FTA原産地証明監査で見えた、現場がつまずく2つの盲点

証拠書類とHSコードが揃っていても、監査で崩れる理由

監査のご依頼を受けました

ある企業様から、FTA原産地証明に関する証拠書類の監査をご依頼いただきました。
今回は、共同でご一緒する機会の多いTSストラテジー株式会社 代表の藤森様と連携し、現場ヒアリングから証拠書類の整合確認まで、実務目線で監査を実施しました。

監査の目的は「書類の有無」ではなく「説明できる状態」か

原産地証明は、発給や申告の時点で完了ではありません。輸入国税関の事後検証など、後から説明を求められる局面で、根拠を一貫して示せるかが勝負になります。
そのため監査では、書類があるかどうか以上に、次の点を重視します。
・判断の前提が明確か
・証拠が一本のストーリーとしてつながるか
・第三者に説明しても結論がぶれないか

現場で見えた課題

対象企業様は、担当者の皆様が非常に努力されており、資料もよく整備されていました。一方で、監査の観点から見ると、将来の検証局面でリスクになり得るポイントがいくつか見つかりました。

課題1 証拠書類の作り方が属人化しやすい

検認や事後検証の経験が少ない場合、資料は揃っていても、次のような状態になりがちです。
・どの書類が、どの論点を支えるのかが明示されていない
・部材表、工程、計算、原産地証明の主張が、相互参照できない
・担当者が変わると、同じ結論でも説明の組み立てが変わる

この状態は、普段の運用では気づきにくい一方で、検証局面では弱点として表面化します。

課題2 HSコード付番とCTC判定の前提が揺らぐ

今回、特に気になったのが、完成品のHSコードと、CTC判定に用いる部材HSコードの付番根拠でした。
CTCは、前提となるHSコードが変われば結論が変わる制度です。つまり、HSコードの根拠が弱いままCTCを組むと、証明書や申告全体の説明力が落ちます。

なぜHSコードのズレが監査で致命傷になるのか

HSコードは、FTAの原産地規則を適用する起点です。ここが揺らぐと、以降のロジックが連鎖的に崩れます。

CTCはHSコードの差分を証明する仕組み

CTCは、材料と製品の分類差に着目して原産性を説明する枠組みです。
そのため、材料HSの付番が不安定だと、次のような疑義が生まれます。
・材料側の分類が適切か
・差分の前提が正しいか
・製品側の分類が変わった場合、結論は維持できるか

人に依存した付番は、再現性の壁にぶつかりやすい

現場の経験は重要ですが、人の判断だけに依存すると、担当者差や拠点差で結論が微妙に揺れることがあります。監査で問われるのは、経験の有無よりも、第三者が追試できる根拠の形です。

そこで今回、HS Code Finder(HSCF)を用いた付番事例と、企業様の現行付番結果を突合し、差分が生じる箇所を中心に根拠の補強ポイントを整理しました。
重要なのは、ツールが正しいと言い切ることではなく、差分が出たときに、なぜその分類が妥当かを説明できる状態にすることです。

監査で行ったこと

監査では、単なる指摘ではなく、次に何を整えれば説明力が上がるかまで落とし込みます。

1 原産地主張のストーリーを再構築

・製品の分類根拠
・適用する原産地規則
・部材情報と工程情報
・証拠書類の配置
これらを、第三者が追える順序に並べ替え、説明の骨格を整えました。

2 HSコードとCTC判定の整合を重点点検

・完成品HSの根拠確認
・主要部材HSの根拠確認
・CTC判定の前提となる比較軸の妥当性確認
差分が出る箇所は、どの資料を追加すれば強くなるかまで具体化しました。

3 組織体制と運用ルールの改善提案

・誰が分類判断を承認するのか
・どのタイミングで更新するのか
・変更時にどこまで遡って影響確認するのか
監査対応は、担当者の頑張りだけでは限界があります。仕組みで守れる体制にすることが、継続運用の鍵になります。

当社のFTA監査支援で提供できること

当社では、HSコードの確認に加え、FTA原産地証明の弱点がどこで露呈するかを監査視点で点検し、実務に落ちる改善策までご提案します。

監査で扱う主な領域

・原産地証明の主張と証拠の整合性
・HSコード付番根拠の妥当性と再現性
・CTCを含む原産地規則の前提確認
・証拠書類の不足箇所の特定と補強案
・運用ルール、承認体制、変更管理の設計

