関税政策と輸出管理が交錯するリスクを見落とさない

供給網再編、値上げ交渉、海外展開の前に押さえる実務ポイント


1. なぜ「関税」と「輸出管理」を一緒に考える必要があるのか

関税と輸出管理は、企業の現場では別物として扱われがちです。ところが実務では、関税の最適化を狙った調達先変更や生産移管が、輸出管理の許可要否や取引停止リスクを同時に引き起こすことがあります。ここが「交錯リスク」の核心です。

関税とは何か

関税は、輸入される貨物に課される税(輸入関税)です。輸入品の価格に上乗せされ、国内品との競争条件に影響します。WTO(世界貿易機関)も、関税を輸入品に課される税として位置づけています。(WTO

関税実務は、主に次の3つの情報で決まります。

  • 品目分類(HSコード)
  • 原産地(どこの国の産品とみなされるか)
  • 適用税率(EPA税率、特恵税率、WTO税率、暫定税率、基本税率など)

HS(Harmonized System)は、6桁の国際的な品目分類体系で、200以上の国・地域が関税率や貿易統計の基礎として利用しています。国際貿易貨物の98%以上がHSで分類されています。(世界税関機構(WCO)

なお、日本税関のFAQでは関税率の適用順位として「EPA税率 > 特恵税率 > WTO協定税率 > 暫定税率 > 基本税率」の優先序列が示されています。EPA税率が特恵税率以下であれば、特恵税率は適用されない点に注意が必要です。(日本税関

輸出管理とは何か

輸出管理は、軍事転用や大量破壊兵器の拡散防止などの安全保障上の目的で、特定の貨物や技術の輸出・仲介・技術提供などを規制する仕組みです。

日本では外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づき、一定の貨物の輸出や、一定の技術の非居住者への提供に許可が必要となり得ます。経済産業省(METI)はリスト規制キャッチオール規制の枠組みを整理しています。(経済産業省

EUでも、デュアルユース(軍民両用)品について、輸出に加えて仲介・技術支援・通過なども管理対象として統一規制(EU規則2021/821)が規定されています。(EUR-Lex

米国でも、輸出先だけでなく最終用途や最終需要者を軸に許可要否が判断されます。(米国産業安全保障局(BIS)


2. 交錯リスクが生まれる3つの構造

構造1 ── 関税は価格、輸出管理は安全保障

関税はコストと利益率に直撃します。輸出管理は取引可否そのものを左右します。意思決定の目的が異なるため、関税視点だけで最適化した施策が、輸出管理の視点では重大なリスクになることがあります。

構造2 ── 分類体系が二重で、社内データが分断されやすい

関税はHSコード中心、輸出管理は別の技術分類や用途判定中心という二重構造になりがちです。この結果、社内マスタが分断され、次のような状態が生じます。

  • 調達部門はHSコードは持っているが、輸出管理分類(該非)を持っていない
  • 技術部門は該非はわかるが、関税のHSや原産地ルールを追っていない
  • 営業は見積に関税を織り込むが、輸出許可のリードタイムを織り込まない

この分断こそが、交錯リスクを「事故」に変える根本原因です。

構造3 ── 原産地変更や迂回経路が、監視と取締りを呼び込みやすい

関税負担を下げるために生産地・最終組立地・輸送ルートを変更すると、原産地認定や迂回疑義の論点が一気に増えます。原産地は、特恵関税・EPA税率・アンチダンピングなど多くの政策措置と直結しており、日本税関も原産地ルールの重要性を説明しています。(日本税関

WTOも、原産地認定で実務上広く使われる「実質的変更(substantial transformation)」や関税分類変更基準など、各国運用に幅があることを示しています。(WTO


3. 実務で起きやすい6つの典型パターン

パターン1 ── 関税回避のための設計変更が、輸出管理上のスペック該当を招く

関税率を下げるため、部材構成や機能を調整してHS分類を変えることがあります。しかしその設計変更が、「性能」「暗号機能」「半導体製造関連」など輸出管理上の規制対象スペックに近づくケースがあります。関税分類の変更は価格の問題ですが、輸出管理上の該当は許可不取得・出荷停止という別次元の問題を引き起こします。

