中大型車両向け232関税を実務目線で整理する


2025年11月1日以降、米国は通商拡大法232条にもとづき、中型・大型車両(Medium- and Heavy-Duty Vehicles, MHDV)、その部品(Medium- and Heavy-Duty Vehicle Parts, MHDVP)、バス等に追加関税を課しています。 現場が混乱しやすいのは、対象品目そのものよりも、Chapter 99(第99類)の番号が細かく分岐し、他の232関税や相互関税・IEEPA関税との優先関係を含めて申告ロジックを組む必要がある点です。whitehouse+3

本稿では、CBP(米国税関・国境警備局)がCSMS #66665333で示したエントリー処理指針を、日系企業が実務で使えるレベルまで落とし込んで整理します。govdelivery


1. 時系列と制度の骨格

  • 2025年10月17日付の大統領布告10984は、MHDVおよび特定MHDV部品に25%、バス等(HTS 8702の特定サブヘディング)に10%の追加関税を課す枠組みを定めています。whitehouse+1
  • 適用開始は、2025年11月1日0時1分(米東部時間)以降に「消費のために輸入」または「保税蔵置から消費のために引き出し」される貨物です。whitehouse+1

CBPはこの布告を受け、2025年10月28日付CSMS #66665333で輸入者・通関業者向けに、Chapter 99番号の使い分け、例外、申告上の留意点をまとめた「エントリー処理指針」を公表しました。buckland+1


2. 対象HTSの入口:どの品目が射程か

  • 車両(MHDV本体)は、主にHTS 8701、8704、8705、8706、8709のうち、USMCA用注記38(b)で列挙された特定10桁サブヘディング群が対象です。clarkhill+1
  • バス等は、同注記の(c)に列挙された8702の特定10桁サブヘディングが対象になります。whitehouse

代表例として、8701.21.00、8704.22.11、8705.40.00、8706.00.03、8709.11.00などのトラック・特殊車両用番号、バス側では8702.10.31、8702.40.61などが挙げられます(あくまで抜粋であり、権威あるリストはHTS本文および注記38の別紙とされています)。chrobinson+1

部品(MHDVP)はさらに広範囲で、ゴムホース、タイヤ、ガラス、ばね、ロック、エンジンおよびその部品、電装品、車体部品などが、40類・70類・73類・83類・84類・85類・87類・90類・94類といった複数章に散らばって列挙されています。htshub+1
ここが実務上の第一の落とし穴であり、日本側の感覚で「自動車部品」と一括りにしがちな品目でも、米国では「MHDV部品とみなすのか」「別用途としてMHDV関連の232関税の射程外とするのか」でChapter 99の選択が大きく分かれます。aacb+1


3. Chapter 99の全体像:どのコードを使うか

CBP指針の中心は、MHDV・バス・MHDV部品に関して、Chapter 99の9903.74.01〜9903.74.11を組み合わせて申告を構成する点にあります。govdelivery+1

3-1. 車両(MHDV)とバス

  • 9903.74.01:HTS 8701、8704、8705、8706、8709のうち注記38(b)に列挙されたMHDVに対して25%の追加関税。aacb+1
  • 9903.74.02:バス等(8702のうち注記38(c)に列挙されたサブヘディング)に対して10%の追加関税。chrobinson+1

整理用のコードとして、次のような例外枠も設けられています。

  • 9903.74.05:対象見出しに分類されるがMHDVに該当しないものは追加関税0%。whitehouse+1
  • 9903.74.07:輸入年の25年以上前に製造されたMHDV・バス・その他対象車両は追加関税0%。fedex+1

3-2. 部品(MHDVP)

  • 9903.74.08:U.S. Note 38(i)に列挙されるMHDV部品に対して25%の追加関税。htshub+1
  • 9903.74.11:見かけ上は注記38(i)の列挙HTSに当たるが、実態としてMHDV部品ではない場合に用いる0%の整理用コード。aacb+1

ここに、USMCAや用途証明(certification)に関連する特別なコードが加わります。govdelivery+1


4. USMCA絡み:車両と部品の扱いの違い

4-1. USMCA適格MHDV(車両本体)

