CPTPP加盟拡大が加速:英国正式加盟と4カ国の新規交渉開始が日本企業に開く戦略的機会

環太平洋経済圏が歴史的な拡大局面へ

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が、2024年末から2026年にかけて歴史的な転換期を迎えています。2024年12月15日、英国が正式にCPTPPに加盟したことで、協定は原加盟11カ国から12カ国体制となり、初めて欧州諸国がアジア太平洋経済圏に参画する画期的な展開が実現しました。[mfat.govt]​

CPTPPは世界GDPの約13パーセント、世界貿易の約15パーセントを占める経済圏を形成していますが、この規模はさらに拡大する見込みです。2025年11月にオーストラリアのメルボルンで開催された第9回CPTPP委員会では、コスタリカの加盟交渉を2025年末までに完了させることを目指すとともに、ウルグアイの加盟交渉を正式に開始し、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの3カ国を2026年の加盟交渉候補として認定しました。wikipedia+3

さらに、2026年1月20日にはメキシコが英国のCPTPP加盟議定書を承認し、60日後に両国間で協定が発効する見通しです。これにより英国は、カナダを除くすべてのCPTPP締約国との間で特恵関税を含む協定の全面適用を受けることになります。本稿では、この急速な加盟拡大が日本企業にもたらす具体的な機会と、今から準備すべき戦略的対応を詳しく解説します。info.expeditors+1

英国の正式加盟実現:欧州とアジア太平洋をつなぐ架け橋

2024年12月15日の発効で新時代が幕開け

2024年12月15日、英国のCPTPP加盟議定書が正式に発効しました。英国は2021年2月1日にCPTPP加盟を正式申請し、2023年3月31日に加盟交渉を完了、同年7月16日に加盟議定書に署名していました。その後、各締約国による批准プロセスが進められ、英国と少なくとも6カ国が批准を完了し、かつ議定書署名から15カ月が経過したことで発効条件が満たされました。business.gov+3

英国の正式加盟により、CPTPPは太平洋地域を超えた真のグローバル自由貿易協定へと進化しました。英国はGDPで世界第6位の経済大国であり、その参加によりCPTPP経済圏の経済規模が大幅に拡大します。また、欧州市場とアジア太平洋市場を結ぶ戦略的な架け橋としての役割も期待されています。[en.wikipedia]​

メキシコの承認で英国との貿易関係がさらに深化

2026年1月20日、メキシコ政府は連邦官報を通じて英国のCPTPP加盟議定書承認を公式発表しました。CPTPP協定第30.4条に基づき、各締約国が議定書を批准してから60日後に発効する仕組みとなっており、メキシコの批准により英国・メキシコ間では2026年3月中旬以降に協定が適用される見込みです。vtz+1

これにより、英国はカナダを除くすべてのCPTPP締約国との間で協定を適用できることになります。カナダとの間では既存の継続協定が存在するため、英国企業にとって実質的な影響は限定的ですが、CPTPP加盟による包括的な規則と基準の統一化により、長期的には事務手続きの簡素化や透明性の向上が期待されます。gtlaw+2

日本企業にとって英国のCPTPP加盟は二重のメリットをもたらします。第一に、英国市場への輸出における関税削減や撤廃により価格競争力が向上します。第二に、英国を欧州市場への足がかりとして活用し、CPTPP原産地規則の累積を利用した効率的なサプライチェーン構築が可能になります。[business.gov]​

4カ国の新規加盟交渉:中南米、中東、東南アジアへの拡大

コスタリカは2025年末までの加盟完了を目指す

コスタリカは2022年8月11日にCPTPP加盟を正式申請し、2024年11月28日には加盟作業部会が設置されました。2025年11月の第9回CPTPP委員会では、コスタリカが協定の高い基準を維持する準備ができており、貿易義務を遵守してきた一貫した実績を示していることが確認されました。オーストラリアのドン・ファレル貿易大臣は、コスタリカの加盟を2025年末までに完了させることを目指すと発表しました。ussc+3

コスタリカの加盟は、中米地域とCPTPP経済圏との初めての直接的な連携となり、協定の地理的多様性を大幅に拡大する重要なステップです。コスタリカは医療機器、ソフトウェア開発、高品質コーヒー、バナナなどの農産物輸出で知られており、日本企業にとって新たな調達先や市場として価値があります。[bilaterals]​

ウルグアイの加盟交渉が正式開始

2025年11月の第9回CPTPP委員会では、ウルグアイの加盟交渉を正式に開始することが決定されました。ウルグアイは南米南部共同市場(メルコスール)の加盟国であり、その参加は南米地域とアジア太平洋地域の経済統合を深化させる画期的な展開となります。moit+3

ウルグアイ政府は、協定加盟により特に牛肉、乳製品、パルプ、農産品のアジア太平洋市場へのアクセス拡大を期待しています。交渉は12カ月から24カ月程度を要する見込みで、市場アクセス、関税削減、衛生規則、サービス、投資、政府調達、知的財産権、労働・環境基準などを章ごとに交渉し、12の現加盟国すべてが最終条件を承認する必要があります。第一回の技術作業部会は2026年前半に開催される可能性があります。[worldbeefreport]​

UAE、フィリピン、インドネシアは2026年に交渉開始予定

第9回CPTPP委員会では、アラブ首長国連邦、フィリピン、インドネシアの3カ国が協定加盟の基準を満たしていることが確認され、2026年に適切な時期に加盟交渉を開始することが決定されました。これらの国々はそれぞれ戦略的な重要性を持っています。vietnamlawmagazine+2

UAEは中東地域の経済ハブであり、その加盟はCPTPP経済圏を中東地域に拡大する歴史的な一歩となります。UAEはエネルギー、金融サービス、物流、観光などの分野で高度に発展しており、日本企業にとって中東市場へのゲートウェイとしての価値があります。

フィリピンとインドネシアは既にRCEP協定の加盟国ですが、CPTPPへの追加加盟により、日本企業はより広範な選択肢の中から最適な特恵関税スキームを選択できるようになります。両国は人口規模が大きく若年層が多い成長市場であり、製造業の生産拠点としても消費市場としても魅力的です。

一般見直しの完了:協定アップグレードへの道筋が明確に

初の一般見直しが完了し重点分野を特定

2025年11月の第9回CPTPP委員会では、CPTPP協定第27条に基づく初めての一般見直しが完了し、協定を更新・強化するための勧告が承認されました。この見直しは、2023年11月にニュージーランドの議長年に承認された一般見直し実施規則に基づき、2024年11月にカナダの主導で中間報告が承認され、最終的に完了したものです。[gov]​

一般見直しの目的は、CPTPP協定に含まれる規律が締約国が直面する貿易投資の課題に引き続き関連性を保つことを確保することです。具体的には、貿易業者や投資家によるCPTPPの最大限の活用を促進する方法を特定し、改訂や更新が有益となる協定条項を特定し、新しい条項や章の開発可能性を検討することが含まれます。mti+1

アップグレード交渉の6つの重点分野

一般見直しの結果、以下の分野におけるアップグレード交渉が推奨されました。第一に、サービス貿易分野では、越境サービス貿易における進化するサービス貿易への対応(国内規制を含む)が含まれます。第二に、金融サービス分野では、全締約国の合意を条件として、持続可能な金融、越境データフロー、透明性、国内規制、電子決済を反映した強化が検討されます。[gov]​

第三に、電子商取引分野では、人工知能、デジタルアイデンティティ、オンライン安全性、電子決済などの分野における規定の追加、およびデータフロー、サイバーセキュリティ、消費者保護などの既存規則のアップグレードが含まれます。第四に、競争力とビジネス促進分野では、危機時の調整などの共有原則に基づくサプライチェーンレジリエンスの強化に関する規定や、グローバルおよび地域バリューチェーンへの統合を支援する協力の強化が検討されます。[gov]​

第五に、貿易と女性の経済的エンパワーメント分野では、女性の貿易への参加とリーダーシップを促進する非拘束的な協力規定または新章の追加が支持されています。第六に、ジェンダー主流化、経済的威圧、市場歪曲慣行に関する新たなプラットフォームの設立も推奨されています。[gov]​

日本企業が得られる具体的メリット

関税削減による大幅なコスト競争力の向上

CPTPP協定は広範な品目にわたり関税を削減または撤廃しており、日本企業にとって大きなコスト削減機会を提供しています。協定発効時に大部分の関税項目が即時撤廃され、残りの品目については段階的な関税削減スケジュールが適用されています。onestepbeyond+3

日本の場合、関税削減は年度ベース(4月1日開始)で進行します。例えば、初期加盟6カ国の場合、第1回目の関税削減は2018年12月30日に実施され、日本の第2回目の関税削減は2019年4月1日に実施されました。その後、日本の関税削減は毎年4月1日に実施され、完全履行まで継続されます。international.gc+1

カナダの事例では、日本市場において豚肉の高価格部位に対する関税が10年以内に撤廃され、低価格部位に対する関税も10年以内に削減されます。牛肉カットおよび牛肉製品に対する関税は15年以内に削減され、オーストラリアなどの競合国と同等の条件となります。カノーラ油の関税は5年以内に撤廃され、カノーラ種子、クランベリー、ブルーベリー、ペットフードなどの多くの農産物は即座に免税アクセスを享受しています。[international.gc]​

累積原産地規則による柔軟なサプライチェーン構築

CPTPP協定の最も重要な特徴の一つは、加盟国間での累積原産地規則です。累積とは、ある国が最終製品の原産地を決定する際に、他の加盟国からの中間製品を自国のものとして扱うことができる範囲を定義する概念です。apfccptppportal+2

CPTPP協定第3.10条は、一つまたは複数のCPTPP締約国の領域内で一つまたは複数の生産者によって製品が生産される場合、その製品が第3.2条(原産品)の要件およびこの章のその他すべての適用可能な要件を満たす限り、原産品とみなされると規定しています。また、一つまたは複数のCPTPP締約国の原産品または原材料が別の締約国の領域内で別の製品の生産に使用される場合、その別の締約国の領域の原産品とみなされます。[apfccptppportal]​

具体的な例として、日本企業がベトナムから織物を輸入し、それを英国での製造工程でレインコートに組み込み、最終的に日本に輸出する場合、このベトナム産材料は英国原産とみなされ、製品固有規則の充足に貢献します。この柔軟性により、日本企業はCPTPP加盟国全体にわたる最適なサプライチェーンを設計し、コスト削減と特恵関税の恩恵を同時に享受できます。business.gov+1

基準と規制の調和による取引コスト削減

CPTPP協定は関税削減だけでなく、基準の調和を追求することで輸出入に伴う取引コストを低減しています。内国民待遇原則により、各締約国は輸入品と国内生産品を平等に扱うことが義務付けられており、輸入品は国内同種産品よりも重い税金、厳格な製品規制、広範な販売制限を課されることはありません。onestepbeyond+2

