明日(米国時間 11月5日)に米連邦最高裁が口頭弁論を予定しており、案件は Learning Resources, Inc. v. Trump と Trump v. V.O.S. Selections の2件を併合して審理されます。主要争点は「IEEPA(国際緊急経済権限法)が関税賦課を認めるか」「仮に認めるなら違憲な白紙委任に当たらないか」の2点です。SCOTUSblog
エグゼクティブサマリー
- 背景:2025年初頭以降の大統領令に基づく一連の「IEEPA関税」(メキシコ・カナダ・中国向けの“Trafficking Tariffs”や全世界一律10%の“Reciprocal Tariffs”等)が争われています。下級審はいずれも違法と判断。控訴審(連邦巡回区控訴裁)も7対4で違法と結論づけましたが、最高裁審理の間は一時的に効力維持の扱いです。cit.uscourts.gov+2cafc.uscourts.gov+2
- いま:最高裁は迅速審理を許可し、11月5日に口頭弁論。結論次第で、IEEPAの使途(制裁中心か、関税も可か)と大統領の通商裁量の射程が大きく変わります。SCOTUSblog
- 実務影響:
- (A)違法確定なら、IEEPA関税は無効化へ。もっとも、鉄鋼・アルミの232関税や301関税等の別根拠の関税は対象外で残り得ます。The Washington Post
- (B)IEEPAで関税OKとなると、大統領が「緊急事態」宣言で広範・即時の関税発動が可能に。価格・契約・在庫政策に高い不確実性。
- **(C)IEEPA自体が違憲(非委任)**とされると、制裁法体系全体に波及するリスク(もっとも、最高裁は回避的解釈でIEEPAの範囲を狭く読む可能性が高いとの見方も)。Brennan Center for Justice+1
タイムライン(確定事実)
- 2025/5/28:米国際貿易裁判所(CIT)、IEEPA関税を全面無効・差止(世界一律10%を含む)。cit.uscourts.gov
- 2025/8/29:連邦巡回区控訴裁(7対4)がCITを支持。同日、**最高裁への上訴準備中は執行停止(mandate保留)**を命令。cafc.uscourts.gov+1
- 2025/9/9:最高裁が迅速審理を許可・併合、11/5に口頭弁論を指定。SCOTUSblog
何が争われているのか(法的論点の整理)
- IEEPAの文言解釈
IEEPA §1702(a)(1)(B) は大統領に「輸入・輸出の規制」等を認めます。下級審は「関税(課税)まで含むとは読めない」と判断。控訴審多数意見も「IEEPAは今回の関税賦課を許容しない」と明確に結論づけました。cit.uscourts.gov+1 - IEEPAの発動要件(“異常かつ並外れた脅威”)
CITは、麻薬・人身取引対策を名目とする“Trafficking Tariffs”の一部についてIEEPAの脅威認定要件を満たさないとも判示。cit.uscourts.gov - 非委任(Nondelegation)/メジャー・クエスチョン論
最高裁は、仮にIEEPAが関税賦課を許すと読む場合、議会からの白紙委任に当たらないかも審理対象。広範・重大な政策変更には明確な授権を要するという近時の流れ(いわゆるメジャー・クエスチョン)も背景論点です。Supreme Court+1
対象となった大統領令と関税の中身(2025年)
- “Trafficking Tariffs”:メキシコ・カナダ 25%、中国 当初10%→20%(一部品目軽減・免税枠などの変動あり)。cit.uscourts.gov
- “Reciprocal(相互主義)Tariffs”:全世界に一律10%、加えて**国別上乗せ(最大50%)**を予定——のちに一部実施延期・対中報復調整等の改定。cit.uscourts.gov+1
※ これらの枠組みは**IEEPA(1977年法)**に基づくもので、232条(国家安全保障)や301条(不公正貿易是正)といった他法根拠の関税とは別枠です。The Washington Post
最高裁の結論別:日本企業への実務影響シナリオ
A)IEEPA関税が違法確定(下級審維持)
- 関税撤廃・徴収停止の方向。CITは判決で差止と命令の無効化に踏み込みました(上訴中は保留措置)。最終的に無効確定なら納付済み関税の還付が論点に。輸入者側のプロテスト手続や時効管理は通関顧問・弁護士と即協議。cit.uscourts.gov+1
- ただし、232/301等の他法根拠の関税は残存し得るため、完全なコスト安には直結しない点に注意。The Washington Post
B)IEEPAで関税賦課が可能(非委任は否定)
- 大統領が**「緊急事態」宣言→即時・広範囲の関税を発動可能に。価格転嫁・契約調整・在庫最適化など機動的なオペレーション**が必要。
