2025年米国鉄鋼・アルミニウム関税制度の概要と企業対応

1. 2025年の大改定のポイント

関税率の大幅引上げ

2025年6月3日の大統領布告により、鉄鋼・アルミニウムおよびその派生製品に対する関税率が一律**50%**に引き上げられました(英国のみ25%)。これは通商拡張法第232条(Section 232)に基づく措置で、2025年6月4日(EDT)以降の輸入に適用されます。

課税方式の変更:「金属含有価額」ベース

従来の「総額課税」から「金属含有価額のみに対する課税」に変更されました。CBP(米国税関国境警備局)の実務通達により、派生製品やHS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)の品目についても、製品全体ではなく鋼・アルミニウムの含有価額部分のみに232関税が課されます。

除外制度の終了と「インクルージョン制度」の創設

2025年2月10日の布告により、従来の232除外申請制度が終了しました。代わりに、派生製品を追加指定するための「インクルージョン手続」が年3回(5月・9月・1月)の受付期間で運用開始されています。

重複課税(スタッキング)の整理

大統領令第14289号(2025年4月29日)により、複数の特定関税が同一貨物に重複して過剰となる事態を一定範囲で防ぐ手順が規定されました。ただし、232関税と対中制裁の「301関税」については累積適用されることが明記されています。

2. 派生製品の対象拡大

「派生製品(derivatives)」とは、基礎素材(鉄鋼・アルミニウム)からさらに加工された下流製品のことで、2018年の232措置では対象外だった製品分野にまで関税を適用するために指定されています。

2025年の主な追加項目

アルミニウム派生製品(4月4日発効)

  • 空のアルミ缶(HS 7612.90.10)
  • ビール(HS 2203.00.00)

鉄鋼派生製品(6月23日発効)

  • 家電製品(冷蔵冷凍庫、洗濯機、乾燥機、食洗機、オーブン・レンジ、生ごみ処理機)
  • 溶接ワイヤラック(HS 9403.99.9020)

トレーラー類(8月18日発効)

  • ドライバン・冷凍(リーファー)トレーラー(HS 8716.39.0040等)とそのサブアセンブリ

今後の展開

BISのインクルージョン制度により、国内生産者等の申請に基づいて派生製品は継続的に追加される見込みです(申請から60日以内に判断)。

3. 関税算定の具体的方法

基本税率

  • 鉄鋼・アルミニウム・派生品:50%(英国原産品のみ25%)

課税ベースの算定

  1. HS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)製品:金属の「含有価額」のみに課税
  2. 派生製品:製品中の鋼・アルミニウム含有価額に対して課税
  3. 鉄・アルミ両方を含む派生品:それぞれの含有価額に対してそれぞれの232関税を課税

申告方式:「2行計上」

CBPの指示により、以下の2行に分けて申告します:

  • 1行目(非金属部分):本来のHS番号、原産国、「総額-金属含有価額」
  • 2行目(金属含有価額):同一HS・原産国、数量0、価額=金属含有価額、HS第99類で50%課税

算定例

洗濯機(申告価額500ドル、うち鋼含有価額100ドル、アルミ含有価額20ドル)の場合:

  • 鋼部分:100ドル × 50% = 50ドル
  • アルミ部分:20ドル × 50% = 10ドル
  • 232関税合計:60ドル

中国原産品で301関税対象の場合、さらに25%が併課される可能性があります。

4. 重複関税の取扱い

232関税 vs 301関税(対中)

累積適用されます。中国原産で232対象品の場合、232(50%)+ 301(25%)が併課される可能性があります。

232関税 vs IEEPA(相互関税)

232に関わる金属部分にはIEEPAは重複適用されませんが、非金属部分にはIEEPAが課される場合があります。

その他の特則

  • ロシア関連アルミニウム:232とは別に200%の特則が存続
  • デューティードローバック不可、FTZは原則「特恵外国品扱い」が必要

5. 企業の実務対応チェックリスト

A. 分類・原産・含有価額の把握

  1. HTS分類の見直し:新規派生指定品目(家電、トレーラー、空缶・ビール等)について社内マスターを更新
  2. 金属含有価額の算定体制整備:BOM・コスト表から鋼・アルミ含有価額を抽出できる仕組みの構築
  3. 原産性証明の取得
    • 鉄鋼:Melt & Pour(溶解・鋳造)国の証明
    • アルミニウム:Smelt & Cast(製錬・鋳造)国の証明
    • メキシコ経由品は2024年7月以降の厳格化に注意

B. 課税最適化戦略

  1. 調達先の見直し:英国原産品は25%(他国50%)の優遇税率を活用
  2. 米国内素材の活用:米国でMelt & Pour/Smelt & Castされた素材は0%免除の可能性
  3. 設計変更の検討:鋼・アルミ以外素材への置換、金属使用量削減による含有価額の圧縮
  4. 複数関税の影響分析:232 + 301 + AD/CVDの総負担試算

C. 契約・申請対応

  1. 価格条項の見直し:サプライ・販売契約に「232/301変動条項」を追加
  2. インクルージョン申請の活用(国内生産者向け):年3回の申請機会を活用した競合品の追加指定
  3. 社内統制の強化:HTS・原産・含有価額・証憑の監査体制整備

6. 実際の企業事例

American Trailer Manufacturers Coalition

Great Dane、Stoughton、Strick、Wabashなどの米国トレーラーメーカー連合が2025年5月にBISへ派生指定追加を申請し、8月18日にドライバン・リーファートレーラーが派生製品として採用されました。

Whirlpool(米国家電メーカー)

家電の派生指定追加(6月23日)に対し、「金属含有価額課税」や重複関税整理を踏まえた支持表明を行い、国産比率の高さを背景に価格公平化効果を主張しています。

Ball Corporation(アルミ缶メーカー)

2025年の関税環境下でも、調達・ヘッジ・価格見直しにより影響は限定的としており、財務・契約面での対応による影響平準化の好例となっています。

7. 今後の注意点

制度面のポイント

  • 232税率は原則50%(英国25%)、2025年6月4日以降適用
  • 課税ベースは金属の「含有価額」のみで、2行計上が必要
  • 派生品範囲は今後もインクルージョン制度により拡大予定
  • 301関税(対中)とは累積適用される

企業の優先対応事項

  1. HTS分類の再確認
  2. 含有価額算定体制の整備
  3. Melt & Pour/Smelt & Cast証憑の取得
  4. 契約価格条項の見直し
  5. 対中国301関税重複の影響分析
  6. (国内生産者の場合)インクルージョン制度の活用検討

この新制度により、米国への鉄鋼・アルミニウム関連製品の輸出入には従来以上に精緻な管理と戦略的対応が求められています。企業は早急に社内体制を整備し、適切な対応策を講じることが重要です。

分野別追加関税(米国・2025年10月1日発効)

