第2章:分類に必要な商品情報の集め方

2-1 この章のゴール

この章では、HSコード分類に必要な商品情報を、抜け漏れなく集める方法を身につけます。 HS分類は、調べ方以前に、材料が揃っていないと正しくできません。逆に言えば、情報の集め方さえ型にすれば、分類の精度は大きく安定します。 この章を終えると、次のことができるようになります。

1 分類に必要な情報の項目を説明できる

2 社内やサプライヤーに、迷いなく質問できる

3 情報の信頼性を確認し、根拠として残せる

2-2 商品名だけでは分類できない理由

初心者が最初にぶつかる壁は、カタログ名や通称では分類できないことです。 たとえば「センサー」「フィルター」「アダプタ」「ユニット」「モジュール」は、名前だけでは範囲が広すぎます。同じ呼び名でも、材質や原理、用途で別の類や項に分かれることが珍しくありません。 HS分類で必要なのは、呼び名ではなく、次のような客観情報です。

1 何でできているか(材質、組成)

2 何をするものか(機能、用途)

3 どう作られ、どの段階の製品か(加工度、完成度)

4 どういう形で提供されるか(形状、包装、セット構成)

2-3 まず揃える基本情報 分類のための10項目

どんな商品でも、まずこの10項目を揃えると、分類の道筋が見えやすくなります。

1 品名と型番

社内呼称、取引先呼称、型番、シリーズ名を整理します。呼称が複数ある場合は併記します。

2 用途

誰が、どこで、何のために使うか。最終用途だけでなく、現場用途も確認します。

3 機能

何をする装置か、何の働きをする材料か。測る、記録する、加熱する、固定する、遮断するなど、動詞で言える形にします。

4 動作原理

電気、光学、化学反応、機械的作用など、原理を一言で説明できるようにします。特に機械・電気品では分岐点になります。

5 材質と組成

主材質、混合比、コーティング、含有量など。化学品や複合材料はここが中心になります。

6 構造と形状

寸法、断面、層構造、中空か固体か、可とう性の有無など。金属製品、プラスチック製品、繊維製品では重要です。

7 加工度と製造工程

粉末、ペレット、板、成形品、加工品、組立品など、どこまで加工されているか。未完成品、未組立品もここに含みます。

8 包装形態と単位

液体か固体か、容量や重量、バルクか小分けか。小売用包装か、工業用か。食品や化学品で分岐点になります。

9 セット構成や付属品の有無

単体か、セットか。複合品なら構成要素と比率、価値、役割を把握します。

10 取り付け先、組み込み先

部品の場合は必須です。どの機械や装置のための部品か、専用か汎用か、交換部品かを確認します。

2-4 分野別に追加で必要になりやすい情報

基本10項目に加えて、分野によって追加情報が必要になります。

1 化学品

CAS番号、SDSの組成欄、危険有害性、用途、濃度、溶媒の種類、物性(粘度、引火点など)

2 プラスチック、ゴム

樹脂名、単量体、補強材の有無、発泡か非発泡か、硬度、成形方法、使用温度帯

3 繊維

繊維組成比、織り方、編み方、不織布か、目付、用途(衣料か産業資材か)、コーティングの有無

4 食品

原材料、加工工程、加糖の有無、加熱や発酵の有無、保存方法、用途(飲料、調味料、加工食品など)

