EV電池と車部品は、もう準備では遅い

既存規則から見える即対応項目を、事業判断に落とし込む

EV関連ビジネスで本当に怖いのは、将来の規制強化そのものではありません。むしろ厄介なのは、すでに成立している規則や、施行日が明確に見えている義務を「まだ先の話」と誤解したまま、社内データや取引条件が追いついていない状態です。EU電池規則はすでに適用が始まっており、一部の義務は2024年から動き、2025年、2027年に向けて実務要件がさらに具体化します。自動車部品側でも、REACH、SCIP、ELV指令のような既存ルールが、部品表、含有化学物質管理、解体情報、サプライヤー証憑の持ち方を直接左右しています。いま必要なのは、新しいニュースを追いかけることより、既存規則を前提に社内の管理単位を作り替えることです。 (EUR-Lex)

本稿では、EV電池と車部品について、既存規則から逆算して見える「即対応項目」を、経営者、事業責任者、営業企画、調達、品質保証、法務の共通言語として整理します。結論を先に言えば、勝負どころは法令の読解量ではなく、製品マスタ、部品階層、証憑回収、サプライヤー契約、欧州向け登録と表示の運用を、どれだけ早く一つの流れに統合できるかです。 (EUR-Lex)

1. まず押さえるべき現実

既存規則は、すでに事業オペレーションを要求している

EU電池規則は、規則そのものとして2024年2月18日から適用が始まっており、さらに2024年8月18日からは一部の技術情報やバッテリーマネジメントシステム関連の義務が動きました。加えて、2025年8月18日からは拡大生産者責任に関する章が適用され、2027年2月18日からはQRコード表示や、一定の電池に対するバッテリーパスポートが求められます。つまり、これは「将来の構想」ではなく、時差をもって順次効いてくる既存法です。 (EUR-Lex)

しかも、この規則の対象は電池単体だけではありません。製造者、輸入者、販売業者それぞれに市場投入前の確認義務があり、適合していない電池は市場に出してはいけません。輸入者は、適合性評価、技術文書、EU適合宣言、表示、説明書や安全情報の言語対応などを確認し、EU適合宣言を10年間保管する義務を負います。販売業者も、CE表示や必要ラベル、添付文書、そして生産者登録の有無などを確認する必要があります。営業が売ってから品質保証が拾う、という従来型の社内分業では間に合わない構造です。 (EUR-Lex)

車部品側でも事情は同じです。REACHでは、候補リスト収載の高懸念物質が成形品に重量比0.1パーセントを超えて含まれる場合、受領者には十分な情報の提供が必要で、消費者から求められた場合は無償で45日以内に回答しなければなりません。SCIP届出は2021年1月5日から始まっており、EU市場に出す成形品が対象になります。つまり、自社が完成車メーカーでなくても、部品サプライヤーや商社の段階から、成形品単位で情報を保持していることが前提です。 (EUR-Lex)

2. 即対応の第一歩

製品を「売り物」ではなく「規制単位」で持ち直す

多くの企業で最初につまずくのは、社内の製品マスタが営業品番中心で作られており、規制が求める単位と一致していないことです。EU電池規則では、EV電池、軽輸送手段用電池、2キロワット時超の産業用電池など、義務のかかり方が区分ごとに異なります。一方でREACHとSCIPは、完成品全体だけではなく、成形品の概念に沿って判断されます。ELV指令の重金属制限は、均質材料中の濃度上限や適用除外の考え方に基づいて管理されます。実務上は、製品マスタを販売SKUで終わらせず、電池区分、部品、サブアセンブリ、成形品、均質材料という複数階層で引き直す必要があります。 (EUR-Lex)

この整理をしないまま規制対応を進めると、社内では「資料はあるのに答えられない」状態になります。例えば、営業は完成品としての説明資料を持っていても、顧客が要求するのはセル、モジュール、パック単位の電池情報かもしれません。品質保証は成分表を持っていても、REACHの問い合わせに必要なのは成形品単位での高懸念物質情報かもしれません。法務が契約条項を更新しても、購買システム側で証憑提出を必須化していなければ、運用は止まりません。したがって最初の即対応は、法改正の監視より先に、規制単位でのデータ設計をやり直すことです。これは法務案件というより、事業基盤の再設計です。 この段落の後半は、前段の法令要件から導く実務上の整理です。 (EUR-Lex)

3. 車部品で先に火が付く論点

含有化学物質管理を、部品表の添付資料から経営管理項目へ変える

REACHの実務で見落とされやすいのは、情報提供義務が候補リスト物質を含む成形品ごとにかかることです。ECHAは、複合製品についても、0.1パーセント基準を各成形品に適用する考え方を示しており、SCIP届出義務もこれと連動して運用されています。つまり、完成品レベルで一括して「該当なし」と管理するやり方は、部品構造が複雑な自動車関連では脆弱です。特にコネクタ、ワイヤーハーネス、樹脂部材、表面処理品、電子部品は、候補リスト更新のたびに影響を受けやすいため、サプライヤーからの定期的な更新取得を標準化する必要があります。 (EUR-Lex)

ELV指令も、単なる廃車規制ではありません。車両に使用される材料や部品について、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの使用を原則禁止し、例外は附属書で限定されています。附属書の濃度上限は、均質材料中で鉛、水銀、六価クロムが0.1パーセント、カドミウムが0.01パーセントと整理されています。ここで重要なのは、禁止物質の有無を完成部品単位で曖昧に把握するのではなく、均質材料や表面処理レベルまでさかのぼって証憑を取れることです。営業現場では「RoHSは取っているので大丈夫」という誤解が起きがちですが、ELVはELVとして別管理が必要です。 (EUR-Lex)

さらにELV指令では、再使用や回収を容易にするための部品・材料の識別や、解体情報の提供も要求されています。新車種を市場に出してから6か月以内に、解体事業者が環境上重要な部品や材料の位置を把握できる情報を提供することが求められています。ここから分かるのは、設計、サービス、アフター、リサイクルを分断したままでは対応できないということです。部品メーカーにとっても、自社単体の適合だけでなく、完成車メーカーが必要とする解体情報に組み込める粒度でデータを渡せることが競争力になります。 (EUR-Lex)

4. EV電池で本当に急ぐべき論点

技術文書、性能情報、BMSデータ、表示を別々に持たない

EU電池規則では、製造者は市場投入前に技術文書を整え、適合性評価を実施しなければなりません。そして2024年8月18日から、再充電可能な2キロワット時超の産業用電池、軽輸送手段用電池、EV電池については、電気化学的性能および耐久性に関する値を含む文書の添付が求められています。さらに同日から、EV電池などについて、バッテリーマネジメントシステム内に健全性や期待寿命を判断するための最新データを含めることが求められています。ここで重要なのは、性能データを営業資料、型式資料、BMS、品質試験報告書に分散させないことです。あとでバッテリーパスポートに接続することを考えると、いま必要なのは一元化されたデータ辞書です。 (EUR-Lex)

表示面でも先送りは危険です。2025年8月18日から、すべての電池に分別回収シンボルの表示が必要になり、2027年2月18日からは、すべての電池にQRコード表示が求められます。加えて、同じ2027年2月18日から、軽輸送手段用電池、2キロワット時超の産業用電池、EV電池にはバッテリーパスポートが必要になります。バッテリーパスポートは、固有識別子にひもづいた電子記録で、経済事業者は情報の正確性、完全性、最新性を確保する責任を負います。したがって、2027年になってからシステムを探し始めるのでは遅く、2026年のうちに識別子設計、データオーナー、更新権限、監査ログのルールを固めておく必要があります。 (EUR-Lex)

5. 2025年8月18日をどう見るか

欧州販売では、登録と回収責任の運用開始点になる

EU電池規則の第8章、すなわち拡大生産者責任に関する枠組みは、2025年8月18日から適用されています。加盟国は生産者登録簿を整備し、生産者は電池を初めて市場に供給する加盟国ごとに登録する必要があります。販売業者には、生産者が適切に登録されていることの確認義務もあります。これは、単に法務が規則を読んで終わる話ではなく、欧州向け販売スキームそのものに影響します。誰が生産者に当たるのか、どの法人が登録主体なのか、代理人を使うのか、商流と表示責任をどう一致させるのかを、販売開始前に整理しなければなりません。 (EUR-Lex)

ここで企業がつまずくのは、輸出契約上の売主と、規則上の責任主体が一致していないケースです。例えば、日本本社が契約主体でも、EU域内の輸入者が別会社であれば、誰がどの登録と証憑保持を担うのかを明文化しないと、販売開始後に齟齬が出ます。これは法令本文にそのまま書いてあるというより、製造者、輸入者、販売業者の責任分担と生産者登録制度を踏まえた実務上の必然です。今すぐやるべきなのは、欧州向け商流図に、登録責任、ラベル責任、適合宣言保管責任を重ねて描くことです。 この段落は、法令上の役割分担から導く実務整理です。 (EUR-Lex)

6. 見落としやすいが、物流で止まる論点

UN38.3の試験要約は、営業書類ではなく出荷必須情報として扱う

リチウム電池を輸送に供する場合、国連の試験基準であるUN Manual of Tests and Criteria Section 38.3に基づく試験を通過していることが前提になります。米国PHMSAは、リチウムセルおよびリチウム電池について、輸送に供するにはSection 38.3の設計試験に合格していなければならず、2022年1月21日以降は、製造者が試験要約を要請に応じて提供できるようにしておく必要があると案内しています。国際物流では、この情報の取得が遅れるだけでフォワーダー、顧客、倉庫、航空会社とのやり取りが滞ることがあります。EV用途の電池や部品内蔵電池では特に、型式認証資料と輸送証憑を別管理せず、受注時点で引ける状態にしておくべきです。 (パイプラインおよび危険物安全管理局)

この論点は、法務や品質保証の守備範囲に見えて、実際には売上計上時期に直結します。規制違反でなくても、必要情報が出荷時に引けなければ出せないからです。したがって営業管理上は、受注可否判定の時点で、UN38.3試験要約、電池区分、梱包条件、危険物表示要否をチェックリスト化し、物流部門だけに押し込まないことが重要です。これは前段の輸送要件から導く業務設計上の提案です。 (パイプラインおよび危険物安全管理局)

7. 「まだ先」のようで実は先送りできない論点

炭素フットプリント、再生材、デューディリジェンスは、今の契約で差がつく

EV電池に関する炭素フットプリント制度は、親規則の中で段階的な適用時期がすでに設計されています。EV電池については、炭素フットプリント宣言、性能クラス、将来的な最大しきい値という順に進む構造で、適用日には関連する委任法令や実施法令の成立日との連動条件が付いています。つまり、細目がすべて出そろうまで完全放置してよいわけではありません。いま必要なのは、セル、モジュール、パック、主要原料、製造拠点、輸送条件、使用電力など、将来の算定に必要なデータがどこにあるかを洗い出し、サプライヤー契約で回収可能にしておくことです。前半は規則上の制度設計、後半はそこから導く実務対応です。 (EUR-Lex)

廃電池の再資源化側でも、制度は具体化しています。欧州委員会は2025年7月4日、廃電池からのリサイクル効率や材料回収率の計算・検証方法に関する新ルールを公表し、2025年7月24日に発効したと説明しています。これは、将来の再生材比率や資源循環説明において、回収事業者からどの粒度の証憑を受け取るべきかを具体化する方向です。部材調達側から見れば、再資源化事業者との契約で、回収率算定根拠、検証文書、第三者確認の有無をどう求めるかが重要になります。 (Environment)

デューディリジェンスについても誤解は禁物です。EU電池規則は、コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルを対象にした電池デューディリジェンス義務を定めていますが、その適用開始日は、2025年の改正規則によって当初予定の2025年8月18日から2027年8月18日に延期されました。さらに、委員会が出すガイドライン期限も2026年7月26日に改められています。これは「義務が消えた」という意味ではなく、「残り時間を使って、原料トレーサビリティと契約条項を整備せよ」というメッセージに近いと見るべきです。 (EUR-Lex)

