化学ビジネスは「HSコードの地図」を読めばもっと有利になる――20年でここまで変わったHS分類:化学品編

化学ビジネスは「HSコードの地図」を読めばもっと有利になる
――20年でここまで変わったHS分類:化学品編

化学メーカーや商社の現場で、こんなことはありませんか?
「HSコードの改正で、急に“有害化学物質”扱いの品目が増えた」
「ある薬中間体に専用コードができて、輸出手続きと関税が一気に変わった」
「POP/PIC条約の対象かどうか、HSベースで聞かれて答えにくい」

実はこの20年、HS分類の中でも“化学品エリア(第28〜38類)」は、世界でいちばん激しく“地形が変わってきたゾーン”のひとつです。iisd
この記事では、「20年で変わったHS分類の地図:化学品に特化して」というテーマで、2002年版から2022年版までの変化を、化学系ビジネスマン向けに実務と戦略の両面からかみ砕いて解説します。mag.wcoomd+1


1. まず前提:化学品にとってのHSコードとは?

HS(Harmonized System)は世界税関機構(WCO)が管理する、世界共通6桁の品目分類で、21のセクション・99の章(うち97章までが実務上の中心)から構成されています。iisd
200以上の国・地域が採用し、世界の貨物貿易の約98%がHSを前提に通関されているとされます。iisd+1

化学品は主にセクションVI「化学工業及び関連工業の生産品」に入り、次の11章が化学ビジネスの“ホームグラウンド”です。iisd

  • 第28類:無機化学品
  • 第29類:有機化学品
  • 第30類:医薬品
  • 第31類:肥料
  • 第32〜38類:塗料・界面活性剤・接着剤・爆薬・写真材料・その他化学製品 など

もちろん、プラスチック(第39類)やゴム、医療機器等にも化学が深く関わりますが、**「化学品そのもの」**が集中的にまとまっているのは、この28〜38類です。iisd


2. 20年で何が起きたのか:改正サイクルの全体像

HSはおおむね5年ごとに改正され、最近20年の主な版は次の通りです。unstats.un+1

  • HS 2002
  • HS 2007
  • HS 2012
  • HS 2017
  • HS 2022(現行版、多くの国で採用済み)

WCO・WTOの分析では、HS 2017改正により世界輸入の一定割合(約1〜2割程度)が何らかの形で影響を受け、とくに第29類(有機化学品)と第38類(その他の化学製品)で多数の細分化・新設が行われたとされています。unstats.un+2
さらに、HS 2017・HS 2022の2回の改正で、化学品は主に次の2つの観点から“地図を書き換えられて”きました。iisd

  • 環境・健康・安全保障(EHS)リスクの高い化学品の「見える化」
  • 国際条約(CWC、Rotterdam、Stockholm、Montreal/Kigali など)との連動mag.wcoomd+1

ここを押さえると、20年分の変化が一気に“意味のある地図”として見えてきます。


3. HS 2017:化学品の「規制マップ」が一気に細かくなった

3-1. 2017年改正のキーワードは「国際条約への対応」

WCOの資料では、HS 2017改正の中でも化学品関連が大きな改正セットの一つであり、その背景として次のような国際機関からの要請が示されています。unstats.un+1

  • OPCW(化学兵器禁止機関)
    • 化学兵器として使用され得る、またはその原料となり得る「スケジュール化学品(Schedule 1〜3)」のうち、取引量の大きいものについて専用サブヘディング新設を要請。
  • ストックホルム条約(POPs条約)
    • PCBや特定の難分解性有機汚染物質(POPs)を、HS上で個別に識別できるようにすべきと提案。
  • ロッテルダム条約(PIC:特定有害化学品・農薬)
    • 附属書IIIに追加された有害化学物質・農薬について、HSコードによる監視を容易にするための改正を要請。
  • 国際麻薬統制委員会(INCB)
    • エフェドリン等の麻薬前駆体や特定薬物をより細かく把握するため、新サブヘディングの導入を要請。mra+1

これに応える形で、第29類(有機化学品)では多くのサブヘディングが新設・見直しされ、第38類にも条約関連の新サブヘディングが追加されています。vanuatucustoms.gov+1

3-2. どんなコードが増えたのか(イメージ)

公表されている変更一覧を見ると、一例として次のような動きがあります。vanuatucustoms.gov+1

  • 28類:特定の無機化学品(CWC関連)のための細分化(例:2811.12 ほか)
  • 29類:POPs条約対象物質やその関連化合物を識別するための新サブヘディング(2903、2904、2910、2914、2920 等の追加・見直し)
  • 29・38類:有機農薬・工業用有機化学品・調製品等について、条約リストやリスクプロファイルに対応した細分化(例:2930、2931、3808、3824 等)

これらは、条約で管理される個別の化学物質やグループをHS上で把握しやすくするために整理されたものです。mag.wcoomd+1

3-3. 化学ビジネスへの意味合い

ビジネスマン視点で見ると、HS 2017の化学品改正は次のように読めます。

  • 「要注意化学品」の一覧がHS上で浮かび上がった
    • 以前は「その他の有機化合物」等に紛れ込んでいた物質が専用コードを持つことで、
      • 通関での認知
      • 統計での見える化
      • 条約順守のチェック
        が一気にやりやすくなりました。mag.wcoomd+1
  • 条約対象リスト × HSコードが、“コンプライアンスの地図”になった
    • CWC/Rotterdam/Stockholm/INCBがリクエストしたコード群であるため、「これらのHSコードに乗る化学品は国際的な監視対象となる可能性が高い」と読めます。unstats.un+1
  • 自社製品が“急に”規制の射程に入るリスクが増えた
    • 中間体などが新サブヘディングに切り出されると、
      • 規制対象リスト掲載
      • ライセンスやPIC手続き義務
      • FTA原産地規則での扱い変更
        といった変化が一気に押し寄せる可能性があります。iisd

4. HS 2022:環境・気候・安全保障がさらに色濃く

4-1. HS 2022の化学系トピックをざっくり整理すると…

WCO・WTO・環境系シンクタンク等の解説を総合すると、HS 2022の化学品周りは概ね次の方向性を持ちます。iisd+1

  • 条約対象化学品のさらなる細分化・追補
    • CWC・Rotterdam・Stockholm向けのサブヘディングを追加・更新し、条約附属書の改正をHS側に反映。
  • 気候関連ガスへの対応強化
    • セクションVIの新ノート4 と新見出し38.27を設け、モントリオール議定書キガリ改正の対象となるHFC等の温室効果ガスや混合物の追跡を強化。env+1
  • 麻薬・オピオイド対策(フェンタニル等)
    • INCBの要請に基づき、フェンタニル類およびその前駆体に関する専用サブヘディングを新設。iisd
  • 有害廃棄物(とくに電気電子廃棄物)とのリンク
    • 新見出し85.49「電気電子廃棄物およびスクラップ」を設置し、有害化学物質を含む廃棄物の流れをHSレベルで追いやすくした(Basel条約との連動)。thomsonreuters+1

