米国アルミ「プレミアム急騰」の正体――232関税50%が生んだ“価格の二重構造”


米国向けにアルミを使う製品(自動車・部品、建材、電線、包装材、機械筐体など)を扱う企業にとって、2025年は「LME(国際指標価格)だけを見ていると、コストを見誤る」年になりました。xserver
理由は、米国の現物プレミアム、とくに Midwest Premium が、232関税の引上げを織り込む形で膨張し、「LMEと現物コストのギャップ」がかつてない水準まで広がったからです。xserver

以下では、①プレミアムとは何か、②232関税50%の政策背景、③プレミアム急騰の要因、④派生品拡大が実務に与える影響、⑤日本企業の打ち手、の順に整理します。


1) 「アルミプレミアム」とは何か:LME+αの“α”

米国のアルミ現物取引では、買い手が支払う価格は一般に
LME(指標価格)+プレミアム(現物上乗せ)
という形で決まります。 このプレミアムには、運賃・保管・金融コスト・需給ひっ迫、さらには税・関税といった要素が織り込まれます。xserver

なかでも重要なのが、**US Aluminum Midwest Premium(米国中西部向けプレミアム)**です。 これは米国内で地金を調達する際の「現物調達コストの温度計」として扱われ、関税率の変更などにより「次回の輸入で在庫を補充する(replacement)際のコスト」が変わると、敏感に反応します。lolipop+1


2) 2025年、232関税は「25%→50%」へ:政策の筋道

国家安全保障を根拠に輸入調整を行う 232 措置は、2018年にアルミ地金等へ 10%を課す形で導入され、その後も対象・水準の見直しが続いてきました。 2025年には、低価格・過剰供給品への依存を抑え、国内産業の稼働率・能力を維持することを狙いとして、アルミ関連の追加関税が再強化されています。relation2012

  • 2025年2月10日:アルミおよび一定の派生品に対し、従来の上乗せ措置を踏まえつつ 25%の追加関税 を課す方針を示す大統領布告が公表。relation2012
  • 2025年6月4日 午前0時1分(米東部時間)以降:アルミおよびアルミ派生品に対する追加関税率を 25%から50%へ引き上げrelation2012
    ロジックとしては、低価格輸入品の流入が国内アルミ産業の競争力・稼働率を損ない、結果として国家安全保障上必要な産業基盤を維持できなくなる、という説明がなされています。relation2012

例外として、英国からの輸入については 25%水準の維持が示されており、米英間の枠組みに基づく特例扱いと位置づけられています。 さらに、一定数量を 232 関税から除外する TRQ(関税割当) の導入が議論されており、今後の運用次第では実効税負担が変動する余地もあります。relation2012

また、6月4日以降の運用として、232 関税 50%の対象については、IEEPA 関税など特定の追加関税との「二重課税(累積)」を避ける方針が示されました。 もっとも、すべての追加関税が自動的に相殺されるわけではないため、「どの措置とどの組合せが排除されるのか」を条文ベースで確認する必要があります。hitodeblog


3) 米国アルミプレミアムはなぜ急騰したのか:3つの要因

要因①:関税50%が“プレミアムに乗る”――置き換えコストの再計算

6月の関税引上げ以降、市場参加者は「在庫を補充する際の輸入分には 50%関税がかかる」という前提で、Midwest Premium を再計算するようになりました。 つまり、関税そのものが LME ではなく「プレミアム側」に乗ることで、現物コストを押し上げる構図です。lolipop

2025年11月時点で、duty-paid Midwest Premium は 88.10 セント/ポンド(約 1,942ドル/トン)と過去最高水準をつけたと報じられています。 同じ局面で LME が 2,850ドル/トン近辺だったため、スポットでの支払総額は 約 4,792ドル/トン(LME 2,850+プレミアム 1,942) に達した計算になります。xserver

ビジネス上の含意は明確です。

  • 「LMEの上昇」ではなく、「LME+プレミアムの上昇」が利益を削る。
  • 見積や長期契約の価格式が LME のみに連動していると、プレミアムの急騰局面で採算が一気に崩れる。

要因②:供給の“偏り”――カナダ依存と政策長期化観測

米国のアルミ輸入は、カナダへの依存度が非常に高い点もプレミアムを押し上げています。 2025年上期のデータでは、米国のアルミ輸入に占めるカナダの比率が約 70% に達したと整理されており、「実質的にカナダ頼み」という構図が強まっています。lolipop+1

さらに、貿易・安全保障をめぐる交渉環境の悪化などから、「追加関税は一時的措置ではなく長期化する」との見方が広がっていることも、プレミアム上昇要因とされています。 市場が「どうせすぐ戻る」と見ているうちはプレミアムも調整しやすいものの、「構造的に高止まりする」との期待(あるいは懸念)が強まると、価格は下がりづらくなります。xserver

要因③:在庫取り崩し+世界的な供給制約

S&P Global は、50%関税導入後の局面で「需要の先行きは不透明な一方、在庫取り崩しと置き換えコスト上昇が重なり、プレミアムが記録的水準まで上昇した」と分析しています。lolipop
同時に、**中国のアルミ生産上限(年間 4,500万トン)**や、中国以外の地域での供給減少が、世界的なタイトな需給環境を生み、米国プレミアムの上昇圧力として波及しているとも指摘されています。xserver

つまり、米国のプレミアム急騰は、

  • 232 関税 50%という「政策要因」と、
  • 在庫・供給制約という「市場要因」
    の両方が絡み合った結果といえます。lolipop+1

4) 見落としがちな「派生品」拡大:地金から完成品へにじむ 232

232 の実務で厄介なのは、地金や半製品(圧延品など)だけでなく、「派生品(derivative products)」 が段階的に追加されている点です。onamae

商務省は、232 関税の対象に派生品を追加するための Inclusions Process を整備し、年数回の申請受付を通じて対象品を拡張できる仕組みを導入しました。 2025年8月18日には、約 400 品目規模(407 カテゴリ)の派生品が新たに 232 関税の対象に追加されたと公表されています。counter-digital+1

派生品の一部では、「製品全体の価格」ではなく、製品中に含まれる鉄・アルミの “含有価値” を基準に課税する方式が明記されています。 そのため、onamae

  • BOM(部品表)
  • 材料ごとの含有量・単価
  • 価格按分のロジック

といった情報の整備・説明が、税関対応上の重要な論点になります。onamae

さらに、Inclusions Process による追加指定は 2026年以降も続く見込みと報じられており、「派生品拡大はすでに完了した話」ではありません。fama.startrise

日本企業にとっての本質的なポイントは、

  • 「完成品を輸出しているだけだから大丈夫」という発想は危険になりつつある。
  • HTS 分類上「派生品」に含まれると判断されれば、製品中のアルミ分に 232 関税が課されうる

という点です。counter-digital+1


5) 日本企業が取るべき実務アクション

A. 見積・契約:価格式を“LME+プレミアム+関税”前提に再設計

  • 見積や長期契約の価格条項が「LME連動」のみになっている場合、
    • Midwest Premium(duty-paid かどうかを含めて)を明示的に組み込む。
    • 232 関税率の変動に応じて価格を見直せる「関税サーチャージ条項」や「価格改定トリガー」を設定する。
      といった再交渉が不可欠です。lolipop+1

B. 品目判定:HTS と Chapter 99 をセットで運用

232 の対象指定は、通常の HTS 番号だけでなく、Chapter 99 の追加コード や対象リストによって管理されます。onamae

  • 自社製品が派生品リストに含まれる余地があるか
  • 今後の Inclusions Process で追加される可能性が高いカテゴリーか

を、HS/HTS ベースで棚卸しし、社内マスタに Chapter 99 の情報を組み込むことが重要です。onamae

C. 原価管理:BOMに“アルミ価値”を紐づける

含有価値課税が適用される場合、

  • アルミの含有量
  • 原材料単価
  • 歩留まり
  • 社内・グループ内の移転価格

といった情報の整合性が、税関や監査対応の論点になります。 BOM 上でアルミ価値を明示し、価格按分ロジックを文章化しておくと、後々の説明負荷を大きく減らせます。onamae

D. 調達戦略:供給国分散と例外枠のモニタリング

カナダ依存が高い現状では、単純な追随調達だけではプレミアム高止まりの影響をもろに受けるリスクがあります。lolipop+1

  • サプライヤーの国別ポートフォリオの見直し
  • 在庫戦略(調達タイミング・在庫水準)の再設計

に加え、英国向け 25%据え置きや TRQ のような 例外枠・緩和措置の動きを定点観測する体制 も必要です。zenken+1


結び:プレミアム急騰は「関税の持続性」を映す鏡

232 関税 50%は、単なる税率アップにとどまりません。

  • 「在庫の置き換えコスト」を通じてプレミアムに転写され、
  • 米国向け現物調達コストを構造的に押し上げる仕組み

として機能しています。 派生品の対象拡大が進むほど、その影響は「素材を買う企業」から「アルミを含む製品を売る企業」まで広がっていきます。counter-digital+2

いま見るべき KPI は、LME ではなく「LME+(duty-paid)Midwest Premium」です。 ここを見落とすと、価格転嫁の遅れがそのまま利益毀損につながりかねません。xserver

なお、本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・通関判断については、必ず税関・通関士・通商弁護士等の専門家にご相談ください。relation2012

  1. https://www.xserver.ne.jp/blog/how-to-write-blog-for-beginner/
  2. https://lolipop.jp/media/written-expression/
  3. https://www.relation2012.com/blog/seo/1751/
  4. https://hitodeblog.com/blog-article-element
  5. https://www.onamae.com/column/blog/19/
  6. https://counter-digital.jp/counter-media/article-proofreading/
  7. https://fama.startrise.jp/column/blog-article
  8. https://ai.zenken.co.jp/post/chatgpt-document-proofreading-guide/

IEEPA関税は「清算」されても取り戻せるか?――CIT新判断が示す“清算後救済”の現実味と、企業が今すぐ取るべき対策


2025年に導入されたIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく追加関税をめぐり、「将来、最高裁で違法と判断された場合、支払った関税は返金されるのか?」という点が輸入企業の最大の懸案事項となっています。特に、米国特有の関税清算(Liquidation)制度が、返金請求の大きな壁になると懸念されていました。

この問題に対し、2025年12月15日、米国際貿易裁判所(CIT)が極めて重要な判断を下しました。結論から言えば、「たとえ関税清算が完了した後でも、裁判所命令による再清算(Reliquidation)と返金は可能である」という救済の道筋を明確に示したのです。これは、権利保全のために提訴に踏み切った企業にとって朗報と言えます。

しかし、この判断は「何もしなくても自動で返金される」ことを保証するものではありません。本稿では、この最新判断の核心部分と、企業が返金機会を逃さないために今すぐ整備すべき実務体制を解説します。


1. なぜ「関税清算」が返金の壁とされてきたか

まず、問題の背景を整理します。

  • 関税清算(Liquidation)とは?
    米国では、輸入時に支払う関税は「暫定額」です。その後CBP(税関・国境警備局)が申告内容を審査し、最終的な税額を確定させる手続きを清算と呼びます。清算は通常、輸入日から314日以内に行われます。
  • 清算後の制約
    清算が完了すると、その申告内容に対する不服申立て(Protest)は原則180日以内という厳しい時間制限が課されます。そのため、「IEEPA関税そのものが違法だ」という根源的な争いの場合、最高裁の判断を待つ間に清算と期限が過ぎてしまい、返金の道が閉ざされるのではないか、という強い懸念がありました。

この「手遅れリスク」を回避するため、コストコを含む多くの企業が、事前にCITへ提訴することで“返金請求権の保全”を図ってきました。


2. CIT判断の核心:「清算後も救済の道は残されている」

今回、AGS Company Automotive Solutions社などが原告となった訴訟で、CITは「清算手続きの停止(仮差止め)」を求める原告の訴えを退けました。しかし、その理由は極めてポジティブなものでした。

裁判所は、以下の2点を根拠に「差止めは不要」と判断しました。

  1. 政府の言質: 米国政府自身が「将来、IEEPA関税が違法と確定した場合は、再清算と利息付きの返金に応じる」と法廷で明言していること。
  2. 禁反言の法理: 上記の立場を前提に裁判所が判断した以上、政府が後から「やはり返金できない」と主張することは、禁反言(Judicial Estoppel)の法理によって許されないこと。

要するにCITは、「清算が進んでも、裁判所が再清算を命じて返金させる法的な道筋は確保されている。したがって、原告に“回復不能な損害”は生じない」と結論付けたのです。


3. 企業が今すぐ整えるべき「返金管理体制」チェックリスト

今回の判断は希望の光ですが、実際の返金は自動的には行われません。返金機会を最大化するため、企業は以下の準備を急ぐべきです。

  • A. 返金請求の主体(IOR)を特定する
    返金を請求できるのは、原則として輸入者(Importer of Record = IOR)のみです。商社や物流子会社がIORとなっている場合、誰が主体となって請求を行うのか、早期に整理が必要です。
  • B. 「IEEPA関税トラッカー」を作成し、影響額を可視化する
    以下の情報をエントリー番号(Entry No.)単位で一覧化し、いつでも提出できる状態を維持します。これは、法務判断(提訴の要否)と経理判断(引当金の計上)の両方を迅速化します。
    • 申告番号(Entry No.)
    • IEEPA関税の対象区分と税率
    • 納付関税額
    • 清算予定日(または清算済日)
  • C. 清算期限が迫る案件の対応方針を決める
    清算前の案件であれば、CBPに清算の延長(Extension)を申請する選択肢があります。より確実性を求めるなら、進行中の訴訟へ相乗り(Join)するか、独自に提訴することで権利を保全する動きが現実的です。
  • D. 清算済み案件も諦めない
    今回のCIT判断により、清算後も救済の道があることが示されました。ただし、手続きはより複雑になるため、プロテスト期限(清算後180日)などの期限管理は、通関業者任せにせず自社でも厳格に行うべきです。

結論:「希望」は生まれたが、「準備」なくして果実は得られない

今回のCIT判断は、IEEPA関税を支払ってきた企業にとって、大きな前進です。

  1. 清算が完了しても、裁判所の命令による返金の道が閉ざされないことが示された。
  2. しかし、自動返金は約束されておらず、企業側の主体的な行動(IORの特定、証跡管理、期限管理)がなければ、返金機会を逃すリスクは残る。

経営陣や実務担当者は、「最高裁の判断待ち」という受け身の姿勢ではなく、いつでも返金を請求できる“証跡・期限・体制”を今すぐ構築することが、将来の損失を最小化する上で不可欠です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、個別案件への法的助言ではありません。実際の対応は、米国通関および国際通商法務に精通した専門家と、具体的な事実関係に基づきご判断ください。

スイス追加関税要素の導入と遡及適用 — 企業実務で本当に効く“読み方”と打ち手


米国は、スイスおよびリヒテンシュタインを対象としていた相互関税(Reciprocal Tariff)を改定し、従来の39%の追加関税を「実質15%」を上限とする新たな枠組みへ移行させることを正式に発表しました[1][2]。最大のポイントは、この新ルールが2025年11月14日に遡及適用されることです[3][4]。結果として、11月14日以降に旧税率(39%など)で納税した貨物について、条件を満たせば払い過ぎた関税の返金(リファンド)が実現します。

1) 何が変わったのか:39%→15%への大幅な負担軽減

今回の通知(米・商務省/USTR連名)の核心は、これまで課されていた高率の相互関税を、MFN税率(一般税率)との合計で「15%」に収まるよう調整する点にあります[5]。

実務上の計算はシンプルです。

  • MFN税率が15%未満の場合: 追加関税(相互関税)= 15% − MFN税率
  • MFN税率が15%以上の場合: 追加関税(相互関税)= 0%(MFN税率のみ課税)

このロジックは実質的に「“MFN税率か15%の高い方”を適用する」という内容になります。これにより、多くの品目で従来の39%の相互関税が撤廃され、15%が新たな上限として機能します。

2) 「遡及適用」の範囲と返金対象

通知は2025年12月10日頃に発表されましたが、HTSUS(米関税率表)の改定は、2025年11月14日 午前0時1分(米東部時間)以降に“消費のために搬入(entered for consumption)”または保税蔵置から“消費のために払い出し(withdrawn for consumption)”された貨物に適用されます[1]。

この遡及措置により、11月14日から新ルール発表日までの間に、旧税率(MFN税率+39%など)で輸入申告・納税した貨物については、新ルール(上限15%)との差額が過大納付となり、返金の対象となります。

3) “15%上限”だけじゃない:品目によっては「相互関税ゼロ」に

さらに重要なのが、PTAAP(Potential Tariff Adjustments for Aligned Partners)に該当する品目は、相互関税の対象外(=MFN税率のみ適用)となる点です[6]。通知の関連AnnexではHTSUSコードのリストが示されており、主な対象カテゴリは以下の通りです。

  • 一部の農産品
  • 米国内で不足する天然資源(unavailable natural resources)
  • 航空機および関連部品
  • ジェネリック医薬品、その原料・成分、化学前駆体 など

企業実務では、「自社品目が ①“合算15%”なのか、②“相互関税ゼロ(MFNのみ)”なのか」をHTSUSレベルで見極めることが、コスト削減効果の大小を分けます。

4) 変わらないものも多い:誤解しやすい注意点

スイス当局(連邦政府ニュース)や専門家のレポートでは、次の点が強調されています[1]。

  • 232条関税は別枠: 鉄鋼・アルミなどに対する232条追加関税は、今回の枠組みとは別に継続されます。
  • 高関税品目への誤解: 元々15%を超える高関税(例:トラック25%)が付いていた品目は、その税率が維持されます(「全てが一律15%になる」わけではありません)。
  • 調査中品目への配慮: 医薬品・半導体など、232条調査が進行中の分野については、追加関税が15%を超えないよう配慮する「意図」が示されています。

5) 企業アクション:遡及返金を“取りこぼさない”ための段取り

遡及適用がある局面で最も重要なのは、迅速な証憑の整理と手続きの設計です。

(1) 対象期間(11/14以降)の輸入データを特定する
Entry Summary(通関申告)単位で、課税額・HSコード・原産国・輸入者(IOR)をリスト化します。

(2) “MFN vs 15%”計算で過大納付額を試算する
MFN税率が低い品目(特に0%品目)に39%が課されていたケースが、最も返金余地が大きくなります。PTAAP Annex該当品はさらにインパクトが大きいです。

(3) 返金手続きの手法を具体的に指示する
返金請求は原則、米国側の輸入者(IOR)が行います。エントリーが未確定(Unliquidated)であれば「Post Summary Correction (PSC)」での訂正・還付が最速です[7]。確定済(Liquidated)の場合はProtest(異議申立て)となるため、米国側通関業者にステータス確認と最適な手続きを至急指示してください。

(4) “暫定措置リスク”を契約に織り込む
この枠組みは2026年3月31日までに最終合意に至らない場合、見直される可能性があるとされています[8]。長納期の取引では、関税変動リスクを織り込んだ価格調整条項を契約に盛り込むことを検討しましょう。

6) 日本企業への示唆:スイス経由サプライチェーンの“原産地”がコストを決める

スイスは医薬・精密機器・時計などの高付加価値品の集積地です。日本企業にとっても、スイスでの最終加工、スイス企業からの部材調達、スイス拠点を介した米国販売など、サプライチェーン上で今回の関税改定が着地コスト(landed cost)を左右します。枠組みには迂回輸出への対策も含まれており、原産地管理の重要性が一層高まっています。

まとめ

今回のニュースは単なる「関税引き下げ」ではなく、企業実務では次の3点に集約されます。

  1. 従来の39%相互関税が「実質15%上限」の差分課税に置き換わった。
  2. 11/14への遡及適用により、PSC等を通じた具体的な返金実務が発生する。
  3. PTAAP該当品は相互関税がゼロになる可能性があり、HSコードの特定精度が損益に直結する。

(注)本稿は公開情報に基づく一般解説です。返金の可否やPSC・Protest等の最適手続は、個別の申告状況・品目・HSコード等で変わるため、必ず米国側通関業者/専門家と個別に確認してください。

引用:
[1] Reduction in US additional tariffs to enter into force retroactively https://www.news.admin.ch/en/newnsb/L6leIAwrwS1PWKnVDYNOY
[2] Reciprocal US tariffs – overview and implications https://www.s-ge.com/en/article/news/2025-e-usa-ct10-reciprocal-tariffs
[3] Switzerland says lower US tariffs to be applied retroactively … https://www.reuters.com/world/europe/switzerland-says-lower-us-tariffs-be-applied-retroactively-november-14-2025-12-10/
[4] Switzerland says US tariff reduction statement published in … https://www.reuters.com/world/europe/lower-us-tariffs-switzerland-take-retroactive-effect-november-14-2025-12-09/
[5] Tariff Adjustments on Imports from Switzerland Retroactive … https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariff-adjustments-on-imports-from-switzerland-retroactive-to-nov-15
[6] U.S. Tariffs – Client Updates – GEODIS https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
[7] CSMS # 66336270 – Guidance – Implementation of Tariff- … https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_16.pdf
[8] United States revises tariffs on products from Liechtenstein and … https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/12/united-states-revises-tariffs-liechtenstein-switzerland.html

カナダ「鋼材派生品」に一律25%の追加関税:2025年12月26日施行の実務対応

要旨:
カナダ政府は、従来の鉄鋼素材(ミルプロダクト)への保護措置を下流製品(派生品)へと拡張しました。2025年12月26日より、建設用部材や金属製家具などを含む特定品目に対し、輸入相手国を問わず一律25%の追加関税(Surtax)が課されます。

項目内容
対象国全世界(※他措置との重複適用なし)
税率25%(輸入申告価額 VFDに対し課税)
施行日2025年12月26日
根拠Steel Derivative Goods Surtax Order

1. 規制の全体像:ターゲットは「素材」から「完成品・部材」へ

今回の措置の最大の特徴は、課税対象が鋼材そのものではなく、それを使用した「鋼材派生品(Steel Derivative Goods)」である点です。

カナダ政府は、建設用構造物、線材、ボルト・ナット、金属家具などを対象とする「特定リスト(HSコード指定)」を公表しました。これにより、サプライチェーンの下流工程にある完成品や部材が広く課税対象となります。

