USMCA適格の中・大型車 232追加関税を非米国分だけにする申請手続が正式化

中・大型車(MHDV: Medium- and Heavy-Duty Vehicles)の米国向け輸入では、USMCAの原産地規則を満たしていても、232条に基づく追加関税(原則25%)の論点が残ります。

今回の動きの本質は、USMCAの特恵適格そのものではなく、232追加関税の課税ベースを「車両の総額」ではなく「非米国分の価値」に限定するための、商務省(Commerce)への申請手続が連邦官報で明文化された点です。

何が正式化されたのか

2026年2月2日付の連邦官報(Department of Commerce / International Trade AdministrationのNotice)で、USMCAの特恵関税待遇に適格な中・大型車について、輸入者が「米国コンテンツ(U.S. content)」をモデル単位で申請し、承認されれば232追加関税を「非米国分の価値」にだけ適用できる仕組みの提出・審査手続が示されました。

提出先メールアドレス、必要情報、認証者、審査後のCBP連携などが具体化しています。

ここでいう「米国コンテンツ」は、米国の生産および生産関連活動に帰属する価値として商務長官が判断すると整理されています。具体的には、USMCAのArticle 4.1における「production」の定義と整合的に解釈されます。

時系列で見る全体像

日付主な出来事実務への意味
2025年10月17日大統領布告10984(中・大型車、特定部品、バスに232追加関税)中・大型車に原則25%(バス等は10%)、2025年11月1日から適用開始
2025年10月29日CBPがCSMSで申告方法(Chapter 99)を提示9903.74.01〜等の使い分けを提示。米国分・非米国分の分割申告は「追加ガイダンスまで申告しない」注意喚起も
2026年2月2日Commerceが申請手続を連邦官報で公表輸入者が申請できる要件と提出書類が確定。遡及の扱い、過大申告時のリスクも明記

2025年11月3日付のジェトロビジネス短信では、USMCA原産の中・大型車は非米国分のみ課税となり得るが、商務長官の承認と追加ガイダンスが必要で、CBPは当面その制度を用いた申告を控えるよう求めた、という整理をしています。

対象になる輸入と対象外

対象(申請できる)

次の両方を満たす中・大型車です。

  • メキシコまたはカナダから輸入される
  • USMCAの特恵関税待遇に適格(原産性要件を満たす)

対象外

  • USMCA域外(メキシコ・カナダ以外)からの中・大型車
  • カナダ・メキシコからでもUSMCA特恵に適格でない中・大型車

申請手続の中身:何を、誰が、どこへ出すか

いつから、どこへ

誰が認証するか

提出書類は、輸入者側のCFO、法務責任者(General Counsel)、または同等レベルの上級役員による認証が求められます。

何を提出するか(モデル単位)

連邦官報の手続では、モデルごとに少なくとも次の情報を含めることが求められます。

  1. 輸入時点の申告価格(Customs value、19 U.S.C. 1401aベース)
  2. 米国コンテンツの価値(商務長官の考え方に基づき算定)
  3. 非米国コンテンツの価値(総額から米国コンテンツを控除)
  4. 生産地、最終組立国
  5. USMCA特恵適格の裏付け
    • 署名済みの原産地証明(origin certification)
    • 鉄鋼・アルミ要件、労働価値要件に関する承認済み認証(CBPと労働省が共同でレビュー・承認したもの)
    • 代替ステージング(Alternative Staging Regime)の承認対象かどうか
  6. 輸入者名、IOR番号、メーカー情報、原産国、モデル情報
  7. 遡及適用を求める場合は、過去のエントリー番号も提示

なお、モデル内で価格や構成がぶれる場合、USMCA自動車付属書(Automotive Appendix Article 5)にある平均化手法の利用が想定されています。

審査後に何が起きるか

Commerceは提出内容を審査し、不足があれば追加資料や説明を要求できます。

整合性が確認され、米国コンテンツと非米国コンテンツの価値が決まると、輸入者とCBPへ通知し、承認済みの輸入者・モデルのリストもCBPへ連携するとしています。

重要なのはここからで、承認されたモデルについては、232追加関税(25%)を「非米国分の価値」にだけ課す扱いになります。

遡及適用と有効期間

遡及適用

大統領布告およびCommerceの手続では、2025年11月1日以降に輸入された適格モデルについて、商務長官の裁量で遡及適用を認め得るとされています。

有効期間と締切(2027年以降に効いてくる実務)

  • 2026年12月31日以降の輸入に係る適格判断は、原則として暦年1年のみ有効
  • 翌年分の適格判断を確実に間に合わせるため、輸入年の前年10月1日までに提出するよう求める設計
  • 新モデルは随時申請できるが、その年末までしか有効にならない

