CBAMとは何か

1. CBAMを一言でいうと

CBAMは、EU域外で生産された高排出型製品がEUに輸入されるとき、製造時に埋め込まれた温室効果ガス排出に相当するコストをEU側で調整し、EU域内生産とのカーボンコスト差を縮める仕組みです。EUは、輸入品にも公正な炭素価格を適用し、域外生産の低炭素化も促す制度として位置づけています。(Taxation and Customs Union)

2. なぜ今CBAMがビジネスに効くのか

2-1. カーボンリーケージ対策が目的

EUが自国内の気候政策を強めるほど、排出規制の緩い国へ生産が移転したり、より高排出な輸入品に置き換わったりするリスクが高まります。CBAMはこのカーボンリーケージを抑え、EUの気候目標が輸入品によって損なわれないようにする狙いがあります。(Taxation and Customs Union)

2-2. EU ETSとのセット設計

CBAMはEU排出量取引制度(EU ETS)の無償割当の段階的縮小と整合するように導入される、とEUが明記しています。つまり、EU域内の炭素コストが強まる局面で、輸入側にも同等のロジックが適用される設計です。(Taxation and Customs Union)

3. 対象となる品目と企業

3-1. 対象セクターはまず6つ

現段階で主対象となるのは、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素です。EUは、炭素集約度が高くカーボンリーケージのリスクが大きい品目から開始すると説明しています。(Taxation and Customs Union)

3-2. 50トン基準と例外

2026年以降の本格運用では、鉄鋼・アルミ・肥料・セメントについて、輸入者ごとの年間累計純重量が50トンを超えると、原則としてCBAMの義務(認可、年次申告、証書の購入・提出など)が発生する整理が明確になっています。(Taxation and Customs Union)
一方で、電力と水素はこの少量免除の対象外という考え方が示されています。(Climate Policy Radar)

3-3. 義務者はEU輸入者だが、日本側も影響を受ける

法的な一次義務はEU側の輸入者(または合意した間接通関代理人)にかかります。(Taxation and Customs Union)
ただし実務上、日本の製造業・商社にとってCBAMは他人事ではありません。理由はシンプルで、EU輸入者が年次申告に必要な排出データを入手できない場合、保守的な値で申告されやすく、価格交渉や取引継続に跳ね返るからです。EUが移行期間を「学習期間」と位置づけ、埋込排出量データを集めて方法論を洗練させる意図を明示している点も、データ提供能力が競争力になることを示唆します。(Taxation and Customs Union)

4. 2023-2025の移行期間と、2026以降の本格運用

4-1. 移行期間(2023年10月1日〜2025年12月31日)

移行期間は、対象品目の輸入者が四半期ごとに埋込排出量を報告するフェーズで、証書購入や支払いは求められません。(Taxation and Customs Union)
EUは、2023年10月1日に移行期間が開始し、最初の報告期限が2024年1月31日であることも示しています。(Taxation and Customs Union)

報告不備や未提出に対しては、未報告排出量1トン当たり10〜50ユーロの範囲でペナルティが科され得る、という説明がEUのFAQにあります。(Taxation and Customs Union)

4-2. 本格運用(2026年1月1日〜)

EUは、2026年1月1日からCBAMが本格的に運用されることを明確にしています。(Taxation and Customs Union)
本格運用では、対象輸入者は排出量を申告するだけでなく、CBAM証書を購入し、対応する枚数を提出する枠組みに移ります。(Business Growth Service)

4-3. 重要日程をひと目で把握する

いつ何が起きるか実務への影響
2026年1月1日本格運用開始認可や申告の準備不足は通関遅延リスク
2026年3月31日まで認可申請の最終期限(対象者)未申請は遅延・ペナルティ・サプライチェーン混乱の恐れ (Taxation and Customs Union)
2027年2月1日からCBAM証書の販売開始2026年輸入分の負担が金銭的に顕在化し始める (Climate Policy Radar)
毎年9月30日まで年次申告と証書提出初回は2027年9月30日(2026年輸入分)になる整理 (Climate Policy Radar)

補足として、2026年輸入分について年次申告と提出が「翌年9月30日まで」なので、初回が2027年9月30日になることは制度設計から直接導けます。(Climate Policy Radar)

5. 何を申告するのか

5-1. 直接排出と間接排出

CBAMは、輸入品に埋め込まれた温室効果ガス排出を扱います。移行期間は直接排出と間接排出の報告が求められると説明されており、さらに移行期間終了後、セメントと肥料は間接排出も制度対象になる方向が示されています。(Taxation and Customs Union)
セクター別の扱いについては、2026年以降、鉄鋼・アルミ・水素は直接排出中心、セメント・肥料は直接と間接の両方を申告する必要がある旨の整理が公的な解説資料にもあります。(researchbriefings.files.parliament.uk)

5-2. 排出量の算定方法と、デフォルト値の扱い

EUは移行期間中、算定方法に一定の柔軟性を持たせており、2024年末までは複数の報告方法があり得ること、デフォルト値による報告は期限付きで認められてきたことを示しています。(Taxation and Customs Union)
この点は実務上重要です。デフォルト値は、サプライヤー実測値より不利に働く可能性があるため、EU向け取引を継続・拡大したい企業ほど、実測データの取得と説明可能性が交渉力になります。(Taxation and Customs Union)

5-3. 検証とデータ責任

本格運用では、年次申告と証書提出の期限が9月30日に設定された理由として、必要情報の収集、排出量が認定検証者により検証されること、必要な証書を購入することに時間が要る点が説明されています。(Climate Policy Radar)
つまり、排出データの遅れや不備は、単なる事務の遅延ではなく、通関と取引継続の遅延に直結します。

6. CBAM証書の価格はどう決まるか

6-1. 価格はEU ETS価格に連動

EUは、CBAM証書価格がEU ETS排出枠のオークション価格を基礎に算定されると示しています。(Taxation and Customs Union)
また、2026年は四半期平均、2027年以降は週次平均で算定するという具体的な運用も提示されています。(Taxation and Customs Union)

6-2. 第三国で支払った炭素価格は控除し得る

輸入品の生産過程で、第三国ですでに炭素価格が支払われていることを証明できる場合、その相当額を控除できる旨がEUの説明にあります。(Taxation and Customs Union)
ここは契約実務の焦点になりやすい部分です。証明の可否は、取引先の制度理解と証跡の整備に依存するため、調達契約の情報提供条項や監査条項とセットで設計した方が安全です。(Climate Policy Radar)

7. 罰則と、現場で起こりうる混乱

7-1. 移行期間の報告ペナルティ

未報告や訂正不十分に対し、未報告排出量1トン当たり10〜50ユーロの範囲でペナルティがあり得ることがEUのFAQで説明されています。(Taxation and Customs Union)

7-2. 本格運用の未提出ペナルティはEU ETSの超過排出ペナルティと同等

本格運用では、必要な証書を期日までに提出しない場合のペナルティが、EU ETSの超過排出ペナルティと同等であることが明記されています。(Climate Policy Radar)
EU ETSの超過排出ペナルティは、1トン当たり100ユーロであるとEUが説明しています。(climate.ec.europa.eu)
さらに重要なのは、ペナルティを払っても、未提出分の証書提出義務自体は消えないという点です。(Climate Policy Radar)

7-3. 認可や申請番号がないと通関で詰まるリスク

EUは、対象品目を一定量以上輸入する場合、輸入時点で認可または申請参照番号が必要で、未対応だと混乱・遅延・ペナルティにつながり得ると明確に注意喚起しています。(Taxation and Customs Union)
これはサプライチェーンのボトルネックになりやすく、貿易実務のKPIに直結します。

8. 日本企業が今すぐ整えるべき実務チェックリスト

ここからは、EU向け輸出・EU現地法人による輸入の双方に効く打ち手です。

8-1. 取引と品目を棚卸しする

1 EUに入る対象セクターがあるかを特定
2 年間数量が50トンを超える可能性があるかを把握
3 電力・水素は少量免除の枠外という前提で別管理 (Taxation and Customs Union)

8-2. 排出データの入手設計を先に決める

1 誰がどの工場のどのデータを出すのかを決める
2 算定方法と根拠資料の型を統一する
3 認定検証を見据え、監査可能な粒度で記録を残す (Climate Policy Radar)

8-3. 契約条項をCBAM対応に更新する

1 排出データ提供の期限、フォーマット、訂正手続
2 不正確データによる損害の分担
3 第三国炭素価格の控除に必要な証跡の提供義務 (Taxation and Customs Union)

8-4. 価格交渉の論点を整理する

CBAMの本質は、カーボンコストが見える化され、価格に転嫁されうることです。EU ETS価格連動で動くため、原材料市況とは別の変動要因が増えます。(Taxation and Customs Union)
実務では、製品価格、物流費、為替に加えて、排出係数とデータ品質が交渉材料になります。

9. よくある誤解

誤解1 CBAMはEUに輸出する日本企業には関係ない

法的義務はEU輸入者側が中心ですが、排出データの提供ができないと、取引条件や継続可否に跳ね返ります。移行期間が「学習期間」であるというEUの説明は、まさにその準備を促すものです。(Taxation and Customs Union)

誤解2 2026年からすぐ支払いが発生する

本格運用は2026年1月1日からですが、証書販売は2027年2月1日からという整理が示されています。(Climate Policy Radar)
一方で、2026年の輸入が将来の負担の母数になる点は変わりません。(Climate Policy Radar)

まとめ

CBAMは、EU ETSと連動して輸入品の埋込排出に炭素コストを乗せ、カーボンリーケージを抑える制度です。(Taxation and Customs Union)
2026年から本格運用に入り、認可、年次申告、証書の購入と提出、未提出時のEU ETS同等ペナルティという、実務負荷と金銭影響が現実になります。
日本企業にとっての勝ち筋は、早い段階で排出データの取得と検証を仕組みに落とし、取引条件に反映できる状態をつくることです。

免責事項
本稿は2026年2月9日時点で入手可能な公表情報に基づく一般的な情報提供であり、法務、税務、通関、会計、投資その他の助言を構成しません。CBAMを含む制度の適用関係、申告実務、契約条項、当局対応は個別事情により結論が異なり、制度や運用は更新され得ます。実際の対応にあたっては、必ず自社の顧問弁護士、通関・税務の専門家、現地の制度担当当局または専門家に相談のうえ判断してください。

EUの改訂PEMを日本のビジネスマン向けにやさしく解説

2025年の新旧併用と、2026年以降の実務に備えるポイント

欧州で製造や調達をしている日本企業にとって、関税そのもの以上に効いてくるのが「原産地規則」と「累積(カミュレーション)」です。EU域内のサプライチェーンを組み替えなくても、ルールが変わるだけで優遇関税の可否が変わることがあります。

EUの改訂PEMは、その原産地規則の共通ルールを現代化した大きな制度改正です。しかも、2025年は旧ルールと新ルールが並行するため、現場で混乱が起きやすい時期でもあります。 (trade.ec.europa.eu)

この記事では、PEMの基本から、改訂で何が変わり、企業は何を準備すべきかを、できるだけ業務目線で整理します。


PEMとは何か

PEMは「欧州から地中海圏」に広がる優遇関税の共通原産地ルール

PEMは、EUと周辺国が結ぶ複数の自由貿易協定(FTA)で使われる「共通の原産地規則」と「累積の仕組み」をまとめた枠組みです。EUは、PEMの締約国と共通ルールを使うことで、域内サプライチェーンを組みやすくし、貿易を円滑化する狙いがあります。 (trade.ec.europa.eu)

ポイントは、PEMは単一の協定というより「ネットワーク」だという点です。累積を使うには、関係する国同士がすべてFTAを結び、同一の原産地規則を適用している必要があります。 (Taxation and Customs Union)

改訂PEMとは「2012ルール」から「2023ルール」への更新

EUで「改訂PEM」と言う場合、一般にPEM条約の原産地規則が、従来の2012ルールから、現代化された2023ルールへ更新されたことを指します。新ルールは2023年12月7日に採択され、2025年1月1日に発効しました。 (Taxation and Customs Union)


いつから何が変わるのか

2025年は新旧ルールが並行、2026年から原則一本化

EUの公式情報では、2025年12月31日までは2つのルールが並行して適用され、2026年1月1日からは改訂PEM(2023ルール)が適用される、という整理になっています。 (trade.ec.europa.eu)

一方で実務上は、相手国との二国間協定が改訂PEMへの動的参照(ダイナミックリンク)を組み込んでいるかどうか、各国の国内手続きが完了しているかどうかで、適用が段階的になります。未更新の相手との間では、従来の二国間プロトコル(2012ルール相当)が引き続き適用されるケースもあり得るため、必ずマトリックスで確認するのが安全です。 (Taxation and Customs Union)


まず押さえる用語

旧ルール、新ルール、暫定の違い

現場で混乱しがちなので、ざっくりこう理解すると整理が進みます。

  • 2012ルール
    従来のPEMの標準ルール(旧ルール)
  • 2023ルール
    改訂PEMで導入された新しい原産地ルール(新ルール)。2025年1月1日に発効。 (Taxation and Customs Union)
  • トランジショナルルール(暫定ルール)
    2023ルールをベースにした別セットのルールが、改訂PEM発効前から一部の国の間で二国間ベースで適用されてきたもの。2021年9月1日から適用開始と説明されています。 (Taxation and Customs Union)
  • 2025年のトランジショナルプロビジョンズ(経過措置)
    2025年に、旧ルールを一定条件で並行適用し、貿易の断絶を防ぐために導入された経過措置。事業者がサプライチェーンに応じてルールを選べることや、一定の「相互に通せる」仕組みが含まれます。 (Taxation and Customs Union)

改訂PEMで実務がどう変わるか

ここからが本題です。多くの企業が影響を受けやすいポイントを、業務目線でまとめます。

1. 許容割合(トレランス)が拡大する

従来の2012ルールでは一般許容は10パーセントでしたが、2023ルールでは15パーセントに拡大されています(HS第50類から第63類の繊維製品などは例外扱い)。また、農産品は純重量ベース、その他は工場渡し価格ベースというように、基準が分かれます。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
これまで「少し足りない」ために原産にならなかった製品が、許容拡大によって原産判定できる可能性があります。逆に、計算の前提(重量か価格か)を取り違えると誤判定につながります。

2. 関税ドローバック禁止が原則撤廃される

2012ルールでは、一般的にドローバック(輸入材料に課された関税の免除や還付)禁止が幅広く適用されていました。2023ルールでは、繊維関連(HS第50類から第63類)を除き、原則としてこの禁止が撤廃されたと説明されています。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
インワードプロセシングなどの制度設計と、優遇関税の原産判定が両立しやすくなります。調達原価やキャッシュフローの改善余地が出る反面、繊維だけは引き続き注意が必要です。

3. 原産地証明の種類が簡素化される

2023ルールでは、証明は原則としてEUR.1または原産地申告の単一体系になり、2012ルールで使い分けが必要だったEUR-MEDとEUR.1の二重構造が簡素化されるとされています。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
書類の選択ミスが減り、社内教育の負荷が軽くなる一方、移行期の2025年は旧ルールに基づく書類運用も残り得るため、現場手順書を二段階で整備しておく方が安全です。 (Taxation and Customs Union)

加えて、PEM条約の決定により、電子的に発給されるEUR.1の利用に関する決定が2025年1月1日から適用される旨もEU側で案内されています。 (Taxation and Customs Union)

4. 累積(カミュレーション)がより柔軟になる

2023ルールは、対角累積を維持しつつ、繊維以外の品目では一般化されたフル・カミュレーションを導入すると整理されています。繊維分野(HS第50類から第63類)は基本が二国間フル・カミュレーションで、拡張には通知などの追加要素があります。 (Taxation and Customs Union)

さらに、累積を使って原産とする場合、原則として証明書に英語で「CUMULATION APPLIED WITH(国名)」を記載する要件がある点も重要です。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
サプライヤーの原産部材を積み上げて原産にする設計がしやすくなる可能性があります。ただし、累積は「どの国の組み合わせで使えるか」が固定ではなく、協定の改訂状況に依存します。EUは、累積可否を示すマトリックス(表)を公表し、C(2012ルール)、R(2023ルール)、T(暫定ルール)などで区分しています。 (Taxation and Customs Union)

5. 輸送要件が「直接輸送」から「非改変」へ寄る

2023ルールでは、2012ルールの直接輸送の考え方から、より緩やかな非改変のルールへ進むと説明されています。例えば、第三国での分割(スプリット)や、国内規制対応のためのラベル貼付などが、一定条件下で認められる方向です。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
物流の自由度が上がる一方で、通関当局から求められたときに「非改変」を説明できる輸送証跡の保管が重要になります。

6. 原価変動への対応がしやすくなる(平均計算、会計分離)

2023ルールでは、非原産材料の価額上限など価額基準のルールを使う場合に、コストや為替の変動を踏まえて、工場渡し価格や非原産材料の価額を平均ベースで計算するための認可を求められる柔軟性が示されています。 (Taxation and Customs Union)

また、会計分離(アカウンティング・セグリゲーション)は、2012ルールでは在庫を分けて管理することが困難であるなどの理由付けが必要でしたが、2023ルールでは「代替可能な材料を使う」ことを示せば認可を得られる方向に緩和されたと説明されています。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
ERPや在庫管理の運用を大きく変えずに原産管理を回せる可能性が出ます。特に多品種生産の企業では効きます。


2025年の注意点

新旧ルール併用で、相手国との組み合わせに差が出る

EUの経過措置の説明では、2025年は、旧ルールと新ルールの両方が関係し得る状態になります。状況を整理するために、締約国間のステータスが複数に分かれ得ることが示されています。 (Taxation and Customs Union)

例えば、経過措置を取り入れた国同士の間では、旧ルールか新ルールかを選べるとされ、さらに両ルールを一定条件で「通す」考え方(permeability)も説明されています。 (Taxation and Customs Union)

「相互に通せる」対象品目に注意

経過措置の中では、旧ルールに適合する場合に新ルールでも原産として扱える対象として、HSの一定章が挙げられています(例として第1類、第3類、第16類の一部および第25類から第97類など)。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
自社の製品がこの対象に入るかどうかで、2025年の原産設計の柔軟性が変わります。品目分類(HS)を前提に、原産判定プロセスを組み直すのが安全です。

書類の文言が増える可能性がある

経過措置ガイダンスでは、証明書やサプライヤー宣言に「REVISED RULES」を入れることが推奨され、「TRANSITIONAL RULES」という記載がある証明書も輸入時に受け入れることが推奨される、といった運用上の注意が示されています。 (Taxation and Customs Union)

さらにEU側では、2つのルールが並行する状況に対応したサプライヤー宣言の枠組みについて、関連する実施規則に言及しています。 (Taxation and Customs Union)

業務上の意味
書類テンプレートの改訂だけでなく、サプライヤーから受領する宣言の読み方、監査証跡の残し方までセットで見直す必要があります。


日本企業が影響を受けやすい典型パターン

1. 欧州子会社がPEM域内へ輸出している

EU域内で製造した製品を、トルコ、北アフリカ、バルカンなどPEMの相手国へ輸出している場合、原産判定と証明のルール変更が直接影響します。改訂により原産になりやすくなる場合もありますが、証明書の種類や記載要件が変わるため、通関現場の手戻りが起きやすい領域です。 (Taxation and Customs Union)

2. 欧州顧客から原産に関する証跡提供を求められる

日本から部材を供給している場合、日本の部材はPEM原産にはなりませんが、欧州側が最終製品の原産判定をするために、材料情報、HS、コスト、工程、物流ルートなどの情報提供を求めることがあります。改訂で計算方法や許容の考え方が変わると、求められる情報の粒度も変わり得ます。 (Taxation and Customs Union)

3. 調達先が複数国にまたがり、累積の可否が収益に直結している

PEMの本領は累積です。国の組み合わせによって累積が使えたり使えなかったりするため、マトリックス確認を怠ると、優遇関税を前提にした価格設計が崩れます。 (Taxation and Customs Union)


2025年から2026年に向けた実務チェックリスト

1. まず、自社が使っている原産地ルールがPEMかどうかを切り分ける

PEMはEUとPEM域内の協定ネットワークの枠組みです。日本向け輸出などは、日EU・EPAなど別協定の原産地規則で動きます。混同すると、社内ルールの改訂が過剰にも不足にもなります。 (trade.ec.europa.eu)

2. 取引相手国との適用状況をマトリックスで確認する

マトリックスは、国の組み合わせごとに、2012ルール相当か、2023ルールか、暫定かを示します。少なくとも次を案件ごとに確認します。

  • 最終仕向国と最終製造国の組み合わせがCかRかTか
  • 累積に使う材料の原産国を含め、すべての国同士で条件が成立しているか (Taxation and Customs Union)

3. 2025年は「旧ルールで取れる」か「新ルールで取れる」かを比較し、2026年を見据えて選ぶ

2025年は選択の余地がある一方、2026年以降は新ルール中心になるため、2025年に旧ルールで成立しても2026年に崩れる設計は避けたいところです。 (trade.ec.europa.eu)

4. 計算・証明・物流の3点を同時に見直す

  • 計算
    許容、ドローバック、平均計算、会計分離の扱いを原産計算シートと手順書へ反映 (Taxation and Customs Union)
  • 証明
    EUR-MED廃止方向、累積時の記載、2025年の文言(REVISED RULESなど)をテンプレートで管理 (Taxation and Customs Union)
  • 物流
    非改変の証跡を残せるよう、第三国経由や分割がある案件の証憑を標準化 (Taxation and Customs Union)

5. サプライヤー宣言と監査証跡の運用を強化する

2025年の併用期間は、同じ品目でもルールの根拠が分かれます。サプライヤー宣言の受領、保管、更新の運用を、どのルールで出されたか分かる形に揃えることが重要です。 (Taxation and Customs Union)


まとめ

EUの改訂PEMは、単なる制度変更ではなく、欧州域内と周辺国のサプライチェーン設計に影響する原産地ルールのアップデートです。2023ルールは、許容の拡大、ドローバックの緩和、証明体系の簡素化、フル・カミュレーションの拡張など、企業側の実務を合理化する方向の変更が多く見られます。 (Taxation and Customs Union)

一方で、2025年は新旧併用で国の組み合わせごとに適用が異なる可能性があり、ルールの取り違えが起きやすい局面です。マトリックス確認と、書類テンプレート、原産計算、物流証跡の同時改訂が、最も費用対効果の高い対策になります。 (Taxation and Customs Union)


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引または個別案件に対する法務、税務、通関、監査その他の専門的助言を構成するものではありません。制度、運用、必要書類、受入可否は国、協定、品目、税関、発給機関、取引条件等により異なり、予告なく変更される場合があります。実際の手続きや判断にあたっては、各国当局、税関、発給機関、通関業者、金融機関および専門家に確認してください。本記事の内容に基づく行為または不作為により生じたいかなる損害についても、筆者および掲載者は一切の責任を負いません。

アジア主要国の電子CO署名要件と監査対応

貿易実務とコンプライアンスを両立するための実務ガイド

輸出入の現場では、原産地証明書(CO)はいまも関税優遇の入口であり、同時に監査リスクの起点でもあります。近年は電子化が進み、紙のやり取りは減りましたが、代わりに「署名の方式」「真正性の確認」「電子証跡の残し方」が論点として前面に出てきました。

この文章では、アジア主要国を中心に、電子COの署名要件の考え方と、監査に耐える運用設計の要点を、ビジネスパーソン向けに整理します。制度や運用は協定やフォーム別に差があるため、国別の代表例として読める構成にしています。

電子COで実務が変わるポイントは3つ

署名の論点は「誰が」「何に」「どう署名するか」

COの署名は、実務上は次の2層で捉えるのが安全です。

  • 輸出者側の署名
    申請データや申請添付資料、またはCOの輸出者申告欄に、誰が責任者として署名するか。社内の権限統制そのものです。
  • 発給機関側の署名と印章
    政府当局や商工会議所など、発給機関がCOを認証したことを示す署名と印章を、紙ではなく電子でどう表現するか。

WCOの整理では、紙のCOは通常手書きの署名と押印、電子COは申請と発給が電子で完結し、通常デジタルに署名と押印がされるもの、と定義されています。ここでいうデジタルは、単なる画像貼り付けではなく、電子的な信頼確保の仕組みを含む概念です。(wcoomd.org)

方式は「PDF発給」「署名と印章の電子貼付」「データ連携」の3タイプに収れんする

アジアの電子COは、国や協定が違っても、おおむね次の3タイプに分かれます。

  • タイプA:PDFで発給し、QRコードや参照サイトで真正性を確認する
    紙に印刷して使える運用を残しつつ、真正性はオンライン参照で担保する。
  • タイプB:署名と印章を電子的に貼り付けた自己印刷を正式扱いにする
    いわゆるAffixed Signature and Stampに近い運用。紙は残るが、手書きは不要になる。
  • タイプC:原産地データを当局間で電子連携し、紙の提出を不要化する
    ASEAN Single Window(ASW)や、二国間の電子原産地データ連携がこれに該当。

この分類で整理すると、国別の要件の違いが「署名の見た目」ではなく「真正性確認の根拠」と「監査証跡の残し方」の違いとして見えてきます。

監査で見られるのは署名そのものより「統制」と「証拠」

監査側の関心は「原産性の裏付け」と「責任の所在」

電子化で誤解されやすいのが、COが電子になったから監査が軽くなるわけではない、という点です。むしろ、監査や事後確認では次が見られます。

  • そのCOが、正しい原産地規則に基づくこと
    HSコード、原産地基準(CTC、RVC、WOなど)、協定別の条文との整合。
  • その判断に至った根拠が再現できること
    BOM、原材料の原産資料、製造工程、コスト計算、仕入先の申告書など。
  • 署名する人が正当に権限を持ち、改ざんできない仕組みになっていること
    ここで電子署名や認証、ログ管理が効いてきます。

電子化で増える監査論点は「権限」と「証明書管理」と「ログ」

電子COは、紙の印鑑管理に代わり、次の統制が重要になります。

  • 権限設計
    申請入力、レビュー、承認、発給依頼、訂正・取消の権限を分離する。
  • 電子署名用の証明書・トークン管理
    誰の名義の証明書で署名できるか、失効や更新、紛失時の停止手続き。
  • 電子証跡
    いつ、誰が、どのデータを、どの根拠で、どう変更したかを辿れるログ。

国によっては、制度としても「署名者の登録」や「署名カード」「台帳管理」を求める説明が明確です。たとえば韓国税関のRCEPガイドでは、自己発給の運用において署名者の指定や署名カード、発給履歴の管理が示されています。(税関 홈페이지)

アジア主要国の電子CO署名要件と実務上の注意

ここからは、代表的な制度や運用の特徴を国別にまとめます。実務では、同じ国でも「非特恵CO」と「特恵CO(FTAやEPA)」、「フォーム別」で要件が変わるため、輸出ルートと協定ごとの確認が前提です。

主要国の全体像

国・地域代表的な電子COの形署名・真正性確認の主な考え方監査対応の勘所
日本PDF発給+QR参照、協定によってはデータ連携QRコードで参照システムにアクセスして真正性確認PDF原本、参照結果、発給番号のひも付けを残す
中国自己印刷+電子署名・電子印章、EODES、参照サイト自己印刷は電子署名・電子印章で手書き同等、参照サイトで照合自己印刷の原本扱い、照合手順、例外時の紙要求に備える
韓国電子申請・発給、e-certification、オンライン発給発給当局のDBと公開検証システムで真正性を担保署名者登録と台帳、UNI-PASS等の操作履歴を管理
シンガポールASWや二国間連携、商工会議所のeCOASW等はデータ連携、商工会議所は署名者登録やQR検証署名者名簿、補助資料の提出履歴、発給控えの保管
マレーシアePCOで署名・印章を電子貼付、ASW電子貼付で手書き不要、ASWは電子伝送発給条件と保管年限、月次提出など運用要求を守る
タイDFT SMART C/O、e-Form D、対日データ連携e-Form Dはデジタルで送付、対日はデータ送信で紙不要承認プロセスの証跡、検証システムの確認手順を整備
インドネシアe-SKA+署名・印章の電子貼付署名・印章を電子的に付し、接触削減などの背景で導入適用開始日・対象機関、発給控えと送信履歴の管理
ベトナムeCoSysで申請・添付・電子署名申請で電子署名し、システム上で送付・管理署名デバイス管理、添付資料の整合、検索・照会手順
インドeCoO 2.0で電子申請、DSCやe-signデジタル署名トークンやAadhaar e-signを活用署名トークンの管理、マルチユーザー統制、訂正履歴

以下、国別にもう一段深く見ていきます。

日本

非特恵COのオンライン発給はPDF+QR参照が軸

日本商工会議所は、非特恵COのオンライン発給について、PDFで発給し、PDFを普通紙に印刷したものも従来の専用紙と同等の有効性があること、さらにQRコードから参照システムで真正性と内容を確認できることを明確にしています。(日本商工会議所)

実務のポイントは、発給されたPDFを「最終成果物」として保管するだけでなく、QR参照による確認結果を、取引案件単位で残しておくことです。銀行決済や取引先監査では、参照手順を示せると説明が速くなります。

EPAのCOもPDF化とデータ連携が進行

経済産業省は、インド向け(日印EPA)とマレーシア向け(日馬EPAおよびAJCEP)のCOを2023年7月18日からPDF発給へ移行すると公表しています。また、日タイEPAやRCEPでPDF発給を実現していること、日尼EPAではデータ交換を導入予定であることにも触れています。(経済産業省)

注意点として、相手国税関で自己印刷の提出や別の要件が必要な場合があるため、輸入側手続きの確認が必須です。(経済産業省)

中国

自己印刷と電子署名・電子印章で「手書き同等」を実現

WCOの中国税関による解説では、輸出者はCOを紙または電子で申請でき、承認後は税関で手書き署名・押印された紙を受け取るか、自己印刷サービスで電子署名と電子印章が付されたCOを自社で印刷するかを選べる、とされています。自己印刷のCOは、税関職員の手書き署名・押印と同等の効力を持つ、と明記されています。(mag.wcoomd.org)

ここは監査上も重要です。自己印刷は便利ですが、どれが原本扱いか、再印刷がコピー扱いになる点など、社内でルール化しておかないと、提出先や監査で混乱が起きます。(mag.wcoomd.org)

真正性確認は参照サイトとデータ連携の併用

同じ解説の中で、中国税関発給分は参照サイトで確認でき、CCPIT発給分も別の参照サイトで確認できる、とされています。(mag.wcoomd.org)
また、EODESにより、当局間で原産地データを交換し、輸出入者が証明書類をやり取りせず番号を申告する運用が説明されています。(mag.wcoomd.org)

対中輸出では、相手国側の要件により紙の提示を求められる例外も残るため、データ連携前提の運用であっても、例外時に提出できる形でPDFや印刷物を保持しておくのが無難です。

韓国

e-COOは当局DBと公開検証で真正性を担保

WCOが公開する韓国の説明では、紙のCOは署名と公印で真正性を確保する一方、電子COは電子的に申請・認証・発給され、真正性は発給機関のデータベースと、発給機関の公式ウェブサイトで公開される電子検証システム等で確保される、とされています。(wcoomd.org)

つまり、紙の見た目に依存せず、参照可能なDBが真正性の根拠になります。監査対応でも、参照手順と照合結果が説明材料になります。

署名者管理とe-certificationの運用が監査の肝

韓国税関のRCEPガイドでは、自己発給の手順の中に、署名カードの準備、署名者の指定、署名して発給し、発給台帳を作成する、といった統制要素が具体的に盛り込まれています。さらに、UNI-PASSや商工会議所サイトへe-certificationでログインし、オンライン発給して印刷する流れも示されています。(税関 홈페이지)

日本企業が韓国向けに関与する場合でも、韓国側の取引先が求める統制観点はこの延長にあります。署名者や承認者の特定、履歴、修正理由の説明ができるようにしておくと、商流がスムーズになります。

シンガポール

ASEAN向けはASWのe-Form Dが前提になりつつある

シンガポール税関は、ASWを通じたe-Form Dの交換について、2024年1月1日からASEAN各国が電子Form Dの完全伝送を実施し、輸入側税関が紙のForm Dを受け付けない場合があること、そして現状ASWで交換できるのはForm Dのみであることを明示しています。(customs.gov.sg)

ここは署名要件の考え方が変わる典型です。紙の原本に押された印影よりも、ASWで伝送されるデータが正となり、輸入者側はデータに基づいて優遇申告を行います。

対中はEODESで電子伝送、RCEPにも拡張

シンガポール税関は、中国とのEODESについて、2019年11月1日に開始し、2020年5月1日から中国が電子PCOの完全伝送を実施し紙の送付が不要になったこと、さらに2025年12月11日からRCEPにも拡張されたことを公表しています。(customs.gov.sg)