実務対応の勘所:設計変更の検討段階で「HSの変化」だけでなく「該非の変化」も同時に評価することが不可欠です。

パターン2 ── 調達先変更で原産地が変わり、同時に輸出管理上の再輸出問題が出る

関税が上がった国から別の国へサプライヤーを切り替えると、原産地が変わります。関税率への影響は当然確認しますが、輸出管理では「どの国の技術や部材が含まれるか」「再輸出規制に当たるか」という別の論点が浮上します。特に国際展開している企業では、ある国の規制が他国での再輸出・移転にも及ぶため、サプライチェーン再編時に見落とされがちです。

パターン3 ── 第三国での最終組立による関税最適化が、迂回疑義と証明責任を増やす

関税負担を下げるため、最終組立や簡易加工を第三国に移すことがあります。しかし原産地認定の要件は国ごとに異なり、書類による立証が求められます。米国では原則として輸入品への原産国表示が義務付けられています。(米国税関国境保護局(CBP))米国の「実質的変更」の概念は貿易実務で広く参照されています。(Trade.gov)一方、輸出管理の観点では第三国経由が増えるほど「通過」「仲介」「技術支援」などの論点が増え、EU規制ではこれらも明確に管理対象として位置づけられています。(EUR-Lex

パターン4 ── 最終需要者のスクリーニング不足で、関税は通っても出荷が止まる

関税手続きが整っていても、輸出管理では最終需要者や最終用途が問題になります。米国BISは最終需要者・最終用途に基づく許可要否の判断指針を公開しており(BIS)、エンティティリスト等の規制先リストを連邦官報で継続的に更新しています。(Federal Register

関税部門と輸出管理部門が連携していないと、次のような事故が起きます。

関税分類と原産地証明は完璧。しかし需要者スクリーニングが不十分で、契約・出荷直前に輸出管理で差し止め。結果として違約金・失注・信用毀損が発生する。

パターン5 ── 関税を避けるための海外生産移管が、技術移転の規制に触れる

関税上昇を受けて海外生産に切り替えると、図面・製造ノウハウ・ソースコード・検査条件などの技術情報を現地へ渡す必要が生じます。日本では、居住者から非居住者への技術移転が「みなし輸出」に該当し得ることを経済産業省が明示しています。(経済産業省)米国でも、国内で外国人に管理技術を開示する行為が「deemed export(みなし輸出)」として規制されることをBISが説明しています。(BIS

関税対策としての生産移管が、技術移転許可の取得・管理体制整備を前提とした案件へ変質する。これが交錯リスクの典型です。

パターン6 ── 契約条項が関税中心で、輸出管理の停止権や協力義務が抜けている

関税はインコタームズや価格条項に反映されやすい一方、輸出管理は契約条項への落とし込みが弱いことが多いです。実務では、次の条項が不足しがちです。

  • 最終用途・最終需要者の表明保証と変更時の通知義務
  • 許可取得に必要な書類提出への協力義務
  • 許可不取得の場合の解除権と責任分担
  • 再輸出・再販売の制限と違反時の救済

法務と貿易管理が最初から共同で契約を設計しないと、後工程で対処できなくなります。


4. 企業が整えるべき統合ガバナンス

交錯リスクは、個別担当者の注意だけでは防ぎきれません。仕組みで管理する領域です。

① 共通マスタで、HS・原産地・該非・用途制限をつなぐ

まず取り組むべきはデータ統合です。品目ごとに次の情報を一元管理します。

  • HSコードとその根拠
  • 原産地判定ロジックと証憑の保管場所
  • 輸出管理の該非判定結果と判定根拠
  • 用途・需要者スクリーニング結果
  • ライセンス要否と取得リードタイム

部門ごとのExcel管理を続けると、供給網を動かすたびに同じ議論が繰り返され、判断もぶれます。

② サプライチェーン変更時の審査ゲートを一本化する

調達先変更・製造委託先変更・最終組立地変更・物流ルート変更は、関税と輸出管理の両方に影響します。変更管理プロセスに次のゲートを設けます。

  • 変更申請の時点で、関税影響と輸出管理影響を同一フォームで申告
  • 技術・貿易管理・法務・物流が参加するショートレビュー
  • 重大案件は経営会議に上げる基準を明確化