分野別追加関税(米国・2025年10月1日発効)

2025年9月25日(木曜日)、ドナルド・トランプ米国大統領は自身のソーシャルメディア(Truth Social)上で、複数の分野を対象とした新たな輸入関税を10月1日から導入すると発表しました。この発表はブルームバーグ、AP通信(NPRなどが配信)、日本のTBS NEWS DIGなど複数の主要メディアによって報じられています。

以下が発表された関税の概要です。

分野関税率修正・補足事項
ブランド/特許医薬品100%ジェネリック医薬品は対象外。米国内で製造施設を建設中(着工済み)の企業は適用除外となる。
キッチンキャビネット・洗面化粧台50%トランプ大統領は、これらの製品が他国から不当に「大量流入」していることを理由に挙げている。
布張り家具30%キッチンキャビネット等と同様の理由が示唆されている。
中型・大型トラック25%Peterbilt、Kenworth、Freightlinerといった米国のトラックメーカーを「不公平な海外競争から保護するため」と説明している。


重要な補足情報

  • 法的根拠: トランプ大統領は、特にトラックや家具・キャビネットの関税について「国家安全保障(National Security)およびその他の理由」と述べており、通商拡大法232条を念頭に置いた措置である可能性が高いです。
  • 発表の背景と目的: 今回の発表は、米国内の製造業を保護し、サプライチェーンを国内に回帰させるというトランプ政権の一貫した政策を反映したものです。特に医薬品については、企業に米国内での工場建設を促す明確な意図が見られます。
  • 市場への影響: この突然の発表を受け、メキシコに大規模な生産拠点を持つダイムラー・トラックなどの株価は下落し、一方で米国内での生産が中心のボルボの株価は上昇するなど、すでに関連業界の株価に影響が出ています。
  • 用語について: これらは米国が一方的に課す関税であるため、「相互関税」ではなく「追加関税」や「分野別関税」と呼ぶのがより正確です。

米国相互関税率表(2025年9月24日現在)

米国相互関税率表(2025年9月24日現在)

凡例:関税率=米国が当該国原産品に課す「相互関税」率。別建ての対カナダ/対メキシコ/対中国”オピオイド関連”などの関税は備考欄に明記。「前日差」は9月24日と9月23日の比較。

主要国・地域別関税率

国・地域名相互関税率出所備考前日差
日本15%FR告示(9/9, 9/16)/CBPガイダンス9/16から実装詳細明確化。自動車・航空機・医薬等の取扱い規定、最大15%の非スタック適用変更なし
中国10%(相互関税分)CBP CSMS(8/11)/FR告示(8/14)対中相互関税は11/10まで10%延長。別枠で”オピオイド供給網”20%等が並行適用(合算で30%水準)変更なし
EU15%上限方式大統領令 Annex I(7/31)列1一般税率15%未満:差額上乗せ/15%以上:追加0%。実効15%上限で運用変更なし
カナダ相互関税対象外別枠の対カナダ関税:35%(USMCA適用品免除、エネルギー・カリ肥料10%)。7/31発表・8/1発効変更なし
メキシコ相互関税対象外別枠の対メキシコ関税:25%(USMCA適用品免除)。2/1以降のEOと3/6実装告示変更なし

アジア太平洋地域

国名相互関税率備考前日差
インドネシア19%米・インドネシア合意(7/22発表)に基づく変更なし
インド25%9/18時点で引下げ観測報道(10-15%)も現行25%維持変更なし
韓国15%日本との差を問題視する報道あり、率は未変更変更なし
フィリピン19%交渉継続報道あり(率は現行19%維持)変更なし
ベトナム20%影響に関する直近報道あり(率は現行20%)変更なし
タイ19%変更なし
マレーシア19%変更なし
ブルネイ25%変更なし
カンボジア19%変更なし
ラオス40%変更なし
ミャンマー40%変更なし
バングラデシュ20%変更なし
パキスタン19%変更なし
スリランカ20%変更なし
台湾20%変更なし

中東・アフリカ地域

国名相互関税率前日差
イスラエル15%変更なし
ヨルダン15%変更なし
イラク35%変更なし
シリア41%変更なし
南アフリカ30%変更なし
ナイジェリア15%変更なし
アルジェリア30%変更なし
リビア30%変更なし
チュニジア25%変更なし

ヨーロッパ地域

国名相互関税率前日差
スイス39%変更なし
ノルウェー15%変更なし
リヒテンシュタイン15%変更なし
ボスニア・ヘルツェゴビナ30%変更なし
北マケドニア15%変更なし
セルビア35%変更なし
モルドバ25%変更なし

その他地域

国名相互関税率前日差
ブラジル10%変更なし
ベネズエラ15%変更なし
カザフスタン25%変更なし
フィジー15%変更なし
フォークランド諸島10%変更なし
その他アフリカ諸国15%アンゴラ、ボツワナ、カメルーン、チャド、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガイアナ、レソト、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、ナウル、ザンビア、ジンバブエ

重要な注記事項

トランシップメント規制:相互関税回避の迂回輸出と認定された場合、追加40%(HTS 9903.02.01)のペナルティが適用される可能性があります 。

他制度との関係:相互関税は他の関税制度(対中”オピオイド”20%、232条鉄鋼・アルミ、セクター別上乗せ等)と別建てです。日本については”相互関税は最大15%でスタックしない”等の非累積規定が明確化されています 。

前日(9/23)からの変更:上記各国について公的更新による相互関税率の変更は確認されていません 。

主要出所

  • 国別レート基準:大統領令(2025年7月31日)”Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates” Annex I
  • 日本:連邦官報(9/9・9/16公示、9/16適用)/CBPガイダンス(9/15)
  • 中国:CBP CSMS(8/11)・連邦官報(8/14)により10%を11/10まで延長確認
  • カナダ:ホワイトハウス大統領令(7/31)による別枠35%関税
  • メキシコ:国境関連別枠関税25%(2/1のEO、3/6実装告示)

2025年9月17日時点で公表・報道されている「相互関税」最新一覧

  1. 一次情報(米国ホワイトハウス/Federal Register/CBP)を最優先に収集。
  2. 2025年7月31日付の大統領令(EO 14326)Annex I(国別最新レート)を基礎に作表。
  3. 例外国(EU・日本・中国・カナダ・メキシコ)は、その後のEO・CBP通達・主要通信社報道で上書き。

注:以下は**米国が対米輸入に課す「相互関税(Reciprocal Tariffs)」**の最新公表・報道ベースの一覧です。品目別の別建て関税(例:Section 232の鉄鋼・アルミ・自動車・銅など)は本欄の「相互関税」レートとは別枠です。

