2028年問題への処方箋。日EU・EPA原産地規則の読み替え協議が示す実務の未来


2026年に入り、欧州ビジネスに関わる企業にとって見過ごすことのできない重要な協議が、日本とEUの当局間で開始されました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)に伴う、日EU・EPAの原産地規則(PSR)の取り扱いに関する公式な対応協議です。

多くの実務家が懸念していた、最新の通関コードと古い協定ルールのズレという問題に対し、当局が現実的な解決策を示そうとしています。本記事では、このニュースの深層にある実務的な課題と、企業が今から準備すべき対応について解説します。

時間が止まった協定と、動き続ける現実

まず、この問題の根本的な原因を整理します。

2019年に発効した日EU・EPAは、その原産地規則の基礎として2017年版のHSコード(HS 2017)を採用しています。条文の中に書かれている品目番号や関税分類変更基準などのルールは、すべて2017年時点の定義に基づいています。

一方で、貿易の現場で使用されるHSコードは、技術革新や環境対応を反映して約5年ごとに改正されます。2022年の改正を経て、次は2028年1月1日に大規模な改正(HS 2028)が予定されています。

ここで大きな矛盾が生じます。

2028年の輸入申告書には、最新のHS 2028コードを記載しなければなりません。しかし、その製品が関税ゼロになるかどうかを判定するルールブック(EPAの規則)は、依然として2017年版のコードを参照しているのです。この11年分のタイムラグが、現場に混乱をもたらす火種となっていました。

読み替え指針がもたらす実務の解像度

通常、EPAの原産地規則を新しいHSコードに対応させるには、協定そのものを改正する転換(Transposition)という手続きが必要です。しかし、これには膨大な時間と議会の承認プロセスが必要となり、2028年の発効には到底間に合いません。

そこで今回協議が開始されたのが、相関表を用いた運用ルールの策定です。

これは、協定の条文を書き換えるのではなく、運用上の解釈ルールを定めることで、HS 2028のコードとHS 2017ベースの規則を橋渡ししようという試みです。具体的には、新旧コードの相関表(Correlation Table)を公式に定義し、新しいコードで申告された製品が、旧コードのどのルールに従うべきかを明確にするガイドラインになると予想されます。

この指針が決まることで、企業は法的安定性を確保しながら、古いルールのまま新しいコードでの通関を行うことが可能になります。

企業に求められる二重管理の徹底

このニュースは朗報ですが、同時に企業に対してある覚悟を求めています。それは、通関用と原産地判定用という2つのHSコードを厳格に使い分ける二重管理体制の構築です。

読み替え指針が出るということは、逆説的に言えば、原産地判定の基準自体はHS 2017から変わらないことを意味します。つまり、2028年になっても、原産地証明の実務においては、あえて10年以上前の古いコード(HS 2017)に製品を当てはめ直し、その当時のルールで関税分類変更基準(CTC)などを満たしているかを確認しなければなりません。

実務の落とし穴

インボイスに記載する最新のコード(HS 2028)だけで原産地判定を行ってしまうと、HSの改正によって項番が変わっていた場合、誤ったルールを適用してしまうリスクがあります。

例えば、ある化学品が2028年版では項が変わったとしても、EPAの判定では2017年版の項に基づいたルール(CTHなど)を適用しなければなりません。この変換作業を誤ることは、事後調査(検認)において特恵否認される典型的なパターンです。

まとめ

今回の協議開始は、当局が2028年の混乱を未然に防ごうとする現実的な動きです。

企業の実務担当者が今すべきことは、社内の製品マスタにEPA判定用HSコード(HS 2017)という項目が確実に存在し、維持されているかを確認することです。

最新のコードさえ分かればよいという運用は、2028年には通用しなくなります。新旧のコードを紐付け、過去のルールを正しく参照できる体制を作っておくことこそが、将来の関税コスト削減を確実なものにします。

タイが守り抜くEVハブの座。電池材料の関税ゼロ延長が示す2027年までの勝負どころ


2026年2月、タイ政府は電気自動車(EV)向けバッテリーの製造に必要な重要原材料の輸入関税を免除する措置について、その期限を2027年末まで延長することを決定しました。

このニュースは、単なる減税措置の延長ではありません。東南アジアの自動車生産ハブとしての地位を死守しようとするタイの執念と、現地サプライチェーン構築までのタイムリミットが2年後に設定されたことを意味しています。

本記事では、この決定が電池メーカーや自動車部品サプライヤー、そしてタイに進出する日本企業のビジネス戦略にどのような影響を与えるのかを解説します。

猶予された2年間。現地調達の壁と政府の現実解

まず、なぜ政府はこのタイミングで延長を決めたのか、その背景にある事情を整理します。

タイ政府は、2030年までに国内自動車生産の30パーセントをゼロエミッション車(ZEV)にするという野心的な目標、いわゆる30@30政策を掲げています。この実現のためには、EVの心臓部であるバッテリーの国内生産が不可欠です。

しかし、バッテリーセルやモジュールを製造するための上流部材(正極材、負極材、セパレータ、電解液など)の現地サプライチェーンは、未だ発展途上にあります。これらに対し通常の輸入関税(多くは10パーセント前後)を課してしまえば、タイで作るバッテリーは中国本土で作るよりも割高になり、完成車メーカーがタイでの生産を躊躇する要因になりかねません。

今回の2027年までの延長措置は、国内の部材産業が育つまでの間、輸入部材に頼らざるを得ない現実を受け入れ、コスト競争力を維持するための現実的なつなぎ融資のような政策と言えます。

対象となる品目とコストインパクト

免税対象となるのは、現地で調達が困難な必須原材料や必須資材です。具体的には、リチウムやコバルト、ニッケルなどの加工済み化合物や、特定の化学フィルムなどが含まれます。

電池コストはEV車両価格の約3割から4割を占めると言われています。その部材関税がゼロになることは、最終製品の価格競争力に直結します。中国系メーカー(CATLやBYDなど)や、タイで電池生産を進める日系・欧州系メーカーにとって、この措置はタイ拠点の採算性を確保する生命線となります。

日本企業に求められる短期と中長期の二段構え

このニュースを受けて、関連する日本企業はどのように動くべきでしょうか。時間軸を分けて戦略を考える必要があります。

短期戦略:輸出ビジネスの継続と拡大

2027年末までは、日本や第三国からタイへ部材を輸出しても関税コストがかかりません。高機能な正極材や特殊な電解質を製造する日本の化学メーカーにとっては、タイの電池工場へ製品を送り込む絶好の機会が続きます。

特に、中国メーカーがタイに相次いで建設した電池工場が本格稼働を始めている今、高品質な部材への需要は急増しています。関税障壁がない今のうちに、スペックイン(採用決定)を勝ち取り、商流を太くしておくことが当面の優先事項です。

