台湾のCPTPP加入は今どこまで進んでいるか


2025年末時点の検討状況と、企業が押さえるべき論点

台湾は2021年9月22日、CPTPP(TPP11)への加入を寄託国ニュージーランドに正式要請しました。ds-b
しかし2025年末時点で、台湾向けの「加入作業部会(Accession Working Group:AWG)」を設置するとの公式決定は確認できておらず、加入プロセスは“申請受理後の静止状態”にとどまっています。liskul+1

2025年11月21日にオーストラリア・メルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明でも、今後の優先対象として挙げられたのはウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国であり、台湾(および中国)への直接言及はありませんでした。liskul
台湾外交部は、この点について「台湾の申請が公正に処理されていない」として遺憾の意を表明しています。liskul

以下では、台湾加入の「検討が進みにくい構造」を、CPTPPの手続と直近の公式文書・報道から整理します。ds-b+1


1. 前提:CPTPP加入は「申請=交渉開始」ではない

CPTPPは新規加入を受け入れる枠組みを持ちますが、申請が受理された時点で自動的に交渉が始まるわけではなく、加盟国が委員会で合意しない限り、AWGは設置されません。ds-b
加盟国が採択した「Accession Process(加入プロセス)」では、少なくとも次のようなポイントが明確化されています。ds-b

  • 申請(Accession Request)を受理した後、加盟国は合理的な期間内に交渉開始の可否を協議する。
  • 交渉開始で合意すれば、AWG(加入作業部会)を設置し、加入条件やスケジュールを交渉する。
  • 合意に至らない場合でも、申請国は加盟国との協議(consultations)を継続でき、委員会は後日あらためてAWG設置を判断し得る。

このため、申請後にAWGが設置されない状態は「正式な拒否」ではなく、「コンセンサス不足により入口で止まっている状態」と理解するのが実務的です。ds-b


2. 台湾加入の現在地:公式タイムラインと2025年共同声明

2021年9月:台湾が正式申請

カナダ政府が公表するCPTPP関連タイムラインによれば、台湾(正式名称:Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu)は2021年9月22日、ニュージーランドに対しCPTPPへの加入要請を提出しています。liskul+1

2024年11月:コスタリカは前進、台湾はAWG設置に至らず

2024年11月28日にカナダ・バンクーバーで開かれたCPTPP委員会の共同声明では、コスタリカについてAWGを設置し、加入交渉に入ることが合意されました。ds-b
この判断は、加盟国が新規加入の基本原則として共有する「オークランド三原則(Auckland Principles)」に基づくと説明されています。ds-b

同時期の報道では、台湾についてはAWG設置が見送られ、台湾側が「政治的圧力に屈した」との不満を示したことが伝えられています。liskul

2025年11月:優先順位が明文化され、台湾は対象外のまま

2025年11月21日にメルボルンで開催されたCPTPP委員会の共同声明は、今後の加入拡大について次の点を明確にしました。liskul

  • コスタリカのAWGに対し、2025年12月の会合で進捗報告を行うよう指示し、早期決着を目指す。
  • オークランド三原則に沿う将来の加入候補として、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアの4か国を特定。
  • まずウルグアイとの加入プロセスを開始し、残り3か国については2026年に「適切であれば」プロセスを開始すると明記。
  • これらの決定は「他の申請の検討を妨げるものではない」としつつ、2026年前半にも会合を開いて必要な追加決定を行う意向を示す。

ただし、共同声明本文は台湾と中国に一切触れておらず、台湾外交部は「台湾の申請が再び取り上げられなかった」ことに強い不満と遺憾を表明しています。liskul
結果として、台湾は申請国でありながら、「優先して交渉を進める4か国」には含まれていない、という位置付けが公式文書上も明確になりました。liskul


3. なぜ台湾は進まないのか:検討が止まる3つの構造要因

ここからは、CPTPPの公式文書に「理由」が明示されているわけではありませんが、公開情報と各国発言から見える構造要因を3点に整理します。ds-b+1

要因1 コンセンサス要件の重さ(政治的要素)

オークランド三原則の一つは、新規加入の判断が、加盟国全員のコンセンサスに依存する点です。ds-b
台湾の案件については、中国との関係も含めて各国の立場が分かれやすく、加盟国が足並みをそろえにくいことが、台湾側の発言や国際報道から繰り返し指摘されています。liskul

台湾外交部も「政治的圧力に左右されず、台湾の実績と高水準を評価すべきだ」と訴えており、政治要因がCPTPP委員会での合意形成のハードルを押し上げている構図がうかがえます。liskul

要因2 申請国の増加と“順番付け”の制度化

2024年以降、CPTPPは協定自体の「一般見直し(General Review)」と並行して、複数の加入申請をどのような順番と基準で扱うかを制度的に整理してきました。ds-b
2024年5月の共同声明では、将来の加入を公正かつ効率的に議論するため、加盟国間で情報共有や意見交換を行う常設的な非公式フォーラム(informal standing forum)の設置が記載されています。ds-b

その延長線上で、2025年11月の共同声明は「オークランド三原則に合致する4申請国」を特定し、ウルグアイからプロセスを開始、残り3か国は2026年に検討するという工程表を示しました。liskul
台湾はこの“優先レーン”に入っておらず、「申請済みだが、いつプロセスに乗るかが未定の国」として扱われているのが現状です。liskul

要因3 “高水準”確保に向けた実務・コンプライアンス面の厳格化

CPTPP加盟国は、新規加入国に対し「高水準の自由化」とともに、実務面での信頼性も重視しており、2025年11月声明でも、違法な迂回輸出(transhipment)や関税回避を防ぎ、継続的なコンプライアンス監視を行う重要性が強調されています。liskul
台湾政府は、関税や投資、デジタル貿易などでCPTPP水準に整合する法制整備を進めていると繰り返し発信していますが、加盟国が「いつ、どの場で、それをどう検証するか(AWGの場を含めて)」については、まだ政治的合意に至っていません。liskul