8. 経営者が90日でやるべきこと

ルール対応を、部門横断の運用設計に落とす

最初の30日でやるべきことは、対象製品の棚卸しです。EV電池、軽輸送手段用電池、2キロワット時超の産業用電池、電池内蔵部品、EU向け成形品を切り分け、どの法令がどの製品にかかるかを一覧にします。同時に、製品マスタを販売品番だけでなく、部品、成形品、均質材料、電池区分にひもづけて整理し、どの情報が欠けているかを見える化します。これは本稿で整理した法令要件から逆算した初動設計です。 (EUR-Lex)

次の30日では、証憑回収の仕組みを変えます。具体的には、サプライヤーに対して、REACH候補リスト情報、SCIP関連情報、ELV該否、電池性能情報、BMS関連データ、UN38.3試験要約、将来の炭素フットプリント計算に必要な基礎データの提出様式を統一します。既存の品質協定や購買基本契約に、更新頻度、虚偽申告時の是正、監査協力、再委託先まで含めた情報提供義務を盛り込むのが有効です。前半は法令上の必要情報、後半はその実装策です。 (EUR-Lex)

最後の30日では、欧州向け販売オペレーションを確定させます。誰が生産者登録を担うのか、誰が適合宣言を保管するのか、表示データは誰が更新するのか、QRコードと将来のバッテリーパスポートに接続する識別子はどう設計するのかを、商流ごとに決めます。ここまで進めば、規制対応は単発の法務案件ではなく、営業、調達、品質、情報システムが連動する業務基盤になります。これは各義務主体と今後の表示義務から導く実務ロードマップです。 (EUR-Lex)

9. まとめ

競争優位は、法令知識より「答えられる会社」になること

EV電池と車部品の規制対応で差がつくのは、法改正速報を一番早く読む会社ではありません。顧客、当局、輸入者、販売業者、物流会社から聞かれたときに、必要な単位で、必要な根拠を、必要な期限内に出せる会社です。EU電池規則、REACH、SCIP、ELV、UN38.3はいずれも、そのための準備を企業に求めています。今すぐ着手すべきことは明確です。製品を規制単位で再整理し、証憑を部品階層で回収し、欧州向けの責任主体を商流に重ね、2027年を見据えた識別子とデータ基盤を先に作ることです。そこまでできれば、規制対応はコストではなく、受注と継続取引を守る経営インフラになります。 (EUR-Lex)

構造校正

文章全体の論理と読みやすさの点検

本稿は、読者が意思決定しやすいように、時間軸と業務軸の二つで構成しています。前半では、既存規則がすでに動いていることを示し、中盤では、車部品とEV電池に分けて即対応項目を整理し、後半で90日アクションに落としています。これにより、法令解説で終わらず、経営判断につながる流れになるよう校正しています。

論点の重複も整理しています。REACHとSCIPは成形品単位の情報保持、ELVは均質材料と解体情報、EU電池規則は市場投入、表示、登録、電池データ、将来のパスポート、UN38.3は輸送証憑というように、役割ごとに切り分けて配置しました。これにより、読者が「何を誰が持つべきか」を追いやすい構造にしています。

また、日付や適用範囲で誤認しやすい点は、本文中であえて明確に分けています。すでに始まっている義務、施行日が具体化している義務、制度設計は見えているが詳細法令の成立と連動する義務、延期された義務を区別して記述しました。特に、デューディリジェンスの適用開始が2027年に延期された点は、誤解が出やすいため本文に反映しています。 (EUR-Lex)

参照資料

クリックして確認できる一次情報・公的情報

EU Battery Regulation 本文(Regulation (EU) 2023/1542): (EUR-Lex)

EU Battery Regulation の適用開始条文と段階施行部分: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation における性能・耐久性情報およびBMSデータ要件: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation における製造者、輸入者、販売業者の義務: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation における生産者登録と拡大生産者責任: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation におけるバッテリーパスポート: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation におけるQRコード表示: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation における分別回収シンボル表示: (EUR-Lex)

EU Battery Regulation の2025年改正。デューディリジェンス適用開始の延期: (EUR-Lex)

REACH 第33条の情報提供義務: (EUR-Lex)

ECHA のSCIP届出案内: (European Chemicals Agency)

ELV Directive 本文: (EUR-Lex)

ELV Directive Annex II の閾値と適用除外関連ページ: (EUR-Lex)

ELV Directive における解体情報提供: (EUR-Lex)

PHMSA によるリチウム電池輸送要件とUN38.3試験要約: (パイプラインおよび危険物安全管理局)

廃電池のリサイクル効率・材料回収率に関する欧州委員会説明: (Environment)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言、通関助言、技術認証判断、各国当局対応の最終判断を代替するものではありません。実際の適用判断は、対象製品、商流、販売国、最新の法令改正、当局運用、契約条件を踏まえて、弁護士、通関士、認証機関、各国代理人等の専門家に確認してください。

米韓で異なる分類:LiDARと警告音スピーカー

同じ技術でも、税番ロジックが違えば利益計画が変わる

海外ビジネスでHSコードを通関部門だけの論点として扱うのは危険です。米国と韓国では、似た技術を搭載した製品でも、完成品の本質をどう見るかが異なり、関税率、見積条件、原産地戦略、さらには価格交渉の前提まで変わります。本稿では、LiDARを搭載したサービングロボットと、車両用の警告音スピーカーを題材に、その差がどこから生まれるのかをビジネス目線で整理します。なお、ここでいうLiDARはLiDAR単体ではなく、LiDAR搭載ロボットの分類事例です。 (CROSS)

まず結論

LiDAR搭載サービングロボットでは、米国CBPが韓国製サービングロボットを8479.89.9599に分類した一方、WCO HS委員会はLiDAR搭載のサービングロボットと配送ロボットを8428.90に整理し、韓国税関はそのWCO見解を受け入れる立場を示しています。韓国関税庁の公式レポートは、HTSUS上で8428.90が0パーセント、8479.89.9599と8704.60.00が2.5パーセントだと説明しており、分類差がそのままコスト差になる構図をはっきり示しています。 (CROSS)

警告音スピーカーでも、着眼点の違いが見えます。韓国関税庁は2026年3月、電気自動車やハイブリッド車に使う一部の車載音響機器を「車両用音響信号用機器」ではなく「拡声器」と判断し、無税扱いの方向を示しました。これに対し、米国CBPは、車両後退時に作動する警報器や、運転者に可聴警告を出す車載警報システムを8512.30の音響信号用機器に分類しており、米国HTSではこの区分の一般税率が2.5パーセントです。 (韓国政府政策ブリーフィング)

なぜ分類がずれるのか

今回の二つのテーマを貫く分岐点は、用途を重く見るか、構造と作動原理を重く見るかです。ロボットでは、米国側は完成品を「他に掲げのない機械」や「貨物運搬用車両」として捉える一方、WCOと韓国は搬送機能そのものに重心を置いて8428側に寄せています。警告音スピーカーでは、韓国の2026年判断が「電気信号を機械的振動に変えて音を出す」というスピーカー本来の構造を重視したのに対し、米国CBPの類似事例は「車両の警報・信号」という用途を前面に出しています。 (관세청)

ケース1 LiDAR搭載サービングロボット

米国はどう見たか

CBPのN335128では、対象物品は韓国製のサービングロボットで、下部の走行モジュールと上部のアプリケーションモジュールから成り、コントローラー、モーター、バッテリー、2D LiDARセンサーを備え、飲食サービス環境で自律走行して配膳を行う製品として説明されています。CBPはこの物品を8479.89.9599に分類しました。 (CROSS)

WCOと韓国はどう見たか

韓国関税庁の公式レポートによれば、2023年9月の第72回WCO HS委員会では、visionセンサーとLiDARを備えた屋内用サービングロボットと、屋外用配送ロボットが審議され、両者とも8428.90に分類されました。同レポートは、2024年6月のWCO総会でこの分類意見のCompendium掲載が承認され、韓国ではそのようなWCOの分類意見を税関告示で受け入れると説明しています。 (관세청)

どこがビジネス上の分かれ目か

この事例から読み取れるのは、LiDARの有無そのものが主役ではないという点です。勝負を分けるのは、完成品を「搬送機械」と見るか、「他に掲げのない機械」と見るかです。したがって、仕様書や営業資料でセンサー構成だけを強調しても十分ではありません。搬送対象、走行環境、積載構造、配膳という最終機能まで含めて説明できなければ、同一シリーズでも国ごとに税番が割れ、見積粗利と納入条件がぶれる可能性があります。 (CROSS)

ケース2 警告音スピーカー

韓国の2026年判断

韓国関税庁は2026年1月29日の関税品目分類委員会の決定を踏まえ、3月10日に、電気自動車の前バンパーやハイブリッド車の車内に装着され、仮想走行音やシステム案内音を再生する車両用音響機器2種を、8512.30の車両用音響信号用機器ではなく、8518.29-9000の拡声器として扱うと公表しました。理由として示されたのは、特定の状況を知らせたり警告したりする目的で設計されていても、電気信号を機械的振動に変えて音を再生するスピーカーの構造と作動原理に合致する、という点です。 (韓国政府政策ブリーフィング)

米国の類似事例

米国では、CBPがN329146で、車両がリバースに入ったときに作動する87デシベルの後退警報器を8512.30に分類しています。また、N050946では、スピーカーと電子制御ユニットを用いて運転者に可聴警告を与える車両向け警告システムを8512.30.00に分類しました。USITCのHTS検索では、8512.30.00の一般税率は2.5パーセントで、ラウドスピーカー系の区分である8518.29.80.00には一般税率がFreeのものがあります。 (CROSS)

ここで正確に言っておくべきこと

今回確認できた一次資料だけでは、韓国の2026年案件と米国CBP案件が完全に同一SKUだとまでは断定できません。したがって、最も正確な整理は、「韓国は2026年に一部の新しい車載音響機器を8518側へ寄せた一方、米国CBPは類似の車載警報装置を8512側へ寄せている」というものです。断定を急がず、どの仕様の物品について、どの時点の判断なのかを分けて見ることが重要です。 (韓国政府政策ブリーフィング)

本当に深掘りすべき論点

このテーマは、国の違いだけでなく、時点によっても動きます。韓国関税庁の2016年の公式資料では、VESS、つまり仮想エンジン音システムについて、米国のN267633と韓国内判断がともに8512.30で一致していたと整理されています。ところが2026年には、韓国の委員会が一部の新しい車載音響機器を8518.29-9000へ振り直しました。つまり、過去の成功事例をそのまま横展開すると危ない、というのがこのテーマの本質です。 (관세청)

経営判断として何をすべきか

1 見積段階で税番の揺れを織り込む

本稿の二事例では、0パーセントと2.5パーセントの差が実際に表れています。数量が大きい案件や価格競争が激しい案件では、この差は営業マージンを十分に動かします。特にDDPや関税込み条件で売る場合、分類の前提が崩れると利益が先に消えます。 (관세청)

2 国別に事前教示を取りにいく

CBPのロボット事例も車載警報事例も、製品の構造、搭載部品、起動条件、使用環境の説明が分類判断の土台になっています。韓国の2026年判断も、どこに装着され、どの音を出し、どう音を生成するかという説明に依存しています。初回出荷前に国別で事前教示、もしくはそれに準じる確認を取りに行くことが、最も安いリスクヘッジです。 (CROSS)

3 技術説明と分類説明を分けて作る

実務では、完成品の写真だけでは足りません。ロボットなら搬送対象、走行シナリオ、障害物回避、配膳動作まで、車載音響機器なら取付位置、ECUとの関係、単体で音を出すのか、警報ロジックまで、税関が「何を本質と見るか」に合わせて資料を作る必要があります。本稿の事例が示すのは、エンジニア向けの説明資料と、税関向けの分類説明資料は、同じ体裁では通用しにくいということです。 (CROSS)

