EU域内でFTA(自由貿易協定)を利用する際、輸出産品の原産性を裏付ける**サプライヤー証明(Supplier’s Declaration; SD)**について、企業のご担当者向けに実務目線で解説します。
【最重要ポイント】
本ガイドで扱うサプライヤー証明(SD)は、輸入国で特恵関税を主張する際に税関へ提出する「証拠書類」そのものではありません。
SDは、輸出者が原産地に関する申告(Statement on origin; SoO)やEUR.1/EUR‑MED等の原産地証拠を作成するための裏付け書類です。SD自体は輸入時の証拠にはならない点を必ず押さえてください。 Taxation and Customs Union+1
1. サプライヤー証明(SD)とは
目的:サプライヤーが納入する原材料・部品または完成品の特恵原産性の有無等を、買手(多くはEU内の輸出者)に書面で宣言する仕組み。輸出者はこの情報を根拠にSoOやEUR.1等の原産地証拠を整備します。 Taxation and Customs Union
法的根拠:UCC実施規則(Implementing Regulation (EU) 2015/2447)
— 附属書22‑15〜22‑18に各様式(単発/長期、原産あり/なし)が規定されています。 EUR-Lex
2. SDの種類と使い分け(実務早見表)
様式 | 種別 | 典型用途 | 有効期間 | 主な記載事項(抜粋) | 実務ポイント |
---|---|---|---|---|---|
22‑15 | 単発・原産性あり | 単発納入の原産材料・製品の裏付け | 出荷単位 | 原産地(通常“EU”)、適用FTA、累積相手国(該当時) | SoOやEUR.1の裏付けに使用。フォームに**「累積相手国」**欄あり。 Revenue |
22‑16 | 長期(LTSD)・原産性あり | 同一品の継続取引で毎回のSD発行を省力化 | 開始日から最長24か月(開始日は発行日の12か月前〜6か月後の範囲で設定可) | 22‑15の項目+発行日/開始日/終了日(3日付) | 期間中に原産性が変わったら直ちに通知義務。上限は開始日基準。 Taxation and Customs Union |
22‑17 | 単発・原産性なし | EU内で加工済だが原産化前の半製品を次工程に渡す | 出荷単位 | 非原産材料の品目説明・HS見出し・価額/実施加工の内容 など | 後工程での追加加工により原産化の可否を判断可能に。 wko.at |
22‑18 | 長期・原産性なし | 上記22‑17の継続取引版 | 22‑16の期間ルールに準拠 | 22‑17の項目+発行日/開始日/終了日 | 受入側の原産化設計に不可欠な内訳を漏れなく。 Fera |
備考(共通):SDはEU域内での授受が基本ですが、協定によってはクロスボーダーSD(非原産/原産)に対応する規定もあります。詳細は各協定のプロトコルをご確認ください。 Taxation and Customs Union
3. 作成・管理の重要ポイント
3.1 累積(Cumulation)の明示
PEM等で対角累積を使う場合、SDに累積相手国を明記します(フォームに「Cumulation applied with …」欄)。 wko.at
3.2 署名・電子化
原則は手書き署名ですが、
- SDとインボイスが電子作成され電子的に認証される場合、または
- サプライヤーが包括的な書面誓約を与えている場合、
署名の省略が可能です。 EU Trade
3.3 保存期間(実務推奨)
- EU-日本EPA:輸出者はSoOと裏付け記録を最低4年間保存。SD発行側も同等以上を推奨。 Taxation and Customs Union
- EU-韓国FTA:5年間。 EU Trade
(社内規程として5〜7年保管を推奨)
3.4 検証とINF4
税関はINF4(情報証明書)により、SDの真実性・正確性の確認を求めることがあります。輸出者がINF4を提示できない場合、輸出国税関に直接照会されることもあります。 Taxation and Customs Union
4. EU-日本EPAにおける特有の留意点
- 原産地証拠の方式:第三者発行ではなく、輸出者の自己申告(SoO)または輸入者の知識が基礎。 Taxation and Customs Union
- REX登録:EU側輸出者は、1貨物6,000ユーロ超でREX登録が必要(SoOにREX番号を記載)。 Taxation and Customs Union