このため、技術的・法的な準備だけでは解決しきれない「政治・安全保障と通商ルールが交差する領域」で、合意形成が滞っていると整理できます。liskul


4. 日本企業への実務インパクト:現在と将来で切り分ける

今起きないこと:CPTPP特恵を前提にできない

2025年末時点で台湾はCPTPPに未加入であり、日本と台湾の取引にCPTPP特恵(関税削減、域内累積原産など)を前提とすることはできません。ds-b+1
当然ながら、原産地規則の累積も台湾は対象外であり、日本企業は日台二国間あるいは他協定(例:日台の投資協定等)を前提にサプライチェーンを設計する必要があります。ds-b

将来起こり得ること:加入後の設計余地

仮に台湾が将来CPTPPに加入すれば、日本企業にとっては次のような変化が生じます。ds-b+1

  • 台湾向け輸出でCPTPP特恵税率が利用可能になることによる価格競争力の変化。
  • 電機・精密機器・電子部品など、台湾を主要な調達拠点とする産業で、CPTPPの原産地規則に基づいた「域内累積」を再設計できる余地。
  • 台湾企業をサプライチェーンの中核に据えつつ、CPTPP域内の第三国向け輸出における原産地証明戦略を最適化できる可能性。

もっとも、現時点の公式工程表には台湾向けAWG設置のタイムラインは明記されておらず、企業としては「加入前提の投資や組替え」を先行させることはリスクが大きい状況です。liskul

したがって当面の実務としては、「台湾は未加入」を前提に制度設計を行いつつ、台湾の扱いが変化する兆候をウォッチし、シナリオ別の原産地戦略をあらかじめ検討しておく、というスタンスが合理的です。liskul


5. 2026年前半が最初の山場:企業が見るべきチェックポイント

2025年11月の共同声明は、2025年12月の会合に加え、2026年前半にもCPTPP委員会の会合を開き、必要に応じて追加決定を行う意向を示しています。liskul
台湾にとっては、このタイミングが「議題に取り上げられるかどうか」を確認する最初の明確な観測点となります。liskul

企業が注視すべきポイントは次の通りです。liskul

  • 2026年前半の会合後に公表される公式文書で、台湾に関する言及や位置づけに変化があるか(例:協議の進展、AWG設置の検討に言及があるか)。
  • 新たなAWGが立ち上がる場合、その対象国の組み合わせと説明ロジック(オークランド三原則との関係や、経済・安全保障面の言及など)。
  • 加入審査において、違法な迂回輸出や関税回避防止、継続的な履行監視といったコンプライアンス論点がどの分野で強調されるか(特に電機・機械・デジタル分野)。

これらを経営・調達・通商部門の共通KPIとしてモニタリングし、台湾がCPTPPプロセスに乗った場合に備えて、原産地戦略・工場配置・調達方針の複数シナリオをあらかじめ描いておくことが、2025年末時点で企業が取り得る現実的なアクションと言えます。

インドネシアとEAEUがFTA署名、関税90%超で優遇 何が変わるのか

2025年12月21日、インドネシアとユーラシア経済連合(EAEU)が自由貿易協定(FTA)に署名しました。EAEU側は、関税分類ベースで全体の90.5%の関税ラインにインドネシア産品への優遇税率を適用し、その対象はインドネシアからの輸入額の95.1%をカバーすると説明しています。

EAEUはロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスからなる経済統合圏で、人口は約1.8億人規模です。一見すると政治ニュースで終わりがちですが、実務目線では、関税削減だけでなく原産地・通関・規格認証などの運用が変わる可能性があり、日本企業の輸出入採算とサプライチェーン設計にも影響し得ます。


まず押さえるべき前提:EAEUの範囲と協定の段階

EAEU(ユーラシア経済連合)は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスの5カ国から成る関税同盟・共通市場です。今回のFTAは、サンクトペテルブルクで開催された最高ユーラシア経済評議会の会合の場で署名されました。

署名後は、各締約国での批准など国内手続を経て発効する流れです。「署名=即日ゼロ関税」ではありません。インドネシア側の説明では、批准・実施準備を踏まえた発効時期として2026年末から2027年頃の実施を想定する旨が報じられており、経営判断上の重要なタイムラインとなります。


「90.5%の関税ライン優遇」の読み方

報道で強調されている「90.5%」は、EAEU側がインドネシア産品に対して優遇を与える関税ライン比率を指します。関税ラインとは、各国のHSコード(品目分類)をさらに細分化した課税単位です。「90.5%」は優遇対象ラインの広さを示すもので、すべての対象ラインが即時ゼロ関税になることを意味するわけではありません。段階的撤廃、例外品目、数量割当、原産地要件などが通常セットで設計されます。

EAEU側の発表では、インドネシア側もおおむね90%程度の関税ラインで優遇アクセスを開放します。EAEU産品に対してインドネシアが適用する平均関税率は、自由化の進展に伴い10.2%から約2%へ大きく低下する見通しです。また、EAEUがインドネシアに与える優遇は、関税ラインベースで90.5%、金額ベースではインドネシアからの輸入額の95.1%をカバーします。実需に近い指標としては「金額カバー率」のほうがインパクトを把握しやすい場合があります。


何が売れやすくなり、何が入りやすくなるか

インドネシアからEAEUへ:輸出機会が広がる品目

報道・政府コメントでは、インドネシアからEAEU向けの主な輸出拡大候補として、パーム油とその派生品、履物、繊維・繊維製品、水産品、天然ゴム、家具、電子機器などが挙げられています。インドネシア側の説明では、これに加えてコーヒー、カカオ、アルミナ関連なども主要な輸出品として言及されています。

EAEUからインドネシアへ:調達コストが変わり得る品目

EAEU側の公表では、インドネシア向けの有望品目として、小麦等の穀物、粉類・パンなどの農産加工品、魚・牛肉、乳製品(粉ミルク、チーズ等)、ミネラルウォーターなどの食品分野が示されています。

工業品では、鉄鋼・非鉄金属などの冶金品、石油製品、石炭、肥料、基礎ポリマー、合板・家具などの林産品、建設機械や各種設備が例示されています。一次素材や燃料・肥料系の調達コスト構造が変わり得るとされています。