- 国・品目を横断した一律発動も理論上可能となり、為替・原材料価格と並ぶ政策リスクとして恒常的なモニタリングが不可欠。
C)IEEPAは関税も許すが違憲(非委任)
- IEEPA自体の委任が広すぎると裁されれば、OFAC制裁等、IEEPA依拠の制裁レジームにも波及しかねない——との懸念が法学者・シンクタンクから指摘されています(もっとも、最高裁は違憲回避的解釈で関税のみを除外する可能性も)。Brennan Center for Justice+1
直ちに着手すべき実務チェックリスト
- 関税エクスポージャーの棚卸し:対象HS、仕向国、サプライヤー別にIEEPA関税負担(10%一律+上乗せ)と他法根拠(232/301等)を分けて可視化。cit.uscourts.gov+1
- 契約条項の見直し:価格調整・関税スナップバック・不可抗力条項の明確化(短期で上げ下げがあり得る前提)。
- 価格・在庫・納期の再設計:判決前後の変動を見越し、段階的プライシングと在庫回転の再設計。
- 通関・還付オプション:無効確定時の還付請求の要件(証憑・期限)を確認。必要であればプロテスト申立など法的保存策。
- 物流ハブと制度活用:米国内FTZ(保税区)やボンデッド倉庫の活用で関税の繰延・回避余地を検討。
- 調達地・設計の多様化:国別上乗せの再発に備え、マルチソースと設計代替をロードマップ化。
- 社内ガバナンス:法務・調達・営業・経理の横断タスクフォースで週次レビュー。
- ステークホルダー・コミュニケーション:重要顧客には価格条項の透明化と切替基準を事前共有。
- 数値インパクトの即時試算:例)米国向け輸入CIFベース1,000万ドルの場合、10%関税撤廃=100万ドル粗利改善(ただし他関税は別途)。
- 政策ウォッチ:11/5 口頭弁論の主張・判事の問いかけ(非委任/メジャー・クエスチョン)を中心にモニター。SCOTUSblog
裁判記録・下級審のポイント(実務に効く要旨)
- CIT(2025/5/28):IEEPAは今回のような包括的・無期限の関税を権限付与していない。世界一律10%や対中・北米向け“Trafficking Tariffs”は無効・差止。一部は**IEEPAの発動要件(脅威の性質)**も満たさない。cit.uscourts.gov
- 連邦巡回区控訴裁(2025/8/29):7対4でCIT支持。ただし少数意見は「IEEPAの『規制』には関税も含み得る」と反論。最高裁での文理解釈が主戦場。cafc.uscourts.gov
- 実務注記:政府側の要請でmandate(正式送達)保留のため、最終判断までは現行オペに揺り戻しが生じ得る体制。cafc.uscourts.gov
よくある質問(FAQ)
Q1:判決が出てもすべての追加関税が消えるの?
A:IEEPAベースの関税が対象です。232/301等の他法による関税は本件と別で、残ります。The Washington Post
Q2:日本向けはどうなる?
A:今回の「世界一律10%」は国を問わず適用される設計でした。最高裁がIEEPA関税を容認する場合、日本発製品にも同様の政策リスクが継続します。cit.uscourts.gov
Q3:いつ結論が出る?
A:口頭弁論は11月5日。判決は今期中(OT 2025)に示される見通しです。SCOTUSblog
主要情報源(実務で押さえるべき公的文書・一次情報)
- 最高裁事件ページ(口頭弁論指定・併合・争点):Trump v. V.O.S. Selections/Learning Resources, Inc. v. Trump。SCOTUSblog+1
- CIT判決(2025/5/28、差止・無効):関税はIEEPAの権限外、要件も未充足の部分。cit.uscourts.gov
- 連邦巡回区控訴裁(2025/8/29)意見書(7対4でCIT支持)とmandate保留命令。cafc.uscourts.gov+1
- 政府側上告申立(Petition):IEEPAの「規制」に関税が含まれるとの主張、非委任論点の提示。Supreme Court
- シンクタンクの論考(法経済影響・非委任/メジャー・クエスチョン)。Brookings+1
補足:今回の審理は「IEEPAの用途」を決定づける可能性
IEEPAはこれまで資産凍結・取引禁止等の制裁で中核的に使われてきました。最高裁が「関税も可」と広く認めれば、通商政策の迅速展開が可能になる一方、企業側には恒常的な政策リスク管理が求められます。逆に狭く解釈すれば、関税は貿易法(232/301等)や議会立法に回帰し、政策の予見可能性は相対的に高まります。Brennan Center for Justice+1
免責:本レポートは一般的情報の提供を目的とし、法的助言ではありません。具体的案件は、米通関・通商法に通じた専門家へご相談ください。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック