米議会が突きつけた「NO」。トランプ大統領のカナダ関税に対する下院決議可決の衝撃と行方

2026年2月13日 | 北米政治・通商政策

2026年2月11日水曜日、ワシントンD.C.でひとつの歴史的な採決が行われました。

米国下院は、トランプ大統領が国家非常事態権限を行使して発動したカナダに対する追加関税を「終了」させるための共同決議案を、賛成219、反対211の僅差で可決しました。

このニュースは、単なる議会手続きの一幕ではありません。ホワイトハウス主導の強硬な保護主義に対し、立法府が明確な拒絶の意思を示した分水嶺となる出来事です。本稿では、この決議が持つ政治的な意味と、北米ビジネスに及ぼす現実的な影響について解説します。

わずか「8票差」の攻防。共和党からの造反が意味するもの

今回の決議案(H.J. Res)は、下院外交委員会の重鎮である民主党のグレゴリー・ミークス議員(ニューヨーク州選出)によって提出されました。

注目すべきは、その採決結果です。

最終的な票数は賛成219票、反対211票

下院の過半数を握る共和党指導部は、トランプ大統領の政策を支持し、決議案への反対を呼びかけていました。しかし、6名の共和党議員が党議拘束を破り、民主党議員全員と共に「賛成」票を投じました。

この6名の造反は、トランプ政権の岩盤支持層と思われていた共和党内においてさえ、同盟国であるカナダへの無差別な関税攻撃に対する懸念や、地元経済への報復関税リスクに対する危機感が高まっていることを示唆しています。

今後のプロセス。上院の壁と「拒否権」の現実

下院を通過したこの決議案は、次に上院へと送られます。しかし、ここからが本当の戦いです。

1. 上院での審議

上院でも民主党は結束して賛成に回ると見られますが、過半数を確保するためには、下院以上に多くの共和党上院議員の協力が必要です。現在、一部の穏健派共和党議員は関税に批判的ですが、可決に必要な数を確保できるかは予断を許しません。

2. 大統領拒否権の発動

仮に上院でも可決された場合、決議案は大統領デスクへ送られます。CBS Newsなどの報道分析によれば、トランプ大統領はこの決議に対して拒否権(Veto)を行使することが確実視されています。

3. 拒否権を覆せるか

大統領の拒否権を覆し、決議を法として成立させるためには、上下両院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要です。今回の下院採決が「219対211」という僅差であったことを考慮すると、拒否権を覆すための「圧倒的多数」を確保することは極めて困難です。

ビジネスへの影響。関税は「継続」するが、政治リスクは変質した

この決議可決を受けて、企業の貿易担当者はどのように動くべきでしょうか。

関税は即時には止まらない 冷静に認識すべき事実は、この下院決議だけでは法的拘束力が発生しないということです。現時点でカナダ国境における関税徴収は続いており、明日の実務が変わるわけではありません。

USMCA見直しの交渉カード しかし、この決議はカナダ政府にとって強力な交渉カードとなります。「米国内にも関税反対の声が過半数ある」という事実は、現在進行中のUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し協議において、カナダ側の立場を補強します。

不確実性の長期化 議会と大統領の対立が鮮明になったことで、通商政策の先行きはより不透明になりました。企業は、関税が「大統領令で突然決まり、議会との対立で長引く」という不安定な環境が、2026年中は続くと想定しておく必要があります。

まとめ

2月11日の下院決議は、関税撤廃に向けた決定打ではありませんが、ワシントンの空気が変わりつつあることを告げる警鐘です。

6人の共和党議員が投じた一票は、経済合理性を無視した関税政策には身内からもNOが突きつけられるという、政権への痛烈なメッセージとなりました。ビジネスリーダーは、この政治的な亀裂が今後の政策変更にどうつながるか、上院の動向を注視し続ける必要があります。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

中国の24FTA活用で関税ゼロを実現する:日本企業が知るべき実務戦略


中国は2026年も、31の国・地域と締結した24の自由貿易協定(FTA)に基づく協定税率を継続適用しています。この協定ネットワークによる貿易額は、中国の貨物貿易総額の45%を占めるまでに拡大しており、グローバルに展開する日本企業にとって、戦略的に活用すべき重要な制度インフラとなっています。news.livedoor+1