重要なのは単純な関税率の上下ではなく、国内製造原価や調達先多元化の選択肢が広がる点です。特に肥料や原燃料、ポリマー等は価格変動が損益計算書に直撃しやすい領域であり、関税条件の改善は購買戦略・契約条件の見直しに直結します。


貿易額と「伸びしろ」の現状整理

インドネシア政府の統計によれば、2024年のインドネシアとEAEUの相互貿易額は約45億ドル(輸出約18.9億ドル、輸入約26.3億ドル)です。また、2025年1月から10月の貿易額は約44億ドル(輸出17.6億ドル、輸入26.4億ドル)と報じられており、現状でも一定のボリュームがある関係です。

EAEU側は、協定発効後3年から5年で貿易が倍増し得るとする見通しを示しており、インドネシア側からも「貿易を約2倍に増やす」期待が表明されています。数字の実現可能性は別として、両サイドが「伸ばす前提」で制度設計をしている点そのものが、企業にとって重要なシグナルといえます。


実務で効くのは関税だけではない:非関税分野の変化

ユーラシア経済委員会(EEC)は、今回の協定が関税削減だけでなく、技術規格、衛生・植物検疫(SPS)、通関手続、原産地規則、貿易円滑化など、貿易の予見可能性を高める規律を含むと説明しています。協定は全15章構成で、市場アクセス、貿易円滑化、経済協力といった分野をカバーしており、実際の通関難易度や規制対応コストが変わる余地があります。

インドネシア側も、法的確実性の向上、貿易・投資の予見可能性、サプライチェーン統合の促進といった観点から、このFTAを戦略的な枠組みとして位置づけています。


日本企業の視点:どのような会社に影響が出やすいか

1. インドネシア生産拠点を持ち、第三国市場を狙う企業

インドネシアで生産し、EAEU向けに輸出する場合、協定税率の適用によって価格競争力が変わります。自動車部品、家電などの消費財に加え、パーム油派生品、ゴム製品、家具、電子機器なども主要な輸出候補です。ASEAN内輸出だけでなく「非伝統市場」としてのEAEUをターゲットに含める余地が生まれます。

2. 一次素材・肥料・燃料関連を輸入する企業

インドネシアがEAEU産品に適用する平均関税率を約10.2%から2%へ引き下げる見込みであることから、EAEUからの一次素材・肥料・エネルギー関連の輸入コストは再試算対象になります。複数年契約や指数連動価格、関税転嫁条項がある取引では、協定発効タイミングに合わせた契約更改や価格調整の論点が増加します。

3. 規制対応コストが重い業種

水産品や食品、化学品、電気機器などの業種では、技術基準や認証、衛生・植物検疫(SPS)要件が実質的なボトルネックになりやすく、関税メリットを取りに行くほど品質保証・認証対応の体制整備が重要になります。

加えて、EAEUにはロシアやベラルーシが含まれるため、制裁・輸出管理・金融制約(決済・保険・輸送)の観点から、取引可否やスキーム設計を社内ガバナンスの論点として早期に切り分けておく必要があります。


企業が今からやっておくべきチェックリスト

対象品目の棚卸し
EAEU向けに輸出し得る製品、およびEAEUから調達している原材料・部材を洗い出し、HSコードを確定する。

税率シミュレーション
現行税率と、協定発効後の想定税率(即時撤廃か段階撤廃か)を分けて採算表を作成し、「90.5%」という全体数字ではなく、自社の該当ラインで影響を確認する。

原産地設計
協定税率を利用するには、協定の原産地規則を満たし、必要書類を整備する必要がある。サプライヤー証明、工程記録、BOMの整備は前倒しで進めるほど有利になる。

非関税要件の確認
食品・化学品・電気機器などは、規格・表示・許認可・SPS/TBT要件が取引コストを左右するため、関税メリットが大きい品目ほど、ここがボトルネックになりやすい。

発効時期のモニタリング
署名後は各国の批准と実施制度の整備が進む。インドネシア側は2026年末から2027年頃の実施を念頭に置いており、年度計画・投資計画・契約条件の見直しに織り込む必要がある。


まとめ:90%超の優遇は大きいが、勝負は発効後の運用

インドネシアとEAEUのFTAは、対象関税ラインの広さ(90.5%、金額ベース95.1%)という意味でも、双方が貿易倍増を見込むという意味でも、大きなポテンシャルを持つ枠組みです。

ただし、企業の利益に変わるのは、発効後に関税スケジュールを読み切り、原産地と通関運用を設計し、規格・認証・制裁といった非関税要件の壁を乗り越えた企業からです。

発効までの時間を準備期間として活かし、HSコードの確定、原産地設計、契約条件の見直し、書類・データ体制の整備までを前倒しできるかどうかが、「制度が動いた瞬間に先行できるか」を左右します。


出典一覧

本文書は以下のソースに基づいています:

  1. Reuters – Indonesia signs free trade deal with Russian-led Eurasian Economic Union
  2. Xinhua News – EAEU-Indonesia FTA agreement details
  3. Antara News – Indonesia seals FTA with EAEU
  4. Eurasian Economic Commission – Official FTA announcement
  5. Xinhua News – EAEU preferential tariff coverage data
  6. Global Banking and Finance – Indonesia-Russia trade overview
  7. Russia’s Pivot to Asia – EAEU-Indonesia FTA analysis
  8. PolGeoNow – What is Eurasian Union
  9. Russia’s Pivot to Asia – Supreme Eurasian Economic Council meeting analysis
  10. Interfax – EAEU trade priorities
  11. Instagram – Indonesian government announcement
  12. VOI – Indonesia tariff reduction details
  13. IDN Financials – RI-EAEU FTA signed
  14. WAM – Indonesia eyes 100% trade rise with EAEU
  15. The Star – Indonesia inks trade deal with EAEU
  16. Polyester Time – Indonesia-Eurasian Economic Union FTA
  17. The Jakarta Post – RI inks trade deal with EAEU
  18. Business Times Singapore – Indonesia signs FTA with EAEU
  19. Kontan English – Indonesia signs free trade deal
  20. Reuters – Indonesia expects to sign FTA (June 2025)
  21. Migrant Times – Indonesia signs FTA with EAEU