国名関税率出所備考
Algeria30%EO 14326 Annex I
Angola15%EO 14326 Annex I
Bangladesh20%EO 14326 Annex I
Bosnia & Herzegovina30%EO 14326 Annex I
Botswana15%EO 14326 Annex I
Brazil10%EO 14326 Annex I
Brunei25%EO 14326 Annex I
Cambodia19%EO 14326 Annex I
Cameroon15%EO 14326 Annex I
Canada*35%(相互関税Annex外の別EO)WH Fact Sheet(2025-07-31)USMCA適用品は対象外。相互関税ではなくIEEPAベースのカナダ措置。
Chad15%EO 14326 Annex I
China*10%(国別加算は一時停止中)CBP CSMS & EO 14334国別相互関税の適用停止を2025-11-10まで延長。運用は当面10%相互関税。
Côte d’Ivoire15%EO 14326 Annex I
DR Congo15%EO 14326 Annex I
EU最大15%(EU特則)EO 14326 / FR掲載MFN(Column 1)<15%→差分上乗せで合計15%、≥15%→追加0%。
Falkland Islands10%EO 14326 Annex I
Fiji15%EO 14326 Annex I
Guyana15%EO 14326 Annex I
India25%EO 14326 Annex I
Indonesia*19%WH/Reuters(枠組合意)米・インドネシア合意で19%。一部品目(パーム油・カカオ・ゴム等)免除協議の報道あり。
Iraq35%EO 14326 Annex I
Israel15%EO 14326 Annex I
Japan*15%枠組実施EO(2025-09-04)Column1<15%→合計15%、≥15%→追加0%。航空機・汎用医薬品・未産出天然資源等は0%可。自動車・部品の232も15%上限に調整。
Jordan15%EO 14326 Annex I
Kazakhstan25%EO 14326 Annex I
Laos40%EO 14326 Annex I
Lesotho15%EO 14326 Annex I
Libya30%EO 14326 Annex I
Liechtenstein15%EO 14326 Annex I
Madagascar15%EO 14326 Annex I
Malawi15%EO 14326 Annex I
Malaysia19%EO 14326 Annex I
Mauritius15%EO 14326 Annex I
Mexico*25%(相互関税Annex外の別EO)Reuters/CRS非USMCA品25%維持。30%引上げは90日停止中(7/31発表→概ね10月末まで)。自動車25%、鉄・アルミ・銅50%は別枠継続。
Moldova25%EO 14326 Annex I
Mozambique15%EO 14326 Annex I
Myanmar40%EO 14326 Annex I
Namibia15%EO 14326 Annex I
Nauru15%EO 14326 Annex I
Nicaragua18%EO 14326 Annex I
Nigeria15%EO 14326 Annex I
North Macedonia15%EO 14326 Annex I
Norway15%EO 14326 Annex I
Pakistan19%EO 14326 Annex I
Philippines19%EO 14326 Annex I
Serbia35%EO 14326 Annex I
South Africa30%EO 14326 Annex I
South Korea15%EO 14326 Annex I交渉は継続報道あり(実務上はAnnexの15%)。
Sri Lanka20%EO 14326 Annex I
Switzerland39%EO 14326 Annex I
Syria41%EO 14326 Annex I
Taiwan20%EO 14326 Annex I
Thailand19%EO 14326 Annex I
Tunisia25%EO 14326 Annex I
Vanuatu15%EO 14326 Annex I
Venezuela15%EO 14326 Annex I
Vietnam20%EO 14326 Annex I
Zambia15%EO 14326 Annex I
Zimbabwe15%EO 14326 Annex I

出典(要点)

  • 国別レートの基礎(最新):2025年7月31日付 大統領令 EO 14326「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」Annex I(国・地域別レート一覧)。ホワイトハウス公表文書に明記。 The White House
  • EUの特則(15%キャップ方式):EO 14326の条文(FR掲載)で、Column 1(HTSUS General)に基づく**<15%は15%に、≥15%は追加0%**が明記。 Federal Register
  • 中国:国別相互関税の適用停止を11月10日まで延長EO 14334、2025年8月14日)。CBP通達(CSMS)では運用上**10%**の相互関税を案内。 Federal RegisterGovDelivery
  • 日本:2025年9月4日付の実施EO「Implementing the United States–Japan Agreement」。15%トップアップ方式と**航空機・汎用医薬品・未産出天然資源等の0%**化権限を規定(自動車の232も15%上限へ)。 The White House
  • カナダ:相互関税Annex外。IEEPAベースで35%へ引上げ(2025年8月1日発効)。USMCA適用品は対象外。ホワイトハウスFact Sheetより。 The White House
  • メキシコ:相互関税Annex外。非USMCA品25%維持30%引上げは90日停止(2025年7月31日発表)。主要報道(Reuters)とCRSの時系列資料。 ReutersCongress.gov
  • インドネシア:**19%**で枠組合意(White House/Reuters)。一部品目の免除協議報道あり。 The White HouseReuters+1

補足

  • 本表の「関税率」は**相互関税(Reciprocal Tariffs)**の国別上乗せ率の最新公表値です。**別枠の品目別関税(Section 232 など)**は「備考」で必要に応じ触れていますが、品目ごとに加算・非加算が異なります。
  • 実務適用はHTSUSのColumn 1 Duty Rateや発効・経過措置(船積み猶予)に依存します(Annex/FR本文参照)。通関前の最終確認を推奨します。 The White House

相互関税 最新一覧(2025-09-10時点)

対象:米国の「相互関税(Reciprocal Tariff)」に関する、公表・報道ベースの最新国別レート。原則として 2025-07-31 公表の大統領令(Annex I)を基準に、日・EU・中国・加墨などの後続発表を注記。

凡例

  • 関税率(相互関税)=米国が当該国・地域原産品に課す追加関税(HTS 99章の相互関税)。
  • 出所=主要根拠(簡略表記)。
  • 備考=相互関税以外の別枠関税(232鉄鋼・アルミ、銅、自動車、薬物・国境関連など)がある場合は注記。詳細は本体チャットの脚注・出典参照。