こんな状態なら、早めの監査が効果的です

・担当者が変わると説明に不安が残る
・部材HSの根拠が担当者の経験に依存している
・品目追加や設計変更のたびに原産判定が揺れる
・取引先や輸入国側から、根拠提示を求められることが増えてきた

ご相談について

監査は、問題を指摘するためではなく、説明できる状態を作るための投資です。
現状の資料を前提に、どこを補強すれば監査耐性が上がるかを短期間で可視化できます。
FTA原産地証明の監査、HSコードとCTCの整合点検、体制整備のご相談があればお問い合わせください。

インド向け輸入実務で、HSコードの誤記載が単なる事務ミスとして扱われにくくなっています。

背景にあるのは、海上貨物情報の提出ルールを刷新するSCMTRの運用高度化と、それを支える関税法(Customs Act, 1962)の罰則枠組みです。

インド税関のSCMTR関連文書と関税法条文、税関ゾーンの公示(Public Notice)を確認できます(下記参照)。

・ICEGATE(インド税関EDIポータル)のSCMTR利用者向けアドバイザリにおいて、Arrival Manifest(到着マニフェスト)に8桁HSコードの記載が必須であることが明記されています。
・SCMTR(Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018)自体が、到着・出港マニフェストの提出タイミングを前倒しし、誤りや遅延がある場合の取扱い(修正・補完の許容条件)を規定しています。
・関税法(Customs Act, 1962)第30条は、マニフェスト提出遅延に対する罰金(上限5万ルピー)と、内容が不完全・不正確な場合の補正許容(不正意図なしの場合)を規定しています。
・同法第114AA条は、虚偽または重要事項の不正確な申告・書類利用を「故意に」行った場合、貨物価値の5倍までの罰金を規定しています。
・税関ゾーン単位では、SCMTRの新フォーマット提出を港ごとに段階的に必須化する公示が出ており、実務移行が「運用として」進んでいます(例:Chennai Customs)。

厳格化は、単に「罰金額が上がった」という話に限りません。実務上は次の2層で効いてきます。

SCMTRは、従来のIGMに代わるArrival Manifest等を、最終外国寄港地からの出港前に電子提出する運用へ寄せています。ここでHSコード(少なくとも所定桁数)が必須項目として扱われ、欠落・不整合があると、訂正対応や照会でリードタイムが伸びやすくなります。

関税法第30条は、マニフェストの提出遅延に対して上限5万ルピーの罰金を置きつつ、内容が不正確・不完全でも「不正意図なし」であれば補正を許容する枠組みを持っています。つまり、誤記載が発見されたときに「直ちに罰則」ではなく、「迅速な補正と説明で収束できる余地」が制度上は残っています。

一方で、誤ったHSコードが、関税回避や規制逃れ(輸入規制・認証対象の回避など)と結びつくと、虚偽・重要事項の不正確記載として第114AA条の射程に入り得ます(貨物価値の5倍までの罰金)。

HSコードの誤りは、単発の訂正で終わらず、マスターデータに誤りが残ると同一品番の再出荷で繰り返します。SCMTRのように事前提出が前提になると、港到着後に気づくのではなく、出港前後に差戻しが発生し、輸送計画そのものに影響します。

誤分類による追徴リスクに加え、滞船料・保管料、納期遅延の違約金、緊急輸送への切替コストが膨らみます。加えて、マニフェストの不備は物流事業者側の修正費用や手数料に転嫁されやすく、総コストが見えにくい形で増えます。

制度上、誤りの補正が許容される場合でも、説明が弱いと「なぜそのHSだったのか」「誰が判断したのか」「同種案件がないか」という論点に発展しやすい。ここで社内統制が弱いと、個別ミスが組織的リスクに格上げされます。虚偽・重要事項の不正確記載と評価されると、制裁は急に重くなります。

・誰が最終判断者か(貿易管理、品目分類担当、外部専門家)
・判断根拠(GRI、品目の機能・材質・用途、類似裁定、社内標準)
・インド固有の8桁運用(ITC(HS)相当)の扱い

この3点を最低限ひも付け、監査で再現できる状態にします。

・インボイス品名と梱包明細の品目説明
・HSコード(6桁と8桁)
・マニフェスト/申告データ(Arrival ManifestやBill of Entryに連なる情報)

