ファーストセールの適用に対するCBPによる審査の厳格化

CBPによるファーストセールルール適用に対する審査は、2024年から2025年にかけて顕著に厳格化しており、不承認事例が増加している実態が確認されています。

審査厳格化の具体的な背景

CBPは2025年以降、ファーストセールルールの適用について「商業的実質性とリスク負担が各取引段階で実証されているケースのみを承認する」という明確な方針を打ち出しています。これは単なる書類チェックの強化ではなく、中間業者が単なるパススルー・エンティティ(仲介者)として機能していないか、実質的な買主・売主としてリスクと所有権を負担しているかを厳密に審査する姿勢を示しています。

不承認となる主な理由

近年の裁定事例(Ruling H327067など)では、以下の要件不備により適用が却下されています。

中間業者が貨物の所有権を取得していないケースや、インコタームズおよび文書上の記録から損失リスクを負担していないことが判明した場合、製造者と中間業者間の真正な販売(bona fide sale)が成立していないとCBPは判断します。また、支払記録がインボイス金額と一致しない、取引参照番号が欠落している、出荷から2年近く経過した後の支払いなど、タイムリーで直接的な支払証明がない場合も不承認となります。

訴訟事例に見る厳格化の実態

Meyer Corporation事件は、この厳格化傾向を象徴する重要な判例です。CBPは関連当事者間取引において、親会社の財務文書の提出を要求し、これが提出されなかったことを理由にファーストセール価格の使用を拒否しました。連邦巡回控訴裁判所は2024年12月、国際貿易裁判所がMeyerに対して「推測的な不利な推論」を不適切に適用したとして判決を破棄し、差し戻しましたが、この事例は審査の厳格度を示しています。

必要書類の要件強化

CBPが承認に必要とする完全な証跡には、全当事者間の締結契約書、発注書と商業インボイス、取引に直接紐付けられた支払証明、明確な所有権移転と納入条件を示す船積書類が含まれます。これらの書類が不完全または遅延している場合、輸入者が支払った全額(手数料を含む)に基づいて関税が賦課されます。

実務への影響と対応策

業界専門家は、現在のCBPの姿勢を「合理的注意義務は任意ではなく、コンプライアンス上の必須事項」と評価しています。ファーストセールルールを現在使用している、または検討している輸入者は、サプライチェーン構造とインコタームズの再評価、所有権移転・発注書・リスク負担に関する文書の見直し、中間業者が単なるパススルーではなく真正な買主・売主として機能していることの確認を行うべきです。

関税率上昇の環境下でファーストセールルールの関心は高まっていますが、CBPの審査基準が厳格化している現実を踏まえ、文書管理と取引構造の継続的な見直しが不可欠となっています。

FTA-BPOセミナー第12回ではご迷惑をおかけしました

昨日(2025年10月15日)のセミナーではご参加の皆様に大変ご迷惑をおかけしました。

一部の方に配信ができない不手際がございました。

原因は特定できましたので、次回はこのようなご迷惑をおかけすることがなきよう、勤めます。

昨日の内容は、YouTubeにアップいたしました。そちらをご覧いただけますと大変助かります。

本当にもうしわけございませんでした。

中国レアアース輸出規制と米国追加100%関税:実務者向けアップデート

2025年10月15日(日本時間)時点


現在の状況(要旨)

中国側の措置:2025年10月9日付で、レアアース関連物品と技術の輸出管理を大幅強化。中国原産レアアースを含む国外製造品にも域外適用(価値比率0.1%以上)。一部措置は12月1日施行。技術の「みなし輸出」も対象化。

米国側の措置:トランプ大統領が11月1日から中国からの輸入品に追加で100%関税を課す方針を表明(既存関税に上乗せ)。ただし発動は中国側の対応次第で、USTRは「実施可否は協議の行方で決まる」と発言。現時点で正式な官報告示は未掲載。


タイムライン

10月9日(中国):MOFCOM公告第61号/第62号を発表。中国原産のレアアース関連製品・技術を広範に輸出許可制に。国外製造品・技術利用品にも域外適用の枠組みを導入。

10月10日(米国):トランプ大統領、11月1日(または前倒しの可能性)から追加100%関税を発表。

10月14日(米国):USTRグリア代表、「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性も」と発言。米中は実務者協議中。

10月14–15日(中国/産業):中国は米側に事前通知済みと説明。レアアース磁石の輸出許可取得が厳格化との報道。


中国の新しいレアアース輸出規制(実務ポイント)

対象物品

レアアース関連物品と技術。永久磁石材料(NdFeBなど)、製錬分離、磁性材料製造、二次資源リサイクル関連技術等が含まれる。

域外適用(国外製造品への波及)

中国原産レアアースを0.1%以上(価値比)含む国外製造品の輸出(再輸出)にも中国の許可が必要(2025年12月1日施行)。輸出者は中国原産レアアース比率を示す「コンプライアンス通知書」の発行が義務。

技術規制・みなし輸出

外国人への社内提供(中国国内での提供)も「輸出」に該当。許可・事後報告等の義務あり。

直近の運用状況

磁石の輸出許可取得の審査が厳格化しているとの複数報道あり。

注記:JETROやCISTECの速報では、中・重希土類関連品目の拡大や対象リストの更新にも言及。対象品目の最終確認は各告示付属書を参照のこと。


米国の追加100%関税の位置づけ(現時点)

大統領は「既存の関税に上乗せ」と明言。多くの品目で合算155%程度(例:301条25%+IEEPA30%+今回100%)に達し得るとの日本向け解説が出ている。

正式発動は未確定で、USTRは中国側対応次第と説明。

法的実装の現状:この種の関税では、HTS改正・官報告示が必須。2025年10月15日時点でUSTRサイト/官報に11月1日開始の100%告示は見当たらず(現時点は「方針表明」段階)。

