北米サプライチェーンの前提が変わるサイン

USTR(米通商代表部)の「カナダ・メキシコの中国ハブ化牽制」発言は、北米でビジネスを行う企業にとって、サプライチェーンの前提条件が静かに書き換わりつつあるシグナルです。reuters+1

この記事では、

  • ニュースの事実関係を整理・検証する
  • 「中国ハブ化」議論の中身を解説する
  • 日本企業を含むビジネスパーソンが取るべき実務アクションを提案する
    ことを目的とします。reuters+2

1. USTR発言で実際に何が起きたか

2025年12月4日、USTRのジャミソン・グリアー代表はワシントンの会議で、「カナダとメキシコが中国・ベトナム・インドネシアなどの輸出ハブとして使われるべきではない」と述べ、一部ではメキシコ経由の動きが既に見られると指摘しました。 同時に、USMCAには課題があるとしつつ、外国製自動車への関税など一部措置が問題を是正しつつあること、USMCAは議会が承認した法律として現時点で効力を持っていることも強調しています。news.yahoo+2

同じ12月4日、グリアー氏はPoliticoのポッドキャストで「トランプ大統領は来年、USMCAからの離脱を決める可能性がある」と述べ、カナダ・メキシコと二国間協定に分割するオプションにも言及しました。 ここで使われているのは「could」「always a scenario」といった表現であり、具体的な離脱プロセスが始まったわけではありません。newsweek+2


2. よくある誤解と冷静な整理

  • 誤解①「米国はUSMCAを来年破棄すると決めた」
    → 実際には、「来年離脱を決める可能性」に言及した段階であり、正式な離脱通知などの手続きは開始されていません。 USMCAは現時点でも有効な協定で、条文に沿って2026年の共同見直しに向けた準備が進んでいます。nytimes+3
  • 誤解②「メキシコ・カナダはすでに完全に『中国の裏口』になっている」
    → Brookingsの分析では、中国製品の関税回避ルートを「単純転送」「サプライチェーン組込み」「中国企業の現地投資」の3類型に整理したうえで、メキシコ経由の迂回は確認される一方、カナダ経由は証拠が限定的で、インフレ調整後の規模も「過度に騒ぐレベルではない」としています。brookings+1
  • 誤解③「メキシコ・カナダは中国寄りで、米国と対立している」
    → 実際には、両国とも対中関税を強化しており、スタンスはむしろ米国と歩調を合わせる方向です。brookings+1

3. なぜ「中国ハブ化」が問題視されるのか

背景にあるのは、米国の対中関税の大幅引き上げです。米国は2018年以降、通商法301条に基づき、中国製品に7.5〜25%の追加関税を広範囲に課してきました。 2024年の見直しでは、中国製EVに対する関税率が4倍の100%、半導体・太陽電池に50%、鉄鋼・アルミ・バッテリー・重要鉱物などに25%という大幅な引き上げが決定されています。jetro+2

この関税差があるため、中国企業にとっては「中国→(関税の低い)メキシコ・カナダ→米国」というルートで、USMCAの無税枠や低いMFN税率を活用しつつ米市場にアクセスする強いインセンティブが生じます。 Brookingsも、こうした関税格差がメキシコ・カナダ経由の迂回を誘発していると分析しています。jetro+1


4. メキシコはどこまで「中国ハブ」か

ジェトロのレポートによると、中国からメキシコへの輸出額は2023年に約818億ドルと10年前の約3倍に増加し、年平均伸び率は約10%強と高いペースです。 伸びているのは乗用車・小型トラック、リチウムイオン電池、EV、部品・金型・機械設備など、対米輸出を意識した「工場一式」のような品目群です。jetro

一方でBrookingsの詳細分析では、変圧器・鉄鋼・自動車部品などで中国→メキシコ→米国という迂回の兆候はあるものの、インフレ調整後の規模は限定的であり、メキシコが鉄鋼などで対中関税を引き上げた結果、中国からメキシコへの鉄鋼輸入が2023年以降大きく減少していると指摘します。 このことから、政策次第で迂回ボリュームは一定程度コントロール可能だと結論づけています。brookings

さらにメキシコ政府は、非FTA国(中国を含む)からの自動車関税を現行20%からWTO上限の50%まで引き上げる計画を打ち出しており、中国側は「米国の圧力によるものだ」と強く反発しています。 メキシコはニアショアリングの勝者として中国企業を含む多国籍企業の北米ハブになりつつある一方、米国からの警戒と圧力も最も強く受ける立場にあると言えます。chinaglobalsouth+3


5. カナダは対中EV関税で“タカ派”

カナダ政府は2024年10月から、中国製EVに100%の追加関税、中国製鉄鋼・アルミに25%の関税を導入しました。 これは米国の追加関税とほぼ同水準であり、「北米市場を守る防衛ライン」として評価されています。whitecase+1

その一方で、2025年秋以降、カナダがこの100%関税の見直し・撤廃の可能性を検討しているとの報道もあり、対中・対米関係の狭間でスタンスを微調整し始めていることもうかがえます。 Brookingsは、現状カナダ経由の迂回の証拠は限定的としつつ、将来リスクに備えて米・加・墨の三国が対中投資・貿易政策でより連携すべきと提言しています。brookings


6. 「中国ハブ化」という見出しの限界

ここまでの事実から見えるのは、メキシコ・カナダが単純な「中国の裏口」ではなく、中国・北米・各国政府の思惑が交差する最前線にあるということです。reuters+1

  • 中国企業にとって:関税回避と市場アクセスの出口
  • 米国にとって:対中デカップリングを進める防波堤
  • メキシコ・カナダにとって:投資を呼び込みつつ、米国の「レッドライン」を踏まないための綱渡り

「中国ハブ化」という見出しだけを素直に読むと「中国寄りのメキシコ・カナダVS米国」という対立図に見えますが、実態は三者がそれぞれの利害を計算しながらバランスを取り続けている構図です。reuters+1


7. USMCA 2026年レビューと「離脱カード」

USMCAは2020年7月1日に発効し、原則16年の有効期限(2036年7月まで)を持ちますが、6年目(2026年7月)に三国で共同見直しを行い、合意できればさらに16年延長、合意できなければその後は毎年レビューという仕組みです。 この構造自体が、協定の将来に一定の不透明感を組み込んでいます。jetro+1

2025年9月には、USTRがUSMCA見直しに向けたパブリックコメント募集を開始し、12月には公聴会も予定されています。 ワシントンの有識者の間では、米国がUSMCA継続に必ずしもコミットしておらず、メキシコ・カナダとの二国間協定への分割もオプションとして議論されているとの見方が多くなっています。jetro+2

グリアー氏やトランプ大統領は、「協定を失効させる」「新たなディールに置き換える」といった選択肢を交渉カードとして公然と口にし始めており、これが企業側にとっては政治リスクとしてのしかかります。 ポイントは、「USMCAがすぐ終わる」と決まったわけではないが、「いつでも終わらせられる」と受け止められることで、協定ベースの投資に上乗せのリスク・プレミアムが付くという点です。nytimes+2


8. 実務で今やるべき5つのアクション

8-1. 「どこで作るか」より「何で作るか」を管理する

USMCAレビューで有力視されているのが、「FEOC(懸念外国事業体)由来の部品が一定割合を超えるとUSMCA原産と認めない」といったルール強化です。 これは米インフレ削減法(IRA)のEV税額控除要件で導入されたFEOC規制をUSMCA原産地規則へ転用するイメージと指摘されています。jetro+1

実務としては、BOMベースで中国・香港・ロシア等の部品比率をSKU単位で把握し、「メキシコ製/カナダ製だから安全」と考えるのではなく、中身の原産国をトレースできる体制を整えることが重要です。jetro+1

8-2. USMCA・関税の3シナリオでコスト試算

最低限、以下の3パターンで試算用Excelを一度作成しておくと、経営判断のスピードが大きく変わります。jetro+1

  • ソフト:USMCA延長+中国由来部品への限定的な制限
  • タイト:USMCA延長と引き換えに自動車・EV・電池・半導体などで原産地規則が大幅強化
  • ハード:米国が「離脱カード」を切り、高関税や二国間協定で揺さぶる

それぞれのシナリオで、調達先・生産拠点(中国/メキシコ/米国/カナダ/その他)・関税+物流コストがどう変わるかをざっくりでもNPVまで落としておくと、2026年レビュー前後の意思決定に耐えられます。jetro+1

8-3. メキシコ・カナダ投資の前提条件をアップデート

従来の前提だった「中国から部品を持ち込んでメキシコで組立→USMCA無税」「カナダ経由で米国へ出せば対中関税は薄まる」といった感覚は見直し必須です。 今後は、jetro+1