日本市場参入を検討する外国企業にとって、CPTPP加盟は書類手続きの簡素化、通関手続きの迅速化、貿易投資を規律する法的枠組みの透明性向上を意味します。日本企業にとっても、CPTPP加盟国への輸出時に同様のメリットが得られるため、市場開拓コストが大幅に削減されます。[onestepbeyond.co]​

今から準備すべき5つの戦略ポイント

1. 新規加盟国との取引機会の早期評価と市場参入準備

英国、コスタリカ、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアといった新規加盟国または加盟候補国との取引可能性を早期に評価することが重要です。これらの市場はそれぞれ独自の強みを持っており、日本企業にとって多様な機会を提供します。

英国は金融サービス、先端技術、高級消費財の市場として魅力的です。コスタリカは医療機器とソフトウェア開発、ウルグアイは高品質農産物、UAEはエネルギーと物流ハブ、フィリピンとインドネシアは成長する消費市場と製造拠点としての可能性を持っています。加盟が正式決定される前から、これらの市場における競争環境の分析、潜在的パートナーの特定、現地規制の理解を進めておくことで、加盟後の迅速な市場参入が可能になります。

2. 累積原産地規則を活用したサプライチェーン最適化

CPTPP加盟国の拡大を見越して、サプライチェーンの最適化を検討すべきです。累積原産地規則を最大限に活用することで、コスト削減と特恵関税の両方を実現できます。

例えば、現在マレーシアとベトナムで分散している生産工程に、英国やインドネシアを組み込むことで、より効率的な生産ネットワークを構築できる可能性があります。ただし、累積を活用するためには、製品固有規則を正確に理解し、各加盟国での付加価値計算や関税分類変更基準を満たす必要があります。専門家の助言を得ながら、最適な生産配置を計画することが重要です。

3. 原産地証明の手続き理解と自己証明制度への移行

CPTPP協定では、企業の実情に応じて選択できる柔軟な原産地証明制度が導入されています。従来の第三者証明制度に加えて、認定輸出者による自己証明や、輸出者・生産者による自己申告が可能です。[business.gov]​

これらの制度を活用することで、原産地証明書の取得コストと時間を大幅に削減できますが、企業側には原産地判定の正確性を担保する責任が求められます。社内に原産地規則の専門知識を持つ人材を育成し、原材料の調達記録や製造工程の文書を適切に管理するシステムを構築することが不可欠です。税関監査にいつでも対応できる体制を整えておくことで、長期的なコンプライアンスリスクを最小化できます。

4. 電子商取引とデジタル貿易規則の変更への準備

2025年の一般見直しでは、電子商取引章のアップグレードが重要な焦点となりました。人工知能、デジタルアイデンティティ、オンライン安全性、電子決済などの新興分野における規定の追加、およびデータフロー、サイバーセキュリティ、消費者保護に関する既存規則の強化が検討されています。[gov]​

デジタルサービス、電子商取引プラットフォーム、フィンテック、クラウドサービスを提供する日本企業は、これらの規則変更が自社のビジネスモデルに与える影響を評価し、必要に応じてシステムやオペレーションの調整を準備する必要があります。特に、越境データフローの自由化やデータローカライゼーション要求の制限は、グローバルなデータ管理戦略に大きな影響を与える可能性があります。

5. ベトナム議長年における官民対話への積極参加

2026年のCPTPP議長国はベトナムが務めることになっており、ベトナムはCPTPP支援ユニットの設立を提案しています。この支援ユニットは、協定実施における資源制約に対処することを目的としており、すべての加盟国から強い支持を得ています。moit+1

日本企業は、経済産業省、日本貿易振興機構(ジェトロ)、業界団体を通じて、ベトナム議長年における議論や意見募集に積極的に参加すべきです。特に、協定アップグレード交渉において自社のビジネスに影響を与える可能性がある分野については、早期に政府に要望を伝え、交渉プロセスに反映してもらうことが重要です。また、CPTPP委員会が開催するEUやASEANとの貿易投資対話にも注目し、地域間連携の強化から生まれる機会を把握することが求められます。[vietnamlawmagazine]​

注意すべきリスクと実務上の留意点

加盟国ごとに異なる関税削減スケジュール

CPTPP協定では、関税削減スケジュールが国によって異なる点に注意が必要です。日本は年度ベース(4月1日開始)で関税削減が進行しますが、その他の大多数の国は暦年ベース(1月1日開始)です。この差異により、同じ年でも適用される関税率が国によって異なる期間が生じるため、輸出入のタイミングを戦略的に調整する必要があります。vntradetoca+1

また、ベトナム、ペルー、マレーシアのように後から加盟した国については、キャッチアップ規定により複数年分の関税削減が加盟時に一括適用される場合があります。新規加盟国についても同様の仕組みが適用される可能性があるため、各国の関税削減スケジュールを個別に確認し、最適な取引タイミングを見極めることが重要です。[international.gc]​

原産地規則の複雑性とコンプライアンスリスク

累積原産地規則は大きなメリットをもたらす一方で、複雑な計算と厳密な記録管理を要求します。累積の程度が高いほど、すなわち原産地規則を満たすために投入物をカウントできる潜在的貿易パートナーの数が多いほど、規則はより自由になり満たしやすくなります。しかし、広範な累積規則は国を製造プロセスでより競争力のあるものにし、外国直接投資にとって魅力的にする一方で、複雑性も増大させます。[wcoomd]​

原産地判定を誤ると、特恵関税の適用が認められないだけでなく、事後監査で問題が発覚した場合には追徴課税や罰則の対象となる可能性があります。企業は原産地規則の専門家を活用し、製品ごとの原産地判定を慎重に行うとともに、サプライヤーから適切な原産地情報を入手する仕組みを構築する必要があります。

地政学的リスクとサプライチェーンの分散化

CPTPP加盟国の拡大は機会をもたらす一方で、地政学的リスクも考慮する必要があります。特定の国や地域に過度に依存するサプライチェーンは、政治的緊張、自然災害、パンデミックなどの外部ショックに脆弱です。

複数の加盟国に生産拠点や調達先を分散させることで、リスクを軽減しつつCPTPP協定のメリットを享受する戦略が重要です。累積原産地規則の柔軟性を活用し、状況に応じて生産拠点を切り替えられる体制を整えておくことで、予期せぬ事態にも迅速に対応できます。

まとめ:CPTPP拡大を成長戦略の中核に据える

CPTPP協定の加盟拡大は、日本企業にとって市場アクセスの拡大、サプライチェーンの柔軟性向上、取引コストの削減という多面的なメリットをもたらします。英国の正式加盟実現、コスタリカとウルグアイの加盟交渉進展、UAE、フィリピン、インドネシアの加盟候補国認定により、CPTPP経済圏は地理的にも経済的にも大幅に拡大しようとしています。

また、2025年の一般見直し完了により、電子商取引、サービス貿易、金融サービス、競争力とビジネス促進、女性の経済的エンパワーメントなどの重要分野における協定アップグレードが今後数年間で実現する見込みです。これらの変化は、特にデジタル経済分野で事業展開する日本企業にとって、国際競争力を強化する大きな機会となります。

一方で、原産地規則の複雑性、加盟国ごとに異なる関税削減スケジュール、地政学的リスクといった課題にも適切に対応する必要があります。今から戦略的な準備を進めることで、CPTPP拡大の恩恵を最大限に活用し、アジア太平洋地域を超えたグローバル市場での競争優位性を確立できます。

日本企業は、新規加盟国との取引機会の早期評価、累積原産地規則を活用したサプライチェーン最適化、原産地証明の自己証明制度への移行、電子商取引規則への対応準備、ベトナム議長年における官民対話への参加という5つの戦略ポイントを着実に実行することが求められます。CPTPP拡大という歴史的な機会を企業の長期的成長戦略の中核に据えることで、不確実な国際貿易環境の中でも持続可能な成長を実現できるでしょう。


免責事項

本記事は2026年2月8日時点で公開されている情報に基づいて作成されたものです。CPTPP協定の加盟拡大プロセスや協定アップグレードの内容は、今後の交渉や加盟国間の協議により変更される可能性があります。特に、カナダによる英国加盟議定書の批准状況、コスタリカの加盟完了時期、その他の加盟候補国の交渉開始時期は確定しておらず、政治的・経済的状況により変動する可能性があります。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、特定のビジネス判断や法的助言を提供するものではありません。実際のビジネス戦略の策定や投資判断を行う際には、必ず貿易実務の専門家、税関士、国際ビジネス弁護士などの専門家に相談し、最新の公式情報を確認してください。各国の関税率、原産地規則、製品固有規則は頻繁に更新されるため、実務に適用する前に必ず最新の情報を確認することを強くお勧めします。本記事の内容に基づいて行われた行動の結果について、筆者および関係者は一切の責任を負いません。

英国のCPTPP加盟で変わる対英貿易。日英EPAとの「二刀流」活用術

2026年2月6日、英国が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に正式加盟してから一定期間が経過しました。現在、日本の貿易現場では、既存の「日英経済連携協定(日英EPA)」と、新たに使用可能になった「CPTPP」のどちらを選択すべきかという、戦略的な使い分けの議論が非常に活発化しています。

同じ日本と英国の間の貿易でありながら、二つの異なるルールが存在する現在の状況は、企業にとってコスト削減の大きなチャンスであると同時に、実務的な複雑さも増しています。本稿では、ビジネスマンが押さえておくべき二つの協定の決定的な違いと、最適な選択を行うための視点を深掘りします。


どちらを選ぶべきか。判断を分ける三つの核心

日英間で二つの協定が共存する「ダブル・トラック」体制において、企業が優先順位を決める際の基準は、単なる関税率の低さだけではありません。以下の三つの要素が、活用の鍵を握っています。

1. 原産地規則における「累積」の範囲

これが実務上で最も大きな違いです。

日英EPAでは、欧州連合(EU)産の原材料や部品を「自国(日本または英国)産」とみなして計算に含めることができる「EU累積」が認められています。これは、ドイツやフランスなどのEU諸国から部品を調達して英国で組み立てを行う、あるいは日本でEU産部材を使って製品化する企業にとって、極めて有利なルールです。

対して、CPTPPでは、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、カナダといったCPTPP加盟国全体の部材を合算できる「CPTPP広域累積」が適用されます。アジア圏のサプライチェーンを広く活用している企業にとっては、CPTPPの方が「日本産」としての資格を満たしやすくなるケースが多いのです。

