HS2028改正後のEU動向と原産地証明の実務指針:2028年に備える「二重管理」のススメ


2026年1月現在、HS条約の第8次改正となる「HS2028」はすでにWCO(世界税関機構)理事会で採択・受諾され、2028年1月1日の発効に向けてカウントダウンが始まっています。

EU向けにビジネスを行う企業にとって、今回の改正は単なるコードの書き換えでは済みません。特に注意が必要なのが、「通関用コード」と「EPA/FTA用コード」のズレから生じる原産地証明の事故リスクです。

本記事では、HS2028導入に向けたEUの動向と、企業がいま準備すべき実務指針について、信頼できる一次情報をもとに解説します。


1. 確定したタイムライン:HS2028は2028年1月1日発効

WCOの公式発表によれば、HS2028改正は2028年1月1日に発効することが確定しています。今回の改正は299セットの変更を含み、環境物品や新技術製品の分類を明確化するための大規模な見直しとなります。

WCOは現在、新旧コードの対応関係を示す**相関表(Correlation Tables)**の作成など、円滑な移行に向けた準備を進めています。企業の実務担当者にとって、この相関表は自社製品が新旧どのコードに該当するかを確認する上で最も重要な羅針盤となります。


2. EUの動き:CNコードとTARICの自動更新

EUでは、HSコードをベースに独自の細分を加えた**CN(Combined Nomenclature)を統計および関税分類の基礎としています。EU委員会(Taxation and Customs Union)によると、CNは毎年更新され、通常は前年の10月末までに翌年版が官報(Official Journal)**に掲載されます。

実装のメカニズム

  • CNの更新: HS2028の発効に合わせ、EUは2027年秋ごろに公布される「CN 2028」にて、HS2028の内容を全面的に取り込むことになります。
  • TARICとの連携: 加盟国の税関システムと日次で連携する統合データベースTARICも、このCN更新に基づいて自動的に整備されます。

つまり、EUへの輸出においては、2028年1月1日時点で現地の輸入通関システムがHS2028ベースに切り替わっているため、輸出者側も最新コードでのインボイス作成が必須となります。


3. 最大のリスク:原産地規則における「版のズレ」

HSコードが変わる際、最も事故が起きやすいのが原産地証明のプロセスです。

なぜ事故が起きるのか

多くのEPA(経済連携協定)やFTAでは、原産地規則(PSR)が特定のHSバージョンの分類に基づいています。

例えば、日EU・EPAの品目別規則は、HS2017版の分類体系を参照しています。

  • 通関現場: 2028年1月1日以降、最新のHS2028で申告する必要がある。
  • 原産地判定: 協定が改正されない限り、引き続きHS2017の基準で判定しなければならない。

この「通関用コード」と「判定用コード」の乖離を見落とすと、本来満たしているはずの関税分類変更基準(CTHなど)が満たせないと誤認したり、逆に満たしていないのに証明書を発行してしまうコンプライアンス違反につながります。


4. 日EU・EPA実務の再確認:自己申告制度の鉄則

日EU・EPAでは、輸出者自身が原産性を証明する「自己申告制度」が採用されています。実務上の要件を改めて整理しておきましょう。

  • 原産地申告文(Statement on Origin): 商業書類(インボイス等)に所定の文言を記載して作成します。
  • 有効期間: 作成日から12か月間有効です。
  • 長期申告: 同一産品の複数回出荷に対し、最大12か月間有効な包括的な申告を行うことも可能です。
  • 保存義務: 輸出者は、申告の写しおよび原産性の根拠資料を少なくとも4年間保存する義務があります。
  • 言語: 商業書類と同じ言語(英語など)で記載することが推奨されています。

特に重要なのは、輸出者参照番号として**法人番号(13桁)**を使用することです。記載がない場合でも直ちに無効とはなりませんが、EU税関からの照会リスクを避けるため、必ず記載する運用を徹底すべきです。


5. 企業が今やるべき3つのアクションプラン

2028年に向けた混乱を防ぐため、今のうちから以下の「HSの版の違いに耐える設計」を導入することを推奨します。

① 品目番号の「二重管理」体制を作る

社内の製品マスタに、以下の2つのフィールドを設け、それぞれ独立して管理できるように改修します。

  1. 通関申告用コード: 最新版(将来のHS2028/CN2028)
  2. 原産地判定用コード: 協定参照版(日EU・EPAならHS2017)

② 根拠資料(ドシエ)の固定化

原産地検認(事後調査)に備え、以下のセットを案件ごとに、あるいは製品ごとに保管(ドシエ化)します。

  • HS2017ベースでの分類根拠
  • 適用したPSR(関税分類変更基準や付加価値基準の計算根拠)
  • 部品表(BOM)とサプライヤーからの証明書

③ 影響品目の早期抽出

HS2028では、環境物品や新技術製品を中心にコードが細分化されます。自社の取扱品目が改正対象に含まれているか、WCOの相関表が出次第すぐに確認し、影響度を洗い出しましょう。