  • 中国色の濃さ=政治リスク
  • FEOC規制やUSMCA原産地ルールの強化で、中国由来部品にペナルティが付く可能性
  • メキシコは対中自動車関税を最大50%まで引き上げる方向で、中国メーカーにとっても楽園ではなくなりつつあることreuters+1
  • カナダも中国製EVと鉄鋼・アルミに高関税を課し、基本的には米国と足並みを揃える方向であることbrookings

を前提に、「メキシコ/カナダ+米国」の二段構え拠点戦略や、「USMCA向け仕様(中国コンテンツを削った設計)」とその他市場向け仕様の切り分けを検討する必要があります。jetro+1

8-4. 契約・価格式に「関税変動条項」を組み込む

トランプ政権第2期、USMCAレビュー、対中関税見直しが重なる中で、「想定外の関税で採算が吹き飛ぶ」リスクは明確に高まっています。 どの追加関税(301条・232条・相互関税・対中EV100%など)が発動・変更されたら、どのようなロジックで価格改定するか、誰がどのコストを負担するかを契約条件に落としておくことが不可欠です。whitecase+3

最低限の例として、

  • 指定関税がX%以上変動した場合の価格再協議条項
  • USMCA原産認定が外れた場合の関税負担のルール
  • 関税だけでなく、通関・監査対応コストも含めた調整条項
    といった文言を検討する価値があります。jetro

8-5. データとコンプライアンス体制の強化

米国税関(CBP)はAIを活用したリスク分析・監査を強化しており、HSコード・原産地・関税率の裏付けデータやサプライヤー証明を精査する傾向が強まっています。 原産地・HSコード・関税率を支えるBOMやサプライヤー証明の整備、DDP取引における社内チェック、通関・SCM・法務・財務を横断する「関税タスクフォース」的な体制づくりが現実的な防御ラインになります。jetro+1


9. 結論:メキシコ・カナダは抜け道ではなく“試験場”

USTRの発言は、「中国ハブ化」への警告であってUSMCAの即時終了宣言ではなく、むしろ「離脱カード」を含む政治リスクの設計図を示したものと見るべきです。 メキシコ・カナダは、中国企業にとっての出口、米国にとっての防衛ライン、自国にとっての投資誘致の武器という三重構造に置かれており、単純な「中国寄りVS米国」という構図では語れません。reuters+3

企業としては、中国コンテンツの可視化、USMCA・関税のシナリオ試算、契約・価格式・コンプライアンス体制のアップデートを2026年レビュー前に走らせておくことが、今回のUSTR発言を実務に落とし込むうえで最も合理的な対応になります。jetro+1

  1. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/canada-mexico-should-not-be-export-hubs-china-says-ustr-2025-12-04/
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  3. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-raise-tariffs-cars-china-50-major-overhaul-2025-09-10/
  4. https://www.brookings.edu/articles/is-china-circumventing-us-tariffs-via-mexico-and-canada/
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  7. https://cm.asiae.co.kr/en/article/2025120514260203178
  8. https://www.politico.com/newsletters/canada-playbook/2025/12/04/trump-usmca-exit-signals-00676384
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  29. https://www.scmp.com/news/world/united-states-canada/article/3335256/trump-could-decide-next-year-withdraw-usmca-says-us-trade-representative
  30. https://insidetrade.com/trade/mexico-proposes-higher-tariffs-evs-other-goods-non-fta-partners
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  35. https://www.facebook.com/brookings/posts/to-bypass-high-us-tariffs-china-is-increasingly-routing-trade-through-mexico-and/1231277465705996/
  36. https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2024/09/ustr-finalizes-action-on-new-and-increased-section-301-tariffs
  37. https://www.brookings.edu/tags/tariffs/
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  40. https://papers.ssrn.com/sol3/Delivery.cfm/5736802.pdf?abstractid=5736802&mirid=1

2025年米国鉄鋼・アルミニウム関税制度の概要と企業対応(2025年10月最新版)

下記情報は確実にと努力しましたが、不確定な部分もあり、あくまで参考としてください。

最新動向(2025年8月~10月)

2025年8月以降、Section 232関税制度は更なる拡大を続けています。8月18日に407品目の派生製品が追加され、9月にはインクルージョン申請の第2回受付期間が実施され、10月には木材・重トラック関税の新規措置が発表されました。

8月18日発効:407品目の大規模追加

商務省産業安全保障局(BIS)は、407の製品カテゴリーを232関税対象の「派生製品」リストに追加しました。この拡大により、年間輸入額2,000億ドル超に相当する400以上のHS番号が新たに対象となり、実効関税率が約1パーセントポイント上昇したと推定されています。

主な追加品目

  • 風力タービンおよび部品・コンポーネント
  • 移動式クレーン
  • ブルドーザーおよび重機
  • 鉄道車両
  • 家具
  • 圧縮機・ポンプ
  • オートバイ
  • 船舶用エンジン
  • 電気自動車用電気鋼材
  • 自動車排気システム部品
  • バス部品
  • 空調ユニット部品

この措置は、6月23日発効の家電製品追加に続く第2弾の大規模拡大であり、鉄鋼・アルミニウムの含有価額部分に50%の関税が課されます。

9月:第2回インクルージョン申請期間

BISは2025年9月15日から29日まで、第2回目のインクルージョン申請受付期間を実施しました。このプロセスは年3回(5月・9月・1月)実施され、国内生産者等が追加対象品目を申請できる制度です。申請から60日以内にBISが判断を行い、採用された品目は順次232関税の対象に追加されます。

10月14日発効:木材・木製品への新規232関税

9月29日の大統領布告により、針葉樹材・木材および木製派生製品に対する新たなSection 232関税が10月14日から適用されています。

税率

  • 針葉樹材・木材:10%
  • 室内装飾付き木製家具:25%(2026年1月1日から30%に引上げ)
  • キッチンキャビネット・洗面台:25%(2026年1月1日から50%に引上げ)

重複関税の取扱い

  • 相互関税(reciprocal tariffs)およびIEEPA関税とは重複適用されない
  • 232自動車関税と重複する場合は自動車関税のみ適用
  • 対カナダ・メキシコIEEPA関税と重複する場合は木材232関税のみ適用

11月1日発効予定:中・大型トラック関税

10月6日、トランプ大統領は中型・大型トラック(車両総重量10,000ポンド超)および部品に対する25%の232関税を11月1日から適用すると発表しました。当初は10月1日発効予定でしたが、米国自動車メーカーからのロビー活動を受けて1カ月延期されました。

4月に開始された商務省の232調査では、「少数の外国供給者が略奪的貿易慣行により米国輸入の大部分を占めている」と指摘されており、国家安全保障上の脅威と位置付けられています。主要な影響国は、メキシコ、カナダ、日本、ドイツ、フィンランドです。

米国トラック協会(ATA)は、この措置に加えてIEEPA関税や232鉄鋼・アルミ関税も適用されることで業界への負担が過大になるとして、緩和を求めています。

1. 2025年の大改定のポイント

関税率の大幅引上げ

2025年6月3日の大統領布告により、鉄鋼・アルミニウムおよびその派生製品に対する関税率が一律**50%**に引き上げられました(英国のみ25%)。これは通商拡張法第232条(Section 232)に基づく措置で、2025年6月4日(EDT)以降の輸入に適用されます。

課税方式の変更:「金属含有価額」ベース

従来の「総額課税」から「金属含有価額のみに対する課税」に変更されました。CBP(米国税関国境警備局)の実務通達により、派生製品やHS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)の品目についても、製品全体ではなく鋼・アルミニウムの含有価額部分のみに232関税が課されます。

除外制度の終了と「インクルージョン制度」の創設

2025年2月10日の布告により、従来の232除外申請制度が終了しました。代わりに、派生製品を追加指定するための「インクルージョン手続」が年3回(5月・9月・1月)の受付期間で運用開始されています。

重複課税(スタッキング)の整理

複数の特定関税が同一貨物に重複して過剰となる事態を一定範囲で防ぐ手順が規定されました。ただし、232関税と対中制裁の「301関税」については累積適用されることが明記されています。

2. 派生製品の対象拡大

「派生製品(derivatives)」とは、基礎素材(鉄鋼・アルミニウム)からさらに加工された下流製品のことで、2018年の232措置では対象外だった製品分野にまで関税を適用するために指定されています。

2025年の主な追加項目

アルミニウム派生製品(4月4日発効)

  • 空のアルミ缶(HS 7612.90.10)
  • ビール(HS 2203.00.00)

鉄鋼派生製品(6月23日発効)

  • 家電製品(冷蔵冷凍庫、洗濯機、乾燥機、食洗機、オーブン・レンジ、生ごみ処理機)
  • 溶接ワイヤラック(HS 9403.99.9020)

トレーラー類(8月18日発効)

  • ドライバン・冷凍(リーファー)トレーラー(HS 8716.39.0040等)とそのサブアセンブリ

407品目の大規模追加(8月18日発効)

