台湾のCPTPP加盟申請はどこまで進んでいるのか(2025年12月時点)


台湾は2021年9月22日にCPTPPへの加盟を正式に申請しました。公開情報ベースで整理すると、2025年12月末時点でも台湾向けの「加入作業部会(Accession Working Group)」は設置されておらず、加盟交渉の正式な入口に入れていない状態が続いています。mfat+1


前提整理:CPTPPは「申請=交渉開始」ではない

CPTPPは新規加盟を受け入れる枠組みを持ちますが、加盟申請があったからといって自動的に交渉が始まるわけではありません。apfccptppportal
加盟国は委員会(CPTPP Commission)で、各申請国ごとに加入プロセスを開始するかどうかを判断し、開始を決めた国ごとに加入作業部会(AWG)を設け、ルール順守や市場アクセス条件などを交渉していくのが典型的な流れです。apfccptppportal

この判断の際に繰り返し参照されているのが、いわゆるオークランド三原則です。要点は次の3つと整理されます。gov

  • CPTPPの高い水準・義務を全面的に受け入れる用意と能力があること
  • 既存の通商コミットメントをおおむね誠実に履行してきた実績があること
  • 加入に関する決定は、締約国によるコンセンサス(全会一致ベースの運用)によって行われること

このうち3点目、すなわち「コンセンサスが必要」という要件が、実務上もっとも大きなハードルになりやすい部分です。apfccptppportal


時系列で見る:台湾申請の現在地

2021年9月:台湾が正式申請

2021年9月22日、ニュージーランドはCPTPPの寄託国として、台湾からの加入申請を受領したことを公表しました。mfat
このタイミングで、中国(9月16日申請)に続き、台湾もCPTPP加盟を正式に目指すことが国際的に認識されるようになりました。congress

2024年11月:台湾向けAWGは設置されず、コスタリカは前進

2024年11月のCPTPP委員会では、コスタリカについては加入作業部会を設置し、アクセッション・プロセスを進めることが決定されました。gov
一方で台湾については作業部会設置が見送られたと報じられ、台湾政府関係者が失望と不満を表明したとする報道もあります。congress

2025年11月:優先順位が明確化し、台湾は依然として対象外

2025年11月21日にメルボルンで開かれた第9回CPTPP委員会の共同声明は、次にアクセッションを進める対象として、ウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国を「オークランド三原則に沿う候補」として特定しました。gov
共同声明は、まずウルグアイとのアクセッション・プロセスを開始し、UAE・フィリピン・インドネシアについては2026年にプロセスを開始し得ると整理していますが、この文書のなかに台湾への直接の言及はなく、台湾向けAWGも設置されていません。gov

台湾側は、自国の加盟申請が他国に比べ公平に扱われていないとして遺憾を表明したと報じられています。peacediplomacy
もっとも、共同声明は「他の加盟申請の検討を妨げるものではない」とも明記しており、台湾の申請が撤回されたり、CPTPP側から正式に否定されたりしたわけではありません。gov


なぜ止まっているのか:実務上は「コンセンサスが作れない」

公式文書のレベルでは、「台湾がCPTPPの基準を満たさない」と明示的に断定している記述は示されていません。gov
むしろ、止まっている主因は、台湾案件をどのように扱うかについて、加盟国のあいだで政治的・外交的なコンセンサスが形成できていない、という構図と理解するのが自然です。congress

他方、2025年11月の共同声明は、ウルグアイ・UAE・フィリピン・インドネシアを次の具体的候補として位置づけつつ、「他の申請についての検討を妨げない」との一文を入れています。gov
したがって、実務的には台湾の申請は「否決された」のではなく、「棚上げに近い待機状態が続いている」と整理するのが妥当でしょう。congress


日本企業にとっての意味:いま起きること/起きないこと

いま起きないこと

台湾がCPTPPにまだ加盟していない以上、日本と台湾の取引にCPTPPの特恵関税や累積原産のメリットを適用することはできません。mfat
そのため、日本企業は対台湾の調達・生産・輸出の設計について、WTO税率や既存の二国間・地域協定、サプライチェーン全体のコスト構造を前提に最適化を図る必要があります。apfccptppportal

いま起きていること

CPTPPは拡大プロセスそのものを止めているわけではなく、2024年にコスタリカ、2025年にウルグアイが具体的に前へ進み、UAE・フィリピン・インドネシアも2026年にアクセッション・プロセスを開始し得る候補として整理されています。gov+1
企業の視点では、「台湾の加盟がいつ実現するか」を見込むよりも、これら他の候補国が先に加盟した場合の累積原産の組み替え余地や調達先の多様化効果を試算しておく方が、短期~中期の実益に直結しやすい局面と言えます。jef+1


2026年に向けたチェックポイント

  • 2026年前半の追加判断
    2025年の共同声明は、2026年前半にもCPTPP委員会を開催し、拡大に関する追加判断を行う意向を示しています。gov
    この場で台湾案件がどの程度議題として扱われるかが、今後数年の見通しを占ううえで最初の注目点になります。congress
  • 加盟国側の対外メッセージの変化
    台湾を名指ししない場合でも、オークランド三原則の具体的運用や、候補国の優先順位に関する説明のトーンが変わるかどうかは重要なシグナルです。gov
    特に「既存コミットメントの履行」や「経済的威圧への懸念」といった表現の扱いが変化するかどうかは、台湾のみならず他の候補国や既存加盟国を含めた政治・経済環境の変化を映す指標となり得ます。cas

免責:本稿は、各国政府・国際機関・報道機関が公表する一般的な情報を前提とした整理であり、個別の取引・関税・原産地判断を代替するものではありません。具体的案件については、協定正文、各国税関当局の運用、専門家の助言等に基づき確認してください。

  1. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/common-questions
  2. https://apfccptppportal.ca/accessions/process
  3. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-vancouver-canada-28-november-2024/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-28-november-2024
  4. https://www.congress.gov/crs_external_products/IN/PDF/IN11760/IN11760.1.pdf
  5. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-melbourne-21-november-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-21-november-2025
  6. https://peacediplomacy.org/2024/04/02/its-time-for-canada-to-break-the-cptpp-accession-logjam/
  7. https://www.jef.or.jp/journal/pdf/259th_Cover_Story_04.pdf
  8. https://www.meti.go.jp/english/policy/economy/industrial_council/pdf/250603008_03.pdf
  9. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20251121_cptpp_seimei_en.pdf

CPTPPの中国加入が「見送り」状態にある理由と、実務への影響

中国のCPTPP加入申請(2021年9月16日提出)は、申請から時間が経っているにもかかわらず、いまだ「加入交渉を始める」ための加盟国コンセンサスが形成されておらず、アクセッション・プロセスの正式な開始に至っていない状態です。apfccptppportal+1
これは、加盟国側が中国の加入を明確に拒否する決定を行ったというよりも、アクセッション開始を決めるコンセンサスが成立していないため、手続が事実上停滞しているという構図と整理できます。cas+1

1. 直近の公式判断:ウルグアイを優先し、中国は対象外のまま

2025年11月21日に豪州メルボルンで開催された第9回CPTPP委員会(CPTPP Commission)に関する共同声明では、アクセッション手続の進捗について次のように整理されています。gov

  • コスタリカ:アクセッション作業部会(AWG)が既に設置されており、2025年12月までに交渉の進捗を報告するよう指示
  • オークランド三原則を満たすとみなされる候補として、ウルグアイ、アラブ首長国連邦(UAE)、フィリピン、インドネシアの4か国を特定
  • まずウルグアイとのアクセッション・プロセスを開始し、残る3か国については2026年に、適切と判断されればプロセスを開始
  • これに加え、他のアクセッション要請についても検討・議論を継続する意向を表明

この「4つの候補」の中に中国は含まれておらず、共同声明の文脈上も中国は「現時点で優先的にアクセッション交渉を進める対象にはなっていない」と整理するのが自然です。gov
他方で、CPTPPは中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナ、インドネシア等から正式な加入要請を受けていることが、各種レポートでも整理されています(ジェトロ等)。jef+1

2. 「見送り」とは何か:拒否ではなく、交渉開始の合意が作れない状態

CPTPPへの加入は、要請国が申請書を提出しただけでは進まず、CPTPP委員会がアクセッション・プロセスを開始することを決定し、加入作業部会(Accession Working Group: AWG)を設置して初めて本格的な交渉段階に入ります。apfccptppportal
中国の申請日は2021年9月16日と明確ですが、現時点までに中国向けAWGを設置する決定が行われたという公表情報はなく、アクセッション・プロセスが公式に立ち上がったとは言えない状況です。mfat+1

ここで鍵となるのが、アクセッション判断が「オークランド三原則」に基づくこと、および加入に関する決定はすべて締約国のコンセンサスに依存するという点です。cas+1
実際、申請当初からカナダを含む一部加盟国が中国(および台湾)の加入申請への明確な支持表明を控えているとの報道もあり、初期段階から慎重姿勢や政治的配慮が指摘されてきました。peacediplomacy

3. なぜ合意が作れないのか:実務的に効いてくる3つの論点

論点は多岐にわたりますが、企業実務の観点から押さえるべきポイントを3点に整理します。

論点A 「高い水準」を満たし続ける確度

日本政府(外務省)は、CPTPPの高い水準を満たす意図と能力を持ち、かつ既存の通商約束を履行しているかどうかを加入要請国ごとに慎重に見極める、という基本姿勢を示しています。mofa+1
企業実務としては、国有企業・補助金、デジタル貿易、知的財産、労働・環境、透明性・ガバナンスなどの分野で、「制度設計の形式的整合性」だけでなく、その運用実績や履行確度まで含めて評価される、という理解が重要になります。rieti+1

論点B 経済的威圧への警戒(加盟国側の問題意識)

第9回委員会に関する共同声明は、経済的威圧(economic coercion)に対する懸念と反対を明記し、こうした行為はCPTPPの高い水準や加盟国に期待される行動と整合しないと踏み込んでいます。cas+1
この種の文言は特定国名を挙げてはいないものの、加盟候補国を含む各国の行動様式全体が審査対象になりうる、というメッセージとして読み得るため、企業としても中長期リスクの一環として認識しておく価値があります。congress