本記事では、中国のFTA戦略の全貌、協定税率の仕組み、そして日本企業が具体的にどう活用すればコスト競争力を高められるのかについて、実務に直結する視点から詳しく解説します。

中国のFTA戦略が生み出す巨大な経済圏

世界貿易の45%をカバーする協定ネットワーク

2026年1月時点で、中国は31の国・地域と24の自由貿易協定を締結しています。国務院報道弁公室が2025年の貿易活動状況について開いた記者会見では、自由貿易パートナーとの貨物貿易額が中国の貨物貿易総額に占める割合が45%に達していることが明らかにされました。recordchina+1

この数字は、中国にとってFTA活用が例外的な特例措置ではなく、通常のビジネスプロセスに組み込まれた標準的な貿易手法となっていることを意味します。日本企業が中国市場で競争力を維持するには、この協定ネットワークを理解し、積極的に活用することが不可欠です。

34の貿易パートナーとの多層的な関係

中国が締結している24のFTAは、34の貿易パートナーをカバーしています。これには、ASEAN10カ国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加するRCEP(地域的な包括的経済連携)協定が含まれます。news.nifty+3

RCEPは2022年1月1日に発効し、世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占める地域の大型協定となっています。日本企業にとっては、日中間で初めて関税削減が実現した歴史的な枠組みであり、これまで活用できなかった対中輸出での関税メリットを享受できるようになりました。[jetro.go]​

継続的に拡大する協定範囲

中国のFTA戦略は静的なものではなく、継続的に拡大しています。2026年1月には中国が31の国・地域との協定を保有していると報じられましたが、これは以前の報告から増加しており、今後もさらなる拡大が見込まれます。news.livedoor+1

中国は2021年にCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)への加盟を要請しており、これが実現すれば、日本を含むCPTPP加盟国との貿易における関税削減が一層進むことになります。日本企業は、こうした動向を注視しながら、中長期的なサプライチェーン戦略を構築する必要があります。[jipfweb]​

関税制度の基本構造を理解する

中国の関税率は4つの階層で構成される

中国の輸入関税制度は、複数の税率が階層的に設定されており、条件に応じて最も有利な税率が適用される仕組みです。具体的には、次の4つの税率が存在します。beecruise.co+1

最恵国税率(MFN税率)は、WTO加盟国または中国と相互関税協定を結んでいる国からの輸入品に適用される基本的な税率です。これが標準の関税率となります。[beecruise.co]​

暫定税率は、最恵国税率が適用される国・地域からの輸入品に対して、政策目的に沿って特定の品目に限定し、一定期間だけ低い税率を適用するものです。2026年は935品目に暫定税率が設定されています。global-scm+2

協定税率は、中国と特定の国・地域との間の貿易協定や関税優遇協定に基づく関税率です。FTA締結国からの輸入品で、原産地要件を満たす場合に適用されます。digima-japan+1

特恵税率は、中国との間で関税特恵協定を締結している開発途上国に適用される、最恵国税率よりも有利な特例措置です。2026年も、最不発達国43カ国には100%の品目で無税待遇が維持されています。afpbb+2

税率適用の優先順位

実務上、重要なのは税率の優先順位です。複数の税率が適用可能な場合、基本的には最も低い税率が優先されます。ただし、協定税率を適用するには原産地証明が必要であり、暫定税率には品目の条件がありますので、単純に税率の数字だけで判断することはできません。[import-tiger]​

中国は2026年も、24のFTA等に基づく協定税率の適用を継続しており、暫定税率より協定税率の方が低い品目も普通に起こり得ます。このため、暫定税率だけに注目するのではなく、原産地要件を満たすなら協定税率の方が有利なケースを見逃さないことが重要です。global-scm+2

RCEP協定を活用した実践的コスト削減戦略

RCEP協定がもたらす具体的なメリット

RCEP協定は、ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する広域FTAです。日本にとって、中国および韓国との間で初めて関税削減が実現した点が最大の特徴です。wikipedia+1