既存関税との関係:既存の追加関税の平均は約55%との米報道。今回が発動すると「さらに100%上乗せ」という整理。

実務メモ:米関税は「米国入港・輸入申告時点(entry)」で適用可否が決まるのが通例。船積日ではなく通関日に注意(最終は官報告示とCBPガイダンスで確認)。


影響が出やすい日本企業の領域

EV/HEVモーター用磁石、産業モーター、風力発電:レアアース磁石の供給ボトルネック化。欧州自動車業界へのリスク指摘も。

スマホ/PC、半導体製造関連、精密部材:研磨材や合金添加など希土依存の「隠れ用途」。

日系の対米輸出サプライチェーン:第3国生産品でも、中国原産レアアースを含むと中国側の輸出許可が必要(12月1日~)。


実務チェックリスト(部門別)

A. 調達・サプライチェーン

部材BOMの洗い出し:Nd、Pr、Dy、Tb、NdFeB磁石、研磨材等の中国原産レアアース含有有無と価値比を特定。0.1%閾値超の可能性を確認。

サプライヤー宣誓書:中国原産レアアース比率の記載・通知書(Compliance Notification)発行体制の整備。

代替調達の検討:非中国系の原料・磁石サプライヤーへのRFQ開始(リードタイム長期化前提)。市況のタイト化に留意。

B. 輸出管理・法務(中国発・域外適用対応)

中国向け社内規程の更新:みなし輸出(社内の外国人への技術提供)の許可要否判定フローを追加。

中国発の対外出荷:許可要否(軍事ユーザー・最終用途)を審査、事後報告などの手続を整備。

国外製造→第3国への再輸出(12月1日~):0.1%判定、通知書の発行、該当時の中国当局許可の実務を準備。

C. 対米輸入・販売(米国側)

11月1日適用品目・通関時点の管理:米国到着/輸入申告のタイミング調整(entry基準)。ブローカーとHTS・加算関税適用可否を仮設計。

価格・契約:Tariff pass-through条項、リオープナー(再交渉条項)、インコタームズの見直し(DDP/FOB/CIF)。

コスト試算例

  • 関税課税価格=$100
  • MFN 0%、既存:301条25%+IEEPA30%=55%
  • 今回:+100% → 合計155%
  • 関税=$155、到着原価(税抜)=$255(諸税・手数料別)
  • ※最終は品目ごとのMFN・免除・告示を要確認

よくある誤解と注意点

「船積日で逃げ切れる?」:多くの場合、米国通関日(entry)で判定。スケジュール遅延もリスク。

「第3国で組立てれば米100%は回避?」:米側の原産地判定は「実質的変更」が鍵。中国原産のままなら対象。逆に第3国原産になれば米100%の対象外になり得るが、中国側は0.1%域外適用で許可要になる可能性。

「もう確定発動?」:USTRは中国の対応次第と明言。官報告示と実装HTS改定の有無を必ず確認。


シナリオ別の想定

ベースケース:11月1日までに折衝継続、官報告示が出れば関税発動。

エスカレーション:前倒し発動や、対象拡大・追加的な輸出管理(米国側のソフト/技術規制強化)を併用。

ディエスカレーション:中国がレアアース規制の一部を緩和/運用緩和→100%追加関税見送りの可能性。


すぐに打つべき3アクション(日本のビジネス現場向け)

サプライヤー一斉調査(今週中):中国原産レアアース比率、磁石/粉末/合金の有無、0.1%超の可能性、通知書発行可否を調査。

輸送・通関計画の前倒し/後ろ倒し:米国通関日ベースで影響最小化。必要に応じて在庫の前倒し確保。

価格と契約の再設計:関税サーチャージ条項、価格自動調整、解除権、不可抗力条項の整備(官報告示発出をトリガーに)。


主要情報源

  • USTR発言:「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性」
  • 大統領発表:「11月1日から追加100%、既存に上乗せ」
  • 既存関税の上に積み上げ・合算155%程度の解説
  • 中国の新輸出規制の原文要点(公告61/62)と実務
  • 磁石許認可の厳格化報道/欧州自動車業界への波及懸念

実務上の注意

本メモは報道・公表資料に基づく整理です。米国側は官報(Federal Register)とHTS改定告示が最終根拠、中国側は公告・付属書の最新版が最終根拠です。最終判断前に貴社の通関業者・法律顧問・輸出管理責任者と必ず原典確認してください。

米国鉄鋼・アルミニウム関税(Section 232)の現状と企業対応の包括的整理(2025年10月11日現在)

2025年10月11日 アップデート

エグゼクティブサマリー

2025年3月12日に全世界一律25%へ再拡大されたSection 232関税は、6月4日に原則50%へ倍増され、8月には407品目の派生品が追加されました。英国のみ米英経済繁栄取引(EPD)により25%を暫定維持していますが、7月9日以降の見直し条項が付帯されています。ロシア原産アルミニウムには200%の懲罰的関税が継続適用され、含有価額ベースの二行申告とメルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード報告が義務化されています。


現段階での制度状況

関税率の推移と国別取扱い

2025年3月12日発効:全世界一律25%へ統一され、EU・日本・韓国・カナダ・メキシコ・英国の代替取決め及びTRQ(無税枠)が一括終了しました。商務省(BIS)の製品除外プロセスも停止され、一般承認除外(GAE)は3月11日24時をもって失効しています。

2025年6月4日発効:鉄鋼・アルミニウム及び派生品の関税率が50%へ倍増されましたが、英国のみEPD(5月8日署名)に基づき25%を維持しています。大統領布告では、商務長官が7月9日以降、英国のEPD遵守状況に応じてTRQ設定または50%への引上げ権限を有すると規定されています。

ロシア産アルミニウム:2023年3月のProclamation 10522により設定された200%の追加関税が継続適用されています。さらに、2025年6月28日以降、スモルト&キャスト原産国が不明または特定不能な派生アルミニウム製品にも200%関税が適用される運用が開始されました。

適用品目の大幅拡大

派生品の範囲拡張:商務省BISは2025年8月18日、407のHTSUS品目を新たに追加し、Chapter 72/73(鉄鋼)及びChapter 76(アルミニウム)以外の完成品・部材への適用を拡大しました。追加品目には風力タービン、モバイルクレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、コンプレッサー、ポンプなど産業機器・消費財が含まれます。

含有価額課税の導入:派生品については、鉄鋼・アルミニウム含有部分の価額に対してのみ50%関税を適用し、非金属部分には相互関税(Reciprocal tariff、現行10%)が適用されます。この二重課税構造により、企業はBOM(部品表)精度の向上が必須となっています。