実務上の重要スケジュール

  • 2025/12/12:財務省が対象品目リスト(HSコード)および詳細を公表
  • 2025/12/26:追加関税(Surtax)の施行開始
  • ~2026/07/01:自動車・航空宇宙用途等に対する期限付き適用除外期間

2. 対象品目:日本企業が注意すべき「見落としがちなHSコード」

財務省が公表したリストは、建設・物流・設備保全で使用される鉄系完成品を広範囲にカバーしています。特に72類・73類(鉄鋼および鉄鋼製品)以外の品目が含まれている点に細心の注意が必要です。

主な対象カテゴリとHSコード例

  • 構造物・建材系
    • 橋梁、塔、ドア・窓枠、構造材(HS 7308)
    • プレハブ建築物(HS 9406)
  • ワイヤー・フェンス・金網
    • ロープ、ケーブル、有刺鉄線、金網(HS 7312~7314)
    • 鋼心アルミより線(HS 7614.10.00)※要注意(76類)
  • 締結部品・チェーン
    • ローラーチェーン等(HS 7315)
    • 釘、ボルト、ナット、ワッシャー(HS 7317~7318)
  • 家具・什器・その他
    • 金属フレームの椅子、オフィス家具、家具部品(HS 9401, 9403)※要注意(94類)
    • 照明器具の部品(HS 9405.99.00)
    • 建物用取付具・金具(HS 8302.41.90)
    • ばね(HS 7320)、その他の鉄鋼製品(HS 7326)

実務的示唆:
「鉄鋼製品(73類)だけを確認すればよい」という認識は危険です。83類(卑金属製品)や94類(家具・建屋)まで影響が波及するため、BOM(部品表)全体への網羅的なスクリーニングが不可欠です。


3. 課税ルール:計算式と優先順位

課税標準と計算式
追加関税は、対象品目の輸入申告価額(Value for Duty: VFD)の全額に対して25%が課されます。付加価値分のみへの課税ではないため、コストインパクトは甚大です。

計算式: Value for Duty × 25%

非積み上げ(Non-stackable)原則
本措置は他の貿易救済措置と重複して適用されません(二重課税の回避)。
例えば、既に「中国製鉄鋼へのSurtax」や「米国製アルミ・鉄鋼への報復関税」、「鉄鋼セーフガード(TRQ)超過分」の対象となっている貨物については、そちらの措置が優先され、今回の「派生品25%」は上乗せされません。


4. 適用除外(Exclusions)と救済措置

コスト増を回避するためには、以下の「除外要件」に該当するかどうかの判定と証憑確保が勝負となります。

自動的な適用除外(OIC明記)

  1. 他措置の対象品:前述の通り、他のSurtax等が適用される原産国の物品。
  2. 特例輸入(Chapter 98):カナダ関税率表第98類(旅行者携帯品や特定の戻り荷など)で輸入されるもの。
  3. 個人のカジュアル輸入:商業目的ではない個人輸入。

期限付き・用途限定の除外(~2026/7/1輸入分まで)
以下の特定産業用途に供される場合、一時的に除外されます。

  • 自動車産業:自動車、シャシー、部品・付属品の製造用。
  • 航空宇宙産業:航空機、宇宙船の機体および部品製造用。
  • 特定エネルギー案件:オンタリオ州/マニトバ州境以西向けの特定の風力タワー(7308.20.00)。

輸送中(In Transit)の特例
施行日(2025年12月26日)時点で、既にカナダに向けて輸送中であることが立証できる貨物は対象外となります。

減免(Remission)申請
国内調達が不可能であり、かつ関税賦課がカナダ経済に重大な悪影響を及ぼす場合、個別に減免申請を行う道(Remission process)が用意されています。


5. 日本企業への実務インパクトと対策

(1) コスト・価格転嫁への波及
鉄鋼メーカーだけでなく、機械メーカーや建設事業者への影響が避けられません。調達・営業・法務が連携し、Incoterms(DDP条件などの確認)や契約上の価格改定条項(サーチャージ条項)を見直す必要があります。

(2) HSコード分類精度の重要性
類似製品であっても、HSコードが少し異なるだけで「25%か0%か」が変わります(例:7308の構造物と判断されるか、機械の部分品と判断されるか)。分類の論拠を明確にした資料(Classification Rationale)の準備が推奨されます。

(3) コンプライアンスリスク
カナダ国境サービス庁(CBSA)は、関税回避を目的とした不適切なHSコード申告(品目ずらし)や、原産地・用途の虚偽申告に対する取締りを強化する方針です。


6. 施行直前チェックリスト(Action Items)

  1. [棚卸し] 対象HSコードの網羅的確認
    • 自社製品のSKUを、公表リスト(7308, 7318, 9403等)と照合する。
  2. [物流] 「輸送中(In Transit)」の証拠保全
    • 12/26をまたぐ船積みについて、B/L日付や積載証明など、CBSAが認める「輸送中」の定義に合致する書類を確保する。
  3. [証明] 用途除外のスキーム構築
    • 自動車・航空機用途(2026/7/1まで)の場合、輸入通関時にその用途を証明できるエンドユース・サーティフィケートや発注書の紐づけフローを確立する。
  4. [契約] コスト負担の明確化
    • 既存契約において、新規導入されるSurtaxを誰が負担するか(売主か買主か)を法的に確認し、必要に応じて顧客と交渉する。
  5. [例外] 減免(Remission)の検討
    • 代替調達不可のロジック構築や、業界団体を通じたロビーイングの必要性を検討する。

まとめ

今回の措置は、カナダ向けの輸出において「鉄鋼素材」だけでなく「鉄鋼を使った最終製品」へとリスクの軸足が移ったことを意味します。施行までの残り時間はわずかですが、「HS分類の適正化」「用途例外の活用」「契約条件の再確認」の3点を迅速に進めることが、貴社の利益とコンプライアンスを守る鍵となります。


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ


「インド提案のメキシコPTA構想」——“関税ショック”への最短リスクヘッジ

2025年12月、インド政府はメキシコとの**Preferential Trade Agreement(PTA:特恵貿易協定)**締結を提案し、すでにオンライン会合を経て技術協議フェーズに入ったと報じられています。 この動きは「新規FTA交渉のスタート」というよりも、2026年1月1日から段階的に適用される、最大50%のメキシコ輸入関税引き上げへの実務的な危機対応と位置づける方が現実的です。timesofindia.indiatimes+3

いま何が起きているか(3行要約)

  • メキシコ議会は、FTA未締結国からの一部輸入品について、5〜50%の関税を課す法案を承認し、約1,400品目が対象となる見通しです(主に自動車、部品、繊維、鉄鋼、プラスチック、履物など)。reuters+2
  • インドは、自国の対メキシコ輸出(2024年輸出額約57億ドル)のうち、およそ20億ドル規模が今回の関税で打撃を受け得ると試算し、**PTAによる部分的な関税優遇で“穴を開ける”**戦略を示しています。tradingeconomics+2
  • 背景には、USMCA(2026年見直し)をにらんだ米国の対中強硬路線と、それに歩調を合わせたメキシコのサプライチェーン再編・国内産業保護という政治経済文脈があります。table+2

背景:メキシコの“非FTA国向け”関税引き上げの狙い

今回の措置は、特定国のみを狙い撃ちするというより、「メキシコとFTAを持つか否か」で世界を二分する設計になっています。 USMCA、CPTPP、日墨EPAなどの協定パートナーは優遇または現状維持となる一方、インド、中国、韓国、タイなど非FTA国は高関税MFN枠に押し込まれ、競争力が大きく低下する構図です。aa+2

メキシコ政府は、この関税引き上げの目的として、国内産業・雇用の保護、貿易不均衡の是正、特にアジア製品からの輸入代替と北米サプライチェーンへの組み込み強化を掲げています。 併せて、財政赤字の縮小に向けた関税収入増も副次的な目的とされています。financialpost+3


影響の輪郭:どの業界が“刺さる”のか

報道ベースで、メキシコが高関税対象として想定している主なセクターは以下の通りです。reuters+2

  • 自動車・二輪・部品(完成車、部品、関連金属)reuters+2
  • 繊維・衣料・履物reuters+2
  • 鉄鋼・その他金属製品gmk+2
  • プラスチック、ゴム・皮革製品、その他工業製品aa+2

インドの対メキシコ輸出は、2024年時点で約57億〜57.3億ドル規模とされ、このうち自動車、部品、繊維、鉄鋼など約20億ドル相当が新関税で大きな影響を受け得るとインド政府は見込んでいます。timesofindia.indiatimes+2


核心論点:なぜ「FTA」ではなく「PTA」なのか

インド当局者の発言から読み取れるロジックを整理すると、次の3点に収斂します。tradingview+2

  1. WTOで争いにくい構造
    メキシコは、WTOにおける譲許表(bound rate)の範囲内でMFN税率を引き上げる形をとっており、形式上はWTO義務に反しない設計です。 インド側も、「MFNベースの引き上げである以上、WTOでの法的救済の余地は限定的」とコメントしています。tradingview+1
  2. 包括的FTAは時間切れリスクが大きい
    包括的FTA交渉は、サービス、投資、政府調達、知財など幅広い分野が交渉対象となり、通常は数年単位を要します。 一方、メキシコの新関税は2026年1月1日から適用開始予定であり、このタイムラインにフルスコープFTAを間に合わせる現実性は低いと見られています。indiainmexico+3
  3. PTAなら“影響品目だけ”を優先的に救える
    PTAは、関税譲許の範囲を特定品目や限定セクターに絞り込み、関税ショックが大きい品目群に的を絞った救済設計が可能です。 インド当局者も、PTAを「影響緩和のための迅速な解決策」と位置付けており、まずは貨物貿易にフォーカスした限定的スキームから着手する構想と報じられています。economictimes+2

PTAが動き出した場合、企業実務はどう変わるか

PTAは「締結=ゴール」ではなく、「締結=実務負荷の立ち上がり」です。企業側で特に重要になる論点は次の3つです。

  1. 対象品目の線引き(自社SKUが入るか)
    PTAは、影響の大きいHS品目に絞って関税優遇を設定する設計になりやすく、品目リストに載る/載らないで明暗が分かれます。 企業としては、HSコード×原産国別に「PTA対象・非対象」を瞬時に判定できる体制が必要です。reuters+1
  2. 原産地規則(ROO)と証明の“必須化”
    関税優遇の適用には、PTAで定める原産地規則を満たし、インボイスや原産地証明書等で原産性を立証することが前提条件となります。 インド製品であっても、部材が多国籍にまたがる場合は、BOMレベルでのトレースとサプライヤー宣誓の取得がボトルネックになり得ます。itj.dgciskol+1
  3. 中継・積替え取引への監視強化リスク
    今回の関税引き上げの政治的背景には、米国が問題視する**迂回(trans-shipment)**対策やサプライチェーンの透明性強化があります。 PTAを通じた優遇が広がるほど、メキシコ税関は書類・物流経路の整合性チェックを強化し、コンプライアンス体制の差が実務リスクの差として顕在化する可能性があります。table+2

日本企業にとっての“見落としやすい示唆”

