WCO注記改正で読み解く EV電池分類の新基準

バッテリーパックは「どこまで」HS 8507なのか

EV電池の国際取引では、セル、モジュール、パック、さらにBMS(電池管理)や温調、保護回路、筐体まで一体化した形で流通するのが当たり前になりました。ところが実務では、構成要素が増えるほど「電池そのもの」なのか「機器の部分品」なのかが揺れ、通関・原産地・規制対応まで連鎖的に事故が起きます。

この揺れに対して、WCO(世界税関機関)のHS注記は、電池を電池として扱うための線引きを、かなり明確にしています。結論から言うと、一定の付属部品や筐体の一部を伴っていても、電池は電池のまま(HS 85.07)に置く、という整理です。 (wcotradetools.org)


1. いまEV電池の分類がビジネス課題になる理由

EV電池のHS分類は、単なる番号付けでは終わりません。誤ると影響は広範囲です。

  1. 関税・追加関税・統計の誤り
  2. FTA/EPAの原産地判定(CTCの段・RVC計算・部材表)に波及
  3. 危険物輸送、環境規制、輸出管理など「対象品目判定」の入り口がズレる

つまり、電池の分類は、調達から輸出入、価格、契約、監査対応までを左右する“経営の基礎データ”になっています。


2. WCO注記が示す「電池として扱う」境界線

2-1. 注記の中核:付属部品があっても電池は電池

WCOのHS(第85類)の注記では、85.07項の「電気蓄電池(electric accumulators)」について、次の考え方が明文化されています。

・電池は、電力を蓄えて供給する機能に寄与する付属部品、または損傷から保護する付属部品を伴っていても、85.07に含まれる
・例として、電気コネクタ、温度制御デバイス(例:サーミスタ)、回路保護デバイスが挙げられている
・用途先の機器に使われる保護筐体の一部を含むこともある (wcotradetools.org)

ここが「新基準」の本体です。EV用のトラクションバッテリーは、まさにこの付属部品を標準装備しています。したがって、付属部品があること自体を理由に、電池を“別物”に寄せる判断は取りにくくなります。

2-2. 「バッテリーパック」概念の補強:特定機器向けでも85.07

さらに、WCOのHS解説注(Explanatory Note)側でも、セル群を接続して構成する「バッテリーパック」を85.07に含める考え方が示され、付属部品や保護筐体があっても、また特定機器向けに設計されていても、原則として85.07で扱う方向性が示されています。 (wcoomd.org)

実務的に重要なのは、「EV向け専用品だから車両部品(第87類)では?」という直感が、そのまま通らない点です。電池は“車両の部品っぽい”見た目でも、HSの体系上は電気機器として別建てで整理されやすい、というのがWCO側の設計思想です。


3. 実務で使える「新基準」チェックリスト

付属品が増えたとき、どこまでが電池か

通関事故を減らすには、「付属品の性格」を先に分類します。ポイントは1つです。

その部品は、電池の蓄電・放電(供給)機能に寄与するのか、保護のためなのか。あるいは別機能なのか。

3-1. 85.07に寄りやすい典型(注記の射程内)

・高電圧コネクタ、バスバー、端子
・温度センサー、温調用の安全部材(電池保護目的の範囲)
・ヒューズ、遮断器、保護回路
・保護筐体の一部(用途先機器の筐体と一体でも、電池保護の文脈なら議論に乗る) (wcotradetools.org)

3-2. ここから先は要注意(“別機能”が立つ可能性)

・インバータ、DC-DCコンバータなど電力変換
・車両制御ECUとしての機能が前面に出る制御ユニット
・充電器など外部電源との変換・充電制御が主体の機能

この領域に入ると、「電池+別機能機器」の複合体になり、HSの別の論点(複合機械、主要な機能、セット品判断など)が立ち上がります。ここは製品仕様次第で結論が割れやすいため、事前教示(Advance Ruling)を取る価値が急に上がります。


