はじめに
HS2028は、単なる税番改正ではありません。
EV・自動車部品業界にとっては、関税分類の見直しにとどまらず、EPA原産地判定、ERPマスター、サプライヤー管理、通関実務、契約条件まで連鎖的に影響する制度改正です。
特にEV関連部品は、電池、制御装置、センサー、通信モジュール、充電設備など、複数の類や項にまたがりやすく、従来の社内運用のままでは対応しきれない可能性があります。
本記事では、HS2028がEV・自動車部品企業に与える影響を、ビジネスマン向けに実務の視点から整理します。単なる制度紹介ではなく、企業が今から何を点検すべきかという観点で、構造的に解説します。

HS2028とは何か
2028年1月1日に発効する次期改正
HS2028は、WCOが公表した次期HS改正であり、2028年1月1日から発効する予定です。
今回の改正では、多数の品目見直しが行われ、従来のHS2022から構造が変わる部分が生じます。
企業にとって重要なのは、HS改正が発効した時点で、通関申告、関税率表、原産地規則、社内コード体系、顧客提出資料など、複数の業務が一斉に影響を受けることです。
自動車業界が特に影響を受けやすい理由
EV・自動車部品は、従来の機械部品だけではなく、電気機器、蓄電池、計測機器、通信機器、制御機器の性格を持つ製品が増えています。
そのため、部品の用途が自動車向けであっても、分類上は自動車部品に限定されず、電機や計測関係の項で扱われるケースが少なくありません。
つまり、HS2028への対応では「自動車部門だけ見ればよい」という発想が危険です。
実際には、複数部門を横断した整理が必要になります。
なぜEV・自動車部品でリスクが高まるのか
製品機能が複雑化している
現在のEV関連製品は、単一機能の部品よりも、複数機能を内包したユニットが中心になっています。
たとえば、センサーは検出機能だけでなく通信や信号処理を含み、駆動ユニットはモーターと制御機能を一体化していることがあります。
このような製品は、仕様の読み方によって分類候補が変わりやすく、HS改正時に再検討対象となりやすいのです。
原産地判定との連動が強い
自動車産業では、EPA利用率の向上が競争力に直結します。
しかし、EPAの品目別原産地規則はHSコードに基づいて設計されています。
そのため、HSコードが変わると、原産地規則の読み方や証明の前提も変わる可能性があります。
分類変更は、単なる税番の修正ではなく、EPA適用可否そのものに影響する実務問題です。
EV・自動車部品企業が警戒すべき7つのリスク
1. 利益率の前提が崩れるリスク
税率だけではなく、収益設計そのものに影響する
HSコードが変わると、適用関税率や関連規制の確認対象が変わることがあります。
その結果、販売時に想定していた着地原価や粗利率が、制度改正後に維持できなくなる可能性があります。
特に、長期契約や年次価格で運用している部品では、分類変更の影響を十分に織り込まないまま見積りを継続すると、利益率が想定以上に低下するおそれがあります。
経営管理部門も早期に関与すべき
この問題は通関担当だけでは解決できません。
営業、経理、事業管理、調達が関与し、どの品番が利益影響の大きい対象なのかを早期に可視化することが重要です。
2. EPA原産地判定をやり直すリスク
HS変更は品目別原産地規則の再確認につながる
EPAでは、関税分類変更基準、付加価値基準、加工工程基準などが用いられます。
その中でも、多くの品目では関税分類変更基準が中心です。
そのため、完成品や主要部材のHSコードが変われば、従来問題なく使えていた原産地判定ロジックを再検証しなければならない可能性があります。
EVでは部材点数の多さが負担を大きくする
EV関連製品は部材点数が多く、非原産材料の把握も複雑です。
セル、モジュール、基板、通信部品、センサー、ハーネスなどのどれか一つでも分類整理が不十分だと、完成品の原産地判定全体に影響が及びます。
3. 既存の事前教示や社内判断が使えなくなるリスク
過去の判断をそのまま使うのは危険
企業の中には、過去の事前教示、BTI、社内分類表、顧客提出資料を長年流用しているケースがあります。
しかし、制度改正後は、それらが現行制度に適合しない可能性があります。
以前は妥当だった説明が、改正後には根拠として弱くなることもありえます。
更新履歴の管理が重要になる
分類判断そのものだけでなく、いつ、どの制度版に基づいて判断したのかを管理できる体制が必要です。
今後は「正しいコード」だけではなく、「どの版で正しかったか」を追跡できる仕組みが求められます。
4. ERPと品目マスターが先に混乱するリスク
コード変更はシステム障害ではなく設計問題
HS2028対応では、ERP、通関システム、原産地管理表、申告テンプレート、商品マスターの改修が必要になります。
ここでありがちなのは、単純な一括置換で済むと考えてしまうことです。
しかし実際には、国ごと、制度ごと、時点ごとに、異なるHSバージョンを使い分ける場面があります。
そのため、単純な置換ではなく、新旧コードの並行管理が必要です。
マスター整備を後回しにしない