【2025年末版】日本のFTA/EPA交渉「最新マップ」── 激動の中東・南アジア、企業が備えるべき実務の急所


最終更新:2025年12月20日

日本のEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)交渉は、現在「数より質」のフェーズにあります。足元では**「中東(UAE・GCC)」「南アジア(バングラデシュ)」**が急速に進展する一方、停滞・中断している案件との二極化が鮮明になっています。

2025年1月時点のデータでは、日本の貿易額に占めるEPA発効・署名済みの割合は**78.8%ですが、現在交渉中の案件を含めると87.1%**に達します。この「残り約8%の空白」をどう埋め、ビジネスチャンスに変えるかが、今後の通商戦略の鍵となります。


1. 交渉中FTA/EPA 最新ステータス一覧

現在動いている交渉案件を、実務レベルの進捗状況と注目ポイントで整理しました。

区分相手国・地域直近の動き(2025年)進捗評価企業の注目ポイント
中東UAE第6回交渉(12月:ドバイ)加速中物品関税に加え「デジタル・持続可能な開発」等、新領域のルール化に注目。
中東GCC第2回交渉(6-7月:東京)前進中湾岸6カ国への一括アクセス。原産地規則(ROO)や投資、知財のパッケージ化。
南アジアバングラデシュ第7回交渉(9月:東京)着実「ポストLDC脱却」を見据えた重要拠点。サービス、投資、電子商取引の基盤整備。
北東アジア日中韓経済対話にて継続確認不透明政治情勢に左右されやすい。実務上は「RCEP」の上積みが焦点。
中東・欧州トルコ会合ブランク継続長期停滞欧州・アフリカへのゲートウェイだが、再始動の兆しを待機する段階。
中南米コロンビア会合ブランク継続長期停滞資源・農業分野で期待されるが、再開シグナルの監視が必要。

2. 重点エリアの分析:なぜ今「中東・南アジア」なのか

① 中東(UAE・GCC):エネルギーから「デジタル・ルール」の時代へ

UAEとの交渉は、2024年9月の開始からわずか1年強で第6回に到達するという、異例のスピードで進んでいます。

  • 実務インパクト:
    • 非関税障壁の撤廃: デジタル貿易章の導入により、データ移転の透明性や電子署名の法的有効性が確保される見通しです。
    • サプライチェーンの再構築: 「原産地規則(ROO)」の合意内容次第で、中東をハブとした物流・製造戦略の再考が求められます。

② 南アジア(バングラデシュ):次なる製造・消費の拠点

2024年3月の開始以降、着実に回数を重ねており、実効性の高い「積み上げ型」の交渉が続いています。

  • 実務インパクト:
    • LDC(後発開発途上国)卒業への備え: バングラデシュのLDC脱却に伴う特恵関税の失効を、EPAによってソフトランディングさせることが至上命題です。

3. 「停滞・中断」案件への現実的な対応

「交渉中」とされていても、実態として動きが止まっている案件については、代替枠組みの活用を優先すべきです。

  • トルコ・コロンビア(長期停滞): 自社の関心品目について、相手国の既存のFTA網(EU-トルコ関税同盟など)を調査し、第三国経由の可能性を含めたシミュレーションに留めるのが現実的です。
  • 韓国・カナダ(中断):
    • 韓国: すでに発効しているRCEPを最大限活用し、RCEPでカバーされない個別品目のみを注視。
    • カナダ: **CPTPP(TTP11)**という強力な枠組みが既に存在するため、個別EPAの優先順位は低いと判断して差し支えありません。

4. 企業が「今」着手すべき5つの準備アクション

交渉が合意に達してから動くのでは出遅れます。企業は以下の「先行準備」を推奨します。

  1. 貿易データの棚卸し: 自社の取引を「国 × 品目(HSコード) × 金額」で整理し、交渉先との合致度を特定する。
  2. 原産地証明のシミュレーション: 主要製品のBOM(部品構成表)を基に、推定される原産地規則を満たせるか事前判定を行う。
  3. 契約条項の先行設計: 今後の契約において「特恵関税によるメリットの還元(Benefit Sharing)」に関する条項を検討しておく。
  4. デジタル・サステナ対応: UAE交渉などで議題となっている「データ移転」や「環境基準」が、自社のコンプライアンス体制に与える影響を精査する。
  5. 定点観測のルーチン化: 外務省の報道発表を四半期ごとにチェックし、「議題の追加(政府調達など)」を経営リスク・機会のシグナルとして捉える。

結論

2025年末の通商地図は、**「動いている中東・南アジア」と「既存枠組みで代替すべき停滞案件」**に二分されました。企業は、締結後の「関税ゼロ」という結果だけでなく、その過程で議論される「デジタル・投資ルール」を先読みし、HSコードと原産地データの基盤を整えることが、最短で利益を享受するための王道です。


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ

2025年12月、インド政府はメキシコとの**Preferential Trade Agreement(PTA:特恵貿易協定)**締結を提案し、すでにオンライン会合を経て技術協議フェーズに入ったと報じられています。 この動きは「新規FTA交渉のスタート」というよりも、2026年1月1日から段階的に適用される、最大50%のメキシコ輸入関税引き上げへの実務的な危機対応と位置づける方が現実的です。timesofindia.indiatimes+3

いま何が起きているか(3行要約)

  • メキシコ議会は、FTA未締結国からの一部輸入品について、5〜50%の関税を課す法案を承認し、約1,400品目が対象となる見通しです(主に自動車、部品、繊維、鉄鋼、プラスチック、履物など)。reuters+2
  • インドは、自国の対メキシコ輸出(2024年輸出額約57億ドル)のうち、およそ20億ドル規模が今回の関税で打撃を受け得ると試算し、**PTAによる部分的な関税優遇で“穴を開ける”**戦略を示しています。tradingeconomics+2
  • 背景には、USMCA(2026年見直し)をにらんだ米国の対中強硬路線と、それに歩調を合わせたメキシコのサプライチェーン再編・国内産業保護という政治経済文脈があります。table+2