  • 風力タービンおよび部品・コンポーネント
  • 移動式クレーン
  • ブルドーザーおよび重機
  • 鉄道車両
  • 家具
  • 圧縮機・ポンプ
  • オートバイ
  • 船舶用エンジン
  • 電気自動車用電気鋼材
  • 自動車排気システム部品

木材派生製品(10月14日発効)

  • 針葉樹材・木材
  • 室内装飾付き木製家具
  • キッチンキャビネット・洗面台

中・大型トラック(11月1日発効予定)

  • 車両総重量10,000ポンド超の中型・大型トラックおよび部品

今後の展開

BISのインクルージョン制度により、国内生産者等の申請に基づいて派生製品は継続的に追加される見込みです(申請から60日以内に判断)。次回の申請期間は2026年1月に予定されています。

3. 関税算定の具体的方法

基本税率

  • 鉄鋼・アルミニウム・派生品:50%(英国原産品のみ25%)
  • 木材派生品:10~25%(段階的引上げあり)
  • 中・大型トラック:25%(11月1日~)

課税ベースの算定

  • HS第73類(鉄鋼)・第76類(アルミニウム)製品:金属の「含有価額」のみに課税
  • 派生製品:製品中の鋼・アルミニウム含有価額に対して課税
  • 鉄・アルミ両方を含む派生品:それぞれの含有価額に対してそれぞれの232関税を課税

申告方式:「2行計上」

CBPの指示により、以下の2行に分けて申告します:

  1. 1行目(非金属部分):本来のHS番号、原産国、「総額-金属含有価額」
  2. 2行目(金属含有価額):同一HS・原産国、数量0、価額=金属含有価額、HS第99類で50%課税

算定例

洗濯機(申告価額500ドル、うち鋼含有価額100ドル、アルミ含有価額20ドル)の場合:

  • 鋼部分:100ドル × 50% = 50ドル
  • アルミ部分:20ドル × 50% = 10ドル
  • 232関税合計:60ドル

中国原産品で301関税対象の場合、さらに25%が併課される可能性があります。

4. 重複関税の取扱い

232関税 vs 301関税(対中)

累積適用されます。中国原産で232対象品の場合、232(50%)+ 301(25%)が併課される可能性があります。

232関税(鉄鋼・アルミ) vs IEEPA(相互関税)

232に関わる金属部分にはIEEPAは重複適用されませんが、非金属部分にはIEEPAが課される場合があります。

232関税(木材) vs その他関税

木材関連の232関税は、相互関税・IEEPA関税(ブラジル40%、インド25%)とは重複適用されません。232自動車関税と重複する場合は自動車関税のみが適用されます。

その他の特則

  • ロシア関連アルミニウム:232とは別に200%の特則が存続
  • デューティードローバック不可
  • FTZは原則「特恵外国品扱い」が必要

5. 企業の実務対応チェックリスト

A. 分類・原産・含有価額の把握

HTS分類の見直し:新規派生指定品目について社内マスターを更新

  • 家電、トレーラー、空缶・ビール(既存)
  • 風力タービン、移動式クレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、圧縮機、ポンプ、オートバイ、船舶用エンジン、EV用電気鋼材、排気システム部品(8月18日追加)
  • 木材、木製家具、キャビネット(10月14日追加)
  • 中・大型トラック(11月1日予定)

金属含有価額の算定体制整備:BOM・コスト表から鋼・アルミ含有価額を抽出できる仕組みの構築

原産性証明の取得

  • 鉄鋼:Melt & Pour(溶解・鋳造)国の証明
  • アルミニウム:Smelt & Cast(製錬・鋳造)国の証明
  • メキシコ経由品は2024年7月以降の厳格化に注意

B. 課税最適化戦略

調達先の見直し:英国原産品は25%(他国50%)の優遇税率を活用

米国内素材の活用:米国でMelt & Pour/Smelt & Castされた素材は0%免除の可能性

設計変更の検討:鋼・アルミ以外素材への置換、金属使用量削減による含有価額の圧縮

複数関税の影響分析:232 + 301 + AD/CVDの総負担試算

C. 契約・申請対応

価格条項の見直し:サプライ・販売契約に「232/301変動条項」を追加

インクルージョン申請の活用(国内生産者向け):年3回の申請機会を活用した競合品の追加指定

社内統制の強化:HTS・原産・含有価額・証憑の監査体制整備

6. 実際の企業事例

American Trailer Manufacturers Coalition

Great Dane、Stoughton、Strick、Wabashなどの米国トレーラーメーカー連合が2025年5月にBISへ派生指定追加を申請し、8月18日にドライバン・リーファートレーラーが派生製品として採用されました。

Whirlpool(米国家電メーカー)

家電の派生指定追加(6月23日)に対し、「金属含有価額課税」や重複関税整理を踏まえた支持表明を行い、国産比率の高さを背景に価格公平化効果を主張しています。

Ball Corporation(アルミ缶メーカー)

2025年の関税環境下でも、調達・ヘッジ・価格見直しにより影響は限定的としており、財務・契約面での対応による影響平準化の好例となっています。

外国自動車メーカー連合

外国自動車メーカー連合は、EV用電気鋼材や排気システム部品の派生製品追加に対して、米国内に十分な生産能力がないことを理由に反対意見を提出しましたが、採用されませんでした。

Tesla

Teslaは、電気自動車モーターや風力タービンに使用される鉄鋼製品の追加指定について、米国内の生産能力が不足しているとして反対しましたが、8月18日の決定で対象に含まれました。

7. 今後の注意点

制度面のポイント

  • 232税率は原則50%(英国25%、木材10~25%)
  • 課税ベースは金属の「含有価額」のみで、2行計上が必要
  • 派生品範囲は今後もインクルージョン制度により拡大予定(年3回:5月・9月・1月)
  • 301関税(対中)とは累積適用される
  • 2026年1月には木製家具・キャビネット関税が段階的に引上げ(30%・50%)

企業の優先対応事項

緊急対応(~2025年11月)

  • 中・大型トラック輸入企業:11月1日発効の25%関税への対応準備
  • 木材・木製品輸入企業:10月14日発効の関税(10~25%)の影響分析と価格見直し

継続対応

  • HTS分類の再確認(407品目追加を反映)
  • 含有価額算定体制の整備
  • Melt & Pour/Smelt & Cast証憑の取得
  • 契約価格条項の見直し
  • 対中国301関税重複の影響分析
  • (国内生産者の場合)次回インクルージョン制度(2026年1月)の活用検討

情報収集

  • BISの連邦官報公告の定期的な確認(次回申請期間:2026年1月)
  • 自動車部品インクルージョン制度の動向監視(2025年10月1日から第1回申請期間開始)

この新制度により、米国への鉄鋼・アルミニウム関連製品の輸出入には従来以上に精緻な管理と戦略的対応が求められています。特に2025年8月の407

「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ」の信憑性を評価する(2025年10月6日時点)

10月3日のロイター電以降に出ている一次・二次情報を突き合わせて、件の見出し「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ」の信憑性を評価します。


結論

  • ロイター(10月3日)が伝えたのは「検討中(considering)」。正式決定はまだというのが記事本文のニュアンスです。ホワイトハウス関係者も「大統領の署名による公式行動がない限り、政策の議論は推測だ」とコメントしています。Reuters
  • その後の国内報道の多くはロイター電を基に「延長を近く決定へ/決定の見通し」と書きましたが、新たな公式文書や布告は未確認です(10月6日現在)。Yahoo!ファイナンス+2Mainichi+2
  • 現行の「関税相殺(Import Adjustment Offset)」制度は、2026年4月末までMSRPの3.75%、その後は2027年4月末まで2.5%という既存ルールのみが官報・大統領布告で有効。5年延長やエンジンまでの拡大はまだ告示されていません。The White House+2Federal Register+2

したがって、この見出しは方向性(軽減拡大の検討)自体は事実に沿う一方で、「決定へ」と断定的に読める点は行き過ぎ。“高い確度で検討中”だが“未決”というのが最新の整合的な読みです。


何が報じられたか(10/3のロイター)

  • 趣旨:米国で最終組立てを行う乗用車について、部品の232条関税に充当できる相殺額現行の3.75%(1年目)→2.5%(2年目)という暫定スケジュールから、3.75%を最大5年に延長し、米国製エンジンも対象に拡大する案を大統領が検討
    情報源はバーニー・モレノ上院議員(共和)および自動車業界関係者。ホワイトハウスは「署名までは推測」と述べ、正式決定は否定Reuters
  • 恩恵が想定されるメーカーとして、フォード、トヨタ、ホンダ、テスラ、GMなど米国内での国産比率が高いメーカーが名指しされました(記事内のモレノ氏コメント)。Reuters