国名関税率(相互関税)出所備考
Algeria(アルジェリア)30%WH EO 2025-07-31 Annex I
Angola(アンゴラ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Bangladesh(バングラデシュ)20%WH EO 2025-07-31 Annex I
Bosnia & Herzegovina(ボスニア・ヘルツェゴビナ)30%WH EO 2025-07-31 Annex I
Botswana(ボツワナ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Brazil(ブラジル)10%WH EO 2025-07-31 Annex I別枠:対ブラジル追加関税の大統領令(2025-07-30)あり(相互関税とは別)。
Brunei(ブルネイ)25%WH EO 2025-07-31 Annex I
Cambodia(カンボジア)19%WH EO 2025-07-31 Annex I
Cameroon(カメルーン)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Canada(カナダ)*10%(ベースライン)WH EO 2025-07-31 Sec.2(d)USMCA適格は追加関税免除(CBP 2025-03-08)。別枠で対加措置(35%)の大統領令あり。
Chad(チャド)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
China(中国)*10%(暫定)WH EO 2025-08-11(中国一時停止延長)2025-11-10まで高率の停止延長。低額輸入・フェンタニル関連等は別枠措置あり。
Côte d’Ivoire(コートジボワール)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
DR Congo(コンゴ民主共和国)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
EU(欧州連合)15%(MFNと合算し上限15%)WH EO 2025-07-31 Sec.2(c) / WH 共同声明 2025-08-21一部品目は相互関税免除(コルク、航空機、ジェネリック等)。
Falkland Islands(フォークランド諸島)10%WH EO 2025-07-31 Annex I
Fiji(フィジー)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Guyana(ガイアナ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
India(インド)25%WH EO 2025-07-31 Annex I別枠:追加25%(2025-08-06)が上乗せの大統領令あり(相互関税とは別)。
Indonesia(インドネシア)*19%WH EO 2025-07-31 Annex I / WH Fact Sheet 2025-07-22米・インドネシア合意で19%に明示。
Iraq(イラク)35%WH EO 2025-07-31 Annex I
Israel(イスラエル)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Japan(日本)*15%(MFNと合算し上限15%)WH EO 2025-09-04(対日合意の実施)自動車・同部品などセクター別取扱いも同令で規定。
Jordan(ヨルダン)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Kazakhstan(カザフスタン)25%WH EO 2025-07-31 Annex I
Laos(ラオス)40%WH EO 2025-07-31 Annex I
Lesotho(レソト)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Libya(リビア)30%WH EO 2025-07-31 Annex I
Liechtenstein(リヒテンシュタイン)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Madagascar(マダガスカル)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Malawi(マラウイ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Malaysia(マレーシア)19%WH EO 2025-07-31 Annex I
Mauritius(モーリシャス)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Mexico(メキシコ)*10%(ベースライン)WH EO 2025-07-31 Sec.2(d)USMCA適格は追加関税免除(CBP 2025-03-08)。別枠で対墨25%措置(2025-02-01)あり。
Moldova(モルドバ)25%WH EO 2025-07-31 Annex I
Mozambique(モザンビーク)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Myanmar(ミャンマー)40%WH EO 2025-07-31 Annex I
Namibia(ナミビア)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Nauru(ナウル)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Nicaragua(ニカラグア)18%WH EO 2025-07-31 Annex I
Nigeria(ナイジェリア)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
North Macedonia(北マケドニア)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Norway(ノルウェー)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Pakistan(パキスタン)19%WH EO 2025-07-31 Annex I
Philippines(フィリピン)19%WH EO 2025-07-31 Annex I
Serbia(セルビア)35%WH EO 2025-07-31 Annex I
South Africa(南アフリカ)30%WH EO 2025-07-31 Annex I
South Korea(韓国)15%WH EO 2025-07-31 Annex I自動車の232等は別枠。
Sri Lanka(スリランカ)20%WH EO 2025-07-31 Annex I
Switzerland(スイス)39%WH EO 2025-07-31 Annex I
Syria(シリア)41%WH EO 2025-07-31 Annex I
Taiwan(台湾)20%WH EO 2025-07-31 Annex I
Thailand(タイ)19%WH EO 2025-07-31 Annex I
Tunisia(チュニジア)25%WH EO 2025-07-31 Annex I
Vanuatu(バヌアツ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Venezuela(ベネズエラ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I別枠:ベネズエラ産原油輸入国への対抗関税制度あり。
Vietnam(ベトナム)20%WH EO 2025-07-31 Annex I
Zambia(ザンビア)15%WH EO 2025-07-31 Annex I
Zimbabwe(ジンバブエ)15%WH EO 2025-07-31 Annex I

注記

  • EU・日本:MFN(一般税率)と相互関税の合算が 15% になる設計(MFNが15%以上の品目は相互関税0%)。
  • 中国:相互関税の高率(125%等)は一時停止中で 10% に減免(~2025-11-10予定)。
  • カナダ・メキシコ:Annex I非掲載につき原則ベースライン10%。USMCA原産資格を満たす場合は追加関税免除(相互関税の適用外)。
  • 「別枠」:相互関税とは別に、鉄鋼・アルミ・銅、車、対ロシア・対ベネズエラ・薬物(フェンタニル)関連など独立の大統領令・布告が適用される場合がある。

2025年9月9日時点で公表・報道されている「相互関税」最新一覧

基本は 2025年7月31日付の大統領令(Annex I)の「国別率」。Annex Iに載っていない国は既定で10%。EUは特則(下記)。中国は時限的に10%を延長中

国名関税率出所備考
Algeria30%White House EO(2025/07/31)Annex I
Angola15%同上
Bangladesh20%同上
Bosnia & Herzegovina30%同上
Botswana15%同上
Brazil10%同上
Brunei25%同上
Cambodia19%同上
Cameroon15%同上
Canada*10%White House EO(2025/07/31)本文§2(d)/KPMG速報Annex I未掲載国の既定率。USMCAの個別品目優遇は別枠。
Chad15%White House EO(2025/07/31)Annex I
China*10%(~2025/11/10まで延長中)White House EO(2025/05/12, 2025/08/11)対中は時限的に10%へ減額・延長。他の対中関税(301/232/フェンタニル等)は別枠。
Côte d’Ivoire15%White House EO(2025/07/31)Annex I
DR Congo15%同上
EU特則White House EO(2025/07/31)本文§2(c)「MFN(HTSUS Column1)が15%未満の品目は15%に届くまで上乗せ、15%以上の品目は追加0%
Falkland Islands10%White House EO(2025/07/31)Annex I
Fiji15%同上
Guyana15%同上
India25%同上
Indonesia*19%同上7月時点の高率案から最終EOで19%に修正。
Iraq35%同上
Israel15%同上
Japan*15%White House EO(2025/07/31)Annex I/JETRO(2025/09/05)日米合意で15%に確定。8/7以降遡及適用・過払いは還付手続き。
Jordan15%White House EO(2025/07/31)Annex I
Kazakhstan25%同上
Laos40%同上
Lesotho15%同上
Libya30%同上
Liechtenstein15%同上
Madagascar15%同上
Malawi15%同上
Malaysia19%同上
Mauritius15%同上
Mexico*10%White House EO(2025/07/31)本文§2(d)/KPMG速報Annex I未掲載国の既定率。USMCAの個別条件は別枠。
Moldova25%White House EO(2025/07/31)Annex I
Mozambique15%同上
Myanmar40%同上
Namibia15%同上
Nauru15%同上
Nicaragua18%同上
Nigeria15%同上
North Macedonia15%同上
Norway15%同上
Pakistan19%同上
Philippines19%同上
Serbia35%同上
South Africa30%同上
South Korea15%同上
Sri Lanka20%同上
Switzerland39%同上
Syria41%同上
Taiwan20%同上
Thailand19%同上
Tunisia25%同上
Vanuatu15%同上
Venezuela15%同上
Vietnam20%同上
Zambia15%同上
Zimbabwe15%同上

