BMS分類:米国とEUで異なる本質判断の兆しを深掘りする

要点

  1. BMSは「電池の一部として扱われやすい領域」と「制御機器として扱われやすい領域」の境界にあるため、HS分類の揺れが起きやすい部品・ユニットです。
  2. HSの一般解釈規則では、複合品やセット品で迷うとき「本質的特性(essential character)」で分類する考え方が明示されています。米国もEUも、この枠組みを前提に運用しています。 (世界税関機構)
  3. 米国CBPは、セルと管理用基板等を一体化したBMSを、付属要素が電池機能を支える範囲であれば蓄電池(見出し8507)として扱う判断を示しています。 (CustomsMobile)
  4. EU側でも、BMSや車載通信インターフェースを備えた蓄電池を8507として整理する例が確認できます。 (EUR-Lex)
  5. ただし、DC-DC変換や充電制御など「電力変換・給電機能」が前面に出ると、米国では8504(静止形変換器)との境界論点が立ち上がりやすく、EU側の整理と結果がずれるリスクが増えます。 (rulings.cbp.gov)

1. そもそもBMSは何を指すのか:分類を難しくする2つの顔

BMS(Battery Management System)は一般に、リチウムイオン電池などの状態監視、セルバランス、過充電・過放電保護、温度監視、異常時遮断、通信(CAN等)を担う仕組みを指します。実務上は、同じ「BMS」という呼び名でも、通関上の姿が大きく2つに分かれます。

1-1. 電池パック内蔵型BMS

セル(あるいはモジュール)に、保護・監視の基板、ハーネス、筐体などが一体化したものです。輸入形態としては「電池パック」に近く、電池としての提示性が強いのが特徴です。

1-2. 制御ユニット型BMS

セルを含まず、制御基板や制御ボックス単体、あるいは電力変換機能も併せ持つ形で取引されるものです。こちらは「電池そのもの」ではなく「制御機器」「電力変換機器」と見なされる余地が出ます。

この2つが混在すると、社内の品名・仕様書・カタログの書き方が揺れ、税関側の理解も揺れやすくなります。結果として、同じ製品系列でも国や案件ごとに分類判断が割れる土壌が生まれます。


2. 本質判断とは何か:米国もEUも同じルールを使うが、結論が割れ得る理由

2-1. ルール上の位置づけ

HSの一般解釈規則(General Rules for the Interpretation of the Harmonized System)では、複数の見出しが競合する場合に、段階的に分類を決める考え方が示されています。その中で、複合品やセット品などは、最終的に「本質的特性を与える構成要素」によって分類するという発想が明文化されています。 (世界税関機構)

EUのCombined Nomenclature(CN)も、同様に一般解釈規則を前提に分類する構造です。 (EUR-Lex)

2-2. なぜ同じルールで結論が割れるのか

本質的特性は、数式のように一意に決まるものではありません。欧州司法裁判所(CJEU)の判例では、本質的特性の判断要素が単一ではなく、製品の性質や構成によって総合的に判断され得ることが示されています。 (EUR-Lex)

BMSに当てはめると、次のような争点が生まれます。

  1. 電池としての「蓄える・供給する」が主か
  2. 制御としての「監視・遮断・通信」が主か
  3. さらに電力変換としての「変換して給電する」が主か

どれが主かは、提示形態(何が一体で輸入されるか)、機能の説明、構成部品、製品のマーケティング、技術資料の書き方で印象が変わります。


3. 米国の判断軸:BMSが8507に寄る条件と、寄らない条件

3-1. 8507に寄る典型:電池パックとしての提示性が強い

米国CBPのHQ H155376(2011年)は、複数のリチウムイオンセルに加えて、保護・電力関連の基板(PCBA)と筐体を備えた「BMS」を、電池機能を支える付属要素を含む蓄電池として見出し8507に分類しています。理由付けとして、付属部品が蓄電池の機能(蓄電・供給)に寄与する、または損傷から保護する範囲であれば、電池として扱う方向性が示されています。 (CustomsMobile)

ここでビジネス上重要なのは、BMSを「制御装置」と呼んでいても、輸入形態がセル内蔵の電池パックであれば、電池寄りの整理に強い合理性が出る点です。

3-2. 8504との境界が立つ典型:電力変換・給電機能が前面に出る

一方で米国では、電池に関連する製品でも「変換して給電する」側の性格が強いと、8504(静止形変換器)との比較が生じやすくなります。CBPのCROSS上でも、電子機器を充電するバッテリーパックが8504か8507か、という論点で検討されるタイプの判断が確認できます。 (rulings.cbp.gov)

また、電池とDC-DCコンバータを別物として捉える発想自体は、少なくとも見出しレベルの整理としてCBP文脈に現れます。 (rulings.cbp.gov)

この領域に入ると、BMSの設計変更(例えば昇降圧、充電制御、外部出力の強化)が、分類の前提を崩し得ます。つまり、BMSは「機能が少し増えただけ」で税番の争点が変わる部品です。


4. EUの判断軸:BMS搭載でも8507に留める発想が見えやすい場面

4-1. BMS搭載蓄電池を8507として扱う例

EU側でも、BMSやCAN-busインターフェースを備えたリチウムイオン蓄電池を、CNコード上8507として整理する例が公的文書で確認できます。 (EUR-Lex)

ここから読み取れる実務的含意は、BMSや車載通信が付いていること自体を理由に、直ちに「制御機器」へ寄せるとは限らない、という点です。

4-2. さらに踏み込んだ例:DC-DCコンバータを含む統合バッテリーシステム

EUの関税分類参照情報として、リチウムイオン電池に加えBMS、リレー、低電圧コンバータ(DC/DC)等を含む「統合バッテリーシステム」が8507にぶら下がる記述も確認できます。 (ext-isztar4.mf.gov.pl)

このタイプは、米国側では8507と8504の境界論点を呼び込みやすい構成でもあるため、ここに「米EUで異なる本質判断の兆し」を読み取る余地があります。すなわち、同じ構成要素でも、どこまでを電池の付属要素と見るか、どこからを独立機能と見るかの線引きが、当局実務でズレる可能性があるということです。


5. 兆しをビジネス課題に翻訳する:何が起きるとコストになるのか

本質判断のズレは、単なる「税番が違う」では終わりません。企業側の損益に直結します。

5-1. 関税・追加関税・統計と、価格交渉の前提が崩れる

HSコードは課税だけでなく、通商政策措置の適用入口になり得ます。税番が揺れると、追加関税や規制対象判定、統計分類が揺れ、見積条件や価格交渉の前提が崩れます。

5-2. FTA・原産地・監査対応に波及する

分類は原産地規則(CTC要件や部材管理)と接続します。税番が変わると、特恵適用の成立性が変わり得ます。さらに、事後調査では「当時の判断プロセスを再現できるか」が問われ、説明不能はそのまま追徴・ペナルティリスクになります。

5-3. 設計変更が最も危険なトリガーになる

BMSは設計変更が頻繁です。とくに次の変更は、分類の争点を変えます。

  1. DC/DC変換の追加、強化(昇圧・降圧、外部出力の拡張)
  2. 充電器的機能の内蔵(外部電源を受けて充電制御する要素が強まる)
  3. 車両制御ECU寄りの機能拡張(制御対象が電池保護を超えて車両全体へ広がる)

6. 実務で負けないための具体策:分類を設計図に落とす

ここからは、経営・管理部門でも実装しやすい形に落とします。

6-1. モデル別に「分類ドシエ」を作る

ポイントは、税番の結論ではなく、説明の再現性です。最低限、次をモデル別に揃えます。

  1. 製品の主機能を一文で言い切る(蓄電なのか、制御なのか、変換なのか)
  2. 構成表(セルの有無、基板、リレー、コンバータ、通信I/F、筐体)
  3. ブロック図(電力の流れと信号の流れを分けて示す)
  4. 提示形態の証拠(梱包写真、同梱物一覧、インボイス記載の統一)
  5. 変更履歴(BMS設計変更、部材変更、機能追加の記録)

6-2. 文言を統一する:税関の誤解を先に潰す

社内資料で次が混在すると、当局対応で必ず苦労します。

  1. battery pack と battery module の使い分け
  2. BMSを指す範囲(基板のみか、電池パック全体か)
  3. power management と battery management の使い分け

書類上の主語を「電池」なのか「制御装置」なのかで統一すると、本質判断のブレが減ります。

6-3. 重点国では事前教示をコストとして織り込む

米国はCBPの裁定、EUはBTIを活用することで、争点が割れる型番の不確実性コストを固定化できます。特に「DC/DCを含む統合システム」や「充電機能を内蔵するバッテリーパック」は、議論コストが高くなりやすいので優先順位を上げるべきです。 (rulings.cbp.gov)