布告10984は、USMCAの原産地要件を満たすMHDVについて、商務長官の承認を得た場合に「非米国コンテンツ部分」のみ25%を課す仕組み(9903.74.03と9903.74.06)を規定しています。whitehouse+1
一方で、CSMS #66665333は、非米国コンテンツ課税(9903.74.03)および米国コンテンツ側(9903.74.06)に関して、別途ガイダンスが出るまでは申告しないよう明確に指示しており、制度の枠は存在するものの実務運用はまだ開始されていない状態です。aacb+1

4-2. USMCA適格MHDV部品

部品については、USMCAの原産地要件を満たす「個別部品」について、原則として追加関税0%(9903.74.10)で申告できると整理されています(ただしノックダウンキット等の「部品詰め合わせ」は除外)。whitehouse+1
車両側は当面25%がフルにかかり得るのに対し、部品側はUSMCA適格であれば0%に落とせる可能性があるため、米国輸入者が原産地判定と証憑整備をどこまで行うかが、日系サプライヤーの価格・キャッシュフローに直接響きます。cassidylevy+1


5. 用途証明(certification)が求められる場面

CBP指針は、特に誤りが生じやすい部品領域について、輸入者が申告時点で「用途」を証明する仕組みを設けています。govdelivery+1

5-1. MHDV向け部品(9903.74.09)

  • 9903.74.09は、輸入者(Importer of Record)が「米国内のMHDV生産または修理用途に使用する」と証明した部品に適用される25%枠として定義されています。unisco+1
  • ただし、HTS72章・73章・76章(鉄鋼・アルミ等)に属する品目や、他の特定の部品枠に入る品目は対象外とされています。whitehouse

この用途証明は米国輸入者が行うものであり、日本側輸出者が単独で完結できません。輸出者としては、部品の仕様書、用途説明、投入される車種(MHDVか否か)など、MHDVへの投入実態を示す資料を事前に整備し、輸入者に提供できる状態にしておくことが重要です。aacb+1

5-2. 乗用車・ライトトラック部品の用途証明枠

今回のCSMSはMHDVだけでなく、乗用車・ライトトラック部品についても、米国内の生産・修理用途として使用する場合に適用されるChapter 99番号を示しています。govdelivery+1

  • 全世界一般の乗用車・ライトトラック部品で用途証明を行う場合は、9903.94.07で25%の追加関税を課す構造です。aacb

さらに、日本・EU・英国向けには差別化されたレート設計があります。

  • EUおよび日本については、通常税率(Column 1)が15%未満の場合、「通常税率+追加関税の合計が15%になる」よう設計されたコード(EU向け 9903.94.45、日本向け 9903.94.55)と、通常税率が15%以上の場合に追加関税0%とするコード(EU向け 9903.94.44、日本向け 9903.94.54)が用意されています。aacb
  • 英国については、合計10%になるよう設計された別枠(9903.94.33など)が設定されています。aacb

これらのコードでは、Chapter 99側に合計税率分の税額を計上し、通常のHTS行には価額のみを記載して税額0とする申告方式が明示されており、ACE上の記載癖として社内の通関チェックリストに反映しておく価値があります。govdelivery+1


6. ACE申告でのChapter 99の並び順

CBPは、Chapter 99を複数使用する際の「記載順序」について、CSMS #64018403で一般ルールを示しています。govdelivery+1

  • 原則:Chapter 98(該当があれば) → Chapter 99(追加関税等) → Chapter 1〜97(通常品目)という順序で記載すること。govdelivery
  • 貿易救済措置の並び順も明示されており、301条 → IEEPA → 232条・201条 → 割当、という優先順で積み上げるよう定められています。federalregister+1

今回のMHDV案件では、新設の232(9903.74)に加えて、相互関税(retaliatory tariffs)やIEEPA関連の追加税が絡む事案ほど、並び順の誤りによるACEリジェクトや誤課税が生じやすい構造になっています。govdelivery+1


7. 重複関税の扱い:累積させるものとさせないもの

7-1. AD/CVD等は原則上乗せ

CSMS #66665333は、反ダンピング(AD)・相殺関税(CVD)など、他法令にもとづく課税は、今回の232関税に加えて引き続き課されることを明示しています。govdelivery+1

