全体の見取り図:何がいつ動くか
EU-メルコスール協定は、「何が合意されたか」以上に、「いつ・どの範囲が・どの手続で動き出すか」を押さえることが実務の肝になります。nordiskpost+1
2026年1月9日、EU理事会は、EU-メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)と暫定貿易協定(iTA)の署名を承認し、手続きは署名・欧州議会同意・締結のフェーズへと進みました。europediplomatic+1
ビジネス側としては、正式発効まで数年単位の待ち時間が生じ得ることを前提に、「先に動く部分」と「EMPA全面発効まで動かない部分」を切り分けて準備するのが合理的です。policy.trade.europa+1
以下では、2026年1月14日を基準日として、制度構造と企業の実務アクションをセットで整理します。nordiskpost+1

二本立ての構造:EMPAとiTA
EU-メルコスール協定パッケージは、法的に二つの文書に分かれて並走します。policy.trade.europa+1
- EU-メルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)
政治対話・協力・貿易を含む包括協定で、いわゆる「混合協定」に該当し、EUレベルに加えて全加盟国の批准が必要です。europediplomatic+1
EMPAが発効すると、iTAは廃止され、包括協定に一本化される設計になっています。europediplomatic - 暫定貿易協定(iTA)
貿易分野のみを切り出した暫定協定で、EUの専属権限に属する部分を対象とします。secnewgate+1
欧州議会の同意とEU理事会の締結決定を経たうえで、メルコスール側も自国の手続を完了すると、貿易ルールが先行して適用されることが想定されています。edit.wti+1
この結果、
- 貿易部分(iTA)が先に走る
- 包括協定(EMPA)の全面発効は、各国批准を待って後から追い付く
という時間差が実務上生じ得ます。policy.trade.europa+1
最新ステータス:2026年1月時点
EU理事会は2026年1月9日、EMPAとiTAの署名を認める二つの決定を採択し、EU側として署名に進む権限付与が完了しました。lapresse+1
今後は、EUおよびメルコスール各国による署名、欧州議会の同意、EU理事会による正式な締結という順で進みます。policy.trade.europa+1
一方で、農業分野を中心に反発は根強く、特にフランスなどで大規模な抗議行動が継続しています。internazionale+1
こうした政治的摩擦は、欧州議会での同意や一部加盟国の批准プロセスに不確実性として跳ね返る可能性があります。reuters+1
段階別の流れと企業の視点
以下は、政治合意から全面発効までの主なステップを、企業が見るべきポイントと合わせて整理し直したものです。europediplomatic+1
1〜4:EU内部手続が動き出すまで
- 政治合意
- 2024年12月6日に政治レベルで合意が成立し、協定の骨格が固まりました。nordiskpost+1
- 影響の大きい業界・品目の当たりをつけ、サプライチェーン単位で棚卸しを始める段階です。europediplomatic
- 文書整備
- 法的レビューと最終文言の調整を経て、テキスト・附属書が公開されます。policy.trade.europa+1
- 公開テキスト・附属書への入手ルートを確保し、関税撤廃表と原産地規則(PSR)から読み込みを開始します。policy.trade.europa+1
- 欧州委員会による提案
- 2025年9月3日、欧州委員会は、EMPAとiTAの署名・締結について理事会決定案を正式に提示しました。europediplomatic
- 「iTAが先行し、EMPAが後追いする可能性がある」というタイムラインを社内に共有し、発効シナリオを前提にした準備を組み立てる段階です。secnewgate+1
- 理事会が署名を承認
- 2026年1月9日、EU理事会が署名を認める決定を採択し、政治交渉から条約手続フェーズへ完全に移行しました。lapresse+1
- ここで最新の発効シナリオを更新し、反対国の姿勢や国内政治論点を「批准リスク」として織り込みます。reuters+1
5〜8:署名からiTA適用開始まで
- 署名
- EUとメルコスール諸国が協定に署名し、国際法上の意思表示を行います(署名時点では原則として関税はまだ動きません)。policy.trade.europa+1
- この段階から、契約条項に「関税変更時の価格見直し・納期調整・負担者の分界」などを明示的に入れ込み始めるのが現実的です。europediplomatic
- 欧州議会の同意
- 欧州議会は条文を修正するのではなく、同意(賛成)または不同意(反対)で判断します。policy.trade.europa+1
- 同意が得られない場合、理事会は協定を締結できず、貿易部分(iTA)も動きません。採決時期や関連委員会での議論を継続的にフォローする必要があります。safefoodadvocacy+1
- 理事会が締結(EU側の国内手続完了)
- 欧州議会の同意を受けて、EU理事会がiTAおよびEMPAの締結を決定します。europediplomatic+1
- iTAについては、理事会締結後、メルコスール側の国内手続が整い次第、発効・適用開始となります。edit.wti+1
- iTAの適用開始
- 条件が整うとiTAが発効し、関税・原産地規則・通関運用など貿易ルールが先行して適用されます。policy.trade.europa+1
- 原産地証明の実務(申告主体、自己申告の可否、サプライヤー証明の回収、保存年限など)を、この段階までに稼働可能な状態にしておく必要があります。edit.wti+1
9〜10:EMPA全面発効までの長い尾
- EMPAの批准完了待ち
- EMPAは混合協定であるため、全EU加盟国およびメルコスール側の国内批准を待つ必要があり、数年単位の期間を要する可能性があります。secnewgate+1
- iTAで動く領域(モノの関税・原産地・貿易救済等)と、EMPA全面発効まで凍結される領域(政治対話・協力や一部投資ルール等)を分けて管理することが重要です。europediplomatic+1
- EMPA全面発効
- 必要な批准がすべて完了するとEMPAが発効し、iTAは廃止されて一体の包括協定に置き換わります。policy.trade.europa+1
- その時点で、運用規程、紛争処理メカニズム、制度文言の差分を確認し、社内規程・マニュアルを「最終版」に統一していきます。europediplomatic
用語整理:署名・同意・締結・発効・仮適用
条約プロセスの用語は混同されやすいため、実務での意味合いに絞って整理します。policy.trade.europa+1
- 署名(signature)
合意文書に署名する段階で、政治的な意味合いは大きいものの、それだけで関税が直ちに下がるわけではありません。europediplomatic+1 - 同意(consent)
欧州議会が、協定に同意するかどうかを採決する段階で、EU側実務では最大の山場となります。secnewgate+1
同意がなければ、理事会は協定を締結できません。policy.trade.europa+1 - 締結(conclusion)
EUとして協定に法的に拘束されることを最終決定する行為で、理事会が決定します。europediplomatic+1
iTAの場合は、締結と相手側手続完了をもって、発効・適用開始につながります。edit.wti+1 - 発効(entry into force)・仮適用(provisional application)
自他双方の国内手続が整った時点で発効し、実務上の効果(関税減免等)が生じます。policy.trade.europa+1
欧州委員会は、EMPAのうち政治・協力分野の一部について、加盟国批准完了前に仮適用する案も示しており、適用範囲の線引きが今後の論点になります。secnewgate+1
批准リスクを左右する論点
欧州議会の政治力学
欧州議会は、協定テキストを細かく修正するのではなく、賛否の二択で同意を与えるかどうかを決めます。europediplomatic+1
反対票が多数となれば、EMPAだけでなくiTAも進まず、貿易部分全体が止まる結果となります。safefoodadvocacy+1
農業・環境分野の懸念
EU域内では、農業団体を中心に「安価な南米産品との不公正競争」「環境・衛生基準のギャップ」に対する懸念が強く、フランスなどで継続的な抗議行動が行われています。reuters+2
これらの反発は、加盟国政府のスタンスや欧州議会内の投票行動に影響を及ぼし得るため、政治的リスクとしてモニタリングが必要です。reuters+1
セーフガード(緊急輸入制限)設計
理事会や欧州委の説明では、敏感な農産品分野の市場攪乱に迅速対応できるよう、特別なセーフガード措置を含めることが政治的受容性を高める鍵とされています。safefoodadvocacy+1
企業としては、自社の取扱品が「敏感品目」やセーフガードの対象となり得るかを確認し、発動時の価格・数量リスクを契約条件に織り込む必要があります。edit.wti+1
企業が今から着手すべき準備
批准待ちの期間を「待機時間」ではなく「設計時間」として前倒しで使うことが、実務上の勝ち筋になります。europediplomatic
特に、貿易分野がiTAで先行適用される設計である以上、関税よりも前に原産地規則・通関運用の設計を固めておくことが重要です。policy.trade.europa+1
- 対象品目の優先順位付け
関税メリットが大きい品目、原産地判定が難しい品目、多段階サプライチェーンを持つ品目を優先的に抽出します。europediplomatic - 原産地規則の読み方:条文より附属書から
iTAには、一般原則に加え、品目別原産地規則(PSR)と関税撤廃スケジュールを定める附属書が組み込まれています。policy.trade.europa+1
実務上の「設計図」は附属書側に集約されているため、HS分類別にPSRと撤廃スケジュールを突き合わせて読むのが効率的です。edit.wti+1 - 通関実務フローの設計
原産地証明方式(輸出者/輸入者/サプライヤーの自己申告可否)、検認対応フロー、証拠書類の保存期間などを、協定テキストと税関ガイダンスを前提に標準化します。edit.wti+1 - 契約条件の整備