中長期戦略:2028年以降の現地化への布石

一方で、このボーナスタイムは2027年で終わるという明確な期限も示されました。タイ政府の最終目標はあくまで国内産業の育成です。2028年以降は、関税免除が打ち切られるか、あるいは現地調達率(ローカルコンテント)の要件が厳格化される可能性が極めて高いと見るべきです。

したがって、企業は2028年を見据えた現地化の検討を今から始める必要があります。単独での進出だけでなく、現地の石油化学大手(PTTなど)との合弁や、技術提携によるライセンス生産など、関税が復活した後も競争力を維持できる供給体制の青写真を描いておくことが、リスク管理となります。

まとめ

タイによるEV電池材料の関税ゼロ延長は、自動車産業のEVシフトという激流の中で、産業空洞化を防ぎたい政府の防衛策です。

関連企業にとっては、2年間の猶予期間が与えられました。この期間を単なるコストダウンの期間として享受するだけでなく、来るべき現地調達時代に向けた準備期間として有効活用できるかが、2028年以降のASEAN市場での勝敗を分けることになるでしょう。

エネルギー安保と輸出競争力の奪還。日GCC・FTAが2026年内署名へ


2026年2月2日、日本の貿易戦略において長年の懸案であった、湾岸協力会議(GCC)との自由貿易協定(FTA)交渉が最終局面を迎え、2026年内の署名を示唆する報道がなされました。

GCCとは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェート、バーレーン、オマーンの6カ国からなる中東の経済同盟です。

日本にとって、この地域は原油や天然ガスの最大の供給源であると同時に、自動車やプラント設備の重要な輸出先でもあります。今回のFTA妥結は、エネルギーの安定調達と、日本製品の輸出競争力の回復という二つの国益を同時に満たす歴史的な転換点となります。

本記事では、なぜ今この協定が急がれているのか、そして日本企業のビジネスにどのような恩恵をもたらすのかについて解説します。

遅すぎた再開と、韓国・中国への対抗心

日本とGCCのFTA交渉は、実は2006年に一度開始されましたが、2009年に中断し、長く凍結状態にありました。その間に世界の通商地図は大きく塗り替わりました。

最大の脅威となったのは競合国の動きです。韓国は2023年末にGCCとのFTAを実質妥結させ、中国も交渉を加速させています。

これまで日本車や日本製の鉄鋼製品は、中東市場において関税というハンデを負わずに戦えていましたが、韓国勢が関税撤廃の恩恵を受け始めると、価格競争力で圧倒的に不利な状況に追い込まれます。特に自動車産業において、中東は高付加価値な大型SUVなどが売れるドル箱市場です。他国にシェアを奪われる前に、同じ土俵に上がるための枠組み作りが急務となっていました。

今回の2026年内署名というスピード感は、まさに他国に奪われた先行者利益を取り戻そうとする日本政府と産業界の焦燥感と本気度の表れと言えます。

自動車・機械メーカーにとっての「5パーセントの壁」撤廃

ビジネスの現場において、このFTAがもたらす最大のインパクトは関税コストの削減です。

現在、GCC諸国は一般的に輸入品に対して5パーセントの共通関税(GCC対外共通関税)を課しています。日本の主力輸出品である自動車、トラック、建設機械、そして鉄鋼製品などは、基本的にこの5パーセントの課税対象です。

たかが5パーセントと思われるかもしれませんが、数百万、数千万円する製品における5パーセントは、利益率を大きく左右します。これが撤廃されれば、日本製品の価格競争力は即座に回復します。

特に、中東諸国が脱石油依存を掲げて推進している巨大都市開発プロジェクト(サウジアラビアのNEOMなど)において、日本の建設機械やインフラ設備が、韓国製や中国製と同じ無税の条件で入札に参加できるようになることは、商機拡大に直結します。

新時代のエネルギーパートナーシップ

輸入面に目を向けると、このFTAは単に原油を安く買うためだけのものではありません。日本はすでに原油の関税を低く抑えていますが、今回の協定の核心は次世代エネルギーです。

水素・アンモニア供給網の構築

日本が目指すグリーン・トランスフォーメーション(GX)において、燃焼してもCO2を出さない水素やアンモニアの活用は不可欠です。中東諸国は、豊富な日射量と天然ガス資源を背景に、世界で最も安価なブルーアンモニアやグリーン水素の供給地となりつつあります。

日GCC・FTAには、これら次世代燃料の投資ルールや安定供給に関する条項が盛り込まれる見通しです。商社やエネルギー企業にとっては、長期的な脱炭素燃料のサプライチェーンを、政府間協定という法的保護の下で構築できるメリットがあります。

サービス貿易と投資の自由化

モノの移動だけでなく、ヒトとカネの動きも活発化します。

現在、サウジアラビアやUAEは、ポスト・オイル時代を見据えて産業の多角化を急いでおり、エンターテインメント、医療、観光、AI技術といった分野への投資を歓迎しています。

FTAによってサービス貿易の規制緩和や、投資家保護のルールが明確化されれば、日本のサービス業やスタートアップ企業が中東市場へ進出するハードルが下がります。例えば、日本のゲームコンテンツやアニメ関連ビジネス、あるいは高度な医療サービスなどは、現地で非常に高い需要があり、関税や外資規制の緩和は大きな追い風となります。

まとめ

日GCC・FTAの2026年内署名は、日本の中東ビジネスにおける守りと攻めの両面を強化するものです。

守りにおいては、韓国勢に対する自動車市場での競争条件をイコールに戻し、エネルギー調達の盤石化を図る。攻めにおいては、インフラ輸出やコンテンツ産業の市場拡大を狙う。

企業の実務担当者は、来るべき関税撤廃を見据え、中東向けの価格戦略の見直しや、現地パートナーとの協業体制の強化に向けた準備を始めるべきタイミングに来ています。

RCEP経済圏の完全ペーパーレス化。電子原産地証明書e-COの相互認証合意がもたらす物流革命

2026年2月2日、世界最大の自由貿易圏であるRCEP(地域的な包括的経済連携)において、貿易実務の歴史を変える重要な合意がなされました。加盟する15カ国すべての間で、電子原産地証明書(e-CO)を完全に相互認証する運用体制が確立されたのです。

これまで、多くの国では関税優遇を受けるために紙の原産地証明書の原本提出が求められていました。あるいは、PDFでの送付が認められていても、国によっては運用が不安定で、現場の判断で原本を要求されるリスクが残っていました。

今回の合意は、それらすべてのアナログな制約を取り払い、デジタルデータのみで確実に関税ゼロの恩恵を受けられるようになったことを意味します。本記事では、この合意がアジアのサプライチェーンにどのような変革をもたらすのか、実務の視点から解説します。

紙の原本が不要になるという意味

まず、相互認証が合意されたことによる実務上の変化を整理します。これまでの貿易実務では、情報の流れ(電子データ)と、書類の流れ(紙)という二つの物流が存在していました。

貨物自体は航空便で翌日に到着しているのに、原産地証明書の原本が国際宅配便(クーリエ)での輸送中であるため、輸入通関ができずに空港で貨物が足止めされる。このような本末転倒な事態が、特に近隣のアジア諸国間では頻発していました。

