EVバッテリー分類:監査で問われる3つのリスク

はじめに:分類は「関税」だけでは終わらない

EVバッテリーは高額で、国際物流では危険物輸送や環境規制とも接続しやすい商材です。そのため、品目分類(HSコード)が一度ずれると、関税・特恵・規制対応が連鎖し、税関の事後調査(ポストクリアランス監査)で説明責任が一気に重くなります。

制度面でも、世界貿易機関の貿易円滑化協定は、各国が事後調査を採用し、結果をリスク管理に活用することを求めています。(WTO)
つまり、監査は例外イベントではなく、前提として組み込むべきリスクです。

本稿では、EVバッテリー分類を監査目線で深掘りし、監査で問われやすい3つのリスクと、ビジネス側で実装できる対策まで落とし込みます。なお、品目分類は最終的に各国税関の判断が前提です。迷う論点は事前教示(アドバンスルーリング)等で当局見解を取りに行くことが、監査コストを最小化します。(税関総合情報ポータル)

前提整理:なぜEVバッテリー分類は監査論点になりやすいのか

監査は「申告の整合性」を再構成してくる

監査の本質は、結論としての税番よりも、当時の申告が取引実態と整合していたかの検証です。世界税関機構のPCAガイドラインでも、事後調査は企業の商取引システムや契約、会計・非会計記録などの記録群を検証してコンプライアンスを測る、と整理されています。(世界関税機関)
EVバッテリーは、仕様変更や梱包形態の違いが起きやすく、この整合性が崩れやすい領域です。

バッテリーは税・物流・環境が連鎖しやすい

バッテリーは、通関分類だけでなく、危険物輸送の試験証跡、返品・回収品の取り扱い、国境を越える場合の環境手続など、社内の複数部門データがつながります。部門ごとに言葉がずれると、監査で矛盾として浮き上がります。

提示形態で分類論点が変わる

セル、モジュール、パック、さらに制御・保護部品とのセットのされ方で、説明が難しくなります。ここで重要なのは、機能として蓄電池なのか、あるいは別の機器・部品として提示されているのかを、当時の提示形態に即して説明できるかです。

まず押さえる分類の土台:85.07(蓄電池)とバッテリーパック

HS上の位置づけ

HS2022では、85.07が電気式蓄電池で、リチウムイオンは8507.60に位置づきます。(世界関税機関)
実務では、まず85.07を起点に、各国の国内細分に落とす流れになります。

バッテリーパックが85.07に属し得る理由

監査で誤りが出やすいのが、いわゆるバッテリーパックです。日本税関の関税率表解説では、セルを連結する回路を有する蓄電池(バッテリーパック)は、接続子、温度制御装置、回路保護装置、保護ハウジングなどの補助機構を含むか否かを問わず85.07項に属し、たとえ特別な装置とともに使用されるよう設計されていても85.07項に属する、と明確に整理されています。
この一文を説明できるかどうかが、監査での勝敗を分けやすいポイントです。

同じ解説では、使用済み蓄電池やそのくずは85.49に区分されることも明示されています。返品・回収品が絡む場合、ここがリスク3に直結します。

監査で問われる3つのリスク

リスク1:課税リスク(追徴、加算、延滞、そして利益率の毀損)

分類のずれが最初に刺さるのは課税です。税差が大きいほど、監査では重要度が上がります。加えて、特恵関税を適用している場合は、原産地ルール判定の前提(HS)が崩れ、影響範囲が広がります。

監査で典型的に起きるパターンは次の通りです。

  1. バッテリーパックを別の枠(例:車両部品としての扱い)で説明していた
    当局側から見ると、なぜ蓄電池として扱わなかったのかが質問になります。85.07に属し得る根拠を、当時の提示形態と機能で説明できないと不利になります。
  2. 仕様変更やサプライヤー変更で、社内マスターと実物がずれていた
    監査は、品名、型番、仕様書、BOM、写真、梱包形態から申告貨物を再構成します。事後調査が記録群を検証するプロセスであることは、WCOのPCAガイドラインの定義とも一致します。(世界関税機関)
  3. 申告の説明が「結論のみ」で、根拠が残っていない
    事後調査は過去が対象です。根拠資料が残っていないと、当時正しかったことを示せません。

実務対策の要点は、税番の正解を当てることに加え、当時の判断材料と判断プロセスを再現できる形で残すことです。

リスク2:貿易政策リスク(対象品目の特定ミスが「回避」疑義につながる)

EVバッテリーは政策対象になりやすい分野で、当局目線では分類が各種措置の入口になります。ここで問題になるのは、単なる誤りとしての分類ミスを超えて、結果として政策措置の適用を回避したように見えるリスクです。

特に次の条件が重なると、説明責任が重くなります。

  1. 高額で税額影響が大きい
  2. グループ内取引など取引形態が複雑
  3. 仕様や品名が曖昧で、仕様書が弱い
  4. 物流書類と通関書類で貨物説明がずれている

実務対策の要点は、分類メモを税番を決める紙ではなく、疑義を潰す紙として作ることです。最低限、次は揃えます。

  1. その製品の機能を一文で言い切る
  2. 付属部品が蓄電池の機能に寄与する補助機構であることを整理する
    日本の関税率表解説が、補助機構を含んでも85.07に属する旨を示しています。
  3. 提示形態を証拠化する
    梱包写真、構成表、同梱物一覧は、後から効く証跡です。

リスク3:安全・環境リスク(危険物輸送と使用済み境界の崩壊)

ここがEVバッテリー特有の深い落とし穴です。分類は税関申告だけではなく、危険物輸送と環境規制のデータとも結びつきます。

論点A:UN38.3試験とテストサマリーの整備不足

リチウム電池は、国連の試験・基準マニュアルの38.3で試験手続が示されています。UN Manual of Tests and Criteria (国連欧州経済委員会)
米国のPHMSAは、リチウム電池のテストサマリー要件が2022年1月1日に有効となり、その後2024年5月10日に改訂が有効になったことを明示しています。(パイプラインおよび有害物質安全管理局)

監査で起きやすいのは、申告は新品の蓄電池なのに、危険物輸送側の証跡(試験、テストサマリー、型番一致)が出せないケースです。この場合、分類以前に貨物の同一性が疑われます。

論点B:新品と使用済み・くずの境界

HS2022では、電気電子機器の廃棄物・くずとして85.49が整理され、使用済み蓄電池の定義も示されています。具体的には、8549.11から8549.19における使用済み蓄電池は、破損や摩耗などで使用できず、再充電もできないもの、とされています。(世界関税機関)
日本の関税率表解説でも、使用済み蓄電池やそれらのくずは85.49と整理されています。

EVでは、返品、解析返送、リファービッシュ、リコール回収などが混在します。社内では返品でも、外形的に回収・処分目的に見えると、分類だけでなく必要手続も変わり得ます。

論点C:国境を越えると環境手続が重くなる

バーゼル条約の電子廃棄物改正は、2025年1月1日に発効したと公式に示されています。(バーゼル条約)
返品・回収品が環境手続の対象に見える状況で、通関上は新品として扱っていると、書類全体の整合性が崩れます。

実務対策の要点は、分類担当だけで完結させず、通関、物流(危険物)、品質保証(試験証跡)、環境(廃棄物手続)を型番単位でつなぐことです。

監査に強い会社がやっている実務設計

1. 分類根拠を再現可能なメモにする

次の要素を必ず入れます。

  1. 製品の機能、構造、用途
  2. セル、モジュール、パックの構成と同梱物
  3. 補助機構の役割(接続子、温度制御、回路保護、ハウジングなど)
    バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属するという整理が根拠になります。
  4. 結論の税番(HS6桁と国内細分)
    HS2022上の8507.60(リチウムイオン)など、HS側の位置づけも紐づけます。(世界関税機関)
  5. 判断に使った証跡の所在(仕様書、BOM、写真、テストサマリー、梱包資料)

2. 事前教示を戦略的に使う

日本税関は、輸入予定貨物の税番や税率等について事前に照会し、回答を受けられる制度を案内しています。(税関総合情報ポータル)
論点が割れる可能性がある型番は、監査で争うよりも、早期に当局判断を取りに行く方が総コストを抑えやすいです。

3. 変更管理を分類の仕組みに入れる

分類ミスそのものより、ミスが放置された状態が監査で致命傷になりがちです。最低限、次をルール化します。

  1. 型番変更、材料変更、BMS設計変更、梱包変更のたびに分類レビュー
  2. サプライヤー変更時に、仕様書と写真を再取得し同一性を確認
  3. 危険物輸送の証跡と税番情報を型番で紐づけ

監査が記録群を検証する以上、記録の整合性が通る仕組み作りが本質です。(世界関税機関)

よくある監査質問と、即答できる答え方

質問1:なぜこの貨物は85.07なのか

答えの骨子は、蓄電池の機能と提示形態です。バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属すること、特定機器用に設計されていても85.07に属することを、当局向けに言語化します。

質問2:UN38.3試験とテストサマリーはあるか。型番と一致するか

国連マニュアルの38.3で試験手続が示されていること、米国PHMSAがテストサマリー要件の発効日と改訂日を明示していることを踏まえ、証跡の所在と更新管理を即答できるようにします。(国連欧州経済委員会)

質問3:返品・回収品は新品か、使用済みか。分類と手続の整理は

使用済み蓄電池の定義(再充電できない等)と85.49の位置づけを理解し、契約書と物流指示書の言葉まで含めて整合させます。(世界関税機関)
国境を越える場合は、バーゼル条約の改正発効日(2025年1月1日)を前提に、社内フローが動くようにします。(バーゼル条約)

まとめ:監査で強いのは「分類の正解」より「説明の再現性」

EVバッテリー分類は、課税、貿易政策、安全・環境が一本の線でつながる領域です。監査で問われるのは、結論の税番よりも、当時の実物に基づき説明できるか、そして同じ判断を社内で再現できるかです。(世界関税機関)

今日からの優先順位は次の通りです。

  1. 主要型番について、分類根拠メモを整備する
  2. 危険物輸送の証跡(UN38.3、テストサマリー)と税番を型番で紐づける
  3. 返品・回収品の新品と使用済みの判断基準を、契約と物流指示書の言葉まで揃える
  4. 迷う論点は事前教示で当局見解を取り、監査リスクを先に潰す (税関総合情報ポータル)

米国CBPが下したセット分類の否認。多機能タブレットとキーボードの分離課税がもたらすコスト増の衝撃

2026年2月1日、米国税関国境警備局(CBP)から、電子機器メーカーや輸入業者にとって看過できない重要な裁定が下されました。それは、タブレット端末と着脱式キーボードがセットで販売される製品について、今後は一つの製品(セット)として扱わず、それぞれ個別のHSコードに分類して課税するという方針決定です。

これまで、多くの企業はこれらのセット品を自動データ処理機械(ノートパソコン等と同等)として一括で申告し、関税上の恩恵を受けてきました。しかし、今回の決定はその商習慣を根底から覆すものです。

本記事では、この技術的な分類変更がなぜ行われたのか、そして企業実務にどのような金銭的・事務的負担を強いることになるのかを深掘り解説します。

通則3の解釈変更、セット品としての特権喪失

まず、これまでの通関実務の常識をおさらいします。

通常、異なる物品(タブレット本体とキーボード)が小売用にセット販売される場合、HSコードの分類ルールである関税率表の解釈に関する通則3(b)が適用されます。これは、セット全体に本質的な特性を与えている構成要素(この場合はタブレット本体)のHSコードで、セット全体を分類するというルールです。

これにより、附属のキーボードもタブレット本体と同じコード(通常は8471.30項など)に分類され、本体が無税であればキーボードも無税で輸入することが可能でした。

しかし、今回のCBPの裁定は、この解釈を厳格化しました。CBPは、着脱式キーボードはタブレットの機能に必須ではなく、それ単体でも独立した商品価値を持つ周辺機器であると判断しました。その結果、セットとしての分類を否認し、タブレットはタブレット、キーボードは入力装置(8471.60項など)として、別々に申告することを求めたのです。

なぜこれがコストアップに直結するのか

HSコードが分かれるだけであれば、単なる事務手続きの問題に見えるかもしれません。しかし、この分離には致命的なコストリスクが潜んでいます。

最大の懸念は、対中制裁関税(通商法301条)やその他の懲罰的関税の適用です。

IT製品の多くは、WTOの情報技術協定(ITA)により基本税率は無税です。しかし、米国が中国などの特定国に対して課している制裁関税は、HSコードごとに細かく指定されています。

もし、タブレット本体(8471.30)が制裁関税の除外対象であっても、分離されたキーボード(8471.60)が制裁対象リストに入っていれば、キーボードの価格分に対して25パーセント等の追加関税が発生します。これまではセット全体の価格に対して関税ゼロだったものが、今後はキーボード部分だけ高率の課税を受けることになるのです。

さらに、品目分類が変わることで、これまで適用できていたFTA(自由貿易協定)の原産地規則を満たせなくなるリスクもあります。セット品としての原産地判定と、単体部品としての原産地判定では、計算式や必要となる部材の要件が異なるためです。

実務担当者が直面するインボイス作成の苦悩

この決定は、通関書類(インボイス)の作成業務にも多大な負荷をかけます。

これまでは、製品セット1式として1行で記載すれば済みました。しかし今後は、一つの箱に入っている商品であっても、インボイス上では本体とキーボードを別の行に分け、それぞれの単価(FOB価格)を明記しなければなりません。

ここで問題になるのが、セット価格の内訳です。

多くのメーカーはセット品としての販売価格しか設定しておらず、附属品の個別の原価や振替価格をインボイスに記載する準備ができていません。税関に対して妥当な価格内訳を提示できなければ、恣意的な価格操作(ダンピングや評価申告漏れ)を疑われるリスクが生じます。

企業が今すぐ着手すべき対応策

このCBPの方針転換を受けて、米国向けに電子機器を輸出する企業は、以下の3つの対策を講じる必要があります。

第一に、影響品目の洗い出しと関税試算です。

自社の製品ラインナップの中で、キーボードやペン、ドックなどが同梱されている製品をすべてリストアップし、それらが分離課税された場合の関税コストをシミュレーションしてください。特に対中関税の対象となるか否かは最優先の確認事項です。

第二に、インボイスシステムの改修です。

セット品番を入力した際に、自動的に本体と付属品の行に分解し、適切な単価を割り振って出力できる仕組みを構築する必要があります。手書き修正はミスの温床となるため推奨されません。

第三に、製品構成の見直しです。

関税コストが許容できないレベルになる場合、セット販売をやめて別売り(アンバンドル)にするか、あるいは付属品の調達先を関税のかからない国へ変更するサプライチェーンの再編を検討する必要があります。

まとめ

米国CBPによる多機能タブレットの分離分類決定は、単なるコードの変更ではなく、企業の利益率を直撃する実質的な増税措置です。

この決定は、今後タブレット以外の製品(スマートウォッチとバンド、ゲーム機とコントローラーなど)にも波及する可能性があります。セット品という魔法のヴェールが剥がされた今、企業は一つひとつの構成品に対する厳密なコンプライアンスとコスト管理を求められています。

WCO相関表が出た瞬間、HS2028対応は現実になる


企業が今やるべき準備と、相関表の読み方

2026年1月、WCOはHS2028改正(HS2028 Amendments)が受諾されたことを公表しました。発効日は2028年1月1日です。残り約2年は、企業にとって「まだ先」ではなく、分類とデータ、システム、契約をつなぐ移行計画を具体化する猶予期間です。(wcoomd.org)

その中で、実務上のスタートラインになり得るのが「WCO相関表(Correlation Tables)」です。相関表は、HS2022とHS2028の間で、どの品目コードがどう移るのかを体系的に示す地図です。HS2028の条文(改正パッケージ)が公表されても、企業の現場がすぐに全社影響を把握できるとは限りません。相関表が出ることで、初めて「自社の品目マスタをどこからどこへ動かすか」を俯瞰できるようになります。

ここでは、WCO相関表がなぜ「出発点」なのか、そして公開後に慌てないために、公開前から企業がやるべきことを深掘りします。


1. HS2028は何が変わるのか

相関表が必要になる背景

HS2028は、299セットの改正で構成され、結果として1,229の見出し(headings)と5,852の小見出し(subheadings)になります。HS2022と比較すると、新設は見出し6、HS6桁小見出し428。削除は見出し5、HS6桁小見出し172です。(wcoomd.org)

テーマも、単なる貿易統計の更新ではなく、規制・政策目的との連動が前提になっています。WCOが強調している主なポイントは次の通りです。(wcoomd.org)

・公衆衛生
救急車、個人防護具、人工呼吸器、診断・モニタリング機器など、健康危機で必要となる物資の可視性を高める新しい区分が入ります。

・ワクチンの構造変更
従来30.02に含まれていたワクチン関連を、人体用の30.07、その他(獣医用など)の30.08へ再編し、疾病別などの詳細な下位区分を設ける、とされています。

・サプリメントの新見出し
食品と医薬品の境界で揉めやすい領域に、新見出し21.07(dietary supplements)と新しい法的注記を設け、統一的な枠組みを目指す、とされています。

・環境分野
プラスチック廃棄物39.15を、バーゼル条約の区分との整合を意識して再編し、有害・PIC対象・その他を識別する新小見出しを導入する、とされています。さらに、単回使用の概念を第39類の新しい法的注記で明示し、ストロー等の幅広い品目で透明性を高める、と説明されています。

この手の改正は、品目コードが「番号だけ変わる」話ではありません。品目の定義が揺れるので、関税率、輸入規制、統計、原産地規則、社内マスタの整合性まで連鎖します。だからこそ、移行の地図として相関表が必要になります。


2. WCO相関表とは何か

誤解されやすい法的地位と限界

まず大前提として、WCO相関表は「法令」ではありません。WCOは、相関表について次の位置づけを明確にしています。

・相関表は、HS委員会の分類決定そのものとみなすものではない
・実装を容易にするためのガイドであり、法的地位はない(wcoomd.org)

この注意書きは、ビジネス側が一番見落としやすいポイントです。現場では「相関表が出たら、旧コードを新コードに置換して終わり」と考えがちですが、相関表は置換表ではなく、移行の参考情報です。

またWCOは、HS2022の相関表公表時に、相関表は法的文書ではない一方で、導入準備に不可欠なツールになっているとも述べています。つまり、法的拘束力はないが、実務上の標準的参照資料として扱われる、という現実があります。(wcoomd.org)


3. 相関表はどういう形で出てくるのか

HS2022の前例から読み解く

HS2022の前例では、WCOは相関表を2つの表として公表しました。(wcoomd.org)

・Table I:新しい版から旧版へ(新コード側を起点)
加えて、多くの相関に「備考」が付き、移動する品目の性格や関連条文の参照が示されるケースがある。

・Table II:旧版から新版へ(旧コード側を起点)
基本的にTable Iを機械的に反転した表で、備考は付かない。

さらに、WCOの相関表解説では、exという接頭表示が重要な意味を持ちます。exは「その旧コードの範囲の一部だけが移る」ことを示し、1対1の単純移行ではない、というサインです。(wcoomd.org)


4. なぜWCO相関表の公開がHS2028改訂の出発点なのか

出発点と言い切れる理由は3つあります。

4-1. 全社影響を一気に棚卸しできる

条文だけで影響を追うと、読み落としが発生します。相関表があれば、HS6桁ベースで「動くコード」を一覧化でき、影響範囲を見積もれます。

4-2. 曖昧さが可視化され、判断ポイントが特定できる

exや分岐・統合は、判断を要する場所です。相関表は、曖昧さを表面化させることで、社内ルール化を促します。(wcoomd.org)

4-3. 国別実装の監視が始めやすくなる

WCOの相関表は共通骨格であり、各国が自国のタリフラインに落とす過程で追加の分割や法令反映が入ります。(wcoomd.org)


5. HS2028の相関表はいつ出るのか

今わかっていることだけで整理する

現時点でWCOが公式に言っていることは、次の2点に集約されます。

・2025年9月のHS委員会で、HS2022とHS2028の相関表の開発に関する議論を開始し、形式を改善した(明確さと使いやすさの向上が目的)(wcoomd.org)

・2026年1月時点で改正は受諾されており、残る2年間で相関表の作成、解説書などWCOツールの更新、加盟国支援を進める(wcoomd.org)


6. 公開前から企業がやるべき準備

相関表が出ても詰まらないための実務設計

相関表が出てから着手すると、必ず間に合わない作業を先に片付けます。

6-1. 品目マスタの現状の正しさを固める

HS移行で一番危険なのは、現行コードが曖昧なまま新コードへ移してしまうことです。

6-2. 相関表を置換ではなく分岐ルールに落とす設計にする

分岐と統合、そしてexは、業務ルールと判断ログが必要です。

6-3. 国別実装を前提に、監視ポイントを先に置く

実務は国別枝番と税率、規制コードで動きます。相関表は国別実装の入口です。(wcoomd.org)

6-4. 参照情報の取り方を決めておく

相関表や関連資料は複数チャネルに出る可能性があり、社内で一次情報の定義が必要です。(wcoomd.org)


7. 相関表公開後に、企業がやってはいけない3つのこと

7-1. 相関表の自動変換を、そのまま申告に使う

相関表は法的文書でも分類決定でもありません。(wcoomd.org)

7-2. exや分岐を放置して、とりあえずどれかに割り付ける

判断が必要な場所は、判断に必要な製品属性を揃えるところからです。(wcoomd.org)

7-3. HS6桁だけ更新して満足する

国別枝番と税率、規制コードまで落とし込む必要があります。(wcoomd.org)


まとめ

相関表公開は開始合図。しかし準備は公開前に終わらせる

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効すること、そして残る2年で相関表の整備を含む実装準備を進めることを明確にしています。(wcoomd.org)

相関表が公開された瞬間に走り出せるよう、品目マスタの整備、分類根拠の棚卸し、分岐判断の設計、国別実装の監視体制を、公開前に作っておく。

HS2028対応は、貿易実務だけの問題ではありません。サプライチェーンとデータ、コンプライアンスをつなぐ経営課題です。相関表公開を出発点にするために、今日から準備を始めてください。


HS2028に備える 主要国ポータルの対応状況を確実に押さえる実務ガイド

2028年1月1日、HSコードが更新されます。HS2028は、世界税関機構が定めるHS品目表の第8版で、国際取引で使われる分類コードの基盤そのものです。2026年1月21日にHS2028改正が受理され、発効までの準備期間が公式にカウントダウンに入りました。(世界関税機関)

このタイミングで、最初に手を付けたいのが「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」ことです。理由はシンプルで、通関申告や関税計算、規制対応の現場は、最終的に各国の公式ポータルに載っているコード体系と税率に従うからです。

この記事では、単にポータルを眺めるだけで終わらせず、ビジネスの意思決定に直結する見方と、国別にどこをチェックすべきかまで掘り下げます。

HS2028で何が変わるのか

まず、確実に押さえるべき事実は次の3点です。

1つ目。HS2028は2028年1月1日に発効します。(世界関税機関)
2つ目。改正は299セットに及び、見出しは1,229、子目は5,852という規模です。HS2022比で新設や削除もあり、単なる文言調整ではありません。(世界関税機関)
3つ目。WCOは残り2年間で、HS2022とHS2028の相関表の整備、解説書やツールの更新、加盟国支援を進めると明記しています。加盟国側も、国内法令、IT、手続、研修を更新するとされています。(世界関税機関)

テーマ面では、公衆衛生や環境が中心です。医療機器や防護具の識別強化、ワクチンの再編、栄養補助食品の新見出し、プラスチック廃棄物の再構成など、実務上インパクトの大きい領域が含まれます。(世界関税機関)

ここまでを踏まえると、HS2028は「ある日突然、コードが変わる」イベントではなく、2年間かけて各国が段階的に制度とシステムを移行するプロジェクトだと捉えるのが現実的です。

なぜ主要国ポータル確認が最優先になるのか

HS改正に関して、現場がつまずく典型パターンは、社内のマスタや取引書類の更新タイミングが各国の実装タイミングとズレることです。ズレると何が起きるか。

・輸入申告でコードが通らず、差し戻しや保留が増える
・税率や追加措置の適用判断が揺れ、コスト見積りが不安定になる
・統計品目や国内追加桁の変更に引きずられて、取引先やフォワーダーとの照合に時間が溶ける

このズレを最小化するうえで、各国の公式ポータルは一次情報の集合体です。更新日、適用日、改正履歴、データ形式、関連法令への導線など、移行の手がかりがまとまって出てきます。

つまり「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」とは、単なる閲覧ではなく、次の問いに答えを出すための情報収集です。

・その国では、いつから新コードが申告に使えるのか
・旧コードはいつまで受け付けられるのか
・相関表や変換資料はどこで入手できるのか
・国内追加桁まで含めた変更はどの粒度で提供されるのか
・自社のITや業務が追随できる形式でデータを取れるのか

対応状況を見抜く 6つのチェックポイント

ポータルの見方は国によって違いますが、見るべきサインは共通化できます。

  1. 表示されている版と適用日
    年次版、基本版、改正号などの表示があるか。適用日が明記されているか。
  2. 改正履歴と更新頻度
    いつ、何が、どの根拠で変わったかが追えるか。更新が日次なのか、年次なのか、随時なのか。
  3. 日付指定で検索できるか
    HS改正は発効日で切り替わるため、取引予定日を入れて結果が変わる設計になっているかは重要です。
  4. 相関表や変換資料への導線
    WCO相関表に加え、国内追加桁を含む国別クロスウォークが出るか。その掲載場所が分かりやすいか。
  5. ダウンロードやAPIの有無
    画面で確認するだけでは、社内マスタ更新が回りません。CSVやJSON、Excelなどで取得できるか。
  6. 法令や公的通知へのリンク
    ポータルの表示は便利ですが、最終的な根拠は法令や告示です。リンクが整理されているかで信頼性が変わります。

この6点で見れば、HS2028対応状況は、専用ページの有無だけでなく、更新の兆候と実装の成熟度として評価できます。

主要国ポータル別に見るべき場所

以下は、主要国で実務上よく参照される公式情報源と、その読み解き方です。ここでは、今ある機能を使ってHS2028の到来をどう検知するかに焦点を当てます。

日本 税関の品目分類検索で確実に追う

日本税関の品目分類検索は、検索対象を輸入と輸出で切り替えられ、実行関税率表や輸出統計品目表など複数コンテンツを対象にできます。さらに、税番は上位2桁、4桁、6桁、全9桁の指定が可能で、検索対象日時も指定できます。(税関総合情報)

HS2028対応状況を確認するうえでの実務ポイントは、検索対象日時です。発効日をまたぐ案件では、同一品目でも結果が変わり得ます。ポータル側がHS2028に切り替われば、2028年1月1日以降の日付指定で新しいコード体系の検索結果が出るはずです。社内側では、案件の通関予定日に合わせたコード参照という運用を、今のうちに定着させると移行が楽になります。

アメリカ合衆国 米国国際貿易委員会 の改正履歴で変化点を捕まえる

USITCのHTSアーカイブは、版が体系的に保存されており、年次の基本版に加えて複数の改正を時系列で追えます。改正ごとに日付があり、HTMLに加えてCSVやXLS、JSONでのダウンロードが用意され、改正根拠として公的な文書への参照も付いています。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

HS2028対応の観点では、ここが最大の観測地点になります。大きなコード再編が起きると、年次基本版だけでなく、複数の改正に分割されて反映される可能性があります。社内データ連携を見据えるなら、画面で眺めるよりも、ダウンロード形式で取得し、マスタ差分を機械的に検知できる体制に寄せるのが現実的です。

欧州連合 欧州委員会 TARICで日次更新の中から大改正を見分ける

TARICはEUの統合関税データベースで、関税措置だけでなく商業・農業関連の措置も統合して扱う多言語データベースです。加盟国に対して日次でデータが送信され、加盟国システムの通関処理にも使われることが明記されています。Excel形式のraw dataも提供されています。(Taxation and Customs Union)

HS2028対応状況の確認は、日次更新に埋もれがちです。ポイントは、日々の更新そのものではなく、品目体系の土台が変わるタイミングです。TARICは法令根拠も示しているので、HS2028に絡む大きな改正は、関連する法令の動きとセットで追うのが安全です。

イギリス 英国歳入関税庁 Trade Tariffは日付入力と更新情報が鍵

UKの関税検索サービスは、取引予定日を入力でき、品目、税率、割当などが時間とともに変わることを前提に設計されています。ページ上には最新ニュースと最終更新日、改正の参照導線もあります。(GOV.UK)

さらに、Trade TariffデータをAPIで取得できることも明記されています。(API Catalogue)
HS2028対応状況の確認では、日付入力欄がそのまま検証装置になります。将来日付が受け付けられる仕様であれば、2028年1月1日を入れて結果がどう変わるかを定点で観測できます。APIがある場合は、手作業確認から抜けて、定期ジョブで差分検知する運用に移しやすいのも利点です。

カナダ カナダ国境サービス庁 関税ファイルと告知をセットで見る

CBSAは、カナダの関税分類を知りたい事業者向けに、関税ファイルへのアクセス、ガイド、過去版アーカイブ、分類や原産地などの裁定、カスタムズノーティスの一覧などをまとめています。カナダの税則はWCOのHSに基づくことも明記されています。(カナダ国境サービス局)

章別に見られる関税スケジュールは、適用日と形式が整理されています。(カナダ国境サービス局)
HS2028の対応状況確認では、次の2点を並行で追うのがコツです。関税ファイルの版更新と、告知や通知の情報。版だけ見ていると背景が取りこぼれますし、告知だけ読んでいると現場適用に落ちません。

オーストラリア オーストラリア国境警備隊 Working Tariffの説明文が先行指標になる

ABFのWorking Tariffは、現行の関税分類のオンライン版であること、WCOの改正で始まった変更や、2022年1月1日開始の統計コード変更、その後の法令や統計コード変更を含むことが明記されています。分類はSchedule 3で参照する、といった構造も説明されています。(Australian Border Force Website)

ここは、HS2028対応状況の早期検知ポイントになり得ます。なぜなら、説明文がどの改正サイクルを取り込んでいるかを示しているからです。HS2028に向けて準備が進めば、説明文や対象範囲の表現が更新される可能性があります。画面の検索結果より先に、こうした概要説明が更新されることもあります。

韓国 韓国関税庁 10桁DBと6桁共通ルールを押さえる

KCSはHSコードの基本として、先頭6桁は世界共通で、7桁目以降は国ごとに異なるという構造を説明しています。韓国は10桁コードを使うことも明記されています。(韓国関税庁)
また、関税DB検索では10桁のHSコードまたは品名で検索できることが示されています。(韓国関税庁)

HS2028は6桁部分の変更を含むため、まず影響が出るのは6桁です。ただし実務で使うのは10桁です。ここがミソで、6桁の相関表だけでは社内マスタ更新が終わらない可能性があります。KCS側が国内追加桁をどう組み替えるかまで含めて、DBで早期に確認できる体制が重要になります。

中国 国務院関税税則委員会 中華人民共和国財政部 の公告を一次情報として組み込む

中国では、進出口税則が公告として公表され、例えば2026年版は2026年1月1日から実施される旨とPDFの掲載が確認できます。(関税司)

中国市場を扱う場合、現場ではポータル検索に加えて公告PDFが一次情報になります。HS2028移行でも、制度変更の根拠と施行日、変更点がどこで示されるかを見誤らないことが重要です。社内の観測リストに公告の発表ページを入れておくと、更新を取りこぼしにくくなります。

ポータル確認を社内の成果に変える運用設計

ポータルを確認して終わりではなく、社内の移行プロジェクトに落とすときの型を最後に整理します。

  1. 重要市場から優先順位を付ける
    全世界を同時に追うと疲弊します。売上、仕入れ、制裁や規制、リードタイムなどの観点で上位市場を決め、そこから始めます。
  2. 版と日付の観点でマスタを持つ
    国別に、現行版、切替予定日、確認日、参照元ポータル、担当者を持ちます。日付指定検索ができる国は、取引予定日ベースの照会に統一します。
  3. 相関表が出たら、6桁と国内追加桁を分けて管理する
    WCO相関表は6桁の基盤です。そこから先の国内追加桁は国ごとに別プロジェクトになります。両者を混ぜると、関係者が混乱します。
  4. 社内システムと外部委託先を同じタイムラインに乗せる
    ERP、PIM、貿易管理システム、フォワーダー、通関業者が別々に更新すると事故が起きます。ポータルの更新兆候をトリガーに、関係者に同報する設計にします。

まとめ

HS2028は、2028年1月1日発効の大規模改正です。2年間の準備期間で、WCO側は相関表や解説などを整備し、各国は国内法令とITを更新していきます。(世界関税機関)

だからこそ、主要国ポータルのHS2028対応状況を定点観測し、変化の兆候を早期に拾うことが、最も費用対効果の高い一手になります。画面の見た目より、版、適用日、改正履歴、日付指定検索、データ取得手段、法令根拠。この6点で見れば、HS2028移行は予測可能なプロジェクトに変わります。

情報確認日: 2026年1月31日