背景:メキシコの“非FTA国向け”関税引き上げの狙い

今回の措置は、特定国のみを狙い撃ちするというより、「メキシコとFTAを持つか否か」で世界を二分する設計になっています。 USMCA、CPTPP、日墨EPAなどの協定パートナーは優遇または現状維持となる一方、インド、中国、韓国、タイなど非FTA国は高関税MFN枠に押し込まれ、競争力が大きく低下する構図です。aa+2

メキシコ政府は、この関税引き上げの目的として、国内産業・雇用の保護、貿易不均衡の是正、特にアジア製品からの輸入代替と北米サプライチェーンへの組み込み強化を掲げています。 併せて、財政赤字の縮小に向けた関税収入増も副次的な目的とされています。financialpost+3


影響の輪郭:どの業界が“刺さる”のか

報道ベースで、メキシコが高関税対象として想定している主なセクターは以下の通りです。reuters+2

  • 自動車・二輪・部品(完成車、部品、関連金属)reuters+2
  • 繊維・衣料・履物reuters+2
  • 鉄鋼・その他金属製品gmk+2
  • プラスチック、ゴム・皮革製品、その他工業製品aa+2

インドの対メキシコ輸出は、2024年時点で約57億〜57.3億ドル規模とされ、このうち自動車、部品、繊維、鉄鋼など約20億ドル相当が新関税で大きな影響を受け得るとインド政府は見込んでいます。timesofindia.indiatimes+2


核心論点:なぜ「FTA」ではなく「PTA」なのか

インド当局者の発言から読み取れるロジックを整理すると、次の3点に収斂します。tradingview+2

  1. WTOで争いにくい構造
    メキシコは、WTOにおける譲許表(bound rate)の範囲内でMFN税率を引き上げる形をとっており、形式上はWTO義務に反しない設計です。 インド側も、「MFNベースの引き上げである以上、WTOでの法的救済の余地は限定的」とコメントしています。tradingview+1
  2. 包括的FTAは時間切れリスクが大きい
    包括的FTA交渉は、サービス、投資、政府調達、知財など幅広い分野が交渉対象となり、通常は数年単位を要します。 一方、メキシコの新関税は2026年1月1日から適用開始予定であり、このタイムラインにフルスコープFTAを間に合わせる現実性は低いと見られています。indiainmexico+3
  3. PTAなら“影響品目だけ”を優先的に救える
    PTAは、関税譲許の範囲を特定品目や限定セクターに絞り込み、関税ショックが大きい品目群に的を絞った救済設計が可能です。 インド当局者も、PTAを「影響緩和のための迅速な解決策」と位置付けており、まずは貨物貿易にフォーカスした限定的スキームから着手する構想と報じられています。economictimes+2

PTAが動き出した場合、企業実務はどう変わるか

PTAは「締結=ゴール」ではなく、「締結=実務負荷の立ち上がり」です。企業側で特に重要になる論点は次の3つです。

  1. 対象品目の線引き(自社SKUが入るか)
    PTAは、影響の大きいHS品目に絞って関税優遇を設定する設計になりやすく、品目リストに載る/載らないで明暗が分かれます。 企業としては、HSコード×原産国別に「PTA対象・非対象」を瞬時に判定できる体制が必要です。reuters+1
  2. 原産地規則(ROO)と証明の“必須化”
    関税優遇の適用には、PTAで定める原産地規則を満たし、インボイスや原産地証明書等で原産性を立証することが前提条件となります。 インド製品であっても、部材が多国籍にまたがる場合は、BOMレベルでのトレースとサプライヤー宣誓の取得がボトルネックになり得ます。itj.dgciskol+1
  3. 中継・積替え取引への監視強化リスク
    今回の関税引き上げの政治的背景には、米国が問題視する**迂回(trans-shipment)**対策やサプライチェーンの透明性強化があります。 PTAを通じた優遇が広がるほど、メキシコ税関は書類・物流経路の整合性チェックを強化し、コンプライアンス体制の差が実務リスクの差として顕在化する可能性があります。table+2

日本企業にとっての“見落としやすい示唆”

日本企業は、「日墨EPA」「CPTPP」といった枠組みにより、メキシコ向け輸出で相対的に有利なポジションを維持しているケースが少なくありません。 しかし、次のようなケースでは、今回のインド・メキシコPTA構想とメキシコ関税引き上げの影響を軽視すべきではありません。indiainmexico+1

  • メキシコ拠点がインドから部品・素材を調達している場合
    関税引き上げがそのままインプットコスト増に直結し、価格転嫁・設計変更・調達先多角化が不可避となる可能性があります。businesstoday+2
  • メキシコ市場でインド企業と競合している場合
    一時的には、インド製品が高関税で不利になり、日本製品が優位に立つ可能性があります。 しかし、PTAによってインド製品の関税負担が軽減されれば、「関税差による優位性」が短期間で失われるシナリオを織り込む必要があります。businesstoday+3

企業の打ち手(今日からできる順)

  • HSコード×原産国×契約条件ベースの影響試算
    どのHSにどの関税率がかかるのか、インド経由品がどの程度コスト上昇するのかを早期に可視化します。reuters+1
  • 価格条項・インコタームズ・再交渉条項の棚卸し
    関税負担がどこに帰属する契約かを洗い出し、価格見直しやサプライチェーン再設計の余地を確認します。newindianexpress+1
  • 原産地証明スキームの設計
    BOM精査、サプライヤー宣誓・定期監査、トレース体制の整備など、PTA適用に耐えうる証憑基盤を準備します。itj.dgciskol+1
  • 代替調達・代替生産シナリオの検討
    メキシコとFTAを持つ国からの調達・生産への切り替え余地を検証し、インド依存度の高い部材の「第二ソース」を確保します。financialpost+1
  • 業界団体・現地商工会との情報ライン構築
    品目リストや具体的税率の最終確定、PTAのスコープについて、一次情報を継続的に取得できるチャネルを確保します。timesofindia.indiatimes+1

今後の見通し:短期はPTA、長期はFTA(ただし政治次第)

インドとメキシコは、すでにオンライン会合を通じてPTAの技術協議を開始しており、短期的には**「高関税の影響が大きい品目をPTAでピンポイント救済する」方向**が現実的と見られます。tradingview+2