確認・注記(根拠)

  • 一次情報(大半の国とEU特則・既定10%の規定):2025年7月31日付のホワイトハウス大統領令「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」。Annex Iに国別率、本文§2(c)にEU特則、§2(d)に**Annex未掲載国は10%**が明記。
  • 日本(15%)と遡及・還付:JETROの解説(9月5日)で、日米合意の履行・相互関税15%8/7に遡及適用過払い還付が整理。
  • 発動日(8/7)と全体状況:8月上旬の主要報道(ロイター等)も、同日付で新税率発動を確認。
  • カナダ/メキシコ(Annex未掲載=10%):上記EOの§2(d)に加え、複数の実務速報(KPMGほか)が**Annex未掲載国=10%**を明記。
  • 中国(時限的10%の延長):2025/05/12の対中特例EOと2025/08/11の延長発表により、**2025/11/10まで10%**が継続。実務アドバイザリでも同旨確認。

重要:上記は**「相互関税(国別上乗せ)」のみの一覧です。鉄鋼・アルミ(232条)、対中301条、フェンタニル関連関税、品目別の追加関税等は別枠**で維持されうるため、実効税率は品目・原産地・法的根拠の組み合わせで変わります(日本についても「相互関税は他の品目別の追加関税に上乗せしない」整理がJETROで明記)。実務ではHTSコードごとの判定と併せて確認してください。


補足(ざっくり要点)

  • 原則:Annex Iに書かれた国はその率、Annex未掲載は10%
  • EU品目別のMFNに応じて「15%へ補填 or 0%」。
  • 中国は協議継続に伴い10%へ一時的減額2025/11/10まで延長
  • 日本は合意で**15%**に決着、8/7適用品の還付あり。

2025年9月8日時点で公表・報道されている「相互関税」最新一覧

  1. 一次情報(米国ホワイトハウス/Federal Register/CBP)を最優先に収集。
  2. 2025年7月31日付の大統領令(EO 14326)Annex I(国別最新レート)を基礎に作表。
  3. 例外国(EU・日本・中国・カナダ・メキシコ)は、その後のEO・CBP通達・主要通信社報道で上書き。

注:以下は**米国が対米輸入に課す「相互関税(Reciprocal Tariffs)」**の最新公表・報道ベースの一覧です。品目別の別建て関税(例:Section 232の鉄鋼・アルミ・自動車・銅など)は本欄の「相互関税」レートとは別枠です。

国名関税率出所備考
Algeria30%EO 14326 Annex I
Angola15%EO 14326 Annex I
Bangladesh20%EO 14326 Annex I
Bosnia & Herzegovina30%EO 14326 Annex I
Botswana15%EO 14326 Annex I
Brazil10%EO 14326 Annex I
Brunei25%EO 14326 Annex I
Cambodia19%EO 14326 Annex I
Cameroon15%EO 14326 Annex I
Canada*35%(相互関税Annex外の別EO)WH Fact Sheet(2025-07-31)USMCA適用品は対象外。相互関税ではなくIEEPAベースのカナダ措置。
Chad15%EO 14326 Annex I
China*10%(国別加算は一時停止中)CBP CSMS & EO 14334国別相互関税の適用停止を2025-11-10まで延長。運用は当面10%相互関税。
Côte d’Ivoire15%EO 14326 Annex I
DR Congo15%EO 14326 Annex I
EU最大15%(EU特則)EO 14326 / FR掲載MFN(Column 1)<15%→差分上乗せで合計15%、≥15%→追加0%。
Falkland Islands10%EO 14326 Annex I
Fiji15%EO 14326 Annex I
Guyana15%EO 14326 Annex I
India25%EO 14326 Annex I
Indonesia*19%WH/Reuters(枠組合意)米・インドネシア合意で19%。一部品目(パーム油・カカオ・ゴム等)免除協議の報道あり。
Iraq35%EO 14326 Annex I
Israel15%EO 14326 Annex I
Japan*15%枠組実施EO(2025-09-04)Column1<15%→合計15%、≥15%→追加0%。航空機・汎用医薬品・未産出天然資源等は0%可。自動車・部品の232も15%上限に調整。
Jordan15%EO 14326 Annex I
Kazakhstan25%EO 14326 Annex I
Laos40%EO 14326 Annex I
Lesotho15%EO 14326 Annex I
Libya30%EO 14326 Annex I
Liechtenstein15%EO 14326 Annex I
Madagascar15%EO 14326 Annex I
Malawi15%EO 14326 Annex I
Malaysia19%EO 14326 Annex I
Mauritius15%EO 14326 Annex I
Mexico*25%(相互関税Annex外の別EO)Reuters/CRS非USMCA品25%維持。30%引上げは90日停止中(7/31発表→概ね10月末まで)。自動車25%、鉄・アルミ・銅50%は別枠継続。
Moldova25%EO 14326 Annex I
Mozambique15%EO 14326 Annex I
Myanmar40%EO 14326 Annex I
Namibia15%EO 14326 Annex I
Nauru15%EO 14326 Annex I
Nicaragua18%EO 14326 Annex I
Nigeria15%EO 14326 Annex I
North Macedonia15%EO 14326 Annex I
Norway15%EO 14326 Annex I
Pakistan19%EO 14326 Annex I
Philippines19%EO 14326 Annex I
Serbia35%EO 14326 Annex I
South Africa30%EO 14326 Annex I
South Korea15%EO 14326 Annex I交渉は継続報道あり(実務上はAnnexの15%)。
Sri Lanka20%EO 14326 Annex I
Switzerland39%EO 14326 Annex I
Syria41%EO 14326 Annex I
Taiwan20%EO 14326 Annex I
Thailand19%EO 14326 Annex I
Tunisia25%EO 14326 Annex I
Vanuatu15%EO 14326 Annex I
Venezuela15%EO 14326 Annex I
Vietnam20%EO 14326 Annex I
Zambia15%EO 14326 Annex I
Zimbabwe15%EO 14326 Annex I

出典(要点)

