EUと南米の巨大経済圏、統合への強行突破。ビジネスパーソンが知るべきメルコスールFTAの全貌


EU(欧州連合)とメルコスール(南米南部共同市場:ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ボリビア)の包括的貿易協定が、長い迷走を経てついに最終局面を迎えました。フランスを中心とする激しい反対論がある中で、なぜEU執行部は今、この協定の成立を強行しようとしているのでしょうか。

そこには、欧州が直面する危機感と、南米市場を巡る世界的な覇権争いが色濃く反映されています。本稿では、この協定の裏側にある戦略的意図と、日本企業を含むグローバルビジネスへの影響を解説します。

1. なぜ今なのか:EUが反対を押し切った3つの「焦り」

交渉開始から四半世紀。なぜ今、EUは国内の農家や環境保護団体の反対を押し切ってまで署名を急ぐのでしょうか。理由は大きく3つの「焦り」に集約されます。

一つ目は、対中国戦略としての地政学的焦りです。

南米における中国の影響力は年々増大しています。ブラジルにとって最大の貿易相手国はすでに中国であり、インフラ投資も加速しています。EUとしては、これ以上協定を先延ばしにすれば、南米という巨大市場と資源供給地を中国に完全に奪われるという危機感があります。EUにとってメルコスールFTAは、単なる貿易協定ではなく、西側陣営に南米をつなぎ止めるための外交カードなのです。

二つ目は、重要鉱物資源の確保です。

EV(電気自動車)シフトやデジタル化が進む中、リチウムや銅などの重要鉱物の確保は経済安全保障の核心です。アルゼンチンやボリビアはリチウム資源が豊富であり、EUは中国依存を脱却し、サプライチェーンを多角化するために、これらの国々との強固なアクセス権を必要としています。

三つ目は、欧州輸出産業の停滞打破です。

ドイツを中心とする欧州製造業は、エネルギーコストの高騰や中国市場の減速により苦境に立たされています。人口2億7000万人を超えるメルコスール市場への関税(自動車や機械、化学製品など)を撤廃することで、輸出主導での経済回復を狙っています。

2. 反対派の論理:なぜフランスは激怒するのか

この協定に対し、フランス、ポーランド、オーストリアなどは強く抵抗してきました。その最大の理由は「農業」です。

メルコスールは世界有数の農業輸出国です。ブラジルの牛肉、鶏肉、砂糖、大豆などが関税引き下げによって安価に流入すれば、環境規制や労働基準を厳格に守っている欧州の農家は価格競争で太刀打ちできません。フランスのマクロン政権が「不公正な競争だ」と声を荒らげるのは、自国の農業を守るためであり、農民デモによる政権不安定化を避けるためでもあります。

また、環境保護団体からは、アマゾンの森林破壊を加速させる懸念が指摘されています。これに対しEUは、協定にパリ協定の遵守や森林破壊防止に関する「持続可能性条項」を盛り込むことで反論していますが、懐疑的な見方は消えていません。

3. EUの「奇策」:全会一致の回避

通常、EUの包括的な協定批准には、全加盟国の議会での承認(全会一致)が必要です。これではフランス一国の拒否権で協定が葬り去られてしまいます。

そこでEU欧州委員会が検討してきたのが、協定を「貿易分野」と「政治・協力分野」に分割(スプリット)するという手法です。貿易部分だけであれば、EUの専権事項として扱われ、欧州議会と加盟国閣僚理事会での「特定多数決」で承認が可能になります。つまり、フランスが反対しても、他の多くの国が賛成すれば協定を発効させることができるのです。

今回の「反対を押し切った」という動きは、まさにこの多数決による突破を視野に入れた、フォン・デア・ライエン欧州委員長の強い政治的意思の表れと言えます。

4. ビジネスへの影響:日本企業が注視すべきポイント

この協定が発効に向け動き出したことは、日本企業にとっても対岸の火事ではありません。

第一に、欧州企業の競争力強化です。

欧州企業はメルコスール市場において、関税撤廃という大きなアドバンテージを得ます。例えば、自動車には現在35パーセントもの高関税が課されていますが、これが撤廃されれば、現地市場においてフォルクスワーゲンやフィアットなどの欧州勢が価格競争力を持ちます。現地で競合する日本メーカーにとっては逆風となりかねません。

第二に、公共調達市場の開放です。

協定には、メルコスール側の政府調達市場をEU企業に開放する条項が含まれています。インフラ整備やITシステムなどの入札において、EU企業が優先的な地位を得る可能性があります。

第三に、グローバルスタンダードの行方です。

EUはこの協定を通じて、環境規制や労働基準などの「EU基準」を南米にも適用させようとしています。南米でビジネスを行う日本企業も、将来的には間接的にEUレベルのサステナビリティ対応を求められる場面が増えるかもしれません。

結論:保護主義と自由貿易の分水嶺

EU・メルコスールFTAの署名に向けた動きは、保護主義的な国内世論と、自由貿易による成長・安全保障を天秤にかけた結果、後者を選んだという歴史的な決断です。

しかし、署名はゴールではありません。フランスなどの反対派が今後どのような対抗措置に出るか、そして実際に協定が批准・発効されるまでのプロセスには依然として不透明さが残ります。ビジネスリーダーとしては、この協定が「発効する」ことを前提とした南米戦略の再考と、欧州勢の動きへの警戒が必要です。


南米の巨象が動いた日。ブラジルによる対中FTA予備交渉承認が告げる、欧米主導秩序の終焉

2026年2月2日、南米最大の経済大国ブラジルにおいて、世界経済のブロック化を決定づける極めて重要な政治判断が下されました。ブラジル政府の閣僚会議が、中国との自由貿易協定(FTA)締結に向けた予備交渉入りを正式に承認したのです。

これは、長年停滞していたメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの交渉に見切りをつけ、アジアの大国である中国との直接的な経済統合へとかじを切ったことを意味します。ブラジルが動いたことで、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイを含むメルコスール全体が、中国経済圏へと急速に雪崩れ込むシナリオが現実味を帯びてきました。

本記事では、この地政学的な大転換がなぜ今起きたのか、そして日本企業が南米市場で直面することになる過酷な競争環境について深掘り解説します。

25年の忍耐の末に選んだ、実利という名の決断

なぜブラジルは、長年のパートナーである欧米ではなく、中国を選んだのでしょうか。その背景には、EUとの交渉における深い失望と、中国が提示する実利的な魅力の対比があります。

四半世紀にわたり続けられてきたEUとのFTA交渉は、最終段階で環境保護や人権に関する追加要求(サイドレター)が突きつけられたことで、事実上の座礁に乗り上げました。ブラジル政府にとって、アマゾン開発への介入とも取れる欧米の姿勢は、主権侵害であり、経済成長を阻害する足かせと映りました。

対照的に、中国のアプローチは極めてシンプルです。政治や環境への注文はつけず、ブラジルの農産物や鉱物資源を安定的に購入し、見返りとしてインフラ投資と安価な工業製品を提供する。このビジネスライクな関係こそが、現在のブラジルが求めていたパートナーシップでした。今回の閣僚承認は、理念よりも国益を優先したブラジルの現実主義的な回答と言えます。

メルコスールの結束を維持するための対中シフト

これまでメルコスールには、加盟国が単独で域外の国とFTAを結ぶことを禁じるルールがありました。しかし、中国との早期FTAを望むウルグアイやパラグアイの突き上げにより、この結束は崩壊寸前でした。

ブラジルが今回、メルコスール全体としての対中交渉、あるいは中国との協定を容認する姿勢に転じたことは、組織の分裂を防ぐための苦肉の策でもあります。盟主であるブラジル自身が先頭に立って中国との交渉を進めることで、メルコスールの枠組みを維持しつつ、加盟国全体の総意として中国市場へのアクセス権を取りに行く戦略です。

日本企業に迫る関税格差の悪夢

このニュースは、ブラジル市場でビジネスを展開する日本企業、特に自動車メーカーや機械メーカーにとって、悪夢のようなシナリオの始まりを告げています。

ブラジルは現在、国内産業保護のために非常に高い関税障壁を設けています。例えば、完成車の輸入には35パーセントもの関税が課されています。日本企業は、この関税を回避するために現地工場に投資し、高いブラジルコストに耐えながら生産を続けてきました。

しかし、もし中国とのFTAが締結されれば、中国製の電気自動車(EV)や産業機械が、関税ゼロでブラジル市場に流入することになります。

現在でも価格競争力のある中国製品が、35パーセントのハンデを失い、無税で入ってくるとなれば、日本企業の現地生産車は価格面で太刀打ちできません。現地生産のメリットが消滅し、南米市場のシェアが一気に中国勢に塗り替えられるリスクがあります。

資源外交における中国の完全勝利

影響は工業製品の販売だけにとどまりません。ブラジルは鉄鉱石、大豆、そして次世代エネルギーに不可欠なレアメタルの宝庫です。

FTAの締結は、これらの戦略物資が優先的に中国へ供給されるパイプラインが完成することを意味します。日本や欧米が必要な資源を調達しようとした際、中国企業がすでに権益を押さえている、あるいは中国向けの輸出が最優先され、買い負けるという事態が常態化する恐れがあります。

まとめ

2026年2月2日のブラジルによる予備交渉承認は、南米が米国の裏庭でも欧州のパートナーでもなく、中国経済圏の一部となる未来を選択した歴史的な分岐点です。

日本企業は、南米市場を単なる新興国市場として見るのではなく、中国との直接対決の最前線として再認識する必要があります。関税障壁に守られていた時代は終わりました。圧倒的な価格競争力を持つ中国製品と、同じ土俵でどう戦うか、あるいはどう棲み分けるか。南米戦略の根本的な練り直しが求められています。

ブラジルの関税ショック。Ex-tarifado縮小が告げるデジタル家電のボーナスタイム終了


2026年2月1日、南米最大の市場ブラジルから、電機メーカーや商社にとって耳の痛いニュースが飛び込みました。ブラジル政府が、特定の輸入品に対する関税を一時的にゼロにする優遇措置、通称Ex-tarifado(エクス・タリファード)の対象品目リストを見直し、デジタル家電やIT機器を含む100品目以上をリストから除外する決定を運用開始したのです。

