アフリカをほぼカバーするFTA:AfCFTA解説

AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)解説

1. AfCFTAの概要

AfCFTA(African Continental Free Trade Area)は、アフリカ連合(AU)が主導する大陸規模の自由貿易協定で、物品・サービスの自由化に加え、投資、競争政策、知的財産、デジタル貿易、女性・若者の貿易参画など段階的に統合を進める包括的枠組みです。署名:2018年3月21日(キガリ)/発効:2019年5月30日/貿易運用開始:2021年1月1日。African Union+1

2. 経済規模(イメージ)

対象市場は人口約13億人、名目GDP約3.4兆米ドル。AfCFTAは加盟国数で世界最大の自由貿易圏と位置付けられます。World Bank

3. 参加状況(2025年9月時点の公的・準公的資料による整理)

  • 署名55か国中54か国が署名(未署名はエリトリア)。African Union
  • 批准・寄託(State Parties)49か国(2025年6月および9月の南ア政府提出資料)。DTIC+1
  • 最近の動き(例)リベリア2023年批准・2024年に寄託、実施戦略を2025年8月公表/マダガスカル2024年11月に批准Ministry of Commerce & Industry+2UNECA+2
  • 主な未批准ベナン、リビア、ソマリア、南スーダン、スーダン(エリトリアは未署名)。DTIC
    ※最新個別状況はAU・AfCFTA事務局やtralacのステータスページで適宜確認するのが実務的です。Tralac

4. 主要な沿革

  • 2018/03:協定署名(キガリ)。
  • 2019/05:22か国の批准到達により発効。
  • 2021/01:物品等の貿易運用開始(各国の準備状況に応じ段階的)。
  • 2022/10:**GTI(Guided Trade Initiative)**開始(当初7か国、のち拡大)。African Union+2WCOE SARP SG+2
  • 2024/12e‑Tariff BookRoOモジュールを拡充。
  • 2025/06:RoOモジュールの機能強化をWCOが告知。World Customs Organization+1

5. 原産地規則(RoO)と証明プロセス(実務ポイント)

  • ルール体系:**物品貿易議定書の付属書2(Annex 2)**に一般規定と品目別規則(Appendix IV)が定められています。累積(Article 8)により全てのState Partiesを単一領域とみなす取扱いが可能です。African Union+1
  • 証明方法
    1. AfCFTA様式の原産地証明書(CoO)(指定当局発給)
    2. 原産地宣言(インボイス等)承認輸出者による自己申告、または小口貨物総価額5,000米ドル以下)は非承認輸出者でも可。宣言文言・署名等はAnnexの定めに従います。World Customs Organization+2cuts-international.org+2
  • 実務ツールAfCFTA e‑Tariff Bookで**関税率と該当PSR(品目別RoO)**を横断検索可能。World Customs Organization

6. 関税撤廃のルール(モダリティ)

  • 90%(非センシティブ品目)非LDCは5年、LDCは10年で撤廃
  • 7%(センシティブ品目)非LDCは10年、LDCは13年で撤廃
  • 3%(除外品目):撤廃対象外(ただし輸入価値の集中回避等の条件・見直し規定あり)
    これらはAnnex 1の譲許表に反映され、各国が年次で段階的に実施します。UN Trade and Development (UNCTAD)+1

7. 運用の現状と進捗

  • RoO合意状況約92.4%の関税行で合意。未了は主に繊維・衣類と自動車で、2026年2月の妥結を目標に交渉継続。DTIC
  • 優遇貿易の開始・拡大GTIを通じて試行→対象国が段階拡大。さらに、24か国が譲許表を官報化しAfCFTA下の優遇で実際に輸出入を開始(南アは2024/1/31開始)。DTIC
  • サービス:優先5分野(金融・通信・運輸・観光・ビジネス)で多くの国が初期オファーを提出、EACの約束表官報化、南アの約束表は2025年3月に内閣承認済(検証・採択手続き中)。DTIC
  • 運用インフラNTBオンライン通報・解消メカニズム(tradebarriers.africa)、**African Trade Observatory(ATO)**などの運用ツールが整備。Trade Barriers Africa+1

8. 抱えている主な課題(実務への影響)

  • ルール未整備領域の残存:繊維・衣類、自動車のRoO未確定が一部取引の制約に。DTIC
  • 関税実施・整合の足並み:各国の官報化・税関システム改修の進度差(譲許表の年次実施の追随が必要)。DTIC
  • NTB・行政運用のばらつき:国境手続、規格適合、重複認証等の非関税障壁が残存し、NTBメカニズムの活用が鍵。Trade Barriers Africa
  • 既存RECとの重複:RECはAfCFTAのビルディングブロックと位置付けられる一方、重複加盟による規則の多層化が実務の複雑性を高める。AfricanLII+1
  • 決済・通貨面の制約:域内決済のコスト・ドル依存。PAPSSの本格展開(16中央銀行・140超の商業銀行接続等)が進むが、浸透には時間を要する。Afreximbank
  • インフラの不足:物流・電力等のギャップが大きく、AfCFTAの効果最大化には投資拡大が不可欠。UN Trade and Development (UNCTAD)

付録:実務担当者のチェックリスト

  1. HS品目特定→e‑Tariff Bookで相手国の関税・PSR確認。必要なら代替サプライヤー/工程設計でRoOを満たす。World Customs Organization
  2. 証拠書類整備:BoM、原材料原産証跡、工程記録、原価計算、貨物書類等。
  3. 証明方法の選択:原則CoO承認輸出者原産地宣言を活用。小口(≤5,000USD)は非承認でも宣言可。World Customs Organization+1
  4. GTI/相手国の運用状況を確認(譲許表の官報化、RoO合意有無)。DTIC
  5. 通関でのトラブルNTBポータルに通報/フォロー。Trade Barriers Africa
  6. 決済:可能ならPAPSS等で現地通貨決済を検討。Afreximbank

出典(主要)

本日、RCEPでマレーシアが協定を発効しました

RCEPでマレーシアが使えるようになりました。

マレーシアはTPPは署名しているのですが、こちらは発効するのかしないのか分からない状況。

その一方で、EUとのFTAを画策しているようです。

TPPへの中国、台湾、韓国の参加申請・参加検討に関する私見

中国、台湾、韓国がTPPへの参加を表明または参加検討をすることがニュースになっています。

ニュースやYouTubeで「TPPへの中国、韓国の参加は無理。台湾歓迎」という論調をよく見ますが、FTAを利用する企業側からの視点でこのことを見てみましょう。

(申請に関する是非)

TPPに参加申請をする国は、TPPが定める申請・承認プロセスを経ることになります。申請する段階でその申請を断ることはできません。断る以上は明確な理由が必要となります。

そこで、参加希望国が条件を満たせるかを見定めればよい。中国がWTOに参加するときに遵守するとした条件を今だ守れていないこと、韓国が国際的な決め事を後に保護することなどを加味して各国が見定め、満場一致をもって参加を認めればいいことで現時点で一方的に締約国が「守れない」と主張するのは無理があります。

(日本にとっての経済的メリット、リスク)

RCEPはその協定の内容を見れば分かることですが、日本にとってのメリットが余り感じられない、あったとしてもとても時間がかかる内容です。特に自動車部品の対中国輸出ではメリットがほぼないと言えます。中国や韓国が入ることでメリットが大きいと思われたRCEPですが、実際は日本に取ってそれほど手放しでは喜べないものになっています。

翻って、TPPに中国や韓国が入るとどうなるか。TPPでは日本は米などよく守ったと思われる内容となっている一方で、日本以外ではほぼ100%の関税撤廃となっています。また、その撤廃速度もRCEPとは比べるまでもありません。新規参入の国は、締約国より参加条件がよくなるわけがありません。基本は譲許のスピードが速く、かつほぼ全面的に関税を撤廃することが前提になるでしょう。そうなれば、TPPの方がいろいろな制約のあるRCEPよりも日本企業に取って対中国、対韓国上、関税削減が広く、かつ鋼板に享受できるという活用のメリットが出ると言えます。このメリットはかなり大きなものです。この点だけを考えれば、中国、韓国のTPP参加は日本にとって歓迎すべき事です。

一方、原産地証明上、日本はリスクを背負う可能性があります。

TPPにおける関税低減・撤廃のメリットを得る為には、原産地証明書を輸出時のインボイスに添付する必要があります。その原産地証明ですが、TPPでは「自己証明」という形態をとっています。「自己証明」とは企業が原産性を証明した後に、自身で原産地証明を作成することが出来るということを指します。日EU EPAや日オーストラリアEPAを除き、日本の多くのEPAでは「第三者証明」制度がとられています。これは商品の原産性判定を日本商工会議所に申請し、許可が出た後で、日本商工会議所により原産地証明書を発給してもらうことが出来る制度です。間に日本商工会議所が入ることで時間と手間とコストが企業にはかかることになります。TPPではそれがないので迅速に原産地証明書を得る事ができます。メリットに思えますよね。

FTAでは、原産性が確かなものかを輸入国が輸入時・輸入後に確認できる「検認」が認められています。原産性に関する証拠書類の提出や質疑をして、原産性があることを企業が立証しなければいけません。

先の原産地証明書の発給プロセスで、日本商工会議所が間に入ったEPAでは、検認時には日本商工会議所が輸入国税関と企業の間に立ち、検認の対応を支援していただけます。「自己証明」である日EU EPAは、税関が仲立ちしてくれます。が、TPPはその仲立ちがなく、相手国税関から直接企業に「検認」の問い合わせがいく仕組みになっています。TPPに中国や韓国が入ることで、彼らから日本企業への検認は各国税関から直接企業にいくことなるのです。助太刀のない検認でかつ中国、韓国から。怖いと思うのは私だけでしょうか。「もう少し製造工程を明確にしてもらわないと、原産として認められない」といった製造上の機密情報を要求されかねないという人も居ます。これは考えるべき大きなリスクです。

(TPPのアキレス腱)

ルールを守らないと考えられている中国を経済的に資すると考えられるTPP参加、それを西側として阻止しなければいけないという外交上の日本のスタンスも分からなくもありません。が、TPPの初期交渉当時からかき乱して、そして離脱をしたアメリカの所業も決して褒められたものではなく、実際のTPPの協定文にはアメリカによって(ごり押しと言っていい)内容が数あります。現段階でのTPP締約国は苦々しく思っている内容です。アメリカが戻ってくることを期待して、そのままとしています。

アメリカが戻ってこないなら、締約国は修正したいところでしょう。自動車関連や特に繊維などはアメリカのごり押しの内容です。直したいというのも当然ですし、理想をいえば直すべきだと思います。が、協定内容を変えることを認めれば、ついでに様々なことが書き換えられる恐れがあります。それが中国の参加の際に書き換えられるとなればどうなるか。中国の参加を歓迎するアジアの締約国がマレーシアやシンガポールなど少なからずあるため、非現実的ではないのです。

(英国の参加申請が当面の試金石)

先に、英国がTPP加盟申請を行っているので、英国に対して、協定内容を変えずに協議するか、厳しい参加基準をどう遵守させるかが当面締約国による真偽の中で見守りたい点です。協定を変えることがなければ、中国や申請をした場合の韓国にも同様の措置がとられるでしょう。そうなればTPPの理念は守られます。

それと同時にかき乱してきたアメリカがTPPに参加するなら修正が必要といっており、かつ、TPP参加が現段階でのアメリカの優先順位ではないため、アメリカの動きも見ておく必要があります。

(中国の真意)