  • 国別レートの基礎(最新):2025年7月31日付 大統領令 EO 14326「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」Annex I(国・地域別レート一覧)。ホワイトハウス公表文書に明記。 The White House
  • EUの特則(15%キャップ方式):EO 14326の条文(FR掲載)で、Column 1(HTSUS General)に基づく**<15%は15%に、≥15%は追加0%**が明記。 Federal Register
  • 中国:国別相互関税の適用停止を11月10日まで延長EO 14334、2025年8月14日)。CBP通達(CSMS)では運用上**10%**の相互関税を案内。 Federal RegisterGovDelivery
  • 日本:2025年9月4日付の実施EO「Implementing the United States–Japan Agreement」。15%トップアップ方式と**航空機・汎用医薬品・未産出天然資源等の0%**化権限を規定(自動車の232も15%上限へ)。 The White House
  • カナダ:相互関税Annex外。IEEPAベースで35%へ引上げ(2025年8月1日発効)。USMCA適用品は対象外。ホワイトハウスFact Sheetより。 The White House
  • メキシコ:相互関税Annex外。非USMCA品25%維持30%引上げは90日停止(2025年7月31日発表)。主要報道(Reuters)とCRSの時系列資料。 ReutersCongress.gov
  • インドネシア:**19%**で枠組合意(White House/Reuters)。一部品目の免除協議報道あり。 The White HouseReuters+1

補足

  • 本表の「関税率」は**相互関税(Reciprocal Tariffs)**の国別上乗せ率の最新公表値です。**別枠の品目別関税(Section 232 など)**は「備考」で必要に応じ触れていますが、品目ごとに加算・非加算が異なります。
  • 実務適用はHTSUSのColumn 1 Duty Rateや発効・経過措置(船積み猶予)に依存します(Annex/FR本文参照)。通関前の最終確認を推奨します。 The White House

アメリカの大統領令による「貿易協定締結国に一部関税免除 金など45品目」内容は?

大統領令は「Modifying The Scope of Reciprocal Tariffs and Establishing Procedures for Implementing Trade and Security Agreements」です。

何を定めた命令か

  • 4/2のEO 14257で導入した「相互関税(reciprocal tariff)」の適用除外リスト(Annex II)を更新し、同時にHTSUSの技術的改定(Annex I)を指示。署名から**3日後=9/8(米東部)**に発効します。The White House
  • さらに、他国と結ぶ**「貿易・安全保障の枠組み合意/最終合意」を実装するための手順(セクション3〜6)**を整備。例としてEUとの枠組みを挙げ、「条件を満たせば特定品目の相互関税を0%に下げ得る」と明記しています。The White House
  • 大統領は「Aligned Partners向け潜在的関税調整(PTAAP)」の付属書を設け、米国で産出が乏しい天然資源、一定の農産品、航空機・同部品、特許非存続の医薬系品目などを“0%対象候補”として列挙しました(個別合意の内容次第で国ごとに異なる可能性)。The White House+1

Annexの中身(代表例)

  • Annex I(HTS改定)には、相互関税の扱いを調整する品目として金(7108.11/12.50/13.10/13.55/13.70/20)ニッケル関連(7501〜7504、7202.60)天然黒鉛(2504.10.*)LED素子(8541.41.00)等のHTSが追加。逆にアルミン酸塩(2818.30.00)や一部樹脂類(3907.*)、**シリコーン(3910.00.00)**などは除外リストから削除されています。The White House
  • Annex II(適用除外の更新版)・**Annex III(PTAAP)**はPDFで公表されています。The White House

「日米物品協定」は入るのか?

  • この9/5の命令そのものは、既存の2019年の「日米物品貿易協定(USJTA)」を名指ししていません。本命令は“包括的な実装の仕組み”と“品目候補(PTAAP)”を示した総則です。The White House
  • ただし日本は前日(9/4)の別個の大統領令「Implementing The United States–Japan Agreement」で個別実装されています。そこでは、日本からの輸入に原則15%のベース関税を適用しつつ、自動車・航空機などを別建てで扱い、天然資源や後発医薬品等は相互関税0%にできる権限を商務長官に委任――といった具体が規定されています(自動車等の取扱いや遡及適用日も明記)。The White House
  • まとめると、2019年のUSJTAそのものが「9/5命令」に自動的に内包されるわけではなく、2025年に新たに合意された「米日合意」は9/4命令で実装、9/5命令はその実装を可能にする共通フレーム+対象候補品目を提示した位置付けです。The White House+1

日本に対する相互関税のアメリカの大統領令

公式本文(英語・全文)

  • Executive Order: “IMPLEMENTING THE UNITED STATES–JAPAN AGREEMENT”(署名日:2025年9月4日)— ホワイトハウス公式サイトに全文が公開されています。The White House
  • 本命令は、7月31日付の大統領令14326(「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」)を参照しつつ、日本向けの取扱い(“15%ベースライン”や複合税の扱い等)を明確化しています。The White House
  • 併せてホワイトハウスのファクトシート(2025年9月5日)も、枠組み合意の実施として位置づけています。The White House

※ 原文全文は上記リンクからお読みいただけます(この場では全文貼付を避け、主要部分の正確な抄訳を以下に示します)。


要点

  • 日本からの輸入品に対し、HTSUS「欄1(Column 1)」の従価税率が
    15%未満:欄1税率+追加関税の合計が15%になるよう調整
    15%以上:追加関税は0%(上乗せなし)
    → 相互関税の“積み上げ(スタッキング)”を避ける明確ルール。複合税(specific/compound)の扱いはEUと同様
    (令14326参照)。The White House+1
  • 遡及適用2025年8月7日 午前0時1分(米東部夏時間)以降に輸入通関(または保税蔵置から引取り)された日本産品に適用。過払があれば返金The White House
  • 自動車・自動車部品:Section 232(自動車関連の宣言)による追加関税に代えて、上記15%基準で扱う。The White House
  • 航空宇宙(民間航空機協定対象、無人機除く):既存のアルミ・鉄鋼・銅・相互関税の対象外へ移行(官報告示によりHTSUSを改正)。The White House
  • 特定品目の0%化:米国内で供給困難な天然資源ジェネリック医薬品(原薬・化学前駆体含む)は、商務長官の裁量で**相互関税を0%**にできる。The White House
  • 履行監視と変更:日本が合意履行を怠った場合、命令の見直し・強化もあり得る。The White House

主要条文の参考訳

※ 法的効力は英語原文が優先です。条番号は原文に準拠。

Sec. 1(背景)
2025年7月22日の米日フレームワーク合意を受け、その実施として本命令を発出。対日15%ベースライン関税を導入し、米国の製造・安全保障上の必要を満たす。日本側からの米国内5,500億ドル投資等のコミットメントにも触れる。The White House

Sec. 2(一般関税)
(a) 日本産品に適用する追加従価税率は、HTSUS欄1の現行税率を基準に決定。欄1が15%未満なら「欄1+追加=15%」。15%以上なら追加は0%特定税・複合税の処理は令14326(EU扱い)と同様
(b) これ以外は、令14257(相互関税の基本令)の規定が継続。
(d) 適用は2025/8/7 0:01(EDT)に遡及、過払返金は関係法令・CBP手続に従う。The White House

Sec. 3(航空宇宙)
WTO民間航空機協定に該当する**日本産航空宇宙製品(無人機を除く)**には、令14257鉄鋼・アルミの大統領宣言(9704/9705)銅(10962)による関税を適用しない。官報告示でHTSUSを改正。The White House