これは、これまで関税ゼロで輸入できていた製品に、突如として10パーセントから16パーセント程度の通常関税が課されることを意味します。ブラジルビジネスにつきものの高いコスト、いわゆるブラジル・コストが再び牙を剥いた形です。

本記事では、この制度変更の背景にあるブラジル政府の意図と、現地ビジネスに与える具体的なコストインパクト、そして日本企業が取るべき対策について深掘り解説します。

そもそもEx-tarifadoとは何か。唯一の抜け道

ブラジルは伝統的に国内産業保護のため、高い輸入関税を課す保護主義的な国です。しかし、国内で製造できない機械設備やハイテク製品まで高関税にしてしまうと、国の産業発展が遅れてしまいます。

そこで設けられているのがEx-tarifado制度です。これは、ブラジル国内に同等の性能を持つ代替製品が生産されていない(国内類似品が存在しない)と認められた場合に限り、資本財(BK)や情報通信機器(BIT)の輸入関税を、通常10パーセント以上のところ、一時的に0パーセントまで引き下げるという例外措置です。

多くの海外メーカーは、この制度を活用して高機能なデジタル製品を競争力のある価格でブラジル市場に投入してきました。いわば、ブラジルの高い関税障壁を合法的にすり抜ける唯一の抜け道だったのです。

なぜ今、対象リストが大幅に削られたのか

今回の決定で多くのデジタル家電がリストから外された背景には、強力な国内産業保護の論理があります。

ブラジルには、アマゾン地域の開発を目的としたマナウス・フリーゾーンという経済特区があり、ここでは多くの多国籍企業や現地メーカーが家電製品を組み立て生産しています。これらの国内メーカーから、輸入されたデジタル製品が安価に流入することで、国産品が不利な競争を強いられているというロビー活動が強まっていました。

政府は、これまで国内類似品なしとして認めていた製品カテゴリーについて再調査を行い、ブラジル国内でも同等の機能を持つ製品が作れるようになった、あるいはすでに作られていると認定しました。その結果、Ex-tarifadoの恩恵を剥奪し、国産品を守るための関税障壁を復活させたのです。

16パーセントのコスト増が招くシナリオ

リストから除外された品目には、これまで免税扱いだった高性能なルーター、特定のモニター、IoT機器などが含まれていると見られます。これらにメルコスール対外共通関税(TEC)が適用されると、即座に10パーセントから16パーセントの輸入関税が発生します。

ブラジルの税制は複雑で、輸入関税(II)が上がると、それを課税標準として計算される工業製品税(IPI)や商品流通サービス税(ICMS)といった他の税金も連鎖的に膨れ上がります。結果として、最終的な輸入コストの上昇幅は額面の関税率以上になります。

企業は、価格に転嫁して販売数量の減少を受け入れるか、利益を削って価格を維持するか、あるいはブラジル市場から撤退するかという厳しい三択を迫られます。

企業が打つべき次の一手

この事態を受けて、ブラジル向けに電子機器を輸出している日本企業は、以下の対応を急ぐ必要があります。

第一に、自社製品のNCMコード(HSコード)の確認です

今回除外されたリストと、自社製品の分類コードを照らし合わせ、課税対象に戻ってしまった品目を特定してください。Ex-tarifadoは特定の技術スペック記述(Ex記述)に基づいて適用されるため、製品の仕様書との詳細な突合が必要です。

第二に、類似性なしの再証明への挑戦です

もし、自社製品が国内製品とは明らかに異なる独自技術や機能を持っているにもかかわらず、一括りで除外されてしまった場合は、業界団体を通じて政府(CAMEX)へ異議を申し立て、再度Ex-tarifadoの適用を申請する道も残されています。ただし、これには高度な技術的証明と長い審査期間が必要です。

第三に、現地生産(ノックダウン生産)の検討です

今回の措置は、完成品輸入を締め出し、国内生産へ誘導しようとする政府のメッセージでもあります。長期的にブラジル市場を重視するのであれば、マナウスなどでの委託生産(OEM)に切り替え、国産品としての扱いを受けることが、最も確実な関税回避策となります。

まとめ

ブラジルによるEx-tarifado対象品目の削減は、同国市場がボーナスタイムを終え、再び通常運転の保護主義モードに戻ったことを示しています。

ゼロ関税という恩恵が消えた今、問われているのは製品そのものの真の競争力です。関税が乗ってもなお選ばれるブランド力を築くか、それとも現地のルールに従って現地化するか。ブラジルビジネスの覚悟が試されています。

巨大経済圏構想の崩壊と、南米の中国シフト。メルコスール・EU交渉決裂が突きつける地政学リスク

2026年2月1日、南米の経済大国ブラジルから、世界貿易の地図を塗り替える可能性のある衝撃的な方針転換が示唆されました。四半世紀にわたり交渉が続けられてきた南米南部共同市場(メルコスール)と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)交渉が事実上の決裂状態に陥り、ブラジルが中国とのFTA締結へ向けて大きく舵を切る構えを見せたのです。

これは単なる貿易交渉の不調ではありません。南米という資源と食料の巨大な供給地が、欧米の経済圏から離脱し、中国経済圏へと完全に組み込まれる歴史的な転換点を意味します。

本記事では、なぜ両者の交渉が行き詰まったのか、そして南米の中国シフトが日本企業のビジネスにどのようなインパクトを与えるのかについて深掘り解説します。

欧州のグリーンディールが招いた南米の反発

交渉決裂の最大の要因は、EU側が突きつけた環境保護に対する厳格な要求、いわゆるサイドレター(追加議定書)の存在です。

EUは、アマゾンの森林破壊防止やパリ協定の順守を貿易の必須条件とし、違反した場合には制裁を科すという条項を強く求めました。これは欧州の有権者や農業団体を納得させるためには必要な措置でしたが、ブラジルをはじめとするメルコスール側には、環境保護を口実にした保護主義、あるいはグリーン・インペリアリズム(緑の帝国主義)として映りました。

ブラジル政府にとって、自国の経済発展を阻害しかねない欧州の要求は、主権への侵害として受け入れ難いものでした。結果として、欧州が理想を追い求める間に、南米の忍耐が限界を迎えたのが今回の構想崩壊の真相です。

中国という実利的な選択肢

欧州との対話が冷え込む一方で、急速に求心力を高めているのが中国です。

中国はすでにブラジルにとって最大の貿易相手国ですが、EUとは対照的に、政治体制や環境問題について内政干渉的な注文をつけません。中国が求めているのは、安定的な資源(鉄鉱石、石油、リチウム)と食料(大豆、肉類)の供給、そして中国製品(EV、インフラ設備)の市場だけです。

ブラジルにとって、説教をせずにビジネスライクに巨大な市場を提供してくれる中国とのFTAは、極めて実利的で魅力的な選択肢となります。これまでメルコスールは、域内での単独交渉を禁じるルールがありましたが、ウルグアイの先行的な動きに続き、盟主ブラジルが中国傾斜を明確にしたことで、メルコスール全体が中国との包括的FTA、あるいは個別交渉の解禁へと雪崩を打つ可能性が高まっています。

日本企業が直面する2つの脅威

この地政学的なシフトは、対岸の火事ではありません。日本企業、特に製造業と商社には深刻な影響が及びます。

南米市場における競争条件の悪化

もしメルコスールと中国のFTAが締結されれば、中国製の自動車、電機製品、機械設備が関税ゼロで南米市場に流入します。

現在でも中国メーカー(BYDや長城汽車など)はブラジルでの現地生産と販売を加速させていますが、関税の壁がなくなれば、日本企業は価格競争で圧倒的に不利な立場に追い込まれます。南米は日本車にとって重要な市場でしたが、そのシェアが根こそぎ奪われるリスクがあります。

重要鉱物資源の囲い込み

より深刻なのは、サプライチェーンの上流です。南米はリチウムや銅など、EVやデジタル産業に不可欠な重要鉱物の宝庫です。

中国との経済的な結びつきが強まれば、これらの資源開発においても中国企業が優先的な権益を得ることになります。欧州や日本がグリーン調達の基準作りで足踏みをしている間に、中国が資源の蛇口を押さえてしまう構図が完成しようとしています。

まとめ

2026年2月1日のニュースは、グローバルサウスと呼ばれる新興国が、もはや欧米のルールには従わないという明確な意思表示をした瞬間と言えます。

欧州という巨大な後ろ盾を失い、中国という巨大なパートナーを選ぼうとしている南米。日本企業に求められているのは、欧米中心のサプライチェーン観からの脱却と、中国経済圏に取り込まれつつある市場でどう生き残るかという、極めてシビアな戦略の再構築です。

日本・メルコスールEPAへの道程:南米の巨大市場を巡る現状とビジネス好機


世界経済のブロック化が進み、サプライチェーンの再構築が急務となる中、日本企業にとって「最後のフロンティア」とも呼べる地域が南米です。中でもブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ(およびボリビア)を擁するメルコスール(南米南部共同市場)は、巨大な食料・資源供給地でありながら、日本との経済連携協定(EPA)がいまだ締結されていない空白地帯です。

本記事では、日本とメルコスールのEPA交渉を取り巻く現在のリアルな状況、直面している課題、そして今後のビジネス展開に与えるインパクトについて解説します。

1. 現在のステータス:正式交渉の手前にある「対話」

まず、もっとも重要な事実確認から入ります。現時点において、日本政府とメルコスールの間で正式なEPA交渉は開始されていません。

しかし、水面下での動きは活発化しています。現状は「経済協力関係緊密化のための対話」というフェーズにあります。

膠着を打破しようとする経済界の動き

日本経団連などの経済界は、長年にわたり政府に対して早期の交渉開始を強く要望してきました。これに対し、政府間では事務レベルでの協議や、産官学による研究会などが断続的に行われてきましたが、正式なテーブルにつく決定打を欠いていたのが実情です。