この「10月1日締切」は、車種追加や年次変更が多い中・大型車ビジネスでは、社内のBOM・原価・原産証明の更新サイクルを前倒しで固定化する必要が出ます。

過大申告リスクが非常に重い

CBPが、米国コンテンツの申告が過大である、または商務長官が承認した米国コンテンツ値と整合しないと判断した場合のペナルティ設計が強烈です。

  • 232追加関税(25%)が、非米国分だけでなく車両の総額に対して遡及的・将来的に適用され得る
  • 同一輸入者・同一モデルの全輸入に波及し得る

つまり、申請で攻めるほど、ガバナンスと証跡品質がないと後で跳ね返る構造です。

通関実務(Chapter 99)で何が変わるか

CBPのCSMS(2025年10月29日)では、MHDV関連のChapter 99として、次の枠組みが示されています。

  • 9903.74.01: 中・大型車(該当見出し)に25%
  • 9903.74.02: バス等(8702の該当)に10%
  • 9903.74.03: USMCA適格でCommerce承認を得たモデルの「非米国分」に25%
  • 9903.74.06: 同モデルの「米国分」は0%
  • 9903.74.10: USMCA適格の中・大型車部品(ノックダウンキット等を除く)は0%

ただしCSMSは、9903.74.03と9903.74.06による米国分・非米国分の分割申告について、追加ガイダンスが出るまで申告しないよう明示しています。

今回Commerce側の申請手続は整いましたが、現場では通関システム(ACE)上の具体的な入力・配賦方法や必要コード運用が追加で整備される可能性が高い点は、引き続き注視が必要です。

日本企業にとっての実務インパクト

中・大型車は、完成車の輸出入だけでなく、北米域内サプライチェーンで部品を供給する日本企業にも波及します。

理由はシンプルで、USMCA適格の維持と、米国コンテンツ算定の裏付けのために、メーカーや輸入者からサプライヤー情報の提出要求が増えるからです。

典型的には次が増えます。

  • 原産性の裏付け(PSR適用、原産証明の整合)
  • 鉄鋼・アルミ、労働価値など自動車系の追加要件に関する証跡連携
  • 商務省申請に耐える原価・価値の説明(どこまでが米国内活動に帰属するか)

企業が今すぐ整えるべきチェックリスト

対象判定

  • 自社の取引が「MHDV」か、バス(8702)を含むか
  • 輸入ルートがメキシコ・カナダ経由でUSMCA適格になっているか

証跡パック整備

  • モデル単位で、申告価格、米国コンテンツ、非米国コンテンツの算定根拠
  • origin certification、関連認証(該当する場合)

ガバナンス

  • CFOまたは法務責任者が認証できるレベルまで、社内の数字と原産根拠を一本化
  • 変更管理(調達先・工程変更で米国分が下がる場合は速やかに再判定申請)

遡及の判断

  • 2025年11月1日以降の輸入について、遡及申請の費用対効果とリスクを試算

よくある誤解

誤解1: USMCAの原産性判定が簡素化される

事実: USMCA特恵の適格性は別枠で、今回の申請は232追加関税の課税ベースを調整するためのものです

誤解2: USMCA適格なら自動的に非米国分だけ課税

事実: Commerceの承認が前提です

誤解3: 米国コンテンツは多少盛っても大丈夫

事実: 過大申告のダメージが非常に大きく、モデル単位で波及し得ます

まとめ

USMCA適格の中・大型車について、232追加関税を非米国分の価値に限定するための申請手続が、2026年2月2日に連邦官報で正式化されました。

一方で、通関現場ではCBPが分割申告の実装ガイダンスを段階的に整える運用であり、制度メリットを取りに行くほど、原産・原価・証跡の品質とガバナンスが勝負になります。


免責: 本稿は一般情報であり、個別案件は通関業者・弁護士等の専門家と事実関係を確認のうえ判断してください。

メキシコ関税引上げとUSMCA適用の盲点

メキシコ調達と北米輸出のコストが想定外に膨らむ理由

2026年1月1日、メキシコは一般最恵国税率(MFN)を広範囲に引き上げました。対象はHS8桁で1,463品目、税率は5%から最大50%まで引き上げられ、繊維・履物、鉄鋼、自動車・自動車部品、プラスチック製品など、サプライチェーンの裾野が広い分野が含まれます。natlawreview+1

このニュースを見て「うちはUSMCAで北米向け輸出だから大丈夫」と判断すると、原価とキャッシュフローで痛い目を見ることがあります。盲点は一言で言えば、完成品の無税と部材の関税コストは別物という点です。

まず結論:今回の関税引上げで起きること

次の3点が、実務インパクトの核心です。

1つ目:メキシコとFTAがない国からの輸入コストが上がる
中国、インド、韓国、タイ、インドネシアなど、メキシコとFTAを持たない国からの輸入が主な影響対象になります。linkedin

