AANZFTA改訂をビジネスで使い切るネガティブリスト導入と原産地規則アップデートの実務ポイント

第1章 AANZFTAアップグレードの全体像

AANZFTA第2議定書(Upgrade)は、2023年8月に署名され、2025年4月21日に効力を発生しました。cil.nus
もっとも、「全締約国一斉」ではなく、批准を終えた国同士の取引から順次新ルールが適用されるため、旧ルールとの二重運用期間がしばらく続きます。dfat+1

現時点で、豪州、ニュージーランド、ブルネイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、ベトナムなどでアップグレード発効済みと整理されており、タイなどは指定日から順次加わる形です。businesschamberqld+1
さらに、累積等の一部規定については、国ごとに適用除外や遅行適用が通知されているため、「国名だけ」で判断せず、実際の取引相手同士で第二議定書が発効しているか、関連条文がフル適用かどうかまで確認する必要があります。customs+1

日本はAANZFTAの当事国ではありませんが、ASEAN・豪州・NZに拠点を持ち、現地法人から域内輸出・サービス提供・投資を行う日系企業にとって、今回のアップグレードはコストとリスクに直結します。mfat+1
本社側の投資判断やサプライチェーン設計でも、「どの組み合わせに新ルールが乗るか」を押さえているかどうかで、意思決定の質に差が出ます。mfat

第2章 ネガティブリスト導入をどうビジネスで使うか

1 ネガティブリスト化の中身

サービス貿易の約束方法には、大きくポジティブリストとネガティブリストの二つがあります。oia.pmc+1

  • ポジティブリスト方式
    開放する分野だけを列挙するため、「書いていない分野」は読み替え・行政解釈に依存しやすく、外資から見ると不透明さが残りがちです。regulation
  • ネガティブリスト方式
    原則として全分野を開放したうえで、例外的に残す制限を「留保」としてリスト化する方式で、どの規制が残るかを一覧で把握しやすくなります。aph+1

アップグレードAANZFTAでは、サービス分野の市場アクセスについてネガティブリスト方式を導入し、従来ポジティブリストだった当事国はネガティブリストへ移行することが義務付けられています。oia.pmc+1
投資分野についても、全ての当事国がネガティブリストでコミットメントをスケジュールする形に整理され、方式の統一と透明性の向上が意図されています。oia.pmc+1

さらに、アップグレード協定には、将来の一方的な自由化を一定範囲で固定化するラチェットメカニズムや、MFN条項の強化・整合など、サービス・投資の制度アーキテクチャを近年のメガFTA水準に近づける要素が組み込まれています。mfat+1

2 ビジネス側から見たネガティブリストの価値

ネガティブリストの最大の価値は、「どこまで自由化されるか」よりも、「どこに制限が残るか」が具体的に見えることです。aph+1
進出形態や案件ごとの採算検証で、次のような問いに対して、条文・留保ベースで答えを出せるようになります。

  • 業種・サブセクターごとに、外資規制・出資比率制限・合弁義務が残るかどうか
  • 支店設置か現地法人か、少数持分か完全子会社かなど、参入形態ごとの規制の違い
  • 役員・幹部の国籍・居住要件、プロフェッショナル資格要件といった人材面のハードル
  • ライセンス・認可・登録などの事前規制がどの程度残っているか

ASEANは同じASEANといっても、各国で規制の癖・行政運用が大きく異なります。aanzfta.asean+1
ネガティブリストは、現調チームや法務だけでなく、事業部・投資審査会議が「国・業種・形態」の組み合わせごとにリスクを瞬時に比較できるようにすることで、新規案件のGo/No-go判断をスピードアップさせます。aph+1

3 ラチェット条項の現実的な使い方

アップグレードでは、選択されたセクターについて、将来の一方的な規制緩和を固定化するラチェットメカニズムが導入されました。oia.pmc+1
これは、ある国がサービス・投資規制を自主的に緩めた場合、原則としてその緩和水準を協定コミットメントとしてロックインし、後戻りしにくくする枠組みです。oia.pmc

ただし、ラチェットは万能ではありません。対象分野・対象措置は留保のつくり方に左右され、あらゆる規制緩和が自動的にロックインされるわけではありません。mfat
経営サイドにありがちな「ネガティブリスト+ラチェット=全面的な自由化加速」という期待は危険で、実務としては次が現実的な対応になります。

  • 留保表を読み、ラチェットがかかる領域と、なお裁量的規制余地が残る領域を切り分ける
  • 各国で実際に規制が変わった際に、即座にビジネスモデル・価格設定・出資構造へ反映できるインテリジェンス体制を用意する
  • M&AやJV、長期サービス契約では、「規制変更時の価格調整・再協議・解除」条項を入れておき、ラチェットを見越したオプションを契約レベルで確保する

これにより、規制緩和が起きたタイミングで、競合より早く参入モデルや出資比率を引き上げることができ、ラチェットを「攻めの要素」として活用できます。aph+1

第3章 原産地規則アップデートの核心

1 アップグレード原産地規則の全体像

原産地規則は、AANZFTAの関税メリットを取るかどうかを決める「収益スイッチ」であり、アップグレードではこのスイッチの構造自体がアップデートされています。dfat+1
ニュージーランドのナショナルインタレスト分析などによれば、原産地規則章には新規条文・改正条文が多数追加され、品目別原産地規則(PSR)は数百件規模で見直されています。mfat

ABFのカスタムズノーティスによると、2024年3月1日からAANZFTAのPSRはHS2022の品目分類に基づく新バージョンが導入されており、これはFTA合同委員会が2023年5月にHS2022のPSR付属書を承認したことを受けたものです。abf
同時に、累積、直送・経由規定、原産地証明の方法、輸入後の還付請求手続きなど、運用面の改善もパッケージで導入されています。miti+1

実務的に効くポイントは、おおよそ次の五点に整理できます。

  • 完全累積の導入・拡張により、域内各国を組み合わせたサプライチェーン設計がしやすくなること
  • 直送・経由に関する規定・証憑要件が明確化され、ハブ経由輸送の不確実性が減ること
  • 証明書ベース一択から、自己証明・電子原産地証明など複数の証明方法が併存すること
  • 輸入後の原産確認に基づく還付請求が可能になり、ポストクリアランスでメリットを取り返しやすくなること
  • PSRがHS2022に整合し、HS変更に伴う「分類のズレ」やPSR適用ミスを減らす設計になっていること

2 完全累積が変えるサプライチェーン設計

累積とは、協定域内で行われた加工や使用された原材料を「一つの原産性判断」の中に足し込める仕組みで、原産品として扱える範囲を広げる道具です。miti+1
AANZFTAアップグレードでは、域内各国の材料・加工・付加価値を広く累積できる完全累積に近い形が導入され、どの累積条項を適用するかは当事国ごとの参加状況・留保によって左右されます。mfat+1

例えば、部材をマレーシアで調達し、ベトナムで主要加工を行い、シンガポール拠点を経由して豪州へ輸出するような分業型サプライチェーンでは、累積を正しく使えば原産地判定が格段に取りやすくなります。miti
一方で、どの国間で第二議定書が発効しているか、累積条項がその組み合わせに適用されるかを誤解すると、「原産性を満たしているつもりで証明書を出したが、実際には要件未達だった」という事故が起き得ます。mfat+1

ここは、社内で次のような整備をしておくと事故率が大きく下がります。

  • 主要取引国の組み合わせごとに、「第二議定書発効状況」と「累積条項の適用可否」を図示したマトリクスを作る
  • 累積前提で組んだBOM・原価計算に、国別の参加状況が変わった場合のアラートを組み込む
  • 調達・SCM・通関チームで同じ累積の前提を共有し、バラバラの解釈で証明・申告をしないようにする

3 直送要件の実務的なクリアの仕方

原産地規則でトラブルになりやすいのが、第三国経由時の「直送要件」の解釈です。mfat
アップグレードでは、直送・経由・積み替えに関する規定・証憑要件が明確化され、保税倉庫での限定的な作業など、許容される範囲を明記する方向で整理されています。abf+1

実務では、次のような対策が効果的です。

  • よく使う物流ルートごとに、直送要件を満たすために必要な書類(B/L、倉庫証明、インボイス、在庫管理記録など)を標準セットとして定義しておく
  • フォワーダー・3PLとの契約・SOPに、「原産性維持に必要な書類・情報の取得」を明示的に組み込み、単なる輸送委託で終わらせない
  • 保税区域で行う可能性のある作業(検品、ラベリング、再梱包など)を棚卸しして、どこまでが「許容される加工」かを規定と突き合わせ、作業指示書に落とし込む

こうしておくと、ハブ港変更や緊急の振替輸送が発生しても、原産性が崩れない範囲で運用でき、後から「直送要件を満たしていない」と否認されるリスクを抑えられます。abf+1

4 証明方法のアップデートとコンプライアンス

豪州政府の案内によれば、アップグレード後も従来型の原産地証明書は維持されつつ、自社による原産地自己申告や電子的な原産地証明の利用余地が拡大します。abf+1
また、第三者インボイスが用いられる場合の取り扱いについても、「合理的な範囲の情報提供」で足りるとするなど、書類作成の摩擦を下げる方向性が示されています。dfat+1

自己証明は、発行コストやリードタイムを削減できる一方、誤りがあった際の責任が企業側に直接跳ね返りやすいという特徴があります。mfat
したがって、営業現場が「楽だから全部自己証明に切り替える」と走るのではなく、次のような線引きが現実的です。

  • 自己証明を使う品目と、引き続き第三者発行の証明書を使う品目を分ける
  • 自己証明を行う品目については、BOM・原価計算・原産性ロジックを内部監査可能な形で固定し、改ざん防止・変更管理のルールを整える
  • 輸入側で税関事後調査が入った場合を見据え、原産性判断の根拠書類を一定期間保管するレコードキーピングルールを更新する

これにより、「関税メリットは取れたが、後から否認されて追徴とペナルティ」という最悪のパターンを避けながら、証明コストの削減を利益に変えられます。abf+1

5 PSRとHS2022:分類ミスをどう防ぐか

ABFの通達によれば、AANZFTAのPSRは2024年3月1日以降、HS2022に基づくコードに再構成されており、一定期間は旧HS2017表記の原産地証明も受け入れる経過措置が設けられています。ftalliance+1
ASEAN側の告知でも、AANZFTAのPSRをHS2022で検索できるオンラインツールが提供されており、実務者はHS2022コードから直接PSRを引けるようになっています。aanzfta.asean+1

落とし穴は、HSの移行が「単なるコードの言い換え」ではない点です。abf

  • サブヘディングの分割・統合により、適用されるPSRそのものが変わる
  • 旧HSベースの証明書と、新HSベースの輸入申告のコードが整合しない
  • 社内システム・BOMが旧HS前提のまま残り、原産性判定ロジックが実態とズレる

これを避けるためには、「全品目一斉」ではなく、収益インパクトの大きい順に重点的に対応するのが現実的です。

  • 主力輸出入品目から順にHS2022への再分類を行い、それに応じてPSRを引き直す
  • コード変更があった品目は、原産性判定を再実行し、必要なら原材料構成や生産プロセスを見直す
  • サプライヤーに対して、HS表記の統一と、HS2022ベースの原産地証明・自己申告フォーマットへの移行を要請する

こうした「上から順に潰す」やり方であれば、リソースを極端に増やさずに通関トラブルを抑えつつ、PSRの更新を利益に結び付けられます。aanzfta.asean+1

第4章 経営と現場が今すぐやるべきチェック

ここからは、「明日から何をするか」という観点で、サービス・投資とモノ(原産地・通関)に分けて整理します。

A サービス・投資(ネガティブリスト側)

  • 自社の提供サービスを棚卸しし、まず売上比重の高い分野について、相手国の留保表を読みにいく
  • 進出形態(支店・現法・JV・フランチャイズ・委託)ごとに、出資規制・人の移動規制・ライセンス要件を分解して把握する
  • 規制変更があった場合、ラチェットが効く領域かどうかを法務・経営企画が判定できる体制を整え、事業部に通知するフローを決める
  • 長期契約には、規制変更時の再協議・価格調整・解除に関する条項を標準化し、投資先国ごとのリスクプロファイルに応じて微修正する

ネガティブリストは、「読めば武器、読まなければ何も起きない」ツールです。aanzfta.asean+1
結局のところ、留保表を読める体制と、読んだ内容を案件に落とし込む運用があるかどうかが、競争力の差になります。mfat

B モノ・サプライチェーン(原産地側)

  • 主力品目からHS2022整合を進め、PSRを再確認する(ABFノーティス・各国通達・PSR Finderをセットで参照)aanzfta.asean+1
  • 累積の適用関係を、主要取引国の組み合わせごとに図示し、営業・SCM・通関が共通の前提で動けるようにするmiti
  • 物流ルートごとに、直送要件を満たす証憑セット(B/L、倉庫証明、在庫記録など)を標準化し、フォワーダーとの契約に組み込むabf
  • 自己証明を導入する場合、BOM・原価計算・証憑保管ルールを先に整え、対象品目を限定しながら段階的に広げるmfat
  • 未批准国が絡む取引については、旧AANZFTAルールまたは他FTA(RCEPなど)運用が残る前提で手順を二重化し、「どの契約にどのルールを使うか」を明示するdfat+1