書類間で品目説明とHSがずれていると、誤記載として見つかりやすくなります。SCMTRはまさにこの整合性を前提に設計されています。

・発見した時点で、補正の可否と必要資料を即判断
・不正意図がないことを示す材料(社内承認記録、仕様書、過去の一貫性)を添付
・補正の根拠として、制度上の補正許容(不正意図なし)を踏まえて説明

関税法第30条およびSCMTRには、不正意図がない不完全・不正確について補正を許容する設計が読み取れます。

SCMTRは段階的に新フォーマット必須化が進みます。例えばChennai Customsでは港ごとに必須化日程が公示されています。自社貨物が入る港とフォワーダーの運用準備がずれていると、誤記載が「訂正の遅れ」へ連鎖しやすくなります。

・主要品目のHSコードは、直近12か月で再検証したか
・HSコードと品目説明の整合を、出荷前に機械的に検知できるか
・誤記載が見つかったとき、補正と説明のテンプレートがあるか
・物流パートナーに渡すHSコードは「単なる情報」ではなく、社内承認済みのものか
・故意と見られないための記録(判断根拠・承認ログ)を保持しているか

・ICEGATE:SCMTR利用者向けアドバイザリ(Arrival Manifestに8桁HS必須の記載あり)
・Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018(SCMTR本体。誤り・遅延時の補正の考え方を含む)
・Customs Act, 1962(第30条:マニフェスト遅延罰と補正、第114AA条:虚偽・重要事項の不正確記載の罰則)
・Chennai Customs:SCMTRの段階的必須化に関するPublic Notice(港別の適用日程)

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

英国のCPTPP加盟で変わる対英貿易。日英EPAとの「二刀流」活用術

2026年2月6日、英国が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に正式加盟してから一定期間が経過しました。現在、日本の貿易現場では、既存の「日英経済連携協定(日英EPA)」と、新たに使用可能になった「CPTPP」のどちらを選択すべきかという、戦略的な使い分けの議論が非常に活発化しています。

同じ日本と英国の間の貿易でありながら、二つの異なるルールが存在する現在の状況は、企業にとってコスト削減の大きなチャンスであると同時に、実務的な複雑さも増しています。本稿では、ビジネスマンが押さえておくべき二つの協定の決定的な違いと、最適な選択を行うための視点を深掘りします。


どちらを選ぶべきか。判断を分ける三つの核心

日英間で二つの協定が共存する「ダブル・トラック」体制において、企業が優先順位を決める際の基準は、単なる関税率の低さだけではありません。以下の三つの要素が、活用の鍵を握っています。

1. 原産地規則における「累積」の範囲

これが実務上で最も大きな違いです。

日英EPAでは、欧州連合(EU)産の原材料や部品を「自国(日本または英国)産」とみなして計算に含めることができる「EU累積」が認められています。これは、ドイツやフランスなどのEU諸国から部品を調達して英国で組み立てを行う、あるいは日本でEU産部材を使って製品化する企業にとって、極めて有利なルールです。

対して、CPTPPでは、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、カナダといったCPTPP加盟国全体の部材を合算できる「CPTPP広域累積」が適用されます。アジア圏のサプライチェーンを広く活用している企業にとっては、CPTPPの方が「日本産」としての資格を満たしやすくなるケースが多いのです。

2. 関税撤廃スケジュールの微妙な差

日英EPAは、基本的に日欧EPAの成果を継承しており、多くの品目ですでに即時撤廃、あるいは高度な削減が実現しています。

一方で、CPTPPは加盟国間での独自の譲許表(関税撤廃スケジュール)を持っており、特定の品目、例えば農産品や一部の工業製品においては、CPTPPの方が最終的な無税化までの期間が短かったり、枠組みが異なったりする場合があります。輸出入を行う品目ごとに、両方の協定の譲許表を突き合わせ、数年先の税率まで見越したシミュレーションを行うことが不可欠です。

3. 証明手続の利便性と柔軟性

日英EPAでは、輸出者または輸入者が自ら原産地を証明する「自己申告制度」が採用されています。

CPTPPも同様に自己申告が基本ですが、長年CPTPPを他の太平洋諸国との間で使い慣れている企業にとっては、共通のフォームや社内管理体制をそのまま英国向けにも横展開できるという運用上のメリットがあります。複数の協定をバラバラに管理するコストを避けるため、あえて他の国と同じCPTPPに統一するという経営判断も増えています。