一方で、より包括的なFTAに発展するかどうかは、2026年USMCA見直しを含む対米関係、対中政策、メキシコ国内産業保護の政治力学に大きく左右されます。 企業としては、「短期:PTAによる部分的な関税差」「中長期:FTAや北米サプライチェーン再編による構造変化」の両方を織り込んだシナリオプランニングが必要です。bloomberg+4


本稿は公開情報に基づくビジネス上の一般的解説であり、特定の取引・案件に対する法務・税務・通関上の助言を構成するものではありません。具体的な案件については、協定正文・国内実施法・通関実務を確認のうえ、専門家への相談を推奨します。

  1. https://www.reuters.com/world/india/india-talks-with-mexico-over-tariffs-threatening-2-billion-exports-2025-12-15/
  2. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-talks-india-mexico-open-dialogue-to-blunt-tariff-shock-preferential-pact-on-the-table/articleshow/125976849.cms
  3. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  4. https://www.aa.com.tr/en/americas/mexican-senate-approves-up-to-50-tariffs-on-imports-from-china-asian-nations/3768289
  5. https://financialpost.com/news/mexico-50-tariffs-chinese-asian-imports
  6. https://tradingeconomics.com/india/exports/mexico
  7. https://table.media/en/china/news-en/mexico-import-tariffs-against-china-and-other-asian-countries
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-11/mexico-aligns-with-us-on-tougher-tariffs-on-chinese-asian-goods
  9. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-tariff-hike-hit-1-billion-india-car-exports-despite-automaker-lobbying-2025-12-11/
  10. https://gmk.center/en/news/mexico-approves-tariff-increases-on-chinese-and-other-asian-imports/
  11. https://www.tradingview.com/news/reuters.com,2025:newsml_L1N3XL083:0-india-proposes-trade-deal-to-counter-sharp-tariff-hike-by-mexico/
  12. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/why-mexico-slapped-50-tariff-on-india-how-it-matters/articleshow/125916395.cms
  13. https://www.indiainmexico.gov.in/public_files/assets/pdf/India-Mexico_Trade_Commercial_Relations_june.pdf
  14. http://itj.dgciskol.gov.in/hsLagNXcDNZLrfxnFiuzppuA3ckWhBLyT8a0cJ41.pdf
  15. https://www.businesstoday.in/india/story/india-mexico-trade-faces-new-headwinds-amid-threat-of-up-to-50-tariff-on-asian-goods-506267-2025-12-11
  16. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Dec/12/mexico-to-impose-up-to-50-tariff-on-indian-exports
  17. https://www.reuters.com/business/tariffs/
  18. https://www.facebook.com/etnow/posts/50-tariff-india-engaged-with-mexico-over-unilateral-hike-fta-talks-soon-read-/1274343104724591/
  19. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-deficit-narrows-november-deficit-drops-to-24-53-billion-compared-to-41-68-billion-in-october-check-details/articleshow/125974431.cms
  20. https://tradingeconomics.com/mexico/imports/india

「カナダ—インドネシア包括的経済連携協定(CEPA)」現状整理

概要

協定の現状: 2025年9月24日、オタワで両国がCEPAに署名。協定ステータスは「署名済(未発効)」。international

発効見込み: 2026年に発効予定(各国の国内批准・実施法整備が前提)。pm

関税撤廃の規模:

  • カナダ側:インドネシア産品に対する90.5%の関税を撤廃
  • インドネシア側:85.8%の品目ヘディング(HSヘディング)を自由化
  • カナダの対インドネシア輸出の95%以上で関税削減または撤廃効果xinhuanet+1

※測定単位(関税分類の粒度)が異なるため、数値の直接比較には注意が必要

実施スケジュール

現在(署名後〜発効前): 関税・通関手続きは現行通り。企業はHSコード単位での影響分析や原産地管理の準備段階 。international

2026年発効後: 即時撤廃品目は0%に、段階的削減品目は年次スケジュールに従い低下。具体的な品目別スケジュールおよび品目別原産地規則(PSR)は協定本文・附属書で確認可能 。international

関税・原産地・通関手続き

関税撤廃・削減: 物品市場アクセス章に基づき実行。輸出入許可の透明性強化、新規輸入ライセンス規律も盛り込み 。international

原産地規則(ROO):

  • 累積(accumulation)対応、生産累積見直し条項あり
  • 原産地証明、保存義務、事前教示、検認、罰則、当局間協力を含む
  • 証明方式の詳細(様式・自己証明可否等)は協定本文に従うinternational

通関手続き・貿易円滑化: WTO貿易円滑化協定を基盤とし、通関の簡素化・標準化・電子化等を規定 。international

サービス・投資・デジタル分野

投資: ISDS(投資家対国家紛争処理)を含む保護・待遇規律を整備。ネガティブリスト方式採用、インドネシア側には透明性向上のための3年移行期間。発効3年後のオファー改善見直しも規定 。international

金融サービス: 独立章として、市場アクセス・内外無差別・最恵国待遇に加え、強固なプルーデンシャル例外(金融安定確保のための裁量)を明記 。international

電子商取引: 越境データ流通、データローカライゼーション規律、ソースコード開示、オープンガバメントデータ、個人情報保護等を含み、デジタル貿易の予見可能性向上を図る 。international

政府調達: 透明性・協力等の手続き規律を整備し、将来の市場アクセス拡大に向けた交渉条項を含む 。international

国有企業(SOE): インドネシアにとって初の包括的SOE規律(無差別・商業的考慮・規制の中立性・透明性等)を導入 。international

労働・環境: 水準引き下げ競争防止、気候・生物多様性・プラスチック等の課題への取り組み、責任ある企業行動を盛り込み 。international

優先課題の二国間対話

重要鉱物: 高いESG基準の下で供給網強靭化・技術協力を推進 。international

SPS(衛生植物検疫): カナダ産牛肉とインドネシア産ツバメの巣の市場アクセス課題解消に向けた覚書を活用 。international

紛争解決: 透明性の高い国家間紛争解決(当事者提出、審理、最終報告の公開等)。international

有望セクター(公表情報ベース)