なぜ今まで進まなかったのか

最大の理由は、双方の産業構造のミスマッチにあります。

・ 日本側の懸念:南米からの安価な農産物(牛肉、小麦、大豆など)の流入による国内農業への打撃。

・ メルコスール側の懸念:自国の工業(特にブラジルの自動車産業や機械産業)が、日本の高品質な製品との競争に晒されることへの警戒。

この「農産物 vs 工業製品」という典型的な対立構造が、長らく交渉開始のハードルとなってきました。

2. 潮目を変える3つの外部要因

しかし、ここ数年で状況は一変しつつあります。もはや「難しいから先送り」とは言っていられない3つの戦略的要因が浮上しているからです。

① 重要鉱物の争奪戦とサプライチェーン

EV(電気自動車)シフトに伴い、リチウムや銅などの「クリティカル・ミネラル(重要鉱物)」の確保が国家安全保障レベルの課題となりました。アルゼンチンやブラジルはこれらの資源大国です。資源外交の観点から、EPAを通じた関係強化は、単なる関税撤廃以上の意味を持ち始めています。

② 中国・アジア諸国の先行

中国は南米において圧倒的なプレゼンスを示しています。ウルグアイなどは中国との二国間FTAを模索する動きを見せており、メルコスール全体としてもアジアへの関心を高めています。また、シンガポールは2023年にメルコスールとの協定に署名し、韓国も交渉を進めています。日本がこれ以上遅れをとることは、南米市場における競争力を恒久的に失うリスクを意味します。

③ EU・メルコスール協定の停滞

メルコスールは長年EUとの協定締結を目指してきましたが、環境問題や欧州の農業保護の観点から批准プロセスが難航しています。この「欧州ルートの停滞」により、メルコスール側がリスク分散として、日本を含むアジア太平洋地域との連携に今まで以上に前向きな姿勢を見せ始めているのです。

3. 日本企業にとってのメリットと勝機

もしEPA、あるいはそれに準ずる経済協定が締結された場合、日本企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

高関税の撤廃による競争力回復

ブラジルなどは伝統的に保護主義的な政策をとっており、自動車や機械部品に高い関税を課しています。EPAによってこれらが撤廃・削減されれば、日本製品の価格競争力は劇的に回復します。

ビジネス環境の透明化

関税以上に現地進出企業を悩ませているのが、複雑怪奇な税制や通関手続き、頻繁なルール変更です。EPAには通常、これらの手続きを透明化し、予見可能性を高める条項が含まれます。法的な安定性が担保されることは、投資判断における最大のリスクヘッジとなります。

食料安全保障の強化

世界的な食料需給が不安定化する中、世界有数の穀倉地帯であるメルコスールとのパイプを太くすることは、日本の食料安全保障にとって極めて合理的です。

4. 今後の展望:ビジネスマンが注視すべきポイント

今後の展開を予測する上で、以下のシナリオが考えられます。

包括的EPAではなく「段階的アプローチ」の可能性

農産物の完全な自由化が難しい場合、重要鉱物やエネルギー、デジタル分野などに限定した「部分的連携」からスタートする現実的な路線が採用される可能性があります。

グローバルサウス外交の中核として

日本政府はグローバルサウスとの連携強化を掲げています。2025年以降、ブラジルがBRICSやG20などでリーダーシップを発揮する場面が増える中、日本は外交的なカードとして経済協定の交渉開始を提案する可能性が高まっています。

結論:準備と注視を

日メルコスールEPAは、まだ「検討中」の段階ですが、動き出せばそのスピードは速いと予想されます。資源エネルギー、商社、自動車関連メーカー、そして食品業界の皆様においては、以下の点を次のアクションとして推奨します。

  1. 現地の法規制やビジネス慣習に関する情報収集を継続する。
  2. 競合となる中国・韓国企業の現地での動きをモニタリングする。
  3. 政府や業界団体の対話プロセスの進捗にアンテナを張る。

南米は「遠い市場」ではなく、日本の次なる成長を支える「戦略的パートナー」になり得る地域です。この交渉の行方は、日本の通商戦略の未来を占う試金石となるでしょう。


次のステップをご提案します

南米市場における、貴社の業界に関連する具体的な競合状況(特に中国企業の進出状況)や、現在の主要な貿易障壁(関税率や規制)について、より詳細なデータをお調べしましょうか。

EU メルコスールFTAの商品カテゴリー別原産地規則と関税率

以下は、2026年1月17日に署名されたEU・メルコスル(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)間の中間貿易協定(iTA)の公表テキストに基づき、原産地規則と関税削減を「業種別に」「品目(HS/NCMコード帯)単位で」実務向けに整理したものです。(Trade and Economic Security)

前提として、詳細は膨大な品目表(タリフライン)で規定されているため、ここでは実務で遭遇頻度が高い業種・品目を中心に、確認ポイントが分かる形で抜粋整理しています。自社品目を最終確定するには、該当コードを確定した上で附属書の該当行に当てる作業が必須です。

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前提:どの附属書を見ればよいか
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  1. 関税(減免・撤廃)
    ・附属書2-A(Tariff elimination schedule)
  • EU側スケジュール:付表2-A-1(CN 2013ベース)
  • メルコスル側スケジュール:付表2-A-2(NCM 2012ベース)
    用語として「Base rate(基礎税率)」「Staging category(削減カテゴリ)」で段階削減が定義されます。(Data Consilium)
  1. 原産地規則(優遇を使うための条件)
    ・附属書3(原産地)
  • 附属書3-Bが品目別(Product-specific rules of origin)で、HS 2017分類に沿って、CTH/CTSH、MaxNOM(非原産材料の上限比率)、特定工程要件などが列挙されます。(Parlament Österreich)
  1. 年次の数え方(関税削減のカレンダー)
    ・Year 0 は発効日からその年の12月31日まで、Year 1 は翌年1月1日から12月31日まで、という定義です。(Data Consilium)

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関税率の減免・撤廃:ステージングカテゴリ早見
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メルコスル側・EU側とも、品目ごとに「Staging category」が付いており、次のロジックで基礎税率が下がります(代表的なもの)。

・カテゴリ0:発効時点で即時撤廃(即時無税)
・カテゴリ4:複数年で段階撤廃し、Year 4の1月1日から無税
・カテゴリ7:Year 7の1月1日から無税
・カテゴリ8:Year 8の1月1日から無税
・カテゴリ10:Year 10の1月1日から無税
・カテゴリ15:Year 15の1月1日から無税
・カテゴリE:優遇対象外(基礎税率のまま)
この基本形に加え、自動車など一部品目はカテゴリ15Vや、EV・燃料電池車向けの別スケジュール、TRQ(関税割当)などの特殊ルールが上乗せされます。(Data Consilium)

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業種別整理:関税(主にEU輸出 → メルコスル輸入時に効く部分)
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  1. 自動車・輸送機器(完成車、バス・トラック、トラクター等)
    完成車はメルコスル側の基礎税率が高く、削減設計も複雑なので、最優先で読む領域です。

代表例(メルコスル側付表2-A-2から抜粋)

A) 乗用車(ガソリン、排気量帯別)
・NCM 87032100(排気量1000cc以下などの乗用車)

  • 基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ10%、ウルグアイ23%
  • ステージング:15V(または15)(Parlament Österreich)

・NCM 87032210、87032310、87032410 等(排気量帯や乗車定員で細分)

  • 多くが基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ10から20%、ウルグアイ23%
  • ステージング:15Vが付く行がある(Parlament Österreich)

B) 乗用車(ディーゼル)
・NCM 87033110、87033210、87033310 等

  • 基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ10から20%、ウルグアイ23%
  • ステージング:15または15Vの行がある(Parlament Österreich)

C) 商用車・バス・トラックなど
・NCM 87021000(10人以上輸送、ディーゼル)

  • 基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ10%、ウルグアイ6%
  • ステージング:E(優遇対象外)(Parlament Österreich)

・NCM 87042190(ディーゼル等、積載5t以下の一部)

  • 基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ20%、ウルグアイ23%
  • ステージング:15Vの行あり(Parlament Österreich)

D) トラクター等
・NCM 87012000(セミトレーラー用ロードトラクター)

  • 基礎税率:アルゼンチン35%、ブラジル35%、パラグアイ5%、ウルグアイ6%
  • ステージング:E(優遇対象外)(Parlament Österreich)

自動車向け特殊条項(カテゴリ15V、EV、燃料電池車など)
・カテゴリ15V(特定の完成車などに適用)

  • Year 6末まで基礎税率据え置き、その後Year 7から段階撤廃しYear 15で無税
  • さらに、発効時からYear 8末まで、年5万台の枠内で基礎税率を50%引き下げ(国別配分あり)
    対象品目(NCMコード)は本文で列挙されています。(Data Consilium)

・EV・ハイブリッド車は、別の削減設計(一定期間は基礎税率から所定比率引き下げ、その後長期で撤廃)になっています。(Data Consilium)
・水素燃料電池車も、さらに長い年次で撤廃する設計が置かれています。(Data Consilium)

実務メモ
・完成車は「カテゴリ」だけで判断せず、車種(EV等)該当の有無と、数量枠の有無まで必ず確認が必要です。(Data Consilium)

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  1. 産業機械(HS 84系:冷凍機器、遠心分離機、食品機械、工場設備など)
    メルコスル側では、基礎税率が14%から20%程度で、カテゴリ10や15で段階撤廃する品目が多い一方、カテゴリE(優遇対象外)も混じります。

代表例(NCM、基礎税率、カテゴリ)
・NCM 84143011(冷凍機器用の密閉型モトコンプレッサーの一部)

  • 基礎税率:アルゼンチン0%、ブラジル18%、パラグアイ18%、ウルグアイ18%
  • カテゴリ:15 (Parlament Österreich)

・NCM 84143091(冷凍機器用コンプレッサーの一部)

・NCM 84341000(搾乳機)

  • 基礎税率:アルゼンチン14%、ブラジル14%、パラグアイ0%、ウルグアイ0%
  • カテゴリ:E (Parlament Österreich)

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  1. 電機・電子、情報機器(HS 85、HS 84の情報機器帯を含む)
    電子・電機も、カテゴリ10や15での段階撤廃が中心ですが、用途限定の例外(コメント欄での限定)や、カテゴリEが存在します。

代表例
・NCM 84715090(デジタル処理装置等の一部)

