日本の税関が衝撃の数値を公表。AI活用ドシエで審査時間が3割短縮された事実とその意味

2026年1月31日、日本の貿易実務の現場に、これからの方向性を決定づける重要なデータが提示されました。財務省関税局が、AIを活用して作成されたHSコード分類根拠書(ドシエ)を添付した輸入申告について、その審査時間が従来の手法と比較して平均30パーセント短縮されたという実績速報を公開したのです。

これまで、AIを通関業務に導入することに対しては、税関の心証や精度の面から慎重な姿勢をとる企業が少なくありませんでした。しかし、当局自身がその有効性を数字で証明したことにより、AI活用は単なる効率化の手段ではなく、物流スピードを上げるための必須要件へと昇華しました。

本記事では、この30パーセント短縮という数字が持つ実務的な意味と、なぜAIドシエがこれほどまでに審査を加速させるのか、そのメカニズムについて深掘りします。

30パーセントの時短がサプライチェーンにもたらすインパクト

今回公表された審査時間の3割短縮という実績は、ビジネスにおいて極めて大きな意味を持ちます。

通関審査が長引くことは、貨物が港や空港で足止めされることを意味します。保管料(デマレージ)の発生リスクが高まるだけでなく、工場への部材納入や店頭への商品供給が遅れることによる機会損失は計り知れません。

審査時間が3割減るということは、例えばこれまで午前に申告して許可が夕方になっていた案件が、昼過ぎには許可になり、当日中の配送が可能になるかもしれないという差を生みます。リードタイムの短縮は、在庫回転率の向上や物流コストの削減に直結するため、この実績は経営層が注目すべきKPIとなります。

なぜAIが作った書類は審査が速いのか

税関職員も人間です。膨大な申告書類を審査する中で、根拠が曖昧なものや、手書きのメモ書き程度の説明しかない案件は、裏付け調査に時間を取られます。一方で、AIが作成したドシエが審査をパスしやすいのには、明確な理由があります。

論理構成の標準化と可読性

人間が作成するドシエは、担当者のスキルや癖によってフォーマットや書きぶりがバラバラになりがちです。しかし、ガイドラインに沿ってAIが生成したドシエは、結論、法的根拠、製品仕様との対比という論理構成が常に一定のフォーマットで整えられています。

税関職員にとっては、どこを見れば何が書いてあるかが一目瞭然であるため、確認作業の認知的負荷が下がり、結果として決裁までのスピードが上がるのです。

法的根拠の網羅性と引用の正確さ

HSコードを決定する際、最も重要なのは関税率表の解釈に関する通則や、部注・類注といった法的根拠です。人間は、自分が知っている知識に頼りがちで、条文の引用を省略したり、うろ覚えで記載したりすることがあります。

対して特化型のAIは、該当する条文をデータベースから正確に引用し、一言一句間違えずに記述することを得意とします。税関職員が最も確認したい法的根拠が、正確かつ網羅的に記載されていることで、職員側での再調査の手間が省かれます。これが時短につながる最大の要因です。

様子見の時代は終わり、実装のフェーズへ

今回の実績公開により、税関からのメッセージはより鮮明になりました。それは、AIを使ってしっかりとした根拠を示せば、それに見合うメリット(迅速な通関)を提供するという約束です。

これまでAIツールの導入を迷っていた企業にとって、このデータは導入決裁を通すための強力なエビデンスとなります。

AIと人間の役割分担の再定義

ただし、AI任せにすればよいわけではありません。先日公開されたガイドラインでも示されている通り、AIにはハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクがあります。

今後は、AIが作成した論理の骨組みと条文引用の正確さを、人間が最終確認するというプロセスが標準になります。通関担当者に求められるスキルは、ゼロからコードを調べる能力から、AIが提示した論理の妥当性をジャッジする能力へとシフトしていくでしょう。

まとめ

税関によるAIドシエ審査実績の公開は、日本の貿易実務におけるDXの勝利宣言とも言えます。

30パーセントの審査時間短縮は、競争力の源泉です。この事実を前にして、まだ従来の手作業に固執するのか、それともテクノロジーを味方につけて高速なサプライチェーンを構築するのか。経営判断のスピードが問われています。

CBP裁定で読み解く「導線(8544)」と「自動車部品(8708)」の境界線

ワイヤーハーネスは、見た目も用途も明らかに自動車向けです。にもかかわらず、米国税関CBPの裁定では、しばしば自動車部品の8708ではなく、導線としての8544に分類されます。
ここを誤解すると、申告修正や追徴、追加関税の取りこぼし・過払い、サプライチェーン原価計算の崩れにつながりかねません。

本稿では、CBPの代表的な裁定(HQ・NY)を軸に、「導線としての8544」と「自動車部品としての8708」の境界がどこに引かれるのかを、ビジネスの意思決定に使えるレベルまで整理します。

※本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の分類を確定するものではありません。最終判断には製品仕様、構成部品、輸入時の状態、提出資料が強く影響します。重要案件ではCBPのバインディングルーリング取得を推奨します。


1. まず結論:8708に行く前に、8544に「吸い込まれる」仕組みがある

誤解が生じやすい最大の理由は、「用途だけで考えてしまう」ことです。
確かにワイヤーハーネスは車両専用に設計され、車の中でしか使われませんが、HTSUSは用途だけでなく、章注・部注による「門番ルール」で分類の行き先を決めています。

その典型が、HTSUS Section XVII(車両等)の注2(f)です。
この注記では、車両の部品として識別できるものであっても、Chapter 84・85に該当する物は、Section XVIIの「parts and accessories(部品・付属品)」の範囲から除外すると定めています。
言い換えると、「Chapter 85にきちんと分類できるものは、原則として8708には入れない」という構造です。

この門番ルールがあるため、ワイヤーハーネスを8708に入れたい側の主張は、出発点から不利になります。
8708に至るための「勝ち筋」は単純で、輸入時の状態の製品が、Chapter 85のどの見出しにも当てはまらないことを示せるかどうかにかかっています。


2. CBPが8544を選ぶときのロジック

本質が「絶縁導体+コネクタ」なら8544

2-1. 事例A:HQ 955026(1993年)

CBPが8544を選んだ代表例として、HQ 955026があります。対象は、乗用車に搭載されるインストルメントパネル用ワイヤーハーネスアセンブリで、導体、配線トラフ、端子、絶縁体、グロメット、束線材、ヒューズ、リレー、ライトソケットなどから構成されていました。
このアセンブリは、ボディコンピュータ、計器クラスター、ラジオ、エアバッグモジュール、スイッチ類、車体配線、エンジンルーム配線など、インストルメントパネル周辺の各モジュールを相互接続する役割を持ちます。

CBPは、Explanatory Note 85.44に触れながら、「絶縁された電線・ケーブル等は、長さに切断されていても、端にコネクタ類が付いていても、依然として8544にとどまり得る」と整理しました。
そのうえで、対象品の本質は「絶縁された導体にコネクタ等を付した配線セット」であり、ヒューズやリレー、ライトソケット等は電気の導通を補助するにとどまるとして、8544.30.00(車両等に用いる配線セット)への分類を確定しています。

さらに重要なのは次の点です。
HQ 955026では、たとえ用途が自動車であっても、対象がChapter 85(8544)に分類される以上、Section XVII注2(f)により8708への分類は排除される、と明言されています。

当時の裁定では、検討対象となった8708.99.50の一般税率が3.1%、8544.30.00が5%と記載されており、分類による税率差がコストに直結することが示されていました(税率は改定され得るため、実務では必ず最新HTSを確認する必要があります)。

ビジネス上の示唆

  • 自動車専用設計であっても、それだけで8708にはならない。
  • コネクタ、端子、束線材、グロメット、ヒューズ、リレー程度の追加要素は、8544から外す決定打になりにくい。
  • 議論の中心は、「電気の導通・配線」という本質を超える独立機能が、輸入時点でどこまで実装されているかに移る。

3. では、いつ8708になり得るのか

8544に当てはまらないほど「機能モジュール化」しているとき

3-1. 事例B:HQ 088477(1991年)

8708側に振れた有名例がHQ 088477です。
ここで対象となったのは、インストルメントパネルに組み込まれる配線アセンブリですが、その内容は単なるハーネスを超えたものでした。

裁定文によれば、このアセンブリには、19本のヒューズを収めたヒューズボックス、ランプとランプソケット、マイクロプロセッサを含むランプ監視モジュール、ドア開状態検知モジュール、ランプ付きグローブボックススイッチ、エンジン警告系ドライバモジュール、複数のリレーやサーキットブレーカーなどが含まれていました。

CBPは、Section XVII注2(f)(Chapter 85該当品は車両部品扱いしない)を前提としながらも、次のようにロジックを組み立てています。

  • 構成要素の一部(ヒューズ、スイッチ、電線など)はChapter 85で個別に説明できる。
  • しかし、輸入時の状態の「全体」としては、Chapter 85のどの見出しにも当たらない。
  • 特に8544については、単なるコネクタ付き導体の範囲を超えて、監視・制御・警告等の装置が相当量一体化しており、85.44の用語を満たさない。
  • 8543(個別機能を有する電気機器)についても、本件全体を説明するには適切でない。
  • 以上から、全体を最もよく表す見出しは8708.99.50である。

この結果、当該アセンブリは「自動車用のその他の部分品」として8708.99.50に分類されています。

ビジネス上の示唆

  • 同じ「ハーネス」と呼ばれていても、輸入時点で監視・制御・診断などのモジュール群を抱き込むと、8544の「安全地帯」から外れる。
  • 8708に行けるかどうかは、「車の部品だから」ではなく、「Chapter 85のどれにも当たらないほど一体化した機能モジュールになっているか」という消去法の勝負になる。
  • 設計変更や構成部品の追加が、既存の分類前提を壊しうる。

4. 現代の実務感

スイッチ・リレー・ヒューズ入りでも8544に残ることがある

4-1. 事例C:NY N326429(2022年)

近年の実務に直結する例として、NY N326429があります。
ここで扱われたのは、LED作業灯やオフロード用ライトバー向けの「プラグ・アンド・プレイ」配線ハーネスで、ロッカースイッチ、ヒューズ、リレー、複数のコネクタを備え、12V系で車両に使用される製品でした。