6-4. 監査に耐えるKPIを置く

分類は現場任せにすると破綻します。次のようなKPIを置くと、管理が回ります。

  1. 主要型番の分類ドシエ整備率
  2. BMS設計変更時の分類レビュー実施率
  3. 事前教示の取得率(または取得可否判断の記録率)
  4. インボイス品名と社内マスタの一致率

まとめ:BMS分類の本質は「技術」ではなく「境界管理」

BMSは、電池としての整理(8507)と、電力変換(8504)や制御機器寄りの整理がぶつかる境界にあります。米国もEUも本質判断という共通のルールを使いますが、どこまでを電池の付属要素と見て、どこからを独立機能と見るかは、製品仕様と提示形態次第で結論が割れ得ます。 (世界税関機構)

だからこそ、企業側がやるべきことは、税番当てではなく、境界を説明できる証拠設計です。BMSは設計変更のたびに境界が動く部品です。最初から分類ドシエと事前教示を前提に、調達・設計・通関・法務を接続するほど、長期の総コストは下がります。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の取引や製品についての法的助言、通関助言、または税関当局に対する分類判断の保証を行うものではありません。最終的な品目分類は、輸入国・輸出国の法令、提示形態、製品仕様、および当局判断により変わり得ます。実際の申告や意思決定にあたっては、必ず最新の公式情報を確認し、必要に応じて当該国の専門家への相談や事前教示制度の利用をご検討ください。

中国貿易の新常識。化学品スペックに連動する13桁CIQコードの刷新とその対策

2026年2月10日現在、中国向けの化学品貿易において、実務上の大きな転換点が訪れています。中国海関(税関)が、従来の10桁のHSコードに付加される3桁のCIQ(検査検疫)コード、合わせて13桁の分類基準を「化学品の具体的スペック」に強く依存する形式へと刷新しました。

これは、2026年5月1日に施行を控える新「危険化学品安全法」を見据えた動きであり、単なる事務的な変更にとどまりません。本記事では、この刷新がビジネスに与える影響と、日本企業がとるべき対策を専門家の視点で解説します。


13桁コードの構造。HSコードの先に待つ中国独自の規制

中国で輸入申告を行う際、世界共通の6桁および中国国内の細分を含む10桁のHSコードに加えて、3桁の「海関統計品目番号付加コード(CIQコード)」を組み合わせた計13桁での申告が義務付けられています。

刷新されたシステムでは、この最後の3桁が、化学品の純度、物理的状態、含有成分、あるいは用途といった具体的なスペックと密接に連動するようになりました。


スペック依存が加速する背景。2026年5月の新法施行

今回の刷新の背景には、中国における危険化学品管理のデジタル化と高度化があります。2026年5月に施行される新法では、危険化学品の生産から輸入、使用、輸送に至る全ライフサイクルをリアルタイムで監視するシステムの構築が命じられています。

13桁のコードは、この監視システムにおけるキーデータとして機能します。海関は、申告されたコードに基づいて、その化学品が自動制御システムの対象か、あるいは特別な保管基準が必要な「高毒性化学品」に該当するかを即座に判定します。


企業が直面する三つの大きな壁

この刷新により、日本の輸出企業や現地法人は以下のような課題に直面しています。

1. SDS(安全データシート)との厳格な整合性

刷新後のシステムでは、申告された13桁コードと、提出されたSDSの内容がAIによって自動照合されます。例えば、成分比率のわずかな差異でコードが変動する場合、書類上の矛盾が即座に検知され、通関停止や罰金の対象となります。

2. 中国独自の危険化学品カタログへの対応

中国政府は定期的に「危険化学品目録」を更新しており、2026年には新たに5つの化学品が追加される提案もなされています。13桁コードの選択には、これらの最新カタログ上のCAS番号や危険特性を正確に把握していることが前提となります。

3. トレーサビリティ情報の提出義務

刷新されたプロセスでは、一部の化学品について「一企業一製品一QRコード」による管理が強化されています。13桁コードを決定する際、その製品がどの工場で生産され、どのような技術基準を満たしているかという詳細な属性情報の紐付けが求められます。


日本企業がとるべき実務上のアクション

この「スペック依存型」の通関体制に対応するためには、以下の三つの対策が不可欠です。

化学品情報のデジタル一元管理

製品の純度、成分、物理的特性といったスペック情報をデジタル化し、通関担当者が最新のSDSやCIQコード表と即座に照合できる環境を整えてください。手動での確認では、頻繁に更新される中国の規制に追いつけず、申告ミスを招くリスクが高まります。

現地代理人との連携強化

中国国内の輸入ライセンス保持者や通関業者に対し、自社製品が新システムのどのスペック区分に該当するかを事前に確認してください。特に、2026年からの新税率スケジュールでは、先端材料に関連する関税引き下げも含まれており、正しいコード選択がコスト削減にも直結します。

コンプライアンス監査の実施

過去に「その他」の分類で通関できていた製品が、今回の刷新によって特定のスペック区分に強制的に割り振られる可能性があります。自社の主要製品について、現在の13桁コードが新基準に適合しているかを再点検する内部監査の実施を推奨します。


まとめ

中国のCIQコード刷新は、貿易実務における情報の透明性を極限まで高めるものです。もはや曖昧な分類は通用せず、化学品一つひとつのスペックを正確にデジタルデータとして提示できるかどうかが、通関の成否を分けます。2026年5月の新法施行に向けて、情報の精査とシステムのアップデートを急いでください。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

EUで「電子機能付き繊維製品」を分類するときの本質的性質判定

スマートテキスタイルの品目分類を、再現性のある判断プロセスに落とし込む

はじめに

電熱ベッドパッド、発光する衣類、センサー内蔵ウェアなど、繊維の中に電気や電子の機能が入った製品は、ビジネス上の魅力が大きい一方で、EUの品目分類では判断が難しくなりがちです。

特に現場で揉めやすいのが「本質的性質(essential character)」の見立てです。ここを誤ると、関税率の違いだけでなく、輸入時に求められる手続や要件の見落としにつながり、監査や事後調査のリスクが跳ね上がります。EUでも、品目分類が関税や関連要件を左右することが明確に示されています。 (Taxation and Customs Union)

本記事では、EUの公式情報と裁判例、分類規則を軸に、電子機能付き繊維製品の「本質的性質」判定を、実務で使える形に深掘りします。


EUの品目分類の土台

1) EUはCNを使い、CNはHSを土台にしている

EUの品目分類は「Combined Nomenclature(CN)」を使います。CNは、共通関税や域外貿易統計などのための分類ツールで、WCOのHSをベースにEU独自の細分を加えたものです。 (Taxation and Customs Union)

またCNは毎年更新されます。テクノロジーの進化が速い領域ほど、過去の前提で固定してしまわない運用が重要です。 (Taxation and Customs Union)

2) 判断は「見た目と構造などの客観的特徴」が最優先

EU司法裁判所(CJEU)の一貫した考え方として、品目分類の決め手は、一般に「関連する見出しの文言や注で定義される客観的特徴と性質」に求める、という原則があります。 (EUR-Lex)

ここでいう客観的特徴とは、例えば次のようなものです。

  • 物理的構造、素材、構成部品
  • 機能と、その機能が発現する仕組み
  • 電源や制御部が一体か、外付けか、着脱式か
  • 使用方法、取扱説明書に沿った使われ方

広告コピーやブランドストーリーは参考になっても、客観的特徴を上書きする決定打にはなりにくい、という前提で整理しておくとブレが減ります。

3) 解説資料は重要だが、法的拘束力は別

CNの解説資料(Explanatory notes)は、範囲の理解に役立ちますが、EU側でも「法的に拘束力はない」とされています。 (Taxation and Customs Union)
一方でCJEUも、HSやCNの解説資料は拘束力こそないが、統一的運用のための有用な解釈補助になり得る、と整理しています。 (EUR-Lex)

つまり実務では、解説資料は使う。ただし、法令本文や注、そして裁判例との整合を崩さない、という使い方が安全です。


本質的性質とは何か

1) Rule 3(b) が出てくる場面

電子機能付き繊維製品では、繊維と電子部品が同居します。その結果、複数の見出しに該当し得る状態になります。

このとき、HSの一般解釈規則(General Rules)では、複数分類候補がある場合にRule 3で順位付けしていき、Rule 3(a)で決まらない場合はRule 3(b)で「本質的性質を与える材料または構成要素」によって分類します。 (EUR-Lex)

2) 本質的性質を決める要因は、製品タイプで変わる

CJEUが引用するHSの解説では、本質的性質を決める要因は製品により異なり、例として次が挙げられます。

  • 材料や構成要素の性質
  • かさ、数量、重量、価値
  • 製品の使用に対する構成要素の役割 (EUR-Lex)

