米CBP判旨に学ぶ「電池と充電器のセット」は何が本質か

ビジネス現場で効くHTS分類と追加関税リスクの読み解き

1. なぜ今「電池と充電器のセット判断」が重要なのか

1-1. セット扱いは、HSコードが一本化される

電池(蓄電池)と充電器(バッテリーチャージャー)を一緒に輸入すると、米国では「小売用のセット」として取り扱われ、単品ごとではなく、セット全体を一つの品目として分類する場面が生じます。その場合、分類の決め手になるのが「本質(essential character)」です。つまり、電池と充電器のどちらがセット全体の本質を与えるのかで、最終的なHTSUSコードが変わり得ます。

1-2. 分類が変われば、コスト構造とリスクも変わる

分類は、単なる税番の整理ではありません。一般税率だけでなく、対中追加関税(Section 301)などの追加課税、統計報告、場合によっては社内の原価や価格戦略、契約条件、原産地・調達戦略にも波及します。今回取り上げるCBP(米税関国境警備局)の判断は、「電池の方が高価でも、充電器が本質になり得る」ことを明確に示した点で、実務への示唆が大きい事例です。

2. まず押さえる事実:NY N340642 と HQ H342925

2-1. どんな商品が争点になったのか

対象は、20V・4.0Ahのリチウムイオン電池パックと、当該電池を充電する充電器を同梱した小売パッケージです。電池は電動工具(ドリル、のこぎり等)で使用され、充電器は充電表示や故障監視回路を備える充電ベースとされています。

2-2. CBPの結論

CBPはこのセットを、電池(8507)ではなく、充電器(8504)側の品目として分類しました。NY N340642ではサブヘディング8504.40.9550に分類し、対中追加関税として9903.88.03の適用にも言及しています。
その後、2026年2月3日付のHQ H342925が、再審査請求を退けてNY N340642を維持し、判断を確定的に補強しました。

2-3. 時系列

・2024年6月26日:NY N340642(セットは8504.40.9550)
・2026年2月3日:HQ H342925(NY N340642をaffirm)

3. CBPが使った法的フレーム

3-1. セット分類の基本はGRI 3(b)

HTSUSの分類はGRI(General Rules of Interpretation)に基づきます。セットや混合品が複数の見出しに該当し得る場合、GRI 3(b)により「本質を与える構成要素」に従って分類する、というのが基本構造です。

3-2. 「本質」は価値割合だけでは決まらない

HQ H342925は、本質判断が「事案の事実関係に強く依存する」点を明示し、判断要素として、数量、重量、価値、そして何より「構成要素が使用上果たす役割」を挙げています。
ここが実務で最も誤解が生まれやすいポイントです。購買や原価の視点では、つい「高い方が主役」と捉えがちですが、CBPの本質判断はそれだけでは終わりません。

4. 深掘り:なぜ電池ではなく充電器が本質なのか

4-1. 依存関係が逆転していた

輸入者側は、セットの「主機能はエネルギーを貯蔵・供給すること」であり、電池こそ本質だと主張しました。また、価値構成として電池が63パーセント、充電器が37パーセントという点も強調しています。
それでもCBPは、充電器が本質だと結論づけました。その中核は、電池が充電器に依存しているという事実です。HQ H342925は、当該電池がUSBや汎用の壁面充電器のような一般的手段で充電できず、当該充電器がなければ充電できない点を重く見ています。結果として、充電器がないと電池は実質的に単回使用に近い性格になり、セットの目的である「再充電して繰り返し使う」という価値が失われる、という整理です。

4-2. ライフサイクルの視点:電池は交換され、充電器は残る

CBPは過去の判断枠組みを踏まえ、寿命と減価の違いも本質判断に組み込みました。たとえばHQ 968171では、充電池は使用前に充電が必要であり、充電のたびに充電器が必要になり、やがて電池が劣化して廃棄される一方、充電器は残り続けるという使用実態を整理しています。
HQ H342925でも同様に、リチウムイオン電池には有限のライフサイクルがあり、劣化すれば交換されること、交換用電池が販売されていることからも電池寿命が相対的に短い可能性が示唆されることを述べています。
この視点は、経営的にも直感的です。セットの購買動機が「電池そのものの入手」ではなく、「電池を繰り返し使える仕組みの入手(充電器の獲得)」に寄ると整理されやすくなります。

4-3. 用途の幅が違うと結論も変わる

HQ H342925は、電池側が本質とされた過去事例を丁寧に区別しています。鍵は「ユニバーサル電源か、専用ツール用電源か」です。
輸入者が引用したHQ 954061などは、電池パックが多用途の電源として機能する性格が強く、充電方法も代替手段があるなど、充電器が唯一の存在ではない状況がありました。
一方、今回のセットは、特定の工具群の専用電源として位置付けられ、充電器が不可欠な構造になっている点が重視されました。