輸入者側は、回路の接続・保護・スイッチング等を行う電気機器を含むことから、8536と8544のどちらか、あるいは複合として別のサブヘディングを提案しました。
しかしCBPは、保護・接続・スイッチング・導通など複数の機能が並立しており、単一の機能を「本質」と特定しにくいとして、GRI 3(c)を適用しています。

GRI 3(c)では、2以上の見出しに同程度に該当し、本質を決定できない場合、番号順で最も後ろにある見出しに分類すると定められています。
このルールを踏まえ、CBPは最終的に8544.30.0000(Ignition wiring sets and other wiring sets of a kind used in vehicles, aircraft or ships)を選択しています。

さらに、この裁定では、中国原産で8544.30.0000に分類される場合、原則として追加25%関税(Chapter 99の9903.88.01)の対象となり得ること、申告時にChapter 99番号を併記する必要があることも明記されています。

ビジネス上の示唆

  • スイッチ、ヒューズ、リレーを内蔵していても、必ずしも8536や8708に移るわけではなく、8544.30にとどまるケースがある。
  • 分類は基本税率だけでなく、Section 301の追加関税の適用有無やコンプライアンスコストにも直結する。
  • 設計段階から、部品構成と輸入時の状態を前提に、分類シナリオと追加関税シナリオをセットで検討する価値が高い。

5. 境界線を実務に落とす

判断軸は3つに絞れる

CBP裁定の積み重ねから見える「8544と8708の境界線」は、次の3つの軸に整理できます。

5-1. 軸1:全体として8544の説明に収まるか

HQ 955026では、ヒューズやリレー、ライトソケットなどが含まれていても、「電気の導通を補助する範囲」にとどまるとして、全体を8544.30.00に分類しました。
一方、HQ 088477では、監視モジュールやマイクロプロセッサ等、導通補助の域を超えた装置が相当量一体化している点が決定的であり、85.44の範囲から外れると判断されています。

5-2. 軸2:Section XVII注2(f)の門番を越えられるか

「Chapter 85にきちんと分類できる限り、8708は閉ざされる」というルール自体が非常に強力です。
したがって、8708を主張するのであれば、輸入時の状態の「全体」がChapter 85のいずれの見出しにも当てはまらないことを示す必要があります。

HQ 088477は、まさにこの構造で8708に到達した事例です。
個々の構成品はChapter 85で説明できるものの、全体としては特定の見出しの文言に合致せず、結果として8708.99.50が最も適切とされた、というロジックになっています。

5-3. 軸3:輸入時点で「完成品機能」を持っているか

特に照明系などでは、輸入時にどこまで完成しているかが重要です。
CBPは過去裁定において、GRI 2(a)の考え方を用いて、未完成品であっても、主要な構成要素を備えた灯具アセンブリを8512(自動車用照明・信号装置)で扱う方向に整理し、従前の一部ハーネス系裁定を修正・撤回したことがあります(HQ 954945など)。

要するに、「配線だから8544」「自動車に付くから8708」といった短絡ではなく、「輸入時点でどの機能がどこまで完成しているか」が分類を動かすということです。


6. 実務で使えるチェックリスト

分類検討の初動で、最低限そろえておきたい情報を、通関実務の観点から整理します。

6-1. A:製品定義を固める

  • 導体は単線か、多芯ケーブルか、束線か。
  • コネクタ、端子、ソケットの有無と種類(車両専用か、汎用か)。
  • ヒューズ、リレー、スイッチ、モジュール類の有無。
  • それらが「導通・配線を補助する機能」にとどまるのか、「監視・制御・診断などの独立機能」を持つのか。
  • 輸入時点でランプや他の装置が同梱・取り付け済みか(分納の場合を含めて確認)。

6-2. B:資料の整備(監査・裁定取得に効く)

  • 回路図・配線図、BOM(部品番号と数量)。
  • 輸入時の状態が分かる写真、梱包形態。
  • 機能説明書(何を制御し、何を監視し、どの信号・電力を処理するか)。
  • 車両への搭載位置と接続先一覧(どのECU・モジュールと接続するか)。

6-3. C:リスクの見積もり

  • 8544.30前提の設計でも、構成変更によりHQ 088477型(8708側)に「化ける」可能性がないか。
  • 原産国が中国の場合、Section 301追加関税の適用可能性と、Chapter 99番号の併記運用を含めた管理フローが設計されているか(NY N326429は、分類判断と同時に追加関税管理を求めている)。
  • 分類変更が価格・契約条項・原価計算・移転価格に与える影響を、あらかじめ試算しているか。

7. まとめ:境界線は「名称」ではなく「輸入時点の全体像」で決まる

ワイヤーハーネスを8708に入れる発想は自然ですが、HTSUSの構造上、Chapter 85に該当する限り、Section XVII注2(f)により8708は原則として閉ざされます。
CBPは、絶縁導体とコネクタを核とし、導通を補助する範囲の部品が付く程度であれば8544.30に分類し、8708を排除する判断をHQ 955026などで明確に示しています。

一方で、監視・制御モジュールやプロセッサ等を相当量抱え込み、Chapter 85のどれにも当てはまらないレベルの一体品となると、消去法により8708に到達する余地が生まれることも、HQ 088477が示す通りです。
そして近年でも、スイッチ・ヒューズ・リレーを備えた車両用配線ハーネスが8544.30に整理され、同時にSection 301追加関税の管理が求められる例(NY N326429)が存在します。

次のアクションとしては、社内で「導通補助の範囲」と「モジュール化している領域」を整理し、設計変更がその境界を越えるタイミングを検知できる体制を作ることが重要です。
そのうえで、金額インパクトの大きい品目については、CBPのバインディングルーリング(19 CFR Part 177)を活用し、分類と追加関税の両面で不確実性を減らすことが、費用対効果の高い打ち手になります。

バッテリーパック分類を深掘りする前に:CBP HQ H351314(2026年1月)を正確に読む

輸入実務で「バッテリーパック」とひとくちに言っても、実際には電池セルそのもの、セルを収納する筐体、据置型エネルギー貯蔵設備のコンテナ、車載機器として固定されるモジュールなど、対象は広く、分類の論点も分岐します。
ここで取り上げるCBP Headquarters Ruling Letter HQ H351314(2026年1月20日付)は、狭義のバッテリーパックそのものではなく、ピックアップトラック荷台に固定する鋼製トランスファータンク(ディーゼル燃料など非可燃性液体の移送用タンク)の関税分類を扱った裁定です。

ただし、この裁定は次の2点で、電池関連製品の分類検討にも強くつながります。

  • 車両用の部品(8708)として扱いたいという主張に対し、より具体的な品目(7309)が追加米国解釈規則に基づき優先されることを明確に示したこと。
  • 輸送用コンテナ(8609)の要件を、フィッティングや運用実態に踏み込んで判定しており、同裁定で参照されるバッテリーエネルギー貯蔵システム用コンテナ(HQ H329722)と合わせて、電池関連の筐体やコンテナ製品に直結する論点を含むこと。

以下、HQ H351314を軸に、ビジネス目線で整理していきます。


1. 結論:なぜ7309.00.00になったのか

HQ H351314は、先行裁定であるNY N333141(2023年6月7日付)を確認・維持し、対象となる鋼製トランスファータンクをHTSUS 7309.00.00(鉄鋼製で容量300リットル超、機械的または熱的装置を備えない貯蔵タンク等)に分類しました。
裁定文では、当該品目に適用される一般税率(Column 1 General rate)は0%(無税)であることも明示されています。

裁定上の主要な争点は、概ね次の3点に整理されます。

  • 7309か、輸送用コンテナの8609か。
  • 車両の部分品として8708に分類できるか。
  • 容量要件から見て7310に該当しないか(容量300リットル超か否か)。

結論だけを見て「車に載せる装置は車両部品」と短絡しがちですが、CBPはこの裁定で、品目の機能と設計、そして法体系上の優先順位を丁寧に整理しています。


2. 事実関係:CBPが見た「商品」の姿

裁定を読み解くうえで重要なのは、CBPがどの状態の製品を「輸入される物」として認定したかです。
HQ H351314が認定した事実関係は、次のようなポイントに集約されます。

  • 鋼製タンクで、表示容量は100ガロン(約378.5リットル)、14ゲージ鋼板を用いた直方体形状。
  • 上部に2インチの開口部が2か所あり、ディーゼル燃料などの非可燃性液体を移送する用途として販売される。
  • ピックアップトラックの荷台にボルトで固定して使用し、トレーラーに積み替える運用は想定されていない。
  • 輸入時に固定用キットが付属し、持ち上げ用のリフティングアイを備えるが、構造上、頻繁かつ容易な脱着を前提とする設計ではない。
  • 輸入時点ではポンプ等の機械的装置や加熱・冷却等の熱的装置を備えていない。
  • 推奨充填容量は96ガロンとされるものの、タンク自体の容量は100ガロンであり、300リットル超であることは変わらない。

ここで重要なのは、「リフティングアイがある」「トラックに載る」といった要素だけでは、直ちに「輸送用コンテナ」や「車両部品」には結びつかないという点です。
CBPは、固定構造と運用の想定(据置的に荷台に固定されるか、繰り返し輸送に用いるか)を重視して評価しています。


3. 争点その1:なぜ8609の「輸送用コンテナ」ではないのか

8609見出しは、道路・鉄道・船舶・航空など複数の輸送モードで、繰り返し使用されることを前提とした輸送用コンテナ類を対象としています。
HQ H351314は、解説書(Explanatory Notes)における「フィッティング(フック、リング、キャスター、支持部など)」の概念を軸に、8609への該当性を検討しています。

HQ H351314のロジックを実務向けに整理すると、ポイントは次の通りです。

  • 8609は単に「運べる箱」ではなく、積み替えや輸送中の固定のためのフィッティングを備え、車両や船舶への積載と荷下ろしを繰り返す構造・設計であることが前提。
  • 液体・ガス用コンテナについても、複数の輸送モードに取り付け可能な支持構造を持つ場合に8609となり、それ以外は材質等に応じて別見出しへ分類されることが解説書で示されている。
  • 対象タンクの固定構造は、ピックアップトラックへの恒久的な取り付けを想定しており、ドアツードア輸送を支えるフィッティング(キャスターや標準コーナーキャスティング等)を欠く。
  • 以上から、対象物品は8609が想定する「輸送用に特別に設計され装備されたコンテナ」には該当せず、8609から除外される。

