日本の通関実務が激変。税関が求めるHSコード分類根拠書、その真意と対策

2026年1月26日、日本の貿易実務の現場において、極めて重要な運用変更が静かに、しかし確実に動き出しました。財務省関税局が、輸入申告時におけるHSコード分類根拠書(通称:ドシエ)の任意提出を、これまで以上に強く推奨する方針を打ち出したのです。

これは単なる事務手続きの追加ではありません。これまでの結果としての数字(コード)さえ合っていればよいという時代から、なぜその数字を選んだのかというプロセス(論理)が問われる時代へと、パラダイムシフトが起きたことを意味します。

本記事では、このニュースの背景にある税関の意図と、ビジネスマンが今すぐ着手すべき具体的な対策について深掘りします。

税関が求めているのは正解へのプロセス

今回、税関が推奨を強化したドシエの提出とは、輸入申告書にHSコードを記載する際、その分類に至った論理的な根拠を記した文書を添付することを指します。

これまで、多くの企業はHSコードという結果のみを申告してきました。しかし、製品がハイテク化し、一見しただけでは機能や材質が判別できない物品が急増しています。税関職員がゼロから製品を調査し、コードの正誤を判断するには膨大な時間が必要です。そこで税関は、輸入者側にあらかじめ正解への道筋(ガイドマップ)を提示してもらうことで、審査を効率化しようとしているのです。

根拠書(ドシエ)に記載すべき3つの要素

では、具体的にどのような資料を作成すればよいのでしょうか。税関が期待するドシエには、主に以下の3つの要素が含まれている必要があります。

第一に、客観的な製品仕様です。

カタログのコピーだけでは不十分です。材質の構成比率、主要な機能、使用用途など、分類の決め手となるスペックを明確に整理する必要があります。

第二に、法的根拠の引用です。

これが最も重要です。単に「パソコンだから」という理由ではなく、「関税率表の解釈に関する通則1に基づき、第84類の注5(E)を適用した結果」といったように、関税法上のルール(通則、部注、類注)を引用して論理を構成します。

第三に、参考とした先例です。

過去の事前教示回答事例や、世界税関機構(WCO)の解説書、あるいは類似品に関する他国の分類事例などを記載することで、自社の判断が独りよがりなものではないことを証明します。

企業にとってのメリット:防御から攻撃への転換

一見すると、ドシエの作成は企業にとって負担増に思えるかもしれません。しかし、戦略的な実務担当者にとっては、これは自社を守り、物流を加速させる強力な武器となります。

最大のメリットは、通関リードタイムの短縮です。

ドシエによって分類の根拠が明確に示されていれば、税関検査官が疑義を抱く余地が少なくなります。不必要な質問や検査が減り、結果として貨物がスムーズに許可される確率が飛躍的に高まります。

もう一つのメリットは、事後調査におけるリスク管理です。

数年後に税関の事後調査が入り、万が一、申告していたHSコードが誤りだったと判定された場合でも、事前にしっかりとした根拠書を提出していれば、企業側には「正当な注意義務」を果たした証拠が残ります。これにより、悪質な虚偽申告として重加算税を課されるリスクを回避し、単なる修正申告で済む可能性が高まります。つまり、ドシエは企業のコンプライアンスを守る保険として機能するのです。

なんとなくの分類からの脱却

これまで多くの中小規模の貿易現場では、前回と同じだから、あるいは輸出者がそう言っているから、といった曖昧な理由でHSコードが決められてきました。しかし、今回の税関の動きは、そうした根拠のない分類はもはやリスクでしかないというメッセージでもあります。