自動車部品の追加プロセス:2025年9月17日、商務省は乗用車・軽トラック向け自動車部品をSection 232対象に追加するための暫定最終規則を公表しました。国内自動車・部品メーカーまたは業界団体が、年4回(1月・4月・7月・10月)の申請期間に追加要請を提出でき、ITA(国際貿易管理局)が60日以内に判断します。


申告実務とコンプライアンス要件

二行申告の義務化

CBPは、派生品の鉄鋼・アルミニウム含有価額と非金属部分を別行で申告する二行仕立て(Two-line entry)を義務化しました。

第1行(非金属部分):Chapter 1-97の通常HTSコード、総申告価額から金属含有価額を控除した金額、製品全体の数量、相互関税・AD/CVD等の適用関税を記載します。

第2行(金属含有部分):同一HTSコード、金属含有価額、数量ゼロ(製品数)、Section 232関税(HTS 9903.81.91等)、金属重量(kg単位)を記載します。金属含有価額が不明または申告価額と同一の場合は、全額に対して232関税を適用し、一行申告となります。

メルト&ポア/スモルト&キャスト報告

鉄鋼:メルト&ポア(溶解・注湯)が行われた国をISO国コードで報告する義務があります。派生品の場合は、原鋼のメルト&ポア国または「OTH」(その他)を記載します。

アルミニウム:スモルト&キャスト(製錬・鋳造)国をISO国コードで報告します。ロシア由来の混入を防ぐため、スモルト&キャスト国が不明な場合は200%関税が適用されるリスクがあります。

米国鋼材活用の特例措置

米国内でメルト&ポアされた鋼材を用いて海外で加工された派生品は、HTS **9903.81.92(関税率0%)**の適用対象となります。この措置は、米国鋼材産業の支援とサプライチェーン再構築を促進する戦略的インセンティブです。

FTZ・ドローバックの制約

FTZ(外国貿易地域):Section 232対象品目をFTZに搬入する場合、Privileged Foreign Statusでの取扱いが必須となりました。3月12日以前にPFSとして搬入された貨物も、消費引取時には232関税が適用されます。

ドローバック不可:Section 232関税は払戻対象外(No drawback)であり、再輸出時の関税還付が認められません。


企業に求められる対応

A. 輸入実務・コンプライアンス体制の再構築

HTSコード総点検:全SKUについて407品目追加を反映したHTS見直しと232該当性の再評価が必要です。特にChapter 73/76以外の派生品の追加指定を確認し、自社製品ポートフォリオへの影響を定量化します。

含有価額算定システム:サプライヤーから鉄鋼・アルミニウム含有価額($/kg)、重量(kg)、メルト&ポア/スモルト&キャスト国のISO国コード、ロシア由来有無の証明書を取得する仕組みを構築します。請求書・BOM・梱包明細を二行申告フォーマットに整合させます。

監査対応準備:CBPは「過少申告には重大な金銭的制裁、輸入特権の喪失、刑事責任を含む厳格な措置を講じる」と明示しており、証跡管理の強化が急務です。

ロシア規制の徹底:アルミニウム製品については、サプライチェーン全体でロシア由来混入リスクを評価し、200%関税回避のためのトレーサビリティを確保します。

B. サプライチェーン・調達戦略の見直し

米国鋼材活用戦略:HTS 9903.81.92(0%)適用により、米国メルト&ポア鋼材を用いた海外加工モデルの経済性を検証します。米国内サプライヤーとの連携強化や、自社設備の米国内増強を検討します。

代替材・リサイクル材の評価:アルミニウムは50%関税による需要破壊リスクが指摘されており、リサイクル材の活用や設計変更による使用量削減を評価します。

現地化・統合の加速:日本製鉄のU.S. Steel買収(2025年6月18日完了)のように、米国内での生産体制統合により232リスクを構造的に回避する選択肢を検討します。

C. 価格・契約条項の整備

サーチャージ条項の高度化:Section 232(50%)、IEEPA相互関税(10%)、中国向けフェンタニル関税(20%)の積上げ/非積上げルールを反映した価格式を導入します。6月4日布告では、232対象の非金属部分に相互関税が適用される運用変更があったため、価格式の見直しが必須です。

イベントドリブン改定条項:BIS派生品追加、関税率変更、EPD運用変更等のトリガーイベント発生時に自動価格改定する契約条項を設定します。

資金繰り対策:50%関税により輸入1件あたりの関税支払額が倍増するため、信用状・担保枠・運転資金の再評価と、Cash Conversion Cycle(CCC)への影響分析が必要です。

D. ガバナンス・継続的監視体制

規制更新の定点観測:BIS派生品追加(次回窓口:2025年10月)、英国EPD実装状況、CBP CSMS更新、木材製品への232拡大(10月14日発効)等を継続監視します。

横断組織の設置:関税・SCM・購買・設計・法務・経理の横断チームを編成し、SKU単位のリスク台帳・シナリオ分析・対策ロードマップを維持します。


具体的企業の対応事例

日本製鉄(Nippon Steel)

2025年6月18日、CFIUSの国家安全保障協定(NSA)に基づきU.S. Steelの買収を完了しました。NSAには「Golden Share」(米国政府が取締役1名を指名し、本社移転・社名変更・生産移転・工場閉鎖等に拒否権を保有)が含まれ、日本製鉄は2028年までに110億ドル(うちペンシルベニア州モンバレー地域に24億ドル)の設備投資を約束しました。この統合により、232輸入関税リスクを回避しつつ米国内供給基盤を強化する戦略を実現しています。

UACJ(アルミ圧延大手)

2025年3月12日の25%関税導入(後に50%へ移行)を受け、価格サーチャージの導入、定期的な価格見直しメカニズム、米国内生産能力の増強方針を明示しました。

自動車OEM

GMは2025年決算説明で、Section 232の50%関税および他関税の重畳がコスト構造を圧迫していると公表しました。トヨタ・ホンダも、米国輸入関税と円高の影響により減益圧力に直面しており、価格戦略・仕向地配分の見直しを進めています。