4. 企業が今すぐやるべきこと

HS分類を“設計図”として固定する

EV電池は、量産開始後に構成が変わりやすい製品です。だからこそ、分類の根拠を「最初に固定」しておく必要があります。

  1. 部材表(BOM)を「分類用」に再編集する
    電池セル、接続回路、保護回路、温調、筐体を、機能別に分解して説明できる形にする。
  2. 付属部品を「電池機能・保護」か「別機能」かでタグ付け
    設計変更が入っても、分類に影響する変更かどうかを即判定できるようになります。
  3. インボイス・仕様書・カタログの用語統一
    battery pack、battery module、BMS、thermal management などの用語が資料ごとに揺れると、税関側の解釈も揺れます。文言の統一はコスト削減そのものです。

5. HS2028時代の位置付け

「番号の変更」より前に、基準の理解が効く

WCOは、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効すること、そして移行のために相関表作成などの準備を進める方針を明確にしています。 (wcoomd.org)

ただ、EV電池の現場で先に効くのは「コードが変わるか」よりも、「電池として扱う境界線を誤らないか」です。注記が示す基準は、HS版が切り替わっても、分類ロジックの土台として残り続ける可能性が高い領域です。


まとめ

EV電池の分類は「付属品の性格」で決まる

・WCO注記は、付属部品や筐体の一部を伴っても、蓄電池は85.07に含める考え方を明確化している (wcotradetools.org)
・実務の新基準は、付属品が「蓄電・供給に寄与」または「保護」か、それとも「別機能」かを切り分けること
・別機能が立つ構成は、最初から事前教示と根拠書類(分類ドシエ)を前提に設計した方が、長期コストが下がる

必要なら、想定しているEV電池(セル・モジュール・パックのどこまでか、BMSや温調の構成、筐体の役割)を箇条書きでいただければ、この基準に沿って「どこが論点で、何を証拠にすべきか」を実務用チェックリストに落として整理します。

【WCO改正解説】センサー・半導体の「境界」が変わる

──「用途」から「構造」判定への実務的転換と、企業が取るべき対応

センサーと半導体は、いまや自動車から産業機械、家電、医療機器に至るまで、あらゆる製品の中核部品です。しかし、貿易実務の現場では、その技術的進化ゆえに分類の境界線が曖昧になっています。

「機能はセンサー(測定)だから第90類ではないか?」「いや、構造は集積回路(IC)そのものだから第85類ではないか?」──こうした解釈の揺れは、国や担当官によって判断が分かれる大きなリスク要因となっていました。

この問題に対し、WCO(世界税関機構)のHS委員会は、分類意見(Classification Opinions)を通じて明確な判断基準を打ち出しています。特に第73回HS委員会(2024年3月)で採択された決定は、センサーと半導体の境界線に新たな「構造重視」のルールを確定させる重要な転換点となりました。

本稿では、この決定が実務に与える影響と、企業がいま講じるべき対策について解説します。


1. 何が決まったのか? センサー内蔵ICは「85.42」へ

今回、実務への影響が特に大きいのは、以下の製品群が第90類(計測機器等)ではなく、明確に**「電子集積回路(HS 85.42)」**として分類整理された点です。

WCO分類意見の要点(代表例)

対象製品のイメージWCO分類 (HS)実務上のポイント
複数のスイッチ機能(複数ダイ)を1パッケージに内蔵するIC
(例:モータドライバ等)
8542.39用途がモータ駆動であっても、構造が「マルチチップIC」の定義に合致すれば85.42を優先。
2つのセンサーダイを同一パッケージに封止したホールセンサーIC
(角度・位置検出用)
8542.39「角度・位置の検出(測定)」という用途があっても、ICとしての一体性・構造要件を重視し、第90類を排除。

これらの決定において、WCOは一般解釈規則(GIR)1および6に加え、**第85類注12(b)(iii)(マルチチップ集積回路の定義)を根拠としています。 特にホールセンサーICの事例は、「測定機能を持つものは第90類」という従来の直感的な判断を覆し、「構造がICであれば第85類」**という原則を強く印象づけるものとなりました。