今後、優秀な貿易担当者の条件は、単にコード表を検索できることではなく、そのコードである理由を文書化できる能力へとシフトしていくでしょう。

テクノロジーの活用が鍵を握る

とはいえ、すべての輸入案件で詳細なドシエを人間が手書きで作成するのは現実的ではありません。ここで重要になるのが、AIやデジタルの活用です。

製品データを入力すれば、該当する法的根拠を自動的に引用し、論理構成まで含めたドシエの下書きを生成してくれるツールの導入が、企業の競争力を分けることになります。人間はAIが作った論理を最終確認するだけで済むようになれば、業務負荷を増やさずに、コンプライアンスレベルを最高水準に引き上げることが可能です。

まとめ

2026年1月26日を境に、日本の通関実務はプロセス重視へと舵を切りました。税関からの「あなたの会社の論理を見せてください」という問いかけに対し、しっかりとしたドシエで応えられる企業だけが、通関トラブルとは無縁の強固なサプライチェーンを構築できるのです。変化を恐れず、根拠ある申告を武器にビジネスを進化させていきましょう。

センサーのHSコードで迷う「9026」と「9031」

国別分岐を間違えないための実務ガイド

センサーは見た目が似ていても、「何を測るのか」「どこまでの機能を持つのか」でHSコードが変わります。特に迷いやすいのが9026と9031です。
6桁までは国際的に共通性がありますが、8桁以降は国・地域で異なる枝分かれになります。輸出入の現場では、この国別分岐の違いが関税、原産地判定、通関リードタイム、監査対応に直結します。
(参考:Data.gov

この記事では、センサー分類で頻出する9026と9031の境界を実務的な判断軸で整理し、日本・米国・英国・EUにおける国別分岐までを明確に解説します。


前提:HSコードは輸入国税関の判断が基準

HSコードは、社内で決めた番号を一方的に通すことはできません。実際に基準となるのは輸入国税関の判断です。輸出者側の想定と輸入国側の認定が異なるケースも珍しくありません。
またEPA・FTAの適用にはHSコードが前提となるため、分類を誤ると適用税率や品目別規則の解釈がズレるリスクがあります。
(出典:JETRO

このため、社内で「おすすめ分類」を設計する際は、輸入国側でも通用する論拠と証拠を整えることが前提となります。


9026と9031の違い

判断の焦点は「測定対象」と「他の見出しに当てはまるか」

9026の範囲

液体または気体の流量・液位・圧力などの変量を測定・検査する機器。流量計、液位計、マノメーター、熱流量計などが該当します。
(出典:関税庁

測定対象が液体または気体であり、その変量を明確に測る場合は9026が第一候補です。

9031の範囲

この章で他の見出しに特定されない測定または検査用の機器・装置・機械が対象です。つまり、9031は章内で分類できない機器の「受け皿」となります。
(出典:関税庁

ただし受け皿である分、**「なぜ他の見出しではないか」**という説明が求められます。


実務で起きやすい誤分類

  1. 液体も固体も測定できるレベル計
     液位の測定は通常9026に分類されますが、米国では液体と固体の両方を測定可能なレーダー式レベル計が9031に分類された例があります。
     (例:CustomsMobile)
     → カタログに「粉体にも対応」と記載があるだけで9026主張が難しくなる場合があります。
  2. 圧力を使用しているが、測っているのは圧力そのものではない
     測定原理として圧力を用いていても、測定対象が「圧力」でなければ9026は適用困難です。測定対象が寸法や特性の場合、9031が優勢になります。
  3. 単体機能か部分品か
     製品が単独で測定を完結できるか否かで分類が変わります。米国では、コリオリ式質量流量計のコンバーターが「部分品」として9026.90.2000に分類されています。
     (出典:CustomsMobile

再現性を高める判断フロー

  • 測定対象を一文で言い切る(例:液体の流量、タンク内液位、圧力、振動など)。
  • 対象が液体または気体なら9026を優先検討。
  • 固体にも対応する場合は9031側を検討。
  • 単体機能がなければ部分品コード(9026.90、9031.90など)も確認。
  • 国別8桁以降では電子式・非電子式・航空機用などの枝を精査。