日本企業は、「日墨EPA」「CPTPP」といった枠組みにより、メキシコ向け輸出で相対的に有利なポジションを維持しているケースが少なくありません。 しかし、次のようなケースでは、今回のインド・メキシコPTA構想とメキシコ関税引き上げの影響を軽視すべきではありません。indiainmexico+1

  • メキシコ拠点がインドから部品・素材を調達している場合
    関税引き上げがそのままインプットコスト増に直結し、価格転嫁・設計変更・調達先多角化が不可避となる可能性があります。businesstoday+2
  • メキシコ市場でインド企業と競合している場合
    一時的には、インド製品が高関税で不利になり、日本製品が優位に立つ可能性があります。 しかし、PTAによってインド製品の関税負担が軽減されれば、「関税差による優位性」が短期間で失われるシナリオを織り込む必要があります。businesstoday+3

企業の打ち手(今日からできる順)

  • HSコード×原産国×契約条件ベースの影響試算
    どのHSにどの関税率がかかるのか、インド経由品がどの程度コスト上昇するのかを早期に可視化します。reuters+1
  • 価格条項・インコタームズ・再交渉条項の棚卸し
    関税負担がどこに帰属する契約かを洗い出し、価格見直しやサプライチェーン再設計の余地を確認します。newindianexpress+1
  • 原産地証明スキームの設計
    BOM精査、サプライヤー宣誓・定期監査、トレース体制の整備など、PTA適用に耐えうる証憑基盤を準備します。itj.dgciskol+1
  • 代替調達・代替生産シナリオの検討
    メキシコとFTAを持つ国からの調達・生産への切り替え余地を検証し、インド依存度の高い部材の「第二ソース」を確保します。financialpost+1
  • 業界団体・現地商工会との情報ライン構築
    品目リストや具体的税率の最終確定、PTAのスコープについて、一次情報を継続的に取得できるチャネルを確保します。timesofindia.indiatimes+1

今後の見通し:短期はPTA、長期はFTA(ただし政治次第)

インドとメキシコは、すでにオンライン会合を通じてPTAの技術協議を開始しており、短期的には**「高関税の影響が大きい品目をPTAでピンポイント救済する」方向**が現実的と見られます。tradingview+2

一方で、より包括的なFTAに発展するかどうかは、2026年USMCA見直しを含む対米関係、対中政策、メキシコ国内産業保護の政治力学に大きく左右されます。 企業としては、「短期:PTAによる部分的な関税差」「中長期:FTAや北米サプライチェーン再編による構造変化」の両方を織り込んだシナリオプランニングが必要です。bloomberg+4


本稿は公開情報に基づくビジネス上の一般的解説であり、特定の取引・案件に対する法務・税務・通関上の助言を構成するものではありません。具体的な案件については、協定正文・国内実施法・通関実務を確認のうえ、専門家への相談を推奨します。

  1. https://www.reuters.com/world/india/india-talks-with-mexico-over-tariffs-threatening-2-billion-exports-2025-12-15/
  2. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-talks-india-mexico-open-dialogue-to-blunt-tariff-shock-preferential-pact-on-the-table/articleshow/125976849.cms
  3. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  4. https://www.aa.com.tr/en/americas/mexican-senate-approves-up-to-50-tariffs-on-imports-from-china-asian-nations/3768289
  5. https://financialpost.com/news/mexico-50-tariffs-chinese-asian-imports
  6. https://tradingeconomics.com/india/exports/mexico
  7. https://table.media/en/china/news-en/mexico-import-tariffs-against-china-and-other-asian-countries
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-11/mexico-aligns-with-us-on-tougher-tariffs-on-chinese-asian-goods
  9. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-tariff-hike-hit-1-billion-india-car-exports-despite-automaker-lobbying-2025-12-11/
  10. https://gmk.center/en/news/mexico-approves-tariff-increases-on-chinese-and-other-asian-imports/
  11. https://www.tradingview.com/news/reuters.com,2025:newsml_L1N3XL083:0-india-proposes-trade-deal-to-counter-sharp-tariff-hike-by-mexico/
  12. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/why-mexico-slapped-50-tariff-on-india-how-it-matters/articleshow/125916395.cms
  13. https://www.indiainmexico.gov.in/public_files/assets/pdf/India-Mexico_Trade_Commercial_Relations_june.pdf
  14. http://itj.dgciskol.gov.in/hsLagNXcDNZLrfxnFiuzppuA3ckWhBLyT8a0cJ41.pdf
  15. https://www.businesstoday.in/india/story/india-mexico-trade-faces-new-headwinds-amid-threat-of-up-to-50-tariff-on-asian-goods-506267-2025-12-11
  16. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Dec/12/mexico-to-impose-up-to-50-tariff-on-indian-exports
  17. https://www.reuters.com/business/tariffs/
  18. https://www.facebook.com/etnow/posts/50-tariff-india-engaged-with-mexico-over-unilateral-hike-fta-talks-soon-read-/1274343104724591/
  19. https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/trade-deficit-narrows-november-deficit-drops-to-24-53-billion-compared-to-41-68-billion-in-october-check-details/articleshow/125974431.cms
  20. https://tradingeconomics.com/mexico/imports/india

マレーシア原産地証明制度:対米輸出における「MITI一元化」と審査厳格化への転換

マレーシアの貿易実務において、原産地証明(CO)の潮目が大きく変わりました。一言で言えば、

「性善説に基づく“自己申告・商工会議所発給”の時代から、
対米リスク管理を前提とした“MITI直接審査”の時代への回帰」

です。

特に2025年5月から開始された「対米輸出向け非特恵原産地証明(NPCO)のMITI発給一元化」は、米国トランプ政権下の「相互関税(Reciprocal Tariff)」や迂回輸出対策を強く意識した措置です。

本稿では、この制度変更の背景と、日本企業が直面する実務への影響を整理します。


1. これまでのマレーシア:自証化と民間委任の10年

1-1 本来の「二層構造」

マレーシアでは長らく、COの種類によって発給機関が分かれていました。

  • 特恵原産地証明書(PCO):FTA税率適用用。MITI(投資貿易産業省)が主管・認証。
  • 非特恵原産地証明書(NPCO):一般用。MITIから権限を委任された商工会議所・業界団体(MICCI, MCCM等)が発給。

1-2 「緩和」に見えたこれまでの流れ

過去10年は、ASEAN全体で「貿易円滑化」がキーワードでした。

  • ATIGA自己証明制度(AWSC):認定輸出者が自ら原産性を証明。
  • 電子化(ASW):Form Dなどのデータ交換によるペーパーレス化。

この流れの中で、「原産地証明は“紙の審査”から“デジタル・事後確認”へ移行する」という空気が醸成されていたのは事実です。

1-3 水面下での「監査強化」

しかし、2019年の法改正でマレーシア税関はポストクリアランス監査(PCA)の追徴期間を3年から6年に延長するなど、水面下では「原産地=徴税・コンプライアンスの対象」とする準備を着々と進めていました [1][2]。


2. 2025年の転換点:MITIによる対米NPCOの「権限取り戻し」

2-1 対米輸出COは「MITIのみ」へ

2025年5月5日、MITIは以下の重要方針を発表し、翌5月6日より即時適用しました [3][4]。

  1. 対米輸出(US-bound)のNPCOは、MITIが唯一の発給機関となる。
  2. これまでNPCOを発給していた商工会議所・業界団体の対米向け発給権限は停止される(※他国向けの発給権限は維持)。

2-2 背景:トランプ政権下の「24%相互関税」と迂回輸出

この決定の引き金は、米国による対中関税の回避地としてマレーシアが利用される「原産地ロンダリング(Origin Washing)」への懸念です。
現地報道(The Edge等)によれば、米国が提案する「最大24%の相互関税(Reciprocal Tariff)」の交渉において、マレーシア側が「自国の原産地管理は適正である(中国製品の迂回ではない)」ことを証明し、関税適用を除外・軽減させるための信用担保措置としての意味合いが強いとされています [1]。

2-3 実務へのインパクト:「形式」から「実態」へ

これまで商工会議所経由で、比較的簡易な書類審査で取得できていた対米COは、今後MITIによる厳格な審査対象となります。

  • 書類審査の深化: 単なるインボイス確認だけでなく、コスト構造や製造工程の確認が行われる。
  • 監査の連動: MITIとマレーシア税関(RMCD)が連携し、不正なトランシップメント(積み替え)の摘発を強化する [3][5]。

3. 具体的な変更点と厳格化ポイント(実務イメージ)

3-1 「コスト分析(Cost Analysis)」の提出義務化

商工会議所(MICCI)のコメントや現地報道によれば、今後はNPCOであっても、PCO並みの「コスト分析」「製造原価計算書」の提出・保管が求められる可能性が高まっています [1]。
「何を・どこから・いくらで調達し、どう加工したか」を数字で証明できなければ、COは発給されません。

3-2 「単純工程」のリスク増大

以下のようなビジネスモデルは、MITIの審査で「原産性なし」と判断されるリスクが極めて高くなります。

  • 単純な組み立て(Simple Assembly)
  • 輸入・再梱包・ラベリングのみ(Repacking/Labeling)
  • 最小限の加工(Minimal Operation)

これらは「マレーシア原産」とは認められず、対米輸出時に中国製(または他国製)として申告する必要が出てくる可能性があります。

3-3 リードタイムの不確実性

MITIへの申請集中により、初期段階では審査遅延やシステムトラブルが懸念されます。商工会議所も「MITIの業務量増加による遅れ」を懸念材料として挙げています [6]。出荷スケジュールには十分な余裕を持つ必要があります。


4. 日本企業・日系サプライヤーがとるべき対応

4-1 マレーシア拠点の「商流」棚卸し

自社のマレーシア拠点が以下のどのパターンに当てはまるか再確認してください。

パターンリスク度対応策
A. 現地製造(一貫生産)製造工程図、BOM、原価計算書をMITI提出用に整備する。
B. ノックダウン生産・組立付加価値基準(25%~など)を満たすか、詳細な原価計算を行う。
C. 三国間・倉庫在庫販売「マレーシア原産」の主張を取り下げ、真の原産国での申告を検討する。

4-2 「特恵(PCO)」と「非特恵(NPCO)」のダブルスタンダード管理

  • 対ASEAN/日本輸出: 従来通り、FTA(ATIGA/AJCEP等)の自己証明やPCOを活用し、関税削減を狙う(円滑化トレンド)。
  • 対米輸出: MITIの厳格な審査に耐えうるNPCO申請書類(BOM、コスト内訳)を準備する(厳格化トレンド)。

この「二極化」に対応できる社内体制が必要です。

4-3 現地パートナー(通関業者・商社)への丸投げ禁止

「通関業者がうまくやってくれるはず」という認識は危険です。MITIと税関は連携して事後調査(Post Clearance Audit)を行います。

  • CO申請の根拠資料(製造フロー、コスト計算)は自社で保持する。
  • 現地パートナーが「どのようなロジック」で原産地を申告しているか確認する。

5. 結論:サプライチェーンの「原産地説明力」が問われる

マレーシアにおける今回の変更は、単なる手続きの変更ではなく、「米中対立・保護主義下における生き残り戦略」です。マレーシア政府は、自国が「中国製品の抜け穴」と見なされ、米国から包括的な制裁関税を受けることを避けるため、なりふり構わず原産地管理を強化しています。