2. 関税撤廃スケジュールの微妙な差

日英EPAは、基本的に日欧EPAの成果を継承しており、多くの品目ですでに即時撤廃、あるいは高度な削減が実現しています。

一方で、CPTPPは加盟国間での独自の譲許表(関税撤廃スケジュール)を持っており、特定の品目、例えば農産品や一部の工業製品においては、CPTPPの方が最終的な無税化までの期間が短かったり、枠組みが異なったりする場合があります。輸出入を行う品目ごとに、両方の協定の譲許表を突き合わせ、数年先の税率まで見越したシミュレーションを行うことが不可欠です。

3. 証明手続の利便性と柔軟性

日英EPAでは、輸出者または輸入者が自ら原産地を証明する「自己申告制度」が採用されています。

CPTPPも同様に自己申告が基本ですが、長年CPTPPを他の太平洋諸国との間で使い慣れている企業にとっては、共通のフォームや社内管理体制をそのまま英国向けにも横展開できるという運用上のメリットがあります。複数の協定をバラバラに管理するコストを避けるため、あえて他の国と同じCPTPPに統一するという経営判断も増えています。


ビジネスマンが取るべき実務アクション

戦略的な使い分けを実現するために、今すぐ着手すべき具体的なアクションは以下の通りです。

  1. サプライチェーンの再点検自社製品に使用されている主要部材の原産地を改めて特定してください。EU産が多いのか、それともASEAN(CPTPP加盟国)産が多いのかによって、勝負すべき協定は自動的に決まります。
  2. 二つの譲許表の「現行税率」比較税関やJETROが提供しているデータベースを活用し、当該HSコードにおける本日の実行関税率を比較してください。日英EPAではすでに0%でも、CPTPPでは段階削減の途上であるといった逆転現象も起こり得ます。
  3. 認定輸出者制度等のステータス確認自己申告を行うための社内エビデンス(原産地判定書など)が、両方の協定のルールに対応できているかを確認してください。特に累積規定を利用する場合、根拠となるサプライヤー証明書のフォーマットが異なる場合があります。

まとめ:協定を「選べる」強みを利益に変える

英国のCPTPP加盟により、日本企業は強力な武器を二つ手に入れました。これまでは「日英EPA一択」だった思考を切り替え、調達ルートの変化に合わせて柔軟に協定を使い分けることが、2026年以降のグローバル競争を勝ち抜くための新常識となります。

関税コストの削減は、直接的に営業利益を押し上げます。法務や物流の担当者だけでなく、営業や経営企画の部門も巻き込んで、この「二刀流」のメリットを最大限に引き出す戦略を構築してください。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

CPTPP経済圏の拡張。英国加盟が生んだ完全累積というサプライチェーンの革命

2026年2月1日、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の事務局機能を持つ各国の政府機関から、実務家にとって待望の資料が公表されました。それは、英国の加盟によって新たに適用可能となった完全累積ルールの具体的な活用事例集です。

英国がCPTPPに加わったことは、単に輸出先が一つ増えたという話ではありません。それは、欧州の工業力とアジアの生産拠点が、一つの原産地規則の下で統合されたことを意味します。

本記事では、公表された事例を基に、完全累積という仕組みがどのようにサプライチェーンのコスト構造を変革するのか、そして日本企業が取るべき戦略について深掘り解説します。

完全累積とは何か。足し算で原産地を勝ち取る仕組み

まず、CPTPPの最大の特徴である完全累積(Full Cumulation)について整理します。

従来の多くのFTA(自由貿易協定)では、ある国で生産された部品が原産品(その国の製品)として認められるためには、その国の中で一定の加工基準を満たす必要がありました。基準を満たさない部品は、単なる外国産の材料として扱われ、次の工程での原産地判定に貢献しませんでした。

しかし、CPTPPの完全累積制度はこれを根本から変えます。このルール下では、部品そのものが原産品であるかどうかに関わらず、加盟国間で行われた生産活動(付加価値や加工工程)をすべて足し合わせることができます。

つまり、英国で行われた加工による付加価値と、日本で行われた加工による付加価値、さらにベトナムで行われた組み立ての付加価値をすべて合算し、最終製品の原産地判定に用いることが可能になるのです。これは、サプライチェーン全体を一つの巨大な工場とみなす考え方です。

公表された事例が示す黄金のルート

今回公表された事例の中で、日本企業にとって特にインパクトが大きいのが、日英アジアをまたぐサプライチェーンモデルです。

英国製高機能部品の活用事例

ある日本の産業機械メーカーのケースを見てみましょう。このメーカーは、英国のサプライヤーから特殊なセンサー部品を調達しています。

これまでの日EU・EPAを利用する場合、このセンサーは欧州原産として扱われますが、それを組み込んだ機械をベトナムやカナダへ輸出する場合、日EU・EPAは使えません。また、CPTPPを使おうとしても、英国が加盟する前は、このセンサーは単なる域外の部材(非原産材料)として扱われ、原産資格を満たすための足かせとなっていました。

しかし、英国がCPTPP加盟国となったことで状況は一変しました。英国製センサーのコスト分は、CPTPP域内の原産材料として計算式(関税分類変更基準や付加価値基準)に組み込むことができます。これにより、日本での加工度が低くても、あるいはベトナムでの最終工程が単純なものであっても、完成品全体としてCPTPP原産品の資格を取得しやすくなりました。

結果として、ベトナムからカナダやメキシコへ輸出する際の関税をゼロにすることが可能になります。欧州の技術(英国)と日本の品質管理(日本)、そしてアジアのコスト競争力(ベトナム)を組み合わせた製品が、北米市場(カナダ・メキシコ)で無関税の恩恵を受けるという、地球規模の勝ちパターンが成立したのです。

企業が今すぐ見直すべき調達戦略

この事例が示唆しているのは、調達ソースの見直しが急務であるという事実です。

欧州調達の再評価

これまで、CPTPPを利用するために、あえて品質やコストで劣る加盟国内(アジア圏)のサプライヤーを選定していた企業もあるかもしれません。あるいは、英国製の部品を使いたくても、関税の観点から諦めていたケースもあるでしょう。

今後は、英国メーカーをCPTPPサプライチェーンの正式なパートナーとして組み込むことが可能です。特に、航空宇宙部品、自動車のパワートレイン、高度な化学薬品など、英国が強みを持つ分野においては、調達先を英国へ切り替えることで、製品の品質向上と関税削減を両立できる可能性があります。

証明書類の管理プロセス

ただし、実務上の注意点もあります。完全累積を適用するためには、英国のサプライヤーから、その部品がCPTPPのルールに基づいて生産されたこと、あるいはどの程度の付加価値が英国で付与されたかを示す情報提供を受ける必要があります。

日EU・EPA向けの書類とは様式や記載事項が異なるため、英国側のサプライヤーに対してCPTPP専用の協力要請を行う必要があります。

まとめ

英国のCPTPP加盟と完全累積ルールの適用は、日本企業のサプライチェーン戦略に欧州という新しいカードを与えました。

これまで分断されていた日欧の貿易と、環太平洋の貿易がリンクしたことで、調達と生産の自由度は飛躍的に高まりました。公表された事例を自社の商流に当てはめ、英国部材を活用した新しい原産地戦略を描ける企業こそが、グローバル市場での価格競争力を制することになります。

日英EPAの乗用車関税撤廃(2026年2月)

2026年2月1日。ついに、日本とイギリスの間で大きな経済の節目が訪れます。日英EPA(包括的経済連携協定)に基づき、日本から英国へ輸出される乗用車の関税が完全に「ゼロ」になります。

2021年の協定発効から段階的に引き下げられてきた関税が、ついに撤廃されるこの瞬間。日本の自動車産業、そして現地の消費者にとってどのような意味を持つのか、深掘り解説します。


1. 2026年2月、何が起きるのか?

日英EPAでは、日本から輸出される乗用車にかけられていた10%の関税を、8年かけて段階的に削減するスケジュールが組まれていました。

  • 2019年〜: 日EU・EPAのスケジュールを継承(いわゆる「キャッチアップ」)。
  • 2021年1月: 日英EPA発効。この時点で関税はすでに削減の途上(約7.5%)。
  • 2026年2月1日: 関税率 0%(完全撤廃)が実現。

これにより、日本で製造された車両をイギリスへ輸出する際のコストが大幅に抑えられ、欧州メーカーや韓国・中国メーカーとの価格競争において、日本車が再び強力な武器を手にすることになります。


2. なぜ「今」この撤廃が重要なのか?

自動車業界が100年に一度の変革期(CASE)にある中、この関税撤廃は単なる「値下げ」以上の意味を持ちます。

① EVシフトへの強力な後押し

現在、英国市場では「ZEV(ゼロエミッション車)販売義務化」が進んでいます。関税がゼロになることで、日本メーカー(トヨタ、日産、ホンダ、マツダなど)は、高価になりがちなEV(電気自動車)やハイブリッド車の価格を抑えて市場に投入しやすくなります。

② 英国市場での「日本車ブランド」の再定義

イギリスは伝統的に日本車への信頼が厚い市場ですが、近年は他国メーカーの台頭も目立ちます。関税コストが消えることで、浮いた資金をマーケティングやインフラ整備、アフターサービスに投資できるようになり、ブランド力の再強化が可能になります。

③ サプライチェーンの最適化

日英EPAでは、自動車部品の多くが既に即時撤廃されています。完成車関税がゼロになることで、「日本でコア技術を製造し、英国で最終組み立てを行う」あるいは「日本から完成車を輸出する」といった戦略の選択肢が広がり、物流の最適化が進みます。


3. 注意点:「原産地規則」の壁

関税が0%になるとはいえ、無条件ではありません。ここで重要になるのが**「原産地規則(Rules of Origin)」**です。

ポイント:

車両の価値のうち、一定割合(付加価値基準)が「日本産」または「英国産」である必要があります。特にEVの心臓部であるバッテリーに関しては、原材料の調達先が厳しくチェックされます。

もし、バッテリーの主要部材を日本や英国、EU以外から調達しすぎると、「日本産」と認められず、0%の優遇税率を受けられないリスクがあります。メーカーはこのルールをクリアするための調達戦略を2026年に向けて緻密に練り上げてきました。


4. 消費者・ビジネスへの影響まとめ

視点期待される影響
日本の自動車メーカー輸出コスト削減による収益性向上、EV市場での価格競争力強化。
英国の消費者日本車の選択肢が増え、高性能なハイブリッド車やEVがより手頃な価格に。
物流・商社日本からの輸出台数増加に伴う、日英間の貿易活発化。

結び:2026年、日英経済の絆は次のステージへ

乗用車関税の撤廃は、日英関係が「ポスト・ブレグジット(英国のEU離脱)」の混乱を乗り越え、強固なパートナーシップを構築した象徴とも言えます。2026年2月以降、イギリスの街中で最新の日本車がより多く走る姿を目にすることになるでしょう。