- SoOの有効期間:発行日から12か月。同一品の複数出荷を1通でカバーする包括用SoOも、最長12か月で、発行日・開始日・終了日の3日付を記載(終了日は発行日から12か月を超えない)。 EU Trade+1
- 原産性基準の記載:SoOには**原産性基準(Origin criteria used)の表示が必要。実務ではA(WO)/B(PE)/C(PSR:C1=CTC, C2=RVC, C3=SP)/D(累積)/E(寛容)**等のコードで記載します。 Japan Customs+1
5. 実務フロー(SDの取得から原産地証拠まで)
- 協定とPSRの確定:対象FTA・最終製品のHSを確定し、累積の可否も確認。
- BOM分析:原産判定に影響の大きい材料を特定。
- SDの取得:
・原産材料 ⇒ 22‑15/22‑16(相手FTA名・累積の有無を明示)
・EU内加工の非原産材料 ⇒ 22‑17/22‑18(非原産材料のHS見出し・価額や加工内容) wko.at - 日付管理(LTSD):発行日/開始日/終了日を管理し、開始日から24か月の上限を厳守。 Taxation and Customs Union
- 原産性の最終判断と書類作成:SDと生産実績で原産性を裏付け、SoOまたはEUR.1等の原産地証拠を整備。 Taxation and Customs Union
- 保存・検証対応:関連書類を保存し、要求があればINF4等で説明可能な状態に。 Taxation and Customs Union
6. 記載項目チェックリスト
- 供給者(サプライヤー)の名称・住所
- 買手の名称(必要に応じて)
- 対象商品の明確な情報(品名、型番など)
- 適用するFTAの正式名称
- 原産地(例:「European Union」)
- 累積の相手国(該当時) wko.at
- 原産性基準(協定が要求する場合。EU-日本EPAのSoOはOrigin criteria usedの記載必須) Japan Customs
- 非原産材料の情報(22‑17/18:HS見出し・価額 等) wko.at
- 発行日/開始日/終了日(LTSD)と署名(または電子認証の条件確認) Taxation and Customs Union+1
7. よくある間違いと対策
❌ 避けるべき間違い | ✅ 推奨される対策 |
---|---|
SDを輸入申告の直接の証拠として提出 | SDは社内・社間の裏付け。輸出時はSoOやEUR.1等の原産地証拠を整備。 Taxation and Customs Union+1 |
FTA名を曖昧に記載(例:「EUの特恵」) | **「EU‑Japan EPA」**のように正式名称で。 |
LTSDの期間を「発行日から24か月」と誤解 | 上限は開始日から24か月。開始日は発行日の12か月前〜6か月後で設定。 Taxation and Customs Union |
累積相手国の記載漏れ | PEM等で累積利用時は必須項目としてチェック。 wko.at |
8. 実務運用のベストプラクティス
- 「1協定=1枚」運用:同一品でも輸出先が変われば協定ごとにLTSDを分けて取得(混在回避)。
- 更新管理の自動化:LTSDの終了2〜3か月前に更新アラート(Excel/ERP)。
- サプライヤーへの依頼文例(LTSD, EU‑Japan EPA)
件名:長期サプライヤー証明(LTSD)発行のお願い(EU‑Japan EPA)
本文:
貴社より継続購入中の下記製品につき、UCC実施規則 附属書22‑16相当の長期サプライヤー証明の発行をお願い申し上げます。
対象製品:[製品名/型番]
開始日:2025/10/01 終了日:2027/09/30(発行日は御社記入。※開始日から最長24か月の範囲でご設定ください)
併せて、累積の有無と相手国、必要に応じ原産性根拠の併記をお願いします。
※期間上限は開始日基準で、開始日は発行日の12か月前〜6か月後の範囲内で設定可能です。 Taxation and Customs Union
9. 今後の展望と留意
EUは原産地関連手続のデジタル化を継続的に進めています。最新運用は欧州委員会(TAXUD)ガイダンスやAccess2Marketsで必ず確認してください(法令が優先)。 Taxation and Customs Union
本ガイドは公開情報に基づく一般的解説です。実務適用時は、最新の協定本文・実施規則・各国カスタムガイダンスをご確認ください。