  • 基礎税率:アルゼンチン16%、ブラジル16%、パラグアイ2%、ウルグアイ2%
  • カテゴリ:10 (Parlament Österreich)

・NCM 84716052(キーボードの一部)

  • 基礎税率:アルゼンチン12%、ブラジル12%、パラグアイ0%、ウルグアイ2%
  • カテゴリ:10(ただしコメントで例外扱いが付く行がある)(Parlament Österreich)

・NCM 85256090(送信機器の一部)

  • 基礎税率:アルゼンチン12%、ブラジル12%、パラグアイ2%、ウルグアイ2%
  • カテゴリ:10 (Parlament Österreich)

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  1. 金属・素材(非鉄、金属製品など)
    素材は基礎税率が比較的低いものもありますが、カテゴリ4など短中期の段階撤廃が見られます。

代表例
・NCM 81041100(マグネシウム地金の一部)

・NCM 81101020(アンチモン粉末)

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  1. 農水畜産物・食品(TRQや特殊ルールが中心)
    農産品は、単純な関税撤廃よりも、TRQ(関税割当)で「数量枠内は優遇、枠外は基礎税率」という設計が多く、品目ごとに年次・数量が決め打ちです。

A) EU側のTRQ(メルコスル産品がEUに入るとき)
例として、米、砂糖、はちみつ、ラム等、でん粉関連、エタノール、にんにく、バイオディーゼル等で、年次ごとの数量枠や枠内税率(無税、または基礎税率の一定割合)があります。(Data Consilium)

B) メルコスル側のTRQ(EU産品がメルコスルに入るとき)
脱脂粉乳・粉乳・全粉乳、チーズ、乳児用調製品、にんにく等で、年次ごとに枠が拡大し、枠内での優遇(基礎税率からの優遇割合)が段階的に深くなる設計があります。(Data Consilium)

実務メモ
・農産品は「カテゴリ0や10で何年後に無税」という見方だけでは不十分で、TRQの枠数量、枠管理方式、枠外税率(基礎税率)をセットで確認する必要があります。(Data Consilium)

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業種別整理:原産地規則(PSR)でまず押さえる型
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原産地規則は、品目別に「関税上の原産品」と認められる条件を定義します。附属書3-Bでは、HS 2017分類の見出しごとに、次のような書き方が多用されます。(Parlament Österreich)

・CTH:非原産材料を使っても、完成品のHS号が変わればよい(見出し変更)
・CTSH:完成品のHS細分(サブヘディング)が変わればよい
・MaxNOM X%(EXW):非原産材料の価値が工場出荷価格に対してX%以下
・特定工程要件:化学反応、蒸留、紡績など、工程そのものを要求

さらに、一般ルールとして、一定の許容(例:非原産材料の合計価値が工場出荷価格の10%以内等)が置かれています(ただし適用除外や条件あり)。(Data Consilium)

以下、業種別に「PSRの中身が読みやすい代表領域」を抜粋します。

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  1. 化学・医薬・関連品(化学品、医薬品、化学工業品、バイオ燃料など)
    化学系は、CTH/CTSHに加えて「化学反応が行われたこと」など工程要件、またはMaxNOM 50%(EXW)のような上限比率が多いのが特徴です。

代表例(HS 2017)
・第28類(無機化学品の広い範囲:28.01から28.53)

・第30類(医薬品の一部:30.01から30.03)

  • CTSH、または化学反応・精製等の工程、またはMaxNOM 50%(EXW)(Parlament Österreich)

・第38類(各種化学工業品)

  • 38.08は例外条件付きのCTHや比率条件が併記されるなど、細かい書き分けあり(Parlament Österreich)
  • バイオディーゼル(38.26など)は、エステル化・トランスエステル化・水素化処理といった製造法が要件として明記(Parlament Österreich)

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  1. プラスチック・ゴム(樹脂、成形品など)
    樹脂原料は「化学反応またはバイオ技術処理」か、CTH/CTSH、またはMaxNOM 50%(EXW)という組合せが典型です。

代表例(HS 2017)
・第39類(プラスチックとその製品)

  • 3901帯などで、CTH/CTSHと化学反応要件、またはMaxNOM 50%(EXW)の代替条件が並ぶ(Parlament Österreich)

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  1. 紙・パルプ・印刷(パルプ、紙、紙製品、印刷物)
    紙系は、CTHとMaxNOM比率の併記が多く、比較的読みやすい部類です。

代表例(HS 2017)
・第47類(パルプ)47.01から47.07:CTH (Parlament Österreich)
・第48類(紙・板紙、紙製品):多くの帯でCTH、またはMaxNOM 50%(EXW)の選択肢が併記(Parlament Österreich)
・第49類(印刷物):49.01から49.11:CTH (Parlament Österreich)

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  1. 繊維・アパレル(糸、生地、衣類)
    繊維は、許容規定や工程要件が細かく、原材料調達や委託加工を跨ぐサプライチェーンでは要注意です。

代表例(HS 2017)
・絹(第50類)

  • 50.01から50.02:CTH
  • 50.04から50.05:紡績、または押出と紡績の組合せ、など工程要件ベース(Parlament Österreich)

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実務での使い方(最短手順)
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  1. まず自社品目の関税分類を確定
    ・メルコスル向け輸出ならNCM、EU向けならCNで実務は動きます。スケジュール自体も、その体系で書かれています。(Data Consilium)
  2. 関税は、付表2-A-2(メルコスル)または付表2-A-1(EU)で
    ・基礎税率、ステージングカテゴリ、コメント欄(例外、用途限定、TRQ表示など)を確認します。(Parlament Österreich)
  3. 原産地は、HS 2017に合わせて附属書3-Bを突合
    ・PSRがCTH/CTSH型か、比率型か、工程型かで、必要なBOM証憑の集め方が変わります。(Parlament Österreich)
  4. 自動車と農産品は例外処理が多い
    ・完成車はカテゴリ15VやEV向け別スケジュール、数量枠が絡みます。(Data Consilium)
    ・農産品はTRQ中心で、枠内枠外の扱いを必ずセットで見ます。(Data Consilium)

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EU・メルコスルFTA署名と企業が備えるべきこと


2026年1月17日、EUと南米の地域統合枠組みメルコスルは、パラグアイの首都アスンシオンで、25年以上に及ぶ交渉の末にパートナーシップ協定と暫定貿易協定に署名しました。 これにより、発効すれば世界最大級の自由貿易圏の一つが生まれる可能性があり、日本企業にとってもサプライチェーンと市場戦略を見直す重要なタイミングになります。[brusselstimes]​


メルコスルは何カ国か

  • 現在、EUと締結した枠組みで中心的な相手とされるメルコスル加盟国は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国です。[en.wikipedia]​
  • ベネズエラはメルコスル内で資格停止扱いとされており、ボリビアは加盟プロセスが進んでいるものの、今回の協定で直ちに対象国として扱われるかについては報道でも慎重なトーンが見られます。[reuters]​

日本語報道の見出しでは「南米5カ国」などと表現される場合がありますが、関税・原産地規則・政府調達の対象国は最終的に協定文と批准状況で決まるため、ニュースの表現だけで判断せず、必ず一次資料にあたることが安全です。[euagenda]​


今回署名された2つの協定

EU側の整理では、今回署名されたのは単一の「FTA」ではなく、性格の異なる2つの法的文書です。[brusselstimes]​

  • EU–メルコスル・パートナーシップ協定(EMPA)
    政治対話、協力、持続可能な開発などを含む包括的な枠組みであり、EU加盟国すべての批准が必要と説明されています。[en.wikipedia]​
  • 暫定貿易協定(Interim Trade Agreement, ITA)
    貿易と投資の自由化部分を先行して発効させるための協定で、EUの通商権限に属する範囲については加盟国の個別批准を要さず、欧州議会の同意とEU理事会の決定で発効可能な設計とされています。[euagenda]​

企業にとって重要なのは、「包括協定は批准に時間を要し得る一方で、ITAが先に発効し、関税・一部ルールが先行適用される可能性がある」という構造を理解しておくことです。[brusselstimes]​


市場規模と貿易額

  • EU理事会などの資料では、EUとメルコスルを合わせた市場は7億人超の消費者をカバーすると説明されています。[ga-alliance]​
  • 2024年のEU・メルコスル間の財貿易額は、1110億ユーロ超(輸出・輸入合計)と整理されており、サービス貿易も2023年時点で400億ユーロ超の規模があります。[finance.yahoo]​

EUはメルコスルにとって主要な貿易相手であり、特に財の分野で大きな比重を占めるほか、EUからメルコスルへの投資残高も大きいと分析されています。[policy.trade.ec.europa]​


関税面でのインパクト

今回の合意の目的は、関税と非関税障壁を下げ、取引コストと不確実性を減らすことです。[policy.trade.ec.europa]​

  • EU側のファクトシートでは、メルコスルがEUからの輸入品の大部分について関税を撤廃する見通しであり、EU企業が年間40億ユーロ超の関税コストを削減できると試算されています。[policy.trade.ec.europa]​
  • 現行のメルコスル側関税の例として、乗用車・自動車部品・衣料・履物などに最大35%の関税、自動車部品18%、機械20%、化学品18%、医薬品14%などが示されています。[ga-alliance]​

自社の主力製品がこれら高関税品目に該当する場合、関税撤廃により価格競争力の前提が大きく変わる可能性があります。[acea]​

一方で、EU域内では安価な農産品の流入や森林伐採の加速を懸念する声が強く、農業団体や環境団体の反対が政治プロセスに影響を与えています。[noe]​


サービス・投資・政府調達

製造業の関税だけでなく、サービスや投資、政府調達も今回の枠組みの重要な柱です。[policy.trade.ec.europa]​

  • EU資料では、ビジネスサービス、金融、通信、海運、郵便・宅配などのサービス分野で市場アクセスや規律の改善がうたわれています。[policy.trade.ec.europa]​
  • 政府調達については、EU企業がメルコスル諸国の公共調達市場で、現地企業とより対等な条件で入札できるようにすることが強調されています。[brusselstimes]​

インフラ、公共交通、デジタル化、医療関連など、入札市場を重視する企業にとっては、関税以上に政府調達ルールや認証要件が競争条件を左右するテーマとなります。[brusselstimes]​


サステナビリティは交渉の中心

環境・人権の論点は、今回の協定の批准プロセスそのものを左右する中心的テーマになってきました。[noe]​

  • 欧州では、安価な農産品の増加や森林伐採リスクを懸念する農業者・環境団体の反対が根強く、各国政府内でも慎重論があります。[reuters]​
  • パートナーシップ協定には、気候変動対策、森林破壊の防止、労働権の保護など、持続可能な開発に関する義務や紛争解決の枠組みが盛り込まれていると説明されています。[policy.trade.ec.europa]​

企業側は、価格だけでなく、トレーサビリティ、環境・人権デュー・ディリジェンス、データ提供体制なども含めて競争する局面が増えると想定すべきです。[noe]​


日本企業が今から取るべき実務アクション

発効日が確定してから準備を始めると、原産地管理やサプライチェーン証明の立ち上げが間に合わないことが少なくありません。 暫定貿易協定が先行して動く可能性も踏まえ、次のようなステップを検討できます。[brusselstimes]​

1. 影響を受ける取引の棚卸し

  • EU向けおよびメルコスル向けの直接輸出入だけでなく、EU域内拠点経由の販売、EU企業への部材供給、メルコスルからの調達など、間接取引を含めて洗い出します。
  • 関連する取引フローごとに、関税・非関税措置・政府調達・認証など、どの章のルールが効きそうかを整理します。[policy.trade.ec.europa]​

2. HSコードと現行関税率の再確認

  • 機械、化学、自動車関連、食品など、高関税・高ボリューム品目について、HSコードと現行関税率、想定される削減スケジュールを確認します。[ga-alliance]​
  • 分類の相違は、関税メリットの有無や適用原産地規則の違いを生むため、EU側・メルコスル側双方の関税表に基づき精査することが重要です。[ga-alliance]​

3. 原産地規則と証明体制の構築

  • 関税が下がっても、原産地要件を満たさなければ特恵は利用できません。部材原産地の管理、サプライヤーからの情報取得プロセス、証明書・自己証明スキームへの対応を事前に設計します。[policy.trade.ec.europa]​
  • 将来の協定発効を前提とした「予備的な」原産地判定や、サプライチェーン再構成のシナリオ分析も検討に値します。[ga-alliance]​

4. 調達・販売の価格シナリオ作成

  • 関税削減により、自社製品だけでなく競合製品や代替材の価格構造も変化します。
  • 調達側ではメルコスルからの調達拡大余地、販売側ではEU企業との競合関係や第三国市場での価格競争力の変化を、複数シナリオで検証します。[ga-alliance]​

5. 公共調達と規制対応を市場参入戦略に組み込む

  • 政府調達市場にアクセスするには、資格要件、実績要件、現地パートナーやコンソーシアムの組成など、中長期的な準備が必要です。[brusselstimes]​
  • 認証・規制適合性(例:技術基準、安全基準)の確認を、市場参入戦略とセットで早期に進めることが有効です。[ga-alliance]​

6. サステナビリティ監査への備え

  • 環境・人権リスクが強く意識される協定ほど、サプライチェーンのデータ開示要求は厳しくなる傾向があります。[noe]​
  • 森林破壊リスク、労働環境、トレーサビリティなどについて、顧客や金融機関からの質問票・監査に耐えうる内部体制を整備しておくことが望まれます。[noe]​

7. 批准プロセスの定点観測

  • 署名後は、欧州議会での同意が大きな山場となり、EMPAとITAで手続きが異なります。[en.wikipedia]​
  • どの協定のどの章が、どのタイミングで発効しそうかを段階的に整理し、社内の前提条件をアップデートし続けることがリスク管理につながります。[euagenda]​

いまを「助走期間」としてどう使うか

今回の署名は象徴的なニュースであると同時に、実務面では「発効までの助走期間」が始まったことを意味します。 関税の引き下げやルールの変化は、輸出入だけでなく、価格設定、調達先、現地投資、入札、コンプライアンスに波及し得ます。[en.wikipedia]​

注意すべきは、署名が即時発効を意味しない点であり、政治的反対や批准の不確実性は依然として残っています。 だからこそ、商品分類、原産地管理、サプライチェーン証明、規制・サステナビリティ対応の基礎をいまから固めておく企業ほど、発効局面で大きく動ける可能性があります。[reuters]​

本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の関税、原産地規則、契約条件、規制適合性については、通関士、弁護士、現地専門家などと連携して最終判断することを推奨します。[euagenda]​

EU‑メルコスール協定:批准までの段階表


全体の見取り図:何がいつ動くか

EU-メルコスール協定は、「何が合意されたか」以上に、「いつ・どの範囲が・どの手続で動き出すか」を押さえることが実務の肝になります。nordiskpost+1​
2026年1月9日、EU理事会は、EU-メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)と暫定貿易協定(iTA)の署名を承認し、手続きは署名・欧州議会同意・締結のフェーズへと進みました。europediplomatic+1​

ビジネス側としては、正式発効まで数年単位の待ち時間が生じ得ることを前提に、「先に動く部分」と「EMP​A全面発効まで動かない部分」を切り分けて準備するのが合理的です。policy.trade.europa+1​
以下では、2026年1月14日を基準日として、制度構造と企業の実務アクションをセットで整理します。nordiskpost+1​


二本立ての構造:EMPAとiTA

EU-メルコスール協定パッケージは、法的に二つの文書に分かれて並走します。policy.trade.europa+1​

  • EU-メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)
    政治対話・協力・貿易を含む包括協定で、いわゆる「混合協定」に該当し、EUレベルに加えて全加盟国の批准が必要です。europediplomatic+1​
    EMPAが発効すると、iTAは廃止され、包括協定に一本化される設計になっています。europediplomatic
  • 暫定貿易協定(iTA)
    貿易分野のみを切り出した暫定協定で、EUの専属権限に属する部分を対象とします。secnewgate+1​
    欧州議会の同意とEU理事会の締結決定を経たうえで、メルコスール側も自国の手続を完了すると、貿易ルールが先行して適用されることが想定されています。edit.wti+1​

この結果、

  • 貿易部分(iTA)が先に走る
  • 包括協定(EMPA)の全面発効は、各国批准を待って後から追い付く
    という時間差が実務上生じ得ます。policy.trade.europa+1​

最新ステータス:2026年1月時点

EU理事会は2026年1月9日、EMPAとiTAの署名を認める二つの決定を採択し、EU側として署名に進む権限付与が完了しました。lapresse+1​
今後は、EUおよびメルコスール各国による署名、欧州議会の同意、EU理事会による正式な締結という順で進みます。policy.trade.europa+1​

一方で、農業分野を中心に反発は根強く、特にフランスなどで大規模な抗議行動が継続しています。internazionale+1​
こうした政治的摩擦は、欧州議会での同意や一部加盟国の批准プロセスに不確実性として跳ね返る可能性があります。reuters+1​


段階別の流れと企業の視点

以下は、政治合意から全面発効までの主なステップを、企業が見るべきポイントと合わせて整理し直したものです。europediplomatic+1​

1〜4:EU内部手続が動き出すまで

  1. 政治合意
    • 2024年12月6日に政治レベルで合意が成立し、協定の骨格が固まりました。nordiskpost+1​
    • 影響の大きい業界・品目の当たりをつけ、サプライチェーン単位で棚卸しを始める段階です。europediplomatic
  2. 文書整備
    • 法的レビューと最終文言の調整を経て、テキスト・附属書が公開されます。policy.trade.europa+1​
    • 公開テキスト・附属書への入手ルートを確保し、関税撤廃表と原産地規則(PSR)から読み込みを開始します。policy.trade.europa+1​
  3. 欧州委員会による提案
    • 2025年9月3日、欧州委員会は、EMPAとiTAの署名・締結について理事会決定案を正式に提示しました。europediplomatic
    • 「iTAが先行し、EMPAが後追いする可能性がある」というタイムラインを社内に共有し、発効シナリオを前提にした準備を組み立てる段階です。secnewgate+1​
  4. 理事会が署名を承認
    • 2026年1月9日、EU理事会が署名を認める決定を採択し、政治交渉から条約手続フェーズへ完全に移行しました。lapresse+1​
    • ここで最新の発効シナリオを更新し、反対国の姿勢や国内政治論点を「批准リスク」として織り込みます。reuters+1​

5〜8:署名からiTA適用開始まで

  1. 署名
    • EUとメルコスール諸国が協定に署名し、国際法上の意思表示を行います(署名時点では原則として関税はまだ動きません)。policy.trade.europa+1​
    • この段階から、契約条項に「関税変更時の価格見直し・納期調整・負担者の分界」などを明示的に入れ込み始めるのが現実的です。europediplomatic
  2. 欧州議会の同意
    • 欧州議会は条文を修正するのではなく、同意(賛成)または不同意(反対)で判断します。policy.trade.europa+1​
    • 同意が得られない場合、理事会は協定を締結できず、貿易部分(iTA)も動きません。採決時期や関連委員会での議論を継続的にフォローする必要があります。safefoodadvocacy+1​
  3. 理事会が締結(EU側の国内手続完了)
    • 欧州議会の同意を受けて、EU理事会がiTAおよびEMPAの締結を決定します。europediplomatic+1​
    • iTAについては、理事会締結後、メルコスール側の国内手続が整い次第、発効・適用開始となります。edit.wti+1​
  4. iTAの適用開始
    • 条件が整うとiTAが発効し、関税・原産地規則・通関運用など貿易ルールが先行して適用されます。policy.trade.europa+1​
    • 原産地証明の実務(申告主体、自己申告の可否、サプライヤー証明の回収、保存年限など)を、この段階までに稼働可能な状態にしておく必要があります。edit.wti+1​