今回の完全相互認証により、輸出国側の発給機関(商工会議所など)のシステムでCOが発給された瞬間、そのデータは輸入国側の税関システムでも正式な証明書として認識可能になります。つまり、貨物が到着する前に書類審査を完了させる予備審査制度の活用が、物理的な書類の到着を待つことなく確実に実行できるようになるのです。

企業が得られる3つの具体的メリット

この変化は、企業の損益計算書(PL)やバランスシート(BS)にも直接的な好影響を与えます。

物流コストと事務コストの削減

最も分かりやすいメリットは、原産地証明書の原本を輸送するための国際クーリエ費用の削減です。一件あたり数千円のコストであっても、年間で数千件の輸出入を行う企業にとっては無視できない金額になります。また、原本を封入し、発送を手配し、追跡番号を管理するという事務作業そのものが消滅します。

在庫回転率の向上と保管料の削減

原本待ちによる通関遅延が解消されることで、リードタイムが短縮されます。輸入通関が1日早まれば、それだけ在庫を圧縮することが可能になり、キャッシュフローが改善します。また、空港や港での保管料(デマレージやストレージ)が発生するリスクも極限まで低下します。

コンプライアンスリスクの低減

紙の書類は、紛失や汚損、あるいは改ざんのリスクと常に隣り合わせでした。また、現地税関担当者が紙の印影の濃淡などで難癖をつけてくるケースもありました。システム間連携によるデジタル認証になれば、こうしたヒューマンエラーや恣意的な判断が入る余地がなくなり、コンプライアンス上の安定性が飛躍的に高まります。

実務担当者が今すぐ見直すべき業務フロー

RCEP加盟国間でのe-CO完全相互認証を受けて、実務担当者は以下の点について業務フローの再設計を行う必要があります。

原本送付オペレーションの廃止

輸出業務においては、インボイスなどの船積書類一式を海外へ発送する業務から、原産地証明書を除外する必要があります。輸入者に対しては、今後は紙の原本を送付しない旨を通知し、データ共有の方法(PDF送付やシステム上の参照番号連絡など)を取り決めてください。

通関業者への指示徹底

輸入業務においては、通関業者に対して、RCEP税率の適用申請をe-COベースで行うよう指示を徹底する必要があります。通関業者の現場担当者が古い慣習のまま、原本がないと申告できないと思い込んでいる可能性があるため、今回の合意内容を共有し、電子データでの申告手続きを標準化させてください。

発給申請システムの確認

自社が利用している原産地証明書の発給申請システムが、今回のRCEP相互認証に対応したフォーマット(XMLデータ連携やQRコード付きPDFなど)で出力可能かを確認してください。日本の場合、日本商工会議所のシステムがこれに対応していますが、改めて最新の操作マニュアルを確認することをお勧めします。

まとめ

RCEPにおけるe-COの完全相互認証は、アジア全域の貿易が真の意味でデジタル化されたことを象徴する出来事です。

物理的な紙の移動というボトルネックが解消されたことで、RCEP協定が持つポテンシャル(関税削減効果)は最大限に発揮されることになります。このスピード感に対応し、紙を使わないクリーンで高速な物流体制を構築できた企業こそが、アジア市場での競争優位を確立できるでしょう。

RCEP:電子証明書交換の開始

RCEPの電子原産地証明書データ交換は、アジア向けビジネスの「事務コスト」と「通関リスク」を同時に下げる大きな仕組みです。ここでは、マレーシアと中国の取り組みを軸に、ビジネスマン目線でポイントを整理します。reuters+2

そもそも何が始まるのか

マレーシアと中国は、RCEPとASEAN中国FTA(ACFTA)に基づく原産地証明書の電子データ交換を2026年1月から開始します。第1フェーズでは、マレーシア側から中国側への「一方向」のライブデータ送信が対象となり、紙の証明書ではなく、政府間で原産地データが直接やり取りされます。miti+4

この電子交換は、マレーシアのナショナルシングルウィンドウと、中国税関の電子原産地データ交換システム(EODES)を接続して行われます。対象となるのは、ACFTAのForm EとRCEP原産地証明書で、いずれも特恵関税を適用するための中核書類です。thesun+2

電子証明書で何が変わるのか

マレーシア政府の公表によると、この仕組みの狙いは大きく三つです。miti+1

  1. 書類伝送時間の短縮
    紙の原産地証明書を国際宅配で送る必要がなくなり、データが税関間で直接送信されることで、伝送時間が大幅に短くなります。businesstimes+2
  2. 真偽確認の迅速化とセキュリティの向上
    税関当局同士が暗号化されたチャンネルでデータをやり取りするため、証明書の改ざんや第三者による不正利用のリスクが下がります。結果として、特恵関税適用の審査もスムーズになります。reuters+2
  3. 関税徴収と法令遵守の強化
    税関側は、電子データを活用して原産地情報を照合しやすくなり、適正な税率適用や徴収、違反の検知がしやすくなります。不正な原産地申告による過少申告を抑制する狙いも含まれています。reuters+1

言い換えると、「企業の事務は楽に、税関のチェックは厳密に」という構図です。

実務担当者にとってのメリット

ビジネスマン、とくに貿易やサプライチェーンに携わる人にとって、実務上のメリットは具体的です。

  1. 通関リードタイムの短縮
    原産地証明書の現物到着待ちで通関が止まるケースが減り、輸入側の倉庫滞留日数やデマレージリスクを抑えられます。特にリードタイムに敏感な電子機器や生鮮品では効果が大きくなります。thesun+2
  2. 紛失・再発行リスクの低減
    紙の証明書が紛失して再発行を依頼する、といったトラブルが減り、再発行に伴う時間とコストが削減されます。miti+1
  3. 事務プロセスの自動化の余地
    電子データが前提になることで、社内システムと通関関連データの連携がしやすくなり、将来的に原産地関連情報の自動登録や照合の仕組みを整えやすくなります。shigyo+1
  4. 原産地審査の透明性向上
    税関が原産地情報をシステム上で照会できるため、なぜ特恵関税が認められたのか、あるいは認められなかったのかという説明がクリアになりやすくなります。shigyo+2

注意すべきポイントとリスク

メリットが大きい一方で、企業側が注意すべき点もはっきりしています。

  1. 一方向の運用フェーズであること
    初期段階ではマレーシアから中国へのデータ送信が対象で、中国からマレーシアへの電子データ送信や、他国との相互接続は今後の検討事項です。そのため、すべての取引が一気に完全電子化されるわけではありません。businesstoday+2
  2. 原産地情報の誤りは即時に共有される
    一度送られた電子データに誤りがあると、訂正が必要な手続きも電子的に行うことになり、不正確なHSコードや原産地判定がそのまま税関側システムに届いてしまいます。アナログな「書き換え」や現物差し替えでごまかす余地は小さくなります。shigyo+1
  3. 社内データとの整合性確保
    インボイス、パッキングリスト、原産地証明データの内容が一致しているかどうかがより重視されます。例えば、RCEPでは原産地証明の申請時にHSコード、原産地規則、累積の有無などをオンラインで確認する必要があるため、社内マスタの精度が問われます。indonesia-vegetables+2
  4. システム対応の遅れ
    電子原産地証明を前提とする運用に、社内システムや社外のフォワーダーがどこまで対応できているかによって、効果が変わってきます。紙ベース前提の業務フローのままでは、メリットが十分に生かせません。kline+1