電子機能付き繊維製品に当てはめると、単に電子部品が入っているだけでは足りず、電子部品が「使い方を支配しているか」が中心テーマになります。

3) 実務で効く考え方

CJEUは、どの材料が本質的性質を与えるかを見極めるための考え方として、構成要素の一方を取り除いた場合でも、製品が特徴的な性質を保持するかを検討するアプローチを示しています。 (EUR-Lex)

電子機能付き繊維製品の現場では、次の問いに言い換えると判断が整理されます。

  • 電子機能がなくても、これは依然として繊維製品として成立するか
  • 繊維部分がなくなると、電子部分は独立の装置として成立するか
  • 使用者は何のために買い、何のために使うのか
  • その目的達成を決定的に支えているのはどちらか

まず最初に切り分けるべき3分類

本質的性質の議論に入る前に、そもそも「一体の複合品」なのか「セット」なのか「単なる同梱」なのかを確定させる必要があります。ここを誤ると、後工程の議論が全部ずれます。

1) セットかどうか

EUの分類規則では、同梱されている複数の品が常にセット扱いになるわけではありません。

例えば、ランニングベストとソフトフラスク2本を一緒に小売販売する形態でも、用途や活動が同一とは言えないなどの理由で、セットではなく個別分類とされた例があります。 (EUR-Lex)

電子機能付き繊維製品でも同様に、衣類と電子機器を同梱しているだけの場合、セット扱いを前提にせず、個別分類の可能性から検討するのが安全です。

2) 複合品かどうか

一体化して実質的に分離できない構造かどうかは重要です。
EUの分類規則でも、構成要素が結合され「実質的に分離できない一体のもの」として示されるケースがあります。 (EUR-Lex)

電子機能付き繊維製品では、例えば次が論点になりやすいです。

  • 電熱線やセンサーが縫い込まれていて、通常の使用を想定すると分離できない
  • 制御部や電源がポケットに収まるが、配線は一体化している
  • バッテリーだけが着脱式で、衣類側は電子部材を内蔵している

3) 法令上の除外規定が先に決着をつけることもある

電子要素があるからといって、必ずしもChapter 85(電気機器類)に行くとは限りません。
後述する事例では、電気加熱ユニットを内蔵する繊維製品であっても、Chapter 85の注記で対象外とされ、繊維側で分類されました。 (EUR-Lex)

このタイプは、本質的性質の比較衡量に入る前に、注記で勝負がついている典型です。


電子機能付き繊維製品の本質的性質判定

実務で使える5つの評価軸

以下は、EUの考え方(Rule 3(b) とその解説、裁判例の整理)に沿って、現場で再現可能な形に落とし込んだ評価軸です。 (EUR-Lex)

評価軸1 製品の主要な使用目的を支配するのはどちらか

本質的性質の最重要ポイントは、使用目的に対する役割です。 (EUR-Lex)

例として、同じ「衣類」でも次のように分かれます。

  • 繊維が主で、電子は付加価値
    安全性向上のための小さな発光や反射、識別タグなど
  • 電子が主で、繊維は保持体
    センサーが主役で、繊維は装着性や位置決めのためのキャリアに近い

この判断は、製品仕様書と取扱説明書に基づき、購入目的と使用時の行為を具体化するとブレが減ります。

評価軸2 電子機能を外したときに「商品として成立」するか

CJEUの考え方を実務向けに言い換えると、構成要素を外しても特徴が残るか、という検討が効きます。 (EUR-Lex)

  • 電子を外しても、衣類として普通に着られる
    繊維側が本質的性質を与える方向に傾きやすい
  • 繊維を外すと、電子は用途を失う
    繊維が単なるキャリアである可能性が高いが、逆に「電子単体でも機器として成立」するなら電子側が主になり得る

評価軸3 かさ、重量、価値のバランス

Rule 3(b) の解説では、かさ、重量、価値が要因になり得るとされています。 (EUR-Lex)

ただし注意点があります。価値が高いから必ず本質的性質、とはなりません。例えば、装飾品の中に電気部材が入っていても、照明効果が付随的なら、装飾品側が本質的性質と判断され得ます。 (EUR-Lex)

数値は重要ですが、最後は「役割」の説明で締めるのがEU流です。

評価軸4 一体化の度合いと、通常使用での分離可能性

分解できるかどうかは、セットか複合品かの入口だけでなく、本質的性質の見立てにも影響します。 (EUR-Lex)

  • 縫込みやラミネートで一体化している
    複合品としての議論になりやすい
  • バッテリーのみ着脱、制御部も衣類と不可分
    電子機能が製品設計の中核に入っていることの裏付けになりやすい
  • 電子モジュール一式が簡単に取り外せ、衣類は汎用衣類として成立
    衣類側の独立性が強まりやすい

評価軸5 説明責任に耐える証拠が揃っているか

EUの原則は、客観的特徴で決める、です。 (EUR-Lex)
したがって、本質的性質の結論に至る道筋を、客観的資料で再現できる状態にしておくことが実務上の勝ち筋です。


公式事例で読む「判断の癖」

ここでは、EU官報の分類規則に掲載された事例を使い、電子機能付き繊維製品に応用できるポイントを抽出します。

事例1 電気加熱ユニット内蔵の繊維製品でも、繊維で分類される

電気加熱ユニットと温度調整スイッチを備える「電熱ベッド用の下敷きに近い繊維製品」について、EUはChapter 85の電気機器としては扱わず、繊維側(CN 6307)で分類しました。理由の柱は次の通りです。

  • Chapter 85は、電気で温める毛布やベッドパッドなどを対象外としている
  • いくつかの繊維見出しも検討したうえで、最終的に6307が妥当 (EUR-Lex)

学びは明確です。
電子機能がある場合でも、まず注記で「そもそも電気側に入れない」ことがあり得ます。分類検討の初期に、セクション注や章注を必ず確認する、という手順がリスクを大きく下げます。 (EUR-Lex)

事例2 電気部材が入っていても、本質的性質が装飾側に残るケース

人工の桜の枝に小さな電球チェーンと変圧器が一体化した複合品について、EUはRule 3(b) を使い、本質的性質は装飾用の人工花(枝)が与えると判断しました。照明は主目的ではなく、装飾効果を高める付随的なもの、と整理されています。 (EUR-Lex)

電子機能付き繊維製品への応用としては、例えば次のような示唆になります。

  • 発光や電子表示があっても、主目的が衣類の着用や外観であり、電子が付随に留まるなら、繊維側が本質的性質になり得る
  • 逆に、電子機能が使用目的を支配している場合は、この論法では守れない

事例3 同梱でもセットにならず、個別分類になる

ランニングベストと飲料用ソフトフラスクを同梱した商品が、セットではなく、各品を個別に分類すべきとされた例があります。理由は、同一の特定ニーズや特定活動を満たすための組合せとは言いにくい、などです。 (EUR-Lex)

スマートテキスタイルの文脈では、例えば次が該当し得ます。

  • 衣類とアプリ連携デバイスを同梱しているが、衣類もデバイスも単独使用できる
  • 交換用モジュールやアクセサリを同梱しているが、用途の一体性が弱い

先に「セット認定」を外しておくと、本質的性質の議論を必要な範囲に限定できます。


社内判断を強くするための証拠パッケージ

本質的性質の結論は、結論そのものより「説明の筋」が問われます。そこで、次の資料を最初から揃えておくと、説明が崩れにくくなります。

推奨資料

  1. 製品仕様書
    電子機能の内容、出力、制御方法、電源方式、部材の配置
  2. 部品表と構成図
    繊維と電子の関係が一体か、モジュールか、着脱式か
  3. 重量と原価の内訳
    Rule 3(b) の評価軸である重量や価値の根拠になる (EUR-Lex)
  4. 取扱説明書
    想定用途と使用方法を客観化できる
  5. 写真とサンプル
    客観的特徴の確認がしやすい

説明文の型

社内メモや税関照会用の説明は、次の順で組み立てると説得力が上がります。

  • 製品の客観的特徴の確定
  • 該当し得る見出しの洗い出し
  • セクション注、章注での除外や優先の確認
  • それでも複数候補が残る場合にRule 3で整理
  • Rule 3(b) を使うなら、役割、重量、価値などの根拠を示し、本質的性質の結論を導く (EUR-Lex)

迷ったらBTIでリスクを閉じる

本質的性質判定は、社内の最適解を作れても、当局と一致するとは限りません。EUでは、品目分類について法的な判断を得る仕組みとしてBTI(Binding Tariff Information)があります。