HQ H351314は、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)用の鋼製コンテナを8609ではなく7309に分類したHQ H329722を引用し、同様の考え方を踏襲しています。
HQ H329722では、BESS用コンテナについて「貨物を輸送するためではなく、所定の場所で電池を収納・保管するための容器」であるとして、8609ではなく7309.00.00と結論づけています。

この判断枠組みは、電池関連設備の「コンテナ型」商品にもそのまま波及します。
外観がコンテナに似ていても、運用としてドアツードア輸送を前提とするか、輸送環境の動的荷重に耐える構造か、積み降ろし用の仕様がどこまで備わっているかといった要素が、分類を左右し得るということです。


4. 争点その2:なぜ8708の「車両部品」より7309が優先されるのか

依頼者側は、当該タンクを8708(自動車の部分品及び付属品)に分類することを主張しました。
これに対してCBPは、追加米国解釈規則1(c)(Additional U.S. Rule of Interpretation 1(c))を前面に出し、「部品・付属品」の見出しは、より具体的な品名で規定された見出しに優先されない、という原則を確認しています。

HQ H351314では、たとえ車両に取り付けて使用する専用品であっても、鉄鋼製で一定容量を超え、機械的または熱的装置を備えない「タンク」という具体的な品名見出し(7309)が存在する以上、8708よりも7309の方が具体的であり、優先されると整理しています。
また、Section XVIIの解説書においても、部品・付属品が同部の見出しに分類されるためには、「他の見出しでより具体的に規定されていないこと」が条件になると説明されており、この点からも8708への分類は否定されています。

この構図は、バッテリーパックの分類で頻出する論点と同型です。
例えばEVや産業機器向けの電池であっても、電池そのものとしての具体的見出し(一般には8507)が存在する場合、「車両部品」や「機械の部品」に寄せる主張は通りにくくなる局面があり得ます。


5. 争点その3:7310ではなく7309になる容量要件

HQ H351314で扱うタンクの容量は100ガロンであり、裁定文中でも約378.5リットルと明示されています。
7309と7310の分岐は「容量が300リットルを超えるかどうか」という明快な線引きであり、裁定では、当該タンクは300リットル超であるため7310から除外され、7309に該当すると結論付けています。

ビジネス実務では、容量が境界付近にある商品や、安全上の推奨充填量とタンク容積が異なる商品が少なくありません。
そのため、次の点を社内で明確にしておくことが重要です。

  • 「容量」の根拠となる資料は何か(設計図、試験成績書、カタログ表示、タンク刻印など)。
  • タンク容積と推奨充填量が異なる場合、分類上どちらを説明の軸に据えるか。
  • 輸入時点で仕様が固定されているか(容量変更の余地がある設計かどうか)。

HQ H351314では、推奨充填容量96ガロンという説明が追加されても、タンク容積が100ガロン=300リットル超であるという事実は変わらないとして、7309の要件を満たすと判断しています。


6. ビジネスへの落とし込み:設計・調達段階から分類を織り込む

HQ H351314は、分類が「用途の主張」ではなく、「設計仕様」と「輸入時点の状態」によって決まりやすいことをあらためて示しています。
この観点から、設計・調達の段階で押さえておきたいポイントを整理します。

6-1. 8609を狙うなら、設計要件を明文化する

8609での分類を狙う製品(コンテナ型筐体、ラック型輸送容器、設備用モジュールなど)では、次の問いに答えられないとリスクが高まります。

  • 複数の輸送モード(道路・鉄道・船舶・航空)をまたいで使用する設計か。
  • 積載と荷下ろしのためのフィッティング(フォークリフトポケット、タイダウンポイント、キャスター、標準コーナーキャスティング等)を備えているか。
  • ドアツードア輸送と繰り返し使用を前提としていることが、仕様書と販促資料の両方で整合的に示されているか。

逆に、現場への据置使用が前提で、輸送は一回限り、輸送環境の動的荷重も想定していない設計であれば、8609以外の見出しを前提に検討した方が整合的な場合があります。
これは、BESSコンテナについて7309.00.00としたHQ H329722や、同様に鋼製バッテリー筐体を7309.00.0090としたNY N317967の方向性とも一致します。

6-2. 「車両部品」主張は、具体的規定に勝てない

車両に固定するから車両部品、という直感は、追加米国解釈規則1(c)の前では崩れやすいことが、HQ H351314で明確に示されました。
開発部門やサプライヤーが「車両向け専用品」と説明していても、分類はより具体的な品名見出しに引き寄せられる可能性があります。

通関・税務の観点からは、早い段階で次の点を確認することが重要です。

  • 製品が名称で特定される見出し(タンク、電池、変圧器、冷却装置など)に入りうるか。
  • 輸入時点で機械的装置や熱的装置を備えるのか、ポンプや制御装置を含むセットとして輸入されるのか。

HQ H351314は、ポンプが同時に輸入されない以上、タンク自体は7309の「装置を備えない容器」に該当すると判断しています。


7. バッテリーパックに直結する教訓

分類は原産地と優遇税率にも連鎖する

ここからは、HQ H351314の考え方を、バッテリーパック周辺の裁定に接続して整理します。
バッテリーパックは、分類だけでなく、原産地認定、貿易救済関税、FTA優遇の可否に直結します。

7-1. 「バッテリーパック」の分類は、まず8506か8507か

電池が一次電池か二次電池(蓄電池)かで見出しが分かれることは、NY N286124が典型例として示しています。
この裁定では、さまざまな電池セルから構成される2種類のバッテリーパックについて、非充電式モジュールは8506、充電式モジュールは8507に分類される組合せが示されており、同一の「バッテリーパック」であっても、構成と機能に応じて8506・8507の両方が適用され得ることが読み取れます。

実務では、商品名に「バッテリーパック」と付いているからといって8507と決め打ちするのは危険です。
例えば、内蔵された一次電池を充電せずに交換前提で使用する緊急用バッテリーパックが8506に分類された例など、一次・二次の切り分けが結果を大きく左右する裁定が複数存在します(個別裁定の詳細は品目ごとに確認が必要です)。

7-2. 原産地は「組立国」ではなく「セルの国」になりやすい

多くのバッテリーパックは、セルの製造国とパック組立国が異なります。
NY N329305では、セルをメキシコでパック化した製品について、分類・マーキング等の観点から、バッテリーパックの本質的特徴を与えるのはセルであるとして、原産地がセル製造国(中国またはシンガポール)と認定され得ることが示されています。

HQ H316545では、USMCA上の原産地認定では要件を満たして優遇対象となる一方、Section 301の追加関税適用を判断する原産地(実質的変更の分析)ではセルの原産国が重視され、中国原産とされる可能性があるという二層構造が示されています。
このように、セル原産国の変更が、同じ組立工程でも追加関税の対象可否を変えてしまうケースがあり得ます。

7-3. USMCAは「関税分類の変化」要件により落ちるパターンがある

NY N356710は、USMCA適用可否の観点で非常に示唆的です。
この裁定では、完成品のバッテリーパックが8507.60に分類され、使用されている中国製セル(18650)も同じく8507.60に分類されるため、USMCAで求められる関税分類変更要件を満たさず、原産品と認められないと結論づけています。

他方、HQ H316545のように、同じ見出し内での分類であっても、RVC(付加価値)ベースのルールを適用することでUSMCAの要件を満たせる場合もあります。
このように、分類は単なる通関費用の話にとどまらず、サプライチェーン設計と価格戦略そのものに直結する要素であることが分かります。


8. 実務チェックリスト:HQ H351314型の論点を社内で潰す

最後に、HQ H351314の学びを、電池関連も含めた横断チェックリストとして整理します。

  • 輸入時点の構成はどうか(ポンプや冷却装置、制御盤が輸入時に一体か、別送・後付けか)。
  • 設計思想は「固定設置」か「反復輸送」か(仕様書・マーケ資料との整合を含めて確認)。
  • フィッティングや支持構造は「輸送用」なのか「設置用」なのか(8609判定の核心)。
  • 部品分類(8708等)を主張する前に、より具体的な品名見出しが存在しないか(追加米国解釈規則1(c)の観点)。
  • 電池は充電式か一次電池か、化学系は何か(8506と8507の分岐を左右)。
  • FTA・USMCAの原産判定で、関税分類変更要件やRVC要件を満たせる構成か(NY N356710等で示される「同一分類で詰む」パターンへの注意)。
  • 裁定は特定の事実関係に基づくため、仕様やサプライチェーンが変わる場合は再評価が必要であり、Part 177に基づく裁定は原則として当該事実関係に拘束される点を理解しているか。

まとめ:HQ H351314が教える「分類は機能と設計で決まり、部品論は最後に来る」

HQ H351314は、車両に搭載される鋼製タンクであっても、輸送用コンテナ(8609)や車両部品(8708)ではなく、より具体的に規定された鋼製タンク(7309)に分類され得ることを示しました。
この裁定が示す「具体的な品名見出しが優先される」「輸送用コンテナの要件はフィッティングと運用実態にある」という考え方は、バッテリーパックやBESSコンテナの分類にもそのまま当てはまります。

さらに電池分野では、分類が原産地認定やUSMCAなどの優遇税率の可否、Section 301の追加関税の有無にも連鎖するため、開発・調達の段階から分類を前提に仕様を設計することが、コスト・リスクの両面で大きな差を生みます。
本稿は一般的な情報提供であり、個別案件に対する法的助言ではありません。具体的な案件では、製品仕様や取引条件にもとづき、通関士や通商法専門弁護士と連携しつつ、必要に応じて19 CFR Part 177に基づく事前裁定取得を検討することをおすすめします。

日本の税関が公表した「HSコード分類ドシエ」の作成ガイドライン(AI活用編)は、

なぜ今「HSコード分類ドシエ」なのか

国際取引の高度化に伴い、同じ商品でも構造や機能が複雑化し、HSコードの判断に揺らぎが生じやすくなっています。rieti+1
税関側もAIやデータ分析を活用した審査を進めており、単に番号だけを申告する従来型のやり方では、疑義照会や事後調査のリスクが高まっています。global-scm+1

こうした状況の中で、税関は企業に対し、HSコードの結論だけでなく、その結論に至る「分類根拠」を体系的に示す文書として、ドシエの整備を強く求める方向に舵を切りました。[youtube]​global-scm+1
ドシエは、通関停滞や追加照会、再分類などの不確実性を減らし、サプライチェーン全体の時間とコストを安定させるための説明責任インフラと位置付けられています。global-scm+2

ドシエに求められる中身と構造

ドシエとは、特定商品について「どのHSコードを、なぜ採用したのか」を、事実と論理で説明するためのファイルです。global-scm+1
難解な文章を増やすことではなく、誰が見ても同じ結論にたどり着けるよう情報を整理することが目的です。global-scm+1

一般的に盛り込むべき要素は、次の三つに整理できます。global-scm+1

  • 製品の客観的な仕様情報
    材質、構造、主要機能、用途、製造工程、構成部品、性能値、型番体系など、分類判断に影響する要素を網羅的に記録します。global-scm+1
  • 根拠となる証拠資料
    図面、仕様書、カタログ、写真、SDS、試験成績、工程表など、客観的に確認できる資料を紐づけます。global-scm+1
  • 候補コードと除外理由
    最終的に採用したHSコードだけでなく、他に考え得た候補コードと、その候補を採用しなかった理由を整理します。global-scm+1

特に税関が重視するのは、「なぜ他のコードではないのか」という除外理由部分です。global-scm+1
候補と論点を先に分解しておくことで、審査の起点が企業と税関の間で共有され、照会の往復回数を減らす効果が期待できます。global-scm+2

税関がドシエとAI活用を推奨する背景

日本の税関は、審査の高度化と効率化のためにAIを組み込んだ通関システムへの移行を進めています。rieti+1
AI審査では、申告内容の一貫性や論理構造がこれまで以上に重視され、説明が曖昧な申告は自動的にリスク高と判定される可能性があります。global-scm+1

ドシエによって分類根拠が明確に示されていれば、税関側のAI審査や人による確認で疑義が生じる余地が小さくなり、審査の優先度を上げやすいとされています。[global-scm]​
税関が「ドシエ添付申告を優先的に審査する」という運用に移れば、ドシエの有無がリードタイムに直結する環境になることも想定されます。global-scm+2

また、企業側にとっても、ドシエを標準化することで次のようなメリットが生じます。rieti+2

  • 社内でのHSコード判断のばらつきを減らし、属人化を防ぐ
  • 複数拠点・複数ベンダー間で分類ロジックを共有しやすくなる
  • 税関からの事後調査や再分類の際に、過去の判断を迅速に説明できる

通関現場だけの課題に留まらず、調達、物流、経理、経営の各レイヤーに影響する「経営インフラ」として位置付け直す必要があります。rieti+2

企業が取るべき実務対応とAI活用の勘所

ビジネスマンの視点では、「明日から何を変えればよいか」が最も重要です。ここでは、具体的なステップとAI活用のポイントを整理します。global-scm+3

  1. 対象品目の優先順位付け
    年間の輸入金額が大きい品目、税率差が大きい品目、過去に税関照会や再分類が多かった品目からドシエ整備を始めます。rieti+2
  2. ドシエのテンプレート設計
    全社共通で使えるフォーマットを用意し、項目定義を明確にします。製品仕様欄や候補コード欄、除外理由欄、根拠資料一覧などを標準化することで、担当者が変わっても品質を維持できます。global-scm+1
  3. 社内情報源の棚卸し
    設計部門、品質保証、営業、購買など、どの部署がどの情報を持っているかを整理します。ドシエ作成は通関担当だけでは完結せず、横断的な情報連携が必須です。global-scm+1
  4. AIを使う場面と使わない場面の線引き
    AIは、候補コードの洗い出し、条文や解説の要点抜き出し、類似品の過去事例検索などで有効です。global-scm+1
    一方で、最終コードの決定や税関との交渉は、人が責任を持って行うべき領域です。[rieti.go]​
  5. 生成AIと専用ツールの役割分担
    一般的な生成AIは、通関実務の補助や文書構成案の作成に向いていますが、最新の品目別分類や各国の解釈まで自動で保証するものではありません。[rieti.go]​
    HSコードに特化したAIツール(例として、分類根拠整理や候補比較を支援するソリューションなど)が提供されつつあり、証拠収集から論点整理、文書化までを一気通貫でサポートする選択肢も出ています。global-scm+2
  6. 税関とのコミュニケーション設計
    事前教示制度や相談窓口の活用を前提に、ドシエを用いた説明のフローを社内マニュアル化します。[rieti.go]​
    ドシエを共有しながら税関と認識を合わせていくことで、後戻りコストを抑えられます。[youtube]​global-scm+1

実務イメージの一例

例えば、複合機能を持つ電子機器を輸入する場合を考えます。
通関担当は、設計部門から構造と機能の一覧を入手し、AIツールで類似品の分類事例や候補コードの候補をリストアップします。global-scm+3
その上で、関税率や過去の照会履歴を踏まえつつ、人が条文と解釈を読んで最終コードを判断し、「なぜ他ではないのか」をドシエに記録します。global-scm+2
完成したドシエは、次回以降の申告や他国での分類検討にも再利用でき、社内の統一ルールとして機能することになります。global-scm+3

ビジネスマンが押さえるべきポイント

最後に、経営層や事業責任者を含むビジネスマンが理解しておきたい要点を整理します。global-scm+3

  • HSコードは、単なる通関コードではなく、関税負担、FTA活用、サプライチェーン全体の設計に直結する「経営数値」である
  • ドシエは、担当者の頭の中にある暗黙知を形式知化し、AI審査時代の説明責任を果たすための基盤である
  • AIの役割は、候補整理と情報抽出、文書化の効率化であり、最終判断の責任を肩代わりするものではない
  • ドシエ整備をプロジェクトとして位置付けることで、通関リードタイムの短縮とリスク低減を同時に狙うことができる

今後、税関の運用がさらにAI志向にシフトすれば、きちんと作り込まれたドシエを持つ企業とそうでない企業の間で、通関スピードとリスク対応力に明確な差が生まれる可能性があります。global-scm+3
現場任せにせず、組織として早めに体制を整えることが、中長期の競争力維持につながると言えるでしょう。global-scm+2

日本の通関実務が激変。税関が求めるHSコード分類根拠書、その真意と対策

2026年1月26日、日本の貿易実務の現場において、極めて重要な運用変更が静かに、しかし確実に動き出しました。財務省関税局が、輸入申告時におけるHSコード分類根拠書(通称:ドシエ)の任意提出を、これまで以上に強く推奨する方針を打ち出したのです。

これは単なる事務手続きの追加ではありません。これまでの結果としての数字(コード)さえ合っていればよいという時代から、なぜその数字を選んだのかというプロセス(論理)が問われる時代へと、パラダイムシフトが起きたことを意味します。

本記事では、このニュースの背景にある税関の意図と、ビジネスマンが今すぐ着手すべき具体的な対策について深掘りします。

税関が求めているのは正解へのプロセス

今回、税関が推奨を強化したドシエの提出とは、輸入申告書にHSコードを記載する際、その分類に至った論理的な根拠を記した文書を添付することを指します。

これまで、多くの企業はHSコードという結果のみを申告してきました。しかし、製品がハイテク化し、一見しただけでは機能や材質が判別できない物品が急増しています。税関職員がゼロから製品を調査し、コードの正誤を判断するには膨大な時間が必要です。そこで税関は、輸入者側にあらかじめ正解への道筋(ガイドマップ)を提示してもらうことで、審査を効率化しようとしているのです。

根拠書(ドシエ)に記載すべき3つの要素

では、具体的にどのような資料を作成すればよいのでしょうか。税関が期待するドシエには、主に以下の3つの要素が含まれている必要があります。

第一に、客観的な製品仕様です。

カタログのコピーだけでは不十分です。材質の構成比率、主要な機能、使用用途など、分類の決め手となるスペックを明確に整理する必要があります。

第二に、法的根拠の引用です。

これが最も重要です。単に「パソコンだから」という理由ではなく、「関税率表の解釈に関する通則1に基づき、第84類の注5(E)を適用した結果」といったように、関税法上のルール(通則、部注、類注)を引用して論理を構成します。

第三に、参考とした先例です。

過去の事前教示回答事例や、世界税関機構(WCO)の解説書、あるいは類似品に関する他国の分類事例などを記載することで、自社の判断が独りよがりなものではないことを証明します。

企業にとってのメリット:防御から攻撃への転換

一見すると、ドシエの作成は企業にとって負担増に思えるかもしれません。しかし、戦略的な実務担当者にとっては、これは自社を守り、物流を加速させる強力な武器となります。

最大のメリットは、通関リードタイムの短縮です。

ドシエによって分類の根拠が明確に示されていれば、税関検査官が疑義を抱く余地が少なくなります。不必要な質問や検査が減り、結果として貨物がスムーズに許可される確率が飛躍的に高まります。

もう一つのメリットは、事後調査におけるリスク管理です。

数年後に税関の事後調査が入り、万が一、申告していたHSコードが誤りだったと判定された場合でも、事前にしっかりとした根拠書を提出していれば、企業側には「正当な注意義務」を果たした証拠が残ります。これにより、悪質な虚偽申告として重加算税を課されるリスクを回避し、単なる修正申告で済む可能性が高まります。つまり、ドシエは企業のコンプライアンスを守る保険として機能するのです。

なんとなくの分類からの脱却

これまで多くの中小規模の貿易現場では、前回と同じだから、あるいは輸出者がそう言っているから、といった曖昧な理由でHSコードが決められてきました。しかし、今回の税関の動きは、そうした根拠のない分類はもはやリスクでしかないというメッセージでもあります。

今後、優秀な貿易担当者の条件は、単にコード表を検索できることではなく、そのコードである理由を文書化できる能力へとシフトしていくでしょう。

テクノロジーの活用が鍵を握る

とはいえ、すべての輸入案件で詳細なドシエを人間が手書きで作成するのは現実的ではありません。ここで重要になるのが、AIやデジタルの活用です。

製品データを入力すれば、該当する法的根拠を自動的に引用し、論理構成まで含めたドシエの下書きを生成してくれるツールの導入が、企業の競争力を分けることになります。人間はAIが作った論理を最終確認するだけで済むようになれば、業務負荷を増やさずに、コンプライアンスレベルを最高水準に引き上げることが可能です。