7-2. 232系・相互関税等で「適用しない」もの

同CSMSは、MHDV・MHDVP・バス等について、銅・アルミ・鉄鋼およびその派生品に対する特定の追加関税(例:9903.01.77、9903.01.84など)が適用されないことを列挙し、一定の非累積ルールを示しています。aacb+1
これは、EO 14289(Addressing Certain Tariffs on Imported Articles)が定めた「複数の大統領措置が同一品目に重なる場合、不要なスタッキングを避ける優先順位付け」の枠組みとも整合しています。presidency.ucsb+2

7-3. 相互関税・IEEPAとMHDV 232の関係

CSMSは、特定の相互関税・IEEPA関連の追加税(9903.01.25など、9903.02.01〜9903.02.73の一部)が、MHDVおよびMHDV部品の一部(9903.74.01、.02、.03、.08、.09)には適用されないことを明示しています。govdelivery+1
さらに、MHDV・MHDVPにかかるChapter 99を申告する際に、相互関税やIEEPA関連追加税の免除を主張するためのコードとして、9903.01.33、9903.01.34、9903.01.83、9903.01.87等を使用する旨が示されており、実務上は輸入者と通関業者が「どのChapter 99をどの順に積むか」を個々の案件ごとに設計する必要があります。aacb+1


8. FTZ、ドローバック、Chapter 98のポイント

  • FTZ(外国貿易地域)に搬入する場合、2025年11月1日以降に搬入される対象品は、原則としてPrivileged Foreign Statusでの受け入れが求められ、後から有利な税率へ切り替える運用は取りにくくなっています。ghy+1
  • ドローバックについては、MHDV部品および特定の自動車部品に対する232関税に限って、Direct IdentificationとSubstitution Manufacturingの範囲で認めると整理され、その他のタイプは対象外とされています。govdelivery+1
  • Chapter 98の利用時も原則として232追加関税はかかり、9802.00.60については仕向け時のフルバリューに対して課税される点が明記されています。aacb+1

9. 日本企業が今すぐ取るべき実務アクション

9-1. 「HTS番号だけ」で該当性判定を終わらせない

注記38の別紙リストに含まれるHTSであっても、MHDVに該当しない車両やMHDV部品に該当しない部品については、整理用コード(9903.74.05、9903.74.11)を用いて0%に落とせる余地があります。whitehouse+1
そのため、輸出側は品名・用途・搭載先(MHDVか、乗用車か、汎用品か)を米側に説明できる状態にしておくことが必須です。buckland+1

9-2. 用途証明に備えた証跡パッケージの準備

9903.74.09や9903.94.07等は、米国輸入者による用途証明が前提条件です。whitehouse+1
輸出者側で、製品仕様書、適用車種、取引条件、組立・修理工程における投入方法などが分かる資料パッケージを整えておくことで、通関時のリジェクトや事後監査のリスクを大きく抑えられます。ghy+1

9-3. 申告の並び順と税額計上ルールを事前にすり合わせる

Chapter 99の積み方は、ACE上の記載順序がそのままエラー要因になります。govinfo+1
特に相互関税・IEEPAが絡む企業は、CSMS #64018403とEO 14289に基づく優先順位を前提に、通関業者と社内手順書をアップデートしておく必要があります。presidency.ucsb+1

9-4. USMCAは「車両」と「部品」で優先順位が違う

車両側の非米国コンテンツ課税枠(9903.74.03、9903.74.06)は制度として箱があるものの、CBPが「追って指示」としているため、短期的には25%のフル負担を前提にせざるを得ません。whitehouse+1
一方で、部品側はUSMCA適格であれば0%(9903.74.10)で申告できる枠が明確なため、原産地判定と証憑整備の優先順位を「部品」側から着手する戦略が現実的です。whitehouse+1


おわりに:日本側ができる最大の支援

中大型車両向け232関税は、税率(25%・10%)そのものよりも、Chapter 99の運用、他の追加関税との非累積ルール、相互関税・IEEPAとの関係整理が実務の中心になります。 CBPはCSMSを通じて、対象HTSリスト、申告コードの分岐、用途証明、ACEでの並び順、FTZやドローバックまで一通りの論点を提示しており、これをどこまで自社手順書に翻訳できるかが勝負です。govdelivery+3

