欧州物流の新たな関所。ICS2フェーズ3「2026年2月3日」完全義務化がもたらす衝撃

2026年2月8日 | 欧州物流・通関規制 | 読了目安:5分


2026年2月3日、欧州連合(EU)の輸入管理システム「ICS2(Import Control System 2)」のフェーズ3(リリース3)における重要な技術的移行期限が到来しました。

これは、EU域内に運び込まれるすべての海上、道路、鉄道貨物に対して、セキュリティ情報の事前申告を義務付ける新しいルールの「完全適用」が開始されたことを意味します。これまで一部認められていた古いメッセージ形式や暫定的な運用が終了し、厳格な運用フェーズへと突入しました。

本記事では、この「2月3日の壁」を越えて、日本企業が欧州との物流を維持するために不可欠な対応策について深掘り解説します。

なぜ「2月3日」が分水嶺だったのか

ICS2は、テロ対策や不正物品の流入阻止を目的とした、EUの新しい税関セキュリティプログラムです。航空貨物(フェーズ1、2)ですでに先行導入されていましたが、今回のフェーズ3は、物流の大動脈である「海上輸送」、および「道路・鉄道輸送」を対象としています。

2026年2月3日は、これら陸・海ルートにおける事前申告(ENS:Entry Summary Declaration)のデータ形式に関し、古いバージョン(v2など)の使用が完全に停止され、新しい「v3メッセージ」への完全移行が義務付けられた技術的な締め切り日でした。

これ以降、古いシステム形式で送信されたデータはEU税関のシステムで拒絶されることになり、実質的な「輸入不許可」と同じ扱いを受けます。もはや「知らなかった」や「システム改修が間に合わない」という言い訳が通用しない段階に入ったのです。

求められるデータ精度の劇的向上

この完全義務化により、企業が提出すべきデータ要件は極めて厳格になりました。特に以下の3点は、不備があれば即座に物流停止につながる重要な要素です。

HSコード(6桁)の完全一致

これまでは品名(Description)の記述だけで通関できたケースもありましたが、ICS2では「最低6桁のHSコード」の入力が必須です。しかも、そのコードはEUの関税分類(TARIC)と整合性が取れていなければなりません。曖昧なコードや誤ったコードは、AIによるリスク分析で弾かれる対象となります。

EORI番号による取引先特定

輸出者だけでなく、輸入者(EU側のバイヤー)や通知先(Notify Party)についても、EUの事業者登録番号である「EORI番号」の正確な記載が求められます。住所や社名だけでは不十分であり、有効なEORI番号がない取引先への出荷は、申告エラーとなります。

サプライチェーンの可視化

誰が売り、誰が買い、どこの倉庫を経由したか。ICS2は商流と物流の完全なリンクを要求します。フォワーダー任せにしていた「ハウスB/L(House Bill of Lading)」レベルの詳細情報も、船積み前に申告しなければなりません。

日本企業が直面する3つのリスク

2月3日以降、対応が不十分な企業は以下のリスクに直面しています。

船積み不可(Do Not Load)の指令

ICS2の最大の特徴は、積載前のリスク評価です。申告データに不備がある場合、あるいはセキュリティリスクありと判断された場合、出発地の港(日本やアジアの港)で「船積み禁止(Do Not Load)」の命令が下されます。貨物は欧州に向けて出港することすらできません。

税関検査による大幅な遅延

データは送信できたとしても、内容に疑義がある場合、EU到着後に「情報の追加要求(RFI)」や「物理的な検査(Do Not Unload)」の対象となります。これにより、数日から数週間の納期遅延が発生し、ジャストインタイムの製造ラインや販売計画に甚大な影響を与えます。

制裁とコンプライアンス違反

不正確な申告を繰り返す事業者は、EU税関のリスクプロファイルで「高リスク」と認定され、将来的なすべての貨物が検査対象となる可能性があります。また、加盟国によっては罰金が科されるケースも出てきます。

まとめ:今すぐ点検すべきアクション

「2026年2月3日」は過ぎ去りましたが、混乱はこれからが本番です。日本企業の物流担当者は、直ちに以下の点検を行ってください。

まずは、利用しているフォワーダーに対し、自社の貨物がICS2の要件を満たして正常に申告されているか確認することです。特に、「ハウスB/LレベルでのHSコード提出」が確実に行われているかどうかが肝要です。

次に、マスターデータの整備です。EU向け製品のHSコードが最新の2022年版(または2027年以降の改正案)に対応しているか、取引先のEORI番号に変更はないか、定期的な洗い出しが必要です。

ICS2は「デジタルな国境」です。物理的な距離に関わらず、データが国境を越えられなければ、モノも国境を越えられません。この厳格な現実を直視し、高精度なデータ管理体制を構築した企業だけが、欧州市場での信頼とシェアを守り抜くことができます。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

WCO HS2028相関表をビジネスで使う前に知るべきライセンスと機械アクセスの現実

2028年1月1日に発効予定のHS2028は、通関実務だけでなく、品目マスタ、原産地管理、関税コスト試算、輸出入システム改修にまで影響が及ぶイベントです。WCOは、HS2028改正が受諾された後の実装期間に、相関表の作成や関連ツールの更新などを進め、各国が移行できるよう準備を進めると明記しています。(世界 Customs Organization)

この移行で多くの企業が最初に手を伸ばすのがWCO相関表です。ただし、相関表は便利な一方で、プロジェクトを止めかねない二つの制約があります。

1つ目はライセンス。2つ目は機械アクセス。
この二つを後回しにすると、相関表を入手できても、社内で使い回せない、システムに組み込めない、外部顧客向けサービスに載せられない、という形で詰まります。

以下では、ビジネスマンが意思決定しやすい形で、HS2028相関表の性格と、ライセンスと機械アクセスの論点を掘り下げます。


1. HS2028相関表は「変換表」ではなく「移行の地図」

1-1. そもそもHS2028相関表はいつ必要になるか

WCOは、HS2028改正が受諾された後、2028年1月1日の発効に向けた実装期間で相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
また、HS委員会はHS2022とHS2028の相関表の作成に関する議論を開始し、相関表の形式改善も採択したと公表されています。これは、相関表が実務上の中核ツールになる前提で準備が進んでいることを示唆します。(世界 Customs Organization)

企業目線で言い換えると、相関表は次の二つをつなぐ設計図です。

  • 今の品目マスタや取引データが、HS2028でどこに移るか
  • その移動が、単純な置換か、分割や統合を伴うか

この設計図がない状態でシステム改修を進めると、後工程でマッピングの作り直しが起きやすく、コストも遅延も膨らみます。

1-2. 相関表は「分類決定」ではない

ここで重要なのが、WCOが過去版の相関表について、分類決定そのものではなく、実装を助けるガイドであり法的地位を持たないと明記している点です。(世界 Customs Organization)

ビジネス実務では、相関表をそのまま自動変換ルールにしてしまいがちです。しかし、相関表はあくまで移行を円滑にするための参照であり、個別品目の最終的な分類判断は、各国税関の運用や法令、解釈情報に依存します。相関表はスタート地点であり、ゴールではありません。

1-3. 1対1の置換が少ない理由と、exの読み方

相関表は、次のようなパターンを含みます。

  • 単純な番号変更だが、範囲は同じ
  • 番号は同じだが、範囲が広がる、または狭まる
  • 1つの旧コードが複数の新コードに分割される
  • 複数の旧コードが1つの新コードに統合される

過去版の相関表では、旧版側にexが付くケースは、新版のコードが旧版コードの範囲の一部だけを取ったことを示す、と説明されています。(世界 Customs Organization)
つまり、exが付いた行は、機械的な置換をすると誤分類リスクが高いゾーンです。