輸出側の監査対応としては、紙の送付がなくなるぶん、電子伝送の完了証跡と、伝送したCO番号が輸出申告やインボイス番号と正しく紐付いていることの証明が重要になります。

商工会議所発給のeCOは署名者登録と補助資料提出が重要

シンガポール国際商工会議所(SICC)は、eCO利用者登録で、権限を持つ従業員の一覧と署名見本、会社スタンプ印影などを提出すること、また更新が必要であることを案内しています。(sicc.com.sg)
さらに、シンガポールのeCO手続きの規程では、申請者が補助資料をスキャンして提出すること、発給機関がCOと補助資料を保管することなどが示されています。(certoforigin.crimsonlogic.com)

監査目線で見ると、ここは「社内の署名権限統制」と「提出した補助資料の再現性」が問われる領域です。誰が申請できるのか、誰が承認したのかを、社内でも再現できるように運用を合わせておく必要があります。

マレーシア

ePCOで署名と印章の電子貼付を拡大

マレーシアのMITIは、ePCOシステムを通じて、輸出者の署名と公的印章を電子的に付す運用を、2025年1月15日から複数の協定に適用すると発表しています。手書き署名や手作業の押印を不要にする趣旨が明確です。(miti.gov.my)

また、運用として、輸出者が発給されたCOの控え(複写)を毎月提出する旨も示されています。(miti.gov.my)
これは監査対応上、提出物の整合が取れているかを当局が後追いできる設計ともいえます。社内でも同じ控えを保管し、提出履歴と一致する状態を維持するのが安全です。

Form Dの電子伝送も前提化

MITIは、2020年3月18日以降、Form DについてASWでの電子発給・電子伝送を行う旨を案内しています。(miti.gov.my)
取引先が紙のForm Dを求める場合でも、原則は電子が正となるため、電子伝送の仕組みと例外時の扱いを、社内手順に落とし込む必要があります。

保管年限など、協定別の要件に注意

MITIの案内には、たとえばCPTPPに関連して、一定期間の書類保管を求める記載も見られます。(miti.gov.my)
監査対応は国別というより協定別に厳しさが変わるため、貿易管理部門が「国別ルール」だけでなく「協定別ルール」の棚卸しを行うのが効果的です。

タイ

e-Form DがDFT SMART C/Oで完全デジタルへ

タイ政府の案内では、2025年4月28日から、輸出者はDFT SMART C/OでASEANのe-Form Dを申請でき、紙や窓口訪問が不要で、書類は仕向国の税関へ自動送付される、とされています。(thailand.go.th)

このタイプは「署名の見た目」より「当局間で送られたデータが正しい」ことが価値になります。監査対応では、申請データ、承認データ、送付データの連続性を示せる運用が重要です。

日本向けはデータ連携により紙提出が不要に

JETROは、日タイ経済連携協定(JTEPA)について、タイから日本への輸出でe-COの連携システムが導入され、DFTのSMART COシステムで入力し承認されると情報が即時に日本へ送信され、紙の原産地証明書の提出が不要になったと説明しています。(jetro.go.jp)

日本側としては、紙がなくなるぶん、輸入申告時に参照される番号やデータの整合が重要になります。取引先と番号体系の取り扱いを事前に合意しておくと、現場の手戻りが減ります。

e-Verificationの仕組みも押さえる

WTO関連の資料では、TCOIS(Thailand Certificate on-line Inquiry System)が、輸入国の税関等がCOを認証するためのe-verificationシステムであると説明されています。(wto.org)
相手国税関が照会できる仕組みがある場合、監査対応では「照会可能であること」を前提に説明を組み立てると、相手先の納得が得やすくなります。

インドネシア

e-SKAで署名・印章の電子貼付を導入した経緯

インドネシアでは、貿易省の外貿総局が2020年3月末の通達で、原産地証明書の発給において、署名と印章を電子的に付す仕組みを開発し、接触機会の削減などを背景に導入する旨を示しています。(e-ska.kemendag.go.id)
e-SKAの公式案内でも、e-SKAサイトで電子署名と電子印章の機能を提供する旨が説明されています。(e-ska.kemendag.go.id)

実務では、対象フォームや対象機関、例外時の取り扱いが逐次変わり得るため、社内では「このルートのCOは電子貼付なのか」「自己印刷なのか」「データ連携なのか」を案件単位で明確にしておくことが重要です。

ベトナム

eCoSysは電子管理・電子発給の中核で、電子署名が前提

ベトナムのeCoSysは、COの電子管理・電子発給システムとして位置づけられ、法令情報をまとめる政府系ポータルでも、eCoSysのウェブサイトが明示されています。(vietnamtradeportal.gov.vn)
また、eCoSysの利用ガイドでは、申請後に「署名して審査へ送る」ステップが案内されており、電子署名の運用がプロセスに組み込まれています。(ecosys.gov.vn)
FAQでも、デジタル署名デバイスの購入や更新手続きに触れており、署名デバイス管理が実務要件であることが読み取れます。(ecosys.gov.vn)

監査対応では、署名デバイスの管理台帳、利用者の権限、添付資料の整合がポイントになります。特に、複数の署名方式が並立するとコストと統制が崩れるため、企業側は「どの署名基盤を標準にするか」を決めて運用を固定化する必要があります。

非特恵と特恵で発給主体が分かれる点に注意

eCoSysの案内では、工業貿易省が原産地証明の管理を担い、特恵のフォームは同省が直接発給し、非特恵はVCCIが発給する旨が説明されています。(ecosys.gov.vn)
同じベトナム向けでも、フォームによって発給主体と運用が変わるため、監査資料の集め方も変わります。

インド

eCoO 2.0で非特恵COの電子申請が必須化

インド政府の発表(PIB)では、DGFTがeCoO 2.0を立ち上げ、2025年1月1日から非特恵COの電子申請が同プラットフォームで必須になったこと、またAadhaarベースのe-signとデジタル署名トークンの双方をサポートすることが述べられています。(pib.gov.in)

署名要件は、署名そのものより、署名のための本人性確認と権限付与の設計が中心になります。マルチユーザー機能もあるため、企業側の統制設計が成果を左右します。(pib.gov.in)

署名トークンと証明書要件を理解する

DGFTのFAQでは、DSCトークンの有効期限や、署名のためのドングル、証明書にIECが含まれることを確認する手順などが示されています。(coo.dgft.gov.in)
現場では「担当者PCに入っている証明書で署名できてしまう」状態が事故の温床になります。監査対応としては、証明書の配布・更新・失効の統制と、署名行為が誰によって行われたかの記録が必須です。

監査に強い運用設計の型

ここまでの各国事情を踏まえると、国別の違いに振り回されないためには、社内側の設計を先に固めるのが得策です。

型1:署名者と承認者を分け、権限を棚卸しする

最低限、次の分離ができると監査に強くなります。

  • 申請データの入力者
  • 原産判定のレビュー担当
  • 署名・申請送信の実行者
  • 取消・訂正の承認者

シンガポールの商工会議所が求める署名者名簿や署名見本の提出は、まさにこの権限統制の外部版です。(sicc.com.sg)

型2:電子COの証拠は「成果物」だけでなく「プロセス証跡」を残す

監査で役に立つ証拠は、PDFのCOだけではありません。次をセットで保管すると、説明が一気に簡単になります。

  • CO番号、インボイス番号、輸出申告番号のひも付け表
  • 申請時の添付資料一式(BOM、原材料証明、計算表など)
  • システムの操作履歴(誰がいつ申請、誰が承認、いつ発給)
  • 参照サイトや検証システムでの確認結果(必要に応じて)

日本の非特恵COのようにQR参照で真正性を担保する制度では、参照手順を社内標準にしておくことが有効です。(日本商工会議所)

型3:例外処理を事前に作り込む

データ連携が進んでも、例外は残ります。

  • システム障害で紙が必要になる
  • 取引先や銀行が紙提出を求める
  • 訂正、再発給、取消が発生する

インドのeCoO 2.0には、既発給COの訂正を申請する仕組みがある旨が政府発表で触れられています。こうした例外処理は監査で必ず見られるため、社内で標準手順に落としておくべき領域です。(pib.gov.in)

参考にした一次情報・公的情報

  • WCO:e-COの定義とデジタル化の整理 (wcoomd.org)
  • シンガポール税関:ASW e-Form D、EODES with China (customs.gov.sg)
  • 日本商工会議所:非特恵COのオンライン発給(PDF、QR参照) (日本商工会議所)
  • 経済産業省:EPAのCOのPDF化とデータ交換の方針 (経済産業省)
  • WCO:韓国のe-COOの説明 (wcoomd.org)
  • 韓国税関:RCEPガイド(署名者管理やe-certificationの運用) (税関 홈페이지)
  • 中国税関の動き(WCO掲載):自己印刷、電子署名・電子印章、参照サイト (mag.wcoomd.org)
  • MITI(マレーシア):ePCOでの署名・印章の電子貼付、Form Dの運用 (miti.gov.my)
  • タイ政府・JETRO:DFT SMART C/O、e-Form D、対日データ連携 (thailand.go.th)
  • インドネシア貿易省:署名・印章の電子貼付(通達と案内) (e-ska.kemendag.go.id)
  • ベトナムeCoSys:電子署名デバイスや手順、発給主体 (vietnamtradeportal.gov.vn)
  • インドDGFT・PIB:eCoO 2.0、非特恵COの電子申請必須化、署名方式 (coo.dgft.gov.in)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の取引または個別案件に対する法務、税務、通関、監査その他の専門的助言を構成するものではありません。制度・運用・必要書類・受入可否は国、協定、品目、税関、発給機関、取引条件等により異なり、予告なく変更される場合があります。実際の手続きや判断にあたっては、各国当局、発給機関、通関業者、金融機関および専門家に確認してください。本記事の内容に基づく行為または不作為により生じたいかなる損害についても、筆者および掲載者は一切の責任を負いません。

アジア主要国の電子CO署名要件と監査対応

貿易実務とコンプライアンスを両立するための実務ガイド

輸出入の現場では、原産地証明書(CO)はいまも関税優遇の入口であり、同時に監査リスクの起点でもあります。近年は電子化が進み、紙のやり取りは減りましたが、代わりに「署名の方式」「真正性の確認」「電子証跡の残し方」が論点として前面に出てきました。

この文章では、アジア主要国を中心に、電子COの署名要件の考え方と、監査に耐える運用設計の要点を、ビジネスパーソン向けに整理します。制度や運用は協定やフォーム別に差があるため、国別の代表例として読める構成にしています。

電子COで実務が変わるポイントは3つ

署名の論点は「誰が」「何に」「どう署名するか」

COの署名は、実務上は次の2層で捉えるのが安全です。

  • 輸出者側の署名
    申請データや申請添付資料、またはCOの輸出者申告欄に、誰が責任者として署名するか。社内の権限統制そのものです。
  • 発給機関側の署名と印章
    政府当局や商工会議所など、発給機関がCOを認証したことを示す署名と印章を、紙ではなく電子でどう表現するか。

WCOの整理では、紙のCOは通常手書きの署名と押印、電子COは申請と発給が電子で完結し、通常デジタルに署名と押印がされるもの、と定義されています。ここでいうデジタルは、単なる画像貼り付けではなく、電子的な信頼確保の仕組みを含む概念です。(wcoomd.org)

方式は「PDF発給」「署名と印章の電子貼付」「データ連携」の3タイプに収れんする

アジアの電子COは、国や協定が違っても、おおむね次の3タイプに分かれます。

  • タイプA:PDFで発給し、QRコードや参照サイトで真正性を確認する
    紙に印刷して使える運用を残しつつ、真正性はオンライン参照で担保する。
  • タイプB:署名と印章を電子的に貼り付けた自己印刷を正式扱いにする
    いわゆるAffixed Signature and Stampに近い運用。紙は残るが、手書きは不要になる。
  • タイプC:原産地データを当局間で電子連携し、紙の提出を不要化する
    ASEAN Single Window(ASW)や、二国間の電子原産地データ連携がこれに該当。

この分類で整理すると、国別の要件の違いが「署名の見た目」ではなく「真正性確認の根拠」と「監査証跡の残し方」の違いとして見えてきます。

監査で見られるのは署名そのものより「統制」と「証拠」

監査側の関心は「原産性の裏付け」と「責任の所在」

電子化で誤解されやすいのが、COが電子になったから監査が軽くなるわけではない、という点です。むしろ、監査や事後確認では次が見られます。

  • そのCOが、正しい原産地規則に基づくこと
    HSコード、原産地基準(CTC、RVC、WOなど)、協定別の条文との整合。
  • その判断に至った根拠が再現できること
    BOM、原材料の原産資料、製造工程、コスト計算、仕入先の申告書など。
  • 署名する人が正当に権限を持ち、改ざんできない仕組みになっていること
    ここで電子署名や認証、ログ管理が効いてきます。

電子化で増える監査論点は「権限」と「証明書管理」と「ログ」

電子COは、紙の印鑑管理に代わり、次の統制が重要になります。

  • 権限設計
    申請入力、レビュー、承認、発給依頼、訂正・取消の権限を分離する。
  • 電子署名用の証明書・トークン管理
    誰の名義の証明書で署名できるか、失効や更新、紛失時の停止手続き。
  • 電子証跡
    いつ、誰が、どのデータを、どの根拠で、どう変更したかを辿れるログ。

国によっては、制度としても「署名者の登録」や「署名カード」「台帳管理」を求める説明が明確です。たとえば韓国税関のRCEPガイドでは、自己発給の運用において署名者の指定や署名カード、発給履歴の管理が示されています。(税関 홈페이지)

アジア主要国の電子CO署名要件と実務上の注意

ここからは、代表的な制度や運用の特徴を国別にまとめます。実務では、同じ国でも「非特恵CO」と「特恵CO(FTAやEPA)」、「フォーム別」で要件が変わるため、輸出ルートと協定ごとの確認が前提です。

主要国の全体像

国・地域代表的な電子COの形署名・真正性確認の主な考え方監査対応の勘所
日本PDF発給+QR参照、協定によってはデータ連携QRコードで参照システムにアクセスして真正性確認PDF原本、参照結果、発給番号のひも付けを残す
中国自己印刷+電子署名・電子印章、EODES、参照サイト自己印刷は電子署名・電子印章で手書き同等、参照サイトで照合自己印刷の原本扱い、照合手順、例外時の紙要求に備える
韓国電子申請・発給、e-certification、オンライン発給発給当局のDBと公開検証システムで真正性を担保署名者登録と台帳、UNI-PASS等の操作履歴を管理
シンガポールASWや二国間連携、商工会議所のeCOASW等はデータ連携、商工会議所は署名者登録やQR検証署名者名簿、補助資料の提出履歴、発給控えの保管
マレーシアePCOで署名・印章を電子貼付、ASW電子貼付で手書き不要、ASWは電子伝送発給条件と保管年限、月次提出など運用要求を守る
タイDFT SMART C/O、e-Form D、対日データ連携e-Form Dはデジタルで送付、対日はデータ送信で紙不要承認プロセスの証跡、検証システムの確認手順を整備
インドネシアe-SKA+署名・印章の電子貼付署名・印章を電子的に付し、接触削減などの背景で導入適用開始日・対象機関、発給控えと送信履歴の管理
ベトナムeCoSysで申請・添付・電子署名申請で電子署名し、システム上で送付・管理署名デバイス管理、添付資料の整合、検索・照会手順
インドeCoO 2.0で電子申請、DSCやe-signデジタル署名トークンやAadhaar e-signを活用署名トークンの管理、マルチユーザー統制、訂正履歴

以下、国別にもう一段深く見ていきます。

日本

非特恵COのオンライン発給はPDF+QR参照が軸

日本商工会議所は、非特恵COのオンライン発給について、PDFで発給し、PDFを普通紙に印刷したものも従来の専用紙と同等の有効性があること、さらにQRコードから参照システムで真正性と内容を確認できることを明確にしています。(日本商工会議所)

実務のポイントは、発給されたPDFを「最終成果物」として保管するだけでなく、QR参照による確認結果を、取引案件単位で残しておくことです。銀行決済や取引先監査では、参照手順を示せると説明が速くなります。

EPAのCOもPDF化とデータ連携が進行

経済産業省は、インド向け(日印EPA)とマレーシア向け(日馬EPAおよびAJCEP)のCOを2023年7月18日からPDF発給へ移行すると公表しています。また、日タイEPAやRCEPでPDF発給を実現していること、日尼EPAではデータ交換を導入予定であることにも触れています。(経済産業省)