国別分岐の考え方

まず6桁で分類を固め、その後、各国の枝分かれを確認するのが安全です。

日本

  • 9026.10:液体の流量・液位測定機器
  • 9026.20:圧力測定機器
  • 9026.80:その他液体・気体変量測定機器
  • 9031.80:他の見出しに属さない測定機器
    (出典:関税庁

事前教示制度を活用し、グレーなケースは税関回答を取得しておくと監査耐性を高められます。
(参照:税関総合ポータル

米国

  • ノックセンサー:9031.80.8070
  • レーダー式レベル計:9031.80.8085
  • 流量計コンバーター(部分品):9026.90.2000
    (参照:CBP Rulings

米国ではカタログや技術文書の一語一句が分類根拠になります。確証を得たい場合はPart 177のルーリングレターを申請するのが有効です。

英国・EU

英国では電子式か非電子式か、用途限定かで9026内に枝分かれがあります。
(例:UK Trade Info

EUでは結合品目分類(CN)を基に年度ごとに改訂されます。2026年版CNは2026年1月1日から適用。BTI(Binding Tariff Information)制度を使えば法的確実性を担保できます。
(出典:EU Taxation and Customs Union)


失敗しない社内実装:分類カルテの導入

9026/9031の判定は経験に依存しやすいため、「分類カルテ」を標準化して運用すると再現性が上がります。推奨項目は以下の通り。

  • 測定対象と変量(流量、圧力、液位など)
  • 測定媒体(液体のみ・固体含む)
  • 測定原理と出力仕様
  • 単体機能の有無(部分品か否か)
  • カタログと技術資料の整合性
  • 輸入国での根拠(BTI・裁決・教示等)

「分類番号は輸入国側の判断を基準とする。したがって、輸入国側で説明できる根拠と文言に揃える」
(出典:JETRO


まとめ

  • 9026:液体または気体の流量・液位・圧力を測定する機器
  • 9031:章内他見出しで定義できない測定・検査用機器
  • 境界製品に注意:固体も測定できる・部分品・単体不可など
  • 手順:6桁で分類確定 → 各国8桁分岐を精査
  • 制度活用:日本の事前教示/米国のPart 177/EUのBTIで根拠を確保
    (参照:税関総合ポータル

このガイドは、9026と9031の議論を社内で共通言語化することを目的にしています。センサーごとの仕様や用途を当てはめることで、どこが争点になり得るかを可視化できます。

主要国のHS2028条文と即応タスクまとめ

2026年1月時点の一次情報をもとに、経営判断に直結する論点を整理する

はじめに

HSコード改正は通関部門だけのテーマではありません。
関税コスト、輸出入規制、製品マスター、原産地判定、顧客向け書類、統計、BIの集計軸に至るまで、企業の意思決定を支える共通キーが一斉に更新されるイベントです。

2026年1月21日、世界税関機構(WCO)は、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効することを公表しました。
HS2028改正は299セットの改正から構成され、全体として1,229見出し・5,852サブヘディングで構成される新たな品目表となります(HS2022比で新設6見出し・428サブヘディング、削除5見出し・172サブヘディング)。

ここからの約2年間は、単に「待つ期間」ではなく、各国が自国の関税率表や統計品目表に落とし込む準備期間です。
WCOは、この期間に相関表(HS2022とHS2028の対応関係)や関連ツールを整備し、各国による実装作業が進むと位置づけています。

本稿では、主要国ごとにどの文書が法令上の根拠となるのか(便宜上「条文」と呼びます)を整理し、企業が今すぐ着手すべき即応タスクを、経営目線で具体化します。


1. HS2028の「条文」とは何か

WCO改正と各国の国内実装

HS品目表は、HS条約(Harmonized System Convention)に基づく国際的な分類表であり、改正はWCOの手続きを経て各国に波及します。
WCO理事会が改正勧告(Article 16 Recommendation)を採択した後、締約国は6か月間、勧告された改正に対して留保(異議)を表明することができます。