経営側が押さえるべきポイントはシンプルです。
相関表が公開されたら、まずは1対1の置換で終わる領域と、要人手判定の領域を切り分け、後者を重点管理する。これが最短ルートです。


2. ライセンスの制約:相関表を使える会社と使えない会社の差はここで決まる

2-1. WCOコンテンツは知的財産として扱われる

WCO Trade Toolsの利用条件では、WCOが出版物等の知的財産権を保有し、無断での複製、配布、改変などを行わない旨が示されています。無償提供の場合も含む、とされています。(WCOTRADE Tools)

ここで誤解が起きやすいのが、次の二つです。

  • 閲覧できる = 自社システムへ複製してよい、ではない
  • 無償で入手できる = 再配布してよい、ではない

実務で問題になりやすいのは、相関表を社内の品目マスタ管理システムに取り込み、関係部署に配布し、さらに社外向けの顧客ポータルにも掲載してしまうケースです。社内だけの利用でも、複製や共有の範囲が広がるほど、契約や規約の確認が必要になります。

2-2. ビジネスで見落としがちなライセンス論点

相関表やHS関連情報の取り扱いでは、次の観点を先に決めておくと、後で詰まりません。

  1. 利用目的
    内部の分類作業、社内教育、顧客向けの検索機能、SaaSへの組み込みなど、目的で必要な権利が変わります。
  2. 利用範囲
    国内拠点だけか、海外子会社や委託先も含むのか。グループ全体での共有を想定するなら、最初から契約設計が必要です。
  3. 再配布の有無
    顧客に配布する、あるいは顧客が閲覧できる画面に表示する場合は、社内利用とは別レベルの論点になります。
  4. データ加工の有無
    相関表を加工して自社独自のマッピング表を作る場合、派生物として扱われ得ます。どこまでが許容されるかは契約条件に依存します。

この判断は法務だけの仕事ではありません。どの部署が、どのシステムで、どのデータを、誰に提供するかという情報設計そのものです。


3. 機械アクセスの制約:PDFをCSVにする前に立ち止まるべき理由

3-1. 人が読むためのアクセスと、システムが読むためのアクセスは別物

WCO Trade ToolsのFAQでは、WCOのコンテンツが書籍等のオフラインだけでなく、オンラインのデータベースや構造化コンテンツ、APIといった形でも提供される旨が示されています。(WCOTRADE Tools)
また、WCO Trade Tools自体は、HS相関表を含む機能を提供すると説明されています。(WCOTRADE Tools)

ここから読み取れる実務上のポイントは次の通りです。

  • 画面で閲覧する前提の提供形態がある
  • 企業システムに組み込む前提の提供形態も用意され得る

つまり、単純にダウンロード資料を社内で加工して取り込むのではなく、正式な機械アクセスの選択肢があり得るということです。

3-2. 公式の統合手段としてのAPIとライセンスオプション

WCO News Magazineの記事では、WCO Trade Toolsの機能を自社アプリやオンラインサービスに組み込むために、APIソリューションやライセンスオプションが用意されている旨が説明されています。(mag.wcoomd.org)
これは、機械アクセスが単なる技術の話ではなく、契約とセットで提供されるビジネス商品であることを意味します。

企業がここで判断すべきなのは、次の分岐です。

  • 少人数が閲覧し、手作業でマッピングを作れる
    画面閲覧中心の運用で足りる可能性が高い
  • 品目点数が多く、定期的に自動チェックや社内連携が必要
    公式の機械アクセス手段を検討したほうが、長期的に安いことがある
  • 顧客向けに検索やマッピング機能を提供したい
    外部提供が前提なので、契約条件の確認が必須

3-3. 技術面の落とし穴は「アクセスできるのに使えない」

WCO Trade Toolsは、インターネット接続さえあれば、主要ブラウザや端末でアクセスできるように設計されていると説明されています。(WCOTRADE Tools)
一方で、これはあくまで人が閲覧する話です。大量データの自動取得やシステムへの恒常的な組み込みは、規約や契約が別建てになる可能性があります。

機械アクセスを曖昧にしたまま進めると、移行プロジェクトの終盤で次の問題が起きます。

  • マッピングは完成したが、社内システムで再現できない
  • 監査対応で、データの出所と権利を説明できない
  • 外部顧客向け機能が、権利面でリリースできない

この手戻りは、IT予算よりも経営信用を削ります。


4. HS2028移行を止めないための実務設計

ここからは、ライセンスと機械アクセスを前提に、相関表をどうプロジェクトに組み込むかを整理します。

4-1. まず、相関表を置く場所を決める

相関表は、単なる資料ではなく、移行プロジェクトの中核データです。置き場所の候補は大きく三つあります。

  1. ExcelやPDFのまま、担当者が参照する
  2. 部門共有のマッピング表として、統制された場所に保存する
  3. マスタ管理システムに取り込み、業務フローに組み込む

2から3へ進むほど、ライセンスと機械アクセスの要件が重くなります。最初から3を目指すなら、契約確認を先に終わらせるのが合理的です。

4-2. データモデルは必ず1対多を許容する

相関表は、旧コードと新コードが必ずしも1対1で対応しないことがあります。複数の対応候補が併記され得ることや、国や地域の運用差で相関が分かれる可能性も、過去版で明示されています。(世界 Customs Organization)

したがって、システム設計では次の形を前提にすると安全です。

  • 旧HSコード
  • 新HSコード
  • 対応関係のタイプ
    例:番号変更、範囲変更、分割、統合、部分移動など
  • 備考や判断根拠の格納欄
  • 版管理
    相関表は更新され得るため、いつの版に基づくかを残す必要があります。(世界 Customs Organization)

4-3. 相関表は更新され得る前提で運用する

過去版の相関表では、相関表が改訂や変更の対象になり得ること、最新版はWCOサイトに掲載されることが明記されています。(世界 Customs Organization)
この性格をそのまま実務に落とすと、次が必須になります。

  • 相関表の取得日と版を記録する
  • 重要品目は、版更新時に差分検知できるようにする
  • 社内マッピング表に、更新プロセスを設ける

これがないと、2027年後半から2028年にかけて、同じ品目が部署ごとに異なる新コードで運用される事故が起きます。


5. まとめ:相関表はデータではなくプロジェクトの起点

HS2028の相関表は、移行を一気に前に進める推進力になります。ただし、相関表の扱いを誤ると、次の二つが同時に起きます。

  • ライセンス面で、配布や組み込みが止まる
  • 機械アクセス面で、運用に載せられず止まる

WCOは、発効に向けた実装期間に相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
企業側も、相関表を手に入れてから考えるのではなく、入手と同時に使える状態を作ることが、移行コストを最小化する最短ルートです。


ご指定の免責事項の文面がメッセージに含まれていなかったため、一般的な文面を掲載します。必要に応じて差し替えてください。

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引、契約、法令解釈、通関判断に対する助言を構成するものではありません。HSコードの分類、相関表の利用、ライセンスや利用条件の解釈については、必ず最新の公式情報および契約条件を確認のうえ、必要に応じて通関士、税関当局、弁護士等の専門家に相談してください。本記事の内容に基づいて行った行為およびその結果について、筆者および作成者は一切の責任を負いません。