論点C 地政学とコンセンサスの壁

豪州の有力紙Australian Financial Reviewは、中国のCPTPP申請について「加盟国間でコンセンサスがなく、申請の検討が遅れている」との認識を示しており、在豪中国大使へのインタビューでも同趣旨の質問が投げかけられています。china-embassy
一方で、中国はCPTPP水準との整合性をアピールする目的も含めて、海南自由貿易港のような制度実験を進めていますが、外交官や専門家からは「パイロット・プロジェクトだけでは不十分であり、全国的な制度改革と履行実績が求められる」との懐疑的な見方も示されています。reuters+2

4. 日本企業への実務インパクト:いま起きること/起きないこと

実務的には、当面は「中国がCPTPPに加入していない前提」で制度設計を行うのが合理的です。mfat+1

  • 対中輸出
    • CPTPPの特恵関税は対中取引には適用されないため、日本から中国向け輸出に関する関税・原産地の設計は、RCEPや日中二国間の制度枠組み等を中心に最適化することになります。congress
  • サプライチェーン・原産地設計
    • CPTPPの累積原産は原則としてCPTPP締約国間が対象であり、中国原材料の比率が高い製品は、CPTPP特恵の原産地基準を満たしにくくなる可能性があります。meti+1
  • むしろ注目すべき「増える可能性が高い国」
    • 2025年11月の共同声明では、ウルグアイとのアクセッション・プロセス開始に加え、UAE・フィリピン・インドネシアについて2026年にプロセスを開始し得ることが示されています。trademinister+1
    • これらが加入すれば累積原産の組み替えや調達先の多様化が可能となるため、企業にとっては中長期的なサプライチェーン再設計のオプション拡大という、より直接的な実益につながり得ます。jef+1

5. 2026年に向けたチェックポイント

  • ウルグアイの加入交渉の進捗
    • ウルグアイ向けAWGでの議論内容(センシティブ品目、移行期間、国有企業・サービス市場開放の扱いなど)が、今後の他候補国に対するベンチマークになる可能性があります。gov
  • UAE・フィリピン・インドネシアの加入プロセス開始の有無
    • 2026年中にアクセッション・プロセスを実際に開始するかどうかは、サプライチェーン戦略や投資戦略の前提条件として注視が必要です。trademinister+1
  • 議長国の交代
    • 2025年の議長国である豪州から、2026年にはベトナムが議長としてCPTPPの議論を主導する見通しであり、議長国の優先課題や対中スタンスがアクセッション議論のペースに影響し得ます。trademinister
  • 中国申請の「棚上げ」継続リスク
    • 中国の加入申請そのものが取り下げられたわけではなく、政治・経済環境の変化次第では再び議題として浮上する余地は残りますが、現時点では他の候補に比べ優先順位が低いポジションにとどまっていると評価するのが妥当です。english.scio+1

免責:本稿は各国政府・国際機関・報道等の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・通関判断を代替するものではありません。具体的案件については、協定正文、国内実施法・通達、各国税関当局への照会等により確認してください。

  1. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/common-questions
  2. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2024/pdf/20240518_cptpp_seimei_en.pdf
  3. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-melbourne-21-november-2025/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-21-november-2025
  4. https://apfccptppportal.ca/accessions/process
  5. https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2025/pdf/20251121_cptpp_seimei_en.pdf
  6. https://www.jef.or.jp/journal/pdf/259th_Cover_Story_04.pdf
  7. https://www.jetro.go.jp/ext_images/hungary/pdf/globaltradeandinvestmentreport2025.pdf
  8. https://peacediplomacy.org/2024/04/02/its-time-for-canada-to-break-the-cptpp-accession-logjam/
  9. https://www.mofa.go.jp/policy/other/bluebook/2025/pdf/pdfs/3-3.pdf
  10. https://www.rieti.go.jp/en/papers/contribution/kawase/09.html
  11. https://www.congress.gov/crs_external_products/IN/PDF/IN11760/IN11760.1.pdf
  12. https://au.china-embassy.gov.cn/eng/dshd/202504/t20250402_11587111.htm
  13. https://www.reuters.com/world/china/china-launches-113-billion-free-trade-experiment-hainan-island-2025-12-18/
  14. https://www.newsweek.com/china-spends-113-billion-on-hong-kong-rival-roughly-the-size-of-maryland-11253923
  15. https://www.indexbox.io/blog/china-launches-hainan-island-as-separate-customs-territory-to-boost-trade-and-join-cptpp/
  16. https://www.meti.go.jp/english/policy/economy/industrial_council/pdf/250603008_03.pdf
  17. https://www.trademinister.gov.au/minister/don-farrell/media-release/australia-hosts-cptpp-trade-talks-melbourne
  18. http://english.scio.gov.cn/pressroom/2025-05/09/content_117866500.html
  19. https://www.trtworld.com/article/574bf26b97a2
  20. https://www.tbsnews.net/worldbiz/china/china-launches-113-billion-free-trade-experiment-hainan-island-1312926
  21. https://www.visahq.com/news/2025-12-18/cn/china-activates-island-wide-customs-closure-in-hainan-launching-us113-billion-free-trade-port/
  22. https://www.theasiacable.com/p/asia-daily-december-19-2025
  23. https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3081894/coronavirus-australia-calls-chinas-envoy-over-disappointing
  24. https://www.jef.or.jp/en/1-2.1_Han-koo_Yeo.pdf
  25. https://asiantradecentre.org/media-coverage-2
  26. https://www.azernews.az/region/251820.html
  27. https://www.uts.edu.au/news/2021/11/australia-prc-trade-and-investment-developments-timeline
  28. https://www.thediplomaticaffairs.com/2025/12/21/the-hainan-free-trade-port-as-a-strategic-economic-experiment/
  29. https://www.mfa.gov.cn/eng/xw/zwbd/202408/t20240809_11468867.html
  30. https://m.fastbull.com/news-detail/china-launches-113-billion-hainan-free-trade-port-4360787_0
  31. https://www.uktpo.org/briefing-papers/joining-the-cptpp-economic-opportunities-and-political-dilemmas-of-future-expansions-for-the-uk/
  32. https://english.mofcom.gov.cn/News/SignificantNews/art/2021/art_aaf18f91e7e14ce1831f926f16d9b2ee.html
  33. https://www.gov.uk/government/publications/cptpp-joint-ministerial-statement-in-vancouver-canada-28-november-2024/comprehensive-and-progressive-agreement-for-trans-pacific-partnership-cptpp-joint-ministerial-statement-28-november-2024
  34. https://www.csis.org/analysis/look-skeptically-chinas-cptpp-application
  35. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/joint-ministerial-statement-occasion-ninth-commission-meeting-cptpp
  36. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/cptpp/have-your-say
  37. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/commission-meetings
  38. https://publicprocurementinternational.com/wp-content/uploads/2025/08/2025_34_PPLR_Issue_4_Print_Press-Proof_Offprint.pdf
  39. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/cptpp/news
  40. https://globaldataalliance.org/wp-content/uploads/2024/08/08012024gdacptpp.pdf

日本税関が2026年のNACCS用品目コードを公表 ― 年明けから特別緊急関税も適用開始へ

年末の税関アップデートは、年明けの通関実務を直撃します。今回は主に次の2点がポイントです。

  • 2026年1月1日適用開始分のNACCS用品目コードが公表されました。統計品目番号(輸出入統計品目表)の改正に合わせ、NACCS申告上のコード体系が更新されます。
  • 輸入数量に基づく特別緊急関税の適用開始日が公表され、「ばれいしょでん粉」と「繭(まゆ)」に2026年1月1日から追加関税が適用されます。

どちらも「マスタ更新漏れ」や「申告コードの取り違え」が起きやすいテーマであり、ビジネス実務面での備えが重要です。

NACCS用品目コードとは何か

NACCS用品目コードは、統計品目番号(HS・統計品目表番号)だけでは区別できない税率や制度上の区分を、電子申告上で識別するための補助コードです。

代表的な例がEPA税率・調整税率・暫定税率・特別関税などの制度識別です。HS改正により品目が統廃合されても、協定上は交渉時点のHSに基づく異なる特恵税率が残ることが多く、その場合は税関が旧細分をNACCS用品目コードで維持し、適切な税率適用を可能にしています(出典:税関総合情報 PDF, RCEP対応事例)。

したがって社内マスタがHSや統計品目番号のみで構成されている場合、NACCS上の処理区分に齟齬が生じ、税率や制度適用の誤りにつながるリスクがあります。

2026年1月1日適用開始分のコードが公表された背景

今回の改正は、輸出統計品目表および輸入統計品目表の改正(財務省告示第283号、2025年10月31日付)に連動しています。告示では、「2026年1月1日以後に統計計上される貨物に適用する」と明記され、これに対応して税関はNACCS用品目コードの新体系を提示しました。

実務上の重要点は次の2つです。

  1. 改正は輸入だけでなく輸出申告側のマスタにも波及します。
  2. 税関公表資料の一部では「特定記号付き品目はNACCS掲示板を参照」と注記されており、掲示板情報まで見ないと完結しない品目が存在します。

特別緊急関税(セーフガード)の適用開始 ― ばれいしょでん粉・繭が対象

もう一つの重要な発表が、関税暫定措置法第7条の3に基づく特別緊急関税(セーフガード)の適用開始です。別表第1の6の16および28の項に掲げる物品について、2026年1月1日から3月31日までの期間、追加関税が適用されます。

神戸税関業務部による案内では、対象品目と税率は以下の通りです(現行統計品目番号ベース。2026年版統計品目表改正後は番号が変更される可能性があります)。

品目品目番号(参考)適用開始前適用開始後
ばれいしょでん粉1108.13-099119円/kg158.67円/kg
5001.00-0902,523円/kg3,364円/kg

(適用期間:2026年1月1日~3月31日)

ここで注意すべきは、税率だけでなくNACCS申告上のコード切替です。

特別緊急関税適用開始時のNACCS用品目コード運用

NACCS掲示板では、今回の特別緊急関税適用開始に伴い、当該期間の輸入申告ではC-5区分の「暫定法第7条の3適用開始時用コード」が適用されると明示されています(出典:NACCS掲示板 2025年12月24日付)。