③ 見積と納期回答に「許可リードタイム」を組み込む

輸出許可が必要な案件は、納期が読めないことが最大の営業リスクです。最終用途や最終需要者によって許可要否が変わり得るため(BIS)、営業が単独で判断しない設計が必要です。

④ 外部パートナーには、同じ前提情報を共有して使う

通関業者・フォワーダー・法律事務所・コンサルタントを使う場合、「関税は通関業者、輸出管理は別先」と分業しがちです。交錯リスクの本質は「同じ取引を別のレンズで見る」ことにあるため、製品仕様・用途・顧客・経路・契約という共通の前提情報を全員に共有したうえで評価する体制が重要です。


5. すぐ使えるチェックリスト(経営・管理職向け)

  • 今回の施策は、関税(HSと原産地)と輸出管理(該非・用途・需要者)を同時にレビューしたか
  • 調達先や組立地変更で、原産地を立証できる証憑は揃うか(保管場所と責任者まで決まっているか)(日本税関
  • 第三国経由・仲介・技術支援が増える設計になっていないか(EUではこれらも管理対象)(EUR-Lex
  • 顧客・最終需要者のスクリーニングと用途確認を、受注前に完了できる運用か(BIS
  • 海外生産移管や委託で図面・ノウハウ提供が発生する場合、みなし輸出を含め許可要否を評価したか(経済産業省
  • 契約条項に、許可不取得時の解除権・協力義務・再輸出制限が盛り込まれているか

6. 関税最適化は、輸出管理まで含めて初めて完結する

関税対策はコスト改善の即効薬になり得ます。しかし輸出管理に触れると、「コスト」ではなく「取引停止」「出荷差止」「信用毀損」へとリスクの次元が変わります。

関税と輸出管理を別々に最適化するのではなく、同じ取引を一体として設計し直す視点が必要です。交錯リスクを防ぐ最短ルートは、担当者の気合ではなく、データ統合と変更管理ゲートの一本化です。まずは「供給網を動かす前に必ず両面レビューする」仕組みから始めてください。


免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法務・税務・通関・輸出管理に関する助言を提供するものではありません。個別事案への適用可否は、取引内容・製品仕様・最終用途・取引相手・輸送経路・各国の法令および当局運用により異なります。実務対応にあたっては、最新の公的情報を確認のうえ、社内の専門部署ならびに弁護士・通関業者等の専門家へご相談ください。著者および発行者は、本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても責任を負いません。

センサー類のPSRリスクと実務チェック

HSコード見直しから始める、EPA・FTA原産地管理の失敗を減らす実務

センサーは高付加価値で、部材点数も多く、サプライチェーンも国際分業になりやすい製品です。その結果、EPA・FTAを使った特恵関税の活用では、品目別原産地規則(PSR)の確認と運用でつまずきやすい代表格でもあります。
PSRはProduct-Specific Rulesの略で、協定・HSコードごとに定められた原産地基準です。多くの現場では、最終製品が非原産材料を含むケースが一般的であり、その場合にPSRの達成可否が特恵適用の成否を左右します。

この記事では、センサー類に特有のPSRリスクを深掘りしつつ、現場でそのまま使える実務チェックを、ビジネスマン向けに噛み砕いて整理します。結論から言うと、センサー類のPSR対策は、HSコードの見直しと変更管理を起点に、証拠と業務フローを先に固めた企業が勝ちます。


PSRとは何か

なぜセンサー類でリスクが跳ね上がるのか

PSR(品目別原産地規則)は、協定の原産地規則章とセットで運用され、協定ごとに附属書(Annex)に整理されています。たとえばRCEPでは附属書三A、TPP11(CPTPP)では附属書三-DにPSRが置かれています。

またPSRは大きく次のような型に整理できます。
関税分類変更基準(材料と最終製品のHSコードが一定桁で変わること)
付加価値基準(域内原産割合などが一定以上)
加工工程基準(特定の工程を行うこと) (ジェトロ)