これは単なる貿易の数字の変化ではなく、日本の技術が世界で選ばれ続けるための大きな追い風です。


「日英EPAによる乗用車関税の完全撤廃(2026年2月)」は、日本の自動車メーカーにとって、イギリス市場での競争環境を劇的に変えるゲームチェンジャーとなります。

具体的にどの車種が恩恵を受けるのか、そしてメーカーが直面する「原産地規則」という新たな壁について深掘りします。


1. 恩恵を直接受ける「注目の車種」

現在、イギリスで販売されている日本車の多くは「英国産」または「欧州産」ですが、日本から直接輸出されている高付加価値モデルが、今回の関税撤廃で最も大きな恩恵を受けます。

① レクサス(Lexus)全般

レクサスの多くは日本国内(田原工場など)で生産され、イギリスへ輸出されています。

  • 対象モデル: RX, NX, UX, RZ(EV), LC, LSなど
  • メリット: 高級車セグメントでは数%の価格差が大きな競争力になります。メルセデス・ベンツやBMWといった欧州メーカーに対し、より攻めた価格設定や装備の充実が可能になります。

② スポーツモデル・趣味性の高い車

「日本専売」に近い形で製造され、世界に輸出されるモデルも恩恵を受けます。

  • トヨタ: GRヤリス、スープラ、GR86
  • ホンダ: シビック Type R
  • マツダ: MX-5(ロードスター)これらはファンが多く、関税撤廃による価格維持(または値下げ)は、ブランドロイヤリティを高める要因となります。

③ 最新の輸入EV・ハイブリッド車

  • 日産:アリア(Ariya)
    • 日産の主力EVですが、英国サンダーランド工場ではなく日本の栃木工場で生産されています。これまでかかっていた関税がゼロになることで、テスラや中国メーカー(BYDなど)との価格競争が激化する英国EV市場で有利に立ちます。
  • マツダ・スバル:CX-60, アウトバック, フォレスター
    • 輸出比率が高いこれらのブランドにとって、英国市場は収益性の高いエリアに変わります。

2. 「原産地規則」の壁:2027年の崖

関税がゼロになっても、手放しでは喜べないのが**「原産地規則(Rules of Origin)」**の問題です。特にEVについては、2027年に大きなルール変更が控えています。

EVバッテリーの「現地調達率」ルール

日英EPA(および英EU間ルール)では、関税ゼロの適用を受けるために、車両価値の一定割合を「日本・英国・欧州」の部品で構成する必要があります。

期間車両の現地調達率(RVC)要求バッテリーへの要求
〜2026年末まで40%〜45%(緩和措置中)比較的緩やかな基準
2027年1月〜55%以上セル・材料の多くが現地産であること

この「2027年の崖」をクリアできないと、**せっかく2026年2月に関税が0%になっても、2027年から再び10%の関税が課される(=原産地ルール違反)**という事態になりかねません。


3. 各社の最新動向:生き残りをかけた戦略

メーカー各社は、この「2027年ルール」をクリアするために、サプライチェーンの再構築を急いでいます。

  • 日産自動車(EV36Zero戦略):英国サンダーランド工場の隣に、パートナー企業のAESC(旧エンビジョンAESC)と共同で**巨大なギガファクトリー(バッテリー工場)**を建設中。英国産のバッテリーを搭載することで、2027年以降も関税ゼロを確実に維持する構えです。
  • トヨタ自動車:英国バーナストン工場でのハイブリッド車生産に加え、欧州域内でのバッテリー調達を強化。また、日本から輸出するEV(レクサスなど)についても、日本産バッテリーの付加価値を高めることで「日本産」としての認定を維持する戦略をとっています。
  • マツダ・スバル:両社は日本国内での生産比率が高いため、パナソニックなどの国内バッテリーメーカーとの連携を強化しています。日本で「材料から一貫生産したバッテリー」を搭載することで、日英EPAのルール下で「日本産」として認められる付加価値比率を確保しようとしています。

4. ブログのまとめ:2026年は「攻め」、2027年は「守り」

2026年2月の関税撤廃は、日本車にとっての**「輸出の春」です。しかし、その直後に控える2027年の原産地規則厳格化は、「バッテリーの自給自足」**を迫る厳しい試練でもあります。

読者へのメッセージ:

「イギリスで日本車が安くなる!」というニュースの裏には、各メーカーによる壮絶なバッテリー調達競争と、国境を越えたサプライチェーンの書き換えがあるのです。


韓国のCPTPP加盟再検討が企業に与える影響を深掘りする


(2026年1月11日現在の公開情報に基づく)

はじめに

2025年後半から、韓国政府はCPTPP(包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定)への参加を「再検討」する姿勢を、政策レベルで改めて打ち出し始めました。 背景には、対米・対中への依存度が高い輸出構造のリスクと、主要市場における競争条件の変化があります。 韓国の動きは、韓国企業だけでなく、日本企業の調達・販売・現地生産・投資判断にも連鎖的に影響し得ます。koreajoongangdaily.joins+1​

本稿では、韓国が「加盟した場合」の関税メリットにとどまらず、どの業務プロセスがどの順番で影響を受けやすいのかを、実務目線で整理します。結論を先に述べると、最大の論点は関税そのものよりも、メキシコを中心とした競争条件の再編と、原産地規則を前提としたサプライチェーン設計の見直しです。clarkhill+1​


要点(忙しい方向け)

  • 韓国政府は2025年9月頃からCPTPP参加の再検討を公表し、2025年12月には「CPTPPとの関係強化」を含む通商方針を示しています。 2026年1月上旬時点で公表されている表現は「再検討」「準備が整い次第追加措置」といったレベルにとどまり、寄託国への正式通報(加入申請)の提出時期や、すでに提出済みかどうかを明示した情報は確認できません。nippon+2​
  • CPTPPは2026年1月時点で12の締約国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、英国)で構成されており、英国の加入手続は2024年末に効力を生じています。 新規加盟は既存ルールの変更を前提とせず、加盟希望国はまず寄託国ニュージーランドに正式な加入要請を通報し、その後CPTPP委員会の合意、作業部会設置、市場アクセス交渉など複数段階を経ることになります。mfat+3​
  • 韓国にとって分かりやすい「痛み」は、メキシコで顕在化しています。メキシコは2026年1月1日から、FTA未締結国など一部の国からの輸入について、約1,400品目でMFN関税率を引き上げ、鉄鋼や自動車など一部品目では最大50%の関税が適用され得ると報じられています。 対象には韓国が含まれ、一方で日本は日墨EPAやCPTPPにより、多くの品目で協定税率の適用余地があるため、同じ市場で競争条件が分かれやすい状況です。craneww+3​
  • 韓国がCPTPP加盟に進むほど、日本企業にとっては「韓国企業の競争力が上がる」という側面と、「日本企業が韓国をサプライチェーンに組み込みやすくなる」という側面の両方が生じます。 どこに勝ち筋があるかは、取引先・製造拠点・品目ごとに異なります。mfat+1​

第1章 いま何が起きているのか:再検討の位置付け

韓国政府は2022年前後にCPTPP参加を推進する方針を示しつつも、正式な加盟申請には踏み切れなかったと報じられています。 要因として、農業・水産業を中心とする国内の反発や、当時の日韓関係の緊張が挙げられます。koreatimes+1​

その後、2025年9月、米国および中国をめぐる通商環境の不確実性への対応策の一つとして、韓国政府はCPTPP参加の再検討に着手する方針を明らかにしました。 さらに2025年12月には、産業通商資源部などが2026年の政策目標の中で、対中サービス分野のFTA推進と並行してCPTPPとの関係強化に言及したとされています。investkorea+1​

CPTPPの締約国閣僚は2025年5月16日に韓国・済州で会合を開いており、韓国は加盟国ではないものの、地域の通商アジェンダを議論する場として位置付けられていることがうかがえます。 また2026年1月上旬には、日韓首脳会談でCPTPPが議題となる可能性が報じられ、韓国側は日本の支持獲得を模索しているとされています。 ただし、韓国政府の説明は「準備が整い次第、追加措置を取る」といった表現にとどまり、実務的には「国内調整と事前協議の段階が続いている」と見るのが安全です。gov+3​


第2章 CPTPP加盟プロセス:企業が見るべき節目

CPTPP加盟プロセスでは、ニュースの見出し以上に「手続き上の節目」が重要になります。理由は、各節目を越えるたびに、企業が前倒しで検討すべき論点が変わるためです。mfat

協定文書および関連説明によれば、加盟希望国は寄託国ニュージーランドに正式な加入要請を通報し、寄託国はこれを他の締約国に共有します。 その後、CPTPP委員会がコンセンサスにより交渉開始の可否を決定し、交渉開始が合意されれば、加入作業部会が設置される流れが一般的に想定されています。cas+1​

ニュージーランド政府は、新規加盟国は既存の協定を前提に参加する必要があり、協定文自体が新規加盟国のために書き換えられるわけではない点を説明しています。 つまり「新たな例外を設けて入りやすくする」タイプの交渉ではなく、既存の高水準ルールにどこまで適合できるかが問われます。mfat

またCPTPP側は拡大方針として「オークランド原則(Auckland Principles)」に沿って加盟を進めるとし、十分な準備が整った国・地域からの申請を歓迎するとしています。 ここで言う準備には、高い水準の義務を履行できることや、全会一致の合意を得られる見通しなどが含まれます。cas+1​

実務担当者が注視すべき節目は、次のとおりです。

  • 韓国が寄託国ニュージーランドに正式な加入要請(通報)を行ったかどうか
  • CPTPP委員会が韓国の加盟交渉開始および作業部会設置を決定したか
  • 関税・サービス・投資などの市場アクセスオファーが具体化したか
  • 韓国国内の関連法令改正や国会承認手続きがどこまで進んだか

ここまで進まない限り、企業として「影響が必ず来る」と言い切ることはできません。ただし、プロセスが動き出してから準備しても間に合わない領域があるため、そこに先回りすることが価値を持ちます。mfat


第3章 韓国が再加速する理由:メキシコ問題と競争条件

ビジネスの現場で分かりやすいのが、メキシコのMFN関税引き上げです。メキシコは2026年1月1日から、約1,400前後のタリフラインについてMFN関税率を引き上げ、鉄鋼、機械、自動車など一部品目では最大50%の関税水準に達し得る改正を実施しました。 この改正は主としてFTA未締結国を対象とし、韓国や中国、インド、インドネシアなどが対象国に含まれると報じられています。opportimes+5​

韓国メディアや専門家の報道では、メキシコの関税引き上げに対して韓国輸出企業の警戒感が高まり、韓国政府が適用除外や柔軟運用を求めたものの、交渉は容易ではないとされています。 韓国にとっては、メキシコ市場での価格競争力が関税面から直接圧迫される構図です。foley+1​