10/3以降のフォロー報道(整理)

  • 日本メディアの後追い
    延長を近く決定する見通し」「負担軽減へ」といったトーンで配信(時事/Yahoo!ニュース、毎日新聞、電波新聞など)。いずれも根拠はロイター電で、新規の一次情報は付されていません。Yahoo!ファイナンス+2Mainichi+2
  • マーケット反応
    10/3の報道を受け、米自動車株が上昇(フォード、GM、トヨタ、ホンダなど)。バロンズは相殺延長観測を材料視と解説。Barron’s
  • 周辺コンテクスト(今日:10/6)
    対輸入全般の関税環境が厳しい中で、各社が米国内投資を増やす動きをロイターが総括。今回の相殺延長検討は、こうした潮流と整合しますが、個別制度の正式アップデートには触れていませんReuters

公式根拠(現行制度)

  • 大統領布告(4/29付)と連邦官報で、相殺率と適用期間が明確化:
    • MSRPの3.75%2025/4/3–2026/4/30の米国組立て分)
    • MSRPの2.5%2026/5/1–2027/4/30の米国組立て分)
    • 相殺額は部品の232条関税に充当未使用分は失効せずに繰越可能。
      これを超える延長・拡大の告示は10/6時点で未掲載The White House+2Federal Register+2

トヨタ・ホンダにとっての意味合い

  • 相殺の枠組みは「銘柄別の優遇」ではなく、米国で最終組立てを行うOEM全般が対象。トヨタ・ホンダも対象になり得ます。Reuters
  • 例:MSRP 4万ドルの米国組立車なら、3.75%=1,500ドル/台を部品関税の支払いに充当可能(現行制度)。これが5年に延長され、エンジン製造にも広がれば、米国内足場の強いトヨタ・ホンダのネット負担はさらに軽くなる可能性。※実際の効果は部品輸入構成や台数で変動。現時点では“検討段階”です。Federal Register+1

信憑性の評価

  • 一次性・具体性:ロイターは名指しの議員+業界関係者を情報源に、制度の具体数値(3.75%、5年、エンジン拡大)まで提示。信頼性は高め。ただしホワイトハウスは未決を明言しており、“方向性は確からしいが確定ではない”が妥当。Reuters
  • 公的裏取り連邦官報/大統領布告/商務省の新リリース延長告示は未掲載(10/6時点)。公式アクション未了Federal Register+2Federal Register+2
  • 二次報道の妥当性「決定へ」「延長へ」という表現は市場の期待を要約したものの、事実関係は「検討」レベル。表現が先走りの可能性。Yahoo!ファイナンス+1

これからの「正式決定」の見極めポイント

  1. ホワイトハウスの新たな大統領布告(Presidential Action)の公表。The White House
  2. 連邦官報(Federal Register)への制度改定の告示(5年延長やエンジン拡大の条項追加)。Federal Register
  3. 商務省(ITA/Trade.gov)のニュースリリースでの運用詳細更新。Trade.gov

上記のいずれかが出れば「決定・実施」に相当します。現行は2027年4月末までの2年相殺が有効で、それ以降や拡大は未確定です。Federal Register


参考(背景)

  • 2025年春以降、米国は自動車・部品に対する232条の25%追加関税を発動(既存の関税に上乗せ)。相殺制度はその痛みを一部緩和する狙い。Auto Care
  • こうした関税圧力のもと、海外企業の米国内投資拡大が相次いでいることをロイターが総括(10/6)。Reuters

米国『相互関税』下でのファーストセール活用の現状と実務

以下は、日本の経営層向けにまとめた**「米国『相互関税』下でのファーストセール活用の現状と実務」です。(本稿の数値・制度は2025年9月10日**時点)


エグゼクティブ・サマリー

  • 米国の「相互関税」は、2025年4月に導入(原則10%)。日本向けは当初国別追加率24%が適用予定だったが、9月4日付の大統領令で日本品目は「合計15%へのトップアップ」方式(MFNが15%未満の品目は合計15%に、15%以上は追加0%)へ変更。8月7日に遡って適用され、9月16日頃までに実装される見込み。これにより日本からの対米輸出の関税水準は実務上15%が目安The White House+2The White House+2Reuters
  • 関税上昇のなか、ファーストセール(First Sale)を使って課税価格を「製造者→仲介者」の第一次販売価格にできる取引への関心が世界的に上昇。欧州大手(L’Oréal等)も米国関税対策として採用検討との報道があり、企業の節税ニーズが顕在化。 Reuters
  • コンサル需要は増加。米国の通関実務を担うカスタムブローカーや通関・関税アドバイザーの依頼が急増し、費用も上昇傾向との報道。各大手アドバイザリーもFirst Sale関連のウェビナーやソリューションを拡充。 ReutersKPMG+1
  • 制度面の足元:米連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)のMeyer事件(2024/12/13)では、下級審の厳格すぎる解釈を退けFirst Saleの適用可能性を改めて示唆。一方でCBP(米税関)への「First Sale宣言(Fインジケータ)」や厳格な文書性は引き続き重要。 JustiaU.S. Customs and Border Protection+1

1. 米国「相互関税」の最新状況(日本企業に関係する部分)

タイムライン概要

  • 4/5:全パートナーへ10%のベース関税開始。4/9:国別上乗せ率発動(**日本は24%**に位置付け)。 The White House+1
  • 7/22:米日「枠組み合意」発表。日本向けは**合計15%**へ切替の方針が示唆。 The White House
  • 9/4:大統領令「Implementing the United States–Japan Agreement」発出。日本は「合計15%にトップアップ」。自動車・航空・一部医薬・資源等は別建て取扱い。8/7に遡って適用9/16頃までに施行見込みと日側が発表。 The White HouseReuters

相互関税の調査結果(日本企業向け要約)
(プロジェクト内の標準フォーマット)

国名関税率出所備考
アメリカ(日本向け)原則合計15%(MFNに対するトップアップ)White House EO(2025/9/4)2025/8/7に遡及適用。自動車・航空・一部医薬・資源は別建。 The White House

参考:当初の国別追加率表(Annex I)では日本24%だったが、対日合意で15%へ変更。実務は**「MFN + 追加=合計15%」**になる(MFN≧15%の品目には追加0%)。 The White House+1

(注)EU等他地域は別枠で15%(鋼アルミは50%等)が進行中。足元も政策は流動的で、実装スケジュールや対象は日々更新されるためFR(連邦官報)告示の確認が必須。 Reuters


2. ファーストセール(First Sale)活用の現在地

  • 需要の高まり:米国の広範な関税上昇の直撃を受け、メーカー価格(第一次売買価格)を基礎に課税できるFirst Saleへの関心と採用が拡大。欧州大手が公にFirst Saleの検討を表明したほか、各アドバイザリーが2025年入り後にFirst Sale関連の解説・支援を増強ReutersKPMG
  • 法的確度CAFC(Meyer事件)は、First Sale適用の判断で不要な“非市場影響の完全排除”まで求めた下級審を批判し差戻し。判示はNissho Iwai(1992)ラインの再確認で、適切な事実関係と文書があれば適用余地があることを改めて示唆。 Justia
  • 実務要件(要点)
    • ①ボナファイド(真正)な売買②米国向けの販売③アームズレングス(関連者間でも事情考慮で可)の立証。
    • 強固な文書性(製造者→仲介者、仲介者→輸入者の契約・PO・INV・支払証憑・船積書類・米国向け証跡)。
    • 申告面:**CBPへのFirst Sale申告(Fインジケータ)**等、エントリーでの適切な表示・内部統制。 U.S. Customs and Border Protection+1

(補足)相互関税以外でも**対中301関税の強化(EV100%等)**が続いており、First Saleの“節税レバー”の価値は総合的に上昇United States Trade Representative


3. コンサルティング需要・費用・リードタイムの所見

  • 需要関税環境の変動→ブローカー/関税アドバイザーへの相談が急増。業界報道では**「需要過多で費用も上昇」とされ、大手物流・通関企業の人員増強も見られる。First Saleを含む関税最適化相談の“枠”は逼迫**しがち。 ReutersNCBFAA – CMS
  • 費用の方向感:公開単価は限定的だが、需要超過とコンプライアンス・リスク上昇を背景にレート上振れの観測が増加。大手税務・通商アドバイザリーがFirst Sale専用チームやCOEを前面化しており、専門人材の需給タイトが続く見込み。 KPMG
  • ウエイティング:公式な待機列データは限定的だが、需要急増の報道各社の人員拡充から、ピーク時は着手までの待ち(数週間~)が発生しうる局面。期限が読みにくい相互関税の実装・改定も相まって早期着手が安全ReutersNCBFAA – CMS

※上記は市場全体の定性的トレンドです。貴社の規模・サプライチェーンの複雑性・対象HS範囲・必要書類の整備度により見積りは大きく変動します。


4. コンサルタントの選び方

  1. First Saleの実績製造者→仲介者→輸入者の三者文書を数百~数千行レベルで検証した経験/関連CBPバインディングルーリング実績。
  2. 訴訟・審査対応力Meyer等の判例動向を踏まえた関連者間価値検証(“circumstances of sale”)に強いこと。 Justia
  3. 通関実務との接続:ブローカーとのエントリー連携(Fインジケータ、行分割、PMI/MPF等の整合)。 U.S. Customs and Border Protection
  4. 日本語/日系サプライヤ対応工場側の原価・契約情報の開示交渉を日本語で粘り強く進める力。
  5. 相互関税の即応力合計15%トップアップ例外品目等、対日合意に基づく実装をエントリー設計へ反映できる体制。 The White House
  6. データガバナンス:PO/INV/支払・物流・原価の仕訳・紐付け・サンプリングの設計力。
  7. 移転価格・税務との整合First Sale とTP文書の一貫性(“all costs + profit”テスト等)に通じること。 Justia
  8. 体制・納期繁忙期でも確実に稼働できる要員計画(需要逼迫の環境前提)。 Reuters

5. 企業が取るべきプロセス案

Day 0–15:インパクト把握とGo/No‑Go

  • 対米出荷の関税影響マップ(相互関税15%・他救済含む)、First Sale適用余地(販売段階のマージン差)を定量化。概算ROIを算出(後掲の簡易式参照)。 The White House

Day 16–45:実行可能性(Feasibility)

  • サプライチェーン可視化(製造者→仲介者→輸入者)。
  • 文書回収:契約、PO/INV、支払、BL/AWB、米国向け特定証跡。
  • テストサンプルボナファイド/米国向け/アームズレングスの3要件を検証。必要に応じ契約条項の改訂U.S. Customs and Border Protection

Day 46–75:設計・パイロット

  • 申告設計Fインジケータ運用、行分割、第三者費用の扱い)。
  • パイロット申告(少量・限定SKU)→差異分析内規化U.S. Customs and Border Protection

Day 76–90:本番展開・監査耐性

  • SOP/権限/チェックリスト整備監査トレイル構築。
  • 必要に応じCBP事前教示(バインディングルーリング)年次レビュー枠組み(価格・原価変動追随)。
  • UFLPAや301/232等の他法令との同時整合も確認。 United States Trade Representative

6. 検討会向けROIの簡易算式

  • 年間輸入額(CIF)× 関税率 ×(最終売買価格に対する第一次売買価格の割引率)理論的な年次節税
  • 例:年間5,000万ドル、相互関税15%、第一次価格が20%低い場合
    5,000万 × 15% × 20%=150万ドルの削減ポテンシャル(他の特別関税・手数料・実装コストは別途考慮)。

7. リスクとコンプライアンスの勘所

  • 文書性の不足関連者間価格の説明不備は致命傷。Meyer判決は救済的だが、根拠資料の整備を前提とする点は不変。 Justia
  • 申告(Fインジケータ等)と現場オペの乖離は追徴・罰則の火種。中間業者の協力取り付け(コスト情報開示)が成功の鍵。 U.S. Customs and Border Protection
  • CBPの審査活発化を指摘する業界アラートが増加しており、監査耐性(サンプリング、追跡可能性)の事前構築が安全。 PCB USAMohawk Global

8. いま取るべきアクション

  1. 関税影響の棚卸し(HS別・SKU別、相互関税15%の影響を即時試算)。 The White House
  2. First Sale適用余地のスクリーニング(三者取引・マージン差のある品目の抽出)。
  3. サプライヤ・仲介者との合意形成(情報開示・契約改定の協議)。
  4. パイロットの早期実施(FR実装タイムラインに合わせ、9–10月の本格展開を見据えた先行準備)。 Reuters
  5. コンサル・ブローカーの確保(需要逼迫を踏まえ、着手枠の確保と見積を先行)。 Reuters

主要出典(抜粋)

  • 大統領令(相互関税の骨子)4/2 EOAnnex I(日本24%)9/4 日米合意実施EO(日本は合計15%トップアップ)The White House+2The White House+2
  • 実装見通し(施行時期)9/16頃までに低関税化が効く見込み(ロイター)。 Reuters
  • First Saleの活用・要件CAFC MeyerCBP First Sale Declaration/ガイダンスJustiaU.S. Customs and Border Protection+1
  • 需要・費用上昇の市況ブローカー需要急増・費用上昇(ロイター/業界団体再掲)。 ReutersNCBFAA – CMS
  • 欧州での活用機運大手がFirst Sale検討(ロイター)。 Reuters

付録:First Sale導入時の提案RFP項目(抜粋)

  • スコープ(HS/仕向け/サプライヤ階層)、成果物(適格性判断書、文書チェックリスト、SOP、パイロット申告支援、監査対応パック)、申告設計(Fインジケータ、行分割方針)、データ要件、移転価格連動、リードタイム、体制(マネジャー稼働率・バックアップ)、費用(固定+従量、成功報酬の可否)、守秘と情報開示合意(NDA/監査時の第三者閲覧)。

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アメリカ向け輸入でのファーストセールスで日本企業が陥りやすい落とし穴と関税低減のステップ

以下は、米国向け輸入での “First Sale(ファーストセール)” を前提に、日本企業が陥りやすい落とし穴と、関税低減を勝ち取るための実務ステップを、経営者目線で整理したものです。
※EUは2016年のUCC以降「ラストセール原則」に移行しており、ファーストセールは使えません。本回答は米国通関を対象にしています。Taxation and Customs UnionLegislation.gov.uk


まず押さえるべき基礎

  • 米国ではファーストセールが認められ得る:多段階取引(メーカー→商社→米国輸入者)で、一定条件を満たせば最初の売買価格を課税価格に採用可能。判例「Nissho Iwai(1992)」が基準を示しています。Justia Law
  • 条件は大きく3つ(通称:Nisshoテスト:判例 United States v. Nissho Iwai American Corp.(1992年)で確立された要件)
    1. メーカー↔仲介者間に**真正な売買(bona fide sale)**があること
    2. その売買時点で米国向けに明確に仕向けられていること(clearly destined for the U.S.)
    3. 独立当事者間価格であること(関連者の場合はcircumstances of saletest valuesで妥当性立証)
      これらはCBPの裁決・ガイダンスでも繰り返し確認されています。CROSS+1U.S. Customs and Border Protection
  • エントリー時の申告義務:ファーストセール適用時はFirst Sale Declaration通関時に申告する必要があります。U.S. Customs and Border Protection
  • 記録保存:関連資料は5年間の保管が義務(19 CFR Part 163)。不備は追徴や罰則のリスク。eCFR
  • EUは不可:「直前の売買」を基準とするUCC実施規則(Article 128)で、ファーストセールは実務上排除。米国とEUで方針が真逆です。Taxation and Customs Union

日本企業が陥りやすい “落とし穴” 12選

  1. 市場(米国/EU)の混同:EU貨物に米国の発想を適用して否認。まず仕向地別に方針を分けるTaxation and Customs Union
  2. 商社・サプライヤーからの資料未入手:メーカー発行の契約・PO・インボイス・支払証憑・出荷/梱包証跡が揃わずbona fide saleの立証に失敗。Customs Mobile
  3. “米国向けに明確” の証憑不足:製品仕様書やラベル、米国規格/UL表示、米国向け別注指示、パッケージ図面、船積み書類の紐付けが弱い。CROSS
  4. 関連者価格の立証不足:移転価格文書だけに依拠し、circumstances of sale/test valuesでの説明を欠く。CBPはTP文書のみでは十分と見なしません。U.S. Customs and Border ProtectionTuttle Law
  5. 非市場経済(NME)影響の見落とし:原材料・生産の一部がNME由来なのに、非市場的影響の排除を示せず否認された近時事例(Meyer)。Justia LawFindlaw
  6. アシスト/ロイヤルティの加算漏れ:金型・設計・無償支給、ライセンス料等の加算要素を見落とし過少申告に。eCFR
  7. インコタームズと内国費用の取り扱い誤り:EXW/FOB等による域内陸送費の扱いを混同。eCFR
  8. 申告漏れFirst Sale Declarationを入れ忘れ、後から説明が破綻。U.S. Customs and Border Protection
  9. 5年保存体制の不備:CBPの**(a)(1)(A)リスト**に沿った文書管理がない。Legal Information InstituteeCFR
  10. 年次トゥルーアップ/リベート処理の誤り輸入後の値引きは原則無視(後減額は不可)という規定理解不足。eCFR
  11. ブローカー指示の曖昧さ:明細行ごとの計算根拠・加算要素・貨物紐付けが伝わらず伝送値がズレる。U.S. Customs and Border Protection
  12. 監査・違反対応の軽視:過少申告は19 U.S.C. §1592の制裁対象(過失~故意で上限が大きく変動)。Legal Information Institute