2つ目:FTA締結国でも、特恵を使わなければMFNが適用される
日本は日墨EPAやCPTPPにより多くの品目で特恵税率が見込めますが、特恵申告をせずに輸出するとMFNが適用される点が重要です。vemaps

3つ目:USMCA輸出でも、メキシコ側の部材関税がコストとして残り得る
特にIMMEXなど関税繰延べスキームを使う企業ほど、USMCA第2.5条の規律が効いてきます。tuttlelaw+1

何が変わったのか:メキシコ関税引上げの整理

メキシコ上院は2025年12月10日、輸出入関税法(LIGIE)の改正を可決し、2026年1月1日から新税率を適用する流れになりました。対象の品目数1,463は維持されましたが、途中で115品目が入れ替わっているため、過去のリストで判断するのは危険です。trade+1

また、旅客車の一部は50%への引上げが維持されるなど、分野によってはインパクトが極端に大きくなり得ます。vemaps+1

盲点1 非FTA国だけの話ではない

日本企業の現場で起きやすい誤解は「日本は対象外だから無関係」というものです。実務の実態は次の通りです。

  • 日本原産であっても、日墨EPAやCPTPPの特恵申告をしなければMFNが適用されるvemaps
  • サプライヤーから原産情報が得られず、特恵が使えない輸入が増えると、関税コストが一気に顕在化する

JETROも、特恵税率の適用には原産地証明書の取得など所定手続きが必要で、手続きをしない場合はMFN税率になる点を明示しています。vemaps

盲点2 USMCAがあっても、メキシコ側の部材関税は消えない

USMCAは北米域内の完成品取引を無税化しやすくする仕組みですが、メキシコが域外から輸入する部材にかかる関税まで自動でゼロにするものではありません。ここで効いてくるのが、**USMCA第2.5条(Drawback and Duty Deferral Programs)**です。prodensa+1

ポイントは2つあります

1. 関税繰延べは、輸出時に精算が起き得る
USMCA第2.5条は、一定の条件下で関税還付や関税繰延べを利用して実質的に関税負担を回避することを制限します。条文上、関税繰延べ制度で輸入した物品を他の締約国へ輸出する場合、輸出側は国内消費向けに引き出したかのように関税を賦課し、その上で限定的に免除・減額できる、という構造です。cbsa-asfc+1

メキシコのMFNが上がると、この精算額の上限(実務的にはLesser of the Twoと呼ばれる差額)が大きくなり、キャッシュフローと原価に直撃します。natlawreview+1

具体例(自動車部品)linkedin+1

  • メキシコ輸入時の非FTA部材関税(2026年):25%
  • 米国輸出時の完成品関税(USMCA不適合):10%
  • → IMMEX企業は米国側10%のみ相殺可能で、残り15%はメキシコで納付義務が発生

2. 60日ルールが資金繰りを揺らす
USMCA第2.5条には、輸出先で支払った関税額の証憑を一定期間内に提示できない場合、輸出側がいったん関税を徴収する建付けがあります。米国・カナダでは、関連する規定として60日という期限が条文運用上の重要な目安になります。tuttlelaw+1

書類が遅れるだけで、想定外の納付が先に発生し、後追いで調整する形になり得ます。cbsa-asfc

盲点3 USMCAの適用は「原産性の主張と証明」が前提

もう一つの落とし穴は、USMCAでの特恵申告は証明の運用が整っていないと簡単に崩れることです。

USMCAでは特定の様式の原産地証明書は要求されません。その代わり、Annex 5-Aに定められた最低限のデータ要素を含む認証(Certification)を、任意の形式で提示できることが求められます。preferredship+1

実務で効くのはここです

  • 形式自由という言葉を、証憑管理が不要と誤解する
  • HS6桁を含む要素が必要なのに、分類とBOMの紐付けが曖昧ustr
  • 輸出者・生産者・輸入者の誰が認証するかが社内で決まっていないpreferredship

結果として、米国側でUSMCA特恵が崩れ米国関税が発生するだけでなく、メキシコ側の関税繰延べ精算も別問題として残り、二重にダメージを受ける構図になります。natlawreview

企業が今すぐやるべき実務チェック

最後に、ビジネスマン向けに優先順位順で整理します。

1 影響品目の特定

  • 自社の輸入品目(TIGIE 8桁)を洗い出し、1,463品目の対象に入っているか確認trade
  • 途中で品目の入れ替えがあるため、最新版のリストで確認するvemaps