カナダ側有望品目(対インドネシア): 小麦、カリ(肥料)、木材、大豆等—完全実施で価格競争力が向上 。pm

インドネシア側有望品目(対カナダ): 繊維・履物・家具・加工食品・軽電機・自動車部材・ツバメの巣等。6,500超のタリフラインが優遇対象 。xinhuanet

企業実務対応チェックリスト

  1. HSコード特定: 主要SKUのHS6桁〜10桁を確定し、CEPA関税スケジュール(附属書)に照合。段階削減の年次率と即時撤廃判定を準備
  2. 原産地要件(PSR)リスク評価: 自社の部材構成・工程で原産資格を満たせるかを検証。累積条項の活用余地も試算
  3. 原産地管理プロセス整備: 証明書式/自己証明の可否、保存期間、検認対応を社内規程・システムに組み込み
  4. 通関・物流見直し: 発効後の申告手順・原産地申告文言・事前教示の取得計画を立案
  5. サービス・投資規制確認: インドネシア側ネガティブリストの参入制限・外資比率・現地要件を精査
  6. データ・IT対応: 越境データ移転・ローカライゼーション規律に適合するクラウド/拠点設計を検討
  7. 重要鉱物・SPS案件化: 鉱物・食品関連企業は二国間対話を活用し、規制・承認の前倒しを狙うinternational

よくある質問

Q1. いつから特恵税率を使えますか?
A. 発効(2026年)以降です。発効日前の出荷には適用されません 。pm

Q2. 自社品目が即時0%になるか知りたい
A. HSコード別の撤廃・削減スケジュールを確認する必要があります。正式な附属書に基づき判定してください 。international

Q3. 原産地証明は誰が作成しますか?
A. 原産地手続き章に証明・保存・検認・事前教示等の運用が規定されています。自社の役割分担に応じた体制整備が必要です 。international

Q4. セーフガードやAD/CVDは?
A. WTOの権利義務を再確認しており、アンチダンピング・相殺関税・グローバルセーフガードの枠組みは維持されます 。international

追加の注目点

安全保障・経済の包括連携: 署名当日、防衛協力協定など複数のMoUも同時締結。サプライチェーン(重要鉱物等)や人材協力の観点で、民間案件への波及可能性 。pm

数値の解釈: 90.5%(カナダ)と85.8%(インドネシア)は、それぞれ関税撤廃対象と自由化対象(ヘディング単位)で、母数・単位が異なるため単純比較は不適切 。setkab

参考資料

  1. https://www.pm.gc.ca/en/news/news-releases/2025/09/24/prime-minister-carney-announces-new-trade-agreement-indonesia-canadas
  2. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/background-contexte.aspx?lang=eng
  3. http://www.xinhuanet.com/english/asiapacific/20250925/0626b5c9037a40bfa3be41f522915e87/c.html
  4. https://setkab.go.id/en/indonesia-canada-sign-agreements-on-trade-defense-business/
  5. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/summary-negotiated-resume-negociations.aspx?lang=eng
  6. https://search.open.canada.ca/qpnotes/record/dfatd-maecd,00014-2025
  7. https://voi.id/ja/news/518008
  8. https://www.idnfinancials.com/jp/news/57461/signs-ica-cepa-indonesia-becomes-canadas-first-asean-partner?sl=jp
  9. https://www.thebusinesscouncil.ca/publication/bcc-and-kadin-indonesia-sign-mou/
  10. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/07/e4c84586ae7275ed.html
  11. https://www.reuters.com/world/americas/canada-boost-indonesia-exports-diversify-non-us-trade-says-minister-2025-09-24/
  12. https://www.canada.ca/en/global-affairs/news/2025/09/minister-sidhu-meets-with-indonesias-minister-of-trade.html
  13. https://jp.reuters.com/business/XHGKBECGIVMORHZE63E5L3PMUY-2025-09-25/
  14. https://www.fibre2fashion.com/news/textile-news/canadian-pm-announces-new-trade-agreement-with-indonesia-305483-newsdetails.htm
  15. https://www.pm.gc.ca/en/news/statements/2025/09/24/joint-statement-bilateral-meeting-between-prime-minister-canada-mark-carney
  16. https://www.nna.jp/news/2843591
  17. https://news.yahoo.co.jp/articles/ec6a7ce4f22d07de22725942ff5ec8f5c58bc706/images/000
  18. https://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2025/09/571486.php
  19. https://voi.id/ja/amp/517883
  20. https://www.jetro.go.jp/biznewstop/biznews/asia/idn/wto-fta/
  21. https://www.cbp.gov/sites/default/files/2025-08/20250820_tariff_factsheet_0.pdf
  22. https://search.open.canada.ca/qpnotes/record/dfatd-maecd,00010-2025
  23. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/iacepa/iacepa-text/Pages/iacepa-annex-2-a-schedules-of-tariff-commitments
  24. https://www.bilaterals.org/?indonesia-finalizes-first-north
  25. https://catts.eu/preferential-trade-updates-august-2025/
  26. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00207020251340090
  27. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/trade-commerce/tariff-tarif/2025/html/countries-pays-eng.html
  28. https://www.thejakartapost.com/business/2025/09/25/ri-canada-ink-trade-pact-amid-us-pressure.html
  29. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-meetings-civil-society/csd-negotiations-comprehensive-economic-partnership-agreement-cepa-between-eu-and-indonesia-2025-09-16_en
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/indonesia/eu-indonesia-agreements/key-elements-eu-indonesia-trade-agreement-and-investment-protection-agreement_en
  31. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/trade-commerce/tariff-tarif/2025/html/admin-eng.html

新たに合意されたEFTA-メルコスールFTA

EFTA-メルコスールFTA:企業が押さえるべき戦略的ポイント

2019年8月に実質合意に至ったこのFTAは、約3億人の市場へのアクセスを劇的に改善する可能性を秘めています。企業の皆様が今すぐ準備すべき実務上の要点を、専門的かつ分かりやすく解説します。