ビジネスマンが取るべき実務アクション

戦略的な使い分けを実現するために、今すぐ着手すべき具体的なアクションは以下の通りです。

  1. サプライチェーンの再点検自社製品に使用されている主要部材の原産地を改めて特定してください。EU産が多いのか、それともASEAN(CPTPP加盟国)産が多いのかによって、勝負すべき協定は自動的に決まります。
  2. 二つの譲許表の「現行税率」比較税関やJETROが提供しているデータベースを活用し、当該HSコードにおける本日の実行関税率を比較してください。日英EPAではすでに0%でも、CPTPPでは段階削減の途上であるといった逆転現象も起こり得ます。
  3. 認定輸出者制度等のステータス確認自己申告を行うための社内エビデンス(原産地判定書など)が、両方の協定のルールに対応できているかを確認してください。特に累積規定を利用する場合、根拠となるサプライヤー証明書のフォーマットが異なる場合があります。

まとめ:協定を「選べる」強みを利益に変える

英国のCPTPP加盟により、日本企業は強力な武器を二つ手に入れました。これまでは「日英EPA一択」だった思考を切り替え、調達ルートの変化に合わせて柔軟に協定を使い分けることが、2026年以降のグローバル競争を勝ち抜くための新常識となります。

関税コストの削減は、直接的に営業利益を押し上げます。法務や物流の担当者だけでなく、営業や経営企画の部門も巻き込んで、この「二刀流」のメリットを最大限に引き出す戦略を構築してください。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

USMCA適格の中・大型車 232追加関税を非米国分だけにする申請手続が正式化

中・大型車(MHDV: Medium- and Heavy-Duty Vehicles)の米国向け輸入では、USMCAの原産地規則を満たしていても、232条に基づく追加関税(原則25%)の論点が残ります。

今回の動きの本質は、USMCAの特恵適格そのものではなく、232追加関税の課税ベースを「車両の総額」ではなく「非米国分の価値」に限定するための、商務省(Commerce)への申請手続が連邦官報で明文化された点です。

何が正式化されたのか

2026年2月2日付の連邦官報(Department of Commerce / International Trade AdministrationのNotice)で、USMCAの特恵関税待遇に適格な中・大型車について、輸入者が「米国コンテンツ(U.S. content)」をモデル単位で申請し、承認されれば232追加関税を「非米国分の価値」にだけ適用できる仕組みの提出・審査手続が示されました。

提出先メールアドレス、必要情報、認証者、審査後のCBP連携などが具体化しています。

ここでいう「米国コンテンツ」は、米国の生産および生産関連活動に帰属する価値として商務長官が判断すると整理されています。具体的には、USMCAのArticle 4.1における「production」の定義と整合的に解釈されます。

時系列で見る全体像

日付主な出来事実務への意味
2025年10月17日大統領布告10984(中・大型車、特定部品、バスに232追加関税)中・大型車に原則25%(バス等は10%)、2025年11月1日から適用開始
2025年10月29日CBPがCSMSで申告方法(Chapter 99)を提示9903.74.01〜等の使い分けを提示。米国分・非米国分の分割申告は「追加ガイダンスまで申告しない」注意喚起も
2026年2月2日Commerceが申請手続を連邦官報で公表輸入者が申請できる要件と提出書類が確定。遡及の扱い、過大申告時のリスクも明記

2025年11月3日付のジェトロビジネス短信では、USMCA原産の中・大型車は非米国分のみ課税となり得るが、商務長官の承認と追加ガイダンスが必要で、CBPは当面その制度を用いた申告を控えるよう求めた、という整理をしています。

対象になる輸入と対象外

対象(申請できる)

次の両方を満たす中・大型車です。

  • メキシコまたはカナダから輸入される
  • USMCAの特恵関税待遇に適格(原産性要件を満たす)

対象外

  • USMCA域外(メキシコ・カナダ以外)からの中・大型車
  • カナダ・メキシコからでもUSMCA特恵に適格でない中・大型車

申請手続の中身:何を、誰が、どこへ出すか

いつから、どこへ

誰が認証するか

提出書類は、輸入者側のCFO、法務責任者(General Counsel)、または同等レベルの上級役員による認証が求められます。

何を提出するか(モデル単位)