発効時期が読みづらい協定では、発効前後の価格条件、関税負担者、遡及適用の取り扱い、返品・キャンセル条件などを契約上で明確にしておくことが、紛争予防に有効です。europediplomatic
どの一次情報を追えばよいか
迷ったときは、以下の三つに立ち返ると構造が把握しやすくなります。policy.trade.europa+1
- EU理事会のプレスリリース
署名承認の事実、次の手続き、EMPAとiTAの関係性、政治的メッセージを押さえることができます。lapresse+1 - 欧州委員会のEU-メルコスール協定ページ
協定の位置づけ、交渉経緯、基本構造(EMPAとiTAの二本立て)を俯瞰できます。europediplomatic - 協定テキスト公開ページ
iTAとEMPAの構成、発効・適用条件の説明、各附属書(関税スケジュール・原産地規則等)への導線が整理されています。policy.trade.europa+1
実務的な要点の整理
- 2026年1月9日、EU理事会はEMPAとiTAの署名を承認し、協定パッケージは署名・同意・締結フェーズへ進んでいる。lapresse+1
- 協定はEMPAとiTAの二本立てで、貿易部分(iTA)が先に適用され得る一方、包括協定(EMPA)の全面発効は加盟国批准が必要で長期化し得る。policy.trade.europa+1
- 最大の不確実性は欧州議会の同意と各国の政治状況であり、農業・環境をめぐる反対運動が採決環境に大きく影響する。internazionale+2
- 企業側は、関税率そのものよりも先に、原産地規則・証明スキーム・通関運用・契約条件を設計しておくことで、発効日に耐える体制を整えるべきである。europediplomatic+1
- https://europediplomatic.com/2026/01/09/eu-endorses-mercosur-free-trade/
- https://policy.trade.ec.europa.eu/eu-trade-relationships-country-and-region/countries-and-regions/mercosur/eu-mercosur-agreement/text-agreement_en
- https://www.nordiskpost.com/2026/01/10/eu-members-backed-mercosur-trade-agreement/
- https://www.secnewgate.eu/eu-mercosur-partnership-launching-a-historic-ratification-after-25-years/
- https://edit.wti.org/document/show/4da58773-ed1b-4588-ac3b-5e64d37d82c6
- https://uk.lapresse.it/world-en/2026/01/09/mercosur-with-the-vote-of-the-27-eu-countries-concluded-the-agreement-has-been-given-the-green-light/
- https://www.internazionale.it/ultime-notizie-reuters/2026/01/13/french-farmers-stage-new-paris-protest-in-bid-to-halt-mercosur-deal
- https://jp.reuters.com/video/watch/idRW522008012026RP1/
- https://www.reuters.com/world/americas/eu-countries-expected-clear-signing-record-mercosur-trade-deal-2026-01-09/
- https://www.safefoodadvocacy.eu/the-council-greenlights-the-signature-of-the-eu-mercosur-partnership-and-trade-agreement/
- https://www.dailysabah.com/business/economy/about-350-tractors-steered-into-paris-to-protest-eu-mercosur-deal
- https://x.com/EUCouncilPress/status/2009668725952393586
- https://gayaone.com/en/world-events/breaking-news/eu-member-states-provisionally-approve-mercosur-trade-pact-after-two-decades
- https://www.youtube.com/watch?v=MvYoGv30X8g
- https://www.reuters.com/business/eu-member-states-confirm-approval-signing-eu-mercosur-trade-agreement-2026-01-09/
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック