「中国、レアアース輸出規制を1年間停止へ」

一文サマリー

中国は2025年11月7日付で、レアアース等に関する一連の輸出管理強化(10月9日発表分)を約1年間停止。停止期間は2026年11月10日まで。撤廃ではなく一時停止(商務部・税関総署「公告2025年第70号」)。日本を含む全世界向けに適用。nikkei+3

何が「停止」されたのか(公式根拠)

中国商務部・税関総署の公告2025年第70号は、以下6つの告示の効力を即日~2026年11月10日まで停止すると明記(=10月9日発表分が丸ごと一時停止)。mofcom

  • 第55号:超硬材料(人工ダイヤモンド粉、砥石等)や関連装置を輸出管理対象化 → 停止
  • 第56号:レアアース生産設備(遠心抽出機、焼結炉、加工設備等)と原料・薬剤(鉱石・抽出剤)を管理 → 停止
  • 第57号:中・重希土5元素(Ho, Er, Tm, Eu, Yb)の金属/合金/靶材/酸化物/化合物等 → 停止
  • 第58号:リチウム電池(高性能セル等)・人工黒鉛負極・関連設備/技術 → 停止
  • 第61号:レアアースを中国国外で輸出する場合でも、中国原産分が0.1%以上含まれる製品や中国の抽出/分離/磁性材製造技術を使って製造した製品に中国の許可を要求する域外適用 → 停止
  • 第62号:レアアース関連技術(採掘~分離~磁石製造~リサイクル~ライン組立/保守含む)の輸出管理 → 停止

※停止は実施見合わせであって、法令自体の廃止ではありません。今後の情勢で再開され得ます。yomiuri+1

「停止」されていないもの(要注意)

2025年4月4日付の別枠規制(Announcement No.18/2025):中・重希土7元素(Sm, Gd, Tb, Dy, Lu, Sc, Y)とその合金/磁石/酸化物/化合物などに対する輸出管理は今回の停止対象に含まれていません。=原則継続と解釈されます。jetro+2

米政府は「一般許可(General License)の導入で4月分も事実上緩む」との説明を示していますが、中国側の公式確認は現時点でなく、日本メディアも「4月分は停止措置に含まれない」と報じています。業務上は継続前提の在庫・調達計画が安全です。yomiuri+1

時系列(直近3か月)

  • 10月9日:超硬材・レアアース設備/原料・中重希土追加・リチウム電池/黒鉛負極・域外適用・技術輸出の一斉強化を発表news.yahoo+1
  • 10月30日:韓国・釜山で米中首脳会談が開催され、レアアース輸出規制の1年間停止で合意mainichi+2
  • 11月7日:第70号で上記(10月9日発表分)を1年間停止mofcom+1
  • 11月9日:関連動きとして、中国はガリウム/ゲルマニウム/アンチモン等の対米輸出承認停止の解除も公表(2026年11月27日まで)

市場・相場の初期反応

米中の関税・輸出規制の一時休戦報道と停止決定を受け、米上場のレアアース関連株は一時下落(供給不安の緩和観測)。

日本企業への実務インパクト(業界別の着眼点)

1) 自動車/EV・モータ/風力

NdFeB(ネオジム磁石)向けDy/Tbの添加やSmCo系、焼結/拡散設備(PVD等)、抽出剤(P204/P507等)の越境調達・技術支援が動きやすくなります。ただし4月4日規制分は継続。jetro

2) 電子・HDD/センサー/FA

Sm, Dy, Tb等のスパッタリングターゲット、磁性部品の域外適用(0.1%ルール)停止により、日本/東南アジア製品の出荷手続きが簡素化される可能性。

3) 電池・素材

高性能リチウム電池/人工黒鉛負極/製造装置・技術の新規出荷・据付・技術サポートは停止期間中に前進しやすい一方、停止は期限付き。代替調達・内製化の取り組みは継続必須。

4) 防衛関連用途

今後示される**一般許可(GL)**が導入されても、防衛関連は除外の可能性が示唆されています。該当顧客を抱える企業は要慎重。

いますぐできる実務チェックリスト(”月曜朝のTo‑Do”)

  1. 仕掛中の出荷/通関案件を棚卸:10月9日告示由来の差し止め・審査待ちがないか、中国側サプライヤー/代理店経由で停止適用の再確認news.yahoo+1
  2. BOM/原産性の再評価:中国原産レアアースの含有率や**製造工程(抽出/分離/磁性材工程の技術使用)**の有無を台帳化。第61号の域外適用が停止中でも、将来再開に備えて可視化
  3. 契約条項(不可抗力/規制変更)の見直し:一時停止→再開リスクを見越して価格・納期条項に柔軟な調整メカニズムを挿入
  4. 在庫・価格戦略:停止を理由に在庫を過度に薄くしない。延期コールオプション(納期オプション)や段階発注で価格変動に備える
  5. 代替ソース/プロセス検討の継続:停止はタイムバイ。日本/豪/米/東南アジアの精製・磁石・材料サプライヤーとの二重化を止めない
  6. 用途・エンドユーザー確認:防衛・デュアルユース案件は適用外/審査厳格の可能性を常時確認
  7. 対欧州/対米の要件差の把握:EUは安定ライセンス制度整備へ協議中、米側はGL観測あり。輸出先別の運用差に留意

リスクシナリオ(12か月)

  • ベース:10月9日告示分の停止が継続。4月4日分は存続。個別審査・書類要求は残り、現場フリクションは段階的に軽減nikkei+1
  • 強気:一般許可(GL)が実装され、適法用途には包括的許可が普及。欧州向けの定常フローが回復
  • 弱気:地政学再燃で停止撤回、10月9日告示が即時復活。4月4日分も厳格化。域外適用が再稼働。→在庫逼迫・価格上振れ

関連ファクト(根拠とコンテクスト)

  • 停止の法的根拠と期間:公告2025年第70号(即日~2026年11月10日)mofcom
  • 停止された”10月9日パッケージ”の中身:超硬材(第55号)、レアアース設備/原料(第56号)、中重希土5種(第57号)、電池/黒鉛負極(第58号)、域外適用(第61号)、技術輸出(第62号)news.yahoo+1
  • 4月4日の別枠(No.18/2025)は継続:中重希土7種の管理。停止告示の対象外yomiuri+2
  • 米中首脳会談の背景:2025年10月30日、韓国・釜山で開催された米中首脳会談での合意を受けた措置newsdig.tbs+2
  • 適用範囲:米国のみならず日本を含む全世界に適用される停止措置kab

まとめ(経営判断への示唆)

今回は**”10月9日発表分の停止”が中核**。4月4日分は残るため、完全な正常化ではない。停止は時間限定。この12か月を”サプライ複線化”と”原産性の見える化”の猶予と捉えるのが実務的。用途・エンドユーザー、原産性/技術起源、工程可視化が審査の肝。停止中も書類準備の型を整えることが、将来の再強化時の保険になります。nikkei+3

※本まとめは一般的情報提供であり、個別案件の法的助言ではありません。輸出入実務は最新の公告・通関実務を現地パートナーと必ずご確認ください。


主な修正点

  1. https://news.yahoo.co.jp/articles/ac123d929f0a301a1ba3d05307bdd53b9d1bbebc
  2. https://www.yomiuri.co.jp/economy/20251108-OYT1T50153/
  3. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM07B930X01C25A1000000/
  4. https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/zc/art/2025/art_dfb2fa8cb9d848d78eb63c666c8c605e.html
  5. https://mainichi.jp/articles/20251029/k00/00m/020/316000c
  6. https://www.kab.co.jp/news/article/16143950
  7. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/04/65f0a59e26095ae7.html
  8. https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2276536
  9. https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/916748
  10. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-11-07/china-formalizes-rare-earth-curbs-suspension-after-trade-truce
  11. https://rareresearch.co.jp/%EF%BC%88%E5%85%AC%E5%91%8A70%E5%8F%B7%EF%BC%89%E5%95%86%E5%8B%99%E9%83%A8%E3%83%BB%E7%A8%8E%E9%96%A2%E7%B7%8F%E7%BD%B2%E5%85%AC%E5%91%8A2025%E5%B9%B4%E7%AC%AC55%E5%8F%B7%E3%80%8156%E5%8F%B7%E3%80%815/
  12. https://english.aawsat.com/business/5206147-china-announces-1-year-suspension-expanded-rare-earth-export-controls
  13. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/10/4b63295e5cd63cac.html
  14. https://www.cistec.or.jp/service/keizai_anzenhosho/china/data/20251009.pdf
  15. https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins5_pdf/251016.pdf
  16. https://attoinfo.com/wp/wp-content/uploads/2025/04/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E7%92%B0%E5%A2%83%E6%83%85%E5%A0%B120250410.pdf
  17. https://discoveryalert.com.au/china-rare-earth-export-controls-2025-impact/
  18. https://www.spf.org/spf-china-observer/document-detail071.html
  19. https://www.ccmagnetics.com/blog/a-deep-dive-into-chinas-rare-earth-controls-civilian-and-military-applications.html
  20. https://www.cistec.or.jp/service/keizai_anzenhosho/china/data/20251031.pdf

「欧州連合と中国が、レアアース資源の流れを守るために「特別チャネル」を設け、欧州企業による申請を優先処理することで合意」について

30秒で要点

EUと中国が、レアアース関連の輸出管理手続きを円滑化する「特別チャネル」を新設しました。中国側の輸出許可審査において、EU企業からの申請を優先的に共同レビューし、迅速化を図る枠組みです。約2,000件の申請のうち半数以上が既に承認済みとEU側は説明しています。自動車用モーターや風力発電向けのレアアース磁石など、製造工程のボトルネック解消が狙いです。

背景: 2025年に中国がレアアース関連の輸出管理を導入・拡大し、許可待ちが深刻化。10月には対象元素や関連技術の管理範囲がさらに拡大されました。

直近動向: 追加の新規規制は最長12か月の延期と報じられている一方、既存の管理体制は継続中です。EUは「一般ライセンス」(包括許可)の導入も中国側と協議中。全面解除ではなく、手続きと運用を緩和する方向で進んでいます。


何がどう変わるのか(仕組み)