日本企業としては、「COが取れるか」というテクニカルな視点だけでなく、「自社のサプライチェーンは、米国税関やMITIに対して胸を張って『マレーシア製』と説明できる実態があるか」という本質的な問い直しが求められています。

引用:
[1] The State of the Nation: Spotlight on Certificate of Origins as Malaysia moves to weed out ‘pass-through’ exports https://theedgemalaysia.com/node/754896
[2] MITI to be sole issuer of non-preferential certificates of origin to US … https://international.astroawani.com/malaysia-news/miti-be-sole-issuer-nonpreferential-certificates-origin-us-may-6-2025-519458
[3] [PDF] miti will be the sole issuer of non-preferential certificates of origin for https://www.miti.gov.my/miti/resources/Media%20Release/%5BFINAL2%5D_MITI_Press_Statement_MITI_to_Tighten_Controls_on_Issuance_of_Certificate_of_Origin_for_US_Exports_2025-05-05.pdf
[4] Malaysia centralises export certification to US in new Anti-Transshipment measure https://www.thevibes.com/articles/news/107815/malaysia-centralises-export-certification-to-us-in-new-anti-transshipment-measure
[5] MITI WILL BE THE SOLE ISSUER OF NON … https://ambercourier.com/miti-will-be-the-sole-issuer-of-non-preferential-certificates-of-origin-for-exports-to-the-united-states-from-6-may-2025/
[6] MICCI backs Miti’s appointment as sole issuer of NPCO for US … https://www.thestar.com.my/business/business-news/2025/05/06/micci-backs-miti039s-appointment-as-sole-issuer-of-npco-for-us-bound-exports
[7] Non-Preferential Certificate of Origin (NPCO) https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/npco
[8] Malaysia Tightens Certificate of Origin Requirement Amid … https://chinascope.org/archives/37539
[9] MP urges govt to take over certificate of origin issuance from … https://theedgemalaysia.com/node/753964
[10] MITI’S ANNOUNCEMENT ON NPCO FOR EXPORTS TO THE US 63 … https://www.mpma.org.my/circulars-and-announcements/2024-circulars/miti-s-announcement-on-npco-for-exports-to-the-us-63-2025
[11] Preferential Certificate of Origin (PCO) https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/3911
[12] MICCI BACKS MITI’S APPOINTMENT AS SOLE ISSUER OF NPCO FOR US-BOUND EXPORTS https://web11.bernama.com/en/news.php?id=2420349
[13] Malaysia Tightens Certificate Of Origin Rules For US-Bound Exports … https://www.businesstoday.com.my/2025/05/05/malaysia-tightens-certificate-of-origin-rules-for-us-bound-exports-to-curb-transshipment-abuse/
[14] How to Apply for a Certificate of Country of Origin (COO) in Malaysia? https://www.richardweechambers.com/how-to-apply-for-a-certificate-of-country-of-origin-coo-in-malaysia/
[15] Miti to be sole issuer of certificates of origin for US-bound shipmentswww.thestar.com.my › news › nation › 2025/05/05 › miti-to-be-sole-issuer… https://www.thestar.com.my/news/nation/2025/05/05/miti-to-be-sole-issuer-of-non-preferential-certificates-of-origin-for-us-bound-shipments
[16] Ministry of Investment, Trade and Industry https://www.miti.gov.my/index.php/announcements/view/875
[17] MICCI Backs MITI’s Appointment As Sole Issuer Of NPCO For US-bound Exports https://www.bernama.com/en/news.php?id=2420349
[18] Ministry taking over certificates of origin issuance to … – NST Online https://www.nst.com.my/business/economy/2025/05/1211768/ministry-taking-over-certificates-origin-issuance-curb-origin
[19] Breaking News! Important Update for Malaysian Exporters to the … https://www.instagram.com/p/DJYflqDtzZk/
[20] Malaysia halts trade groups from issuing certificates for US exports … https://www.malaymail.com/news/malaysia/2025/05/05/malaysia-halts-trade-groups-from-issuing-certificates-for-us-exports-amid-tariff-concerns/175662

EU「少額小包への一律関税」導入が示す転換点──2026年7月、越境ECの“勝ち筋”が変わる

EUは2026年7月1日から、150ユーロ未満の少額小包(主に越境EC経由)に対して、品目カテゴリごとに固定で3ユーロの関税を課すことで政治合意に達した。 これは、恒久制度が整うまでの暫定的な措置と位置づけられているが、越境ECモデルにとっての意味合いは小さくない。euagenda+2
一言でいえば、「少額×分散×直送」で成立していた国際通販モデルが、制度設計レベルから見直される転換点になっている。maintax+1


忙しい方向け:まず押さえる3行

  • 何が起きる?:EU域外からEU消費者に届く150ユーロ未満の小口貨物に、品目カテゴリ(tariff heading)ごと固定3ユーロの関税(暫定)がかかる。reuters+1
  • なぜ今?:少額小包が爆発的に増え、EU側が「公正競争・安全・詐欺・環境」の観点から現行枠組みの限界を明示した。taxation-customs.europa+2
  • 企業は何をする?:価格競争だけでなく、物流設計・商品構成・税務/通関データ品質で勝負が決まる局面に入り、準備スピードがそのまま競争力差になる。eunews+1

1. 何が決まったのか:制度の「読み違い」を潰す

2026年7月1日:固定3ユーロの暫定関税

EU理事会は、2026年7月1日以降、150ユーロ未満の小口貨物に対し、固定3ユーロの関税を適用することで合意したと発表している。politis+2
ここで重要なのは、単に「3ユーロが一律で上乗せされる」ではなく、「どの単位で3ユーロがかかるのか」という設計である。reuters

理事会の説明や報道によれば、この固定3ユーロは、小包(consignment)に含まれる品目カテゴリ、すなわち関税分類(tariff heading/6桁HS水準)ごとに課される想定とされる。euagenda+1

  • 同じカテゴリの商品だけで構成された小包なら、固定3ユーロで収まるケースが多い。
  • 異なる関税分類の商品を詰め合わせると、分類数に応じて3ユーロが積み上がる可能性がある。

したがって、この設計は商品構成(SKU設計)と物流設計(同梱ルール)に直接ひもづく論点になる。europeannewsroom+1

対象は「IOSS登録の域外販売者」が関与するフローが中心

固定関税の主な適用対象は、EUのIOSS(Import One-Stop Shop)に登録している非EU販売者・プラットフォームを通じてEUに直送される小包であると説明されている。eunews+1
各種解説では、こうした直送越境ECの小包が、EU域外からEUに届く少額小包のおよそ9割超を占めるとされており、結果として「越境EC由来の少額小包の大半(約93%規模)が今回の措置の主対象」というイメージになる。europarl.europa+1

「取扱手数料(handling fee)」とは別モノ

近い文脈で議論されている2ユーロ水準の「取扱手数料(handling fee)」案と、今回の固定3ユーロ関税は別枠の制度であることを、理事会・委員会の双方が明確に区別している。europarl.europa+2
取扱手数料については、通関現場の処理コスト回収などを狙いとする案が提示され、欧州議会も「WTO整合性」「負担主体(プラットフォーム負担)」などの観点から検討を求めているが、導入時期や最終仕様は現時点では確定しておらず“議論継続中”の段階にある。france24+1


2. なぜ今なのか:EUが「制度疲労」を認めた瞬間

低額小包は「物流」ではなく「社会インフラ負荷」になった

欧州委員会のコミュニケーションを引用した欧州議会の資料では、150ユーロ未満の低額貨物は2024年に約46億個(1日あたり約1,200万個)に達し、2023年は23億個、2022年は14億個と、ほぼ指数的に増加していると整理されている。longbridge+1
同資料では、2024年時点で150ユーロ未満の越境EC貨物の約91%が中国発とされ、特定の国・プラットフォームへの依存が急速に進んだ点も指摘されている。reuters+1

これだけのボリュームになると、税関・規制当局は「すべてを物理的に検査する」のではなく、「リスク判定のためのデータをどう集約・分析するか」が中心課題になり、EUがデータハブ構想やプラットフォーム責任強化に舵を切る理由がここにある。maintax+1

“過少申告”がビジネスモデルとして組み込まれた

EU理事会は、現行ルールのもとで、少額小包の最大約65%が輸入関税やVATを回避する目的で過少評価されているとの推計に言及している。europarl.europa+1
まじめに価値申告をしている事業者ほど不利になる構造であり、EUが今回の措置を「公正競争」と「消費者保護」の観点から正当化しているのは、このゆがみを是正する意図が強いからだと理解できる。euagenda+1


3. 「転換点」の本質:3つのゲームチェンジ

転換点①:少額免税(de minimis)依存の価格戦略が崩れる

EUはこれまで、150ユーロ未満の貨物には関税免除(いわゆるde minimis)を認める一方、VATは別途課税・申告対象とする仕組みを採ってきた。taxation-customs.europa
今回の3ユーロ固定関税は暫定措置だが、欧州委員会と加盟国は、2026年に150ユーロの関税免除閾値自体を撤廃し、中長期的には通常の関税体系に移行させる方針を明示している。maintax+2

転換点②:勝負所が「調達原価」から「通関データ×物流設計」へ

EU税関改革は、EU Customs Data Hub を中核に、越境ECを含む通関プロセスを“データ駆動”で管理する構想となっている。taxation-customs.europa
この環境では、HS/関税分類の精度、商品属性データの整備レベル、IOSSを含む税務・通関プロセス、SKU構成と同梱ルールといった要素が、そのまま粗利と在庫回転率を左右する経営変数になる。eunews+1

転換点③:プラットフォームが“販売チャネル”から“準税関主体”に近づく

欧州委員会の税関改革資料では、オンラインプラットフォームを「関税・VAT義務の履行を確実にする主要アクター」と位置づけており、消費者や運送会社に寄っていた責任を、プラットフォームにシフトする方向性が示されている。europarl.europa+1
マーケットプレイス依存度が高い企業ほど、プラットフォーム側のコンプライアンス要件、データ提出仕様、追加コストの転嫁ルールが業績に直結しやすくなり、「どのプラットフォームとどう組むか」が戦略論点になる。europarl.europa+1


4. 日本企業への実務インパクト:論点は「EU向けD2C/越境ECをやっているか」

影響が大きい企業

  • EU向けに単価の低い商品をD2Cで大量出荷している。
  • 「送料無料」「低額での“ちょい足し”」をフロントに出したビジネスモデル。
  • アソート比率が高く、1注文内に複数カテゴリ商品を混在させがち(=関税分類が増えやすい)。

固定3ユーロは、商品単価が低いほど実質税率が跳ね上がりやすく、とりわけ「関税分類ごと」の設計は詰め合わせ販売へのインパクトが大きい。reuters+1

影響が相対的に小さい企業

  • そもそもEU向けビジネスがB2B中心(まとまったロットで輸出し、従来から関税と通関を織り込んでいる)。
  • 高単価帯で、関税が粗利構造に与える影響が限定的。
  • EU域内の在庫(倉庫・代理店)から出荷しており、B2Cは域内販売が中心(ただし輸入時の関税設計は引き続き最適化が必要)。

こうした企業でも、今後の閾値廃止とデータ要件強化を前提に、輸入時の関税評価・分類やプラットフォームとのデータ連携の見直しは必要になる。eunews+1


5. いま経営としてやるべきこと:チェックリスト(実務寄り)

