 2028改正は、最終合意を経て2028年発効に向けた実装フェーズに入りました。公衆衛生や環境など、政策目的を帯びた可視化が強まるのが今回の特徴です。 (世界関税機関)

ただし、デジタル製品・サービスの区分という観点では、HSの最終合意が「解決」を意味しません。むしろ、HSが物品分類である以上、電子送信やデジタルサービスは別の制度軸で整理される、という構造がより鮮明になります。 (世界関税機関)

だからこそ、企業にとっての勝ち筋は、制度が完全に確定するのを待つことではありません。取引を区分できる契約と請求、説明可能なマスタ、変更に耐える運用ガバナンスを整えること。HS 2028対応は、その体制を作るための最も分かりやすいタイミングです。


■HS2028■④e-bike、ドローン、清掃ロボット関連のHSコード

番号の付け替えではなく、分類の境界線が動く

2028年1月1日発効予定のHS2028は、WCO(世界税関機構)の改正勧告(Article 16 Recommendation)に基づく新しいHS版で、299セットの改正を含みます。改正の狙いとして「新製品や国際標準の反映により分類を容易にする」例に、e-bike、清掃ロボット、ドローンが明示されています。

本稿では、公開一次情報で確度高く言える範囲に絞り、これら3分野でどのような影響が出やすいかを、ビジネスマン向けに整理します。
注意点として、改正勧告の全文(どのHS6桁がどう変わるか)は、各国の国内実装や相関表の整備と合わせて最終確認が必要です。ここでは、確定情報と、実務的に起きやすい影響を分けて説明します。(世界税関機関)


1. まず押さえるべき「影響の出方」

e-bike、ドローン、清掃ロボットに共通するリスクは、分類が揺れやすい境界線にいることです。

・製品の実態は同じでも、呼び方や用途説明で章がブレる
・自律機能やソフト機能の追加で、従来の品名表現に当てにくくなる
・各国が独自に細分(8桁、10桁)してきた分野が、HS(最初の6桁)側で整え直される

HS2028はまさにこの「当てにくい分野」を整える方向が公式説明で示されています。


2. ドローンはここが具体的に動く

自律補助機能があっても、8806で迷わない方向へ

ドローン(無人航空機)は、HS2022で見出し8806が新設され、重量区分などで細分されています。ところが近年は、帰還(Return to Home)や障害物回避のような補助的な自律機能が標準化し、「remote-controlled flight only(遠隔操縦のみ)」という文言だと実態とズレる場面が出てきました。

この点について、WCOのHS見直し小委員会(RSC)で、8806.2の品名表現を
remote-controlled flight only から remote-controlled flight, with or without auxiliary autonomous flight
へ改める合意があったこと、さらに「remote-controlled flight」の意味を定義する章注案が提案され、HS委員会へ送付されHS2028で採択され得ることが、米国政府の公開ページで具体的に説明されています。(貿易庁 | Trade.gov)

企業実務への影響は次の通りです。
・自律補助機能付きドローンでも、遠隔操縦型として8806の枠内に位置づけやすくなる
・「自律機能があるから別分類」といった誤解による差戻しや照会が減りやすい
・一方で、重量区分や用途区分(旅客運送設計など)の判定は引き続き重要

現場で必要になる証跡は、従来の仕様書に加え、操縦形態(遠隔操縦を前提にし、補助的自律機能を含むこと)、最大離陸重量、運用形態の説明です。(貿易庁 | Trade.gov)


3. 清掃ロボットはここが具体的に動く

85.08の文言や扱いを明確化する動きが出ている

清掃ロボットは、家庭用のロボット掃除機だけでなく、床洗浄、モップ掛け、業務用の自走清掃など形態が広がり、各国で分類が揺れやすい分野です。

まず現状の参考として、米国CBPの分類例では、Wi-Fi接続のロボット掃除機が「self-drive(自律走行)モード」を備えていても、真空式掃除機として8508に分類されています。(customsmobile.com)
つまり、少なくとも一部当局実務では「ロボットであること」自体は85.08から外れる理由になっていません。

一方、HS見直しの議論では、清掃ロボットについて「見出し85.08の品名表現を修正する可能性」が議題として挙がっています。HS見直し小委員会のドラフト議題(公開ファイル)には、見出し85.08に関して cleaning robots を対象とした品名修正の可能性が明記されています。(nbr.gov.bd)
さらに、WCO職員によるHS改正案の説明資料でも、清掃ロボットが改正テーマとして列挙されています。(unstats.un.org)