最後に、要点だけを構造的に整理する

第一に、LiDAR搭載ロボットの争点はLiDARそのものではなく、完成品を搬送機械として見るか、その他の機械として見るかです。第二に、警告音スピーカーの争点は、警報用途を見るか、スピーカーの構造と作動原理を見るかです。第三に、米韓差は固定的ではなく、物品仕様と判断時点によっても動くため、国別の事前教示と証拠設計が不可欠です。 (관세청)

参考資料

  1. U.S. Customs and Border Protection, N335128, The tariff classification of a serving robot from South Korea. (CROSS)
  2. Korea Customs Service, TRADE & ORIGIN REPORT 05, December 2025, WCOと米国CBPで見解が異なるロボット分類の解説。 (관세청)
  3. 대한민국 정책브리핑, 관세청 보도자료, 친환경차 가상 엔진음 장치, ‘확성기’로 분류 ··· 무관세 적용。 (韓国政府政策ブリーフィング)
  4. U.S. Customs and Border Protection, N329146, vehicle reversing alarm. (CROSS)
  5. U.S. Customs and Border Protection, N050946, driver warning system. (CROSS)
  6. U.S. International Trade Commission, HTS search results for 8512.30.00 and 8518.29.80.00. (Harmonized Tariff Schedule)
  7. Korea Customs Service, 米国関税法, 2016, VESSの米韓同一分類事例の紹介。 (관세청)

免責事項

本稿は2026年3月20日時点で確認できた公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別商品の最終的な品目分類、税率、原産地判定、課税処分を保証するものではありません。実際の申告や契約判断の前には、最新の関税率表、事前教示、関係当局の公表資料、通関専門家の助言を必ず確認してください。

HSコード誤分類が招くコスト増大と事後監査リスク

2026年、企業が直視すべき輸入コンプライアンスの現実

「通関業者に任せてあるから大丈夫」という考え方は、もはや安全ではありません。日本の財務省公表によれば、令和6事務年度の輸入事後調査では3,609者を調査し、2,690者に申告漏れ等が見つかり、追徴税額は約157.1億円に達しました。ただし、この157.1億円は誤分類だけの数字ではなく、課税価格の申告漏れや適用税率の誤りなどを含む全体値であり、内訳では関税の不足が約9.3億円、内国消費税の不足が約139.6億円でした。つまり、企業が管理すべきなのはHSコード単体ではなく、分類、価格、原産地、証憑保存を含む輸入申告全体の品質です。 (財務省)

1. HSコードは単なる税番ではなく、経営データである

HSは世界税関機構が管理する国際統一商品分類で、6桁までが国際共通です。日本では、輸入申告や輸出申告は9桁の統計品目番号で運用され、6桁まではHS、そこから先は国内の細分になります。さらに、日本税関のEPA解説では、EPA特恵税率の適用には、対象税率の設定、原産地基準、手続的要件の3条件が必要とされ、多くの品目別規則は関税分類変更基準に基づいています。つまり、HSコードは関税率だけでなく、EPA適用や原産地判定の前提でもあります。 (Japan Customs)

このため、誤分類の影響は二方向に出ます。1つは、高い税率のコードを選んでしまう過大納付です。もう1つは、低い税率や誤ったEPA適用により、後日不足税額と附帯税を求められる過小納付です。特にEPAでは、品目別規則そのものがHS番号に結び付いているため、分類を誤ると税率だけでなく原産性の判断ロジック自体が崩れます。日本税関が2026年1月1日時点でも、旧品目表に基づくEPA税率が適用される品目のNACCSコード一覧を別途公表していることは、移行期の分類管理がいかに難しいかを物語っています。 (Japan Customs)

2. なぜ通関時ではなく事後監査で問題が大きくなるのか

WCOは、ポストクリアランス監査を、貨物のリリース後に商業データ、売買契約、財務・非財務記録、在庫その他の資産を対象に行う構造的な審査だと定義しています。目的は、申告の正否を後から広く検証し、事業者のコンプライアンス水準を測定・改善することにあります。つまり、通関時に通ったことは「最終確定」ではなく、「後で帳簿と証拠で説明できること」が前提になっているのです。 (世界関税機関)

この視点に立つと、誤分類リスクは申告時の入力ミスでは終わりません。仕様書、材質情報、用途、売買契約、原価資料、原産地証明、社内承認履歴が一体で見られるため、分類根拠を残していない企業ほど、事後監査で不利になります。HSコードを「担当者の勘」で決める運用が危険なのは、このためです。 (世界関税機関)

3. 日本の公式データが示す現実

令和6事務年度の日本の輸入事後調査結果を、前年度と比較すると次のとおりです。ここで重要なのは、追徴税額そのものの増加だけでなく、加算税額の伸びも大きいことです。 (Ministry of Finance Japan)

指標令和6事務年度令和5事務年度
調査を行った輸入者3,609者3,576者
申告漏れ等のあった輸入者2,690者2,678者
申告漏れ等に係る課税価格約1,390.7億円約1,201.2億円
納付不足税額約148.9億円約128.3億円
うち関税約9.3億円約8.6億円
うち内国消費税約139.6億円約119.7億円
加算税額約8.19億円約6.22億円
うち重加算税約0.42億円約0.43億円
追徴税額合計約157.1億円約134.5億円

さらに財務省は、申告漏れ等には「適用税率に誤りがあったものも含む」と明記しています。したがって、日本の公式統計を使う場合は、「157億円超がそのまま誤分類被害額だ」と書くのではなく、「適用税率の誤りを含む事後調査全体の追徴額」と表現するのが正確です。 (財務省)

4. 日本で本当に怖いのは、税率よりも累積と時間差である

日本の制度説明で注意したいのは、過少申告加算税を単純に「10%」とだけ説明しないことです。税関の案内では、調査通知後で更正予知前に修正申告した場合は5%、更正予知後などは原則10%となり、金額が大きい部分には加重がかかります。さらに、隠蔽や仮装がある場合は過少申告加算税に代えて35%の重加算税、無申告の場合は40%の無申告重加算税が課されます。 (税関総合情報)

しかも、税関のQ&Aでは、輸入者が減額を求める更正の請求期間も、税関が増額更正を行う期間も、原則として輸入許可日から5年と整理されています。1つの誤分類を毎月継続していた場合、問題は単発ではなく、5年分の差額、加算税、社内再計算、監査対応工数として一気に表面化します。実務で本当に重いのは、税率差そのものより、この累積と時間差です。 (税関総合情報)

加えて、輸入者には帳簿7年、書類5年、電子取引データ5年の保存義務があります。さらに日本では、一定の要件を満たす優良な電子帳簿を保存し、事前届出をしている場合には、関税関係帳簿に記録された事項に関する修正申告等について、過少申告加算税が5%軽減される制度も整備されています。証拠を残すことは、説明責任のためだけでなく、ペナルティ管理のためにも意味があります。 (Japan Customs)

5. 海外では「輸入者責任」がさらに明確である

米国では、CBPが19 U.S.C. §1484に基づき、輸入者は申告時に proper value、classification、rate of duty を reasonable care により申告する責任を負うと明示しています。実際、CBPは2025年3月だけで71件の監査を完了し、3億1,000万ドルの不足関税・手数料を把握したと公表しました。さらに、19 U.S.C. §1592 と 19 CFR §162.73 では、過失で最大2倍、重過失で最大4倍、詐欺で国内価格相当額までという強い民事制裁の上限が置かれています。 (Customs and Border Protection)

ただし、米国は是正のタイミングによって結果が大きく変わります。eCFRの19 CFR §162.73 と §162.74 では prior disclosure が認められており、有効な事前開示が成立すれば、少なくとも過失・重過失のケースでは、ペナルティ上限は actual loss of duties 等に対する利息レベルまで大きく縮小します。日本の自主是正と同じく、誤りを見つけた後の初動が、最終コストを左右します。 (eCFR)

EUでも、Union Customs Code の Article 48 により、貨物のリリース後に post-release controls を行うことができ、欧州委員会のガイダンスでも tariff classification はその対象の一つとされています。他方で、制裁はEU全域で一律ではありません。欧州委員会は、加盟国が customs penalties を選択しており、その内容は加盟国間で大きく異なると報告しています。したがって、EUを単一の割合で「最大100%」のように書くのは、実務記事としては避けた方が安全です。 (EUR-Lex)

6. 2026年の企業が見落としやすい、もう一つのリスク

2026年の企業実務では、HS2028だけを見ていても不十分です。日本税関はすでに2026年1月1日版の実行関税率表と輸出統計品目表を公表しており、EPAでは旧品目表に基づく税率がなお適用される品目のNACCSコード一覧も公表しています。さらにWCOは2026年1月21日、HS2028改正の受諾を公表し、発効日は2028年1月1日としました。つまり、企業が今やるべきことは、2028年が近づいてから大規模移行を始めることではなく、2026年版マスタの時点で、現行コード、旧EPAコード、将来改正の影響を整理しておくことです。 (Japan Customs)

7. 企業が今すぐ取るべき実務対応

1. サプライヤー提示コードと自社採用コードを分ける

仕入先のHSコードをそのまま採用せず、「参考情報」と「自社採用番号」を分けて管理することが出発点です。輸出者側コードは有力な参考資料ですが、日本での輸入申告責任を代替しません。米国でも日本でも、最終的な申告責任は輸入者側に残ります。 (cbp.gov)

2. 品目ごとに分類ドシエを作る

最低限、品名、用途、材質、成分比、構造、写真、図面、カタログ、類似品との差異、採用税番、採用理由、確認日、確認者を1セットで残すべきです。事後監査で問われるのは「なぜその番号にしたのか」であり、答えを後から思い出すことではありません。証跡を体系化して保存することが重要です。 (世界関税機関)

3. 高リスク品目は事前教示を使う

日本の品目分類の事前教示では、文書回答の内容は原則3年間、輸入申告審査で尊重されます。米国でもPart 177に基づく binding ruling を事前に申請できます。税率差が大きい品目、用途差で分かれる品目、新素材品、EPA利用頻度の高い品目は、事前教示の対象に入れるべきです。 (税関総合情報)

4. 年1回は「分類」と「税率適用」を分けて見直す

分類が正しくても、EPA適用、追加関税、原産地要件、旧品目表対応がずれていれば、最終税率は誤ります。特に、関税率の高い品目、EPA利用品、用途区分で分かれる品目、2026年版でコード更新があった品目群は、定期点検の優先順位を上げるべきです。 (税関総合情報)

5. 発見した誤りは、早く直す

日本では、調査通知後で更正予知前の修正申告は5%扱いとなり、米国でも prior disclosure の有無で上限が大きく変わります。誤りを見つけたときに、社内で止めるのか、事実確認を始めるのか、専門家に回すのか、税関対応に進むのか、その判断フローをあらかじめ決めておくことが重要です。 (税関総合情報)

6. 記録保存を「監査対策」ではなく「損失抑制策」として運用する

帳簿や書類の保存は守って当然、では終わりません。優良な電子帳簿の要件を満たせば、日本では過少申告加算税の軽減措置もあります。分類根拠、通関関連資料、原産地資料、社内承認記録を、後で探すのではなく、最初から残る設計に変えることが、最も費用対効果の高い対策です。 (税関総合情報)

おわりに

HSコードの誤分類は、通関部門だけの問題ではありません。WCOが示すとおり、現代の税関管理は、リリース後に商業データや帳簿を横断して検証する方向に進んでいます。日本の輸入事後調査、米国CBPの監査強化、EUの post-release controls、そしてHS2028への移行準備を見れば、企業が管理すべき対象は「税番」ではなく「分類根拠の再現可能性」だと分かります。2026年に必要なのは、正しい番号を1回当てることではなく、2年後、5年後の監査でも説明できる体制を先に作ることです。 (世界関税機関)

