AI時代の通関コンプライアンス。CBPが示す「自動化と法的責任」の境界線

2026年2月12日

物流DXの進展に伴い、HSコード(統計品目番号)の特定や関税率の計算に人工知能(AI)を活用する企業が急増しています。膨大な商品データを瞬時に処理し、最適なコードを提案してくれるAIツールは、業務効率化の強力な武器です。

しかし、米国税関・国境警備局(CBP)などの税関当局は、こうした技術導入を歓迎しつつも、コンプライアンスの観点から重要な警告を発し続けています。それは、どれほど高度なAIを使用したとしても、誤った申告に対する法的責任は100パーセント輸入者にあるという原則です。

本稿では、CBPが提示するAIガバナンスの指針を紐解き、AIツールと共存しながらリスクを管理するための実務ポイントを解説します。

技術は進化しても「輸入者の責任」は変わらない

AI導入にあたって最も理解しておくべきは、責任の所在です。CBPは、AI活用に関する指針(Directive 1450-030など)やIT戦略において、技術はあくまで人間の意思決定を支援するものであり、法的責任を代替するものではないと明記しています。

税関近代化法が定める「合理的な注意」とは

米国の通関実務には、1993年の税関近代化法(Mod Act)によって定められた合理的な注意(Reasonable Care)という概念があります。これは、輸入者が自らの責任において、貨物の分類、評価、原産地を正しく申告するために最大限の努力を払わなければならないという法的義務です。

CBPのスタンスは明確です。AIツールが提示したHSコードをそのまま使用して誤申告が発生した場合、輸入者は合理的な注意を怠ったとみなされる可能性があります。「AIがそう判定したから」という理由は、過失(Negligence)の免責事由にはなりません。むしろ、検証なしに自動化ツールに依存することは、注意義務違反のリスクを高める行為と捉えられかねません。

AIの判断ミスは「過失」とみなされるリスク

AIツール、特に機械学習や生成AIを用いたモデルは、過去のデータに基づいて確率論的に最もらしい答えを導き出します。しかし、貿易の世界では、わずかな材質の違いや用途の差でHSコードが変わり、関税率が大きく変動することが日常茶飯事です。

ブラックボックス化する判定プロセスへの懸念

AIのリスクの一つは、なぜそのコードを選んだのかという根拠が不明瞭になりがちな点です。税関事後調査(監査)において、調査官からHSコードの選定根拠を求められた際、「システムが自動出力した」としか答えられない場合、企業は説明責任を果たしていないと判断されます。

CBPはAIの透明性と説明責任(Accountability)を重視しており、人間が理解できないブラックボックスな判定プロセスに依存すること自体をコンプライアンス上のリスク要因としています。

実務担当者が構築すべき「Human-in-the-loop」体制

では、企業はAIツールをどのように活用すべきなのでしょうか。CBPや世界税関機構(WCO)が推奨しているのが、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)、つまり人間が関与するプロセスの構築です。

AIを「相棒」にし、人間が「責任者」になる

具体的には、以下の3つのステップを業務フローに組み込むことが推奨されます。

AIによる一次スクリーニング

AIツールを使用して、HSコードの候補を絞り込みます。ここで提示されたコードはあくまで「提案」として扱います。

専門家による最終検証

通関士や社内の専門知識を持つ担当者が、AIの提案したコードが最新の関税率表(HTS)や解説、過去の分類事例(Rulings)と整合しているかを確認します。

判断根拠の記録

最終的にそのコードを採用した理由を、AIのログではなく、人間の言葉で記録に残します。これが将来の監査に対する強力な防御となります。

まとめ

AIは貿易実務を効率化する素晴らしい技術ですが、それは「魔法の杖」ではありません。CBPによる指針は、技術が進歩すればするほど、それを使う人間のプロフェッショナリズムと法的責任が問われることを示唆しています。

自動化の波に乗り遅れないためには、AI任せにするのではなく、AIを使いこなすためのガバナンス体制を社内に確立することが、これからの貿易担当者に求められる最大のスキルとなるでしょう。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。