特に最後の「二重運用」は、2025年以降しばらく現場負荷の中心になり得ます。customs+1
国内システムや業務マニュアルで「AANZFTA=一つのルール」という前提が残ったままだと、誤適用や見落としが起きやすいため、「相手国別に旧・新ルールを自動判別するフラグ」を持たせるなど、設計レベルの見直しが有効です。

第5章 よくある誤解と失敗パターン

  • 誤解1 発効したから全締約国で新ルールが一斉適用される
    実際には、批准を完了した国同士の取引で順次適用され、未批准国が絡む取引では旧ルールが残ります。customs+1
  • 誤解2 ネガティブリスト化=即座に全分野が自由化
    ネガティブリストは制限を見える化する仕組みであり、自由化の範囲は留保次第です。ラチェットも対象分野に限られ、万能ではありません。oia.pmc+1
  • 誤解3 HS更新はコード表示を変えるだけ
    実際にはPSRの内容や適用関係、社内システムの判定ロジックまで波及し、経過措置期間中は旧HSと新HSが混在するため、整合設計をしないと通関トラブルの温床になります。miti+1

まとめと実務メッセージ

AANZFTAアップグレードは、サービス・投資ではネガティブリストとラチェットにより透明性と将来の自由化期待を高め、モノでは累積・直送・証明方法・PSR更新によって現代的なサプライチェーンに合わせた枠組みに近づけるものです。oia.pmc+1
ただし、企業にとっての実益は自動的には降ってこず、「どの取引に新ルールが乗るのか」「留保表とPSR・HSをどう読み替えるか」を社内で設計し直すことが必要です。mfat+1

やるべきことを一言でまとめると、次の三つです。

  • どの国同士の取引に第二議定書が適用されるか、社内で一覧化する
  • サービス・投資では、主要ビジネス分野について留保表を読み、ラチェットを含めた規制プロファイルを整理する
  • モノでは、HS2022整合・PSR再判定・累積と直送要件・証明方法を前提に、原産性判定ロジックと証憑運用を再設計する

これができれば、AANZFTAは「知っている条文」から「利益とリスクをコントロールする仕組み」に変わり、ASEAN・豪州・NZをまたぐビジネスにおいて、他社より一歩先のポジションを取ることが可能になります。abf+1

本稿は一般的な情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的な適用にあたっては、取引国の最新運用や税関実務、社内の証憑状況を踏まえ、必要に応じて現地専門家への確認を行うことを推奨します。mfat+1

  1. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement
  2. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement-aanzfta/upgrading-aanzfta
  3. https://www.abf.gov.au/help-and-support-subsite/CustomsNotices/2024-07.pdf
  4. https://cil.nus.edu.sg/databasecil/2023-second-protocol-to-amend-the-agreement-establishing-the-asean-australia-new-zealand-free-trade-area/
  5. https://www.dfat.gov.au/news/aanzfta-upgrade-enters-force
  6. https://businesschamberqld.com.au/article/new-rules-for-exporters-brunei-lao-pdr-malaysia-singapore-australia-and-new-zealand/
  7. https://www.customs.govt.nz/customs-information-and-legislation/legislation/international-agreements/free-trade-agreements/asean-australia-new-zealand-free-trade-area-agreement-aanzfta
  8. https://www.mfat.govt.nz/assets/Trade-agreements/AANZFTA/AANZFTA-upgrade-National-Interest-Analysis.pdf
  9. https://oia.pmc.gov.au/sites/default/files/posts/2023/08/AANZFTA%20Impact%20Analysis.docx
  10. https://www.regulation.govt.nz/assets/RIS-Documents/ris-mfat-asean-mar09.pdf
  11. https://www.aph.gov.au/-/media/02_Parliamentary_Business/24_Committees/244_Joint_Committees/JSCT/2023/Second_Protocol_ASEAN_NZ_FTA/1_AANZFTANational_Interest_Analysis.pdf
  12. https://aanzfta.asean.org/aanzfta-sector-portals/trade-in-services-sector
  13. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/official-documents/official-documents
  14. https://www.miti.gov.my/miti/resources/Preferential%20Certificate%20of%20Origin/Announcement/Announcement_-_AANZFTA_PSR_in_HS_2022.pdf
  15. https://www.abf.gov.au/importing-exporting-and-manufacturing/fta/free-trade-agreements/asean
  16. http://www.ftalliance.com.au/newsdetails/31261
  17. https://aanzfta.asean.org/product-specific-rules-finder/
  18. https://www.aseanbriefing.com/news/what-the-aanzfta-second-protocol-means-for-asean-trade/
  19. https://vntr.moit.gov.vn/news/viet-nam-thailand-and-the-philippines-to-implement-the-obligations-of-transposing-services-schedules?page=21
  20. https://indonesia.embassy.gov.au/jakt/MR25_022.html

相互関税(追加関税) 最新一覧(2025年12月22日)

作成計画(→この順で実行済み)

  1. 対象の定義:米国の「相互関税(Reciprocal Tariff)」=IEEPA権限に基づく**追加の従価税(追加関税)**として公表されている国別税率(または計算ルール)を一覧化。
  2. 一次情報の確認:国別税率の“最新版”は、原則としてホワイトハウスの大統領令(Annex)で確認。国によって後日の合意・通知で上書きされるため、中国/日本/韓国/スイス/リヒテンシュタイン/カナダ/メキシコ/EUは個別の最新文書も確認。
  3. 前日差分チェック:直近(過去数日)のWhite House Presidential Actions と Federal Register の関係文書を確認し、前日(2025-12-21)→本日(2025-12-22)で新たな改定が出ていない前提で差分欄を作成。
  4. 指定順で表に整形:国名/関税率/出所/備考(前日差異)で出力。

調査結果の要点(確認)

  • 多くの国の国別税率は **2025-07-31 の大統領令(Annex I)**に基づく(発効は同令の規定により7日後扱い)。 (The White House)
  • ただし、中国は(「上乗せ」分を停止して)10%の追加関税にする扱いが継続(~2026-11-10までの停止期間の言及あり)。 (The White House)
  • 日本は「品目のMFN税率(Column 1)」と合算して合計15%になるよう追加関税を調整(15%以上の品目は追加0%)。 (The White House)
  • 韓国も同様に、(MFNまたはKORUS税率)と合算で15%となる仕組み(15%以上は追加0%)。 (Federal Register)
  • スイス/リヒテンシュタインも、Column 1 と合算で15%となる仕組み(15%以上は追加0%)+一部品目は相互関税の適用除外あり。 (Federal Register)
  • カナダ/メキシコは、既存のフェンタニル/移民関連IEEPA関税が優先され、この相互関税の枠組みでは実質“適用外”として扱われる(USMCA適合は0%等)。 (The White House)
  • 前日(2025-12-21)からの差異:本日(2025-12-22)時点で、上記の国別相互関税ロジックを変更する新規文書は確認できず、**全行「前日差異なし」**とした(直近の更新はスイス/リヒテンシュタイン関連の2025-12-18通知など)。 (Federal Register)

相互関税(追加関税) 最新一覧(指定順)

注:ここでの「関税率」は、原則として “追加の従価税率”。EU/日本/韓国/スイス/リヒテンシュタインは**品目のHTS税率(Column 1)との合算で15%**になるよう追加税率が決まるため、国単位で単一%になりません。 (The White House)

国名関税率出所備考
Algeria30%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし(最終反映: 2025-07-31) (The White House)
Angola15%同上前日差異なし (The White House)
Bangladesh20%同上前日差異なし (The White House)
Bosnia & Herzegovina30%同上前日差異なし (The White House)
Botswana15%同上前日差異なし (The White House)
Brazil10%同上前日差異なし(※別枠の対ブラジル追加関税が存在し得る点は要注意) (The White House)
Brunei25%同上前日差異なし (The White House)
Cambodia19%同上前日差異なし (The White House)
Cameroon15%同上前日差異なし (The White House)
Canada*(相互関税は適用外扱い)WH Fact Sheet(2025-04-02)既存IEEPA(フェンタニル/移民)優先:USMCA適合0%、非適合25%等。前日差異なし (The White House)
Chad15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
China*10%(上乗せ停止中の扱い)WH EO(2025-11-04)「高率の相互関税を停止し、10%追加関税に」+停止は~2026-11-10の言及。前日差異なし(最終反映: 2025-11-04) (The White House)
Côte d’Ivoire15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
DR Congo15%同上前日差異なし (The White House)
EU品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)WH EO 14326(2025-07-31)合計15%になるよう調整。前日差異なし (The White House)
Falkland Islands10%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Fiji15%同上前日差異なし (The White House)
Guyana15%同上前日差異なし (The White House)
India25%同上前日差異なし (The White House)
Indonesia*19%同上前日差異なし (The White House)
Iraq35%同上前日差異なし (The White House)
Israel15%同上前日差異なし (The White House)
Japan*品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)WH EO(2025-09-04)合計15%になるよう調整。前日差異なし(最終反映: 2025-09-04) (The White House)
Jordan15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Kazakhstan25%同上前日差異なし (The White House)
Laos40%同上前日差異なし (The White House)
Lesotho15%同上前日差異なし (The White House)
Libya30%同上前日差異なし (The White House)
Liechtenstein品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-18)スイスと同枠で「合計15%」ロジック+一部品目除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-18) (Federal Register)
Madagascar15%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Malawi15%同上前日差異なし (The White House)
Malaysia19%同上前日差異なし (The White House)
Mauritius15%同上前日差異なし (The White House)
Mexico*(相互関税は適用外扱い)WH Fact Sheet(2025-04-02)既存IEEPA(フェンタニル/移民)優先:USMCA適合0%、非適合25%等。前日差異なし (The White House)
Moldova25%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Mozambique15%同上前日差異なし (The White House)
Myanmar40%同上前日差異なし (The White House)
Namibia15%同上前日差異なし (The White House)
Nauru15%同上前日差異なし (The White House)
Nicaragua18%同上前日差異なし (The White House)
Nigeria15%同上前日差異なし (The White House)
North Macedonia15%同上前日差異なし (The White House)
Norway15%同上前日差異なし (The White House)
Pakistan19%同上前日差異なし (The White House)
Philippines19%同上前日差異なし (The White House)
Serbia35%同上前日差異なし (The White House)
South Africa30%同上前日差異なし (The White House)
South Korea品目別(MFNまたはKORUS<15%→追加で「15%-税率」、≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-04)合計15%になるよう調整+一部(民間航空機等)除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-04) (Federal Register)
Sri Lanka20%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Switzerland品目別(Column 1<15%→追加で「15%-Column1」、Column 1≥15%→追加0%)FR Notice(2025-12-18)合計15%になるよう調整+一部品目除外。前日差異なし(最終反映: 2025-12-18) (Federal Register)
Syria41%WH EO 14326(2025-07-31)Annex I前日差異なし (The White House)
Taiwan20%同上前日差異なし (The White House)
Thailand19%同上前日差異なし (The White House)
Tunisia25%同上前日差異なし (The White House)
Vanuatu15%同上前日差異なし (The White House)
Venezuela15%同上前日差異なし (The White House)
Vietnam20%同上前日差異なし (The White House)
Zambia15%同上前日差異なし (The White House)
Zimbabwe15%同上前日差異なし (The White House)

補足(運用上の注意)

  • 多くの国で表示している%は、HTS上の通常関税(MFN等)に“追加”される相互関税です。
  • さらに、品目によっては(鉄鋼・アルミ、自動車・部品、銅、医薬品、半導体、木材等)相互関税の対象外/別制度の関税対象になり得ます(例示はホワイトハウス資料に列挙)。 (The White House)

米国がニカラグア製品に段階的な301条関税を決定2026年は実質猶予、2027年以降にコストが上がる構図


米国がニカラグア製品に段階的301条関税を決定

米国はニカラグアに対する301条調査を受け、CAFTA-DRの原産要件を満たさないニカラグア産品に段階的な追加関税を導入することを決定しました。ustr+1
税率は2026年に0%で開始し、2027年に10%、2028年に15%となる設計で、既存の相互関税18%と重なることで総負担が大きくなり得ます。trade+1


1. 何が決まったのか

USTRの発表および官報に示された決定内容の骨子は次のとおりです。govinfo+1

  • 2026年1月1日から新たな301条関税を導入するが、税率は0%で開始する
  • 2027年1月1日に301条関税を10%に引き上げる
  • 2028年1月1日に301条関税を15%に引き上げる
  • いずれも、当該日以降に「消費のために輸入される、又は保税蔵置場から引き取られる」貨物に適用されるとされるgeodis+1
  • 対象は、ドミニカ共和国・中米・米国自由貿易協定(CAFTA-DR)の原産地要件を満たさないニカラグア産品(CAFTA-DR非原産品)とされるustr+1
  • 追加関税は他の関税措置(いわゆる相互関税18%など)が存在する場合、それらに上乗せされ得るtradecomplianceresourcehub+1
  • ニカラグア側の行動に応じて、税率水準やスケジュールの修正可能性をUSTRが示しており、将来の上振れリスクを内包しているgovinfo+1