連邦官報の手続では、モデルごとに少なくとも次の情報を含めることが求められます。

  1. 輸入時点の申告価格(Customs value、19 U.S.C. 1401aベース)
  2. 米国コンテンツの価値(商務長官の考え方に基づき算定)
  3. 非米国コンテンツの価値(総額から米国コンテンツを控除)
  4. 生産地、最終組立国
  5. USMCA特恵適格の裏付け
    • 署名済みの原産地証明(origin certification)
    • 鉄鋼・アルミ要件、労働価値要件に関する承認済み認証(CBPと労働省が共同でレビュー・承認したもの)
    • 代替ステージング(Alternative Staging Regime)の承認対象かどうか
  6. 輸入者名、IOR番号、メーカー情報、原産国、モデル情報
  7. 遡及適用を求める場合は、過去のエントリー番号も提示

なお、モデル内で価格や構成がぶれる場合、USMCA自動車付属書(Automotive Appendix Article 5)にある平均化手法の利用が想定されています。

審査後に何が起きるか

Commerceは提出内容を審査し、不足があれば追加資料や説明を要求できます。

整合性が確認され、米国コンテンツと非米国コンテンツの価値が決まると、輸入者とCBPへ通知し、承認済みの輸入者・モデルのリストもCBPへ連携するとしています。

重要なのはここからで、承認されたモデルについては、232追加関税(25%)を「非米国分の価値」にだけ課す扱いになります。

遡及適用と有効期間

遡及適用

大統領布告およびCommerceの手続では、2025年11月1日以降に輸入された適格モデルについて、商務長官の裁量で遡及適用を認め得るとされています。

有効期間と締切(2027年以降に効いてくる実務)

  • 2026年12月31日以降の輸入に係る適格判断は、原則として暦年1年のみ有効
  • 翌年分の適格判断を確実に間に合わせるため、輸入年の前年10月1日までに提出するよう求める設計
  • 新モデルは随時申請できるが、その年末までしか有効にならない

この「10月1日締切」は、車種追加や年次変更が多い中・大型車ビジネスでは、社内のBOM・原価・原産証明の更新サイクルを前倒しで固定化する必要が出ます。

過大申告リスクが非常に重い

CBPが、米国コンテンツの申告が過大である、または商務長官が承認した米国コンテンツ値と整合しないと判断した場合のペナルティ設計が強烈です。

  • 232追加関税(25%)が、非米国分だけでなく車両の総額に対して遡及的・将来的に適用され得る
  • 同一輸入者・同一モデルの全輸入に波及し得る

つまり、申請で攻めるほど、ガバナンスと証跡品質がないと後で跳ね返る構造です。

通関実務(Chapter 99)で何が変わるか

CBPのCSMS(2025年10月29日)では、MHDV関連のChapter 99として、次の枠組みが示されています。

  • 9903.74.01: 中・大型車(該当見出し)に25%
  • 9903.74.02: バス等(8702の該当)に10%
  • 9903.74.03: USMCA適格でCommerce承認を得たモデルの「非米国分」に25%
  • 9903.74.06: 同モデルの「米国分」は0%
  • 9903.74.10: USMCA適格の中・大型車部品(ノックダウンキット等を除く)は0%

ただしCSMSは、9903.74.03と9903.74.06による米国分・非米国分の分割申告について、追加ガイダンスが出るまで申告しないよう明示しています。

今回Commerce側の申請手続は整いましたが、現場では通関システム(ACE)上の具体的な入力・配賦方法や必要コード運用が追加で整備される可能性が高い点は、引き続き注視が必要です。

日本企業にとっての実務インパクト

中・大型車は、完成車の輸出入だけでなく、北米域内サプライチェーンで部品を供給する日本企業にも波及します。

理由はシンプルで、USMCA適格の維持と、米国コンテンツ算定の裏付けのために、メーカーや輸入者からサプライヤー情報の提出要求が増えるからです。

典型的には次が増えます。

  • 原産性の裏付け(PSR適用、原産証明の整合)
  • 鉄鋼・アルミ、労働価値など自動車系の追加要件に関する証跡連携
  • 商務省申請に耐える原価・価値の説明(どこまでが米国内活動に帰属するか)

企業が今すぐ整えるべきチェックリスト

対象判定

  • 自社の取引が「MHDV」か、バス(8702)を含むか
  • 輸入ルートがメキシコ・カナダ経由でUSMCA適格になっているか

証跡パック整備

  • モデル単位で、申告価格、米国コンテンツ、非米国コンテンツの算定根拠
  • origin certification、関連認証(該当する場合)