参考資料

  1. 財務省「令和6事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」および別添資料。 (財務省)
  2. 財務省「令和5事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」。 (財務省)
  3. 日本税関「品目分類の概要」「統計品目番号の調べ方」「輸入者に対する帳簿書類の保存義務について」。 (税関総合情報)
  4. 日本税関「品目分類の事前教示制度について」「事前教示制度について」。 (税関総合情報)
  5. 日本税関「我が国の原産地規則」「EPAを利用して日本に輸入する方法について」「品目別原産地規則」。 (税関総合情報)
  6. 日本税関「実行関税率表(2026年1月1日版)」「輸出統計品目表(2026年1月版)」「旧品目表に基づくEPA税率が適用される品目のNACCS用品目コード一覧表」。 (税関総合情報)
  7. WCO「Guidelines for Post-Clearance Audit」「HS 2028 Amendments」。 (世界関税機関)
  8. CBP「March 2025 monthly update」「What are Ruling Letters?」「Reconciliation」。 (cbp.gov)
  9. 米国法令 19 U.S.C. §1592、19 CFR §162.73、§162.74。 (U.S. Code)
  10. 欧州委員会・EUR-Lex「加盟国の customs infringements and penalties に関する報告」「UCC Article 48 関連資料」。 (EUR-Lex)

免責事項

本記事は、2026年3月19日時点で確認可能な公表資料に基づく一般的な情報提供です。個別案件における品目分類、修正申告、加算税対応、EPA適用の可否は、商品の仕様、契約条件、提出資料、各国税関の運用により結論が変わります。実際の申告・更正・事後調査対応については、管轄税関、通関士、弁護士、税理士その他の専門家に確認してください。

複合センサー分類は用途で分かれ始めた

ビジネス現場で見ておくべきHSコードの新しい見方

調達担当や通関担当が、部品表のセンサー欄だけを見てHSコードを決めるやり方は、もう危うい。最近の日本税関、EU、米CBPの公開資料を並べると、複合センサー製品の分類は、搭載センサーの種類そのものより、完成品として何をするのか、用途が設計から客観的に読めるか、主たる機能を一つに定められるかで分かれている。少なくとも近年公表された公式事例を見る限り、実務の重心は、部品名起点から完成品機能起点へ移っている。(税関総合情報)

象徴的なのはウェアラブルだ。日本税関は、加速度センサー、角速度センサー、光電脈波センサー、無線通信機能を備えたスマートウォッチを8517.62のバッテリー式ウェアラブルデバイスとして掲げている。これに対しEUは2024年、加速度センサー、ジャイロセンサー、光学式心拍センサー、Bluetoothを備えた別のスマートウォッチについて、通信、歩数計、計測、腕時計の各機能が同程度に重要だとして9102.12.00に分類した。さらに日本税関の事前教示では、呼気流量と血液中の酸素飽和度を測るヘルスケア用機器は9027.50-000に置かれている。つまり、同じ「複数センサー内蔵」でも、通信機器、腕時計、分析機器へ分かれ得る。(税関総合情報)

難しくなった理由は、センサーが増えたからではない

難しくなった本当の理由は、センサーが単独部品ではなく、通信、演算、表示、電源、光学、制御と一体になったからだ。日本税関の分類例規には、加速度センサー、ジャイロセンサー、近接センサーを組み込んだVRヘッドセットがあり、同じ資料群には複数センサーと無線通信を備えたスマートウォッチも並ぶ。複合センサー製品は、もはや「センサーの集合」ではなく、最初から一つの完成品として設計されている。(税関総合情報)

この変化を支える法的な土台も明確だ。日本税関の90類解説は、多機能機械は一般に主たる機能で分類し、主たる機能を決められなければ通則3(c)を使うと説明している。また、複合機械や機器が特定の項に含まれる場合には、90類注3の考え方を援用しないとも明示している。さらに、遠隔測定装置に関しては、有線又は無線の送信機や受信機は8517、8525、8527などに入るが、単一ユニットに組み込まれるか、90類注3の機能ユニットを構成する場合は90類に入ると説明している。ここに、通信側へ行くのか、測定側へ行くのかが分かれる基本構造がある。(税関総合情報)

もう一つ重要なのが、用途の扱いだ。EUの税関委員会資料は、用途を分類判断に取り込むには、その用途が物品の客観的特性と特別な性質に内在していなければならないと整理している。言い換えると、営業資料で「こう使う」と言うだけでは足りず、筐体、接続方式、独立機能、利用場面が設計として埋め込まれている必要がある。(European Commission)

実例でみる、用途別に分かれる4つの方向

1. 通信機器として見られる方向

日本税関の事前教示では、衛星測位システムで人や物の位置情報を取得し、無線で送る位置情報用データ通信機器が8517.62-090に分類されている。パレットの位置情報を監視、管理するための無線データ通信機器も同じく8517.62-090で示されている。ここで見られているのは、センサーの有無それ自体ではなく、位置情報を取り、無線通信で管理に使うという完成品の中心的な役割だ。(税関総合情報)

この方向は、スマートウォッチの日本の分類例ともつながる。加速度、角速度、光電脈波センサーを備えていても、他機器との無線通信、通知、メッセージ閲覧、支払い、健康情報アクセスが一体となった設計では、通信機器側の見方が強く出る。センサーは価値の核を支える要素だが、分類の出発点そのものではない。(税関総合情報)

2. 測定、分析、制御機器として見られる方向

一方で、測ること自体が製品の中心なら、分類は測定、分析側へ寄る。日本税関の事前教示にあるヘルスケア用機器は、マウスピースからの呼気で内部タービンを回して呼気流量を測り、指を当てるセンサーで血液中の酸素飽和度を測る機器として9027.50-000に分類されている。通信や通知ではなく、測定行為そのものが価値の中心にある典型例だ。(税関総合情報)

米CBPのN263971も示唆的だ。速度センサー、位置センサー、トランスミッション液温センサーから成るセンサークラスターについて、CBPは3つのセンサー機能が等しく考慮に値すると述べ、そのうえで9032.90.6080に分類している。ここで重要なのは、製品が単なる単体センサーではなく、自動制御系の一部として扱われている点だ。複数のセンシング要素が不可分で、制御システムに組み込まれているほど、分類は制御機器側へ近づく。(CROSS)

3. 完成品の名前で拾われる方向

完成品としての用途が強い場合、搭載センサーの種類より完成品見出しが前に出る。日本税関のVRヘッドセットの例では、CPU、レンズ、接続端子、加速度センサー、ジャイロセンサー、近接センサー、タッチパッドを一体化していても、分類は9004.90だ。立体映像を見せ、頭の動きを検出してアプリ実行を制御するという完成品設計が前面に立っているからだ。(税関総合情報)

同じ発想は米CBPの防犯機器でも見える。H331779では、ドアベル、カメラ、各種センサー、スピーカー、マイクを備えた機器について、カメラ部分が主たる機能を果たし、他の構成はそれに従属すると整理している。さらにCBPはFlood Detectorの事例で、完成品の主たる機能をセンサー機能が与えていると判断している。要するに、複合センサー製品は、最終的に何の機械として市場で機能するのかで拾われやすい。(CROSS)

4. 主たる機能を決め切れない方向

もっとも、いつも主たる機能を一本に絞れるわけではない。EUの2024年実施規則は、スマートウォッチについて、通信、歩数計、計測、腕時計の各機能が等しく重要で、主たる機能を決められないとして通則3(c)を適用し、9102.12.00に分類した。これは、同じく複数センサーを内蔵する日本の8517.62のスマートウォッチ例と対照的だ。わずかな仕様差、独立稼働の範囲、ホスト機器への依存度、国又は地域の制度差で、コードは実際に分かれ得る。(EUR-Lex)

企業が見るべき判断軸は4つある

1. 単独で何ができるか

ホスト機器と接続しなくても、時刻表示、心拍測定、睡眠測定、歩数計測、速度記録ができるのか。この独立機能の厚みは、通信機器として見るのか、時計や計測機器として見るのかに直結する。EUの2024年スマートウォッチ事例は、この点を非常に丁寧に見ている。(EUR-Lex)

2. 通信は主役か、補助か

位置情報用データ通信機器や日本のスマートウォッチ例では、無線通信は単なる付加機能ではなく、製品価値の中心にある。逆に、通信が測定結果の受け渡しにとどまるなら、測定や分析側へ重心が移りやすい。(税関総合情報)

3. 完成品として特定の見出しがあるか

VRヘッドセットや防犯カメラのように、完成品として強い見出しがあると、センサー構成より完成品の性格が勝つ。日本税関の90類解説が、特定の項に含まれる複合機械には注3を援用しないと述べている点は、ここで効いてくる。(税関総合情報)

4. 用途は設計から客観的に読めるか

用途で主張するなら、その用途は客観的特性に内在していなければならない。筐体形状、装着方法、接続先、独立機能、センサーとソフトの役割分担まで含めて、設計で説明できるかが勝負になる。(European Commission)

ビジネスへの示唆

ここから先は、通関実務だけの話ではない。製品企画、調達、契約、価格設定まで巻き込む話だ。実際、日本のスマートウォッチ例は8517.62、EUのスマートウォッチ例は9102.12.00、VRヘッドセットは9004.90、ヘルスケア用機器は9027.50-000、位置情報用データ通信機器は8517.62-090と、似たような複合センサー構成でも行き先が大きく分かれている。設計レビューの初期段階でセンサー一覧だけからコードを固定してしまうのは危険だ。(税関総合情報)

したがって、企業は量産前に、単独機能、データの流れ、通信経路、センサー一覧、ホスト依存、用途を示す技術資料を揃えるべきだ。そのうえで、実際の輸入前には事前裁定の活用が有効になる。日本の事前教示制度は、輸入予定貨物の分類や関税率を事前に税関へ照会できる制度で、文書回答を輸入申告時に添付すれば、その回答書記載の所属区分や関税率等が審査で尊重される。EUのBTIは、事業者に法的確実性を与えるための制度として運用され、米CBPも輸入前の binding ruling を発給している。複合センサーのように境界が動きやすい製品ほど、ここを前倒しで使う意味が大きい。(税関総合情報)

参照資料

  1. 日本税関「90類 関税率表解説」。複合機械、多機能機械、機能ユニット、遠隔測定装置の考え方を整理する基礎資料。(税関総合情報)
  2. 日本税関「分類例規 85類」。加速度、角速度、光電脈波センサーを備えたスマートウォッチを8517.62のウェアラブルデバイスとして示す。(税関総合情報)
  3. 日本税関「分類例規 90類」。加速度、ジャイロ、近接センサーを備えるVRヘッドセットを9004.90で示す。(税関総合情報)
  4. 日本税関「事前教示回答事例」。位置情報用データ通信機器と、パレット位置監視用の無線データ通信機器を8517.62-090で示す。(税関総合情報)
  5. 日本税関「事前教示回答事例」。呼気流量と血液中の酸素飽和度を測るヘルスケア用機器を9027.50-000で示す。(税関総合情報)
  6. 欧州委員会 Implementing Regulation (EU) 2024/964。複数センサー搭載スマートウォッチを9102.12.00へ分類した公式規則。(EUR-Lex)
  7. 欧州委員会 Customs Code Committee 資料。用途は客観的特性に内在している場合に分類判断へ取り込めるという考え方を示す。(European Commission)
  8. 米CBP rulings。N263971は複数センサーのセンサークラスター、N306446はFlood Detector、H331779はセンサー付き防犯カメラの主機能判断を示す。(CROSS)
  9. 事前裁定制度の実務資料。日本の事前教示制度、EUのBTI guidance、米CBPの binding ruling program。(税関総合情報)

免責事項:

本記事は公開資料に基づく一般的な情報提供であり、個別商品の最終的なHS分類、関税率、規制適用、申告結果を保証するものではありません。実際の取引や申告では、最新の法令、関税率表解説、事前教示、BTI、binding ruling 等を必ず確認してください。(税関総合情報)

注12がチップレット分類に与える影響を、ビジネス視点で読み解く

チップレットは、複数の小さなシリコン片を1パッケージ内で組み合わせて大きな機能を作る設計として広がっています。UCIeは、マルチベンダーのchiplet componentsを組み合わせる標準化を進め、TSMCも、もともと1つのSoCにあった機能を分割したchipletsの再統合を前提にした実装技術を打ち出しています。だからこそ、技術の話に見える第85類注12が、通関実務と事業判断の論点になります。HS2028の改正内容はすでにWCOから公表されており、2028年1月1日に発効予定です。 (UCIe Consortium)