この仕組みにより、企業側は「WCOの改正文書を起点に、各国の国内法令・関税率表への実装を追いかける」という発想が必要になります。

HS2028で何が変わるか

WCOと関連情報が示しているHS2028の主な特徴は、次の通りです。

  • 改正規模は299セットの改正。
  • ワクチンや医療関連品目の可視性向上(新しい見出し・サブヘディングの創設、疾病別・用途別の整理強化など)。
  • 医療・緊急対応機器(救急車、保護具、モニタリング機器など)の新サブヘディング追加。
  • 環境・廃棄物関連品目(特にプラスチック廃棄物など)の国際的な環境枠組みに沿った再編。

ここで重要なのは、分類表の更新が「見出しや小区分の新設・削除」だけでなく、「法的注・部注の改訂」や「構造再編」を含む点です。
単なるコード置換ではなく、分類根拠そのものの組み替えが起こり得るため、企業の分類ロジックやエビデンスの見直しが不可欠になります。


2. 主要国の「条文」はどこで確定するか

以下では、企業が一次情報として追いかけるべき公表物を、国・地域別に整理します。

国際(共通):WCO

  • HS2028改正文書(Article 16 Recommendation、HS2028 Nomenclature)。
  • HS2028改正概要やニュースリリース(発効日、改正件数、背景説明)。
  • HS改正手続きの説明(6か月の留保期間など)。

企業がまず押さえるべき一次情報は、WCOが公表するHS2028改正文書とその解説ページです。

EU:CN(Combined Nomenclature)への取り込み

EUは、WCOのHS改正を受け、Council Regulation (EEC) No 2658/87 に基づき、関税・統計の共通分類であるCN(Combined Nomenclature)に反映します。

  • CNは8桁で構成され、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEU固有のCNサブヘディングです。
  • 第9・10桁はTARICコードとして、EU域内の追加的な貿易措置や細分に用いられます。
  • CNは、輸入・輸出申告、関税率の決定、統計、各種規制措置の適用の基礎となります。

WCO理事会での改正勧告を受けて、EUは理事会決定・委員会実施規則などを通じてHS改正をCNに取り込みます(2026年版CNの公表など)。

米国:HTSUS(Harmonized Tariff Schedule of the United States)

米国では、USITC(U.S. International Trade Commission)がHS改正に対応するHTSUS改正案を作成し、大統領への勧告プロセスを担います。

  • 2025年8月12日付のUSITCニュースリリースにおいて、2028年版HTSへの改正作業を開始する調査「Recommended Modifications in the Harmonized Tariff Schedule, 2028」の実施が公表されています。
  • USITCは、2026年2月にHTS改正の予備的ドラフトを公表しパブリックコメントを募集し、その後、2026年9月に大統領へ報告書を提出する予定としています。

また、USITCのFAQでは、HTSコードの構造について次のように説明しています。

  • 4桁が「heading」、6桁・8桁が「subheading」であり、法的テキストとしてのHTSは8桁レベルまでで完結する。
  • さらに、10桁目は統計用細分が付されることがあり、これらを合わせてHTSUSとして運用する。

従って、企業にとっての最終的な「条文」は、大統領による改正反映後のHTSUS(8桁)と、それに基づく10桁統計番号です。

日本:9桁統計品目番号とHS版の混在

日本では、HS条約改正に合わせて、関税定率法等および関連告示・解説資料を改正し、関税率表と輸出入統計品目表に反映します(HS2022改正時も同様の整理)。

  • 日本の「統計品目番号」は9桁であり、6桁のHSコードに3桁の国内細分コードを加えた構造です。
  • 9桁コードは、日本の通関申告・貿易統計の基礎となるコードとして運用されています。

