この記事は、2026年1月23日時点で確認できる一次情報を中心に、HS2028が米国と日本でどのように国内制度へ反映されるかを、ビジネス実務の視点で整理したものです。HS改正は「税番が変わる」だけでは終わりません。関税率、EPAやFTAの原産地規則、通商救済措置の対象品目、社内マスターや通関システムまで波及します。だからこそ、正式ルートを理解しておくことが、準備の精度を上げます。
まず押さえるべき国際スケジュール:HS2028は2028年1月1日に発効 HS2028は、世界税関機構WCOが管理するHS品目表の第8版で、2028年1月1日に発効します。今回の改正は、通常5年サイクルの見直しが例外的に6年へ延長された上で成立したもの、とWCOが明確にしています。(World Customs Organization )
WCOは、HS2028について「国内レベルでは必要な立法手続、ITシステムや刊行物・手続の更新、税関職員や関係者への研修が必要」といった実装作業が不可欠であることも明記しています。つまり、HS2028は2028年にいきなり現場に降ってくるのではなく、各国が国内法制と運用を揃える準備期間を前提に動きます。(World Customs Organization )
国際的な採択手続の流れとしては、HS委員会での暫定採択を経て、WCO理事会で正式採択され、2026年1月に公開、2028年1月1日に発効というスケジュールがWCOから示されています。(World Customs Organization )
「国内法に移す」とは何を変えることか HSは6桁までが国際共通で、各国はそれ以降の細分を設けます。したがって、各国がHS2028を国内で使える形にするには、少なくとも次の層を整合させる必要があります。
国際6桁の改正を反映する 自国の細分桁を作り直す 関税率や特恵税率、通商救済措置など、番号に紐づく制度をつなぎ替える 申告受理システムや統計システムを改修する 税関の解釈資料や運用通達を更新する このうち、どこまでが「法律の改正」で、どこからが「行政の告示・通達・運用更新」かが、米国と日本で大きく異なります。
米国の正式ルート:USITCの勧告と大統領布告でHTSUSを更新する 米国の制度の土台:HTSUSは議会が制定し、USITCが維持し、CBPが執行する 米国の関税分類はHTSUSにより運用され、USITCの説明では、国際HSの4桁・6桁区分を米国独自に細分し、8桁の米国税率区分と、10桁の統計用区分へ展開するとされています。また、USITCがHTSを維持・公表し、CBPが解釈と執行を担う構図も明確です。(USITC )
HS改正を国内へ反映する公式プロセス:USITCが実施案を作り、大統領が布告する WTO向け資料として公表されている米国側の説明では、WCOがHS改正を承認した後、USITCがHTSUSへ反映するための作業を行い、最終的に大統領が改正を布告できる、という整理になっています。
HS2022実施を例にした時系列は、実務目線で非常に示唆的です。
USITCが調査を開始 USITCがドラフトと経済影響の見込みを公表し、意見募集 USITCが最終勧告を大統領へ提出 議会でのレビュー期間を経て、大統領が布告 官報に当たるFederal Register掲載から30日後に発効 この「Federal Register掲載から30日後に発効」は、実務側の切替日を考える上で重要なポイントです。
法的根拠:1988年法に基づきUSITCが勧告し、大統領が改正を布告できる HS2022反映を含むHTSUS改正の大統領布告(Proclamation 10326)を掲載したFederal Registerには、1988年法によりUSITCがHTSを継続的に見直し改正を勧告すること、そして大統領がUSITCの勧告に基づきHTS改正を布告できることが記載されています。(Federal Register )
現場に降りる最終段階:CBPとACEが受ける番号体系の切替 CBPの通達では、Proclamation 10326によりHTSUSが改正され、USITCの刊行物が参照されていること、そして改正内容が一定の日付以降の輸入に適用されることが明示されています。さらに、申告システムACE側の受入れ開始時刻にも触れており、制度改正がシステム実装と不可分であることがよく分かります。(GovDelivery )
ここから読み取れる米国の特徴は次の通りです。
国内実装の最終トリガーは大統領布告とFederal Register掲載 発効日は国際発効日と一致するとは限らず、実装上のタイムラグがあり得る 現場はCBPの運用告知とACEの受入れ仕様に強く依存する HS2028でも同様に、WCOの発効日だけでなく、Federal RegisterとCBPの実装告知をセットで追う必要があります。
日本の正式ルート:関税定率法の別表改正と、告示・通達で統計品目表や解説を更新する 日本の制度の土台:関税率表は関税定率法の別表で、HS条約に基づく 財務省・税関の分類センター資料では、日本の関税率表は関税定率法の別表であり、HS条約に基づいていることが明確に説明されています。(JETRO )