まず結論

今回のポイントは、チップレットを一律に新しい税番へ動かす話ではありません。現行HS 2022の第85類注12では、マルチチップ集積回路は「相互に接続した」2個以上のモノリシック集積回路であることが要件ですが、HS2028ではここが「相互接続の有無を問わない」に改められます。つまり、複数ダイを実用上不可分に一体化した製品について、ダイ間接続の有無だけで8542から外れやすかった境界を、より広く、より明確に整理し直す改正だと読むのが実務的です。 (wcoomd.org)

注12は、なぜそこまで重要なのか

ここでいう注12は、第85類注12です。この注記は、半導体デバイスと集積回路の定義を置き、集積回路の中をモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、マルチコンポーネント集積回路に分けています。さらに、日本税関の関税率表解説でも、注12に該当する物品については85.41項と85.42項が、85.23項を除いて他の項に優先すると明記されています。注12は、単なる注釈ではなく、8541と8542へ入れるかどうかを決める入口です。 (税関ウェブサイト)

なぜチップレットで論点が噴き出すのか

UCIeは、chiplet componentsを組み合わせてより大きなSoCを構成できる標準化を進めており、標準パッケージ配線やインターポーザ経由での接続を想定しています。TSMCも、もともと1つのSoCにあった機能を分割したchipletsを再統合する実装を前提にしています。つまり、チップレットは「単一ダイ中心」の発想ではなく、「複数ダイを1つの製品として売る」発想です。分類実務が注12に注目するのは自然な流れです。 (UCIe Consortium)

現行ルールのどこが引っかかりやすいのか

現行HS 2022のマルチチップ集積回路は、2個以上のモノリシック集積回路が相互に接続され、実用上不可分に組み合わされ、しかも他の能動素子や受動素子を含まないことを求めています。したがって、複数ダイを1パッケージに収めていても、ダイ間の接続がない、あるいは説明資料上で接続関係を立証しにくい製品は、現行定義では議論がぶれやすくなります。 (wcoomd.org)

一方で、UCIeのようにダイ間通信を前提にしたチップレット製品は、現行ルールでもマルチチップ集積回路に当たり得ます。今回の改正は、そのうち特に、非接続または接続説明が弱い複数ダイ一体品の不確実性を下げる方向に働くと見るのが自然です。これは条文差分から導ける実務上の読み方です。 (wcoomd.org)

HS2028で何が変わり、何が変わらないのか

HS2028で変わるのは、マルチチップ集積回路の定義における「相互に接続した」という条件です。WCOが公表した改正勧告では、2個以上のモノリシック集積回路について、相互接続の有無を問わない文言に置き換えられています。ここが、チップレット分類への直接的なインパクトです。 (wcoomd.org)

一方で、変わらない条件もあります。実用上不可分に一体化されていること、モノリシック集積回路が2個以上であること、そして他の能動又は受動回路素子を含まないことは残ります。つまり、チップレットという商品名だけでは足りず、ダイ数、実装構造、追加部品の有無が引き続き決定的です。 (wcoomd.org)

さらに重要なのは、追加部品があるから直ちに8542から外れるとは限らない点です。現行注12には、マルチコンポーネント集積回路という別の受け皿があり、集積回路に加えてシリコンベースセンサー、アクチュエーター、オシレーター、レゾネーター、一定の受動部品やインダクターなどを一体化した回路を想定しています。実務では、「8542か否か」よりも、「8542の中でマルチチップなのか、MCOなのか」を見誤らないことの方が大切になる場面があります。 (税関ウェブサイト)

事業にどんな影響が出るのか

1. 見積もりと販売計画が、設計図面に依存しやすくなる

日本税関は、書面による事前教示によって税番と税率を事前に確認でき、正確な原価計算や販売計画に役立つと説明しています。逆に言えば、チップレット製品の税番判断が注12の条文差分に左右される局面では、営業側の見積もりも、設計側が出すダイ構成図や部品表の精度に強く依存します。技術資料が曖昧なままでは、事業計画の精度も落ちます。 (税関ウェブサイト)

2. 商品名ではなく、構造説明が主役になる

WCOの現行注12もHS2028改正案も、判断の軸を「チップレット」「SiP」といった呼称ではなく、モノリシックICの数、相互接続の有無、追加の能動素子・受動素子の有無に置いています。実際、米CBPでも、センサー系製品について8542.39に入る例と、8542のハイブリッド集積回路に当たらないとされた例が並存しており、境界は商品名ではなく構造で分かれています。 (wcoomd.org)

3. 2026年から2027年は、待つ期間ではなく棚卸しの期間

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効するまでの残り2年間で、HS2022とHS2028の相関表作成、解説書の更新、各国の実施支援を進めるとしています。これは企業側にとって、現行SKUの棚卸し、既存の税番根拠の見直し、説明資料の標準化を進めるための猶予期間でもあります。改正が発効してから慌てるより、今のうちに「どの製品が注12の境界にいるか」を洗い出す方が合理的です。 (wcoomd.org)

4. 事前教示は、取るだけで終わらない

日本税関の書面による事前教示は、提出すれば通関審査で尊重され、有効期間は3年です。ただし、法令改正があった場合には、その前提が崩れます。HS2028で注12の文言が変わる以上、既存の事前教示を持っている企業も、そのまま自動的に安心とは言えません。対象製品が改正後の定義にどう当てはまるかを、改めて確認する必要があります。 (税関ウェブサイト)

実務で今すぐ確認したい5つの質問

  1. その製品は、モノリシック集積回路を2個以上含んでいるか。
  2. ダイ間は電気的に接続されているか。接続されていない場合でも、HS2028では救済される可能性があるか。
  3. 抵抗器、コンデンサー、インダクターなど、他の能動又は受動回路素子は入っていないか。
  4. センサー、アクチュエーター、オシレーター、レゾネーターなどを一体化しており、マルチチップではなくMCOとして見るべき構造ではないか。
  5. 既存の税番根拠や事前教示は、2028年以降もそのまま使える前提か。法改正で見直しが必要ではないか。これら5問は、ほぼそのまま注12の条文に沿った確認項目です。 (税関ウェブサイト)

経営層向けに一言でまとめると

注12改正の本質は、チップレット時代の複数ダイ一体品を、古い単一ダイ中心の読み方から少し解放することです。ただし、何でも8542に入るわけではありません。勝負を分けるのは、マーケティング名称ではなく、ダイ構成、接続関係、追加部品の有無を説明できる社内データです。分類の論点は、設計、調達、営業、通関が同じ図面を見る体制を作れるかどうかに移っています。 (wcoomd.org)

参考資料

  1. World Customs Organization, Chapter 85, HS Nomenclature 2022. (wcoomd.org)
  2. World Customs Organization, 2028 Recommendation, NG0304Ba, Chapter 85 Note 12 amendment. (wcoomd.org)
  3. World Customs Organization, HS 2028 amendments page. (wcoomd.org)
  4. World Customs Organization, announcement on provisional adoption and publication timeline for HS2028. (wcoomd.org)
  5. Japan Customs, 第85類解説と注12の優先規定。 (税関ウェブサイト)
  6. Japan Customs, Advance Ruling on Classification. (税関ウェブサイト)
  7. Japan Customs, Disclosure of Advance Ruling on Tariff Classification. (税関ウェブサイト)
  8. UCIe Consortium, Specifications. (UCIe Consortium)
  9. UCIe Consortium, Introduction to Chiplets. (UCIe Consortium)
  10. TSMC, The Whats, Whys, and Hows of TSMC-SoIC. (TSMC)
  11. U.S. Customs and Border Protection, ruling search results on sensor-related 8542 classifications. (CROSS Customs Rulings)

免責事項

本記事は、2026年3月16日時点で公開されている一次資料と公的資料をもとに作成した一般的な情報提供です。個別製品の税番、関税率、原産地判定、規制該当性、通関可否を保証するものではありません。最終判断は、実貨の構成、最新の法令、各国の国内実施、税関の事前教示又は専門家の確認に基づいて行ってください。

貿易実務の基礎|HSコード分類の「通則3」をやさしく解説

── 複数の項が競合するとき、どのルールで決着をつけるか ──

2026年3月16日

HSコード(輸出入統計品目番号)を決定するとき、通則1・通則2を経ても「この商品は複数の項に当てはまりそうだ」と迷うケースがあります。そのときに登場するのが、**関税率表の解釈に関する通則(以下、通則)の「通則3」**です。

通則3は、「二以上の項に属するとみられる物品」に適用される最終調整ルールであり、3つのサブルール(a)(b)(c)で構成されています。重要なのは、これらに優先順位があることです。まず(a)を試み、それでも決まらなければ(b)へ、それでも決まらなければ(c)へと進みます。

本記事では、通則3の(a)から(c)までを、条文の意味から実務での使い方までビジネスパーソン向けにわかりやすく深掘りします。


第1章 通則3の「入口条件」を正しく理解する

通則3はいつ登場するか

通則3が適用されるのは、主に次の2つのケースです。

  1. 通則2(b)の規定を適用した結果、物品が二以上の項に属するとみられる場合
  2. その他の理由によって、物品が二以上の項に属するとみられる場合

通則2(b)は「複数の材料・物質からなる製品について、それぞれの材料に対応する項を候補として挙げてよい」と認める入口の規定です。その結果として複数の項が競合するとき、決着を下すのが通則3の役割です。

また「その他の理由」とは、たとえば「スポーツ用品」であり同時に「電子機器」でもあるウェアラブル端末のように、物品の性格そのものが複数の項にまたがるケースを指します。

通則3を使う前に確認すること

注意: 通則3は、通則1(部注・類注・項の規定)で分類が確定しない場合にのみ使います。

関税率表の部注・類注に「この項にはXXを含まない」「この項はYYのみとする」と明記されている場合は、通則3を持ち出す前に通則1で判断が決まっています。実務では、「部注・類注・項の規定を読んで、そこで答えが出ないか」を必ず確認することが第一です。


第2章 通則3(a):最も特殊・限定的な項を選ぶ

条文の意味と「特殊限定性の原則」

「最も特殊な限定をして記載をしている項が、これよりも一般的な記載をしている項に優先する。」

つまり、競合する項のうち**「より具体的・詳細に商品を描写している項」を採用する**というルールです。これを「特殊限定性の原則」または「特定性の原則」と呼びます。

具体例で理解する

  • 例① 名称は種類に優先する(電気カミソリの場合)
    • 85.10項:電気かみそり(名称による記載)
    • 85.09項:電動装置を自蔵する家庭用電気機器(種類による記載)
    • 結論: 85.10項は「電気カミソリ」という商品名そのものを記載しており、より具体的であるため85.10項が優先されます。
  • 例② 自動車タイヤの場合
    • 40.11項:ゴム製の空気タイヤ(素材・形態による限定)
    • 87.08項:自動車の附属品(用途による一般的な記載)
    • 結論: 「ゴム製の空気タイヤ」のほうが限定的・具体的な記載であるため、40.11項が優先されます。

通則3(a)の重要な例外

見落としがちですが、通則3(a)には重要な例外があります。

「AとBからなる複合品」について「A専用の項」と「B専用の項」が競合しているとき、どちらの項も物品の全体ではなく一部しか記載していないため、特殊性は同等(等しく特殊)とみなされます。この場合は通則3(a)での決着がつかないとして、次の通則3(b)へ進みます


第3章 通則3(b):本質的特性(重要な特性)による分類

条文の意味

「(a)の規定により所属を決定することができないものは、(中略)当該物品に重要な特性を与えている材料又は構成要素から成るものとしてその所属を決定する。」

適用対象となる4つの物品

通則3(b)が適用できるのは、次の4種類に限られます。自社商品がどれに当たるかを確認しましょう。

区分内容
混合物二以上の材料・物質を混ぜ合わせたもの
異なる材料から成る物品異なる種類の材料を組み合わせて作った物品
異なる構成要素で作られた物品異なる機能(役割)を持つ部分を結合した物品
小売用のセットにした物品特定の目的のために共に包装された二以上の物品