ガバナンス

  • CFOまたは法務責任者が認証できるレベルまで、社内の数字と原産根拠を一本化
  • 変更管理(調達先・工程変更で米国分が下がる場合は速やかに再判定申請)

遡及の判断

  • 2025年11月1日以降の輸入について、遡及申請の費用対効果とリスクを試算

よくある誤解

誤解1: USMCAの原産性判定が簡素化される

事実: USMCA特恵の適格性は別枠で、今回の申請は232追加関税の課税ベースを調整するためのものです

誤解2: USMCA適格なら自動的に非米国分だけ課税

事実: Commerceの承認が前提です

誤解3: 米国コンテンツは多少盛っても大丈夫

事実: 過大申告のダメージが非常に大きく、モデル単位で波及し得ます

まとめ

USMCA適格の中・大型車について、232追加関税を非米国分の価値に限定するための申請手続が、2026年2月2日に連邦官報で正式化されました。

一方で、通関現場ではCBPが分割申告の実装ガイダンスを段階的に整える運用であり、制度メリットを取りに行くほど、原産・原価・証跡の品質とガバナンスが勝負になります。


免責: 本稿は一般情報であり、個別案件は通関業者・弁護士等の専門家と事実関係を確認のうえ判断してください。

2026年2月5日(JST)時点:米国「相互関税(Reciprocal Tariffs)」国別リスト

1) 計画

  1. **「相互関税」を、米国がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づき発動している国別の追加関税(従価税)**として定義。
  2. 国別税率の一次整理は、JETROが公表している国別表(2026/1/16時点)をベースに作成。(ジェトロ)
  3. **例外(中国・カナダ/メキシコ・MFN込み15%方式・台湾のMFN累加なし等)**は、該当資料/報道で補正。(ジェトロ)
  4. **直近の変更有無(前日=2026/2/4 JST比)**をニュース/公式資料で確認し、差分を備考に反映。
  5. ご指定の国順で、**「国名/関税率/出所/備考(前日差)」**の4項目で一覧化。

2) 前提

  • 表の「関税率」は、原則として 既存の通常関税(MFN/FTA等)に上乗せされる“相互関税”の税率です。(ジェトロ)
  • ただし、**EU・日本・韓国・スイス等は「MFN込みで15%」方式(MFN<15%なら合計15%、MFN≥15%なら相互関税0)**の扱いがあります(備考に明記)。(ジェトロ)
  • カナダ/メキシコは、IEEPAの対カナダ・メキシコ関税が課されている間、相互関税は適用されない整理です(備考に明記)。(ジェトロ)
  • 中国は「相互関税34%」のうち、当面は“ベースライン10%のみ適用”が延長されています(備考に明記)。(ジェトロ)

3) 出所(略号)

  • J-RT:JETRO「相互関税の概要(国別相互関税率表)」2026/1/16時点 (ジェトロ)
  • J-CA:JETRO「対カナダ・メキシコ関税の概要」2026/1/16時点 (ジェトロ)
  • J-USMCA:JETRO「USMCA原産地規則とトランプ関税の適用除外」2026/1/16時点 (ジェトロ)
  • J-CN:JETRO「米国・中国間関税」2026/1/16時点 (ジェトロ)
  • J-ADD:JETRO「主要国・地域へ適用中の追加関税率一覧」2026/1/16時点(MFN込み15%方式の注記等) (ジェトロ)
  • J-TW:JETROビジネス短信(台湾:15%、MFN累加なしで妥結)2026/1/19 (ジェトロ)
  • WH-EO:米ホワイトハウス 大統領令(相互関税の国別表・EUの計算式)(The White House)
  • Reuters-IN:インドの相互関税を18%へ引下げ(2026/2/2発表の報道)(Reuters)
  • WH-BR:対ブラジル別枠追加関税(40%)の根拠(大統領令関連)(The White House)

4) 国別リスト

前日差は「2026/2/4(JST)→ 2026/2/5(JST)」で、本日時点で新たな税率変更の確定情報が確認できたものは見当たらない前提で記載しています(直近の確定変更としてはインドの18%化が該当)。(Reuters)