2. WCOが示した判断軸:機能ではなく「構造と一体性」

今回の分類意見が企業に示唆しているのは、「争点になりやすい『用途』よりも、まず『構造』を見よ」というメッセージです。

分類意見で重視された構造要件

  • 複数ダイ(または機能ブロック)の集積: 複数のダイが1つのパッケージに収められていること。
  • 受動・能動素子の不在: マルチチップICの場合、ダイ以外の追加回路要素(個別のコンデンサや抵抗等)が含まれていないこと。
  • 不可分な一体性: ダイ製造およびパッケージングの時点で、物理的に一体化されていること。

【重要な注意点:相互接続の解釈】

実務上、「ダイ同士が直接ワイヤで繋がっていない(電気的に相互接続されていない)なら、マルチチップICの定義(注12(b)(iii))に当たらないのでは?」と判断し、第90類へ分類してしまうケースが見受けられます。

しかし、WCOの判断はこれとは異なります。ダイ同士が直接接続されていなくても、リードフレームやパッケージ配線を介して機能的に結合(相互接続)していれば、マルチチップICの要件を満たすと解釈されます。

つまり、見た目の配線にとらわれず、「パッケージ全体として一つのICとして機能しているか」という構造的一体性が、分類の決定打となるのです。

3. 法的根拠:第85類注12が持つ「強制力」

この線引きを支えているのが、関税定率法(HS条約)における第85類注12の規定です。

注12は、半導体デバイス(85.41)と電子集積回路(85.42)を定義すると同時に、以下の強力な優先ルールを定めています。

「この注に規定する物品については、第85.41項及び第85.42項は、この表の他のいずれの項(第85.23項を除く。)よりも優先する。」

つまり、ある製品が「センサー」としての機能を持ち(第90類)、同時に「集積回路」の構造定義(第85類注12)も満たす場合、HS条約は「第85類(半導体/IC)に分類せよ」と強制しているのです。

今回のWCOの決定は、この原則をセンサーIC等の「境界領域」の製品に厳格に適用した結果と言えます。

4. 企業への影響:分類ブレ=経営リスク

この解釈更新を単なる「コード変更」と捉えるのは危険です。不正確な分類が引き起こす「不確実性コスト」は、関税率の差以上にビジネスを圧迫します。

  • 通関遅延・追加照会: 構造説明が不十分で「センサー(90類)では?」と疑義を持たれ、貨物が止まる。
  • 事後調査での否認: 過去に遡って過少申告を指摘され、加算税・延滞税が発生する。
  • FTA/EPA適用の崩壊: HSコードが変わることで、原産地規則(CTC要件など)を満たさなくなり、関税ゼロの特典を失う。
  • システム修正の負担: 品目マスタ、ERP、輸出入システムの改修コスト。

WCOの判断が出たからといって、世界中の税関が即座に運用を統一するわけではありません。だからこそ、企業側が論理的な説明(Defense File)を用意しておく必要があります。

5. 実務チェックリスト:いま着手すべき5つのアクション

  1. 対象品目の棚卸し(Inventory)センサーIC、MEMS、モータドライバ、パワーモジュールなど、境界領域にあるSKUを抽出。現行のHS採番理由が「用途」寄りになっていないか再点検します。
  2. 「構造」を証明する技術資料の整備単なるスペックシート(機能説明)では不十分です。パッケージ内部構造、ダイの枚数・構成、リードフレームとの接続、追加部品の有無を図解できる資料(Cross-section図など)を準備します。今回のWCO判断において、勝負を決めるのはこの情報です。
  3. 製品記述(Description)の標準化インボイスやマスタ品名において、「Sensor」という単語を強調しすぎると誤解を招きます。「Integrated Circuit (Dual die Hall sensor type)」のように、構造(IC)を主語にした記述へ統一することを推奨します。
  4. 重点国での事前教示(Advance Ruling)主要な輸出入国において、今回のWCO判断が浸透しているかを確認し、リスクが高い場合は事前教示制度を利用して分類を確定させます。
  5. 変更管理(Change Management)の制度化設計変更やサプライヤ変更により、1ダイから2ダイへ、あるいは受動部品の内蔵有無が変わると、HSコードも変わる可能性があります。設計変更通知(PCN)とHS分類部門が連動する仕組み作りが不可欠です。