2 調達国とFTA利用有無の棚卸し

  • FTA締結国原産でも、特恵を使っているかを取引単位で確認
  • 特恵未利用の取引を優先して是正するvemaps

3 IMMEXなど関税繰延べの前提更新

  • 「輸入時は無税」ではなく「輸出時に精算が起き得る」前提で原価を組み直すprodensa+1
  • USMCA第2.5条に基づく差額精算(Lesser of the Two)、証憑の提出期限(60日)を、社内KPIとして管理するtuttlelaw+1

4 USMCA認証と証憑の整備

  • 認証は様式自由だが、最低限のデータ要素(HS6桁含む)が必要ustr+1
  • 誰が認証するか、どこに保管するか、更新頻度を決めるpreferredship

まとめ

メキシコの関税引上げは、単なる対外政策ではなく、北米サプライチェーンの原価構造を変えるイベントです。特に、IMMEXを使って域外部材を投入し、USMCAで北米に輸出するモデルほど影響が出やすい構造にあります。trade+2

対策の第一歩はシンプルです。品目、原産地、FTA利用、関税繰延べ、USMCA認証。この5点を一本の台帳でつなぐこと。ここがつながると、コスト試算、取引条件の見直し、調達転換の優先順位が一気に明確になります。


注意事項

本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の法務・通関判断を代替するものではありません。最終判断は当局公表資料や専門家確認で行ってください。


  1. https://natlawreview.com/article/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune
  2. https://www.trade.gov/market-intelligence/mexico-customs-law-reform
  3. https://www.linkedin.com/pulse/mexicos-january-2026-tariff-shift-what-means-imports-supply-tian-16cfc
  4. https://vemaps.com/mexico/mx-06
  5. https://www.tuttlelaw.com/newsletters/2020/7-28-20_usmca_drawback.html
  6. https://www.prodensa.com/insights/blog/the-immex-framework
  7. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/publications/dm-md/pdf/d7-4-3-eng.pdf
  8. https://preferredship.com/wp-content/uploads/2020/06/USMCA_CoO_US.pdf
  9. https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/Text/05_Origin_Procedures.pdf
  10. https://www.foley.com/ko/insights/publications/2025/12/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune/
  11. https://www.jdsupra.com/legalnews/mexico-approves-significant-tariff-5879289/
  12. https://news.globalialogisticsnetwork.com/2025/11/07/interview-with-globalia-monterrey-a-look-at-mexicos-2026-trade-reforms/
  13. https://www.craneww.com/knowledge-center/trade-advisory-notices/mexicos-2026-tariff-reform/
  14. https://www.jdsupra.com/legalnews/mexico-proposes-significant-customs-and-3809818/
  15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/orb-200701/doc1.pdf
  16. https://www.trade.gov/sites/default/files/2023-09/fulltext.pdf
  17. https://www.afslaw.com/perspectives/alerts/who-can-make-usmca-certification
  18. https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11e020.pdf
  19. https://www.pcbusa.com/post/how-to-fill-out-certification-of-origin-under-cusma-usmca-t-mec
  20. https://www.customs.go.jp/roo/english/procedure/index.htm
  21. https://biblioteca.cejamericas.org/bitstream/handle/2015/2837/Mexican_government_changes_IMMEX_regime.pdf?sequence=1&isAllowed=y

USMCA再検証と中南米関税再編の動向

北米・中南米でいま、「USMCA再検証」と「関税再編」が同時進行しており、自動車・部品を含む製造業サプライチェーンにとっては、2030年代まで影響し得る大きな転換点になりつつあります。
ここでは、日本のビジネスマン向けに、なにが起きているのか/何がリスクか/いま何を準備すべきかを整理します。


1. USMCA再検証:2026年レビューと「サンセット条項」の正体

1-1. 2026年の「共同見直し」と2036年サンセット

USMCAは、16年の有効期間+6年ごとの見直しという仕組みを持つ協定です。

  • 発効:2020年7月1日
  • 初回の「共同見直し(joint review)」:2026年7月1日
  • 協定の有効期限:2036年7月1日(発効16年後) (CSIS)

USMCA第34.7条では:

  • 2026年レビューで、3か国が「延長したい」と書面で確認すれば、そこからさらに16年間延長(2036→2052年) (whitecase.com)
  • 逆に、2026年で延長意思がそろわない場合:
    • 協定自体は2036年までは継続
    • その間、毎年レビューを続ける義務があり、いずれかのタイミングで3か国が延長に合意すれば、その時点から再度16年延長 (Steptoe)

つまり、「2026年にUSMCAがいきなり終わる」わけではありません。ただし、2026年のレビュー結果次第で「2036年以降のルール」が見えなくなる可能性があり、これは長期投資・拠点戦略にとって大きな不確実性となります。


1-2. 2026年レビューで議論になりそうな論点

各種専門家レポートを見ると、以下の論点が焦点になると見られています。(CSIS)

  1. 自動車・部品の原産地規則(ROO)と域内含有率
    • エンジン、トランスミッション、バッテリーなど主要部品の「地域価額含有率(RVC)」要件は、既に高水準。
    • OEM・部品メーカーからは「コスト負担が大きい」「サプライヤーの選択肢が狭まる」との声も強い。
    • 一方で、米国側は「さらなる国内回帰」「対中国依存低減」を重視しており、より厳格化を求める可能性も。
  2. 労働・環境・強制労働条項の運用強化
    • 労働章の急速な適用(特にメキシコの工場)や、強制労働関連の輸入制限は、サプライチェーン全体にコンプライアンスコストを上乗せ。
    • 2026年レビューでは、通報制度の拡充や対象産業の拡大が議論される可能性。
  3. デジタル貿易・サービスルールのアップデート
    • データローカライゼーション、AI・クラウドサービスを巡る規律強化。
    • 物流・サプライチェーンのデジタル化が進む中で、関税だけでなく“非関税ルール”の変更リスクも増大。

1-3. 日系企業にとっての具体的リスク

自動車・部品メーカーを中心に、日系企業が直面し得る主なリスクは次の通りです。

  1. 長期投資の「回収期間」とUSMCAのタイムラインのズレ
    • EV工場やギガファクトリーなど、投資回収期間が10〜15年に及ぶ案件では、
      「2036年までのルールは見えているが、その先は見えない」という状態が続く可能性。
    • 2026年レビューで延長の方向感が見えない場合、**北米投資の意思決定に“割増しリスクプレミアム”**が必要になる。
  2. ルール変更に伴う“原産地証明のやり直し”リスク
    • 原産地規則が改定された場合、調達BOM・工程表・サプライヤー宣誓書の全面見直しが発生。
    • 「メキシコ組立→米国輸出」のモデルなどは、USMCAの適用可否が価格競争力を左右するため、ちょっとしたルール変更でもマージンに大きく響く。
  3. “政治リスク”としてのUSMCA
    • サンセット条項は、実務的には「定期的に再交渉が起こり得る」ことを意味し、
      米国大統領選・議会構成次第でトーンが変わる、政治変動に直結する貿易枠組みになっている。
    • 投資委員会向け説明や社内稟議では、「関税リスク」だけでなく、
      “USMCA再交渉リスク”を明示しておくことが求められるフェーズに入っています。

2. 中南米「関税再編」:メキシコ・ブラジルを中心に何が変わるか

2-1. メキシコ:非FTA国向け自動車関税最大50%案と1,400品目の増税

メキシコ政府は、2026年経済パッケージの一環として、
FTAを締結していない国(中国・インド・一部アジア諸国など)からの輸入品に対する大幅な関税引き上げ案を提示しました。(Reuters)

主なポイント:

  • 自動車(完成車)
    • 非FTA国からの乗用車輸入関税を、現行レベルから**最大50%**まで引き上げる案。
    • 対象には中国車が事実上含まれ、米国からの圧力に応えた“対中けん制”と解釈されている。
  • 約1,400〜1,463品目の輸入品
    • 鉄鋼、繊維、電子機器、自動車部品など広範な品目で、最大35%(一部50%)までの関税引き上げを可能にする法改正案。(The Journal Record)
  • 中国商務省はこれに反発し、「メキシコの対中輸入抑制策」として強く批判。(中国商務部)

実務的な読み方

  • メキシコは、USMCAの枠内で「対中輸入を絞る」ことで、対米交渉のカードを増やしているとも言えます。
  • 非FTA国からメキシコに直接輸出する完成車・部品ビジネスは、価格競争力を一気に失う可能性が高い。
  • 一方で、日墨EPA・日メキシコFTAを持つ日本企業にとっては、相対的な優位性が高まるシナリオもあり得る。

2-2. ブラジル:EV・自動車を中心とした関税見直し

ブラジルでは、EVやハイブリッド車の輸入関税に関する見直しが進んでいます。

  • 現行:
    • HEV:28%、BEV:25%(CKD/SKDも完成車と同率)(Argus Media)
  • 方針:
    • 2027年1月までに、HEV/BEVともに輸入関税を35%に統一・引き上げ
    • 一部のCKD/SKD向けに、上限額付きの免税枠を設定する動きも報じられている。(electrive.com)

加えて、ブラジル政府はインフレ抑制策として一部の基礎食品の輸入関税を撤廃しており、
**「消費者物価対策としての減税」と「産業保護としての増税」が並走している」のが特徴です。(フィナンシャル・タイムズ)