日本側の輸出者ができる最大の支援は、米国輸入者が正しく申告できるだけの「用途と実体が分かる情報」を最初から揃えて渡すことです。 Chapter 99が複雑な局面ほど、最初の設計がそのままコンプライアンスとコストの差になるため、品目・用途・原産地情報を一体で設計する視点が求められます。govdelivery+3

  1. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3f93b75
  2. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/10/adjusting-imports-of-medium-and-heavy-duty-vehicles-medium-and-heavy-duty-vehicle-parts-and-buses-into-the-united-states/
  3. https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/10/2025MediumandHeavyDutyVehicles.Parts_.Buses_.section232.prc_.rel-ANNEX.pdf
  4. https://www.aacb.com/trade-tariff-news/section-232-duties-on-medium–and-heavy-duty-vehicles-mhdvs-medium–and-heavy-duty-vehicle-parts-mhdvps
  5. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e0a63e
  6. https://www.buckland.com/news/entry-filing-guidance-for-new-u-s-tariffs-on-medium-and-heavy-duty-vehicles-parts-buses/
  7. https://www.clarkhill.com/news-events/news/section-232-tariffs-expand-to-medium-and-heavy-duty-vehicles-parts-and-buses/
  8. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/10-20-2025-client-advisory-section-232-tariffs-on-imports-trucks-truck-parts-and-buses/
  9. https://www.htshub.com/us-hs/detail/99037408
  10. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/Implementation_of_Section_232_tariffs_on_medium_and_heavy_duty_vehicles_parts_and_buses.pdf
  11. https://www.cassidylevy.com/news/section-232-tariff-regimes-introduced-revised-on-trucks-autos/
  12. https://www.unisco.com/hts/99037409
  13. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-05-02/html/2025-07835.htm
  14. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/20/2025-09066/notice-of-implementation-of-addressing-certain-tariffs-on-imported-articles-pursuant-to-the
  15. https://www.presidency.ucsb.edu/documents/executive-order-14289-addressing-certain-tariffs-imported-articles
  16. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/02/2025-07835/addressing-certain-tariffs-on-imported-articles
  17. https://www.ghy.com/trade-compliance/section-232-tariffs-on-heavy-medium-duty-trucks-and-buses-effective-nov-1/
  18. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-05-02/pdf/2025-07835.pdf
  19. https://hts.usitc.gov/search?query=duties
  20. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-12-04/html/2025-21940.htm

最高裁で無効でも終わらない関税:米政府の「代替関税ルート」と企業の備え

米国の広範なIEEPA関税(1977年国際緊急経済権限法に基づく関税)が、米連邦最高裁の判断で違法とされる可能性があります。

多くの企業は「関税がなくなれば負担が軽くなる」と期待しますが、現実はそう単純ではありません。焦点は「IEEPA関税が止まるかどうか」以上に、**「止まっても別ルートで再課税され得る」**点に移っています。

米通商代表部(USTR)のグリアー代表は、最高裁がIEEPA関税を違法と判断した場合でも、約2,000億ドル規模の関税収入を他の法的手段を使って再現することは可能だとの見方を示しています。

以下では、いま何が争点なのか、米政府が準備している「代替関税ルート」は何か、そして日本企業が実務で何を整えるべきかを整理します。

米国最高裁によるIEEPA関税の無効化判断が迫る中、企業は関税撤廃を期待するだけでなく、複雑な法的再編への備えを急ぐ必要があります。米政府は、たとえ現在の法的根拠が否定されても、232条や301条といった別の法律を活用して関税を再構築する「代替ルート」を既に検討しています。既払金の還付手続きは極めて不透明であり、企業には証憑の徹底管理と、新たな課税シナリオを前提とした契約の見直しが求められます。単なる税率の変動以上に、根拠法が次々と切り替わる不確実性のリスクを直視し、実務基盤を強固にすることが不可欠です。この動向は、将来的な調達戦略や財務計画の抜本的な再考を迫る重要な局面となっています。

1. 争点:IEEPA関税は「大統領権限の範囲内」か

争点は、1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、大統領が広範な関税を課す権限を持つのかという一点に集約されています。

具体的な論点は以下の2つです。

  • IEEPAが今回のような大規模・包括的な関税を授権しているのか
  • 仮に授権しているとしても、「重大な経済・政治的影響」を伴う措置について立法権を過度に委任しており違憲ではないか(メジャー・クエスチョン・ドクトリンの観点)

連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、IEEPAは今回のような広範な関税権限までは認めていないとして、大統領権限の逸脱だと判断しました。

政府は最高裁へ上告し、最高裁は2025年11月に口頭弁論を実施。判断は2025年末から2026年初にかけて見込まれています。

2. 重要なのは「無効になった後」:返金と再課税が同時に起こり得る

最高裁がIEEPA関税を違法と判断すれば、将来に向けた同種の関税賦課は止まる可能性が高まります。

しかし、すでに支払った関税が自動的に全額返金されるかどうかは不透明です。返金のスキームが行政手続なのか司法手続なのかも、現時点では明確ではありません。

ナショナル・ロー・レビューや各種法律事務所の分析では、返金には以下のプロセスが必要になる可能性が指摘されています。

  • 行政的なリファンド・プロセス
  • 個別輸入者による訴訟を通じた申立て

USTRのグリアー代表も、関税返金の時期は財務省および税関・国境警備局(CBP)の判断次第であり、具体的なスケジュールは「分からない」と述べています。

つまり企業は、二正面作戦を迫られています。

  • 返金可能性に備えて書類・証憑を整える
  • IEEPAとは別の法的根拠による新たな関税発動にも備える

3. 米政府の「代替関税ルート」:主な候補4つ

各種報道やシンクタンク・法律家の分析で、代替ルートとして繰り返し挙がるのは、主に次の4つの枠組みです。

代替関税ルートの全体像

ルート法律・条文ねらい・特徴企業にとっての意味
232条通商拡大法1962年232条国家安全保障を理由に品目・セクター別に輸入制限や追加関税を課す対象品目は絞られるが、自動車・半導体・医薬品など戦略分野は直撃し得る
301条通商法1974年301条不公正貿易慣行への対抗措置としての追加関税などを発動調査に時間はかかるが、一度発動されると長期化・制度化しやすい
122条通商法1974年122条大きな貿易・国際収支不均衡への短期的な一律関税・数量制限期間は最長150日だが、広く最大15%までの一律課税が可能で「つなぎ措置」になり得る
338条1930年関税法338条差別的・不合理な対米措置への報復関税最大50%まで追加関税を課し得るうえ、手続要件が比較的軽く、迅速な報復カードになりやすい

各ルートの詳細

232条(国家安全保障)

商務省の調査(国家安全保障への影響評価)を経て発動されるため、IEEPAのような即時・包括的な課税ツールではありません。

現政権は232条をテコに、自動車・鉄鋼・アルミ、今後は半導体・医薬品・重要鉱物などの戦略分野への関税・輸入制限を拡大しており、「狭く深く」積み増すシナリオが現実味を帯びています。

301条(不公正貿易慣行)

不公正な貿易慣行を対象に、USTRの調査と報告を経て、追加関税・数量制限等を講じる伝統的なツールです。

問題認定と調査ロジックが必要な分、IEEPAほどの即応性はありませんが、一度発動されると恒常的な対中追加関税のように長期化しやすい特徴があります。

122条(短期一律)

通商法1974年122条は、大きく深刻な国際収支赤字や貿易不均衡に対して、大統領が最大15%の一律関税または輸入制限を、最長150日間課す権限を与えています。

150日を超える延長には議会の同意が必要とされるため長期ツールとしては制約がありますが、最高裁判断直後の「つなぎ措置」として広範な課税を一時的に復元するカードになり得ると分析されています。

338条(報復)

1930年関税法338条は、特定国が米国商業に対して「差別的」「不合理」な扱いを行っている場合、追加関税を最大50%まで引き上げることを認める規定です。

国際貿易委員会(ITC)等の手続を経るパターンもありますが、IEEPAに比べると迅速で、政治的にも「報復」カードとして使いやすいと評価されています。

各ルートの性格の違い

  • IEEPA:「広く薄く」
  • 232条:「狭く深く」
  • 301条:「調査ベースで長期化」
  • 122条・338条:「短期あるいは即応のつなぎ・報復」

4. 企業実務で今起きている課題:「関税コスト」より「不確実性コスト」

最高裁判断が近づくほど、企業は次の三重苦に直面します。

  1. IEEPA関税が維持されるのか、将来に向けて止まるのかが読みにくい
  2. 止まった場合でも、すでに払った関税の返金スキームとタイミングが見えない
  3. IEEPA関税が止まっても、232条・301条・122条・338条など別根拠で再課税される可能性がある

この不確実性は、単なる税率水準の問題ではなく、調達戦略、価格転嫁、在庫ポリシー、契約条件、キャッシュフロー管理に直接影響します。

米国内でも、関税還付が財政収支・市場に与える影響や、代替関税の立ち上げに伴う混乱リスクが繰り返し指摘されています。

5. 日本企業が今すぐ整えるべきチェック項目

「勝ち筋が見えにくい局面で損失を最小化する」ための実務的な備えを紹介します。

(1) 契約を「関税が揺れる前提」に見直す

  • 関税発生・変更時の価格改定条項(自動改定か協議か)の明確化
  • 関税率や根拠法(IEEPA・232・301・122・338等)の変更をトリガーとする再交渉条項の設定
  • インコタームズと輸入者(Importer of Record)の責任分担を改めて契約上明示

こうした条項があるかどうかで、急な再課税時の価格交渉余地と紛争リスクが大きく変わります。

(2) 返金に備え、申立て可能性を潰さない

最高裁の判断内容と、その後の行政通知・CBPガイダンスによっては、自動返金ではなく、行政的クレームや訴訟を通じた返金申立てが必要になるシナリオが想定されています。

以下の資料を「将来の返金請求にも耐える粒度」で保全しておくことが不可欠です。

  • 通関申告書
  • 支払関税の記録
  • HSコード(品目分類)
  • 原産地
  • 評価の根拠資料

USTRは返金時期について、財務省とCBP次第であり見通せないと明言しており、「返金は来るが、いつか分からない」前提で備える必要があります。

(3) 代替ルート別に「当たりやすい品目」を想定する

232条:自動車、鉄鋼・アルミ、半導体、医薬品、重要鉱物など国家安全保障関連セクターが中心

301条:過去の対中追加関税のように、特定国の不公正慣行(補助金、知財侵害など)に紐づいた品目群

122条:貿易不均衡や国際収支問題を口実に、最大15%・150日の一律関税が想定され、幅広い品目に「薄く広く」効く可能性

338条:自国への差別的措置を理由とした報復で、対象国・品目を選んで最大50%までの追加関税が課され得る

自社の品目群ごとに、「どの条文で狙われやすいか」を棚卸しし、想定税率・対象範囲・期間をシナリオとして整理しておくことが重要です。

(4) 財務は「返金が来ない・遅れる」ケースも織り込む

返金スキームや時期が不透明な以上、「全額返金前提」で会計処理や価格政策を組むのはリスクが高いと指摘されています。

会計上の見積り、引当、資金計画、販売価格・調達先の見直しは、「返金なし/大幅遅延」シナリオでも事業が持ちこたえられる設計になっているか、ストレステストが必要です。

結び:最高裁は通過点、「根拠法が変わっても回る業務設計」へ

最高裁がIEEPA関税を止めるかどうかは大きな分岐点ですが、それ自体は通過点にすぎません。

IEEPAが違法とされても、政権が232条・301条・122条・338条などの別の法的根拠を組み合わせて関税を再構成するシナリオは、米国内の専門家の間でも現実的なオプションとして議論されています。

企業にとっての最適解は、「IEEPA関税が終わる期待」に賭けることではなく、「根拠法が変わっても回る業務設計」に移行することです。

通関実務、契約、調達、価格、在庫・財務を、不確実性を前提とした二段構え(返金対応+再課税対応)で組み替える局面に入っています。


免責事項:本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別案件については、米国の通商弁護士、通関士、税務専門家と連携のうえでご判断ください。