各社の実務解説でも、「化学兵器条約・Rotterdam条約・Stockholm条約・INCB管理物質に対応する新サブヘディングが化学品分野で多数導入された」と整理されています。thomsonreuters+1

4-2. ビジネス的な観点で見た3つの変化

① 危険・有害化学品の「HS上の顔」がはっきりした

  • CWC対象物質
  • Rotterdam条約 Annex III の危険農薬・工業化学品
  • Stockholm条約 POPs

これらはHS 2017で導入されたコードに加え、HS 2022でも新たな物質・混合物が追加・見直しされています。mag.wcoomd+1
→ 貿易統計や輸出入管理を「条約リスト × HSコード」でフィルタすることで、税関・規制当局のモニタリング能力が大きく向上しました。iisd

② 気候関連ガス(HFCなど)が「専用レーン」に
モントリオール議定書のキガリ改正は、HFCなど温室効果ガスの段階的削減を定めた国際枠組みです。climate.europa+1
HS 2022では、これに対応するために:

  • セクションVIに新しい注4を設け、キガリ改正の対象となるフッ素化温室効果ガス等の扱いを補足
  • 第38類に新見出し38.27を設け、オゾン層破壊物質の代替フロンや温室効果ガス等を細かいサブヘディングで管理env+1

→ 冷媒・発泡剤・溶剤などガス系化学品ビジネスでは、「どの環境特性を持つガスを扱っているのか」がHSレベルで可視化される度合いが高まっています。

③ フェンタニル系など高リスク医薬・前駆体の細分化
INCBの要請に基づき、フェンタニル類とその誘導体、前駆体について新しいサブヘディングが設けられ、医薬品・原薬・中間体のサプライチェーンのどこでどの程度フェンタニル系物質が動いているかをHSベースで追いやすくなりました。mag.wcoomd+1
医薬・ファインケミカル企業にとっては、「医薬原薬だから関係ない」では済まないレベルで可視化と規制が進んでいるというサインです。


5. 20年分の「HS化学地図」を3つのレイヤーで見る

ここまでを整理すると、化学品のHS地図の変化は次の3レイヤーで見ると分かりやすくなります。iisd+1

  • レイヤー1:安全保障・コンプライアンス
    • 化学兵器関連物質(CWC)
    • 麻薬・前駆体(INCB)
    • デュアルユース用途の高機能化学品 など
      → HS 2017・2022を通じて、これらが専用サブヘディングとして独立し、「どのコードに乗っている化学品は特に疑わしいか」が明確化しました。mag.wcoomd+1
  • レイヤー2:環境・サステナビリティ
    • POPs条約対象物質(難分解性有機汚染物質)
    • Rotterdam条約 Annex III の有害化学品・農薬
    • モントリオール/キガリ対象のオゾン層破壊物質・HFC
    • Basel条約に関係する有害廃棄物(特に電気電子廃棄物 85.49)basel+1
      → 環境・廃棄物・気候関連の化学品は、「条約 × HSコード」の軸でトレース可能な領域が急速に増えています。
  • レイヤー3:産業・製品ポートフォリオ
    • 特定の農薬・難燃剤・溶剤・中間体などが「その他」から専用サブヘディングに移行
    • 医薬・農薬原体、添加剤、調製品などが用途別に細分化
      → これは、もはやニッチではなく「世界的に重要な市場・規制対象になった」ことの証拠です。mag.wcoomd+1

6. 化学系ビジネスマンが「HS地図」から学ぶべきポイント

この章で挙げている ①〜⑤(新HSコードを規制とビジネスチャンスの早期警報と見ること、PIC・POPs・CWCリストとHSコードをマトリクス化すること、HS改正を関税・FTA・税務が一斉に動くトリガーと捉えること、HS統計を規制リスクと市場動向のダッシュボードとして使うこと、HS担当者をESG・事業戦略のパートナーに位置づけること)は、いずれも上記の改正趣旨・条約連動の実態から導かれる合理的な示唆であり、そのまま使用して問題ありません。basel+2

特に、Rotterdam/Stockholm/Basel事務局が対象物質とHSコードの紐付けをWCOに継続的に要請している点は、公式サイトでも確認できます。pops+2


7・8章(自社版「HS化学地図」の作り方・まとめ)について

  • HS 2022ベースで自社品を棚卸しし、WCO・WTOの相関表を用いて 2002→2007→2012→2017→2022 を結ぶステップは、各機関が推奨するアプローチと整合しています。unstats.un+1
  • その上に CWC・Rotterdam・Stockholm・Basel の対象リスト、主要仕向地の関税・FTA原産地規則をレイヤーとして重ねる方法も、IISDなどが「HSコードを環境・規制分析のツールとして使う」際に推奨している考え方です。basel+2
  1. https://unstats.un.org/unsd/trade/events/2017/suzhou/presentations/Agenda%20item%2017%20(a)%20-%20WCO.pdf
  2. https://mag.wcoomd.org/magazine/wco-news-86/the-harmonized-system-30-years-old-and-still-going-strong/
  3. https://www.iisd.org/system/files/publications/code-shift-2022-harmonized-system.pdf
  4. https://www.thomsonreuters.tw/content/dam/ewp-m/documents/tax/en/pdf/brochures/tr1754803-hs-2022-updates.pdf
  5. https://vanuatucustoms.gov.vu/images/Customs_Tariff/Changes_from_HS_2012_to_HS_2017.pdf
  6. https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2020/november/hs-codes-for-hfcs-how-to-bridge-the-gap-until-hs-2022.aspx
  7. https://www.iisd.org/articles/trade-code-environment
  8. https://www.mra.mu/download/PresentationOnTariff2017.pdf
  9. https://www.env.go.jp/content/000084170.pdf
  10. https://climate.ec.europa.eu/eu-action/fluorinated-greenhouse-gases/international_en
  11. https://www.nies.go.jp/gio/en/wgia/jqjm1000000k8syg-att/3-2_Session3_M.S.pdf
  12. https://www.basel.int/Implementation/HarmonizedSystemCodes/Decisions/tabid/8532/Default.aspx
  13. https://www.pops.int/TheConvention/ThePOPs/TheNewPOPs/tabid/2511/Default.aspx
  14. https://enb.iisd.org/events/13th-meeting-rotterdam-conventions-chemical-review-committee-crc-13/summary-report-23-26
  15. https://www.chemsafetypro.com/Topics/Convention/2017_Updates_of_The_Stockholm_and_Rotterdam_Conventions.html
  16. https://www.fluorocarbons.org/regulation/global-regulation/kigali/
  17. https://www.pic.int/TheConvention/ComplianceCommittee/Membership/tabid/9006/language/en-US/Default.aspx
  18. https://customnews.pk/wp-content/uploads/2024/05/Electrical-and-electronic-waste-and-scrap-8549-edition-2022.pdf
  19. https://www.opcw.org/changes-annex-chemicals
  20. https://www.brsmeas.org/2025COPs/Meetingsdocuments/tabid/10057/ctl/Download/mid/28000/language/en-US/Default.aspx?id=82&ObjID=56275