BTIの要点

  • EU加盟国税関が出す、特定製品の品目分類に関する法的決定
  • 原則としてEU域内で通用し、一般に3年間有効 (Taxation and Customs Union)
  • 有効なBTIは公開データベース(EBTI)で参照できる (Taxation and Customs Union)

またBTIは、CN変更や欧州委員会による分類措置、CJEU判決などを契機に失効や撤回が起こり得ます。運用では、BTI取得後もウォッチが必要です。 (Taxation and Customs Union)

申請実務の観点では、欧州委員会がBTIプロセスに関する行政ガイダンスを公表しており、申請情報の正確性や、写真やサンプルを含む詳細記述の重要性が明確にされています。 (Taxation and Customs Union)


まとめ

電子機能付き繊維製品の分類は、繊維か電子か、という二択では終わりません。EUの考え方に沿って実務を安定させる鍵は、次の3点です。

  1. 注記を最初に確認し、電子側に行けない類型があることを前提にする
  2. セットか複合品か同梱かを先に確定し、本質的性質の議論を必要な範囲に絞る
  3. Rule 3(b) の評価軸で、役割を中心に、重量や価値などの客観的根拠をセットで説明できるようにする (EUR-Lex)

このプロセスを社内標準にすると、担当者の経験差によるブレが減り、税関対応も一段と強くなります。


免責事項

本記事は、EUの公表資料や裁判例等に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の製品に対する法的助言、関税分類の最終判断、税関手続の保証を行うものではありません。実際の分類は、個別製品の客観的特徴、契約形態、構成、使用方法、適用される注記や当局解釈により結論が変わり得ます。個別案件は、EU加盟国税関への照会、BTIの取得、または通関・貿易専門家への相談を行ってください。

電動自転車・ドローン分類の最新判断動向

本稿では、ビジネス担当者が押さえるべき「最近の判断の方向性」と「判断を再現できる情報の持ち方」を、電動自転車とドローンに分けて整理します。


EUの通商情報でも、2022年1月からの関税分類改正として「8806 Unmanned aircraft(drones)」「8807 Parts」が明示されています。 (EUトレード)
英国の分類ガイダンスも、ドローンは見出し8806、部品は見出し8807という整理を明確に示しています。 (GOV.UK)

同じ英国ガイダンスでは、ドローンに使う映像撮影・記録用の装置(単体)は見出し8525、玩具としての飛行玩具は見出し9503と整理されています。 (GOV.UK)
つまり近年の実務トレンドは、ドローン本体は8806へ寄せつつ、周辺機器や用途が別見出しに分岐する構造になっています。

米国の産業貿易局(ITA)の説明では、8806の下で最大離陸重量などにより細分される構造が示されています。ドローン分類は、外観や通称よりも、最大離陸重量、飛行制御の前提、運搬設計の有無といった仕様データが、判断の中核になりやすい状況です。 (トレード.gov)


米国CBPの裁定では、電動自転車が「補助原動機付きの自転車」として8711.60に分類される例が示されています。 (CROSS)
EU側でも、e-bikeはHS見出し8711.60として扱われる前提で、非特恵原産地の判断ルールが自転車と整合するよう調整された旨が示されています。 (Taxation and Customs Union)

英国ガイダンスでは、未完成品でも、フレームとフォーク、電動モーター、加えて一定の主要部品がそろう場合に、完成品として扱い得る考え方が示されています。また、モーターが欠ける場合は自転車(8712)になり得る旨も明記されています。 (GOV.UK)
さらに、フィンランド税関の案内では、同時提示される部品が実質的に完成品または未完成品を構成する場合、見出し8712または8711.60として扱われ得る旨が示されています。 (Tulli)

この流れは、企業実務に直結します。完成品のHSを理解していても、部材一式の輸入、分割梱包、キット販売、委託組立の形態次第で、分類の見立てと説明責任が変わるためです。

米国CBPの例では、電動自転車のコンバージョンキットが見出し8714(部分品)に分類される判断が示されています。 (CROSS)
電動化が進むほど、完成品・部分品・組立用セットの境界が実務の争点になりやすく、ここが最新動向の中心です。


EUの2022年改正の説明でも、8806と8807がセットで示されています。 (EUトレード)
英国ガイダンスも同様に、ドローンは8806、部品は8807と明示しています。 (GOV.UK)

英国ガイダンスでは、カメラ等を搭載していてもドローンは8806と整理され、カメラ等の装置が単体で輸入される場合は8525という切り分けが示されています。 (GOV.UK)
企業としては、セット輸入・同梱・別送の設計が、分類と説明の難易度を左右します。

玩具としての飛行玩具は9503とされるため、軽量機体や遊戯目的の設計は、仕様説明と販促資料の書き方次第で判断が揺れる領域です。 (GOV.UK)
ここは通関時だけでなく、社内カタログ、用途説明、取扱説明書の記載が「分類根拠」の一部として参照され得る点に注意が必要です。


・駆動方式(ペダル補助か、スロットル主体か)
・モーターの種類と定格、搭載位置
・最高速度、車体重量、用途(公道、私有地、物流等)
・完成品か、未完成品か、分割出荷か(同時提示かどうか)
・キット販売の場合、構成品一覧と「完成車になる度合い」
未完成品や部材一式の扱いは、各国ガイダンスで完成品相当になり得る枠組みが示されているため、出荷形態の設計段階で分類説明を作っておくことが有効です。 (GOV.UK)

・最大離陸重量(重量区分は細分の起点になりやすい) (トレード.gov)
・運搬設計の有無(人や貨物の運搬を目的とする設計か)
・機体と周辺機器の輸入形態(同梱、別送、単体)
・搭載機器が単体輸入される場合の機能説明(映像撮影装置など) (GOV.UK)
・玩具としての設計かどうかを示す資料(用途、対象年齢、販促表現) (GOV.UK)


ドローンのようにHS改正で専用見出しが立つと、企業側は分類の一貫性を高めやすくなる一方、周辺機器やセット輸入の設計で説明責任が増します。電動自転車も同様に、完成品・未完成品・キット・部分品の境界で判断が動くため、結論だけをマスタに入れて終わりにすると、次の監査や問い合わせで止まります。

おすすめは次の2点です。

  1. 品目マスタに、分類根拠の要約(仕様の要点、判断の分岐点、参照した公式根拠)を同時に残す
  2. 分割出荷、キット、同梱設計など、物流設計が変わる製品は、出荷パターン別に分類ストーリーを持つ

これにより、HS2028への移行時も、相関表でコードを置き換えるだけでなく、どの仕様が分類を支えているかを起点に、再判定が必要な品目を先に抽出できます。


本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件に対する法的助言または税務・通関助言ではありません。実際のHS分類や申告は、対象品目の仕様、用途、輸入形態、同梱関係、各国法令および税関当局の運用により結論が異なり得ます。必要に応じて、通関業者、弁護士、関税・貿易の専門家への相談、または関係当局への事前教示の申請等をご検討ください。

AI分類は効率化の特効薬か、それともリスクの火種か。CBPの新指針が突きつける「人間の責任」

2026年2月9日 | 米国貿易・コンプライアンス戦略


貿易DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中、米国税関・国境警備局(CBP)は、AIを活用した物品分類(HSコード特定)支援ツールの適正利用に関する重要なガイドラインを提示しています。

この動きは、CBPが進める2024年から2028会計年度に向けたIT戦略の一環であり、AIを経済的繁栄を促進する「資産」と位置づける一方で、その運用には厳格なガバナンスを求めるものです。ビジネスの現場でAIツールの導入を検討している企業にとって、この指針は単なる「技術的なアドバイス」ではなく、法的なリスク管理における「必須要件」となります。

本稿では、HSコードの専門家の視点から、CBPが示した新指針の本質と、企業が直面する実務上の課題を深掘りします。

テクノロジーは進化しても「合理的な注意」は譲れない

米国関税法において、輸入者は「合理的な注意(Reasonable Care)」を払って正確な申告を行う法的義務を負っています。CBPが示したAI活用に関する基本的スタンスは、この原則をデジタル時代に合わせて再定義したものです。

AIは補助であり、判断の主体は人間である

CBPは、AIを職員の業務を支援するツールとして位置づけており、法執行アクションや利益の拒否に関する最終的な判断をAIの出力のみに基づいて行うことはありません。このスタンスは民間企業に対しても同様に求められています。

AIツールが提示したHSコードが誤っていた場合、企業が「AIがそう言ったから」という理由で責任を免れることはできません。AIはあくまで効率化のための補助手段であり、その出力を精査し、最終的な妥当性を保証するのは「人間の専門家」であるという点が強調されています。

