欧州物流の新たな関所。ICS2フェーズ3「2026年2月3日」完全義務化がもたらす衝撃

2026年2月8日 | 欧州物流・通関規制 | 読了目安:5分


2026年2月3日、欧州連合(EU)の輸入管理システム「ICS2(Import Control System 2)」のフェーズ3(リリース3)における重要な技術的移行期限が到来しました。

これは、EU域内に運び込まれるすべての海上、道路、鉄道貨物に対して、セキュリティ情報の事前申告を義務付ける新しいルールの「完全適用」が開始されたことを意味します。これまで一部認められていた古いメッセージ形式や暫定的な運用が終了し、厳格な運用フェーズへと突入しました。

本記事では、この「2月3日の壁」を越えて、日本企業が欧州との物流を維持するために不可欠な対応策について深掘り解説します。

なぜ「2月3日」が分水嶺だったのか

ICS2は、テロ対策や不正物品の流入阻止を目的とした、EUの新しい税関セキュリティプログラムです。航空貨物(フェーズ1、2)ですでに先行導入されていましたが、今回のフェーズ3は、物流の大動脈である「海上輸送」、および「道路・鉄道輸送」を対象としています。

2026年2月3日は、これら陸・海ルートにおける事前申告(ENS:Entry Summary Declaration)のデータ形式に関し、古いバージョン(v2など)の使用が完全に停止され、新しい「v3メッセージ」への完全移行が義務付けられた技術的な締め切り日でした。

これ以降、古いシステム形式で送信されたデータはEU税関のシステムで拒絶されることになり、実質的な「輸入不許可」と同じ扱いを受けます。もはや「知らなかった」や「システム改修が間に合わない」という言い訳が通用しない段階に入ったのです。

求められるデータ精度の劇的向上

この完全義務化により、企業が提出すべきデータ要件は極めて厳格になりました。特に以下の3点は、不備があれば即座に物流停止につながる重要な要素です。

HSコード(6桁)の完全一致

これまでは品名(Description)の記述だけで通関できたケースもありましたが、ICS2では「最低6桁のHSコード」の入力が必須です。しかも、そのコードはEUの関税分類(TARIC)と整合性が取れていなければなりません。曖昧なコードや誤ったコードは、AIによるリスク分析で弾かれる対象となります。

EORI番号による取引先特定

輸出者だけでなく、輸入者(EU側のバイヤー)や通知先(Notify Party)についても、EUの事業者登録番号である「EORI番号」の正確な記載が求められます。住所や社名だけでは不十分であり、有効なEORI番号がない取引先への出荷は、申告エラーとなります。

サプライチェーンの可視化

誰が売り、誰が買い、どこの倉庫を経由したか。ICS2は商流と物流の完全なリンクを要求します。フォワーダー任せにしていた「ハウスB/L(House Bill of Lading)」レベルの詳細情報も、船積み前に申告しなければなりません。

日本企業が直面する3つのリスク

2月3日以降、対応が不十分な企業は以下のリスクに直面しています。

船積み不可(Do Not Load)の指令

ICS2の最大の特徴は、積載前のリスク評価です。申告データに不備がある場合、あるいはセキュリティリスクありと判断された場合、出発地の港(日本やアジアの港)で「船積み禁止(Do Not Load)」の命令が下されます。貨物は欧州に向けて出港することすらできません。

税関検査による大幅な遅延

データは送信できたとしても、内容に疑義がある場合、EU到着後に「情報の追加要求(RFI)」や「物理的な検査(Do Not Unload)」の対象となります。これにより、数日から数週間の納期遅延が発生し、ジャストインタイムの製造ラインや販売計画に甚大な影響を与えます。

制裁とコンプライアンス違反

不正確な申告を繰り返す事業者は、EU税関のリスクプロファイルで「高リスク」と認定され、将来的なすべての貨物が検査対象となる可能性があります。また、加盟国によっては罰金が科されるケースも出てきます。

まとめ:今すぐ点検すべきアクション

「2026年2月3日」は過ぎ去りましたが、混乱はこれからが本番です。日本企業の物流担当者は、直ちに以下の点検を行ってください。

まずは、利用しているフォワーダーに対し、自社の貨物がICS2の要件を満たして正常に申告されているか確認することです。特に、「ハウスB/LレベルでのHSコード提出」が確実に行われているかどうかが肝要です。

次に、マスターデータの整備です。EU向け製品のHSコードが最新の2022年版(または2027年以降の改正案)に対応しているか、取引先のEORI番号に変更はないか、定期的な洗い出しが必要です。

ICS2は「デジタルな国境」です。物理的な距離に関わらず、データが国境を越えられなければ、モノも国境を越えられません。この厳格な現実を直視し、高精度なデータ管理体制を構築した企業だけが、欧州市場での信頼とシェアを守り抜くことができます。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

WCO HS2028相関表をビジネスで使う前に知るべきライセンスと機械アクセスの現実

2028年1月1日に発効予定のHS2028は、通関実務だけでなく、品目マスタ、原産地管理、関税コスト試算、輸出入システム改修にまで影響が及ぶイベントです。WCOは、HS2028改正が受諾された後の実装期間に、相関表の作成や関連ツールの更新などを進め、各国が移行できるよう準備を進めると明記しています。(世界 Customs Organization)

この移行で多くの企業が最初に手を伸ばすのがWCO相関表です。ただし、相関表は便利な一方で、プロジェクトを止めかねない二つの制約があります。

1つ目はライセンス。2つ目は機械アクセス。
この二つを後回しにすると、相関表を入手できても、社内で使い回せない、システムに組み込めない、外部顧客向けサービスに載せられない、という形で詰まります。

以下では、ビジネスマンが意思決定しやすい形で、HS2028相関表の性格と、ライセンスと機械アクセスの論点を掘り下げます。


1. HS2028相関表は「変換表」ではなく「移行の地図」

1-1. そもそもHS2028相関表はいつ必要になるか

WCOは、HS2028改正が受諾された後、2028年1月1日の発効に向けた実装期間で相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
また、HS委員会はHS2022とHS2028の相関表の作成に関する議論を開始し、相関表の形式改善も採択したと公表されています。これは、相関表が実務上の中核ツールになる前提で準備が進んでいることを示唆します。(世界 Customs Organization)

企業目線で言い換えると、相関表は次の二つをつなぐ設計図です。

  • 今の品目マスタや取引データが、HS2028でどこに移るか
  • その移動が、単純な置換か、分割や統合を伴うか

この設計図がない状態でシステム改修を進めると、後工程でマッピングの作り直しが起きやすく、コストも遅延も膨らみます。

1-2. 相関表は「分類決定」ではない

ここで重要なのが、WCOが過去版の相関表について、分類決定そのものではなく、実装を助けるガイドであり法的地位を持たないと明記している点です。(世界 Customs Organization)

ビジネス実務では、相関表をそのまま自動変換ルールにしてしまいがちです。しかし、相関表はあくまで移行を円滑にするための参照であり、個別品目の最終的な分類判断は、各国税関の運用や法令、解釈情報に依存します。相関表はスタート地点であり、ゴールではありません。

1-3. 1対1の置換が少ない理由と、exの読み方

相関表は、次のようなパターンを含みます。

  • 単純な番号変更だが、範囲は同じ
  • 番号は同じだが、範囲が広がる、または狭まる
  • 1つの旧コードが複数の新コードに分割される
  • 複数の旧コードが1つの新コードに統合される

過去版の相関表では、旧版側にexが付くケースは、新版のコードが旧版コードの範囲の一部だけを取ったことを示す、と説明されています。(世界 Customs Organization)
つまり、exが付いた行は、機械的な置換をすると誤分類リスクが高いゾーンです。

経営側が押さえるべきポイントはシンプルです。
相関表が公開されたら、まずは1対1の置換で終わる領域と、要人手判定の領域を切り分け、後者を重点管理する。これが最短ルートです。


2. ライセンスの制約:相関表を使える会社と使えない会社の差はここで決まる

2-1. WCOコンテンツは知的財産として扱われる

WCO Trade Toolsの利用条件では、WCOが出版物等の知的財産権を保有し、無断での複製、配布、改変などを行わない旨が示されています。無償提供の場合も含む、とされています。(WCOTRADE Tools)

ここで誤解が起きやすいのが、次の二つです。

  • 閲覧できる = 自社システムへ複製してよい、ではない
  • 無償で入手できる = 再配布してよい、ではない

実務で問題になりやすいのは、相関表を社内の品目マスタ管理システムに取り込み、関係部署に配布し、さらに社外向けの顧客ポータルにも掲載してしまうケースです。社内だけの利用でも、複製や共有の範囲が広がるほど、契約や規約の確認が必要になります。

2-2. ビジネスで見落としがちなライセンス論点

相関表やHS関連情報の取り扱いでは、次の観点を先に決めておくと、後で詰まりません。

  1. 利用目的
    内部の分類作業、社内教育、顧客向けの検索機能、SaaSへの組み込みなど、目的で必要な権利が変わります。
  2. 利用範囲
    国内拠点だけか、海外子会社や委託先も含むのか。グループ全体での共有を想定するなら、最初から契約設計が必要です。
  3. 再配布の有無
    顧客に配布する、あるいは顧客が閲覧できる画面に表示する場合は、社内利用とは別レベルの論点になります。
  4. データ加工の有無
    相関表を加工して自社独自のマッピング表を作る場合、派生物として扱われ得ます。どこまでが許容されるかは契約条件に依存します。

この判断は法務だけの仕事ではありません。どの部署が、どのシステムで、どのデータを、誰に提供するかという情報設計そのものです。


3. 機械アクセスの制約:PDFをCSVにする前に立ち止まるべき理由

3-1. 人が読むためのアクセスと、システムが読むためのアクセスは別物

WCO Trade ToolsのFAQでは、WCOのコンテンツが書籍等のオフラインだけでなく、オンラインのデータベースや構造化コンテンツ、APIといった形でも提供される旨が示されています。(WCOTRADE Tools)
また、WCO Trade Tools自体は、HS相関表を含む機能を提供すると説明されています。(WCOTRADE Tools)

ここから読み取れる実務上のポイントは次の通りです。

  • 画面で閲覧する前提の提供形態がある
  • 企業システムに組み込む前提の提供形態も用意され得る

つまり、単純にダウンロード資料を社内で加工して取り込むのではなく、正式な機械アクセスの選択肢があり得るということです。

3-2. 公式の統合手段としてのAPIとライセンスオプション

WCO News Magazineの記事では、WCO Trade Toolsの機能を自社アプリやオンラインサービスに組み込むために、APIソリューションやライセンスオプションが用意されている旨が説明されています。(mag.wcoomd.org)
これは、機械アクセスが単なる技術の話ではなく、契約とセットで提供されるビジネス商品であることを意味します。

企業がここで判断すべきなのは、次の分岐です。

  • 少人数が閲覧し、手作業でマッピングを作れる
    画面閲覧中心の運用で足りる可能性が高い
  • 品目点数が多く、定期的に自動チェックや社内連携が必要
    公式の機械アクセス手段を検討したほうが、長期的に安いことがある
  • 顧客向けに検索やマッピング機能を提供したい
    外部提供が前提なので、契約条件の確認が必須

3-3. 技術面の落とし穴は「アクセスできるのに使えない」

WCO Trade Toolsは、インターネット接続さえあれば、主要ブラウザや端末でアクセスできるように設計されていると説明されています。(WCOTRADE Tools)
一方で、これはあくまで人が閲覧する話です。大量データの自動取得やシステムへの恒常的な組み込みは、規約や契約が別建てになる可能性があります。

機械アクセスを曖昧にしたまま進めると、移行プロジェクトの終盤で次の問題が起きます。

  • マッピングは完成したが、社内システムで再現できない
  • 監査対応で、データの出所と権利を説明できない
  • 外部顧客向け機能が、権利面でリリースできない

この手戻りは、IT予算よりも経営信用を削ります。


4. HS2028移行を止めないための実務設計

ここからは、ライセンスと機械アクセスを前提に、相関表をどうプロジェクトに組み込むかを整理します。

4-1. まず、相関表を置く場所を決める

相関表は、単なる資料ではなく、移行プロジェクトの中核データです。置き場所の候補は大きく三つあります。

  1. ExcelやPDFのまま、担当者が参照する
  2. 部門共有のマッピング表として、統制された場所に保存する
  3. マスタ管理システムに取り込み、業務フローに組み込む

2から3へ進むほど、ライセンスと機械アクセスの要件が重くなります。最初から3を目指すなら、契約確認を先に終わらせるのが合理的です。

4-2. データモデルは必ず1対多を許容する

相関表は、旧コードと新コードが必ずしも1対1で対応しないことがあります。複数の対応候補が併記され得ることや、国や地域の運用差で相関が分かれる可能性も、過去版で明示されています。(世界 Customs Organization)

したがって、システム設計では次の形を前提にすると安全です。

  • 旧HSコード
  • 新HSコード
  • 対応関係のタイプ
    例:番号変更、範囲変更、分割、統合、部分移動など
  • 備考や判断根拠の格納欄
  • 版管理
    相関表は更新され得るため、いつの版に基づくかを残す必要があります。(世界 Customs Organization)

4-3. 相関表は更新され得る前提で運用する

過去版の相関表では、相関表が改訂や変更の対象になり得ること、最新版はWCOサイトに掲載されることが明記されています。(世界 Customs Organization)
この性格をそのまま実務に落とすと、次が必須になります。

  • 相関表の取得日と版を記録する
  • 重要品目は、版更新時に差分検知できるようにする
  • 社内マッピング表に、更新プロセスを設ける

これがないと、2027年後半から2028年にかけて、同じ品目が部署ごとに異なる新コードで運用される事故が起きます。


5. まとめ:相関表はデータではなくプロジェクトの起点

HS2028の相関表は、移行を一気に前に進める推進力になります。ただし、相関表の扱いを誤ると、次の二つが同時に起きます。

  • ライセンス面で、配布や組み込みが止まる
  • 機械アクセス面で、運用に載せられず止まる

WCOは、発効に向けた実装期間に相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
企業側も、相関表を手に入れてから考えるのではなく、入手と同時に使える状態を作ることが、移行コストを最小化する最短ルートです。


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免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引、契約、法令解釈、通関判断に対する助言を構成するものではありません。HSコードの分類、相関表の利用、ライセンスや利用条件の解釈については、必ず最新の公式情報および契約条件を確認のうえ、必要に応じて通関士、税関当局、弁護士等の専門家に相談してください。本記事の内容に基づいて行った行為およびその結果について、筆者および作成者は一切の責任を負いません。