まとめと今後の見通し

WCOのHS委員会は、継続的にこの領域の整備を進めています。直近の第76回会合(2025年9月)に続き、次回第77回会合(2026年3月予定)でも新たな分類議論が行われる見込みです。この領域は「一度決めたら終わり」ではなく、「技術進化に合わせて更新され続ける」テーマです。

今回のWCOのメッセージは明確です。「迷ったら構造を見よ」。

特にセンサー機能を内包するデバイスについては、用途ではなく**構造(ICの定義合致性)**で85.42に整理する流れが確定しました。

経営層および実務責任者は、これを機に対象品目の棚卸しを行い、税関に対して「構造」を正しく説明できる体制(技術資料とロジックの整備)への投資を急ぐべきです。それが、無用なサプライチェーンの混乱を防ぐ最善策となります。

HSコードは番号から説明責任へ:ドシエの必要性が税関により強く推奨される

HSコードは、正しい番号を当てるだけの業務ではなくなりつつあります。製品が高度化し、機能や用途が複合化するほど、分類の論点は増え、判断の揺らぎも起きやすくなります。だからこそ近年は、結論としてのHSコードに加えて、その結論に至った根拠をどれだけ明確に示せるかが、通関スピードや事後対応の負担を左右する局面が増えています。

この流れの中で注目されているのが、HSコード分類根拠書、いわゆるドシエです。ドシエは追加の書類ではありません。経営の視点でいえば、通関停滞、追加照会、事後調査、再分類といった不確実性を下げ、サプライチェーンの時間とコストを安定させるための説明責任インフラです。

税関がドシエを推奨する理由

税関がドシエを重視する背景は、実務上の必要性に集約されます。
第一に、審査を速く正確に進めるためです。仕様や用途の情報が不足すると、税関は照会を増やして確認せざるを得ません。最初から仕様と根拠が整理されていれば、審査の起点が共有され、照会の往復が減り、結果として通関が速くなります。

第二に、判断の一貫性を高めるためです。人や部署、時期によって解釈のブレが出やすい領域ほど、事実と根拠を文書化しておくことで、同じ判断を再現しやすくなります。

第三に、事後調査や紛争のコストを抑えるためです。過去にどんな事実認定をし、どの根拠で結論に至ったかが整理されている企業ほど、説明が短期間で済み、修正が必要な場合でも影響範囲の特定が速くなります。

ドシエに入れるべき中身

ドシエの目的は、難しい文章を書くことではなく、事実と論理を一体で提示できる状態を作ることです。基本の骨格は次のとおりです。

  1. 製品の客観仕様
    材質、構造、機能、用途、製造工程、構成部品、型番体系、性能値など
  2. 証拠資料
    仕様書、図面、写真、カタログ、取扱説明書、SDS、分析成績、工程表など
  3. 候補コードと除外理由
    なぜそのコードで、なぜ他の候補ではないのか。境目となる条件は何か
  4. 法的根拠
    解釈に関する通則、部注・類注、関連する参考資料や先例など

この構造を揃えるだけで、社内承認の速度も、対外説明の再現性も大きく変わります。

ドシエで使うべき言語

ここは輸入と輸出で考え方を分けるのが現実的です。

日本に輸入する場合

日本の税関対応を前提にするなら、日本語で要点が整理されていることが最も有利です。理由は単純で、誤解が減り、照会が短くなりやすいからです。外国語の資料が添付されること自体は珍しくありませんが、少なくとも要点と論点は日本語で押さえておくほうが、結果として通関が安定します。

輸出する場合

輸出側のドシエは、英語が事実上必須になる場面が多いです。相手国の通関関係者、輸入者、通関業者、保税倉庫、監査担当など、関与者が国境を越えて増えるため、共通言語として英語が標準になりやすいからです。
加えて、輸出では自社だけで完結しません。相手先が輸入申告を行う国では、分類の説明責任は輸入者側に置かれるのが一般的です。輸入者が説明できなければ、結果として貨物は止まり、追加照会や保留が発生します。このとき、英語で整理されたドシエがあるかどうかが、輸入者の対応力と通関スピードを左右します。