5 機械、電気、電子

主機能、制御の有無、通信の有無、センサーや計測の有無、主要部品、出力、規格(電圧、周波数)、単体機器かシステム部材か

2-5 情報源をどう集めるか 使う資料の優先順位

情報は、口頭説明だけに頼らず、文書で裏付けるのが基本です。代表的な情報源は次のとおりです。

1 仕様書、データシート

機能、規格、材料、型番がまとまっています。最新版かどうかを必ず確認します。

2 SDS

化学品や材料では最重要です。組成欄と用途欄が特に重要です。

3 図面、断面図、組立図

形状、構造、取り付け方法が分かります。部品分類の精度が上がります。

4 BOM、部品表

構成要素と材料が分かります。セット品や複合品の整理に有効です。

5 取扱説明書、作業手順書

実際の用途と使用条件が分かります。想定用途の誤解を防ぎます。

6 現物写真、ラベル、包装表示

形状や表示情報が分かります。写真だけで判断せず、他資料と突き合わせます。

2-6 社内ヒアリングのコツ 質問の仕方で精度が決まる

情報が足りないときは、関係部署に追加確認します。質問は、次の原則で行うと回答の質が上がります。

1 目的を伝える

HS分類に必要で、申告や関税、規制に影響するためと先に言います。

2 選択肢を出す

たとえば「樹脂はABSですか、PCですか」のように、答えやすい形にします。

3 動詞で聞く

何をするのか、どう使うのかを動詞で聞くと、用途と機能が整理されます。

4 比較対象を置く

「これは部品として専用ですか、それとも汎用部材ですか」のように分岐点を示します。

2-7 情報の信頼性チェック よくある食い違いを潰す

集めた情報は、そのまま信じるのではなく、整合性を確認します。特に次の食い違いが起きやすいです。

1 営業資料と技術資料の差

営業は用途が広めに書かれ、技術は仕様が厳密になりやすいです。分類では技術情報を優先します。

2 古い版の資料

型番は同じでも材質変更や仕様変更があることがあります。改訂日を確認します。

3 主材質と副資材の誤認

見た目の外装材だけで判断すると誤ります。重量比や機能上の中心を確認します。

4 セット構成の見落とし

付属品が標準同梱か、オプションかで扱いが変わることがあります。

2-8 情報が揃わないときの進め方

現場では、最初から情報が完璧に揃うことは多くありません。その場合は、結論を急がず、手順でリスクを減らします。

1 不足情報リストを作る

何が分からないと分類が確定できないかを短文で列挙します。

2 仮置きの前提を明確にする

仮に分類する場合は、前提条件を必ず書きます。前提が崩れたら再分類が必要になります。

3 影響が大きい論点を優先して確認する

材質、用途、完成度、部品の専用性は影響が大きいので優先順位を上げます。

4 確度を管理する

確定、ほぼ確定、要追加確認のように状態を分け、社内で共有できるようにします。

2-9 集めた情報は根拠として残す

分類は、当てた瞬間で終わりではありません。後日説明できる形で残すことが、実務では同じくらい重要です。 最低限、次を残します。

1 商品情報の要点(用途、機能、材質、構造、完成度)

2 参照した資料(仕様書、SDS、図面など)と版情報

3 不明点と前提条件

4 分類の結論と、どの情報が決め手になったか

2-10 第2章のまとめ

分類の精度は、商品名ではなく客観情報の質で決まる。 まず基本10項目を揃え、分野別の追加情報で補強する。 仕様書、SDS、図面などの文書で裏付け、版と整合性を確認する。 情報が揃わないときは、不足情報と前提を明確にして確度を管理する。 次章では、集めた情報を使って、分類を最短ルートで進める手順の型を学びます。

AI時代の通関コンプライアンス。CBPが示す「自動化と法的責任」の境界線

2026年2月12日

物流DXの進展に伴い、HSコード(統計品目番号)の特定や関税率の計算に人工知能(AI)を活用する企業が急増しています。膨大な商品データを瞬時に処理し、最適なコードを提案してくれるAIツールは、業務効率化の強力な武器です。

しかし、米国税関・国境警備局(CBP)などの税関当局は、こうした技術導入を歓迎しつつも、コンプライアンスの観点から重要な警告を発し続けています。それは、どれほど高度なAIを使用したとしても、誤った申告に対する法的責任は100パーセント輸入者にあるという原則です。

本稿では、CBPが提示するAIガバナンスの指針を紐解き、AIツールと共存しながらリスクを管理するための実務ポイントを解説します。

技術は進化しても「輸入者の責任」は変わらない

AI導入にあたって最も理解しておくべきは、責任の所在です。CBPは、AI活用に関する指針(Directive 1450-030など)やIT戦略において、技術はあくまで人間の意思決定を支援するものであり、法的責任を代替するものではないと明記しています。

税関近代化法が定める「合理的な注意」とは

米国の通関実務には、1993年の税関近代化法(Mod Act)によって定められた合理的な注意(Reasonable Care)という概念があります。これは、輸入者が自らの責任において、貨物の分類、評価、原産地を正しく申告するために最大限の努力を払わなければならないという法的義務です。

CBPのスタンスは明確です。AIツールが提示したHSコードをそのまま使用して誤申告が発生した場合、輸入者は合理的な注意を怠ったとみなされる可能性があります。「AIがそう判定したから」という理由は、過失(Negligence)の免責事由にはなりません。むしろ、検証なしに自動化ツールに依存することは、注意義務違反のリスクを高める行為と捉えられかねません。

AIの判断ミスは「過失」とみなされるリスク

AIツール、特に機械学習や生成AIを用いたモデルは、過去のデータに基づいて確率論的に最もらしい答えを導き出します。しかし、貿易の世界では、わずかな材質の違いや用途の差でHSコードが変わり、関税率が大きく変動することが日常茶飯事です。

ブラックボックス化する判定プロセスへの懸念

AIのリスクの一つは、なぜそのコードを選んだのかという根拠が不明瞭になりがちな点です。税関事後調査(監査)において、調査官からHSコードの選定根拠を求められた際、「システムが自動出力した」としか答えられない場合、企業は説明責任を果たしていないと判断されます。

CBPはAIの透明性と説明責任(Accountability)を重視しており、人間が理解できないブラックボックスな判定プロセスに依存すること自体をコンプライアンス上のリスク要因としています。

実務担当者が構築すべき「Human-in-the-loop」体制

では、企業はAIツールをどのように活用すべきなのでしょうか。CBPや世界税関機構(WCO)が推奨しているのが、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)、つまり人間が関与するプロセスの構築です。

AIを「相棒」にし、人間が「責任者」になる

具体的には、以下の3つのステップを業務フローに組み込むことが推奨されます。

AIによる一次スクリーニング

AIツールを使用して、HSコードの候補を絞り込みます。ここで提示されたコードはあくまで「提案」として扱います。

専門家による最終検証

通関士や社内の専門知識を持つ担当者が、AIの提案したコードが最新の関税率表(HTS)や解説、過去の分類事例(Rulings)と整合しているかを確認します。

判断根拠の記録

最終的にそのコードを採用した理由を、AIのログではなく、人間の言葉で記録に残します。これが将来の監査に対する強力な防御となります。

まとめ

AIは貿易実務を効率化する素晴らしい技術ですが、それは「魔法の杖」ではありません。CBPによる指針は、技術が進歩すればするほど、それを使う人間のプロフェッショナリズムと法的責任が問われることを示唆しています。

自動化の波に乗り遅れないためには、AI任せにするのではなく、AIを使いこなすためのガバナンス体制を社内に確立することが、これからの貿易担当者に求められる最大のスキルとなるでしょう。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。