ここで重要なのは、この301条関税が「ニカラグア産品一律」ではなく、「CAFTA-DR上の“原産品”ではないもの」に絞られている点です。govinfo
同じニカラグア生産品でも、CAFTA-DR原産として認定されれば301条追加分は回避し得る一方、非原産と判断されれば301条関税が課される二分構造になります。greenworldwide+1

参考として、税率の段階スケジュールは以下のとおりです。geodis+1

適用開始日301条追加関税率対象
2026年1月1日0%CAFTA-DR非原産のニカラグア産品govinfo
2027年1月1日10%同上govinfo
2028年1月1日15%同上govinfo

制度上は2026年から始まるものの、0%でのスタートとなるため、実務的には2026年が「助走期間」、2027年以降がコストインパクトの本番という構図になります。ustr+1


2. 301条の枠組みと今回の狙い

通商法301条は、米国の通商に不当な負担を与える「不当・不合理・差別的」な外国政府の措置に対し、追加関税などの対抗措置をとり得る枠組みです。congress+1
今回USTRは、ニカラグアの労働権・人権・法の支配に関する政策・慣行が不合理であり、米国の通商を負担・制約していると判断し、301条関税を発動したと説明しています。ustr+1

実務的には、通商摩擦の対象が「関税水準」だけでなく、労働・人権・ガバナンスなどの非関税領域へ広がっていることを示す事案とも評価できます。ustr+1
調達・生産委託の現場にとっては、価格だけでなく、人権・コンプライアンス面の評価がサプライヤー選定に直結する局面が一段と強まったと言えます。ustr+1


3. 調査開始から最終決定までの時系列

今回の追加関税は、短期間で決まったものではなく、以下のようなプロセスを経ています。ustr+1

  • 2024年12月10日:USTRがニカラグアに関する301条調査を開始ustr+1
  • 2025年10月20日:USTRが、最大100%の追加関税やCAFTA-DR優遇の停止等を含む対抗措置案を公表し、検討オプションとして提示reuters+1
  • 2025年11月19日まで:パブリックコメントを募集し、2000件超の意見が寄せられるgovinfo
  • 2025年12月10日:USTRが最終報告・アクションを公表し、「CAFTA-DR非原産品を対象とする段階的関税」を採用する方針を明示thompsonhinesmartrade+1
  • 2025年12月12日:官報に「アクション通知」が掲載され、影響を限定しつつ圧力を高める設計として「CAFTA-DR非原産に限定」「2年の段階導入(0%→10%→15%)」の趣旨が説明されるgovinfo+1

官報では、コメントで賛否が拮抗したこと、複数業種から除外要望が出たことに触れたうえで、「CAFTA-DR非原産に限定すること」「2年かけて税率を引き上げること」により、混乱を抑えつつ企業にサプライチェーン移管の時間を与える判断をしたとされています。greenworldwide+1


4. 米国・ニカラグアの貿易規模と影響業種

USTRの国別ページによると、2024年の米国の対ニカラグア財輸入は46億ドル、財輸出は27億ドルで、財貿易総額は約74億ドルとされています。ustr
サービスを含めた米国とニカラグアの総貿易額は87億ドルとされ、米国側の財貿易赤字は19億ドルです。ustr

JETROは、USITC統計に基づき、米国の対ニカラグア輸入の主要品目として、点火用配線、綿製Tシャツ、金地金、葉巻たばこ、綿製セーター・プルオーバー、コーヒーなどを挙げています。jetro
官報では、繊維・アパレル、葉巻、コーヒー、家具、医療機器、牛肉・食肉、カカオ、キャッサバ粉、園芸、米、シーフードなど、多様な産業から除外要請が出ていたことが列挙されており、これらの分野で影響への懸念が強かったことがうかがえます。govinfo

日本企業にとっても、例えば「米国向け製品をニカラグアで組立・縫製し、第三国素材を多く使用しているケース」や「ニカラグア経由調達により原産判定が複雑化しているケース」では、CAFTA-DR原産判定の結果が米国側のコストに直結する構造になります。greenworldwide+1


5. 見落としがちな論点:相互関税18%との二重構造

今回の301条関税は、既存の相互関税などに上乗せされ得ると説明されています。tradecomplianceresourcehub+1
相互関税そのものは、2025年4月2日の大統領令に基づく世界的な「レシプロカル関税」措置の一部であり、その後の7月31日付大統領令で国別税率が修正され、ニカラグアは18%に設定されています。whitehouse+1

米国商務省系のTrade.gov解説でも、2025年4月2日に相互関税が発表され、ニカラグアが18%の相互関税対象国とされ、その水準がCAFTA-DRの無税メリットを事実上打ち消すものだと説明されています。trade
そのうえで、CAFTA-DR非原産品については2027年以降、ここに301条関税10%/15%が上乗せされる可能性があるため、「相互関税+301条関税」という二重構造のコストを前提にした設計が必要になります。trade+1


6. 企業が今すぐ確認すべきポイント

官報は、2年の段階導入により、企業がCAFTA-DR域内の他国へ生産を移転する時間を確保する意図を明記しています。govinfo
2026年の税率0%は「猶予」であり、2027年以降のコスト上昇に備えて、2026年中に以下の点を洗い出すことが肝要です。greenworldwide+1

ニカラグア関連の米国向け取引の棚卸し

  • ニカラグア由来の完成品・部材・半製品のリストアップ
  • 米国側のImporter of Record(輸入者)の特定
  • どの品目がCAFTA-DR原産として運用されているか/できていないかの整理greenworldwide+1

原産判定・証拠書類の整備

  • BOM、工程表、仕入先証明、原産地証明の運用状況の確認
  • グループ会社や委託先任せにせず、監査可能な形で証跡を整理することgreenworldwide+1

今回の301条関税は「CAFTA-DR原産か否か」で課税の有無が分かれるため、原産管理の精度が粗利に直結します。chrobinson+1

価格・契約条項の見直し

  • 2027年・2028年の関税上昇を織り込んだ価格改定条項(関税転嫁・再交渉条項・サーチャージ等)の検討
  • インコタームズと通関コスト負担者の再確認
  • 関税コストがどのPLに落ちるかを契約上明確化することgeodis+1

生産・調達の「逃げ道」の設計

  • CAFTA-DR域内他国への生産移転・拠点分散(官報も企業が移転できる時間を確保する意図に言及)greenworldwide+1
  • 原材料・生産プロセスの見直しによるCAFTA-DR原産要件の充足
  • 物流ルートとして「ニカラグア経由」を続ける妥当性の再評価govinfo+1

政策の上振れリスクを前提としたモニタリング

  • USTRは、ニカラグア側の改善状況に応じて税率やスケジュールの変更を行い得ると明記しており、今後も通知や追加ガイダンスのフォローが必須です。ustr+1

7. ざっくり試算:2027年以降のコスト感

最後に、追加関税のインパクトを把握するための簡易的な計算例です。実際の税額はHS/HTS分類、通常関税率、優遇の有無、評価方法等により変動しますが、「相互関税+301条関税」のオーダーを確認する目的です。trade+1

前提

  • 相互関税:18%(ニカラグアに対して設定されたレシプロカル関税)sullcrom+1
  • 301条関税:2028年に15%(CAFTA-DR非原産品が対象)ustr+1

ケースA:課税価格100(他の税なしと仮定)

  • 相互関税 18% → 18
  • 301条関税 15% → 15
  • 追加関税合計 → 33

この場合、非原産品のまま米国へ輸入すると、2028年時点では「相互関税+301条追加関税だけで課税価格の33%」の上乗せとなり得ます。trade+1
したがって、「CAFTA-DR原産として301条部分を回避できるか」「それでも残る相互関税18%を価格設計で吸収・転嫁できるか」が、調達・販売戦略の最重要ポイントになります。trade+2


8. 2026年は準備年、2027年が分水嶺

  • 米国はニカラグア産品のうち、CAFTA-DR非原産品に対して301条追加関税を段階導入する(2026年0%、2027年10%、2028年15%)。ustr+1
  • この301条関税は、既存の相互関税18%等に上乗せされ得るため、累積負担が大きくなる可能性がある。tradecomplianceresourcehub+1
  • 官報は、「影響を限定しつつ圧力を高める設計」として、対象をCAFTA-DR非原産に限定し、2年の段階導入で企業の移転時間を確保する趣旨を説明している。govinfo
  • 日本企業の実務上の急所は、原産判定・証跡整備・価格/契約設計・代替生産/調達設計・政策モニタリングの5点に集約される。greenworldwide+1

2026年の0%は「助かった」ではなく「準備せよ」というシグナルであり、2027年の10%時点でどこまで原産管理とサプライチェーン再設計を終えられるかが、粗利を守れるかどうかの分水嶺になると考えられます。greenworldwide+1

  1. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-12-12/pdf/2025-22690.pdf
  2. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/december/ustr-section-301-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-relating-labor-rights-human-rights
  3. https://www.trade.gov/country-commercial-guides/nicaragua-import-tariffs
  4. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-trade-representative-announces-new-tariffs-nicaraguan-imports-not
  5. https://www.tradecomplianceresourcehub.com/2025/12/11/trump-2-0-tariff-tracker/
  6. https://www.greenworldwide.com/new-section-301-action-on-nicaragua-establishes-phased-tariffs-for-non-cafta-dr-imports/
  7. https://www.congress.gov/crs_external_products/IF/PDF/IF11346/IF11346.28.pdf
  8. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
  9. https://www.ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
  10. https://www.reuters.com/world/americas/us-proposes-trade-measures-against-nicaragua-over-labor-rights-2025-10-20/
  11. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/october/tariff-increase-cafta-dr-suspension-among-possible-actions-against-nicaragua
  12. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/12/ustr-announces-section-301-tariffs-on-nicaragua/
  13. https://www.govinfo.gov/app/details/FR-2025-12-12/2025-22690
  14. https://ustr.gov/countries-regions/western-hemisphere/nicaragua
  15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/news/pdf/w_c_monthly_report-202511.pdf
  16. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/further-modifying-the-reciprocal-tariff-rates/
  17. https://www.sullcrom.com/SullivanCromwell/_Assets/PDFs/Memos/Tariffs-Tracker-Updated-Modified-Reciprocal-Tariff-Rates.pdf
  18. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
  19. https://passportglobal.com/us-tariff-rates-by-country-2025/
  20. https://www.ey.com/en_vn/technical/tax/tax-and-law-updates/customs-global-trade-alert-april-2025-trump-administration-executive-action-alert-implications-for-vietnam-businesses
  21. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2024/12/tnf-ustr-initiates-section-301-investigation-nicaragua-labor-human-rights.html
  22. https://www.cmtradelaw.com/2024/12/ustr-launches-section-301-investigation-of-nicaraguas-labor-and-human-rights-practices/
  23. https://unctad.org/system/files/official-document/ditcinf2025d3.pdf
  24. https://www.supplychainbrain.com/articles/42986-ustr-announces-15-tariffs-against-nicaragua-over-human-rights-abuses
  25. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
  26. https://www.straitstimes.com/world/USTR-proposes-100-tariffs-on-Nicaraguan-goods-after-finding-labor-abuses
  27. https://www.whitecase.com/insight/ustr-opens-unprecedented-section-301-investigation-nicaraguan-labor-rights-practices
  28. https://www.as-coa.org/articles/tracking-trump-and-latin-america-trade-tariffs-threatened-mexico-over-water-sharing
  29. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/12/2025-22690/notice-of-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-to-labor-rights-human-rights-and
  30. https://www.federalregister.gov/d/2025-22690
  31. https://info.expeditors.com/newsflash/ustr-announces-section-301-action-on-nicaragua
  32. https://www.nnrglobal.com/insight/new-section-301-tariffs-on-products-of-nicaragua/
  33. https://havanatimes.org/news/us-proposes-axing-nicaragua-from-cafta-adding-100-tariffs/
  34. https://nicotineinsider.com/2025/10/21/nicaragua-faces-100-tariffs-after-ustr-report/
  35. https://www.chrobinson.com/it-it/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
  36. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariffs-other-enforcement-actions-possible-against-imports-from-nicaragua
  37. https://marcasur.com/en/noticia/united-states-announces-phased-tariff-measures-on-noncafta-nicaraguan-imports-5059&f=12-2025
  38. https://geodis.com/us-en/us-proposes-trade-sanctions-against-nicaragua-over-labor-and-human-rights-concerns
  39. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases

CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

CBPが公表した「重複関税(Tariff Stacking)の解除」ガイドを深掘り:対象範囲・優先順位・還付実務まで(ビジネス向け)

※本稿は、一次資料(Executive Order 14289/Federal Register告示/CBPのCSMS通達/ジェトロ解説)に基づき、内容の整合・用語統一・読みやすさの観点で複数回見直したうえで、全体を校正しています。regulations.justia+4


1. 「重複関税(スタッキング)」とは何か。何が“解除”されたのか

米国向け輸出・輸入、とくに北米サプライチェーンで問題になっていたのが、「同じ輸入貨物に複数の追加関税が重なって課される(tariff stacking)」という状況です。business.gmu+1