関税低減を勝ち取るための「3条件」の見える化

  • 条件A|真正な売買(bona fide sale)
    契約・PO・インボイス・支払・引渡し・危険移転・所有権移転の一貫性。U.S. Customs and Border Protection
  • 条件B|米国仕向けの明確性(clearly destined)
    米国仕様/ラベル、米国規格、注文書に“U.S.”明記、米国向けLOT・梱包、BL/通関書類の紐付け。CROSS
  • 条件C|独立当事者価格(関連者はcircumstances of sale/test valuesで妥当性提示)Legal Information Institute

実務ステップ(着手~90日イメージ)

Phase 1|戦略設計(~30日)

  1. 対象市場の切り分け(米国のみFS可、EUは不可)と関与サプライヤーの棚卸し。Taxation and Customs Union
  2. サプライヤー合意形成:NDA/情報提供覚書(メーカー→商社→貴社)。
  3. クイック判定(SKU×供給網):A/B/Cの3条件に照らして実現性スコアを付与。

Phase 2|証憑の収集・設計(~60日)
4) “First Saleパッケージ”雛形を配布(下記チェックリスト)。
5) 加算要素の洗い出し(アシスト・ロイヤルティ・梱包等)と按分ロジックの確定。eCFR
6) 関連者テスト文書化(circumstances of saleの説明、必要に応じtest values参照)。U.S. Customs and Border Protection

Phase 3|パイロット&本番運用(~90日)
7) ブローカー実装:行別のFS価格・加算要素・証拠紐付け、First Sale Declarationの送達手順を合意。U.S. Customs and Border Protection
8) パイロット輸入(数件):CBPの質問(CF28/29)を想定した回答テンプレも準備。
9) 内部監査:記録の5年保存体制((a)(1)(A)リストに沿う)を点検。Legal Information InstituteeCFR
10) 展開:効果測定(1件あたりの関税節減額=従来価格×税率-FS価格×税率)。
 例)税率5%、従来$120→FS$80なら**$6→$4**、1個あたり**$2**削減。


取るべき証憑(“First Saleパッケージ”チェックリスト)

売買関係

  • メーカー↔商社、商社↔貴社の契約/PO/見積インボイス支払証憑(銀行送金明細)
  • 所有権移転/危険負担の条項、Incoterms
    米国仕向けの証拠
  • 米国仕様書、UL/ANSI等規格適合、米国向け梱包/ラベル図面、米国宛出荷指示
  • 生産LOTとBL・ISF・Entry書類のトレーサビリティ
    価格構成・加算要素
  • BOM/原価構成(アシストの有無)、金型/設計/梱包費、ロイヤルティの契約・支払根拠
  • インコタームズに応じた域内陸送費の扱い整理(EXW/FOB等)
    関連者取引の立証(該当時)
  • circumstances of sale説明書、test values参照資料、社内決裁や見積比較の実態

上記の考え方・要件は、CBPガイダンス/規則および裁決に基づきます。U.S. Customs and Border Protection+1eCFR


ブローカーへの指示(英文例)

“For the lines listed, appraise under the First Sale basis: use the manufacturer-to-middleman price as the transaction value, with the following additions (assists, royalties, packing) and references to supporting documents (contract/PO/invoices/proof of payment/specs/labels). File the CBP First Sale Declaration at entry. Maintain the full First Sale package for 5 years.”
(根拠:First Sale申告要件、5年保存義務)U.S. Customs and Border ProtectioneCFR


監査・紛争への備え

  • CF28/29対応台帳:案件別に「質問→根拠資料→回答案」を即時提示できる形で常備。
  • 過少申告の法的リスク:過失/重過失/故意で19 U.S.C. §1592の上限が変動。内部統制・教育・是正策は必須。Legal Information Institute
  • 近時の司法動向Meyer事件にみるNME影響の立証ハードル等、最新動向をウォッチ。Justia LawFindlaw

すぐ始められる「実務To‑Do」まとめ

  1. 仕向地別方針:米国(FS実施)/EU(FS不可)で分ける。Taxation and Customs Union
  2. 供給網ごとの実現性診断(Nisshoの3条件)。Justia Law
  3. サプライヤー合意(情報提供と5年保存のコミット)。eCFR
  4. First Saleパッケージ雛形を配布・回収(上記チェックリスト)。U.S. Customs and Border Protection
  5. ブローカー実装&申告運用(First Sale Declaration)。U.S. Customs and Border Protection
  6. 内部監査KPI(節減額/採用率/不備率/照会件数)で継続改善。

ファーストセールと中国生産

  • 中国製でも「ファーストセール(First Sale for Export)」は原則、適用可能です。国が中国だからという理由だけで不成立になるルールはありません。複数段階の売買の第1の売買が「米国向けの輸出販売」であり、独立当事者間(又は関係者間でも価格への影響なし)の真正な売買であることを、書証で立証できれば使えます。米国税関・国境警備局(CBP)の規則・裁判例がその枠組みを示しています。eCFRJustia Law
  • ただし中国が関与すると実務上のリスクは上がりやすい(証拠の取り寄せ、UFLPA対策、301関税・原産地判定、近時の判例運用など)。下記のとおり設計と証拠化が鍵です。U.S. Customs and Border Protection+1Court of International Trade


1) ファーストセールの成立要件(米国の基本ルール)

米国の関税評価は「取引価格(Transaction Value)」が原則で、米国向け輸出の売買での実際に支払った又は支払うべき価格を基礎とします。多段階の取引(製造者→海外中間業者→米国輸入者)の場合、裁判例(Nissho IwaiSynergy Sport)により、要件を満たせば第1売買の価格を評価基礎にできます。関係者間取引でも、「事情テスト」や「テストバリュー」で関係性が価格に影響していないと示せば受容されます。eCFRJustia LawFederal Register

要点(実務で見るチェック)

  • 真正な売買(所有権移転、価格、支払い実態、危険負担等が明確)
  • 米国向けに明確に仕向け(発注書・仕様書・米国仕様の包装/表示・船積書類の整合)
  • 独立当事者間(又は関係者間でも妥当価格)(事情テスト:通常の価格慣行、原価+通常利潤の回収ができる水準 等)
  • 書証の一貫性(製造者→中間→米国輸入者のPO/契約/請求書/支払証憑/物流書類のつながり)
    *規則上の根拠:19 CFR §152.103(関連者間の事情テスト・テストバリュー等)。eCFR

補足(2008〜2010年の動き)
2008年にCBPは「売買の解釈」を見直してファーストセールを狭める提案を出しましたが、その後撤回。同年の「ファーストセール申告(7501の“F”印)」は1年間の時限措置で終了しています(現在、一般的な“F”印提出義務はありません)。Federal Register+1U.S. Customs and Border ProtectionBarnes Richardson


2) 「中国関与」で高まりやすい実務リスク

A. UFLPA(ウイグル強制労働防止法)による拘留リスク

  • 新疆またはUFLPAエンティティ・リスト関係の原材料/工程が「一部でも」含まれる疑いがあると、強制労働推定により輸入禁止扱い(反証は「明白かつ説得力ある証拠」が必要)。ファーストセール可否とは別枠で、サプライチェーンの上流(原料〜紡績〜生地〜縫製 等)までトレーサビリティの立証が求められます。U.S. Customs and Border ProtectionU.S. Department of Homeland Security

B. 判例動向(Meyer系列)による立証ハードル

  • 中国(およびタイ)製調理器具を巡るMeyer事件では、CIT(国際貿易裁判所)がファーストセール不適用と判断した局面がありましたが、2022年にCAFC(連邦巡回控訴裁)が差し戻し、2024年にも再差し戻しを行い、過度に広い“非市場影響の不存在”の立証を課すのは不当との趣旨を示しています。結論として、ファーストセールは引き続き有効な選択肢ですが、**書証の充実(特に関連者間)**が厳しく問われています。Court of International TradeJustia LawNeville Peterson LLP

C. 追加関税(Section 301)・原産地の問題

  • 301関税は「原産国」に基づくため、中国原産なら多くの品目で追加関税(例:25%など)が乗ります。ファーストセールで関税評価額が下がれば、MFN関税だけでなく301の計算基礎も下がるため、なお有効ですが、**原産地判定(実質的変更)**が伴う案件(第三国加工など)は注意が必要です。U.S. Customs and Border ProtectionTrade.govCROSS
  • 2025年5月31日にUSTRは一部301除外の延長(〜2025年8月31日)を発表。除外や税率は政策変更の影響を受けやすいため、最新告示の確認が不可欠です。United States Trade Representative