中国は本当にTPPに参加したいと思っているのでしょうか。RCEPという巨大メガFTAも完成目前で、「自由貿易」という意味では中国は成功しています。一方、TPPのルールを曲げない限り、中国は参加要件を満たさないのは明らかで、中国が参加要件を満たす施策を行うメリットはありません。また、TPPは「環太平洋」と謳っていますが、FTAは本来隣接する地域で有効なもので、実際には日本企業がTPPを使うのはEPAのないカナダやニュージーランドくらいで、それほどアクティブな利用はされていません。

そういうことを考えれば、台湾をTPPに参加できなくさせるのが中国の本意ではないかと思います。中国にとって台湾は自国の一部としての認識なので、台湾を独立した形で世界的にメジャーなFTAに参加させないことが肝心なのでしょう。

ほんとか嘘か分かりませんが、台湾がTPP参加申請を出すという情報を中国が知り、先に申請することで台湾の出鼻を挫いたと言われていますね。

今後の動きを見守っていきたいと思います。情報がありましたらまたこのブログに投稿します。

日本商工会議所の特定原産地証明書発給システムトラブル

日本商工会議所の特定原産地証明書発給システムが続いているようです。

新規にシステムをリリースする際にトラブルはつきものですが、日々の輸出で活用している企業に取っては、原産判定や原産地証明書発給が滞ることは死活問題です。

テストで安定が見込めるまで、旧システムでの対応をすべきではないかと思います。慎重を期していたとは存じますが、もう少しテストをしておくべきでしたでしょうね。

とある企業で、新システムに移行してトラブル続きで売上を25%失ってしまったことがありました。その際も新システム移行と同時に旧システムを廃棄してしまっており、どうしようもありませんでした。

このシステムが安定するまでには時間がかかるのではないかと思います。原産判定の未処理分も原産地証明書の未発給分も積み上がるでしょうから、日本商工会議所の方の負荷も大変なものになるでしょうし、輸出する企業もEPAを活用するなら、時間を見ておいた方がいいですね。

この問題が長引き、2021年を越えることがあれば、日タイEPAのHS2017、RCEPというビックイベントが待っていますから、困ったことになります。そうならないことを願います。

RCEPのゆくえ

RCEPは合意ができず、再協議となりました。

すべての案ができあがったのに、インドがちゃぶ台返しをしたせいです。

インドにとっては、中国以外協議参加国との間ではFTAがあるので、今回の話は中国とのFTAという側面も強くあります。

それにしてもこのタイミングでのちゃぶ台返しは、政治的ポーズでしょうかね。

・抵抗したんだよという国内向けの

2020年2月までを次の目標にしましたが、頑張ってほしいものです。

TPPの交渉を思い出します。

会社の合併と原産地証明

企業の合併は昨今は珍しくなくなりました。

その企業合併は、ことFTAの原産地証明で余分な仕事を生じさせています。

第三者証明において商工会議所に企業を登録します。

存続企業は企業登録番号がある限り、過去の証明は有効に活用できます。

企業名が変更となっても、この企業の登録番号がある限り問題ありません。

問題なのは非存続企業。

その企業が原産判定申請した商品の判定番号は失効しますから、新ためて一から原産判定を行わなくてはいけません。

折しも、現在の原産判定では証拠書類の全数チェックを商工会議所はおこなっていますのでとても手間です。

日立オートモーティブと本田系3社の経営統合の記事を拝見して、本当に大変だと感じた次第です。

アジアの国からの検認が増えているようです

最近、特にアジアの国からの検認が増えているようです。

とある会社は、インドネシアからの積送基準を満たしていることの左証を要求されています。この問題は以前からインドネシア税関が問うてくる内容で、物流会社からドキュメントをもらう事で問題なしという運営がインドネシア側から認めてもらっていますが、この方法がインドネシア税関から日本の省庁には正式な対応とすることをアナウンスしていないようです。

またある会社は、ベトナムからの検認。原産性の証拠書類を求められました。

そして、ある会社はHSコードの妥当性をタイから問われています。

他の人にも聞いたのですが、アジアからの確認(検認)が増えているようです。