まとめ

HS2028は2028年1月1日に確実にやってきます。

EU側はCNとTARICを通じてシステム的に対応を進めますが、企業側で最も警戒すべきは**「通関は最新コード、原産地判定は旧コード」**という二重基準の運用です。

今のうちからマスタデータの二重管理体制を整え、協定ごとの参照バージョンを意識した業務フローを確立しておくことが、2028年以降もスムーズなEUビジネスを継続する鍵となります。

産業用ロボットの定義が激変。WCOによるスマート製造ロボット定義確定がもたらす未来


2026年1月28日、世界税関機構(WCO)の技術委員会から、世界の製造業と貿易実務に大きな影響を与える重要な合意事項が発表されました。それは、2028年のHSコード改正に向けた、スマート製造ロボットの定義の確定です。

これまで、単調な繰り返し作業を行うアームロボットも、AIを搭載して自律的に判断する高度なロボットも、貿易上は同じ産業用ロボットとして一括りにされてきました。しかし、今回の決定により、その歴史が終わろうとしています。

本記事では、この新しい定義が何を意味するのか、そしてメーカーや商社が2028年に向けてどのような準備をすべきかについて解説します。


産業用ロボットの分類における長年の課題

現在、多くの産業用ロボットはHSコード第8479.50項に分類されています。このコードは他掲のものを除く産業用ロボットという非常に広い定義であり、自動車工場で溶接を行う従来型のアームも、物流倉庫で障害物を避けながら荷物を運ぶ自律走行搬送ロボット(AMR)も、すべて同じ番号で申告されてきました。

しかし、技術の進化により、この大雑把な分類は限界を迎えていました。AIによる学習機能や判断能力を持つロボットと、単なるプログラム通りに動く機械を区別できないことは、適切な関税政策や安全保障貿易管理を行う上で大きな障害となっていたのです。


今回確定したスマート製造ロボットの定義

WCOが今回合意した技術指針によると、従来のロボットとスマートロボットを分ける決定的な要素は、自律的適応能力の有無です。

具体的には、以下の要件を満たすものが、2028年改正で新設される独立項(コード)の対象となります。

  • 外部環境の認識能力センサーやカメラを通じて周囲の状況をリアルタイムで把握できること。
  • 作業プロセスの自己修正能力あらかじめプログラムされた動作を繰り返すのではなく、認識した状況に基づいて、ロボット自身が動作の軌道や力加減、手順を最適化できること。
  • AIとの統合機械学習やディープラーニングのアルゴリズムを内蔵、またはクラウド経由で利用し、経験に基づいてパフォーマンスを向上させる機能を有していること。

つまり、人間が細かく指示しなくても、自分で考えて動くロボットだけが、新しい分類の対象となります。


ビジネス実務への具体的な影響

この定義変更は、単なる名称の変更ではありません。実務には以下のような影響が出ると予想されます。

1. 関税率と協定税率の変化

新しいコードが設定されることで、従来適用されていた関税率が変わる可能性があります。特に注目すべきは、情報技術協定(ITA)の適用範囲です。スマートロボットがIT製品としての性格を強く認められれば、より多くの国で無税扱いとなる可能性があります。一方で、保護主義的な政策をとる国では、ハイテク製品として新たな関税が設定されるリスクもあります。

2. 安全保障貿易管理の厳格化

AIを搭載したロボットは、軍事転用可能なデュアルユース技術とみなされやすくなります。HSコードが独立することで、輸出管理の対象として特定されやすくなり、該非判定や輸出許可の審査がこれまで以上に厳格化されることが予想されます。

3. 設備投資計画への影響

減価償却期間や補助金の対象認定において、政府がこの新しいHSコードを参照する可能性があります。スマートロボットと認定されることで、税制優遇を受けやすくなる国も出てくるでしょう。


企業が今から準備すべきこと

2028年の発効まではまだ時間があるように思えますが、製品開発のサイクルを考えれば、対応は今すぐ始めるべきです。

まず、自社の製品ラインナップや導入予定の設備が、今回のWCO定義に当てはまるかどうかを技術的な観点から検証してください。特に、適応能力の有無は、カタログスペックだけでは判断が難しいグレーゾーンになりがちです。

次に、輸出入管理システムのマスタデータ更新計画です。2028年には大規模なコードの書き換えが発生します。どの製品が新コードに移行し、どの製品が旧コードに残るのか、分類ロジックの再構築が必要です。


まとめ

WCOによるスマート製造ロボットの定義確定は、貿易ルールがようやくテクノロジーの進化に追いつこうとしている証拠です。

この変化をリスクと捉えるか、それともサプライチェーンを最適化するチャンスと捉えるか。その分かれ目は、この新しい定義を正しく理解し、自社の戦略に組み込めるかどうかにかかっています。2028年を見据えた準備は、今日から始まっています。