インド向け輸入実務で、HSコードの誤記載が単なる事務ミスとして扱われにくくなっています。

背景にあるのは、海上貨物情報の提出ルールを刷新するSCMTRの運用高度化と、それを支える関税法(Customs Act, 1962)の罰則枠組みです。

インド税関のSCMTR関連文書と関税法条文、税関ゾーンの公示(Public Notice)を確認できます(下記参照)。

・ICEGATE(インド税関EDIポータル)のSCMTR利用者向けアドバイザリにおいて、Arrival Manifest(到着マニフェスト)に8桁HSコードの記載が必須であることが明記されています。
・SCMTR(Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018)自体が、到着・出港マニフェストの提出タイミングを前倒しし、誤りや遅延がある場合の取扱い(修正・補完の許容条件)を規定しています。
・関税法(Customs Act, 1962)第30条は、マニフェスト提出遅延に対する罰金(上限5万ルピー)と、内容が不完全・不正確な場合の補正許容(不正意図なしの場合)を規定しています。
・同法第114AA条は、虚偽または重要事項の不正確な申告・書類利用を「故意に」行った場合、貨物価値の5倍までの罰金を規定しています。
・税関ゾーン単位では、SCMTRの新フォーマット提出を港ごとに段階的に必須化する公示が出ており、実務移行が「運用として」進んでいます(例:Chennai Customs)。

厳格化は、単に「罰金額が上がった」という話に限りません。実務上は次の2層で効いてきます。

SCMTRは、従来のIGMに代わるArrival Manifest等を、最終外国寄港地からの出港前に電子提出する運用へ寄せています。ここでHSコード(少なくとも所定桁数)が必須項目として扱われ、欠落・不整合があると、訂正対応や照会でリードタイムが伸びやすくなります。

関税法第30条は、マニフェストの提出遅延に対して上限5万ルピーの罰金を置きつつ、内容が不正確・不完全でも「不正意図なし」であれば補正を許容する枠組みを持っています。つまり、誤記載が発見されたときに「直ちに罰則」ではなく、「迅速な補正と説明で収束できる余地」が制度上は残っています。

一方で、誤ったHSコードが、関税回避や規制逃れ(輸入規制・認証対象の回避など)と結びつくと、虚偽・重要事項の不正確記載として第114AA条の射程に入り得ます(貨物価値の5倍までの罰金)。

HSコードの誤りは、単発の訂正で終わらず、マスターデータに誤りが残ると同一品番の再出荷で繰り返します。SCMTRのように事前提出が前提になると、港到着後に気づくのではなく、出港前後に差戻しが発生し、輸送計画そのものに影響します。

誤分類による追徴リスクに加え、滞船料・保管料、納期遅延の違約金、緊急輸送への切替コストが膨らみます。加えて、マニフェストの不備は物流事業者側の修正費用や手数料に転嫁されやすく、総コストが見えにくい形で増えます。

制度上、誤りの補正が許容される場合でも、説明が弱いと「なぜそのHSだったのか」「誰が判断したのか」「同種案件がないか」という論点に発展しやすい。ここで社内統制が弱いと、個別ミスが組織的リスクに格上げされます。虚偽・重要事項の不正確記載と評価されると、制裁は急に重くなります。

・誰が最終判断者か(貿易管理、品目分類担当、外部専門家)
・判断根拠(GRI、品目の機能・材質・用途、類似裁定、社内標準)
・インド固有の8桁運用(ITC(HS)相当)の扱い

この3点を最低限ひも付け、監査で再現できる状態にします。

・インボイス品名と梱包明細の品目説明
・HSコード(6桁と8桁)
・マニフェスト/申告データ(Arrival ManifestやBill of Entryに連なる情報)

書類間で品目説明とHSがずれていると、誤記載として見つかりやすくなります。SCMTRはまさにこの整合性を前提に設計されています。

・発見した時点で、補正の可否と必要資料を即判断
・不正意図がないことを示す材料(社内承認記録、仕様書、過去の一貫性)を添付
・補正の根拠として、制度上の補正許容(不正意図なし)を踏まえて説明

関税法第30条およびSCMTRには、不正意図がない不完全・不正確について補正を許容する設計が読み取れます。

SCMTRは段階的に新フォーマット必須化が進みます。例えばChennai Customsでは港ごとに必須化日程が公示されています。自社貨物が入る港とフォワーダーの運用準備がずれていると、誤記載が「訂正の遅れ」へ連鎖しやすくなります。

・主要品目のHSコードは、直近12か月で再検証したか
・HSコードと品目説明の整合を、出荷前に機械的に検知できるか
・誤記載が見つかったとき、補正と説明のテンプレートがあるか
・物流パートナーに渡すHSコードは「単なる情報」ではなく、社内承認済みのものか
・故意と見られないための記録(判断根拠・承認ログ)を保持しているか

・ICEGATE:SCMTR利用者向けアドバイザリ(Arrival Manifestに8桁HS必須の記載あり)
・Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018(SCMTR本体。誤り・遅延時の補正の考え方を含む)
・Customs Act, 1962(第30条:マニフェスト遅延罰と補正、第114AA条:虚偽・重要事項の不正確記載の罰則)
・Chennai Customs:SCMTRの段階的必須化に関するPublic Notice(港別の適用日程)

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

EVバッテリーはなぜ監査で狙われるのか

取引量が伸びているだけではありません。EVバッテリーは、関税と原産地だけでなく、人権・サステナビリティ情報まで一体で問われやすい商材です。

EUでは新しい電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)が2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から全面適用が開始されました。

この規則により、2026年8月18日からは全ての電池にQRコードが義務化され、デジタル情報へのアクセスが制度として組み込まれています。

さらに、2027年2月18日からは、EVバッテリーを含む対象電池にデジタルバッテリーパスポートが義務化されます。

米国では強制労働規制(UFLPA)により、サプライチェーンの証拠提出を前提にした執行が続き、電池やエネルギー関連品目にも波及が意識されています。実際、CBPは電池の輸入に対してUFLPAに基づく留置を実施しており、原材料(リチウムイオンリン酸塩、鉛、銅、PCBAなど)の完全なリストと製造元・原産国の提示を求めています。

この結果、監査の現場は次の3点に収れんします。

  1. HS分類と課税のズレ
  2. 原産地・トレーサビリティ証拠の崩れ
  3. 製品規制・サステナ情報の未整備

以下、監査で実際に刺さりやすい順に深掘りします。

リスク1:HS分類と課税のズレ

監査で見られるポイント

EVバッテリーは、セル、モジュール、パック、BMS同梱、車載一体など形態が多様です。ここで分類が揺れると、適用税率や追加関税、統計・規制要件まで連鎖して崩れます。

実務的には、リチウムイオン電池(セルやバッテリーパック)がHS見出し8507で扱われるケースが多いこと自体は、税関裁定でも繰り返し確認されています。

ありがちな失敗パターン

商品名ベースで分類してしまう

「バッテリーモジュール」「車載用ユニット」などの呼称だけで、構成や機能を十分に裏取りせずに申告。

同一型式でも仕様差分が管理されていない

容量、電圧、保護回路、筐体、同梱品の違いで分類根拠が変わり得るのに、型番マスターが1行で固定されている。

争点が出たときに社内で説明できない

税関の見解が細部で割れることがあり、分類の理由付けを文章で残していないと防戦が苦しい。実際、税関文書でも「見出しは合うが下位区分が争点」という構図は起こり得ます。

守り方

  • 分類ドシエを1型式1枚で作る(写真、断面、構成品一覧、仕様、機能、GRIの当てはめ、代替案の棄却理由)
  • 「セル」「モジュール」「パック」「制御回路同梱」「車両への固定状態」を入力条件として固定し、型番変更時に必ず更新する
  • 輸出入国の税関裁定・注釈を定期的にウォッチし、過去根拠を上書きできる運用にする

リスク2:原産地・トレーサビリティ証拠の崩れ

監査で見られるポイント

EVバッテリーは多国籍BOMになりやすく、原産地の説明は「証明書があるか」では終わりません。どの国で何が加工され、どの部材がどこから来たかを、監査で追跡可能な形で示せるかが勝負です。