日本の対中輸出では、品目によって関税率や削減スケジュールが異なりますが、多くの品目で段階的な関税削減が進んでいます。日本の場合、ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド、中国、韓国の3つに譲許内容が分かれており、同一の原産品について相手国ごとに異なる税率が適用されることがあります。[customs.go]​

実際の企業活用事例

RCEPの活用は、理論だけでなく実際のビジネスで成果を上げています。ジェトロが2022年3月に公開した情報によれば、発効からわずか2カ月で4,000件超のRCEP活用が報告されており、日本企業の間で急速に浸透していることがわかります。[jetro.go]​

食肉加工機械を中国に輸出するワタナベフーマック(愛知県名古屋市)の事例では、現在7.0%の関税率がかかる製品について、RCEP協定の発効後、段階的な関税削減を経て11年目に撤廃されることが見込まれています。同社によれば、「最終的に7%の値上げをせずにすむと考えると、逆に大きな値引きにはなると考えられる」としています。[jetro.go]​

中国や韓国から日本への輸入についても、100円ショップのダイソーを運営する大創産業(広島県東広島市)が「輸入全体の大きな割合を占めているなか、RCEPを使うことによって減免税の効果が大きい」と活用を進めています。[jetro.go]​

原産地証明の取得プロセス

RCEP協定の恩恵を受けるには、原産地証明が必要です。これは「その製品が日本で原産性を持っている(原産品である)」ことを証明する手続きです。[shigyo.co]​

具体的なプロセスは以下の通りです。まず、原材料のHSコードを調査し、原産品判定依頼申請書を作成します。次に、原産性を示す資料や申請書を作成し、日本商工会議所へ申請します。日本商工会議所への手数料は無料です。[shigyo.co]​

RCEP協定国内にて同じHSコード、同製品にて生産者の変更がない場合は、一度だけの手続きで今後の輸出時にも使用できます。特定原産地証明書の発給申請は、原産品判定依頼により原産品として判定された産品の輸出者が行います。jcci.or+1

暫定税率と協定税率の二重チェックが生む競争優位

2026年の935品目暫定税率引き下げ

中国は2026年1月1日から、935品目についてWTO最恵国税率(MFN)より低い暫定輸入税率を適用しています。対象には、リチウムイオン電池用再生ブラックパウダー、人工血管、感染症診断キットなどが含まれます。global-scm+2

この暫定税率引き下げは、先端産業の部材調達、グリーン転換の原料確保、医療高度化を同時に進める「ターゲット型の関税設計」といえます。対象品目に該当する企業にとっては、中国市場での価格競争力が大きく向上する機会です。[global-scm]​

暫定税率と協定税率の使い分け

実務上、極めて重要なのが暫定税率と協定税率の比較です。暫定税率より協定税率の方が低い品目は普通に起こり得るため、単純に暫定税率の恩恵だけを見ていると、より有利な協定税率を見逃してしまいます。[global-scm]​

中国は2026年も、24のFTA等(34の貿易パートナー)に基づく協定税率を継続し、これらを適切に比較して最適な税率を選択することが、コスト競争力を最大化する鍵となります。afpbb+1

税率比較だけで終わらず、原産地要件と証明運用(自己申告か、証明書か、保存義務は何か)まで同時に点検するのが定石です。原産地証明の取得には一定の手続きとコストがかかりますが、長期的には大きな関税削減効果が得られます。[global-scm]​

実務チェックリストで漏れを防ぐ

協定税率を最大限に活用するために、以下の実務チェックリストを活用してください。[global-scm]​

第一に、中国側税則の号列まで落として対象判定を行います。日本側のHS6桁一致だけで判断せず、2026年の暫定税率表(附表)で該当する税番があるかを照合します。照合の証跡として、該当箇所のPDF保存や社内台帳化まで行うことが推奨されます。[global-scm]​

第二に、関税割当(タリフクォータ)対象かを確認します。935品目は「関税割当品目を除く」と整理されているため、対象外の取り違いを防ぐ必要があります。[global-scm]​

第三に、協定税率との比較を必ず行います。ここは税率比較だけで終わらず、原産地要件と証明運用まで同時に点検するのが定石です。[global-scm]​

日本企業が取るべき具体的アクションプラン

自社製品のHSコード分類と該当性確認

最初のステップは、自社製品の正確なHSコード分類です。日本のHSコードと中国のHSコードは基本的に6桁まで共通ですが、それ以降の細分番号は国によって異なります。[global-scm]​