注意点として、相手国税関で自己印刷の提出や別の要件が必要な場合があるため、輸入側手続きの確認が必須です。(経済産業省)

中国

自己印刷と電子署名・電子印章で「手書き同等」を実現

WCOの中国税関による解説では、輸出者はCOを紙または電子で申請でき、承認後は税関で手書き署名・押印された紙を受け取るか、自己印刷サービスで電子署名と電子印章が付されたCOを自社で印刷するかを選べる、とされています。自己印刷のCOは、税関職員の手書き署名・押印と同等の効力を持つ、と明記されています。(mag.wcoomd.org)

ここは監査上も重要です。自己印刷は便利ですが、どれが原本扱いか、再印刷がコピー扱いになる点など、社内でルール化しておかないと、提出先や監査で混乱が起きます。(mag.wcoomd.org)

真正性確認は参照サイトとデータ連携の併用

同じ解説の中で、中国税関発給分は参照サイトで確認でき、CCPIT発給分も別の参照サイトで確認できる、とされています。(mag.wcoomd.org)
また、EODESにより、当局間で原産地データを交換し、輸出入者が証明書類をやり取りせず番号を申告する運用が説明されています。(mag.wcoomd.org)

対中輸出では、相手国側の要件により紙の提示を求められる例外も残るため、データ連携前提の運用であっても、例外時に提出できる形でPDFや印刷物を保持しておくのが無難です。

韓国

e-COOは当局DBと公開検証で真正性を担保

WCOが公開する韓国の説明では、紙のCOは署名と公印で真正性を確保する一方、電子COは電子的に申請・認証・発給され、真正性は発給機関のデータベースと、発給機関の公式ウェブサイトで公開される電子検証システム等で確保される、とされています。(wcoomd.org)

つまり、紙の見た目に依存せず、参照可能なDBが真正性の根拠になります。監査対応でも、参照手順と照合結果が説明材料になります。

署名者管理とe-certificationの運用が監査の肝

韓国税関のRCEPガイドでは、自己発給の手順の中に、署名カードの準備、署名者の指定、署名して発給し、発給台帳を作成する、といった統制要素が具体的に盛り込まれています。さらに、UNI-PASSや商工会議所サイトへe-certificationでログインし、オンライン発給して印刷する流れも示されています。(税関 홈페이지)

日本企業が韓国向けに関与する場合でも、韓国側の取引先が求める統制観点はこの延長にあります。署名者や承認者の特定、履歴、修正理由の説明ができるようにしておくと、商流がスムーズになります。

シンガポール

ASEAN向けはASWのe-Form Dが前提になりつつある

シンガポール税関は、ASWを通じたe-Form Dの交換について、2024年1月1日からASEAN各国が電子Form Dの完全伝送を実施し、輸入側税関が紙のForm Dを受け付けない場合があること、そして現状ASWで交換できるのはForm Dのみであることを明示しています。(customs.gov.sg)

ここは署名要件の考え方が変わる典型です。紙の原本に押された印影よりも、ASWで伝送されるデータが正となり、輸入者側はデータに基づいて優遇申告を行います。

対中はEODESで電子伝送、RCEPにも拡張

シンガポール税関は、中国とのEODESについて、2019年11月1日に開始し、2020年5月1日から中国が電子PCOの完全伝送を実施し紙の送付が不要になったこと、さらに2025年12月11日からRCEPにも拡張されたことを公表しています。(customs.gov.sg)

輸出側の監査対応としては、紙の送付がなくなるぶん、電子伝送の完了証跡と、伝送したCO番号が輸出申告やインボイス番号と正しく紐付いていることの証明が重要になります。

商工会議所発給のeCOは署名者登録と補助資料提出が重要

シンガポール国際商工会議所(SICC)は、eCO利用者登録で、権限を持つ従業員の一覧と署名見本、会社スタンプ印影などを提出すること、また更新が必要であることを案内しています。(sicc.com.sg)
さらに、シンガポールのeCO手続きの規程では、申請者が補助資料をスキャンして提出すること、発給機関がCOと補助資料を保管することなどが示されています。(certoforigin.crimsonlogic.com)

監査目線で見ると、ここは「社内の署名権限統制」と「提出した補助資料の再現性」が問われる領域です。誰が申請できるのか、誰が承認したのかを、社内でも再現できるように運用を合わせておく必要があります。

マレーシア

ePCOで署名と印章の電子貼付を拡大

マレーシアのMITIは、ePCOシステムを通じて、輸出者の署名と公的印章を電子的に付す運用を、2025年1月15日から複数の協定に適用すると発表しています。手書き署名や手作業の押印を不要にする趣旨が明確です。(miti.gov.my)

また、運用として、輸出者が発給されたCOの控え(複写)を毎月提出する旨も示されています。(miti.gov.my)
これは監査対応上、提出物の整合が取れているかを当局が後追いできる設計ともいえます。社内でも同じ控えを保管し、提出履歴と一致する状態を維持するのが安全です。

Form Dの電子伝送も前提化

MITIは、2020年3月18日以降、Form DについてASWでの電子発給・電子伝送を行う旨を案内しています。(miti.gov.my)
取引先が紙のForm Dを求める場合でも、原則は電子が正となるため、電子伝送の仕組みと例外時の扱いを、社内手順に落とし込む必要があります。

保管年限など、協定別の要件に注意

MITIの案内には、たとえばCPTPPに関連して、一定期間の書類保管を求める記載も見られます。(miti.gov.my)
監査対応は国別というより協定別に厳しさが変わるため、貿易管理部門が「国別ルール」だけでなく「協定別ルール」の棚卸しを行うのが効果的です。

タイ

e-Form DがDFT SMART C/Oで完全デジタルへ

タイ政府の案内では、2025年4月28日から、輸出者はDFT SMART C/OでASEANのe-Form Dを申請でき、紙や窓口訪問が不要で、書類は仕向国の税関へ自動送付される、とされています。(thailand.go.th)

このタイプは「署名の見た目」より「当局間で送られたデータが正しい」ことが価値になります。監査対応では、申請データ、承認データ、送付データの連続性を示せる運用が重要です。

日本向けはデータ連携により紙提出が不要に

JETROは、日タイ経済連携協定(JTEPA)について、タイから日本への輸出でe-COの連携システムが導入され、DFTのSMART COシステムで入力し承認されると情報が即時に日本へ送信され、紙の原産地証明書の提出が不要になったと説明しています。(jetro.go.jp)

日本側としては、紙がなくなるぶん、輸入申告時に参照される番号やデータの整合が重要になります。取引先と番号体系の取り扱いを事前に合意しておくと、現場の手戻りが減ります。

e-Verificationの仕組みも押さえる

WTO関連の資料では、TCOIS(Thailand Certificate on-line Inquiry System)が、輸入国の税関等がCOを認証するためのe-verificationシステムであると説明されています。(wto.org)
相手国税関が照会できる仕組みがある場合、監査対応では「照会可能であること」を前提に説明を組み立てると、相手先の納得が得やすくなります。

インドネシア

e-SKAで署名・印章の電子貼付を導入した経緯

インドネシアでは、貿易省の外貿総局が2020年3月末の通達で、原産地証明書の発給において、署名と印章を電子的に付す仕組みを開発し、接触機会の削減などを背景に導入する旨を示しています。(e-ska.kemendag.go.id)
e-SKAの公式案内でも、e-SKAサイトで電子署名と電子印章の機能を提供する旨が説明されています。(e-ska.kemendag.go.id)

実務では、対象フォームや対象機関、例外時の取り扱いが逐次変わり得るため、社内では「このルートのCOは電子貼付なのか」「自己印刷なのか」「データ連携なのか」を案件単位で明確にしておくことが重要です。

ベトナム

eCoSysは電子管理・電子発給の中核で、電子署名が前提

ベトナムのeCoSysは、COの電子管理・電子発給システムとして位置づけられ、法令情報をまとめる政府系ポータルでも、eCoSysのウェブサイトが明示されています。(vietnamtradeportal.gov.vn)
また、eCoSysの利用ガイドでは、申請後に「署名して審査へ送る」ステップが案内されており、電子署名の運用がプロセスに組み込まれています。(ecosys.gov.vn)
FAQでも、デジタル署名デバイスの購入や更新手続きに触れており、署名デバイス管理が実務要件であることが読み取れます。(ecosys.gov.vn)

監査対応では、署名デバイスの管理台帳、利用者の権限、添付資料の整合がポイントになります。特に、複数の署名方式が並立するとコストと統制が崩れるため、企業側は「どの署名基盤を標準にするか」を決めて運用を固定化する必要があります。

非特恵と特恵で発給主体が分かれる点に注意

eCoSysの案内では、工業貿易省が原産地証明の管理を担い、特恵のフォームは同省が直接発給し、非特恵はVCCIが発給する旨が説明されています。(ecosys.gov.vn)
同じベトナム向けでも、フォームによって発給主体と運用が変わるため、監査資料の集め方も変わります。

インド

eCoO 2.0で非特恵COの電子申請が必須化

インド政府の発表(PIB)では、DGFTがeCoO 2.0を立ち上げ、2025年1月1日から非特恵COの電子申請が同プラットフォームで必須になったこと、またAadhaarベースのe-signとデジタル署名トークンの双方をサポートすることが述べられています。(pib.gov.in)

署名要件は、署名そのものより、署名のための本人性確認と権限付与の設計が中心になります。マルチユーザー機能もあるため、企業側の統制設計が成果を左右します。(pib.gov.in)

署名トークンと証明書要件を理解する

DGFTのFAQでは、DSCトークンの有効期限や、署名のためのドングル、証明書にIECが含まれることを確認する手順などが示されています。(coo.dgft.gov.in)
現場では「担当者PCに入っている証明書で署名できてしまう」状態が事故の温床になります。監査対応としては、証明書の配布・更新・失効の統制と、署名行為が誰によって行われたかの記録が必須です。

監査に強い運用設計の型

ここまでの各国事情を踏まえると、国別の違いに振り回されないためには、社内側の設計を先に固めるのが得策です。

型1:署名者と承認者を分け、権限を棚卸しする

最低限、次の分離ができると監査に強くなります。

  • 申請データの入力者
  • 原産判定のレビュー担当
  • 署名・申請送信の実行者
  • 取消・訂正の承認者

シンガポールの商工会議所が求める署名者名簿や署名見本の提出は、まさにこの権限統制の外部版です。(sicc.com.sg)

型2:電子COの証拠は「成果物」だけでなく「プロセス証跡」を残す

監査で役に立つ証拠は、PDFのCOだけではありません。次をセットで保管すると、説明が一気に簡単になります。

  • CO番号、インボイス番号、輸出申告番号のひも付け表
  • 申請時の添付資料一式(BOM、原材料証明、計算表など)
  • システムの操作履歴(誰がいつ申請、誰が承認、いつ発給)
  • 参照サイトや検証システムでの確認結果(必要に応じて)

日本の非特恵COのようにQR参照で真正性を担保する制度では、参照手順を社内標準にしておくことが有効です。(日本商工会議所)

型3:例外処理を事前に作り込む

データ連携が進んでも、例外は残ります。

  • システム障害で紙が必要になる
  • 取引先や銀行が紙提出を求める
  • 訂正、再発給、取消が発生する

インドのeCoO 2.0には、既発給COの訂正を申請する仕組みがある旨が政府発表で触れられています。こうした例外処理は監査で必ず見られるため、社内で標準手順に落としておくべき領域です。(pib.gov.in)

参考にした一次情報・公的情報

  • WCO:e-COの定義とデジタル化の整理 (wcoomd.org)
  • シンガポール税関:ASW e-Form D、EODES with China (customs.gov.sg)
  • 日本商工会議所:非特恵COのオンライン発給(PDF、QR参照) (日本商工会議所)
  • 経済産業省:EPAのCOのPDF化とデータ交換の方針 (経済産業省)
  • WCO:韓国のe-COOの説明 (wcoomd.org)
  • 韓国税関:RCEPガイド(署名者管理やe-certificationの運用) (税関 홈페이지)
  • 中国税関の動き(WCO掲載):自己印刷、電子署名・電子印章、参照サイト (mag.wcoomd.org)
  • MITI(マレーシア):ePCOでの署名・印章の電子貼付、Form Dの運用 (miti.gov.my)
  • タイ政府・JETRO:DFT SMART C/O、e-Form D、対日データ連携 (thailand.go.th)
  • インドネシア貿易省:署名・印章の電子貼付(通達と案内) (e-ska.kemendag.go.id)
  • ベトナムeCoSys:電子署名デバイスや手順、発給主体 (vietnamtradeportal.gov.vn)
  • インドDGFT・PIB:eCoO 2.0、非特恵COの電子申請必須化、署名方式 (coo.dgft.gov.in)

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2026年1–2月に押さえる主要国の原産地検証(検認)と罰則動向

貿易実務が経営リスクに直結する時代の、優先順位と打ち手

はじめに

原産地は、関税率を決めるための書類仕事と思われがちです。ところが2026年に入ってからの各国の動きを見ると、原産地は「コスト最適化」だけでなく「コンプライアンスとレピュテーション」を左右する中核データになっています。

背景には、自己申告型の原産地申告が広がったこと、追加関税や制裁で関税差が拡大したこと、そして当局側のデータ照合能力が上がったことがあります。結果として、税関の事後検証や監査、罰則の適用が現実味を帯びています。米国では貿易不正対策のタスクフォース設置が明示され、関税法に加えて民事の枠組みも用いた追及が打ち出されています。(司法省)

本稿は、2026年2月9日時点で公表されている一次情報を中心に、2026年1–2月に日本企業が優先して追うべき「主要国の原産地検証と罰則動向」を整理し、すぐに社内の稟議や体制整備に落とし込める観点で深掘りします。

忙しい人向け

2026年1–2月の重要シグナル7点

1 EU

1月1日から改正PEM原産地ルールが単独適用に

欧州のPEM地域では、2025年末まで併存していた複数ルールが整理され、2026年1月1日以降は改正版PEMが単独で適用される旨が明確化されています。欧州向け部材調達や域内累積を使う企業は、原産地計算や証拠書類の前提が変わり得ます。(EU貿易)

2 EU

CBAMが2026年1月1日から本格フェーズへ

CBAMは2026年1月1日から新フェーズに入り、対象品目の一定量以上の輸入などでは、認可申請や認可取得が輸入実務の前提になり得る点が強調されています。遅延やペナルティ回避のため、期限までの申請が呼びかけられています。(Taxation and Customs Union)

3 カナダ

1月にコンプライアンス検証優先分野を更新し、原産地検証を明示

CBSAは2026年1月に優先分野を更新し、CUSMAの原産地検証や、CETAおよびカナダ・英国協定の原産地検証を優先対象として掲げています。事後検証を前提に、短い期限での回答や資料提出が求められる運用も説明されています。(cbsa-asfc.gc.ca)

4 英国

1月に民事ペナルティの理由コード更新

HMRCは税関民事ペナルティの案内ページを2026年1月12日付で更新し、理由コードの更新を公表しています。ペナルティがコード体系で運用されるため、実務上は社内のエラー分類や再発防止と結び付けやすいのが特徴です。(GOV.UK)

5 英国とインド

原産地主張は検証され、誤りなら追徴とペナルティの可能性

英国側の案内では、両国当局が原産地主張を検証し得ること、HMRCが情報要求や事業所訪問により検証し得ること、誤りがあれば輸入者が関税を支払い、ペナルティが適用され得ることが明記されています。記録保存は少なくとも5年とされています。(Business Growth Service)

6 日本

原産地が確認できなければ特恵否認、追徴とペナルティに発展し得る

日本税関は、EPAやGSPで特恵適用済みの輸入貨物について、輸入者への情報提供要請を起点に原産地検証を行い、必要に応じて輸出者や生産者への照会や訪問検証を行うことを説明しています。原産性が確認できない場合、特恵が否認され、事案によっては追徴税や不足税額に対するペナルティの対象となり得る旨が示されています。(税関ポータル)

7 米国と韓国

罰則強化と執行連携が進み、原産地は高リスク領域に

米国では貿易不正の取締りを強める枠組みが公式に打ち出され、関税法や民事の仕組み、刑事訴追まで含めた執行が示されています。(司法省)
韓国では、税関法とFTA特別法の改正について、関税回避への制裁強化として、一定の不正による過少申告に対するペナルティ率の引上げなどが解説されています。(kimchang.com)

なぜ今、原産地が経営課題なのか

原産地は、次の3つの領域で同時に問われます。

1 特恵関税の原産地

EPAやFTAの特恵を受けるための原産地。誤りは、特恵否認と追徴に直結します。日本税関の説明でも、確認できなければ特恵が否認され、追徴とペナルティに発展し得る点が明確です。(税関ポータル)

2 追加関税やアンチダンピング回避を疑われる原産地

関税差が大きいと、第三国を経由した迂回や虚偽原産地の疑いが高まり、税関や捜査当局の関心が上がります。米国では貿易不正対策タスクフォースが、関税回避や迂回などの取締りを掲げています。(司法省)

3 規制やサステナビリティの起源情報

CBAMのように、輸入時に追加的な制度要件を満たさないと遅延やペナルティに直結する領域が増えています。(Taxation and Customs Union)
原産地そのものだけでなく、サプライチェーンのデータ品質が問われる方向です。

国別の深掘り

何が検証され、どのように罰則が効くのか

米国

取り締まりの構図

米国は、関税法の枠内にとどまらず、民事の枠組みや刑事も含めた立体的な執行を明確にしています。司法省は貿易不正対策タスクフォースの設置を公表し、関税法、False Claims Act、刑事訴追などを通じた取締りを掲げています。(司法省)
JETROも2026年1月のレポートで、関税回避や迂回への取り締まり強化の流れを整理しています。(JETRO)

罰則が重くなりやすい典型パターン

ビジネス実務で注意すべきは、単なる書類不備ではなく、次のような構図に入った瞬間にリスクが跳ね上がる点です。

1 追加関税や高関税の回避を意図したと疑われる
2 原産地表示や原産地申告が取引実態と整合しない
3 税関手続きの虚偽が、民事や刑事の争点になり得る

この領域の重さを示す例として、司法省は2025年12月18日付で、関税を不当に免れたとの疑いに関する大型の和解を公表しています。(司法省)
金額が大きいからといって自社に無関係とは言い切れず、関税差が大きい品目、調達地の変更が多い品目、第三国での加工や中継が多い品目は、組織的にリスク評価すべきです。

実務で効く対策

米国向けは、特恵原産地よりも、国別追加関税や迂回疑義が引火点になりがちです。次の3点を先に整えると、監査や照会に耐性が出ます。

1 出荷前に原産地根拠を一枚で説明できる資料
部材調達地、工程、付加価値、HS分類、原産地判断ロジックを簡潔にまとめる。

2 原産地表示と通関申告の整合チェック
インボイス、パッキングリスト、ラベル、製品仕様書で国名が揺れていないかを定期点検する。

3 自主点検と早期相談のルール化
当局側も企業の監査や是正の重要性に触れています。社内監査と専門家相談の導線を作ることが、結果として損失を抑えます。(司法省)

欧州連合

1月1日の改正PEM単独適用が実務に与える影響

PEM地域での累積を使う場合、計算ルールや証明の前提が変わると、原産地判定が連鎖的に変わります。欧州委員会の説明では、2025年末まで2つのルールが併存し、2026年1月1日以降は改正版PEMのみが適用されることが明記されています。(EU貿易)
現場で起きやすいのは、取引先の自己申告文言やサプライヤー宣誓のフォームが旧前提のまま残ることです。欧州向けは、サプライヤーの宣誓書式と自社の原産地判定書式を同時に更新するのが安全です。

2026年の制度実装が進む領域としてのCBAM

CBAMは原産地そのものの制度ではありませんが、輸入実務で追加要件が本格化することで、通関に必要なデータが増え、遅延やペナルティの可能性が高まります。欧州委員会は、2026年1月1日から新ルールが適用され、一定の輸入者は認可が必要になり得る点や、期限までの申請を促しています。(Taxation and Customs Union)
結果として、原産地だけでなく、品目定義や数量管理、取引情報の正確性が同時に問われる構図になります。

英国

民事ペナルティがコード体系で運用される

英国は、税関民事ペナルティに関する情報を公開し、誰が責任を負い、どの理由コードで課徴されるかを整理しています。2026年1月12日付で理由コードが更新されたことも公表されています。(GOV.UK)
実務的には、社内で発生したミスを理由コード単位で分類できるため、是正計画と教育設計がしやすい点が特徴です。

英国とインドの枠組みで明確化された検証と記録保存

英国側の案内では、当局が原産地主張を検証し得ること、HMRCが情報要求や事業所訪問で検証し得ること、誤りなら輸入者が関税を支払い、ペナルティが適用され得ることが明記されています。加えて、原産地申告日から少なくとも5年間の記録保存が求められています。(Business Growth Service)
この書きぶりは、英国企業の一般的な姿勢というより、制度として検証と証拠を前提にしていることを意味します。日本企業が英国から輸入する側であっても、サプライヤーに記録保存と提示能力があるかを確認しないと、いざ検証で詰まります。

カナダ

優先分野の公表が示す、事後検証の常態化

CBSAは2026年1月に貿易コンプライアンス検証の優先分野を更新し、CUSMA、CETA、カナダ・英国協定の原産地検証を明示しています。(cbsa-asfc.gc.ca)
また、当局は近代化の文脈で、事前通知や照会などの介入手段、30日での対応要求などを説明しています。(cbsa-asfc.gc.ca)
つまり、原産地検証は例外的な監査ではなく、優先度の高い恒常業務として設計されています。

実務で効く対策

カナダ向けは、検証が来る前提で、提出資料のテンプレート化をするのが最も費用対効果が高いです。

1 品目ごとの原産地根拠パッケージを作る
2 サプライヤー宣誓の入手と更新サイクルを決める
3 30日で回答できる社内フローを作る
優先分野に入っている以上、いつ来てもおかしくありません。(cbsa-asfc.gc.ca)

日本

日本税関の原産地検証は輸入者起点で始まる

日本税関は、特恵適用後に、輸入者へ文書で情報提供を求め、提出された資料で原産性を判断することを説明しています。輸入者側で確認できない場合、輸出者や生産者に照会し、必要に応じて事業所への訪問検証も行う運用が示されています。(税関ポータル)

罰則の出口は特恵否認にとどまらない

日本税関は、原産性を確認できなければ特恵が否認され、ケースによっては不足税額に対する追徴やペナルティの対象となり得るとしています。(税関ポータル)
ここで重要なのは、証明書を受け取っただけで安全ではない点です。税関は、証明書があっても輸入者が自ら原産地基準を満たすか確認すべきという趣旨で、検証で非原産と判断された事例を参照情報として公表しています。(税関ポータル)

韓国

虚偽申告に対して追加税、サーチャージ、行政罰、刑事手続きが並立

韓国税関は、虚偽申告や不正が検出された場合の体系として、追加税とサーチャージ、行政罰、そして必要に応じた告発や捜査要請につながる枠組みを説明しています。(customs.go.kr)
特に貿易実務で効くのは、原産地表示や原産地検証に関する項目が、コンプライアンスのメニューとして整理されていることです。(customs.go.kr)

制裁強化の方向性

韓国の法改正動向については、関税回避に対する制裁強化として、一定の不正による過少申告に対するペナルティ率の引上げや、課税の時効に関する変更が解説されています。(kimchang.com)
韓国でFTA特恵を使うビジネスは、原産地判定だけでなく、申告内容の正確性と、後日の検証に耐える資料保存を前提に置くべきです。

中国

罰則は実務の隙に入りやすい

中国では税関による行政処分の情報が公表され、原産地申告や協定税率の適用に関する不備が処分に発展する事例が継続的に見られます。
報道によれば、2026年1月に、輸入貨物の協定税率に関する申告情報の不備を理由として、約140万元の罰金が科された事例が伝えられています。(cj.sina.cn)
個社の事例に過度に引きずられる必要はありませんが、協定適用に関する申告情報の正確性が、罰則リスクに直結することを示すシグナルです。

実務で効く対策

中国は、輸入側の申告情報と提出書類の整合が焦点になりやすいです。現場で効くのは次の3点です。

1 協定適用の有無と根拠書類を申告データと一体管理する
2 原産地証明の真正性をチェックする
3 取引先や通関業者に任せきりにしない

原産地は紙ではなく、データとして整合を取る時代になっています。

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原産地検証に強い体制づくり10項目

1 優先順位を決める

全品目を同じ熱量で管理すると破綻します。まずは、関税差が大きい品目、FTA利用額が大きい品目、調達地変更が多い品目を上位に置く。

2 原産地判定の根拠を一枚で説明できるようにする

ルールの引用だけでなく、部材、工程、価格要素、HS分類、結論を一貫したロジックで残す。

3 サプライヤー宣誓の取得と更新を契約に埋め込む

英国とインドの枠組みでは、記録保存や検証への対応が前提として明記されています。サプライヤー側の資料提示能力を契約条項に落とすのが安全です。(Business Growth Service)

4 事後検証を前提に、回答期限内に出せる形へ整える

カナダは優先分野を公表し、短い期限での対応を想定した運用を説明しています。社内の照会対応フローを定義しておくことが効果的です。(cbsa-asfc.gc.ca)

5 輸入側だけに寄せない

日本税関の説明の通り、輸入者側で確認できない場合、輸出者や生産者まで検証が及び得ます。輸出側の工場や生産管理が耐えられるかも含めて準備する。(税関ポータル)

6 原産地表示と通関申告の整合を定期点検する

表示だけ、申告だけの管理は危険。ラベル、インボイス、原産地申告文言がズレていないかを監査項目に入れる。

7 変更管理をルール化する

調達先、工程、材料比率が変わったら原産地判定をやり直す。現場判断で放置しない。

8 高リスク案件は事前照会を使う

韓国では原産地に関する事前評価の制度拡充が解説されています。各国の制度の有無を調べ、該当する場合は積極的に使う。(kimchang.com)

9 罰則の出口を想定して経営判断する

米国では執行連携が明確化されており、罰則が関税の範囲にとどまらない可能性があります。高リスク商流は、コストと制裁リスクを同じ天秤に載せるべきです。(司法省)

10 経営層に伝える指標を作る

FTA利用額、検証対象件数、資料整備率、是正完了率をKPI化すると、原産地が現場の努力目標から経営管理に昇格します。

まとめ

2026年1–2月の動向から見えてくるのは、原産地が単なる関税コストの話ではなく、当局の検証を前提にしたガバナンス領域へ移行していることです。EUの改正PEMの単独適用、カナダの原産地検証優先分野の明示、英国のペナルティ運用の更新、日本税関の検証プロセスの明文化、米国の執行体制の強化は、いずれも同じ方向を指しています。(EU貿易)

今期にやるべきことは、情報収集よりも、検証される前提で資料とフローを整えることです。短期では、重点品目に絞った原産地根拠パッケージの整備が最も投資対効果が高く、長期では、調達変更管理とデータ整合を仕組みに落とすことが競争力になります。

免責事項

本記事は、2026年2月9日時点で入手可能な公表情報に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的助言、税務助言、通関助言を構成するものではありません。個別案件への適用可否、当局対応、契約条項の設計については、必ず自社の顧問弁護士、通関士、税務専門家等の助言を得たうえでご判断ください。また、各国の制度や運用は予告なく変更される場合があります。

アジア主要国の電子CO署名要件と監査対応

最終更新 2026年2月9日

はじめに

電子CO(電子原産地証明書)は、単に紙をPDFに置き換える話ではありません。実務で本当に効いてくるのは、署名や印章が電子化されたときに「真正性を、誰が、どう検証できるのか」、そして「その検証可能性を、監査や事後確認まで含めて維持できるのか」です。WCO(世界税関機構)の調査でも、相手国が電子COを受け入れない主因として、デジタル署名がない、または検証できないことが挙げられています。 (wcoomd.org)

本記事では、アジア主要国を中心に、電子COの署名要件が実務でどう表れるか、そして税関の原産地検証や社内監査に耐える運用設計を、ビジネスマン向けに深掘りします。


1. まず押さえるべき前提

1-1 電子COで監査が見るのは、署名そのものより「検証できる状態」

電子COは偽造や誤用のリスクがゼロになるわけではありません。WCOの事例では、輸入時にスキャン画像として提出された電子COについて、署名や印章が不鮮明で似通って見えたことが端緒となり、遡及確認の結果、真正でないと判断され、特恵が否認されたケースが紹介されています。つまり、電子COをスキャンや画像化すると、検証に必要な要素が失われ、監査上の弱点になり得ます。 (wcoomd.org)

1-2 税関の検証は、輸入者だけで終わらない

例えば日本税関は、特恵適用後の「原産地検証」において、輸入者に情報提供を求め、なお確認できない場合には輸出者や生産者に照会したり、訪問確認を行う場合があると説明しています。検証で原産性が確認できなければ特恵が否認され、追徴やペナルティにつながり得ます。 (税関ポータル)


2. 電子COと署名要件を整理する

2-1 電子化は3段階に分けて考える

電子COの実態は国や協定で異なります。混乱を避けるため、次の3段階で切り分けると運用設計が安定します。

  1. 電子申請
    申請はオンラインだが、最終成果物は紙のCOが中心という運用も残ります(電子化の入り口)。
  2. 電子発給
    当局や商工会議所が電子的に承認し、PDF出力や電子的な印章・署名が付与される段階。
  3. 政府間データ交換
    税関間や単一窓口(Single Window)間でデータが直接やり取りされ、輸入側は参照番号等で照合する段階。WCOも、政府間送受信は第三者を介さないため真正性の担保に資すると整理しています。 (wcoomd.org)

2-2 署名の「形」は1種類ではない

アジアの電子CO実務では、署名は概ね次のタイプで現れます。

  • 電子的に付された署名・印章
    紙に印刷されるが、署名・印章自体が電子的に付与されるタイプ。マレーシアのATIGA Form Dで、技術的事情により「電子的に付された署名と印章付きの紙Form D」を運用した旨の告知があり、このタイプが現場で使われていることが分かります。 (マレーシア国際貿易産業省)
  • デジタルスタンプ、デジタル署名
    PDF等にデジタルスタンプや署名が付与され、検証可能であることが前提。
  • QRコードやURLによる真偽確認
    CO上のQRコードやURLで検証サイトに誘導し、真正性を確認する設計が普及しています(特に商工会議所型のeCO)。 (sccci.org.sg)

3. ASEANを軸に理解する

アジアの電子COを語るとき、ASEANの枠組みを理解すると、周辺国の制度も読み解きやすくなります。

3-1 2024年1月1日から、ATIGA Form Dは電子交換が前提

シンガポール税関は、2024年1月1日付でASEAN加盟国が電子Form Dの完全送信を実施し、加盟国の輸入税関が紙のForm Dを特恵申告で拒否する可能性があると明記しています。ASEAN向け取引では、紙原本を前提にした運用を続けること自体が、通関遅延や特恵否認のリスクになります。 (customs.gov.sg)

3-2 ATIGAのe-Form Dは「参照番号」と「保存義務」が鍵

ATIGAの運用規程(改正OCP)では、特恵申告の際に輸入者がe-Form D参照番号を含む輸入申告を提出し、必要に応じてインボイスや通し船荷証券などの証拠書類も提出すると定めています。 (asean.org)
さらに、電子アーカイブと保存期間について、輸出者や生産者はe-Form D発給日から少なくとも3年間、申請の裏付け記録を保存すること、発給当局も関連文書を少なくとも3年間保存することが規定されています。 (asean.org)

この「参照番号で照合される構造」と「保存義務」が、電子CO時代の監査対応の出発点です。


4. 国別にみる電子COの署名要件と真偽確認

ここからは、主要国の実務で押さえるべきポイントを、署名と監査の観点で整理します。

4-1 シンガポール

ATIGA向け

2024年1月1日以降、ASEAN加盟国間では電子Form Dの完全送信が前提で、紙Form Dが拒否され得る点をまず徹底します。 (customs.gov.sg)

非特恵のeCO

シンガポール中華総商会(SCCCI)は、政府のデジタル化方針の下でブロックチェーン基盤を使ったeCOを導入し、COの真正性を固有のQRコードまたはURLで確認できると説明しています。eCOはデジタルスタンプ、署名、日付が付与される運用も明記されています。 (sccci.org.sg)

監査の観点では、PDFの原本、QRまたはURLで照会した結果の記録(いつ、誰が、どの番号を照合したか)を残すことが重要です。

4-2 マレーシア

マレーシア投資・貿易産業省(MITI)の告知では、ミャンマー側のASWゲートウェイ技術問題により、ATIGA e-Form Dの交換ができない場合に「電子的に付された署名と印章付きの紙Form D」を運用した旨が示されています。紙であっても署名・印章が電子的に付されるケースがあるため、監査では「紙か電子か」よりも「発給当局の真正性をどう担保し、どう検証できるか」が問われます。 (マレーシア国際貿易産業省)

4-3 タイ

タイのe-Form Dは、DFT Smart C/Oで電子申請し、タイ国家単一窓口からASEAN Single Window経由で相手国へ自動送信される仕組みとして整理されています。政府間データ交換型のため、輸入側は参照番号等で照合する設計に寄ります。 (digitalizetrade.org)

監査では、参照番号と輸出入申告、インボイス、船積書類の突合を機械的にできる状態にしておくと強いです。

4-4 インドネシア

インドネシア商業省のe-SKAでは、電子的に適用される署名とスタンプ(Affixed Signature and Stamp)を導入し、物理的接触を減らしつつ発給を効率化すると説明しています。 (e-ska.kemendag.go.id)
また、e-SKAの利用マニュアルでは、e-SKAがINSWやASWで国際的にSKAデータを交換する旨が記載されています。 (e-ska.kemendag.go.id)

ポイントは、電子的に付された署名・スタンプの出所が当局側であることを示せる運用と、照合のための番号管理を徹底することです。

4-5 ベトナム

ベトナムは2024年以降、eCoSysを軸に電子COを拡大しています。MOIT系の通知(Notice 1089)では、eCoSysで電子承認されたCOをカラー印刷し、その印刷物に発給当局の署名・印章とQRコードが組み込まれ、QR等で真正性確認に用いる旨が示されています。 (thuvienphapluat.vn)
一方で、eCoSysのFAQでは、対象11フォームの多くはベトナムと相手国の間に電子データ交換メカニズムがないため、輸入国税関は原本のCOに基づいて特恵判断を行う、と説明されています。つまり「発給は電子、通関は原本提示が前提」という過渡期の設計が残ります。 (ecosys.gov.vn)
さらにJETROも、ベトナムの複数協定でe-CO発給やデータ交換が進む状況を報じています。 (jetro.go.jp)

監査対応としては、QRによる照合ができる状態で原本管理しつつ、相手国の受入れ要件(原本提示か、データ交換か)を取引先と合意しておく必要があります。

4-6 韓国

WCO資料では、韓国商工会議所(KCCI)発給のCOについて、QRコードが税関や商工会議所の公式検証サイトへのリンクとなり、透かしや二次元バーコードなどのセキュリティ要素があることが示されています。 (wcoomd.org)
また韓国税関サイトは、COの方式として当局発給と自己証明を整理し、自己証明は輸出者が署名して宣言する枠組みであることを説明しています。 (customs.go.kr)

実務で重要なのは、当局発給COは公式サイトで検証できる状態を保存すること、自己証明型は「誰が、どの権限で署名したか」を社内統制で担保することです。

4-7 中国

中国側での真正性確認は、税関系とCCPIT系で入口が分かれることがあります。中国税関の原産地証明関連プラットフォームでは、証明書番号等を前提に照会する画面が提供され、運用上の問い合わせ窓口も提示されています。 (origin.customs.gov.cn)
またCCPITのインターネット認証センターでは、証明書番号とシリアル番号等を入力してCO内容の確認ができる旨が示されています。 (ccpitecoo.net)

監査では、CO番号体系の管理、照会結果の記録、そして「スキャンで提出していた」「原本データを廃棄していた」といった失点を防ぐことが重要です。スキャン提出が疑義や否認につながり得る点は、WCOの監査事例が警鐘になっています。 (wcoomd.org)

4-8 インド

インドはDGFTの共通デジタルプラットフォームでCOを一元化しており、電子的でペーパーレスな発給プロセスを掲げ、指定発給機関が同ポータルで業務を行う設計としています。 (coo.dgft.gov.in)
登録マニュアルでは、輸出者がIECを含むデジタル署名証明書を準備し、DSCを挿してIECを入力して登録を進める手順が明記されています。 (coo.dgft.gov.in)

監査対応としては、DSCの名義と権限管理、IEC情報の最新化、ポータル側の移行や運用変更への追随が要点です(ポータル上でも新システム移行や提出義務の告知が掲載されています)。 (coo.dgft.gov.in)

4-9 日本

日本の輸出関連では、JCCIがEPA等に基づく特定原産地証明書について、オンラインの発給システムから電子的に申請するよう案内しています。 (jcci.or.jp)
同ページでは、申告データや立証書類の保存義務が示され、原則5年間、協定によっては3年間と明記されています。保存年限は監査対応の土台になるため、協定別に自社の最長基準で統一するのが安全です。 (jcci.or.jp)
また前述の通り、日本税関の原産地検証は輸入者だけでなく、輸出者や生産者にも照会が及び得ます。輸出側であっても「監査の当事者」になり得る点は、社内で共有しておく必要があります。 (税関ポータル)


5. 監査対応を強くする運用設計

ここからは、国別差を吸収しつつ、監査に強い共通設計を提示します。

5-1 電子CO監査の基本は「真正性」と「原産性」の二段構え

  • 真正性
    そのCOが発給当局の正式なものか。QR、URL、参照番号、検証サイト照会、政府間送信などで裏取りできるか。
  • 原産性
    ルールオブオリジンを満たしているか。BOM、工程、RVC計算、仕入先宣誓、製造記録などで説明できるか。

COがあっても原産性は別途確認され得る点は、日本税関が「証明書を入手しても、輸入者が自ら原産性を確認する必要がある」趣旨の情報提供をしている点からも読み取れます。 (税関ポータル)

5-2 電子署名の検証可能性を落とさない

次の設計を推奨します。

  1. 原本ファイルを必ず保管する
    PDF原本、発給番号、参照番号、発給日、発給機関を案件IDで紐づけます。スキャン画像しか残っていない状態はリスクです。 (wcoomd.org)
  2. 真偽確認ログを残す
    QRや検証サイトで照会した結果について、照会日時、照会者、照会番号、結果を記録します(スクリーンショットでもよいが、原本ファイル保管が前提)。
  3. 協定や国ごとに「受入れ形態」を台帳化する
    政府間データ交換か、印刷原本提示かで、通関時に必要な動作が変わります。例えばベトナムはeCoSys発給でも、相手国とのデータ交換が未整備なら原本が前提になり得ます。 (ecosys.gov.vn)

5-3 保存期間は「協定別の要件」を起点に、社内で最長に寄せる

  • ATIGA e-Form Dは、裏付け記録を少なくとも3年保存する規定があります。 (asean.org)
  • 日本の特定原産地証明書では、原則5年、協定により3年という整理が明記されています。 (jcci.or.jp)

ここで重要なのは、相手国・協定が複数混在する現場では、保存ルールを案件ごとに変えると漏れます。社内規程は最長基準で統一し、例外を作らない方が監査に強くなります。

5-4 税関照会に備える「監査対応パック」を先に作る

税関の照会はスピードが求められます。日本税関の説明でも、文書照会や訪問確認があり得ることが示されており、準備の有無で負荷が大きく変わります。 (税関ポータル)

おすすめの監査対応パック構成は次の通りです。

  1. CO一式
    CO原本、参照番号、発給機関、検証結果ログ
  2. 物流一式
    インボイス、パッキングリスト、B/LまたはAWB、必要なら通し船荷証券
  3. 原産性一式
    BOM、工程表、RVC計算根拠、仕入先宣誓書、製造実績、HSコード根拠
  4. 統制一式
    誰が申請し、誰が承認し、誰が出荷判断したか(権限管理の証跡)

6. よくある失敗と、現場で効く対策

6-1 ASEAN向けで紙Form Dを出し続ける

2024年1月1日以降、加盟国で電子Form Dの完全送信が実施され、紙のForm Dが拒否され得ると明記されています。取引先や通関業者が従来運用のままだと、通関で止まります。 (customs.gov.sg)

対策

  • 取引先に渡す情報を「Form Dそのもの」から「e-Form D参照番号」に切り替える
  • 輸入申告で参照番号を確実に入力できるよう、通関業者との連携手順をSOP化する (asean.org)

6-2 電子COを印刷して、PDF原本を捨てる

印刷物ではデジタル署名の検証ができないケースがあります。監査や事後確認では、原本データがないことが弱点になり得ます。 (wcoomd.org)

対策

  • 原本PDFを保管し、照会ログとセットで保存する
  • 監査提出用に印刷する場合も、原本の所在を明確にする

6-3 スキャン提出や画像共有が常態化している

WCOの事例では、スキャン画像の電子COが偽造の疑いにつながり、否認・調査に発展しています。 (wcoomd.org)

対策

  • 電子COは原本ファイルで受領し、必要なら検証サイトで照合する
  • 画像共有は例外対応とし、例外時はなぜそうしたかを記録する

6-4 インド向けでDSC要件を軽視する

DGFTマニュアル上、IECを含むデジタル署名証明書が登録手順の前提です。 (coo.dgft.gov.in)

対策

  • DSCの名義、期限、保管方法、代理利用の可否を社内ルール化する
  • DGFTポータルの移行告知など、運用変更に追随できるウォッチ体制を置く (coo.dgft.gov.in)

6-5 ベトナムのeCOを「データ交換型」と誤認する

ベトナムはeCoSysで電子承認し、署名・印章とQRが組み込まれた印刷物で真正性確認できる運用を示しています。一方で、対象フォームでは相手国とのデータ交換がない場合、輸入国税関は原本に基づく判断になる、とFAQで説明されています。 (thuvienphapluat.vn)

対策

  • 相手国側が原本提出を前提としているか、通関実務で確認し、取引先と合意しておく
  • QR照会の手順と記録方法をSOPに落とす

7. まとめ

電子COの署名要件は、国ごとに見た目も仕組みも異なります。しかし監査の観点で本質は共通です。

  • 署名や印章が「検証可能」であること
  • 参照番号や検証ログを含め、証跡が残っていること
  • COの真正性と、原産性の裏付けを分けて準備できること

この3点を軸に、協定別の保存要件を最長基準で統一し、部門横断で運用設計すれば、通関遅延や特恵否認のリスクを大きく下げられます。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引に対する法的助言、税務助言、通関助言を構成するものではありません。電子COや特恵申告の取扱いは、適用協定、輸出入国の法令・通関実務、発給機関の運用変更により変動します。実際の運用判断にあたっては、関係当局の最新情報、通関業者、弁護士・税理士等の専門家に必ずご確認ください。

北米貿易の命運を握る「2026年7月」に向けたカウントダウン。USMCA再検討と関税リスクの深層

2026年2月9日現在、北米のサプライチェーンを支える「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」は、発効以来最大とも言える転換点を迎えています。特に、協定の継続か終了かを決定付ける「共同見直し(ジョイント・レビュー)」の期限である2026年7月1日まで残り5ヶ月を切りました。

2025年から続く追加関税の脅威や、政治的な対立が複雑に絡み合う中、ビジネスマンは目前の「期限」が意味する法的・経済的なリスクを正確に把握する必要があります。本稿では、FTA・EPAの専門家の視点から、交渉の現状と日本企業が取るべき戦略を深掘りします。


1. 「2026年7月1日」という真のデッドラインの意味

USMCAには、従来の自由貿易協定には珍しい「サンセット(失効)条項」が含まれています。これは、発効から6年ごとに協定の運用を見直し、全加盟国が延長に同意しなければ、将来的な失効プロセスに入ってしまうという極めて厳しいルールです。

延長合意か、毎年の「改善協議」突入か

2026年7月の共同見直しで、米国、メキシコ、カナダの3カ国すべてが協定の継続に署名すれば、USMCAはさらに16年間(2042年まで)延長されます。しかし、一カ国でも反対すれば、協定は即座に終了するわけではありませんが、その後10年間にわたって毎年協議を続けなければならない「不安定な期間」に突入します。

現在、米国通商代表部(USTR)は、移民問題や薬物対策、対中規制の強化といった非貿易的な要素を「協定継続の条件」として掲げており、交渉は難航が予想されています。


2. 2025年から続く「関税の波」と「USMCA免税」の境界線

2025年初頭、トランプ政権はメキシコとカナダに対して25パーセントの一律追加関税を課す方針を打ち出し、北米貿易は一時的な混乱に陥りました。その後、実務的な調整を経て、現在の関税体系は「USMCA原産地規則」を軸に二極化しています。

認証済み製品の優位性と非認証品へのペナルティ

現在、USMCAの原産地基準を満たし、適切に証明された貨物の多くは引き続き関税ゼロで取引されています。しかし、認証を受けられない、あるいは中国産部品の比率が高い製品については、25パーセントから最大50パーセントの追加関税(特に鉄鋼・アルミニウム・自動車部品)が課されるという、極めて選別的な制裁が行われています。

これは、単に「メキシコで作れば良い」という時代が終わり、部材レベルでの「脱中国・域内調達」がUSMCA活用の最低条件になったことを意味します。


3. 日本企業への直撃と「ニューノーマル」への移行

この交渉の不透明感は、特に日本の基幹産業である自動車セクターに巨額の損失をもたらしています。

数兆円規模の利益圧迫

主要な日系自動車メーカーは、2025年度の決算において、累計で数兆円規模の関税コスト増に直面しています。これまでUSMCAの恩恵を前提に構築してきた北米供給網は、関税が「常態化」するニューノーマル(新常態)への適応を余儀なくされています。

供給網の再編と自動化投資

多くの日本企業は、関税負担を軽減するために以下の二方向で動いています。

  • サプライヤーの多角化: 中国依存を脱却し、メキシコ国内や米国での現地調達率を引き上げる。
  • 米国本土への投資回帰: 追加関税を回避するため、最終組み立てや主要部品の生産を米国国内へ再移転(リショアリング)する動きが加速しています。

4. ビジネスマンが注視すべき今後のタイムライン

目前の2月・3月は、2026年7月の共同見直しに向けた「実務交渉の山場」となります。

  • 2026年春: 米国議会および各国の国内手続きに向けたUSTRの最終評価報告。
  • 2026年7月1日: 運命の共同見直し期限。延長の合否が判明。

企業の貿易担当者は、インコタームズ(貿易条件)を再確認し、関税が買い手と売り手のどちらの負担になっているかを精査すると同時に、USMCA原産地証明の不備を徹底的に排除するコンプライアンス体制を構築してください。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

米国の関税回避取り締まり強化:日本企業が知っておくべきリスクと対応策

はじめに

2026年に入り、トランプ米政権による関税回避の取り締まりが大幅に強化されています。2025年8月に設立された省庁横断の「貿易詐欺対策タスクフォース」は、原産国の虚偽申告や迂回輸入など違法な関税逃れに対して、民事・刑事両方の罰則を科す姿勢を明確にしています。日本企業にとって、この取り締まり強化は対米ビジネスにおける新たなコンプライアンスリスクとなっており、適切な理解と対応が急務となっています。strtrade+1

貿易詐欺対策タスクフォースの全貌

省庁連携による執行体制の構築

米国司法省は2025年8月29日、国土安全保障省傘下の米国税関・国境警備局(CBP)と連携した「貿易詐欺対策タスクフォース」を正式に立ち上げました。この組織は司法省の民事局と刑事局が中心となり、違法に関税を支払わない事業者に対する法執行を強化する目的で設立されました。司法省は、国内投資の財源としての関税徴収を損ない、違反者に不当な競争優位をもたらす貿易詐欺を容認しない姿勢を明確に示しています。[crdb]​

2025年12月18日には、わずか1日で3件の執行事例が発表され、企業が合計1億ドル以上の罰金を支払う合意が成立しました。この異例のペースは、タスクフォースが本格的に稼働し始めたことを示しています。[akingump]​

取り締まり対象となる違反行為

貿易詐欺対策タスクフォースが取り締まる主な違反行為は以下の通りです。[crdb]​

第一に、輸入品の関税分類の虚偽申告があります。製品を実際よりも低い関税率が適用される分類に意図的に申告することが該当します。[crdb]​

第二に、原産地の虚偽申告が対象となります。高関税国からの製品を低関税国産と偽って申告する行為です。[crdb]​

第三に、課税評価額の過少申告が含まれます。一般的には商品の取引額を実際よりも低く申告し、関税額を減らす行為です。[crdb]​

第四に、トランスシップメント、つまり迂回輸入・輸出が特に重点的に取り締まられています。note+1

3つの法的枠組みによる執行

1930年関税法に基づく民事罰

司法省は違法行為に対する執行手段として、まず1930年関税法を活用しています。この法律は輸入者に対し、輸入品の正確な課税評価額や関税分類を申告するための「合理的な注意義務」を課しており、詐欺や過失による虚偽申告を禁じています。違反した輸入者は罰金を含む民事罰を科される可能性があります。[crdb]​