2-3. なぜ中南米の関税がここまで動いているのか

背景には、以下の3つの要因が絡み合っています。

  1. 中国からの輸出攻勢への警戒
    • 中国は国内EVシフトにより余剰となったガソリン車を、ラテンアメリカ・東欧・東南アジアなどへ大量輸出しているとの報道。(Reuters)
    • メキシコやブラジルは、この“安価な中国車の洪水”から国内産業を守るべく、関税引き上げで対応。
  2. 米国との関係と「対中包囲網」への参加圧力
    • 米国は自国の関税政策に加え、同盟国・近隣国にも対中依存低減を求める方向。
    • メキシコの関税引き上げ案は、**USMCAパートナーとしての“同調アピール”**という側面も持つ。
  3. 財政・産業政策としての関税
    • インフレ対応で一部食品関税を下げる一方、自動車・鉄鋼などで関税を引き上げ、
      財政収入と雇用維持を両立させたいという各国共通の思惑がある。

3. 北米×中南米をどう見るか:日本企業の視点

3-1. 3つの時間軸で整理する

  1. 短期(〜2026年)
    • メキシコの関税引き上げ法案がいつ・どの水準で成立するか。
    • USMCA 2026年レビューに向けた各国のポジション取り。
    • → 「現行案件の採算への影響」と「新規案件の条件見直し」が論点。
  2. 中期(2027〜2030年)
    • メキシコの新関税水準が定着し、非FTA国→メキシコ輸出モデルが縮小
    • ブラジルEV関税の引き上げが、域内生産・現地投資の誘因として働く可能性。
    • → 「どの国をハブに中南米をカバーするか」という拠点戦略の再設計が必要。
  3. 長期(2030〜2036年)
    • 2036年USMCAサンセットが、もう一度「延長か、条件付き延長か」という議論を呼ぶ。
    • → いま仕込む投資が、「2036年以降もUSMCA前提で続くのか」を常にチェックする必要。

3-2. 実務として今すぐやっておきたいチェックリスト

① HSコード+関税率マッピングの見直し

  • メキシコ向け主要製品について:
    • HSコード(少なくとも4桁〜6桁レベル)ごとに、
      • 現行MFN関税
      • FTA適用後の税率(日本・EU・USMCAなど)
      • 2026年以降に想定される新税率(案ベース)
        を一覧にしておく。
  • 中南米各国向けの**「関税影響シミュレーション用Excel」**を社内標準フォーマット化すると、社内説明が楽になります。

② サプライチェーンの“北米依存度”と“メキシコゲートウェイ依存度”の棚卸し

  • どの製品が「メキシコ経由で北米・中南米に出ているか」を可視化。
  • 特に、
    • 中国・ASEAN原産の部材を使い、メキシコで組立→北米/ラ米に輸出
      といったスキームは、USMCAレビュー+メキシコ関税引き上げの両方の影響を受けるゾーン。

③ 契約条件への「関税変動条項」の織り込み

  • 2026年USMCAレビューやメキシコ関税改正に備え、
    • 「関税率がX%以上変動した場合、価格調整協議を行う」
    • 「FTA/EPA適用不可となった場合の責任分担」
      などを、長期供給契約にあらかじめ盛り込んでおく。

④ 社内ガバナンス:通商・法務・事業の連携体制

  • USMCA再検証や中南米関税再編は、単なる通関現場の問題ではなく、事業戦略レベルのテーマ
  • 通商担当だけでなく、
    • 経営企画
    • 海外事業統括
    • 法務・リスク管理
      を巻き込んだクロスファンクショナルチームでモニタリングする体制を作る価値があります。

4. まとめ:北米と中南米は「別々」ではなく一体で見るフェーズへ

  • USMCA 2026年レビューは、2036年サンセットを見据えた「長期ルールの入り口」を決めるプロセス。
  • メキシコ・ブラジルを中心とする中南米関税再編は、対中輸出攻勢・米国との関係・国内雇用保護という複数の思惑が交錯しながら進行中。
  • 日本企業にとっては、
    • 「北米=USMCA」「中南米=個別FTA」という従来の見方から、
    • **「北米(USMCA)+中南米(メキシコ・ブラジル・周辺国)の一体サプライチェーン設計」**へと発想を切り替えるタイミングに来ています。

いまのうちに、HSコード・原産地規則・関税シナリオを整理し、「もしUSMCA条件がこう変わったら/メキシコ関税がこの水準まで上がったら」というシミュレーションを回しておくことで、2026年以降の不確実性に対しても、社内で納得感のある意思決定ができるようになるはずです。


FTA原産地証明:USMCA・CPTPP 自己証明制度の実務ガイド

近年主流となっている自由貿易協定(FTA)では、輸入者、輸出者、または生産者が自らの責任で産品が協定上の原産品であることを証明する「自己証明制度」が採用されています。