また同資料は、6桁までは国際共通で、7桁以降は各国が定めること、日本では輸出と輸入でそれぞれ3桁の細分を設け、9桁の統計品目番号として運用していることも示しています。(JETRO )
経済産業省のEPA案内でも、日本では9桁、米国では10桁という桁数の違い、6桁までが世界共通である点が説明されています。(Ministry of Economy, Trade and Industry )
立法ルート:関税定率法等の改正案を政府が作り、国会で成立させる 日本の正式ルートの中心は、「関税定率法等の一部を改正する法律案」という形での法改正です。財務省が公表しているHS2022対応の法案概要では、WCOで採択されたHS条約のHS品目表改正に応じて関税率表を改正する、と明記されています。さらに、その施行日として、HS対応部分は翌年1月1日が設定されていました。(Ministry of Finance Japan )
この構図はHS2028でも基本的に同じで、関税定率法の別表を改正して関税率表を更新するため、政府が法案を準備し、国会で成立し、公布され、施行日を迎えるという流れになります。
告示と通達:統計品目表や解説、分類例規などを実装レベルへ落とす 税関が公表しているHS2022のFAQは、HS改正を受けて、関税定率法別表、輸出入統計品目表、関税率表解説、分類例規が改正対象になることを具体的に示しています。さらに、輸出入統計品目表の改正は財務省告示として行われ、関連リンクが税関サイトに整理されていることも示されています。(Japan Customs )
同FAQでは、HS2022対応の実行関税率表、輸出統計品目表、関税率表解説が、発効日に合わせて税関サイトで公開されていることも明記されています。企業側の実務では、この「公開される版」と「適用開始日」を揃えて把握することが、切替事故を防ぐ鍵になります。(Japan Customs )
ここから読み取れる日本の特徴は次の通りです。
関税率表の本体は法律の別表で、法改正を伴う 9桁の統計品目番号や解説類は、告示や通達等で具体化される 税関サイトでの版管理と公開日が、現場の実装上の重要情報になる 米国と日本の違いを一枚で整理 企業の実務ロードマップ:2026年から逆算して何をするか WCOは、HS2028発効までの2年間で、各国が立法手続やIT更新、研修などを進める必要があると明記しています。企業側も同じ発想で、2年を「準備期間」として設計するのが合理的です。(World Customs Organization )
2026年に着手すべきこと 自社取扱品目のHS2022コードの棚卸しと、変更影響の優先順位付け 米国向けは10桁、日本向けは9桁のマスターを分けて管理し、相互参照表を整備する 通関委託先と「切替日に何を正とするか」を合意する(旧コードの扱い、積送品の扱い、修正申告の方針) 2027年に固めるべきこと 国内改正のドラフトが出るタイミングを想定し、マスターの改修をテスト環境で回す FTAやEPAの原産地規則がHS版に依存する場合、協定で採用しているHS版と実務適用を棚卸しする 取引条件を見直す(関税負担の帰属、税番変更時の価格条項、通関遅延の責任分界) 2028年の切替直前に必ずやること 申告書、インボイス、品名、製品仕様書の記載と税番の整合性を最終点検 システムと帳票の改版日を、米国向けと日本向けで別に管理する 切替日前後の出荷をルール化する(通関日の基準、入港日基準か、搬入日基準か等は制度と運用に依存するため、必ず通関関係者と確認する) よくある落とし穴:分類変更は関税率だけでなく周辺制度を連鎖させる 関税率が変わらない場合でも、通商救済措置や追加関税の対象付け替えが起きる 米国では、HTSUSの改正と同時に、特定措置の対象となる番号体系も整合させる必要があり、CBPが具体的な告知を出します。(GovDelivery ) 原産地規則の判定がズレる 原産地規則はHSコードに依存するため、分類ズレはそのまま原産地判定ズレにつながります。日本の実務資料でも、HSコードを誤ると税率や品目別規則が変わる旨が繰り返し強調されています。(JETRO ) 社内の番号は更新したのに、通関委託先のシステムが追随していない 米国はACEの受入れ仕様、日本は税関サイトの版公開と運用文書の更新が現場要件になります。切替期は、番号の正しさだけでなく、相手側システムが受ける形式になっているかが成否を分けます。(GovDelivery ) まとめ:正式ルートを理解すると、準備の打ち手が具体化する HS2028は2028年1月1日に発効し、各国は国内の立法手続やIT更新を伴って実装します。(World Customs Organization ) 米国は、USITCの勧告と大統領布告、Federal Register掲載を軸にHTSUSを更新し、CBPとACEの運用に落ちます。 日本は、関税定率法の別表改正を中心とする法改正に加え、告示・通達・税関サイトの版管理で運用を完成させます。(Ministry of Finance Japan )
この違いを踏まえて、企業側は「国際発効日」だけでなく、「米国はFederal RegisterとCBP告知」「日本は法改正の施行日と税関サイトの公開版」という二つの観測点を持つと、準備が現実的になります。
VIDEO