2026年7月1日までには時間があるように見えて、SKU再設計・システム改修・価格改定を同時に進めるにはタイトなスケジュールである。reuters+1

  1. 注文データを「関税分類の数」で棚卸しする
  • EU向け注文のうち、150ユーロ未満の比率はどの程度か。
  • 1注文あたり、何種類の関税分類(tariff heading)が混在しているか。
  • 低単価SKUほど、3ユーロ×分類数の追加コストで採算割れしないか。

ここは経理・ロジス・EC運営の連携が不可欠であり、分類データは現場、採算判断は経理、制度解釈は貿易・税務がそれぞれ担うことになる。reuters+1

  1. 「同梱ルール」を売り方(バンドル)まで含めて再設計
  • “ついで買い”セットが、結果として関税分類数を増やしていないか。
  • カート設計(レコメンド)が、複数分類の混在を誘発していないか。
  • セット商品を可能な範囲で「同一分類中心」に寄せられないか。

関税分類の判断・申告は専門性が高いため、通関業者・税務専門家と連携し、誤分類や過少申告を避けつつSKU設計を見直すことが前提となる。euperspectives+1

  1. IOSS/VAT運用と「データ品質」をKPI化する
    IOSSは、150ユーロ以下の輸入B2C取引に関するVAT申告・納付を簡素化する仕組みとして既に運用されている。vatai+1
    今後はここに関税計算・リスク分析用データが重なり、EU Customs Data Hubを通じて当局側のデータ活用が進むため、商品属性(材質・用途・原産地など)を通関に使える粒度で持てているか、マーケットプレイス/3PL/配送会社に渡すデータ仕様を誰が管理しているか、といった点を社内KPIとして可視化する必要がある。eunews+1
  2. “取扱手数料”を織り込んだ複線シミュレーション
    欧州委員会と欧州議会では、3ユーロ関税とは別に、少額小包に対する取扱手数料(例:2ユーロ案)が検討されているが、導入時期・設計は未確定である。europarl.europa+2
    そのため、
  • 固定関税のみの場合、
  • 固定関税+取扱手数料が追加される場合、
  • 2028年前後に恒久制度へ移行した後の関税水準・計算方法の変化、

といった複数シナリオで粗利・価格政策を事前試算しておくと、制度確定時の意思決定スピードを高められる。reuters+2


6. まとめ:これは“関税3ユーロ”の話ではない

固定3ユーロは、個々の取引レベルでは「数百円程度」のニュースに見えるかもしれない。euperspectives+1
しかし本質は、EUが越境ECを「放任」から「統治」へ移行させる過程の第一歩であり、2026年の暫定関税と2028年前後のデータハブ本格稼働の間に、プラットフォーム責任・データ品質・同梱設計が競争力の中核へと組み込まれていくという構図にある。longbridge+1

EU向けビジネスを持つ企業にとっては、「税率が少し上がる」という見方ではなく、「勝ち方の前提が変わる」局面として、設計と実装を前倒しで進めることが重要になる。europeannewsroom+1

  1. https://www.reuters.com/world/china/eu-impose-3-euro-duty-small-e-commerce-parcels-july-2026-2025-12-12/
  2. https://euagenda.eu/news/906861
  3. https://taxation-customs.ec.europa.eu/news/e-commerce-150-eur-customs-duty-exemption-threshold-be-removed-2026-2025-11-13_en
  4. https://www.europarl.europa.eu/topics/en/article/20250708STO29516/eu-targets-low-value-imports-via-e-commerce-platforms
  5. https://www.eunews.it/en/2025/12/12/from-1-july-e3-duties-on-parcels-under-e150-arriving-from-non-eu-countries/
  6. https://en.politis.com.cy/globe/globe-europe/974185/eu-imposes-eur3-duty-on-small-parcels-under-eur150-ending-duty-free-imports
  7. https://europeannewsroom.com/from-1-july-next-year-the-eu-will-introduce-a-customs-duty-of-three-euros-on-orders-via-e-commerce-websites/
  8. https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20250704IPR29453/managing-the-influx-of-substandard-goods-from-non-eu-web-shops
  9. https://longbridge.com/en/news/266579872
  10. https://maintax.org/news/e150-customs-duty-exemption-threshold-to-be-removed-as-of-2026/
  11. https://www.vatai.com/blog/eu-customs-duty-exemption-removed-2026
  12. https://www.france24.com/en/live-news/20251212-eu-agrees-three-euro-small-parcel-tax-to-tackle-china-flood
  13. https://www.scmp.com/news/china/article/3336292/eu-targets-chinas-shein-and-temu-new-fees-low-value-parcels
  14. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/how-eu-plans-crack-down-low-value-e-commerce-goods-china-2025-11-19/
  15. https://www.x7trade.com/blog/eu-to-remove-150-duty-free-threshold-by-2026
  16. https://europeannewsroom.com/small-chinese-parcels-entering-the-eu-will-be-taxed-3-euros-from-july-2026/
  17. https://www.avalara.com/blog/en/europe/2025/11/eu-end-150-customs-duty-exemption-2026.html
  18. https://euperspectives.eu/2025/12/eu-to-introduce-e3-duty-on-small-online-orders-from-july-2026/
  19. https://www.floship.com/blog/heads-up-the-eu-is-abolishing-the-e150-duty-free-threshold-in-2026/
  20. https://www.forbes.com/sites/aleksandrabal/2025/11/17/eu-moves-to-end-150-customs-duty-exemption-for-low-value-imports/

中南米と南アジアで進む通商再編の要点(深掘り):企業の勝ち筋は「近さ×ルール×脱炭素」


※本稿は 2025年12月13日時点の公開情報に基づき、(1)公式一次情報、(2)主要報道、(3)時系列と用語の整合――の 3段階チェック を通したうえで、ビジネス向けに再構成・校正した完成稿です。reuters+1


いま起きていることを一言で

世界の貿易は「自由化が進む一直線の時代」から、「地政学・産業政策・環境規制で条件が変わる“分岐の時代”」に移ったと整理できる。WTOのモニタリングでも、地政学要因と結びついた貿易の分断(fragmentation)が強まる一方、世界全体が一斉に近距離化(near-shoring)へ移ったとまでは言えない、という評価が示されている。policy.trade.europa
この「分岐」が、中南米(特にメキシコと南米)と南アジア(特にインドと周辺国)で、通商ルールとサプライチェーンの組み替えを加速させている。gov+1


今日の結論(忙しい人向け)

  • 中南米は「北米統合のメキシコ」と「EU接近が進む南米」に二極化しつつある。USMCA(米・墨・加)を軸に、“北米向けの最適地”としてメキシコの重要性が上がる一方、対中・対アジアの扱いが政策論点になっている。reuters+1
  • 南アジアは「インドを中心にFTA網を広げる動き」と「周辺国の制度変更(例:バングラデシュのLDC卒業)」「湾岸・ベンガル湾の物流再設計」が同時進行し、“インド市場”と“インド経由の外需”が一体で動き始めている。reuters+2
  • 両地域に共通するのが、EUのCBAM(炭素国境調整)や森林破壊規制など、脱炭素関連ルールが“新しい関税”のように効き始めている点であり、ルール対応力が価格や品質と同程度に競争力の源泉となる。reuters+1

第1部:中南米——「メキシコ中心の北米統合」と「南米のEU接近」

  1. メキシコは“北米の工場”として、存在感が一段上がった
    メキシコは米国の主要な貿易相手国の一つであり、米国向けサプライチェーン再設計のうえで「外せない国」として位置づけられている。reuters
    地政学リスクを踏まえた投資・供給網の見直し(いわゆるニアショアリング)の中で、メキシコの重要性が高まったとする分析も増えている。reuters
  2. 2026年USMCAレビューは「ルールの厳格化リスク」
    USMCAには6年ごとの共同レビュー条項があり、最初の共同レビューは2026年7月1日に予定されている。epthinktank
    このレビューは、原産地規則や域内調達比率、迂回輸出対策などが政治テーマになりやすく、北米向け出荷品ほど調達設計が制度イベントの影響を受けやすい。epthinktank
  3. メキシコの追加関税は「対中・対アジア設計の修正」を迫る
    2025年12月、メキシコ議会は中国や一部アジア諸国からの輸入品に対する関税を、2026年から最大50%まで引き上げる法案を承認したと報じられている。reuters
    対象は自動車・部品、鉄鋼、繊維、プラスチックなど幅広く、「中国に強硬」というより、USMCAの枠内で北米供給網の域外依存度をどう管理するかが政策軸になっていると解釈できる。reuters
  4. ロジスティクス投資が「勝者」を分ける:港湾拡張は前兆
    通商再編は、協定や関税だけでなく港・鉄道・国境インフラにも表れる。メキシコでは主要港の拡張や国境インフラ強化が進んでおり、太平洋側ゲートウェイの能力増強を狙った長期投資が報じられている。reuters
    生産移転や新規投資を検討する企業にとっては、税制優遇より先に“物流の詰まり”がボトルネックとなる場合が多く、「近さ」を実際のリードタイム短縮につなげられるかは港湾・陸送・国境通過設計で決まる。reuters
  5. 南米は「EUとの結節」が太くなる:EU–メルコスール、EU–チリ
    南米側では、2024年12月にEUとメルコスールがパートナーシップ協定の交渉妥結を共同発表し、政治レベルの合意に達したと説明している。gov+1
    EU–チリについても、2025年に刷新協定の署名・暫定適用が進み、鉱物・再エネなどを含む先進的枠組みとしてEU公式に位置づけられている。policy.trade.europa
  6. 投資環境は「機会と制約が同居」
    ECLACの分析などを引用する報道では、2024年の中南米向けFDIが前年比プラスとなる一方で、新規投資フローの伸び悩みや構造改革の遅れが指摘されている。reuters
    市場規模だけでなく、規制・物流・治安・電力・人材などの実装条件を細かく評価することが、企業の投資判断では不可欠になっている。reuters

第2部:南アジア——「インドのFTA拡張」と「周辺国の制度転換」

  1. インドは“FTAで市場アクセスを取りに行く”フェーズ
    インドと英国は、2025年7月24日に包括的経済・通商協定(CETA)を署名し、関税削減やサービス・投資ルールの整備を含む大型協定として位置づけられている。jcp.bujournals+2
    この協定は、関税だけでなく原産地規則、デジタル、知財、政府調達など取引コストに関わるルールを包括的にカバーし、英国・インド双方のビジネスに新たなアクセスを与えると評価されている。jcp.bujournals+1
  2. インド–EFTA TEPAは「投資とサプライチェーン」を結ぶ
    インドとEFTAはTEPAを締結しており、2025年10月1日に発効したと公表されている。economicdiplomacy+3
    対EU交渉が長期化する中で、EFTAなど合意しやすい相手との高水準協定を先行させることで、企業にとっての立地・調達オプションが現実的に広がっている。india-briefing
  3. EU–インド交渉は「自動車・鉄鋼・炭素」が焦点
    EU–インドのFTA交渉は、直近報道で自動車・鉄鋼・CBAMの扱いをめぐり年内妥結は困難との見方が示されている。ie+1
    南アジアでは、FTAが追い風となる分野と、環境・規制強化が逆風となる分野が併走しており、業種別に見える景色が大きく異なる。ie+1
  4. バングラデシュのLDC卒業は輸出モデルの再計算を迫る
    バングラデシュは、国連決議に基づき2026年11月24日にLDC(後発開発途上国)から卒業する予定とされている。un+2
    LDC卒業はポジティブな節目である一方、関税優遇・原産地証明・輸出コストなどの条件が変わるため、特にアパレルなどで「バングラデシュ製=関税面で有利」という前提を再計算する必要が出てくる。nypm.mofa+1
  5. ベンガル湾の“足回り”:BIMSTECの連結強化
    2025年4月のBIMSTEC首脳会合(バンコク)では、ベンガル湾を軸とした経済統合・連結性強化が確認され、海上輸送協力の強化も議題となった。policy.trade.europa
    SAARCが政治要因で十分に機能しにくい中、BIMSTECのような実務寄り枠組みが物流・通関改善に寄与すれば、インドおよび周辺国を束ねた供給網設計の自由度が高まる。policy.trade.europa