さらに、「当該コードは2026年1月1日以降に使用可能」とされています。申告時期と船積時期のズレで誤適用が起きやすく、特に年末年始の輸入申告では注意が必要です。

よくある誤りパターン

  • 船積みが12月でも輸入申告日が1月にずれ、適用開始後の税率が適用される
  • 通関業者システムは更新済みでも、輸入者側マスタが旧コードのまま
  • 統計品目番号は正しいが、NACCS用品目コード誤選択で税率エラーや保留扱いとなる

年末年始の実務対応チェックリスト

統計品目番号・NACCS用品目コードの確認

  • 財務省告示第283号の改正内容で自社輸出入品の統計品目番号影響を確認する
  • 税関公表のNACCS用品目コードリスト(2026年1月1日適用開始分)を社内マスタと突合する
  • 注記付き品目がないかを確認し、必要に応じてNACCS掲示板で情報補完する
  • FTA/EPA税率適用品は旧細分維持が必要なケースを重点点検する(税関総合情報

特別緊急関税への対応

  • 「ばれいしょでん粉」「繭」の取扱いがある場合、1〜3月期の追加関税影響を試算する
  • 適用期間中の申告では「暫定法第7条の3適用開始時」コードを通関業者と合意のうえ運用する(NACCS掲示板
  • 除外適用が想定される場合、条文上の除外要件を税関・業者と事前確認する

運用面の準備

  • 年末年始貨物の到着・申告タイミングを再チェックし、課税期間の跨りリスクを回避する
  • 購買・経理部門へ追加関税適用開始を事前共有し、仕入・販売価格調整を前倒しする
  • 初回はサンプル申告で検証し、NACCS用品目コードとの整合をログ管理する

まとめ

2026年のNACCS用品目コード改正は、統計品目改正と税率制度の両面更新を伴う重要な移行です。加えて、「ばれいしょでん粉」と「繭」には1月1日から特別緊急関税が適用され、申告コード運用にも直接影響します。

通関トラブルの大半は税率そのものより「コード整合」と「申告日基準の解釈」で発生します。年内にマスタ更新と運用フローの合意を完了させ、2026年の初荷に備えることが安全策です。


注記: 本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の通関判断を代替するものではありません。最終判断は、自社の取引実態と最新の公式発表、並びに専門家の助言に基づいて行う必要があります。

米国2025年関税が戦後最高水準に達した理由と日本企業の実務対応

2025年の米国は、関税政策が「戦後最高水準」と評される領域に踏み込み、企業のコスト構造とサプライチェーン設計に直接影響を与える一年となりました。平均実効関税率は1930年代以来の水準に達したと推計され、関税がマクロ経済だけでなく、個社の価格決定や契約実務にまで波及しています。

どこまで関税水準が上がったのか

イェール大学The Budget Lab(TBL)は、2025年11月17日時点で、消費者が直面する平均実効関税率(消費シフト前)が16.8%に達し、1935年以来の高水準と推計しています。貿易構造の変化を織り込んだ「消費シフト後」の平均は14.4%で、こちらも1930年代後半以来の高さです。

年初時点での平均関税は約2.4%とされており、そこからの上昇幅は極めて大きいものです。APは、2025年11月の実効関税率が消費シフト前で約17%となり、年初からおよそ7倍に跳ね上がったと報じています。

「戦後最高水準」という表現が難しい理由

関税水準は「どの母数で平均するか」によって数字が変わるため、実務では指標の違いを理解して読み解く必要があります。

Banque de Franceは、2025年1〜9月に米国の平均関税が約14ポイント上昇し、制度上の平均が18〜20%程度に達したと分析する一方、税関収入と輸入額の比率で計る事後的な実効関税率は9.7%と整理しています。これは「制度上の税率は極めて高いが、免除や原産地ルール、調達・消費シフトの結果として、観測される実効負担は相対的に低く見える」という構造を示しています。

TBLの「消費シフト前の実効関税率」は、消費や調達が動く前に家計・企業が直面するコストを示す指標であり、価格見積もりや契約交渉の前提を置くにはこちらの考え方が実務上なじみやすいといえます。野村の解説でも、2025年8月7日時点で平均関税率は約19%とされ、1930年代前半以来の水準に近いとの見立てが示されており、市場参加者の感覚とも整合的です。

何が関税を押し上げたのか

2025年の特徴は、単一の対中関税ではなく、複数の枠組みが短期間で積み上がった点にあります。

対中関税の追加・強化に加え、カナダ・メキシコ向けの関税上乗せや、鉄鋼・アルミ、自動車とその部品、金属含有率の高い機器、銅関連などへの高関税が段階的に導入されました。2025年4月5日からは、多数の国・品目に広く適用される「相互関税(reciprocal tariffs)」と国別の上乗せ措置が開始され、結果として平均関税が一段と跳ね上がったと整理されています。

Banque de Franceは、こうした措置の累積によって、2025年の米国関税水準がスムート・ホーリー法時代に近い水準へと接近したと指摘しています。

企業コストとマクロへの影響

TBLは、2025年の関税のマクロ影響を次のように推計しています。

  • 総合物価は短期で1.2%押し上げられ、平均世帯の負担増は約1,700ドルに相当
  • 実質GDP成長率は2025年に0.5ポイント、2026年に0.4ポイント押し下げられ、長期的には米経済規模が恒常的に約0.3%縮小
  • 失業率は2025年末に0.3ポイント上昇し、2025年末時点の雇用は約46万人分減少

品目別の影響では、アパレル、金属含有率の高い電気機器やコンピューター、自動車などが特に大きな打撃を受けるとされています。自動車については、短期で価格が13%上昇(平均新車価格で約6,500ドル)、長期でも5%上昇(約2,500ドル)するとの推計が示されています。

一方で財政面では、関税収入は急増しています。APによれば、2025年11月までの関税収入は2,360億ドル超に達しており、関税は事実上、大規模な間接増税として機能しています。もっとも、貿易赤字の改善や内需への波及は単純ではなく、駆け込み輸入などによって月次の貿易赤字が大きく変動した局面も報告されています。

日本企業が今優先すべき7つの実務対応

1. 品目別・通関単位で影響額を可視化する

平均関税率の数字だけでは、自社の損益へのインパクトは見えません。HTS(HS)コード単位で棚卸しを行い、どの品目がどの関税枠組みの対象になっているかを整理し、月次輸入額ベースでインパクトを試算することが第一歩です。

TBLが示すように、「消費シフト前」と「シフト後」で関税負担の見え方は変わるため、見積もり・価格転嫁の議論では、まずシフト前の実効関税率(16.8%など)を基準値として置く方が保守的で安全といえます。

2. 価格条項とサーチャージ条項を再点検する

2025年の米国関税は、「導入して上げる」だけでなく、「一時停止・除外・再導入」が繰り返される揺れの大きい年でした。売買契約では、関税変更を価格に反映するトリガーの定義、再交渉期限、サーチャージ(追加料金)の算定方法、下振れ時の価格調整の扱いまで、条項を具体化しておく必要があります。

特に長期契約やTier構造のサプライチェーンでは、関税変動が下流でどのように転嫁・分担されるかを、価格調整条項と連動して明文化しておくことが実務上の安定につながります。

3. 原産地とサプライチェーンの「二重最適化」

関税回避のために単純に仕向国や積出国を変えるだけでは不十分な場合が多くあります。Banque de Franceが指摘するように、免除や協定適用の有無が平均コストを左右するため、原産地規則、FTA/EPAの活用、サプライヤー監査コストなどを含めた「原産地+サプライチェーン」の二重最適化が求められます。

その際には、原産地証明書の取得・保存、サプライヤーからの原産地宣言の検証プロセス、米国側での通関立証に耐えうる記録管理体制までをパッケージで設計することが重要です。

4. 自動車・金属系は多段階の「波及」を前提に設計する

自動車や金属含有率の高い製品は、完成品だけでなく鋼材・部品・サブアセンブリなど、多段階で関税コストが累積します。価格転嫁が難しいサプライヤーほど、設計変更(素材変更・仕様簡素化)、代替材の検討、在庫調整や生産タイミングのシフトといったオプションを早い段階から検討する必要があります。

特にEV関連部材やハイエンド電子部品は、特定国依存度が高いケースが多く、関税だけでなく制裁・輸出規制のリスクも重なるため、調達戦略全体を見直す契機として位置付けるのが現実的です。

5. 「米国向け最終製品に組み込まれる部材」を把握する

日本から直接米国に輸出していない場合でも、メキシコや東南アジアで組み立てられた製品に自社部材が組み込まれ、最終的に米国へ輸入されるケースでは、間接的に関税負担が取引条件に跳ね返ります。APが報じるとおり、中国からの輸入減少と同時に、メキシコ・ベトナム・台湾などからの輸入が増加する局面では、米国の関税政策を起点に調達再編が連鎖的に発生しています。

そのため、Tier1だけでなく、海外拠点・主要サプライヤーを通じて、最終仕向国・最終用途をマッピングし、「対米向けに組み込まれる部材」のボリュームと価格条件を把握することが不可欠です。

6. 「除外・例外」情報のモニタリングをルーチン化する

TBLは、2025年秋の農産品などの関税除外拡大が、平均実効関税率の見え方に影響したと指摘しています。こうした除外リストや一時的な免除は企業の関税コストに直結する一方、更新頻度が高く、官報や通達をスポットで追うだけでは見落としやすいのが実情です。

実務としては、週次程度で関係官庁・連邦官報・専門ニュースをモニタリングし、自社SKUへの該当性をチェックするフローを整備することが有効です。社内では、関税コスト削減の一環として、除外申請や制度利用の検討プロセスも含めて標準化しておきたいところです。

7. IEEPA関税を巡る訴訟と還付の「権利保全」

IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税については、司法判断の帰趨によっては還付の余地が残るとされています。米議会調査局(CRS)は、米国国際貿易裁判所(CIT)が2025年5月に「IEEPAは関税賦課権限を付与しない」と判断したこと、最高裁が上訴審を受理し、2025年11月初旬に口頭弁論を予定したことなど、手続の流れを整理しています。

JETROは、CITが2025年12月15日に清算手続の仮差止め申立てを棄却した一方、将来的に違法判断が出た場合の還付可能性や、清算と異議申立て(原則180日以内)のタイミングを巡る実務論点を詳しく解説しています。日本企業としては、輸入者としての立場か、サプライヤーとして価格条件に関与する立場かを踏まえ、清算・異議申立て・記録管理を含めた権利保全方針を、取引先との間で明確にしておく局面にあります。

高関税が「新常態」になり得るという前提

2025年の米国関税は、単なる税率変更ではなく、サプライチェーンと価格決定の前提を組み替えるイベントだったと位置付けられます。平均実効関税率が1930年代以来の水準に達したという推計が複数示されている以上、短期の例外措置や交渉結果に一喜一憂するより、「高関税が当面の標準シナリオである」という前提でコスト設計と契約実務を固めることが、企業にとって現実的なアプローチとなります。


注記: 本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・税務・通関判断を代替するものではありません。最終判断は、自社の取引実態と最新の公式発表、並びに専門家の助言に基づいて行う必要があります。

インドネシアとEAEUがFTA署名、関税90%超で優遇 何が変わるのか

2025年12月21日、インドネシアとユーラシア経済連合(EAEU)が自由貿易協定(FTA)に署名しました。EAEU側は、関税分類ベースで全体の90.5%の関税ラインにインドネシア産品への優遇税率を適用し、その対象はインドネシアからの輸入額の95.1%をカバーすると説明しています。

EAEUはロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスからなる経済統合圏で、人口は約1.8億人規模です。一見すると政治ニュースで終わりがちですが、実務目線では、関税削減だけでなく原産地・通関・規格認証などの運用が変わる可能性があり、日本企業の輸出入採算とサプライチェーン設計にも影響し得ます。


まず押さえるべき前提:EAEUの範囲と協定の段階

EAEU(ユーラシア経済連合)は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスの5カ国から成る関税同盟・共通市場です。今回のFTAは、サンクトペテルブルクで開催された最高ユーラシア経済評議会の会合の場で署名されました。

署名後は、各締約国での批准など国内手続を経て発効する流れです。「署名=即日ゼロ関税」ではありません。インドネシア側の説明では、批准・実施準備を踏まえた発効時期として2026年末から2027年頃の実施を想定する旨が報じられており、経営判断上の重要なタイムラインとなります。


「90.5%の関税ライン優遇」の読み方

報道で強調されている「90.5%」は、EAEU側がインドネシア産品に対して優遇を与える関税ライン比率を指します。関税ラインとは、各国のHSコード(品目分類)をさらに細分化した課税単位です。「90.5%」は優遇対象ラインの広さを示すもので、すべての対象ラインが即時ゼロ関税になることを意味するわけではありません。段階的撤廃、例外品目、数量割当、原産地要件などが通常セットで設計されます。

EAEU側の発表では、インドネシア側もおおむね90%程度の関税ラインで優遇アクセスを開放します。EAEU産品に対してインドネシアが適用する平均関税率は、自由化の進展に伴い10.2%から約2%へ大きく低下する見通しです。また、EAEUがインドネシアに与える優遇は、関税ラインベースで90.5%、金額ベースではインドネシアからの輸入額の95.1%をカバーします。実需に近い指標としては「金額カバー率」のほうがインパクトを把握しやすい場合があります。


何が売れやすくなり、何が入りやすくなるか

インドネシアからEAEUへ:輸出機会が広がる品目

報道・政府コメントでは、インドネシアからEAEU向けの主な輸出拡大候補として、パーム油とその派生品、履物、繊維・繊維製品、水産品、天然ゴム、家具、電子機器などが挙げられています。インドネシア側の説明では、これに加えてコーヒー、カカオ、アルミナ関連なども主要な輸出品として言及されています。

EAEUからインドネシアへ:調達コストが変わり得る品目

EAEU側の公表では、インドネシア向けの有望品目として、小麦等の穀物、粉類・パンなどの農産加工品、魚・牛肉、乳製品(粉ミルク、チーズ等)、ミネラルウォーターなどの食品分野が示されています。

工業品では、鉄鋼・非鉄金属などの冶金品、石油製品、石炭、肥料、基礎ポリマー、合板・家具などの林産品、建設機械や各種設備が例示されています。一次素材や燃料・肥料系の調達コスト構造が変わり得るとされています。

重要なのは単純な関税率の上下ではなく、国内製造原価や調達先多元化の選択肢が広がる点です。特に肥料や原燃料、ポリマー等は価格変動が損益計算書に直撃しやすい領域であり、関税条件の改善は購買戦略・契約条件の見直しに直結します。


貿易額と「伸びしろ」の現状整理

インドネシア政府の統計によれば、2024年のインドネシアとEAEUの相互貿易額は約45億ドル(輸出約18.9億ドル、輸入約26.3億ドル)です。また、2025年1月から10月の貿易額は約44億ドル(輸出17.6億ドル、輸入26.4億ドル)と報じられており、現状でも一定のボリュームがある関係です。

EAEU側は、協定発効後3年から5年で貿易が倍増し得るとする見通しを示しており、インドネシア側からも「貿易を約2倍に増やす」期待が表明されています。数字の実現可能性は別として、両サイドが「伸ばす前提」で制度設計をしている点そのものが、企業にとって重要なシグナルといえます。


実務で効くのは関税だけではない:非関税分野の変化

ユーラシア経済委員会(EEC)は、今回の協定が関税削減だけでなく、技術規格、衛生・植物検疫(SPS)、通関手続、原産地規則、貿易円滑化など、貿易の予見可能性を高める規律を含むと説明しています。協定は全15章構成で、市場アクセス、貿易円滑化、経済協力といった分野をカバーしており、実際の通関難易度や規制対応コストが変わる余地があります。

インドネシア側も、法的確実性の向上、貿易・投資の予見可能性、サプライチェーン統合の促進といった観点から、このFTAを戦略的な枠組みとして位置づけています。


日本企業の視点:どのような会社に影響が出やすいか

1. インドネシア生産拠点を持ち、第三国市場を狙う企業

インドネシアで生産し、EAEU向けに輸出する場合、協定税率の適用によって価格競争力が変わります。自動車部品、家電などの消費財に加え、パーム油派生品、ゴム製品、家具、電子機器なども主要な輸出候補です。ASEAN内輸出だけでなく「非伝統市場」としてのEAEUをターゲットに含める余地が生まれます。

2. 一次素材・肥料・燃料関連を輸入する企業

インドネシアがEAEU産品に適用する平均関税率を約10.2%から2%へ引き下げる見込みであることから、EAEUからの一次素材・肥料・エネルギー関連の輸入コストは再試算対象になります。複数年契約や指数連動価格、関税転嫁条項がある取引では、協定発効タイミングに合わせた契約更改や価格調整の論点が増加します。

3. 規制対応コストが重い業種

水産品や食品、化学品、電気機器などの業種では、技術基準や認証、衛生・植物検疫(SPS)要件が実質的なボトルネックになりやすく、関税メリットを取りに行くほど品質保証・認証対応の体制整備が重要になります。

加えて、EAEUにはロシアやベラルーシが含まれるため、制裁・輸出管理・金融制約(決済・保険・輸送)の観点から、取引可否やスキーム設計を社内ガバナンスの論点として早期に切り分けておく必要があります。


企業が今からやっておくべきチェックリスト

対象品目の棚卸し
EAEU向けに輸出し得る製品、およびEAEUから調達している原材料・部材を洗い出し、HSコードを確定する。

税率シミュレーション
現行税率と、協定発効後の想定税率(即時撤廃か段階撤廃か)を分けて採算表を作成し、「90.5%」という全体数字ではなく、自社の該当ラインで影響を確認する。

原産地設計
協定税率を利用するには、協定の原産地規則を満たし、必要書類を整備する必要がある。サプライヤー証明、工程記録、BOMの整備は前倒しで進めるほど有利になる。

非関税要件の確認
食品・化学品・電気機器などは、規格・表示・許認可・SPS/TBT要件が取引コストを左右するため、関税メリットが大きい品目ほど、ここがボトルネックになりやすい。

発効時期のモニタリング
署名後は各国の批准と実施制度の整備が進む。インドネシア側は2026年末から2027年頃の実施を念頭に置いており、年度計画・投資計画・契約条件の見直しに織り込む必要がある。


まとめ:90%超の優遇は大きいが、勝負は発効後の運用

インドネシアとEAEUのFTAは、対象関税ラインの広さ(90.5%、金額ベース95.1%)という意味でも、双方が貿易倍増を見込むという意味でも、大きなポテンシャルを持つ枠組みです。

ただし、企業の利益に変わるのは、発効後に関税スケジュールを読み切り、原産地と通関運用を設計し、規格・認証・制裁といった非関税要件の壁を乗り越えた企業からです。

発効までの時間を準備期間として活かし、HSコードの確定、原産地設計、契約条件の見直し、書類・データ体制の整備までを前倒しできるかどうかが、「制度が動いた瞬間に先行できるか」を左右します。


出典一覧

本文書は以下のソースに基づいています:

  1. Reuters – Indonesia signs free trade deal with Russian-led Eurasian Economic Union
  2. Xinhua News – EAEU-Indonesia FTA agreement details
  3. Antara News – Indonesia seals FTA with EAEU
  4. Eurasian Economic Commission – Official FTA announcement
  5. Xinhua News – EAEU preferential tariff coverage data
  6. Global Banking and Finance – Indonesia-Russia trade overview
  7. Russia’s Pivot to Asia – EAEU-Indonesia FTA analysis
  8. PolGeoNow – What is Eurasian Union
  9. Russia’s Pivot to Asia – Supreme Eurasian Economic Council meeting analysis
  10. Interfax – EAEU trade priorities
  11. Instagram – Indonesian government announcement
  12. VOI – Indonesia tariff reduction details
  13. IDN Financials – RI-EAEU FTA signed
  14. WAM – Indonesia eyes 100% trade rise with EAEU
  15. The Star – Indonesia inks trade deal with EAEU
  16. Polyester Time – Indonesia-Eurasian Economic Union FTA
  17. The Jakarta Post – RI inks trade deal with EAEU
  18. Business Times Singapore – Indonesia signs FTA with EAEU
  19. Kontan English – Indonesia signs free trade deal
  20. Reuters – Indonesia expects to sign FTA (June 2025)
  21. Migrant Times – Indonesia signs FTA with EAEU

CBPが公表した「重複関税の解除チャート」をどう読むか


1. まず押さえるべき「重複解除」の原則(EO 14289)

重複関税整理の土台となるのは、2025年4月29日付の大統領令「Addressing Certain Tariffs on Imported Articles(EO 14289)」です。presidency.ucsb+1
この大統領令は、「複数の追加関税措置の対象になり得る品目」について、どの関税を優先的に適用し、どれを排除するかという手順(single‑duty rule/優先順位)を定めています。business.gmu+1

EO 14289の対象となる追加関税措置は、次の5つに限定されています。govdelivery+1

  • 232条 自動車・自動車部品(Proclamation 10908 等)govdelivery
  • IEEPA カナダ追加関税(EO 14193 系)immpolicytracking+1
  • IEEPA メキシコ追加関税(EO 14194 系)strtrade+1
  • 232条 アルミニウム(Proclamation 9704 系及びその改正)whitehouse
  • 232条 鉄鋼(Proclamation 9705 系及びその改正)whitehouse

これ以外の関税措置(例:Section 301、対中IEEPA、AD/CVDなど)は、EO 14289の「非スタック」ルールの対象外であり、個別のルールで判断されます。global-scm+1

CBP CSMSによると、非重複の優先関係は、要約すると次のようになります。cassidylevy+1

  • まず「232 自動車・部品」に該当し、正味の追加関税額が0%を超える場合、その品目にはカナダIEEPA、メキシコIEEPA、232アルミ、232鉄鋼は重ねない。
  • 自動車・部品に該当しない場合、カナダIEEPAが「実際に関税がかかる(subject to)」なら、メキシコIEEPAや232鉄鋼・232アルミは原則として重ねない。
  • カナダIEEPAもかからない場合、メキシコIEEPAがかかるなら、232鉄鋼・232アルミは原則として重ねない。
  • 232鉄鋼と232アルミは、対象品目が両制度の範囲に入り、かつそれぞれに正味の追加関税額が発生する限り、同一品目に同時適用され得る(特に派生品については両方課されるケースが明示されています)。whitecase+1

ここで重要なのが、「subject to」の意味です。CBPは、「ある措置の下で実際に0%を超える追加関税が発生する場合に、その措置に“subject to”される」と説明しており、USMCA原産として免税になる場合などは、その措置の対象外として扱うと明示しています。cassidylevy+1

さらに、EO 14289の適用対象外の関税は引き続きスタックし得ます。具体的には、通常税率(HTSUS一般税率)、Section 301対中関税、対中IEEPA関税(EO 14195 系)、アンチダンピング・相殺関税(AD/CVD)などは、EO 14289によって自動的に打ち消されるわけではありません。whitehouse+2

EO 14289による非スタック・ルールは、2025年3月4日以降の輸入に遡及して適用され、対象5措置が重複して課されていた場合には、CBPの通常手続に従い還付請求が可能とされています。cassidylevy+1


2. なぜ「チャート」が必要になったのか

EO 14289は「第一幕」として5つの主要措置の優先関係を定めましたが、その後も大統領布告やCSMSにより、対象品目の拡大や追加的な非重複ルールが積み上がり、実務上の判断はさらに複雑になりました。whitehouse+1
例えば、木材・家具等に対する232措置(Proclamation 10976 など)では、カナダ・メキシコ・その他IEEPA関税との非重複関係が個別に明示されているケースがあります。globaltradealert+1

こうした「個々の布告・通達で追加されてきた非スタック・ルール」を、実務者が一覧で俯瞰できるように可視化したものが、CBPの「Unstacking Certain Tariffs Chart」と理解すると整理しやすくなります。geodis+1


3. チャートの実務的な読み方(3ステップ)

GHYなどの実務解説では、このチャートの使い方を3ステップで説明しています。ghy+1

ステップ1:自社品目が属する「行」を確定する

チャートは、行が「品目カテゴリまたは原産国等の条件」、列が「各関税措置」という構造になっています。ghy
解説では、例えば「自動車・自動車部品」「中大型トラック及び部品」「自動車・トラック以外でアルミを含有する品目」「鉄鋼・アルミ派生品」「木材・家具関連」などの行が並ぶ形で紹介されています。ghy+1

この行の特定を誤ると、その後の判断がすべてずれてしまうため、ビジネス側が準備しておくべき最低限の情報は次の通りです。

  • 米国HTSコード(品目分類)
  • 原産国(USMCA原産かどうかを含む)
  • 鉄鋼・アルミ・銅等の含有有無と、その含有部分の価額(派生品の場合)
  • 自動車・自動車部品・トラック等の車両関連品目に該当するかどうか

ステップ2:行を横に読んで、YES / 条件付き / NOを拾う

各セルには「YES」「CONDITIONAL」「NO」などの表示があり、その行の条件下で、各関税措置が適用され得るかどうかの目安として使うことができます。ghy
ただし、「YESだから自動的に課税確定」という意味ではなく、あくまで「該当する可能性あり」のフラグであり、具体的な適用要件は各大統領令・布告・官報告示等を確認する必要があります。chrobinson

ステップ3:最終判断は一次資料で裏取りする

チャートは情報提供目的のツールであり、法的拘束力を持つ「公式解釈」ではありません。ncbfaa+1
最終的な判断は、EO 14289の本文、関連する大統領布告、Federal Register 掲載告示、CSMS等の一次資料を踏まえて行うことが求められます。govdelivery


4. 「解除」といっても、申告が簡単になるわけではない

非スタック・ルールの導入により「二重取り」が一定程度抑制される一方、2025年はむしろ申告データの要件が増えている側面があります。jetworldwide+1
典型例が、232条鉄鋼(特に派生品)に関する「含有価額ベースの申告」です。govdelivery+1

232鉄鋼・アルミ派生品や、鉄鋼品(Chapter 73 など)について、CBPはCSMSで次のような実務指示を示しています。govdelivery+1

  • 対象となる派生品については、232関税を「鉄鋼部分(またはアルミ部分)の価額」に限定して計算する。
  • 非鉄鋼(または非アルミ)部分の価額については、別ラインで申告し、IEEPA関税やその他の追加関税をそのラインに載せる。
  • 232の追加関税率を適用するラインと、IEEPA等を適用するラインで、価額を混在させないようにする(ACEの計算ロジック上も分離が必要とされる)。whitecase+1

その結果、現場では次のような構図になりがちです。

  • 非スタック・ルールにより「同じ価額に対する二重取り」は減る。
  • 一方で、「二行申告」「価額分解」「複数のChapter 99の組み合わせ」が増え、通関実務としてはむしろ複雑化する。

5. ビジネス上のインパクト:押さえるべき2つの数字

(1) 過去分キャッシュ(還付余地)

EO 14289は、2025年3月4日以降の輸入・保税引取りに遡及して適用され、対象5措置について不適切なスタックがあった場合には、通常のCBP手続により還付請求が可能とされています。cassidylevy+1
したがって、「2025年3月4日以降の米国輸入で、232自動車・232鉄鋼・232アルミ・カナダIEEPA・メキシコIEEPAが同一貨物に重複して課されていないか」を棚卸しすることには大きな価値があります。govdelivery

(2) 今後の原価(正しい適用での着地)

非スタック・ルールの対象外であるSection 301、AD/CVD、通常税率、対中IEEPA(EO 14195 系)などは、従来どおり残ります。federalregister+1
したがって、将来の着地原価を再計算する際は、「解除された分だけ単純に下がる」と見るのではなく、「残る関税(301、AD/CVD、IEEPA等)も含めたうえで、非スタック・ルールを考慮した新しい積み上げ」を行うことが必要です。global-scm+1


6. 日本企業向けの実務ToDo(すぐ効く順)

日本企業が短期的に着手しやすい対応は、次のように整理できます。

  • 2025年3月4日以降の米国向け輸入エントリーを抽出し、対象5措置が「不適切に重複していないか」の一次診断を行う(特に自動車・金属含有品)。cassidylevy+1
  • 自社の主要品目を、「チャート上のどの行に該当するか」(自動車系、金属含有品、木材・家具系、対中IEEPA対象品など)に分類し、社内で共有する。global-scm+1
  • 通関業者と協議し、Chapter 99 の付番方針、二行申告の要否、鉄鋼・アルミ部分の価額分解の根拠資料の持ち方など、実務プロセスを事前にすり合わせる(特に232派生品・金属含有品)。govdelivery+1
  • 社内規程として、「チャートのYESはあくまで“要検討”であり確定ではない」「最終判断は一次資料(EO・布告・官報)に基づく」「reasonable care(合理的注意義務)の観点から、適用関税の根拠を文書化する」といった原則を明文化する。ncbfaa+1

結び:チャートは「地図」であり、ルールの代替ではない

CBPの「Unstacking Certain Tariffs Chart」は、関税の重複を減らすために導入された複雑なルール群を、実務者が一望できるよう整理した地図の役割を果たします。geodis+1
しかし、地図だけではゴールに到達できません。EO 14289が定めた非スタックの骨格、各大統領布告やCSMSが追加してきた個別ルール、そして対象外として残るSection 301やAD/CVD等を同時に管理してはじめて、2025年型の米国通関コンプライアンスが成立します。presidency.ucsb+1