センサー類で難しいのは、次の条件が同時に起こりやすいからです。

  1. 最終製品のHSコードが揺れやすい
    センサーは、何を測るか、どこまでの機能を持つか、単体かモジュールか、で分類の争点が変わります。HSコードが変わると適用されるPSRも変わるため、分類のブレがそのままPSRリスクになります。
    さらに、税関での輸入申告は最新のHSコードを使う一方、協定のPSRが採用するHS年版は協定ごとに異なる点が、混乱の火種になります。 (税関ポータル)
  2. 部材の調達先が多国籍になりやすい
    センサーは、半導体、基板、受動部品、ハーネス、筐体、梱包材などが混在します。PSRが関税分類変更基準型の場合、非原産材料がどのHSに属するかを、部材レベルで押さえないと判定が崩れます。
  3. 設計変更や派生品が頻繁に起きる
    量産途中の部材変更、仕入先変更、型番派生、無線追加、ファームウェア変更などは、分類とPSRの双方に影響し得ます。
    実務では「同じ製品の延長」として扱われがちですが、原産地管理では別製品として再判定が必要になる場面が少なくありません。

センサー類で実際に起こるPSRリスク

現場がつまずく典型パターン

1. HSコードが誤っている、または協定のHS年版とズレている

PSRはHSコードを起点に読むため、分類が違えば、参照するPSR自体が間違います。
さらに実務で頻発するのが、協定のPSRが採用するHS年版と、社内マスタや相手国通関で運用されるHS年版がズレる問題です。協定で求められる年版(例:RCEPのPSRはHS2012ベースとされる)と、実際の通関・システムが採用する年版が一致しないと、書類のHS記載や照合でトラブルが起きます。 (税関ポータル)

実務の示唆
PSR確認は「協定が採用するHS年版で行う」、一方で「輸入申告は最新HSで行う」という二重運用を前提に、読み替えルールと証拠を整える必要があります。 (税関ポータル)

2. 部材のHS分類を置き去りにして、最終品のHSだけで判定してしまう

関税分類変更基準型では、非原産材料のHSが重要です。
しかし現場では、BOMの部材にHSが付いていない、あるいは「購買都合の分類」になっていて根拠が薄い、といった状態でPSR判定が進みがちです。これが監査や事後検証で弱点になります。

3. 軽微な工程の扱いを見落とす

RCEPなどでは、軽微な工程・加工に関する規定があり、単純な包装、選別、単純組立などは原産性を与えない方向で整理されています。センサーでも、最終工程が実質的にラベル貼付や梱包、動作検査だけに近い場合は注意が必要です。

4. 付属品・梱包材・予備部品の扱いがブレる

協定には、梱包材料・包装材料、付属品・予備部品・工具などの扱いが定義されています。センサー類は、ケーブル、取付治具、アダプタ、保護キャップ、校正証明書同梱などが起こりやすく、どこまでを同一の産品として扱うかで判定や記載が揺れます。

5. 直接積送や第三者インボイスの条件を実務が追いついていない

ハブ倉庫経由、委託販売、三国間取引などが増えるほど、直接積送や第三者インボイスの取り扱いを満たすための証拠管理が重要になります。RCEPの原産地手続にも、直接積送や第三者の仕入書に関する規定が並んでいます。


おすすめの実務アプローチ

センサー類のPSRを崩さない運用設計

ここからは、現場が回る形に落とし込むための実務手順です。ポイントは、判定そのものよりも、判定を再現できる形で残すことです。

ステップ1 最終製品のHSコードを固める

社内合意より、当局が尊重する根拠を優先する

センサー類は分類の争点が起こりやすいため、早い段階で「税関に根拠を寄せる」ことが効果的です。日本の税関には、輸入予定貨物の関税分類を文書で照会し、文書で回答を受けられる事前教示制度があります。文書回答は原則3年間尊重される旨が案内されています。

実務のすすめ
社内の分類会議で結論を急ぐより、争点がある品番は優先順位を付け、事前教示や当局照会を組み込む方が、結果的にPSRも安定します。

ステップ2 対象協定を決め、PSRを協定の年版HSで確認する

協定ごとにHS年版が違う前提で、検索ルールを固定する

税関のPSR検索画面でも、協定によって採用しているHSコードのバージョンが異なり、違う年版で検索すると結果が誤る可能性がある旨が注意喚起されています。 (税関ポータル)

加えて、RCEPのようにPSRが特定のHS年版で規定されるとされるケースもあります。実務では、社内の品目マスタが最新HS、協定PSRが旧年版HS、相手国通関がまた別年版、という状況が起こり得ます。 (ジェトロ)

実務のすすめ
協定別に次をセットで持ちます。
協定が採用するHS年版
読み替えに使う相関表の管理方法
社内マスタの最新版HSとの紐付けルール
これを最初に決めると、後工程の判定と証拠が整います。

ステップ3 PSRの型を見極め、BOMを判定に耐える粒度にする

PSRが関税分類変更基準型か、付加価値基準型か、加工工程基準型かで、必要なデータが変わります。PSRの基本類型や、HSコード変更の桁の考え方(類・項・号)も、公的機関の解説資料で整理されています。 (ジェトロ)

実務のすすめ
BOMのうち、原産性に効く部材から順に整備します。
高額部材
機能の中核部材
分類が章またぎになりやすい部材
サプライヤー変更が頻繁な部材
センサー類は、ここを外すと付加価値計算も関税分類変更基準の判定も、どちらも崩れます。

ステップ4 証明手続の種類に合わせて、社内の提出物を設計する

自己申告は、書類を減らす制度ではなく、説明責任を社内に引き寄せる制度

日EU・EPAは自己申告制度のみが採用され、輸出者・生産者・輸入者が作成できる枠組みが示されています。税関が追加的な説明資料を求め得ることも整理されています。

実務のすすめ
自己申告を採用する協定ほど、次の内製が重要です。
原産性説明パッケージ(判定ロジック、BOM、根拠資料の束)
型番単位の判定書
変更履歴と再判定の記録
営業や物流が急いでも、これがあると現場が止まりません。


センサー類向け

おすすめのPSR実務チェックリスト

以下は、センサー類で特に事故が起きやすい観点に絞ったチェックです。監査や事後検証を想定し、証拠として残る形を意識しています。

区分チェック項目失敗しやすいポイント実務の落としどころ
HSコード最終製品の分類根拠が、仕様書と整合しているか型番名やカタログ用途だけで分類している仕様書、構造図、機能説明、入出力、使用環境を分類根拠に紐付ける
HS年版協定のPSRが採用するHS年版で検索しているか最新HSでPSR検索してしまう協定別に検索年版を固定し、読み替え表を社内標準にする (税関ポータル)
PSR特定対象協定と対象品番のPSRを、証拠付きで特定できるか口頭共有のみで、後から追えないPSRの条文・附属書参照情報を判定書に貼り付ける
BOM非原産材料の範囲が定義されているかサプライヤー情報が曖昧、材料原産地が未確認サプライヤー宣誓や原産性情報の取得フローを購買に組み込む
分類変更基準材料HSの根拠があるか部材HSが社内都合で、根拠が弱い争点部材は優先順位を付け、当局照会や根拠資料を蓄積する
付加価値基準計算式、範囲、為替、原価データの出所が統一されているか部署ごとに原価の定義が違う経理と貿易管理で定義書を一枚にまとめる (ジェトロ)
軽微工程工程が軽微工程に該当しないか実態が包装や検査中心工程フロー図と作業標準で実態を説明できるようにする
付属品・梱包ケーブルや治具、梱包材の扱いを協定ルールに沿っているか同梱品の扱いが案件ごとにブレる同梱パターンを製品群ごとに標準化し、例外は申請制にする
物流条件直接積送の証拠を確保できるか倉庫経由で証拠が消えるB/Lや倉庫証明の入手ルールを物流委託先と契約に入れる
組織運用設計変更・仕入先変更時に再判定が走る仕組みがあるか変更が現場で止まり、判定が更新されない変更管理のトリガーをERPや承認フローに埋め込む
根拠確保当局の事前教示など、分類の安定化策を使っているか係争リスクがある品番を放置重要品番は事前教示を優先し、根拠を外部に寄せる

経営・管理職が押さえるべき要点

PSRは現場の努力だけでは安定しない

PSR運用は、貿易実務担当者の経験や頑張りだけに依存すると、組織が大きくなるほど破綻します。センサー類は特に、製品ライフサイクルの中で変更が多く、分類とPSRの再判定が頻繁に必要になるためです。

管理職として押さえたいのは次の3点です。

  1. HSコードをマスタではなく、経営リスクの入力値として扱う
    HSが動けば、PSR、関税コスト、原産地証明、顧客との価格交渉まで連鎖します。HSコード見直しを単なる事務作業にしないことが重要です。
  2. 判定結果より、判定プロセスと証拠の整備に投資する
    税関や取引先が求めるのは、説明可能性です。協定上、追加説明資料を求め得る枠組みも整理されています。
  3. 協定別の運用差を最初から前提にする
    RCEP、TPP11、日EU・EPAなどで、原産地の考え方や証明手続の設計が異なります。協定の違いを吸収する共通の社内フォーマットを持つと、現場の負担が下がります。

参考情報

読み間違いを減らすために、まず当たるべき一次情報

  • 税関:原産地規則とは (税関ポータル)
  • 税関:原産地基準・証明手続 (税関ポータル)
  • 税関:PSR検索画面(協定ごとのHS年版注意) (税関ポータル)
  • 税関:RCEP協定 原産地規則について(概要)
  • 税関:TPP11(CPTPP)原産地規則について(概要)
  • 税関:日EU・EPA 自己申告制度について(概要)
  • JETRO資料:PSRの3類型、HS変更桁の考え方 (ジェトロ)
  • 税関:関税分類の事前教示制度(パンフレット)
  • JETRO:HS年版の違いに起因するトラブル(RCEP運用上の留意) (ジェトロ)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引、製品、HSコードの分類、PSR判定、特恵関税の適用可否を保証するものではありません。実務への適用にあたっては、最新の協定文、税関の公表資料、社内の事実関係に基づき、必要に応じて通関業者・専門家等へご相談ください。

EVバッテリーのPSRリスクとFTA影響

ビジネスを守る原産地ルールの読み解き方と実務の打ち手

はじめに

EVバッテリーは、原材料からセル、モジュール、パックまで多国間で分業されやすく、関税メリットを狙ってFTAを使うほど、原産地規則の難易度が上がります。ポイントは、輸送ルートではなく、どこで何がどの程度加工され、どの国の原産と認められるかです。日本の税関も、優遇関税を受けるには、協定で定められた原産地要件を満たし、必要書類などの手続きを完了することが前提だと整理しています。(税関ポータル)

本稿では、EVバッテリーのPSR(品目別原産地規則)を軸に、FTAの影響がどこで利益にも損失にも変わるのかを、ビジネス判断に落とし込んで解説します。

PSRとは何か

PSRは関税ゼロの条件が書かれた仕様書

PSRは、品目(HSコード)ごとに、非原産材料を使って製造した場合でも原産品と認められる条件をまとめたものです。RCEPの案内でも、PSRはHSコード単位で整理された基準であり、これを満たせば原産品として扱われると説明されています。(税関ポータル)

CTH、CTSH、RVCを短時間で理解する

PSRで頻出する代表的な条件は大きく2系統あります。

1つ目は関税分類変更(CTC)です。たとえばRCEPの定義では、CTHは4桁の見出しレベル、CTSHは6桁の小見出しレベルで、非原産材料のHS分類が完成品と十分に変わることを求めます。(外務省)

2つ目は域内原産割合(RVC)です。RCEPではRVC40はRVCが40%以上であることを意味すると定義されています。(外務省)

実務上は、同じ製品でも協定ごとに採用する基準や計算の前提が変わり、合否が変わるのが落とし穴です。

HSコードがずれるとPSRもずれる

PSRはHSコードを前提に書かれます。したがって、分類がずれると、満たすべきPSRそのものが変わり、原産地判定が崩れます。

リチウムイオン蓄電池は、国連統計局のHS分類でも、6桁小見出し850760として整理されています。(UNSD)

さらに、HS自体は改正サイクルがあり、世界税関機構はHSの改正が5年サイクルで進むことを明記しています。(世界 Customs Organization)
つまり、製品は変わっていないのに、コード体系が動くことで、協定側のPSRの読み替えや運用が必要になります。

主要FTAでEVバッテリーPSRはどう違うか

ここからが本題です。EVバッテリーのPSRは、協定によって要求水準とクリア方法が違います。違いを把握しておかないと、同じBOMでも、ある国向けは関税ゼロ、別の国向けは関税発生という事態が起きます。

RCEP

RCEPの品目別規則(HS2012ベース)では、リチウムイオン(8507.60)のPSRとして、CTSHまたはRVC40が示されています。(外務省)
この形は実務的に示唆が大きく、6桁レベルで非原産材料を振り替える設計にするか、価格要素で40%を超える設計にするか、どちらかで勝負できます。

注意点として、RCEPの品目別規則自体はHS2012に基づくことが注記されています。(外務省)
一方で日本の外務省は、2023年1月1日以降の原産地証明では、HS2022に移した品目別規則に基づくべき旨を案内しています。(外務省)
この読み替え対応を後回しにすると、現場が旧HSで証明を作り、通関で差し戻されるリスクが現実化します。

CPTPP(TPP11)

CPTPP(TPP11)の品目別規則では、電気蓄電池(8507.30から8507.80の範囲に該当)について、基本は他の見出しからの変更、もしくはRVCを一定以上にするという選択肢が示されています。具体的には、域内原産割合を積上げ方式で30%以上、または控除方式で40%以上などの条件が記載されています。(グローバル affairs カナダ)

RCEPが8507.60単独でCTSHまたはRVC40を掲げているのに対し、CPTPPは範囲指定と複数のRVC計算方法を含む設計で、設計自由度が上がる一方、計算の前提整備がない企業は運用が破綻しやすい構造です。

日EU・EPA

日EU・EPAの品目別規則(HS2017ベース)では、85.03から85.18の範囲に対し、CTHに加えて、非原産材料比率の上限やRVC基準の選択肢が提示されています。(外務省)
8507(電気蓄電池)はこの範囲に含まれるため、BOMの組み方次第で、関税分類変更を軸にするのか、価額基準を軸にするのか、戦い方が変わります。

ここで効いてくるのが、どの価額ベースで計算するかです。協定によって、FOBや工場出荷価格などの前提が変わり得るため、経理と貿易実務が同じ数字を見ていないと、社内で合格と思っていたものが輸入国で否認されることがあります。

EU・英国(TCA)

EUと英国のTCAでは、EVとバッテリーの原産地要件が段階的に厳しくなる設計でした。2023年末に、より厳しいルールの適用が2024年から始まるのを避け、現行ルールを2026年末まで延長することが合意されています。EU理事会は、延長により、要件を満たさない場合に発生し得た10%関税の適用を回避できると説明しています。(欧州理事会)
英国政府も、延長によりEV取引への10%関税を回避する趣旨を公表しています。(GOV.UK)

ただし、これは猶予であって免除ではありません。パートナーシップ・カウンシルの決定は、2027年1月1日から協定の所定の品目別原産地規則が適用されること、さらに2032年1月1日までは当該分野の品目別原産地規則の追加変更をできない枠組みを示しています。(GOV.UK)
つまり、2027年に向けた対応は先送りできず、しかも再延長を当てにした戦略が組みにくいのが現実です。

PSRリスクはどこで起きるか

EVバッテリーのPSRリスクは、単なる貿易実務の話ではなく、原価、投資回収、顧客契約に直結します。典型的な故障点は次のとおりです。

1. HS分類がサプライチェーンの実態に追いつかない

セル、モジュール、パック、BMS、熱管理部材など、構成と用途の説明が不足すると、社内と通関現場の分類がぶれます。分類がぶれればPSRの読みがぶれ、原産地判定が成立しません。
対策としては、品目定義書を技術部門と共通化し、輸出入国での事前教示の活用を検討することが有効です。

2. CTC要件は部材の6桁管理が必要になる

RCEPではCTSHが6桁変更を意味すると定義されています。(外務省)
実務では、主要材料だけでなく、非原産材料の6桁まで揃えないと判定できないケースが出ます。ここで部材マスターが4桁止まりだと、判定が止まります。

3. RVCは計算ロジックよりもデータが壊れやすい

RVCは計算式そのものより、前提データの整合が崩れやすい領域です。為替、移転価格、値引き、リベート、歩留まり、製造間接費、スクラップ控除などが、統一されていないと数値が揺れます。
さらにCPTPPのように複数の算定方法がある場合、どの方式で統一するかを、監査対応も見据えて決める必要があります。(グローバル affairs カナダ)

4. 最小限の加工に該当すると失格になる

RCEPの案内でも、PSRを満たしていても、行った作業が単純な作業に該当する場合は原産品と認められない旨が説明されています。(税関ポータル)
バッテリー領域では、ラベリングや梱包、単純な組付けだけで原産地を作ろうとすると、この論点に刺さりやすくなります。

5. 書類不備は技術や原価とは別軸で否認される

日本税関の整理でも、優遇を受けるには、原産品要件だけでなく必要書類の提出などの手続きが必要です。(税関ポータル)
現場では、調達先の証明の形式違い、サプライヤー宣誓書の更新漏れ、保存期間の未対応など、地味な作業が最終的な否認につながります。

FTA影響をどうビジネスに落とすか

PSRの影響は、関税率の差額だけではありません。意思決定者が押さえるべきは、次の3レイヤーです。

レイヤー1 関税コストの直接影響

EU・英国のように、要件未達で10%関税が現実に発生し得るケースでは、利益率が一気に溶けます。延長措置の背景説明としても、要件未達の場合に10%関税が課され得る点が明記されています。(欧州理事会)

レイヤー2 供給網の設計制約

RCEPの8507.60がCTSHかRVC40であることは、6桁で見た材料の出自と、価額の積み上げのどちらでも戦えることを意味します。(外務省)
一方で、EU・英国の2027年ルールが避けられない構造である以上、欧州域内のセルや正極材などへの投資判断が、製造拠点戦略そのものになります。(GOV.UK)

レイヤー3 顧客契約と価格改定の論点

顧客が関税ゼロ前提で調達単価を組んでいる場合、原産地否認は値上げ交渉ではなく、契約不履行の争点になり得ます。したがって、営業契約には、原産地の前提条件、否認時の関税負担の帰属、サプライヤー情報提供義務を、できるだけ具体に入れておく必要があります。

すぐ使える対応ロードマップ

最後に、担当者任せにしないための、管理職向けの進め方を提示します。

1. 取引ルート別に、対象FTAとPSRを棚卸しする

国別ではなく、出荷ルートと顧客別で整理します。理由は、同じ国向けでも、顧客のサプライチェーン要求やインコタームズで、原産地の計算前提が変わるためです。

2. HS分類とBOMを、原産地判定の粒度で揃える

RCEPのCTSHのように6桁が論点になる協定がある以上、部材マスターを6桁まで保守できる体制が必要です。(外務省)
さらに、HS改正は5年サイクルで起きるため、品目コードの読み替えとPSRの再チェックを、定例業務に組み込むのが現実的です。(世界 Customs Organization)

3. サプライヤー宣誓書を、交渉カードにする

サプライヤーに原産情報を出してもらえないと、PSRの計算ができません。購買契約に、データ提出、更新頻度、監査対応を組み込み、提出しない場合の不利益も明確化します。

4. 監査対応を前提に、計算方式を固定する

CPTPPのように複数方式がある協定では、どの方式を社内標準にするかを決め、経理と物流が同じ数字を参照する仕組みを作ります。(グローバル affairs カナダ)

5. 2027年を見据えたEU・英国シナリオを今期中に作る

EU・英国は2026年末までが猶予で、2027年から所定ルール適用、2032年まで追加変更が困難という枠組みです。(GOV.UK)
この条件下では、ギガファクトリー立地、正極材の域内調達、セル内製化など、供給網投資の回収ロジックとPSRを同じ資料で説明できることが、経営会議での説得力になります。

まとめ

EVバッテリーのPSRは、貿易部門の手続き問題ではなく、供給網と利益率を左右する設計条件です。RCEPやCPTPP、日EU・EPAでは、CTCとRVCの選択肢の出方が異なり、同じ製品でも協定ごとに勝ち筋が変わります。(外務省)
また、EU・英国は2027年に向けて、猶予はあっても先延ばしが難しい枠組みです。(欧州理事会)

優遇関税を取りに行く企業ほど、PSRをコスト削減の話で終わらせず、原産地を前提にBOMと調達と投資を再設計することが、競争力になります。

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