さらに米国ではUFLPAに基づき、輸入者に対してデューデリジェンス、サプライチェーンのトレース、証拠の提示を求める枠組みが明確に示されています。CBPは電池の輸入について、原材料の完全なリスト、製造元、原産国、さらに電池生産プロセスのフローチャート(鉱物採掘、スラリー調製、電極コーティングなど)を要求しています。

ありがちな失敗パターン

サプライヤー申告が「自己申告の紙1枚」で止まっている

上流までの工程・鉱物由来の説明がなく、追加照会で詰む。

BOMと物流が一致していない

設計BOMは最新だが、実際の購買先やロットの切替が反映されておらず、監査で齟齬が露呈。

リスクの高い鉱物系の説明が薄い

コバルト、リチウム、ニッケル等は人権・紛争リスクと結びついて見られやすい。国際的にはOECDの「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンス・ガイダンス」が参照されます。

守り方

  • ロット単位で「購買先」「原料由来」「精錬・加工工程」「輸送ルート」を紐づける
  • 取引先監査で聞かれる質問を先に潰す(上流サプライヤー、工程地、第三者監査、裏付けデータの所在)
  • 証拠を階層化する
    • 1次証拠:契約、BOM、製造記録、試験成績、原産地証明・供給者宣誓
    • 2次証拠:監査報告、トレーサビリティ資料、第三者検証
    • 3次証拠:公開情報、業界スキーム、リスク評価

リスク3:製品規制・サステナ情報の未整備

監査で見られるポイント

監査が税関だけで終わらないのが、EVバッテリーの難しさです。EUでは電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)が2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から全面適用が開始されました。

この規則により、バリューチェーンで使う情報を段階的にデジタル化する方向が制度として示されています。

主要なマイルストーン:

  • 2026年8月18日:全ての電池にQRコードが義務化
  • 2027年2月18日:デジタルバッテリーパスポートが、EVバッテリー、軽量輸送手段(LMT)用電池、2kWh超の産業用電池に対して義務化

さらに、電池のデューデリジェンス義務については、EUが適用時期を2年延期し、2027年8月18日まで猶予を設ける「ストップ・ザ・クロック」措置を採っています。

ここで重要なのは、延期は免除ではない点です。監査の質問はむしろ前倒しで来ます。顧客や投資家、取引先監査は「制度開始日」ではなく「準備できているか」を見ます。

ありがちな失敗パターン

データは社内に散在し、提出できる形になっていない

品質、調達、環境、法務でExcelが別々。整合確認に時間がかかり、監査期限に間に合わない。

情報の真正性を証明できない

数値はあるが、算定根拠、版管理、承認履歴がなく、監査側が信じない。

委託先や販売先との役割分担が曖昧

誰がどの情報を作り、誰が市場投入時に責任を負うのかが契約と運用で一致していない。

守り方

  • 規制対応を「データ製造」と捉え、提出物の版管理と承認フローを作る
  • バッテリー単体だけでなく、搭載製品側の表示・添付情報まで含めて責任分界を明確化する
  • 2027年に向け、パスポート相当のデータ項目を先に棚卸しし、欠損を埋める計画に落とす

監査に強い会社がやっている最短ルート

最後に、今日から着手できる現実的な順序をまとめます。

1. 分類ドシエを先に固める

分類が揺れると、原産地も規制対応も揺れます。まず分類根拠を文章化し、型番マスターに紐づけます。

2. BOMを監査用に作り直す

設計BOMではなく、購買実績とロット履歴に繋がる監査BOMにします。

3. 強制労働・人権リスクの証拠を階層化する

一度止められると、提出要求は指数関数的に増えます。最初から「出せる証拠の形」を整えます。米国CBPは、電池について原材料の完全なトレーサビリティと製造プロセスのフローチャートを要求しています。

4. サステナ情報を一元化し、提出可能な形にする

EUの動きは、電池に関する情報開示をバリューチェーンの共通言語にしていく方向です。2026年8月のQRコード義務化、2027年2月のバッテリーパスポート義務化に向けて、猶予のある今が、仕組みを作る最後のボーナスタイムです。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

中国の静かなる貿易障壁。化学品・新材料のHSコード細分化が突きつける「その他」分類の終焉


2026年2月、中国税関総署(GACC)は、輸出入管理の強化を目的として、特定の化学品および新材料に関するHSコード(統計品目番号)の細分化を実施する方針を打ち出しました。

多くの日本企業にとって、中国との化学品貿易はビジネスの生命線です。今回の措置は、単なる事務的なコード変更ではありません。それは、中国政府が戦略物資のフローをより高解像度で監視し始めたことを意味します。

本記事では、HSコードの専門家の視点から、この細分化の背景にある中国の意図と、実務担当者が直面するリスク、そしてとるべき対策について解説します。

「その他」という隠れ蓑が通用しなくなる

まず、今回の措置の技術的な側面を解説します。

貿易実務において、既存の分類に当てはまらない新しい化学物質や複合材料は、便宜上「その他のもの(Others)」と呼ばれるバスケットカテゴリー(末尾が90などのコード)に分類して申告することが一般的でした。企業にとっては、厳密な成分特定を避けられる便利な分類先でもありました。

しかし、中国当局は今回の細分化により、このバスケットカテゴリーを解体しようとしています。

具体的には、これまで一括りにされていた品目に対し、成分の含有率や分子構造、あるいは用途に基づいて、新しい固有の10桁ないしは13桁のコード(CIQコード含む)を割り当てます。これにより、企業は「その他」で逃げることができず、自社製品がピンポイントでどのコードに該当するかを、化学的なエビデンスに基づいて特定し直さなければならなくなります。

輸出管理法との連動。狙いは戦略物資の把握

なぜ今、中国はこの面倒な細分化を行うのでしょうか。その最大の動機は、国家安全保障と産業競争力の維持です。

近年、半導体材料やバッテリー素材、高機能プラスチックなどの「新材料」は、軍事転用可能なデュアルユース品目としての側面を強めています。中国政府は、これらの物資が国内にどれだけ入ってきているか、あるいは国内から流出していないかを正確に把握したいと考えています。

従来の粗いHSコードでは、汎用の化学品と、高度な戦略物質が同じ番号でカウントされてしまい、実態が見えませんでした。コードを細分化し、特定物資に固有の番号を与えることで、税関のシステム上で自動的に監視フラグを立てることが可能になります。

つまり、今回の措置は、中国輸出管理法や両用物資輸出管理条例の実効性を高めるための、システム基盤の強化であると言えます。

実務現場で起きる通関トラブルのシナリオ

この変更に伴い、日本企業の現場では以下のようなトラブルが予測されます。

旧コードでの申告却下

ある日突然、これまで通りのHSコードで申告した貨物が、中国側の通関システムでエラーとなり、受け付けられなくなるケースです。「このコードは廃止されました、あるいはこの製品には適用できません」と通告され、新しいコードへの修正を求められますが、その場で化学的な証明ができなければ、貨物は港で足止め(デマレージ)となります。

ライセンス未取得の指摘

コードが細分化された結果、自社製品が新たに割り当てられたコードが、実は「輸出入ライセンス(許可証)」が必要な規制対象コードだった、という事態です。これまでは「その他」に紛れていたため不要とされていましたが、コードが特定されたことで規制の網に掛かり、無許可輸出入として摘発されるリスクが生じます。

