韓国のCPTPP加盟再検討が企業に与える影響を深掘りする


(2026年1月11日現在の公開情報に基づく)

はじめに

2025年後半から、韓国政府はCPTPP(包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定)への参加を「再検討」する姿勢を、政策レベルで改めて打ち出し始めました。 背景には、対米・対中への依存度が高い輸出構造のリスクと、主要市場における競争条件の変化があります。 韓国の動きは、韓国企業だけでなく、日本企業の調達・販売・現地生産・投資判断にも連鎖的に影響し得ます。koreajoongangdaily.joins+1​

本稿では、韓国が「加盟した場合」の関税メリットにとどまらず、どの業務プロセスがどの順番で影響を受けやすいのかを、実務目線で整理します。結論を先に述べると、最大の論点は関税そのものよりも、メキシコを中心とした競争条件の再編と、原産地規則を前提としたサプライチェーン設計の見直しです。clarkhill+1​


要点(忙しい方向け)

  • 韓国政府は2025年9月頃からCPTPP参加の再検討を公表し、2025年12月には「CPTPPとの関係強化」を含む通商方針を示しています。 2026年1月上旬時点で公表されている表現は「再検討」「準備が整い次第追加措置」といったレベルにとどまり、寄託国への正式通報(加入申請)の提出時期や、すでに提出済みかどうかを明示した情報は確認できません。nippon+2​
  • CPTPPは2026年1月時点で12の締約国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、英国)で構成されており、英国の加入手続は2024年末に効力を生じています。 新規加盟は既存ルールの変更を前提とせず、加盟希望国はまず寄託国ニュージーランドに正式な加入要請を通報し、その後CPTPP委員会の合意、作業部会設置、市場アクセス交渉など複数段階を経ることになります。mfat+3​
  • 韓国にとって分かりやすい「痛み」は、メキシコで顕在化しています。メキシコは2026年1月1日から、FTA未締結国など一部の国からの輸入について、約1,400品目でMFN関税率を引き上げ、鉄鋼や自動車など一部品目では最大50%の関税が適用され得ると報じられています。 対象には韓国が含まれ、一方で日本は日墨EPAやCPTPPにより、多くの品目で協定税率の適用余地があるため、同じ市場で競争条件が分かれやすい状況です。craneww+3​
  • 韓国がCPTPP加盟に進むほど、日本企業にとっては「韓国企業の競争力が上がる」という側面と、「日本企業が韓国をサプライチェーンに組み込みやすくなる」という側面の両方が生じます。 どこに勝ち筋があるかは、取引先・製造拠点・品目ごとに異なります。mfat+1​

第1章 いま何が起きているのか:再検討の位置付け

韓国政府は2022年前後にCPTPP参加を推進する方針を示しつつも、正式な加盟申請には踏み切れなかったと報じられています。 要因として、農業・水産業を中心とする国内の反発や、当時の日韓関係の緊張が挙げられます。koreatimes+1​

その後、2025年9月、米国および中国をめぐる通商環境の不確実性への対応策の一つとして、韓国政府はCPTPP参加の再検討に着手する方針を明らかにしました。 さらに2025年12月には、産業通商資源部などが2026年の政策目標の中で、対中サービス分野のFTA推進と並行してCPTPPとの関係強化に言及したとされています。investkorea+1​

CPTPPの締約国閣僚は2025年5月16日に韓国・済州で会合を開いており、韓国は加盟国ではないものの、地域の通商アジェンダを議論する場として位置付けられていることがうかがえます。 また2026年1月上旬には、日韓首脳会談でCPTPPが議題となる可能性が報じられ、韓国側は日本の支持獲得を模索しているとされています。 ただし、韓国政府の説明は「準備が整い次第、追加措置を取る」といった表現にとどまり、実務的には「国内調整と事前協議の段階が続いている」と見るのが安全です。gov+3​


第2章 CPTPP加盟プロセス:企業が見るべき節目

CPTPP加盟プロセスでは、ニュースの見出し以上に「手続き上の節目」が重要になります。理由は、各節目を越えるたびに、企業が前倒しで検討すべき論点が変わるためです。mfat