エグゼクティブ・サマリー:協定の全体像

本協定は、EFTA加盟国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)とメルコスール加盟国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)間の貿易・投資を活性化させる包括的な枠組みです。

  • 市場アクセス:双方の輸出の95%を超える品目で関税が撤廃・削減されます。特に、医薬品、機械、化学品などEFTA側の主要輸出品に対するメルコスールの高関税が段階的に引き下げられます。
  • 原産地規則(ROO):特筆すべきは、**EU域内で生産された材料を協定上の原産材料とみなせる「拡張累積」**制度です。これにより、欧州全体を視野に入れたサプライチェーンの最適化が可能になります。原産地証明は、認定輸出者による自己申告制度が採用され、手続きの迅速化が図られます。
  • 貿易円滑化:事前教示制度(税番、原産地、課税価格について税関に事前の法的拘束力のある回答を求める制度)や通関手続きの電子化が盛り込まれ、貿易の透明性と予見可能性が向上します。
  • サービス・投資:金融、通信、専門家の一時的な移動(モード4)を含む幅広いサービス分野での市場アクセスが改善されます。投資については、商業拠点設立(モード3)時の内国民待遇が基本となりますが、各国の留保事項には注意が必要です。
  • 政府調達:これまで参入が難しかったメルコスールの中央政府機関の調達市場が開放されます。ブラジルやアルゼンチンでは、入札に参加できる契約金額の閾値(基準額)が段階的に引き下げられます。
  • 知的財産(IP):スイスの有名チーズ「グリュイエール」など、100を超える地理的表示(GI)が保護対象となり、ブランド価値の保護が強化されます。
  • 貿易と持続可能な開発(TSD):環境保護や労働者の権利に関する規定も盛り込まれ、ホルモン剤不使用の食肉生産や、成長促進目的での抗生物質使用の段階的廃止などが定められています。違反に関する紛争は、専門家パネルによる勧告の公表を通じて解決が図られます。
  • スイス企業への効果:協定が完全に履行されれば、スイスからメルコスールへの輸出の約96%が無税となり、年間1億8,000万スイスフラン(約300億円)規模の関税削減効果が見込まれています(スイス連邦経済省SECO試算)。

条文別:企業が押さえるべき実務ポイント

1. 物品関税:いつ、どれだけ下がるのか?

  • 撤廃スケジュール:関税は、即時撤廃(発効と同時)、または4年、8年、10年、15年といった期間をかけて段階的に引き下げられます。チーズやチョコレートなど一部のセンシティブ品目には、低関税を適用する輸入割当(TRQ)が設定されます。
  • 対象品目と削減幅の例
    • 医薬品:最大14%の関税が段階的に撤廃。
    • 機械類:14~20%の高関税が段階的に撤廃。
    • 化学品:最大18%の関税が段階的に撤廃。
    • 自動車部品:14~18%の関税が主に長期(10年や15年)で撤廃。
    • 繊維製品:最大35%という極めて高い関税が段階的に削減・撤廃。
  • アクション:自社製品のHSコード(8桁レベル)を特定し、協定付属書で関税撤廃スケジュール(カテゴリ)を確認することが不可欠です。

2. 原産地規則(ROO):サプライチェーンの鍵

  • 最重要ポイント「EU拡張累積」:貴社のサプライチェーンにEUの部材が含まれていても、一定の条件(品目別規則がEFTA-メルコスール間とEFTA-EU間で同等であることなど)を満たせば、その部材を「EFTA原産」として最終製品の原産性を判断できます。これにより、欧州全域での柔軟な部材調達が可能になります。
  • 実務上の手続き:原産地証明は、税関から事前に承認を受けた「認定輸出者」が、自らインボイスなどの商業書類上に原産地を記載する自己申告制度が基本となります。事後検認に備え、原産性を証明する書類の保管が義務付けられます。

3. 政府調達:新たなビジネスチャンス

  • 市場開放のインパクト:ブラジルやアルゼンチンの中央政府機関が発注する物品やサービスの入札に、EFTA企業が参加しやすくなります。
  • 主要国の閾値(段階的引き下げ後)
    • ブラジル:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • アルゼンチン:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • SDRはIMFの特別引出権。1SDR≒約215円(2025年9月時点の参考レート)。
  • アクション:対象となる政府機関のリストと、自社製品・サービスが除外対象になっていないかを確認し、入札情報へのアクセス方法を確立しましょう。

セクター別・即戦力の着眼点

セクター主な変更点今すぐ取るべきアクション
医薬・ヘルスケアメルコスールの高関税(最大14%)が撤廃。政府調達で病院・保健省案件が対象に。HSコード別に削減スケジュールを特定し、価格戦略に反映。認定輸出者資格の取得準備。
産業機械・部品14–20%の関税が削減され、価格競争力が大幅に向上。EU拡張累積の活用を前提にサプライチェーンを見直し。PSR(品目別規則)の適合性を確認。
化学品最大18%の関税削減。TBT(貿易の技術的障害)章で将来の規制協力も規定。PSR(付加価値基準/関税番号変更基準)を確認し、原産性管理体制を構築。必要に応じて事前教示を取得。
自動車部品14–18%の関税が主に長期スケジュールで削減。現地の完成車メーカー(OEM)等と関税削減分を反映した価格改定の交渉準備。
食品(チーズ等)無関税または低関税の輸入枠(TRQ)が設定され、即時的な市場アクセスが改善。TRQの申請プロセス(相手国側)を確認。GI保護対象リストをチェックし、自社製品の表示に問題がないか点検。

Google スプレッドシートにエクスポート



発効までの見通し(重要)

  • 批准手続き:協定の発効には、各締約国での国内議会の承認などが必要です。
  • 二国間での段階的発効少なくともEFTA加盟国のいずれか1カ国と、メルコスール加盟国のいずれか1カ国が批准手続きを完了した時点で、その2国間で協定が先行して発効します(手続き完了の通知から3ヶ月後の月の初日)。その後、批准を終えた国から順次、協定の適用対象が拡大していきます。
  • スイスの動向:スイス連邦議会での審議は2026年以降となる見込みです。企業としては、どの国の組み合わせで最初に発効するのか、最新の動向を注視することが重要です。