D. AD/CVD(反ダンピング・相殺関税)

  • 製品がAD/CVDの対象なら、関税評価とは別の制度で運用されます。ファーストセールはAD/CVDの適用そのものを回避しません(Commerceの指示に基づきCBPが保証金徴収・最終賦課)。評価額の扱いが異なる場合に使う特別値フィールド等、申告実務も別途管理が必要です。Trade.govU.S. Customs and Border Protection

E. 中国側の情報越境規制・対外調査リスク(書証収集の難化)

  • 中国のデータ安全法・個人情報保護法、および反スパイ法改正(2023)や国家機密法改正(2024)の運用により、財務・サプライヤー情報等の国外移転やデューデリジェンスが難しくなる場面が増えています。工場側の原価・利潤資料や上流トレーサビリティ資料を米国監査向けに取り寄せる際のハードルとして認識が必要です。China Law TranslateArnold & PorterReuters+1

3) 実務対応:不成立リスクを下げる「設計」と「証拠化」

① 取引スキームの設計

  • 多段売買の明確化:製造者→(必要なら)独立の海外商社→米国輸入者、の契約の鎖を明確に。米国向けであることを第1売買の時点で示す(POの送付先、米国規格の仕様・表示義務、米国顧客名の紐付け等)。Justia Law
  • 関係者間なら事情テスト:19 CFR §152.103に沿い、通常価格慣行や原価+通常利潤で価格妥当性を示す内部資料(見積内訳、コストシート、PL/BSの抜粋等)を準備。eCFR

② 証拠パッケージ(最低限)

  • 製造者→中間業者→米国輸入者の発注書・契約・請求書・支払証憑(送金明細)・出荷指図/船荷証券前後一致
  • 仕様書・パッキングリスト・写真(米国仕様の表示・ラベル)
  • (関係者間)価格妥当性の裏付け(原価表、粗利分析、比較対象)
  • (該当品)UFLPA対応:サプライチェーントレース一式(原材料→最終製品の系譜、工場・下請名、入出庫台帳、GPS/軌跡・BCトレーサ等)、リスク評価と是正策
  • 記録保存5年間の記帳・保存(Part 163)。Legal Information Institute

③ 申告・当局対応の工夫

  • 事前照会/裁決の活用:必要に応じPart 177に基づく評価(Valuation)に関する裁決請求や、現場税関を通じたInternal Adviceを検討(不確実性の低減)。eCFR+1
  • 301・原産地:第三国加工案がある場合は**「実質的変更」の成立可能性を事前評価(必要なら原産地裁決**)。301は原産国ベースで課される点を常時確認。Trade.govU.S. Customs and Border Protection
  • AD/CVD:Commerce/CBPの指示(キャッシュデポジット、特別値フィールドの使用可否など)を事前に確認。U.S. Customs and Border Protection

4) 将来的なリスク(モニタリング推奨)

  • 政策変更リスク:301関税の税率・除外運用延長/終了短期で変動し得ます(2025年5月に一部除外延長の例)。最新のUSTR告示・連邦官報を都度確認。United States Trade Representative
  • UFLPA強化:エンティティ・リストの拡充や重点業種のシフト等、執行強化が継続見込み。証拠の粒度を先取りして整備。U.S. Customs and Border Protection
  • 判例の揺れMeyerのように関連者間・中国製での立証の細部は今後も争点になり得ます。事情テスト資料の厚みを維持。Justia Law
  • 中国国内規制越境データ反スパイ/機密の運用次第で、上流資料の国外移転が不許可や遅延となるケース。現地で合法に取得・保管・翻訳する体制を前広に構築。Arnold & PorterReuters

5) まとめ(実務チェックリスト)

  • 多段売買の第1売買米国向けであることを契約・書類で明確化
  • 真正な売買(所有権・支払・危険負担)の成立証拠を整備
  • 関係者間:19 CFR §152.103の事情テストに耐える価格妥当性資料
  • UFLPA:原材料レベルまでのトレーサビリティ反証資料
  • 301/原産地:第三国加工の有無と実質的変更の成否を事前評価
  • AD/CVD:対象か否か、対象なら申告上の特別取扱いとリスク把握
  • 記録保存5年(Part 163)と英訳/対訳の用意
  • 必要に応じ事前裁決/IAで不確実性を低減

参考(主な根拠)

米国関税でファーストセールを使えるかどうかが争点となったMeyer事件(2024)

話題の「Meyer事件」は、米国関税で“ファーストセール(first sale)”を使えるかが争点になった一連の訴訟の最新(2024年)判断を指します。

要点

  • 2024/12/13、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は差し戻し:下級審(CIT)が“親会社の財務情報を提出していない=不利”という推定的不利益でfirst saleを否定したのは不適切、ある証拠記録をちゃんと評価し直せと命じました。first sale自体は引き続き有効な選択肢です。 (Justia Law, Fed Circuit Blog)
  • 中国が関わるから即NGではない:2022年のCAFCは、“非市場経済(NME)ゆえにダメ”という考え方を否定。見るべきは買手・売手の関係が価格に影響したかであり、NMEの一般論ではないと明確化しています。 (Justia Law, ホワイト&ケース LLP)
  • 現時点の実務感:first saleは使える余地が続くが、証拠の出し方・残し方(テストの立証)が勝負。親会社のフル財務が必須とまでは言えないが、“関係性が価格に影響していない”ことの立証は必要です。 (Justia Law)

何が争点だったか

複数段の関連会社取引(製造業者→関連ディストリビュータ→米国輸入者)がある場合、最初の売買(first sale)の価格を関税評価に使えるか。Meyer社は製造業者→関連ディストリビュータの価格での評価(first sale)を主張、税関はディストリビュータ→輸入者の“第二段階”価格(second sale)で課税しました。 (Justia Law)


2024年判決のポイント(企業目線)

  1. 推定的不利益はダメ
    CITは“親会社(Meyer Holdings)の財務資料を出していない”ことを重く見てfirst saleを退けましたが、証拠命令違反もないのに不利推定を置くのは不適切とCAFC。記録上の他の証拠(社員宣誓証言、専門家意見、会社資料)を評価しろと差し戻し。 (Justia Law)
  2. 立証の道筋(2テスト)を明示
    関連者間価格の妥当性は、**19 C.F.R. §152.103(l)(1)**の
  • 「全コスト+利益」テスト
  • 「通常の価格設定慣行」テスト
    いずれかで示し得る、と再確認。CITはこの観点から**“記録にある証拠で”**判断し直すべきとされました。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)
  1. NME(中国)一般論は関係ない(ただし2022年判断)
    評価にNMEの影響一般を持ち込むのは法令上の根拠なし。見るべきは**「関係性が価格に影響したか」**という条文要件だけ、という線引きをCAFCは既に示しています。 (Justia Law)

結果:first saleは“生きている”。ただし証拠の作り方次第。2024年時点では最終確定ではなく差戻し中という状況です。 (Justia Law)


企業への実務インパクト(チェックリスト)

  • 取引書類の突合:発注書・インボイス・支払エビデンスを製造段階(first sale)単位でひも付け可能に。 (ホワイト&ケース LLP)
  • “関係が価格に影響していない”証拠:移転価格方針、独立第三者との比較、マージンの一貫性などで通常の価格設定慣行を示す。 (Justia Law)
  • 原価裏付け:品目別のコスト内訳+利益(BOM、製造間接費、販管費の扱い)を監査トレース可能に。 (U.S. Customs and Border Protection)
  • サプライチェーン図解:多段取引(香港/マカオの関連販社など)を物量・代金フローで可視化。 (Justia Law)
  • 親会社情報の扱い常に必須ではないが、求められた時に代替できる記録証拠を準備(子会社レベルの帳票・宣誓供述・専門家意見等)。 (Justia Law)
  • 監査/紛争対応プロトコル:CBP照会に対する短期提出体制と、first sale適用判断の社内基準を明文化。 (BDO)

いま何をするべきか(実行順)

  1. 対象SKUの棚卸し:first saleで申告中/検討中の品目を洗い出し。
  2. 証拠セットのギャップ分析:上記2テストに照らして足りない資料(コスト、比較対象、価格設定の説明)を特定。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)
  3. 運用ルール化:PO発行から支払・出荷・通関までの書類ひも付け標準を定義。
  4. リスク説明の社内共有差戻し中であること、first saleが制度として排斥されたわけではないことを経営・現場に周知。 (Justia Law)

事件の流れ(年表)

  • 2021/3:CITがfirst sale否定(NME影響などを重視)。 (International Trade Law)
  • 2022/8/11:CAFCがNME一般論の持込みを否定し差戻し(Meyer “III”)。 (Justia Law)
  • 2023/2/9:CIT、再びfirst sale否定(主に親会社財務不提出を重視)。 (BDO)
  • 2024/12/13:CAFC、推定的不利益は不適切として再度差戻し。 (Justia Law, Fed Circuit Blog)