一方、EPA(経済連携協定)では、協定ごとに採用しているHSの版(例:HS2012、HS2017、HS2022など)が異なり、原産地規則の品目別規則(PSR)は協定で定めるHS版に紐づきます。
このため、日本の通関実務がHS2022や将来のHS2028に移行していても、原産地証明書等に記載するHSコードは、当該EPAで採用しているHS版に合わせる必要があると説明されています。

英国:UK Integrated Tariff(UK Global Tariff)

英国は、EU離脱後、UK Global Tariff(UKGT)に基づくUK Integrated Tariffを運用しており、HS改正に合わせて国内の統合関税表を改正します。

  • 2022年の分類改正時には、HS改正に対応したUK Integrated Tariffの変更内容や相関情報が、政府サイトの「tariff stop press」等で告知されています。
  • また、輸入関税率の案内としてUK Global Tariffに関するガイダンスが提供されています。

実務上、企業が確認すべき「条文」は、最新のUK Integrated Tariff(UK Tariff)およびその改正告知です。

カナダ:Customs Tariff

カナダでは、Customs TariffがHSに基づく国内関税率表として機能し、必要に応じて改正・公表されます。

  • カナダ国境サービス庁(CBSA)は、Customs Tariffの最新版をウェブサイト上で提供し、改正がある場合は通知・更新を行う方針を示しています。
  • HS2028改正についても、HSが多くの国の関税率表の基礎であり、カナダにも影響する旨が業界向け情報で紹介されています。

中国:HSベースの8桁体系

中国は、HSベースの分類体系(CCCCS)を用いており、8桁を標準とする国内細分を採用しています。

  • 2024年版のCCCCSでは8,966の8桁品目が存在し、最初の6桁がHSコード、7桁・8桁が中国独自の細分と説明されています。
  • 一般的な解説でも、中国のHSコードは通常8〜10桁で、最初の6桁が共通のHS、その後ろが国内サブヘディングであるとされています。

従って、中国における最終的な「条文」は、中国税関が公表する最新のCustoms Commodity Codes(CCCCS)およびその改正告示です。

韓国:10桁コード

韓国は、6桁HSを基礎に、国内で拡張した10桁のHSKコード(tariff number)を用いています。

  • 韓国税関は、HSコードの概要説明の中で、6桁は国際共通であり、各国は自国のニーズに応じて6桁以降を拡張すると説明しています。
  • 公開データセットでも、「韓国税関のHSKコードに基づく2桁・4桁・6桁・10桁の関税番号」として10桁コードを明示しています。

したがって、韓国では10桁HSKコードが実務上の最終的な「条文」として機能します。


3. 主要国別に、実務で起こりやすいこと

米国:ドラフト公開とパブリックコメント

USITCは、HS改正に整合したHTS改正のため、2028年版HTSの改正案作成プロセスを開始したと公表しています。

  • 2026年2月に予備的なドラフト改正案を公表し、パブリックコメントを募集する予定です。
  • コメント期間後、必要な修正を行い、2026年9月に最終報告書を大統領へ提出するとしています。

また、USITC FAQ等によれば、国際共通の6桁HSに対し、8桁までがHTSの法的テキストであり、その後ろの10桁までが統計用途を含む米国固有の細分となります。

企業の即応ポイント(米国)

  • 米国向けでは、6桁HSだけでなく、最終的にHTSUSの8桁・10桁レベルまで確定しないと関税・統計上の影響が判断できない。
  • 2026年2月のドラフト時点から、自社品目の候補コードを当て、論点のある品目は根拠資料(技術仕様、カタログ、判定ロジック)を前倒しで整備しておく。
  • 2027年末〜2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長いリードタイム案件では旧・新HTSの境界で書類不一致が起こりやすいため、切替条件を事前に整理する。

EU:WCO改正→CN→TARIC

EUは、WCOの改正勧告を受けたうえで、CN(8桁)に取り込み、さらにTARIC(9桁・10桁)で各種措置を追加する形で運用します。

  • CNは、EUの共通関税と統計のための分類であり、輸入・輸出申告、関税率決定、統計、各種規制措置の参照コードとして用いられます。
  • CNの構造上、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEUのCNサブヘディングであることが制度文書に明記されています。

企業の即応ポイント(EU)

  • EU向けでは、WCO段階ではなく、CNの改正情報が実務上の確定点となる(関税・統計・規制すべての基礎)。
  • HS2028で6桁が動く品目は、後続でCNサブヘディング(7・8桁)の再編が起こる可能性が高く、規制・統計要件も連動して変更されうる。
  • 関税率だけでなく、輸入規制、アンチダンピング等の措置、統計報告もCNに紐づくため、部門横断で影響評価する必要がある。

日本:9桁運用とEPAのHS版

日本では、通関・統計は9桁統計品目番号で運用され、そのうち先頭6桁がHS、後ろ3桁が国内細分です。

  • 9桁統計コードは、輸出入申告と貿易統計の基礎であり、輸出用・輸入用で3桁の細分が異なる場合があります。
  • HS改正は、関税定率法等の改正を通じて、関税率表・統計品目表に反映されます。

一方、EPAでは協定ごとに採用するHS版が異なるため、原産地規則の品目別規則は協定で定めるHS版に紐づきます。
そのため、原産地証明書などEPA関連書類に記載するHSコードは、国内通関用の最新版ではなく、協定の採用HS版に合わせる運用が必要とされています。

企業の即応ポイント(日本)

  • 社内マスターは、「国内申告用の最新版HS+9桁統計コード」と「EPA別に採用しているHS版」を並行管理できる設計が必要。
  • HS2028対応は、通関だけでなく、原産地判定・証明業務の作業量を増やしやすい(複数HS版の併存)。
  • 営業や顧客向け書類(インボイス等)に記載するコードの「版」と「桁数」を、国と用途(通関・原産地・統計)ごとに定義し直す必要がある。

英国:UK Tariffでの告知

英国は、UK Integrated Tariff(UK Global Tariffを含む)として自国の関税率表を運用し、HS改正に対応した変更や相関情報を政府サイトで告知します。

企業の即応ポイント(英国)

  • 英国向けでは、UK Tariff(UK Integrated Tariff)の最新版を確認し、要求される桁数までコードを揃えて書類の整合を取る。
  • EUと見た目は似ていても、7桁以降の国内細分の設計が異なることがあるため、CNコードの単純流用は危険。

カナダ・中国・韓国:それぞれの国内公表物が最終確定点

  • カナダ:CBSAが公表するCustoms Tariffが、HSに基づく関税率表として運用され、改正時は通知・更新が行われます。
  • 中国:中国税関が公表するCCCCSは、最初の6桁がHS、7桁・8桁が中国独自の細分で構成される8桁体系であり、必要に応じて10桁まで拡張される場合もあります。
  • 韓国:韓国税関は、6桁HSを基礎に10桁HSKコードを運用しており、輸入者は韓国の10桁体系で分類する必要があります。

企業の即応ポイント(カナダ・中国・韓国)

  • 同じ6桁HSでも、7桁以降の国内細分は国ごとに別物と割り切る。
  • 取引先向けの資料は、可能な限り相手国側の桁数(カナダのCustoms Tariff、中国の8桁、韓国の10桁等)で提示できるように準備する。
  • 制度の最終確定点は、それぞれの税関・関税率表等の公表物に置き、二次情報だけで判断しない。

4. 経営として今すぐやるべき即応タスク

ここからは国別ではなく、企業側の実務タスクに落とし込みます。鍵となるのは、「二層管理」と「切替境界の事故防止」です。

即応タスクA:棚卸しと影響評価

  • 取扱品目の現行コードを、「どの国向け」「どのHS版」「何桁か(6桁・8桁・9桁・10桁など)」の観点で棚卸しする。
  • 売上上位、利益上位、関税額上位、規制該当品目など、影響の大きい品目から優先順位を付ける。
  • HS2028で6桁が動きやすい品目群(医療・ワクチン・環境関連など)を早期に特定し、技術仕様や使用用途など分類根拠情報を集約する。
  • 税率だけでなく、規制、許認可、統計単位、原産地判定(EPA)の影響も同時に洗い出す。

即応タスクB:マスターデータの二層化

  • 国際共通の6桁HSと、国別の実務桁(EUのCN8桁、日本の9桁、中国の8桁、韓国の10桁など)を分離して管理する設計に見直す。
  • マスターデータに「HS版」フィールドを持たせる(HS2022、HS2028、EPA別に採用するHS版など)。
  • 取引先に提示するコード(インボイス・仕様書・見積書など)のルールを、国別・用途別に社内標準化する。
  • 変更履歴と根拠を残し、監査対応や後日の説明に耐えられるようにしておく(特に高関税・規制品目)。

即応タスクC:書類と原産地の事故防止

  • インボイス、パッキングリスト、原産地証明書、輸出管理資料などで、どの桁のコードを載せるかを国別に定義する。
  • EPA関連書類では、協定で採用しているHS版に合わせてHSコードを記載する運用を業務手順に明記する。
  • 2027年末から2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長納期案件について、旧HS2022・新HS2028のどちらで申告・証明するかの境界条件を洗い出し、切替手順を事前に設計する。

即応タスクD:外部との合意形成

  • 通関業者に対し、HS2028改正時の検証プロセスや必要情報(仕様書、図面、用途など)をあらかじめ確認する。
  • サプライヤーには、製品仕様情報の提供範囲・更新頻度・フォーマット(HS版・桁数の指定等)を明確化し、契約やSLAに反映する。
  • 顧客に対しては、コード変更が輸入側の関税や規制に与える影響を説明できる体制(FAQ、ガイド文書、営業への教育)を整える。

5. 2028年までの実務ロードマップ

WCOは、HS2028の受理後から発効までの期間を、相関表整備や各国による実装準備期間と位置付けています。
USITCは、2026年2月ドラフト、2026年9月大統領報告というタイムラインを明示しており、企業側の準備スケジュール策定の基礎情報となります。

この情報を踏まえると、企業としては次のようなロードマップが現実的です。

  • 2026年:
    • 棚卸しと影響評価(即応タスクA)を実施し、優先品目を特定。
    • HS2028案の内容・WCOの相関情報を踏まえ、6桁レベルの候補付けと分類根拠資料の整備を開始。
    • 米国向けについては、2026年2月のUSITCドラフトを確認し、必要に応じてパブリックコメント提出を検討。
  • 2027年:
    • 各国の国内実装状況(HTSUS改正、CN改正、日本の9桁統計コード改正、中国・韓国の細分改正など)を確認し、国別の実務桁を確定。
    • 社内システム改修、マスターデータ二層化、UAT(ユーザー受入テスト)、取引先・通関業者との番号整合を完了させる。
  • 2028年:
    • 切替運用を開始し、誤分類や書類不一致のエラー監視を強化。
    • 税関からの差戻し・照会に即応できるよう、根拠資料と履歴管理のプロセスを稼働させる。

おわりに

HS2028は、分類表の単なるマイナーチェンジではなく、企業にとっては基盤データの大規模アップデートです。
WCOの一次情報を起点に、米国はUSITCとHTSUSプロセス、EUはCNとTARIC、日本は9桁統計コード運用とEPA版混在、そして中国・韓国・カナダなどは各国の関税率表・分類体系という現実に合わせて、二層管理と切替事故防止に投資することが、費用対効果の高い対応となります。

個別品目の最終コードを今すぐ決め切ることよりも、
「結論をブレなく・説明可能な形で出せる仕組み(根拠管理、履歴管理、HS版管理、相手国桁への変換ロジック)」を先に整えることが、2028年前後の現場混乱を最小化する近道です。