一方、日本企業にとって重要なのは、「同じメキシコ市場で、日本は日墨EPAやCPTPPを通じて協定税率を利用できる一方、韓国はMFN税率に直面する品目が出てくる」という非対称性です。 JETRO等の解説でも、今回のMFN関税率引き上げはFTA締結国の協定税率には直接影響せず、FTA非締結国との間で競争条件のギャップが拡大する点が指摘されています。mohawkglobal+2​

ここから先は仮説レベルの分析ですが、この状況は韓国企業にとって、「メキシコとの二国間交渉を再起動する」か、「CPTPP加盟を通じて協定ネットワークに組み込まれる」かの選択圧として働きやすいと考えられます。 韓国のCPTPP再検討は理念的な側面だけでなく、競争条件の是正という極めて実務的な動機が大きいとみるのが妥当です。clarkhill+2​


第4章 企業への影響を4つに分解する

ここからが本題です。企業が受ける影響は、大きく4つに分解すると見通しが良くなります。

1. 市場アクセス(関税と数量制限)

韓国がCPTPPに加盟すれば、現時点でFTAがない、または条件が相対的に不利な相手国・地域との取引で競争条件が変化します。 代表例がメキシコであり、現在、日本企業は日墨EPAやCPTPPを通じて協定税率を利用できる一方、韓国企業はMFN税率適用品目で不利な局面が生じています。 韓国が加盟することで、こうしたギャップが縮小する可能性があります。global-scm+3​

2. 原産地規則と累積の範囲(サプライチェーン設計)

CPTPPの実務では、原産地規則および加盟国間での「累積」の扱いがサプライチェーン設計に大きく影響します。 韓国が加わると、部材や工程を「CPTPP域内」としてカウントできる範囲が広がり、最適な調達先や生産地の組み合わせが変わり得ます。 CPTPPは包括的な原産地規則を持ち、既存の韓国FTAネットワークよりも累積の選択肢が広がる可能性があるため、原産地規則の運用を競争力の源泉とできる企業ほど優位性を高めやすくなります。mfat

3. ルール分野(デジタル、知財、国有企業、政府調達など)

CPTPPは関税削減にとどまらず、デジタル貿易、知的財産、国有企業、政府調達など幅広いルール分野を含む高水準協定です。 新規加盟国は既存の協定文に従う必要があり、国内法制や行政運用の調整が避けられません。 協定文書はニュージーランド外務貿易省等の公的リソースで公開されており、企業としても条文を直接参照しながらコンプライアンスや契約設計を検討することができます。cas+1​

韓国はデジタル経済分野の国際ルール形成にも積極的であり、2023年にDEPA(Digital Economy Partnership Agreement)への加盟交渉を実質妥結し、2024年に正式に加盟しています。 CPTPPのデジタル関連ルールへの適合という観点では、こうした取組が交渉基盤として参照される可能性があります。mfat+3​

4. 政治経済リスク(国内反発と交渉の不確実性)

企業が読み違えやすいのが、加盟に向けた政治・社会的ハードルです。韓国では過去にも農業・水産業を中心にCPTPPへの反発が強く、加盟申請を見送った経緯が報じられています。 加盟交渉が具体化するほど、農業生産への影響や食品・水産物をめぐる懸念、補償・セーフガード設計などの国内対策を巡る政治コストが増し、スケジュールが揺れやすくなります。everycrsreport+2​


第4章補足 3つの具体的シナリオ(仮説)

以下は、典型的な企業行動を想定した仮説的なシナリオです。自社の実態に合わせて読み替えてください。

シナリオ1 メキシコ向けに日本から完成品を輸出している企業

現状、日墨EPAやCPTPPの協定税率が使える設計であれば、韓国企業が同一製品をMFN税率で輸出する場合、関税差が価格競争力の差として表れやすくなります。 韓国がCPTPPに加盟して協定税率を利用できるようになれば、関税に起因する価格差は縮小し、競争の軸は品質、納期、現地サービスなど非価格要因にシフトしやすくなります。mohawkglobal+3​

シナリオ2 韓国で部材を調達し、CPTPP域内に輸出している企業

韓国がCPTPPに加盟すれば、累積の範囲が拡大し、一部の製品では原産性判定を満たしやすくなる可能性があります。 その結果として、「韓国調達を増やす」「韓国で一部工程を追加する」といったサプライチェーン最適化オプションが現実味を帯びます。原産地規則の設計をサプライヤー選定・工程設計に組み込める企業ほど有利になります。mfat

シナリオ3 日韓でデジタル・サービスを展開する企業

CPTPPは電子商取引やデジタル貿易に関する高水準のルールを含んでおり、新規加盟国はこれらの規律に適合する必要があります。 韓国はDEPA加盟を通じてデジタル分野の国際ルールへのコミットメントを示しており、CPTPPへの対応が進むほど、域内でのデジタル取引の予見可能性が高まり、契約条項やコンプライアンス設計の標準化が進めやすくなる余地があります。digitalpolicyalert+3​


第5章 日本企業はどう動くべきか:実務チェックリスト

韓国のCPTPP加盟は、「決まってから動く」と手遅れになりやすいテーマです。実務では、以下の順で準備するのが効率的です。

1. 自社の「韓国との関係」を棚卸しする

  • 韓国企業に部材・完成品を供給しているか
  • 韓国から部材・サービスを調達しているか
  • 韓国に生産拠点があり、そこからCPTPP域内へ輸出しているか
  • 韓国企業と第三国市場(特にメキシコ、カナダなど)で競合しているか

2. 競争条件が変わる国と品目を特定する

メキシコのように、FTAの有無で関税が大きく分かれる市場では影響が直撃します。 自社の貿易実績から、メキシコ向け、あるいはメキシコを含む北米供給網に関わる品目を優先的に洗い出すアプローチが現実的です。foley+3​

3. 原産地規則に基づくBOM再設計の余地を探る

韓国が加盟した場合、累積の範囲拡大によって原産性判定が通りやすくなるのか、逆に調達先変更で不利になるのかは製品ごとに異なります。 製品別の部材構成表(BOM)をベースに簡易シミュレーションを行い、インパクトが大きい品目から深掘りすることを推奨します。mfat

4. 「いつから効くか」を手続きの節目で追う

交渉開始前に、協定税率や原産地運用が変わることは通常ありません。 したがって、ニュースのトーンよりも、「正式通報」「作業部会設置」「市場アクセスオファー提示」など、前述の手続き上の節目をトリガーとして社内アクションを切り替える設計が有効です。cas+1​


おわりに

韓国のCPTPP加盟検討は、単なる通商ニュースではなく、企業の競争条件と供給網設計に直結するテーマです。 とくにメキシコの関税政策のように、協定ネットワークの差がそのままコスト差となる局面では、韓国の動きが加速するほど市場前提が変わっていきます。koreajoongangdaily.joins+3​

一方で、加盟は自動的に決まるものではなく、段階的なプロセスと全会一致の合意、既存の高水準ルールへの適合が求められます。 企業としては、加盟の成否を「当てにいく」ことよりも、競争条件が変化したときに即応できるよう、品目とサプライチェーン単位で準備を進めておくことが、最もリスクの低い対応と言えます。koreajoongangdaily.joins+2​

  1. https://global-scm.com/blog/?p=3774
  2. https://www.clarkhill.com/news-events/news/mexico-approves-significant-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  3. https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2025-09-03/business/economy/Korea-to-reconsider-joining-CPTPP-as-US-and-China-tighten-trade/2390550
  4. https://www.mfat.govt.nz/en/media-and-resources/joint-press-release-on-the-accession-of-the-republic-of-korea-to-the-digital-economy-partnership-agreement
  5. https://digitalpolicyalert.org/event/19613-implemented-accession-of-the-republic-of-korea-to-the-digital-economy-partnership-agreement
  6. https://www.nippon.com/en/news/yjj2026010901026/
  7. https://www.investkorea.org/ik-en/bbs/i-5073/detail.do?ntt_sn=493042
  8. https://www.mfat.govt.nz/assets/Trade-agreements/CPTPP/CPTPP-CBF-Supply-Chains-Analysis-2023.pdf
  9. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-16-may-2025
  10. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20250516_cptpp_seimei_en.pdf
  11. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/en/pdf/20250516_cptpp_seimei_en.pdf
  12. https://www.craneww.com/knowledge-center/trade-advisory-notices/mexicos-2026-tariff-reform/
  13. https://www.opportimes.com/en/tariff-increases-in-mexico-on-countries-without-trade-agreements-come-into-effect-on-january-1/
  14. https://www.koreatimes.co.kr/business/tech-science/20220102/interview-korea-seeks-role-of-linchpin-in-solving-supply-chain-challenges
  15. https://www.everycrsreport.com/files/2022-02-17_R41481_cd1582d184ddf1e3ea2cdaea764e572b3b2fb772.pdf
  16. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025
  17. https://mohawkglobal.com/trade-translation/mexico-approves-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  18. https://www.foley.com/ja/insights/publications/2025/12/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune/
  19. https://www.korea.net/NewsFocus/policies/view?articleId=233916
  20. https://www.bilaterals.org/?south-korea-joins-depa-as-first
  21. https://www.kas.de/documents/287213/26295266/IPEF+Discussion+Paper+Series_The+Republic+of+Korea+and+the+IPEF.pdf/4bece26c-b648-23cf-c90d-423c5b6bdfca?version=1.0&t=1696318218947
  22. https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12376869.pdf
  23. https://www.jiia.or.jp/eng/upload/eng/JapanReview_Vol4_No2_Winter_2021.pdf
  24. https://keia.org/wp-content/uploads/2024/01/KEI_KoreaPolicy_2023_V1-I3_final-draft.pdf
  25. https://blog.crossborderboost.com/policy-paper-cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025/
  26. https://www.congress.gov/crs-product/R41481
  27. https://www.iti.or.jp/report_121.pdf
  28. https://www.ioe-emp.org/index.php?t=f&f=156744&token=2128a312a06ee23015dfe7e69801803fc94a51ff
  29. https://www.whitecase.com/insight-alert/mexico-formalizes-and-expands-import-tariffs-more-1400-products-key-impacts
  30. https://www.kedglobal.com/business-politics/newsView/ked202509030011

韓国のCPTPPへの参加検討正式表明に関して、参加することはできるか?

