2026年2月9日 | 米国貿易・コンプライアンス戦略
貿易DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中、米国税関・国境警備局(CBP)は、AIを活用した物品分類(HSコード特定)支援ツールの適正利用に関する重要なガイドラインを提示しています。
この動きは、CBPが進める2024年から2028会計年度に向けたIT戦略の一環であり、AIを経済的繁栄を促進する「資産」と位置づける一方で、その運用には厳格なガバナンスを求めるものです。ビジネスの現場でAIツールの導入を検討している企業にとって、この指針は単なる「技術的なアドバイス」ではなく、法的なリスク管理における「必須要件」となります。
本稿では、HSコードの専門家の視点から、CBPが示した新指針の本質と、企業が直面する実務上の課題を深掘りします。

テクノロジーは進化しても「合理的な注意」は譲れない
米国関税法において、輸入者は「合理的な注意(Reasonable Care)」を払って正確な申告を行う法的義務を負っています。CBPが示したAI活用に関する基本的スタンスは、この原則をデジタル時代に合わせて再定義したものです。
AIは補助であり、判断の主体は人間である
CBPは、AIを職員の業務を支援するツールとして位置づけており、法執行アクションや利益の拒否に関する最終的な判断をAIの出力のみに基づいて行うことはありません。このスタンスは民間企業に対しても同様に求められています。
AIツールが提示したHSコードが誤っていた場合、企業が「AIがそう言ったから」という理由で責任を免れることはできません。AIはあくまで効率化のための補助手段であり、その出力を精査し、最終的な妥当性を保証するのは「人間の専門家」であるという点が強調されています。
2024年から2028年のIT戦略が目指す「データ駆動型」の国境管理
CBPが2024年に発表した最新のIT戦略(FY2024-2028)は、データの力で国境を管理し、合法的な貿易を加速させることを目標としています。
ガバナンスの強化:ディレクティブ 1450-030の役割
AIの安全な導入を推進するため、CBPはディレクティブ(通達)1450-030を発出し、AIの運用とガバナンスに関する具体的な要件を定義しました。この指針は、AIモデルの開発から運用、報告に至るまでのサイクル全体に「説明責任」を求めています。
企業が自社の通関システムにAIを組み込む際、CBPは以下の4つの機能を備えたリスク管理フレームワーク(NIST準拠)の活用を推奨しています。
- ガバナンス(Govern):AI利用のルールと責任を明確にする
- マッピング(Map):AIが使用される文脈とリスクプロファイルを理解する
- 測定(Measure):AIの性能とリスクを定期的に分析・追跡する
- 管理(Manage):特定されたリスクに対して優先順位をつけ、コントロールを維持する
企業が取るべき3つの実務的アクション
CBPの新指針に対応し、コンプライアンスと効率化を両立させるためには、以下のステップが不可欠です。
1. ヒューマン・イン・ザ・ループの構築
AIが判定したHSコードに対し、必ず人間の通関士や専門家がレビューを行う「人間介在型(Human-in-the-loop)」のプロセスを業務フローに組み込んでください。特に、高額な関税がかかる品目や、反ダンピング税等の規制対象品目については、AIの判定を鵜呑みにすることは極めて危険です。
2. AI判定の「根拠」を記録する
将来の事後調査(監査)に備え、なぜそのHSコードを選択したのかという「根拠」を記録・保存する体制を整えてください。CBPは透明性を重視しており、AIのアルゴリズムが不明瞭なブラックボックス状態での申告は、合理的な注意を欠いているとみなされるリスクがあります。
3. サプライヤーとのデータ連携を強化する
正確なAI分類には、高精度な製品マスターデータが欠かせません。製品の材質、機能、用途といった詳細な情報をサプライヤーからデジタルデータとして受け取り、AIの学習や判定の精度を高めるための「データ・ガバナンス」を強化してください。
まとめ:デジタル国境を越えるための「信頼の設計」
CBPのAI指針は、決してテクノロジーの活用を否定するものではありません。むしろ、AIのスピードと分析力を活用して「脅威」を迅速に検知し、合法的な貿易を加速させることを奨励しています。
しかし、その恩恵を享受するためには、企業側に「技術をコントロールし、結果に責任を持つ」という成熟した管理体制が求められます。2026年以降、AIは通関の現場で当たり前の存在となりますが、その背後にある人間のプロフェッショナリズムこそが、貿易コンプライアンスの最後の砦となるのです。
免責
本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。
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