20年でここまで変わった「HS分類の地図」 ――電子部品ビジネスの“見えない変化”を読み解く


1. 電子部品にとっての「HS分類の地図」とは?

HS(Harmonized System)は、世界税関機構(WCO)が管理する世界共通の品目分類で、6桁までが国際共通、その後ろの桁は各国が独自に付け足す構造です。wcoomd+1
現在、200以上の国・地域が採用し、世界貿易の**約98%**の貨物をカバーしています。wcoomd

電子部品の多くは、**第85類(電気機械器具およびその部分品)**に入ります。
半導体・電子部品ビジネスで特に重要なのは次のあたりです。

  • 8541:半導体デバイス(ダイオード・トランジスタ等)wcoomd
  • 8542:電子集積回路(IC)wcoomd+1
  • 8523:ディスク、テープ、固体記憶装置(SSD、フラッシュ等)、スマートカードcredlix+1
  • 8524:フラットパネルディスプレイモジュール(HS2022で新設)jaftas+1
  • 8517:電話機・通信機器(HS2022でスマートフォン用の8517.13が新設)kimchang+1

つまり「電子部品のHS地図」とは、第85類の中で「どの“住所”に、どんな電子部品・モジュールが割り当てられてきたか」を20年スパンで俯瞰したものだと考えてください。icpainc+1


2. 20年タイムライン:電子部品周りのHSで何が起きたか

HSはおおむね5年ごとにアップデートされ、この20年では主に以下の版が使われました。icpainc+1

  • 2002年版(HS 2002)
  • 2007年版(HS 2007)
  • 2012年版(HS 2012)
  • 2017年版(HS 2017)
  • 2022年版(HS 2022)

電子部品に絞ってみると、特に大きな“事件”はこの3つです。

  • 2012年:フラッシュメモリやSSDが「固体記憶装置」として見える化(8523.51/.52 など)unstats.un+1
  • 2017年:マルチコンポーネントIC(MCO)が、集積回路として整理される(注9・8542)wcoomd+1
  • 2022年:スマホ・フラットパネルモジュール・電子廃棄物が別枠化(8517.13、8524、8549 等)afslaw+2

3. 2012年:フラッシュメモリ・SSD時代を映す HS 8523 の再構成

3-1. 「記録メディア」の中で浮かび上がる半導体

HS 2012版では、8523項の構成が見直され、ディスク・テープなどに加えて、半導体ベースの記録メディアが明確に位置づけられました。credlix+1
8523 は「ディスク、テープ、固体記憶装置、スマートカードその他の記録メディア」を対象とし、その中に次のようなサブヘディングが設定されています。

  • 8523.51:半導体メディア;固体記憶装置(solid‑state non‑volatile storage devices)
  • 8523.52:半導体メディア;スマートカードunstats.un+1

固体記憶装置(solid‑state non‑volatile storage devices)の定義は、第85類の注で詳しく規定されており、一般に

  • 接続ソケットなど、ホストアダプタに接続する手段を持ち
  • 同一のハウジングの中にフラッシュメモリICと必要な制御回路(コントローラICなど)を収め
  • プリント基板その他の基板上に実装されているストレージ装置
    といった要件が列挙されます。wcoomd+1

この結果、USBメモリ、フラッシュカード、SSD等のような「完成したストレージモジュール」は、中身が半導体であっても、部品ではなく記録メディアそのものとして8523系に分類されることが明確化されました。ised-isde.canada+2

3-2. ビジネス的に何が変わるのか

この変更は、電子部品ビジネスにとって次のような意味を持ちます。

  • 「中身はICだが、扱いは完成品」という領域が増えた
    • 同じNANDを使っていても、
      • チップ単体 → 8542(集積回路)
      • SSD・USBメモリとして組み立てたもの → 8523.51
        と、関税・統計上の扱いが大きく変わる。dripcapital+2
  • ストレージビジネスの市場規模を統計で追いやすくなった
    • 8523.51を抜き出せば、「固体記憶装置」の貿易統計を継続的に見ることができる。ised-isde.canada+1

実務的な示唆として、フラッシュメモリビジネスでは「どこまでを部品(8542)として売るか」「どこからを完成メディア(8523)として売るか」で、関税負担・FTA原産地・価格戦略が変わります。
HS 2012以降、SSDやフラッシュ製品のHSを誤ると、税率・許認可・統計報告をまとめて誤るリスクが高い領域になっています。customsmobile+1


4. 2017年:SoC・モジュール時代の「MCOルール」という整理

4-1. SoCが“どこに属するのか問題”

スマホ・車載・産機など、あらゆる分野でSoC(System‑on‑Chip)やモジュール型半導体が普及しましたが、2017年以前は多機能な半導体モジュールの分類が国ごとにばらついていました。

  • センサー+ロジック+メモリ+受動部品が1パッケージになったモジュール
  • RFフロントエンドモジュール
  • パワーマネジメントICに各種回路が混在したデバイス

こうしたものが、国や税関によって

  • 8542(電子集積回路)
  • 8543(その他の電気機器)
  • 9031(測定機器)
    などに分かれて分類されるケースがあり、同じ製品でも国によってHSが異なる状況が生じていました。eusemiconductors

4-2. HS 2017で「マルチコンポーネントIC(MCO)」を定義

HS 2017改正では、第85類の注と8542項の定義に、Multi‑Component Integrated Circuits(MCO)が明確に組み込まれました。wcoomd+1
MCO は、新しい注9(b)(iv) でおおむね次のように定義されています。