この問題に対し、大統領令「Executive Order 14289(Addressing Certain Tariffs on Imported Articles)」は、特定の追加関税について「どの順番でどれを適用し、どれを排除するか」という**優先順位(single‑duty rule)**を定め、重複(スタッキング)を原則として排除する仕組みを導入しました。federalregister+2

CBP(米国税関・国境警備局)は、この大統領令を実務に落とし込む形でCSMS通達(CSMS #65054270 ほか)を発出し、適用順序と、過去に「重複で支払われた」部分の還付手続きについて具体的なガイダンスを示しています。macmap+2

重要なのは、これは「米国のあらゆる関税を軽くする」ものではなく、「EO 14289が対象として定めた5つの追加関税の重複」を解消する制度だという点です。通常の基本関税やSection 301、AD/CVD、その他の税・手数料は、依然として別枠で課され得ます。internationaltradeinsights+2


2. 対象は「5つの追加関税」:まずここを押さえる

CBPのガイダンス(CSMS #65054270)は、EO 14289の対象となる**5つの大統領措置(presidential actions)**を明示しています。govdelivery+2

  • Section 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  • IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく対カナダ措置(いわゆる「IEEPA Canada」:対カナダの違法薬物・国境治安関連関税)
  • 同じく対メキシコ措置(「IEEPA Mexico」)
  • Section 232 アルミニウム関税(232 Aluminum)
  • Section 232 鉄鋼関税(232 Steel)regulations.justia+2

実務的には、まず自社の米国向け輸入(米国内拠点の調達を含む)が、

  • 自動車・自動車部品に該当するのか
  • 鉄鋼・アルミニウム(およびその派生品)に該当するのか
  • 原産国がカナダ/メキシコで、IEEPA由来の追加関税の対象になり得るのか

を棚卸しするところからスタートします。ghy+2


3. 本題:優先順位(どれが適用され、どれが外れるか)

3‑1. 2025年5月版(CSMS #65054270):EO 14289の基本ルール

Federal Registerの告示とCSMS #65054270では、「同じ貨物が複数の対象関税に“subject to”となる場合、どの順番で判定し、どれを残すか」が示されています。internationaltradeinsights+2

要点を実務向けに整理すると、次のとおりです(2025年6月3日までの枠組み)。

  • まず 232 自動車・自動車部品に該当するかを判定し、該当する場合は他の4つ(IEEPAカナダ/メキシコ、232鉄鋼・アルミ)は上乗せしない
  • 自動車・部品でない場合、つぎに IEEPA(カナダ/メキシコ) に該当するかを判定し、該当する場合は 232 鉄鋼・アルミは上乗せしない
  • IEEPAにも該当しない場合に、最後に 232 アルミ/232 鉄鋼を判定する。
  • 232 鉄鋼と 232 アルミについては、同じ貨物に対し両方が適用され得る(鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品など)という点が特に明記されています。macmap+2

ここでいう「subject to」は、当該措置の下で正味の追加関税額が0%を超える(免除や例外ではない)場合を指す、とCBPは補足しています。internationaltradeinsights+1

また、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の原産資格の有無が、IEEPA関税の「subject to」判定に影響し得ることも、CBPの解説や外部解説で繰り返し触れられています。USMCA原産となればIEEPAの対象外となり、その結果、232側が優先されるケースが出てきます。ghy+2

3‑2. 2025年6月4日以降(CSMS #65236574):優先順位が“改定”された点に注意

2025年6月3日に署名された鉄鋼・アルミ輸入調整の大統領布告(Section 232関係のProclamation)を受け、CBPはCSMS #65236574で優先順位(tariff stackingのルール)を改定しています。millerco+2

新しい優先順位(2025年6月4日 0:01(米東部夏時間)以降にエントリーされた貨物)では、次の順番で判定するよう指示されています。internationaltradeinsights+2

  1. 232 自動車・自動車部品(232 Auto/Auto Parts)
  2. 232 アルミニウム(232 Aluminum)
  3. 232 鉄鋼(232 Steel)
  4. IEEPA カナダ
  5. IEEPA メキシコ

この改定により、**232 アルミ/232 鉄鋼に該当する貨物については、IEEPA(カナダ・メキシコ)を上乗せしない(232側を優先する)**という整理が、CSMS内でより明確になりました。chrobinson+2

実務上の結論は、「同じHSコード・同じサプライチェーンの品目でも、輸入日(エントリー日)によって適用される追加関税の組み合わせが変わり得る」ということです。したがって、社内分析や還付検討は、少なくとも「2025年3月4日~6月3日」と「6月4日以降」で区切って行うのが安全です。geodis+1


4. いつから遡れるか:還付(Refund)の基本ルール

4‑1. 遡及適用の起点は「2025年3月4日」

Federal Registerの告示およびCSMSガイダンスは、EO 14289(およびその改定)の適用対象を「2025年3月4日以降に消費仕向けで輸入された貨物(または保税倉庫から引き出された貨物)」とし、その時点まで遡ってスタッキング解消のルールを適用する旨を明記しています。millerco+2

ジェトロの解説も同様に、「2025年3月4日以降の輸入分について、重複して課されていた関税の見直し・還付申請が可能」と整理しています。millerco+1

4‑2. 還付請求は「PSC」か「Protest」:清算(Liquidation)前後で分岐

CBPは、還付請求の手段を明確に2つに分けています。govdelivery+1

  • 未清算(unliquidated)のエントリー:
    Post Summary Correction(PSC)で修正・還付を申請。
  • 清算済み(liquidated)だが異議申立期間内のエントリー:
    19 U.S.C. 1514 に基づく Protest(異議申立て)で対応。一般にはCBP Form 19を使用し、清算日から180日以内が基本的な申立期限と整理されています。millerco+1

4‑3. 「何でも還付」ではない:対象外も明確

EO 14289の対象外となる関税については、同令に基づく還付は認められないことが、Federal RegisterおよびCSMSで繰り返し注意喚起されています。federalregister+2

具体的には、以下のような負担は、今回の「スタッキング解除」の枠外として扱われます。

  • 通常関税(HTSUS column 1/column 2の基本税率)
  • Section 301追加関税
  • 別の大統領令・法律に基づく追加関税(EO 14289で列挙されていないもの)
  • 反ダンピング(AD)・相殺関税(CVD)
  • その他、IEEPAに基づくがEO 14289のリスト外の措置 などfederalregister+2

加えて、CBPは「232 自動車・自動車部品」については優先順位の最上位であり、EO 14289によるスタッキング解消の結果として還付対象となるケースは想定されない、とする説明も行っています(最初から最上位で課されているため)。macmap+1


5. ビジネス現場で“損しない”ための実務チェックリスト(6ステップ)

ここからは、通関実務だけでなく経営・財務インパクトも踏まえ、還付と今後の最適設計の両方を意識した動き方を6ステップで整理します。

ステップ1:対象期間を確定(まずは3/4以降、次に6/4で区切る)

  • 2025年3月4日以降の輸入エントリー/保税引取りを抽出する。
  • 2025年6月4日以降は優先順位が変更されるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で分析を分ける。internationaltradeinsights+3

ステップ2:「重複して払った可能性があるエントリー」を洗い出す

  • 同一エントリーで、EO 14289対象の5措置に属する追加関税が複数計上されていないかをチェック(期間別に)。
  • 通関業者(Customs Broker)からACEデータやエントリーサマリーを入手し、対象関税コード・税額を一覧化すると効率的です。geodis+2

ステップ3:USMCA適用可否を再点検(“subject to”判定が変わる)

  • USMCA原産判定の見直しにより、IEEPA(カナダ/メキシコ)の「subject to」判定が変わり、232側に倒れるケースがあります。
  • CBPおよび外部解説は、USMCA適用がスタッキング判定に影響する点を明示しており、この再点検は還付・将来設計の両面で重要です。ghy+2

ステップ4:還付インパクトを財務目線で試算(キャッシュフローに直結)

  • 「理論上の率」ではなく、実際に支払った追加関税額(対象5措置分のみ)ベースで試算する。
  • 還付対象は、EO 14289の優先順位に反して二重に課されていた分のみであり、Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜないことが重要です。govdelivery+2

ステップ5:清算ステータスで手段を決定(PSCかProtestか)

  • 未清算エントリー → Post Summary Correction(PSC)で修正・還付請求。
  • 清算済みエントリー → Protest(19 U.S.C. 1514、通常180日ルール)で対応。ジェトロ等もこの整理で解説しています。millerco+2

ステップ6:再発防止(次の輸入から“最初から正しい税額”にする)

  • CBPは、EO 14289のもとでも輸入者の reasonable care(合理的注意)義務は維持されるとし、誤りがある場合はCBP窓口やACEヘルプデスクへの相談を案内しています。fedex+2
  • 社内的には、
    • ブローカーへのインストラクション更新(優先順位・対象5措置の適用ロジックを共有)
    • 品目マスター(HTS分類)と原産地判定フロー(USMCA・232・IEEPA)の再設計
    • 追加関税の判定ロジックを「輸入日/エントリー日」も含めてシステム実装
    まで落とし込むことで、「将来分を最初から正しい税額で申告」という状態に近づけることができます。internationaltradeinsights+2

6. 実務でよくある誤解(ここを外すと還付どころかリスク)

誤解1:スタッキング解除=関税が全般的に下がる
→ 対象はEO 14289が列挙した5措置の重複整理だけで、通常関税・Section 301・AD/CVD等は別枠のままです。regulations.justia+2

誤解2:とりあえずまとめて還付申請すればよい
→ 還付の可否は、「対象5措置の二重課税かどうか」と「清算ステータス(PSC/Protest)」次第です。手続きの要件を外すと、却下や後日のペナルティリスクにつながります。macmap+2

誤解3:232鉄鋼と232アルミは必ずどちらか一方
→ EO 14289とCBPガイダンスは、「232 Steelと232 Aluminumは同一貨物に同時適用され得る」と明記しており、鋼とアルミの両方の含有価値を持つ派生品では両方が課税対象になり得ます。internationaltradeinsights+2


7. “ガイド”を使いこなす:CBPの「Unstacking Certain Tariffs Chart」という補助ツール

2025年後半、CBPは、どの大統領措置がどの組み合わせで適用され得るかを一覧で確認できる「Unstacking Certain Tariffs Chart」(ファクトシート/スプレッドシート形式)を公表しました(法的拘束力はなく、あくまで情報提供であり、最終判断は法令・官報・布告が優先)。fedex+1

GHYなどの外部解説が示す実務的な使い方はシンプルです。ghy

  • 自社品目に該当しそうな行(HTS・措置分類)を探す。
  • 行を横に読み、各関税措置が「YES/条件付きYES/NO」となっているかを確認する。
  • そこで「YES」だからといって自動的に課税確定とはせず、例外条項やUSMCA適用状況などを一次資料(EO 14289・Federal Register・CSMS)で必ず裏取りする。

この種のチャートを活用すると、

  • 「どの部門が何を確認すべきか」の社内合意を取りやすくなる。
  • ブローカーとの議論が「そもそも課税か否か」から「どの条件を満たせば/外せばよいか」に進み、コミュニケーションコストを下げられる。

といった形で、実務のスピードと精度の両方に効きます。fedex+1


まとめ:経営としての“最適解”は「還付+再設計」を同時に進めること

CBPの「重複関税(tariff stacking)の解除」ガイドは、制度紹介にとどまらず、過去分のキャッシュ(還付)と今後の原価(追加関税負担)に直結するテーマです。govdelivery+1

経営として押さえるべきポイントは、次の3点に集約できます。

  • 対象は5つの措置に限定されており、かつ2025年6月4日以降は優先順位が変わるため、「3/4~6/3」と「6/4以降」で別々に分析すること。internationaltradeinsights+1
  • 2025年3月4日以降に遡及適用され、未清算はPSC、清算済みはProtest(180日)で還付を狙うこと。millerco+1
  • Section 301やAD/CVDなど対象外の負担を混ぜず、対象5措置だけを切り出して精査すること。federalregister+2