国名関税率(相互関税)出所備考(前日差)
Algeria30%J-RT前日差:なし
Angola15%J-RT前日差:なし
Bangladesh20%J-RT前日差:なし。※一部報道で15%への引下げ観測あり(ただし“期待/見込み”表現で、確定扱いは未確認のため現行20%で記載)。(Asia Times)
Bosnia & Herzegovina30%J-RT前日差:なし
Botswana15%J-RT前日差:なし
Brazil10%(相互)J-RT前日差:なし。※別枠:対ブラジルIEEPA追加関税40%(対象外品目あり)が存在。(The White House)
Brunei25%J-RT前日差:なし
Cambodia19%J-RT前日差:なし
Cameroon15%J-RT前日差:なし
Canada*相互関税:適用外J-RT/J-CA/J-USMCA前日差:なし。IEEPA関税:原則35%(エネルギー10%)。USMCA原産性を満たす製品は適用除外(例外)。(ジェトロ)
Chad15%J-RT前日差:なし
China*10%(ベースラインのみ適用中)J-CN/J-RT前日差:なし。相互関税34%のうち追加24%は停止(停止期間が2026/11/10まで延長)。(ジェトロ)
Côte d’Ivoire15%J-RT前日差:なし
DR Congo15%J-RT前日差:なし
EU最大15%(MFN込み方式)J-RT/WH-EO/J-ADD前日差:なし。MFN<15%は合計15%、MFN≥15%は相互関税0(※EUの一部品目はMFNのみ適用の注記あり)。(The White House)
Falkland Islands10%J-RT前日差:なし
Fiji15%J-RT前日差:なし
Guyana15%J-RT前日差:なし
India18%Reuters-IN前日差:なし(直近変更:**25%→18%**の引下げが発表・報道)。(Reuters)
Indonesia*19%J-RT前日差:なし
Iraq35%J-RT前日差:なし
Israel15%J-RT前日差:なし
Japan*最大15%(MFN込み方式)J-RT/J-ADD/WH-EO前日差:なし。MFN<15%は合計15%、MFN≥15%は相互関税0(遡及適用・還付手続きの言及あり)。(ジェトロ)
Jordan15%J-RT前日差:なし
Kazakhstan25%J-RT前日差:なし
Laos40%J-RT前日差:なし
Lesotho15%J-RT前日差:なし
Libya30%J-RT前日差:なし
Liechtenstein15%(枠組み上“MFNと合算で15%”方式の扱い)J-RT/WH-EO前日差:なし。スイス同様に15%方式の枠組みが公表。(The White House)
Madagascar15%J-RT前日差:なし
Malawi15%J-RT前日差:なし
Malaysia19%J-RT前日差:なし
Mauritius15%J-RT前日差:なし
Mexico*相互関税:適用外J-RT/J-CA/J-USMCA前日差:なし。IEEPA関税:25%。USMCA原産性を満たす製品は適用除外(例外)。(ジェトロ)
Moldova25%J-RT前日差:なし
Mozambique15%J-RT前日差:なし
Myanmar40%J-RT前日差:なし
Namibia15%J-RT前日差:なし
Nauru30%J-RT前日差:なし
Nicaragua15%J-RT前日差:なし
Nigeria15%J-RT前日差:なし
North Macedonia15%J-RT前日差:なし
Norway15%J-RT前日差:なし
Pakistan19%J-RT前日差:なし
Philippines19%J-RT前日差:なし
Serbia35%J-RT前日差:なし
South Africa30%J-RT前日差:なし
South Korea最大15%(MFN込み方式)J-RT/J-ADD前日差:なし。MFN<15%は合計15%、MFN≥15%は相互関税0の扱いが示されている。(ジェトロ)
Sri Lanka20%J-RT前日差:なし
Switzerland最大15%(MFN込み方式)J-RT/J-ADD前日差:なし。MFN<15%は合計15%、MFN≥15%は相互関税0の扱いが示されている。(ジェトロ)
Syria41%J-RT前日差:なし
Taiwan15%(MFN累加なし)J-TW/J-RT前日差:なし。台湾当局・米側資料として「15%・MFN累加なし」で妥結と報告。(ジェトロ)
Thailand19%J-RT前日差:なし
Tunisia25%J-RT前日差:なし
Vanuatu15%J-RT前日差:なし
Venezuela15%J-RT前日差:なし
Vietnam20%J-RT前日差:なし
Zambia15%J-RT前日差:なし
Zimbabwe15%J-RT前日差:なし