日本企業はどう備えるべきか

マレーシア中国間の取り組みですが、RCEP全体の流れとして見れば、日本企業にとっても早めに押さえておきたいポイントがいくつかあります。

  1. RCEP原産地証明のオンライン化に慣れておく
    日本では、RCEP原産地証明の取得は商工会議所のオンライン申請が基本となっており、HSコードや製品別規則の確認が前提になっています。マレーシア中国間の電子交換は、この流れをさらに一歩進めたものと捉えることができます。reuters+2
  2. 将来的な拡大を前提にした体制づくり
    シンガポールと中国の間でもRCEPに基づく電子原産地データ送信が進んでおり、中国税関はすでに電子原産地証明の送信を義務化しています。マレーシア中国間の取り組みは、その延長線上にあるものと言えます。今後、他のRCEP参加国にも電子データ交換が広がる可能性は高く、日本企業は「例外的なケース」ではなく「標準的な仕組み」として意識しておく必要があります。jetro+2
  3. 社内での原産地情報管理の高度化
    RCEPでは、原産地証明書だけでなく、承認輸出者による原産地自己申告(Statement on Origin)なども活用できます。インドネシアの例では、電子システムを通じて証明書を発行し、原産地基準や必要情報を明確に管理することが求められています。こうした動きは、日本企業にも同様の水準でのデータ管理やドキュメンテーションを求める方向に働きます。[indonesia-vegetables]​
  4. パートナー選定の基準を見直す
    フォワーダーや通関業者を選ぶ際に、RCEPやACFTAに対応した電子原産地証明の扱いに慣れているかどうか、電子システムとの連携実績があるかどうかを、評価軸として加える価値が出てきます。dimerco+2

まとめ:紙からデータへ、局所から標準へ

マレーシアと中国の電子原産地証明データ交換は、RCEPやACFTAにおける貿易手続きのデジタル化を本格化させる一歩と位置付けられています。書類の伝送時間短縮、セキュリティ向上、税関コンプライアンスの強化など、企業にとってのメリットとプレッシャーが同時に高まる仕組みです。thesun+2

日本企業にとって重要なのは、この動きを「他国の先進事例」として眺めるだけでなく、近い将来、自社のRCEP取引にも同様の水準が求められることを前提に準備を進めることです。具体的には、原産地情報の社内管理、オンライン申請スキル、パートナー選定基準の見直しなど、足元の業務から少しずつデジタル前提の体制に切り替えていくことが実務的な一歩になります。jetro+4

このように、RCEPの電子証明書交換は、一見すると技術的な話に見えますが、実際にはアジア全体の貿易ルールと日々のビジネスオペレーションを静かに変え始めているテーマと言えるでしょう。miti+2

南米の巨象が動いた日。ブラジルによる対中FTA予備交渉承認が告げる、欧米主導秩序の終焉

2026年2月2日、南米最大の経済大国ブラジルにおいて、世界経済のブロック化を決定づける極めて重要な政治判断が下されました。ブラジル政府の閣僚会議が、中国との自由貿易協定(FTA)締結に向けた予備交渉入りを正式に承認したのです。

これは、長年停滞していたメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの交渉に見切りをつけ、アジアの大国である中国との直接的な経済統合へとかじを切ったことを意味します。ブラジルが動いたことで、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイを含むメルコスール全体が、中国経済圏へと急速に雪崩れ込むシナリオが現実味を帯びてきました。

本記事では、この地政学的な大転換がなぜ今起きたのか、そして日本企業が南米市場で直面することになる過酷な競争環境について深掘り解説します。

25年の忍耐の末に選んだ、実利という名の決断

なぜブラジルは、長年のパートナーである欧米ではなく、中国を選んだのでしょうか。その背景には、EUとの交渉における深い失望と、中国が提示する実利的な魅力の対比があります。

四半世紀にわたり続けられてきたEUとのFTA交渉は、最終段階で環境保護や人権に関する追加要求(サイドレター)が突きつけられたことで、事実上の座礁に乗り上げました。ブラジル政府にとって、アマゾン開発への介入とも取れる欧米の姿勢は、主権侵害であり、経済成長を阻害する足かせと映りました。

対照的に、中国のアプローチは極めてシンプルです。政治や環境への注文はつけず、ブラジルの農産物や鉱物資源を安定的に購入し、見返りとしてインフラ投資と安価な工業製品を提供する。このビジネスライクな関係こそが、現在のブラジルが求めていたパートナーシップでした。今回の閣僚承認は、理念よりも国益を優先したブラジルの現実主義的な回答と言えます。

メルコスールの結束を維持するための対中シフト

これまでメルコスールには、加盟国が単独で域外の国とFTAを結ぶことを禁じるルールがありました。しかし、中国との早期FTAを望むウルグアイやパラグアイの突き上げにより、この結束は崩壊寸前でした。

ブラジルが今回、メルコスール全体としての対中交渉、あるいは中国との協定を容認する姿勢に転じたことは、組織の分裂を防ぐための苦肉の策でもあります。盟主であるブラジル自身が先頭に立って中国との交渉を進めることで、メルコスールの枠組みを維持しつつ、加盟国全体の総意として中国市場へのアクセス権を取りに行く戦略です。

日本企業に迫る関税格差の悪夢

このニュースは、ブラジル市場でビジネスを展開する日本企業、特に自動車メーカーや機械メーカーにとって、悪夢のようなシナリオの始まりを告げています。

ブラジルは現在、国内産業保護のために非常に高い関税障壁を設けています。例えば、完成車の輸入には35パーセントもの関税が課されています。日本企業は、この関税を回避するために現地工場に投資し、高いブラジルコストに耐えながら生産を続けてきました。

しかし、もし中国とのFTAが締結されれば、中国製の電気自動車(EV)や産業機械が、関税ゼロでブラジル市場に流入することになります。

現在でも価格競争力のある中国製品が、35パーセントのハンデを失い、無税で入ってくるとなれば、日本企業の現地生産車は価格面で太刀打ちできません。現地生産のメリットが消滅し、南米市場のシェアが一気に中国勢に塗り替えられるリスクがあります。

資源外交における中国の完全勝利

影響は工業製品の販売だけにとどまりません。ブラジルは鉄鉱石、大豆、そして次世代エネルギーに不可欠なレアメタルの宝庫です。

FTAの締結は、これらの戦略物資が優先的に中国へ供給されるパイプラインが完成することを意味します。日本や欧米が必要な資源を調達しようとした際、中国企業がすでに権益を押さえている、あるいは中国向けの輸出が最優先され、買い負けるという事態が常態化する恐れがあります。