9〜10:EMPA全面発効までの長い尾

  1. EMPAの批准完了待ち
    • EMPAは混合協定であるため、全EU加盟国およびメルコスール側の国内批准を待つ必要があり、数年単位の期間を要する可能性があります。secnewgate+1​
    • iTAで動く領域(モノの関税・原産地・貿易救済等)と、EMPA全面発効まで凍結される領域(政治対話・協力や一部投資ルール等)を分けて管理することが重要です。europediplomatic+1​
  2. EMPA全面発効
  • 必要な批准がすべて完了するとEMPAが発効し、iTAは廃止されて一体の包括協定に置き換わります。policy.trade.europa+1​
  • その時点で、運用規程、紛争処理メカニズム、制度文言の差分を確認し、社内規程・マニュアルを「最終版」に統一していきます。europediplomatic

用語整理:署名・同意・締結・発効・仮適用

条約プロセスの用語は混同されやすいため、実務での意味合いに絞って整理します。policy.trade.europa+1​

  • 署名(signature)
    合意文書に署名する段階で、政治的な意味合いは大きいものの、それだけで関税が直ちに下がるわけではありません。europediplomatic+1​
  • 同意(consent)
    欧州議会が、協定に同意するかどうかを採決する段階で、EU側実務では最大の山場となります。secnewgate+1​
    同意がなければ、理事会は協定を締結できません。policy.trade.europa+1​
  • 締結(conclusion)
    EUとして協定に法的に拘束されることを最終決定する行為で、理事会が決定します。europediplomatic+1​
    iTAの場合は、締結と相手側手続完了をもって、発効・適用開始につながります。edit.wti+1​
  • 発効(entry into force)・仮適用(provisional application)
    自他双方の国内手続が整った時点で発効し、実務上の効果(関税減免等)が生じます。policy.trade.europa+1​
    欧州委員会は、EMPAのうち政治・協力分野の一部について、加盟国批准完了前に仮適用する案も示しており、適用範囲の線引きが今後の論点になります。secnewgate+1​

批准リスクを左右する論点

欧州議会の政治力学

欧州議会は、協定テキストを細かく修正するのではなく、賛否の二択で同意を与えるかどうかを決めます。europediplomatic+1​
反対票が多数となれば、EMPAだけでなくiTAも進まず、貿易部分全体が止まる結果となります。safefoodadvocacy+1​

農業・環境分野の懸念

EU域内では、農業団体を中心に「安価な南米産品との不公正競争」「環境・衛生基準のギャップ」に対する懸念が強く、フランスなどで継続的な抗議行動が行われています。reuters+2​
これらの反発は、加盟国政府のスタンスや欧州議会内の投票行動に影響を及ぼし得るため、政治的リスクとしてモニタリングが必要です。reuters+1​

セーフガード(緊急輸入制限)設計

理事会や欧州委の説明では、敏感な農産品分野の市場攪乱に迅速対応できるよう、特別なセーフガード措置を含めることが政治的受容性を高める鍵とされています。safefoodadvocacy+1​
企業としては、自社の取扱品が「敏感品目」やセーフガードの対象となり得るかを確認し、発動時の価格・数量リスクを契約条件に織り込む必要があります。edit.wti+1​


企業が今から着手すべき準備

批准待ちの期間を「待機時間」ではなく「設計時間」として前倒しで使うことが、実務上の勝ち筋になります。europediplomatic
特に、貿易分野がiTAで先行適用される設計である以上、関税よりも前に原産地規則・通関運用の設計を固めておくことが重要です。policy.trade.europa+1​

  • 対象品目の優先順位付け
    関税メリットが大きい品目、原産地判定が難しい品目、多段階サプライチェーンを持つ品目を優先的に抽出します。europediplomatic
  • 原産地規則の読み方:条文より附属書から
    iTAには、一般原則に加え、品目別原産地規則(PSR)と関税撤廃スケジュールを定める附属書が組み込まれています。policy.trade.europa+1​
    実務上の「設計図」は附属書側に集約されているため、HS分類別にPSRと撤廃スケジュールを突き合わせて読むのが効率的です。edit.wti+1​
  • 通関実務フローの設計
    原産地証明方式(輸出者/輸入者/サプライヤーの自己申告可否)、検認対応フロー、証拠書類の保存期間などを、協定テキストと税関ガイダンスを前提に標準化します。edit.wti+1​
  • 契約条件の整備
    発効時期が読みづらい協定では、発効前後の価格条件、関税負担者、遡及適用の取り扱い、返品・キャンセル条件などを契約上で明確にしておくことが、紛争予防に有効です。europediplomatic

どの一次情報を追えばよいか

迷ったときは、以下の三つに立ち返ると構造が把握しやすくなります。policy.trade.europa+1​

  • EU理事会のプレスリリース
    署名承認の事実、次の手続き、EMPAとiTAの関係性、政治的メッセージを押さえることができます。lapresse+1​
  • 欧州委員会のEU-メルコスール協定ページ
    協定の位置づけ、交渉経緯、基本構造(EMPAとiTAの二本立て)を俯瞰できます。europediplomatic
  • 協定テキスト公開ページ
    iTAとEMPAの構成、発効・適用条件の説明、各附属書(関税スケジュール・原産地規則等)への導線が整理されています。policy.trade.europa+1​

実務的な要点の整理

  • 2026年1月9日、EU理事会はEMPAとiTAの署名を承認し、協定パッケージは署名・同意・締結フェーズへ進んでいる。lapresse+1​
  • 協定はEMPAとiTAの二本立てで、貿易部分(iTA)が先に適用され得る一方、包括協定(EMPA)の全面発効は加盟国批准が必要で長期化し得る。policy.trade.europa+1​
  • 最大の不確実性は欧州議会の同意と各国の政治状況であり、農業・環境をめぐる反対運動が採決環境に大きく影響する。internazionale+2​
  • 企業側は、関税率そのものよりも先に、原産地規則・証明スキーム・通関運用・契約条件を設計しておくことで、発効日に耐える体制を整えるべきである。europediplomatic+1​
  1. https://europediplomatic.com/2026/01/09/eu-endorses-mercosur-free-trade/
  2. https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement/text-agreement_en
  3. https://www.nordiskpost.com/2026/01/10/eu-members-backed-mercosur-trade-agreement/
  4. https://www.secnewgate.eu/eu-mercosur-partnership-launching-a-historic-ratification-after-25-years/
  5. https://edit.wti.org/document/show/4da58773-ed1b-4588-ac3b-5e64d37d82c6
  6. https://uk.lapresse.it/world-en/2026/01/09/mercosur-with-the-vote-of-the-27-eu-countries-concluded-the-agreement-has-been-given-the-green-light/
  7. https://www.internazionale.it/ultime-notizie-reuters/2026/01/13/french-farmers-stage-new-paris-protest-in-bid-to-halt-mercosur-deal
  8. https://jp.reuters.com/video/watch/idRW522008012026RP1/
  9. https://www.reuters.com/world/americas/eu-countries-expected-clear-signing-record-mercosur-trade-deal-2026-01-09/
  10. https://www.safefoodadvocacy.eu/the-council-greenlights-the-signature-of-the-eu-mercosur-partnership-and-trade-agreement/
  11. https://www.dailysabah.com/business/economy/about-350-tractors-steered-into-paris-to-protest-eu-mercosur-deal
  12. https://x.com/EUCouncilPress/status/2009668725952393586
  13. https://gayaone.com/en/world-events/breaking-news/eu-member-states-provisionally-approve-mercosur-trade-pact-after-two-decades
  14. https://www.youtube.com/watch?v=MvYoGv30X8g
  15. https://www.reuters.com/business/eu-member-states-confirm-approval-signing-eu-mercosur-trade-agreement-2026-01-09/

EU理事会がEU・メルコスール協定の署名を承認 発効ではない。企業が今からやるべき準備

2026年1月9日、EU理事会(Council of the EU)は、EUとメルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)との包括的なパートナーシップ協定(EMPA)および暫定貿易協定(iTA)の署名を認める決定を採択しました。25年以上続いた交渉が大きく前進した一方で、これは発効を意味しません。ビジネス側は、政治イベントとして眺めるよりも、発効前から実務準備の勝負が始まったと捉えるべき局面です。 (欧州理事会)

以下、何が決まったのか、どこがリスクでどこがチャンスか、そして企業として何を準備すべきかを、一次情報中心に整理します。

まず押さえる3点

  1. 署名承認は発効ではない
    今回の決定は「署名に進むための承認」です。協定が効力を持つには、欧州議会の同意など、次の手続きが残っています。 (欧州理事会)
  2. 先に動くのは貿易部分(iTA)になり得る
    iTAはEUの排他的権限(主に通商分野)に属するため、加盟国ごとの批准を要しない設計です。欧州議会の同意後、EU理事会が正式に締結すれば、貿易面の便益が先行して動く可能性があります。 (欧州理事会)
  3. セーフガードと監視が最初から組み込まれている
    「関税が下がる」だけで走ると危険です。農産品を中心に、優遇停止を迅速に打てる枠組みが同時に整備されています。 (欧州理事会)

EU・メルコスールとは何か 市場規模と現状

メルコスールは南米の関税同盟で、EU側が今回の枠組みで相手とするのは主に4か国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)です。なお、ボリビアは加盟議定書署名済みで批准待ち、ベネズエラは資格停止とされています。 (欧州理事会)

貿易規模も大きく、EUとメルコスールの財貿易は2024年に約1,110億ユーロ(EU輸出552億、輸入560億)、サービス貿易は2023年に約420億ユーロとされています。EUの対メルコスール直接投資残高は2023年で約3,900億ユーロという説明もあり、すでに深い関係にあります。 (欧州理事会)

今回の「署名承認」で手続きはどこまで進んだのか

EU側で重要なのは、協定が二本立てになっている点です。

・EU・メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)
政治対話、協力、そして貿易を含む包括協定。EU加盟国すべての批准が必要。EUは政治・協力章の大部分を暫定適用する方針が示されています。 (欧州理事会)

・暫定貿易協定(iTA)
貿易・投資の自由化部分を切り出した協定。欧州議会の同意後、EU理事会が特定多数決で締結し得る設計で、EMPA発効までの間、貿易の便益を先行させる狙いです。 (欧州理事会)

2026年1月9日の時点で、加盟国側の大勢は署名を支持していると報じられていますが、最終的な効力発生には欧州議会の同意が不可欠です。 (Reuters)

