メキシコ関税引上げとUSMCA適用の盲点

メキシコ調達と北米輸出のコストが想定外に膨らむ理由

2026年1月1日、メキシコは一般最恵国税率(MFN)を広範囲に引き上げました。対象はHS8桁で1,463品目、税率は5%から最大50%まで引き上げられ、繊維・履物、鉄鋼、自動車・自動車部品、プラスチック製品など、サプライチェーンの裾野が広い分野が含まれます。natlawreview+1

このニュースを見て「うちはUSMCAで北米向け輸出だから大丈夫」と判断すると、原価とキャッシュフローで痛い目を見ることがあります。盲点は一言で言えば、完成品の無税と部材の関税コストは別物という点です。

まず結論:今回の関税引上げで起きること

次の3点が、実務インパクトの核心です。

1つ目:メキシコとFTAがない国からの輸入コストが上がる
中国、インド、韓国、タイ、インドネシアなど、メキシコとFTAを持たない国からの輸入が主な影響対象になります。linkedin

2つ目:FTA締結国でも、特恵を使わなければMFNが適用される
日本は日墨EPAやCPTPPにより多くの品目で特恵税率が見込めますが、特恵申告をせずに輸出するとMFNが適用される点が重要です。vemaps

3つ目:USMCA輸出でも、メキシコ側の部材関税がコストとして残り得る
特にIMMEXなど関税繰延べスキームを使う企業ほど、USMCA第2.5条の規律が効いてきます。tuttlelaw+1

何が変わったのか:メキシコ関税引上げの整理

メキシコ上院は2025年12月10日、輸出入関税法(LIGIE)の改正を可決し、2026年1月1日から新税率を適用する流れになりました。対象の品目数1,463は維持されましたが、途中で115品目が入れ替わっているため、過去のリストで判断するのは危険です。trade+1

また、旅客車の一部は50%への引上げが維持されるなど、分野によってはインパクトが極端に大きくなり得ます。vemaps+1

盲点1 非FTA国だけの話ではない

日本企業の現場で起きやすい誤解は「日本は対象外だから無関係」というものです。実務の実態は次の通りです。

  • 日本原産であっても、日墨EPAやCPTPPの特恵申告をしなければMFNが適用されるvemaps
  • サプライヤーから原産情報が得られず、特恵が使えない輸入が増えると、関税コストが一気に顕在化する

JETROも、特恵税率の適用には原産地証明書の取得など所定手続きが必要で、手続きをしない場合はMFN税率になる点を明示しています。vemaps

盲点2 USMCAがあっても、メキシコ側の部材関税は消えない

USMCAは北米域内の完成品取引を無税化しやすくする仕組みですが、メキシコが域外から輸入する部材にかかる関税まで自動でゼロにするものではありません。ここで効いてくるのが、**USMCA第2.5条(Drawback and Duty Deferral Programs)**です。prodensa+1

ポイントは2つあります

1. 関税繰延べは、輸出時に精算が起き得る
USMCA第2.5条は、一定の条件下で関税還付や関税繰延べを利用して実質的に関税負担を回避することを制限します。条文上、関税繰延べ制度で輸入した物品を他の締約国へ輸出する場合、輸出側は国内消費向けに引き出したかのように関税を賦課し、その上で限定的に免除・減額できる、という構造です。cbsa-asfc+1

メキシコのMFNが上がると、この精算額の上限(実務的にはLesser of the Twoと呼ばれる差額)が大きくなり、キャッシュフローと原価に直撃します。natlawreview+1

具体例(自動車部品)linkedin+1

  • メキシコ輸入時の非FTA部材関税(2026年):25%
  • 米国輸出時の完成品関税(USMCA不適合):10%
  • → IMMEX企業は米国側10%のみ相殺可能で、残り15%はメキシコで納付義務が発生

2. 60日ルールが資金繰りを揺らす
USMCA第2.5条には、輸出先で支払った関税額の証憑を一定期間内に提示できない場合、輸出側がいったん関税を徴収する建付けがあります。米国・カナダでは、関連する規定として60日という期限が条文運用上の重要な目安になります。tuttlelaw+1

書類が遅れるだけで、想定外の納付が先に発生し、後追いで調整する形になり得ます。cbsa-asfc

盲点3 USMCAの適用は「原産性の主張と証明」が前提

もう一つの落とし穴は、USMCAでの特恵申告は証明の運用が整っていないと簡単に崩れることです。

USMCAでは特定の様式の原産地証明書は要求されません。その代わり、Annex 5-Aに定められた最低限のデータ要素を含む認証(Certification)を、任意の形式で提示できることが求められます。preferredship+1