金属缶製造業界

Can Manufacturers Institute(CMI)は、50%への引上げが食料品・飲料価格の押上げにつながるとして反対を表明しました。

下流産業への波及

8月の派生品追加により、建設機械部品・家具・ポンプメーカーなど400超の品目を扱う企業が新たに対象となり、設計変更・価格見直し・サプライチェーン再編を迫られています。


実務Tips

  1. BOMからの価額抽出:社内BOMシステムから鉄鋼・アルミニウム含有価額を抽出し、請求書項目を二行申告フォーマット(製品行+232行)に整備します。232行には重量(kg)も記載します。
  2. 仕入先証明テンプレート:メルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード、ロシア由来有無、含有価額比率、重量を記載した証明書取得用テンプレートを作成し、全サプライヤーに展開します。
  3. 米国鋼戦略の検証:対象派生品について、米国メルト&ポア鋼+海外加工モデルで**HTS 9903.81.92(0%)**適用の可否を確認します。
  4. 動的価格条項:Section 232・IEEPA・相互関税の非積上げ/積上げルールに対応し、トリガーイベント発生時に自動改定する価格式を導入します。
  5. 規制監視ダッシュボード:BIS派生品追加窓口(10月1日開始)、英国EPD運用状況、CBP CSMSメッセージング、木材製品232(10月14日発効)をウォッチする定点観測体制を構築します。

制度根拠(一次情報)

Proclamation 10896(鉄鋼、2025年2月10日):代替取決め/TRQ終了、製品除外停止、25%統一関税を規定。

Proclamation 10895(アルミニウム、2025年2月10日):同上のアルミニウム版、ロシア産200%継続を明記。

Proclamation(2025年6月3日):鉄鋼・アルミニウム関税50%への引上げ、英国25%維持、含有価額課税・計算ルールを明確化。

BIS Federal Register Notice(2025年8月19日):407品目追加の公示。

CBP CSMS # 64348411(2025年3月7日):鉄鋼の二行申告、ISO国コード報告、TRQ・GAE終了、FTZ/ドローバック実務を提示。

CBP CSMS # 65236374(2025年6月3日):50%への増税に伴う申告指示の更新。

Commerce Interim Final Rule(2025年9月17日):自動車部品の追加プロセス確立。


補足:影響度試算の考え方

鉄鋼含有価額$1,000の輸入品の場合、232関税(50%)により**$500の追加コスト**が発生します。派生品の非金属部分(例:$2,000)には相互関税(10%)=$200が別途適用されるため、合計$700の追加関税となります。BOMの精度向上により金属含有価額を正確に切り分けることが、節税の最重要ポイントです。


この改訂版は、提出された調査内容の正確性を確認した上で、最新の規制動向(自動車部品追加プロセス、木材製品への拡大、不明原産国への200%適用等)、実務詳細(二行申告の具体的記載方法、Golden Shareの詳細等)、企業事例の補強を行いました。

インドネシアのHSコード事前教示制度:PKSI実務ガイド

制度名:PKSI(Penetapan Klasifikasi Sebelum Impor:輸入前分類の事前決定)
最終確認:2025年10月7日

1. 所管組織と公式情報源

所管機関
財務省 税関総局(DJBC/Direktorat Jenderal Bea dan Cukai)

主要URL

制度の定義・出願主体・提出方法・必要資料・処理期限・有効期間の要点が、DJBC公式ページとPMK本文に明記されています。

2. 事前教示(PKSI)のプロセス

対象
輸入前のHS分類(関税分類)の事前決定

申請者
インポーター(輸入者)に限定(個人・法人を問わない)

申請から決定までの流れ

  1. 申請準備
    PMK付属書(Lampiran A)の様式に基づき作成
    提出先:DJBC本部「Direktur Jenderal u.p. Direktur Teknis Kepabeanan」宛
  2. 提出経路
    • 電子メール提出、または
    • 本部窓口(loket)での直接提出
  3. 形式審査と補正
    審査過程で追加資料・サンプル等の提出を求められる場合があり、要請日から14営業日以内に補充が必要(未提出の場合は却下)
  4. 決定通知
    完全書類の受領後、最長30営業日で「PKSI決定」または「不受理通知」が発出される
  5. 申告時の取り扱い
    PKSI番号・日付をPIB(輸入申告)に記載し、決定書の写しを添付

運用上の留意点
PKSIは義務ではなく、輸入手続はPKSIなしでも可能です。論点のある品目を選択的に申請するのが実務的とされています。

3. 申請に必要な情報

申請書(Lampiran A)に加え、以下の技術資料のうち該当するものを添付します(PMK第3条3項/DJBCページに列挙):

  • 商標(Brand)
  • 写真/パンフレット(Brosur)
  • カタログ
  • 製品仕様書(Product specification)
  • Mill certificate(材料証明書等)
  • 製造工程フロー
  • MSDS(Material Safety Data Sheet)
  • 分析証明書(Certificate of analysis)
  • 試験結果(税関ラボまたは外部ラボ)
  • その他、分類判定の判断材料となる文書

必要に応じてサンプル提出を指示される場合があります。

4. 標準処理期間

  • 標準処理期間:30営業日以内(完全書類の受領日または追加資料の完全受領日から起算)
  • 補充期限:当局からの追加資料・サンプル要請に対し14営業日以内に対応(未対応の場合は申請却下)

5. 有効期間と拘束力

有効期間
発出日から3年間。ただし、貨物の同一性(決定書記載との一致)や法令改廃等の条件により失効します。

拘束力
対象貨物が同一であれば、税関はPKSIに従って分類します(PMK第9条)。

6. 申請手数料

政府手数料
DJBCの標準サービス文書において「不徴収(Tidak dipungut biaya)」と案内されています。

※ただし、外部ラボ分析やサンプル輸送等の実費が生じる場合があります(個別指示ベース)。

7. その他重要事項

提出要件(申請資格)