まとめ

2026年2月2日のブラジルによる予備交渉承認は、南米が米国の裏庭でも欧州のパートナーでもなく、中国経済圏の一部となる未来を選択した歴史的な分岐点です。

日本企業は、南米市場を単なる新興国市場として見るのではなく、中国との直接対決の最前線として再認識する必要があります。関税障壁に守られていた時代は終わりました。圧倒的な価格競争力を持つ中国製品と、同じ土俵でどう戦うか、あるいはどう棲み分けるか。南米戦略の根本的な練り直しが求められています。

相互関税の裁判結果に関する最新ニュース

2026年2月1日(日)現在の最新情報を報告します。

結論から申し上げますと、米連邦最高裁判所は1月最終週も**「相互関税」の合法性をめぐる判決を下さず、再び判断を先送りにしました。**

これにより、判決は2月後半以降にずれ込むことが確実視されています。

最新の状況まとめ(2026年2月1日時点)

  • 最高裁は冬期休廷へ: 最高裁は現在、定例の冬期休廷期間に入っています。次の法廷での判決言い渡し(Opinion Day)は、早ければ休廷明けの2月20日(金)以降になると予想されています。
  • 「還付」への備え: 1、2審で「違憲」との判断が出ていることから、米税関・国境取締局(CBP)は、敗訴した場合の数千億ドル規模の還付作業を効率化するため、2月6日から還付金の支払いを原則電子送金に限定する新たな規則を適用します。これは政府側も「敗訴のリスク」を深刻に受け止めている兆候と見られています。
  • 政権による個別交渉の進展: 裁判の決着を待たず、トランプ政権は関税を武器に個別のディール(取引)を加速させています。
    • 中国: フェンタニル対策や貿易合意に基づき、一部の関税を42%から32%に引き下げることで合意しました(相互関税24%分を1年間停止)。
    • 欧州: グリーンランドに関する枠組み合意を条件に、一部諸国への追加関税の発動を当面見送っています。

今後の注目スケジュール

注目日出来事
2026年2月6日米税関による還付手続きの電子化運用開始(敗訴への備え)。
2026年2月20日以降最高裁の休廷明け。ここで判決が出る可能性が再び高まります。
2026年6月まで最高裁の現会期末。遅くともここがデッドラインです。

判決が遅れるほど、企業にとっては「もし違憲になれば還付金がもらえるのか、それとも別の名目で関税が継続されるのか」という不透明な状況が続くことになります。

中国の両用品目および技術輸出入許可証管理目録2026年版とは何か

中国の両用品目および技術輸出入許可証管理目録2026年版は、中国との取引に関わる企業のコンプライアンスとリスク管理の前提条件となる重要な制度改定である。日本企業にとっては、単なる規制強化ではなく、ビジネス戦略を見直すシグナルと捉える必要がある。[facebook]​

2026年版で何が変わったのか

中国商務部と海関総署は、2025年12月末に以下三つの目録の2026年版を公表し、いずれも2026年1月1日から施行した。[facebook]​

公表された三つの目録

  • 両用品目および技術輸出入許可証管理目録 2026年版
  • 輸出許可証管理貨物目録 2026年版
  • 輸入許可証管理貨物目録 2026年版

両用品目および技術輸出入許可証管理目録については、2024年末時点の目録をベースに、一部の専用材料や関連設備、化学製品などが追加されている。輸出許可証管理貨物目録では金属およびその製品の一部が見直され、輸入許可証管理貨物目録では船舶関連の項目統合などが行われた。[facebook]​

この一連の改定は、個別の規制ではなく、中国の輸出管理と貿易管理を一体的に強化する流れの一部として位置付けられる。[facebook]​

両用品目目録の狙いと位置付け

両用品目とは、本来は民生用途向けでありながら、軍事や安全保障分野などにも転用可能な物品・技術を指す。中国では、輸出管理法や両用品目輸出管理関連法令に基づき、対象品目の輸出入を許可制で管理している。[facebook]​

目録改定の目的

商務部は2026年版について、主に次の二点を目的としていると説明している。[facebook]​

  • 企業に対し、関連品目の参考となる商品名称とHSコードを提示すること
  • 企業のコンプライアンス経営を促進すること

つまり、どの品目が規制対象になり得るかについて、企業が判断しやすいよう一定の情報を提供する役割を持つ。ただし、目録はあくまで参考情報と位置付けられており、HSコードや品名が一致していても、実際の用途や性能などを踏まえた当局判断によって規制対象となる場合がある点には注意が必要である。[facebook]​

許可証が必要になる具体的な場面

今回の改定では、両用品目目録と輸出・輸入許可証管理貨物目録との関係性が整理されており、実務対応のポイントが明確になっている。[facebook]​

輸出側の基本ルール

輸出に関しては次のような整理が示されている。[facebook]​

  • 輸出許可証管理貨物目録に掲載される貨物のうち、それが両用品目輸出管理リストに含まれる、または臨時管理の両用品目に該当する場合には、輸出企業は両用品目および技術輸出許可証を取得しなければならない
  • 既に輸出許可証を保有している場合でも、両用品目および技術輸出許可証を別途取得していないときは、輸出時点で両用品目および技術輸出許可証の取得が求められる
  • 一方で、両用品目および技術輸出許可証を取得していれば、輸出許可証の申請は免除される

実務上は、次の三点を順番に確認することが重要になる。[facebook]​

  1. 両用品目輸出管理リストまたは臨時管理対象に該当するか
  2. 輸出許可証管理貨物目録に掲載されているか
  3. どの許可証を取得しなければならないか

この関係を誤解すると、許可証の取り違えや取得漏れが発生し、違法輸出や貨物差し止めにつながるリスクがある。[facebook]​

日本企業のビジネスに与える影響

2026年版目録は、日本企業に対して少なくとも三つの大きな影響を与える。[facebook]​

審査負荷の増大と新たな規制対象

一部の専用材料や設備、化学製品が新たに目録に追加されたことで、従来は許可不要と認識されていた品目が許可制の対象となっている可能性がある。半導体関連材料、精密加工用設備、高機能化学品などを扱う企業は、自社品目が目録や関連リストに近接していないかを重点的に確認する必要がある。[facebook]​

中国拠点の輸出管理強化

中国子会社や合弁会社から第三国へ製品を輸出している場合、中国側の輸出管理法令に基づく許可取得義務が直接の論点となる。日本本社の輸出管理だけでは不十分であり、中国拠点が現地ルールをどこまで理解し、社内規程と日々のオペレーションに反映できているかが問われる。[facebook]​

サプライチェーンとリードタイムへの影響

輸入許可証管理貨物目録の見直しにより、中国から調達している金属・金属製品や船舶関連品目などについて、輸出許可取得に時間がかかるケースが増える可能性がある。結果として、リードタイムの長期化や在庫水準の見直しが必要となり、日本側の納期管理にも影響が及び得る。[facebook]​