協定文書および関連説明によれば、加盟希望国は寄託国ニュージーランドに正式な加入要請を通報し、寄託国はこれを他の締約国に共有します。 その後、CPTPP委員会がコンセンサスにより交渉開始の可否を決定し、交渉開始が合意されれば、加入作業部会が設置される流れが一般的に想定されています。cas+1​

ニュージーランド政府は、新規加盟国は既存の協定を前提に参加する必要があり、協定文自体が新規加盟国のために書き換えられるわけではない点を説明しています。 つまり「新たな例外を設けて入りやすくする」タイプの交渉ではなく、既存の高水準ルールにどこまで適合できるかが問われます。mfat

またCPTPP側は拡大方針として「オークランド原則(Auckland Principles)」に沿って加盟を進めるとし、十分な準備が整った国・地域からの申請を歓迎するとしています。 ここで言う準備には、高い水準の義務を履行できることや、全会一致の合意を得られる見通しなどが含まれます。cas+1​

実務担当者が注視すべき節目は、次のとおりです。

  • 韓国が寄託国ニュージーランドに正式な加入要請(通報)を行ったかどうか
  • CPTPP委員会が韓国の加盟交渉開始および作業部会設置を決定したか
  • 関税・サービス・投資などの市場アクセスオファーが具体化したか
  • 韓国国内の関連法令改正や国会承認手続きがどこまで進んだか

ここまで進まない限り、企業として「影響が必ず来る」と言い切ることはできません。ただし、プロセスが動き出してから準備しても間に合わない領域があるため、そこに先回りすることが価値を持ちます。mfat


第3章 韓国が再加速する理由:メキシコ問題と競争条件

ビジネスの現場で分かりやすいのが、メキシコのMFN関税引き上げです。メキシコは2026年1月1日から、約1,400前後のタリフラインについてMFN関税率を引き上げ、鉄鋼、機械、自動車など一部品目では最大50%の関税水準に達し得る改正を実施しました。 この改正は主としてFTA未締結国を対象とし、韓国や中国、インド、インドネシアなどが対象国に含まれると報じられています。opportimes+5​

韓国メディアや専門家の報道では、メキシコの関税引き上げに対して韓国輸出企業の警戒感が高まり、韓国政府が適用除外や柔軟運用を求めたものの、交渉は容易ではないとされています。 韓国にとっては、メキシコ市場での価格競争力が関税面から直接圧迫される構図です。foley+1​

一方、日本企業にとって重要なのは、「同じメキシコ市場で、日本は日墨EPAやCPTPPを通じて協定税率を利用できる一方、韓国はMFN税率に直面する品目が出てくる」という非対称性です。 JETRO等の解説でも、今回のMFN関税率引き上げはFTA締結国の協定税率には直接影響せず、FTA非締結国との間で競争条件のギャップが拡大する点が指摘されています。mohawkglobal+2​

ここから先は仮説レベルの分析ですが、この状況は韓国企業にとって、「メキシコとの二国間交渉を再起動する」か、「CPTPP加盟を通じて協定ネットワークに組み込まれる」かの選択圧として働きやすいと考えられます。 韓国のCPTPP再検討は理念的な側面だけでなく、競争条件の是正という極めて実務的な動機が大きいとみるのが妥当です。clarkhill+2​


第4章 企業への影響を4つに分解する

ここからが本題です。企業が受ける影響は、大きく4つに分解すると見通しが良くなります。

1. 市場アクセス(関税と数量制限)

韓国がCPTPPに加盟すれば、現時点でFTAがない、または条件が相対的に不利な相手国・地域との取引で競争条件が変化します。 代表例がメキシコであり、現在、日本企業は日墨EPAやCPTPPを通じて協定税率を利用できる一方、韓国企業はMFN税率適用品目で不利な局面が生じています。 韓国が加盟することで、こうしたギャップが縮小する可能性があります。global-scm+3​

2. 原産地規則と累積の範囲(サプライチェーン設計)

CPTPPの実務では、原産地規則および加盟国間での「累積」の扱いがサプライチェーン設計に大きく影響します。 韓国が加わると、部材や工程を「CPTPP域内」としてカウントできる範囲が広がり、最適な調達先や生産地の組み合わせが変わり得ます。 CPTPPは包括的な原産地規則を持ち、既存の韓国FTAネットワークよりも累積の選択肢が広がる可能性があるため、原産地規則の運用を競争力の源泉とできる企業ほど優位性を高めやすくなります。mfat