本稿では、特に重要な二つのメガFTA、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)とCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)における自己証明制度の要件を比較し、日本企業の輸出実務担当者が押さえるべきポイントを解説します。

1. 自己証明制度の基本概念

まず、制度を理解するための3つの重要な概念を解説します。

  • 自己証明 (Self-Certification)
    輸入者、輸出者、または生産者のいずれかが、協定で定められた記載事項を満たした書類を作成し、産品が協定上の「原産品である」と宣言する仕組みです。特定の様式は定められておらず、商業インボイスやその他の商業書類、あるいは別紙への記載が認められます。
  • 品目別原産地規則 (PSR – Product-Specific Rules of Origin)
    産品が原産品と認められるための具体的な基準です。主に以下の3つの柱で構成されます。
    • 関税分類変更基準 (CTC – Change in Tariff Classification): 非原産材料のHSコード(関税分類番号)が、完成品のHSコードから指定されたレベル(例:2桁、4桁、6桁の変更)で変更されていることを求める基準。
    • 付加価値基準 (RVC – Regional Value Content): 協定域内での付加価値が、協定で定められた計算方法に基づき、一定の割合(例:40%以上)に達していることを求める基準。
    • 特定工程基準 (SP – Specific Process): 特定の製造工程(例:化学反応、紡織、溶融など)が協定域内で行われていることを求める基準。
  • 事後検認 (Verification)
    輸入国の税関が、輸入申告後、提出された原産地証明やその根拠資料に基づき、産品の原産資格を検証する手続きです。検証は、書面による照会や、生産者(輸出者)の施設への実地調査によって行われます。

2. 要件比較:USMCA vs. CPTPP(日本輸出者の実務視点)

両協定の自己証明における具体的な要件を、実務上のポイントと共に比較します。

項目USMCACPTPP実務メモ(日本輸出者)
対象協定米国・メキシコ・カナダ協定環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(日本、豪州、カナダ、メキシコ、英国など12カ国)英国は2024年12月15日に発効済み。対象国の確認が常に必要。
証明作成者輸入者・輸出者・生産者輸入者・輸出者・生産者どちらも同じ。輸入者主導で証明を求められるケースを想定し、自社(輸出者)版と輸入者版の様式を準備するとスムーズ。
様式自由書式(協定附属書5-Aの9要素を満たす)自由書式(協定附属書3-Bの9要素を満たす)必須9要素はほぼ共通。社内共通テンプレート化が効率的。
必須要素9要素(証明者、輸出者、生産者、輸入者、品名・HS6桁、原産基準、包括期間、署名+宣言文など)9要素(構成はUSMCAとほぼ同等)項目名の呼称差(例:Certifier)を吸収すれば、単一のフォームで両協定に対応可能。
包括証明最長12か月の複数出荷を単一の証明書でカバー可能(Blanket証明)。同様に最長12か月。年次更新が基本。更新漏れを防ぐ管理システムの構築が重要。
使用言語英語、フランス語、スペイン語(輸入国税関が翻訳を要求可能)英語での提出を各国が受理英語で作成したテンプレートで運用を統一するのが最も効率的。
記録保持義務5年間(輸入者・輸出者・生産者)5年間(同上)社内規程やサプライヤーからの根拠資料(宣誓書など)の保持期間も5年に統一することが望ましい。
第三国インボイス非加盟国発行のインボイス上には記載不可。別紙で提出が必要。第三国発行インボイスの場合、別紙提出が求められる(例:カナダ税関)。【重要】 インボイス発行国が協定加盟国かをチェックし、非加盟国なら自動で別紙扱いにするロジックが必須。
原産地基準の表記HSコード6桁+PSR(CTC/RVC/SPなど)を明記。同様に明記が必要。根拠の追跡可能性のため、「PSR条番号+基準コード(例: CTH, RVC40)+計算式」まで定型化して記載するのが望ましい。
僅少の原則(デミニミス)原則10%(非繊維中心/一部例外あり)原則10%(附属書3-Cの例外に注意)例外品目(例:HSコード第50~63類の繊維品)は要注意。テンプレートに**「例外チェック欄」**を設けると安全。
自動車等の特例RVC、労働付加価値基準(LVC)、鉄鋼・アルミ使用比率など、極めて厳格かつ特殊な要件あり。PSRの差はあるが、USMCAほど特殊な規定は少ない。USMCAの自動車・部品は、専用の計算根拠(ワークシート)を用いた厳格な管理が必須。
事後検認書類要求・現場検査(工場実査)が可能(第5.9条)。同様に検認手続きあり(第3.27条)。税関からの照会に対し、「48時間以内に受領返信→10営業日以内に本回答」など、社内での対応基準(SLA)を標準化しておくことが有効。
デジタル対応電子提出・電子署名を受理。電子形式での提出を協定条文で許容。原本スキャン(PDF)+検索可能なメタデータ管理で、監査(検認)時の即時対応性を確保する。
証明の有効期間税関は、証明書作成日から4年間は特恵関税の要求を受理可能(事後請求)。原則、証明書発行日から1年間有効。【注意】 CPTPPは「1年」で管理するのが安全。更新カレンダーと自動リマインドが必須。