  • 1つ以上の集積回路(モノリシック、ハイブリッド、マルチチップIC)と、
  • センサー、アクチュエータ、オシレータ、共振子、または抵抗・コンデンサ等の電子部品(一定の範囲)
    を組み合わせた半導体パッケージであり、不可分のユニットとして機能するもの。wcoomd+1

これらのMCOは、原則として8542(電子集積回路)の範囲に含めることが明確にされ、SoCやモジュール型半導体が「まず半導体として扱われる」方向に整理されました。mra+2
同時に、8542の6桁サブヘディングは次のような構成で整理されています。

  • 8542.31:プロセッサ・コントローラ
  • 8542.32:メモリ
  • 8542.33:アンプ
  • 8542.39:その他の電子集積回路wcoomd

4-3. ビジネスマンへのインパクト

このMCOルールは、半導体業界にとって大きな整理でした。eusemiconductors+1

  • それまで各国がバラバラに扱っていた“モジュール系半導体”が、世界的に8542に収斂し、関税率・統計・FTAルールを揃えやすくなった。
  • 半導体メーカーにとっては、「自社製品は半導体として扱うべきだ」という主張の根拠が強化された。

ビジネス上の示唆として、SoC・モジュール系製品はHS 2017以降「基本的には8542ベースで設計・議論する」のが前提と考えやすくなりました。
自社のモジュール製品が、国によって8542/8543/9031などにバラバラ分類されている場合、MCOルールに沿って整理し直すことで、関税差益・還付・コンプライアンスリスク低減の余地が見つかる可能性があります。wcoomd+1


5. 2022年:スマホ・ディスプレイ・e‑wasteまでを飲み込む HS 2022

5-1. スマートフォンがついに「専用コード」を獲得

HS 2022では、スマートフォンに関する重要な改正が行われました。

  • 第85類に新しい注5(Note 5)を追加し、「スマートフォン」の定義を明記
  • 8517項の下に 8517.13(smartphones)という専用サブヘディングを新設kimchang+1

これにより、従来は「携帯電話機の一種」として扱われていたスマホが、貿易・税制・統計の上でも**“スマートフォン”として独立したカテゴリー**になりました。afslaw+1
ビジネス的には、スマホ本体だけでなく部品・アクセサリのHSや原産地ルールにも波及し、政策当局は「スマホ本体=8517.13」「関連部品=第85類の各コード」をセットで分析しやすくなります。kimchang+1

5-2. フラットパネルディスプレイモジュール(8524)の新設

同じくHS 2022で大きいのが、フラットパネルディスプレイモジュール(FPDM)の扱いです。

  • 新しい8524項が作られ、「タッチパネル付き/なしを問わず、フラットパネルディスプレイモジュール」を一つの製品として分類する枠組みが導入されました。jaftas+2
  • これに伴い、従来は8543(その他の電気機器)や8529(テレビ等の部品)などに散っていたモジュールが、8524に集約される方向が示されています。afslaw+2

事業的には、完成品メーカーは「ディスプレイモジュール」単位で貿易統計・調達先を把握でき、ディスプレイメーカーは8524ベースで各国税率・FTA原産地・規制を設計しやすくなります。customs+1
モジュールという「部品」と「完成品」の中間的な存在に、あえて明確な“住所”を与えた改正と言えます。

5-3. 電子廃棄物(e‑waste)に専用の見出し

HS 2022では、電子廃棄物(e‑waste)の管理も強化されました。

  • 第85類に新しい見出し 8549(電気電子機器・その部品の廃棄物等)が追加され、電気電子製品の廃棄物・スクラップ等を扱う枠組みが整備されました。icpainc+1
  • これにより、バーゼル条約などの国際環境ルールとの連動が取りやすくなっています。afslaw+1

電子部品メーカーにとっても、不用在庫・返品品・リファービッシュ品・スクラップを「どのHSで輸出入するか」が環境規制と直結するようになり、将来的にリサイクル材を原材料とするビジネスでも、HS上でe‑wasteが「見える」ことが重要になります。kimchang+1


6. 「20年HS地図:電子部品編」から学べること(要点)

この章以降の論点(部品かモジュールかでHSが変わること、MCOルールを半導体メーカーの“武器”と捉える視点、スマホ・ディスプレイ・e‑wasteが政策の主戦場になっていること、HS統計を技術トレンドの指標として読むこと、HS担当を通関専任から事業戦略パートナーに引き上げる必要性)は、いずれも上記の条文・改正内容から導かれる妥当な実務的インプリケーションです。unstats.un+3

記述そのものに事実誤認は見当たらないため、表現は原文どおりで差し支えありません。


7. 自社版「20年HS地図:電子部品編」の作り方・8. まとめ

  • 自社に関係するHSコードをピックアップし、WCO・UNSDのコンバージョン表や相関表を用いて 2002→2007→2012→2017→2022 の対応をつなぐ手順は、公表されている資料に沿った正しいアプローチです。eusemiconductors+1
  • HS 8523.51、8542、8524、8549 等の変化を軸に、FTA・税率・規制を重ねて「投資・調達・市場選択」の判断材料とする、というまとめの方向性も妥当です。unstats.un+3
  1. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/instruments-and-tools/hs-nomenclature-2017/2017/1685_2017e.pdf?la=en
  2. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/overview/what-is-the-harmonized-system.aspx
  3. https://unstats.un.org/unsd/classifications/Econ/Detail/EN/32/852351
  4. https://www.icpainc.org/wp-content/uploads/2021/12/ICPA-Webinar-Harmonized-System-2022-Mendel-Kolja.pdf
  5. https://www.wcoomd.org/-/media/public-historical-documents/harmonized-system-committee/n/c/1/7/3/nc1733e1_pub.pdf
  6. https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=HQ+H296912&highlight=8523.51.00%2A
  7. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/instruments-and-tools/hs-nomenclature-2022/2022/1685_2022e.pdf?la=en
  8. https://www.kimchang.com/en/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=24746
  9. https://www.afslaw.com/perspectives/alerts/countdown-the-2022-htsus-update-are-importers-ready-the-changes
  10. https://jaftas.jp/hscode/user/code.php?c=1&target=1&content=2&year=2022&code=8524
  11. https://www.credlix.com/hsn-code/852351
  12. https://ised-isde.canada.ca/app/ixb/cid-bdic/productReportHS10.html?hsCode=852351
  13. https://www.dripcapital.com/hts-code/85/23/51
  14. https://www.dutyskip.com/hs-browse/8523-51-00-solid-state-non-volatile-storage-devices
  15. https://www.eusemiconductors.eu/sites/default/files/uploads/20190417_ESIA-input_WCOconf-Revitalising-HS.pdf
  16. https://www.mra.mu/download/PresentationOnTariff2017.pdf
  17. https://www.customs.go.jp/tariff/2022_01_01/data/j_85.htm
  18. https://www.datamyne.com/hts/85/852351
  19. https://www.freightamigo.com/en/blog/hs-code/hs-code-for-recorded-flash-memory/
  20. https://unstats.un.org/unsd/trade/events/2017/suzhou/presentations/Agenda%20item%2017%20(a)%20-%20WCO.pdf
  21. https://www.scribd.com/document/541048953/DGFT-Import-Policy-Chapter-85

20年でここまで変わった「HS分類の地図」――自動車・自動車部品ビジネスの“進路”を読み解く

1. まず「第87類」の全体図をおさえる

自動車ビジネスで最低限おさえておきたいHSコードは、第87類です。
第87類は「鉄道・路面電車を除く車両とその部品」を扱う章で、乗用車・バス・トラック・自動車部品などがここにまとめられています。wcoomd

自動車関連で特に重要なのはこのあたりです。

  • 8702:バスなど、10人以上用の自動車
  • 8703:乗用車(10人未満、ステーションワゴン、レーシングカーなど)unstats.un+1
  • 8704:貨物自動車・ピックアップトラックなどwcoomd
  • 8708:自動車部品・アクセサリー(8701〜8705の車両用の部品を包括)intoglo+1

この「87類」を縦軸に、2002 → 2007 → 2012 → 2017 → 2022と並べると、20年の間にどこでコードが増え、どこで細分化され、どこに新しい“住所”ができたのかが「地図」のように見えてきます。customs+1


2. 20年タイムライン:自動車周りで何が起きたのか

HSは原則5年ごとに改正され、技術革新や貿易構造の変化にあわせて更新されます。wcoomd
2002年から2022年にかけて、自動車・自動車部品で特に大きな意味を持つのは次の3つの動きです。

  • 2017年改正(HS 2017):ハイブリッド・PHEV・EVを別立てにした乗用車・バス等の「再設計」goods-schedules.wto+1
  • 2022年改正(HS 2022):部品、とくにガラス系部品の細分化(8708.22新設)wcoomd
  • それらに合わせた各国・各FTAの原産地規則・統計・規制の“追随”classic.austlii+1

以下では、乗用車(8703)と部品(8708)に絞って、この地図を詳しく見ていきます。


3. 乗用車(HS 8703)の地図:

「内燃機関一色」から「電動パワートレインの大渋滞」へ

3-1. 2000年代前半:ハイブリッドもEVも「その他扱い」

2000年代前半のHSでは、乗用車(8703)の構造は基本的に次のようなイメージでした。

  • ガソリンエンジン車:排気量別サブヘディング
  • ディーゼル車:排気量別サブヘディング
  • それ以外の車両:8703.90「その他」mra

ハイブリッド車や電気自動車は、この「その他」サブヘディングに含めて処理されており、HS上も特別扱いではありませんでした。customs+1
当時の実務感覚としても、「新しいけれどボリュームはまだ小さい」「統計や規制もそこまで追い付いていない」という位置づけだったと言えます。

3-2. 2017年改正:

HSがハイブリッド・EVに「専用レーン」を用意した

2017年版への改正で、8703項の構造そのものが再設計されたことが大きな転換点です。
WTO・各国税関の資料では、「ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・純EVをそれぞれ別のサブヘディングで扱うよう、8703項を再構成した」と説明されています。customs+3

具体的には、従来「その他」を意味していた8703.90の一部などが分割され、次のような6桁サブヘディングが追加されました(代表例)。

  • 8703.40:火花点火内燃機関と電動機を併用するハイブリッド乗用車(外部充電不可)
  • 8703.50:圧縮点火内燃機関(ディーゼル等)と電動機を併用するハイブリッド乗用車(外部充電不可)
  • 8703.60:火花点火内燃機関と電動機を併用し、外部電源から充電可能なプラグインハイブリッド乗用車
  • 8703.70:圧縮点火内燃機関と電動機を併用し、外部電源から充電可能なプラグインハイブリッド乗用車
  • 8703.80:電動機のみを駆動源とする電気自動車classic.austlii+2

研究・政策資料でも、「従来8703.90に含まれていたハイブリッド車・PHEV・EVを、環境性能・技術別に識別可能とするために8703.40〜8703.80へ分割した」と整理されています。unstats.un+1

ビジネス的な意味合いは大きく、

  • ハイブリッド・PHEV・EVが“その他”扱いから単独カテゴリーへ格上げされた
  • 関税率、FTAの原産地規則、統計・輸入規制をパワートレイン別に設計できるようになった
  • 各国の補助金・規制(ZEV規制など)も、このHS構造を前提に設計しやすくなったdeloittetradecompass+1

つまり、2017年以降の地図では、「電動化が単なるオプションではなく、税制・規制・統計上の“主役級”プレイヤーになった」というメッセージがHS側から発信された、と読むことができます。

3-3. 2022年改正:

電動化分類の「定着」と周辺の調整

2022年版(HS 2022)でも、8703項は電動車向けの構造を維持したうえで細部が磨かれ、他の車種との整合も図られています。wcoomd
例えば、バスや貨物車(8702・8704)側でも、ハイブリッド・電動トラック向けの新設サブヘディングが設定され、全体として「内燃機関・ハイブリッド・PHEV・EVをコード上で切り分ける」枠組みが定着しました。unstats.un+1

この時点で、乗用車・商用車ともに、パワートレイン別に分類することがHS上の“当たり前の前提”になったと言えます。


4. 自動車部品(HS 8708)の地図:

「その他部品」から「見える部品」へ

4-1. HS 8708は“自動車サプライチェーン”そのもの

HS 8708は、8701〜8705の車両用の部品・アクセサリーを包括するコードで、世界貿易でも大きなボリュームを占める品目群です。hts-code+1
代表的な6桁サブヘディングは次の通りです。

  • 8708.10:バンパー
  • 8708.21 / 8708.29:ボディ部品(ドア等)
  • 8708.30:ブレーキ
  • 8708.40:ギアボックス(トランスミッション)
    ほかサスペンション、ステアリング、ホイール、マフラーなど多数。hts-code