1. CPTPPでは「約束を守る実績」が明確に条件に入っている

CPTPPは拡大の原則として、いわゆるオークランド原則を繰り返し確認しています。要点は次の3つです。

  1. 協定の高水準を満たす準備ができていること
  2. 貿易上のコミットメントを遵守してきた実績があること
  3. 加盟国のコンセンサスを得られること

この「遵守実績」が、まさにご質問の「国際約束を守れるか」を、制度上の評価軸に落とし込んだものです。

2. 日本側も公式文書で「加盟後の履行意思と能力」を強調している

日本の外交青書(2025年版)でも、加盟申請国について「高い基準を満たす能力があるか」だけでなく、「加盟後も履行し続ける意思と能力」を見極める、という趣旨が明記されています。
つまり日本としても、形式的な加盟条件より「実装して守り続けるか」を重視する立場を公式に取っています。

3. 実務上は、こういう形で「信頼性」が論点化する

CPTPPの加入審査は、候補国が提出する資料や質疑応答を通じて「守れるか」を検証する仕組みです。作業部会の付託事項も、候補国がCPTPP義務を遵守できることを示す文書の確認を含みます。

その結果、「信頼性」は次のような論点に変換されがちです。

  1. 国内法と運用がCPTPP義務に整合しているか
  2. 整合していない場合、いつまでに法改正や制度変更を行うのか
  3. 例外や経過措置をどこまで認めるか
  4. 紛争解決や透明性の運用を実際に回せるか

要するに「守ると言うか」ではなく、「守る状態を作れるか、作った後も維持できるか」という確認になります。

4. 韓国のケースで日本の懸念が表に出るとしたら

日韓間には、政治・外交の文脈で「約束の履行」への不信感が語られることがあります。ただCPTPPの場でそれを前面に出すより、先ほどのオークランド原則と整合する形で、

  1. 貿易約束の遵守実績
  2. 加盟後の履行を担保する制度設計
  3. 国内世論の理解と継続性

という論点で、日本が「コンセンサスに慎重」になるシナリオが現実的です。

5. いま時点での現実:日本が賛否を決める「審査段階」にはまだ入っていない可能性が高い

直近の韓国高官発言は「準備が整い次第、追加的な措置を講じる」という表現で、正式な加入要請を既に寄託国へ通報した、という言い方ではありません。
CPTPPは、まず寄託国ニュージーランドへの正式通報が起点になります。
したがって、企業実務としては「日本が信頼性を理由に止めるかどうか」は、正式要請が出て作業部会が動き出してから具体論になりやすいです。

韓国がCPTPP加盟検討を正式表明 次に何が起き、企業はどう備えるか


韓国政府がCPTPP加盟を正式に検討する姿勢を明確化し、2026年1月13日の日韓首脳会談でもこの議題が取り上げられる見通しです。今回のポイントは、韓国政府内の「検討段階」から、首脳・閣僚レベルの発言が重なり、対外的な論点として前面に出てきた点にあります。ビジネス実務に波及するのは中期戦になりやすいものの、サプライチェーン設計と競争条件に影響する動きとして、早期の情報収集と準備が求められます。nippon+1​

何が起きたのか

2025年12月17日、韓国の産業通商資源部が大統領への業務報告で、CPTPP加入を「積極的に検討する」と明らかにし、担当相は「来年の加入申請や内容について議論を始めた段階」「推進戦略をつくる」と述べました。加えて、日本産水産物の輸入停止問題が交渉の焦点になり得ることも示唆されています。yna

さらに2026年1月9日、韓国大統領府の国家安保室長は、1月13日の日韓首脳会談でCPTPPが議題になり得ること、韓国側も準備が整い次第追加措置を取る考えを示しました。李在明(イ・ジェミョン)大統領の政権は、米中への依存を低減し、多国間貿易を通じた経済基盤の多角化を目指す姿勢を鮮明にしています。euronews+1​

CPTPPの基本構造

CPTPPは、加盟国間で関税撤廃・削減だけでなく、投資、サービス、電子商取引、国有企業、政府調達など幅広いルールを持つ高水準の経済連携協定です。現在の加盟国は12か国で、英国は2024年12月15日に6か国との関係で正式に発効しました。donga+2​

実務面で重要な2つのポイントsice.oas+1​

寄託国はニュージーランド
加入要請や各種通知の受け皿はニュージーランドが務めます。

新規加入は全加盟国のコンセンサスが前提
加入プロセスでは、作業部会の設置や最終承認など、要所で全加盟国の合意が必要です。つまり、政治・外交論点がそのまま通商条件に直結しやすい枠組みです。apfccptppportal

韓国が今CPTPPを急ぐ背景

背景は複合的ですが、ビジネスに効く要因は大きく2つです。

米中依存を下げる「貿易の多角化」

韓国政府は、米中への過度な依存を低減し、多国間貿易の枠組みを通じた経済安全保障の確保を重視しています。CPTPPは、日本、オーストラリア、カナダ、メキシコ、ベトナムなど多様な市場へのアクセスを一括して改善する手段として位置づけられています。nippon+1​

メキシコを中心とした「非FTA国への高関税」

2025年12月、メキシコは非FTA国からの輸入品に対して大幅な関税引上げを決定し、2026年1月1日から施行しました。対象は1,400品目以上で、完成車50%、自動車部品25-36%、家電25-30%など、韓国の主力輸出品が直撃を受けています。whitecase+3​

メキシコ政府は、この措置が中国、韓国、インド、ベトナム、タイ、ブラジル、インドネシア、台湾、UAE、南アフリカなど、FTA未締結国からの輸入を標的にしていることを明記しています。韓国側では「CPTPP加入も韓メキシコFTAも失敗すると、日本は無関税を維持できる一方、韓国は高関税で不利になる」といった懸念が報じられています。koreatimes+3​

ただし、韓国産業通商資源部は、メキシコの中間財関税減免プログラムを活用する韓国企業が多いため、実際の影響は限定的との見方も示しています。yna

申請から加入まで

CPTPPは「申請したらすぐ加入」ではありません。典型的な流れは次の通りです。sice.oas+1​

  1. 寄託国ニュージーランドへ加入要請を通報
  2. CPTPP委員会が作業部会(AWG)設置などを判断
  3. ルール適合と市場アクセス(関税・例外・サービス等)の交渉
  4. 委員会がコンセンサスで条件を承認
  5. 加入文書を寄託し、条件が整った後に発効

参考までに英国は、2021年2月に寄託国へ加入要請を通報し、2023年3月に交渉を実質妥結、2024年12月に議定書が発効しました。コスタリカは2025年3月に第1回作業部会が開催され、同年8月までに第3回が実施されましたが、まだ交渉継続中です。gov+1​

この時間軸を見ても、韓国が「来年申請」を語っても、企業実務に波及するのは中期戦になりやすい点が重要です。

交渉の焦点

日本産水産物の輸入停止問題

韓国政府自身が、これが交渉の焦点になり得ると認めています。韓国は2013年以降、福島第一原発事故を理由に日本の8県からの水産物輸入を禁止しており、2014年には日本政府がWTO提訴も検討しました。wtocenter+1​

また韓国メディアでも、日本が輸入規制の解除を加入承認と結び付ける可能性があるといった観測が報じられています。japannews.yomiuri

農畜産・水産分野の国内調整

CPTPPは高水準の市場アクセスが求められ、国内調整が最大のボトルネックになりがちです。2021年の文在寅(ムン・ジェイン)政権時にも加入意向が示されましたが、農業団体などの反発と日韓関係の悪化により議論が停止した経緯があります。japannews.yomiuri

今回も、韓国側では「国民的共感が先行すべき」との指摘が出ています。japannews.yomiuri

高水準ルールへの制度適合

加入希望国は、既存ルールへの全面適合と、高水準の市場アクセス提示が求められます。ここは企業にとって、国内法改正や規制運用変更のリスクが出やすい領域です。apfccptppportal

日本企業へのインパクト

論点は関税に見えますが、企業実務で効くのは次の3つです。

サプライチェーン再設計の余地

韓国が加盟すれば、CPTPP域内の調達・生産・輸出で「域内扱い」になり得ます。原産地規則の組み立てが変わり、BOMやサプライヤー戦略を見直す局面が出ます。

メキシコなどでの競争条件

現状、メキシコは非FTA国を不利に扱う動きがあり、これが韓国企業の痛点になっています。韓国がCPTPPへ進めば、この非対称が縮む可能性があります。english.news+2​

日韓協業のテーマが増える

日韓首脳会談でCPTPPが議題になり得るとされ、経済案件として動きやすい環境が整い始めています。donga+2​

企業の実務チェックリスト

CPTPPで優遇税率を使っている品目を棚卸し
自社がCPTPP利用中の輸出入品目、適用している原産地判定ロジックを一覧化します。

韓国由来部材の比率を見える化
現時点では「非原産」として扱っている韓国部材が、将来「域内」となる可能性を仮置きし、原産地判定がどう変わるか試算します。

取引契約の関税条項を点検
関税変動時の価格調整、原産地証明の責任分界、遡及対応などを再確認します。

交渉イベントの監視ポイントを固定
韓国が寄託国ニュージーランドへ正式な加入要請を出したか、作業部会が立ち上がったかが最初の実務シグナルになります。

今後の見通し

直近の山は、2026年1月13日の日韓首脳会談です。ここでCPTPPがどの程度踏み込んで語られるかが、次の動きの温度感を決めます。tradingview+2​

一方で、韓国側報道でも「加入申請書をまだ提出できていない」とされており、少なくとも現時点は準備・調整フェーズと見るのが安全です。英国やコスタリカの事例を踏まえると、申請から発効まで2-3年以上を要する可能性が高く、企業は中長期の視点で準備を進めるべき局面です。japannews.yomiuri


注: 本稿は2026年1月10日時点の公表情報に基づく一般情報です。実際の交渉進展や発効時期は、政治・外交情勢と国内調整の進捗に依存するため、最終判断は一次情報と専門家確認で行ってください。

  1. https://www.nippon.com/en/news/yjj2026010901026/lee-takaichi-may-discuss-s-korea’s-cptpp-entry-at-upcoming-summit.html
  2. https://www.donga.com/en/article/all/20260110/6051484/1
  3. https://en.yna.co.kr/view/AEN20251217003500320
  4. https://www.euronews.com/my-europe/2026/01/09/eu-member-states-back-mercosur-deal-french-meps-vow-fight-in-parliament
  5. https://www.gov.uk/government/news/uk-to-join-cptpp-by-15-december
  6. https://www.ctpa.org.uk/news/the-uk-to-join-cptpp-by-15-december-2024-7910
  7. http://www.sice.oas.org/tpd/tpp/tpp_e.asp
  8. https://apfccptppportal.ca/accessions/process
  9. https://www.whitecase.com/insight-alert/mexico-formalizes-and-expands-import-tariffs-more-1400-products-key-impacts
  10. https://www.koreatimes.co.kr/foreignaffairs/20251219/seoul-urges-mexico-to-mitigate-impact-of-planned-tariff-hikes-on-korean-firms
  11. https://mohawkglobal.com/trade-translation/mexico-approves-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  12. https://english.news.cn/20260110/680b56baf17e4b1983c0d2c9c5126a02/c.html
  13. https://en.yna.co.kr/view/AEN20251212003000320
  14. https://wtocenter.vn/chuyen-de/3943-japan-threatens-south-korea-with-wto-complaint-on-import-ban
  15. https://japannews.yomiuri.co.jp/editorial/yomiuri-editorial/20250916-281193/
  16. https://es.tradingview.com/news/reuters.com,2026:newsml_P8N3XW050:0-south-korea-s-president-lee-to-visit-japan-january-13-14-for-summit-newsis-reports/
  17. https://www.marketscreener.com/news/south-korea-to-explore-possibility-of-joining-cptpp-finance-ministry-ce7e59d2d98ff720
  18. https://www.eria.org/news-and-views/south-korea-president-moon-jae-in-shows-interest-in-joining-cptpp-mega-trade-deal
  19. https://behorizon.org/trilateral-momentum-u-s-japan-south-korea-forge-deeper-strategic-alignment/
  20. https://www.clarkhill.com/news-events/news/mexico-approves-significant-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  21. https://www.foley.com/zh/insights/publications/2025/12/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune/