3. 実務Tips:共通テンプレートによる一元管理

USMCAとCPTPPは類似点が多いため、日本本社が主導して証明プロセスを共通化するのに適しています。以下に具体的な運用方法を提案します。

  1. 共通原産地証明書(COO)テンプレートの設計
    • ヘッダーに**協定名(USMCA/CPTPP)**を選択するプルダウンメニューを設置します。
    • 両協定の9つの必須要素を網羅する共通フィールドを設計します。
    • 原産基準(PSR)の記載方法を「基準コード(例:CTH)+ 該当条番号 + (RVCの場合)計算式」の形式で統一します。
  2. 「裏付け資料パッケージ」の標準化
    全ての証明書に対し、その根拠となる資料一式を紐づけて管理し、監査対応力を高めます。
    • 資料例: サプライヤー宣誓書、部品表(BOM)、RVC計算ワークシート(Excel等)、品番・工程・原産地の変更履歴ログ。
  3. 更新・監査プロセスの確立
    • 12か月の包括期間が満了する前に、更新を促す自動リマインダーが担当者に通知される仕組みを構築します。
    • 高リスク品目(自動車関連、電子機器など)は、年2回程度の抜き取り内部監査を実施し、コンプライアンスを維持します。
  4. インボイス発行国に応じた自動分岐ロジック
    共通テンプレートに、「インボイス発行国が協定非加盟国か?」というチェック項目を組み込みます。Yesの場合、インボイス上への記載をロックし、自動的に**「別紙提出」**のフォーマットに切り替わるように設定します。これは、両協定の要件を満たす上で極めて重要な機能です。

FTA戦略的活用研究会の第28回を行いました。

2018年12月14日にFTA戦略的活用研究会第28回を行いました。

今回の内容は以下の3つです

  1. USMCAの見方(ロジスティック嶋)
  2. TPP、日EU EPAの実務規則のアップデート
  3. 企業事例紹介(PHC;旧パナソニック・ヘルスケア)

この後に、会の忘年会を行いました。30名以上の方がご参加頂き、とても有意義な会でした。

次回は1月15日となっていますので、メンバーの人はご予定下さい。

メキシコは、米国およびカナダとの新たな貿易協定を、USMCAではなくТ-МЕСとすることを決めた。17日、メキシコ経済省が発表した。

メキシコは、米国およびカナダとの新たな貿易協定を、USMCAではなくТ-МЕСとすることを決めた。17日、メキシコ経済省が発表した。

2018年10月18日

Sputnik

https://jp.sputniknews.com/business/201810185470864/

 

NAFTA新協定のUSMCAの原産地規則・品目別規則(暫定版)を冊子にしました

NAFTAの改定による「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA:United States-Mexico-Canada Agreement)」の協定文が出ました。まだ、リーガルや言語の準備が不十分で最終版ではありませんが、中身上はこのままだと思われます。

FTA戦略的活用研究会の11月度でこのテーマを扱おうと思います。
・4月に日EU EPAを行ったような形で

暫定版だということで、従来の「FTA協定を読み解く」シリーズの中には入れませんが、冊子を作りました。(まずは自分用)

USMCA冊子表紙

以下が選別した章です。

欲しい方には有償となりますが、お分けします。

いかんせん、部数が少ないのと、ページ数が354ページあるので、コストがかかり、少々お高いです。
・7,000円+消費税

英語版であること、かつ、リーガルチェック前で内容は変わらないと思いますがまだ暫定版であることをご理解ください。

お申し込みはこちら


CHAPTER 2
NATIONAL TREATMENT AND MARKET ACCESS FOR GOODS

CHAPTER 4
RULES OF ORIGIN

ANNEX 4-B
PRODUCT SPECIFIC RULES OF ORIGIN

APPENDIX TO ANNEX 4-B:
PROVISIONS RELATED TO THE PRODUCT-SPECIFIC RULES OF ORIGIN FOR AUTOMOTIVE GOODS

CHAPTER 5
ORIGIN PROCEDURES

CHAPTER 6
TEXTILE AND APPAREL GOODS

ANNEX 6-A
SPECIAL PROVISIONS

CHAPTER 7
CUSTOMS ADMINISTRATION AND TRADE FACILITATION