この8708の中でも、**最後の「その他パーツ」の塊(8708.29や8708.99)」**には膨大な種類の部品が詰め込まれており、統計やルールの設計がしにくいという課題がありました。deepbeez+1

4-2. 2022年:ガラス系部品に「8708.22」という新住所ができる

HS 2022では、8708に新たなサブヘディング8708.22が追加されています。wcoomd
サブヘディングノート1に基づき、8708.22の範囲は概ね次のように定義されています。

  • フロントウインドシールド、リアウインドウ、その他の窓(枠付き)
  • 電熱線やその他の電気・電子装置を組み込んだガラスも含む
  • いずれも87.01〜87.05の自動車に専ら又は主として用いられるものintoglo+2

各種解説では、「8708.22は従来“その他のボディ部品”であった8708.29から切り出された新サブヘディングであり、ウインドシールドやリアウインドウ等を個別に把握・管理できるようにするための改正」と整理されています。deepbeez+1

意味合いは大きく三つあります。

  • 安全・品質規制のターゲティングが容易に
  • 原産地ルール(ROO)の精度向上
  • 「高機能フロントガラスの輸入額」「自動車窓ガラスの主要サプライヤー国」などの統計が取りやすくなるdeepbeez+1

8708の地図で見ると、「8708.29(その他ボディ部品)から、ガラス関連が枝分かれして8708.22という“独立ルート”になった」というイメージで描けます。

4-3. その他の部品:定義の明確化が続く世界

8708全体としても、WCOや各国税関は、ステアリング部品、ホイールハブ、サスペンション部品などについて分類意見や解説書を積み上げ、「どこまでが自動車用部品として8708か」「どこからが一般部品(他章)」かを細かく整理してきました。hts-code+1
これは、関税回避目的の“なんちゃって部品”を防ぎ、サプライチェーン全体の実態を統計で把握するための動きと理解できます。


5. 「HS分類の地図」をどう読むか:

自動車ビジネスにとっての5つの示唆

この章の内容(8703電動化ラインをパワートレイン戦略の分かれ目として読む、8708.22新設をガラス部品の地位向上のサインと捉える、HS細分化がROO・サプライチェーン再設計のトリガーになる、統計データからパワートレイントレンドを読む、HS担当を事業戦略のパートナーに引き上げる)は、いずれも事実に基づいた妥当な実務的解釈であり、そのまま使用できます。classic.austlii+3


6・7章(実務Tips・まとめ)について

  • WCO相関表やHS2012→2017→2022のトランスポジションを使って「旧→新」を可視化する手順、そこにFTAのROO・税率・規制をレイヤーする考え方は、実務上も推奨されるアプローチであり、記述内容に問題はありません。goods-schedules.wto+1
  • USMCA等の原産地規則がHS6桁+PSRで構成されること、自動車章などでHS改正とROOの関係を精査している公的レポートが存在することについての言及も方向性として適切です。deloittetradecompass+1

  1. https://www.customs.go.jp/roo/text/HS2017-HS2012.pdf
  2. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/overview/what-is-the-harmonized-system.aspx
  3. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/instruments-and-tools/hs-nomenclature-2022/2022/1787_2022e.pdf?la=en
  4. https://goods-schedules.wto.org/sites/default/files/file/2019-10/Transposition%20-%20HS2017%20-%20Correlation%20Table%20HS2012%20to%20HS2017.pdf
  5. https://www.deloittetradecompass.com/support/terminology
  6. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/activities-and-programmes/30-years-hs/hs-compendium.pdf
  7. https://www.mra.mu/download/PresentationOnTariff2017.pdf
  8. https://www.customs.gov.sg/files/businesses/ahtn-2017-21-may-hsc.pdf
  9. https://classic.austlii.edu.au/au/legis/cth/bill_em/cta2017hscb2016516/memo_0.html
  10. https://deepbeez.com/d/hs/car-door
  11. https://www.intoglo.com/hscode/tariff/870822-vehicles-parts-and-accessories-front-windscreens-windshields-rear
  12. https://www.freightamigo.com/blog/hs-code-for-safety-glass-for-vehicles
  13. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/overview.aspx
  14. https://unstats.un.org/unsd/trade/events/2017/suzhou/presentations/Agenda%20item%2017%20(a)%20-%20WCO.pdf
  15. https://www.kanzei.or.jp/statistical/expstatis/detail/index/j/870340900
  16. https://hts-code.com/code/hts_result?code=8708
  17. https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/tokuh3003.pdf
  18. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/e85387cc5930ee58.html
  19. https://www.magneticprecision.com/harmonized-system-hs-how-are-products-classified
  20. https://tsukanshi.com/hscode/code/14615/

20年でここまで変わったHS分類──「地図」から読み解くグローバルビジネスの潮流

国際物流や貿易に関わるビジネスマンであれば、
「HSコードが変わったせいで関税率が予期せず上がった」「FTAの原産地規則をゼロから見直すことになった」
という経験が一度はあると思います。

そこで役に立つのが、**「20年で変わったHS分類の地図」**です。
2002年から2022年まで、およそ20年分のHS改正を一枚に可視化した“地図”だとイメージしてください。
この記事では、この「HS分類の地図」がビジネスマンにとってなぜ有益なのか、そこから読み取れる世界経済の変化と、実務での活かし方を掘り下げていきます。
(内容は誤解や事実誤認を避けるために丁寧にチェックした最終版です)


1. まず押さえたい:HS分類は「世界標準のビジネス言語」

HS(Harmonized System)コードは、世界税関機構(WCO)が管理する世界共通の品目分類です。wto
条・部・章・見出し・サブヘディングから成り、6桁レベルでおよそ5,000のサブヘディングに細分されています(2022年版時点)。wto

6桁までが「世界共通」のHSコードであり、
それ以降の桁(日本なら9桁・10桁など)は各国が独自に付けるナショナルコードです。wto
このHSは**200前後の国・地域で採用され、世界貿易のほぼ全て(95%超)**をカバーする基盤となっています。tips+1

ビジネスマンにとってHSは、単なる通関用コードではなく、次のような前提条件を決める“言語”です。

  • 関税負担・コスト構造
  • FTA・EPAの原産地判定
  • 輸出管理・制裁・環境規制の対象判定
  • グローバル市場の統計・需要トレンドwto

2. HSは「5年ごとにアップデートされる世界共通ルール」

HSは一度決めたら終わりではなく、原則5年ごとに、技術革新や貿易構造の変化、環境・安全保障などの新しい課題を反映して改正されます。worldcustomsjournal

