「カナダ—インドネシア包括的経済連携協定(CEPA)」現状整理

概要

協定の現状: 2025年9月24日、オタワで両国がCEPAに署名。協定ステータスは「署名済(未発効)」。international

発効見込み: 2026年に発効予定(各国の国内批准・実施法整備が前提)。pm

関税撤廃の規模:

  • カナダ側:インドネシア産品に対する90.5%の関税を撤廃
  • インドネシア側:85.8%の品目ヘディング(HSヘディング)を自由化
  • カナダの対インドネシア輸出の95%以上で関税削減または撤廃効果xinhuanet+1

※測定単位(関税分類の粒度)が異なるため、数値の直接比較には注意が必要

実施スケジュール

現在(署名後〜発効前): 関税・通関手続きは現行通り。企業はHSコード単位での影響分析や原産地管理の準備段階 。international

2026年発効後: 即時撤廃品目は0%に、段階的削減品目は年次スケジュールに従い低下。具体的な品目別スケジュールおよび品目別原産地規則(PSR)は協定本文・附属書で確認可能 。international

関税・原産地・通関手続き

関税撤廃・削減: 物品市場アクセス章に基づき実行。輸出入許可の透明性強化、新規輸入ライセンス規律も盛り込み 。international

原産地規則(ROO):

  • 累積(accumulation)対応、生産累積見直し条項あり
  • 原産地証明、保存義務、事前教示、検認、罰則、当局間協力を含む
  • 証明方式の詳細(様式・自己証明可否等)は協定本文に従うinternational

通関手続き・貿易円滑化: WTO貿易円滑化協定を基盤とし、通関の簡素化・標準化・電子化等を規定 。international

サービス・投資・デジタル分野

投資: ISDS(投資家対国家紛争処理)を含む保護・待遇規律を整備。ネガティブリスト方式採用、インドネシア側には透明性向上のための3年移行期間。発効3年後のオファー改善見直しも規定 。international

金融サービス: 独立章として、市場アクセス・内外無差別・最恵国待遇に加え、強固なプルーデンシャル例外(金融安定確保のための裁量)を明記 。international

電子商取引: 越境データ流通、データローカライゼーション規律、ソースコード開示、オープンガバメントデータ、個人情報保護等を含み、デジタル貿易の予見可能性向上を図る 。international

政府調達: 透明性・協力等の手続き規律を整備し、将来の市場アクセス拡大に向けた交渉条項を含む 。international

国有企業(SOE): インドネシアにとって初の包括的SOE規律(無差別・商業的考慮・規制の中立性・透明性等)を導入 。international

労働・環境: 水準引き下げ競争防止、気候・生物多様性・プラスチック等の課題への取り組み、責任ある企業行動を盛り込み 。international

優先課題の二国間対話

重要鉱物: 高いESG基準の下で供給網強靭化・技術協力を推進 。international

SPS(衛生植物検疫): カナダ産牛肉とインドネシア産ツバメの巣の市場アクセス課題解消に向けた覚書を活用 。international

紛争解決: 透明性の高い国家間紛争解決(当事者提出、審理、最終報告の公開等)。international

有望セクター(公表情報ベース)

カナダ側有望品目(対インドネシア): 小麦、カリ(肥料)、木材、大豆等—完全実施で価格競争力が向上 。pm

インドネシア側有望品目(対カナダ): 繊維・履物・家具・加工食品・軽電機・自動車部材・ツバメの巣等。6,500超のタリフラインが優遇対象 。xinhuanet

企業実務対応チェックリスト

  1. HSコード特定: 主要SKUのHS6桁〜10桁を確定し、CEPA関税スケジュール(附属書)に照合。段階削減の年次率と即時撤廃判定を準備
  2. 原産地要件(PSR)リスク評価: 自社の部材構成・工程で原産資格を満たせるかを検証。累積条項の活用余地も試算
  3. 原産地管理プロセス整備: 証明書式/自己証明の可否、保存期間、検認対応を社内規程・システムに組み込み
  4. 通関・物流見直し: 発効後の申告手順・原産地申告文言・事前教示の取得計画を立案
  5. サービス・投資規制確認: インドネシア側ネガティブリストの参入制限・外資比率・現地要件を精査
  6. データ・IT対応: 越境データ移転・ローカライゼーション規律に適合するクラウド/拠点設計を検討
  7. 重要鉱物・SPS案件化: 鉱物・食品関連企業は二国間対話を活用し、規制・承認の前倒しを狙うinternational