Sec. 4(自動車・部品)
官報告示の効力発生日以降、自動車・部品については、**宣言10908(Section 232自動車)**の追加関税に代えて、欄1が15%未満なら合計15%、15%以上なら追加0%The White House

Sec. 5(相互関税の適用除外品目)
商務長官は、日本産の国内供給が不足する天然資源ジェネリック医薬品・原薬・化学前駆体について、**相互関税率を0%**に改める裁量を持つ(合意履行状況や米国の国益等を考慮)。The White House

Sec. 6(監視と修正)
日本のコミットメント履行を商務長官が継続監視。履行不十分の場合は、本命令の修正等で対応し得る。The White House

Sec. 7–9(権限委任・他令との関係・一般規定)
実施のための規則改正・官報告示等を商務長官・国土安全保障長官に委任。既存の宣言・大統領令と矛盾する部分は本命令が優先。本命令は権利発生を意図しない一般条項を含む。署名は2025年9月4日The White House


関連する前提令(参照条項)

  • Executive Order 14326(2025年7月31日):EU向けの**「15%ベースライン/15%以上は追加0%」のロジックや、複合税の取扱いを定めた命令。今回の対日取扱いでも同一ロジック**を適用すると明記。The White House

国名関税率出所備考
アメリカ15%(対日ベースライン:欄1が15%未満は合計15%、15%以上は追加0%。自動車・部品も同基準/民間航空機は除外The White House(Executive Order, 2025/9/4)適用起点:2025/8/7(EDT)に遡及。一部品目は0%化可(資源・ジェネリック)。

出所:実施令「Implementing the United States–Japan Agreement」(2025年9月4日)、および令14326(2025年7月31日)。The White House+1


参考報道

  • ホワイトハウスのファクトシート(合意の位置づけと概要)。The White House

【経営者向け】米国・相互関税 対応策案

計画(Plan)

  1. 現状把握(ブリーフィング): 相互関税の仕組み、最新の大統領令、例外規定、そして法的な不確実性を整理します。
  2. 主要論点の特定: 国別の税率差や関税率の変動要因を踏まえ、サプライチェーン設計、通関価格の最適化(ファーストセール)、他の関税措置との関係性など、日本企業特有の論点を明確にします。
  3. 短期対策(30/60/90日): 品目(SKU)別の影響分析から始め、通関実務の最適化、バリューチェーン全体でのコスト削減と資金繰り改善策を迅速に実行します。
  4. 中長期戦略: 生産ラインの再編、関税変動に強い原産国ポートフォリオの構築、さらにインドをハブとした第三国FTA網(対英・UAE・豪など)を活用したグローバルな販路拡大を目指します。
  5. ガバナンスとオペレーション: 関税コストを経営指標に組み込み、社内の責任体制を明確化。税関監査リスクに耐えうる文書管理体制を構築します。
  6. 実務チェックリスト: 通関、価格設定、物流、契約の各分野における具体的な見直しポイントをリスト化します。
  7. 付録: 国別の相互関税率一覧(2025年9月時点)と、具体的なHSコードの取り扱いに関する参考情報を提供します。

1. ブリーフィング:相互関税の基礎知識

1-1. 制度の枠組み(要点)

  • 法的根拠と基本構造: 2025年4月以降、米政権はIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に、**「全世界一律10%のベースライン関税」と、「国別の追加関税」**を導入しました(EO 14257等)。国別税率は米国の外交方針(報復・同盟関係)に応じて調整されます。
  • 国別税率の確定: 7月31日の大統領令(Annex II)により、国別の追加関税率と、それを規定するHSコード(HTSUS 9903.02.xx)が確定しました。
    • : 日本 +15%、韓国 +15%、台湾 +20%、ベトナム +20%、英国 +10% 等。
  • EUへの特例: EU原産品には**「通常関税率(列1)+追加関税率=合計15%」**となるよう税率を調整する特例が適用されます(通常関税率が15%以上の場合は追加関税はゼロ)。
  • 中国の扱い: 複雑な調整を経て、現在は「全世界一律10%」のベースライン関税が適用されています(2025年11月10日まで延長)。ただし、別途301条関税が課される可能性があります。
  • USMCA(カナダ・メキシコ): 域内原産品は相互関税の対象外です。
  • 他の関税との関係:
    • 232条関税(鉄鋼・アルミ等): 対象品目は相互関税の対象外です(非重畳)。
    • 301条関税(対中制裁等): 相互関税と重畳して課される可能性があります。
  • 迂回輸送への罰則: 第三国を経由した迂回輸送と認定された場合、+40%という極めて高い罰則的関税が課されます。
  • 米国原産20%ルール: 製品価額の20%以上が米国原産の場合、その米国原産部分には相互関税が課されません。申告時には、米国原産部分と非米国原産部分を分けて計上する必要があります。
  • 輸送中の貨物(In-transit)への例外: 関税率の変更日をまたぐ海上輸送中の貨物に限り、一定の条件下で旧税率の適用が認められます(航空・陸上輸送は対象外)。

1-2. 法的リスク(2025年9月時点の状況)

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、IEEPAを根拠とする本関税の合法性に疑義を呈する判断を示しました。しかし、2025年10月14日までその判断の執行を停止しているため、現行の関税は当面維持されます。政権は最高裁に上告する構えであり、最終的な司法判断によっては関税が無効となり、過去に支払った関税が還付される可能性があります。 ⇒ 企業は「関税は継続する」前提で事業を運営しつつ、将来の還付に備えて支払証憑を完璧に保全し、契約書に価格精算条項を設けるという両睨みの対応が必須です。

2. 日本企業にとっての主要論点

  • 原産国ごとの税率差を活かした設計: 同じ製品でも、原産国によって「日本+15%」「ベトナム+20%」「英国+10%」など税率が大きく異なります。製品の設計・開発段階から、最適な原産国・工程配分を組み込んだ**「最適原産国マトリクス」**の作成が重要です。
  • 変動リスクに強いサプライチェーン: 関税率は米国の外交方針(報復・同盟)で短期的に変動します。このリスクに対応するため、**複数の原産国や輸送ルートを持つ「複線型サプライチェーン」**を標準装備する必要があります。
  • 通関価格の最適化(ファーストセール・ルール): 多段階取引(例:製造者→商社→米国輸入者)において、最初の取引価格(製造者→商社)を課税標準として申告できる制度です。課税価格を引き下げることで、従価税である相互関税の負担額も比例して削減できます。ただし、「真正な売買」であることの厳格な証明が求められます。
  • 総関税負担の正確な把握: 総関税額は**「通常関税+301条関税+相互関税」**の合計となります(232条対象品は例外)。この計算を品目(SKU)と原産国の組み合わせごとに常時行い、コストを正確に把握する必要があります。
  • 迂回認定リスクへの備え: 40%の罰則関税を避けるため、原産地を証明する書類(部品表、工程表、原産地証明書)や物流の追跡記録を、税関監査に耐えうるレベルで保管・管理することが不可欠です。