2024年から2028年のIT戦略が目指す「データ駆動型」の国境管理

CBPが2024年に発表した最新のIT戦略(FY2024-2028)は、データの力で国境を管理し、合法的な貿易を加速させることを目標としています。

ガバナンスの強化:ディレクティブ 1450-030の役割

AIの安全な導入を推進するため、CBPはディレクティブ(通達)1450-030を発出し、AIの運用とガバナンスに関する具体的な要件を定義しました。この指針は、AIモデルの開発から運用、報告に至るまでのサイクル全体に「説明責任」を求めています。

企業が自社の通関システムにAIを組み込む際、CBPは以下の4つの機能を備えたリスク管理フレームワーク(NIST準拠)の活用を推奨しています。

  • ガバナンス(Govern):AI利用のルールと責任を明確にする
  • マッピング(Map):AIが使用される文脈とリスクプロファイルを理解する
  • 測定(Measure):AIの性能とリスクを定期的に分析・追跡する
  • 管理(Manage):特定されたリスクに対して優先順位をつけ、コントロールを維持する

企業が取るべき3つの実務的アクション

CBPの新指針に対応し、コンプライアンスと効率化を両立させるためには、以下のステップが不可欠です。

1. ヒューマン・イン・ザ・ループの構築

AIが判定したHSコードに対し、必ず人間の通関士や専門家がレビューを行う「人間介在型(Human-in-the-loop)」のプロセスを業務フローに組み込んでください。特に、高額な関税がかかる品目や、反ダンピング税等の規制対象品目については、AIの判定を鵜呑みにすることは極めて危険です。

2. AI判定の「根拠」を記録する

将来の事後調査(監査)に備え、なぜそのHSコードを選択したのかという「根拠」を記録・保存する体制を整えてください。CBPは透明性を重視しており、AIのアルゴリズムが不明瞭なブラックボックス状態での申告は、合理的な注意を欠いているとみなされるリスクがあります。

3. サプライヤーとのデータ連携を強化する

正確なAI分類には、高精度な製品マスターデータが欠かせません。製品の材質、機能、用途といった詳細な情報をサプライヤーからデジタルデータとして受け取り、AIの学習や判定の精度を高めるための「データ・ガバナンス」を強化してください。

まとめ:デジタル国境を越えるための「信頼の設計」

CBPのAI指針は、決してテクノロジーの活用を否定するものではありません。むしろ、AIのスピードと分析力を活用して「脅威」を迅速に検知し、合法的な貿易を加速させることを奨励しています。

しかし、その恩恵を享受するためには、企業側に「技術をコントロールし、結果に責任を持つ」という成熟した管理体制が求められます。2026年以降、AIは通関の現場で当たり前の存在となりますが、その背後にある人間のプロフェッショナリズムこそが、貿易コンプライアンスの最後の砦となるのです。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。


欧州物流の新たな関所。ICS2フェーズ3「2026年2月3日」完全義務化がもたらす衝撃

2026年2月8日 | 欧州物流・通関規制 | 読了目安:5分


2026年2月3日、欧州連合(EU)の輸入管理システム「ICS2(Import Control System 2)」のフェーズ3(リリース3)における重要な技術的移行期限が到来しました。

これは、EU域内に運び込まれるすべての海上、道路、鉄道貨物に対して、セキュリティ情報の事前申告を義務付ける新しいルールの「完全適用」が開始されたことを意味します。これまで一部認められていた古いメッセージ形式や暫定的な運用が終了し、厳格な運用フェーズへと突入しました。

本記事では、この「2月3日の壁」を越えて、日本企業が欧州との物流を維持するために不可欠な対応策について深掘り解説します。

なぜ「2月3日」が分水嶺だったのか

ICS2は、テロ対策や不正物品の流入阻止を目的とした、EUの新しい税関セキュリティプログラムです。航空貨物(フェーズ1、2)ですでに先行導入されていましたが、今回のフェーズ3は、物流の大動脈である「海上輸送」、および「道路・鉄道輸送」を対象としています。

2026年2月3日は、これら陸・海ルートにおける事前申告(ENS:Entry Summary Declaration)のデータ形式に関し、古いバージョン(v2など)の使用が完全に停止され、新しい「v3メッセージ」への完全移行が義務付けられた技術的な締め切り日でした。

これ以降、古いシステム形式で送信されたデータはEU税関のシステムで拒絶されることになり、実質的な「輸入不許可」と同じ扱いを受けます。もはや「知らなかった」や「システム改修が間に合わない」という言い訳が通用しない段階に入ったのです。

求められるデータ精度の劇的向上

この完全義務化により、企業が提出すべきデータ要件は極めて厳格になりました。特に以下の3点は、不備があれば即座に物流停止につながる重要な要素です。

HSコード(6桁)の完全一致

これまでは品名(Description)の記述だけで通関できたケースもありましたが、ICS2では「最低6桁のHSコード」の入力が必須です。しかも、そのコードはEUの関税分類(TARIC)と整合性が取れていなければなりません。曖昧なコードや誤ったコードは、AIによるリスク分析で弾かれる対象となります。

EORI番号による取引先特定

輸出者だけでなく、輸入者(EU側のバイヤー)や通知先(Notify Party)についても、EUの事業者登録番号である「EORI番号」の正確な記載が求められます。住所や社名だけでは不十分であり、有効なEORI番号がない取引先への出荷は、申告エラーとなります。

サプライチェーンの可視化

誰が売り、誰が買い、どこの倉庫を経由したか。ICS2は商流と物流の完全なリンクを要求します。フォワーダー任せにしていた「ハウスB/L(House Bill of Lading)」レベルの詳細情報も、船積み前に申告しなければなりません。

日本企業が直面する3つのリスク

2月3日以降、対応が不十分な企業は以下のリスクに直面しています。

船積み不可(Do Not Load)の指令

ICS2の最大の特徴は、積載前のリスク評価です。申告データに不備がある場合、あるいはセキュリティリスクありと判断された場合、出発地の港(日本やアジアの港)で「船積み禁止(Do Not Load)」の命令が下されます。貨物は欧州に向けて出港することすらできません。

税関検査による大幅な遅延

データは送信できたとしても、内容に疑義がある場合、EU到着後に「情報の追加要求(RFI)」や「物理的な検査(Do Not Unload)」の対象となります。これにより、数日から数週間の納期遅延が発生し、ジャストインタイムの製造ラインや販売計画に甚大な影響を与えます。

制裁とコンプライアンス違反

不正確な申告を繰り返す事業者は、EU税関のリスクプロファイルで「高リスク」と認定され、将来的なすべての貨物が検査対象となる可能性があります。また、加盟国によっては罰金が科されるケースも出てきます。

まとめ:今すぐ点検すべきアクション

「2026年2月3日」は過ぎ去りましたが、混乱はこれからが本番です。日本企業の物流担当者は、直ちに以下の点検を行ってください。

まずは、利用しているフォワーダーに対し、自社の貨物がICS2の要件を満たして正常に申告されているか確認することです。特に、「ハウスB/LレベルでのHSコード提出」が確実に行われているかどうかが肝要です。

次に、マスターデータの整備です。EU向け製品のHSコードが最新の2022年版(または2027年以降の改正案)に対応しているか、取引先のEORI番号に変更はないか、定期的な洗い出しが必要です。

ICS2は「デジタルな国境」です。物理的な距離に関わらず、データが国境を越えられなければ、モノも国境を越えられません。この厳格な現実を直視し、高精度なデータ管理体制を構築した企業だけが、欧州市場での信頼とシェアを守り抜くことができます。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

WCO HS2028相関表をビジネスで使う前に知るべきライセンスと機械アクセスの現実

2028年1月1日に発効予定のHS2028は、通関実務だけでなく、品目マスタ、原産地管理、関税コスト試算、輸出入システム改修にまで影響が及ぶイベントです。WCOは、HS2028改正が受諾された後の実装期間に、相関表の作成や関連ツールの更新などを進め、各国が移行できるよう準備を進めると明記しています。(世界 Customs Organization)

この移行で多くの企業が最初に手を伸ばすのがWCO相関表です。ただし、相関表は便利な一方で、プロジェクトを止めかねない二つの制約があります。

1つ目はライセンス。2つ目は機械アクセス。
この二つを後回しにすると、相関表を入手できても、社内で使い回せない、システムに組み込めない、外部顧客向けサービスに載せられない、という形で詰まります。

以下では、ビジネスマンが意思決定しやすい形で、HS2028相関表の性格と、ライセンスと機械アクセスの論点を掘り下げます。


1. HS2028相関表は「変換表」ではなく「移行の地図」

1-1. そもそもHS2028相関表はいつ必要になるか

WCOは、HS2028改正が受諾された後、2028年1月1日の発効に向けた実装期間で相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
また、HS委員会はHS2022とHS2028の相関表の作成に関する議論を開始し、相関表の形式改善も採択したと公表されています。これは、相関表が実務上の中核ツールになる前提で準備が進んでいることを示唆します。(世界 Customs Organization)