企業が今すぐ取るべき実務対応

ビジネスパーソンの立場からは、次のステップで対応を進めることが現実的である。

ステップ1 自社品目と目録の照合

中国向け、または中国拠点からの輸出入がある製品について、最新版目録のHSコードと商品名称を照合する。特に専用材料、特定用途向け設備、化学品については、規制強化の対象となりやすいため重点的に確認すべきである。[facebook]​

ステップ2 プロセスと責任分担の整理

営業や調達の現場で、どの案件から事前審査が必要かをルール化し、文書として明確にする。中国子会社が関与する取引については、本社と現地のどちらが最終判断を行うか、責任分担をあらかじめ定めておく必要がある。[facebook]​

ステップ3 契約と納期リスクの織り込み

長期契約では、輸出入許可取得に伴う遅延リスクをどの当事者が負担するかを契約条項で明文化することが望ましい。新規案件では、許可取得プロセスを前提にした納期設定や在庫方針を検討し、余裕を持ったスケジュールにすることが重要になる。[facebook]​

ステップ4 他国の輸出管理との整合性確認

日本、米国、EUなど他国の輸出管理規制との重複や相違を把握し、対応に抜け漏れが生じないようにする。社内システム上では、制限品目フラグを一元的に管理し、中国向けの案件だけ別扱いにならないよう運用を統一することが望ましい。[facebook]​

経営レベルで意識すべきポイント

両用品目管理は、現場任せにできない経営課題でもある。経営層としては、次の論点を意識しておく必要がある。

中国ビジネスのリスクプロファイル

輸出入許可制度の強化は、手続き面の負担増だけでなく、規制範囲や運用が短期間で変化し得る不確実性の高さを意味する。製造、調達、販売のそれぞれについて、中国市場への依存度とリスク許容度を踏まえたシナリオを検討することが求められる。[facebook]​

パートナー企業のコンプライアンス水準

中国のサプライヤーや販売代理店が、輸出入管理のルールをどの程度理解し、社内統制として運用できているかによって、自社のリスクも変動する。取引先選定や定期的な監査において、輸出管理コンプライアンスを明確な評価項目として組み込む必要がある。[facebook]​

情報収集と社内教育の継続性

目録や関連法令は毎年のように改定が続いており、一度整備したルールやマニュアルも数年で実態と乖離する可能性がある。最新情報を継続的に収集し、それを社内規程と教育プログラムに反映させる体制づくりが重要である。[facebook]​

中国ビジネスにおいては、こうした規制を正しく理解し、前提条件として組み込める企業ほど、中長期的に優位に立ちやすい。輸出管理を単なる制約ではなく、参入障壁を乗り越えるための前提コストと捉える発想への転換が、今後ますます求められる。[facebook]​

日中韓FTA交渉の再起動の焦点

合意の中身より先に、企業が押さえるべき実務論点

日中韓FTAは、交渉そのものは長く停滞していたのに、政治日程と経済環境の変化で再び注目の中心に戻ってきました。交渉会合は2019年以降、公式には開催されていないと整理されてきた一方で、首脳・閣僚レベルでは「交渉を進める」方向性が改めて確認される場面が増えています。
こうした状況を踏まえると、再起動の焦点は、単に交渉が再開するかではなく、どの論点が先に動き、どこが最初のボトルネックになるかを見極めることにあります。


1 そもそも「再起動」とは何を指すのか

ニュースで「交渉再開」と言われても、実務的には段階がいくつもあります。大きくは次の順序です。

第一に、首脳・閣僚が交渉を進める政治意思を確認する。
第二に、担当者レベルで論点と作業計画を再設定する。
第三に、交渉会合(ラウンド)を公式に開催し、市場アクセスやルール文案を動かす。

現段階で確度が高いのは、第一と第二の動きが再び見え始めていることです。一方で、第三の交渉会合が継続的に回り出すかは、政治要因と実務論点の両方に左右されます。企業側としては、交渉が動き出すための条件と、動き出した後に最初に揉める論点の両方を押さえる必要があります。


2 なぜ今、日中韓FTAが再浮上するのか

2-1 域外リスクの上昇で、域内の取引コストが相対的に重要になった

世界的に保護主義リスクや関税リスクが高まる局面では、域内での関税・手続コストを下げる議論が現実味を帯びます。日中韓の枠組みは、輸出先の不確実性が増えるほど、調達・生産・販売の選択肢を広げる補助線として再評価されやすい構造にあります。

2-2 RCEPは土台になったが、企業が欲しいのは上乗せ

日中韓はすでにRCEPの枠内にあります。だからこそ、日中韓FTAの価値は、RCEPの上に何を追加できるかに集約されます。関税引下げを上積みできるのか、原産地規則や通関手続で運用負担をどこまで減らせるのか。ここが企業の実益を左右します。

2-3 供給網と経済安全保障が貿易ルールに入り込んできた

近年は、サプライチェーン強靱化、重要物資、輸出管理など、従来はFTAの周縁に置かれがちだったテーマが前面に出ています。これは交渉の難易度を上げる一方で、企業から見れば「不確実性を減らす対話枠組み」としての価値も持ち得ます。


3 再起動の焦点はどこか

ここからが実務の本丸です。交渉が再開すると、最初に詰める論点はだいたい決まっています。企業側は、結論が出てから対応するのではなく、論点ごとに自社への影響を見える化しておくことが重要です。

3-1 市場アクセスの設計

関税撤廃率、除外品目、段階引下げの年数

FTAの成果は、最終的にどの品目が、いつ、どこまで下がるかで決まります。日中韓は産業構造が似ているため、競合が強い分野ほど例外や長期段階化が増えやすい傾向があります。ここがRCEPとの差分になりにくい場合、企業にとっての実益が薄れます。再起動後の焦点は、関税率の数字そのもの以上に、どの分野で差が出る設計になるかです。

3-2 原産地規則の上乗せ

累積、デミニミス、自己証明、手続簡素化

企業が本当に欲しいのは、関税率そのもの以上に、原産地判定と証明の運用が軽くなることです。日中韓のサプライチェーンは部材が行き来するため、累積の扱いが実務インパクトを左右します。RCEPに近い設計に留まるのか、より使いやすい累積や簡素化が入るのかが、再起動後の最重要論点の一つになります。

3-3 デジタル・電子商取引

越境データ、セキュリティ、電子文書の受入れ

製造業でも、受発注、物流、インボイス、原産地証明関連の電子化が進み、データの越境移転やセキュリティ要求が運用コストを直接左右します。再起動後は、企業内規程や取引先要求に直結する論点として、条文の方向性を早めに把握する価値があります。

3-4 サービス・投資

ネガティブリスト、現地要件、投資保護の設計

日中韓FTAは物品だけでなく、投資やサービスを含む包括協定として議論されてきました。この分野は、関税よりも、現地拠点の運営、技術移転、ガバナンス、紛争時の保護に効いてきます。どこまで踏み込むかが、企業にとってのリスクと機会の分かれ目になります。