なお、相手国によっては英語だけで十分とは限らず、現地語の補足が有効な場合もあります。現実解としては、次の二段構えが運用しやすいです。
・社内の正本として日本語版を整備し、意思決定と統制を固める
・対外共有用として英語版を整備し、輸入者や海外拠点と同じ論点で会話できる状態を作る

ここでHSCFが有益になるポイント

ドシエ運用のボトルネックは、知識不足よりも、情報収集と論点整理と文書化です。HSCFが効くのはまさにこの部分です。

  1. 証拠の回収を速くする
    写真、PDF、仕様書など、現場に散らばる材料を起点に検討を始められると、ドシエの土台作りが前に進みます。
  2. 不足情報を対話で特定し、抜けを減らす
    分類が割れる多くの原因は、必要な仕様が欠けていることです。追加確認すべきポイントを早い段階で洗い出せれば、照会されやすい穴を先回りして塞げます。
  3. 候補と分岐点を明示し、除外理由を作りやすくする
    ドシエで最も価値が出るのは、なぜ他のコードではないかの説明です。候補の並列提示と論点の切り分けができると、除外理由が短時間で固まります。
  4. 日英の併用運用に向く
    輸入は日本語、輸出は英語という二重運用は、理屈は正しくても現場負担が重くなりがちです。HSCFを活用して、日本語で統制を固めながら、英語の対外共有版も同じ骨格で整える運用にできると、スピードと再現性が両立します。用語や表現のブレを抑えられることも、海外とのコミュニケーションでは効いてきます。

まとめ

ドシエが重視されるのは、分類の正しさだけでなく、説明可能性が通関速度とコストを左右するからです。税関側にとっても、企業側にとっても、審査の起点となる情報と論理を共有できることが、最大の合理化になります。

そして言語は、輸入は日本語での明確化、輸出は英語での対外共有が鍵になります。輸出では英語のドシエがあるかどうかが、相手国側の通関を動かす実務上の決め手になり得ます。
この二重運用を現場で回すための加速装置として、証拠収集、論点整理、候補比較、文書化を一気通貫で支援できるHSCFは、有益な選択肢になります。

日本の通関実務が変わる日。税関が推奨する「HSコード分類根拠書」とは何か

2026年1月26日、日本の貿易実務において静かですが重要な変化がありました。財務省関税局は、輸入申告に際し「HSコード分類根拠書(通称:ドシエ)」の任意提出を一層積極的に推奨する方針を示しました。

これまでHSコードの決定過程は企業内部の判断に委ねられ、税関には「結論としてのコード」だけが申告されるのが一般的でした。ところが今後は、そのコードを選定した論理的根拠の提示が求められる方向に動いています。これは形式的な申告から、説明責任を伴う判断型の通関へと移行する兆しです。


数字だけでなく「ロジック」を問われる時代へ

税関が推奨するのは、単なるHSコード入力ではなく、それを選定した過程と法的根拠をまとめた文書の添付です。典型的なドシエには以下の内容が含まれます。

  • 製品の客観的な仕様(材質、機能、用途)
  • 検討したHSコードの候補と除外理由
  • 適用した法的根拠(関税率表の解釈に関する通則、類注・部注)
  • 参照した過去の事前教示やWCO分類意見など

税関がこのような詳細情報を求める背景には、製品の多様化・AI技術の進展があります。複雑化する貨物を短時間で正確に分類するためには、輸入者自身による「論理の見える化」が不可欠になっています。つまり、税関と企業が同じ視点で審査の起点を共有する仕組みづくりが進んでいるのです。


企業にとってのメリット:防御から戦略へ

一見すると事務負担が増える施策に見えますが、実は企業に大きな利点があります。

  1. 通関の迅速化。
    ドシエによって判断の根拠が明確になれば、審査時に疑義が生じる可能性が下がり、貨物滞留リスクを減らせます。
  2. 事後調査リスクの軽減。
    万一HSコードが誤っていたとしても、合理的な根拠を提出していれば、企業は「正当な注意義務(Reasonable Care)」を果たしたと評価され得ます。これにより、重加算税などの厳罰を回避し、修正申告で済む場合が増えるでしょう。

このようにドシエは、単なる説明書ではなく企業を守る保険であり、同時に通関精度を高める経営戦略ツールでもあります。


「なんとなく分類」からの脱却

これまで多くの現場では、「前回と同じ」「仕入先からそう言われた」といった慣習的判断に頼る傾向がありました。税関の今回の方針転換は、そうした「前例主義」からの脱却を意味します。今後の優秀な貿易担当者には、合理的根拠を文書化できる力が不可欠になります。HSコードの知識だけでなく、「なぜそのコードなのか」を説明できる論理構成力が問われる時代に入りました。


AIとテクノロジーがカギを握る

すべての申告で人手による詳細なドシエ作成を行うのは非現実的です。そこで注目されるのがAIや専門システムの活用です。
商品仕様を入力するだけで、関連通則・類注を自動抽出し、分類根拠を論理的に組み立てるAIツールも登場しています。企業はこうした技術を導入することで、人の判断を強化しつつ業務負担を抑え、コンプライアンスの精度を高めることが可能になります。


まとめ

2026年1月26日は、日本の通関実務が「結果主義」から「プロセス重視」へと舵を切った節目となるかもしれません。
税関のメッセージは明快です。――「あなたの会社の論理を示してください」。

この要求に根拠あるドシエで応えられる企業こそが、通関トラブルの少ない持続的な貿易を実現し、ホワイトな物流体制を築くことができるでしょう。

変化を恐れず、根拠を武器に。新しい通関の時代が、すでに始まっています。

韓国:「品目分類変更告示」(2026年1月22日)の実務ポイント

2026年1月22日、韓国関税庁(Korea Customs Service)は、2025年12月16日に開催された「第8回 品目分類委員会」の審議結果(9件)を反映した「輸出入物品等に対する品目分類変更告示」の改正内容を官報に掲載したと公表しました。
この種の告示は、韓国向け輸出入に関わる企業にとって、関税率だけでなく、FTA適用や申告実務(品目マスタ、通関指示、事後修正の要否)に直接影響します。


1. 今回の改正で何が起きたか

今回のポイントは、韓国での品目分類の取り扱いについて、品目分類委員会の決定を通じて解釈が明確化され、その内容が告示改正という形で公式ルールに組み込まれた、という位置付けです。
同じ製品であっても、分類の変更や整理が行われると、次のような要素が連鎖的に変わり得ます。

  • 適用関税率(基本税率、WTO譲許税率、協定税率など)
  • FTAの原産地規則における判定起点(HSベースのCTC基準など)
  • 輸入側での審査観点(補足資料要求、差し止め、事後調査リスクなど)

公表された9件のうち、実務的に象徴性が高い事例として、冷凍水産品と情報機器関連品の分類が説明されています(以下では代表的な論点として整理)。


2. 注目すべき分類事例

事例A:冷凍「チュクミ(주꾸미)」の扱い

争点は、「国際的な学名(属名)の変更が、HS上の分類変更を当然に意味するのか」という点です。
HS2017・HS2022体系では、タコ類は一般に「0307.52 Octopus (Octopus spp.), frozen」に分類されており、コードの構造自体は属の学名変更に直接連動しない形で設計されています。

韓国税関は、学名の変更は生物分類学上の名称変更にとどまり、HS体系の構造やコードの範囲が自動的に変わるものではない、という考え方に立ち、タコ類としての取扱いを維持する判断を示しています(具体の10桁分類「0307.52-3000」自体は韓国の細分コードであり、国際HSでは6桁までである点に注意が必要です)。
実務的には、韓国・ASEANはじめ各FTAで、同じHSコードに属するか否かにより関税率(0%か、そうでないか)が分かれる場合があり、この判断は輸入者・輸出者双方にとって影響が大きいテーマです。

また、韓国関税庁はこのような学名変更とHS分類の関係について、世界税関機構(WCO)の場で整理を進める姿勢を示しており、将来的な国際的ガイダンス整備につながる可能性があります。