この枠組みを踏まえれば、「過去分の還付」と「今後の正しい関税設計」を同時並行で進めることが、北米ビジネスにとっての合理的な“最適解”になります。

  1. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e0a63e
  2. https://regulations.justia.com/regulations/fedreg/2025/05/20/2025-09066.html
  3. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/20/2025-09066/notice-of-implementation-of-addressing-certain-tariffs-on-imported-articles-pursuant-to-the
  4. https://www.ghy.com/trade-compliance/guidance-on-executive-order-issued-to-prevent-tariff-stacking-on-us-imports/
  5. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/cbp-guidance-feeder-vessels-transit-tariff-dates
  6. https://business.gmu.edu/news/2025-07/addressing-certain-tariffs-imported-articles-executive-order-14289
  7. https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_35.pdf
  8. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/05/cbp-issues-guidance-on-prioritization-of-articles-subject-to-more-than-one-tariff-under-eo-14289/
  9. https://millerco.com/sites/default/files/2025-06/Section-232-Steel-and-Aluminum-Tariff-Rate-Increase-to-50-and-Tariff-Stacking-Changes-June-3-2025.pdf
  10. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
  11. https://www.chrobinson.com/de-de/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/06-04-2025-client-advisory-adjusting-imports-of-steel-and-aluminum-into-the-united-states/
  12. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e36e5e
  13. https://millerco.com/sites/default/files/2025-05/CBP-Clarification-of-Tariff-Stacking-Rules-and-Refund-Opportunity-May-16-2025.pdf
  14. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/upload/Regulatory_News_-_Addressing_Certain_Tariffs_on_Imported_Articles.pdf
  15. https://blog.coleintl.com/tradenews/cbp-issues-guidance-on-tariff-stacking-under-executive-order-14289
  16. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/05-21-2025-client-advisory-cbp-issues-guidance-on-tariff-prioritization-under-executive-order-14289/
  17. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/addressing-certain-tariffs-on-imported-articles/
  18. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
  19. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-05-20/html/2025-09066.htm
  20. https://asafishing.org/wp-content/uploads/2025/06/Tariff-Action-Cheat-Sheet-V31-5-26-2025.pdf

カナダ「鋼材派生品」に25%追加関税(2025年12月26日施行)— 何が変わり、実務で何をすべきか

結論から言うと、提示いただいたブログ草稿は、制度の「骨格」と実務イメージはかな​


1. まず結論:今回の「25%」は、下流の完成品・部材に刺さる

カナダ政府は2025年12月26日から、指定された「鋼材派生品(steel derivative products)」に対して、輸入品の通関価額(value for duty)の全額に25%の追加関税(surtax)を課します。しかも原則として、**全ての国・地域からの輸入が対象(from all countries)**です。orders-in-council.canada+1

これにより、これまで「鋼材(ミル製品)そのもの」中心だった関税リスクが、ボルト・ナット、ワイヤー、プレハブ建築、風力タワー、金属家具などの完成品寄りの品目にまで広がります。coleintl+1

重要なのは、「鋼材部分の価額」ではなく「製品全体の通関価額」に対して25%が乗ることです。通関価額には貨物価格に加え、輸送費・保険料等が含まれ得るため、評価の仕方次第で着地コストは想定以上に跳ね上がります。pcb+1


2. 「対象品目」は何か:建設・インフラ×部材×金属製品が中心

対象は、カナダ財務省が公表したリストに記載された関税番号(Tariff Item/HSコード)で指定されており、説明文はあくまで目安、法的な範囲はカラム1のTariff Itemで決まると明記されています。canada+1

実務的に「刺さりやすい」代表カテゴリを、ビジネス影響がイメージしやすい形に並べると、概ね次のようなイメージです(※例示。最終判断は必ず公式リストで照合)。

  • 構造物・建設系(HS 7308、9406 など)
    例:橋梁部材、塔、鉄骨構造、風力タワー、プレハブ建築coleintl+1
  • ワイヤー・ロープ・金網・チェーン類(HS 7312、7314、7315 など)
    例:ワイヤーロープ、金網、チェーンcanada+1
  • ファスナー(HS 7317、7318 など)
    例:釘、ねじ、ボルト、ナット、ワッシャーcoleintl+1
  • ばね・鋳物・その他金属製品(HS 7320、7325、7326 など)canada+1
  • 金属フレームの椅子・金属家具・照明部材(HS 9401、9403、9405 など)coleintl+1

さらに注意すべきは、「鋼材派生品」という名称からは連想しにくい完成品・半製品も含まれている点です。たとえばドア・窓、家具、照明器具用部材など、一般に「鉄鋼製品」としては認識されにくい品目も対象に含まれるため、「うちは鉄鋼メーカーではないから関係ない」という決めつけは危険です。canada+1


3. 例外(除外)を押さえる:7つの“逃げ道”と、見落としポイント

カナダ財務省のバックグラウンダーおよび Steel Derivative Goods Surtax Order では、25%のsurtaxが適用されないケースが明確に列挙されています。実務上はここが大きな分かれ目です。osler+2

主な「適用除外」は、次のとおり整理できます(要約)。

  • 既存のsurtaxの対象になっている貨物
    例:対中国のsurtax、対米国の鉄鋼・アルミ関連surtax、鉄鋼TRQ関連のsurtax等の対象貨物は、本25%の重複適用(スタック)の対象外。canada+1
  • カジュアル貨物(旅行者の携帯品等)canada
  • Chapter 98 に分類される特定用途・特例扱い貨物(他に対象Tariff ItemがあってもChapter 98分類であれば除外)canada
  • 2026年7月1日より前に輸入され、自動車(車体/シャシ/部品・付属品)製造用途に使用する貨物osler+1
  • 2026年7月1日より前に輸入され、航空機・地上飛行訓練機・宇宙機(およびそれらの部品)用途に使用する貨物osler+1
  • Tariff item 7308.20.00 の特定の風力タワーで、オンタリオ–マニトバ州境より西側のエネルギープロジェクト向けに設置するものosler+1
  • 施行日に「カナダへ輸送中(in transit)」の貨物tid+1

加えて、国内調達が困難など例外的事情がある場合のremission(減免)申請は、ケースバイケースで検討するとされています。制度の存在自体が重要であり、対象となり得る企業は早めに「国内調達困難性」「経済への影響」等を説明できる資料を準備しておく余地があります。chrobinson+1


4. なぜカナダはここまで踏み込むのか:米国市場の閉鎖と国内市場への振り向け

今回の25%は単発の関税ではなく、カナダ政府が進める鉄鋼政策パッケージの一部です。背景には、米国による高関税・輸入制限の強化を受けて、カナダ市場への貿易迂回を防ぎ、自国の鉄鋼産業向け需要を確保する狙いがあります。youtube​pm+1

大きく見ると、政策のポイントは次の2点に整理できます。

  • 鉄鋼(ミル製品)側では、関税割当(TRQ)を縮小し、割当超過分に最大50%のsurtaxを課す枠組みを強化wtocenter+2
  • それだけでは下流(派生品)で「輸入完成品への置き換え」が進むため、派生品にも25%のグローバルsurtaxを広げるpm+1

首相府の説明によれば、派生品関税は「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計されており、対象リストは市場環境に応じて更新し得るうえ、初期リストだけでも数十億カナダドル規模の輸入に影響すると見込まれています。これは「一度決まって終わり」の制度ではなく、運用次第で対象が拡張され得る枠組みと理解した方が安全です。newswire+2

また、国境当局(CBSA)による順守(コンプライアンス)強化も同時に打ち出されており、誤ったHS分類や虚偽申告をより厳格に是正する姿勢が示されています。これは、実務的には事後調査リスクの上昇として意識する必要があります。canada+1


5. 企業へのインパクト:利益を削るのは「25%」そのものより“連鎖”

インパクト①:着地コストが一気に25%上がる(しかも全額ベース)
「通関価額の全額×25%」は、見積・契約の設計が甘いとダイレクトに粗利を削ります。特に、DDP(関税込み持込)や実務的に売り手側が関税負担を被りやすいスキームでは、利益を一気に圧迫しかねません。pcb+2

インパクト②:価格交渉が“今すぐ”起きる
施行日が明確なため、カナダ側バイヤーは、高い確率で次のようなアクションを検討します。

  • 価格改定(値上げ受け入れ/値下げ要請の再交渉)
  • 供給条件変更(関税負担者・価格調整条項の見直し)
  • 代替サプライヤー探索(カナダ国内化、FTA域内化、別素材・別仕様へのシフト)chrobinson+2

インパクト③:「適用除外・減免の証憑」が競争力になる
今回の制度は、自動車・航空宇宙用途、in transit、風力タワーの地域限定など、除外条件が比較的具体的に定義されています。条件を満たせる企業にとっては、用途証明や輸送証憑をきちんと揃えることで、25%負担を回避しコスト競争力を維持できる可能性があります。osler+1


6. 明日から使える:ビジネス向け“実務チェックリスト”10

実務対応として、輸出者・輸入者・商社がすぐに着手できる基本ステップを10項目に整理します。

  1. 自社品目をHS10桁レベルまで棚卸しする(カナダ輸入時の分類ベースで整理)。canada
  2. 財務省公表の公式リスト(Tariff Item)と突合し、対象・非対象を一次判定する。orders-in-council.canada+1
  3. 対象の場合、「既存の中国向け・米国向け・鉄鋼TRQ関連など他のsurtaxの対象になっていないか」を確認し、本25%との重複がないか整理する。canada+1
  4. 自動車・航空機・宇宙用途等の用途要件で除外を狙える場合、カナダ側での用途証明フロー(契約記載、エンドユーザー証明、製造工程の裏付け等)を設計する。osler+1
  5. in transit 除外を活用する貨物は、B/Lや船積書類で「施行日時点で輸送中」であることを示せるか事前に点検する。tid+1
  6. 見積りは「製品価格」ではなく通関価額ベースで再試算し、輸送費・保険料等も含めた負担増を洗い出す。pcb+1
  7. 契約書に**関税変動条項(tariff pass-through/price adjustment)**があるか確認し、なければ条項追加を検討する。
  8. Incotermsを再点検し、誰が関税を負担するのか(DDP/DAP/FCA等)を契約書面上も明確にしておく。
  9. 国内調達が困難な場合や特別な事情がある場合、remission申請の可能性を検討し、「代替調達の難しさ」「経済・雇用への影響」等の主張骨子を準備する。chrobinson+1
  10. 対象リストが更新され得ることを前提に、財務省・首相府・CBSAの公表情報を定期モニタリングする運用を社内ルールに組み込む。pm+2

7. 今後の注目点:この制度は“拡張”があり得る

  • 対象リストは「カナダ国内で生産されている派生品」を起点に設計され、今後の市場環境に応じて更新され得るとされています。pm+1
  • 鉄鋼(ミル製品)側ではTRQが動いており、輸入戦略を考える際は「ミル製品のTRQ+TRQ超過50%surtax」と「派生品25%surtax」を一体として見る必要があります。blakes+2
  • カナダは米国の関税政策に強く影響を受ける構造にあり、今後の米加通商交渉の展開次第で、remissionやその他周辺制度の運用が変わる可能性があります。pfcollins+2

まとめ:本質は「カナダ向け完成品の関税リスクが制度化された」こと

今回の本質は、25%という数字そのもの以上に、対象が「鋼材(ミル製品)」ではなく、ボルト・ワイヤ、構造物、プレハブ建築、金属家具といった**派生品(完成品・部材)**へ広がった点にあります。coleintl+2

経営としては「関税が上がった」という一事象ではなく、見積・契約・通関・証憑・調達の一連の業務設計そのものを、「カナダ向けは25%surtax前提の市場になった」と捉え直すイベントと位置付けるのが安全です。canada+1

免責:本稿は公開情報に基づく一般情報であり、個別案件の該当性(HS分類、用途要件、申告・証憑要件、減免可否など)は、必ずカナダ側の通関実務(CBSA運用)および専門家の助言により確認してください。chrobinson+1

  1. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-per-cent-tariffs-effective-december-26-2025.html
  2. https://www.canada.ca/en/department-finance/news/2025/12/government-implements-new-measures-to-protect-canadas-steel-industry.html
  3. https://orders-in-council.canada.ca/attachment.php?attach=47872&lang=en
  4. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  5. https://www.tid.gov.hk/en/tradecircular/2025/ci10702025.html?categoryId=18
  6. https://blog.coleintl.com/tradenews/canada-publishes-list-of-steel-derivative-products-subject-to-25-percent-tariff
  7. https://www.osler.com/en/insights/updates/canada-further-shuts-its-market-to-steel-imports/
  8. https://www.blakes.com/insights/us-canada-tariffs-timeline-of-key-dates-and-documents/
  9. https://web.wtocenter.org.tw/downFiles/13151/419197/00ymjxNd5CXtX0J111118sEykfiCSaW6jraE0HqG0RuAlS11111JdeYIGQgvq1u6d1TKXirDdCilIUGC7cO8Z1jBnf2994hw==
  10. https://www.newswire.ca/news-releases/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-transform-canada-s-steel-and-lumber-industries-814911145.html
  11. https://www.pwc.com/ca/en/services/tax/publications/tax-insights/canada-tariff-rate-quotas-surtaxes-imports-2025.html
  12. https://www.pm.gc.ca/en/news/news-releases/2025/11/26/prime-minister-carney-announces-new-measures-protect-and-transform
  13. https://www.youtube.com/watch?v=TV6Strj0m88
  14. https://www.pcb.ca/news/ca-release-list-of-steel-derivative-products-subject-to-tariffs-on-dec-26th
  15. https://pfcollins.com/new-25-tariff-assessment-on-steel/
  16. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-government-canada-announces-tariffs-steel-derivative-product/
  17. https://info.expeditors.com/newsflash/canada-to-impose-25-tariff-on-steel-derivative-products
  18. https://www.youtube.com/watch?v=9lwd4bmQy5Q
  19. https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/ca/pdf/tnf/2025/12/ca-importers-temporary-remissions-set-to-end-in-2026.pdf
  20. https://www.willsonintl.com/archives/news/prime-minister-carney-announces-new-measures-to-protect-and-strengthen-canadas-steel-industry