  1. https://global-scm.com/blog/?p=3509
  2. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e0a63e
  3. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3e36d96
  4. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-24-2025-client-advisory-cbp-releases-informational-tariff-unstacking-chart/
  5. https://ncbfaa.org/news-advocacy/monday-morning-ebriefing-details
  6. https://www.presidency.ucsb.edu/documents/executive-order-14289-addressing-certain-tariffs-imported-articles
  7. https://www.cassidylevy.com/news/new-cbp-guidance-clarifies-tariff-stacking-refund-procedures/
  8. https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
  9. https://www.federalregister.gov/documents/2025/05/02/2025-07835/addressing-certain-tariffs-on-imported-articles
  10. https://business.gmu.edu/news/2025-07/addressing-certain-tariffs-imported-articles-executive-order-14289
  11. https://immpolicytracking.org/policies/potus-issues-eo-on-northern-border-and-imposes-tariffs-on-canada/
  12. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/ieepa-tariffs-on-canada-china-mexico-venezuelan-oil
  13. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/06/adjusting-imports-of-aluminum-and-steel-into-the-united-states/
  14. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/11/modifying-duties-addressing-the-synthetic-opioid-supply-chain-in-the-peoples-republic-of-china/
  15. https://www.federalregister.gov/documents/2025/02/07/2025-02408/imposing-duties-to-address-the-synthetic-opioid-supply-chain-in-the-peoples-republic-of-china
  16. https://globaltradealert.org/blog/US-Tariff-Stacking-Explained
  17. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/cit-confirms-court-authority-order-refunds-ieppa-duties-without-required
  18. https://www.ghy.com/trade-compliance/cbp-provides-unstacking-tariff-chart/
  19. https://www.ghy.com/trade-compliance/category/us-customs/
  20. https://www.jetworldwide.com/blog/unstacking-usa-trump-tariffs
  21. https://www.ghy.com/trade-compliance/guidance-on-executive-order-issued-to-prevent-tariff-stacking-on-us-imports/
  22. https://phillipslytle.com/clarifying-guidance-on-new-stacking-tariffs/
  23. https://www.linkedin.com/posts/hugopakula_customscompliance-trump-tariffs-activity-7330540305852551170-Mvd9
  24. https://www.reddit.com/r/CustomsBroker/comments/1n2qz9v/how_is_cbp_being_impacted_by_the_tariffs_and_ice/
  25. https://www.customsmanager.info/post/customs-manager-us-cbp-tariff-factsheet
  26. https://worldtradescanner.com/Guidance%20on%20Tariff%20Rates%20for%20Products%20of%20China%20under%20IEEPA%20Executive%20Orders.htm
  27. https://www.chrobinson.com/en-sg/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q2/05-21-2025-client-advisory-cbp-issues-guidance-on-tariff-prioritization-under-executive-order-14289/
  28. https://www.federalregister.gov/documents/2025/02/07/2025-02406/imposing-duties-to-address-the-flow-of-illicit-drugs-across-our-northern-border
  29. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/03/tariffs-against-china-and-hong-kong-increase-to-20-on-march-4-2025/
  30. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/amendment-to-duties-to-address-the-flow-of-illicit-drugs-across-our-northern-border-9350/
  31. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/further-amendment-to-duties-addressing-the-synthetic-opioid-supply-chain-in-the-peoples-republic-of-china/
  32. https://www.congress.gov/crs_external_products/IN/HTML/IN12533.html
  33. https://www.ghy.com/tariff-tracker/
  34. https://millerco.com/sites/default/files/2025-05/CBP-Clarification-of-Tariff-Stacking-Rules-and-Refund-Opportunity-May-16-2025.pdf
  35. https://thetradelawfirm.squarespace.com/s/Tariff-Update-March-10-2025.pdf
  36. https://www.macmap.org/OfflineDocument/TradeRemedy/InternalLink/USA/CSMS65936570%20GUIDANCE_%20Section%20232%20Additional%20Steel%20Derivative%20Tariff%20Inclusion%20Products.pdf
  37. https://www.govinfo.gov/app/details/DCPD-202500539
  38. https://www.westernoverseas.com/guidance-steel-iron-and-aluminum-derivative/
  39. https://jaguarfreight.com/update-dec-22-2025/
  40. https://jsconnor.com/tariffs/additional-steel-and-aluminum-derivative-products-subject-to-section-232-tariff/

EUが原産地証明の「真偽確認」を明文化:2025年3月3日改訂ガイダンスが示す実務の勘所


欧州委員会の税関・間接税総局(DG TAXUD)は、2025年3月3日付で「優遇原産地ルール(Preferential Rules of Origin)に関するガイダンス」を更新しました。今回の改訂では、原産地証明の真偽確認(verification of proofs of origin)を専門に扱う新しい章「Section C」が追加されたことが大きな特徴です。

一見すると制度の説明書が増えただけに見えますが、企業実務にとっては、いつ、誰が、どんな手順で原産地証明を確認しに来るのかが具体的に言語化されたという意味で、非常に重要な内容となっています。

そもそも原産地証明の真偽確認とは何か

EUのFTAや特恵制度で関税優遇を受けるには、輸入申告時の特恵申請を原産地証明書類で裏づける必要があります。ガイダンスでは、特恵申請は「原産地に関する書類」または「輸入者の知識(importer’s knowledge)」によって支えられるべきものと整理されています。

この「真偽確認」とは、税関が事後的に次の点を確認するプロセスを指します。

  1. その貨物が本当に協定上の原産品としての条件を満たしているか
  2. 原産地証明書類が真正か(改ざんや不整合がないか)
  3. 直送条件など、協定で定められた他の要件も満たしているか

新章Cは、この確認プロセスをどのように運用するかを、手続きとして明確にまとめた章です。

今回の更新で追加されたハイライト

DG TAXUDの発表によれば、今回の改訂ではEU加盟国と第三国の間でやり取りされる照会プロセスの詳細や、輸入者の知識に関する実務的な整理が扱われています。

加えて、改訂PEM(汎欧地中海)原産地規則や、最近発効したEU・チリ暫定貿易協定など、最新のルール変更を反映した点も強調されています。

真偽確認のタイミング:輸入時と輸入後の二段構え

ガイダンスでは、真偽確認の入口を「輸入申告時」と「輸入後」に分けて説明しています。輸入申告の受理段階でチェックが始まることもあれば、輸入許可のあとに税関が検証に入ることもあります。

また、検証対象の選び方は、疑わしい点がある場合の「合理的疑義」に基づくものだけでなく、定期的な「無作為抽出」もあり得ると整理されています。

企業側の視点では、原産地証明は提出して終わりではなく、後日の監査に耐えうる根拠資料を常に整備しておく必要があるということです。

新章Cの構造:照会の方向性は2つ

新章Cでは、照会がどの方向に流れるかによって手続きを区分しています。

区分照会の方向想定されるシーンの例
C.2第三国からEU加盟国へ日本などの輸出先国が、EU側が発行したEUR.1やREX登録番号の真偽をEU当局に確認する
C.3EU加盟国から第三国へEU税関が輸入された商品の原産性に疑義を持ち、日本の税関など輸出国の当局に確認を求める

どちらのケースでも、企業実務においては期限付きの照会対応が発生する可能性がある点が共通しています。

C.3 EU加盟国が第三国へ照会する際の実務上の注意

EU側が輸入申請を検証対象に選ぶ場合、EU税関はまず原産地証明を精査します。協定によっては、輸出国当局へ照会する前に、輸入者に対して追加情報の提出を求める場合があります。

特にEU・日本EPAなどを含む一部の類型では、輸出国当局への照会に進む前に、輸入者からの回答のみで検証を完了できる可能性がある点が重要です。

合理的疑義の例としては、証明書上のスタンプの相違、破損、判読困難といった「書類の外観品質」に関する論点も挙げられています。

輸入者の知識(importer’s knowledge)による検証ルート

輸入者の知識に基づいて特恵申請を行う場合、輸入国側の当局が輸入者に対して直接検証を行うと明示されています。つまり、輸出国の税関を通さず、輸入者が直接すべての責任を負うことになります。

この制度を利用するには、輸入者自身が原産性を立証できる証憑を保持し、一定期間保存しなければなりません。輸出者が作成したステートメントを単に流用するだけでは不十分であり、情報提供のあり方を事前に契約などで取り決めておくことが推奨されています。

明日からの実務で活用すべき対応チェックリスト

  • 根拠資料のファイル化製造工程、BOM(部品表)、原価計算書など、結論に至る根拠一式を後日の書類審査を前提に整備してください。
  • 証明書類の外観チェック判読性、記載漏れ、スタンプの鮮明さなど、形式的な不備が合理的疑義の入口にならないよう出荷前に点検します。
  • 直送条件の証憑管理経由地がある場合、非改変要件を満たすための証憑も原産地資料と一緒に保管しておきましょう。
  • 保存期間の徹底少なくとも3年以上の保存を基本とし、協定ごとの保存義務期間を再確認してください。
  • 社内導線の整備税関からの照会は回答期限が厳格です。担当窓口や、英語での説明資料の準備、承認ルートをあらかじめ決めておきます。

まとめ

今回のDG TAXUDガイダンス更新は、原産地証明の真偽確認プロセスを可視化し、企業が直面する否認リスクを具体的に示しました。

EUとの取引で関税優遇を活用するなら、証明書を発行して完結とするのではなく、後日の検証に耐えうる根拠と体制をセットで構築することが、実務上の最短ルートとなります。


米国「相互関税」制度 12月時点の運用確認ポイント


米国「相互関税」制度 12月時点の運用確認ポイント

通関現場でいま起きていることと、企業が外せない実務チェックリスト

2025年の米国通商政策は、「税率いくらか」という話よりも、「どの文書で、いつから、どの申告コードで動くのか」を最後まで追えるかどうかが勝負になっています。 とりわけ「相互関税」は、大統領令で枠組みが動き、HTSUS第99章の追加コードで実装されるため、社内の理解が追いつかないと、過払い・申告誤り・事後調査リスクが一気に顕在化します。 以下では、12月時点の制度の骨格を押さえたうえで、ビジネスパーソンが社内に指示しやすい「運用確認ポイント」を、通関と収益影響の観点から整理します。govdelivery+4


1. そもそも「相互関税」は何として動いているのか

米国の相互関税は、2025年4月2日の大統領令14257(番号は仮に付されており、実務上は後続の修正・補足も含めて読む必要があります)を起点に、国家緊急事態権限を根拠として関税を調整する枠組みとして整理されました。 具体的な税率は、HTSUS第99章の見出し(9903.02.xxなど)の追加コードで運用され、通常の1〜97章の分類に「上乗せ」または「置換」される形で適用されます。cassidylevy+2