中国側の税則号列(細分)で該当判定し、暫定税率の適用対象か、あるいはFTA協定税率の対象かを確認します。ex指定品目は、仕様や用途で分かれることがあるため、製品の詳細な仕様書と照らし合わせた慎重な判断が必要です。[global-scm]​

原産地証明取得体制の構築

RCEP等のFTA協定税率を活用するには、原産地証明の取得が必須です。社内に原産地証明取得のための専門チームを設置するか、外部の専門家(通関士、貿易コンサルタント)を活用する体制を整えます。[shigyo.co]​

原材料のHSコード調査から原産品判定依頼申請書の作成、日本商工会議所への申請まで、一連のプロセスを標準化し、輸出案件ごとにスムーズに処理できる仕組みを作ることが重要です。[shigyo.co]​

RCEP協定国内にて同じHSコード、同製品にて生産者の変更がない場合は、一度だけの手続きで今後の輸出時にも使用できるため、初期の手間を惜しまず確実に取得することが長期的なコスト削減につながります。[shigyo.co]​

価格戦略と顧客交渉への反映

関税削減効果をどう価格戦略に反映するかも重要な経営判断です。暫定税率や協定税率が下がる品目は、インコタームズと関税負担者を再確認した上で、見積の更新と顧客への説明資料を準備します。[global-scm]​

中国側買主が通関する取引でも、関税が下がった分の値引き圧力として返ってくるため、先回りして対応することが有効です。関税削減効果を全て顧客に還元するのか、自社の利益として確保するのか、あるいは一部を価格競争力として市場シェア拡大に投資するのか、戦略的な判断が求められます。[global-scm]​

サプライチェーン全体の最適化

RCEPをはじめとするFTA活用は、単なる関税削減にとどまらず、サプライチェーン全体の最適化につながります。中国輸出が主力の企業は、RCEP利用によるコストダウン提案が有効であり、輸入企業は、仕入先選定で関税ゼロを活かせるかを再検討する機会となります。[yushutsu]​

社内で「RCEP活用チェックリスト」や「原産地管理台帳」を整備することでスムーズな運用が可能になります。また、累積原産地規則(材料が複数のRCEP締約国で生産されても原産品として認められる規定)を活用すれば、より柔軟な調達戦略が可能になります。[yushutsu]​

今後の展望と戦略的インプリケーション

中国のFTA拡大が生む新たな機会

中国のFTA戦略は今後も拡大を続けます。CPTPPへの加盟が実現すれば、日本を含むCPTPP加盟国との貿易における関税削減が一層進みます。また、中国が積極的に推進する「一帯一路」構想の沿線国とのFTA締結も進む可能性があり、日本企業にとっては新たな市場アクセスの機会が生まれます。[jipfweb]​

日本企業は、こうした動向を注視しながら、中長期的なサプライチェーン戦略を構築する必要があります。特に、中国を生産拠点として第三国市場に輸出するビジネスモデルでは、中国が締結するFTAネットワークを最大限に活用することで、グローバルな競争力を高めることができます。

デジタル化による原産地証明の簡素化

RCEP協定では、原産地証明の方法として第三者証明(日本商工会議所による発給)、認定輸出者による自己証明、そして輸入者による自己申告の3つが認められています。今後、デジタル技術の進展により、原産地証明のプロセスがさらに簡素化される可能性があります。[jetro.go]​

電子的な原産地証明や、ブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンの透明性向上など、新しい技術の導入により、FTA活用のハードルが下がることが期待されます。日本企業は、こうした技術革新を積極的に取り入れ、競争優位性を確保する必要があります。

米国の保護主義との対比

トランプ政権による高関税政策が米国市場での事業環境を厳しくする一方で、中国が推進するFTA戦略は対照的に自由貿易の拡大を志向しています。日本企業にとって、米国市場と中国市場の両方でバランスの取れた戦略を構築することが重要です。