実務で効くのはここです

  • 形式自由という言葉を、証憑管理が不要と誤解する
  • HS6桁を含む要素が必要なのに、分類とBOMの紐付けが曖昧ustr
  • 輸出者・生産者・輸入者の誰が認証するかが社内で決まっていないpreferredship

結果として、米国側でUSMCA特恵が崩れ米国関税が発生するだけでなく、メキシコ側の関税繰延べ精算も別問題として残り、二重にダメージを受ける構図になります。natlawreview

企業が今すぐやるべき実務チェック

最後に、ビジネスマン向けに優先順位順で整理します。

1 影響品目の特定

  • 自社の輸入品目(TIGIE 8桁)を洗い出し、1,463品目の対象に入っているか確認trade
  • 途中で品目の入れ替えがあるため、最新版のリストで確認するvemaps

2 調達国とFTA利用有無の棚卸し

  • FTA締結国原産でも、特恵を使っているかを取引単位で確認
  • 特恵未利用の取引を優先して是正するvemaps

3 IMMEXなど関税繰延べの前提更新

  • 「輸入時は無税」ではなく「輸出時に精算が起き得る」前提で原価を組み直すprodensa+1
  • USMCA第2.5条に基づく差額精算(Lesser of the Two)、証憑の提出期限(60日)を、社内KPIとして管理するtuttlelaw+1

4 USMCA認証と証憑の整備

  • 認証は様式自由だが、最低限のデータ要素(HS6桁含む)が必要ustr+1
  • 誰が認証するか、どこに保管するか、更新頻度を決めるpreferredship

まとめ

メキシコの関税引上げは、単なる対外政策ではなく、北米サプライチェーンの原価構造を変えるイベントです。特に、IMMEXを使って域外部材を投入し、USMCAで北米に輸出するモデルほど影響が出やすい構造にあります。trade+2

対策の第一歩はシンプルです。品目、原産地、FTA利用、関税繰延べ、USMCA認証。この5点を一本の台帳でつなぐこと。ここがつながると、コスト試算、取引条件の見直し、調達転換の優先順位が一気に明確になります。


注意事項

本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の法務・通関判断を代替するものではありません。最終判断は当局公表資料や専門家確認で行ってください。


  1. https://natlawreview.com/article/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune
  2. https://www.trade.gov/market-intelligence/mexico-customs-law-reform
  3. https://www.linkedin.com/pulse/mexicos-january-2026-tariff-shift-what-means-imports-supply-tian-16cfc
  4. https://vemaps.com/mexico/mx-06
  5. https://www.tuttlelaw.com/newsletters/2020/7-28-20_usmca_drawback.html
  6. https://www.prodensa.com/insights/blog/the-immex-framework
  7. https://www.cbsa-asfc.gc.ca/publications/dm-md/pdf/d7-4-3-eng.pdf
  8. https://preferredship.com/wp-content/uploads/2020/06/USMCA_CoO_US.pdf
  9. https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/Text/05_Origin_Procedures.pdf
  10. https://www.foley.com/ko/insights/publications/2025/12/mexican-january-2026-tariff-tsunami-maquilas-arent-immune/
  11. https://www.jdsupra.com/legalnews/mexico-approves-significant-tariff-5879289/
  12. https://news.globalialogisticsnetwork.com/2025/11/07/interview-with-globalia-monterrey-a-look-at-mexicos-2026-trade-reforms/
  13. https://www.craneww.com/knowledge-center/trade-advisory-notices/mexicos-2026-tariff-reform/
  14. https://www.jdsupra.com/legalnews/mexico-proposes-significant-customs-and-3809818/
  15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/orb-200701/doc1.pdf
  16. https://www.trade.gov/sites/default/files/2023-09/fulltext.pdf
  17. https://www.afslaw.com/perspectives/alerts/who-can-make-usmca-certification
  18. https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11e020.pdf
  19. https://www.pcbusa.com/post/how-to-fill-out-certification-of-origin-under-cusma-usmca-t-mec
  20. https://www.customs.go.jp/roo/english/procedure/index.htm
  21. https://biblioteca.cejamericas.org/bitstream/handle/2015/2837/Mexican_government_changes_IMMEX_regime.pdf?sequence=1&isAllowed=y

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

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