「重要な特性(本質的特性)」をどう判断するか

どれか一つが絶対的な基準というわけではなく、**「どの要素が消費者にとっての価値・用途・機能を本質的に与えているか」**を以下の要素から総合的に判断します。

  • 材料・構成要素の性質
  • 容積・数量・重量
  • 価格(コスト構成)
  • 物品全体における当該材料の役割・機能

小売用セットの3要件

「小売用のセット」として通則3(b)を適用するには、次の3要件をすべて満たす必要があります。

  1. 異なる項に属する二以上の物品からなること
  2. ある特定の必要性を満たすため、または特定の活動を行うために共に包装されていること
  3. 再包装しないで、使用者に直接販売する状態に包装されていること

具体例で理解する

  • 例① サンドイッチとポテトチップスのセット
    • 牛肉入りサンドイッチ(16.02項)とポテトチップス(20.04項)のセット。牛肉(サンドイッチ)が本質的特性を与えていると判断され、16.02項に分類されます。
  • 例② おもちゃ入りチョコレートエッグ
    • 外側がチョコレートで、内側におもちゃの入ったカプセルが内包されているもの。混合・複合品ですが、チョコレートが本質的特性を与えていると判断され、18.06項(チョコレート)に分類されます。

第4章 通則3(c):数字上の配列で最後の項

条文の意味と実務上の位置づけ

「(a)及び(b)の規定により所属を決定することができない物品は、等しく考慮に値する項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。」

通則3(c)は、通則3(a)でも(b)でも分類を決定できなかった場合(例:2つの構成要素が等しく本質的特性を与えており、優劣がつけられない場合など)の**「最後の手段」**です。

等しく競合する複数の項がある場合、関税率表における番号(項番)が後に来るもの、すなわち数字が大きい項を機械的に選びます。実務上ここまで来るケースは稀ですが、分類根拠の最終防衛線として認識しておく必要があります。


第5章 通則3全体の適用フロー

実務でHSコードを決める際の通則3の判断フローは以下の通りです。

  1. 通則1を確認:部注・類注・項の規定で決まれば終了。
  2. 通則2を確認:通則2(b)等の適用で複数の項が競合したら通則3へ。
  3. 通則3(a)を適用:より特殊・限定的な記載の項を選ぶ。決まれば終了。
    • ※各項が物品の「一部のみ」を記載し、等しく特殊とみなされる場合は4へ。
  4. 通則3(b)を適用:本質的特性を与えている材料・構成要素の項を選ぶ。決まれば終了。
  5. 通則3(c)を適用:どうしても決まらない場合のみ、数字上の配列で最後となる項を選ぶ。

第6章 実務担当者が知っておくべき3つのポイント

  • ポイント①:「なぜこの項か」を論理的に説明できるか税関審査や事後調査の場面では、「通則3(b)を適用し、重量とコスト構成から本質的特性がXXにあると判断しYY項とした」と論理的に文書化できることがコンプライアンスリスクの低減につながります。
  • ポイント②:本質的特性の説明は「客観的なデータ」で支える「なんとなくこちらがメインだから」という主観は通用しません。仕様書、重量、価格比率などの客観的なデータを用意して税関に説明できる体制を整えましょう。
  • ポイント③:事前教示制度を積極活用する判断が難しい場合は、輸入前に税関の**「事前教示制度」**を活用することを強くお勧めします。回答は原則3年間尊重され、安心して輸入計画を立てられます。

まとめ:通則3を「道具」として使いこなす

規定内容決め手
通則3(a)特殊限定性の原則より具体的・限定的な記載をしている項が優先
通則3(b)本質的特性の原則物品に重要な特性を与えている要素の項を選ぶ
通則3(c)後順位の原則等しく競合する項のうち、最後(番号が最大)の項を選ぶ

実務では、通則3(b)の「本質的特性」の判断が最もよく議論になります。仕様書・コスト分析・使用用途の3点を整理してから判断に臨むことが、正確な分類の第一歩です。


参考リンク(情報出所)

本記事の作成にあたり参照した公式機関・一次資料です。

免責事項

本記事は、2026年3月16日時点において公開されている公式機関の資料をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。実際のHSコードの決定は商品の詳細な仕様等により異なるため、特定の貨物に対する分類の正確性を保証するものではありません。実際の申告にあたっては、通関士や税関へ必ずご確認ください。

チップレット分類の証拠チェックリスト完全版

8542で行けるかを、名称ではなく証拠で固めるための実務ガイド

半導体業界では、先端パッケージで接続された小さな補助ダイが chiplet と呼ばれ、UCIe は package level の die-to-die I/O を対象にした業界標準として整備されています。けれども、税関実務で chiplet という呼称そのものが税番を決めるわけではありません。分類で問われるのは、輸入時点の構造が第85類の法的定義にどう当てはまるかです。 (Newsroom)

日本税関の2026年輸入統計品目表では、8542 は 8542.31 のプロセッサー及びコントローラー、8542.32 の記憶素子、8542.33 の増幅器、8542.39 のその他に分かれています。公開されている第85類注12では、集積回路をモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、マルチコンポーネント集積回路に整理し、85.41 と 85.42 は 85.23 を除いて他の項に優先するとしています。実務上は、用途説明より先に、構造説明を法文の言葉で出せるかが勝負です。 (税関総合情報)

なぜ、証拠チェックリストが必要なのか

日本税関の事前教示の案内では、照会書に加えて、サンプル、写真、原材料、加工工程の分かる資料などを添えて提出できるとされています。さらに現行の通達では、参考資料に不備がないかを確認し、足りなければ補正や追加資料を求め、提出された照会書と資料等をもとに所属区分を検討すると明記されています。つまり、chiplet 案件では「どの税番を主張するか」より前に、「何を証拠として最初に揃えるか」が重要です。

ビジネス面でも、文書による事前教示は、輸入前に関税率を把握しやすくし、原価計算、輸入計画、販売計画を立てやすくします。しかも、案内資料では、文書による回答内容は全国どこの税関でも原則3年間尊重されると説明されています。chiplet のような境界案件では、分類の安定性そのものが利益率と納期管理に直結します。

公式資料が示す、分類が割れる境界線

同じホール系でも 8541 と 8542 に分かれる

日本税関の分類例では、4個の端子を有するホール素子は、InSb の層を持つフェライト基板とフェライトヨークからなり、リードフレーム上に搭載され、ワイヤボンディングされる構造として 8541.51 に分類されています。これに対し、1つのパッケージ内に2つのリダンダントセンサーを有するデュアルダイホールセンサー集積回路は、2つのセンサーがモノリシック集積回路で、その他の能動又は受動回路素子を含まない構造として 8542.39 に分類されています。似た機能でも、分類を分けるのは用途名ではなく、内部構造です。

モジュールという商品名だけでは決まらない

日本税関の分類例には、別々のプロセスで製造されたトランジスタ、ダイオード、集積回路などを銅のリードフレーム上に搭載し、金属線で結び、樹脂成形した電力モジュールを 8542.39 とした例があります。逆に、日本税関の総説では、85.23 又は 85.42 の MCO とみなせず、個別の機能も持たないメモリーモジュール、たとえば SIMM や DIMM は、16部注2に基づいて分類し、ADP 機械用なら 84.73 項に入ると説明しています。モジュールという名称は、8542 を保証しませんし、8542 を排除もしません。決め手は、どこまでが不可分な集積構造で、どこからが別機能のモジュールや部分品かです。

国際的にも、IC の定義は広がってきた

EU の公式規則でも、2017年1月1日から electronic integrated circuits の定義が multi-component integrated circuits を含むように拡張され、その結果、従来は heading 8542 から外れていた品目が 8542 に分類されるようになったと説明されています。chiplet や advanced packaging の案件で「昔はモジュール扱いだった」という社内記憶だけに頼るのは危険です。制度側も、集積の実態に合わせて定義を広げてきたからです。

実務で使えるチップレット分類の証拠チェックリスト

1. 輸入時点の完成状態を、1枚で説明できるか

最初に必要なのは、輸入する状態そのものの固定です。裸ダイなのか、1パッケージ品なのか、インターポーザ付きなのか、基板実装済みなのかを、外観写真、型番、梱包単位、輸入品目名で一致させてください。税関は照会書と参考資料を前提に審査し、資料不足なら補正や追加提出を求めます。

2. ダイと周辺部品の一覧表を作っているか

第85類注12は、モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO を構成要件で分けています。したがって、ダイ数、センサーの有無、抵抗器、コンデンサー、インダクター、発振系部品の有無を、部品レベルで一覧化しておく必要があります。カタログの機能説明だけでは足りません。部品表とパッケージ構成表が必要です。

3. その他の能動又は受動回路素子の有無を白黒つけているか

第85類注12のマルチチップ集積回路の定義は、その他の能動又は受動回路素子を含まないことを前提にしています。日本税関のデュアルダイホールセンサー IC の分類例でも、その他の能動又は受動回路素子を含まないことが明示されています。ここは、最も争点になりやすいので、BOM と断面図で曖昧さを残さないことが大切です。

4. PCB、キャリア、リードフレームの役割を説明できるか

MCO の定義には、ピン、リード、ボール、ランド、バンプ又はパッドを通して PCB その他のキャリアへ組み立てる部品として一体化されていることが書かれています。一方で、MCO とみなせないメモリーモジュールは、84.73 や 85.48 など別の整理に移ります。つまり、PCB が単なる搭載先なのか、機能を持つ別体ボードなのかを説明できないと、8542 の主張は弱くなります。

5. 写真だけでなく、X線画像や側面図まで用意しているか

日本税関の分類例そのものが、ホール素子の X線画像や、デュアルダイホールセンサー IC の側面図を掲載しています。これは、図面や画像が単なる補足ではなく、内部構造を示す有力な証拠だということです。chiplet 案件では、外観写真だけではなく、X線画像、側面断面図、ダイ配置図、ワイヤボンドやリードフレームの説明図まで揃えるのが安全です。

6. 製造工程と工程別 BOM を提出できるか

税関の案内では、事前教示の際に原材料や加工工程の分かる資料を提出できるとされていますし、通達でも資料不備があれば追加提出を求めるとしています。chiplet は前工程、後工程、先端パッケージ、テスト工程が分かれるため、工程表がないと、どこで不可分の一体物になったのかを説明しにくくなります。工程フローと工程別 BOM は、技術資料であると同時に分類資料でもあります。

7. 商品名ではなく、法文の言葉に置き換えて説明しているか

社内では chiplet package、compute tile、I/O die、advanced package という呼び方で十分でも、税関にはそれだけでは伝わりません。説明文は、第85類注12の言葉、つまりモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO、半導体ベースセンサー、インダクターなどの法文に寄せて書くべきです。名称ではなく、法的定義へのマッピングができて初めて、説明が通関書類になります。 (税関総合情報)

8. 迷った段階で、文書による事前教示に切り替える基準があるか

chiplet 案件は、8541、8542、8473、8543 の境界をまたぐことがあります。資料が揃っているのに社内で見解が割れるなら、通関現場まで持ち込まず、文書による事前教示に切り替える方が合理的です。日本税関の案内では、文書回答は輸入計画と販売計画を立てやすくし、全国で原則3年間尊重されるとされています。経営判断としても、分類の不確実性を早く消す価値は大きいと言えます。

この記事の結論

chiplet 分類で本当に問われるのは、先端技術をどれだけ詳しく知っているかではありません。輸入時点の構造を、税関の法文で、証拠付きで翻訳できるかです。公開資料を並べてみると、税関はすでに、ホール素子、デュアルダイセンサー IC、電力モジュール、メモリーモジュールのような境界事例を、内部構造と一体性で見分けています。chiplet 案件でも、勝ち筋は同じです。名称で押し切らず、証拠で組み立てることです。