まとめ

2026年1月26日を境に、日本の通関実務はプロセス重視へと舵を切りました。税関からの「あなたの会社の論理を見せてください」という問いかけに対し、しっかりとしたドシエで応えられる企業だけが、通関トラブルとは無縁の強固なサプライチェーンを構築できるのです。変化を恐れず、根拠ある申告を武器にビジネスを進化させていきましょう。

センサーのHSコードで迷う「9026」と「9031」

国別分岐を間違えないための実務ガイド

センサーは見た目が似ていても、「何を測るのか」「どこまでの機能を持つのか」でHSコードが変わります。特に迷いやすいのが9026と9031です。
6桁までは国際的に共通性がありますが、8桁以降は国・地域で異なる枝分かれになります。輸出入の現場では、この国別分岐の違いが関税、原産地判定、通関リードタイム、監査対応に直結します。
(参考:Data.gov

この記事では、センサー分類で頻出する9026と9031の境界を実務的な判断軸で整理し、日本・米国・英国・EUにおける国別分岐までを明確に解説します。


前提:HSコードは輸入国税関の判断が基準

HSコードは、社内で決めた番号を一方的に通すことはできません。実際に基準となるのは輸入国税関の判断です。輸出者側の想定と輸入国側の認定が異なるケースも珍しくありません。
またEPA・FTAの適用にはHSコードが前提となるため、分類を誤ると適用税率や品目別規則の解釈がズレるリスクがあります。
(出典:JETRO

このため、社内で「おすすめ分類」を設計する際は、輸入国側でも通用する論拠と証拠を整えることが前提となります。


9026と9031の違い

判断の焦点は「測定対象」と「他の見出しに当てはまるか」

9026の範囲

液体または気体の流量・液位・圧力などの変量を測定・検査する機器。流量計、液位計、マノメーター、熱流量計などが該当します。
(出典:関税庁

測定対象が液体または気体であり、その変量を明確に測る場合は9026が第一候補です。

9031の範囲

この章で他の見出しに特定されない測定または検査用の機器・装置・機械が対象です。つまり、9031は章内で分類できない機器の「受け皿」となります。
(出典:関税庁

ただし受け皿である分、**「なぜ他の見出しではないか」**という説明が求められます。


実務で起きやすい誤分類

  1. 液体も固体も測定できるレベル計
     液位の測定は通常9026に分類されますが、米国では液体と固体の両方を測定可能なレーダー式レベル計が9031に分類された例があります。
     (例:CustomsMobile)
     → カタログに「粉体にも対応」と記載があるだけで9026主張が難しくなる場合があります。
  2. 圧力を使用しているが、測っているのは圧力そのものではない
     測定原理として圧力を用いていても、測定対象が「圧力」でなければ9026は適用困難です。測定対象が寸法や特性の場合、9031が優勢になります。
  3. 単体機能か部分品か
     製品が単独で測定を完結できるか否かで分類が変わります。米国では、コリオリ式質量流量計のコンバーターが「部分品」として9026.90.2000に分類されています。
     (出典:CustomsMobile

再現性を高める判断フロー

  • 測定対象を一文で言い切る(例:液体の流量、タンク内液位、圧力、振動など)。
  • 対象が液体または気体なら9026を優先検討。
  • 固体にも対応する場合は9031側を検討。
  • 単体機能がなければ部分品コード(9026.90、9031.90など)も確認。
  • 国別8桁以降では電子式・非電子式・航空機用などの枝を精査。

国別分岐の考え方

まず6桁で分類を固め、その後、各国の枝分かれを確認するのが安全です。

日本

  • 9026.10:液体の流量・液位測定機器
  • 9026.20:圧力測定機器
  • 9026.80:その他液体・気体変量測定機器
  • 9031.80:他の見出しに属さない測定機器
    (出典:関税庁

事前教示制度を活用し、グレーなケースは税関回答を取得しておくと監査耐性を高められます。
(参照:税関総合ポータル

米国

  • ノックセンサー:9031.80.8070
  • レーダー式レベル計:9031.80.8085
  • 流量計コンバーター(部分品):9026.90.2000
    (参照:CBP Rulings

米国ではカタログや技術文書の一語一句が分類根拠になります。確証を得たい場合はPart 177のルーリングレターを申請するのが有効です。

英国・EU

英国では電子式か非電子式か、用途限定かで9026内に枝分かれがあります。
(例:UK Trade Info

EUでは結合品目分類(CN)を基に年度ごとに改訂されます。2026年版CNは2026年1月1日から適用。BTI(Binding Tariff Information)制度を使えば法的確実性を担保できます。
(出典:EU Taxation and Customs Union)


失敗しない社内実装:分類カルテの導入

9026/9031の判定は経験に依存しやすいため、「分類カルテ」を標準化して運用すると再現性が上がります。推奨項目は以下の通り。

  • 測定対象と変量(流量、圧力、液位など)
  • 測定媒体(液体のみ・固体含む)
  • 測定原理と出力仕様
  • 単体機能の有無(部分品か否か)
  • カタログと技術資料の整合性
  • 輸入国での根拠(BTI・裁決・教示等)

「分類番号は輸入国側の判断を基準とする。したがって、輸入国側で説明できる根拠と文言に揃える」
(出典:JETRO


まとめ

  • 9026:液体または気体の流量・液位・圧力を測定する機器
  • 9031:章内他見出しで定義できない測定・検査用機器
  • 境界製品に注意:固体も測定できる・部分品・単体不可など
  • 手順:6桁で分類確定 → 各国8桁分岐を精査
  • 制度活用:日本の事前教示/米国のPart 177/EUのBTIで根拠を確保
    (参照:税関総合ポータル

このガイドは、9026と9031の議論を社内で共通言語化することを目的にしています。センサーごとの仕様や用途を当てはめることで、どこが争点になり得るかを可視化できます。

主要国のHS2028条文と即応タスクまとめ

2026年1月時点の一次情報をもとに、経営判断に直結する論点を整理する

はじめに

HSコード改正は通関部門だけのテーマではありません。
関税コスト、輸出入規制、製品マスター、原産地判定、顧客向け書類、統計、BIの集計軸に至るまで、企業の意思決定を支える共通キーが一斉に更新されるイベントです。

2026年1月21日、世界税関機構(WCO)は、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効することを公表しました。
HS2028改正は299セットの改正から構成され、全体として1,229見出し・5,852サブヘディングで構成される新たな品目表となります(HS2022比で新設6見出し・428サブヘディング、削除5見出し・172サブヘディング)。

ここからの約2年間は、単に「待つ期間」ではなく、各国が自国の関税率表や統計品目表に落とし込む準備期間です。
WCOは、この期間に相関表(HS2022とHS2028の対応関係)や関連ツールを整備し、各国による実装作業が進むと位置づけています。

本稿では、主要国ごとにどの文書が法令上の根拠となるのか(便宜上「条文」と呼びます)を整理し、企業が今すぐ着手すべき即応タスクを、経営目線で具体化します。


1. HS2028の「条文」とは何か

WCO改正と各国の国内実装

HS品目表は、HS条約(Harmonized System Convention)に基づく国際的な分類表であり、改正はWCOの手続きを経て各国に波及します。
WCO理事会が改正勧告(Article 16 Recommendation)を採択した後、締約国は6か月間、勧告された改正に対して留保(異議)を表明することができます。

この仕組みにより、企業側は「WCOの改正文書を起点に、各国の国内法令・関税率表への実装を追いかける」という発想が必要になります。

HS2028で何が変わるか

WCOと関連情報が示しているHS2028の主な特徴は、次の通りです。

  • 改正規模は299セットの改正。
  • ワクチンや医療関連品目の可視性向上(新しい見出し・サブヘディングの創設、疾病別・用途別の整理強化など)。
  • 医療・緊急対応機器(救急車、保護具、モニタリング機器など)の新サブヘディング追加。
  • 環境・廃棄物関連品目(特にプラスチック廃棄物など)の国際的な環境枠組みに沿った再編。

ここで重要なのは、分類表の更新が「見出しや小区分の新設・削除」だけでなく、「法的注・部注の改訂」や「構造再編」を含む点です。
単なるコード置換ではなく、分類根拠そのものの組み替えが起こり得るため、企業の分類ロジックやエビデンスの見直しが不可欠になります。


2. 主要国の「条文」はどこで確定するか

以下では、企業が一次情報として追いかけるべき公表物を、国・地域別に整理します。

国際(共通):WCO

  • HS2028改正文書(Article 16 Recommendation、HS2028 Nomenclature)。
  • HS2028改正概要やニュースリリース(発効日、改正件数、背景説明)。
  • HS改正手続きの説明(6か月の留保期間など)。

企業がまず押さえるべき一次情報は、WCOが公表するHS2028改正文書とその解説ページです。

EU:CN(Combined Nomenclature)への取り込み

EUは、WCOのHS改正を受け、Council Regulation (EEC) No 2658/87 に基づき、関税・統計の共通分類であるCN(Combined Nomenclature)に反映します。

  • CNは8桁で構成され、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEU固有のCNサブヘディングです。
  • 第9・10桁はTARICコードとして、EU域内の追加的な貿易措置や細分に用いられます。
  • CNは、輸入・輸出申告、関税率の決定、統計、各種規制措置の適用の基礎となります。

WCO理事会での改正勧告を受けて、EUは理事会決定・委員会実施規則などを通じてHS改正をCNに取り込みます(2026年版CNの公表など)。

米国:HTSUS(Harmonized Tariff Schedule of the United States)

米国では、USITC(U.S. International Trade Commission)がHS改正に対応するHTSUS改正案を作成し、大統領への勧告プロセスを担います。

  • 2025年8月12日付のUSITCニュースリリースにおいて、2028年版HTSへの改正作業を開始する調査「Recommended Modifications in the Harmonized Tariff Schedule, 2028」の実施が公表されています。
  • USITCは、2026年2月にHTS改正の予備的ドラフトを公表しパブリックコメントを募集し、その後、2026年9月に大統領へ報告書を提出する予定としています。

また、USITCのFAQでは、HTSコードの構造について次のように説明しています。

  • 4桁が「heading」、6桁・8桁が「subheading」であり、法的テキストとしてのHTSは8桁レベルまでで完結する。
  • さらに、10桁目は統計用細分が付されることがあり、これらを合わせてHTSUSとして運用する。

従って、企業にとっての最終的な「条文」は、大統領による改正反映後のHTSUS(8桁)と、それに基づく10桁統計番号です。

日本:9桁統計品目番号とHS版の混在

日本では、HS条約改正に合わせて、関税定率法等および関連告示・解説資料を改正し、関税率表と輸出入統計品目表に反映します(HS2022改正時も同様の整理)。

  • 日本の「統計品目番号」は9桁であり、6桁のHSコードに3桁の国内細分コードを加えた構造です。
  • 9桁コードは、日本の通関申告・貿易統計の基礎となるコードとして運用されています。

一方、EPA(経済連携協定)では、協定ごとに採用しているHSの版(例:HS2012、HS2017、HS2022など)が異なり、原産地規則の品目別規則(PSR)は協定で定めるHS版に紐づきます。
このため、日本の通関実務がHS2022や将来のHS2028に移行していても、原産地証明書等に記載するHSコードは、当該EPAで採用しているHS版に合わせる必要があると説明されています。

英国:UK Integrated Tariff(UK Global Tariff)

英国は、EU離脱後、UK Global Tariff(UKGT)に基づくUK Integrated Tariffを運用しており、HS改正に合わせて国内の統合関税表を改正します。

  • 2022年の分類改正時には、HS改正に対応したUK Integrated Tariffの変更内容や相関情報が、政府サイトの「tariff stop press」等で告知されています。
  • また、輸入関税率の案内としてUK Global Tariffに関するガイダンスが提供されています。

実務上、企業が確認すべき「条文」は、最新のUK Integrated Tariff(UK Tariff)およびその改正告知です。

カナダ:Customs Tariff

カナダでは、Customs TariffがHSに基づく国内関税率表として機能し、必要に応じて改正・公表されます。

  • カナダ国境サービス庁(CBSA)は、Customs Tariffの最新版をウェブサイト上で提供し、改正がある場合は通知・更新を行う方針を示しています。
  • HS2028改正についても、HSが多くの国の関税率表の基礎であり、カナダにも影響する旨が業界向け情報で紹介されています。

中国:HSベースの8桁体系

中国は、HSベースの分類体系(CCCCS)を用いており、8桁を標準とする国内細分を採用しています。

  • 2024年版のCCCCSでは8,966の8桁品目が存在し、最初の6桁がHSコード、7桁・8桁が中国独自の細分と説明されています。
  • 一般的な解説でも、中国のHSコードは通常8〜10桁で、最初の6桁が共通のHS、その後ろが国内サブヘディングであるとされています。

従って、中国における最終的な「条文」は、中国税関が公表する最新のCustoms Commodity Codes(CCCCS)およびその改正告示です。

韓国:10桁コード

韓国は、6桁HSを基礎に、国内で拡張した10桁のHSKコード(tariff number)を用いています。

  • 韓国税関は、HSコードの概要説明の中で、6桁は国際共通であり、各国は自国のニーズに応じて6桁以降を拡張すると説明しています。
  • 公開データセットでも、「韓国税関のHSKコードに基づく2桁・4桁・6桁・10桁の関税番号」として10桁コードを明示しています。

したがって、韓国では10桁HSKコードが実務上の最終的な「条文」として機能します。


3. 主要国別に、実務で起こりやすいこと

米国:ドラフト公開とパブリックコメント

USITCは、HS改正に整合したHTS改正のため、2028年版HTSの改正案作成プロセスを開始したと公表しています。

  • 2026年2月に予備的なドラフト改正案を公表し、パブリックコメントを募集する予定です。
  • コメント期間後、必要な修正を行い、2026年9月に最終報告書を大統領へ提出するとしています。

また、USITC FAQ等によれば、国際共通の6桁HSに対し、8桁までがHTSの法的テキストであり、その後ろの10桁までが統計用途を含む米国固有の細分となります。

企業の即応ポイント(米国)

  • 米国向けでは、6桁HSだけでなく、最終的にHTSUSの8桁・10桁レベルまで確定しないと関税・統計上の影響が判断できない。
  • 2026年2月のドラフト時点から、自社品目の候補コードを当て、論点のある品目は根拠資料(技術仕様、カタログ、判定ロジック)を前倒しで整備しておく。
  • 2027年末〜2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長いリードタイム案件では旧・新HTSの境界で書類不一致が起こりやすいため、切替条件を事前に整理する。

EU:WCO改正→CN→TARIC

EUは、WCOの改正勧告を受けたうえで、CN(8桁)に取り込み、さらにTARIC(9桁・10桁)で各種措置を追加する形で運用します。

  • CNは、EUの共通関税と統計のための分類であり、輸入・輸出申告、関税率決定、統計、各種規制措置の参照コードとして用いられます。
  • CNの構造上、最初の6桁がHS、7桁・8桁がEUのCNサブヘディングであることが制度文書に明記されています。

企業の即応ポイント(EU)

  • EU向けでは、WCO段階ではなく、CNの改正情報が実務上の確定点となる(関税・統計・規制すべての基礎)。
  • HS2028で6桁が動く品目は、後続でCNサブヘディング(7・8桁)の再編が起こる可能性が高く、規制・統計要件も連動して変更されうる。
  • 関税率だけでなく、輸入規制、アンチダンピング等の措置、統計報告もCNに紐づくため、部門横断で影響評価する必要がある。

日本:9桁運用とEPAのHS版

日本では、通関・統計は9桁統計品目番号で運用され、そのうち先頭6桁がHS、後ろ3桁が国内細分です。

  • 9桁統計コードは、輸出入申告と貿易統計の基礎であり、輸出用・輸入用で3桁の細分が異なる場合があります。
  • HS改正は、関税定率法等の改正を通じて、関税率表・統計品目表に反映されます。

一方、EPAでは協定ごとに採用するHS版が異なるため、原産地規則の品目別規則は協定で定めるHS版に紐づきます。
そのため、原産地証明書などEPA関連書類に記載するHSコードは、国内通関用の最新版ではなく、協定の採用HS版に合わせる運用が必要とされています。

企業の即応ポイント(日本)

  • 社内マスターは、「国内申告用の最新版HS+9桁統計コード」と「EPA別に採用しているHS版」を並行管理できる設計が必要。
  • HS2028対応は、通関だけでなく、原産地判定・証明業務の作業量を増やしやすい(複数HS版の併存)。
  • 営業や顧客向け書類(インボイス等)に記載するコードの「版」と「桁数」を、国と用途(通関・原産地・統計)ごとに定義し直す必要がある。

英国:UK Tariffでの告知

英国は、UK Integrated Tariff(UK Global Tariffを含む)として自国の関税率表を運用し、HS改正に対応した変更や相関情報を政府サイトで告知します。

企業の即応ポイント(英国)

  • 英国向けでは、UK Tariff(UK Integrated Tariff)の最新版を確認し、要求される桁数までコードを揃えて書類の整合を取る。
  • EUと見た目は似ていても、7桁以降の国内細分の設計が異なることがあるため、CNコードの単純流用は危険。

カナダ・中国・韓国:それぞれの国内公表物が最終確定点

  • カナダ:CBSAが公表するCustoms Tariffが、HSに基づく関税率表として運用され、改正時は通知・更新が行われます。
  • 中国:中国税関が公表するCCCCSは、最初の6桁がHS、7桁・8桁が中国独自の細分で構成される8桁体系であり、必要に応じて10桁まで拡張される場合もあります。
  • 韓国:韓国税関は、6桁HSを基礎に10桁HSKコードを運用しており、輸入者は韓国の10桁体系で分類する必要があります。

企業の即応ポイント(カナダ・中国・韓国)

  • 同じ6桁HSでも、7桁以降の国内細分は国ごとに別物と割り切る。
  • 取引先向けの資料は、可能な限り相手国側の桁数(カナダのCustoms Tariff、中国の8桁、韓国の10桁等)で提示できるように準備する。
  • 制度の最終確定点は、それぞれの税関・関税率表等の公表物に置き、二次情報だけで判断しない。

4. 経営として今すぐやるべき即応タスク

ここからは国別ではなく、企業側の実務タスクに落とし込みます。鍵となるのは、「二層管理」と「切替境界の事故防止」です。

即応タスクA:棚卸しと影響評価

  • 取扱品目の現行コードを、「どの国向け」「どのHS版」「何桁か(6桁・8桁・9桁・10桁など)」の観点で棚卸しする。
  • 売上上位、利益上位、関税額上位、規制該当品目など、影響の大きい品目から優先順位を付ける。
  • HS2028で6桁が動きやすい品目群(医療・ワクチン・環境関連など)を早期に特定し、技術仕様や使用用途など分類根拠情報を集約する。
  • 税率だけでなく、規制、許認可、統計単位、原産地判定(EPA)の影響も同時に洗い出す。

即応タスクB:マスターデータの二層化

  • 国際共通の6桁HSと、国別の実務桁(EUのCN8桁、日本の9桁、中国の8桁、韓国の10桁など)を分離して管理する設計に見直す。
  • マスターデータに「HS版」フィールドを持たせる(HS2022、HS2028、EPA別に採用するHS版など)。
  • 取引先に提示するコード(インボイス・仕様書・見積書など)のルールを、国別・用途別に社内標準化する。
  • 変更履歴と根拠を残し、監査対応や後日の説明に耐えられるようにしておく(特に高関税・規制品目)。

即応タスクC:書類と原産地の事故防止

  • インボイス、パッキングリスト、原産地証明書、輸出管理資料などで、どの桁のコードを載せるかを国別に定義する。
  • EPA関連書類では、協定で採用しているHS版に合わせてHSコードを記載する運用を業務手順に明記する。
  • 2027年末から2028年初にかけて、年跨ぎ貨物や長納期案件について、旧HS2022・新HS2028のどちらで申告・証明するかの境界条件を洗い出し、切替手順を事前に設計する。

即応タスクD:外部との合意形成

  • 通関業者に対し、HS2028改正時の検証プロセスや必要情報(仕様書、図面、用途など)をあらかじめ確認する。
  • サプライヤーには、製品仕様情報の提供範囲・更新頻度・フォーマット(HS版・桁数の指定等)を明確化し、契約やSLAに反映する。
  • 顧客に対しては、コード変更が輸入側の関税や規制に与える影響を説明できる体制(FAQ、ガイド文書、営業への教育)を整える。

5. 2028年までの実務ロードマップ

WCOは、HS2028の受理後から発効までの期間を、相関表整備や各国による実装準備期間と位置付けています。
USITCは、2026年2月ドラフト、2026年9月大統領報告というタイムラインを明示しており、企業側の準備スケジュール策定の基礎情報となります。

この情報を踏まえると、企業としては次のようなロードマップが現実的です。

  • 2026年:
    • 棚卸しと影響評価(即応タスクA)を実施し、優先品目を特定。
    • HS2028案の内容・WCOの相関情報を踏まえ、6桁レベルの候補付けと分類根拠資料の整備を開始。
    • 米国向けについては、2026年2月のUSITCドラフトを確認し、必要に応じてパブリックコメント提出を検討。
  • 2027年:
    • 各国の国内実装状況(HTSUS改正、CN改正、日本の9桁統計コード改正、中国・韓国の細分改正など)を確認し、国別の実務桁を確定。
    • 社内システム改修、マスターデータ二層化、UAT(ユーザー受入テスト)、取引先・通関業者との番号整合を完了させる。
  • 2028年:
    • 切替運用を開始し、誤分類や書類不一致のエラー監視を強化。
    • 税関からの差戻し・照会に即応できるよう、根拠資料と履歴管理のプロセスを稼働させる。

おわりに

HS2028は、分類表の単なるマイナーチェンジではなく、企業にとっては基盤データの大規模アップデートです。
WCOの一次情報を起点に、米国はUSITCとHTSUSプロセス、EUはCNとTARIC、日本は9桁統計コード運用とEPA版混在、そして中国・韓国・カナダなどは各国の関税率表・分類体系という現実に合わせて、二層管理と切替事故防止に投資することが、費用対効果の高い対応となります。

個別品目の最終コードを今すぐ決め切ることよりも、
「結論をブレなく・説明可能な形で出せる仕組み(根拠管理、履歴管理、HS版管理、相手国桁への変換ロジック)」を先に整えることが、2028年前後の現場混乱を最小化する近道です。

WCO注記改正で読み解く EV電池分類の新基準

バッテリーパックは「どこまで」HS 8507なのか

EV電池の国際取引では、セル、モジュール、パック、さらにBMS(電池管理)や温調、保護回路、筐体まで一体化した形で流通するのが当たり前になりました。ところが実務では、構成要素が増えるほど「電池そのもの」なのか「機器の部分品」なのかが揺れ、通関・原産地・規制対応まで連鎖的に事故が起きます。

この揺れに対して、WCO(世界税関機関)のHS注記は、電池を電池として扱うための線引きを、かなり明確にしています。結論から言うと、一定の付属部品や筐体の一部を伴っていても、電池は電池のまま(HS 85.07)に置く、という整理です。 (wcotradetools.org)


1. いまEV電池の分類がビジネス課題になる理由

EV電池のHS分類は、単なる番号付けでは終わりません。誤ると影響は広範囲です。

  1. 関税・追加関税・統計の誤り
  2. FTA/EPAの原産地判定(CTCの段・RVC計算・部材表)に波及
  3. 危険物輸送、環境規制、輸出管理など「対象品目判定」の入り口がズレる

つまり、電池の分類は、調達から輸出入、価格、契約、監査対応までを左右する“経営の基礎データ”になっています。


2. WCO注記が示す「電池として扱う」境界線

2-1. 注記の中核:付属部品があっても電池は電池

WCOのHS(第85類)の注記では、85.07項の「電気蓄電池(electric accumulators)」について、次の考え方が明文化されています。

・電池は、電力を蓄えて供給する機能に寄与する付属部品、または損傷から保護する付属部品を伴っていても、85.07に含まれる
・例として、電気コネクタ、温度制御デバイス(例:サーミスタ)、回路保護デバイスが挙げられている
・用途先の機器に使われる保護筐体の一部を含むこともある (wcotradetools.org)

ここが「新基準」の本体です。EV用のトラクションバッテリーは、まさにこの付属部品を標準装備しています。したがって、付属部品があること自体を理由に、電池を“別物”に寄せる判断は取りにくくなります。

2-2. 「バッテリーパック」概念の補強:特定機器向けでも85.07

さらに、WCOのHS解説注(Explanatory Note)側でも、セル群を接続して構成する「バッテリーパック」を85.07に含める考え方が示され、付属部品や保護筐体があっても、また特定機器向けに設計されていても、原則として85.07で扱う方向性が示されています。 (wcoomd.org)

実務的に重要なのは、「EV向け専用品だから車両部品(第87類)では?」という直感が、そのまま通らない点です。電池は“車両の部品っぽい”見た目でも、HSの体系上は電気機器として別建てで整理されやすい、というのがWCO側の設計思想です。


3. 実務で使える「新基準」チェックリスト

付属品が増えたとき、どこまでが電池か

通関事故を減らすには、「付属品の性格」を先に分類します。ポイントは1つです。

その部品は、電池の蓄電・放電(供給)機能に寄与するのか、保護のためなのか。あるいは別機能なのか。

3-1. 85.07に寄りやすい典型(注記の射程内)

・高電圧コネクタ、バスバー、端子
・温度センサー、温調用の安全部材(電池保護目的の範囲)
・ヒューズ、遮断器、保護回路
・保護筐体の一部(用途先機器の筐体と一体でも、電池保護の文脈なら議論に乗る) (wcotradetools.org)

3-2. ここから先は要注意(“別機能”が立つ可能性)

・インバータ、DC-DCコンバータなど電力変換
・車両制御ECUとしての機能が前面に出る制御ユニット
・充電器など外部電源との変換・充電制御が主体の機能

この領域に入ると、「電池+別機能機器」の複合体になり、HSの別の論点(複合機械、主要な機能、セット品判断など)が立ち上がります。ここは製品仕様次第で結論が割れやすいため、事前教示(Advance Ruling)を取る価値が急に上がります。


4. 企業が今すぐやるべきこと

HS分類を“設計図”として固定する

EV電池は、量産開始後に構成が変わりやすい製品です。だからこそ、分類の根拠を「最初に固定」しておく必要があります。

  1. 部材表(BOM)を「分類用」に再編集する
    電池セル、接続回路、保護回路、温調、筐体を、機能別に分解して説明できる形にする。
  2. 付属部品を「電池機能・保護」か「別機能」かでタグ付け
    設計変更が入っても、分類に影響する変更かどうかを即判定できるようになります。
  3. インボイス・仕様書・カタログの用語統一
    battery pack、battery module、BMS、thermal management などの用語が資料ごとに揺れると、税関側の解釈も揺れます。文言の統一はコスト削減そのものです。

5. HS2028時代の位置付け

「番号の変更」より前に、基準の理解が効く

WCOは、HS2028改正が受理され、2028年1月1日に発効すること、そして移行のために相関表作成などの準備を進める方針を明確にしています。 (wcoomd.org)

ただ、EV電池の現場で先に効くのは「コードが変わるか」よりも、「電池として扱う境界線を誤らないか」です。注記が示す基準は、HS版が切り替わっても、分類ロジックの土台として残り続ける可能性が高い領域です。


まとめ

EV電池の分類は「付属品の性格」で決まる

・WCO注記は、付属部品や筐体の一部を伴っても、蓄電池は85.07に含める考え方を明確化している (wcotradetools.org)
・実務の新基準は、付属品が「蓄電・供給に寄与」または「保護」か、それとも「別機能」かを切り分けること
・別機能が立つ構成は、最初から事前教示と根拠書類(分類ドシエ)を前提に設計した方が、長期コストが下がる

必要なら、想定しているEV電池(セル・モジュール・パックのどこまでか、BMSや温調の構成、筐体の役割)を箇条書きでいただければ、この基準に沿って「どこが論点で、何を証拠にすべきか」を実務用チェックリストに落として整理します。

【WCO改正解説】センサー・半導体の「境界」が変わる

──「用途」から「構造」判定への実務的転換と、企業が取るべき対応

センサーと半導体は、いまや自動車から産業機械、家電、医療機器に至るまで、あらゆる製品の中核部品です。しかし、貿易実務の現場では、その技術的進化ゆえに分類の境界線が曖昧になっています。

「機能はセンサー(測定)だから第90類ではないか?」「いや、構造は集積回路(IC)そのものだから第85類ではないか?」──こうした解釈の揺れは、国や担当官によって判断が分かれる大きなリスク要因となっていました。

この問題に対し、WCO(世界税関機構)のHS委員会は、分類意見(Classification Opinions)を通じて明確な判断基準を打ち出しています。特に第73回HS委員会(2024年3月)で採択された決定は、センサーと半導体の境界線に新たな「構造重視」のルールを確定させる重要な転換点となりました。

本稿では、この決定が実務に与える影響と、企業がいま講じるべき対策について解説します。


1. 何が決まったのか? センサー内蔵ICは「85.42」へ

今回、実務への影響が特に大きいのは、以下の製品群が第90類(計測機器等)ではなく、明確に**「電子集積回路(HS 85.42)」**として分類整理された点です。

WCO分類意見の要点(代表例)

対象製品のイメージWCO分類 (HS)実務上のポイント
複数のスイッチ機能(複数ダイ)を1パッケージに内蔵するIC
(例:モータドライバ等)
8542.39用途がモータ駆動であっても、構造が「マルチチップIC」の定義に合致すれば85.42を優先。
2つのセンサーダイを同一パッケージに封止したホールセンサーIC
(角度・位置検出用)
8542.39「角度・位置の検出(測定)」という用途があっても、ICとしての一体性・構造要件を重視し、第90類を排除。

これらの決定において、WCOは一般解釈規則(GIR)1および6に加え、**第85類注12(b)(iii)(マルチチップ集積回路の定義)を根拠としています。 特にホールセンサーICの事例は、「測定機能を持つものは第90類」という従来の直感的な判断を覆し、「構造がICであれば第85類」**という原則を強く印象づけるものとなりました。