企業実務への影響は次の通りです。
・清掃ロボットを85.08など既存の枠に当てやすくするため、品名や注記の整備が進む可能性
・国ごとにバラついていた「ロボット清掃機器」の扱いが寄っていき、税番の安定度が上がりやすい
・逆に、これまで別章で運用していた場合は、HS2028切替時に品目マスターの見直しが必要

社内で先に整えるべきデータ項目は、清掃方式(吸引、ブラシ、モップ、洗浄液の有無)、ダスト容器の有無と容量、電動機内蔵、用途(家庭用か業務用か)、自走の有無です。ここが揃うと、切替時に分類根拠の再作成が速くなります。(customsmobile.com)


4. e-bikeは何が起きやすいか

国別の細分が先行しており、HS6桁側で整理されやすい領域

e-bikeは、HS2028で分類容易化の例として明示されています。
一方で、公開情報だけで「HS6桁が何番に分割される」と断定できる段階の資料は限られます。そこで本稿では、企業にとって現実的に起きやすい影響を、確度の高い観察事実から整理します。

観察事実として、e-bikeはすでに多くの国・地域で細分管理が先行しています。
例えば英国の公開ガイダンスでは、ペダルアシスト型電動自転車を8711 60 10(CNの区分)として扱う説明が示されています。(GOV.UK)
EUの文書でも、通常の電動自転車とスピード型電動自転車を別コードで扱ってきた経緯が記されています。(EUR-Lex)
またEUは、e-bikeがHS8711 60に分類されることを前提に、原産地の非優遇ルールの情報提供を行っています。(Taxation and Customs Union)

この状況は、次を意味します。
・HS6桁(国際共通の最初の6桁)では一括でも、各国が8桁以降で分けて管理せざるを得なかった
・その結果、国をまたぐと「同じe-bikeのはずが統計や社内マスター上は別物」になりやすい
・HS2028が分類容易化を狙う以上、HS6桁側で境界線を明確にする方向の議論が入りやすい

企業実務への影響は、コードが変わるかどうか以前に、判定に必要な客観仕様を揃えることが必須になる点です。
特に次の仕様は、将来の区分整理の基礎データとして重要度が高いです。
・ペダルアシストか、スロットル主体か
・定格出力、最高速度、車両区分の根拠
・バッテリー仕様と同梱形態
・車体重量、用途(公道、私有地、貨物用途など)

これらが揃っていないと、HS2028切替後に取引先や通関業者から「仕様を出してほしい」が集中し、出荷が止まりやすくなります。


5. 3分野共通の社内アクション

2028年に止まらないための最小セット

  1. 品目マスターに、分類に効く仕様項目を追加する
    e-bikeは出力と車両性、ドローンは操縦形態と重量、清掃ロボは清掃方式と機能で、まずは項目を揃えるのが最優先です。(貿易庁 | Trade.gov)
  2. HS2022とHS2028を二重管理できる設計にする
    切替日は2028年1月1日です。HS6桁が変わると、申告、原産地、統計、契約表示まで連鎖します。WCOもHS2028の公表と発効タイムラインを示しています。(世界税関機関)
  3. 争点になりやすい品目は、分類根拠メモを先に作る
    新技術系は「なぜその章なのか」を後から説明できることが、照会対応と監査対応のコストを決めます。HS2028はまさに、こうした分野の分類容易化を目的に含む改正です。

まとめ

HS2028で e-bike、ドローン、清掃ロボットが影響を受けやすい理由は、製品の進化速度が速く、従来の品名表現だけでは境界が曖昧になりやすいからです。EUの公式説明でも、これらが分類容易化の対象例として挙げられています。

ドローンは、補助的自律機能を前提に8806の文言を更新する提案が具体的に示されており、HS2028で採択され得ます。(貿易庁 | Trade.gov)
清掃ロボットも、85.08の扱いを明確化する議論が確認でき、実務上の揺れを抑える方向が見えます。(nbr.gov.bd)
e-bikeは各国で細分管理が先行しており、HS6桁側で整理が入りやすい領域です。(GOV.UK)