カナダ「鋼材派生品」へ一律25%追加関税が発効──“素材”から“完成品・部材”へ広がる新リスク(2025/12/26施行)


2025年12月26日、カナダは鋼材そのものではなく、鋼材を多用する「鋼材派生品(Steel Derivative Goods)」の一部について、輸入時に一律25%の追加関税(surtax)を課し始めました。 対象は米国や中国など特定国に限られず「全ての国」からの輸入であり、建設・エネルギー案件(風力タワー、橋梁、プレハブ建築ユニット等)のほか、工業用途で広く用いられるワイヤー/チェーン/ファスナー(ねじ・ボルト等)、さらには金属フレーム椅子・金属家具・建物用金物にまで及びます(一部の風力タワーは地域限定の除外あり)。


要点サマリー(実務でまず押さえる4点)

国名税率・内容出所備考
カナダ25%(追加関税 / surtax)Steel Derivative Goods Surtax Order政令スケジュールに列挙された「鋼材派生品」が対象
カナダ25%(課税ベースは通関価額全額)Steel Derivative Goods Surtax OrderCustoms Act 47〜55条に基づく value for duty に対し 25%を課税
カナダ2025年12月26日施行Steel Derivative Goods Surtax Order施行日当日に「輸送中(in transit)」の貨物は適用除外
カナダ例外・猶予あり(自動車・航空宇宙などは 2026/7/1 まで一部除外)Finance Canada 公表リスト既存サーチャージ対象品は原則「二重課税」しない設計

1) 何が変わったのか:今回の追加関税の「設計」

今回の措置は、閣議決定(Order in Council)に基づく Steel Derivative Goods Surtax Order であり、スケジュール(品目リスト)に該当する輸入品に対し、通関価額(value for duty)に対して一律 25% の surtax を課すものです。 ここでいう value for duty は、Customs Act 47〜55条に基づく価額決定ルールに従って算出される通関価額であり、追加関税はその全額を課税ベースとします。

ここで重要なのは次の2点です。

  • 「鋼材含有量」ではなく、製品の通関価額 全額 に 25%を乗せる設計
    → 価格インパクトを過小評価しやすく、DPU/DDP 等の契約条件や見積りを再点検する必要があります。
  • Chapter 99(カナダの特別措置用コード)に付け替えても回避できない構造
    → Chapter 99 のタリフ・アイテムで申告した場合でも、もとの分類がスケジュール掲載のタリフ・アイテムに該当すれば surtax 対象とされます。

2) 対象はどこまで広い?──“完成品・部材”に刺さる品目群

対象は、Finance Canada が公表した「タリフ・アイテム(HS)」指定により決まり、説明文はあくまで参考情報であり、最終的な範囲はタリフ・アイテム自体によって確定します。 代表的な品目を、ビジネスインパクトが出やすい順に整理すると次の通りです。

(A) 建設・インフラ・エネルギー(案件単位で金額が大きい)

  • 構造物・部材(橋梁、塔、ドア/窓枠等):7308.10/20/30/90
  • プレハブ建築(鋼製モジュール含む):9406.20 ほか

(B) “地味に効く”製造業の定番(コスト転嫁が難しい)

  • ストランドワイヤー/ロープ/ケーブル:7312
  • 有刺鉄線・フェンス類、金網・ネット:7313、7314
  • チェーン類:7315
  • くぎ・ねじ・ボルト・ナット・ワッシャー:7317、7318

(C) 家具・建材・部品(完成品側に波及)

  • 金属フレームの椅子:9401.71/79
  • オフィス用金属家具、家具部品:9403.10、9403.99
  • 建物用金物(取付金具等):8302.41.90

注意点として、リストには「プラスチック製建具(3925.20)」のように、一見すると鉄鋼製品に見えない分類も含まれているため、先入観で除外せず、HS ベースで網羅的に洗い出すことが重要です。


3) 例外・猶予(ここを外すと“余計に払う”)

公表されている主な適用除外・猶予は次の通りであり、実務上は用途・期間を裏づける証憑をどこまで整備できるかがカギになります。

  • 既に他のサーチャージ対象の品(例:China Surtax Order 2024、United States Surtax Order (Steel and Aluminum 2025) 等)
    → 原則として「二重課税しない」設計。
  • Chapter 98(特別分類)は対象外
    → Chapter 98 のタリフ・アイテムに分類される貨物は、他のタリフ・アイテムに該当していても surtax を課さない。
  • 自動車(車両・シャシ・部品/付属品)向け用途:2026年7月1日以前の輸入は除外
  • 航空機・宇宙(航空機・地上飛行訓練機・宇宙機等)向け用途:2026年7月1日以前の輸入は除外
  • 特定の風力タワー(7308.20.00):オンタリオ–マニトバ境界以西のエネルギー案件向けは除外
  • 施行日(2025/12/26)時点で「輸送中(in transit)」の貨物は除外

さらに、国内での調達が困難な場合など、例外的事情によりカナダ経済への深刻な悪影響が見込まれるケースでは、関税免除(remission)申請を個別に審査するとされています。 完全な「ゼロ回答」ではなく、救済の可能性を残す制度設計といえます。


4) なぜ今「派生品」なのか:背景は“迂回流入”と内需防衛

カナダ政府は、米国による鉄鋼・アルミ関税や中国などへのサーチャージの影響で、鋼材が第三国・派生品ルートを通じてカナダ市場に流入するリスクを強く意識しており、国内産業保護とグリーン投資推進を目的とした新パッケージの一環として鋼材派生品への 25% 関税を導入しました。 その中には、輸入管理の強化、TRQ 見直し、国境でのコンプライアンス強化など複数の措置が含まれています。

当局側の問題意識として、「鋼材そのもの」への規制だけでは、完成品・部材に形を変えた輸入を十分に抑えられない点が強調されています。 そのため、今回のリストは、構造物・ファスナー・ワイヤー・家具・プレハブ等のいわゆる「下流製品」をピンポイントで対象にした設計になっています。


5) 日本企業(輸出・現法)へのインパクト:どこが痛いか

影響①:見積りが“25%上振れ”しやすい(しかも全額課税)

カナダ向けにねじ・ボルト・金属フレーム椅子・プレハブユニット等を輸出している場合、輸入者側コストを通じて 25% の追加負担がストレートに効いてきます。 契約条件が DDP など輸入関税を輸出側が負担するスキームの場合、日本側が追加コストを吸収せざるを得ないケースも想定されます。

影響②:建設・再エネ案件で「コスト+納期」両面の変動

風力発電や大型インフラ案件のように、対象 HS の部材単価・数量が大きいプロジェクトでは、総コストへの影響が顕著になります。 一方で、特定地域向け風力タワー等の例外もあるため、案件所在地・用途・設置条件を証明できるかどうかが、プロジェクト単位での差別化要素になります。

影響③:取締り強化で「分類・原産地・用途」が監査点に

政府は、カナダ国境サービス庁(CBSA)に専任のコンプライアンス体制を設け、虚偽申告の検知・是正を強化する方針を打ち出しています。 これまでグレーな運用でしのいでいた企業ほど、事後の更正(B2 更正)や追徴課税リスクが高まることが想定されます。


6) すぐやる実務チェックリスト(現場が動きやすい順)

  • 品目の当たりを付ける(HS/タリフ・アイテム照合)
    → 7308/7312/7317/7318/9406 あたりが出てきたら「要注意」としてスケジュールと突き合わせる。
  • 例外該当性(用途・期限・輸送中)を棚卸し
    → 自動車・航空宇宙用途は「2026/7/1 以前の輸入」が条件であり、発注書・製造指図書・用途宣誓書・BOM 等で裏づけが必要。
  • 通関価額(value for duty)を再点検
    → 25%は「価額全体」に乗るため、移転価格ポリシーやロイヤルティなど加算要素の取り扱いの違いが関税負担に直結します。
  • 契約(インコタームズ)・価格条項を確認
    → Duty 負担者・価格改定条項・関税変動条項がない取引は、短期的にトラブルに発展しやすい。
  • 代替調達・仕様変更(ねじ/ワイヤー/家具/プレハブ)を検討
    → 「カナダ国内製」への置き換えを促すインセンティブ設計である点を踏まえ、競合が動き出す前にサプライチェーン再編を検討。
  • 顧客(カナダ輸入者)と「誰が申告・誰が立証」するか決める
    → 例外適用は、最終的に証憑を整理・提出できる当事者が有利になるため、責任分担をあらかじめ明確化。
  • リスト更新のモニタリング運用を作る
    → 政府はリスト更新の可能性を示唆しており、更新頻度が上がるほど属人的チェックでは限界があるため、定期的なモニタリング体制を仕組み化する必要があります。

7) まとめ:今回の本質は「カナダ向け完成品の関税リスクが一段上がった」こと

2025年12月26日以降、カナダは鋼材「派生品」に対し、一律 25% の追加関税を全世界からの輸入品に適用します。 課税ベースは通関価額の全額であるため、見積り・契約・価格転嫁設計が甘いと、利益が一気に圧迫される構造です。

一方で、自動車・航空宇宙向けの時限除外(〜2026/7/1)や in transit 除外、特定風力タワーの地域限定除外、さらには remission の個別申請など、一定の「逃げ道」も用意されています。 実務上の勝負どころは、これらの例外を的確に読み取り、用途・期間・物流条件を示す証憑をどこまで前倒しで整えるかにあります。

※本稿は公開情報に基づく一般的な情報であり、実際の該当性判断(分類・用途・申告方法等)は、カナダ側の通関実務(CBSA 運用)も踏まえ、現地通関業者・専門家と個別にすり合わせてください。

【2025年末版】日本のFTA/EPA交渉「最新マップ」── 激動の中東・南アジア、企業が備えるべき実務の急所


最終更新:2025年12月20日

日本のEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)交渉は、現在「数より質」のフェーズにあります。足元では**「中東(UAE・GCC)」「南アジア(バングラデシュ)」**が急速に進展する一方、停滞・中断している案件との二極化が鮮明になっています。

2025年1月時点のデータでは、日本の貿易額に占めるEPA発効・署名済みの割合は**78.8%ですが、現在交渉中の案件を含めると87.1%**に達します。この「残り約8%の空白」をどう埋め、ビジネスチャンスに変えるかが、今後の通商戦略の鍵となります。


1. 交渉中FTA/EPA 最新ステータス一覧

現在動いている交渉案件を、実務レベルの進捗状況と注目ポイントで整理しました。

区分相手国・地域直近の動き(2025年)進捗評価企業の注目ポイント
中東UAE第6回交渉(12月:ドバイ)加速中物品関税に加え「デジタル・持続可能な開発」等、新領域のルール化に注目。
中東GCC第2回交渉(6-7月:東京)前進中湾岸6カ国への一括アクセス。原産地規則(ROO)や投資、知財のパッケージ化。
南アジアバングラデシュ第7回交渉(9月:東京)着実「ポストLDC脱却」を見据えた重要拠点。サービス、投資、電子商取引の基盤整備。
北東アジア日中韓経済対話にて継続確認不透明政治情勢に左右されやすい。実務上は「RCEP」の上積みが焦点。
中東・欧州トルコ会合ブランク継続長期停滞欧州・アフリカへのゲートウェイだが、再始動の兆しを待機する段階。
中南米コロンビア会合ブランク継続長期停滞資源・農業分野で期待されるが、再開シグナルの監視が必要。

2. 重点エリアの分析:なぜ今「中東・南アジア」なのか

① 中東(UAE・GCC):エネルギーから「デジタル・ルール」の時代へ

UAEとの交渉は、2024年9月の開始からわずか1年強で第6回に到達するという、異例のスピードで進んでいます。

  • 実務インパクト:
    • 非関税障壁の撤廃: デジタル貿易章の導入により、データ移転の透明性や電子署名の法的有効性が確保される見通しです。
    • サプライチェーンの再構築: 「原産地規則(ROO)」の合意内容次第で、中東をハブとした物流・製造戦略の再考が求められます。

② 南アジア(バングラデシュ):次なる製造・消費の拠点

2024年3月の開始以降、着実に回数を重ねており、実効性の高い「積み上げ型」の交渉が続いています。

  • 実務インパクト:
    • LDC(後発開発途上国)卒業への備え: バングラデシュのLDC脱却に伴う特恵関税の失効を、EPAによってソフトランディングさせることが至上命題です。

3. 「停滞・中断」案件への現実的な対応

「交渉中」とされていても、実態として動きが止まっている案件については、代替枠組みの活用を優先すべきです。

  • トルコ・コロンビア(長期停滞): 自社の関心品目について、相手国の既存のFTA網(EU-トルコ関税同盟など)を調査し、第三国経由の可能性を含めたシミュレーションに留めるのが現実的です。
  • 韓国・カナダ(中断):
    • 韓国: すでに発効しているRCEPを最大限活用し、RCEPでカバーされない個別品目のみを注視。
    • カナダ: **CPTPP(TTP11)**という強力な枠組みが既に存在するため、個別EPAの優先順位は低いと判断して差し支えありません。