企業目線で言い換えると、相関表は次の二つをつなぐ設計図です。

  • 今の品目マスタや取引データが、HS2028でどこに移るか
  • その移動が、単純な置換か、分割や統合を伴うか

この設計図がない状態でシステム改修を進めると、後工程でマッピングの作り直しが起きやすく、コストも遅延も膨らみます。

1-2. 相関表は「分類決定」ではない

ここで重要なのが、WCOが過去版の相関表について、分類決定そのものではなく、実装を助けるガイドであり法的地位を持たないと明記している点です。(世界 Customs Organization)

ビジネス実務では、相関表をそのまま自動変換ルールにしてしまいがちです。しかし、相関表はあくまで移行を円滑にするための参照であり、個別品目の最終的な分類判断は、各国税関の運用や法令、解釈情報に依存します。相関表はスタート地点であり、ゴールではありません。

1-3. 1対1の置換が少ない理由と、exの読み方

相関表は、次のようなパターンを含みます。

  • 単純な番号変更だが、範囲は同じ
  • 番号は同じだが、範囲が広がる、または狭まる
  • 1つの旧コードが複数の新コードに分割される
  • 複数の旧コードが1つの新コードに統合される

過去版の相関表では、旧版側にexが付くケースは、新版のコードが旧版コードの範囲の一部だけを取ったことを示す、と説明されています。(世界 Customs Organization)
つまり、exが付いた行は、機械的な置換をすると誤分類リスクが高いゾーンです。

経営側が押さえるべきポイントはシンプルです。
相関表が公開されたら、まずは1対1の置換で終わる領域と、要人手判定の領域を切り分け、後者を重点管理する。これが最短ルートです。


2. ライセンスの制約:相関表を使える会社と使えない会社の差はここで決まる

2-1. WCOコンテンツは知的財産として扱われる

WCO Trade Toolsの利用条件では、WCOが出版物等の知的財産権を保有し、無断での複製、配布、改変などを行わない旨が示されています。無償提供の場合も含む、とされています。(WCOTRADE Tools)

ここで誤解が起きやすいのが、次の二つです。

  • 閲覧できる = 自社システムへ複製してよい、ではない
  • 無償で入手できる = 再配布してよい、ではない

実務で問題になりやすいのは、相関表を社内の品目マスタ管理システムに取り込み、関係部署に配布し、さらに社外向けの顧客ポータルにも掲載してしまうケースです。社内だけの利用でも、複製や共有の範囲が広がるほど、契約や規約の確認が必要になります。

2-2. ビジネスで見落としがちなライセンス論点

相関表やHS関連情報の取り扱いでは、次の観点を先に決めておくと、後で詰まりません。

  1. 利用目的
    内部の分類作業、社内教育、顧客向けの検索機能、SaaSへの組み込みなど、目的で必要な権利が変わります。
  2. 利用範囲
    国内拠点だけか、海外子会社や委託先も含むのか。グループ全体での共有を想定するなら、最初から契約設計が必要です。
  3. 再配布の有無
    顧客に配布する、あるいは顧客が閲覧できる画面に表示する場合は、社内利用とは別レベルの論点になります。
  4. データ加工の有無
    相関表を加工して自社独自のマッピング表を作る場合、派生物として扱われ得ます。どこまでが許容されるかは契約条件に依存します。

この判断は法務だけの仕事ではありません。どの部署が、どのシステムで、どのデータを、誰に提供するかという情報設計そのものです。


3. 機械アクセスの制約:PDFをCSVにする前に立ち止まるべき理由

3-1. 人が読むためのアクセスと、システムが読むためのアクセスは別物

WCO Trade ToolsのFAQでは、WCOのコンテンツが書籍等のオフラインだけでなく、オンラインのデータベースや構造化コンテンツ、APIといった形でも提供される旨が示されています。(WCOTRADE Tools)
また、WCO Trade Tools自体は、HS相関表を含む機能を提供すると説明されています。(WCOTRADE Tools)

ここから読み取れる実務上のポイントは次の通りです。

  • 画面で閲覧する前提の提供形態がある
  • 企業システムに組み込む前提の提供形態も用意され得る

つまり、単純にダウンロード資料を社内で加工して取り込むのではなく、正式な機械アクセスの選択肢があり得るということです。

3-2. 公式の統合手段としてのAPIとライセンスオプション

WCO News Magazineの記事では、WCO Trade Toolsの機能を自社アプリやオンラインサービスに組み込むために、APIソリューションやライセンスオプションが用意されている旨が説明されています。(mag.wcoomd.org)
これは、機械アクセスが単なる技術の話ではなく、契約とセットで提供されるビジネス商品であることを意味します。

企業がここで判断すべきなのは、次の分岐です。

  • 少人数が閲覧し、手作業でマッピングを作れる
    画面閲覧中心の運用で足りる可能性が高い
  • 品目点数が多く、定期的に自動チェックや社内連携が必要
    公式の機械アクセス手段を検討したほうが、長期的に安いことがある
  • 顧客向けに検索やマッピング機能を提供したい
    外部提供が前提なので、契約条件の確認が必須

3-3. 技術面の落とし穴は「アクセスできるのに使えない」

WCO Trade Toolsは、インターネット接続さえあれば、主要ブラウザや端末でアクセスできるように設計されていると説明されています。(WCOTRADE Tools)
一方で、これはあくまで人が閲覧する話です。大量データの自動取得やシステムへの恒常的な組み込みは、規約や契約が別建てになる可能性があります。

機械アクセスを曖昧にしたまま進めると、移行プロジェクトの終盤で次の問題が起きます。

  • マッピングは完成したが、社内システムで再現できない
  • 監査対応で、データの出所と権利を説明できない
  • 外部顧客向け機能が、権利面でリリースできない

この手戻りは、IT予算よりも経営信用を削ります。


4. HS2028移行を止めないための実務設計

ここからは、ライセンスと機械アクセスを前提に、相関表をどうプロジェクトに組み込むかを整理します。

4-1. まず、相関表を置く場所を決める

相関表は、単なる資料ではなく、移行プロジェクトの中核データです。置き場所の候補は大きく三つあります。

  1. ExcelやPDFのまま、担当者が参照する
  2. 部門共有のマッピング表として、統制された場所に保存する
  3. マスタ管理システムに取り込み、業務フローに組み込む

2から3へ進むほど、ライセンスと機械アクセスの要件が重くなります。最初から3を目指すなら、契約確認を先に終わらせるのが合理的です。

4-2. データモデルは必ず1対多を許容する

相関表は、旧コードと新コードが必ずしも1対1で対応しないことがあります。複数の対応候補が併記され得ることや、国や地域の運用差で相関が分かれる可能性も、過去版で明示されています。(世界 Customs Organization)

したがって、システム設計では次の形を前提にすると安全です。

  • 旧HSコード
  • 新HSコード
  • 対応関係のタイプ
    例:番号変更、範囲変更、分割、統合、部分移動など
  • 備考や判断根拠の格納欄
  • 版管理
    相関表は更新され得るため、いつの版に基づくかを残す必要があります。(世界 Customs Organization)

4-3. 相関表は更新され得る前提で運用する

過去版の相関表では、相関表が改訂や変更の対象になり得ること、最新版はWCOサイトに掲載されることが明記されています。(世界 Customs Organization)
この性格をそのまま実務に落とすと、次が必須になります。

  • 相関表の取得日と版を記録する
  • 重要品目は、版更新時に差分検知できるようにする
  • 社内マッピング表に、更新プロセスを設ける

これがないと、2027年後半から2028年にかけて、同じ品目が部署ごとに異なる新コードで運用される事故が起きます。


5. まとめ:相関表はデータではなくプロジェクトの起点

HS2028の相関表は、移行を一気に前に進める推進力になります。ただし、相関表の扱いを誤ると、次の二つが同時に起きます。

  • ライセンス面で、配布や組み込みが止まる
  • 機械アクセス面で、運用に載せられず止まる

WCOは、発効に向けた実装期間に相関表の整備を含む準備を進めるとしています。(世界 Customs Organization)
企業側も、相関表を手に入れてから考えるのではなく、入手と同時に使える状態を作ることが、移行コストを最小化する最短ルートです。