何が変わるのか 関税と市場アクセスの「効きどころ」

メルコスール側の関税は、工業品を中心に依然として高い水準が残る分野があります。欧州委の資料では、現行関税の例として自動車部品35%、機械20%、化学品18%、医薬品14%が挙げられ、協定によりEU輸出側は年間40億ユーロ超の関税負担が削減され得ると説明されています。 (Trade and Economic Security)

さらに、iTAには政府調達やサービス貿易の章も含まれ、EU企業がメルコスール各国の公共調達に参入しやすくなる点も、競争環境を変え得る要素です。 (欧州理事会)

日本企業にとっての示唆は明快です。
メルコスール向け輸出でEU企業が関税面のハンディを解消するなら、同市場で日本企業が正面から価格で勝つ難度は上がります。逆に、EU拠点を活用してメルコスールへ出す、あるいは現地生産と組み合わせる企業には、選択肢が増える構図です。

セーフガードと数量枠 優遇は「止まる前提」で設計する

農業分野は政治的な反発が強い領域であり、EU側は優遇拡大を数量枠とセーフガードでコントロールする設計を強調しています。

例として欧州委のファクトシートには次が示されています。 (Trade and Economic Security)

・牛肉
無税枠ではなく、年9万9,000トンを7.5%関税で輸入可能(内訳は生鮮・冷蔵55%、冷凍45%)。 (Trade and Economic Security)

・家きん肉
年18万トンの無税枠を5年かけて段階導入。 (Trade and Economic Security)

・砂糖
ブラジル向けに新規の砂糖枠を作るのではなく、既存のWTO枠の中で精製用原料糖18万トンを無税に、加えてパラグアイ向けに1万トンの新規無税枠。 (Trade and Economic Security)

重要なのは、セーフガードが「実装フェーズ」に入っている点です。EU理事会と欧州議会は、農産品向けの二国間セーフガードを実務的に動かす規則案で暫定合意し、価格下回り5%と、輸入量や輸入価格の一定変動を調査開始の目安として扱うこと、調査を原則4か月で終えること、緊急時は21日以内に暫定措置を導入できることなどを示しています。また、2026年3月1日までに市場監視を支える技術ガイドラインを出す方針も明記されています。 (欧州理事会)

企業実務としては、優遇関税があるからといって、その前提で長期契約の価格式や需給計画を固定すると危険です。優遇停止のトリガーが制度として明確化されるほど、影響は「突然」起きます。

原産地規則と証明実務 勝敗は書類と設計で決まる

関税が下がっても、原産地を満たさなければゼロです。iTAの原産地章では、EUの近年型協定に近い「商業書類上の原産地申告(Statement on origin)」を中核に据えています。

公開されているiTA本文では、次が読み取れます。 (データ協議会)

・輸出者が、インボイス、納品書、その他の商業書類に「原産地申告」を記載する方式
・原産地申告には、原則として輸出者の手書き署名が必要(ただし輸出国法令で別段があればそれに従う)
・申告は輸出時に作成でき、輸出後に作成することも可能だが、輸入後2年以内に提示する必要がある
・有効期間は作成日から12か月
・輸出者と輸入者に、それぞれ少なくとも3年間の記録保存義務 (データ協議会)

さらに、優遇適用は「制度悪用があれば止まる」設計です。iTAには、優遇を得るための大規模・体系的な法令違反や不正があり、かつ相手側が協力義務を体系的に拒否するなどの状況がある場合に、当該品目の優遇を一時停止できる趣旨の規定が置かれています。 (データ協議会)

実務で問われるのは、次の二つです。

・原産設計
サプライヤーからの情報収集、工程分解、品目別ルールへの当てはめを、発効後ではなく発効前に完了させる。

・証明フロー
輸出者の申告書式、署名要件、保存年限、照会対応(監査対応)を、法務と貿易実務で一体運用にする。

サステナビリティ条項は貿易条件そのものになった

EU側が政治的に強調するのは、持続可能性を「付け足し」ではなく「協定の中核」に置く点です。

欧州委の説明では、パリ協定が協定の「本質的要素」とされ、重大な違反がある、または一方がパリ協定から離脱する場合に、協定を停止し得る枠組みを明記しています。さらに、EU森林破壊防止規則などEU域内法は協定下の輸入にも引き続き適用され、違法伐採対策や森林減少への拘束力あるコミットメント、責任あるサプライチェーン(国際指針の活用)も盛り込まれると整理されています。 (Trade and Economic Security)

食品・動植物検疫(SPS)についても、EUは「基準は交渉対象外」と明言し、予防原則や国境検査、監査などの枠組みは維持されるとしています。 (Trade and Economic Security)

日本企業にとっては、EU向け取引ですでに求められているESG・デューデリジェンスが、メルコスール関連の調達や三国間取引にも広がり得る、という読みになります。関税メリットとコンプライアンスコストを同時に見積もる必要が出ます。

日本企業のチェックポイント どこに影響が出るか

関係し得る企業像は大きく3つです。

  1. メルコスール向けに輸出している日本企業
    EU企業の関税ハンディが縮むと、価格競争が強まります。特に自動車部品、機械、化学品など、現行関税が高い領域ほど影響が出やすい。 (Trade and Economic Security)
  2. EUに生産・販売拠点を持つ日本企業
    EU拠点からメルコスールへ出す場合、原産地要件を満たせれば、関税条件が改善する余地があります。逆に、原産地設計に失敗すると「EUにいるのに優遇が取れない」状態になります。 (データ協議会)
  3. 重要鉱物や一次産品を扱う企業
    EUは重要原材料の供給多角化を戦略目的として明確に掲げ、ブラジルのニオブやアルミ、アルゼンチンのリチウムなどを具体的に挙げています。需給や投資の流れが変わる可能性があるため、長期調達の前提条件(価格、原産地、輸出税等)を見直す材料になります。 (Trade and Economic Security)

今からやるべき実務リスト

発効日が確定してから動くのでは遅い、というのが結論です。着手順としては次が現実的です。

・自社品目の影響棚卸し
メルコスール向けの現行関税、競合(EU企業)比率、値引き余地を洗い出し、価格戦略を更新する。 (Trade and Economic Security)

・原産地設計の先行着手
EU拠点やEUサプライチェーンを使う場合、原産地申告の運用要件(保存、署名、期限、照会対応)まで含めて業務設計する。 (データ協議会)

・優遇停止を織り込んだ契約設計
セーフガードや監視が機動的に動く前提で、価格条項や供給義務、フォースマジュール、関税再交渉条項を整備する。 (欧州理事会)

・ESG・トレーサビリティの再点検
森林破壊規制などEU域内法の適用を前提に、原料調達やサプライヤー管理の証憑を揃える。 (Trade and Economic Security)

・議会プロセスの監視
欧州議会の同意が最後の大関門です。報道だけでなく、EU理事会や欧州委の一次情報で節目を追う体制にしておく。 (欧州理事会)

まとめ

EU理事会の署名承認は、巨大協定が「止まるか進むか」の政治局面を越え、企業実務が問われるフェーズへ移った合図です。
恩恵は、関税だけではなく、原産地設計と書類運用が取れて初めて発生します。さらに、セーフガードやESG規制は、優遇の前提を動かし得る変数として同時に管理すべき対象です。 (欧州理事会)

免責:本稿は公開情報に基づく一般的な整理です。個別取引への適用可否や実務設計は、最新の法令・通達とあわせて専門家確認を推奨します

EU・メルコスール協定「暫定合意」の本質


関税削減は魅力でも、原産地設計と優遇停止リスクが勝敗を分ける

2026年1月9日、EU理事会はEU・メルコスール協定の署名を承認し、25年越しの交渉が大きな節目を迎えました。ただし重要なのは、協定が直ちに発効したという話ではなく、発効に向けた政治手続きが前進し、農業分野の優遇停止を可能にするセーフガード規則が具体化した点です。reuters+2​

ビジネス目線で押さえるべきは、工業品で大きな関税削減が見込まれる一方、その恩恵を受けるには原産地規則の設計と証明実務が不可欠であり、さらに農産品を中心に優遇停止のトリガーが明確に制度化されている点です。発効後の準備では遅く、発効前に原産設計と書類フローを固めた企業が、最初の2年で利益を取りに行けます。aljazeera+1​

今回の「暫定合意」の実態

2026年1月9日の時点で、二つの暫定が同時進行しています。reuters+1​

第一に、EU理事会の加盟国大使が署名承認を正式決定しました。フランス、ポーランド、オーストリア、アイルランド、ハンガリーが反対、ベルギーが棄権したものの、ドイツ、スペイン、イタリアなど21か国の賛成により特定多数が成立しました。これにより、フォン・デア・ライエン欧州委員長が早ければ1月12日にパラグアイで正式署名する段取りです。english.news+2​

第二に、EU理事会と欧州議会が2025年12月に「農業分野の二者間セーフガード規則」で暫定合意しました。これは、メルコスールからの農産品輸入が域内産業に損害を与える、またはその恐れがある場合に、関税優遇を迅速に停止できる仕組みです。europarl.europa+1​

今後は欧州議会が同意決議を行い、EU理事会が締結決定を行えば、暫定貿易協定(iTA)が適用開始となります。完全発効には加盟国すべての批准が必要ですが、貿易分野はEU排他的権限のため、加盟国批准を待たずに先行適用できる設計です。bilaterals+2​

協定の構造

法的文書は大きく二つに分かれています。reuters

EU・メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)
政治対話、協力、貿易・投資を包括する本協定で、完全発効には全加盟国の批准が必要です。EU側は政治・協力分野の大部分を暫定適用する方針も示しています。reuters

暫定貿易協定(iTA)
貿易・投資の自由化を先行させるための協定で、EUの排他的権限に属するため、欧州議会の同意と理事会の締結決定のみで動かせます。最終的にはEMPA発効により置き換えられます。bilaterals+1​