3. ルール分野(デジタル、知財、国有企業、政府調達など)

CPTPPは関税削減にとどまらず、デジタル貿易、知的財産、国有企業、政府調達など幅広いルール分野を含む高水準協定です。 新規加盟国は既存の協定文に従う必要があり、国内法制や行政運用の調整が避けられません。 協定文書はニュージーランド外務貿易省等の公的リソースで公開されており、企業としても条文を直接参照しながらコンプライアンスや契約設計を検討することができます。cas+1​

韓国はデジタル経済分野の国際ルール形成にも積極的であり、2023年にDEPA(Digital Economy Partnership Agreement)への加盟交渉を実質妥結し、2024年に正式に加盟しています。 CPTPPのデジタル関連ルールへの適合という観点では、こうした取組が交渉基盤として参照される可能性があります。mfat+3​

4. 政治経済リスク(国内反発と交渉の不確実性)

企業が読み違えやすいのが、加盟に向けた政治・社会的ハードルです。韓国では過去にも農業・水産業を中心にCPTPPへの反発が強く、加盟申請を見送った経緯が報じられています。 加盟交渉が具体化するほど、農業生産への影響や食品・水産物をめぐる懸念、補償・セーフガード設計などの国内対策を巡る政治コストが増し、スケジュールが揺れやすくなります。everycrsreport+2​


第4章補足 3つの具体的シナリオ(仮説)

以下は、典型的な企業行動を想定した仮説的なシナリオです。自社の実態に合わせて読み替えてください。

シナリオ1 メキシコ向けに日本から完成品を輸出している企業

現状、日墨EPAやCPTPPの協定税率が使える設計であれば、韓国企業が同一製品をMFN税率で輸出する場合、関税差が価格競争力の差として表れやすくなります。 韓国がCPTPPに加盟して協定税率を利用できるようになれば、関税に起因する価格差は縮小し、競争の軸は品質、納期、現地サービスなど非価格要因にシフトしやすくなります。mohawkglobal+3​

シナリオ2 韓国で部材を調達し、CPTPP域内に輸出している企業

韓国がCPTPPに加盟すれば、累積の範囲が拡大し、一部の製品では原産性判定を満たしやすくなる可能性があります。 その結果として、「韓国調達を増やす」「韓国で一部工程を追加する」といったサプライチェーン最適化オプションが現実味を帯びます。原産地規則の設計をサプライヤー選定・工程設計に組み込める企業ほど有利になります。mfat

シナリオ3 日韓でデジタル・サービスを展開する企業

CPTPPは電子商取引やデジタル貿易に関する高水準のルールを含んでおり、新規加盟国はこれらの規律に適合する必要があります。 韓国はDEPA加盟を通じてデジタル分野の国際ルールへのコミットメントを示しており、CPTPPへの対応が進むほど、域内でのデジタル取引の予見可能性が高まり、契約条項やコンプライアンス設計の標準化が進めやすくなる余地があります。digitalpolicyalert+3​


第5章 日本企業はどう動くべきか:実務チェックリスト

韓国のCPTPP加盟は、「決まってから動く」と手遅れになりやすいテーマです。実務では、以下の順で準備するのが効率的です。

1. 自社の「韓国との関係」を棚卸しする

  • 韓国企業に部材・完成品を供給しているか
  • 韓国から部材・サービスを調達しているか
  • 韓国に生産拠点があり、そこからCPTPP域内へ輸出しているか
  • 韓国企業と第三国市場(特にメキシコ、カナダなど)で競合しているか

2. 競争条件が変わる国と品目を特定する

メキシコのように、FTAの有無で関税が大きく分かれる市場では影響が直撃します。 自社の貿易実績から、メキシコ向け、あるいはメキシコを含む北米供給網に関わる品目を優先的に洗い出すアプローチが現実的です。foley+3​

3. 原産地規則に基づくBOM再設計の余地を探る

韓国が加盟した場合、累積の範囲拡大によって原産性判定が通りやすくなるのか、逆に調達先変更で不利になるのかは製品ごとに異なります。 製品別の部材構成表(BOM)をベースに簡易シミュレーションを行い、インパクトが大きい品目から深掘りすることを推奨します。mfat