一方の市場での関税リスクを、他方の市場でのFTA活用によって緩和するという、リスク分散の観点も戦略的に重要です。特に、輸出先市場の多様化とFTAネットワークの戦略的活用は、地政学リスクへの対応としても有効です。

まとめ

中国が31の国・地域と締結した24のFTAに基づく協定税率は、2026年も継続適用されており、これらのFTA貿易額は中国の貨物貿易総額の45%を占めるまでに拡大しています。この巨大な協定ネットワークは、日本企業にとって戦略的に活用すべき重要な制度インフラです。recordchina+1

特にRCEP協定は、日中間で初めて関税削減が実現した歴史的な枠組みであり、すでに多くの日本企業が具体的な成果を上げています。暫定税率と協定税率の二重チェックを行い、原産地証明を確実に取得することで、大きなコスト競争力を獲得できます。jetro+3

日本企業は、自社製品の正確なHSコード分類、原産地証明取得体制の構築、価格戦略への反映、そしてサプライチェーン全体の最適化を通じて、中国のFTA戦略を最大限に活用し、グローバル市場での競争力を高めることが求められています。


免責事項

本記事は2026年2月13日時点で公開されている情報に基づいて作成されています。FTA協定の内容、関税率、原産地規則、手続き要件などは今後変更される可能性があり、本記事の内容が将来にわたって正確であることを保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の企業や個人に対する貿易実務の助言、税務相談、法律相談を意図したものではありません。実際にFTA協定税率を適用する際には、品目分類、原産地要件、証明手続きなど、個別の事情に応じた専門的な判断が必要となります。具体的な輸出入取引や関税申告を行う際には、必ず通関士、貿易実務の専門家、税理士、弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は一切の責任を負いかねます。

トランプ関税は誰が本当に負担しているのか:ニューヨーク連銀の衝撃レポートが示す真実


米国のトランプ政権が強力に推進してきた関税政策について、2026年2月12日、ニューヨーク連邦準備銀行が公表した調査報告書が波紋を広げています。「関税は貿易相手国が負担する」というトランプ大統領の主張とは裏腹に、実際には関税の90%を米国の消費者と企業が負担していることが明らかになりました。この事実は、グローバルに事業を展開する日本企業にとって、今後の経営戦略を根本から見直す必要性を示唆しています。newsweekjapan+1

本記事では、ニューヨーク連銀と米議会予算局による最新分析を基に、関税負担の実態、その経済的メカニズム、そして日本企業が直面するリスクと対応策について、ビジネスの現場で役立つ視点から解説します。

ニューヨーク連銀が明らかにした関税負担の実態

90%が米国内で吸収される衝撃の数字

ニューヨーク連銀が2026年2月12日に発表した報告書は、2025年の関税政策の影響を詳細に分析しています。調査対象期間中、米国の平均関税率は2.6%から13%へと急激に上昇しましたが、この追加コストの大部分が米国内で吸収されていたことが判明しました。reuters+1

具体的な数値を見ると、2025年1月から8月にかけて、関税による打撃の94%を米国民が被っていました。この比率は9月から10月には92%に低下し、11月には86%となりましたが、いずれにしても圧倒的多数が米国側の負担となっています。newsweekjapan+1

議会予算局の分析が裏付ける構造的問題

ニューヨーク連銀の調査結果は、米議会予算局(CBO)が2026年2月11日に発表した報告書とも一致しています。CBOの分析によれば、関税負担の内訳は次のように整理されます。reuters+1

外国の輸出企業が負担するのはわずか5%にとどまります。残る95%のうち、米国企業が利益率の引き下げによって輸入価格上昇分の30%を吸収し、最終的に70%が値上げを通じて消費者に転嫁されます。newsweekjapan+1

CBOは「関税の引き上げは輸入品のコストを直接的に増加させ、米消費者と企業の価格を押し上げる」と明確に指摘しています。これは、関税が実質的には自国民への課税として機能していることを意味します。reuters+1

関税パススルーのメカニズムを理解する

価格転嫁率が決定する最終負担者

関税が消費者価格にどの程度転嫁されるかを示す指標が「関税パススルー率」です。この比率は輸入量の価格感応度や市場構造によって異なります。dcer.dentsusoken+1