実務上の示唆は明確です。完全発効を待つのではなく、iTAを軸に先行する領域を前提に準備するのが合理的です。

関税削減の骨格

EUからメルコスール向け

メルコスールは、EUからの輸入の91%について、原則10年以内に関税を撤廃します。特に高関税品目は価格競争力が劇的に変わります。blomstein+1​

主な現行関税と撤廃スケジュールeuroparl.europa+1​

  • 乗用車(内燃機関) 35%→15年で完全撤廃(最初7年は5万台の移行枠で17.5%、その後加速)
  • 電動車 35%→即座に25%へ引下げ、18年で完全撤廃
  • 水素車 35%→6年据置後、25年で完全撤廃
  • 自動車部品 14-18%→大半は10年以内に撤廃
  • 機械 14-20%→93%が10年以内に撤廃
  • 化学品 最大18%
  • 医薬品 最大14%
  • 衣類・革靴 35%

自動車分野では、2024年の追加交渉で内燃機関車の15年スケジュールが維持された一方、電動化車両は18年、水素車は25年、新技術車は30年へと延長されました。これは「関税が下がる」だけでなく、「下がり切るまでの時間」が競争戦略そのものになることを意味します。gov+1​

農産加工品の現行関税例reuters

  • オリーブオイル 10%
  • ワイン 最大27%
  • ウイスキー・スピリッツ 20-35%
  • チョコレート 20%
  • 乳製品(数量枠内でゼロ関税)
    • チーズ 3万トン枠(現行28%)
    • 粉乳 1万トン枠(現行28%)
    • 乳児用調製粉乳 5千トン枠(現行18%)

メルコスールからEU向け

EUは、メルコスールからの輸入の92%について、原則10年以内に関税を撤廃しますが、センシティブな農産品は関税割当(TRQ)で数量管理する設計です。lateinamerikaverein+1​

主要農産品の割当枠reuters

  • 牛肉 年9万9千トン(チルド55%、冷凍45%)、7.5%関税、6段階導入
  • 豚肉 2万5千トン(83ユーロ/トン)、6段階導入、プラス パラグアイ向け1,500トン
  • 鶏肉 18万トン無税枠、5年で段階導入
  • 砂糖 ブラジル向け原料糖18万トン無税(既存WTO枠内)、パラグアイ向け1万トン無税
  • エタノール 化学用途45万トン無税、燃料用途20万トンは本税の3分の1、いずれも5年で段階導入
  • はちみつ 4万5千トン無税枠、5年で段階導入
  • コメ 6万トン無税枠、5年で段階導入

これらの数量はEU消費量の1-2%程度に抑えられており、EU側の輸出量でほぼ相殺される設計です。reuters

原産地規則

関税削減の本質は「原産地の設計」と「証明手続」にあります。優遇を受けられるのは「協定上の原産品」に限られ、これを外すとMFNで申告することになり協定メリットが消えます。sice.oas+1​

原産性の基本構造

原産地規則の骨格は次の通りです。sice.oas

完全生産品(Wholly obtained)
鉱物、植物、域内で出生し飼育された動物、域内で行われた漁獲など、完全生産を定義しています。sice.oas

製品別ルール(PSR)
非原産材料を使う場合、品目ごとに定められた条件(関税分類変更、特定工程、非原産材料の最大割合)を満たす必要があります。sice.oas

二者間累積(Bilateral cumulation)
EU原産材料をメルコスール側の原産材料として扱う、またはその逆を認めますが、単純作業のみでは不十分で一定の加工を要します。sice.oas

許容(Tolerances)
製品別ルールを満たさない非原産材料があっても、一定範囲(工場出荷価格の10%以内)であれば原産とみなす仕組みがあります。繊維類は別途規定があります。sice.oas

不十分な加工(Insufficient operations)
洗浄、単純な包装、ラベル貼付、単純混合、単純組立など、軽微な作業のみでは原産になりません。sice.oas

輸送条件
原産とされた貨物は、第三国で本質的な加工を受けず、保全行為等に限ることが求められます。sice.oas

製品別ルール(PSR)の読み方

PSRは別添で品目ごとに示され、「関税分類変更(CC/CTH/CTSH)」「特定工程」「非原産材料の最大割合(MaxNOM)」などの形式で規定されています。sice.oas

自動車のPSR例reuters

  • 乗用車(87.01-87.07) MaxNOM 45%(EXW)
  • 部品(87.08-87.09) MaxNOM 50%(EXW)

機械のPSR例sice.oas

  • CTH または MaxNOM 50%(EXW)など、品目ごとに複数の満たし方が提示されています

工業品のPSRは、実務上「CTH」か「MaxNOM」のどちらかを満たせばよい形が多く、同じ業界でもHSが変われば判定ロジックが変わるため、品目単位でPSRを引き、BOMと工程のどこで条件を満たすかを先に設計することが肝要です。

証明手続

この協定は、輸出者がインボイス等に「ステートメント・オン・オリジン」を作成する運用を軸にしています。pincvision+1​

実務で重要な期限と保存義務sice.oas

  • ステートメントの有効期限は12か月
  • 輸出後に作成する場合でも、輸入後2年以内に提出が必要
  • 輸出者と輸入者は原則3年間の記録保存

EU側では、輸出者はREXシステムへの登録が必要です。メルコスール側は移行期間(最大5年)が認められています。加えて、EUの関税割当で輸出する品目は、メルコスール側が発行する公式文書の添付を求める規定もあります。lateinamerikaverein+1​

農業セーフガード

今回の暫定合意の核心は、農業分野の優遇停止を「より早く、より簡単に」動かすトリガーが条文化された点です。europarl.europa+1​

調査開始の条件(センシティブ品目)europarl.europa+1​

  • 輸入数量が3年平均比で8%超増加
  • または輸入価格が3年平均比で8%超低下

これらは「深刻な損害」の証拠とみなされ、調査開始の十分条件となります。europarl.europa

調査と措置のスピードeuroparl.europa

  • センシティブ品目の調査は3か月以内に終了
  • 緊急時は通知後21日以内に暫定措置が可能
  • 非センシティブ品目は6か月以内

監視体制europarl.europa

  • 欧州委員会は少なくとも半年ごとに監視レポートを作成
  • 2026年3月1日までに監視の技術ガイドラインを策定予定

企業目線の含意は明確です。農産品を扱う場合、発効後も「関税は常に下がり続ける」とは限らず、数量と価格の動き次第で優遇停止があり得るという前提で、契約と収益計画を組む必要があります。

中小企業向けの情報提供

協定本文には、中小企業向けの情報提供を義務づける章があります。各当事者は、協定本文、別添、関税スケジュール、製品別原産地規則を掲載する公開サイトを整備し、関税コードで検索可能なデータベースの整備が想定されています。publications.iadb

これは「発効してから調べる」のではなく、「調べやすい状態で使わせる」ための実装思想で、実務のコストを確実に下げる仕組みです。

日本企業の実務アクション

発効前にやるべきことは3つです。

品目マッピング
自社の輸出入品目をHSで棚卸しし、関税削減が大きい品目から優先順位を付けます。自動車、機械、化学品、衣料は高関税の例が明示されています。reuters

原産地設計
二者間累積、許容、単純作業否認、輸送条件を前提に、PSRを満たす工程とBOMの設計を固めます。特に自動車はMaxNOM比率が明示されており、原価構造の管理がそのまま原産判定になります。reuters+1​

証明と監視の運用
ステートメント・オン・オリジンの発行手順、期限管理、保存義務、検認対応を社内フロー化します。農産品はセーフガードのトリガーも踏まえ、価格条項や見直し条項を契約に織り込みます。pincvision+2​


まとめ

EU・メルコスール協定は、工業品で大きな関税削減が見込まれる一方、農産品は数量枠とセーフガードで精密に管理される設計です。そして、企業にとっての勝敗は「原産地規則を満たせるか」「証明実務を回せるか」で決まります。発効が見えてから動くのではなく、発効前に原産設計と書類フローを固めた企業が、最初の2年で利益を取りに行けます。pincvision+3​

注: 本稿は2026年1月時点の公表資料に基づく一般情報です。実際の適用はHS別・国別のスケジュールと当局運用に依存するため、最終判断は一次資料と専門家確認で行ってください。

  1. https://www.reuters.com/business/eu-member-states-confirm-approval-signing-eu-mercosur-trade-agreement-2026-01-09/
  2. https://www.aljazeera.com/news/2026/1/9/eu-states-nod-on-mercosur-trade-deal-ends-25-year-wait
  3. https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251217IPR32258/mercosur-parliament-and-council-agree-on-agriculture-safeguards
  4. https://english.news.cn/20260110/680b56baf17e4b1983c0d2c9c5126a02/c.html
  5. https://www.rte.ie/news/analysis-and-comment/2026/0109/1552369-eu-mercosur-agreement/
  6. https://www.bilaterals.org/?council-rejects-bid-to-stop
  7. https://www.blomstein.com/en/news/eu-mercosur-agreement-on-trade-in-goods
  8. https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/BRIE/2025/769537/EPRS_BRI(2025)769537_EN.pdf
  9. https://www.gov.br/mre/en/content-centers/statements-and-other-documents/factsheet-mercosur-european-union-partnership-agreement-december-6-2024
  10. https://www.lateinamerikaverein.de/fileadmin/user_upload/Trade_part_of_the_EU-_Mercosur_Association_Agreement.pdf
  11. http://www.sice.oas.org/tpd/mer_eu/Texts/Protocol_on_RoO_e.pdf
  12. https://www.pincvision.com/news/free-trade-agreement-eu-mercosur
  13. https://publications.iadb.org/en/rules-origin-ftas-europe-and-americas-issues-and-implications-eu-mercosur-inter-regional
  14. https://www.euronews.com/my-europe/2026/01/09/eu-member-states-back-mercosur-deal-french-meps-vow-fight-in-parliament
  15. https://www.atlanticcouncil.org/dispatches/eu-and-mercosur-are-creating-one-of-the-worlds-largest-free-trade-areas/
  16. https://www.europeanmovement.ie/just-the-facts-what-is-the-eu-mercosur-trade-agreement/
  17. https://agrinfo.eu/book-of-reports/eu-mercosur-partnership-agreement/pdf/
  18. https://unctad.org/system/files/official-document/itcdtsbmisc25rev3add1_en.pdf
  19. https://trade.ec.europa.eu/access-to-markets/en/content/rules-origin-3