  • 申請時点で当該貨物のPIB(輸入申告)をまだ提出していないこと
  • 当該貨物が不服申立て・訴訟の対象になっていないこと

見直し(Peninjauan)
PKSIに異議がある場合、決定日から30日以内に新証拠を添えて見直し申請が可能。見直し結果は30営業日以内に発出されます。

PIBでの表示義務
PKSIの番号・日付の記載と決定書の添付を忘れないようにしてください。

BTKI(HSの国内体系)
分類は**BTKI(PMK 26/PMK.010/2022等)**に基づきます。INSWの品目検索(INTR)・相関表も併用すると整合確認が容易です。

相談・問い合わせ
DJBCユーザーサポート窓口(Service Desk/Call Center CEISA)の連絡先が公開されています:

PKSIは任意手続
論点の大きい品目を選んで出願するのが効率的です(当局説明資料)。


申請を成功させる実務TIP

  1. 「分類の決め手」が一目で分かる技術資料を用意
    用途・機能・構造、材質・組成%、工程、写真・図面、他国裁定やWCO ENの根拠など
  2. 追加資料要請(14営業日)に即応できる体制構築
    サプライヤ・品質・法務部門と事前に連携しておきます
  3. PIB提出前に余裕をもって申請
    ヒアリング→補充→決定まで30営業日が目安です

参考リンク

新聞記事「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ」の信憑性について:AIによる確認

これは、2025年10月3日にロイター通信が最初に報じ、その後、日本の時事通信などが追って報じたニュースに基づいています。以下に、報道内容の詳細と現時点での注意点をまとめました。


報道内容の詳細まとめ

1. 報道の概要

2025年10月3日、ロイター通信が共和党上院議員や業界関係者からの情報として、「トランプ政権が、米国内で自動車を生産する大手メーカーを対象とした関税負担の軽減措置を拡充・延長する見通しである」と報じました。

2. 主な対象企業

この措置の対象として、米国内での生産比率が高い以下の企業が挙げられています。

  • トヨタ自動車
  • ホンダ
  • フォード・モーター
  • ゼネラル・モーターズ(GM)
  • テスラ

3. 検討されている具体的な措置内容

報道によると、トランプ政権は2025年5月に発動した自動車部品に対する25%の追加関税について、その負担を相殺するための制度を拡充する方向で検討しています。

  • 免除割合の据え置き: 現在、米国内で組み立てた車両の小売価格に対して、関税負担を免除する割合が設定されています。この割合は当初の**3.75%**から段階的に縮小される予定でしたが、これを据え置くことが検討されています。
  • 期間の延長: この負担軽減措置の適用期間を、当初の予定より長い5年間に延長する案が浮上しています。
  • 対象品目の拡大: 自動車本体だけでなく、エンジンもこの軽減措置の対象に含めることが検討されています。

4. 背景

この動きの背景には、2025年4月以降にトランプ政権が発動した一連の自動車関連の追加関税があります。乗用車本体の関税が大幅に引き上げられた一方、サプライチェーンの国内回帰と米国内での生産を促進する目的で、今回のような「アメ」となる措置が検討されているものと見られます。


注意点:現時点での情報の位置づけ

重要な点として、今回の報道はあくまで「見通し」や「検討段階」の内容であり、まだ正式に決定・発表されたものではありません

  • 情報源: 報道は、政府の公式発表ではなく、匿名の業界関係者や一部の与党議員の話に基づいています。
  • 不確定要素: 今後、具体的な措置の内容や条件が変更される可能性や、最終的に実施に至らない可能性も残されています。

したがって、このニュースは「トランプ政権内で有力な検討が進められている」と理解するのが現時点では最も正確です。今後の正式な発表が待たれる状況です。

FTA-BPOセミナー013 「FTA業務でのAI活用:可能性と限界」

FTA-BPOセミナー013 「FTA業務でのAI活用:可能性と限界」の日時が決まりました。


昨今、AI活用が叫ばれており、FTA業務もその例外ではありません。原産地証明、HSコードなど適用領域は多くありますが、その一方でAIを使う事による問題も生じています。

どういう点を考えるべきなのかを、ロジスティックが作ったAIモデルを使っていただき、皆さんと経験を交えてお話ししていきます。

■■ 講演者 ■■
株式会社ロジスティック 代表取締役 嶋 正和 氏

■■ 開催日時 ■■
2025年11月13日(木) 14:00~15:00

■■ 開催場所 ■■
Webのみでの開催(Teams利用予定)

■■ セミナー関連情報 ■■

AIを活用したHS Code Finder

セミナーへのご参加は、実際にHSコードを活用する企業に限定させていただきます。
お申し込みの後、セミナー当日午前中にご参加頂く方にリンクをお送りいたします。

■■ 申込み ■■
こちらからお申し込み下さい。

米国の対サブサハラ・アフリカ無税特恵制度「AGOA(African Growth and Opportunity Act、アフリカ成長機会法)

1. AGOAの現状と最新動向

AGOAとは
「9月末失効」は、米国の対サブサハラ・アフリカ無税特恵制度「AGOA(African Growth and Opportunity Act、アフリカ成長機会法)」を指します。現行法の失効期限は2025年9月30日で、米税関国境警備局(CBP)の公式ページにも「直近の再授権期限は2025年9月30日まで」と明記されています。

延長の見通し
2025年9月30日時点で、議会による延長法案は成立していません。ただし、米政権は1年間の延長を支持する方針を示しており、超党派の支持もあるものの、成立時期は不透明です。一方で、ホワイトハウスの対応が遅いとする報道も出ています。

追加関税措置の影響
2025年4月以降、米国は自動車および部品に追加25%の関税を課すなど、広範な関税措置を実施しています。このため、AGOAによる特恵が残っていても、追加関税によって実質的な優遇効果が相殺される状況が生じています(特に南アフリカの自動車輸出)。関連する大統領布告および省庁ガイダンスは既に公表されています。


2. AGOA適格国(2025年時点)

米通商代表部(USTR)の公式リスト(2025年版)に基づく適格国は以下の32か国です(※ルワンダは「衣料特恵が2018年7月31日より停止中」との注記あり)。

適格国一覧(アルファベット順)
アンゴラ、ベナン、ボツワナ、カーボベルデ、チャド、コモロ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、エスワティニ、ガンビア、ガーナ、ギニアビサウ、ケニア、レソト、リベリア、マダガスカル、マラウイ、モーリタニア、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ(衣料特恵停止中)、サントメ・プリンシペ、セネガル、シエラレオネ、南アフリカ、タンザニア、トーゴ、ザンビア