4. 企業が「今」着手すべき5つの準備アクション

交渉が合意に達してから動くのでは出遅れます。企業は以下の「先行準備」を推奨します。

  1. 貿易データの棚卸し: 自社の取引を「国 × 品目(HSコード) × 金額」で整理し、交渉先との合致度を特定する。
  2. 原産地証明のシミュレーション: 主要製品のBOM(部品構成表)を基に、推定される原産地規則を満たせるか事前判定を行う。
  3. 契約条項の先行設計: 今後の契約において「特恵関税によるメリットの還元(Benefit Sharing)」に関する条項を検討しておく。
  4. デジタル・サステナ対応: UAE交渉などで議題となっている「データ移転」や「環境基準」が、自社のコンプライアンス体制に与える影響を精査する。
  5. 定点観測のルーチン化: 外務省の報道発表を四半期ごとにチェックし、「議題の追加(政府調達など)」を経営リスク・機会のシグナルとして捉える。

結論

2025年末の通商地図は、**「動いている中東・南アジア」と「既存枠組みで代替すべき停滞案件」**に二分されました。企業は、締結後の「関税ゼロ」という結果だけでなく、その過程で議論される「デジタル・投資ルール」を先読みし、HSコードと原産地データの基盤を整えることが、最短で利益を享受するための王道です。


日UAE EPA(CEPA)交渉・第5回会合の「結果」と、ビジネス側が見るべき「次の節目」

(※本稿は公表情報をもとに、交渉論点をビジネス視点で“使える形”に落とし込んだ整理です。交渉テキストや市場アクセスの中身は原則非公開のため、確定情報と見立てを分けて記載します。)


1. 第5回交渉会合で何が起きたのか(確定情報)

外務省の発表によると、日UAE EPA(日本側呼称)交渉の第5回会合は2025年11月4日〜28日にオンライン形式で開催され、両国の首席交渉官(日本側:髙橋克彦大使/UAE側:ジュマ・アルカイト経済省次官補)らが参加しました。

この会合で議論が明示された分野は以下です。

  • 物品貿易
  • 原産地規則
  • サービス貿易
  • 競争政策
  • 政府調達
  • 知的財産
  • 今後の交渉の取り進め方(モダリティ)

そして、次回(第6回)会合の日程は外交ルートで調整することになっています。

ここがポイント:
第5回の公式記述で「政府調達」が入ってきたのは、ビジネス観点ではかなり大きい。関税だけでなく、“ルール・運用”の深部に踏み込む段階に入りつつあるサインと見てよいです。


2. 交渉はいま「どの地点」にいるのか:時系列で見る“進捗感”

日UAE EPA交渉は、2024年9月に交渉開始が決定(MOFA/経産省が同時発表)されました。
その後、会合は以下のペースで進んでいます(公表ベース)。

  • 第1回:2024年11月(東京)
  • 第2回:2025年2月(ドバイ)
  • 第3回:2025年6月(東京)
  • 第4回:2025年8月(オンライン)
  • 第5回:2025年11月(オンライン)

各回の概要を見ると、初期は「物品」「原産地」「サービス」「投資」「税関・貿易円滑化」「知財」など“定番の骨格”を並行で詰め、第3回でデジタル貿易第4回で貿易と持続可能な開発第5回で政府調達というように、章立てが広がっているのが読み取れます。

加えて、日本の外交青書でも、UAEを「エネルギー安全保障上重要な戦略的パートナー」と位置づけたうえで、日UAE EPA交渉開始と第1回開催に言及しています。


3. “論点の深掘り”①:物品貿易は「関税率」より“競争条件の差”が効く

日本企業にとっての現実的インパクト

ジェトロによれば、2023年の日本の対UAE輸出は約1兆4,661億円で主力は輸送用機器、UAEは日本の自動車輸出先として金額で世界7位/台数で世界3位という規模感です。
つまり、日UAE EPAは「資源国との協定」というより、完成車・部品・周辺産業に直接効きうる協定です。

ただしUAEは“そもそも関税が低い”

UAEはGCC共通関税の枠組みで、対外税率は原則5%(例外あり)と整理されています。
このため、関税だけを見て「インパクトは小さい」と判断しがちですが、ビジネスでは次が効きます。

  • 競合国がCEPAで先に関税・手続を改善している場合の“相対的な不利”
    UAEはCEPA締結を加速しており、将来的に103カ国まで拡大し貿易総額の最大95%をカバーする目標を掲げています。
    すでに複数国とCEPAを発効してきた流れもあり、競争条件の“穴”は放置しにくい。
  • 税関・認証・通関運用(非関税領域)のコスト
    UAE向けは「輸出→現地通関→再輸出」も多く、運用コストが積み上がりやすい。関税よりここが効くケースが多い。

4. “論点の深掘り”②:原産地規則は「UAEがハブである」ことが難しさの源泉

第5回でも原産地規則が議題に入っています。
原産地規則(ROO)は、ざっくり言えば「EPAの優遇税率を使える“出自”の判定ルール」です。

UAE案件で原産地が難しい理由

  • 再輸出・加工・保税・フリーゾーンが多い
    UAEは域内物流ハブとして、輸入→保管→再輸出が一般的。ROOを“形式上”満たすだけの加工(軽微な加工)を排除する規定が厳しくなりやすい。
  • グローバル部材の比率が高い(自動車・機械・電機ほど顕著)
    「どこまで第三国部材が許容されるか」「付加価値基準か関税分類変更か」「累積(カムレーション)をどう扱うか」が収益を左右する。

企業側の準備(いまからできる)

  • HSコードとBOM(部材表)を“EPA利用前提”で棚卸し
  • 製造工程のどこを「原産性を作る工程」にするか(日本/第三国/UAE)を設計
  • サプライヤーから原産地証明に必要な情報が取れるかを確認(ここが最大のボトルネックになりがち)

5. “論点の深掘り”③:サービス貿易は「進出のしやすさ」と「人の移動」が肝

第5回でサービス貿易が議題化されています。
UAEは現地拠点・地域統括(RHQ)・物流・金融・プロフェッショナルサービスのニーズが厚い一方、参入形態やライセンス、職種ごとの規制など“実務の壁”が残りやすい市場です。

ビジネスで効く観点は大きく2つ。

  • 市場アクセス(何ができるか/できないか)
    例:拠点形態、出資比率、提供できるサービス範囲、分野別の許認可など。
  • 「人の移動」実務(短期出張・駐在・プロジェクト要員)
    サービス章や関連規定が整備されると、プロジェクト型ビジネス(建設、プラント、IT導入、保守運用、コンサル)が回しやすくなる可能性があります。

6. “論点の深掘り”④:政府調達が入った意味——UAEの大型案件に“正面から”挑む章

第5回の公式概要で「政府調達」が明示されました。
政府調達章が入る協定は、企業側から見ると次の効能が期待されます(※一般論)。

  • 入札情報の透明性(公告、仕様、評価基準)
  • 内外無差別(または一定の待遇)
  • 不服申立て手続(レビュー)
  • 電子調達・標準化

UAEはエネルギー転換・インフラ・先端産業で大型案件が動きやすい国です。ここに調達ルールが入ると、商社・ゼネコン・プラント・IT・エンジニアリングなどの企業にとっては「営業の土台」が変わります。

逆に言うと、政府調達は国内制度・政策目的と直結するため、交渉が難航しやすい“ حساس(センシティブ)”領域でもあります。
ここがテーブルに乗った時点で、交渉は“締結後に効くルール作り”へ比重が移っている可能性が高い。


7. “論点の深掘り”⑤:競争政策・知的財産は「協業・投資」をやりやすくするインフラ

第5回で競争政策と知的財産が議題とされています。
この2つは、関税のように数字で効き目が見えにくい一方で、実務では効きます。

競争政策(独禁・公正競争)

  • 代理店・販売網・ジョイントベンチャーの設計
  • 特定の取引慣行が“後から問題化”するリスク低減
  • 透明性・協力枠組み(当局間協力)があると、紛争時の打ち手が増える

知的財産(IP)

  • ブランド・商標・意匠・特許の保護は、消費財・機械・ソフトウェア・コンテンツなど広範に影響
  • 共同開発・ライセンス・技術移転の交渉がしやすくなる(期待)

8. “横串論点”:デジタル貿易・税関手続・持続可能性は「運用コスト」を左右する

交渉は第3回でデジタル貿易、第4回で持続可能な開発にも触れています。
また、税関手続・貿易円滑化は初期から継続的に議題です。

  • デジタル貿易:データ移転、電子契約、越境EC、ソースコード等(協定次第で影響)
  • 税関・貿易円滑化:AEO、事前教示、迅速通関、書類電子化など
  • 持続可能性:環境・労働・透明性(ESG調達・輸出管理とも接続し得る)

この領域は、単なる輸出入だけでなく、現地運営(拠点・サプライチェーン)コストに直結します。


9. 「次の節目」は何か:第6回会合の先にある“山場”を先読みする

確定している次の節目は、外務省発表のとおり第6回会合の日程調整です。

一方で、交渉実務として多くのEPAで起きる“山場”は、だいたい次です(※一般的な見立て)。

  1. 市場アクセス(関税・サービス)の“オファー”が具体化
  2. 章ごとの文言が固まり、「章のクローズ(実質合意)」が増える
  3. 例外規定や移行期間などを詰めてパッケージ合意
  4. 法務レビュー(リーガルスクラブ)→署名→国内手続

UAE側は、対日CEPAが「advanced stages(進んだ段階)」にある旨を述べています(UAE国営WAM報道)。
ただし、これは政治的メッセージでもあるため、企業側としては「公式に何が確定したか(=日程、論点、章の範囲)」と切り分けて追うのが安全です。


10. 日本企業がいま打てる「具体アクション」チェックリスト

最後に、交渉の進捗を“待つ”のではなく、ビジネス側が先に整えておける項目を整理します。

輸出型(メーカー/商社)

  • 対UAEの重点品目をHSで棚卸し(関税・規制・認証とセットで)
  • 原産地規則を満たすためのBOM・工程情報の収集体制づくり
  • UAEがGCC共通関税(原則5%)であることを踏まえ、関税より通関・在庫・再輸出の運用設計で勝ち筋を作る

進出型(サービス/プロジェクト)

  • 「提供したいサービス」と「必要な許認可・ライセンス」を分解し、ボトルネックを可視化
  • 人員の移動(短期出張・長期駐在・施工要員)の制約を洗い出し、必要なら現地パートナー戦略を再設計

技術・ブランドを扱う企業(IP集約型)

  • UAEでの商標・意匠・特許の“現状”を棚卸し(登録漏れがあると後で高くつく)
  • 共同開発・ライセンス契約のひな形を見直し(準拠法、紛争解決、ノウハウ保護)

公共・準公共案件を狙う企業

  • UAEの調達制度・発注主体・入札ポータルを整理し、案件探索のKPIを持つ
  • 「政府調達章が入る可能性」を前提に、社内の入札コンプラ・証跡管理を整備

まとめ:第5回会合は「関税交渉」から「市場の取り方」を決める交渉へ

第5回会合で明示された「政府調達・競争政策・知財」は、企業の勝ち筋に直結する“深い章”です。
UAEはCEPAを加速度的に広げており、日本企業にとっては「UAE市場」だけでなく、「UAEをハブにした中東・アフリカ・南アジアへの展開」の競争条件にも波及し得ます。

次の公式節目は第6回会合の日程ですが、ビジネスの準備はもう始められます。特に、原産地(ROO)・通関運用・調達参入・IP整備は、協定ができてから動くと間に合わない領域です。


米国アルミ「プレミアム急騰」の正体――232関税50%が生んだ“価格の二重構造”


米国向けにアルミを使う製品(自動車・部品、建材、電線、包装材、機械筐体など)を扱う企業にとって、2025年は「LME(国際指標価格)だけを見ていると、コストを見誤る」年になりました。xserver
理由は、米国の現物プレミアム、とくに Midwest Premium が、232関税の引上げを織り込む形で膨張し、「LMEと現物コストのギャップ」がかつてない水準まで広がったからです。xserver

以下では、①プレミアムとは何か、②232関税50%の政策背景、③プレミアム急騰の要因、④派生品拡大が実務に与える影響、⑤日本企業の打ち手、の順に整理します。


1) 「アルミプレミアム」とは何か:LME+αの“α”

米国のアルミ現物取引では、買い手が支払う価格は一般に
LME(指標価格)+プレミアム(現物上乗せ)
という形で決まります。 このプレミアムには、運賃・保管・金融コスト・需給ひっ迫、さらには税・関税といった要素が織り込まれます。xserver

なかでも重要なのが、**US Aluminum Midwest Premium(米国中西部向けプレミアム)**です。 これは米国内で地金を調達する際の「現物調達コストの温度計」として扱われ、関税率の変更などにより「次回の輸入で在庫を補充する(replacement)際のコスト」が変わると、敏感に反応します。lolipop+1


2) 2025年、232関税は「25%→50%」へ:政策の筋道

国家安全保障を根拠に輸入調整を行う 232 措置は、2018年にアルミ地金等へ 10%を課す形で導入され、その後も対象・水準の見直しが続いてきました。 2025年には、低価格・過剰供給品への依存を抑え、国内産業の稼働率・能力を維持することを狙いとして、アルミ関連の追加関税が再強化されています。relation2012

  • 2025年2月10日:アルミおよび一定の派生品に対し、従来の上乗せ措置を踏まえつつ 25%の追加関税 を課す方針を示す大統領布告が公表。relation2012
  • 2025年6月4日 午前0時1分(米東部時間)以降:アルミおよびアルミ派生品に対する追加関税率を 25%から50%へ引き上げrelation2012
    ロジックとしては、低価格輸入品の流入が国内アルミ産業の競争力・稼働率を損ない、結果として国家安全保障上必要な産業基盤を維持できなくなる、という説明がなされています。relation2012

例外として、英国からの輸入については 25%水準の維持が示されており、米英間の枠組みに基づく特例扱いと位置づけられています。 さらに、一定数量を 232 関税から除外する TRQ(関税割当) の導入が議論されており、今後の運用次第では実効税負担が変動する余地もあります。relation2012

また、6月4日以降の運用として、232 関税 50%の対象については、IEEPA 関税など特定の追加関税との「二重課税(累積)」を避ける方針が示されました。 もっとも、すべての追加関税が自動的に相殺されるわけではないため、「どの措置とどの組合せが排除されるのか」を条文ベースで確認する必要があります。hitodeblog


3) 米国アルミプレミアムはなぜ急騰したのか:3つの要因

要因①:関税50%が“プレミアムに乗る”――置き換えコストの再計算

6月の関税引上げ以降、市場参加者は「在庫を補充する際の輸入分には 50%関税がかかる」という前提で、Midwest Premium を再計算するようになりました。 つまり、関税そのものが LME ではなく「プレミアム側」に乗ることで、現物コストを押し上げる構図です。lolipop

2025年11月時点で、duty-paid Midwest Premium は 88.10 セント/ポンド(約 1,942ドル/トン)と過去最高水準をつけたと報じられています。 同じ局面で LME が 2,850ドル/トン近辺だったため、スポットでの支払総額は 約 4,792ドル/トン(LME 2,850+プレミアム 1,942) に達した計算になります。xserver

ビジネス上の含意は明確です。

  • 「LMEの上昇」ではなく、「LME+プレミアムの上昇」が利益を削る。
  • 見積や長期契約の価格式が LME のみに連動していると、プレミアムの急騰局面で採算が一気に崩れる。

要因②:供給の“偏り”――カナダ依存と政策長期化観測

米国のアルミ輸入は、カナダへの依存度が非常に高い点もプレミアムを押し上げています。 2025年上期のデータでは、米国のアルミ輸入に占めるカナダの比率が約 70% に達したと整理されており、「実質的にカナダ頼み」という構図が強まっています。lolipop+1

さらに、貿易・安全保障をめぐる交渉環境の悪化などから、「追加関税は一時的措置ではなく長期化する」との見方が広がっていることも、プレミアム上昇要因とされています。 市場が「どうせすぐ戻る」と見ているうちはプレミアムも調整しやすいものの、「構造的に高止まりする」との期待(あるいは懸念)が強まると、価格は下がりづらくなります。xserver

要因③:在庫取り崩し+世界的な供給制約

S&P Global は、50%関税導入後の局面で「需要の先行きは不透明な一方、在庫取り崩しと置き換えコスト上昇が重なり、プレミアムが記録的水準まで上昇した」と分析しています。lolipop
同時に、**中国のアルミ生産上限(年間 4,500万トン)**や、中国以外の地域での供給減少が、世界的なタイトな需給環境を生み、米国プレミアムの上昇圧力として波及しているとも指摘されています。xserver

つまり、米国のプレミアム急騰は、

  • 232 関税 50%という「政策要因」と、
  • 在庫・供給制約という「市場要因」
    の両方が絡み合った結果といえます。lolipop+1

4) 見落としがちな「派生品」拡大:地金から完成品へにじむ 232

232 の実務で厄介なのは、地金や半製品(圧延品など)だけでなく、「派生品(derivative products)」 が段階的に追加されている点です。onamae

商務省は、232 関税の対象に派生品を追加するための Inclusions Process を整備し、年数回の申請受付を通じて対象品を拡張できる仕組みを導入しました。 2025年8月18日には、約 400 品目規模(407 カテゴリ)の派生品が新たに 232 関税の対象に追加されたと公表されています。counter-digital+1

派生品の一部では、「製品全体の価格」ではなく、製品中に含まれる鉄・アルミの “含有価値” を基準に課税する方式が明記されています。 そのため、onamae

  • BOM(部品表)
  • 材料ごとの含有量・単価
  • 価格按分のロジック

といった情報の整備・説明が、税関対応上の重要な論点になります。onamae

さらに、Inclusions Process による追加指定は 2026年以降も続く見込みと報じられており、「派生品拡大はすでに完了した話」ではありません。fama.startrise

日本企業にとっての本質的なポイントは、

  • 「完成品を輸出しているだけだから大丈夫」という発想は危険になりつつある。
  • HTS 分類上「派生品」に含まれると判断されれば、製品中のアルミ分に 232 関税が課されうる

という点です。counter-digital+1


5) 日本企業が取るべき実務アクション

A. 見積・契約:価格式を“LME+プレミアム+関税”前提に再設計

  • 見積や長期契約の価格条項が「LME連動」のみになっている場合、
    • Midwest Premium(duty-paid かどうかを含めて)を明示的に組み込む。
    • 232 関税率の変動に応じて価格を見直せる「関税サーチャージ条項」や「価格改定トリガー」を設定する。
      といった再交渉が不可欠です。lolipop+1

B. 品目判定:HTS と Chapter 99 をセットで運用

232 の対象指定は、通常の HTS 番号だけでなく、Chapter 99 の追加コード や対象リストによって管理されます。onamae

  • 自社製品が派生品リストに含まれる余地があるか
  • 今後の Inclusions Process で追加される可能性が高いカテゴリーか

を、HS/HTS ベースで棚卸しし、社内マスタに Chapter 99 の情報を組み込むことが重要です。onamae

C. 原価管理:BOMに“アルミ価値”を紐づける

含有価値課税が適用される場合、

  • アルミの含有量
  • 原材料単価
  • 歩留まり
  • 社内・グループ内の移転価格

といった情報の整合性が、税関や監査対応の論点になります。 BOM 上でアルミ価値を明示し、価格按分ロジックを文章化しておくと、後々の説明負荷を大きく減らせます。onamae

D. 調達戦略:供給国分散と例外枠のモニタリング

カナダ依存が高い現状では、単純な追随調達だけではプレミアム高止まりの影響をもろに受けるリスクがあります。lolipop+1

  • サプライヤーの国別ポートフォリオの見直し
  • 在庫戦略(調達タイミング・在庫水準)の再設計

に加え、英国向け 25%据え置きや TRQ のような 例外枠・緩和措置の動きを定点観測する体制 も必要です。zenken+1


結び:プレミアム急騰は「関税の持続性」を映す鏡

232 関税 50%は、単なる税率アップにとどまりません。

  • 「在庫の置き換えコスト」を通じてプレミアムに転写され、
  • 米国向け現物調達コストを構造的に押し上げる仕組み

として機能しています。 派生品の対象拡大が進むほど、その影響は「素材を買う企業」から「アルミを含む製品を売る企業」まで広がっていきます。counter-digital+2

いま見るべき KPI は、LME ではなく「LME+(duty-paid)Midwest Premium」です。 ここを見落とすと、価格転嫁の遅れがそのまま利益毀損につながりかねません。xserver

なお、本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・通関判断については、必ず税関・通関士・通商弁護士等の専門家にご相談ください。relation2012

  1. https://www.xserver.ne.jp/blog/how-to-write-blog-for-beginner/
  2. https://lolipop.jp/media/written-expression/
  3. https://www.relation2012.com/blog/seo/1751/
  4. https://hitodeblog.com/blog-article-element
  5. https://www.onamae.com/column/blog/19/
  6. https://counter-digital.jp/counter-media/article-proofreading/
  7. https://fama.startrise.jp/column/blog-article
  8. https://ai.zenken.co.jp/post/chatgpt-document-proofreading-guide/

IEEPA関税は「清算」されても取り戻せるか?――CIT新判断が示す“清算後救済”の現実味と、企業が今すぐ取るべき対策


2025年に導入されたIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく追加関税をめぐり、「将来、最高裁で違法と判断された場合、支払った関税は返金されるのか?」という点が輸入企業の最大の懸案事項となっています。特に、米国特有の関税清算(Liquidation)制度が、返金請求の大きな壁になると懸念されていました。

この問題に対し、2025年12月15日、米国際貿易裁判所(CIT)が極めて重要な判断を下しました。結論から言えば、「たとえ関税清算が完了した後でも、裁判所命令による再清算(Reliquidation)と返金は可能である」という救済の道筋を明確に示したのです。これは、権利保全のために提訴に踏み切った企業にとって朗報と言えます。

しかし、この判断は「何もしなくても自動で返金される」ことを保証するものではありません。本稿では、この最新判断の核心部分と、企業が返金機会を逃さないために今すぐ整備すべき実務体制を解説します。


1. なぜ「関税清算」が返金の壁とされてきたか

まず、問題の背景を整理します。

  • 関税清算(Liquidation)とは?
    米国では、輸入時に支払う関税は「暫定額」です。その後CBP(税関・国境警備局)が申告内容を審査し、最終的な税額を確定させる手続きを清算と呼びます。清算は通常、輸入日から314日以内に行われます。
  • 清算後の制約
    清算が完了すると、その申告内容に対する不服申立て(Protest)は原則180日以内という厳しい時間制限が課されます。そのため、「IEEPA関税そのものが違法だ」という根源的な争いの場合、最高裁の判断を待つ間に清算と期限が過ぎてしまい、返金の道が閉ざされるのではないか、という強い懸念がありました。

この「手遅れリスク」を回避するため、コストコを含む多くの企業が、事前にCITへ提訴することで“返金請求権の保全”を図ってきました。


2. CIT判断の核心:「清算後も救済の道は残されている」

今回、AGS Company Automotive Solutions社などが原告となった訴訟で、CITは「清算手続きの停止(仮差止め)」を求める原告の訴えを退けました。しかし、その理由は極めてポジティブなものでした。

裁判所は、以下の2点を根拠に「差止めは不要」と判断しました。

  1. 政府の言質: 米国政府自身が「将来、IEEPA関税が違法と確定した場合は、再清算と利息付きの返金に応じる」と法廷で明言していること。
  2. 禁反言の法理: 上記の立場を前提に裁判所が判断した以上、政府が後から「やはり返金できない」と主張することは、禁反言(Judicial Estoppel)の法理によって許されないこと。

要するにCITは、「清算が進んでも、裁判所が再清算を命じて返金させる法的な道筋は確保されている。したがって、原告に“回復不能な損害”は生じない」と結論付けたのです。


3. 企業が今すぐ整えるべき「返金管理体制」チェックリスト

今回の判断は希望の光ですが、実際の返金は自動的には行われません。返金機会を最大化するため、企業は以下の準備を急ぐべきです。

  • A. 返金請求の主体(IOR)を特定する
    返金を請求できるのは、原則として輸入者(Importer of Record = IOR)のみです。商社や物流子会社がIORとなっている場合、誰が主体となって請求を行うのか、早期に整理が必要です。
  • B. 「IEEPA関税トラッカー」を作成し、影響額を可視化する
    以下の情報をエントリー番号(Entry No.)単位で一覧化し、いつでも提出できる状態を維持します。これは、法務判断(提訴の要否)と経理判断(引当金の計上)の両方を迅速化します。
    • 申告番号(Entry No.)
    • IEEPA関税の対象区分と税率
    • 納付関税額
    • 清算予定日(または清算済日)
  • C. 清算期限が迫る案件の対応方針を決める
    清算前の案件であれば、CBPに清算の延長(Extension)を申請する選択肢があります。より確実性を求めるなら、進行中の訴訟へ相乗り(Join)するか、独自に提訴することで権利を保全する動きが現実的です。
  • D. 清算済み案件も諦めない
    今回のCIT判断により、清算後も救済の道があることが示されました。ただし、手続きはより複雑になるため、プロテスト期限(清算後180日)などの期限管理は、通関業者任せにせず自社でも厳格に行うべきです。

結論:「希望」は生まれたが、「準備」なくして果実は得られない

今回のCIT判断は、IEEPA関税を支払ってきた企業にとって、大きな前進です。

  1. 清算が完了しても、裁判所の命令による返金の道が閉ざされないことが示された。
  2. しかし、自動返金は約束されておらず、企業側の主体的な行動(IORの特定、証跡管理、期限管理)がなければ、返金機会を逃すリスクは残る。

経営陣や実務担当者は、「最高裁の判断待ち」という受け身の姿勢ではなく、いつでも返金を請求できる“証跡・期限・体制”を今すぐ構築することが、将来の損失を最小化する上で不可欠です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、個別案件への法的助言ではありません。実際の対応は、米国通関および国際通商法務に精通した専門家と、具体的な事実関係に基づきご判断ください。