ファーストセールと中国生産

  • 中国製でも「ファーストセール(First Sale for Export)」は原則、適用可能です。国が中国だからという理由だけで不成立になるルールはありません。複数段階の売買の第1の売買が「米国向けの輸出販売」であり、独立当事者間(又は関係者間でも価格への影響なし)の真正な売買であることを、書証で立証できれば使えます。米国税関・国境警備局(CBP)の規則・裁判例がその枠組みを示しています。eCFRJustia Law
  • ただし中国が関与すると実務上のリスクは上がりやすい(証拠の取り寄せ、UFLPA対策、301関税・原産地判定、近時の判例運用など)。下記のとおり設計と証拠化が鍵です。U.S. Customs and Border Protection+1Court of International Trade


1) ファーストセールの成立要件(米国の基本ルール)

米国の関税評価は「取引価格(Transaction Value)」が原則で、米国向け輸出の売買での実際に支払った又は支払うべき価格を基礎とします。多段階の取引(製造者→海外中間業者→米国輸入者)の場合、裁判例(Nissho IwaiSynergy Sport)により、要件を満たせば第1売買の価格を評価基礎にできます。関係者間取引でも、「事情テスト」や「テストバリュー」で関係性が価格に影響していないと示せば受容されます。eCFRJustia LawFederal Register

要点(実務で見るチェック)

  • 真正な売買(所有権移転、価格、支払い実態、危険負担等が明確)
  • 米国向けに明確に仕向け(発注書・仕様書・米国仕様の包装/表示・船積書類の整合)
  • 独立当事者間(又は関係者間でも妥当価格)(事情テスト:通常の価格慣行、原価+通常利潤の回収ができる水準 等)
  • 書証の一貫性(製造者→中間→米国輸入者のPO/契約/請求書/支払証憑/物流書類のつながり)
    *規則上の根拠:19 CFR §152.103(関連者間の事情テスト・テストバリュー等)。eCFR

補足(2008〜2010年の動き)
2008年にCBPは「売買の解釈」を見直してファーストセールを狭める提案を出しましたが、その後撤回。同年の「ファーストセール申告(7501の“F”印)」は1年間の時限措置で終了しています(現在、一般的な“F”印提出義務はありません)。Federal Register+1U.S. Customs and Border ProtectionBarnes Richardson


2) 「中国関与」で高まりやすい実務リスク

A. UFLPA(ウイグル強制労働防止法)による拘留リスク

  • 新疆またはUFLPAエンティティ・リスト関係の原材料/工程が「一部でも」含まれる疑いがあると、強制労働推定により輸入禁止扱い(反証は「明白かつ説得力ある証拠」が必要)。ファーストセール可否とは別枠で、サプライチェーンの上流(原料〜紡績〜生地〜縫製 等)までトレーサビリティの立証が求められます。U.S. Customs and Border ProtectionU.S. Department of Homeland Security

B. 判例動向(Meyer系列)による立証ハードル

  • 中国(およびタイ)製調理器具を巡るMeyer事件では、CIT(国際貿易裁判所)がファーストセール不適用と判断した局面がありましたが、2022年にCAFC(連邦巡回控訴裁)が差し戻し、2024年にも再差し戻しを行い、過度に広い“非市場影響の不存在”の立証を課すのは不当との趣旨を示しています。結論として、ファーストセールは引き続き有効な選択肢ですが、**書証の充実(特に関連者間)**が厳しく問われています。Court of International TradeJustia LawNeville Peterson LLP

C. 追加関税(Section 301)・原産地の問題

  • 301関税は「原産国」に基づくため、中国原産なら多くの品目で追加関税(例:25%など)が乗ります。ファーストセールで関税評価額が下がれば、MFN関税だけでなく301の計算基礎も下がるため、なお有効ですが、**原産地判定(実質的変更)**が伴う案件(第三国加工など)は注意が必要です。U.S. Customs and Border ProtectionTrade.govCROSS
  • 2025年5月31日にUSTRは一部301除外の延長(〜2025年8月31日)を発表。除外や税率は政策変更の影響を受けやすいため、最新告示の確認が不可欠です。United States Trade Representative