参考
ブルキナファソ、エチオピア、ウガンダ等は2025年時点で非適格となっています。適格国リストは毎年見直されます。


3. 打撃が想定される国と産業

AGOA制度下での**非石油製品輸入の主力は「自動車(完成車)」と「アパレル」**です。2023年の主な内訳は、自動車が19億ドル、アパレルが11億ドルでした。アパレルの主要供給国はケニア、マダガスカル、レソト非石油製品全体では南アフリカが最大です。その他、加工カカオ製品(ガーナ、コートジボワール)、柑橘類(南アフリカ)、フェロアロイ、銅関連製品(ザンビア等)も主要品目です。

以下、AGOA失効(無税特恵の消滅)と米国の追加関税措置が重なることで打撃が大きいと想定される国と産業を影響度の高い順に示します。

南アフリカ:自動車(完成車・部品)、柑橘類

  • 根拠:南アフリカは非石油製品で最大のAGOA輸出国であり、完成車が輸出の柱です。2024年の南アフリカ自動車輸出はAGOA貿易の64%を占めるとの業界統計があります。2025年7月以降、米国の追加25%関税が発動され、対米車両輸出が急減しています。AGOA失効により、乗用車はMFN(最恵国待遇)税率2.5%(小型トラックは25%)に戻り、さらに追加25%が上乗せされる複合的なショックを受けます。

ケニア:アパレル(輸出加工区の縫製中心)

  • 根拠:AGOA制度下のケニアはアパレルが輸出の約9割を占めます。2024年のアパレル対米輸出は**過去最高(約606億ケニアシリング)**を記録しました。失効により、**HS分類61/62(衣料)のMFN税率は概ね16〜32%となり、2025年夏の実効平均税率は26.4%**まで上昇するとの分析があります。また、第三国生地規定の停止も大きな痛手となります。

レソト:アパレル

  • 根拠:レソトはAGOAを梃子に米国向け縫製輸出を中核産業としており、2024年の輸出額は2億3,730万ドルでした。2025年春の米国追加関税で既に打撃を受けており、AGOA失効によりさらに悪化し、雇用(約3万人規模と報道)に直撃すると予想されます。

マダガスカル:アパレル

  • 根拠:AGOA制度下の**アパレル産業が最大の雇用源(直接・間接で40万人超)**となっています。失効により衣料関税が急上昇し、第三国生地規定の停止が大きなボトルネックとなります。

モーリシャス/エスワティニ:アパレル

  • 根拠:両国ともAGOA制度下で縫製産業を拡大してきました。米国国際貿易委員会(USITC)や各国プロファイルにおいて、対米衣料輸出が主力とされています。失効により関税が復活します。

ガーナ/コートジボワール:加工カカオ製品

  • 根拠カカオパウダー、カカオペースト等がAGOA制度下の主要非石油製品です。失効により、これら加工品のMFN税率(品目により数%)が復活し、付加価値化のインセンティブが弱まります

ザンビア/コンゴ民主共和国:銅および関連製品

  • 根拠銅および銅製品が主要輸出品目です。失効によりMFN税率に復帰し、利益率が縮小します。

ナミビア:牛肉ほか(影響は限定的)

  • 根拠:牛肉の対米輸出は解禁されましたが、実績は少量にとどまっています。失効の影響は相対的に小さいと見られます。

注記
エチオピア等は既に非適格となっているため、今回の失効による追加的な打撃は限定的です(ただし、既にAGOA停止により繊維縫製産業が縮小した経緯があります)。


4. 実務上の重要ポイント(チェックリスト)

関税率の上昇

  • 衣料品:MFN税率は16〜32%帯です。2025年は米国の追加措置も加わり、**実効平均税率が26.4%**まで上昇するとの分析があります。価格転嫁のリスクが大きくなります。
  • 自動車:MFN税率は**乗用車2.5%、小型トラック25%**が基本です。**2025年4月以降は追加25%**が上乗せされ(乗用車で合計27.5%、トラックで合計50%相当)、大きな負担増となります。

第三国生地規定(Third-Country Fabric)

32か国中少なくとも21か国が適用対象で、AGOA失効と同時にこの規定が無効化されます。アフリカ域外(中国、トルコ等)の生地を使用した縫製品が原産地要件を満たせなくなります

割当(アパレルSME)とビザ/通関手続き

2024年10月1日〜2025年9月30日のアパレル割当(約17億5,800万SME)は本日で終了します。HS分類9819でのAGOA主張やビザ番号の提示は失効後は不可となり、以降は通常(MFN)分類で申告する必要があります。

「輸送中」貨物の扱い

原則として、米国への輸入・申告時点で制度適用の可否が判定されます。延長法が遡及適用を明記しない限り、自動的に特恵が復活することはありません。AGOAでは遡及適用の前例がありますが(2004年の改正時)、都度、法律とCBP通達次第です。最新の**CBP CSMS(税関自動化システム)**や連邦官報、実務アラートを必ず確認してください。

代替オプション/今後の制度

  • 短期延長:政権は1年間の延長を支持との報道がありますが、成立時期や遡及適用の有無は不透明です。
  • 二国間交渉ケニアは年内に米国との包括的合意を目指すと発言しており、AGOA失効の橋渡しとなる可能性があります。
  • GSP(一般特恵制度):長期失効中であり、復活しても衣料品は原則として対象外のため、AGOAの代替にはなりません。
  • サプライチェーンの再設計:EU/英国向けのEPAやGSP、アフリカ域内のAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)への販路転換を検討する必要があります。

ASEANに加盟予定の東ティモールについて

A. 東ティモールの概要

実務メモ:現時点(2025年9月)で、対東ティモール向け日本産品の輸入時は上記5%+2.5%が原則。一方、東ティモール原産品の対日輸入は、日本のLDC特恵(特別特恵)対象で多くが無税になり得ます(Form A等の要件充足が前提)。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+2Japan Customs+2


B. ASEANへの参加の経緯(時系列の要点)

  • 2022年11月:ASEAN首脳会議で**「原則承認」(11番目の加盟国として)。オブザーバーとして各会合に出席。 2023年に「完全加盟ロードマップ」**をまとめる方針。 ASEAN
  • 2023年5月ロードマップ採択(第42回首脳会議)。実装進捗報告を注視。 ASEAN+1
  • 2025年
    • 3月:ASEAN事務局とADBが**能力強化プログラム第2弾(CBP 2.0)**開始。ロードマップの「優先合意群」への対応を加速。 ASEAN+2ASEAN+2
    • 7月第58回外相会議(AMM)で、完全加盟に向けた支持再確認・ASEAN事務局内の東ティモール・ユニット稼働等を明記。 ASEAN
    • 直近の見通し2025年10月・クアラルンプール正式加盟の儀式・最終化と報道。 CNA

ポイント正式加盟の発効は、署名・批准・寄託等の国内手続の完了を経て効力発生(“式典=即時発効”とは限らない)。ただ、外相会議やASEAN公式リリースからは最終段階に入っていることが読み取れます。 ASEAN


C. ASEAN加入で起こるビジネス上の変化

1) 関税(ATIGA)を中心に

  • 域内関税の基本像:ASEANのATIGA域内関税の大幅撤廃を目的。先行加盟6か国は99.65%の品目で関税撤廃済み。新規加盟国も段階的スケジュール(センシティブ例外を含む)で最終的にゼロ%に近づくのが通例。東ティモールも自国の譲許表(削減工程)を策定・公表していく運び。 ASEAN+1
  • 東ティモールの現行MFNとの関係:今は**MFN5%(一律)**だが、**ATIGA発効後は「ASEAN原産品」に限り段階的に低下→原則0%**へ。非ASEAN原産(例:日本原産)はATIGAの対象外Timor-Leste Customs Authority+1
  • 日本から東ティモールへの輸出
    • 短期:ASEAN正式加盟直後は、日本原産にはATIGAの特恵なし。当面は**MFN5%+売上税2.5%**が目安。 Timor-Leste Customs Authority
    • 中期:東ティモールがAJCEP(日本-ASEAN包括的経済連携)に追加加入(別途手続)すれば、日・東ティモール間に協定特恵が広がる余地。現時点で日本政府も加盟支援の意向を表明。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+1
    • 補足(WTO/ITA)情報通信機器などITA品目2027/2030年までにMFN無税へ(原産地を問わず)。電気電子系の対東ティモール輸出は個別HSでゼロ化時期を要確認。 World Trade Organization
  • 東ティモールから日本への輸出
    • **日本のLDC特恵(特別特恵)**により、多くの品目で無税(Form A等の原産性証明が前提)。当面の優遇として実務的に最も使いやすい。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+1
  • ASEAN内サプライチェーン活用
    • 加入後は、ATIGAの原産地規則(一般にRVC40%やCTH等)を満たすASEAN原産として組み立てれば、東ティモール向け域内ゼロ関税が狙える(譲許表に依存)。e-Form Dや**自己申告(AWSC)**の活用が実務の肝。 ASEAN+1

2) 当面の優遇・支援/ハーモナイズ(制度面)

  • 能力強化(IAI/JAIF・CBP 2.0):ASEANのIAI(格差是正)、日本のJAIFにより、東ティモール官庁の制度整備・人材育成を重点支援2025年3月に第2期プログラム始動。これにより移行期の“緩やかな適用”や運用安定化が期待できる。 ASEAN+1
  • 関税・通関の整合
    • AHTN(8桁):ASEAN共通の**品目表(AHTN 2022)**を採用へ。HSとの整合が取りやすくなり、品目分類のブレが減る。 ASEAN+1
    • ASW/e-Form DASEAN Single Window国家シングルウィンドウを接続し、ATIGAのe-Form Dを電子交換。紙のCO依存が低下し、通関の可視性・迅速化につながる。 ASEAN+2ASEAN+2
    • ACTS(域内トランジット):域内単一担保・単一申告で陸送トランジットを簡素化。将来的に東ティモールが参加すればロジコスト低減に寄与。 acts.asean.org+1
  • 投資・サービス
    • ACIA(投資保護・内外無差別の枠組み)とATISA(サービスのネガティブリストベース化)へ段階的に編入。参入透明性・保護が向上。 ASEAN+1
    • MNP協定(ビジネス人材の一時入国)で、ビジネス訪問者・企業内転勤等の扱いが整理され、人の流れがスムーズに。 Centre for International Law

まとめ(ハーモナイズの道筋)
AHTN採用 → ASW接続(e-Form D/AWSC) → ATIGA譲許表の履行 → ACIA/ATISA/MNPの国内整備 →(必要に応じて)ACTS参加という順で、**制度面の“ASEAN化”**が進む見込みです。 WTO Regional Trade Agreements+4ASEAN+4ASEAN+4


D. 日本企業の実務アクション(すぐできること)

1) HSコード単位の影響洗い出し

  • 対東ティモール輸出入で使うHS8桁(AHTN想定)を棚卸。現行MFN(5%)+売上税2.5%、WTO/ITAのゼロ化時期(2027/2030)、将来のATIGA譲許(域内ゼロ化)可能性をコード別にマッピング。 Timor-Leste Customs Authority+2Trade Information Portal+2

2) 原産地戦略の見直し

  • ATIGAのRVC40%/CTHを満たすASEAN内生産・加工の設計(発効後にe-Form Dで享受)。日本からの完成品直送は当面MFNのまま、AJCEP追加加入の時期をモニター。 ASEAN+2Enterprise Singapore+2

3) 通関電子化の準備

  • e-Form D/AWSCの運用実務、ASW接続国の受入状況(相手税関の受信・照合プロセス)を理解。社内/通関業者とデータ項目・運用手順を詰めておく。 Singapore Customs

4) 調達・販売の“当面の優遇”活用

  • 対日輸入(東ティモール原産)はLDC特恵で無税が広い。コーヒー等の一次産品だけでなく軽工業品の育成輸入の芽も検討。 Ministry of Foreign Affairs of Japan

5) 制度整備の進捗を定点観測

  • 正式加盟の最終化(2025年10月クアラルンプール)、ASEAN・東ティモール政府の**「優先合意群」実装**、投資・サービスのネガティブリスト公表等を四半期ベースで確認。 CNA+1

留意点(不確実性)

  • 正式加盟の効力発生日ATIGAの個別譲許表(削減カレンダー)は、署名・批准・官報告示を経て確定します。実務適用は法令公布・関税令改正の確認が必須です(ASEANも「優先合意群」整備を継続中)。 ASEAN

付録:ミニ早見表

テーマ“いま”加入後に起きること(概念)
関税(対TL輸入)MFN一律5%+売上税2.5%(物品税あり)ATIGAに基づきASEAN原産は段階的に**0%**へ(譲許表次第) Timor-Leste Customs Authority+1
日本→TL(日本原産)当面はMFN(5%+2.5%)AJCEPへの東ティモール加入が成立すれば協定特恵(時期未定) Ministry of Foreign Affairs of Japan
TL→日本(TL原産)LDC特別特恵広く無税(Form A等)継続(TLがLDCである限り) Ministry of Foreign Affairs of Japan
電機・ICT多くがMFN2.5%WTO/ITA2027/2030までにMFN0%(対象HS限定) World Trade Organization
通関・証明紙CO中心ASW/e-Form D/AWSCで電子化・迅速化 ASEAN+1
品目表(自国表)AHTN 2022へ整合(HS8桁統一) ASEAN
投資・サービス個別法制ACIA/ATISA/MNPの枠組み適用で透明性・保護向上 ASEAN+1

出典の要所(抜粋):

インドネシアEU CEPA合意内容

エグゼクティブサマリー

EU-インドネシアCEPA(包括的経済連携協定)は2025年9月23日に交渉妥結し、併せて投資保護協定(IPA)も最終化されました 。今後は法的精査・翻訳→署名→双方の承認・批准手続きを経て発効します 。

関税撤廃は品目数ベースで98%超、価値ベースでほぼ100%に達します 。発効時点で約80%が即時撤廃され、5年後には対EU・対インドネシア貿易の96%まで段階的に撤廃されます 。自動車・機械・化学等のEU製品は段階的撤廃の恩恵を受け、インドネシアのパーム油・繊維・履物なども市場アクセスが向上します 。

原産地規則は自己申告(self-certification)を採用し、中小企業でも使いやすい設計となっています 。通関円滑化はWTO貿易円滑化協定(TFA)を上回るTFA+の内容です 。

技術的貿易障壁(TBT)・自動車付属書では、UNECE 1958規則に基づくEU型式認証の受入れ等により再試験の重複を削減します(最遅2033年までの移行規定) 。

**貿易と持続可能な発展(TSD)**章は法的拘束力・紛争解決メカニズムにより執行され、パーム油プロトコルで持続可能なパーム関連の対話・協力・貿易円滑化の仕組みを新設します 。

発効時期は双方の国内手続完了後となり、インドネシアは2027年1月の実施を目標としています 。

主要変更点(章別要点)

関税(物品貿易)

撤廃カバレッジ: 品目の98%超(価値ベースでほぼ100%)。即時80%→5年で96%の貿易が自由化 。

EU→インドネシアの主な撤廃例:

  • 自動車(最大50%、多くは5年で撤廃)
  • 機械・電機(多くは即時、残り5年)
  • 医薬品(多くは即時、残り3年)
  • 化学(多くは即時、残り5年)

インドネシア→EU: 多くの関税を撤廃・大幅削減。パーム油、繊維・履物などの主要輸出品にメリット 。

原産地規則

**自己申告(self-certification)**を基本とし、ビジネスフレンドリーな文書化システム。税関当局間の行政協力による検認システムを整備 。

通関・貿易円滑化

TFAの実績を統合しつつTFA+へ発展。透明性向上、品目分類・評価の明確化、手続きの公表、税関当局間の情報連携(相互行政支援プロトコル)などにより迅速・確実な通関を促進 。

SPS(衛生植物検疫)

WTO-SPS協定の再確認に加え、緊急時対応、情報共有、公式管理・認証、国境検査の効率化等を強化 。

技術的貿易障壁(TBT)・自動車付属書

認証の相互受入れ: EUの認定機関による試験・証明の受入れ(電機・機械等)
規制透明性: 60日のパブリックコメント期間+発効まで6ヶ月の猶予期間を設定
自動車付属書: UNECE 1958規則への整合化により、EU型式認証を追加試験なしで受入れ。インドネシアのUNECE1958協定加入、又は2033年までの段階的受入れ措置 。

デジタル貿易

予見可能で公正なデジタル環境を整備。電子契約・電子インボイス・ペーパーレス化、中小企業支援、相互運用可能なサイバー標準等を促進 。

政府調達

透明・公正・無差別な手続原則を明記。入札アクセスの予見可能性が向上 。

知的財産権

著作権、商標、意匠、地理的表示、特許、営業秘密、品種等の包括的な保護・執行枠組みを整備。EU221品目、インドネシア72品目の地理的表示を直接保護 。

エネルギー・原材料

許認可の透明化、再生可能エネルギー分野の現地含有要件緩和、送配電網への非差別アクセス等により投資・サプライチェーンを安定化。ESG・責任ある企業行動(RBC)の協力も明記 。

貿易と持続可能な発展(TSD)・パーム油プロトコル

ILO中核条約・パリ協定等を基礎とする法的拘束力のある執行メカニズム。森林・生物多様性・IUU漁業対策を包含。
パーム油プロトコル: 規制動向の対話・持続可能な生産の協力・パーム関連貿易の円滑化を図る専用枠組み 。

投資保護協定(IPA)

不当取扱い・収用・司法救済の拒否等から投資を保護しつつ、規制権限を維持。最新型の投資紛争解決制度を3年以内の別途交渉で追加予定 。

実施タイムライン

交渉妥結: 2025年9月23日(CEPA・IPA)
今後の手続: 法的精査・多言語翻訳 → EU理事会での署名・締結提案 → 署名 → 欧州議会の同意 → インドネシア側批准 → 発効
発効見通し: インドネシアは2027年1月実施を目標としているが、正式には批准完了が前提 。