日本企業が直ちに行うべき3つの対策

このリスクを回避するために、化学品や素材を扱うメーカー・商社は以下の対応を急ぐ必要があります。

現地通関業者への最新コードリスト確認

まずは、中国現地の通関ブローカーや現地法人を通じて、今回細分化の対象となった具体的な品目リスト(対照表)を入手してください。そして、自社が扱っている製品がその対象に含まれていないか、CAS番号(化学物質の登録番号)レベルで照合を行う必要があります。

CIQコード(13桁)までの精緻な特定

中国の通関固有のコードであるCIQコード(HSコード10桁の後ろに付く3桁の追加コード)の動向に注意してください。法規制の要件はこのCIQコードに紐付いています。単にHSコード(上6桁や8桁)が合っているかだけでなく、末尾のコードまで正確に特定できているかが、通関の成否を分けます。

成分表(SDS)と説明書のアップデート

税関から問い合わせがあった際、即座に成分構成を説明できるよう、SDS(安全データシート)や製造工程図を最新の状態に整備してください。特に、新しいコードの定義に合致することを証明するための「成分比率」の記載が不十分だと、判定不能として処理が遅延する原因になります。

まとめ

中国によるHSコードの細分化は、貿易の透明性を高めると同時に、企業に対して高度なコンプライアンス能力を要求するものです。

「たかが番号の変更」と甘く見ていると、物流停止という深刻な経営リスクを招きます。自社の化学品が、中国の新しい分類基準のどこに位置づけられるのか。専門的な知識を持って再点検を行うことが、2026年の中国ビジネスを守る第一歩となります。

HS2028移行で始まるFTA転記作業の初期兆候

現場が混乱する前に、企業が先回りできるサインと実務手順

HS2028は、単なるHSコード改訂ではありません。関税率表や通関実務だけでなく、FTAやEPAの品目別原産地規則(PSR)や附属書、運用手続、各国の原産地証明制度まで、連鎖的に更新を促します。WCOはHS2028が2028年1月1日に発効すること、そして残りの準備期間で相関表(Correlation Tables)や解説資料の整備を進めることを明示しています。 (wcoomd.org)

問題は、FTA側の更新が各協定ごとに別のテンポで動くことです。つまり企業は、HS2028の発効日だけを見ていても間に合いません。実務の世界では、その前段階として「転記作業の初期兆候」が必ず現れます。本稿では、そのサインを具体化し、見えた瞬間に着手すべき準備を整理します。


1. FTAの転記作業とは何か

HS改訂が、PSRと附属書を動かす理由

FTAやEPAの原産地規則は、HSコードを前提に設計されています。PSRは多くの場合、HSの類、項、号のどこかを条件にして、CTC(関税分類変更基準)やRVC(付加価値基準)などを定義します。HSが改訂されると、次の問題が起きます。

・品目番号が分割、統合、移動し、旧番号のままではPSRの適用対象が曖昧になる
・附属書の品目表や脚注、例外規定が、参照先を失う
・協定上の用語定義(章、項、号など)の整合性が崩れる
・各国の原産地証明運用(検索ツール、申告様式、監査手順)に更新が必要になる

この更新は、単なる置換ではなく、協定の手続に沿って「技術的更新」または「転記(transposition)」として行われます。WCOは、HS改訂に伴う優遇原産地規則の技術的更新の進め方をガイドとして整理し、FTAsのPSR見直し対象の洗い出しにも役立つと説明しています。


2. HS2028の公式タイムラインを押さえる

企業が見るべきは発効日だけではない

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効することを明確にしています。 (wcoomd.org)
また2026年1月21日付で、HS2028改正が受け入れられ、相関表の作成など実装に向けた次の工程に入ることを公表しています。 (wcoomd.org)

さらにWCOは、準備期間に実施する中核タスクとして、HS2022とHS2028の相関表作成、HS解説資料の更新、加盟国支援を挙げています。 (wcoomd.org)

ここから読み取れる実務上の結論は一つです。
FTAの転記作業は、発効直前に突然始まるのではなく、相関表や運用資料の整備と並走して、段階的に立ち上がります。


3. 転記作業の初期兆候

兆候は、政府側と民間側の両方に出る

以下は、HS2028対応の転記が現実のタスクとして動き始めたと判断できるサインです。

3-1. 公式ツールや案内に「協定のHSバージョン差」が強調される

日本税関のPSR検索画面は、協定ごとに採用しているHSバージョンが異なり、違うバージョンで検索すると結果が誤ることがあると明示しています。さらに相関表の確認も促しています。 (税関総合情報)
こうした注意書きが強調され始めるのは、改訂期の混乱を見越して、実務者にバージョン管理を徹底させる動きが出ているサインです。

3-2. FTAの共同委員会や附属書改正で、HSベース更新が正式議題になる

転記は「協定上の手続」を通ります。典型例として、日本とインドネシアのEPAでは、PSRの附属書(Annex 2)をHS2002ベースからHS2017ベースへ更新することが改正目的として明示されています。 (mofa.go.jp)
つまり、HS改訂は実務作業ではなく、協定の改正作業として扱われるということです。HS2028でも同様に、協定ごとの手続が動き始めた瞬間が初期兆候になります。

3-3. 協定本文に「転記」の概念が明文化され、実装期限が意識される

RCEPは、HS改訂に合わせてPSRを更新するための転記手続を条文で定義し、改訂HSの発効前に協議して更新を準備し、共同委員会で採択し公表する流れを規定しています。 (世界と日本)
このような枠組みを持つ協定では、HS2028が近づくほど、共同委員会や実務会合で転記が具体議題化しやすく、企業側も早期に影響を受けます。

3-4. 相関表の議論や更新が、各国の制度改修と結びつく

WCOが相関表の開発を主要タスクとして掲げている時点で、各国はそれを前提に法令やITを更新します。 (wcoomd.org)
この段階で起きやすいのが、政府ポータルや通関システム側が「新旧コード併記」「暫定マッピング」「移行期間の扱い」を示し始めることです。これも初期兆候です。


4. 企業現場で先に起きる、もう一つの初期兆候

官報より先に、取引先とシステムが動く

HS2028の転記は政府間の話に見えますが、企業の現場では次の形で先に顕在化します。

・長期契約の更新時に、取引先からHS2028相当コードの提示を求められる
・フォワーダーや通関業者が、品目マスターの更新計画を共有してくる
・顧客監査で、PSRの適用根拠をHSバージョン付きで説明するよう求められる
・原産地証明関連の業務で、協定ごとのHS年次差がボトルネックになる

ここで重要なのは、企業が扱うFTAが複数あるほど、協定ごとにHS年次が異なる状態が長期化しやすいことです。税関も協定ごとのHSバージョン差を明確に注意喚起しています。 (税関総合情報)
つまりHS2028対応は、全社一括の切替ではなく、協定別の並走管理になる可能性が高いという前提で設計すべきです。


5. 初期兆候を見たら、最初にやるべきこと

転記が始まってから慌てないための実務順序

5-1. 自社が使う協定ごとに、参照HS年次を棚卸しする

協定ごとに採用HS年次が違うと、同じ品目でもPSRが参照するコード体系が変わります。まずは協定別に、現行運用がどのHS年次に基づいているかを一覧化します。税関もこの点を誤ると検索結果が誤る可能性を示しています。 (税関総合情報)

5-2. HS2022からHS2028へのマッピングを、業務単位で準備する

相関表はWCOが開発すると明示していますが、実務では相関表が出てから検討開始では遅れます。 (wcoomd.org)
自社の重点品目については、次の粒度で事前準備します。

・HS6での変化点を想定し、分割や統合が起きそうな品目を特定
・自社品目マスターに、旧コード、暫定新コード候補、根拠メモ欄を作る
・品目別に、分類根拠資料と原産地判定の根拠資料を結びつけておく

5-3. PSRの再判定が必要になるパターンを先に決める

転記は原則として既存PSRの趣旨を損なわずに行われますが、品目構造が変われば運用上の解釈や適用範囲の説明が難しくなることがあります。RCEPでも、転記はPSRを損なわずに行うことを求めています。 (世界と日本)
そこで、社内ルールとして次のトリガーを定義しておくと早いです。

・HS6が変わる品目は必ずPSRを再確認
・分割統合がある場合は、材料表と工程情報をセットで再レビュー
・協定の転記版PSRが出たら、旧版と差分比較を実施

5-4. 転記対応は、通関と原産地証明を分けて設計する

税関は、協定のHS年次とは別に、輸入申告は最新HSを使うべきことも示しています。 (税関総合情報)
つまり現場は、通関側は最新HS、原産地証明側は協定HSという二重管理を迫られます。これを前提に、システムと帳票の設計を先に決めることが、移行期の混乱を減らします。


6. 初期兆候を見逃すと、どこで損をするか

コスト増は関税だけではない

転記対応が遅れると、起きる損失は追加関税や否認リスクだけに留まりません。

・特恵適用の判断遅延による出荷リードタイム悪化
・監査での説明コスト増、資料再作成
・取引先からのコード整合性要求に対応できず、受注条件が不利になる
・品目マスター混乱による、社内の原価計算や購買条件の誤り

WCOのガイドも、HS改訂に合わせた原産地規則更新が、誤適用防止やリスク評価の効率化につながると述べています。
逆に言えば、更新を後追いすると、リスク評価と統制コストが上がります。


7. まとめ

HS2028の本番は、FTAの転記が動き出した瞬間から始まる

HS2028は2028年1月1日発効で、WCOは相関表や解説資料更新を含む準備期間を示しています。 (wcoomd.org)
しかし企業にとっての実質的な開始点は、次の初期兆候が見えた時です。

・協定HS年次差の注意喚起が強まる
・共同委員会や附属書改正でHS更新が正式化する
・協定条文に基づく転記手続が具体化する
・ポータルやシステムが新旧併記、移行運用を示し始める
・取引先と社内システムが先に動き、二重管理が現実になる

最も堅い戦略は、協定別のHS年次棚卸しと、重点品目のマッピング準備を先に終え、転記版PSRが出た瞬間に差分検証へ入れる体制を作ることです。これが、HS2028移行をコストではなく競争力に変える、現実的な先回りになります。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としています。個別取引におけるHS分類、特恵適用、原産地規則の判断は、協定正文、当局ガイダンス、専門家助言に基づき確認してください。

掲載記事に関するお詫びとご報告

平素は本ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。

この度、本ブログに掲載いたしました「https://global-scm.com/hscf/archives/838 」の記事内容(税関のAIシステムに関する記述)につきまして、税関当局より「公表している事実はない」とのご指摘をいただきました。

社内にて事実関係を精査いたしましたところ、当該記事は生成AI(人工知能)によって作成された仮想の情報に基づいたものであり、実在しないニュースが含まれていることが判明いたしました。情報の真偽を確認することなく、誤った情報をあたかも事実であるかのように発信してしまったことは、情報発信者として極めて不適切な行為であり、深く反省しております。

本件により、税関関係者の皆様、および読者の皆様に多大なるご迷惑とご不快な思いをさせたことを、心より深くお詫び申し上げます。

当該記事につきましては、速やかに削除いたしました。今後は外部情報の取り扱いにおいて厳格な事実確認プロセスを徹底し、二度とこのような事態を繰り返さないよう、情報精度の向上と再発防止に努めてまいる所存です。

重ねて、この度の不始末を深くお詫び申し上げます。

2024年2月4日
株式会社ロジスティック
代表取締役 嶋 正和

監査で困らないHSコード管理:監査対応に耐える3種のドシエ雛形

HSコードの見直しは、単に番号を合わせる作業ではありません。監査で問われるのは「その番号にした理由を、第三者が追跡できる形で説明できるか」です。
そのために必要なのが、結論ではなく根拠と証跡を束ねたドシエです。

本記事では、監査対応に耐えるためのドシエを3種類に分解し、雛形としてそのまま社内展開できる粒度まで深掘りします。なお、個別商品の最終判断は税関照会や専門家レビューを前提にしてください。


そもそもHSコードは何が「監査対象」になりやすいのか

HSは、世界税関機構が策定する国際的な品目分類で、6桁コードを世界標準として運用します。各国は6桁の後に自国用の細分を追加できます。(世界税関機関)
HS分類は、見出し語だけでなく、解釈ルールに従って行うことが前提です(一般解釈規則)。(世界税関機関)
さらに、分類の公式解釈の中核資料として解説書(Explanatory Notes)が位置づけられています。(世界税関機関)

日本実務で重要な注意点は「申告で使う桁数」です。日本では申告に9桁の統計品目番号を用い、上6桁は国際共通のHS、下3桁は国内細分です。輸出と輸入で国内細分が一致しない場合があります。(税関総合情報)
この「国際6桁と国内細分のズレ」や「製品仕様変更に伴う分類影響」が、監査で火種になりやすいポイントです。


監査でよく出る質問は、だいたいこの5つ

監査対応を強くするには、質問パターンを先に固定しておくのが近道です。

  1. その商品は何か(機能、材質、構造、用途、セットの有無)
  2. なぜその分類か(どの解釈ルールと注に基づくか)
  3. 競合する分類は何で、なぜ排除したか
  4. 過去から何が変わったか(仕様、用途、構成、梱包、販売形態、資料)
  5. 申告や帳簿書類にどう紐づくか(どの申告・許可番号が裏付けか)

この5つに機械的に答えられるように作るのが、次の3種ドシエです。


監査対応に耐える3種のドシエ雛形

ドシエ1:製品ファクトドシエ(事実を確定する箱)

目的は、分類の前提となる客観情報を、監査で通るレベルで固定することです。
分類の議論が揉める多くの原因は、法解釈より先に「製品の事実関係」が社内で曖昧な点にあります。

雛形:最低限の構成(そのまま章立てに使えます)

  1. 基本情報
    ・社内品番、型式、取引名、申告品名候補
    ・サプライヤー、製造者、製造国
    ・用途(業務用、一般消費者用など)
    ・販売形態(単品、セット、バンドル、同梱物)
  2. 製品の中身が分かる情報
    ・材質と配合、主要成分の割合
    ・部品構成(BOM)と各部品の役割
    ・寸法、重量、電気仕様などのスペック
    ・製造工程の要点(分類に影響する場合)
  3. 機能と動作原理
    ・何をする製品か
    ・どうやってそれを実現するか(センサー、駆動、加熱、化学反応など)
  4. 画像・図面・資料
    ・外観写真(複数アングル)
    ・断面図や構造図
    ・取扱説明書、仕様書、技術資料
    ・マーケ資料は補助扱いに留め、技術資料を主にする
  5. セット・容器・包装の情報
    ・小売用セットか、部品の寄せ集めか
    ・専用ケースや容器があるか(分類影響が出やすい領域)

監査で強い書き方のコツ

・形容詞を減らす(高性能、最新、便利ではなく、数値と構造で書く)
・用途は「実際の販売・使用実態」を優先(想定用途だけだと弱い)
・仕様変更履歴を必ず残す(いつ、何が、なぜ変わったか)


ドシエ2:分類ロジックドシエ(結論に至る道筋を固定する箱)

目的は、第三者が追試できる分類判断の再現性を作ることです。
HS分類は一般解釈規則に従い、見出し語、部注・類注などを踏まえて決定します。(世界税関機関)
また、公式解釈資料として解説書が重要視されます。(世界税関機関)