その後、2025年7月31日の大統領令とそれを受けたCBPガイダンスにより、8月7日12時01分(米東部時間)から適用される国別の相互関税率と申告コードの運用が明確化されました。 関係文書では、国別税率が0%から15%(一部の国はそれより高率)までのレンジで設定され、表にない国には基準率(多くの実務解説は10%を想定)を適用する整理が示されています。dimerco+3

重要なのは、これは単なる「税率のニュース」ではなく、「申告実務の仕様変更」だということです。 輸入申告では、通常の品目分類(1〜97章)に加え、第99章の相応しいコードを正しく付番して初めて、意図した税率で課税されます。buckland+2


2. 12月時点の特徴は「合意で税率ロジックが変わる」こと

相互関税は、単純な「国別一律上乗せ」ではなく、交渉・合意の内容に応じて「合計税率の上限・下限」を設定するロジックへ置き換わるケースが増えています。 実務上は、対象国を「相互関税の計算ロジック別」に分類して整理することで、申告ミスを減らすことができます。geodis+2

代表例がEUです。EU原産品については、Column 1(一般税率)が15%以上の品目には追加相互関税を課さず、15%未満の品目については「一般税率+相互関税=15%」となるように調整する特則が、第99章見出し9903.02.19/9903.02.20として明記されています。govdelivery+2

日本についても、相互関税がMFN税率(Column 1)と連動し、15%を基準にロジックが分岐する仕組みが、CBPの通知・民間通関解説で一貫して示されています。 さらに12月時点では、韓国との「戦略的貿易・投資協定(Korea Strategic Trade and Investment Deal)」の関税要素が、連邦官報告示を通じてHTSUS改正として順次実装されています。westernoverseas+5


3. 企業が必ず押さえるべき運用確認ポイント

3-1. 適用関税の「足し算ルール」を誤解しない

初期のCBPガイダンスでは、ベースラインの関税と相互関税を一律に単純加算するのではなく、MFN税率と相互関税率の組み合わせ方が国・品目ごとに定義されていることが明確にされています。 EU・日本など一部の国では、「合計15%ルール」のように、最終税率のキャップ・フロアが決まっており、単純な「MFN+α」という理解では誤差が生じます。dimerco+3

このロジックを誤解すると、原価計算が体系的にずれ、営業見積・価格改定・顧客交渉など、収益関連の前提が崩れます。 ここは通関担当だけでなく、経理・営業とも共有すべきポイントです。geodis+1

3-2. 原産地の定義が「税率のスイッチ」になる

相互関税は国別税率で運用されるため、原産地判定がそのまま税率スイッチになります。 さらに、意図的・実質的な迂回輸出と認定された場合には、通常の相互関税とは別枠の追加関税(例:40%)が課され得るとするガイダンスも公表されており、CBPは迂回認定時に第99章コードを9903.02.01などの高率項目に切り替えて課税する運用を案内しています。jsconnor+2

したがって、サプライチェーンの上流段階から、原産地の根拠資料を「説明できる形」で整備することが不可欠です。 単なる原産地証明書の有無では不十分であり、製造工程・加工実態・トレーサビリティに基づいて、迂回と誤解されないストーリーを示せるかどうかが問われます。jsconnor+1

3-3. 第99章コードの付与ミスは「過払い」か「追徴」になる

EU向けの相互関税では、Column 1が15%以上か未満かによって、9903.02.19と9903.02.20のどちらを使用するかが分かれます。 ここを誤ると、不要な15%を多く払うか、逆に不足分が事後調査で追徴されるか、いずれかのリスクが生じます。buckland+3

日本品については、CBP通知と民間の通関実務解説によれば、Column 1が15%以上の場合は9903.02.72(追加0%)、15%未満の場合は9903.02.73(合計15%)を使用する整理が示されています。 併せて、Section 232対象品(鉄鋼・アルミ・銅、自動車・自動車部品など)は相互関税の対象から除外され、引き続き9903.01.33など従来のSection 232コードを使用するように指示されています。customscourt+4

3-4. 日付条件は「船積み」と「通関」の二段階で管理する

2025年7月31日の大統領令では、8月7日以前に最終輸送モードで積み込まれ、10月5日までに輸入申告が完了した貨物について、旧税率を適用できる経過措置が設けられました。whitehouse+1

この種の経過措置は、「船積み基準」と「輸入申告基準」という二つのタイミングをまたぐため、輸出側の船積み管理と輸入側の通関管理を分断すると漏れが生じます。 フォワーダー・ブローカー・輸入者の三者が、対象貨物リストを同じ定義・同じデータで共有することが必須です。fedex+1

3-5. 還付・ドローバックの余地を最初から織り込む

相互関税についても、一定条件のもとでドローバック(還付)が認められることが、初期のガイダンスや各種実務解説で明確にされています。 税率や対象国が頻繁に変わる局面では、過払いが起きやすく、後追いで回収できる権利を確保するために、輸入時点から証憑・データを適切に保存する設計が現実的です。 この領域は、財務・税務と通関担当が連携してルール化する必要があります。dimerco+1

3-6. 記録保存は「5年」を標準に、監査対応型で組む

複数の追加関税が並行して適用される中で、通関実務が不透明になりやすいこと、また将来の還付や事後調査に備えて通関書類の保存が重要であることは、各種実務レポートや日本語解説でも繰り返し指摘されています。 米国側の一般的な保存期間(5年)を前提に、監査対応型のファイル体系を組むことが望ましいとされています。geodis

ここでいう書類は、インボイスやB/Lだけでは不十分で、第99章コード選定の根拠、原産地判定メモ、分類根拠、社内決裁ログなどを含めた「説明パッケージ」を整えることがポイントです。buckland+1

3-7. 係争リスクを踏まえ、権利保全の姿勢を決める

IEEPA権限を用いて広範な相互関税を課すこと自体が、憲法・通商法の観点から争点となっている訴訟も係属しており、控訴審を経て最高裁に持ち込まれる可能性が示唆されています。 無効判断が出た場合でも、その効力の遡及範囲や差止の射程が争点となり得るため、企業としては「過払いの可能性」と「どの手続で権利を保全するか」をあらかじめ決めておくことが現実的です。cassidylevy+1


4. 12月時点の社内向けチェックリスト

  • 対象国ごとに、相互関税のロジック(単純上乗せ型/合計15%型など)を分類し、一覧表にする。govdelivery+1
  • 品目分類(1〜97章)と第99章コードの組み合わせルールを社内で文書化し、ブローカー任せにしない。jsconnor+1
  • Section 232対象の有無を確認し、相互関税から除外される場合の申告コード(例:9903.01.33)の運用を明確化する。jsconnor+2
  • 原産地根拠をサプライチェーン上流まで遡って整備し、迂回輸出認定による高率追加関税リスク(例:40%)を抑え込む。govdelivery+1
  • 経過措置など日付条件の対象貨物を抽出し、船積み・通関の両方のプロセスで共通管理する。whitehouse+1
  • ドローバックや還付の可能性を見越して、関係書類・データを輸入時から体系的に回収する。dimerco+1
  • 書類保存を5年基準で統一し、監査・還付・係争のいずれにも対応できるファイル構成とする。geodis
  • 連邦官報、ホワイトハウス発表、CBP通達(CSMSやGovDelivery)を定点監視し、変更を社内手順・マスターデータに即時反映する体制を作る。federalregister+2

まとめ

米国の相互関税は、税率そのものよりも、第99章コード運用と、合意に伴うロジック変更、さらに日付条件と原産地の説明責任が実務の主戦場になっています。 12月時点では、「制度は常に動くもの」として前提を置き直し、過払いと追徴の双方を抑え込む社内統制に落とし込めるかどうかが、企業のコストとリスクを分ける状況にあります。cassidylevy+3

注:本稿は一般情報であり、個別案件に対する法的助言ではありません。具体的な申告・還付・不服申立てについては、通関業者や米国通商・関税の専門家と連携して判断してください。geodis

  1. https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/07/2025ReciprocalTariffs_7.31.eo_.pdf
  2. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3ec7b5e
  3. https://www.westernoverseas.com/updated-guidance-on-japan-agreement/
  4. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
  5. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/04/2025-21940/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-us-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  6. https://www.cassidylevy.com/news/modifications-to-reciprocal-tariffs-signal-further-development-in-trump-trade-policy/
  7. https://hts.usitc.gov/search?query=European+Union
  8. https://dimerco.com/news-press/us-tariff-update-2025/
  9. https://www.buckland.com/wp-content/uploads/2025/09/Buckland-Tariffs-Presentation-New-U.S.-Tariff-Reality-September-2025.pdf?x64846
  10. https://jsconnor.com/tariffs/cbp-issues-guidance-on-increased-reciprocal-tariffs/
  11. https://www.customscourt.com/updated-tariff-guidance-u-s-japan-agreement-brings-15-baseline-rate/
  12. https://info.expeditors.com/newsflash/cbp-publishes-guidance-on-tariffs-and-duties-for-imports-from-japan
  13. https://www.govinfo.gov/app/details/FR-2025-12-04/2025-21940
  14. https://www.fedex.com/content/dam/fedex/us-united-states/International/United_States_-_South_Korea_trade_deal_implementation.pdf
  15. https://jsconnor.com/tariffs/updated-guidance-on-new-tariff-structure-for-products-of-japan/
  16. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3f2c91c
  17. https://www.federalregister.gov/public-inspection/2025-21940/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-us-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  18. https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/16/2025-17908/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-united-states-japan-agreement
  19. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/fact-sheets/2025/november/fact-sheet-united-states-and-korea-agree-korea-strategic-trade-and-investment-deal
  20. https://www.chrobinson.com/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-17-2025-client-advisory-us-japan-agreement-implementation-trade-agreement-tariff-modifications/

米国史上最大の通関詐欺和解:Ceratizit社に5400万ドル罰金


米国史上最大級と報じられた通関詐欺和解とは何か

Ceratizit社 5400万ドル決着が示す通関コンプライアンスの新常識
なぜこのニュースがビジネスに効くのか

2025年12月、米司法省は、タングステンカーバイド製品の米国内ディストリビューターであるCeratizit USA LLC(ノースカロライナ州シャーロット)が、未払い関税等をめぐる虚偽請求取締法(False Claims Act)に基づく民事案件について、5,440万ドルの支払いに合意したと発表しました。 これは、False Claims Actに基づく関税関連案件としては過去最大級の和解額と報じられており、通関分野における民事責任リスクの水準を象徴する事案です。 論点は、中国原産品に対するSection 301追加関税の回避、誤ったHSコード申告、原産地表示義務違反という、通関実務の中核そのものであり、申告の「結果責任」が改めて可視化されたといえます。finance.yahoo+2