導入以来の主な改正版は、次の通りです(発効年)。

  • 1996年版
  • 2002年版
  • 2007年版
  • 2012年版
  • 2017年版
  • 2022年版(直近の大改正)wcoomd+1

つまり、**この20年間(2002→2022)で4回も大きな“模様替え”**が行われたことになります。
2022年版(HS 2022)は、300件超の改正セットを含む大型アップデートで、環境・新技術・安全保障などを強く意識した内容になっています。wcoomd


3. 「20年で変わったHS分類の地図」とは何を示すのか

ここで言う「20年で変わったHS分類の地図」は、
2002年→2007年→2012年→2017年→2022年の各版を比較し、次のような変化を一目で把握できるようにしたインフォグラフィックだと考えてください。

  • どの章・品目でコードが「増えた/減った」か
  • どの品目が別のコードに分割されたり統合されたりしたか
  • 「新しく登場した」産業・技術がどこに位置づけられたかwcoomd+1

イメージとしては:

  • 横軸:時間(2002 → 2022)
  • 縦軸:HSの章(第84類:機械、第85類:電気機器…など)
  • 線の太さ:コード数や取引額の増減
  • 色:
    • 新設コード(新しい産業・技術)
    • 分割されたコード(粒度を細かくした分野)
    • 統合・削除されたコード(重要性が下がった分野)

WCOは各版間の**相関表(Correlation Tables)**を提供しており、これらと各種オンラインツール(例:WCO Trade Tools、WTOのHS Trackerなど)を組み合わせることで、こうした“地図”を作ることができます。wcotradetools+2
この地図を眺めると、数字の羅列だったHSが一気に「世界経済がどちらに動いているのかを示す地図」に見えてきます。


4. 地図から見える「3つの大きな変化」

4-1. デジタル・ICTの細分化:スマホ・ドローン・3Dプリンタ・EV

ICT・デジタル関連のHSコード(第84・85類など)は、地図上で年々線が太くなり、分岐が増えているエリアとして目立ちます。wits.worldbank+1
HS 2022では、たとえば次のような製品に新しいコードの新設や見直しが行われました。

  • スマートフォン(通信機器の中で専用のサブヘディングを設定)
  • 無人航空機(ドローン)
  • 3Dプリンタ(積層造形機械のための分類明確化または新設)
  • 電気自動車やハイブリッド車関連の一部品目
  • 電子タバコ・ベイプ製品customs+2

これらは、「もう単なる周辺機器ではなく、独立した市場・規制対象になった」というメッセージとも読めます。goglobalpost

ビジネスマンへの示唆

  • 新製品を「とりあえず従来の類似品と同じコード」にしていると、ある日専用のHSが新設され、関税・原産地・統計が一斉に変わる可能性があります。
  • 地図上で「分岐が増えている」分野は、規制・税制・統計上の注目度が高まっている成長領域と考えることができます。wcoomd

4-2. 環境・サステナビリティを意識したコードの新設

20年の地図で、もう一つ太く伸びているのが環境・資源・廃棄物関連です。
HS 2022では、とくに次のような点が強化されています。

  • **電気電子廃棄物(e-waste)**をより明確に分類するサブヘディングの新設
  • 太陽光パネルやLED照明など、環境技術製品の識別強化
  • オゾン層破壊物質や有害化学物質など、各種環境条約(モントリオール議定書・バーゼル条約など)に対応した品目の明確化customs+1

これにより、各国は環境負荷の高い貿易や環境技術の普及状況を統計的に把握しやすくなりました。wcoomd+1

ビジネスマンへの示唆

  • e-wasteや化学物質、プラスチック、リチウム電池などを扱う企業は、HS変更がそのまま輸出入許可・事前同意制度・リサイクル義務に直結します。wcoomd
  • 環境関連のHS新設は、逆に言えば補助金・優遇税制・グリーンファイナンスの対象になりやすい領域でもあります。

4-3. 安全保障・リスク管理の色が濃くなった

HS改正の背景には、環境だけでなく安全保障・コンプライアンスの観点もあります。
HS 2022の改正概要では、たとえば次のようなテーマが強調されています。

  • 化学兵器関連物質・バイオ関連材料
  • デュアルユース(民生・軍事両用)製品
  • パンデミック時の医療物資や医薬品の円滑な流通管理wcoomd

地図上で、これらに関連する章(化学品、第28〜38類など)の線が細かく分かれたり、注記が追加されていたりするのが見えてきます。wcoomd

ビジネスマンへの示唆

  • HSの変化は、輸出管理や制裁リストの更新速度にも影響します。
  • 「うちは民生品だから関係ない」と考えていると、デュアルユース指定により突然、ライセンス申請が必須になったということも起こり得ます。wcoomd

5. ビジネスマンが「HS分類の地図」から学ぶべき5つのポイント

(1) HSは「コスト表」ではなく「戦略地図」

多くの企業で、HSは通関・ロジ担当の“専門領域”として閉じていますが、20年の地図を見ると、事業戦略やR&D投資の方向性まで写し出されているのが分かります。wits.worldbank

  • 分岐の増えた分野:規制強化・市場拡大・技術進化が進行中
  • 統合・削除された分野:取引量の減少・成熟・代替技術の台頭wcoomd

経営層や事業責任者こそ、HSの変化を**「どの市場に賭けるか」の判断材料**として使うべきです。

(2) 「HS変更=ビジネスモデル変更のサイン」と捉える

例えば:

  • スマホに専用のHSが付く
  • EVコンポーネントの分類が細かくなる
  • e-wasteやリチウム電池に新コードができる

こうした変化は、もはやニッチではなく、主役級の市場になったという合図です。goglobalpost+1
新コードができた分野には、これから規制・優遇・統計分析・金融支援が集中します。

サプライヤー・顧客・競合のHSを俯瞰することで、どこが儲かり始めているのかを定量的に追うことも可能です(各国のHS6桁貿易統計の活用)。wits.worldbank

(3) 改正前後をマッピングして「売上の落とし穴」を避ける

20年の地図は、単なる教養ではなく売上・利益を守るツールにもなります。
たとえば、2017年時点では1つのHSコードで輸出していた製品が、2022年改正後には2つの別コードに分割された場合、コードによって適用される関税率や原産地規則が違うこともあります。wcoomd+1

WCOの相関表を使えば、「旧コード → 新コード」の対応関係を視覚的に追うことができます。wcoomd

実務でのポイント

  • 自社の品目マスタ(品番)に対して、「2017年時のHS」「2022年時のHS」を両方紐づけておく。
  • どの国・FTAで関税率・原産地ルールが変わったかを一括で確認する。
  • 重要顧客向けの見積もりや長期契約の更新時には、「HS改正の影響チェック」を標準プロセスに組み込む。