雛形:分類ロジックの章立て

  1. 対象範囲の宣言
    ・この判断がカバーするSKUの範囲(色違い、容量違い、付属品違いの扱い)
    ・判断の対象外(仕様が異なる派生品)
  2. 適用するコード体系の明示
    ・国際6桁HS
    ・日本の申告用9桁(統計品目番号)
    日本では申告に9桁を用い、6桁HSと国内3桁で構成されます。(税関総合情報)
  3. 分類の結論
    ・章、項、号、国内細分までの結論
    ・品名表現(申告品名の推奨表現)
  4. 判断プロセス(一般解釈規則に沿って書く)
    ・ルール1:見出し語と注で決まるか (世界税関機関)
    ・ルール2:未完成品、混合品、組立前等の論点があるか (世界税関機関)
    ・ルール3:競合する見出しがある場合、最も具体的、主要な特性、最後の順等で整理 (世界税関機関)
    ・ルール4:類似品での整理が必要か (世界税関機関)
    ・ルール5:ケースや包装の扱いが影響するか (世界税関機関)
    ・ルール6:号以下の決定の論理 (世界税関機関)
  5. 競合見出しの排除理由
    ・候補Aを排除する理由(注により除外、機能が異なる、材質が違う等)
    ・候補Bを排除する理由
  6. 根拠資料リスト
    ・参照した解説書、分類意見、税関公表情報、社内過去判断
    解説書は国際的な公式解釈として位置づけられています。(世界税関機関)
    日本でも分類支援資料や事前教示の公表を行っています。
  7. 変更に弱い点(監査で一番効くパート)
    ・材質が変わると分類が変わる閾値
    ・付属品や同梱でセット扱いになる条件
    ・用途の変更で見出しが変わり得る条件
    ここを先に書いておくと、仕様変更時に自動でアラートを出せます。

ドシエ3:ガバナンス・証跡ドシエ(監査での説明責任を支える箱)

目的は、個々の分類の正しさだけでなく、会社としての管理体制と証跡の連鎖を示すことです。
監査対応の勝負どころは「資料があるか」だけではなく、「会社として再発防止できる統制があるか」です。

雛形:ガバナンスの章立て

  1. 役割分担
    ・分類の一次作成(貿易管理、通関部門など)
    ・技術情報の提供責任(開発、品質、購買)
    ・最終承認(責任者)
    ・通関業者が関与する場合の境界(最終責任は誰か)
  2. 品目マスター運用ルール
    ・新規採用品の分類フロー(いつ分類し、いつマスターに登録するか)
    ・既存品の見直しトリガー(仕様変更、用途変更、セット構成変更、HS改正など)
    日本税関の統計コード運用上、輸出入で国内細分が異なることがあるため、用途別にマスターを分ける判断も現実的です。(税関総合情報)
  3. 証跡と申告の紐づけルール
    日本の制度では、輸入者等に帳簿書類の保存義務があります。輸入では帳簿7年、書類5年、電子取引情報5年が基本です。
    さらに、帳簿の記載事項と書類の関係が明らかになるよう整理して保存することが求められます(許可書番号などで紐づける考え方)。
    ドシエ3には、次の紐づけ仕様を明文化して入れます。
    ・社内品番 と 申告統計品目番号 の対応
    ・社内品番 と 輸入許可情報 の対応
    ・許可書番号 と インボイス、契約書、BOM、ドシエ一式 の対応
  4. 監査対応手順(当日の動きまで決める)
    ・事前通知が来たら誰が窓口か
    ・何日分の申告を、どの粒度で出せるか
    ・質問への回答テンプレート(事実、判断、証拠、影響範囲、是正案)

輸入事後調査では、帳簿書類等の提示・提出を求められることがあり、正当な理由なく拒否等をすると罰則が科され得る旨が説明されています。
このため、ドシエ3は「出せる状態」を維持するのが核心です。

  1. 文書管理
    ・版管理(作成日、改定日、改定理由、承認者)
    ・保管場所(電子保管の場合のルール)
    ・保存期間(社内規程を関税法上の期間に合わせる)

3種ドシエを最短で立ち上げる手順

一気に全品目を完璧にしようとすると止まります。ビジネス向けには、リスクベースで回すのが現実解です。

  1. 対象選定
    ・関税額が大きい品目
    ・分類が揺れやすい品目(複合材、セット品、用途が幅広いもの)
    ・過去に修正申告や指摘があった領域
  2. ドシエ1を先に作る
    分類会議の前に、開発や購買からファクトを回収して確定させる。ここが最重要です。
  3. ドシエ2で判断を固定
    一般解釈規則の順に、競合見出しの排除理由まで書き切る。(世界税関機関)
  4. ドシエ3で運用に落とす
    マスター登録、変更管理、保存、監査対応の導線を決める。保存義務と紐づけ要件は外せません。
  5. 年次の見直しをスケジュール化
    HSは定期的に改正されます。運用としては、年次で棚卸しの枠を確保しておくと事故が減ります。(世界税関機関)

監査対応の最終兵器:事前教示をどう組み込むか

分類が難しい品目や金額影響が大きい品目では、税関への事前教示(書面回答)を戦略的に使うべきです。
事前教示は、輸入前に関税分類と税率等について照会し、回答を得られる制度で、回答書の添付により審査で尊重される旨が示されています。有効期間は3年です。
また、日本税関は文書による事前教示回答を原則公開し、品名や番号等で検索できる形にしています(非公開期間は最長180日)。

ドシエへの組み込み方はシンプルです。
・ドシエ2の根拠資料として回答書を格納
・ドシエ3に、回答書の有効期限管理と再照会トリガーを登録
・品目マスターに、回答書の参照番号と版を持たせる

これで、監査での説明は格段に短くなります。


文章校正後のまとめ

監査対応に強いHSコード管理は、個人の経験や通関会社任せでは成立しません。
製品の事実を固める箱、分類ロジックを再現できる箱、統制と証跡の連鎖を示す箱。この3つに分けてドシエ化すると、監査対応は仕組みに変わります。

まずは、関税影響が大きい上位品目から、ドシエ1と2を作り、最後にドシエ3で運用を固定してください。保存期間と紐づけの要件を最初から満たしておくことが、監査での最大の防御になります。

2028年の関税ショックを回避せよ。日EU・EPA「HS読み替え指針」が示す実務の解


2026年2月4日、日本と欧州連合(EU)の貿易当局間で進められていたある重要な協議の実質的な合意が報じられました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)に向けて、日EU・EPAの運用ルールをどう適応させるかという運用ガイドラインの第一案がまとまったというニュースです。

これは、多くの貿易実務家が2028年問題として懸念していた、申告コードと協定ルールの不整合による混乱を未然に防ぐための処方箋です。

本記事では、FTAの専門家の視点から、このガイドラインが示された背景にある構造的な課題と、企業が2028年に向けて構築すべき二重管理体制について深掘り解説します。

なぜ2028年に原産地証明が止まる恐れがあったのか

まず、この問題の核心である協定の硬直性とHSコードの流動性のギャップについて整理します。

2019年に発効した日EU・EPAは、その原産地規則(製品が日本産か欧州産かを判定するルール)の基準として、2017年版のHSコード(HS 2017)を採用しています。条文に書かれている品目番号や関税分類変更基準(CTC)は、すべて2017年当時の世界に基づいています。