参照資料

  1. UCIe Consortium, Specifications。package level の die-to-die I/O 標準に関する公式説明。 (UCIe Consortium)
  2. Intel, Explaining Common Chip Terms。chiplet を small companion dies connected with advanced packaging と説明する公式記事。 (Newsroom)
  3. 日本税関, 輸入統計品目表 85類 2026年1月1日版。8542.31、8542.32、8542.33、8542.39 の現行区分。 (税関総合情報)
  4. 日本税関, 第85類注 12。モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO の定義と、85.41 と 85.42 の優先関係。
  5. 日本税関, 関税率表解説・分類例規 85類。ホール素子、電力モジュール、デュアルダイホールセンサー IC の分類例。
  6. 日本税関, 85類総説。SIMM、DIMM など、MCO とみなせないメモリーモジュールの取扱い。
  7. 日本税関, HS2022 の概要。事前教示で提出できる参考資料と、文書回答のメリット。
  8. 日本税関, 関税法基本通達 第2章。資料不備時の補正、追加資料、補足説明の扱い。
  9. 欧州委員会, Implementing Regulation 2020/524。MCO を含む形に integrated circuits の定義が拡張されたことの公式説明。

免責事項:本記事は公開資料に基づく一般的な情報提供であり、個別貨物の最終的な税番、税率、原産地認定、他法令適用を保証するものではありません。実際の申告前には、最新の法令、分類例規、事前教示制度、所轄税関への確認を行ってください。

貿易実務の基礎|HSコード分類の「通則2」をやさしく解説(未完成品と複数材料)


貿易実務でHSコードを正しく決める際、基本原則である「通則1」で分類しきれない場合に登場するのが「通則2」です。

通則2は、「未完成品・バラ品」と「複数材料の製品」を、完成品や単一材料と同じように扱うためのルールです。 (税関総合情報:関税率表解説(通則))

結論

通則2は大きく以下の2つに分かれます。

  • 通則2(a):未完成品・組み立てていない完成品の扱い
  • 通則2(b):二つ以上の材料からできている製品の扱い

どちらも**「見た目どおりの状態でなく、実質的な性格・特性で分類する」**ことを狙ったルールです。

1. 通則2(a):未完成品・バラ品の考え方

通則2(a)のポイントは一言で言うと、**「ほぼ完成しているなら完成品」「バラで梱包されていても、組み立てて完成品になるなら完成品」**として分類するという考え方です。

内容は次の2つのパートからなります。 (税関総合情報)

  1. 未完成品・不完全な物品:提示の際に、すでに完成品としての「重要な特性(Essential Character)」を持っているものは、完成品と同じ項に分類する。
  2. 未組立て・分解品(ノックダウン品):完成品(または上記により完成品とみなされるもの)をバラして提示している場合は、まとめて完成品と同じ項に分類する。

通則2(a)のイメージ例

ビジネス現場でイメージしやすい例です。

  • 未完成だが重要な特性を持つ例サドルやタイヤがない自転車のフレーム一式。見た目は未完成ですが、「自転車としての形・機能」の重要な特性が明確なため、自転車の完成品の項(87.12など)に分類されます。同じく、画面や内部部品をほぼ備えたスマホ本体で、箱や付属品がない状態のものも、すでにスマホとしての機能・性格を持つため、完成品の項で判断します。
  • 組み立てていない完成品(ノックダウン)の例ボルトで組めばすぐ完成するオフィス家具一式や、溶接・ねじ止めすれば完成する機械が、輸送の都合で分解されて輸入されるケース。これらは部品個々の項ではなく、対象となる家具や機械の「完成品」として分類されます。

このように、「現時点で完成品としての性格がはっきりしているか」「組み立てさえすれば完成品になるか」が判断の軸になります。

【要注意】通則2(a)が使えないケース

すべての未完成品に通則2(a)が自動的に使えるわけではありません。以下の場合は適用外となります。 (税関総合情報)

  • 項や注に「未完成品は別項にする」と明記されている場合
  • まだ完成品としての「重要な特性」がはっきりしない段階のもの(例:ベアリング用の未研摩の鋼球は、ベアリング完成品ではなく「鋼の材料」側で分類される単なる半製品です)
  • 第1部〜第6部(第1類〜第38類)の物品農水産物や化学品などの部類には、原則として通則2(a)は適用されません。通則2(a)は主に機械類や製品類を想定したルールです。

2. 通則2(b):複数材料からなる製品

通則2(b)は、「2つ以上の材料からできている製品」や「混合物」を扱うルールです。 (税関総合情報)

内容をざっくり言うと、以下のようになります。

  • 「ある材料だけでできている」と書かれた項の規定は、他の材料が混ざった製品にも拡大して適用(準用)する
  • 2つ以上の材料からなる製品の分類は、通則3に従って決定する

※訂正ポイント(よくある誤解)

通則2(b)自体で「主な材料はどれか」を決めるわけではありません。通則2(b)はあくまで**「複数材料になった瞬間に、それぞれの材料の項を候補として挙げてよい」と認める入口の役割を果たしています。最終的にどの材料をベースにするか(本質的特性)の決着は、次のステップである「通則3」**に進んで決定します。

通則2(b)のイメージ例

ビジネスでよく出てくる複合品のイメージです。

  • プラスチックと金属からなる複合部品「プラスチック製品の項」「金属製品の項」の両方に候補が出てきます。通則2(b)により「複数材料の製品としても、両方の項を候補にしてよい」とされます。そのうえで、どちらが本質的特性かを通則3で判断します。
  • 布と革を組み合わせたバッグ布の項・革の項、両方に当てはまりそうな場合、通則2(b)で候補を広げたうえで、通則3で主要材料(本質的特性)を判断します。

3. 実務で意識したいポイント

実務担当者向けに、通則2を使うときの着眼点です。

通則2(a)を使うとき

  • 図面・仕様・組立状態を見て、「完成品としての重要な特性」を持っているかを客観的に確認する。
  • 輸送・組立の都合でバラにしているだけ(ノックダウン)なのか、それとも関連性の薄い単なる部品の集合体なのかを見極める。

通則2(b)を使うとき

  • 材料構成(材質の割合%、使用目的、外観・機能)を整理しておく。
  • 複数候補が挙がった際、どの材料がユーザーにとって一番重要か(機能面・価値面で本質的特性を与えているか)を説明できるようにしておく(通則3への準備)。

いずれのケースでも、「なぜそのHSコードにしたのか」を税関や社内外に説明する際、通則2を根拠として論理立てて話せることが、ビジネス上のコンプライアンスと信頼につながります。 (税関総合情報:関税率表解説)

LiDAR・センサーのHS分類はどこで分かれるのか

実務で迷いやすい境界を、通関・原価・製品設計の観点から整理する

LiDARや各種センサーのHS分類は、技術者の呼び方と税関実務の見方がずれやすい典型テーマです。しかも、HSは関税率だけでなく、貿易統計、原産地規則、貿易管理にも広く使われます。日本税関も、文書による事前教示が原価計算、輸入計画、販売計画、通関迅速化に役立つと説明しています。つまり、ここを誤ると、通関の問題にとどまらず、見積り、利益率、納期説明まで連鎖的に崩れます。

結論を先に言うと、LiDARやセンサーは「センサーだから9031」「車載だから8708」といった近道で整理すると危険です。実務では、輸入する物が、半導体ベースの変換器なのか、完成した測距機器なのか、カメラなのか、レーダーなのか、自動調整機器なのか、単なる取付部品なのかを、項の文言と部注・類注に沿って切り分ける必要があります。分類は、まず項の規定と関係する部注・類注から始めるのが基本です。

なぜLiDARとセンサーは実務で迷いやすいのか

社内の製品名とHSの分類単位が一致しない

社内では「LiDARセンサー」「距離センサー」「画像センサー」と一括りに呼ばれがちですが、HSはその呼称ではなく、輸入時の提示状態と法的な機能単位で見ます。半導体ベースセンサーやMCOの定義、システム商品を機能ユニットとして一括分類できる考え方を踏まえると、チップ、封止済みデバイス、モジュール、完成機器、システム、ブラケットでは、出発点そのものが違います。

9031が便利な受け皿に見えてしまう

9031は「測定用又は検査用の機器」という見出しなので、現場では「センサーならとりあえず9031」と流れやすいのですが、実際には第90類の他の項に該当するものを除く残余見出しです。90.15から90.30までと90.32の機器を含まないため、9031は万能箱ではありません。章内で他に特掲がないときに初めて本命になる見出しです。

車載用途が判断を狂わせやすい

車載向けのLiDARやセンサーは、用途だけを見ると8708に寄せたくなります。しかし、第17部注2は、第85類の電気機器と第90類の物品を、車両の部分品及び附属品から原則除外しています。したがって、「自動車に付く」という事実だけで87類に直行するのは危険で、まず85類か90類かを検討する順番が必要です。

実務で使える境界整理

1. デバイス級の半導体ベース変換器なら、まず85.41と85.42を疑う

HS2022では85.41に半導体ベース変換器が明記され、WCOはその範囲拡大によって、従来は90.25、90.26、90.30、90.31、90.32、90.33などに置かれていた一部製品が8541.51又は8541.59へ移り得ると説明しています。日本税関の85類注12も、半導体ベースセンサーやMCOを定義し、同注12の物品については85.41と85.42が、85.23を除き、他の項に優先するとしています。チップ、パッケージドデバイス、MCOの段階で輸入される物は、まず85類から精査するのが安全です。

ここで大事なのは、「LiDAR関連品」と「LiDAR完成品」を同じにしないことです。MEMSミラーの用途例としてLiDARが挙げられることはありますが、それはMEMSミラーという半導体ベースアクチュエーターの説明です。そこから実務上安全に言えるのは、LiDARという名称だけで一律に85.41へ入れるのではなく、輸入対象が変換器そのものなのか、MCOなのか、完成した測距機器なのか、別の機器なのかを分けて考えるべきだという点です。

2. 完成した測距機器なら90.15が強い

90.15は、土地測量用、水路測量用、海洋測量用、水理計測用、気象観測用又は地球物理学用の機器と、測距儀を掲げており、9015.10は測距儀です。日本税関の公開された事前教示回答事例でも、対象物までの距離を計測するレーザー測距計が9015.10-000とされています。営業上は「センサーモジュール」と呼んでいても、輸入品の中心機能が距離の算出と提示であれば、90.15の検討が先に来ます。

比較例として、米CBPの公開裁定でも、Leddar M16-L sensor moduleが9015.80.2000、ultrasonic sensorやultrasonic height sensorが9015.10.4000とされています。日本にそのまま拘束力を持つわけではありませんが、「sensor」という名称よりも距離計測の機能を重視する整理は、実務上の補助線として参考になります。

3. 9031は残余見出しとして使う

90.31は「この類の他の項に該当するものを除く」測定用又は検査用の機器です。90.15項から90.30項までの機器、自動調整機器である90.32を9031から除外する以上、9031は「測定や検査をするけれど、章内にもっと具体的な見出しがないもの」の受け皿であって、「センサー一般の標準コード」ではありません。

比較例として、米CBPではobject locatorなど一部の監視・測定系デバイスが9031.80.8085に分類されています。ここから見えてくるのは、距離計、カメラ、レーダー、自動調整機器のような明確な特掲がない測定・監視機器では、9031が生きる余地があるということです。

4. カメラなら85.25、レーダーなら85.26を先に見る

第90類注1は、テレビジョンカメラ、デジタルカメラ及びビデオカメラレコーダーを85.25に、レーダー、航行用無線機器及び無線遠隔制御機器を85.26に除外しています。ADASやロボティクスの世界では、営業資料に「センサー」と書かれていても、法的には画像取得装置やレーダー装置である場合があるため、90類から考え始めるより、85.25と85.26の除外規定を先に確認したほうが誤判定を減らせます。

5. 測るだけでなく設定値を維持するなら90.32の論点が出る

90.32は、自動調整機器だけを含みます。実際値を連続又は定期的に測定し、外乱に対して要素を安定させ、設定値に維持するよう設計されたものが対象です。単に信号を出すセンサーと、測定結果に基づいて閉ループで設定値を保つ制御機器は、ここで分かれます。センサー本体にECUや制御ロジックが付いている案件では、この境目を曖昧にしないことが重要です。