ご指定の免責事項の文面がメッセージに含まれていなかったため、一般的な文面を掲載します。必要に応じて差し替えてください。

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引、契約、法令解釈、通関判断に対する助言を構成するものではありません。HSコードの分類、相関表の利用、ライセンスや利用条件の解釈については、必ず最新の公式情報および契約条件を確認のうえ、必要に応じて通関士、税関当局、弁護士等の専門家に相談してください。本記事の内容に基づいて行った行為およびその結果について、筆者および作成者は一切の責任を負いません。

インド向け輸入実務で、HSコードの誤記載が単なる事務ミスとして扱われにくくなっています。

背景にあるのは、海上貨物情報の提出ルールを刷新するSCMTRの運用高度化と、それを支える関税法(Customs Act, 1962)の罰則枠組みです。

インド税関のSCMTR関連文書と関税法条文、税関ゾーンの公示(Public Notice)を確認できます(下記参照)。

・ICEGATE(インド税関EDIポータル)のSCMTR利用者向けアドバイザリにおいて、Arrival Manifest(到着マニフェスト)に8桁HSコードの記載が必須であることが明記されています。
・SCMTR(Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018)自体が、到着・出港マニフェストの提出タイミングを前倒しし、誤りや遅延がある場合の取扱い(修正・補完の許容条件)を規定しています。
・関税法(Customs Act, 1962)第30条は、マニフェスト提出遅延に対する罰金(上限5万ルピー)と、内容が不完全・不正確な場合の補正許容(不正意図なしの場合)を規定しています。
・同法第114AA条は、虚偽または重要事項の不正確な申告・書類利用を「故意に」行った場合、貨物価値の5倍までの罰金を規定しています。
・税関ゾーン単位では、SCMTRの新フォーマット提出を港ごとに段階的に必須化する公示が出ており、実務移行が「運用として」進んでいます(例:Chennai Customs)。

厳格化は、単に「罰金額が上がった」という話に限りません。実務上は次の2層で効いてきます。

SCMTRは、従来のIGMに代わるArrival Manifest等を、最終外国寄港地からの出港前に電子提出する運用へ寄せています。ここでHSコード(少なくとも所定桁数)が必須項目として扱われ、欠落・不整合があると、訂正対応や照会でリードタイムが伸びやすくなります。

関税法第30条は、マニフェストの提出遅延に対して上限5万ルピーの罰金を置きつつ、内容が不正確・不完全でも「不正意図なし」であれば補正を許容する枠組みを持っています。つまり、誤記載が発見されたときに「直ちに罰則」ではなく、「迅速な補正と説明で収束できる余地」が制度上は残っています。

一方で、誤ったHSコードが、関税回避や規制逃れ(輸入規制・認証対象の回避など)と結びつくと、虚偽・重要事項の不正確記載として第114AA条の射程に入り得ます(貨物価値の5倍までの罰金)。

HSコードの誤りは、単発の訂正で終わらず、マスターデータに誤りが残ると同一品番の再出荷で繰り返します。SCMTRのように事前提出が前提になると、港到着後に気づくのではなく、出港前後に差戻しが発生し、輸送計画そのものに影響します。

誤分類による追徴リスクに加え、滞船料・保管料、納期遅延の違約金、緊急輸送への切替コストが膨らみます。加えて、マニフェストの不備は物流事業者側の修正費用や手数料に転嫁されやすく、総コストが見えにくい形で増えます。

制度上、誤りの補正が許容される場合でも、説明が弱いと「なぜそのHSだったのか」「誰が判断したのか」「同種案件がないか」という論点に発展しやすい。ここで社内統制が弱いと、個別ミスが組織的リスクに格上げされます。虚偽・重要事項の不正確記載と評価されると、制裁は急に重くなります。

・誰が最終判断者か(貿易管理、品目分類担当、外部専門家)
・判断根拠(GRI、品目の機能・材質・用途、類似裁定、社内標準)
・インド固有の8桁運用(ITC(HS)相当)の扱い

この3点を最低限ひも付け、監査で再現できる状態にします。

・インボイス品名と梱包明細の品目説明
・HSコード(6桁と8桁)
・マニフェスト/申告データ(Arrival ManifestやBill of Entryに連なる情報)

書類間で品目説明とHSがずれていると、誤記載として見つかりやすくなります。SCMTRはまさにこの整合性を前提に設計されています。

・発見した時点で、補正の可否と必要資料を即判断
・不正意図がないことを示す材料(社内承認記録、仕様書、過去の一貫性)を添付
・補正の根拠として、制度上の補正許容(不正意図なし)を踏まえて説明

関税法第30条およびSCMTRには、不正意図がない不完全・不正確について補正を許容する設計が読み取れます。

SCMTRは段階的に新フォーマット必須化が進みます。例えばChennai Customsでは港ごとに必須化日程が公示されています。自社貨物が入る港とフォワーダーの運用準備がずれていると、誤記載が「訂正の遅れ」へ連鎖しやすくなります。

・主要品目のHSコードは、直近12か月で再検証したか
・HSコードと品目説明の整合を、出荷前に機械的に検知できるか
・誤記載が見つかったとき、補正と説明のテンプレートがあるか
・物流パートナーに渡すHSコードは「単なる情報」ではなく、社内承認済みのものか
・故意と見られないための記録(判断根拠・承認ログ)を保持しているか

・ICEGATE:SCMTR利用者向けアドバイザリ(Arrival Manifestに8桁HS必須の記載あり)
・Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018(SCMTR本体。誤り・遅延時の補正の考え方を含む)
・Customs Act, 1962(第30条:マニフェスト遅延罰と補正、第114AA条:虚偽・重要事項の不正確記載の罰則)
・Chennai Customs:SCMTRの段階的必須化に関するPublic Notice(港別の適用日程)

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

EVバッテリーはなぜ監査で狙われるのか

取引量が伸びているだけではありません。EVバッテリーは、関税と原産地だけでなく、人権・サステナビリティ情報まで一体で問われやすい商材です。

EUでは新しい電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)が2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から全面適用が開始されました。

この規則により、2026年8月18日からは全ての電池にQRコードが義務化され、デジタル情報へのアクセスが制度として組み込まれています。

さらに、2027年2月18日からは、EVバッテリーを含む対象電池にデジタルバッテリーパスポートが義務化されます。

米国では強制労働規制(UFLPA)により、サプライチェーンの証拠提出を前提にした執行が続き、電池やエネルギー関連品目にも波及が意識されています。実際、CBPは電池の輸入に対してUFLPAに基づく留置を実施しており、原材料(リチウムイオンリン酸塩、鉛、銅、PCBAなど)の完全なリストと製造元・原産国の提示を求めています。

この結果、監査の現場は次の3点に収れんします。

  1. HS分類と課税のズレ
  2. 原産地・トレーサビリティ証拠の崩れ
  3. 製品規制・サステナ情報の未整備

以下、監査で実際に刺さりやすい順に深掘りします。

リスク1:HS分類と課税のズレ

監査で見られるポイント

EVバッテリーは、セル、モジュール、パック、BMS同梱、車載一体など形態が多様です。ここで分類が揺れると、適用税率や追加関税、統計・規制要件まで連鎖して崩れます。

実務的には、リチウムイオン電池(セルやバッテリーパック)がHS見出し8507で扱われるケースが多いこと自体は、税関裁定でも繰り返し確認されています。

ありがちな失敗パターン

商品名ベースで分類してしまう

「バッテリーモジュール」「車載用ユニット」などの呼称だけで、構成や機能を十分に裏取りせずに申告。

同一型式でも仕様差分が管理されていない

容量、電圧、保護回路、筐体、同梱品の違いで分類根拠が変わり得るのに、型番マスターが1行で固定されている。

争点が出たときに社内で説明できない

税関の見解が細部で割れることがあり、分類の理由付けを文章で残していないと防戦が苦しい。実際、税関文書でも「見出しは合うが下位区分が争点」という構図は起こり得ます。

守り方

  • 分類ドシエを1型式1枚で作る(写真、断面、構成品一覧、仕様、機能、GRIの当てはめ、代替案の棄却理由)
  • 「セル」「モジュール」「パック」「制御回路同梱」「車両への固定状態」を入力条件として固定し、型番変更時に必ず更新する
  • 輸出入国の税関裁定・注釈を定期的にウォッチし、過去根拠を上書きできる運用にする

リスク2:原産地・トレーサビリティ証拠の崩れ

監査で見られるポイント

EVバッテリーは多国籍BOMになりやすく、原産地の説明は「証明書があるか」では終わりません。どの国で何が加工され、どの部材がどこから来たかを、監査で追跡可能な形で示せるかが勝負です。

さらに米国ではUFLPAに基づき、輸入者に対してデューデリジェンス、サプライチェーンのトレース、証拠の提示を求める枠組みが明確に示されています。CBPは電池の輸入について、原材料の完全なリスト、製造元、原産国、さらに電池生産プロセスのフローチャート(鉱物採掘、スラリー調製、電極コーティングなど)を要求しています。