2. WCOが示した判断軸:機能ではなく「構造と一体性」

今回の分類意見が企業に示唆しているのは、「争点になりやすい『用途』よりも、まず『構造』を見よ」というメッセージです。

分類意見で重視された構造要件

  • 複数ダイ(または機能ブロック)の集積: 複数のダイが1つのパッケージに収められていること。
  • 受動・能動素子の不在: マルチチップICの場合、ダイ以外の追加回路要素(個別のコンデンサや抵抗等)が含まれていないこと。
  • 不可分な一体性: ダイ製造およびパッケージングの時点で、物理的に一体化されていること。

【重要な注意点:相互接続の解釈】

実務上、「ダイ同士が直接ワイヤで繋がっていない(電気的に相互接続されていない)なら、マルチチップICの定義(注12(b)(iii))に当たらないのでは?」と判断し、第90類へ分類してしまうケースが見受けられます。

しかし、WCOの判断はこれとは異なります。ダイ同士が直接接続されていなくても、リードフレームやパッケージ配線を介して機能的に結合(相互接続)していれば、マルチチップICの要件を満たすと解釈されます。

つまり、見た目の配線にとらわれず、「パッケージ全体として一つのICとして機能しているか」という構造的一体性が、分類の決定打となるのです。

3. 法的根拠:第85類注12が持つ「強制力」

この線引きを支えているのが、関税定率法(HS条約)における第85類注12の規定です。

注12は、半導体デバイス(85.41)と電子集積回路(85.42)を定義すると同時に、以下の強力な優先ルールを定めています。

「この注に規定する物品については、第85.41項及び第85.42項は、この表の他のいずれの項(第85.23項を除く。)よりも優先する。」

つまり、ある製品が「センサー」としての機能を持ち(第90類)、同時に「集積回路」の構造定義(第85類注12)も満たす場合、HS条約は「第85類(半導体/IC)に分類せよ」と強制しているのです。

今回のWCOの決定は、この原則をセンサーIC等の「境界領域」の製品に厳格に適用した結果と言えます。

4. 企業への影響:分類ブレ=経営リスク

この解釈更新を単なる「コード変更」と捉えるのは危険です。不正確な分類が引き起こす「不確実性コスト」は、関税率の差以上にビジネスを圧迫します。

  • 通関遅延・追加照会: 構造説明が不十分で「センサー(90類)では?」と疑義を持たれ、貨物が止まる。
  • 事後調査での否認: 過去に遡って過少申告を指摘され、加算税・延滞税が発生する。
  • FTA/EPA適用の崩壊: HSコードが変わることで、原産地規則(CTC要件など)を満たさなくなり、関税ゼロの特典を失う。
  • システム修正の負担: 品目マスタ、ERP、輸出入システムの改修コスト。

WCOの判断が出たからといって、世界中の税関が即座に運用を統一するわけではありません。だからこそ、企業側が論理的な説明(Defense File)を用意しておく必要があります。

5. 実務チェックリスト:いま着手すべき5つのアクション

  1. 対象品目の棚卸し(Inventory)センサーIC、MEMS、モータドライバ、パワーモジュールなど、境界領域にあるSKUを抽出。現行のHS採番理由が「用途」寄りになっていないか再点検します。
  2. 「構造」を証明する技術資料の整備単なるスペックシート(機能説明)では不十分です。パッケージ内部構造、ダイの枚数・構成、リードフレームとの接続、追加部品の有無を図解できる資料(Cross-section図など)を準備します。今回のWCO判断において、勝負を決めるのはこの情報です。
  3. 製品記述(Description)の標準化インボイスやマスタ品名において、「Sensor」という単語を強調しすぎると誤解を招きます。「Integrated Circuit (Dual die Hall sensor type)」のように、構造(IC)を主語にした記述へ統一することを推奨します。
  4. 重点国での事前教示(Advance Ruling)主要な輸出入国において、今回のWCO判断が浸透しているかを確認し、リスクが高い場合は事前教示制度を利用して分類を確定させます。
  5. 変更管理(Change Management)の制度化設計変更やサプライヤ変更により、1ダイから2ダイへ、あるいは受動部品の内蔵有無が変わると、HSコードも変わる可能性があります。設計変更通知(PCN)とHS分類部門が連動する仕組み作りが不可欠です。

まとめと今後の見通し

WCOのHS委員会は、継続的にこの領域の整備を進めています。直近の第76回会合(2025年9月)に続き、次回第77回会合(2026年3月予定)でも新たな分類議論が行われる見込みです。この領域は「一度決めたら終わり」ではなく、「技術進化に合わせて更新され続ける」テーマです。

今回のWCOのメッセージは明確です。「迷ったら構造を見よ」。

特にセンサー機能を内包するデバイスについては、用途ではなく**構造(ICの定義合致性)**で85.42に整理する流れが確定しました。

経営層および実務責任者は、これを機に対象品目の棚卸しを行い、税関に対して「構造」を正しく説明できる体制(技術資料とロジックの整備)への投資を急ぐべきです。それが、無用なサプライチェーンの混乱を防ぐ最善策となります。

HSコードは番号から説明責任へ:ドシエの必要性が税関により強く推奨される

HSコードは、正しい番号を当てるだけの業務ではなくなりつつあります。製品が高度化し、機能や用途が複合化するほど、分類の論点は増え、判断の揺らぎも起きやすくなります。だからこそ近年は、結論としてのHSコードに加えて、その結論に至った根拠をどれだけ明確に示せるかが、通関スピードや事後対応の負担を左右する局面が増えています。

この流れの中で注目されているのが、HSコード分類根拠書、いわゆるドシエです。ドシエは追加の書類ではありません。経営の視点でいえば、通関停滞、追加照会、事後調査、再分類といった不確実性を下げ、サプライチェーンの時間とコストを安定させるための説明責任インフラです。

税関がドシエを推奨する理由

税関がドシエを重視する背景は、実務上の必要性に集約されます。
第一に、審査を速く正確に進めるためです。仕様や用途の情報が不足すると、税関は照会を増やして確認せざるを得ません。最初から仕様と根拠が整理されていれば、審査の起点が共有され、照会の往復が減り、結果として通関が速くなります。

第二に、判断の一貫性を高めるためです。人や部署、時期によって解釈のブレが出やすい領域ほど、事実と根拠を文書化しておくことで、同じ判断を再現しやすくなります。

第三に、事後調査や紛争のコストを抑えるためです。過去にどんな事実認定をし、どの根拠で結論に至ったかが整理されている企業ほど、説明が短期間で済み、修正が必要な場合でも影響範囲の特定が速くなります。

ドシエに入れるべき中身

ドシエの目的は、難しい文章を書くことではなく、事実と論理を一体で提示できる状態を作ることです。基本の骨格は次のとおりです。

  1. 製品の客観仕様
    材質、構造、機能、用途、製造工程、構成部品、型番体系、性能値など
  2. 証拠資料
    仕様書、図面、写真、カタログ、取扱説明書、SDS、分析成績、工程表など
  3. 候補コードと除外理由
    なぜそのコードで、なぜ他の候補ではないのか。境目となる条件は何か
  4. 法的根拠
    解釈に関する通則、部注・類注、関連する参考資料や先例など

この構造を揃えるだけで、社内承認の速度も、対外説明の再現性も大きく変わります。

ドシエで使うべき言語

ここは輸入と輸出で考え方を分けるのが現実的です。

日本に輸入する場合

日本の税関対応を前提にするなら、日本語で要点が整理されていることが最も有利です。理由は単純で、誤解が減り、照会が短くなりやすいからです。外国語の資料が添付されること自体は珍しくありませんが、少なくとも要点と論点は日本語で押さえておくほうが、結果として通関が安定します。

輸出する場合

輸出側のドシエは、英語が事実上必須になる場面が多いです。相手国の通関関係者、輸入者、通関業者、保税倉庫、監査担当など、関与者が国境を越えて増えるため、共通言語として英語が標準になりやすいからです。
加えて、輸出では自社だけで完結しません。相手先が輸入申告を行う国では、分類の説明責任は輸入者側に置かれるのが一般的です。輸入者が説明できなければ、結果として貨物は止まり、追加照会や保留が発生します。このとき、英語で整理されたドシエがあるかどうかが、輸入者の対応力と通関スピードを左右します。

なお、相手国によっては英語だけで十分とは限らず、現地語の補足が有効な場合もあります。現実解としては、次の二段構えが運用しやすいです。
・社内の正本として日本語版を整備し、意思決定と統制を固める
・対外共有用として英語版を整備し、輸入者や海外拠点と同じ論点で会話できる状態を作る

ここでHSCFが有益になるポイント

ドシエ運用のボトルネックは、知識不足よりも、情報収集と論点整理と文書化です。HSCFが効くのはまさにこの部分です。

  1. 証拠の回収を速くする
    写真、PDF、仕様書など、現場に散らばる材料を起点に検討を始められると、ドシエの土台作りが前に進みます。
  2. 不足情報を対話で特定し、抜けを減らす
    分類が割れる多くの原因は、必要な仕様が欠けていることです。追加確認すべきポイントを早い段階で洗い出せれば、照会されやすい穴を先回りして塞げます。
  3. 候補と分岐点を明示し、除外理由を作りやすくする
    ドシエで最も価値が出るのは、なぜ他のコードではないかの説明です。候補の並列提示と論点の切り分けができると、除外理由が短時間で固まります。
  4. 日英の併用運用に向く
    輸入は日本語、輸出は英語という二重運用は、理屈は正しくても現場負担が重くなりがちです。HSCFを活用して、日本語で統制を固めながら、英語の対外共有版も同じ骨格で整える運用にできると、スピードと再現性が両立します。用語や表現のブレを抑えられることも、海外とのコミュニケーションでは効いてきます。

まとめ

ドシエが重視されるのは、分類の正しさだけでなく、説明可能性が通関速度とコストを左右するからです。税関側にとっても、企業側にとっても、審査の起点となる情報と論理を共有できることが、最大の合理化になります。

そして言語は、輸入は日本語での明確化、輸出は英語での対外共有が鍵になります。輸出では英語のドシエがあるかどうかが、相手国側の通関を動かす実務上の決め手になり得ます。
この二重運用を現場で回すための加速装置として、証拠収集、論点整理、候補比較、文書化を一気通貫で支援できるHSCFは、有益な選択肢になります。