虚偽請求取締法(FCA)による厳格な制裁

近年、より厳しい制裁が可能な虚偽請求取締法(False Claims Act:FCA)による執行が増加しています。FCAは関税を含む米国政府への金銭の支払いを回避するために故意に虚偽情報を提出することを禁止しており、違反者には懲罰的損害賠償などより厳しい民事制裁が科されます。morganlewis+1

FCAに基づく責任が認定された場合、3倍賠償(トリプル・ダメージ)と請求ごとの金銭的罰則が含まれるため、その影響は甚大です。インフレ調整後の2018年以降の制裁金額は、違反1件あたり最低11,181ドル、最高22,363ドルとなっています。つまり、本来支払うべき関税額の3倍に加えて、違反1件ごとに最大2万ドル以上の罰金が科される可能性があります。japanese.pillsburylaw+2

トランプ政権は2025年4月、米国のアパレル企業が輸入した衣料品の価格を過少申告したことがFCA違反に当たるとして訴訟を提起しました。また、2025年3月、7月、8月、12月にも複数のFCA執行事例が発表されており、衣類から食品、産業資材まで幅広い分野に及んでいます。[crdb]​

刑事訴追のリスク

違法な関税回避は民事罰に加え、直接的な刑事罰を負うリスクも伴います。合衆国法典(USC)18編は連邦政府による刑事訴追の手続きを規定しており、虚偽の課税価格に基づく輸入(541条)や虚偽申告による輸入(542条)などに対する罰則を定めています。[crdb]​

司法省のマシュー・ガレオッティ次官補代理は2025年5月、刑事局の職員宛ての覚書で、優先して取り締まるべき企業犯罪として「関税回避を含む貿易・関税詐欺」を挙げました。これは、政権が関税回避を重大犯罪として位置づけていることを明確に示しています。[crdb]​

迂回輸入対策が最重点課題に

40パーセントの追加関税と罰金

トランプ政権が特に神経をとがらせているのが「迂回輸入(トランスシップメント)」です。トランプ大統領は2025年7月の大統領令で、相互関税の回避を目的とした迂回輸入に対して40パーセントの追加関税と罰金を科すと定めました。diamond+2

この規制では、CBPが迂回輸入と判断した貨物に対し、元の国の税率の代わりに一律40パーセントの追加関税が課されます。さらに、合衆国法典19編1592条に基づくその他の罰金や、原産国に適用される通常の関税も課されます。重要なのは、CBPは法律で認められている罰金の軽減や免除を適用しない方針を示していることです。[note]​

広範な迂回輸入の定義

具体的なルールは2025年12月時点で未発表でしたが、政権高官は迂回輸入の定義を広く捉える意向を示しています。生産や加工を行っていない第三国を原産国として偽るケースだけでなく、輸入品が第三国産の原材料を相当程度含む場合も迂回輸入として扱われる可能性があります。[crdb]​

さらに、CBPと商務省長官は6カ月ごとに、迂回スキームに使用されている国と特定の施設のリストを公表するとしています。このリストは公共調達、国家安全保障審査、商業的デューデリジェンスに活用されることになります。[note]​

中国製品の第三国経由輸出への懸念

トランプ政権が迂回輸入を問題視する背景には、高関税を課されている中国製品が第三国を経由して米国に輸入されることへの強い懸念があります。米国の対中関税率は貿易加重平均で2025年11月時点で38.6パーセントと、主要貿易相手国の中で群を抜いて高い水準にあります。[crdb]​

関税措置を受けて対中輸入は減少しましたが、その一方でベトナムや台湾に対する貿易赤字は2025年6~7月に2カ月連続で過去最高を更新し、タイも9月に過去最高となりました。こうした貿易構造の変化について、米国内では中国企業がこれらの国を通じて米国に迂回輸出しているとの見方が強まっています。[crdb]​

実際、英国の調査会社キャピタル・エコノミクスによる2025年9月時点の試算では、中国から米国への輸出減少分のうち、およそ8分の1は第三国経由で米国に間接輸出されているとされています。[crdb]​

日本企業への具体的な影響

サプライチェーンの中国依存リスク

日本企業にとって深刻な問題は、東南アジアなどに生産拠点を移転しても、部品や原材料の中国依存が続いていることです。OECDがまとめた付加価値ベースの貿易額によると、米国の輸入に占める中国のシェアは2017年の21.6パーセントから2022年に20.9パーセントと微減にとどまりました。通常の輸入額ベースで中国のシェアが21.6パーセントから16.6パーセントに減少したのとは大きな差があります。[crdb]​

さらに懸念されるのは、ベトナムやメキシコからの輸入に占める中国の付加価値割合が、同じ期間に2~4ポイント以上増加したことです。ASEAN全体でも4ポイント弱の上昇となっています。[crdb]​

付加価値割合基準による新たな不確実性

迂回輸入規制が第三国から調達した原材料の付加価値割合に基づく場合、米国向け製品の原産性判定に新たな不確実性が生まれます。米国の非特恵の原産地規則として用いられている「実質的変更基準」では、主に製造工程における製品の特徴や用途の変更に着目して判断されており、これまで付加価値割合は重視されてきませんでした。[crdb]​

さらに、中国企業が外国に設けた工場から調達した材料も「中国産」と見なされる可能性があり、企業は製品の原産性を一から見直さざるを得ない状況です。[crdb]​

ASEAN進出日系企業の対応

ASEAN進出日系企業の間では、中国製部材を含む製品が迂回輸入規制の対象になることを懸念し、現地調達化を進める動きが出ています。一方で、サプライチェーンをさかのぼって原材料の原産国をすべて把握するのは困難との声も聞かれ、新たな規制に警戒感が高まっています。[crdb]​

企業が取るべき具体的な対応策

コンプライアンス体制の総点検

企業は現行のルールに照らして、米国向け製品の原産国、関税分類、申告価格が適切かを改めて確認することが最優先です。特に以下の点を重点的にチェックする必要があります。[crdb]​

関税分類の正確性については、CBPの事前教示制度を活用することで、輸入前に正式な分類判定を得ることができます。これにより事後的な追徴課税や罰則のリスクを大幅に軽減できます。[crdb]​

原産国表示の適正性については、最終製造工程だけでなく、主要部材の原産国まで遡って確認する必要があります。[crdb]​

申告価格の妥当性については、取引価格が市場価格と大きく乖離していないか、関連会社間取引における移転価格が適切かを確認すべきです。[crdb]​

記録保管体制の強化

CBPによる監査や調査に備えて、原産国や関税額の判断根拠となる資料を適切に保管する必要があります。米国の法律では、輸入関連書類を5年間保管することが義務付けられています。[crdb]​

保管すべき主要書類には、インボイス、パッキングリスト、船積書類、原産地証明書、製造工程記録、部材調達記録、価格決定に関する書類などが含まれます。これらの書類は監査時に迅速に提出できるよう、体系的に整理しておく必要があります。[crdb]​

迂回輸入リスクの評価

CBPは2025年12月、CTPAT(テロ防止のための税関・産業界パートナーシップ)参加者向けのガイダンスを公開しました。このガイダンスによると、対中関税の対象品目の迂回輸入が顕著に増加しており、具体的には以下の品目が多いとされています。[crdb]​

対象品目は、鉄鋼・アルミニウム製品、繊維・アパレル製品、自動車・同部品、電子機器、ソーラーパネル、農産品です。[crdb]​

CBPは迂回輸入が疑われる兆候として以下を挙げています。[crdb]​

第一に、表示されている原産国と製造に必要な製造能力の不一致があります。[crdb]​

第二に、合理的なサプライチェーン上の理由がないにもかかわらず、低コスト国または自由貿易協定締結国を経由した輸送ルートが使用されていることです。[crdb]​

第三に、過去の取引パターンから逸脱した価格設定が見られることです。[crdb]​

企業はこれらの兆候に該当する取引がないか自己点検し、リスクのある取引に従事しないよう注意する必要があります。[crdb]​

自主開示制度の活用

司法省は2025年5月に「企業の取り締まりと自主開示に関する指針」を更新しました。この指針では、不正行為を自発的に司法省に開示するなど特定の条件を満たした企業については起訴を見送るとしています。[crdb]​

万が一、関税申告に誤りがあったことが判明した場合、隠蔽するのではなく、速やかに当局に自主開示することで、刑事訴追を回避できる可能性があります。この制度は、企業が主体的にコンプライアンスを強化するインセンティブとなっています。[crdb]​

サプライチェーンの可視化と再構築

長期的には、サプライチェーン全体の可視化を進め、各工程での付加価値や原産国を明確に把握できる体制を構築することが重要です。特に多段階のサプライチェーンを持つ企業は、一次サプライヤーだけでなく、二次、三次サプライヤーまで原産国情報を把握する必要があります。[crdb]​

必要に応じて、中国製部材への依存度を下げるため、調達先の多様化や代替サプライヤーの開発を検討すべきです。ASEAN現地調達化を進めることで、迂回輸入のリスクを軽減できる可能性があります。[crdb]​

内部告発制度への注意

企業が特に注意すべきは、米国の内部告発制度です。司法省は2025年5月、「企業告発者報奨金パイロットプログラム」を更新し、告発対象となる行為に「貿易・関税・通関詐欺」を新たに加えました。[crdb]​

FCAは連邦政府だけでなく第三者(告発者)にも違反者を被告として提訴する権限を与えており、2025年の執行事例のほとんどが告発者による提訴が発端となっています。告発者は回収された金額の一定割合を報奨金として受け取ることができるため、従業員や取引先が告発するインセンティブが存在します。[crdb]​

このため、企業は社内のコンプライアンス意識を高め、不正が発生しにくい体制を構築することが重要です。[crdb]​

おわりに

トランプ米政権による関税回避取り締まりの強化は、単なる一時的な政策ではなく、高関税時代における新たな執行の常態となりつつあります。日本企業は、短期的なコスト削減よりも、長期的な法的リスクの回避を優先し、適法な関税削減策を実施することが求められています。[crdb]​

貿易詐欺対策タスクフォースによる執行は2026年も加速すると予想されており、企業は早急にコンプライアンス体制を強化する必要があります。専門家の助言を得ながら、自社のリスクを正確に評価し、適切な対応を講じることが、対米ビジネスを継続する上で不可欠となっています。[akingump]​

免責事項

本記事は2026年2月9日時点で公開されている情報に基づいて作成されており、一般的な情報提供を目的としています。個別の法的助言や税務アドバイスを提供するものではありません。米国の関税法制や執行方針は頻繁に変更される可能性があるため、実際のビジネス判断を行う際には、必ず米国通商法に精通した弁護士や税関ブローカーなどの専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた行動の結果について、筆者および発行者は一切の責任を負いかねます。

2026年2月8日(日)現在の「相互関税(Reciprocal Tariffs)」に関する判決の現況

米連邦最高裁判所は現在、冬の休廷期間中であり、注目の「相互関税(Reciprocal Tariffs)」に関する判決は本日もまだ公表されていません。

しかし、この週末にかけて「判決の具体的な日程」「万が一の還付に向けた実務」の両面で大きな動きがありました。最新の重要ニュースを3つのポイントでまとめます。

1. 最高裁が「2月20日以降」の判決を示唆

最高裁は今週、事務的なスケジュールを更新し、現在審理中の案件(相互関税を含む)の判決について、最短で2月20日(金)に言い渡す可能性があることを暗に示しました。

  • 理由: 最高裁は通常、休廷明けの最初の法廷日(Session)に重要な判決を出す傾向があります。
  • 専門家の見方: 米国の主要な法曹メディア(SCOTUSblogなど)は、この訴訟が「大統領の緊急権限(IEEPA)」という憲法上の重大な争点を含んでいるため、多数の補足意見や反対意見の調整が行われており、発表が2月下旬までずれ込んでいると分析しています。

2. 【実務】還付金の「電子受取」義務化が正式スタート

2月6日、米税関・国境取締局(CBP)による**「還付金の原則電子送金(ACH)化」**が正式に開始されました。

  • 背景: 万が一、最高裁が「関税は違憲」との判断を下した場合、政府は数千億ドル規模の払い戻しを行う必要があります。これまでの「紙の小切手」では処理が追いつかないため、今回、システムを完全にデジタル化しました。
  • 企業の対応: 判決後に還付をスムーズに受けるためには、米国の貿易管理システム(ACEポータル)で銀行口座の登録を完了させておく必要があります。

3. トランプ政権の「代替案」と個別交渉の加速

裁判の結果を待たず、政権側は以下の2つの戦略を強化しています。

  • プランBの誇示: ライトハイザー前USTR代表(現顧問格)は、「最高裁で一部が覆されても、別の法律(通商法301条など)を使えば関税は継続できる」と述べ、市場の動揺を抑えようとしています。
  • 個別ディールの拡大: インドとの合意に続き、アルゼンチンなど複数の国との間でも「米製品の購入拡大」を条件とした相互関税の免除・引き下げ合意が発表されました。

今後の重要カレンダー(2026年2月)

日付出来事
現在最高裁は冬期休廷中(判決の公表なし)
2月20日(金)最高裁活動再開。 判決が出る可能性のある最短日。
2月23日(月)週明けの判決日。市場が最も注視しているタイミング。

結論として、現在は「2月20日の決戦日」に向けた静かな待機期間にあります。

もし貴社が米国への輸出を行っている場合、**「還付対象となる品目の過去の支払い実績の整理」「ACEポータルでのACH登録確認」**を今のうちに進めておくことをお勧めします。これらの具体的な手順について、詳しくお調べしましょうか?

CPTPP加盟拡大が加速:英国正式加盟と4カ国の新規交渉開始が日本企業に開く戦略的機会

環太平洋経済圏が歴史的な拡大局面へ

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が、2024年末から2026年にかけて歴史的な転換期を迎えています。2024年12月15日、英国が正式にCPTPPに加盟したことで、協定は原加盟11カ国から12カ国体制となり、初めて欧州諸国がアジア太平洋経済圏に参画する画期的な展開が実現しました。[mfat.govt]​

CPTPPは世界GDPの約13パーセント、世界貿易の約15パーセントを占める経済圏を形成していますが、この規模はさらに拡大する見込みです。2025年11月にオーストラリアのメルボルンで開催された第9回CPTPP委員会では、コスタリカの加盟交渉を2025年末までに完了させることを目指すとともに、ウルグアイの加盟交渉を正式に開始し、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの3カ国を2026年の加盟交渉候補として認定しました。wikipedia+3

さらに、2026年1月20日にはメキシコが英国のCPTPP加盟議定書を承認し、60日後に両国間で協定が発効する見通しです。これにより英国は、カナダを除くすべてのCPTPP締約国との間で特恵関税を含む協定の全面適用を受けることになります。本稿では、この急速な加盟拡大が日本企業にもたらす具体的な機会と、今から準備すべき戦略的対応を詳しく解説します。info.expeditors+1

英国の正式加盟実現:欧州とアジア太平洋をつなぐ架け橋

2024年12月15日の発効で新時代が幕開け

2024年12月15日、英国のCPTPP加盟議定書が正式に発効しました。英国は2021年2月1日にCPTPP加盟を正式申請し、2023年3月31日に加盟交渉を完了、同年7月16日に加盟議定書に署名していました。その後、各締約国による批准プロセスが進められ、英国と少なくとも6カ国が批准を完了し、かつ議定書署名から15カ月が経過したことで発効条件が満たされました。business.gov+3

英国の正式加盟により、CPTPPは太平洋地域を超えた真のグローバル自由貿易協定へと進化しました。英国はGDPで世界第6位の経済大国であり、その参加によりCPTPP経済圏の経済規模が大幅に拡大します。また、欧州市場とアジア太平洋市場を結ぶ戦略的な架け橋としての役割も期待されています。[en.wikipedia]​

メキシコの承認で英国との貿易関係がさらに深化

2026年1月20日、メキシコ政府は連邦官報を通じて英国のCPTPP加盟議定書承認を公式発表しました。CPTPP協定第30.4条に基づき、各締約国が議定書を批准してから60日後に発効する仕組みとなっており、メキシコの批准により英国・メキシコ間では2026年3月中旬以降に協定が適用される見込みです。vtz+1

これにより、英国はカナダを除くすべてのCPTPP締約国との間で協定を適用できることになります。カナダとの間では既存の継続協定が存在するため、英国企業にとって実質的な影響は限定的ですが、CPTPP加盟による包括的な規則と基準の統一化により、長期的には事務手続きの簡素化や透明性の向上が期待されます。gtlaw+2