事案の全体像

司法省および和解契約書によると、問題とされたのは主に次の3点です。grcreport+2

  1. 原産地の虚偽申告
    中国で製造されたタングステンカーバイド製品が台湾を経由して米国に輸入される過程で、原産地を台湾と申告し、中国原産品に課されるSection 301関税の支払いを免れたとされています。 対象期間は2020年8月から2024年3月までとされており、この間、中国製品を台湾原産と表示して輸入したとのアレゲーションが示されています。wttlonline+2
  2. HSコードの誤申告による関税低減
    和解契約書によれば、本来は工具用タングステンカーバイド製品(TCPs)をHTSコード8209.00.00(一般税率約4.6%)で申告すべきところ、HTSコード8311.90.00(一般税率Free)として申告したとされています。 対象期間は2015年6月頃から2024年3月までとされており、約9年にわたり関税率の低いコードへの誤分類が継続したと主張されています。hts.usitc+3
  3. 原産地表示義務違反とマーキングデューティ
    一部貨物について、原産地表示(country-of-origin marking)を欠いたまま米国内に供給し、本来支払うべきマーキングデューティを支払っていないとのアレゲーションが含まれています。 対象期間は2019年5月から2024年3月とされ、原産地ラベリングと追加関税負担の双方が問題化しました。justice+1

経緯を時系列で整理

  • 2015年6月頃から
    HSコードの誤申告による関税低減が始まったとされています(タングステンカーバイド製品を8311.90.00として申告)。justice+1
  • 2019年5月頃から
    原産地表示を欠いた貨物の輸入とマーキングデューティ不払いが問題になった期間とされています。grcreport+1
  • 2020年8月〜2024年3月
    中国製品を台湾原産として申告し、Section 301追加関税を回避したとされる期間です。wttlonline+1
  • 2022年10月
    内部通報者(リレイター)がFalse Claims Actのqui tam条項に基づく民事訴訟を提起したことが、和解契約書で示されています。finance.yahoo+2
  • 2025年12月
    司法省が和解を公表しました。支払総額は5,440万ドルであり、このうち内部通報者には約975万ドルの報奨金が支払われると報じられています。justice+2

なお、司法省は2025年8月に省庁横断の「Trade Fraud Task Force」を立ち上げ、関税逃れを含む貿易不正の摘発強化を明言しており、本件はその流れの中で象徴的な大型案件と位置付けられています。mdm+2


和解条件のポイント

和解契約書によれば、Ceratizitは総額5,440万ドルを支払うことに合意しており、そのうち約2,720万ドルはレストリビューション(政府の損失回復に充てられる性格)として位置付けられ、残額は民事制裁金等として扱われます。 また、支払額には一定の利息条件が付されている点も明記されています。justice+1

一方で、和解はCeratizitによる違法行為を認めるものではなく、司法省が主張する内容はあくまでアレゲーションであり、裁判による確定的な違法認定が行われたわけではない点も明確にされています。news.bloomberglaw+1


日本企業の実務に置き換えると、どこが危ないか

この案件が突き付けるリスクは、米国向け輸出企業だけでなく、米国に輸入者・販売子会社・ディストリビューターを持つ企業全般に直接響くものです。grcreport+1

  • 原産地は輸送経路ではなく実質で決まる
    第三国経由の物流自体は違法ではないものの、原産地の判断は実質的な製造国や実質的変更の有無で行われます。 経由国を形式的に原産地として申告する運用は、Section 301関税のような追加関税が絡む場面では最も危険な「地雷」となります。customsmobile+3
  • HSコードは価格ではなくルールで決まる
    税率がFreeのコードに「寄せたくなる」誘惑は常にありますが、分類は技術仕様と品目定義・通則に基づき決定されます。 本件のように長期間にわたり誤分類が継続すると、過少納付関税が累積し、一気に巨額の追徴・和解額に跳ね上がる可能性があります。usitc+4
  • 原産地表示は後回しにすると高くつく
    原産地表示義務の欠落は、単なるラベルミスにとどまらず、マーキングデューティという追加負担や、在庫隔離・リワークコストに連鎖し得ます。 製品本体・包装・同梱書類を含めた一貫した表示設計と、その監査プロセスの構築が不可欠です。justice+1
  • 内部通報が巨額回収の入口になる
    本件は内部通報者がqui tam訴訟を提起し、その結果として政府が介入し、回収額の一部が通報者報奨金として支払われる典型パターンです。 通関・関税領域でも、内部通報が現実の経営リスクとなっていることを示す象徴的な事案といえます。finance.yahoo+2

すぐに着手できる再発防止のチェックポイント

ビジネスマン向けに、優先度の高いポイントを整理すると、以下のとおりです。mdm+1

  • 原産地判定の根拠を、製造工程ベース(部材構成・加工内容・実質的変更)で文書化する。
  • 第三国経由取引について、物流スキームと通関申告上の原産地ロジックが整合しているかを定期的に検証する。
  • HSコードは、誰が・どの根拠で決定し、いつ見直すか(図面・仕様変更時など)を明文化し、監査可能なプロセスとする。
  • 原産地表示(本体・包装・ラベル・取扱説明書)の設計レビューを出荷前工程に組み込み、マーキングデューティ発生リスクを事前に抑制する。
  • 米国子会社や通関業者に丸投げせず、輸出者側でもインボイス・仕様書・バインディングルーリング等の証跡を一元管理し、自ら検証できる体制を整える。

まとめ

Ceratizit社の5,440万ドル和解は、関税逃れが疑われた論点が「原産地」「HSコード」「表示義務」という通関コンプライアンスの基本要素に集中していた点で、どの業界にも高い再現性を持つ事案です。 米国当局はTrade Fraud Task Forceの創設などを通じて貿易不正の取り締まり強化を明言しており、通関コンプライアンスはコスト削減のためのオプションではなく、事業継続の基盤として再設計すべき局面に入っています。mdm+2

  1. https://www.justice.gov/opa/pr/ceratizit-usa-llc-agrees-pay-544m-settle-false-claims-act-allegations-relating-evaded-0
  2. https://finance.yahoo.com/news/record-breaking-settlement-ceratizit-usa-214600318.html
  3. https://www.grcreport.com/post/ceratizit-to-pay-54-4-million-to-settle-allegations-of-evaded-customs-duties
  4. https://www.justice.gov/opa/media/1421296/dl
  5. https://www.wttlonline.com/stories/austrian-firm-settles-duty-evasion-case-for-544-million,14607
  6. https://hts.usitc.gov/search?query=8209000060
  7. https://rulings.cbp.gov/ruling/n343124
  8. https://www.mdm.com/news/legal-regulatory-issues-in-wholesale-distribution/cohort-legal/doj-settles-with-2-u-s-distributors-over-tariff-evasion-goods-smuggling/
  9. https://news.bloomberglaw.com/litigation/ceratizit-to-pay-54-4-million-in-fca-customs-duties-doj-deal
  10. https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=NY+N238531&highlight=NY+N238531
  11. https://ustr.gov/sites/default/files/enforcement/301Investigations/Tariff%20List%20(83%20FR%2047974,%20as%20amended%20and%20modified%20by%2083%20FR%2049153).pdf
  12. https://www.usitc.gov/publications/docs/tata/hts/bychapter/1000c82.pdf
  13. https://hts.usitc.gov/reststop/file?release=currentRelease&filename=Chapter+82
  14. https://www.mlex.com/mlex/trade/articles/2424344/us-settles-with-north-carolina-firm-accused-of-evading-duties-on-chinese-tungsten
  15. https://www.mofa.go.jp/files/100096004.pdf
  16. https://www.freightamigo.com/en/blog/hs-code/hs-code-for-tungsten-carbide/
  17. https://hoodline.com/2025/12/charlotte-based-ceratizit-usa-settles-for-54-4m-in-customs-duty-evasion-allegations-under-false-claims-act/
  18. https://hts.usitc.gov/search?query=8311900000
  19. https://hts.usitc.gov/search?query=9903.01.25
  20. https://www.usitc.gov/tata/hts/archive/0000/000c82.pdf

米国の相互関税・関連301動向

本日の週次アップデートです。過去72時間の一次ソースだけで「米国の相互関税・関連301動向」を要点整理しました。

発表日発効日施策/対象対象HS/HTS公式URL
2025-12-102026-01-01開始(段階適用:2027-01-01=10%、2028-01-01=15%)セクション301:ニカラグア由来(CAFTA-DR非原産)に段階的追加関税。既存の相互関税18%等と累積可HS個別指定なし(原則「ニカラグア産すべて」うちCAFTA-DR原産除外)USTR発表。(United States Trade Representative)
2025-12-12 公示追って実施通知(FR告示参照)上記301実施のFederal Register告示(段階適用の実装手続)同上USTR/FR告知(要旨)。(C.H. Robinson)
2025-11-262026-11-10まで延長対中301「除外」178件の延長(産業・医療品等)該当HTSは除外リスト明細参照USTR発表/報道。(United States Trade Representative)
2025-04-05/09(参考)運用中IEEPAに基づく「相互関税」9903.01.34のCBP実務:米国起源価額20%以上は米国分を非課税計算。申告行分割の要件HTS 9903.01.34(相互関税)CBPガイダンスFAQ。(U.S. Customs and Border Protection)

補足メモ

  • ニカラグア措置は「CAFTA-DR非原産」のみ追加関税対象。CAFTA-DR原産は新設関税の適用外だが、相互関税18%(IEEPA)やMFNが別途乗る点に留意。サプライチェーン設計では、原産地判定と相互関税の“積み上げ”を前提にシミュレーションが必要です。(United States Trade Representative)
  • 申告実務では、相互関税の課税ベースは「米国起源価額を除く非米国分」。エントリーを米国分と非米国分で2行に分けるCBP運用が明示。(U.S. Customs and Border Protection)