ビジネス現場での読み替えと、通関リスクを減らすための手当て
1. はじめに
HSコードは、関税だけでなく、原産地規則の品目別規則、輸出入規制、統計、移転価格や社内マスタ統制まで波及します。ところが現場では、製品の機能が高度化し、電気機器(Ch.85)と計測機器(Ch.90)の境界が曖昧になりやすい。
そこで重要になるのが、WCO(世界税関機構)のHSC(Harmonized System Committee)が採択する分類決定です。第76会期(2025年9月)では、議題71件の審査、40件の分類決定などが公表されました。
本稿では、公開されている第76会期の分類決定(留保対象を除く一覧)を材料に、Ch.85を中心に、Ch.90との境界実務に効く「信号」を深掘りします。なお、WCO文書自体が、当該決定の各国での実装は輸出入国で確認するよう注意喚起しています。ここが実務上の出発点です。

2. まず押さえるべき前提
2.1 分類決定は「世界の物差し」だが、各国実装の確認が必須
第76会期の分類決定一覧は、「留保対象を除く決定」を掲げ、輸出入当事者に対し、輸出入国での実装状況の確認を求めています。
実務では次の二段構えが安全です。
- WCO決定で世界標準の方向性を把握する
- 輸入国の関税率表、分類通達、裁定、運用で確定させる
2.2 Ch.85とCh.90の境界は「機能」と「注記」で決まる
境界論で見落としがちなのが注記です。
・Section XVI(Ch.84-85)では、そもそも「Ch.90の物品は対象外」と明記されています。
・一方、Ch.90側は「Section XVI注3・注4の考え方をCh.90にも適用する」と規定しています。
つまり、電気要素があるからCh.85、精密っぽいからCh.90、といった感覚分類は危険で、注記と機能の整理が必須です。
3. 実務信号その1 通信インフラは「8517で束ねる」圧が強い
3.1 事案の要点 Remote Radio Unitを8517.79へ
第76会期の分類決定には、携帯基地局を構成するDU(Digital Unit)、RU(Radio Unit)、アンテナのうち、RUに当たる「Remote Radio Unit」が登場します。トランシーバ基板、増幅器、フィルタ等で構成され、DUの制御下でRF信号の変換、フィルタリング、増幅を担う、と説明されています。分類は8517.79で、根拠としてSection XVI注2(b)が明示されています。
3.2 何が「信号」なのか
ポイントは、単体で完結する機器というより、基地局というシステム機能の中での役割と、専用性(solely or principally)が評価軸になっている点です。Section XVI注2(b)は、特定機械に専ら又は主として使用される部品は、その機械と一緒に分類するという基本を示します。
基地局関連は、製品名が基板、ユニット、モジュールとバラけるため、社内マスタ上で別カテゴリ扱いになりがちですが、通関では機能体系と専用性の立証が勝負になります。
3.3 ビジネス上の手当て
- 製品説明資料の整備
システム構成図、I/F仕様、搭載先機器、代替用途が限定される理由を一枚で説明できる形にする。 - 部品認定の証拠づくり
販売先の限定、取付互換性の限定、ファーム更新や制御がDU前提である点など、専用性の根拠を揃える。 - 関係部署の合意
通信機器部品は、品番統合、原産地判定、関税影響が連鎖する。分類部門だけで閉じず、調達、営業、法務、原産地担当と早期に握る。
4. 実務信号その2 コンセント系は8536に寄せ、迷いは号レベルで決着させる
4.1 事案の要点 マルチソケットアダプタは8536.69
2口や3口のマルチソケットアダプタ(ソケット複数とプラグが同一筐体)は8536.69。候補として8536と8537が比較され、8536が選ばれています。
4.2 事案の要点 スイッチ付きは、号レベルでGRI 3(c)が登場
1口ソケット、オンオフスイッチ、プラグを同一筐体に収めたスイッチングアダプタも、結論は8536.69。ただし号レベルでGRI 3(c)が使われています。
これは実務的に重要です。製品が「スイッチ」でもあり「プラグ・ソケット」でもある場合、どちらが本質かが決め切れないと、最後の手段として数値順で決着する場面がある、という示唆になります。
4.3 ビジネス上の手当て
- 商品企画段階で、分類が割れる仕様を把握する
スイッチ追加、ブレーカ追加、USB給電追加など、機能追加がHSを動かすポイントになりやすい。 - 型番体系とマスタを、機能差分でグルーピングする
見た目が似ているだけで同一HSにまとめると、監査で説明不能になりやすい。 - 競合品情報は参考止まり