第3部:両地域に共通する「新・通商コスト」——脱炭素とデューデリジェンス

  1. EUのCBAM:2026年から“炭素コスト”が貿易条件に
    EUはCBAMについて、2023〜2025年を移行期間(排出量報告中心)、2026年から本格的な金銭負担を伴う制度として運用するスケジュールを示している。policy.trade.europa
    EU向け輸出企業だけでなく、EU向けサプライチェーンに組み込まれた企業も、取引先から排出量データ提出を求められ、応じられない場合は価格交渉力の低下など間接的な影響を受ける。policy.trade.europa
  2. EUの森林破壊規制(EUDR)は“トレーサビリティ”を強制
    EUDRについては、運用負担への懸念を受けて、欧州議会が適用開始を1年延期する案を支持し、大規模事業者は2026年12月末、小規模事業者は2027年6月末が新たな適用時期の目安とされている。europarl.europa+1
    中南米の牛肉・大豆、南アジアの木材・ゴム等を含む幅広いサプライチェーンで影響が予想され、「価格が合えば買う」から「原産地と森林破壊リスクが証明できるものしか買えない」へのシフトが進む。reuters

第4部:日本企業の実務アクション——「二つのハブ+ルール対応」を設計する

アクション1:市場別に「最終組立地」と「域内調達」を分けて設計する

  • 北米向け:USMCAレビューやメキシコの対中・対アジア関税引き上げを前提に、原産地規則・域内比率と部材調達先を再点検する。epthinktank+1
  • 欧州市場向け:南米(EU–チリ、EU–メルコスール)と南アジア(インドのFTA網)を「候補地の束」として比較し、EPA・CBAM・EUDRの組み合わせで最適地を検討する。gov+2

アクション2:「環境データ」と「原産地」を、コストではなく競争力として先に作る

CBAMやEUDRは、「報告や証明ができる企業だけが参加できる市場」を広げる方向に動いている。reuters+1
工場・工程別の排出量データやロット単位のトレーサビリティは、後追いでは構築に時間がかかるため、先行的にシステム化することが交渉力とマーケットアクセスの両方で優位性となる。reuters+1

アクション3:2026年の制度イベントを前提に“契約と在庫”を組む

  • 2026年USMCA共同レビュー(北米向け)。epthinktank
  • 2026年CBAM本格化(EU向け)。policy.trade.europa
  • 2026年11月24日のバングラデシュLDC卒業(南アジア調達)。un+1

これらはサプライチェーン設計だけでなく、価格改定条項、データ提供義務、監査権限など契約条件の見直しとも直結する。nypm.mofa+1


すぐ使えるチェックリスト(社内打ち合わせ用)

  • 北米向け製品のBOMを、原産地・HS分類・USMCA域内調達比率の3軸で棚卸ししたか。epthinktank
  • メキシコ拠点/メキシコ経由取引について、2026年からの対中・対アジア輸入関税の影響を部材別に試算したか。reuters
  • EU向け(またはEU向けサプライヤー向け)の取引で、CBAM対応として排出量データ提出体制を構築しているか。policy.trade.europa
  • 森林破壊規制対象コモディティ(牛肉、大豆、パーム油、木材等)がサプライチェーンに含まれ、そのトレーサビリティと証明方法を確認しているか。reuters
  • 南アジア調達について、バングラデシュLDC卒業後の関税優遇縮小を織り込んだ中期コスト比較を行ったか。un+1

おわりに:通商再編は「国の話」ではなく「企業の設計課題」

中南米と南アジアは、どちらも成長ポテンシャルが高い一方で、通商ルールと環境規制の変化が速い市場である。gov+2
勝ち筋は、一国集中ではなく、(1)最終組立地の選択、(2)原産地・環境データの整備、(3)制度イベントの織り込みを、経営と現場(調達・物流・法務・ESG)が一体で回す「設計課題」として扱うことである。gov+3

※本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の法務・税務・通関判断は、必ず専門家と協議のうえ決定してください。

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ソースを確認

  1. https://www.reuters.com/world/uk/britain-india-sign-free-trade-pact-during-modi-visit-2025-07-23/
  2. https://www.india-briefing.com/news/india-efta-tepa-2025-trade-benefits-tariffs-investment-40110.html/
  3. https://www.reuters.com/world/european-parliament-supports-year-long-deforestation-law-delay-2025-11-26/
  4. https://www.reuters.com/business/retail-consumer/mexicos-senate-approves-tariff-hikes-chinese-other-asian-imports-2025-12-11/
  5. https://www.gov.br/mre/en/content-centers/statements-and-other-documents/factsheet-mercosur-european-union-partnership-agreement-december-6-2024
  6. https://epthinktank.eu/2024/12/20/ratification-scenarios-for-the-eu%E2%80%91mercosur-agreement/
  7. https://nypm.mofa.gov.bd/en/site/page/LDC-Graduation-1
  8. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement_en
  9. https://www.un.org/ldcportal/content/bangladesh-graduation-status
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  11. https://jcp.bujournals.com/articles/india-uk-free-trade-agreement-an-assessment
  12. https://supplychaincompliance.bakermckenzie.com/2025/10/03/switzerland-iceland-norway-lichenstein-tepa-between-efta-and-india-enters-into-force-on-1-october-2025-a-key-milestone-for-trade-relations/
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  35. https://bbf.digital/bangladeshs-ldc-graduation-2026-or-delay-to-2032
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  37. https://economictimes.com/news/economy/foreign-trade/mexico-approves-tariff-hikes-on-imports-from-china-india-and-other-asian-countries/articleshow/125900687.cms
  38. https://www.aist.org/report-mexico%E2%80%99s-senate-approves-tariff-hikes-on-china,-other-asian-countries
  39. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement/text-agreement_en
  40. https://mexiconewsdaily.com/news/china-mexico-50-tariffs/

【2025年12月合意】米英「医薬品ゼロ関税・薬価改革パッケージ」の全貌と実務インパクト


2025年12月1日、米英両政府は医薬品貿易および薬価に関する歴史的な合意を発表しました。これは単なる「関税撤廃」のニュースではありません。**「米国市場へのアクセス権」と引き換えに「英国の医療制度(NHS)が相応の対価を支払う」**という、極めて戦略的かつ実利的な取引(ディール)です。

本記事では、この合意が医薬品のサプライチェーン、薬価戦略、そして日本企業の投資判断に与える影響を解説します。

1. 「米英医薬品合意」の核心:何を交換したのか?

合意の要点は、**「英国が米国の要求通りに薬価・医療支出を引き上げる代わりに、米国は英国製医薬品を『追加関税』の脅威から完全に保護する」**というバーター取引です。

米国側のコミットメント:完全なゼロ関税の保証

  • 対象: 英国原産の医薬品、原薬(API)、医療技術。
  • 内容: 少なくとも3年間、関税を0%に固定。
  • 特記事項: 通常のWTO関税だけでなく、通商拡張法232条(国家安全保障)に基づく追加関税や、通商法301条(不公正貿易)に基づく調査・報復措置からの免除を確約。

英国側のコミットメント:市場の魅力向上

  • 薬価支出の拡大: 新規医薬品への純支出を約25%増額(過去20年で最大規模)。
  • NICE評価基準の緩和: 費用対効果の閾値(Threshold)を引き上げ、高額薬を採用しやすくする。
  • VPAGリベートの引き下げ: 2026年のリベート率を**14.5%**へ大幅に引き下げ、さらに向こう3年間は15%を上限とするキャップ制を導入。

この合意は、本年5月に進展した「米英経済繁栄協定(EPD)」の具体的成果として位置づけられています。

2. なぜ今「ゼロ関税」が重要なのか?(WTOとの違い)

「医薬品の関税はWTO協定でもともとゼロではないか?」という疑問はもっともです。1994年のWTO医薬品協定(ゼロ・フォー・ゼロ)により、主要国間の医薬品関税は原則撤廃されています。

しかし、2025年の地政学リスクは「WTOの外」にあります。

米政権は「医薬品の海外依存は安全保障リスク(232条)」あるいは「各国の薬価統制は米国へのただ乗り(フリーライド)」であるとして、WTO税率とは別枠の10〜100%の追加関税を課す構想を掲げてきました。

今回の合意のビジネス上の価値は、**「英国だけが、この追加関税リスクから『制度的に』免除された」**という点にあります。EUや日本からの輸出が潜在的な追加関税リスク(あるいは既に発動された措置)に晒される中、英国は「確実な避難所(Safe Haven)」としての地位を確保しました。

3. 英国市場の変化:NICE改革とVPAG修正

英国は米国市場へのアクセスを守るため、自国の医療財政ルールを大きく変更します。

3-1. NICE(医療技術評価機構)の基準緩和

費用対効果評価(HTA)の厳格さで知られるNICEですが、今回の合意により新薬の承認基準となる「閾値」を引き上げます。

  • 変更内容: 1QALY(質調整生存年)あたりの許容コストを、従来の2万〜3万ポンドから、2万5千〜3万5千ポンドへ上方修正。
  • 影響: これまで「高すぎる」として償還を拒否されていたがん治療薬、希少疾患薬、遺伝子治療などが、NHSで採用される可能性が飛躍的に高まります。

3-2. VPAG(自発的制度)リベート率の適正化

製薬業界にとって最大の朗報は、売上の一部を政府に返還する「VPAG」制度の見直しです。

  • 現状(2025年): 新薬に対するリベート率は**22.9%**まで高騰し、英国でのイノベーション投資を阻害する要因となっていました。
  • 合意後(2026年〜): リベート率は**14.5%**へ急低下し、さらに3年間は「上限15%」が保証されます。これにより、英国事業の予見可能性(Predictability)と利益率が大幅に改善します。

4. サプライチェーンと投資への実務インパクト

4-1. 「対米輸出ハブ」としての英国

英国製造拠点の競争優位性は明確です。

  • 関税コスト差: 他国(EU・日本等)からの対米輸出に追加関税が課されるシナリオにおいて、英国産(0%)は圧倒的なコスト競争力を持ちます。
  • 規制調和: GMP相互承認(MRA)の活用により、査察コストも最小化されています。