日本企業にとって英国のCPTPP加盟は二重のメリットをもたらします。第一に、英国市場への輸出における関税削減や撤廃により価格競争力が向上します。第二に、英国を欧州市場への足がかりとして活用し、CPTPP原産地規則の累積を利用した効率的なサプライチェーン構築が可能になります。[business.gov]​

4カ国の新規加盟交渉:中南米、中東、東南アジアへの拡大

コスタリカは2025年末までの加盟完了を目指す

コスタリカは2022年8月11日にCPTPP加盟を正式申請し、2024年11月28日には加盟作業部会が設置されました。2025年11月の第9回CPTPP委員会では、コスタリカが協定の高い基準を維持する準備ができており、貿易義務を遵守してきた一貫した実績を示していることが確認されました。オーストラリアのドン・ファレル貿易大臣は、コスタリカの加盟を2025年末までに完了させることを目指すと発表しました。ussc+3

コスタリカの加盟は、中米地域とCPTPP経済圏との初めての直接的な連携となり、協定の地理的多様性を大幅に拡大する重要なステップです。コスタリカは医療機器、ソフトウェア開発、高品質コーヒー、バナナなどの農産物輸出で知られており、日本企業にとって新たな調達先や市場として価値があります。[bilaterals]​

ウルグアイの加盟交渉が正式開始

2025年11月の第9回CPTPP委員会では、ウルグアイの加盟交渉を正式に開始することが決定されました。ウルグアイは南米南部共同市場(メルコスール)の加盟国であり、その参加は南米地域とアジア太平洋地域の経済統合を深化させる画期的な展開となります。moit+3

ウルグアイ政府は、協定加盟により特に牛肉、乳製品、パルプ、農産品のアジア太平洋市場へのアクセス拡大を期待しています。交渉は12カ月から24カ月程度を要する見込みで、市場アクセス、関税削減、衛生規則、サービス、投資、政府調達、知的財産権、労働・環境基準などを章ごとに交渉し、12の現加盟国すべてが最終条件を承認する必要があります。第一回の技術作業部会は2026年前半に開催される可能性があります。[worldbeefreport]​

UAE、フィリピン、インドネシアは2026年に交渉開始予定

第9回CPTPP委員会では、アラブ首長国連邦、フィリピン、インドネシアの3カ国が協定加盟の基準を満たしていることが確認され、2026年に適切な時期に加盟交渉を開始することが決定されました。これらの国々はそれぞれ戦略的な重要性を持っています。vietnamlawmagazine+2

UAEは中東地域の経済ハブであり、その加盟はCPTPP経済圏を中東地域に拡大する歴史的な一歩となります。UAEはエネルギー、金融サービス、物流、観光などの分野で高度に発展しており、日本企業にとって中東市場へのゲートウェイとしての価値があります。

フィリピンとインドネシアは既にRCEP協定の加盟国ですが、CPTPPへの追加加盟により、日本企業はより広範な選択肢の中から最適な特恵関税スキームを選択できるようになります。両国は人口規模が大きく若年層が多い成長市場であり、製造業の生産拠点としても消費市場としても魅力的です。

一般見直しの完了:協定アップグレードへの道筋が明確に

初の一般見直しが完了し重点分野を特定

2025年11月の第9回CPTPP委員会では、CPTPP協定第27条に基づく初めての一般見直しが完了し、協定を更新・強化するための勧告が承認されました。この見直しは、2023年11月にニュージーランドの議長年に承認された一般見直し実施規則に基づき、2024年11月にカナダの主導で中間報告が承認され、最終的に完了したものです。[gov]​

一般見直しの目的は、CPTPP協定に含まれる規律が締約国が直面する貿易投資の課題に引き続き関連性を保つことを確保することです。具体的には、貿易業者や投資家によるCPTPPの最大限の活用を促進する方法を特定し、改訂や更新が有益となる協定条項を特定し、新しい条項や章の開発可能性を検討することが含まれます。mti+1

アップグレード交渉の6つの重点分野

一般見直しの結果、以下の分野におけるアップグレード交渉が推奨されました。第一に、サービス貿易分野では、越境サービス貿易における進化するサービス貿易への対応(国内規制を含む)が含まれます。第二に、金融サービス分野では、全締約国の合意を条件として、持続可能な金融、越境データフロー、透明性、国内規制、電子決済を反映した強化が検討されます。[gov]​

第三に、電子商取引分野では、人工知能、デジタルアイデンティティ、オンライン安全性、電子決済などの分野における規定の追加、およびデータフロー、サイバーセキュリティ、消費者保護などの既存規則のアップグレードが含まれます。第四に、競争力とビジネス促進分野では、危機時の調整などの共有原則に基づくサプライチェーンレジリエンスの強化に関する規定や、グローバルおよび地域バリューチェーンへの統合を支援する協力の強化が検討されます。[gov]​

第五に、貿易と女性の経済的エンパワーメント分野では、女性の貿易への参加とリーダーシップを促進する非拘束的な協力規定または新章の追加が支持されています。第六に、ジェンダー主流化、経済的威圧、市場歪曲慣行に関する新たなプラットフォームの設立も推奨されています。[gov]​

日本企業が得られる具体的メリット

関税削減による大幅なコスト競争力の向上

CPTPP協定は広範な品目にわたり関税を削減または撤廃しており、日本企業にとって大きなコスト削減機会を提供しています。協定発効時に大部分の関税項目が即時撤廃され、残りの品目については段階的な関税削減スケジュールが適用されています。onestepbeyond+3

日本の場合、関税削減は年度ベース(4月1日開始)で進行します。例えば、初期加盟6カ国の場合、第1回目の関税削減は2018年12月30日に実施され、日本の第2回目の関税削減は2019年4月1日に実施されました。その後、日本の関税削減は毎年4月1日に実施され、完全履行まで継続されます。international.gc+1

カナダの事例では、日本市場において豚肉の高価格部位に対する関税が10年以内に撤廃され、低価格部位に対する関税も10年以内に削減されます。牛肉カットおよび牛肉製品に対する関税は15年以内に削減され、オーストラリアなどの競合国と同等の条件となります。カノーラ油の関税は5年以内に撤廃され、カノーラ種子、クランベリー、ブルーベリー、ペットフードなどの多くの農産物は即座に免税アクセスを享受しています。[international.gc]​

累積原産地規則による柔軟なサプライチェーン構築

CPTPP協定の最も重要な特徴の一つは、加盟国間での累積原産地規則です。累積とは、ある国が最終製品の原産地を決定する際に、他の加盟国からの中間製品を自国のものとして扱うことができる範囲を定義する概念です。apfccptppportal+2

CPTPP協定第3.10条は、一つまたは複数のCPTPP締約国の領域内で一つまたは複数の生産者によって製品が生産される場合、その製品が第3.2条(原産品)の要件およびこの章のその他すべての適用可能な要件を満たす限り、原産品とみなされると規定しています。また、一つまたは複数のCPTPP締約国の原産品または原材料が別の締約国の領域内で別の製品の生産に使用される場合、その別の締約国の領域の原産品とみなされます。[apfccptppportal]​

具体的な例として、日本企業がベトナムから織物を輸入し、それを英国での製造工程でレインコートに組み込み、最終的に日本に輸出する場合、このベトナム産材料は英国原産とみなされ、製品固有規則の充足に貢献します。この柔軟性により、日本企業はCPTPP加盟国全体にわたる最適なサプライチェーンを設計し、コスト削減と特恵関税の恩恵を同時に享受できます。business.gov+1

基準と規制の調和による取引コスト削減

CPTPP協定は関税削減だけでなく、基準の調和を追求することで輸出入に伴う取引コストを低減しています。内国民待遇原則により、各締約国は輸入品と国内生産品を平等に扱うことが義務付けられており、輸入品は国内同種産品よりも重い税金、厳格な製品規制、広範な販売制限を課されることはありません。onestepbeyond+2

日本市場参入を検討する外国企業にとって、CPTPP加盟は書類手続きの簡素化、通関手続きの迅速化、貿易投資を規律する法的枠組みの透明性向上を意味します。日本企業にとっても、CPTPP加盟国への輸出時に同様のメリットが得られるため、市場開拓コストが大幅に削減されます。[onestepbeyond.co]​

今から準備すべき5つの戦略ポイント

1. 新規加盟国との取引機会の早期評価と市場参入準備

英国、コスタリカ、ウルグアイ、UAE、フィリピン、インドネシアといった新規加盟国または加盟候補国との取引可能性を早期に評価することが重要です。これらの市場はそれぞれ独自の強みを持っており、日本企業にとって多様な機会を提供します。

英国は金融サービス、先端技術、高級消費財の市場として魅力的です。コスタリカは医療機器とソフトウェア開発、ウルグアイは高品質農産物、UAEはエネルギーと物流ハブ、フィリピンとインドネシアは成長する消費市場と製造拠点としての可能性を持っています。加盟が正式決定される前から、これらの市場における競争環境の分析、潜在的パートナーの特定、現地規制の理解を進めておくことで、加盟後の迅速な市場参入が可能になります。

2. 累積原産地規則を活用したサプライチェーン最適化

CPTPP加盟国の拡大を見越して、サプライチェーンの最適化を検討すべきです。累積原産地規則を最大限に活用することで、コスト削減と特恵関税の両方を実現できます。

例えば、現在マレーシアとベトナムで分散している生産工程に、英国やインドネシアを組み込むことで、より効率的な生産ネットワークを構築できる可能性があります。ただし、累積を活用するためには、製品固有規則を正確に理解し、各加盟国での付加価値計算や関税分類変更基準を満たす必要があります。専門家の助言を得ながら、最適な生産配置を計画することが重要です。

3. 原産地証明の手続き理解と自己証明制度への移行

CPTPP協定では、企業の実情に応じて選択できる柔軟な原産地証明制度が導入されています。従来の第三者証明制度に加えて、認定輸出者による自己証明や、輸出者・生産者による自己申告が可能です。[business.gov]​

これらの制度を活用することで、原産地証明書の取得コストと時間を大幅に削減できますが、企業側には原産地判定の正確性を担保する責任が求められます。社内に原産地規則の専門知識を持つ人材を育成し、原材料の調達記録や製造工程の文書を適切に管理するシステムを構築することが不可欠です。税関監査にいつでも対応できる体制を整えておくことで、長期的なコンプライアンスリスクを最小化できます。

4. 電子商取引とデジタル貿易規則の変更への準備

2025年の一般見直しでは、電子商取引章のアップグレードが重要な焦点となりました。人工知能、デジタルアイデンティティ、オンライン安全性、電子決済などの新興分野における規定の追加、およびデータフロー、サイバーセキュリティ、消費者保護に関する既存規則の強化が検討されています。[gov]​

デジタルサービス、電子商取引プラットフォーム、フィンテック、クラウドサービスを提供する日本企業は、これらの規則変更が自社のビジネスモデルに与える影響を評価し、必要に応じてシステムやオペレーションの調整を準備する必要があります。特に、越境データフローの自由化やデータローカライゼーション要求の制限は、グローバルなデータ管理戦略に大きな影響を与える可能性があります。

5. ベトナム議長年における官民対話への積極参加

2026年のCPTPP議長国はベトナムが務めることになっており、ベトナムはCPTPP支援ユニットの設立を提案しています。この支援ユニットは、協定実施における資源制約に対処することを目的としており、すべての加盟国から強い支持を得ています。moit+1

日本企業は、経済産業省、日本貿易振興機構(ジェトロ)、業界団体を通じて、ベトナム議長年における議論や意見募集に積極的に参加すべきです。特に、協定アップグレード交渉において自社のビジネスに影響を与える可能性がある分野については、早期に政府に要望を伝え、交渉プロセスに反映してもらうことが重要です。また、CPTPP委員会が開催するEUやASEANとの貿易投資対話にも注目し、地域間連携の強化から生まれる機会を把握することが求められます。[vietnamlawmagazine]​

注意すべきリスクと実務上の留意点

加盟国ごとに異なる関税削減スケジュール

CPTPP協定では、関税削減スケジュールが国によって異なる点に注意が必要です。日本は年度ベース(4月1日開始)で関税削減が進行しますが、その他の大多数の国は暦年ベース(1月1日開始)です。この差異により、同じ年でも適用される関税率が国によって異なる期間が生じるため、輸出入のタイミングを戦略的に調整する必要があります。vntradetoca+1

また、ベトナム、ペルー、マレーシアのように後から加盟した国については、キャッチアップ規定により複数年分の関税削減が加盟時に一括適用される場合があります。新規加盟国についても同様の仕組みが適用される可能性があるため、各国の関税削減スケジュールを個別に確認し、最適な取引タイミングを見極めることが重要です。[international.gc]​

原産地規則の複雑性とコンプライアンスリスク

累積原産地規則は大きなメリットをもたらす一方で、複雑な計算と厳密な記録管理を要求します。累積の程度が高いほど、すなわち原産地規則を満たすために投入物をカウントできる潜在的貿易パートナーの数が多いほど、規則はより自由になり満たしやすくなります。しかし、広範な累積規則は国を製造プロセスでより競争力のあるものにし、外国直接投資にとって魅力的にする一方で、複雑性も増大させます。[wcoomd]​

原産地判定を誤ると、特恵関税の適用が認められないだけでなく、事後監査で問題が発覚した場合には追徴課税や罰則の対象となる可能性があります。企業は原産地規則の専門家を活用し、製品ごとの原産地判定を慎重に行うとともに、サプライヤーから適切な原産地情報を入手する仕組みを構築する必要があります。

地政学的リスクとサプライチェーンの分散化

CPTPP加盟国の拡大は機会をもたらす一方で、地政学的リスクも考慮する必要があります。特定の国や地域に過度に依存するサプライチェーンは、政治的緊張、自然災害、パンデミックなどの外部ショックに脆弱です。

複数の加盟国に生産拠点や調達先を分散させることで、リスクを軽減しつつCPTPP協定のメリットを享受する戦略が重要です。累積原産地規則の柔軟性を活用し、状況に応じて生産拠点を切り替えられる体制を整えておくことで、予期せぬ事態にも迅速に対応できます。

まとめ:CPTPP拡大を成長戦略の中核に据える

CPTPP協定の加盟拡大は、日本企業にとって市場アクセスの拡大、サプライチェーンの柔軟性向上、取引コストの削減という多面的なメリットをもたらします。英国の正式加盟実現、コスタリカとウルグアイの加盟交渉進展、UAE、フィリピン、インドネシアの加盟候補国認定により、CPTPP経済圏は地理的にも経済的にも大幅に拡大しようとしています。

また、2025年の一般見直し完了により、電子商取引、サービス貿易、金融サービス、競争力とビジネス促進、女性の経済的エンパワーメントなどの重要分野における協定アップグレードが今後数年間で実現する見込みです。これらの変化は、特にデジタル経済分野で事業展開する日本企業にとって、国際競争力を強化する大きな機会となります。

一方で、原産地規則の複雑性、加盟国ごとに異なる関税削減スケジュール、地政学的リスクといった課題にも適切に対応する必要があります。今から戦略的な準備を進めることで、CPTPP拡大の恩恵を最大限に活用し、アジア太平洋地域を超えたグローバル市場での競争優位性を確立できます。

日本企業は、新規加盟国との取引機会の早期評価、累積原産地規則を活用したサプライチェーン最適化、原産地証明の自己証明制度への移行、電子商取引規則への対応準備、ベトナム議長年における官民対話への参加という5つの戦略ポイントを着実に実行することが求められます。CPTPP拡大という歴史的な機会を企業の長期的成長戦略の中核に据えることで、不確実な国際貿易環境の中でも持続可能な成長を実現できるでしょう。


免責事項

本記事は2026年2月8日時点で公開されている情報に基づいて作成されたものです。CPTPP協定の加盟拡大プロセスや協定アップグレードの内容は、今後の交渉や加盟国間の協議により変更される可能性があります。特に、カナダによる英国加盟議定書の批准状況、コスタリカの加盟完了時期、その他の加盟候補国の交渉開始時期は確定しておらず、政治的・経済的状況により変動する可能性があります。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、特定のビジネス判断や法的助言を提供するものではありません。実際のビジネス戦略の策定や投資判断を行う際には、必ず貿易実務の専門家、税関士、国際ビジネス弁護士などの専門家に相談し、最新の公式情報を確認してください。各国の関税率、原産地規則、製品固有規則は頻繁に更新されるため、実務に適用する前に必ず最新の情報を確認することを強くお勧めします。本記事の内容に基づいて行われた行動の結果について、筆者および関係者は一切の責任を負いません。