特別チャネルの中身

EU欧州委員会(通商・経済安全保障担当)と中国商務省などの関係当局間に、個別案件の優先審査・進捗管理・滞留解消のための専用窓口が設置されました。EU企業からの申請を優先処理し、共同で許可の迅速化を図る仕組みです。

限界と留意点

これは規制の撤廃ではありません。最終的には中国側の輸出管理制度の要件(用途・最終需要者・軍民転用リスクなど)を満たす必要があります。用途が明確な民生向けは比較的承認されやすいとの説明もありますが、審査そのものは継続されます。


どの業界に影響するか

自動車(駆動モーター)・風力発電

Nd、Pr、Dy、Tb等を含むNdFeB磁石の安定調達が鍵となります。

産業機械・ロボット・家電・IT機器

高性能磁石や合金、分離・精製材料に影響します。

化学・触媒・研磨材

La、Ce等の酸化物・塩類が対象となります。

(具体的な該非判定は品目・加工度・用途によって異なります)


現場が今すぐ取るべきアクション(90日プラン)

案件の可視化

取引先(中国側輸出者)に、申請の進捗状況(未申請・受理・追加資料待ち・許可番号・有効期限)を品目・用途別に一覧化してもらいます。EU企業案件である旨(EU域内工場向け・EU企業発注)を明記してもらいましょう。

用途・最終需要者の明確化

エンドユーザー宣誓書(End-Use/End-User Statement)を整備します。民生用途を具体的に記載すると審査が通りやすくなります。

優先ルートの活用

重要案件は、EU側窓口(欧州委員会)と中国側当局の特別チャネルでの優先照会対象となるよう、業界団体や在中欧州商工会議所も活用し、案件IDを付けてエスカレーションします。

代替策の同時推進

EUはエストニア等でレアアース・磁石の域内生産拡充を進めています。欧州内および第三国のサプライヤーを品質・供給量・コストの3軸で同時評価します。

契約の見直し

以下の条項を整備・更新します。

  • 輸出管理条項(規制変更時の責任分担・協力義務)
  • 価格調整条項(許可遅延・調達ルート変更に伴う費用転嫁)
  • フォースマジュール・納期条項(許可遅延の定義)

在庫と資金の手当て

許可サイクルのばらつきに備え、安全在庫水準の再設定と運転資金計画を見直します。

一般ライセンス(包括許可)への準備

EUが協議中の一般ライセンス制度が導入された際、速やかに申請できるよう、案件を用途クラス別に整理しておきます。


価格・リードタイムの見通し

短期(数か月)

申請滞留の解消途上にあり、優先処理による改善は見込めますが、既存の管理体制は継続されるため、遅延や価格プレミアムのリスクは残ります。

中期(12か月)

新規強化分の一部が延期されれば混乱は緩和されます。ただし制度自体は存続し、政治・安全保障要因による再強化の可能性もあります。中国への過度な一極依存の解消は引き続き経営課題です。

当局の見解

EU側は短期的な抜本的解決は難しいとの慎重な見通しを示しており、手続き改善と供給多角化の両面作戦が現実的とされています。


よくある質問(FAQ)

対象は原料だけですか?

いいえ。元素・化合物だけでなく、精製・加工技術や設備も管理対象に含まれます。したがって磁石・合金・半製品も該当する可能性があります。

EU企業以外でもメリットはありますか?

合意の主眼はEU企業案件の優先審査です。EU域内の拠点・生産向け案件は恩恵を受けやすいですが、他地域向けは基本的に直接の対象外となります。

具体的な申請は誰が行いますか?

中国側の輸出者が所管当局へ申請します。買い手(EU側)は用途・最終需要者情報や契約書類を整備し、特別チャネルでの優先照会に必要な情報を提供するのが実務となります。


サプライヤーへの依頼テンプレート(簡易版)

We understand that the EU–China "special channel" prioritizes EU cases.

Please confirm the license status for the following items (by use-case and end-user).

If additional documents are required (contract, end-use statement), please advise us so we can escalate via the EU channel.

関税訴訟敗訴に備えた米国政権の考えられる代替策:制度と実務上の選択肢

AIによる選択肢の整理:あくまで推察です

2025年11月5日に米連邦最高裁で口頭弁論が行われた相互関税訴訟では、トランプ大統領がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づき100か国以上に課した広範な関税の合法性が争点となっています。共同通信の報道は、敗訴の場合には「代わりの関税措置を検討する」としつつも具体策には言及せず、「現行措置より発動に時間がかかる」方向性を示唆しています。本稿では、公開情報に基づき、米国内法で実務的に取り得る代替策を整理します。

訴訟の背景と争点

トランプ政権は2025年にIEEPAを根拠として、貿易赤字が「国家および経済安全保障への異例かつ重大な脅威」に該当するとして相互関税を発動しました。しかし、ニューヨークの国際貿易裁判所(CIT)は5月に「大統領には権限がない」と判断し、8月には連邦巡回控訴裁判所もこれを支持しました。最高裁での口頭弁論では、保守派・リベラル派双方の裁判官が政権の主張に懐疑的な姿勢を示し、エイミー・コニー・バレット判事(トランプ任命)は「スペインやフランスまで国防上の脅威なのか」と疑問を呈しました。既に約900億ドルの関税収入が徴収されており、敗訴すれば返還義務が生じる可能性があります。

代替策として実務的に取り得る主な関税措置

通商法122条(一時的輸入サーチャージ)
1974年通商法122条は、貿易不均衡への対処として、大統領が最大15%の関税または数量制限を最長150日間課すことを認めています。全ての国、または米国商業に不当な制限を課す特定国に対して適用可能です。150日を超える延長には議会の承認が必要です。過去に実際の適用例はなく、法的安定性に課題がありますが、事前調査を要さず迅速に発動できるため、判決直後の「つなぎ策」として検討されています。

通商拡張法232条(国家安全保障)
1962年通商拡張法232条は、輸入が国家安全保障を損なうおそれがあると認定された品目に対し、関税や数量制限を課す権限を与えています。2018年の鉄鋼25%・アルミニウム10%関税が代表例です。商務省による調査は最長270日を要し、報告後に大統領が判断します。「発動まで時間がかかる」という報道の指摘に合致し、分野別・品目別の積み上げ方式として実務的に有力な選択肢です。

通商法301条(不公正貿易慣行への対抗)
通商法301条は、USTR(米国通商代表部)が他国の「不当・差別的」慣行を調査し、関税等を発動する権限を付与します。対中追加関税で広く使用されており、税率上限の明文制限はありません。ただし、調査・公聴会等を経るため数か月を要し、多国への横断的適用には労力がかかります。

通商法201条(セーフガード)
通商法201条は、輸入急増により重大な損害を受けた産業を一時的に保護するため、USITC(国際貿易委員会)の認定に基づき関税やクオータを課します。太陽光パネル等で過去に適用例がありますが、傷害認定が必要で迅速性は低いです。

1930年関税法338条(外国による対米差別への是正)
1930年関税法338条は、米国商業に対する外国の差別や不当負担を大統領が認定した場合、最大50%の追加関税や輸入禁止まで可能とし、大統領布告の30日後に発効します。トランプ政権は2025年に「プランB」として検討したと報じられていますが、1930年代以降の適用実績はほぼ皆無で、法的・外交的リスクが極めて高いとされます。

アンチダンピング(AD)/相殺関税(CVD)の強化
個別品目・企業・国に対し、ダンピングや補助金を是正する高率関税を課す制度です。商務省・USITCの二段階審査を経て案件ごとに数か月を要するため、横断的な相互関税の代替というより品目別の積み上げ策として位置づけられます。

代替策の優先順位と想定シナリオ

複数の報道や専門家の分析を総合すると、以下のような段階的アプローチが想定されます。

短期(判決直後): 122条による最大15%・150日間のサーチャージで空白期間を埋める緊急措置。ただし、議会承認なしでは延長不可。

中期(本格的代替策): 232条(国家安保)や301条(不公正貿易)を用いた分野別・国別の積み上げ。自動車・部品、半導体、金属素材など、貿易赤字と「国家安全保障」が重なる領域が対象となる可能性が高いです。

並走措置: AD/CVDの個別案件増加や、TRQ(関税割当)の活用により実効税率を底上げ。

最終手段: 338条による最大50%関税。法的前例がほぼなく、訴訟・外交リスクが極大のため、実際の発動ハードルは高いです。

企業・投資家への実務的インプリケーション

タイムライン管理: 232条・301条・201条は調査から発動まで数か月~最大約9か月を要します。122条が発動された場合、150日以内に次の代替策への移行を警戒すべきです。

対象領域: 自動車・部品、半導体・電子部品、鉄鋼・アルミニウム・銅などの金属、木材・家具など、貿易赤字が大きく「国家安全保障」と関連付けやすい品目が232条・301条の俎上に載りやすいです。

返還リスク: 最高裁が政権側に不利な判断を下した場合、既に徴収された約900億ドルの返還手続が複雑化し、輸入業者にとって「混乱」となる可能性があります。

最高裁判決の見通しと影響

口頭弁論では、ジョン・ロバーツ首席判事が「関税は米国民への課税であり、常に議会の中核的権限だった」と指摘し、「重要問題の法理(major questions doctrine)」の適用可能性に言及しました。この法理は、議会の明示的授権なしに行政府が重大政策を実施することを制限するものです。保守派6名・リベラル派3名の最高裁は通常、判決まで数か月を要しますが、本件では迅速な判断が期待されています。敗訴の場合、トランプ政権は他の関税権限への移行を迅速に図ると見られ、国際貿易および大統領権限の範囲に関する重要な先例となります。


主要ソース

  • 共同通信配信(神戸新聞掲載):関税敗訴に備えた代替策検討報道
  • Al Jazeera、BBC、CNN:最高裁口頭弁論の詳細報道
  • RILA(小売業界団体):122条の制度解説
  • Reuters:338条の歴史的背景と検討状況
  • Supply Chain Dive、Skadden:各条項の実務的解説
  • EY、NBC News:最高裁審理と代替策の分析

※上記は公開情報に基づく制度論的整理であり、法的助言ではありません。実際の適用は政治判断・調査結果・訴訟見通し等により変動します。

「HSコードの違いで税関と争いになった場合の反論設計」

HSコードの違いで税関と争いになった場合の反論設計:実務報告書

国・地域ごとに手続や証拠法則は異なりますが、HSの一般通則(GRI)、部・類注、WCO解釈資料に基づく国際的に通用する骨格で整理しています(各国の国内法的位置づけは異なるものの、WCOの一般通則(GRI)・解説書(Explanatory Notes)・分類意見(Compendium of Classification Opinions)は世界的に参照されます)。

エグゼクティブ・サマリー

勝敗を分けるのは「事実の特定」と「GRI→法的注→解説書→先例」の適用順序です。

反論は、①製品の客観的特性(材質・機能・構造・用途・状態)、②適用すべきHS版(例:HS2022)、③GRIと部・類注の文言解釈、④WCO解説書・分類意見、⑤国内外の事前教示・裁判例の整合性、のピラミッドで構築します。

実務では、「分類根拠ドシエ」を作り、試験成績・図面・BOM・写真・使用実態を一体で提示することが有効です。

裁判・審査前に輸入国の事前教示(Advance Ruling/BTI/CROSS等)の探索・取得で論点を先詰めし、可能なら和解(再分類・追徴縮減)も選択肢に。

1. 反論する場合に用意すべき情報・資料(チェックリスト)

A. 製品実体を示す一次資料(”何ででき、何をし、どのように使うか”)

  • 仕様書・カタログ・取扱説明書(機能・用途・原理・主たる機能)
  • BOM(部品表)・材質構成比(質量%・体積%・繊維混率・化学濃度、CAS番号)
  • 設計図・断面図・回路図・CAD(構造・作動機構・組立状態)
  • 物理的数値(寸法・重量・密度・繊度・糸番手・gsm・目付・電圧電流・ワット数・容量・メッシュ等)
  • 写真・動画・実物サンプル(未組立/組立後/使用状態/包装形態:セット品の全体像)
  • 製造工程・加工内容(編む/織る/鋳造/射出/機械加工/化学反応の有無 等)
  • 使用実態・顧客層・販売チャネル(「用途による分類」が争点のときの補助)

B. 客観性を担保する第三者エビデンス

  • 公的・公認試験成績(JIS/ISO準拠の化学分析、繊維試験、電気安全、材料特性)
  • 学術的・工学的意見書(化学・機械・電気・繊維などの専門家鑑定)
  • WCO資料:
    • 一般通則(GRI)(解釈の順序・複合品/未完成品/セット・本質的特性など)
    • 解説書(Explanatory Notes)(各見出しの包含/除外例)
    • 分類意見(Compendium of Classification Opinions)(難事例の先例)
  • 輸入国の事前教示・公開データベース(日本の事前教示回答、米国CROSS、EU BTI など。自社品や類似品の先例を検索)

C. 手続・バージョン管理

  • 適用HS版(HS2017/2022/2027…)と輸入(又は輸出)日。解釈資料も同版に合致させる。
  • 対象国の関税表(国内サフィックス)と部・類注の国内解釈告示(必要に応じて)
  • 過去の通関実績(同一/類似品の税番・通関地・時期・数量・相違理由)

実務TIP:案件ごとに「分類根拠ドシエ」を1冊化(目次例は付録A参照)。

2. 反論の設計:論点マップ(優先度順)

2.1 適用ルールの順序(GRIの階段)

  • GRI 1:見出しの文言+部・類注(Legal Notes)で判断できるか
  • GRI 2(a)/(b):未完成品・混合物・材料別商品の扱い
  • GRI 3(a)-(c):複合品・セット品の優先順位(より具体的/本質的特性/最後の順序)
  • GRI 4:類似品への準用(稀)
  • GRI 5:容器・容れ物の扱い
  • GRI 6:小見出し(6桁)以下の決定

2.2 部・類注(Legal Notes)の効力

章・部の注解は見出し文言に優先しうる”法規範”です。「部品」「部分品」「アクセサリー」「セット」「医療用」「食品の調製品」「繊維の加工段階」「電気機械の部品」等の定義条項が多く、ここで勝負が決まることが多い。

2.3 WCO解説書・分類意見の位置づけ

  • 解説書は各見出しの包含・除外例や技術的説明を与える補助資料
  • 分類意見は難事例の具体的結論集。直接の法拘束力は法域により異なるが、説得的根拠として用いられる(引用・類推適用)

2.4 製品事実の特定:よく争点化するポイント

  • 本質的特性(essential character):複合品・セット品で「主たる性質」を与える構成要素は何か(GRI 3(b))
  • 用途基準 vs 物理的特性:用途が見出し文言に組み込まれているか否か
  • 未完成品/組立て前の完成品みなし(GRI 2(a))
  • 混合物/溶液の支配的成分・機能(GRI 2(b), 3(b))
  • 部分品/アクセサリーの定義該当性(部・類注、特に機械類・輸送用機器関連)
  • キット販売・販売形態(セット該当性・包装の通常性:GRI 3・5)

2.5 国内・域内の先例との整合

日本の事前教示回答(公開)、米国CROSSの拘束的事前裁定、EUのBTIなど、公表先例の提示は強力です。完全一致商品の先例がなくても、技術的・機能的に実質同等の比較を行います。

3. 反論メモの構成(テンプレート)

第1 争点の整理

  • 税関主張の税番(根拠文言・注解・先例)
  • 当方主張の候補税番(優先順位・差異)

第2 適用ルール

適用HS版・GRIステップの特定

第3 事実(Fact)

材質・構造・機能・用途・包装・セット性・完成度など、係争に関係ある属性のみを測定値と試験成績で列挙

第4 法規範(Rule)

見出し文言、部・類注(条番号付)、WCO解説書の該当箇所、分類意見(番号・年版)

第5 当てはめ(Application)

  • A見出し:除外理由(注解×、解説書×)
  • B見出し:包含理由(注解○、解説書○、先例整合)
  • 複合・セット:本質的特性の論証(質量・価格・機能寄与・消費行動)

第6 結論(Conclusion)

  • 最終税番・根拠の簡明な要約
  • 代替案(主位/予備の位置付け)と、関税・規制影響

4. 品目別:資料の要点(抜粋)

  • 化学品・調製品:有効成分・不揮発分・溶媒/安定剤・pH・粒径、CAS、MSDS、混合割合、反応有無
  • 繊維・衣類:混率(wt%)、糸番手、織/編、目付、漂白/染色/整理加工の有無、付属品の重量比
  • 機械・電気機器:主たる機能、演算/制御の有無、電源仕様、出力、部品と完成品の関係(部・類注該当性)
  • 雑貨・セット品:セット性(通常の小売包装か)、本質的特性の所在(価格・重量・機能寄与)

5. 裁判・審査での主張例(ひな型フレーズ)

  • 「GRI 1および当該章注Xにより、本件商品は見出しYYYYに包含される」
  • 「税関主張の見出しZZZZは、部・類注Yで明示的に除外される構成要素Aを前提としており、本件には適合しない」
  • 「複合品である本件は、機能寄与・価格構成・重量比の全てで部品Bが支配的であり、GRI 3(b)に従い見出しYYYYが妥当」
  • 「WCO解説書(該当見出し)と分類意見No.___は、同質の技術的特徴を備えた品目をYYYYに分類しており、整合的」

6. 先例・裁定の活用

  • 日本の事前教示(公開データベース):類似品の税番・根拠を検索
  • 米国CROSS(拘束的裁定の検索・比較)。裁判所(CIT/CAFC)判決も論理の参照に有用
  • EUのBTI:EU域内で3年有効の拘束的情報。公開BTIデータベースで比較

注意:他国の裁定は自国での法的拘束力は通常なし。ただし、説得的資料として引用価値は高い(比較論法)。

7. プロセス設計(時系列)

  • ファクト収集:上記チェックリストを埋め、測定値と写真で「見える化」
  • ルール適用:HS版を確定し、GRI→部・類注→解説書→分類意見の順で候補を絞る
  • 先例探索:日本の事前教示、米国CROSS、EU BTIを横断比較
  • 事前的な当局対話:可能なら事前教示の取得・照会(輸入国)。紛争予防に最良
  • 審査・不服手続 → 訴訟:記録化した分類根拠ドシエと鑑定書で立証
  • 経済影響の算定:関税差額、SPS/技術規制・貿易救済の有無も併せ評価

8. 裁判の際に支援を依頼すべき専門家

  • 関税・通関に強い弁護士(行政訴訟・関税法・通関実務の経験者)
  • HS分類スペシャリスト/通関士(GRI運用・先例調査・ドシエ作成)
  • 技術系鑑定人(化学、材料、電気、機械、繊維 等の学位+実務のある専門家)
  • 第三者試験機関(JIS/ISO準拠試験を迅速実施できる国内外のラボ)
  • 公認翻訳者(技術文書・裁判向け宣誓翻訳)
  • データ・経済分析専門家(関税差額や供給網影響の定量化)

9. 税関側主張への代表的な”切り返し”

税関側の典型主張反論の考え方(資料の当て方)
「用途ベースの見出し」適用見出し文言に用途要素が含まれているかを検証。含まれない場合は物理的特性を優先(GRI 1)
「部分品(parts)」扱い部・類注の定義に合致するかを条文で照合。他の見出しにより具体的に記載されていれば、部品ではなく当該見出し
未完成・組立前GRI 2(a)により完成品みなしの要件(主要特性の保持)を満たすかを構造・写真で論証
複合品・セット本質的特性の所在を重量・価格・機能寄与など定量で示す(GRI 3(b))
混合物・調製品有効成分・濃度・機能と解説書の包含/除外で当てはめ。必要に応じ成分分析

10. リスク低減のプリエンプティブ策

  • 輸入国の事前教示制度の活用(日本・米国・EUほか)
  • WCOトレードツール/出版物で最新版HSの確認(HS2022、HS2027など)
  • 社内標準:「新製品=HSレビュー」「セット化=GRI 3(b)判定表」「化学品=分析票」
  • 相手国差異の把握:HS6桁は共通でも、国内サフィックス(8–10桁)は各国で異なる。関税率・規制影響を事前に洗い出し

付録A:分類根拠ドシエ(提出パッケージ)構成例

  • カバーメモ(1–2頁):争点・結論・候補税番(主位/予備)
  • 製品カード:技術要約(材質・機能・用途・寸法・写真)
  • 試験成績・鑑定書(JIS/ISO)
  • GRI・部/類注の引用と当てはめ表(版・条番号明記)
  • WCO解説書・分類意見の該当箇所(該当見出しを特定)
  • 輸入国の先例(事前教示・BTI・CROSS)抜粋(類似点/相違点の表)
  • 経済影響の試算(関税差・納税/還付影響)

付録B:主要リソース(実務で参照頻度が高い公的情報)

  • WCO:一般通則(GRI)(公式PDF)
  • WCO:解説書(Explanatory Notes)(購入または購読が必要/概要ページ)
  • WCO:分類意見(Compendium of Classification Opinions)(購入・閲覧)
  • WCO Trade Tools(HS法的注・解説・分類意見のオンラインビュー)
  • 日本税関:事前教示制度/公開事例
  • 米国CBP:CROSS(拘束的裁定データベース)
  • EU:BTI(域内拘束的関税情報)

最後に(重要な留意点)

  • 本書は一般的情報であり、特定の法域での法的助言ではありません。案件ごとに輸入国の手続法・証拠法則をご確認ください。
  • HSの改正(版の違い)や各国の通達改正は適時アップデートされます。反論時は適用時点の版と告示を必ず特定してください。
  • タイムラインの重要性:不服申立て・訴訟には期限があります。税関の決定通知受領後、速やかに専門家と協議し、期限管理を徹底してください。

日墨間におけるCPTPPと日メキシコEPAの使い分けガイド

日墨間で事業を行う上で、包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)と日・メキシコ経済連携協定(日メキシコEPA)のどちらを利用すべきか、実務的な判断基準と早見表を解説します。

基本的な使い分け方針

まず品目ごとに、以下の4つの要素を総合的に比較し、より有利な協定を選択することが基本方針となります。

  • 関税率(どちらがより低いか、または早期に撤廃されるか)
  • 原産地規則(PSR)の達成しやすさ
  • 原産地証明手続きのコストと時間
  • サプライチェーン全体でのメリット(特に累積規定の活用)

CPTPPを優先すべきケース

  • ベトナムやカナダといった他のCPTPP加盟国を原産とする材料を多く使用しており、締約国の原産材料や生産工程を自国のものと見なせる完全累積のメリットを最大限に活用したい場合。
  • 手続きの負担を軽減するため、特定の様式が不要な自己申告制度を利用したい場合。この制度では、輸入者、輸出者、または生産者のいずれもが原産地証明書類を作成できます。

日メキシコEPAを優先すべきケース

  • メキシコの輸入者や税関の商慣行上、所定の様式による第三者機関発行の原産地証明書(CO)または認定輸出者による原産地申告が求められる場合。
  • 輸出産品が特恵品目(協定附属書5に掲載)に該当し、認定輸出者であっても第三者機関発行のCOが必須となる場合。
  • (注)2023年9月1日から、日本では電子原産地証明書(e-CO)システムが導入されており、紙媒体での申請に比べると実務的な負担は軽減されています。

5つの比較判断軸

1. 原産地証明の方式

CPTPP日メキシコEPA
証明制度自己申告制度第三者証明制度 または 認定輸出者制度
作成者輸入者、輸出者、生産者日本商工会議所など、または認定輸出者
様式定型様式なし(Annex 3-Bの最小記載事項を満たす必要あり)定型様式あり
特記事項柔軟性が高い特恵品目は第三者証明が必須

2. 累積規定(サプライチェーン設計)

CPTPP日メキシコEPA
規定完全累積二国間累積
内容全てのCPTPP締約国の原産材料や加工工程を自国のものと見なして合算可能。多国間サプライチェーンの構築に有利。日本とメキシコ間でのみ累積が可能。第三国の材料や工程は原則として累積の対象外。

3. デミニミス(僅少の非原産材料)

CPTPP日メキシコEPA
一般品目産品の価額の**10%**以内産品のFOB価額の**10%**以内
繊維製品HS第50類〜第63類は品目ごとに複雑な除外規定あり。適用の可否は慎重な確認が必要。HS第50類〜第63類は、産品の総重量の**10%**以内。

4. 輸送および第三国インボイス

CPTPP日メキシコEPA
輸送非締約国を経由しても、税関の管理下にあるなど輸送要件を満たせば特恵待遇を維持可能。積送基準(Transshipment)があり、同様に非締約国経由が可能。
第三国インボイス非締約国の事業者が発行したインボイス(第三者インボイス)も利用可能。原産地証明書の様式内に、第三者インボイスの情報を記載する欄がある。

5. 少額貨物の免除規定

CPTPP日メキシコEPA
証明書免除の閾値原則として、総額が1,000米ドル相当以下の場合。原則として、総額が1,000米ドル相当以下の場合。

クイック早見表:どちらの協定を選ぶか

典型的なシナリオ推奨協定理由の要点
ベトナム/カナダなどCPTPP域内からの材料を多用CPTPP完全累積により、域内他国の原産材料や加工工程を合算できるため。
メキシコ側がCO原本を要求/社内監査で必要日メキシコEPA第三者機関発行のCOは信頼性が高く、メキシコの商慣行に適しているため。特恵品目はCOが必須。
証明書発行のリードタイムを最小化したいCPTPP自己申告制度のため、証明書発行の待ち時間がなく迅速。
サンプルなど少額・多頻度の出荷両方検討どちらの協定も1,000米ドル相当以下は原則として証明書が免除されるため。
繊維・衣類(PSRの要件が厳しい)個別のPSRを要比較CPTPPは価額基準、日メキシコEPAは重量基準のデミニミス特則があり、どちらが有利か品目ごとに確認が必要。
物流で第三国を経由/第三者インボイスが常態化CPTPP(やや優位)日メキシコEPAはCO様式への記載が必要な一方、CPTPPはより柔軟な書類作成が可能なため。

実務上の確認フロー(5ステップ)

  1. HSコードの確定: 輸出入する産品のHSコード(6桁)を正確に特定します。
  2. 関税率の比較: 両協定における品目ごとの関税率と、その譲許スケジュール(段階的な関税撤廃の年次)を確認します。(※品目や年次によって有利な協定が逆転することがあります)
  3. 原産地規則(PSR)の比較: 部品表(BOM)などに基づき、CPTPP(Annex 3-D)と日メキシコEPA(Annex 4)の品目別規則(関税分類変更基準、付加価値基準、加工工程基準など)のいずれを達成できるか検討します。
  4. 累積・証明方式の決定: サプライチェーンを考慮し、CPTPPの「完全累積」と日メキシコEPAの「二国間累積」のどちらが有利か判断します。また、手続き負担や相手先の要求に応じて証明方式を選択します。
  5. 輸送・書類要件の確認: 第三国経由での輸送や第三者インボイスを利用する場合の根拠規定(CPTPP第3.18条、日メキシコEPA第35条など)を確認し、必要な書類を準備します。

自動車部品の特有の留意点

自動車産業はサプライチェーンが国際的に張り巡らされているため、累積規定の使い勝手が協定選択の重要な決め手となります。

原産地規則(PSR)の比較

自動車部品のPSRは、主に**付加価値基準(RVC)**が用いられます。CPTPPと日メキシコEPAでは、この計算方法や求められる付加価値の割合が異なります。

  • CPTPP: 自動車分野では、他のCPTPP加盟国(例:ベトナム、マレーシア、カナダ)で生産された原産材料や、そこで行われた加工を自国のものと見なせる完全累積が最大のメリットです。これにより、北米やASEANにまたがるサプライチェーンでも原産性を満たしやすくなります。また、協定の附属書には自動車関連品目に特化した詳細な規定があります。
  • 日メキシコEPA二国間累積に限定されるため、日本とメキシコ以外の国で生産された部品は、原則として非原産材料として扱われます。サプライチェーンが両国内で完結している場合は問題ありませんが、第三国が関わる場合はCPTPPより不利になることが多くあります。

実務上の推奨

多くの日系自動車メーカーおよび部品メーカーは、サプライチェーンの柔軟性を重視し、CPTPPを優先的に活用しています。特に、ASEANや北米(カナダ)にも製造拠点を持つ企業にとっては、完全累積のメリットが非常に大きいためです。

日メキシコEPAが選択肢となるのは、サプライチェーンが完全に日墨二国間で完結しており、かつ日メキシコEPAで定められたRVC基準の方がCPTPPよりも達成しやすい、という限定的なケースになります。

繊維製品の特有の留意点

繊維製品は、原産地規則が非常に厳格かつ複雑であり、「どの工程を協定国で行ったか」が問われる加工工程基準が中心となります。

原産地規則(PSR)の比較

一般的に「ヤーンフォワード(Yarn Forward)ルール」と呼ばれる厳しい基準が採用されています。これは、製品に使用される糸の生産(紡績)以降の全ての工程(製織・編立、染色、裁断、縫製)を協定域内で行うことを求めるものです。

  • CPTPP: ヤーンフォワードが基本ですが、大きな例外規定として「供給不足リスト(Short Supply List)」が存在します。このリストに掲載されている特定の繊維や生地は、協定域外(例:中国、台湾、韓国)から調達しても、原産材料として扱うことが認められます。これにより、域内で調達が難しい特殊な素材を使いながらでも特恵関税の適用を目指せます。
  • 日メキシコEPA: こちらも厳格な加工工程基準を採用していますが、CPTPPのような大規模な供給不足リストはありません。そのため、原料の調達先が限定され、PSRをクリアする難易度が高くなる傾向があります。

デ・ミニミス(僅少の非原産材料)の特則

  • CPTPP: 原則として価額ベースで10%のデ・ミニミスが適用されますが、品目ごとに多くの除外・例外規定があり、非常に複雑です。
  • 日メキシコEPA: 繊維製品(HS50〜63類)に対して、**重量基準で10%**という非常に分かりやすく実用的なデ・ミニミス規定があります。例えば、製品全体に占める価額は大きいものの重量は軽い非原産の付属品(レースや特殊なボタンなど)を使用する場合に、この規定が役立つことがあります。

実務上の推奨

繊維製品における協定の選択は、ケースバイケースの判断が強く求められます。

  • 使用したい糸や生地がCPTPPの供給不足リストに掲載されている場合は、CPTPPが圧倒的に有利です。
  • ヤーンフォワードを満たせないものの、非原産材料の使用が製品全体の**重量の10%**に収まる場合は、日メキシコEPAのデ・ミニミス規定を活用できる可能性があります。

最終的には、製品の設計、BOM(部品表)、製造工程を詳細に分析し、両協定の品目別規則を丹念に比較して、どちらが有利かを判断する必要があります。

明日(米国時間 11月5日)に米連邦最高裁が口頭弁論を予定

明日(米国時間 11月5日)に米連邦最高裁が口頭弁論を予定しており、案件は Learning Resources, Inc. v. TrumpTrump v. V.O.S. Selections の2件を併合して審理されます。主要争点は「IEEPA(国際緊急経済権限法)が関税賦課を認めるか」「仮に認めるなら違憲な白紙委任に当たらないか」の2点です。SCOTUSblog


エグゼクティブサマリー

  • 背景:2025年初頭以降の大統領令に基づく一連の「IEEPA関税」(メキシコ・カナダ・中国向けの“Trafficking Tariffs”や全世界一律10%の“Reciprocal Tariffs”等)が争われています。下級審はいずれも違法と判断。控訴審(連邦巡回区控訴裁)も7対4で違法と結論づけましたが、最高裁審理の間は一時的に効力維持の扱いです。cit.uscourts.gov+2cafc.uscourts.gov+2
  • いま:最高裁は迅速審理を許可し、11月5日に口頭弁論。結論次第で、IEEPAの使途(制裁中心か、関税も可か)と大統領の通商裁量の射程が大きく変わります。SCOTUSblog
  • 実務影響
    • (A)違法確定なら、IEEPA関税は無効化へ。もっとも、鉄鋼・アルミの232関税や301関税等の別根拠の関税は対象外で残り得ます。The Washington Post
    • (B)IEEPAで関税OKとなると、大統領が「緊急事態」宣言で広範・即時の関税発動が可能に。価格・契約・在庫政策に高い不確実性。
    • **(C)IEEPA自体が違憲(非委任)**とされると、制裁法体系全体に波及するリスク(もっとも、最高裁は回避的解釈でIEEPAの範囲を狭く読む可能性が高いとの見方も)。Brennan Center for Justice+1

タイムライン(確定事実)

  • 2025/5/28:米国際貿易裁判所(CIT)、IEEPA関税を全面無効・差止(世界一律10%を含む)。cit.uscourts.gov
  • 2025/8/29:連邦巡回区控訴裁(7対4)がCITを支持。同日、**最高裁への上訴準備中は執行停止(mandate保留)**を命令。cafc.uscourts.gov+1
  • 2025/9/9:最高裁が迅速審理を許可・併合11/5に口頭弁論を指定。SCOTUSblog

何が争われているのか(法的論点の整理)

  1. IEEPAの文言解釈
    IEEPA §1702(a)(1)(B) は大統領に「輸入・輸出の規制」等を認めます。下級審は「関税(課税)まで含むとは読めない」と判断。控訴審多数意見も「IEEPAは今回の関税賦課を許容しない」と明確に結論づけました。cit.uscourts.gov+1
  2. IEEPAの発動要件(“異常かつ並外れた脅威”)
    CITは、麻薬・人身取引対策を名目とする“Trafficking Tariffs”の一部についてIEEPAの脅威認定要件を満たさないとも判示。cit.uscourts.gov
  3. 非委任(Nondelegation)/メジャー・クエスチョン論
    最高裁は、仮にIEEPAが関税賦課を許すと読む場合、議会からの白紙委任に当たらないかも審理対象。広範・重大な政策変更には明確な授権を要するという近時の流れ(いわゆるメジャー・クエスチョン)も背景論点です。Supreme Court+1

対象となった大統領令と関税の中身(2025年)

  • “Trafficking Tariffs”:メキシコ・カナダ 25%、中国 当初10%→20%(一部品目軽減・免税枠などの変動あり)。cit.uscourts.gov
  • “Reciprocal(相互主義)Tariffs”全世界に一律10%、加えて**国別上乗せ(最大50%)**を予定——のちに一部実施延期・対中報復調整等の改定。cit.uscourts.gov+1

※ これらの枠組みは**IEEPA(1977年法)**に基づくもので、232条(国家安全保障)や301条(不公正貿易是正)といった他法根拠の関税とは別枠です。The Washington Post


最高裁の結論別:日本企業への実務影響シナリオ

A)IEEPA関税が違法確定(下級審維持)

  • 関税撤廃・徴収停止の方向。CITは判決で差止と命令の無効化に踏み込みました(上訴中は保留措置)。最終的に無効確定なら納付済み関税の還付が論点に。輸入者側のプロテスト手続や時効管理は通関顧問・弁護士と即協議cit.uscourts.gov+1
  • ただし、232/301等の他法根拠の関税は残存し得るため、完全なコスト安には直結しない点に注意。The Washington Post

B)IEEPAで関税賦課が可能(非委任は否定)

  • 大統領が**「緊急事態」宣言→即時・広範囲の関税を発動可能に。価格転嫁・契約調整・在庫最適化など機動的なオペレーション**が必要。
  • 国・品目を横断した一律発動も理論上可能となり、為替・原材料価格と並ぶ政策リスクとして恒常的なモニタリングが不可欠。

C)IEEPAは関税も許すが違憲(非委任)

  • IEEPA自体の委任が広すぎると裁されれば、OFAC制裁等、IEEPA依拠の制裁レジームにも波及しかねない——との懸念が法学者・シンクタンクから指摘されています(もっとも、最高裁は違憲回避的解釈で関税のみを除外する可能性も)。Brennan Center for Justice+1

直ちに着手すべき実務チェックリスト

  1. 関税エクスポージャーの棚卸し:対象HS、仕向国、サプライヤー別にIEEPA関税負担(10%一律+上乗せ)と他法根拠(232/301等)を分けて可視化。cit.uscourts.gov+1
  2. 契約条項の見直し:価格調整・関税スナップバック・不可抗力条項の明確化(短期で上げ下げがあり得る前提)。
  3. 価格・在庫・納期の再設計:判決前後の変動を見越し、段階的プライシング在庫回転の再設計。
  4. 通関・還付オプション:無効確定時の還付請求の要件(証憑・期限)を確認。必要であればプロテスト申立など法的保存策。
  5. 物流ハブと制度活用:米国内FTZ(保税区)やボンデッド倉庫の活用で関税の繰延・回避余地を検討。
  6. 調達地・設計の多様化:国別上乗せの再発に備え、マルチソース設計代替をロードマップ化。
  7. 社内ガバナンス:法務・調達・営業・経理の横断タスクフォース週次レビュー
  8. ステークホルダー・コミュニケーション:重要顧客には価格条項の透明化切替基準を事前共有。
  9. 数値インパクトの即時試算:例)米国向け輸入CIFベース1,000万ドルの場合、10%関税撤廃=100万ドル粗利改善(ただし他関税は別途)。
  10. 政策ウォッチ11/5 口頭弁論の主張・判事の問いかけ(非委任/メジャー・クエスチョン)を中心にモニター。SCOTUSblog

裁判記録・下級審のポイント(実務に効く要旨)

  • CIT(2025/5/28):IEEPAは今回のような包括的・無期限の関税を権限付与していない。世界一律10%や対中・北米向け“Trafficking Tariffs”は無効・差止。一部は**IEEPAの発動要件(脅威の性質)**も満たさない。cit.uscourts.gov
  • 連邦巡回区控訴裁(2025/8/29)7対4でCIT支持。ただし少数意見は「IEEPAの『規制』には関税も含み得る」と反論。最高裁での文理解釈が主戦場。cafc.uscourts.gov
  • 実務注記:政府側の要請でmandate(正式送達)保留のため、最終判断までは現行オペに揺り戻しが生じ得る体制。cafc.uscourts.gov

よくある質問(FAQ)

Q1:判決が出てもすべての追加関税が消えるの?
A:IEEPAベースの関税が対象です。232/301等の他法による関税は本件と別で、残りますThe Washington Post

Q2:日本向けはどうなる?
A:今回の「世界一律10%」は国を問わず適用される設計でした。最高裁がIEEPA関税を容認する場合、日本発製品にも同様の政策リスクが継続します。cit.uscourts.gov

Q3:いつ結論が出る?
A:口頭弁論は11月5日。判決は今期中(OT 2025)に示される見通しです。SCOTUSblog


主要情報源(実務で押さえるべき公的文書・一次情報)

  • 最高裁事件ページ(口頭弁論指定・併合・争点)Trump v. V.O.S. SelectionsLearning Resources, Inc. v. TrumpSCOTUSblog+1
  • CIT判決(2025/5/28、差止・無効):関税はIEEPAの権限外、要件も未充足の部分。cit.uscourts.gov
  • 連邦巡回区控訴裁(2025/8/29)意見書(7対4でCIT支持)とmandate保留命令cafc.uscourts.gov+1
  • 政府側上告申立(Petition):IEEPAの「規制」に関税が含まれるとの主張、非委任論点の提示。Supreme Court
  • シンクタンクの論考(法経済影響・非委任/メジャー・クエスチョン)Brookings+1

補足:今回の審理は「IEEPAの用途」を決定づける可能性

IEEPAはこれまで資産凍結・取引禁止等の制裁で中核的に使われてきました。最高裁が「関税も可」と広く認めれば、通商政策の迅速展開が可能になる一方、企業側には恒常的な政策リスク管理が求められます。逆に狭く解釈すれば、関税は貿易法(232/301等)や議会立法に回帰し、政策の予見可能性は相対的に高まります。Brennan Center for Justice+1


免責:本レポートは一般的情報の提供を目的とし、法的助言ではありません。具体的案件は、米通関・通商法に通じた専門家へご相談ください。

米国の相互関税に関するアップデート(2025年11月4日時点)

注記: 本資料で扱う「相互関税」は、米国が2025年に発動した “Reciprocal Tariff”(相互主義に基づく追加関税)を指します。記載されている各国の関税率は、米国への輸入時に既存の関税(MFN税率、232条/301条措置など)に加えて課される、あるいは調整される追加関税率です。


1. 策定の進め方(計画)

  • 範囲定義: 米国の相互関税(Reciprocal Tariff)と、カナダ、メキシコ、中国に適用される別枠のIEEPA関税および一時停止措置を対象とする。
  • 一次ソース: ホワイトハウス(WH)発表の大統領令(EO)・ファクトシート(FS)、連邦官報(Federal Register)の告示、米国税関・国境警備局(CBP)のCSMS通知、およびJETROの対外公表資料。
  • 国別情報の抽出: ユーザー指定順に整理。7月31日の大統領令(Annex I)で税率が明示された国はその値を採用。EU、日本、中国、カナダ、メキシコについては、個別の命令や合意に基づき情報を上書き。
  • 前日差の確認: 11月3日から4日にかけて、連邦官報、CSMS、ホワイトハウスの更新情報を調査。変更点があった場合は「前日差」の欄に明記。
  • 検証: 各数値の根拠となる条文、Annex、告示番号を可能な限り付記し、注記にて実務上の留意点(例:積替えと見なされた迂回輸入には**40%**の追加関税)を併記。

2. 前日(11月3日)からの主な差分

  • 全体: 連邦官報・CSMS共に新規発表はなく、主要な変更はありません。
  • 中国: 11月2日付のホワイトハウス発表によると、2つの主要な変更が予定されています。
    1. フェンタニル関連措置の緩和: 11月10日以降、別枠で課されている「対中フェンタニル関連追加関税」を10%ポイント削減(現行20% → 10%)する予定です。
    2. 相互関税の停止延長: 現在「相互関税の高率部分」に適用されている一時停止措置が、2026年11月10日まで延長されることが案内されました。
      これにより、本日時点での相互関税率(10%)に変更はありません。

3. 相互関税:最新一覧(米国への輸入に対する追加関税)

凡例:

  • EU/日本(15%上限方式): MFN税率(最恵国待遇税率)が15%未満の品目は、合計が15%になるよう差額が追加関税として課されます。MFN税率が15%以上の品目は追加関税0%となります。
  • 中国: 相互関税の高率部分が一時停止されており、2026年11月10日まで一律10%の追加関税が適用されます(8月11日の大統領令で延長)。
  • カナダ/メキシコ(IEEPA関税): 相互関税の適用対象外。代わりに国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく別枠の関税が課されます。カナダは35%(エネルギー関連品目は10%)、メキシコは25%です。
  • 積替え(迂回輸入): 第三国を経由した迂回輸入と認定された場合、原産国に関わらず**40%**の特別関税が適用されます(8月7日発効)。
  • 出所の原則: 下表で特に注記がない国の税率は、7月31日の大統領令 Annex Iに基づきます。
国名関税率(追加)前日差出所備考
Algeria30%なしWH EO Annex I
Angola15%なし同左
Bangladesh20%なし同左
Bosnia & Herzegovina30%なし同左
Botswana15%なし同左
Brazil10%なし同左
Brunei25%なし同左
Cambodia19%なし同左
Cameroon15%なし同左
Canada*35%(エネルギー10%)なしWH FS / FR通知IEEPA関税。USMCA原産品も対象。詳細はFR参照。
Chad15%なしWH EO Annex I
China*10%なしFR (EO 14298/14334)相互関税の高率分は2026/11/10まで停止中。11/10以降、別枠のフェンタニル関連関税は10%へ縮小予定だが、相互関税10%は継続。
Côte d’Ivoire15%なしWH EO Annex I
DR Congo15%なし同左
EU*15%上限方式なしWH EO / FR通知MFN<15%は差額加算、MFN≥15%は追加0%。航空機・医薬品等に免除あり。
Falkland Islands10%なしWH EO Annex I
Fiji15%なし同左
Guyana15%なし同左
India25%なし同左
Indonesia*19%なし同左
Iraq35%なし同左
Israel15%なし同左
Japan*15%上限方式なしFR通知日米合意に基づく。多くの品目は合計税率が15%に調整される。航空宇宙・自動車等は別途規定。
Jordan15%なしWH EO Annex I
Kazakhstan25%なし同左
Laos40%なし同左
Lesotho15%なし同左
Libya30%なし同左
Liechtenstein15%なし同左
Madagascar15%なし同左
Malawi15%なし同左
Malaysia19%なし同左
Mauritius15%なし同左
Mexico*25%なしFR通知IEEPA関税。USMCA原産品も対象。詳細はFR参照。
Moldova25%なしWH EO Annex I
Mozambique15%なし同左
Myanmar40%なし同左
Namibia15%なし同左
Nauru15%なし同左
Nicaragua18%なし同左
Nigeria15%なし同左
North Macedonia15%なし同左
Norway15%なし同左
Pakistan19%なし同左
Philippines19%なし同左
Serbia35%なし同左
South Africa30%なし同左
South Korea15%なし同左
Sri Lanka20%なし同左
Switzerland39%なし同左
Syria41%なし同左
Taiwan20%なし同左
Thailand19%なし同左
Tunisia25%なし同左
Vanuatu15%なし同左
Venezuela15%なし同左
Vietnam20%なし同左
Zambia15%なし同左
Zimbabwe15%なし同左

(注)上表の「Canada/Mexico/China/EU/Japan」の扱いは、Annexの一般則を個別の大統領令や通知で上書きしているため、実務上の判断は必ず該当の告示本文で確認してください。


4. 実務上の追加メモ

  • 他制度との関係: 232条(鉄鋼・アルミ等)や301条(対中)措置は相互関税と併存します。ただし、EUや日本に適用される「15%上限方式」のように、相互関税側で上限設定や免除が規定される場合があります。
  • USMCA原産品: カナダ・メキシコ向けのIEEPA関税は、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に基づく原産品であっても追加で課税されます。
  • 法的リスク: 一部の関税措置は司法審査が係争中です。ただし、その効力は連邦官報の告示とCBPの実務運用に従うため、常に最新のCSMS/FR情報を確認することが最も安全です。
  • 日本語参考資料: 全体像を把握するため、JETROが発行する「相互関税」に関するまとめ資料などを併読することを推奨します。

5. 主な根拠ソース

  • 7/31 大統領令: “Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates”
    • Annex Iにて各国税率、EUの15%上限方式、迂回輸入への40%関税を規定。
  • 中国関連:
    • 5/12 EO 14298: 対中関税を10%へ一時移行。
    • 8/11 EO 14334: 上記措置を2025年11月10日まで延長。
    • 11/02 WH発表: 停止措置を2026年11月10日まで再延長。
  • 日本関連:
    • 9/16 FR通知: 「米日合意の関税関連要素の実装」にて15%上限方式の適用方法を規定。
  • EU関連:
    • 9/25 FR通知: 「米EUフレームワークの実装」にて航空機、医薬品等の品目免除を規定。
  • カナダ関連:
    • 3/6 FR通知: IEEPA関税の適用細目を規定。
    • 7/31 WH FS: 税率を35%(エネルギー10%)へ増額。
  • メキシコ関連:
    • 3/6 FR通知: 25%のIEEPA関税の適用細目を規定。

FTA原産地証明:USMCA・CPTPP 自己証明制度の実務ガイド

近年主流となっている自由貿易協定(FTA)では、輸入者、輸出者、または生産者が自らの責任で産品が協定上の原産品であることを証明する「自己証明制度」が採用されています。

本稿では、特に重要な二つのメガFTA、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)とCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)における自己証明制度の要件を比較し、日本企業の輸出実務担当者が押さえるべきポイントを解説します。

1. 自己証明制度の基本概念

まず、制度を理解するための3つの重要な概念を解説します。

  • 自己証明 (Self-Certification)
    輸入者、輸出者、または生産者のいずれかが、協定で定められた記載事項を満たした書類を作成し、産品が協定上の「原産品である」と宣言する仕組みです。特定の様式は定められておらず、商業インボイスやその他の商業書類、あるいは別紙への記載が認められます。
  • 品目別原産地規則 (PSR – Product-Specific Rules of Origin)
    産品が原産品と認められるための具体的な基準です。主に以下の3つの柱で構成されます。
    • 関税分類変更基準 (CTC – Change in Tariff Classification): 非原産材料のHSコード(関税分類番号)が、完成品のHSコードから指定されたレベル(例:2桁、4桁、6桁の変更)で変更されていることを求める基準。
    • 付加価値基準 (RVC – Regional Value Content): 協定域内での付加価値が、協定で定められた計算方法に基づき、一定の割合(例:40%以上)に達していることを求める基準。
    • 特定工程基準 (SP – Specific Process): 特定の製造工程(例:化学反応、紡織、溶融など)が協定域内で行われていることを求める基準。
  • 事後検認 (Verification)
    輸入国の税関が、輸入申告後、提出された原産地証明やその根拠資料に基づき、産品の原産資格を検証する手続きです。検証は、書面による照会や、生産者(輸出者)の施設への実地調査によって行われます。

2. 要件比較:USMCA vs. CPTPP(日本輸出者の実務視点)

両協定の自己証明における具体的な要件を、実務上のポイントと共に比較します。

項目USMCACPTPP実務メモ(日本輸出者)
対象協定米国・メキシコ・カナダ協定環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(日本、豪州、カナダ、メキシコ、英国など12カ国)英国は2024年12月15日に発効済み。対象国の確認が常に必要。
証明作成者輸入者・輸出者・生産者輸入者・輸出者・生産者どちらも同じ。輸入者主導で証明を求められるケースを想定し、自社(輸出者)版と輸入者版の様式を準備するとスムーズ。
様式自由書式(協定附属書5-Aの9要素を満たす)自由書式(協定附属書3-Bの9要素を満たす)必須9要素はほぼ共通。社内共通テンプレート化が効率的。
必須要素9要素(証明者、輸出者、生産者、輸入者、品名・HS6桁、原産基準、包括期間、署名+宣言文など)9要素(構成はUSMCAとほぼ同等)項目名の呼称差(例:Certifier)を吸収すれば、単一のフォームで両協定に対応可能。
包括証明最長12か月の複数出荷を単一の証明書でカバー可能(Blanket証明)。同様に最長12か月。年次更新が基本。更新漏れを防ぐ管理システムの構築が重要。
使用言語英語、フランス語、スペイン語(輸入国税関が翻訳を要求可能)英語での提出を各国が受理英語で作成したテンプレートで運用を統一するのが最も効率的。
記録保持義務5年間(輸入者・輸出者・生産者)5年間(同上)社内規程やサプライヤーからの根拠資料(宣誓書など)の保持期間も5年に統一することが望ましい。
第三国インボイス非加盟国発行のインボイス上には記載不可。別紙で提出が必要。第三国発行インボイスの場合、別紙提出が求められる(例:カナダ税関)。【重要】 インボイス発行国が協定加盟国かをチェックし、非加盟国なら自動で別紙扱いにするロジックが必須。
原産地基準の表記HSコード6桁+PSR(CTC/RVC/SPなど)を明記。同様に明記が必要。根拠の追跡可能性のため、「PSR条番号+基準コード(例: CTH, RVC40)+計算式」まで定型化して記載するのが望ましい。
僅少の原則(デミニミス)原則10%(非繊維中心/一部例外あり)原則10%(附属書3-Cの例外に注意)例外品目(例:HSコード第50~63類の繊維品)は要注意。テンプレートに**「例外チェック欄」**を設けると安全。
自動車等の特例RVC、労働付加価値基準(LVC)、鉄鋼・アルミ使用比率など、極めて厳格かつ特殊な要件あり。PSRの差はあるが、USMCAほど特殊な規定は少ない。USMCAの自動車・部品は、専用の計算根拠(ワークシート)を用いた厳格な管理が必須。
事後検認書類要求・現場検査(工場実査)が可能(第5.9条)。同様に検認手続きあり(第3.27条)。税関からの照会に対し、「48時間以内に受領返信→10営業日以内に本回答」など、社内での対応基準(SLA)を標準化しておくことが有効。
デジタル対応電子提出・電子署名を受理。電子形式での提出を協定条文で許容。原本スキャン(PDF)+検索可能なメタデータ管理で、監査(検認)時の即時対応性を確保する。
証明の有効期間税関は、証明書作成日から4年間は特恵関税の要求を受理可能(事後請求)。原則、証明書発行日から1年間有効。【注意】 CPTPPは「1年」で管理するのが安全。更新カレンダーと自動リマインドが必須。

3. 実務Tips:共通テンプレートによる一元管理

USMCAとCPTPPは類似点が多いため、日本本社が主導して証明プロセスを共通化するのに適しています。以下に具体的な運用方法を提案します。

  1. 共通原産地証明書(COO)テンプレートの設計
    • ヘッダーに**協定名(USMCA/CPTPP)**を選択するプルダウンメニューを設置します。
    • 両協定の9つの必須要素を網羅する共通フィールドを設計します。
    • 原産基準(PSR)の記載方法を「基準コード(例:CTH)+ 該当条番号 + (RVCの場合)計算式」の形式で統一します。
  2. 「裏付け資料パッケージ」の標準化
    全ての証明書に対し、その根拠となる資料一式を紐づけて管理し、監査対応力を高めます。
    • 資料例: サプライヤー宣誓書、部品表(BOM)、RVC計算ワークシート(Excel等)、品番・工程・原産地の変更履歴ログ。
  3. 更新・監査プロセスの確立
    • 12か月の包括期間が満了する前に、更新を促す自動リマインダーが担当者に通知される仕組みを構築します。
    • 高リスク品目(自動車関連、電子機器など)は、年2回程度の抜き取り内部監査を実施し、コンプライアンスを維持します。
  4. インボイス発行国に応じた自動分岐ロジック
    共通テンプレートに、「インボイス発行国が協定非加盟国か?」というチェック項目を組み込みます。Yesの場合、インボイス上への記載をロックし、自動的に**「別紙提出」**のフォーマットに切り替わるように設定します。これは、両協定の要件を満たす上で極めて重要な機能です。

EU・中国間の輸出管理(レアアース・半導体)協議に関するビジネス影響分析

AIを用いてまとめた分析です。

1. エグゼクティブ・サマリー(最重要点)

  • レアアース規制(拡大分)の停止: EUと中国は輸出管理を巡る対話を継続。中国が10月に導入したレアアースの広範な新規制(対象元素・技術の拡大、第三国での使用管理等)について、発効から1年間の停止とすることで合意。この措置がEUにも適用されることを欧州委員会が確認しました(セフチョビチ欧州委員発表)。[Reuters, Reuters+1]
  • 既存規制の摩擦は継続: あくまで「10月拡大分」の停止であり、それ以前から存在する既存の輸出許可制度・審査は存続します。欧州委員会は「供給網の安定確保と一般許可(General Licences)などライセンス円滑化の議論を継続する」としており、当面はライセンス遅延などの摩擦が続く見込みです。[South China Morning Post]
  • 半導体の火種(Nexperia問題): 蘭政府によるNexperiaの管理下移行への対抗措置として、中国商務省が同社の中国拠点からの対外出荷を一時ブロックしていた問題も議題となりました。現在は、一部輸出の免除(Exemptions)を検討する段階に進展しており、供給危機回避の糸口が見え始めています(ただし実装は未確定)。[Reuters+1]
  • マクロ環境: 中国は希土類精製で世界シェア90%超を占めます。今回の「1年停止」は世界供給の冷却材となりますが、期限付きであり政策リスクは依然高い状態です。EU側はCRMA(重要原材料法)による自給率向上と規制協調を並行して進めています。[Reuters+1]

2. 現状整理:何が「決まった」のか/何が「変わらない」のか

決まったこと(短期的な安心材料)

  • 中国が10月に拡大したレアアース輸出管理措置が、1年間停止されます(EU向けにも適用)。[Reuters]
  • EUと中国は、輸出管理の実務運用(実装)の改善に向け、継続的に協議を行う枠組みが維持されます。

変わらないこと(継続する摩擦・リスク)

  • 拡大「前」から存在する既存の輸出許可制・審査は存続します。欧州企業は、ライセンス申請の遅延や手続き負荷の影響を引き続き受ける見込みです。一般許可の導入などはまだ「検討段階」です。[South China Morning Post]
  • 10月の新ルールが示した広範な管理構造(対象元素・装置・技術の拡大、域外使用への関与)自体は撤回されておらず、構造的な政策リスクは払拭されていません。[Reuters]
  • Nexperiaを巡る輸出ブロックは「部分的免除の検討」に入った段階であり、全面解消は未確定です。欧州の自動車向け汎用半導体の供給リスクは、引き続き注視が必要です。[Reuters]

3. 企業インパクト(業界別の要点)

自動車・EV/産業機械

  • 永久磁石(レアアース): Nd-Fe-B系磁石の確保とコスト見通しが引き続き主要課題です。「拡大規制の停止」はコストの急激な上振れを回避する材料ですが、既存許可制によるリードタイムの不安定さは残ります。[South China Morning Post]
  • 車載半導体: Nexperiaの動向が、車載ディスクリート半導体の短期的なボトルネックとなります。免除が実務レベルで浸透すれば逼迫は和らぎますが、契約・在庫の手当ては当面継続が必要です。[Reuters+1]

再エネ(風力)・家電・防衛

  • 高性能磁石(Tb、Dy等の重希土類)や、分離・焼結工程での中国依存が続きます。今回の「1年」という猶予期間を、代替材・再生材の検証、在庫戦略の見直しに振り向ける好機と捉えるべきです。

半導体サプライチェーン

  • 中国国内の後工程(組立・テスト)に依存する欧州ブランド品の、欧州向け再輸出許可が当面のボトルネックです。Nexperia問題で焦点となった「免除」の実務運用と、原産地・加工地の設計変更の検討が重要になります。[Reuters]

調達・法務・コンプライアンス

  • EU側もデュアルユース(軍民両用)管理表の2025年更新や、アウトバウンド投資(対外投資)レビューの導入を進めています。中国側だけでなくEU側の規制強化にも対応する社内コンプライアンス体制、品目特定の棚卸しが急務です。[Trade and Economic Security+1]

4. 直近90日のアクション(実務チェックリスト)

  1. クリティカル部材の「品目・工程マップ」更新
    • HSコード、中国側の輸出許可要件(既存分)、再輸出の可否、第三国加工時の適用有無を可視化します。
    • (例:レアアース原料 → 磁粉 → 磁石 → モーター のどの段階で許可が必要か)
  2. ライセンス戦術の二段構え
    • 既存許可: 申請の前倒しと、書類簡素化のための社内テンプレートを整備します。
    • 一般許可: EU・中国協議で議題化された「一般許可(General Licences)」の動向を監視し、対象となり得る品目の型番集約(グルーピング)を進めます。[South China Morning Post]
  3. 在庫と代替の「移行戦略」策定
    • 1年の停止期間を、安全在庫レベルの見直し(目標DIO、供給元別バッファ)に充てます。
    • 代替材・代替工程(重希土類削減磁石、代替磁材、欧州内分離・再生材)の検証を加速します。CRMA(重要原材料法)関連のサプライヤーやプロジェクトも把握します。[European Commission]
  4. 契約条項と価格式のアップデート
    • 政府規制変更条項(Change in Law)、不可抗力条項を明確化します。
    • 価格スライダー(変動条項)に希土類指数や合金サーチャージを組み込みます。
    • Nexperia等の個別企業リスクに備え、供給保証条項を見直します。[Reuters]
  5. 社内ガバナンス:輸出管理 × 事業継続(BCP)
    • 責任者、承認フロー、監査証跡を整備します。特にEUのデュアルユース更新やアウトバウンド投資レビューの要請に合わせて、海外設計拠点、合弁事業、研究投資の技術スコープを再点検します。[Trade and Economic Security+1]

5. シナリオと備え

  • ベースケース: 拡大規制は停止状態が継続。既存許可制は「一般許可」の導入などで運用が部分的に改善。Nexperiaは段階的免除が実務適用され、欧州自動車向けの急性リスクは後退。ただし、申請遅延や一過性の逼迫は継続する。[South China Morning Post+1]
  • アップサイドケース: EU・中国が包括的なライセンス簡素化で合意し、優先品目リストの迅速処理が実現。レアアース・半導体ともに納期が安定する。
  • ダウンサイドケース: 地政学的な緊張激化などにより、1年を待たずに「停止」が打ち切られ、拡大規制が再強化される。Nexperiaを含む域外再輸出に対し、新たな条件が付与される。JIT(ジャストインタイム)生産に打撃が及び、価格とリードタイムが再び急騰する。[Reuters]

6. 重要な背景(コンテクスト)

  • 10月の拡大規制の中身: 対象となる希土類、関連装置、技術を増やし、ライセンス要否の範囲を広げました(第三国での利用に関与する場合も含むと解釈される文言)。今回の合意は、この「拡大分」を1年間停止するものです。[Reuters]
  • EUの政策側面:
    • CRMA(重要原材料法): 2030年までに域内抽出10%・加工40%・リサイクル25%等の目標を設定。特定一国(=中国)からの依存度を各工程で65%未満に抑える目標です。[European Commission]
    • デュアルユース規制: 2025年の管理表改定が進行中。量子、半導体、先端材料の更新に対応が必要です。[Trade and Economic Security]
    • アウトバウンド投資レビュー: 2025年1月の欧州委勧告に基づき、半導体・AI・量子等への対外投資のリスク点検を加盟国に要請しています。[Reuters]
  • Nexperiaの特殊要因: 蘭政府が同社を管理下に移行させたことへの対抗として、中国側が輸出ブロックを発動。その後、欧州自動車業界の汎用品不足リスクが顕在化したため、免除検討へと舵を切った経緯があります。[Reuters+1]
  • 構造的依存: 希土類の精製および磁石製造において、中国が支配的な地位にあり、EUの短中期的な完全自立は困難です。[Reuters]

7. 直近のマイルストーン(ウォッチリスト)

  • 今後数週間: EU・中国「輸出管理対話」のフォローアップ。レアアースのライセンス円滑化(一般許可など)の具体策に注目。[South China Morning Post]
  • (随時): Nexperia問題。免除の適用範囲と実務プロセスの運用開始時期。自動車OEMやTier1サプライヤーの納期アラートを監視。[Reuters]
  • ~2025年末: EUデュアルユース管理表の改定施行。社内の該非判定リストや基幹システム(SAP等)のマスタ改修期限。[Trade and Economic Security]
  • ~2026年10月: 中国のレアアース拡大規制「1年停止」の期限。延長、再開、あるいは新制度への移行のシグナルを早期に検知する。[Reuters]

8. 現場向けミニFAQ

Q. 「1年停止」=リスク解消、と考えてよいか? A. いいえ。停止されたのは「10月拡大分」のみです。既存の許可・審査は継続しており、ライセンス遅延は依然としてボトルネックです。申請の前倒し、品番集約、安全在庫による緩衝策は継続してください。[South China Morning Post]

Q. 欧州向けの供給は改善するか? A. 短期的には改善が期待できます(拡大分停止+Nexperia免除検討)。ただし、合意内容が実務の運用(申請→審査→出荷)に反映されるまでには時間差が生じます。暫定的な代替調達・在庫戦略は維持してください。[Reuters]

Q. どの分野が最も神経質になるべきか? A. 2系統あります。①磁石を多用するモーター関連(EV、風力発電)と、②車載向けの汎用ディスクリート半導体です。この2つは「安定供給が収益に直結」する分野であり、引き続き最重要監視対象です。[Reuters]


9. 総括(ひと言まとめ)

今回の合意は、中国側による「拡大規制の即時発動にブレーキ」をかけ、「対話の継続」を選んだ**「時間を買う」措置**です。

企業側はこの1年の猶予期間で、既存ライセンス運用の省力化、在庫設計の最適化、代替ルート(代替材・代替工程)の検証を一段引き上げ、「止まらない調達」の体質化を進めることが最善策となります。

「米国が日本製トラック・バスに新関税」のビジネス実務への影響分析

AIにまとめてもらった分析です。

(2025年11月1日 米国東部夏時間 0:01 発効)

1. 要点(エグゼクティブ・サマリー)

  • 概要: 米国政府は、通商拡大法232条(国家安全保障条項)に基づき、日本製を含む特定品目に追加関税を課す大統領布告を発出しました。この措置は既存の関税に上乗せされ、2025年11月1日(米東部夏時間 0:01)より発効しています。
  • 対象と税率:
    • 中・大型トラック(MHDV)および主要部品: 追加 25%
    • バス(HTS 8702): 追加 10%
  • 日本への影響:
    • トラック: 日本原産の完成トラックは、従来の関税(通称「チキン税」25%)に新たな25%が加算され、合計で約**50%**という極めて高い関税率が課されます。
    • バス: 従来の一般税率(約2%)に10%が上乗せされます。
  • USMCA(北米自由貿易協定)の特例:
    • 完成車(トラック): メキシコやカナダでUSMCA原産資格を満たす場合、追加25%関税は、車両価額のうち**「非米国コンテンツ価額」部分にのみ適用**されます。ベース関税は原則0%です。
    • 部品: USMCA原産の部品は、当面は追加関税の適用が停止されます。ただし、ノックダウン(KD)キットは課税対象です。
  • 通関実務: CBP(米税関・国境警備局)は、CSMS(通関業者向け通知)を通じて、HTS第99類(Chapter 99)コードの申告方法など具体的な通関指示を公表しています。

2. 政策の詳細と実務上のポイント

項目内容根拠
税率と発効日・トラック・主要部品: 追加 25%
・バス(HTS 8702): 追加 10%
・発効: 2025年11月1日 0:01 (EDT) 以降に「輸入(消費のための引取り)」される貨物から適用。
USMCA原産トラックの特例USMCA原産資格を満たす中・大型トラックは、追加25%関税が**「非米国コンテンツ価額」部分にのみ適用**される。米国産コンテンツ価額部分は課税対象外となる。
USMCA原産部品の扱いUSMCA原産のトラック部品は、商務省とCBPが非米国コンテンツ部分のみに課税するプロセスを整備するまで、当面は追加関税の対象外となる。
KDキットの例外KD/CKD(ノックダウンキット)は、USMCA原産資格を満たす場合でも課税対象と明記された。
米国内生産へのオフセット措置米国内のトラック組立メーカーは、完成車価額の**3.75%**相当額を上限に、輸入部品に課された232条関税を相殺(オフセット)できる制度を活用できる。
日本製部品への特例一部の日本製自動車部品について、既存の関税率が15%未満の場合、232条関税と合わせて**合計15%**となるよう税率が調整される。

3. コスト影響の簡易試算

ケースA:日本から完成トラックを直接輸入(CIF価格 $120,000)

  • 既存関税 (25%): $30,000
  • 新232条関税 (25%): $30,000
  • 合計関税: $60,000 (CIF価格の50%)

ケースB:メキシコで組立(USMCA原産)、非米国コンテンツ比率45%(CIF価格 $120,000)

  • ベース関税: 0% (USMCA特恵)
  • 新232条関税: $120,000 (CIF) × 0.45 (非米国比率) × 0.25 (新税率) = $13,500
  • 実効関税率: 11.25%相当

免責事項: 上記は概算です。実際の負担額は、HSコード、原産性、課税価格、その他費用(HMF/MPF等)により変動します。必ず専門家にご相談ください。

4. 企業別の影響と対応策(To-Doリスト)

1) 完成車の輸入事業者(ディーラー、商社)

  • 影響: 日本原産トラックの実効税率が約50%となり、価格競争力が著しく低下する。
  • 対応:
    • HS分類の再精査: 税率が異なる8702(バス: 10%)と8704(貨物車: 25%)の分類は、CBPの審査が厳格化する見込み。証拠資料を整備する。
    • 物流戦略の見直し: 関税は「消費のための引取り」時点で課されるため、保税倉庫やFTZ(外国貿易地域)の活用を再検討する。

2) 北米での組立事業者(OEM、Tier1サプライヤー)

  • 影響: USMCA原産資格がコストを左右する。コンテンツ比率の管理が重要となる。
  • 対応:
    • BOM(部品表)の精緻化: 「米国コンテンツ比率」の正確な算定と、サプライヤーからの証明書回収プロセスを構築する。
    • USMCA監査への備え: 原産地証明、地域価額割合(RVC)の計算根拠など、監査に耐えうる記録管理を徹底する。
    • KD生産の見直し: 課税対象となるKDキットに代わり、北米内での溶接・塗装など、より実質的な製造工程への移行を検討する。

3) 日本からの部品サプライヤー

  • 影響: USMCA原産部品は当面適用除外だが、制度変更後は課税リスクが顕在化する。
  • 対応:
    • CBPガイダンスの反映: IOR(輸入者)と連携し、Chapter 99コードの申告など実務手順を更新する。
    • 契約条件の見直し: 関税サーチャージ条項の導入や、インコタームズの変更(DDPへの切り替え等)を検討し、関税負担リスクを明確化する。

5. よくある誤解と注意点

  • 誤解: 「USMCA原産なら新関税はゼロになる」
    • 訂正: なりません。完成トラックの場合、「非米国コンテンツ」部分には25%が課税されます。
  • 誤解: 「USMCA原産の部品は(新関税に)関係ない」
    • 訂正: 当面は適用停止ですが、恒久的ではありません。また、KDキットは当初から課税対象です。
  • 注意点: 関税は「輸入申告(消費引取り)時点」で課税される
    • 船積日や契約日ではなく、米国内での法的な輸入手続きのタイミングが重要です。

6. 日本企業が取るべき戦略オプション

  1. 北米での製造工程の深化: 課税対象のKD/CKDを避け、北米(米国・メキシコ・カナダ)での溶接・塗装といった実質的な工程を増やすことで、米国コンテンツ比率を引き上げる戦略が有効です。
  2. サプライチェーンの再設計: 「日本 → メキシコ(組立) → 米国」という流れでも、日本製コア部品の比率が高いと関税メリットが薄れます。サプライヤーの北米現地化や代替調達の費用対効果を再評価する必要があります。
  3. 契約・価格戦略の見直し: 関税変動を織り込んだ価格調整条項を契約に盛り込むことが、今後の標準的なリスク管理手法となります。
  4. コンプライアンス体制の強化: HSコード分類、原産地証明、BOM(部品表)の整合性など、CBPの事後調査(監査)に耐えうる文書管理体制が、企業の財務リスクを直接的に左右します。