ありがちな失敗パターン

サプライヤー申告が「自己申告の紙1枚」で止まっている

上流までの工程・鉱物由来の説明がなく、追加照会で詰む。

BOMと物流が一致していない

設計BOMは最新だが、実際の購買先やロットの切替が反映されておらず、監査で齟齬が露呈。

リスクの高い鉱物系の説明が薄い

コバルト、リチウム、ニッケル等は人権・紛争リスクと結びついて見られやすい。国際的にはOECDの「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンス・ガイダンス」が参照されます。

守り方

  • ロット単位で「購買先」「原料由来」「精錬・加工工程」「輸送ルート」を紐づける
  • 取引先監査で聞かれる質問を先に潰す(上流サプライヤー、工程地、第三者監査、裏付けデータの所在)
  • 証拠を階層化する
    • 1次証拠:契約、BOM、製造記録、試験成績、原産地証明・供給者宣誓
    • 2次証拠:監査報告、トレーサビリティ資料、第三者検証
    • 3次証拠:公開情報、業界スキーム、リスク評価

リスク3:製品規制・サステナ情報の未整備

監査で見られるポイント

監査が税関だけで終わらないのが、EVバッテリーの難しさです。EUでは電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)が2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から全面適用が開始されました。

この規則により、バリューチェーンで使う情報を段階的にデジタル化する方向が制度として示されています。

主要なマイルストーン:

  • 2026年8月18日:全ての電池にQRコードが義務化
  • 2027年2月18日:デジタルバッテリーパスポートが、EVバッテリー、軽量輸送手段(LMT)用電池、2kWh超の産業用電池に対して義務化

さらに、電池のデューデリジェンス義務については、EUが適用時期を2年延期し、2027年8月18日まで猶予を設ける「ストップ・ザ・クロック」措置を採っています。

ここで重要なのは、延期は免除ではない点です。監査の質問はむしろ前倒しで来ます。顧客や投資家、取引先監査は「制度開始日」ではなく「準備できているか」を見ます。

ありがちな失敗パターン

データは社内に散在し、提出できる形になっていない

品質、調達、環境、法務でExcelが別々。整合確認に時間がかかり、監査期限に間に合わない。

情報の真正性を証明できない

数値はあるが、算定根拠、版管理、承認履歴がなく、監査側が信じない。

委託先や販売先との役割分担が曖昧

誰がどの情報を作り、誰が市場投入時に責任を負うのかが契約と運用で一致していない。

守り方

  • 規制対応を「データ製造」と捉え、提出物の版管理と承認フローを作る
  • バッテリー単体だけでなく、搭載製品側の表示・添付情報まで含めて責任分界を明確化する
  • 2027年に向け、パスポート相当のデータ項目を先に棚卸しし、欠損を埋める計画に落とす

監査に強い会社がやっている最短ルート

最後に、今日から着手できる現実的な順序をまとめます。

1. 分類ドシエを先に固める

分類が揺れると、原産地も規制対応も揺れます。まず分類根拠を文章化し、型番マスターに紐づけます。

2. BOMを監査用に作り直す

設計BOMではなく、購買実績とロット履歴に繋がる監査BOMにします。

3. 強制労働・人権リスクの証拠を階層化する

一度止められると、提出要求は指数関数的に増えます。最初から「出せる証拠の形」を整えます。米国CBPは、電池について原材料の完全なトレーサビリティと製造プロセスのフローチャートを要求しています。

4. サステナ情報を一元化し、提出可能な形にする

EUの動きは、電池に関する情報開示をバリューチェーンの共通言語にしていく方向です。2026年8月のQRコード義務化、2027年2月のバッテリーパスポート義務化に向けて、猶予のある今が、仕組みを作る最後のボーナスタイムです。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

中国の静かなる貿易障壁。化学品・新材料のHSコード細分化が突きつける「その他」分類の終焉


2026年2月、中国税関総署(GACC)は、輸出入管理の強化を目的として、特定の化学品および新材料に関するHSコード(統計品目番号)の細分化を実施する方針を打ち出しました。

多くの日本企業にとって、中国との化学品貿易はビジネスの生命線です。今回の措置は、単なる事務的なコード変更ではありません。それは、中国政府が戦略物資のフローをより高解像度で監視し始めたことを意味します。

本記事では、HSコードの専門家の視点から、この細分化の背景にある中国の意図と、実務担当者が直面するリスク、そしてとるべき対策について解説します。

「その他」という隠れ蓑が通用しなくなる

まず、今回の措置の技術的な側面を解説します。

貿易実務において、既存の分類に当てはまらない新しい化学物質や複合材料は、便宜上「その他のもの(Others)」と呼ばれるバスケットカテゴリー(末尾が90などのコード)に分類して申告することが一般的でした。企業にとっては、厳密な成分特定を避けられる便利な分類先でもありました。

しかし、中国当局は今回の細分化により、このバスケットカテゴリーを解体しようとしています。

具体的には、これまで一括りにされていた品目に対し、成分の含有率や分子構造、あるいは用途に基づいて、新しい固有の10桁ないしは13桁のコード(CIQコード含む)を割り当てます。これにより、企業は「その他」で逃げることができず、自社製品がピンポイントでどのコードに該当するかを、化学的なエビデンスに基づいて特定し直さなければならなくなります。

輸出管理法との連動。狙いは戦略物資の把握

なぜ今、中国はこの面倒な細分化を行うのでしょうか。その最大の動機は、国家安全保障と産業競争力の維持です。

近年、半導体材料やバッテリー素材、高機能プラスチックなどの「新材料」は、軍事転用可能なデュアルユース品目としての側面を強めています。中国政府は、これらの物資が国内にどれだけ入ってきているか、あるいは国内から流出していないかを正確に把握したいと考えています。

従来の粗いHSコードでは、汎用の化学品と、高度な戦略物質が同じ番号でカウントされてしまい、実態が見えませんでした。コードを細分化し、特定物資に固有の番号を与えることで、税関のシステム上で自動的に監視フラグを立てることが可能になります。

つまり、今回の措置は、中国輸出管理法や両用物資輸出管理条例の実効性を高めるための、システム基盤の強化であると言えます。

実務現場で起きる通関トラブルのシナリオ

この変更に伴い、日本企業の現場では以下のようなトラブルが予測されます。

旧コードでの申告却下

ある日突然、これまで通りのHSコードで申告した貨物が、中国側の通関システムでエラーとなり、受け付けられなくなるケースです。「このコードは廃止されました、あるいはこの製品には適用できません」と通告され、新しいコードへの修正を求められますが、その場で化学的な証明ができなければ、貨物は港で足止め(デマレージ)となります。

ライセンス未取得の指摘

コードが細分化された結果、自社製品が新たに割り当てられたコードが、実は「輸出入ライセンス(許可証)」が必要な規制対象コードだった、という事態です。これまでは「その他」に紛れていたため不要とされていましたが、コードが特定されたことで規制の網に掛かり、無許可輸出入として摘発されるリスクが生じます。

日本企業が直ちに行うべき3つの対策

このリスクを回避するために、化学品や素材を扱うメーカー・商社は以下の対応を急ぐ必要があります。

現地通関業者への最新コードリスト確認

まずは、中国現地の通関ブローカーや現地法人を通じて、今回細分化の対象となった具体的な品目リスト(対照表)を入手してください。そして、自社が扱っている製品がその対象に含まれていないか、CAS番号(化学物質の登録番号)レベルで照合を行う必要があります。

CIQコード(13桁)までの精緻な特定

中国の通関固有のコードであるCIQコード(HSコード10桁の後ろに付く3桁の追加コード)の動向に注意してください。法規制の要件はこのCIQコードに紐付いています。単にHSコード(上6桁や8桁)が合っているかだけでなく、末尾のコードまで正確に特定できているかが、通関の成否を分けます。

成分表(SDS)と説明書のアップデート

税関から問い合わせがあった際、即座に成分構成を説明できるよう、SDS(安全データシート)や製造工程図を最新の状態に整備してください。特に、新しいコードの定義に合致することを証明するための「成分比率」の記載が不十分だと、判定不能として処理が遅延する原因になります。

まとめ

中国によるHSコードの細分化は、貿易の透明性を高めると同時に、企業に対して高度なコンプライアンス能力を要求するものです。

「たかが番号の変更」と甘く見ていると、物流停止という深刻な経営リスクを招きます。自社の化学品が、中国の新しい分類基準のどこに位置づけられるのか。専門的な知識を持って再点検を行うことが、2026年の中国ビジネスを守る第一歩となります。