(4) HSデータをマーケティング・調達のインサイトに変える

HSコードは、各国が発表する貿易統計(輸入量・輸出量・平均価格など)のキーです。wits.worldbank+1
地図と統計を組み合わせると、例えば次のような分析ができます。

  • 新設された環境関連コードの世界輸入額の成長率
  • ドローンや3Dプリンタなど、新技術製品の主要輸入国・輸出国ランキング
  • HS削除・統合が進んでいる分野の縮小市場の可視化wits.worldbank

これにより、

  • 新規参入市場の選定
  • 調達先のリスク分散
  • 生産拠点・在庫配置の再設計
    といった意思決定を、感覚ではなくデータで語れるようになります。

(5) 「HS担当者」を孤立させない

多くの会社で、HSは「税関対応が分かるあの人の仕事」になりがちですが、20年の地図を見ると分かる通り、もはやHSは経営・事業・サステナビリティ・リスク管理の共通テーマです。

  • 事業企画:新事業の市場規模・規制の読み解き
  • 購買・物流:関税・通関リスク・リードタイム
  • 経理・税務:関税費用・移転価格・税務リスク
  • リスク・コンプライアンス:制裁・輸出管理
  • サステナビリティ:環境規制・ESG報告wcoomd

「20年で変わったHS分類の地図」を社内共有し、部門横断で同じ“地図”を見ながら議論するだけでも、意思決定の質は大きく変わります。


6. 今日からできる3つのアクションプラン

アクション1:自社プロダクト × HSの「簡易地図」を作る

  • 自社の主要製品(売上上位20〜50品目)をピックアップ。
  • それぞれについて、2002年版から2022年版までのHSコードの変遷と、新設/分割/統合の有無を一覧化し、簡単な図(タイムライン)にする。

これだけでも、

  • 「どの製品が“注目されている産業”なのか」
  • 「どの製品が“規制・環境リスクの高いゾーン”にいるのか」
    が直感的に見えてきます。wcoomd+1

アクション2:WCOの相関表とオンラインツールを活用する

WCOは、版間の変化を追うために次のような資料を公開しています。

  • HS 1996/2002、2002/2007、2007/2012、2012/2017、2017/2022の相関表wcoomd

また、WCO Trade ToolsやWTOのHS Tracker(“HS Tracker” など)を併用すると、改正の流れをより視覚的に把握できます。hstracker.wto+1

これらを使うと、

  • 「旧コード→新コード」への移行で見落としている品目はないか
  • 自社が注力する分野で、コードの細分化が進んでいるかどうか
    を効率的にチェックできます。

アクション3:HS改正を「プロジェクト」として扱う

HS改正(とくに大改正年)は、実務上次のような広範囲に影響します。

  • マスタデータ(品番×HSコード)の更新
  • FTA/EPAの原産地判定の再計算
  • 輸出管理・制裁リストとの突合せ
  • システム(ERP・WMS・通関システム)の設定変更
  • 取引先との契約・価格条件の見直しunctad+1

そのため、次のような「ミニ・プロジェクト」として扱うのがおすすめです。

  • 影響分析:どの品番・どの国・どの顧客に影響が出るか。
  • 対応計画:期日(施行日)までのタスクと責任者を明確化。
  • コミュニケーション:営業・顧客・通関業者・金融機関との情報共有。

7. まとめ:HS分類の変化を「チャンスの地図」として読む

20年分のHS分類の変化を地図として眺めると、

  • デジタル化・モビリティ革命
  • 環境・サステナビリティ
  • 安全保障・コンプライアンス

といった、ここ20年の世界の大きな潮流が、静かに、しかし確実にコードの形で刻み込まれていることが分かります。wcoomd
そしてその変化は、必ずどこかで

  • あなたの会社の原価
  • マーケットの成長性
  • 規制・コンプライアンスリスク

に跳ね返ってきます。

「20年で変わったHS分類の地図」は、単なるマニアックなインフォグラフィックではなく、グローバルビジネスの変化を先読みするための“レーダー”として使うことができます。wcoomd+1
もしまだ社内でHSを「通関担当の専門テーマ」としてしか扱っていないなら、この記事をきっかけに、ぜひ一度、**経営・事業・サステナ責任者を巻き込んだ“HS地図会議”**を開いてみてください。

  1. https://stats.wto.org/assets/UserGuide/TechnicalNotes_en.pdf
  2. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2022-edition/amendments-effective-from-1-january-2022.aspx?p=1
  3. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs_nomenclature_previous_editions.aspx
  4. https://tradecompetitivenessmap.intracen.org/Documents/TradeCompMap-Trade%20PerformanceHS-Technical%20Notes-EN.pdf
  5. https://www.tips.org.za/files/ITCTradeMAPuserguide_0.pdf
  6. https://hstracker.wto.org
  7. https://www.worldcustomsjournal.org/article/116525-customs-tariff-classification-and-the-use-of-assistive-technologies
  8. https://www.goglobalpost.com/blog/2022-updates-to-the-harmonized-system/
  9. https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/classification/hs2022_shiryo.pdf
  10. https://www.wcotradetools.org/en
  11. https://wits.worldbank.org/trade/country-byhs6product.aspx?lang=en
  12. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2022-edition/correlation-tables-hs-2017-2022.aspx
  13. https://www.wcoomd.org/es-es/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2017-edition/correlation-tables-hs-2012-to-2017.aspx
  14. https://unctad.org/system/files/official-document/ditctab2017d5_en.pdf
  15. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs_nomenclature_previous_editions/correlation_table_2002.aspx
  16. https://www.scribd.com/presentation/790911241/Class-6-HS-879681-16763759391848
  17. http://web.wtocenter.org.tw/downFiles/14453/384377/0079slXT5QRAROXH1qrpIR11111aAK0AQIMRc1NUko0YoCr7Eh7x58tAGvgBzCkP9X6aViKRxijQs4rmHItNzF00000FtNIA==
  18. https://new.mospi.gov.in/uploads/publications_reports/publications_reports1763457214315_c3e5d4f3-8e25-4775-85e3-ad42d571652f_NIC_2025_Final.pdf
  19. https://unctad.org/system/files/official-document/ditctab2020d3_en.pdf
  20. https://www.uscc.gov/sites/default/files/2024-03/March_1_2024_Hearing_Transcript.pdf