よくある誤解

  • Q:非市場経済(中国)が関わるとfirst saleは使えない?
    A:いいえ。CAFCはNME一般論は評価に持ち込まないと明確化。焦点は関係性が価格に影響したかです。 (Justia Law)
  • Q:親会社の連結財務がないと必ず負ける?
    **A:必ずしも必要ではない。2024年CAFCは“未提出=不利推定”**という短絡を戒め、既存記録の実質審理を命じています。 (Justia Law)

注:本件は最終確定前(差戻し審理中)です。実案件では顧問弁護士・通関士と協議のうえ、対象品目ごとに二つのテスト(全コスト+利益/通常の価格設定慣行)で証拠を整えるのが実務的です。 (Justia Law, U.S. Customs and Border Protection)

参考(判決・概要)

  • 2024年12月13日 CAFC判決(差戻し)— Meyer Corp., U.S. v. United States(判旨・PDFあり)。 (Justia Law)
  • 同日の要約(FedCircuitBlog)。 (Fed Circuit Blog)
  • 2022年のCAFC判断(NME一般論の排除)。 (Justia Law)
  • 2023年CITの再度否定(背景把握用)。 (BDO)
  • CBP Customs Bulletin(規則テスト等の整理)。 (U.S. Customs and Border Protection)

ファーストセール:代表的な否認・却下事例

代表的な否認・却下事例

  • Meyer Corp. v. United States(CIT 2021→再度CIT 2023)
    取引は米国向け・二重売買自体は認定されたものの、関連者間でのアームズレングス立証が不十分としてCITが否認(親会社の財務資料等の未提出が致命傷)。※その後CAFCが2022年・2024年に差戻ししており最終結論は係属中だが、「証拠不足だと否認される」好例ArentFox SchiffBDOホワイト・アンド・ケースFindlaw
  • HQ H307028(CBP本庁・AFR審理, 2020–2021頃, アパレル)
    中間業者が独立した買主として機能していない(実質は代理)、発注や工場選定の主導が輸入者側—などからボナファイド売買性を否定し、First Sale不採用Customs Mobile
  • HQ H097035 → 再検討HQ H215658(関連者間ファーストセール, 2011–2013)
    アームズレングスの証拠不足・完全なペーパートレイル欠如を理由に最初の売買価格の採用を否定。再検討でも結論は維持。 CROSSCustoms Mobile
  • H316892(Machinery CEEが現場で否認→本庁で内部助言扱い, 工具)/2022年の否認事例報道
    インコタームズや書類関係から中間業者がタイトル/危険負担を負っていないと判断→最初の売買が“売買”になっていないとして不採用(時点の港判断)。 CROSSSandler, Travis & Rosenberg, P.A.HKTDCリサーチ
  • HQ H303114(2019, 木工ツール/小売)
    契約条項で「タイトル移転」と書いてあっても、実取引でのタイトル・危険負担移転の実証が無いとして否認(“条項の宣言だけでは足りない”)。 Customs Mobileバーンズリチャードソン
  • HQ H326891(2024, 食品原料)
    多段階取引だが、上流の売買はボナファイドでないとして、輸入者→米国顧客の下流売買のみを有効な売買と認定=First Saleは使えず、上流価格は不採用Customs Mobile

共通する「否認パターン」(要チェック)

  • 中間業者が“買主”としての実体を欠く(自ら仕入先選定・価格交渉・タイトル/危険負担を負っていない)。 Customs MobileSandler, Travis & Rosenberg, P.A.
  • アームズレングス立証が弱い(関連者間で財務・原価+利益等の裏付け不提出)。 ArentFox Schiff
  • 完全な紙のトレイル不足(契約/PO/各段インボイス/支払/船荷証券/仕様などが噛み合わない)。 Customs Mobile
  • タイトル/危険負担の移転が曖昧(条項ベタ書きだけ、Incotermsの整合性不備)。

ファーストセールは実務上可能か

短く言うと――“認められるが、簡単ではない”です。
CBP(米国税関)はファーストセール自体を合法な評価方法として明確に認めて
います(Nissho Iwai判決/CBPガイダンス)。ただし、条件と証拠が揃っていることが前提で、書類が弱い案件は普通に否認されます。Justia LawU.S. Customs and Border ProtectionCROSS

なぜ「簡単ではない」のか

  • CBPは、①米国向けに明確に仕向けられている、②二つの真正な売買、③アームズレングス価格――という3要件を厳密に見ます。どれか欠けると否認の典型。U.S. Customs and Border ProtectionCROSSミラー・アンド・シェヴァリエ
  • 近年のMeyer事件では、裁判所が「余計な追加要件」を却下しつつも、立証責任は輸入者にあることを改めて示しました。つまり“使えるが、ちゃんと証明せよ”という姿勢です。Justia LawFindlaw
  • 政府自身も利用の広さや承認率の統計は把握していないと示唆(データ不足)。ゆえに「一般にどれくらい認められるか」の平均値は公表されていません。usitc.gov

実務感(目安)

  • 要件と証憑が揃えば:通常は受理されます(審査・照会は来ます)。
  • あいまいなまま出す:高確率でCF-28/29(照会・更正通知)否認の流れ。近年も否認事例が報じられています。Sandler, Travis & Rosenberg, P.A.Mohawk Global

“認められやすく”するコツ(超要点)

  • 完全な紙のトレイル:契約/PO/各段のインボイス・支払い証跡/B/L/仕様・US向け表示/関連者間の価格妥当性の裏付け。U.S. Customs and Border Protection
  • パイロット運用→横展開:数SKUで試し、照会対応の型を作る。
  • 不安なら事前照会(Part 177):評価に関する見解を取ってから本格導入。※CBPのバリュエーション裁決や解説にもT.D.96-87の考え方が繰り返し示されています。CROSSCustoms Mobile

補足(重要):「“F”インジケーター
2008年のFarm Bill1年間だけ“First Sale使用時に7501の行にFを付す”という報告義務がありました(後にレトロ申告も実施)。恒久義務ではありません。最近のCBP公式ページも、その一時的制度として説明しています。U.S. Customs and Border Protection+1

結論:ファーストセールは普通に通ります(制度として確立)。ただし**“出せば通る”ほど緩くはない**。3要件を書類で明確に立証できる体制があるかどうかで、体感の通りやすさが決まります。

ファーストセールの土台となった「日商岩井(Nissho Iwai)事件」って何?

結論
サプライチェーンに「メーカー → 商社(中間業者) → 米国の買い手」という三者売買があるときでも、条件を満たせばメーカー→商社の“最初の売買価格”で関税評価してよい、と連邦巡回控訴裁(CAFC)がはっきり示した有名判決です。以後の“ファーストセール”の土台になりました。Justia Law


何が起きた?

  • 当事者と品目
    メーカー=川崎重工(日本)、中間業者=日商岩井、米国の買い手=NY州の公共交通当局(MTA)。品目は地下鉄の車両Justia Law
  • 争点
    米国税関(当時)は**「商社→MTAの価格(高い方)」で関税計算。日商岩井側は「メーカー→商社の価格(低い方)」**を使うべきと主張。Justia Law
  • 判決(1992年)
    連邦巡回控訴裁は商社→MTA価格ではなく、メーカー→商社価格で評価すべきと判断し、下級審(CIT)の判断を覆しました。Justia Law

何を基準にしたの?(“Nisshoテスト”)

判決は、最初の売買価格を使える条件を整理しました。要はこの3点です:

  1. 米国向けに明確に仕向けられている(clearly destined for the U.S.)
  2. **真正な売買(bona fide sale)**がある
  3. アームズレングス(関連者間でも価格が歪んでいない)
    これらを満たすとき、メーカー→中間業者の価格を取引価格(transaction value)として採用できる、と明記しています。Justia Law

その後、実務ではどう運用されている?

  • 財務省決定 T.D. 96-87CBP裁決が、Nisshoの考え方を具体化。
    「インポーター申告価格が原則」だけど、上の3条件を書面で立証できれば**“ファーストセール”が使える**、という運用が確立。必要書類は契約/PO/各段のインボイス・支払証跡/B/Lなど完全なペーパートレイルCustoms Mobile
  • CBPの**インフォームド・コンプライアンス(ICP)でも、“真正な売買”と“米国向け売買”**の確認ポイントが案内されています。U.S. Customs and Border Protection

ビジネス目線での要点

  • イメージ
    メーカー(日本) → 商社(海外) → 米国輸入者
    ↑この左側の最初の価格で評価できれば課税ベースが下がる関税コストが下がる。ただし3条件+証憑がカギ。Justia LawCustoms Mobile
  • 実務Tip:三者でNDA→書類共有→数SKUで試行照会対応の型を作って横展開。CBPはケースバイケースで見るので、書類の厚みが成否を分けます。Customs Mobile