しかし、貿易の現場で使われるHSコードは5年ごとに改正されます。2022年の改正を経て、次は2028年1月1日に大規模な改正が行われます。

ここで生じるのが、輸入申告書には最新の2028年版コードを書かなければならないのに、特恵関税を適用するためのルールブックは2017年版のままという矛盾です。もし、ある製品のコードが改正で変更されていた場合、どのルールを適用すればよいのかが不明確になり、最悪の場合、原産地証明書の不備として関税優遇が否認されるリスクがありました。

魔法の辞書、相関表の公式化

今回まとまったガイドラインの核となるのは、相関表(Correlation Table)の公式な導入です。

本来、新しいHSコードに対応するためには、協定の条文そのものを書き換える転換(Transposition)という手続きが理想ですが、これには膨大な時間と法的承認プロセスが必要です。そこで当局は、条文は書き換えずに、読み替えのための辞書を用意するという現実的な解決策を選びました。

相関表の役割

この公式相関表は、HS 2028のコードとHS 2017のコードを紐付ける変換テーブルです。

例えば、HS 2028で新設されたある化学品のコードが、HS 2017ではどのコードに該当していたのかを一対一、あるいは一対多で定義します。企業はこの表を参照することで、最新のコードで申告しつつ、裏側では正しい旧コードの原産地規則を適用することが可能になります。

ガイドライン案では、この相関表を日EU双方の税関が公式な判定基準として認めることが明記される見込みです。これにより、企業は独自の解釈ではなく、当局のお墨付きを得た変換ロジックに基づいて業務を行うことができます。

企業に求められるHSコードの二重管理

このニュースは朗報ですが、同時に企業に対して高度なデータ管理を求めています。それは、通関用コードと原産地判定用コードの完全な分離管理です。

2028年の実務フロー

これまでは、インボイスに記載するHSコードが決まれば、そのままそのコードの原産地規則を確認すれば済みました。しかし、2028年以降のEPA活用プロセスは以下のようになります。

  1. 通関用コードの特定:製品のスペックに基づき、最新のHS 2028コードを決定する。(輸入申告用)
  2. 相関表の参照:ガイドラインに基づき、そのコードに対応するHS 2017コードを特定する。
  3. 原産地規則の適用:特定されたHS 2017コードに基づき、協定上のルール(関税分類変更基準や付加価値基準)を満たしているか判定する。

もし、自社のシステムが最新のHSコードしか保持できない仕様になっている場合、このプロセスに対応できません。

落とし穴となるみなし変更

特に注意が必要なのは、HSコードの項番(上4桁)が変わるような改正があった場合です。

例えば、技術革新により製品の機能定義が変わり、第84類から第85類へ移動した場合、最新コードだけを見ていると関税分類変更基準(CTH)を満たしているように見えるかもしれません。しかし、2017年版のコードに引き直すと実は項番が変わっていない(変更基準を満たさない)というケースが発生し得ます。

このような意図しないミスを防ぐためにも、公式相関表を用いたロジックチェックは必須となります。

まとめ

日EU・EPAの運用ガイドライン第一案の策定は、2028年の貿易実務における交通整理が始まったことを意味します。

FTAの専門家として助言できることは一つです。2028年になってから慌てて相関表を見るのではなく、今のうちから自社の製品マスタにEPA判定用(HS 2017)という固定フィールドを設け、最新コードとは切り離して管理できる体制を整えておくことです。

過去のルールを正しく参照し続ける能力こそが、未来の関税削減メリットを確実に享受するための鍵となります。

培養肉は「肉」か「食品」か。米国CBPが下した分類決着とフードテックへの衝撃


2026年2月4日、米国の税関・国境警備局(CBP)は、急速に商業化が進むラボ肉(培養肉)の輸入実務におけるHSコード分類基準について、暫定的な決定を下しました。

これは、食品業界における長年の哲学的かつ実務的な問いである「細胞培養で作られた肉は、関税法上の肉(Meat)なのか」という論争に対し、世界で初めて貿易大国が明確な解釈指針を示した歴史的なニュースです。

本記事では、HSコードの専門家として、この決定が意味する「関税の境界線」と、フードテック企業が直面する新たなビジネスルールについて深掘り解説します。

第2類の壁。なぜ「肉」として扱われないのか

まず、この問題の核心にある関税率表(HSコード)の構造的な定義について解説します。

我々が普段スーパーマーケットで買う牛肉や豚肉は、HSコードの「第2類(肉及び食用のくず肉)」に分類されます。しかし、この第2類の解説には、伝統的に「と畜(Slaughter)」というプロセスを経ていることが前提とされてきました。つまり、生きている動物を屠殺して得られたものが「肉」であるという定義です。

一方で、培養肉はバイオリアクターの中で細胞を増殖させて作られます。動物を殺すプロセスが存在しません。

今回、CBPが示した基準の骨子は、この製造工程の違いを厳格に適用するというものです。つまり、生物学的には肉と同じ組成であっても、関税法上は伝統的な第2類の「肉」とは区別し、第21類(その他の調製食料品)、あるいはその成分構成によっては**第16類(肉の調製品)**の特殊な項へと分類する方向性を示しました。

これは、「見た目や味が肉であれば肉とする」という機能重視の考え方ではなく、「どのように作られたか」というプロセス重視の基準をCBPが採用したことを意味します。

関税率と輸入枠に生じる巨大なギャップ

この分類の違いは、単なるコード番号の違いではありません。企業の利益率を左右する関税率と輸入割当(クオータ)に直結します。

牛肉セーフガードの対象外になる可能性

もし培養肉が第2類の「牛肉」として分類されれば、既存の牛肉輸入枠(低関税枠)を巡って、伝統的な畜産農家や食肉商社との激しい枠取り合戦に巻き込まれることになります。また、輸入急増時に発動されるセーフガード(緊急輸入制限)の対象にもなります。

しかし、今回のように第21類(調製食料品)などの別枠として扱われることになれば、これらの伝統的な牛肉規制の対象外となる可能性があります。これは、輸出企業にとっては、厳しい輸入数量制限を回避し、自由な数量を米国市場に投入できるという巨大なメリットになり得ます。

関税率の予見可能性

一方で、第21類は「その他」の食品が入るカテゴリであり、品目によっては高い関税率が設定されている場合もあります。今回のCBPの暫定決定により、培養肉に対する具体的な税率が固定されることになります。これまで「いくらの関税がかかるか分からないから輸出できない」と足踏みしていたフードテック企業にとって、事業計画(PL)が引けるようになったことは大きな前進です。

ラベル表示規制との複雑なねじれ

ビジネスマンが注意すべきは、この税関の決定が、国内販売時の表示ルール(FDA/USDA管轄)とは必ずしも一致しないという点です。

米国内の食品表示規制では、消費者の誤認を防ぐために「Cultivated Chicken(培養鶏肉)」といった表示が義務付けられていますが、あくまで「肉」の一種として扱われる傾向にあります。

しかし、貿易の入り口(税関)では「肉ではない(第2類ではない)」として処理され、国内に入った瞬間に「肉」として流通する。このような「ねじれ現象」が発生することになります。

輸入担当者は、インボイス上の品名記述(Description)において、税関用のHSコード分類根拠となる「細胞培養由来であること」を明確にしつつ、販売用のパッケージには食品表示法に適合した記載を行うという、高度な整合性管理が求められます。

まとめ

米国CBPによる培養肉の分類基準決定は、フードテックという新しい産業を、既存の貿易ルールの中に無理やり押し込むのではなく、新しい枠組みで管理しようとする現実的なアプローチです。

この決定は、培養肉が「農産物」ではなく「工業製品」に近い扱いを受ける時代の幕開けとも言えます。関連企業は、自社製品の成分と製造プロセスをHSコードの視点から再定義し、最も有利かつコンプライアンスに則った輸入戦略を構築する時期に来ています。