チップレット分類の証拠チェックリスト完全版

8542で行けるかを、名称ではなく証拠で固めるための実務ガイド

半導体業界では、先端パッケージで接続された小さな補助ダイが chiplet と呼ばれ、UCIe は package level の die-to-die I/O を対象にした業界標準として整備されています。けれども、税関実務で chiplet という呼称そのものが税番を決めるわけではありません。分類で問われるのは、輸入時点の構造が第85類の法的定義にどう当てはまるかです。 (Newsroom)

日本税関の2026年輸入統計品目表では、8542 は 8542.31 のプロセッサー及びコントローラー、8542.32 の記憶素子、8542.33 の増幅器、8542.39 のその他に分かれています。公開されている第85類注12では、集積回路をモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、マルチコンポーネント集積回路に整理し、85.41 と 85.42 は 85.23 を除いて他の項に優先するとしています。実務上は、用途説明より先に、構造説明を法文の言葉で出せるかが勝負です。 (税関総合情報)

なぜ、証拠チェックリストが必要なのか

日本税関の事前教示の案内では、照会書に加えて、サンプル、写真、原材料、加工工程の分かる資料などを添えて提出できるとされています。さらに現行の通達では、参考資料に不備がないかを確認し、足りなければ補正や追加資料を求め、提出された照会書と資料等をもとに所属区分を検討すると明記されています。つまり、chiplet 案件では「どの税番を主張するか」より前に、「何を証拠として最初に揃えるか」が重要です。

ビジネス面でも、文書による事前教示は、輸入前に関税率を把握しやすくし、原価計算、輸入計画、販売計画を立てやすくします。しかも、案内資料では、文書による回答内容は全国どこの税関でも原則3年間尊重されると説明されています。chiplet のような境界案件では、分類の安定性そのものが利益率と納期管理に直結します。

公式資料が示す、分類が割れる境界線

同じホール系でも 8541 と 8542 に分かれる

日本税関の分類例では、4個の端子を有するホール素子は、InSb の層を持つフェライト基板とフェライトヨークからなり、リードフレーム上に搭載され、ワイヤボンディングされる構造として 8541.51 に分類されています。これに対し、1つのパッケージ内に2つのリダンダントセンサーを有するデュアルダイホールセンサー集積回路は、2つのセンサーがモノリシック集積回路で、その他の能動又は受動回路素子を含まない構造として 8542.39 に分類されています。似た機能でも、分類を分けるのは用途名ではなく、内部構造です。

モジュールという商品名だけでは決まらない

日本税関の分類例には、別々のプロセスで製造されたトランジスタ、ダイオード、集積回路などを銅のリードフレーム上に搭載し、金属線で結び、樹脂成形した電力モジュールを 8542.39 とした例があります。逆に、日本税関の総説では、85.23 又は 85.42 の MCO とみなせず、個別の機能も持たないメモリーモジュール、たとえば SIMM や DIMM は、16部注2に基づいて分類し、ADP 機械用なら 84.73 項に入ると説明しています。モジュールという名称は、8542 を保証しませんし、8542 を排除もしません。決め手は、どこまでが不可分な集積構造で、どこからが別機能のモジュールや部分品かです。

国際的にも、IC の定義は広がってきた

EU の公式規則でも、2017年1月1日から electronic integrated circuits の定義が multi-component integrated circuits を含むように拡張され、その結果、従来は heading 8542 から外れていた品目が 8542 に分類されるようになったと説明されています。chiplet や advanced packaging の案件で「昔はモジュール扱いだった」という社内記憶だけに頼るのは危険です。制度側も、集積の実態に合わせて定義を広げてきたからです。

実務で使えるチップレット分類の証拠チェックリスト

1. 輸入時点の完成状態を、1枚で説明できるか

最初に必要なのは、輸入する状態そのものの固定です。裸ダイなのか、1パッケージ品なのか、インターポーザ付きなのか、基板実装済みなのかを、外観写真、型番、梱包単位、輸入品目名で一致させてください。税関は照会書と参考資料を前提に審査し、資料不足なら補正や追加提出を求めます。

2. ダイと周辺部品の一覧表を作っているか

第85類注12は、モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO を構成要件で分けています。したがって、ダイ数、センサーの有無、抵抗器、コンデンサー、インダクター、発振系部品の有無を、部品レベルで一覧化しておく必要があります。カタログの機能説明だけでは足りません。部品表とパッケージ構成表が必要です。