カナダで審議中「CPTPP 英国加盟の実施法案」とは何か

2026年1月10日時点、カナダ議会では、英国のCPTPP加盟をカナダ国内法として実装するための法案(Bill C-13)が審議段階にあります。結論から言うと、カナダがこの法案を成立させて批准手続きを完了しない限り、CPTPPはカナダと英国の間では使えません。 (カナダ議会)

本稿では、いま何が起きていて、ビジネス実務に何が影響するのかを、忙しいビジネスパーソン向けに整理します。


1. まず押さえる要点

・カナダでは「Bill C-13」が、英国のCPTPP加盟プロトコルを国内法に反映するための実施法案として審議中
・2026年1月10日時点のステータスは、下院の委員会審査(国際貿易委員会)に付託された段階
・法案が成立し、カナダが批准を完了しない限り、カナダ企業は英国向けにCPTPPの優遇関税や原産地ルールを使えない
・一方で、英国のCPTPP加盟はすでに一部加盟国との間で発効しており、カナダだけが「未接続」の状態になっている
・発効のカギは批准完了後のタイムラグで、基本は当該国の批准完了から60日後に適用開始になる仕組み (カナダ議会)


2. 何が遅れているのか

英国は2023年7月16日にCPTPP加盟の「加入議定書(Accession Protocol)」に署名し、CPTPPは「全員批准」または「一定数批准」で発効する仕組みです。15か月(2024年10月16日)を過ぎると、英国と少なくとも6か国の批准で、批准済みの国との間から先に動き始める設計になっています。 (GOV.UK)

実際に、英国と複数の加盟国との間では2024年12月に発効が進みましたが、カナダでは「カナダ向けの発効」がまだ来ていません。カナダ政府のCPTPP公式情報でも、英国加入議定書は「カナダでは未発効」と明記されています。 (外交課題カナダ)


3. カナダ議会の現在地:Bill C-13

カナダ側の実施法案は Bill C-13(英国加入議定書の実施法)です。

・2025年10月21日:下院に提出(第一読会)
・2025年12月11日:第二読会を終え、下院の国際貿易委員会(CIIT)へ付託
・2026年1月10日時点:委員会段階で審査待ち(委員会の当該案件で会合実績はまだ表示されていない) (カナダ議会)

つまり「これから委員会で条文精査や参考人招致などが進む」フェーズです。


4. Bill C-13 は何を変える法案か

ポイントは2つです。

4-1. 「英国がCPTPPの対象だ」と国内法の参照関係を整える

法案サマリー上、加入議定書を実施するために、各種法律の中でCPTPPの定義や参照の仕方を更新し、議定書を含む形に整合させる狙いが示されています。 (カナダ議会)

4-2. 関税実務の核心:カナダ関税率表に英国向けの新しい優遇枠を作る

実務担当者にとって最重要なのがここです。法案本文では、カナダの関税制度に「Comprehensive and Progressive United Kingdom Tariff(略称 CPUKT)」という英国向けの優遇関税区分を新設し、段階的な引下げ(ステージング)や端数処理、遡及しないことなど、運用ルールまで条文で組み立てています。 (カナダ議会)

条文には例えば次のような設計が見えます。
・CPUKTの最終税率が無税(Free)になる品目は「A」で表現
・段階引下げ品目は「F」や「X78・X79・X80」などのコードで、発効日または毎年1月1日の節目で税率が落ちていく
・ただし、カナダと英国の間でCPTPPが発効する前の期間には効かない(遡及なし)ことを明記 (カナダ議会)

ここは、施行後に通関・原価管理・販売価格に直結します。関税優遇を使う企業ほど、法案成立後の制度切替に備える価値が大きい部分です。


5. いつから使えるのか:発効までの流れ

ビジネス視点では「法案成立日」よりも、「カナダが批准を完了し、発効日が確定する日」が重要です。

一般に、英国加入議定書は、当該国が批准を終えると、その国との関係で60日後に適用が始まる仕組みだと説明されています。 (GOV.UK)

したがって、社内で見るべき時系列は次の通りです。

  1. Bill C-13 が議会で成立
  2. カナダ政府が批准手続きを完了
  3. 発効日が確定(目安は批准完了から60日後)
  4. 通関では、原産地証明と申告を揃えた企業から順に恩恵が出る

6. 日本企業にとっての実務インパクト

日本のビジネスパーソンに関係が深い論点を、現場目線でまとめます。

6-1. カナダと英国間の「優遇関税の取り方」が変わる

カナダ側でCPUKTが導入されると、通関現場では「英国向けのCPTPP優遇」を前提にした品目判定、税率参照、ステージング管理が必要になります。 (カナダ議会)
日本企業でも、カナダ拠点から英国へ輸出する場合や、英国製品をカナダに輸入して販売する場合に、価格戦略へ影響します。

6-2. 原産地ルールとサプライチェーン設計

CPTPPはルールが比較的詳細で、特に「原産地の取り方」が社内統制の対象になります。
カナダと英国の間でCPTPPが使えるようになると、原産地判定・証憑(サプライヤー申告、製造工程、材料証明など)の整備をCPTPP仕様に寄せる必要が出ます。
この部分は、関税メリットが大きいほど監査対応も含めて重要になります。

6-3. 競争環境

英国とカナダの間でCPTPPが動き出すと、関税条件が変わるため、同一商品でも競合の価格条件が変わり得ます。特に「段階引下げ」の品目は、年明けなど節目で条件が動く可能性があります。 (カナダ議会)


7. 企業が今やるべきチェックリスト

制度が動く前に、社内で先回りしておくと楽になります。

  1. 対象取引の棚卸し
    ・カナダと英国の売買があるか
    ・英国経由やカナダ経由のサプライチェーンがあるか
  2. 関税と原産地の準備
    ・対象HSの関税優遇が段階引下げか、即時無税か
    ・原産地判定に必要な証憑を、CPTPP基準で揃えられるか(サプライヤーから取れるか)
  3. 通関オペレーションの整備
    ・申告時の優遇税率区分(CPUKT)の設定
    ・ERPや関税マスタの更新手順
    ・監査対応の保存年限と保管場所
  4. 進捗モニタリング
    ・法案の委員会審査の進み具合
    ・批准完了と発効日の確定

法案の公式ステータスはLEGI Sinfoで追えます(現状は委員会付託中)。 (カナダ議会)


まとめ

カナダの Bill C-13 は、英国のCPTPP加盟を「カナダでも使える状態」にするための最後の国内手続きに近い位置付けです。審議が進んで成立すれば、カナダと英国の間でCPTPPの優遇関税や原産地ルールが実務に乗ってきます。 (カナダ議会)

ビジネス側は、発効後に慌てないために、対象取引の洗い出しと、原産地証憑と関税マスタの準備を先に進めておくのが現実解です。

韓国のCPTPP参加の現状まとめ―2026年1月3日時点の公開情報にもとづく―


はじめに

CPTPP(包括的・先進的環太平洋パートナーシップ協定)は、関税撤廃だけでなく、デジタル取引、投資、国有企業、競争政策、補助金、政府調達など、企業活動を支える経済ルールを高水準で統一する枠組みです。
韓国がこの枠組みに加わるかどうかは、実質的な日韓FTA発効に相当し、サプライチェーン設計や販売戦略の前提条件を大きく変える可能性があります。

現在の進捗状況

結論から言うと、韓国政府は2025年後半からCPTPP参加の検討を再び加速させていますが、2026年1月時点でニュージーランド(CPTPP寄託国)に正式な加盟申請を提出したという政府発表やニュージーランド政府側の通知は確認されていません。
つまり現在は、国内調整および加盟国への事前協議段階とみられます。
(出典: Invest Korea

2025年12月17日、韓国産業通商資源部は大統領報告を通じて、対中サービス分野のFTA推進と並行してCPTPP参加の再検討方針を明確化しました。これは部門レベルの検討から政府方針への格上げと見られます。
(出典: Korea Times, 2025年12月17日

また2025年9月時点でも、韓国政府がCPTPP加入検討を正式に再開する見通しが報じられており、過去に農水産業界の反発や日韓関係の冷え込みを背景に正式申請に至らなかったことが再び指摘されています。
(出典: Invest Korea

外交面でも、2025年10月の外務長官寄稿では「CPTPP参加を積極的に検討すべき」と明言され、地政学・経済安全保障の観点でも参加意義が強調されています。
(出典: 韓国外務省寄稿文

CPTPP加入プロセスの概要

CPTPPへの加盟は明確な手続きを経る必要があります。公表情報による一般的な流れは以下の通りです。

  1. 希望国が寄託国ニュージーランドに正式な加盟要請を提出する。
  2. CPTPP委員会(全加盟国で構成)が**全会一致の合意(コンセンサス)**で加盟交渉の開始可否を決定する。
  3. 承認されると**作業部会(アクセスション・ワーキンググループ)**が設置され、協定遵守能力や市場アクセス譲許内容を審査する。
  4. 全加盟国が最終的にコンセンサスで承認すると加盟が認められ、議定書署名・批准を経て正式加盟となる。

日本の内閣官房も、CPTPP加盟判断の基準として「オークランド三原則」(高水準ルール受容、約束履行の実績、全会一致原則)を明記しています。
(出典: 内閣官房資料

韓国が直面する主なハードル

  1. 国内調整の難航
     農水産業界の反発が最大の障壁とされ、正式申請を見送った過去があります。補償策や競争力強化策を含む政治的パッケージが必要不可欠です。
     (出典: Invest Korea)
  2. 加盟国間の合意形成(特に日本との関係)
     CPTPPでは全加盟国の同意が前提。日韓間の懸案事項(例:日本産水産物輸入制限)は交渉上の焦点になると見られます。
     (出典: Korea Joongang Daily, 2025年9月10日
  3. 加盟審査の順番と混雑
     CPTPP委員会は2025年11月の共同声明で、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアを「オークランド三原則に沿う新規候補」と評価し、ウルグアイのプロセス開始を承認しました。他3カ国については、2026年に交渉開始の可能性があるとしています。韓国はこの時点の候補リストには含まれていません。
     日本政府の整理資料でも、正式な要請国として中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナ、インドネシア、フィリピン、UAE、カンボジアを挙げており、韓国は未掲載です。
     (出典: 内閣官房資料同上)