D. AD/CVD(反ダンピング・相殺関税)

  • 製品がAD/CVDの対象なら、関税評価とは別の制度で運用されます。ファーストセールはAD/CVDの適用そのものを回避しません(Commerceの指示に基づきCBPが保証金徴収・最終賦課)。評価額の扱いが異なる場合に使う特別値フィールド等、申告実務も別途管理が必要です。Trade.govU.S. Customs and Border Protection

E. 中国側の情報越境規制・対外調査リスク(書証収集の難化)

  • 中国のデータ安全法・個人情報保護法、および反スパイ法改正(2023)や国家機密法改正(2024)の運用により、財務・サプライヤー情報等の国外移転やデューデリジェンスが難しくなる場面が増えています。工場側の原価・利潤資料や上流トレーサビリティ資料を米国監査向けに取り寄せる際のハードルとして認識が必要です。China Law TranslateArnold & PorterReuters+1

3) 実務対応:不成立リスクを下げる「設計」と「証拠化」

① 取引スキームの設計

  • 多段売買の明確化:製造者→(必要なら)独立の海外商社→米国輸入者、の契約の鎖を明確に。米国向けであることを第1売買の時点で示す(POの送付先、米国規格の仕様・表示義務、米国顧客名の紐付け等)。Justia Law
  • 関係者間なら事情テスト:19 CFR §152.103に沿い、通常価格慣行や原価+通常利潤で価格妥当性を示す内部資料(見積内訳、コストシート、PL/BSの抜粋等)を準備。eCFR

② 証拠パッケージ(最低限)

  • 製造者→中間業者→米国輸入者の発注書・契約・請求書・支払証憑(送金明細)・出荷指図/船荷証券前後一致
  • 仕様書・パッキングリスト・写真(米国仕様の表示・ラベル)
  • (関係者間)価格妥当性の裏付け(原価表、粗利分析、比較対象)
  • (該当品)UFLPA対応:サプライチェーントレース一式(原材料→最終製品の系譜、工場・下請名、入出庫台帳、GPS/軌跡・BCトレーサ等)、リスク評価と是正策
  • 記録保存5年間の記帳・保存(Part 163)。Legal Information Institute

③ 申告・当局対応の工夫

  • 事前照会/裁決の活用:必要に応じPart 177に基づく評価(Valuation)に関する裁決請求や、現場税関を通じたInternal Adviceを検討(不確実性の低減)。eCFR+1
  • 301・原産地:第三国加工案がある場合は**「実質的変更」の成立可能性を事前評価(必要なら原産地裁決**)。301は原産国ベースで課される点を常時確認。Trade.govU.S. Customs and Border Protection
  • AD/CVD:Commerce/CBPの指示(キャッシュデポジット、特別値フィールドの使用可否など)を事前に確認。U.S. Customs and Border Protection

4) 将来的なリスク(モニタリング推奨)

  • 政策変更リスク:301関税の税率・除外運用延長/終了短期で変動し得ます(2025年5月に一部除外延長の例)。最新のUSTR告示・連邦官報を都度確認。United States Trade Representative
  • UFLPA強化:エンティティ・リストの拡充や重点業種のシフト等、執行強化が継続見込み。証拠の粒度を先取りして整備。U.S. Customs and Border Protection
  • 判例の揺れMeyerのように関連者間・中国製での立証の細部は今後も争点になり得ます。事情テスト資料の厚みを維持。Justia Law
  • 中国国内規制越境データ反スパイ/機密の運用次第で、上流資料の国外移転が不許可や遅延となるケース。現地で合法に取得・保管・翻訳する体制を前広に構築。Arnold & PorterReuters

5) まとめ(実務チェックリスト)

  • 多段売買の第1売買米国向けであることを契約・書類で明確化
  • 真正な売買(所有権・支払・危険負担)の成立証拠を整備
  • 関係者間:19 CFR §152.103の事情テストに耐える価格妥当性資料
  • UFLPA:原材料レベルまでのトレーサビリティ反証資料
  • 301/原産地:第三国加工の有無と実質的変更の成否を事前評価
  • AD/CVD:対象か否か、対象なら申告上の特別取扱いとリスク把握
  • 記録保存5年(Part 163)と英訳/対訳の用意
  • 必要に応じ事前裁決/IAで不確実性を低減

参考(主な根拠)