3-5 経済安全保障と輸出管理の扱い

協力の枠にするのか、例外条項で逃がすのか

再起動の難所になりやすいのがここです。FTA本文で踏み込むのか、協議の枠組みだけに留めるのか、あるいは安全保障例外で幅広く逃がすのか。企業側は、政治的緊張が高まった場合の供給網寸断を前提に、二重三重の調達・生産シナリオを持つ必要があります。

3-6 非関税分野の実装

TBT、SPS、通関手続、相互承認の現実性

関税が下がっても、認証、規格、検疫、通関手続が重いままだと取引コストは落ちません。日中韓の取引では、規格適合、表示、検査、追加書類などがリードタイムとコストを左右しやすい。企業にとっては、関税よりこちらのほうが効くケースもあります。再起動の焦点は、非関税分野が「協力宣言」で終わるのか、「実装可能なルール」に落ちるのかです。


4 交渉を止めてきた要因と、再起動のボトルネック

交渉は技術論だけでは動きません。過去に止まった理由が、再起動の足かせとして残ります。

政治・安全保障の緊張が高まると、FTAは後回しになりやすい。
貿易と無関係に見える問題が、経済関係に波及する。
輸出管理や制裁、対立が、投資と技術移転の議論を難しくする。

このため、再起動は「声明は出るが、ラウンドが回らない」状態になりやすいことを、企業側は織り込む必要があります。交渉の進展が断続的でも、企業実務は先に準備した側が得をします。


5 企業がいま準備すべきこと

交渉の結論待ちをやめる

日中韓FTAは、妥結するかどうかも、いつ動くかも不確実です。だからこそ、準備は交渉の外で進めるのが合理的です。

5-1 影響を3層に分けて試算する

関税率の変化で損益が動く品目
原産地規則の運用で調達先が動く品目
認証や規格でリードタイムが動く品目

5-2 原産地と分類の証憑を先に整える

FTAは適用して終わりではなく、後日検証が来ます。品目分類の根拠、部材表、工程、原価、輸送条件を一体で説明できる状態を平時から用意しておくと、交渉が動いた瞬間に適用検討へ入れます。特に日中韓のように部材が混在しやすい地域では、累積やデミニミスの設計次第で、必要な証憑が変わります。

5-3 契約条項を、関税と規制の変動前提にする

価格条項、関税負担の帰属、原産地証明の責任分界、監査対応の協力義務。これらはFTAの有無にかかわらず効きます。交渉が再起動すると、取引先から要求が急に強まる領域なので、先に雛形を整えておくと交渉力が落ちません。


まとめ

再起動の焦点は、関税より先に運用をどう変えるか

日中韓FTA交渉の再起動で最も重要なのは、関税率の数字だけを追いかけないことです。RCEPの上に何を上乗せし、原産地、デジタル、投資、非関税措置、そして経済安全保障の不確実性を、企業が運用可能なルールに落とし込めるか。ここが実益の核心です。

結論が出てから準備するのでは遅い。いま必要なのは、自社の品目とサプライチェーンを論点別に分解し、どの条文案が来ても対応できる状態を作ることです。交渉が本格的に回り出したとき、準備済みの企業は、適用の可否判断も、価格交渉も、監査対応も、一段速く動けます。

トランプ関税が日本の自動車産業に突きつけた現実~ゴールドマン試算を起点に、製造業の論点と打ち手を整理する~


2026年3月期に向けて、日本の製造業が直面している最大の不確実性のひとつが、米国の関税政策です。とりわけ自動車は、日本にとって最大の対米輸出品目であり、乗用車の関税が従来の2.5%から27.5%へ引き上がり得るという前提のもとで、経済への押し下げ影響が議論されてきました。(Reuters Japan)

この局面で注目を集めたのが、ゴールドマン・サックス証券のアナリストによる試算です。ロイターは、関税の影響を相殺するため各社が値上げし、その結果として米国での販売台数が減少するという前提のもと、2026年3月期の営業利益押し下げ額を報じました。(Reuters Japan)

ただし重要なのは、数字を眺めるだけでは本質が見えない点です。関税は「輸出のコスト増」であると同時に、「需要の価格弾力性」「北米のサプライチェーン構造」「事務負担とキャッシュフロー」まで含めた経営課題として現れます。本稿では、ゴールドマン試算を出発点に、ビジネスパーソンが押さえるべき論点を深掘りします。

1 まず前提を更新する:関税率は動き、制度も複線化している

最初に押さえるべきは、関税が固定された単一の税率ではなく、政治交渉や大統領令で前提が動くリスクそのものだという点です。

2025年3月時点の報道では、乗用車関税は2.5%から27.5%への引き上げが見込まれました。(Reuters Japan)

その後、ドナルド・トランプ政権は日米合意の枠組みを進め、日本から輸入される自動車の関税を27.5%から15%へ引き下げる大統領令に署名したとロイターが伝えています。(Reuters)

この枠組みは、ホワイトハウスの文書でも、原則15%をベースラインにしつつ、自動車と自動車部品など一部はセクター別の扱いがあると明記されています。(The White House)

さらに、制度面では「15%は既存のMFN税率に上乗せして積み上がるのではなく、原則として込みの扱い」といった設計も整理されています。(Congress.gov)

一方で、関税が15%になったから安心、とはなりません。ロイターは、15%でも従来2.5%の6倍であり、負担水準としては依然高いことを指摘しています。(Reuters)

また、日米合意での引き下げは、メキシコやカナダなど北米の主要生産拠点から米国へ出荷する車両には適用されない点も報じられています。北米の貿易協定の条件を満たす車両は米国以外の内容分に課税される仕組みなど、制度は複雑です。(Reuters)

ここまででわかるのは、関税リスクは単年度の損益だけでなく、制度変更や適用範囲の違いを織り込むマネジメントが必要だということです。

2 ゴールドマン試算を読み解く:同じ金額でも重みが違う

まず、2026年3月期の営業利益押し下げについて、報道ベースの数字を整理します。ロイターは主要5社の押し下げ額を報じています。(Reuters Japan)

加えて、三菱UFJ銀行の情報サイトであるMoney Canvasは、スズキを除く日系6社として、減少率も含めた形で紹介しています。(Money Canvas 学びながらできる投資 | 三菱UFJ銀行)

以下は、その整理です。

メーカー2026年3月期 営業利益の押し下げ試算営業利益予想に対する減少率の目安
トヨタ自動車3,400億円6%
ホンダ1,200億円8%
日産自動車1,100億円56%
マツダ1,100億円59%
SUBARU900億円23%
三菱自動車300億円22%

出所:ロイター報道の押し下げ額(トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、SUBARU)およびMoney Canvasで紹介された6社整理。(Reuters Japan)