3. その他の能動又は受動回路素子の有無を白黒つけているか

第85類注12のマルチチップ集積回路の定義は、その他の能動又は受動回路素子を含まないことを前提にしています。日本税関のデュアルダイホールセンサー IC の分類例でも、その他の能動又は受動回路素子を含まないことが明示されています。ここは、最も争点になりやすいので、BOM と断面図で曖昧さを残さないことが大切です。

4. PCB、キャリア、リードフレームの役割を説明できるか

MCO の定義には、ピン、リード、ボール、ランド、バンプ又はパッドを通して PCB その他のキャリアへ組み立てる部品として一体化されていることが書かれています。一方で、MCO とみなせないメモリーモジュールは、84.73 や 85.48 など別の整理に移ります。つまり、PCB が単なる搭載先なのか、機能を持つ別体ボードなのかを説明できないと、8542 の主張は弱くなります。

5. 写真だけでなく、X線画像や側面図まで用意しているか

日本税関の分類例そのものが、ホール素子の X線画像や、デュアルダイホールセンサー IC の側面図を掲載しています。これは、図面や画像が単なる補足ではなく、内部構造を示す有力な証拠だということです。chiplet 案件では、外観写真だけではなく、X線画像、側面断面図、ダイ配置図、ワイヤボンドやリードフレームの説明図まで揃えるのが安全です。

6. 製造工程と工程別 BOM を提出できるか

税関の案内では、事前教示の際に原材料や加工工程の分かる資料を提出できるとされていますし、通達でも資料不備があれば追加提出を求めるとしています。chiplet は前工程、後工程、先端パッケージ、テスト工程が分かれるため、工程表がないと、どこで不可分の一体物になったのかを説明しにくくなります。工程フローと工程別 BOM は、技術資料であると同時に分類資料でもあります。

7. 商品名ではなく、法文の言葉に置き換えて説明しているか

社内では chiplet package、compute tile、I/O die、advanced package という呼び方で十分でも、税関にはそれだけでは伝わりません。説明文は、第85類注12の言葉、つまりモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO、半導体ベースセンサー、インダクターなどの法文に寄せて書くべきです。名称ではなく、法的定義へのマッピングができて初めて、説明が通関書類になります。 (税関総合情報)

8. 迷った段階で、文書による事前教示に切り替える基準があるか

chiplet 案件は、8541、8542、8473、8543 の境界をまたぐことがあります。資料が揃っているのに社内で見解が割れるなら、通関現場まで持ち込まず、文書による事前教示に切り替える方が合理的です。日本税関の案内では、文書回答は輸入計画と販売計画を立てやすくし、全国で原則3年間尊重されるとされています。経営判断としても、分類の不確実性を早く消す価値は大きいと言えます。

この記事の結論

chiplet 分類で本当に問われるのは、先端技術をどれだけ詳しく知っているかではありません。輸入時点の構造を、税関の法文で、証拠付きで翻訳できるかです。公開資料を並べてみると、税関はすでに、ホール素子、デュアルダイセンサー IC、電力モジュール、メモリーモジュールのような境界事例を、内部構造と一体性で見分けています。chiplet 案件でも、勝ち筋は同じです。名称で押し切らず、証拠で組み立てることです。

参照資料

  1. UCIe Consortium, Specifications。package level の die-to-die I/O 標準に関する公式説明。 (UCIe Consortium)
  2. Intel, Explaining Common Chip Terms。chiplet を small companion dies connected with advanced packaging と説明する公式記事。 (Newsroom)
  3. 日本税関, 輸入統計品目表 85類 2026年1月1日版。8542.31、8542.32、8542.33、8542.39 の現行区分。 (税関総合情報)
  4. 日本税関, 第85類注 12。モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO の定義と、85.41 と 85.42 の優先関係。
  5. 日本税関, 関税率表解説・分類例規 85類。ホール素子、電力モジュール、デュアルダイホールセンサー IC の分類例。
  6. 日本税関, 85類総説。SIMM、DIMM など、MCO とみなせないメモリーモジュールの取扱い。
  7. 日本税関, HS2022 の概要。事前教示で提出できる参考資料と、文書回答のメリット。
  8. 日本税関, 関税法基本通達 第2章。資料不備時の補正、追加資料、補足説明の扱い。
  9. 欧州委員会, Implementing Regulation 2020/524。MCO を含む形に integrated circuits の定義が拡張されたことの公式説明。

免責事項:本記事は公開資料に基づく一般的な情報提供であり、個別貨物の最終的な税番、税率、原産地認定、他法令適用を保証するものではありません。実際の申告前には、最新の法令、分類例規、事前教示制度、所轄税関への確認を行ってください。

 

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投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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