分類見直しの議論が先行し、システム対応が後手に回ると、現場では申告、見積り、帳票出力がばらばらになります。
制度対応の成否は、マスター設計の完成度で大きく左右されます。
5. サプライヤー証跡が足りなくなるリスク
完成品だけの管理では不十分
原産地判定や分類説明を適切に行うには、完成品だけでなく、主要材料や非原産材料の情報までさかのぼって確認する必要があります。
ところが実務では、サプライヤーから受け取っている情報が、用途説明や仕様書レベルで止まっていることも少なくありません。
調達部門との連携が不可欠
HS2028対応では、通関担当が単独で部品情報を集めるには限界があります。
調達部門と連携し、どのサプライヤーから、どの粒度の情報を、どの様式で回収するかを標準化する必要があります。
6. 通関照会とリードタイムが不安定になるリスク
曖昧な分類は通関現場で跳ね返る
制度移行期は、税関側でも照会が増えやすくなります。
企業側の説明根拠が弱いまま申告を続けると、追加照会や補足資料提出が発生し、リードタイムが不安定になる可能性があります。
特に、多機能製品や新技術部品は、説明の質によって通関の安定性が大きく変わります。
重点品番は事前確認を検討すべき
売上比率が高い品番、納期インパクトが大きい品番、EPA利用頻度が高い品番については、事前教示や輸入国税関への確認を前倒しで検討することが現実的です。
7. 契約条件の見直しが遅れるリスク
責任分担の前提が変わりうる
HSコードの変更は、関税額だけでなく、必要証憑、EPA適用条件、補足説明責任にも影響します。
その結果、売主と買主の間で、誰がどこまで責任を負うのかという契約前提が揺らぐことがあります。
通関・原産地・補償条項を再点検する
今後は、価格だけでなく、通関責任、原産性表明、追加資料提出義務、事後調査対応、補税負担などの条項を確認しておく必要があります。
制度改正時に契約を見直せる企業ほど、後から揉めにくくなります。
優先的に監視すべきEV・自動車部品群
まず見るべき対象
HS2028対応で最初に監視すべきなのは、章をまたいで分類されやすい部品群です。
具体的には、次のような製品群が優先候補になります。
バッテリー関連
セル、モジュール、パック、BMS関連部品
駆動関連
電動駆動ユニット、モーター、インバータ、電力変換装置
充電関連
EV充電器、充電設備、関連制御装置
センサー関連
レーダー、LiDAR、位置検出、電流・電圧・温度監視センサー
通信・制御関連
ECU、通信モジュール、キーレス関連機器、制御基板
これらは、用途が自動車向けであっても、分類上は電機、通信、計測、電力変換など複数の考え方が交差しやすく、HS改正時の影響を受けやすい領域です。
企業が今からやるべき準備
第1段階 売上上位品番の棚卸し
まずは、売上高、利益、EPA利用頻度の高い上位品番を抽出し、現行HS、輸出先、輸入国、既存の事前教示有無を一覧化します。
ここで重要なのは、全品番を一気に精査しようとしないことです。影響の大きい品番から着手するほうが現実的です。
第2段階 原産地判定への影響確認
次に、完成品だけでなく主要非原産材料まで含め、EPA原産地判定への影響を確認します。
とくに分類変更基準を使っている品番は、優先順位を高く設定すべきです。
第3段階 既存証跡の点検
過去の事前教示、社内分類表、顧客提出資料、サプライヤー証明を点検し、制度版との整合を確認します。
古い根拠をそのまま残している場合は、更新計画を立てる必要があります。
第4段階 システム・帳票の改修準備
ERPや原産地管理表を、新旧コードを併記できる構造に見直します。
申告書式、見積り資料、顧客説明書、サプライヤー提出様式も合わせて見直す必要があります。
第5段階 重点品番の事前確認
納期影響が大きい品番や争点化しやすい品番については、税関の事前教示や輸入国側の確認手段を前倒しで活用することが望まれます。
まとめ
HS2028で本当に注意すべきなのは、税番が変わること自体ではありません。
分類変更が、原産地判定、システム、契約、通関安定性、収益管理にまで波及することです。
EV・自動車部品業界は、製品の複雑性が高く、部材点数が多く、EPA活用も重要であるため、HS改正の影響を受けやすい条件がそろっています。
そのため、2028年の発効を待ってから動くのでは遅く、今のうちから重点品番ベースで棚卸しを始めることが重要です。
制度変更への対応力は、単なる通関の巧拙ではなく、企業全体の実務品質を映します。
HS2028は、EV・自動車部品企業にとって、分類管理体制を見直す好機でもあります。
免責事項
本稿は、公開されている制度情報や通関実務の一般的な考え方をもとに作成した情報提供資料であり、個別製品の品目分類、原産地判定、税率適用、通関可否、契約判断を保証するものではありません。
実際の結論は、製品仕様、対象国、適用EPA、最新法令、税関実務運用により異なります。
個別案件に適用する際は、関係当局の最新資料確認、事前教示の活用、専門家確認を前提としてください。
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