4-2. 投資判断のポイント

ModernaやBMSなどが英国への追加投資を表明していますが、各社は以下のバランスを見て判断する必要があります。

  • プラス要因: 対米アクセスの保証、英国内の薬価環境改善。
  • リスク要因: ゼロ関税の保証期間が現時点では「少なくとも3年間」であること。また、VPAGの15%という水準は欧州他国と比較して依然として低くはないこと。

5. 日本・アジア企業にとっての機会とリスク

チャンス:3つの視点

  1. 対米輸出ルートの再構築:高マージンの新薬やバイオシミラーについて、追加関税リスクのある日本・EU拠点ではなく、英国拠点での製造・最終包装(Secondary Packaging)を行うことで関税を回避するスキーム。
  2. 英国市場での再挑戦:過去にNICEで償還不可となった製品や、採算性から投入を見送った希少疾患薬の再申請検討。
  3. CDMO・エコシステム活用:英国のCDMO(開発製造受託機関)への委託需要増を見越した提携や投資。

リスク:2つの懸念

  1. 3年後の「クリフ」リスク:米国の政権交代や方針転換により、3年後にゼロ関税枠組みが延長されないリスク。投資回収期間のシミュレーションには保守的なシナリオが必要です。
  2. 英国財政の持続可能性:薬価支出を25%増やすことによるNHS財政への圧迫が、将来的に別の形での規制強化(処方制限など)につながる可能性があります。

6. ビジネスパーソンが今すぐ行うべきアクション

  1. 関税インパクトの試算(P/Lシミュレーション):自社の主力対米輸出品について、「現状ルート(日本/EU発)」と「英国経由ルート」での関税・物流コスト総額を比較する。特に「セーフガード関税」が発動された場合の感度分析を行う。
  2. 英国薬価戦略のアップデート:新しいNICE閾値(£25k-£35k/QALY)とVPAGリベート(15% Cap)を前提に、英国での上市計画とプライシングを見直す。
  3. サプライチェーンのオプション検討:完全な工場移転ではなく、英国のパートナー企業(CDMO等)を活用した「製造の一部英国化」による原産地規則(Rules of Origin)クリアの可能性を探る。

おわりに

今回の合意は、医薬品ビジネスにおいて**「貿易政策」と「薬価政策」が不可分になった**ことを象徴しています。英国は「高い薬価(=イノベーションへの対価)」を受け入れることで、「産業の安全(=対米アクセス)」を買いました。

今後、日米間や日欧間でも同様の「管理貿易的アプローチ」が議論される可能性があります。ヘルスケア産業の担当者は、薬事規制だけでなく、通商政策の動向を注視する必要があります。


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医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか


医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか

医薬品産業は、世界的に見れば「関税優遇」を受けてきた数少ない分野です。geneva-network
それでもいま、米国発の関税再編や新興国の保護政策によって、グローバル製薬ビジネスの前提が静かに変わりつつあります。unctad+1

世界の医薬品関税の現在地

WTO データを基にした推計では、医薬品に対する世界の平均 MFN 適用税率は約 2.1%に過ぎない一方、各国が WTO に約束している上限(約束税率)の平均は約 22%とされています。geneva-network
さらに、米国・EU・日本など主要な先進国は、ウルグアイ・ラウンドで合意した「医薬品ゼロ・フォー・ゼロ・イニシアティブ」に参加し、多くの医薬品およびその化学中間体の関税を撤廃してきました。geneva-network

結果として、

  • 先進国市場:完成医薬品・主要中間体は関税 0% が標準
  • 世界平均:実際に課されている関税は 2% 前後
  • ただし法的には 20%超まで引き上げ可能な余地が残る

という構図になっています。geneva-network
この「適用税率は低いが、約束税率との乖離が大きい」状態が、今後の地政学的緊張や財政悪化の局面で、医薬品にも関税カードが切られる余地を生んでいます。geneva-network

コロナ後の潮目:一時免税から選択的ゼロ関税へ

COVID‑19 パンデミック期には、多くの国がワクチンや検査キット等に対する関税を一時的に引き下げ、医療物資の安定供給を優先しました。geneva-network
その後、非常事態を脱した各国の措置は、恒久的ゼロ関税化・期間限定の優遇措置・従来税率への回帰といった複数パターンに分かれつつあります。geneva-network

企業側から見ると、「コロナ対応で一度 0% まで下がった関税」が、今後も維持されるのか・いつ元に戻るのかが国ごとに異なっており、長期の価格・供給契約を組む際の前提条件を揺らがせる要因となっています。geneva-network

米国発ショック:高関税時代の中で医薬品は「別枠」

関税全体は急上昇、その中で医薬品は供給安全保障の対象に

2025 年、米国は「貿易赤字是正」を掲げ、追加 10% 関税と国別の上乗せ措置を組み合わせた新たな関税パッケージを導入し、途上国を含む多くの国に対して平均関税が 2.8% から 25%超に達し得る新制度を運用し始めました。unctad
この「高関税時代」のなかで、医薬品は、対外的には関税カードの対象でありながら、国内的には不足リスクを避けるべき戦略物資という二重の位置づけになっています。dcatvci+1

米国のジェネリック医薬品は、完成品と原薬の両方でインドおよび中国への依存度が高く、両国からの供給が米国のジェネリック薬全体の 7〜8 割を占めるとする分析もあります。uscc+2
医薬品に高関税を課せば、既に懸念されている医薬品不足をさらに悪化させるとの警鐘も上がっており、結果として医薬品は他産業よりも慎重な扱いを受けています。ft+1

代表的な二国間・地域協定

  • 米英:ゼロ関税と新薬支出 25%増
    米国と英国は、英国産の医薬品・原薬・医療機器に対する関税を少なくとも 3 年間 0% とする一方で、英国側が新しい治療への公的支出(価格閾値を含む)を約 25% 引き上げることで合意したと報じられています。bbc+3
    この合意は、英国の輸出品を米国の高率関税から保護する代わりに、英国の薬価・支出側が調整される「ゼロ関税と薬価政策のパッケージ」として位置づけられます。apnews+1
  • 米 EU:ジェネリックは極めて低い関税へ
    2025 年 8 月の米 EU 共同声明および通商当局の説明では、ジェネリック医薬品やその原料・前駆体に対する米国関税を、ゼロまたはゼロに近い水準で維持・調整する方針が示されています。dcatvci
    同時に、多くの EU 向け製品については 15% 程度の関税上限が設定される一方、医薬品分野はより低い税率枠が別立てされており、「高関税の中での低関税枠」として扱われています。unctad+1
  • 韓国:ジェネリックはゼロ、バイオシミラーはグレー
    米韓間の交渉では、韓国製医薬品に対して MFN ベースで 15% の上限を確認しつつ、ジェネリック(コピー薬)についてはゼロ関税を維持することが合意され、懸念されていた大幅な関税引き上げが回避されたと報じられています。biz.chosun+1
    一方で、バイオシミラーなどバイオ医薬品のコピー薬については扱いが明示されておらず、今後の通商交渉での論点として残されています。chosun+1

新興国市場:医薬品は依然「5〜10%関税ビジネス」

インド:対米輸出はほぼ無税、国内では 5〜10% 課税

米国から見ると、2025 年時点でインド産医薬品に対する平均関税は約 0.01% とされ、主要輸入品目の中でも最も低いグループに属しています。india-briefing
一方、インドは米国産医薬品に対して 5〜10% 程度の関税を課しているとの指摘があり、インドの全品目ベース MFN 平均適用税率は 2023 年時点で 17% と主要国の中でも高い水準です。euagenda+1

2025 年には、米国がインド製品全般に対して 50% までの「報復関税」を適用し得る枠組みを導入しましたが、医薬品・一部セクターは対象外とされ、医薬品輸出に対する直接の打撃は限定的と報じられています。newindianexpress+3
ビジネス的には、「インド → 米国」は関税よりも数量規制・品質規制リスクが支配的であり、「米国 → インド」は 5〜10% の関税を価格にどう転嫁するかが収益に大きく影響します。ddnews+1

ブラジルなど:非農産品平均 9% クラス

ブラジルの MFN 適用税率を見ると、非農産品の単純平均は約 9% であり、その中に医薬品も含まれます。papers.ssrn+1
多くのラテンアメリカ・アジア新興国でも、医薬品は 5〜10% クラスの関税収入源かつ国内産業保護の対象として位置付けられており、完成品輸入か原薬輸入+現地製剤かといった事業モデルの選択が競争力を左右します。euagenda+1

実務インプリケーション:4つの論点

① ジェネリック・バイオ・原薬でリスクが異なる

  • ジェネリック
    米国・EU・英国・韓国など主要市場では、ジェネリック医薬品について「ゼロまたはゼロに近い関税」を維持する方向性が共有されつつあります。biz.chosun+3
    その代わりに、薬価引き上げや新薬への公的支出増、投資・雇用コミットメントなど、非関税面での条件がセットになるケースが増えています。theguardian+2
  • バイオ医薬品・バイオシミラー
    米韓のように、ジェネリックだけゼロ関税が明記され、バイオシミラーの扱いが意図的に曖昧にされている例も出てきており、「化学合成薬とバイオ医薬品で関税を差別化する」可能性があります。chosun+1
  • 原薬・中間体
    先進国間では、ゼロ・フォー・ゼロに含まれる原薬・中間体も多い一方で、新興国では原薬・中間体に一定の関税を残し、将来的な引き上げ余地を確保しているケースもあります。india-briefing+2
    API 供給拠点の偏在リスクと合わせて、調達先の国別関税・約束税率を長期的にモニタリングする必要があります。euagenda+1

② 「ゼロ関税」の裏の取引条件を見る

米英・米 EU の事例が示すように、ゼロ関税はもはや無条件の「善」ではなく、薬価・公的支出・投資・雇用などのコミットメントとパッケージで交渉されます。apnews+2
自社が享受する関税メリットと、その見返りとして相手国が負担する薬価・財政・投資条件をセットで読み解き、自社ビジネスモデルにとって中長期的にプラスかどうかを評価する視点が不可欠です。theguardian+2

③ 新興国の 5〜10% 関税を前提条件として設計する

インド・ブラジルなどの新興国では、医薬品に対する 5〜10% 前後の関税が当面続くとみなす方が現実的です。ddnews+2
そのうえで、原薬輸入+現地製剤、完成品輸入+現地販売、ライセンスアウトなど、関税・税制・規制をトータルで見た最適な組み合わせを国ごとに設計することが求められます。india-briefing+1

④ 関税だけでなく「約束税率」と政治リスクを監視する

現在の平均適用税率が 2.1% と低くても、約束税率は平均 22% まで余地があるため、政策変更次第で医薬品に対する関税が引き上げられる潜在リスクは残ります。geneva-network
特に、米国を中心とした報復関税や国別追加関税が他産業で拡大するなか、「医薬品だけゼロ」という状態が政治的に批判されれば、医薬品分野にも選択的な関税引き上げが波及する可能性があり、今後も重要なリスクファクターとなり得ます。dcatvci+1


以上を踏まえると、医薬品関税は「低いから安心」ではなく、「低いからこそ政治・外交・薬価政策と連動して変動し得る領域」であり、サプライチェーン設計や価格戦略において継続的なモニタリングが不可欠と言えます。unctad+2

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