4-4. 価値割合63パーセントでも逆転した理由

実務で最も学びが大きいのはここです。CBPは、価値が高いことを否定していません。否定したのは、価値だけで本質が決まるという発想です。
今回の整理を一言で言えば、電池は機能を発揮するために充電器を必須とし、充電器はセットの「再充電して使い続ける」という目的を成立させる中核装置である、ということです。だから価値割合が電池優位でも、本質は充電器側に寄り得る。これがHQ H342925の読みどころです。

5. 逆に「電池が本質」になり得るパターン

5-1. 電池が外部機器へ電力供給し、充電手段が複線化している

電池側が本質とされやすい典型は、電池パック自体が多用途の電源として機能し、充電器が唯一の充電手段ではない場合です。つまり、電池が主役で、充電器は付随的という構図です。HQ H342925は、この観点から過去事例を区別しています。

5-2. 電池側を本質とした例

HQ 954061では、キャリングケースに収納されたバッテリーパックが、電源供給という主目的を担うものとして整理されています。こうした事案では、本質が電池側に寄る可能性が高まります。

6. 実務への落とし込み:輸入者が今日からできる5つの手当て

6-1. 商品仕様で確認すべきチェックポイント

判断の分岐は、見た目よりも「依存関係」と「使用実態」です。次の観点を、製品仕様書と取扱説明書レベルで確認してください。

  1. 充電器が専用品か、汎用品か
  2. 電池の充電手段が充電器以外にあるか(USB、車載、ACアダプタ等)
  3. 電池は外部機器へ多用途に給電できるか、特定製品群に限定されるか
  4. 電池交換が前提になっているか(交換用電池の販売、寿命表示、保証条件)
  5. セットのマーケティング上の訴求点が何か(電池増量なのか、充電システムなのか)

これらは、HQ H342925が重視した論点そのものです。

6-2. 申告と監査に耐える資料の揃え方

分類は、説明責任の競技でもあります。セット判断や本質判断に備える資料としては、最低限次を揃えるのが現実的です。

・製品仕様書(電池容量、対応機器、充電方式、専用性)
・取扱説明書(充電手順、充電器必須かどうか)
・部品表と価格内訳(価値割合の根拠)
・販売形態(同梱形態、単品販売の有無、交換用電池の販売実態)

「価値割合が高いから電池が本質」と言い切るよりも、依存関係と使用実態を説明できるかが結果を左右しやすい、というのが本件の教訓です。

6-3. コスト試算の注意点:一般税率だけで終わらない

NY N340642とHQ H342925はいずれも、8504.40.9550の一般税率は無税である一方、中国原産の場合は9903.88.03に基づく追加25パーセントがかかり得る旨を述べています。
また、USITCのHTS検索でも、8504.40.9550の一般税率が無税であることが確認できます。

一方で、電池側(8507)に分類された場合の追加関税は、時期や改正で動きやすい領域です。過去の例として、8507.60.0020に対し追加7.5パーセントが適用される旨を示すCBPの個別判断例があります。
さらにUSTRは、リチウムイオン電池の追加関税率を25パーセントへ引き上げる方針(用途区分により段階的に実施)を示しています。
このため、分類議論と同時に、最新のHTSUSとChapter 99、CBPの運用指針を突き合わせたコスト試算が必須です。

6-4. 争点化したら:事前照会の位置付け

CBPの分類判断は事実依存であり、同じ「電池と充電器のセット」に見えても、充電方式や用途、販売形態が違えば結論も変わり得ます。米国では、所定の手続により事前の拘束力ある判断(ruling)を求める枠組みが整備されています。
大口案件や、関税影響が大きい案件ほど、仕様を確定させたうえで照会戦略を検討する価値があります。

7. まとめ:この判旨をどう使うか

今回のCBP判断は、「電池が主役」という思い込みを崩し、セットの本質を依存関係と使用実態で捉えるべきだと示しました。ポイントは次の3つです。

  1. 充電器が専用品で、電池がそれに依存するほど、充電器本質に寄りやすい
  2. 電池の寿命と交換可能性は、想像以上に本質判断へ効く
  3. 価値割合は重要だが、決定打ではない

自社商品の設計、同梱、販売、原産地、そして申告資料の作り方まで、分類に影響する要素は商品企画の段階から埋め込まれています。HSコード見直しを現場のコスト最適化とリスク低減につなげるなら、今回のような判旨から「何が本質と見られるか」を逆算して設計する視点が有効です。

免責事項

本稿は、公開情報に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的助言、税務助言、通関実務上の最終判断を提供するものではありません。個別案件の分類、税率、追加関税、優遇税率の適用可否は、商品の仕様、取引条件、原産地、輸入時点のHTSUS改正状況、CBP運用等により変動します。実際の輸入申告や契約判断にあたっては、最新版のHTSUSおよび関係当局の公表情報を確認のうえ、通関士、米国関税ブローカー、または貿易法務の専門家に相談してください。