よくある質問

Q1. いつから特恵税率を使えますか?
A. 発効(2026年)以降です。発効日前の出荷には適用されません 。pm

Q2. 自社品目が即時0%になるか知りたい
A. HSコード別の撤廃・削減スケジュールを確認する必要があります。正式な附属書に基づき判定してください 。international

Q3. 原産地証明は誰が作成しますか?
A. 原産地手続き章に証明・保存・検認・事前教示等の運用が規定されています。自社の役割分担に応じた体制整備が必要です 。international

Q4. セーフガードやAD/CVDは?
A. WTOの権利義務を再確認しており、アンチダンピング・相殺関税・グローバルセーフガードの枠組みは維持されます 。international

追加の注目点

安全保障・経済の包括連携: 署名当日、防衛協力協定など複数のMoUも同時締結。サプライチェーン(重要鉱物等)や人材協力の観点で、民間案件への波及可能性 。pm

数値の解釈: 90.5%(カナダ)と85.8%(インドネシア)は、それぞれ関税撤廃対象と自由化対象(ヘディング単位)で、母数・単位が異なるため単純比較は不適切 。setkab

参考資料

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  2. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/background-contexte.aspx?lang=eng
  3. http://www.xinhuanet.com/english/asiapacific/20250925/0626b5c9037a40bfa3be41f522915e87/c.html
  4. https://setkab.go.id/en/indonesia-canada-sign-agreements-on-trade-defense-business/
  5. https://www.international.gc.ca/trade-commerce/trade-agreements-accords-commerciaux/agr-acc/indonesia-indonesie/cepa-apeg/summary-negotiated-resume-negociations.aspx?lang=eng
  6. https://search.open.canada.ca/qpnotes/record/dfatd-maecd,00014-2025
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  8. https://www.idnfinancials.com/jp/news/57461/signs-ica-cepa-indonesia-becomes-canadas-first-asean-partner?sl=jp
  9. https://www.thebusinesscouncil.ca/publication/bcc-and-kadin-indonesia-sign-mou/
  10. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/07/e4c84586ae7275ed.html
  11. https://www.reuters.com/world/americas/canada-boost-indonesia-exports-diversify-non-us-trade-says-minister-2025-09-24/
  12. https://www.canada.ca/en/global-affairs/news/2025/09/minister-sidhu-meets-with-indonesias-minister-of-trade.html
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  29. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-meetings-civil-society/csd-negotiations-comprehensive-economic-partnership-agreement-cepa-between-eu-and-indonesia-2025-09-16_en
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/indonesia/eu-indonesia-agreements/key-elements-eu-indonesia-trade-agreement-and-investment-protection-agreement_en
  31. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/trade-commerce/tariff-tarif/2025/html/admin-eng.html

新たに合意されたEFTA-メルコスールFTA

EFTA-メルコスールFTA:企業が押さえるべき戦略的ポイント

2019年8月に実質合意に至ったこのFTAは、約3億人の市場へのアクセスを劇的に改善する可能性を秘めています。企業の皆様が今すぐ準備すべき実務上の要点を、専門的かつ分かりやすく解説します。


エグゼクティブ・サマリー:協定の全体像

本協定は、EFTA加盟国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)とメルコスール加盟国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)間の貿易・投資を活性化させる包括的な枠組みです。

  • 市場アクセス:双方の輸出の95%を超える品目で関税が撤廃・削減されます。特に、医薬品、機械、化学品などEFTA側の主要輸出品に対するメルコスールの高関税が段階的に引き下げられます。
  • 原産地規則(ROO):特筆すべきは、**EU域内で生産された材料を協定上の原産材料とみなせる「拡張累積」**制度です。これにより、欧州全体を視野に入れたサプライチェーンの最適化が可能になります。原産地証明は、認定輸出者による自己申告制度が採用され、手続きの迅速化が図られます。
  • 貿易円滑化:事前教示制度(税番、原産地、課税価格について税関に事前の法的拘束力のある回答を求める制度)や通関手続きの電子化が盛り込まれ、貿易の透明性と予見可能性が向上します。
  • サービス・投資:金融、通信、専門家の一時的な移動(モード4)を含む幅広いサービス分野での市場アクセスが改善されます。投資については、商業拠点設立(モード3)時の内国民待遇が基本となりますが、各国の留保事項には注意が必要です。
  • 政府調達:これまで参入が難しかったメルコスールの中央政府機関の調達市場が開放されます。ブラジルやアルゼンチンでは、入札に参加できる契約金額の閾値(基準額)が段階的に引き下げられます。
  • 知的財産(IP):スイスの有名チーズ「グリュイエール」など、100を超える地理的表示(GI)が保護対象となり、ブランド価値の保護が強化されます。
  • 貿易と持続可能な開発(TSD):環境保護や労働者の権利に関する規定も盛り込まれ、ホルモン剤不使用の食肉生産や、成長促進目的での抗生物質使用の段階的廃止などが定められています。違反に関する紛争は、専門家パネルによる勧告の公表を通じて解決が図られます。
  • スイス企業への効果:協定が完全に履行されれば、スイスからメルコスールへの輸出の約96%が無税となり、年間1億8,000万スイスフラン(約300億円)規模の関税削減効果が見込まれています(スイス連邦経済省SECO試算)。

条文別:企業が押さえるべき実務ポイント

1. 物品関税:いつ、どれだけ下がるのか?