理論的には、10%の関税が課され、関税パススルー率が60%の場合、輸入価格は6%上昇し、関税負担の6割を米国側が、残り4割を輸出国側が負担することになります。しかし、実際には販売マージンや物流コストが関税賦課後も変化しないわけではなく、輸入品の消費者価格はそのまま6%上昇し、米国消費者の負担となります。dcer.dentsusoken+1

短期的な緩衝材が存在する理由

興味深いことに、関税導入直後は消費者価格への転嫁が比較的穏やかに進む傾向があります。これには複数の要因が関係しています。murc+2

第一に、関税導入前の駆け込み輸出による在庫の存在です。企業は関税発効前に大量に輸入することで、一時的に関税負担を回避できます。第二に、卸売・小売段階でのマージン圧縮です。流通業者が自らの利益を削って価格上昇を抑制しているのです。dcer.dentsusoken+1

2018年の米国の対中関税を分析したCavalloらの研究によれば、当時の関税パススルー率が100%に近かったにもかかわらず、小売価格は関税率ほど上昇しておらず、関税負担の多くを米国の卸売業者や小売業者、流通業者が負担していることが示唆されています。[dcer.dentsusoken]​

時間の経過とともに進む価格転嫁

しかし、こうした緩衝材は一時的なものにすぎません。在庫が枯渇し、企業がマージン圧縮に耐えられなくなると、価格転嫁が本格化します。murc+1

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの分析によれば、関税分の50%程度を価格に転嫁する見込みがあり、先行きは価格転嫁が広がり、コア財価格上昇率が加速すると予測されています。電通総研の研究も、今後はトランプ関税の価格転嫁がさらに進み、物価上昇圧力がかかり、最終的には米国の消費者負担が増していくと指摘しています。dcer.dentsusoken+2

日本企業が直面する具体的な影響

自動車産業への甚大な打撃

トランプ関税の影響は、日本企業に深刻な打撃を与えています。特に自動車産業での影響が顕著です。yomiuri+1

日本の自動車大手7社は、関税の影響で2025年4月から9月の営業利益が約1.5兆円減少すると見込んでいます。これは半年間だけの数字であり、通年ではさらに大きな影響が予想されます。[yomiuri.co]​

自動車および自動車部品には2025年4月3日から追加関税25%が課されており、対米輸出を主力とする企業にとって、利益の大幅な圧縮が避けられない状況です。ソニーグループは2026年3月期に約1,000億円の関税影響を見込んでいます。fmclub+1

幅広い業界に波及する関税の影響

影響は自動車だけにとどまりません。鉄鋼・アルミ製品には2025年6月4日から追加関税50%が課され、2025年8月7日からは新関税15%が適用され、日本食、日本酒、和牛肉など幅広い分野の企業へ影響が及んでいます。[fmclub]​

カシオ計算機は米国向け時計・楽器の一部出荷を停止する対応を取りました。このように、企業は輸出の縮小、生産調整、価格改定など、さまざまな対応を迫られています。[mainichi]​

輸出企業と倒産リスクの増大

日本政府の推計によれば、トランプ関税で輸出に影響が出る日本企業は約1万3,000社に達すると予測されています。また、関税措置により日本国内企業の倒産件数は約3%以上増加する可能性があります。[fmclub]​

中小企業にとって、関税による利益圧縮は経営の存続に直結する問題です。特に対米輸出依存度の高い企業や、利益率の低い業種では、関税負担を吸収する余力が乏しく、事業継続が困難になるケースが増えることが懸念されています。[fmclub]​

日本企業が取るべき戦略的対応

米国内での生産拠点の拡大

関税を回避する最も直接的な方法は、米国内での現地生産への移行です。2017年から2020年の第一次トランプ政権下において、日本企業の対米直接投資は拡大しました。rieti+1

仮に関税措置が継続される場合、現地生産への移行が日本企業の関税回避策の有力な選択肢となります。特にグリーンフィールド投資、つまり工場を米国に新設する投資が望まれます。dir+1

ただし、製造業は政策の不確実性を不安視して投資を減らす傾向にあり、トランプ政権下で対米投資を増やそうと政府が旗を振ったとしても、企業が十分に反応しない可能性もあります。投資判断には慎重な検討が必要です。[rieti.go]​