事例B:CPUクーラー(液冷+ファン等の複合品)の扱い

CPU冷却用の装置(ラジエーター、ポンプ、チューブ、冷却ヘッド、ファン等で構成された液冷クーラーなど)について、「単なるファン(HS第84.14項)」や「一般的な冷却機器(HS第84.19項)」としてではなく、「自動データ処理機器用の部品(HS第84.73項)」として整理した点が重要です。

理由としては、次のような事情が総合的に評価されたと説明されています。

  • 複数の構成要素が一体となってCPU冷却という単一の機能を果たしている点(複合品としての一体性)
  • コンピュータ(自動データ処理機器)に専用、または主として使用される点(用途の専用性)

このような判断は、WCO解釈通則の「機能の一体性」や「特定用途向け部品」の考え方とも整合的であり、韓国としてコンピュータ関連部品の分類を整理していく流れの一端と位置付けられます。


2事例をビジネス視点で整理

実務上の示唆を、争点・結論・企業側の着眼点という切り口で整理すると、次のようになります(以下の表のコメント部分は筆者による実務的解釈です)。

対象争点韓国側の結論・方向性(要約)企業への示唆(実務的な解釈)
冷凍チュクミ(タコ類)学名(属名)の変更がHS分類を動かすか学名の変更それ自体ではHSの分類範囲は自動的には変わらない。タコ類としての分類を維持する方向。商品説明を生物分類上の名称だけに頼り過ぎず、実際の形態・用途・通関上の既存取扱いとの整合を確認する。FTA税率差の有無も含め、韓国側の分類と社内マスタを合わせる必要。
CPUクーラー(液冷+ファン等の複合品)ファン(8414)か、冷却機器(8419)か、それともコンピュータ部品(8473)か複数部材が一体となってCPU冷却という単一機能を果たし、かつコンピュータに専用または主として使用されることから、コンピュータ部品側(8473)に整理。構成部材の「寄せ集め説明」ではなく、用途の専用性と機能の統合性を文書で示す。写真・構成図・取付先機器等を整理し、「一般用ファン」や「汎用冷却装置」とは異なることを根拠立てる。

3. 日本企業が取るべき実務アクション

ここからは、日本企業が自社の業務フローにどう落とし込むかという視点で整理します。

アクション1:該当可能性のある品目の棚卸し

  • 韓国向け出荷品のうち、食品(水産物)、PC部材、冷却・電装周辺品など、今回の事例に類似性が高い分野を優先的に抽出する。
  • インボイス記載HS(6桁)と、韓国側申告コード(10桁)の間でズレが生じやすい品目(生物名ベースの品目、複合機能品など)を重点的に確認する。

アクション2:品目マスタと通関指示書の更新

  • 社内の輸出用HSマスタ(6桁・必要に応じて9桁)と、韓国輸入者側で使用される10桁コード体系を、定期的に照合しながら管理する。
  • 過去に韓国向け輸出実績がある品目については、分類根拠を1枚の説明資料(根拠シート)に整理しておくと有効です(例:
    製品概要、構成要素、主要用途、写真・図面、カタログ抜粋、取付先機器、比較候補コード(なぜ他の号ではないか)など)。

アクション3:不確実な品目は事前照会ルートを活用

韓国税関は、品目分類の不確実性を減らすための事前審査制度を運用しており、UNIPASS(韓国の通関電子申告システム)上で申請が可能と案内しています。
また、2026年1月2日施行の制度改正では、一定条件下で不足税額に対する加算税(不誠実申告加算税)の減免が認められるケースにも言及されており、輸入後に修正が生じ得る業種ほど、社内での修正手順と期限管理のルールをあらかじめ設計しておく価値があります。


4. 実務上の意味合いと今後の活用

今回の「品目分類変更告示(2026年1月22日)」は、単なる個別事例の紹介にとどまらず、韓国が品目分類の予測可能性を高めつつ、WCOとの整合も意識して運用をアップデートしているシグナルといえます。
日本企業としては、影響が出やすい品目から優先度を付け、韓国側の分類ロジックに沿った形で根拠書類の整備と品目マスタ更新を進めることが、最も効率的な対応策となります。