  • 撤廃スケジュール:関税は、即時撤廃(発効と同時)、または4年、8年、10年、15年といった期間をかけて段階的に引き下げられます。チーズやチョコレートなど一部のセンシティブ品目には、低関税を適用する輸入割当(TRQ)が設定されます。
  • 対象品目と削減幅の例
    • 医薬品:最大14%の関税が段階的に撤廃。
    • 機械類:14~20%の高関税が段階的に撤廃。
    • 化学品:最大18%の関税が段階的に撤廃。
    • 自動車部品:14~18%の関税が主に長期(10年や15年)で撤廃。
    • 繊維製品:最大35%という極めて高い関税が段階的に削減・撤廃。
  • アクション:自社製品のHSコード(8桁レベル)を特定し、協定付属書で関税撤廃スケジュール(カテゴリ)を確認することが不可欠です。

2. 原産地規則(ROO):サプライチェーンの鍵

  • 最重要ポイント「EU拡張累積」:貴社のサプライチェーンにEUの部材が含まれていても、一定の条件(品目別規則がEFTA-メルコスール間とEFTA-EU間で同等であることなど)を満たせば、その部材を「EFTA原産」として最終製品の原産性を判断できます。これにより、欧州全域での柔軟な部材調達が可能になります。
  • 実務上の手続き:原産地証明は、税関から事前に承認を受けた「認定輸出者」が、自らインボイスなどの商業書類上に原産地を記載する自己申告制度が基本となります。事後検認に備え、原産性を証明する書類の保管が義務付けられます。

3. 政府調達:新たなビジネスチャンス

  • 市場開放のインパクト:ブラジルやアルゼンチンの中央政府機関が発注する物品やサービスの入札に、EFTA企業が参加しやすくなります。
  • 主要国の閾値(段階的引き下げ後)
    • ブラジル:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • アルゼンチン:物品・サービスはSDR130,000、建設サービスはSDR5,000,000。
    • SDRはIMFの特別引出権。1SDR≒約215円(2025年9月時点の参考レート)。
  • アクション:対象となる政府機関のリストと、自社製品・サービスが除外対象になっていないかを確認し、入札情報へのアクセス方法を確立しましょう。

セクター別・即戦力の着眼点

セクター主な変更点今すぐ取るべきアクション
医薬・ヘルスケアメルコスールの高関税(最大14%)が撤廃。政府調達で病院・保健省案件が対象に。HSコード別に削減スケジュールを特定し、価格戦略に反映。認定輸出者資格の取得準備。
産業機械・部品14–20%の関税が削減され、価格競争力が大幅に向上。EU拡張累積の活用を前提にサプライチェーンを見直し。PSR(品目別規則)の適合性を確認。
化学品最大18%の関税削減。TBT(貿易の技術的障害)章で将来の規制協力も規定。PSR(付加価値基準/関税番号変更基準)を確認し、原産性管理体制を構築。必要に応じて事前教示を取得。
自動車部品14–18%の関税が主に長期スケジュールで削減。現地の完成車メーカー(OEM)等と関税削減分を反映した価格改定の交渉準備。
食品(チーズ等)無関税または低関税の輸入枠(TRQ)が設定され、即時的な市場アクセスが改善。TRQの申請プロセス(相手国側)を確認。GI保護対象リストをチェックし、自社製品の表示に問題がないか点検。

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発効までの見通し(重要)

  • 批准手続き:協定の発効には、各締約国での国内議会の承認などが必要です。
  • 二国間での段階的発効少なくともEFTA加盟国のいずれか1カ国と、メルコスール加盟国のいずれか1カ国が批准手続きを完了した時点で、その2国間で協定が先行して発効します(手続き完了の通知から3ヶ月後の月の初日)。その後、批准を終えた国から順次、協定の適用対象が拡大していきます。
  • スイスの動向:スイス連邦議会での審議は2026年以降となる見込みです。企業としては、どの国の組み合わせで最初に発効するのか、最新の動向を注視することが重要です。