日本企業への実務的示唆

韓国がCPTPP参加に近づくほど、企業は二方向の変化に備える必要があります。

  • 競争条件の変化
     韓国企業がCPTPPルール下で域内アクセスを得れば、関税撤廃だけでなく投資・デジタル・サービスルールの整合性により競争条件が変わります。特に第三国市場での「原産地累積」活用を通じた競争力強化が想定されます。
  • サプライチェーン設計の再編余地
     加盟後は累積原産地範囲が拡大し、日本企業も韓国部材を含むサプライチェーンをCPTPP特恵適用設計に組み込みやすくなります。
     このため、BOM構成の再検討、調達先多角化、原産地証明書管理の標準化などが有効な先行対応になります。

2026年に注視すべきチェックポイント

次の4点が事実上の注目イベントです。

  1. 韓国が寄託国ニュージーランドへ正式加盟要請を提出する発表があるか。
  2. CPTPP委員会が加盟審査開始を決議し、作業部会が設立されるか。
  3. 日韓間の懸案(特に水産物輸入問題など)が整理されるか。
  4. 農水産分野の国内対策パッケージの具体化が進むか。
    (出典: Invest Korea)

おわりに

韓国のCPTPP参加方針は2025年末を契機に再び政治アジェンダとして浮上しました。ただし、2026年1月時点で正式申請はまだ行われておらず、国内・外交の調整局面にあります。
企業としては、正式要請提出と作業部会設立を分岐点とし、原産地設計・市場戦略の2シナリオを並行検討しておくのが実務上もっとも合理的です。
(出典: Korea Times, 2025年12月17日)



台湾のCPTPP加入は今どこまで進んでいるか


2025年末時点の検討状況と、企業が押さえるべき論点

台湾は2021年9月22日、CPTPP(TPP11)への加入を寄託国ニュージーランドに正式要請しました。ds-b
しかし2025年末時点で、台湾向けの「加入作業部会(Accession Working Group:AWG)」を設置するとの公式決定は確認できておらず、加入プロセスは“申請受理後の静止状態”にとどまっています。liskul+1

2025年11月21日にオーストラリア・メルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明でも、今後の優先対象として挙げられたのはウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国であり、台湾(および中国)への直接言及はありませんでした。liskul
台湾外交部は、この点について「台湾の申請が公正に処理されていない」として遺憾の意を表明しています。liskul

以下では、台湾加入の「検討が進みにくい構造」を、CPTPPの手続と直近の公式文書・報道から整理します。ds-b+1


1. 前提:CPTPP加入は「申請=交渉開始」ではない

CPTPPは新規加入を受け入れる枠組みを持ちますが、申請が受理された時点で自動的に交渉が始まるわけではなく、加盟国が委員会で合意しない限り、AWGは設置されません。ds-b
加盟国が採択した「Accession Process(加入プロセス)」では、少なくとも次のようなポイントが明確化されています。ds-b

  • 申請(Accession Request)を受理した後、加盟国は合理的な期間内に交渉開始の可否を協議する。
  • 交渉開始で合意すれば、AWG(加入作業部会)を設置し、加入条件やスケジュールを交渉する。
  • 合意に至らない場合でも、申請国は加盟国との協議(consultations)を継続でき、委員会は後日あらためてAWG設置を判断し得る。

このため、申請後にAWGが設置されない状態は「正式な拒否」ではなく、「コンセンサス不足により入口で止まっている状態」と理解するのが実務的です。ds-b


2. 台湾加入の現在地:公式タイムラインと2025年共同声明

2021年9月:台湾が正式申請

カナダ政府が公表するCPTPP関連タイムラインによれば、台湾(正式名称:Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu)は2021年9月22日、ニュージーランドに対しCPTPPへの加入要請を提出しています。liskul+1

2024年11月:コスタリカは前進、台湾はAWG設置に至らず

2024年11月28日にカナダ・バンクーバーで開かれたCPTPP委員会の共同声明では、コスタリカについてAWGを設置し、加入交渉に入ることが合意されました。ds-b
この判断は、加盟国が新規加入の基本原則として共有する「オークランド三原則(Auckland Principles)」に基づくと説明されています。ds-b

同時期の報道では、台湾についてはAWG設置が見送られ、台湾側が「政治的圧力に屈した」との不満を示したことが伝えられています。liskul

2025年11月:優先順位が明文化され、台湾は対象外のまま

2025年11月21日にメルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明は、今後の加入拡大について次の点を明確にしました。liskul

  • コスタリカのAWGに対し、2025年12月の会合で進捗報告を行うよう指示し、早期決着を目指す。
  • オークランド三原則に沿う将来の加入候補として、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアの4か国を特定。
  • まずウルグアイとの加入プロセスを開始し、残り3か国については2026年に「適切であれば」プロセスを開始すると明記。
  • これらの決定は「他の申請の検討を妨げるものではない」としつつ、2026年前半にも会合を開いて必要な追加決定を行う意向を示す。

ただし、共同声明本文は台湾と中国に一切触れておらず、台湾外交部は「台湾の申請が再び取り上げられなかった」ことに強い不満と遺憾を表明しています。liskul
結果として、台湾は申請国でありながら、「優先して交渉を進める4か国」には含まれていない、という位置付けが公式文書上も明確になりました。liskul


3. なぜ台湾は進まないのか:検討が止まる3つの構造要因

ここからは、CPTPPの公式文書に「理由」が明示されているわけではありませんが、公開情報と各国発言から見える構造要因を3点に整理します。ds-b+1

要因1 コンセンサス要件の重さ(政治的要素)

オークランド三原則の一つは、新規加入の判断が、加盟国全員のコンセンサスに依存する点です。ds-b
台湾の案件については、中国との関係も含めて各国の立場が分かれやすく、加盟国が足並みをそろえにくいことが、台湾側の発言や国際報道から繰り返し指摘されています。liskul

台湾外交部も「政治的圧力に左右されず、台湾の実績と高水準を評価すべきだ」と訴えており、政治要因がCPTPP委員会での合意形成のハードルを押し上げている構図がうかがえます。liskul

要因2 申請国の増加と“順番付け”の制度化

2024年以降、CPTPPは協定自体の「一般見直し(General Review)」と並行して、複数の加入申請をどのような順番と基準で扱うかを制度的に整理してきました。ds-b
2024年5月の共同声明では、将来の加入を公正かつ効率的に議論するため、加盟国間で情報共有や意見交換を行う常設的な非公式フォーラム(informal standing forum)の設置が記載されています。ds-b

その延長線上で、2025年11月の共同声明は「オークランド三原則に合致する4申請国」を特定し、ウルグアイからプロセスを開始、残り3か国は2026年に検討するという工程表を示しました。liskul
台湾はこの“優先レーン”に入っておらず、「申請済みだが、いつプロセスに乗るかが未定の国」として扱われているのが現状です。liskul

要因3 “高水準”確保に向けた実務・コンプライアンス面の厳格化

CPTPP加盟国は、新規加入国に対し「高水準の自由化」とともに、実務面での信頼性も重視しており、2025年11月声明でも、違法な迂回輸出(transhipment)や関税回避を防ぎ、継続的なコンプライアンス監視を行う重要性が強調されています。liskul
台湾政府は、関税や投資、デジタル貿易などでCPTPP水準に整合する法制整備を進めていると繰り返し発信していますが、加盟国が「いつ、どの場で、それをどう検証するか(AWGの場を含めて)」については、まだ政治的合意に至っていません。liskul

このため、技術的・法的な準備だけでは解決しきれない「政治・安全保障と通商ルールが交差する領域」で、合意形成が滞っていると整理できます。liskul


4. 日本企業への実務インパクト:現在と将来で切り分ける

今起きないこと:CPTPP特恵を前提にできない

2025年末時点で台湾はCPTPPに未加入であり、日本と台湾の取引にCPTPP特恵(関税削減、域内累積原産など)を前提とすることはできません。ds-b+1
当然ながら、原産地規則の累積も台湾は対象外であり、日本企業は日台二国間あるいは他協定(例:日台の投資協定等)を前提にサプライチェーンを設計する必要があります。ds-b

将来起こり得ること:加入後の設計余地

仮に台湾が将来CPTPPに加入すれば、日本企業にとっては次のような変化が生じます。ds-b+1

  • 台湾向け輸出でCPTPP特恵税率が利用可能になることによる価格競争力の変化。
  • 電機・精密機器・電子部品など、台湾を主要な調達拠点とする産業で、CPTPPの原産地規則に基づいた「域内累積」を再設計できる余地。
  • 台湾企業をサプライチェーンの中核に据えつつ、CPTPP域内の第三国向け輸出における原産地証明戦略を最適化できる可能性。

もっとも、現時点の公式工程表には台湾向けAWG設置のタイムラインは明記されておらず、企業としては「加入前提の投資や組替え」を先行させることはリスクが大きい状況です。liskul

したがって当面の実務としては、「台湾は未加入」を前提に制度設計を行いつつ、台湾の扱いが変化する兆候をウォッチし、シナリオ別の原産地戦略をあらかじめ検討しておく、というスタンスが合理的です。liskul


5. 2026年前半が最初の山場:企業が見るべきチェックポイント

2025年11月の共同声明は、2025年12月の会合に加え、2026年前半にもCPTPP委員会の会合を開き、必要に応じて追加決定を行う意向を示しています。liskul
台湾にとっては、このタイミングが「議題に取り上げられるかどうか」を確認する最初の明確な観測点となります。liskul

企業が注視すべきポイントは次の通りです。liskul

  • 2026年前半の会合後に公表される公式文書で、台湾に関する言及や位置づけに変化があるか(例:協議の進展、AWG設置の検討に言及があるか)。
  • 新たなAWGが立ち上がる場合、その対象国の組み合わせと説明ロジック(オークランド三原則との関係や、経済・安全保障面の言及など)。
  • 加入審査において、違法な迂回輸出や関税回避防止、継続的な履行監視といったコンプライアンス論点がどの分野で強調されるか(特に電機・機械・デジタル分野)。

これらを経営・調達・通商部門の共通KPIとしてモニタリングし、台湾がCPTPPプロセスに乗った場合に備えて、原産地戦略・工場配置・調達方針の複数シナリオをあらかじめ描いておくことが、2025年末時点で企業が取り得る現実的なアクションと言えます。