同じように見えても、定格、構造、保護機能、接続形態で結論が変わり得る。WCO決定は「論点の地図」として使い、自社品に引き当てる。
5. 実務信号その3 電源タップとコードリールは8544へ寄せる判断が明確になった
5.1 事案の要点 電源タップ一群が8544.42
複数ソケット、オンオフスイッチ、過負荷時のサーキットブレーカ等を備え、1.5mや5mの電源ケーブルとプラグを持つ電源タップが、複数パターンで8544.42に分類されています。候補として8536、8537、8544が比較され、根拠にSection XVI注3が掲げられています。
さらに、ケーブル長が長いコードリール型でも8544.42に整理されています。
5.2 何が「信号」なのか
Section XVI注3は、複合機能を持つ機械等は、主たる機能で分類するという考え方です。
電源タップは、保護機能やスイッチが目立つため8536や8537に寄せたくなる場面があります。しかしWCO決定は、ケーブルとコネクタを備えた「通電・接続」の性格を主に見て、8544へ寄せています。実務上、タップ類の分類は各国で論点化しやすく、監査でも頻出です。ここで方向性が明確になった意義は大きい。
5.3 ビジネス上の手当て
- 8544寄せの説明書きを用意する
ケーブル一体、定格、コネクタ形状、使用態様を整理し、なぜ主機能が通電・接続なのかを社内標準文に落とす。 - タリフと規制の二次影響を洗う
関税だけでなく、対策関税、輸入統計、特定規制品目の該当性が動く場合がある。 - 既存SKUの棚卸し
同一カテゴリ内で、ケーブル有無、保護機能有無、延長形態の違いが混在していないかを点検する。
6. Ch.90の実務信号 今回の決定をどう「境界案件」に使うか
6.1 直接のCh.90決定がなくても、使える論理がある
公開されている第76会期の分類決定一覧では、Ch.85の論点が中心で、Ch.90の具体案件は表に出ていません。
それでも、Ch.90の境界案件に転用できる理由は2つあります。
- Section XVIはCh.90を除外するという大原則がある。
- Ch.90は、Section XVI注3・注4の考え方を取り込む。
6.2 境界案件での実務フレーム
次の順で整理すると、社内合意が取りやすく、監査耐性も上がります。
- 物品の役割を一文で定義する
測るための道具か、信号を送るための装置か、制御するための装置か。 - その役割が、Ch.90の計測・検査として自立しているかを点検する
Ch.90には、計測・検査・医療など固有の領域があり、該当するならSection XVI側に引きずられない設計になっています。 - 複合機能なら、主たる機能と明確な機能を見極める
Section XVI注3・注4の考え方は、複合機能品の整理に使えます。 - 部品か本体かを、専用性で立証する
専ら又は主として使用されるかどうかの立証は、Ch.85でもCh.90でも監査で問われやすい論点です。
6.3 典型的な現場の落とし穴
- センサーに通信機能があるからCh.85、と短絡する
通信は付随で、測定結果の取得が本体価値なら、Ch.90の可能性を丁寧に検討すべきです。 - 電気基板が入っているからCh.85、と短絡する
Ch.90は電気式の計測機器も多く、電子化は分類を自動的に85へは動かしません。 - 部品扱いのまま、用途説明を省略する
部品は専用性の説明が生命線で、ここが薄いと残余項へ押し込まれやすい。
7. まとめ ビジネスでの実装チェックリスト
- 通信インフラ部品は、システム専用性の立証を前提に、8517の体系で整理する。
- コンセント系は、8536中心に整理し、複合要素は号レベルでの決着も想定して根拠を整える。
- ケーブル一体の電源タップとコードリールは、8544寄せの論理が強い。製品群の棚卸しが費用対効果の高い打ち手になる。
- Ch.90境界は、除外規定と、注3・注4の共通ロジックで社内判断を整流化する。
8. 一次資料として参照した主要ソース
・WCOニュースリリース(第76会期の成果概要)
・Classification Decisions – HS Committee 76th Session(留保対象を除く分類決定一覧)
・HS 2022 Section XVI Notes(注2、注3など)
・HS 2022 Chapter 90 Notes(注2、注3など)
免責事項
本稿は、WCOが公開した資料に基づき、一般的な情報提供として作成したものであり、特定貨物の最終的なHSコード確定、法令解釈、通関可否、税額計算、監査対応方針を保証するものではありません。実際の分類・申告は、貨物の仕様、提示形態、契約条件、輸入国の関税率表・通達・裁定、当局運用により結論が変わり得ます。重要案件は、輸入国税関への事前教示や専門家への個別相談を推奨します。