4. 「いつから効くか」を手続きの節目で追う

交渉開始前に、協定税率や原産地運用が変わることは通常ありません。 したがって、ニュースのトーンよりも、「正式通報」「作業部会設置」「市場アクセスオファー提示」など、前述の手続き上の節目をトリガーとして社内アクションを切り替える設計が有効です。cas+1​


おわりに

韓国のCPTPP加盟検討は、単なる通商ニュースではなく、企業の競争条件と供給網設計に直結するテーマです。 とくにメキシコの関税政策のように、協定ネットワークの差がそのままコスト差となる局面では、韓国の動きが加速するほど市場前提が変わっていきます。koreajoongangdaily.joins+3​

一方で、加盟は自動的に決まるものではなく、段階的なプロセスと全会一致の合意、既存の高水準ルールへの適合が求められます。 企業としては、加盟の成否を「当てにいく」ことよりも、競争条件が変化したときに即応できるよう、品目とサプライチェーン単位で準備を進めておくことが、最もリスクの低い対応と言えます。koreajoongangdaily.joins+2​

  1. https://global-scm.com/blog/?p=3774
  2. https://www.clarkhill.com/news-events/news/mexico-approves-significant-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  3. https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2025-09-03/business/economy/Korea-to-reconsider-joining-CPTPP-as-US-and-China-tighten-trade/2390550
  4. https://www.mfat.govt.nz/en/media-and-resources/joint-press-release-on-the-accession-of-the-republic-of-korea-to-the-digital-economy-partnership-agreement
  5. https://digitalpolicyalert.org/event/19613-implemented-accession-of-the-republic-of-korea-to-the-digital-economy-partnership-agreement
  6. https://www.nippon.com/en/news/yjj2026010901026/
  7. https://www.investkorea.org/ik-en/bbs/i-5073/detail.do?ntt_sn=493042
  8. https://www.mfat.govt.nz/assets/Trade-agreements/CPTPP/CPTPP-CBF-Supply-Chains-Analysis-2023.pdf
  9. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-16-may-2025
  10. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20250516_cptpp_seimei_en.pdf
  11. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/en/pdf/20250516_cptpp_seimei_en.pdf
  12. https://www.craneww.com/knowledge-center/trade-advisory-notices/mexicos-2026-tariff-reform/
  13. https://www.opportimes.com/en/tariff-increases-in-mexico-on-countries-without-trade-agreements-come-into-effect-on-january-1/
  14. https://www.koreatimes.co.kr/business/tech-science/20220102/interview-korea-seeks-role-of-linchpin-in-solving-supply-chain-challenges
  15. https://www.everycrsreport.com/files/2022-02-17_R41481_cd1582d184ddf1e3ea2cdaea764e572b3b2fb772.pdf
  16. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025
  17. https://mohawkglobal.com/trade-translation/mexico-approves-tariff-increases-on-imports-from-non-fta-countries/
  18. https://www.foley.com/ja/insights/publications/2025/12/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune/
  19. https://www.korea.net/NewsFocus/policies/view?articleId=233916
  20. https://www.bilaterals.org/?south-korea-joins-depa-as-first
  21. https://www.kas.de/documents/287213/26295266/IPEF+Discussion+Paper+Series_The+Republic+of+Korea+and+the+IPEF.pdf/4bece26c-b648-23cf-c90d-423c5b6bdfca?version=1.0&t=1696318218947
  22. https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/12376869.pdf
  23. https://www.jiia.or.jp/eng/upload/eng/JapanReview_Vol4_No2_Winter_2021.pdf
  24. https://keia.org/wp-content/uploads/2024/01/KEI_KoreaPolicy_2023_V1-I3_final-draft.pdf
  25. https://blog.crossborderboost.com/policy-paper-cptpp-joint-ministerial-statement-in-jeju-16-may-2025/
  26. https://www.congress.gov/crs-product/R41481
  27. https://www.iti.or.jp/report_121.pdf
  28. https://www.ioe-emp.org/index.php?t=f&f=156744&token=2128a312a06ee23015dfe7e69801803fc94a51ff
  29. https://www.whitecase.com/insight-alert/mexico-formalizes-and-expands-import-tariffs-more-1400-products-key-impacts
  30. https://www.kedglobal.com/business-politics/newsView/ked202509030011

 

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