はじめに
2028年1月1日、世界共通の商品分類体系であるHS(Harmonized System)は、第8版となる「HS2028」に切り替わります。
WCO(世界税関機構)は、HS2028改正案が正式に採択されたことを公表し、今後2年間で相関表の整備、解説書の更新、各国での国内実装が進むことを明示しています。
韓国と中国は、日本企業の取引量やサプライチェーン依存度が高い相手国です。両国それぞれの国内コード体系と、公表の「癖」を理解しておくことが、HS2028対応プロジェクトの成否を左右します。

1. HS2028で何が変わるのか:ビジネスが先に見るべき改正テーマ
HS2028は、299件の改正セットから構成され、見出し(heading)および号(subheading)レベルで多数の新設・削除が行われます。
WCOは、次のようなテーマを主要ポイントとして挙げています。
- 公衆衛生・保健危機対応
救急関連機器、PPE(個人防護具)、人工呼吸器、診断機器、ワクチンなどについて、より細分化されたコードを設定。 - ワクチン分類の再編
さまざまな感染症別に分類を整理し、統計・政策立案での可視性を向上。 - サプリメント(栄養補助食品)の新設・再構成。
- プラスチック廃棄物・使い捨てプラスチック関連の分類見直し
バーゼル条約等との整合を図り、廃棄物・環境関連規制とのリンクを明確化。
この種の改正は、「関税率そのもの」よりも、次のような領域に波及しやすい点が実務上の要注意ポイントです。
- 許認可・検疫・化学物質・廃棄物関連の規制要件
- 統計コードの再編
- 原産地規則(品目別規則やCTC判定の前提となるHSコード)
2. 韓国:国内適用のルートと、現時点で見える動き
2.1 国内実装の基本ライン
- 関税率表(関税法別表等)
- HSK(韓国の関税・統計統合品目番号、一般に10桁)
- HS解説書や運用基準(韓国関税庁が公表する解釈ツール)
前回HS2022では、韓国はHS協約改正に合わせて、関税率表、HSK(企画財政部の告示)、HS解説書(関税庁の告示)を改正し、2022年1月1日から適用しました。
この前例から、HS2028でも同様の立て付け(関税率表+HSK+解説書の三点セット)で国内実装が進む可能性が高いと考えられます。
2.2 現時点(2026年1月)の公表状況
2026年1月時点で、韓国関税庁は、WCOの会合でHS2028に伴う解説書改正が議論されたこと、とりわけワクチン関連の新設を踏まえた分類明確化について各国が意見交換したことを公表しています。
これは、韓国側が少なくとも「解説書・運用解釈の整備フェーズ」に入りつつあることを示す一次情報といえます。
一方で、HS2028版HSK(国内10桁コード体系)や改正関税率表の具体的な案・最終版は、2026年1月時点ではまだ「山場前」と見るのが自然です。前回HS2022でも、実際の告示や対照表は施行前年に集中して公表されました。
2.3 韓国の発表を追うときの実務的な「当たり先」
韓国でHS2028関連情報を追う際の主な入口は次の通りです。
- 韓国関税庁(Korea Customs Service)の公式発表
報道資料、行政予告、告示などが掲載される。 - CLIP(関税法令情報ポータル)
2026年の段階では、「どのタイプの情報がどのサイトから出るか」を整理しておき、2027年以降の告示ラッシュに備えてウォッチ体制を整えるのが現実的です。
3. 中国:国内適用のルートと、コード体系の注意点
3.1 関税税則と申告コードの構造
- 関税税則(進出口税則):税率・基本統計コード(8桁)を規定。
- 申告コード(海关商品编号):通関実務で使用される拡張桁を含むコード。
通関現場では、申告コードが最大13桁で運用されることがあり、一般的な構造は次のように説明されています。
- 1〜8桁:税則・統計上の基本コード(HSベース)
- 9〜10桁:監管附加(規制・税制上の追加番号)
- 11〜13桁:検験検疫関連の附加番号(CIQコードなど)
この構造は、HS2028で6桁・8桁レベルの改正が行われた場合、後段の監管・検疫関連桁も連動して変更され得ることを意味します。
ERPや品目マスタが「8桁/10桁のみ」で固定されている場合、移行期に申告用コードとの間で齟齬やデータ欠損が発生しやすいため注意が必要です。
3.2 前回HS2022の対応と、HS2028への含意
前回HS2022では、中国はHS改正の国内反映に向けて、海关总署公告(2021年第78号)によりHS2022対応の修正目録(中文版)を公表したと報告されています。
これに合わせて、進出口税則および関連通達が改正され、2022年1月1日から適用されました。
この前例から、HS2028でも以下のような流れになる可能性が高いと考えられます。
- 海关总署(GACC)公告で、HS2028対応の修正目録・申告コードルールを公表。
- 税則委員会(関税税則委員会)関連の公表で、年次の関税調整・税目修正を告知。
3.3 中国の発表を追うときの実務的な「当たり先」
中国でHS2028関連情報を追う際の主な入口は次の通りです。
- 海关总署(GACC)公式サイト
公告、政策法規、通関関連通知。 - 税則委員会(関税税則委員会)
年次の関税調整・税目修正に関する公表。 - 地方税関の公式Q&A・ガイド
実際の申告要件やコードの桁運用、ローカルな解釈が出ることがある。
申告コードの多桁構造が移行時の落とし穴になりやすいため、「どの桁まで社内マスタに持つか」「どの桁をどの部門がメンテナンスするか」をあらかじめ決めておくことが重要です。
4. 発表動向の読み方:いつ情報が揃い始めるか
WCOは、HS2028改正の採択後、「残り2年の期間で相関表の整備や解説書更新を進め、2028年1月1日の発効に備える」と説明しています。
HS2022のときの各国の動き(施行前年に公告・告示が集中しやすい)も踏まえると、企業側の情報収集は次の三段階で設計するのが現実的です。
- 2026年:
WCOの一次情報(改正内容・相関表)と、韓国・中国それぞれの「準備着手サイン」(会合報告、研究報告、制度改正の予告的資料)を押さえるフェーズ。 - 2027年:
各国の国内コード案、対照表、運用通知が本格的に出始めるタイミング。告示や公告のウォッチを強化し、社内マスタの「新旧対照」設計に着手するフェーズ。 - 2028年:
施行直後の現場運用(申告却下の理由、追加情報要求、検査指示の傾向など)をフィードバックし、社内ルール・マスタを微修正するフェーズ。
5. 企業が今すぐ着手すべき実務チェックリスト(韓国・中国共通)
5.1 品目マスタの棚卸し
- 現在、韓国ではHSK10桁、中国では8桁・10桁・13桁のどこまでを社内マスタで管理しているのかを確認する。
- 桁数と採番ルール(例:8桁までをグローバル共通、以降は国別拡張など)を明確化し、将来のHS2028対応時に一括変換できる構造にしておく。
5.2 影響が出やすい領域から先に当てる
WCOがHS2028で大きく見直すと明示している領域(ワクチン、医療機器、サプリメント、プラスチック廃棄物・使い捨てプラスチック関連など)は、取扱量が少なくても規制要件に直撃しやすい分野です。
これらの商材を扱う場合は、優先順位を高く設定し、早期にHS2028のコード候補を検討しておくとリスクを抑えられます。
5.3 二重コード運用の設計
2027年以降、WCOおよび各国から相関表や国内コード案が揃い始めた段階で、社内マスタに「現行版コード」と「HS2028想定コード」を併記できる構造に移行することが望ましいです。
WCOの相関表が正式に出たタイミングで、即座に本番コードを差し替えられるよう、情報項目やテーブル設計を前もって決めておくとスムーズです。
5.4 原産地規則・許認可・検疫の横串チェック
HSコードの変更は、単なる関税分類だけでなく、次のような領域に横串で影響します。
- 原産地規則(品目別規則・CTC判定の前提HS)
- 輸入規制(ライセンス・承認制度)
- 検疫・化学物質・廃棄物規制の対象判定
とくに中国では、申告コードの後段桁(監管附加、CIQ)に規制要件がぶら下がる構造になっているため、HS2028移行時は「基本コード+附加コードのセット」で見直す必要があります。
6. まとめ
- HS2028は2028年1月1日に発効予定であり、WCOは改正案の採択を行い、2026~2027年を各国の準備フェーズと位置づけています。
- 韓国は、少なくともHS解説書改正の議論に参加していることが公表されており、今後HSKや関税率表の改正情報が、どの経路(告示・報道資料・CLIP等)で出るかを押さえておく段階にあります。
- 中国は、申告コードが多桁構造であること自体が移行時のリスク要因になり得るため、海关总署公告と年次税則改定をセットで追いながら、「どの桁まで社内で持つか」を含めて設計することが重要です。
必要であれば、貴社の主要品目(上位20〜50品目)を前提に、韓国HSKと中国申告コードの「移行監視リスト」(どのサイトをいつ見るか、誰が担当するか)まで落とし込んだ運用表のたたき台も作成できます。
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