3. 短期対策(30/60/90日プラン)

  • 【30日以内】影響の可視化と防御策
    • 全製品について「SKU×原産国×HSコード」のマトリクスを作成し、総関税負担額を算出。
    • 通関業者に対し、相互関税(EU特例、米国原産20%ルール等)の正しい申告手順を文書で指示。
    • 関税率の変更が予想される時期は、海上輸送を優先し、例外規定の適用外である航空輸送を回避。
    • 顧客・仕入先との間で、関税変動を価格に反映させる**「関税スライド条項」**を含む契約の暫定改定に着手。
    • ファーストセール・ルールの適用候補となる製品を選定し、パイロット導入を開始。
  • 【60日以内】コスト削減とリスク低減
    • 原産地の二元化(例:日本/タイ、台湾/ベトナム)に向けた切替手順書を整備。
    • EU特例が有利に働く品目(高関税率品)を特定し、EU原産品の活用ルールを策定。
    • USMCAを活用したメキシコ/カナダ生産への切り替えの採算性を評価。
  • 【90日以内】構造改革と商流の再設計
    • サプライチェーンの複線化(原産国、港、フォワーダーの二重化)を本格展開。
    • 全ての関税コストを織り込んだ恒久的な価格体系へ移行。
    • ファーストセール・ルールを本格導入し、監査に耐えうる文書管理プロセスを標準化。

4. 中長期の事業戦略

4-1. 原産国ポートフォリオの再編

  • 日本(+15%): 高付加価値品はファーストセール等でコストを吸収。量産品はUSMCA域内や他のアジア諸国での生産も検討。
  • アセアン(タイ+19%, ベトナム+20%): 複数の国で同一製品を生産できる体制を整え、関税率が相対的に有利な国へ生産を振り分ける柔軟性を確保。
  • 中国(現状10%): 対米輸出は301条関税との合計で高率になるリスクがあるため、中国拠点は「米国市場以外」向けの生産・調達ハブとして再定義。
  • インド(+25%): 対米輸出は高関税ですが、後述の通り、第三国向け輸出拠点としての価値が非常に高まっています。

4-2. インドをハブとした第三国FTA網の活用

米国の関税リスクを回避し、新たな成長市場を開拓するため、インドが締結したFTAを戦略的に活用します。

  • 印・英FTA(2025年7月署名): インドで製造・仕上げを行い、関税が大幅に引き下げられる英国市場へ販売する新たなサプライチェーンを構築。
  • 印・UAE CEPA(発効済): インドからの輸出で湾岸・中東市場へのアクセスが容易に。
  • 印・豪 ECTA(発効済): インドを起点にオセアニア市場への展開を加速。

⇒ 戦略: 米国向けで関税負担が重い製品は、インドで生産し、これらのFTAを活用して英国・UAE・豪州市場へ販売先をシフトすることで、グループ全体の売上と利益を確保します。

4-3. 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)の導入

設計、税務、オペレーションを統合し、関税コストを構造的に引き下げる取り組みです。

  • 設計段階での最適化: 原産地規則を満たす範囲で、部材調達や加工地を最適に配置。
  • HSコードの最適化: 製品の機能や構成を合法的に変更し、より有利な関税分類の適用を目指す。
  • 通関価格の適正化: ロイヤルティや技術支援費(アシスト)の扱いを事前に整理し、ファーストセール適用の障害とならない契約形態を構築。

5. ファーストセール(First Sale)実装ガイド

  • 概要: 最初の販売価格(製造者→商社)で申告することで課税対象額を圧縮する手法。
  • 3大要件: ①真正な売買(Bona Fide Sale)、②明確な米国向け販売、③独立した当事者間価格(Arm’s Length)であることの証明。
  • 実装ステップ:
    1. 取引スキーム(登場人物、役割)を固定。
    2. 契約、発注、仕様決定、価格決定のプロセスと時系列を文書で整合させる。
    3. 所有権と危険負担が製造者の出荷時点で移転することを契約書(Incoterms等)と実態で示す。
    4. 価格決定の客観的な根拠(見積書、原価計算書など)を保管。
  • 効果: 課税価格が20%下がれば、相互関税(例:+15%)の負担額も20%削減されます。

6. 実務チェックリスト(抜粋)

  • [ ] 税率確認: HSコード、原産国、相互関税(9903.02.xx)、301条/232条の適用の有無をBOM単位で確認したか。
  • [ ] EU特例: 対象品目について、通関業者に正しい計算方法を指示したか。
  • [ ] 米国原産20%: 分割申告の社内標準作業手順書(SOP)は整備されているか。
  • [ ] 輸送モード: 関税率切替時の輸送は、原則「海上」にシフトする計画があるか。
  • [ ] 法的リスク対応: 2025年10月14日以降の変動に備え、価格の精算条項と支払証憑の完全な保管体制は整っているか。

7. 付録:相互関税率の要約表(2025年9月時点)

注:下表は通常関税に「上乗せ」される追加関税率。EUのみ例外方式。

原産国追加関税率 / 方式根拠HSコード(例)備考
日本+15%9903.02.308月7日以降発効。
中国+10%9903.01.25現状はベースライン税率。別途301条関税が課される可能性あり。
EU合計15%方式9903.02.19/20通常税率が15%未満の場合、合計15%になるように追加。15%以上の場合は追加ゼロ。
英国+10%9903.02.66対英輸出は、印・英FTAの活用も有効。
韓国+15%9903.02.56
台湾+20%9903.02.60
ベトナム+20%9903.02.69
インド+25%9903.02.26対米は高率だが、第三国FTAハブとしての価値は高い。
カナダ/メキシコ対象外N/AUSMCA域内は適用除外。

最後に:経営アクションの要約

  • 短期(即時実行): まず、全製品の総関税コストを試算し、影響を可視化してください。その上で、関税変動期は海上輸送を優先し、ファーストセールのパイロット導入で迅速なコスト削減に着手します。
  • 中期(構造改革): 原産地の二重化を進め、関税変動に即応できる体制を構築します。同時に、インドをハブとする英・UAE・豪州への販路拡大で、収益源を多角化します。
  • 長期的視点(経営への組込): 関税エンジニアリング(Tariff Engineering)を製品設計に組み込み、複線型のサプライチェーンと監査に耐えうる文書管理を常態化させ、関税変動を脅威ではなく競争優位の源泉へと転換してください。

【法的留意事項】 現行関税は、司法判断により将来無効となる可能性があります。このリスクに備え、全ての輸入申告について、支払った関税額と、その根拠となる書類をエントリー単位で記録・保管し、契約書に**「関税還付時の価格精算条項」を盛り込む**ことを強く推奨します。