6. 車載のブラケットや固定具は、本体と別コードになり得る

センサー本体が85類又は90類に属し得る一方で、取付部品は87類へ行くことがあります。日本税関の事前教示回答事例では、自動車の車体にセンサーを固定するプラスチック製ブラケットが8708.29-000、自動車のバンパーにセンサーを固定するプラスチック製ブラケットが8708.10-000とされています。つまり、「センサー用」と一言でまとめると、本体とブラケットのコード差を見落としやすいということです。

7. 部分品は、本体と同じコードになるとは限らない

第90類注2は、部分品及び附属品が、それ自体で84類、85類、90類又は91類の項に当てはまるなら、まずその項に入れると定めています。そのうえで、特定の機器に専ら又は主として使用するものは当該機器の項、その他は90.33という整理です。これは、LiDAR用部品、センサーヘッド用部品、専用ケーブル、専用制御板の扱いを考えるときに非常に重要です。「専用品だから本体と同じ」という発想だけでは足りません。

8. センサーヘッドと制御盤を同時輸入するなら、機能ユニットの検討余地がある

例示にないシステム商品でも、要件を満たせば機能ユニットとして一括分類できる考え方があります。また、一つの機能ユニットを制御する一つの制御盤は、その機能ユニットの一部として扱われます。センサーヘッド、制御盤、電源装置、通信部を同時輸入する案件では、単品分類ではなく、システム全体の主たる機能でみる余地があります。

ただし、条件は緩くありません。全体として一つの特定機能を果たし、各構成要素がその機能に直接寄与し、原則として同時輸入であることなどが必要です。後送される汎用ECUや、補助的な通信装置まで安易に一括扱いできるわけではありません。

ビジネス実務で使える判断フロー

1. まず、輸入単位を切る

最初に確認すべきは、「何を輸入するのか」です。チップか、封止済みデバイスか、MCOか、完成モジュールか、完成機器か、ブラケットか。この切り分けが曖昧だと、85類注12も、90類の機能ユニットの考え方も使えません。

2. 主たる機能を一文で書く

「物理現象を電気信号へ変換する」「対象物までの距離を算出する」「画像を取得する」「電波で検知する」「設定値を維持する」「固定するだけ」など、主たる機能を一文で書き切ると、候補見出しが急に絞れます。これは、項の規定と関係する部注・類注から入るという基本を、社内実務へ落とし込んだやり方です。

3. 9031は最後に回す

9031は残余見出しなので、85.41、85.42、85.25、85.26、90.15、90.32などの具体的な候補を見た後に検討するのが順番です。「迷ったら9031」は、LiDAR・センサー案件では最も危険なショートカットの一つです。

4. 車載案件は、本体と取付部品を分けてBOMを見る

車載センサー案件では、本体は85類や90類、ブラケットは87類というズレが起こり得ます。見積書、BOM、インボイス、パッキングリストの段階から、本体と固定具を分けて設計したほうが、後の修正コストを抑えられます。

5. 争点が残るなら、文書による事前教示を使う

日本税関は、文書による事前教示が原則3年間尊重され、全国どこの税関でも有効で、輸入前の原価計算や通関迅速化に役立つと説明しています。分類境界が揺れやすいLiDARやセンサーは、まさにこの制度と相性のよい分野です。営業が価格を出す前に、文書回答を取りに行く価値があります。

事前教示で出す資料は、何を厚くすべきか

日本税関は、事前教示の際の参考資料として、サンプル、写真、原材料、加工工程の分かるものなどを挙げています。LiDAR・センサー案件では、これに加えて、信号の流れが分かるブロック図、出力が生信号なのか距離値なのか、閉ループ制御の有無、単体輸入か同時輸入かを明示しておくと、論点がかなり早く絞れます。前半は税関の案内、後半はその実務的な補強と考えると整理しやすいです。

まとめ

LiDAR・センサー分類の核心は、「センサー」という言葉を捨て、輸入単位と主たる機能で見ることです。デバイス級の半導体ベース変換器なら85.41と85.42、完成した測距機器なら90.15、他に特掲のない測定・検査機器なら90.31、設定値維持まで行うなら90.32、画像取得装置なら85.25、レーダーなら85.26、取付ブラケットなら87.08という具合に、見出しは実務上はっきり分かれます。この順番で考えるだけでも、社内の議論はかなり整理され、通関事故は減らせます。

参考資料

  1. 日本税関「Classification and the HS」
  2. 日本税関「HS品目表の2022年改正の概要」内 事前教示制度の説明
  3. 日本税関「第85類 関税率表解説」
  4. WCO「HS Nomenclature 2022 Chapter 85」および「Table I」
  5. 日本税関「第90類 関税率表解説」
  6. 日本税関「90類 補説」
  7. 日本税関「第17部 関税率表解説」
  8. 日本税関「レーザー測距計 事前教示回答事例」
  9. 日本税関「センサー固定用ブラケット 事前教示回答事例」
  10. 米CBP公開裁定 N282922
  11. 米CBP公開裁定 N342849

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定貨物の最終的な関税分類、税率、規制適用、通関結果を保証するものではありません。実際の分類は、輸入時の提示状態、最新の関税率表、関連する部注・類注、仕様書、セット構成、取引実態によって変わります。判断が割れる案件では、日本税関の文書による事前教示や、通関士、弁護士等の専門家への確認をご利用ください。

貿易実務の基礎|HSコード分類の最大原則「通則1」をやさしく解説


貿易実務でHSコードを正しく決めるとき、最初に押さえるべきルールが「通則1」です。日本税関は、通則1を4桁の「項」を決めるための基本原則と説明しており、HS品目表は21部・96類・1,227項・5,611号で構成されると案内しています。 (税関総合情報)

結論
通則1の核心は、「表題で決めない。まず項の規定と、関係する部注・類注で決める」 です。通則1で決まらないときにだけ通則2〜5へ進み、6桁の号は通則6で決めます。 (税関総合情報)

1. 通則1とは何か

通則1は、部・類・節の表題は参照のための見出しにすぎず、物品の所属は**「項の規定」「これに関係する部又は類の注の規定」**に従って決める、というルールです。つまり、「果実っぽい」「木材製品っぽい」といった印象ではなく、まず条文を読むのが原則です。 (税関総合情報)

まず見るべき3つ

  • 項の規定:4桁の項の文言そのもの
  • 部注:部全体にかかる定義・除外・優先関係
  • 類注:各類の範囲、定義、除外、境界線

日本税関は、項の規定と関係する部・類の注が最優先の規定であり、品目分類で最初に考慮すると説明しています。 (税関総合情報)

表題は便利だが、根拠ではない

表題は候補を探す入口としては役立ちますが、所属を確定する法的根拠にはなりません。ここを取り違えると、見た目に引っぱられて誤分類しやすくなります。 (税関総合情報)

2. 先に知っておきたい前提:通則1は「4桁の項」を決めるルール

HS分類では、まず4桁の「項」を決め、その後に5桁・6桁の「号」を同じ水準どうしで比較して決めます。日本税関は、通則1〜5を項決定のルール、通則6を号決定のルールと説明しています。この記事は主に、その前段階である4桁の項の決定に焦点を当てています。 (税関総合情報)

なお、日本税関は、6桁までを調べるだけなら「実行関税率表」と「輸出統計品目表」のどちらを見ても違いはないと案内しています。 (税関総合情報)

3. 実務での進め方

STEP 0:まず「物品そのもの」を正確に把握する

材質、用途、形状、構造、加工の程度、セット品かどうかなどを先に固めます。ここが曖昧だと、その後にどれだけ条文を読んでも分類はぶれます。 (税関総合情報)

STEP 1:表題で候補の項を探す

部・類・節の表題を使って、おおまかな候補を探します。ただし、この段階はあくまで当たりをつけるだけです。表題そのもので確定してはいけません。 (税関総合情報)

STEP 2:項・部注・類注を読んで絞り込む

ここが通則1の本体です。候補となる項の文言を読み、関係する部注・類注に**「含む」「含まない」「〜とみなす」「〜とは…をいう」**といった規定がないかを確認します。 (税関総合情報)

STEP 3:関税率表解説や分類例規で裏づける

日本税関の関税率表解説は、WCOのExplanatory Notes(EN)を基にした通達で、項や注の範囲、含む物品・含まない物品、技術的な見分け方などを詳しく示しています。加えて、分類例規や事前教示回答事例も、実務上の判断材料として役立ちます。 (税関総合情報)

STEP 4:最後に6桁の号を決める

4桁の項が決まったら、次は同じ水準の号どうしを比べて6桁を決めます。ここは通則6の場面です。 (税関総合情報)

4. 「注」がどんな役割を果たすのか

日本税関は、注は項や号の範囲相互関係優先順位を明確にするために置かれていると説明しています。典型的には、次のような形で現れます。 (税関総合情報)

  • この部(類・号)には次の物品を含まない
  • ○○には△△を含む
  • 第○○項には△△のみを含む
  • ○○の物品は第○○項に属する
  • ○○は△△とみなす
  • この表において○○とは、△△をいう

実務では、注を「役割の名前」で覚えるより、こうした条文パターンで読むほうが見落としを防ぎやすいです。 (税関総合情報)

5. 通則1の具体例

オリーブは「果実っぽい」から第8類、とは限らない

第7類注2は、第07.09項から第07.12項まででいう「野菜」にオリーブを含むと定めています。つまり、生鮮オリーブは、見た目の印象だけで第8類に寄せるのではなく、第7類の注を読んで判断する必要があります。まさに「表題より注が優先」の典型例です。 (税関総合情報)

コルク製の履物は、第45類ではなく第64類へ

第45類注1は、第45類に第64類の履物およびその部分品を含まないと明記しています。したがって、「材質がコルクだから45類」とは言えません。コルク製サンダルや靴は、まず第64類側を検討することになります。 (税関総合情報)

「木製の家具」は、思ったより単純ではない

元の文では「木製の家具 → 44類ではなく 9403.60」と書かれていましたが、ここは少し精密にしたほうが安全です。第44類注1は第94類の物品を44類から除外していますが、同時に44.20項には**「第94類に属しない木製の家具」という文言もあります。また、第94類の解説では、「家具」は床や地面に置いて使用する可動性のある実用品**などとして整理されています。つまり、木製であることだけでも、日常語で「家具」と呼ばれることだけでも足りず、まず第94類の家具概念に当たるかを確認する必要があります。 (税関総合情報)

6. 見落としやすい補足

「注」と「備考」は別物

日本税関は、通則や一部の部・類の末尾にある備考について、HS品目表そのものには含まれず、日本が独自に設けたものだと説明しています。実務では「注」と「備考」を混同しないことが大切です。 (税関総合情報)

「ペレット」の例は、置かれている場所ごとに確認する

元の文にあった「ペレット」の例はやや不正確でした。実際には、日本税関の条文上、第2部注1第4部注1第3類注2、さらに**第44類号注1(木質ペレット)**のように、部注・類注・号注のそれぞれに関連規定があります。用語の定義は、どこに置かれているかで効力範囲が変わるため、条文番号まで正確に追うのが重要です。 (税関総合情報)

迷ったら、事前教示を使う

輸入予定貨物については、税関に事前教示を照会し、所属区分や関税率などの回答を文書で受ける制度があります。一定の条件のもとで、その回答は申告審査の際に尊重されるため、判断に迷う物品ほど活用価値があります。 (税関総合情報)

まとめ

通則1の本質は、**「見出しで決めず、条文で決める」**ことです。まず4桁の項を候補として拾い、関係する部注・類注を確認し、それでも迷うときに関税率表解説や分類例規で裏づける。この順番を守るだけで、分類の精度はかなり上がります。日本税関も、通則1を分類の基本原則と位置づけ、多くの物品は通則1で整理されると説明しています。 (税関総合情報)