ここでビジネス上の示唆は明確です。トヨタの3,400億円は金額として最大ですが、減少率でみれば一桁台にとどまる一方、日産やマツダは半分超の水準が示されています。(Money Canvas 学びながらできる投資 | 三菱UFJ銀行)

同じ関税ショックでも、利益体力と米国市場依存度によって「耐え方」がまるで違うのです。

加えて、ロイターが報じた前提は、関税を相殺するための値上げと、その結果としての販売減です。これは、関税が単なるコスト増ではなく、需要側の反応を通じて数量とミックスを揺らす、という意味になります。(Reuters Japan)

3 なぜ自動車が最も揺れるのか:3つの構造要因

1つ目は、対米輸出における構造的な比重です。財務省の貿易統計としてロイターが紹介したところによれば、2024年の対米輸出は21兆2,947億円で、そのうち自動車は28.3%の6兆264億円と最大割合です。部品まで含めると34.1%の7兆2,574億円に膨らむとされています。(Reuters Japan)

つまり自動車関税の揺れは、完成車メーカーだけの話ではなく、サプライヤーを含めた輸出ビジネス全体の話になります。

2つ目は、雇用と裾野の広さです。ロイターは、自動車が全産業の1割を雇用する基幹産業であり、輸送用機器全体ではGDPの約3%を占めると伝えています。(Reuters Japan)

この規模感から考えると、関税の影響は企業単体の損益を超え、地域経済、下請け、物流、設備投資の意思決定まで波及します。

3つ目は、北米にまたがる生産と輸出の実態です。日本自動車工業会のデータとしてロイターが示したところでは、2023年の国内生産は899万9,000台で、輸出は442万3,000台、米国向けは148万5,641台です。(Reuters Japan)

また、各社の米国販売と現地生産、日本からの輸出、さらにメキシコを含む北米の生産配置まで具体的に報じられています。(Reuters Japan)

このように、関税は「日本から米国へ輸出する車にかかる」だけで終わらず、「北米域内で部品と車が国境を越えるたびに影響し得る」構造を持っています。

4 経営インパクトは損益計算書だけではない:キャッシュフローと事務コスト

関税議論が損益の話に偏ると、見落としが出ます。近年、現場で効いているのはキャッシュフローと実務コストです。

日本貿易振興機構(ジェトロ)は、在米の日系自動車関連企業へのヒアリングとして、関税コストの価格転嫁だけでなく、関税率変更による支払い負担、価格交渉、関税が前払いでキャッシュフローに影響する点、さらに書類作成など事務負担が増えている点を紹介しています。(ジェトロ)

つまり、関税は「利益率を削るコスト」だけでなく、「運転資金を圧迫する前払い負担」と「バックオフィスの工数増」を同時に発生させます。ここは製造業全般で共通しやすい論点です。

またジェトロは、米国の平均車両販売価格が2025年11月に4万9,814ドルで前年同月比1.3%増にとどまったとし、現時点では価格転嫁が限定的だという見方も示しています。(ジェトロ)

価格を上げ切れない局面では、利益の吸収とコスト削減が先行し、サプライチェーン全体の交渉が厳しくなります。

5 その後の現実:企業の見積もりはさらに大きくなることがある

ゴールドマン試算は重要な出発点ですが、その後の企業側の見積もりがさらに大きいケースが出ています。

ロイターによると、トヨタは米国向け輸入車関税などによる影響を約1.4兆円と見込み、2026年3月期の通期営業利益見通しを引き下げました。この見積もりには、米国内で日本から部品を輸入するサプライヤーが受ける影響なども含まれると説明されています。(Reuters)

ここから読み取れるのは、関税影響は「完成車の輸出分の単純計算」では収まらず、サプライヤー起因のコスト、域内越境の部品・車両移動、鉄鋼やアルミなど別関税の影響まで束ねて効き得るという点です。(Reuters)

また、ジェトロの整理でも、日系メーカーとしてトヨタ、ホンダ、日産、スバルが追加関税によるコストを試算していることが紹介されています。(ジェトロ)

数字の大小よりも、企業が外部環境を「見積もらざるを得ない」局面に入っていること自体が、投資計画や価格戦略の難易度を押し上げています。

6 ビジネスパーソン向け:自社で検討すべき打ち手の優先順位

最後に、製造業の実務としての打ち手を、優先順位の観点で整理します。ポイントは、関税率の議論に振り回されるのではなく、変動前提で動けるようにすることです。

1 価格転嫁の設計を、顧客別に分解する

一律の値上げは最も反発を招きやすい一方、何もしないと利益が削れます。製品別、顧客別、契約別に、どこまで転嫁でき、どこは数量が落ちるかを分解し、交渉の材料を事前に用意することが重要です。ジェトロのヒアリングでも、関税コストを開示して説明することで転嫁を進める企業がある一方、回収が遅れている例も示されています。(ジェトロ)

2 生産移管は、在庫と設備の時間軸で考える

生産移管は中長期の最適化ですが、短期は在庫政策と出荷ルートの見直しで凌ぐことが多い。特に北米では、メキシコやカナダから米国に入る車の扱いなど、適用範囲の違いが利益を左右します。(Reuters)

3 調達の現地化は、原産地要件とセットで見る

北米のサプライチェーンでは、原産地要件を巡る要求が強まることがあります。ジェトロは、米国OEMやティア1がティア2に対して北米以外から輸入された材料の使用中止を求める事例などを紹介しています。(ジェトロ)

現地化は調達先を変えるだけでなく、品質保証、監査、開発体制の再設計も必要です。

4 事務コストと資金繰りを、経営指標に組み込む

関税は前払いであり、書類の作成や申告手続きも増えます。これは販管費ではなく、キャッシュフローと運転資金、そして人員配置の問題です。(ジェトロ)

経理、物流、法務、調達が横串で動ける体制がないと、現場が詰まります。

5 公的支援や相談窓口を、早めに使う

国内では経済産業省が米国関税に関するワンストップの情報提供や相談窓口案内を行っています。自社だけで抱え込むより、制度確認や資金繰り相談を早めに繋ぐ方が、意思決定が速くなります。(経済産業省)

まとめ:製造業にとっての本当の論点は、変動前提の経営力

ゴールドマン試算の3,400億円は、確かに大きな数字です。しかし本質は、関税が利益を削るという一点よりも、制度変更が繰り返される中で、価格、数量、サプライチェーン、キャッシュフローが同時に揺さぶられることにあります。(Reuters Japan)

だからこそ、ビジネスパーソンに必要なのは、関税率の当てものではなく、どの税率でも破綻しない計画と、変更が来たときに即座に切り替えられる設計です。制度面でも、15%の扱いやセクター別措置、さらには履行状況によって見直され得る枠組みが整理されています。(Congress.gov)

製造業の強みは、本来、現場の改善とサプライチェーンの組み替えにあります。関税という外生ショックを、短期は守りの資金繰りと交渉で耐え、中長期は生産と調達の最適化で取り返す。その設計図を、今年度のうちに言語化しておくことが、2026年3月期の変動耐性を大きく左右します。