米国の「国際収支(balance of payments)」に関する“緊急のマクロ経済的な状況”に対応するために、大統領が短期間だけ一時的な追加関税(輸入課徴金)や輸入割当(クオータ)を発動できるという条文です。
米国法典では 19 U.S.C. § 2132(Balance-of-payments authority) として整理されています。 (法律情報研究所)
何ができる条文なのか(権限の中身)
1) 発動のトリガー(使える状況)
122条は「fundamental international payments problems(根本的な国際支払問題)」があり、輸入を抑える特別措置が必要なときに発動できる、としています。具体的な目的は次の3つです。 (法律情報研究所)
- (1) 米国の「大きく深刻な国際収支赤字」に対処する
- (2) ドルの「差し迫った重大な下落」を防ぐ
- (3) 国際的な国際収支不均衡の是正に協力する
2) 取り得る措置(関税かクオータ)
大統領が布告(proclaim)できる措置は主に3択です。 (法律情報研究所)
- 一時的な輸入課徴金(temporary import surcharge)
- 従価税で最大15%まで(既存関税に“上乗せ”)
- 輸入割当(クオータ)
- その両方
※なおクオータは、国際協定上認められる場合に限られる等、追加の条件があります。 (法律情報研究所)
3) 期間の上限(ここが超重要)
最大150日(ただし延長は議会の法律(Act of Congress)が必要)という強い時間制限があります。 (法律情報研究所)
JETROの整理でも「15%以内・150日を限度」と要点がまとめられています。 (ジェトロ)
“使い勝手”を縛る制約(122条の性格)
122条は強い権限に見えますが、実は条文内に「縛り」が多いのが特徴です。
1) 原則は「広く・一律」にかける(品目面)
輸入制限は**品目カバレッジが広く、原則として一律(broad and uniform)**であるべき、とされています。
例外(除外品目)は「国内供給が足りない」「原材料の必要性」「供給混乱の回避」など、米国経済上の必要性に限定され、そして何より **“特定産業を保護する目的でやってはならない”**と明記されています。 (法律情報研究所)
2) 原則は無差別(国別面)だが、例外もある
輸入制限は無差別原則(nondiscriminatory treatment)に沿って適用するのが基本です。 (法律情報研究所)
ただし条文は、目的達成のために「大きい/持続的な国際収支黒字の国」など一部の国だけを対象にし、他国を免除する余地も置いています。 (法律情報研究所)
(=「完全に国別ができない」わけではないが、少なくとも“好き勝手に国別にいじれる”タイプでもない、という設計です。)
3) 大統領は途中で停止・修正・終了もできる
布告した措置は、大統領が停止・変更・終了できる、とされています。 (法律情報研究所)
トランプ関税における「122条」の意味(2026年2月時点の実例)
「トランプ関税」に関しては、2026年2月20日の米最高裁判断を受けて、122条が“前面に出てきた”のがポイントです。
1) 何が起きたか:IEEPA関税が最高裁で無効 → 122条へ
報道によれば、米最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税の一部を違法と判断した後、トランプ大統領は1974年通商法122条を根拠に、150日間の一律10%(グローバル)関税に切り替える動きを取りました。 (Reuters)
2) 122条で実際に何をしたか:10%の一時的輸入課徴金(150日)
ホワイトハウスの布告(Proclamation)とファクトシートでは、次が明記されています。 (The White House)
- 122条を根拠に「fundamental international payments problems(根本的な国際支払問題)」があると認定 (The White House)
- 2026年2月24日から、150日間、10%の従価税を輸入品に上乗せ (The White House)
- 一部の品目や、USMCA(米・加・墨)条件を満たす物品などは除外される(エネルギー、重要鉱物、医薬品、一定の自動車・航空宇宙、など) (The White House)
3) なぜ122条が“意味を持つ”のか(トランプ関税の戦略上)
ここが実務的に重要です。
- (A)「速い」:調査手続きなしで、すぐ関税を“乗せられる”
Reutersは、122条の10%関税が、232条や301条のような調査・手続を待たずに短期で発動できる“つなぎ”になっている、と報じています。 (Reuters) - (B)「短い」:150日でいったん切れる(延長には議会が必要)
つまり、122条は**恒久の関税制度というより“短期の非常手段”**として使われやすい。 (法律情報研究所) - (C)「論点が立ちやすい」:本当に“国際支払問題”なのかが争点になる
一部の研究者・実務家は「変動相場制の下では“fundamental international payments problems”という概念自体が現代では当てはまりにくく、122条で広範関税は無理筋では」という趣旨の批判も出しています。 (国際経済法政策ブログ)
他方で、ホワイトハウスは、貿易収支や所得収支などを根拠に「国際収支赤字が大きく深刻」と位置付けて正当化しています。 (The White House)
さらにReutersは、122条の適用は**法的に十分にテストされていない(legally untested)**とも報じています。 (Reuters) - (D)「歴史的に“休眠条項”だった」:これまでほぼ使われてこなかった
近年の解説では、122条は長く使われず(裁判所解釈も蓄積が薄い)という点が繰り返し指摘されています。 (Cato Institute)
補足:122条が言う「国際収支赤字」と、ニュースで言う「貿易赤字」は同じ?
同じではありません。
国際収支(balance of payments)は、モノの貿易だけでなく、サービス収支、投資所得(第一次所得)、移転(第二次所得)なども含むより広い概念です。
実際、ホワイトハウスのファクトシートも「経常収支(current account)=財・サービス、第一次所得、第二次所得の合計」という説明を置いています。 (The White House)
まとめ(トランプ関税での“読みどころ”)
- 122条は「国際収支・国際支払問題」に限定された非常口で、
最大15%・最大150日の一時的な輸入課徴金(追加関税)などを大統領が発動できる。 (法律情報研究所) - 2026年2月の局面では、最高裁判断で別根拠(IEEPA)に逆風が吹く中、短期の代替根拠として122条が使われた(10%・150日)。 (Reuters)
- ただし、期間制限・目的要件(国際支払問題)・“広く一律”という設計のため、
**恒久関税の主戦力というより「つなぎ」+「交渉・調査(301/232等)へ橋渡し」**になりやすい。 (法律情報研究所)
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