グローバルサウスとのサプライチェーン強化

米国一辺倒ではなく、サプライチェーンの多様化も重要な戦略です。日本は海外との知的ネットワークを拡充し、グローバルサウスとのサプライチェーン拡大に向けて政策を実行することが必要です。[rieti.go]​

アジア諸国、特にASEAN諸国やインドなどとの経済連携を深めることで、地域のサプライチェーンを分厚くし、技術波及効果や産業集積による規模の経済を生み出すことができます。これにより生産性向上効果も期待できます。[rieti.go]​

価格戦略とコスト管理の見直し

短期的には、価格転嫁と利益率管理のバランスを見極めることが重要です。関税負担を全て消費者価格に転嫁すれば販売数量が減少し、全て自社で吸収すれば利益が圧迫されます。

市場の競争状況、自社製品の価格弾力性、顧客のロイヤルティなどを総合的に分析し、最適な価格戦略を構築する必要があります。また、サプライチェーン全体でのコスト削減、生産効率の向上、製品設計の見直しなど、あらゆる角度からコスト管理を強化することが求められます。

為替リスクとの複合的管理

関税負担に加えて、為替変動リスクも同時に管理する必要があります。円安が進めば対米輸出の価格競争力は向上しますが、円高になれば関税負担に加えてさらなる収益圧迫要因となります。

先物為替予約やオプション取引などのヘッジ手法を活用し、関税負担と為替変動の複合的なリスク管理体制を構築することが重要です。

今後の展望と経営判断のポイント

政治的不確実性への備え

トランプ政権の関税政策は、議会との関係、国際的な交渉状況、米国経済の動向などによって変化する可能性があります。2026年2月10日、米議会下院はトランプ政権の高関税への異議申し立てを禁止する規定を否決しており、政策の不確実性が高まっています。[jp.reuters]​

企業は複数のシナリオを想定し、関税率の変動、適用範囲の拡大または縮小、新たな二国間交渉の進展など、さまざまな可能性に対応できる柔軟な経営体制を整える必要があります。

長期的な競争力強化への投資

目先の関税対応だけでなく、長期的な競争力強化への投資も忘れてはなりません。研究開発への継続的な投資、デジタル技術の活用による生産性向上、人材育成と組織能力の強化など、本質的な競争力を高める取り組みが重要です。

関税という外部環境の変化を、自社のビジネスモデルを見直し、より強靭な経営基盤を構築する機会と捉えることもできます。

情報収集と専門家の活用

関税制度は複雑であり、法律、会計、貿易実務など多岐にわたる専門知識が必要です。社内での情報収集体制を強化するとともに、税理士、弁護士、貿易コンサルタントなどの外部専門家を積極的に活用することが推奨されます。

また、業界団体や政府機関が提供する情報、セミナー、相談窓口なども有効に活用し、最新の動向を把握し続けることが重要です。

まとめ

ニューヨーク連銀の調査が明らかにしたように、トランプ関税の90%は米国の消費者と企業が負担しており、この構造は日本企業にも深刻な影響を及ぼしています。関税は単なる通関時の追加コストではなく、サプライチェーン全体、価格戦略、投資判断、そして企業の収益性に広範な影響を与える経営課題です。newsweekjapan+1

日本企業は、短期的な対症療法にとどまらず、米国内生産の拡大、サプライチェーンの多様化、コスト管理の徹底、そして政治的不確実性に対応できる柔軟な経営体制の構築など、包括的な戦略を展開する必要があります。

関税という逆風の中でも、適切な戦略と実行力によって競争優位性を維持し、さらに強化することは可能です。経営者とビジネスリーダーには、冷静な分析と果断な意思決定が求められています。


免責事項

本記事は2026年2月13日時点で公開されている情報に基づいて作成されています。関税政策、経済情勢、企業業績などは今後変化する可能性があり、本記事の内容が将来にわたって正確であることを保証するものではありません。また、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の企業や個人に対する投資助言、税務相談、法律相談を意図したものではありません。具体的な経営判断や投資判断を行う際には、必ず専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は一切の責任を負いかねます。